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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014733
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094953
(22)【出願日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2022115399
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】市川 大智
(57)【要約】
【課題】測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサ素子において、測定電極を覆う多孔質拡散層は、少なくとも素子基体のガス導入口が開口している面を覆う先端保護層よりも気孔率が低く、かつ、気孔率が5%以上、25%以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、
少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う先端保護層と、
前記内部空間に設けられ、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む測定電極と、
前記測定電極を覆い、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層の気孔率よりも気孔率が低い多孔質拡散層と、
を含むガスセンサ素子。
【請求項2】
前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも高い、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記内部空間において前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部をさらに備え、
前記測定電極は、前記被測定ガスの流れる方向における上流側が前記拡散律速部によって区画された内部空所に配置される、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記測定電極と前記多孔質拡散層とは接しておらず、
前記測定電極と前記多孔質拡散層との間の距離は0.15mm以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも10%以上高い、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は0.2mm以上である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記先端保護層は、少なくとも、
前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する内側先端保護層と、
前記先端保護層の最外面を構成する外側先端保護層と、
を含み、
前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、
前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下である、
請求項1または2に記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
請求項1または2に記載のガスセンサ素子を用いて、前記被測定ガス中の特定のガス成分の量を測定するように構成してなるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定ガス中に含まれる特定のガス成分の濃度を測定するために使用されるセンサ素子について、前記センサ素子の備える内部空間に導入された前記被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与するための種々の試みが知られている。例えば、下掲の特許文献1には、前記内部空間に導入された前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部を備えるセンサ素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-102793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らは、上述のような拡散律速部を備える従来のガスセンサ素子には、次のような問題点があることを見出した。すなわち、ガソリン車では、排気ガス中のH2O濃度がディーゼル車に比べて高い。また、水素エンジン車は、環境に配慮して高リーン下で使用されることが想定され、排気ガス中のH2O濃度も高いと予想される。そして、H2Oは、NOx及びO2に比べて分子量が小さい。本件発明者らは、係る高H2O濃度下の環境においては、以下に説明する問題が発生することを見出した。
【0005】
図11は、或る分子が他の分子と衝突することによって拡散する分子拡散の例を示す図である。本件発明者らは、図11に例示するような分子拡散が支配的となる領域では、以下の事象が発生すると考えた。すなわち、図11に例示するように、分子拡散では、或る分子と別の分子とが衝突することで或る分子の拡散が進むため、或る分子が衝突する別の分子によって拡散係数は変わり、つまり、被測定ガスのガス組成によって拡散係数は変化する。そのため、被測定ガス中に分子量が小さいH2Oが存在すると、NOx及びO2はH2Oの間を拡散しやすくなり、被測定ガス中に含まれる特定のガス成分の濃度を測定するための測定電極へ到達するNOx及びO2ガスが増えると考えられる。その結果、H2O濃度に応じて(例えば、H2O濃度が高くなると)、NOx出力が変動したり、測定電極が劣化しやすくなったりするのではないかと、本件発明者らは考えた。本件発明者らは、実験により、H2O濃度が高い場合は、低い場合と比べて、NOx出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。
【0006】
図12は、分子拡散とは異なる拡散形態であるクヌーセン拡散の例を示す図である。図12に例示するように、クヌーセン拡散においては、細孔壁(流路の壁面)に衝突することで或る分子の拡散が進み、壁面の細孔径は例えば焼成時に決まるため、被測定ガスのガス組成が変わっても、拡散係数は変わらない。そこで、本件発明者らは、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられる上述の問題を解決する方法として、以下の方法が有用であることを見出した。すなわち、測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、図12に例示するクヌーセン拡散のように、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する方法が有用であることを見出した。
【0007】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の観点に係るガスセンサ素子は、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う先端保護層と、前記内部空間に設けられ、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む測定電極と、前記測定電極を覆い、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層の気孔率よりも気孔率が低い多孔質拡散層と、を含む。前記多孔質拡散層が、気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、前記多孔質拡散層の平均気孔率が、5%以上かつ25%以下であってもよく、また、前記多孔質拡散層の平均気孔率が、前記先端保護層の気孔率よりも低くてもよい。
【0010】
当該構成では、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層の気孔率よりも気孔率が低い前記多孔質拡散層によって、前記測定電極は覆われている。前記測定電極を覆う前記多孔質拡散層によって、前記測定電極の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更することができる。そのため、前記ガスセンサ素子は、前記被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、前記測定電極を覆う前記多孔質拡散層によって、H2Oガスの、NOxガス(及びO2ガス)への影響を小さくすることができる。具体的には、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極を覆う前記多孔質拡散層によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び前記測定電極の劣化を抑制できる。
【0011】
ここで、前記測定電極の周囲に拡散抵抗の大きな前記多孔質拡散層を設けると、被毒物質等により前記多孔質拡散層が目詰まりを起こす可能性がある。そこで、前記ガスセンサ素子は、少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う前記先端保護層を備える。そのため、前記ガスセンサ素子は、前記先端保護層によって被毒物質等をトラップし、つまり、前記先端保護層によって被毒物質等を捉える(捕捉する)ことができる。
【0012】
特に、前記ガスセンサ素子において、前記先端保護層の気孔率は、前記測定電極の周囲を覆う前記多孔質拡散層の気孔率よりも高い(大きい)。前記ガスセンサ素子は、前記先端保護層の気孔率を前記多孔質拡散層の気孔率よりも高くすることで、「前記先端保護層が被毒物質等によって目詰まりしてしまい、NOx出力が低下する」といった事態を回避することができる。
【0013】
また、前記ガスセンサ素子において、前記測定電極は、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む。ここで、高温(例えば、摂氏700度~800度)でNOxを測定する場合、前記測定電極には絶えず、膨張と収縮とが繰り返し発生することになる。そのような環境下においても、前記測定電極がシリカ及びアルミナの少なくとも一方を含むことにより、前記ガスセンサ素子は、以下の効果を実現することができる。すなわち、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極での膨張と収縮とを抑制することによって、前記測定電極を被覆する前記多孔質拡散層に亀裂、割れなどが入るのを防止し、また、前記測定電極が前記素子基体から剥離するのを防止することができる。
【0014】
第2の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1の観点に係るガスセンサ素子の前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも高くてもよい。
【0015】
当該構成では、前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側(つまり、前記測定電極に近い側)の面の気孔率は、外側(つまり、前記測定電極に遠い側)の面の気孔率よりも高い。
【0016】
ここで、センサ駆動直後、前記測定電極の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合、前記測定電極の周囲のH2が原因となって、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間が長くなってしまうことがある。
【0017】
そこで、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることによって、前記測定電極の表面付近に発生したH2を素早く拡散させる。これによって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合であっても、係るH2の影響を抑えて、ライトオフ時間が長くなってしまうのを回避することができる。
【0018】
第3の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1または上記第2の観点に係るガスセンサ素子の前記内部空間において前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部をさらに備え、前記測定電極は、前記被測定ガスの流れる方向における上流側が前記拡散律速部によって区画された内部空所に配置されてもよい。
【0019】
当該構成では、前記ガスセンサ素子は、前記拡散律速部を備え、前記測定電極は、前記被測定ガスの流れる方向における上流側が前記拡散律速部によって区画された内部空所に配置される。係る構成によって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、前記拡散律速部を備えない場合に比べて、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと、より近付けることができる。
【0020】
第4の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第3の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記測定電極と前記多孔質拡散層とは接しておらず、前記測定電極と前記多孔質拡散層との間の距離は0.15mm以下であってもよい。
【0021】
当該構成では、前記測定電極と前記多孔質拡散層とは接しておらず、かつ、前記測定電極と前記多孔質拡散層との間の距離は0.15mm以下である。前述の通り、センサ駆動直後、前記測定電極の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合、前記測定電極の周囲のH2が原因となって、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間が長くなってしまうことがある。そこで、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極と前記多孔質拡散層との間に空間(隙間)を設けることによって、前記測定電極の表面付近に発生したH2を素早く拡散させる。これによって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合であっても、係るH2の影響を抑えて、ライトオフ時間が長くなってしまうのを回避することができる。
【0022】
ただし、前記測定電極と前記多孔質拡散層との間隔を広くし過ぎると、前記測定電極の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更するという前記多孔質拡散層の効果が低下する。そこで、前記ガスセンサ素子において、前記測定電極と前記多孔質拡散層との間の距離は、0.15mm以下とする。本件発明者らは、両者の間の距離を0.15mm以下とすることで、両者が接している場合と同様に、前記多孔質拡散層によって前記測定電極の周囲の拡散形態を好適なものとすることができるのを確認した。すなわち、前記測定電極までの距離が0.15mm以下である前記多孔質拡散層によって、前記測定電極の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができることを確認した。そのため、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極までの距離が0.15mm以下である前記多孔質拡散層によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び前記測定電極の劣化を抑制することができる。
【0023】
第5の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第4の何れかの観点に係るガスセンサ素子の前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも、10%以上高くてもよい。
【0024】
当該構成では、前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも10%以上高い。前述の通り、前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることで、以下の効果を実現することができる。すなわち、前記内側の面の気孔率を、前記外側の面の気孔率よりも高くすることで、前記測定電極の表面付近に発生したH2を素早く拡散させることができ、ライトオフ時間の増大を抑制することができる。そして、本件発明者らは、前記多孔質拡散層の、前記内側の面の気孔率が、前記外側の面の気孔率よりも10%以上高い場合、10%未満の場合よりも、ライトオフ時間が短くなることを確認した。それゆえ、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層の厚み方向における2つの面のうち、前記測定電極に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも10%以上高くすることで、10%未満の場合よりもライトオフ時間を短くすることができる。
【0025】
第6の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第5の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は0.2mm以上であってもよい。
【0026】
当該構成では、前記ガスセンサ素子において、前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は0.2mm以上である。前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、前記先端保護層の厚みを十分に厚くすることで、前記ガスセンサ素子は、以下の効果を実現することができる。すなわち、前記ガスセンサ素子は、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を前記先端保護層において確実に捕捉し、かつ、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0027】
第7の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第6の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記先端保護層は、少なくとも、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する内側先端保護層と、前記先端保護層の最外面を構成する外側先端保護層と、を含み、前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下であってもよい。
【0028】
当該構成では、前記先端保護層は、少なくとも、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する前記内側先端保護層と、前記先端保護層の最外面を構成する前記外側先端保護層とを含む、そして、前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、また、前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下である。
【0029】
前記内側先端保護層の気孔率を、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きくすることによって、前記ガスセンサ素子は、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0030】
特に、前記外側先端保護層よりも気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みを厚くすることによって、つまり、前記先端保護層の厚みに対する前記内側先端保護層の厚みの割合を高くすることによって、前記ガスセンサ素子は、以下の効果を実現することができる。すなわち、気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みを十分に確保することで、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制し、特に、前記ガス導入口に近い層(つまり、前記内側先端保護層)が目詰まりを起こす可能性を抑制することができる。具体的には、前記先端保護層の厚みに対する、気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みの割合を、30%から90%とすることによって、前記ガス導入口に接する前記内側先端保護層が被毒物質等によって目詰まりを起こすのを回避することができる。
【0031】
また、本発明の一観点に係るガスセンサは、上記各観点に係るガスセンサ素子を用いて、前記被測定ガス中の特定のガス成分の量を測定するように構成されてもよい。係るガスセンサは、前記測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する。そのため、係るガスセンサは、前記測定電極を覆う前記多孔質拡散層によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び前記測定電極の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、実施の形態に係るセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
図2図2は、図1のセンサ素子が備える素子基体の構成の一例を示す断面模式図である。
図3図3は、図2の素子基体の要部を説明するための拡大図である。
図4図4は、図2の素子基体における測定電極と多孔質拡散層との関係の一例を示す図である。
図5図5は、変形例に係る多孔質拡散層の一例を示す図である。
図6図6は、変形例に係る測定電極と多孔質拡散層との関係の一例を示す図である。
図7図7は、変形例に係る素子基体の要部を説明するための拡大図である。
図8図8は、変形例に係る先端保護層を備えるセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
図9図9は、測定電極を覆う多孔質拡散層の有無によるNOx出力の経時変化の違いを示すグラフである。
図10図10は、測定電極を覆う多孔質拡散層の有無によるNOx出力のH2O依存性の違いを示すグラフである。
図11図11は、分子拡散の例を示す図である。
図12図12は、クヌーセン拡散の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0035】
本件発明者らは、被測定ガス中のH2O濃度が高いと、NOx出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。例えば、被測定ガス中のH2O濃度が20%以上(具体的には、25%程度)であるような、H2O濃度が高い環境下(高H2O濃度下)では、NOx出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。このような高H2O濃度下でのNOx出力の変動及び測定電極の劣化といった問題の要因の1つとして、測定電極44の周囲の拡散形態が分子拡散であることが考えられる。そして、本件発明者らは、測定電極44の周囲の拡散形態を、分子拡散から、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」へと変更することによって、上述の問題を解決することができることを確認した。
【0036】
そこで、本実施形態に係るガスセンサ素子101において、測定電極44は、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層91によって覆われている。具体的には、気孔率が5%以上かつ25%以下であり、測定電極44までの距離d2が0.15mm以内の位置に配置される多孔質拡散層91によって、測定電極44は覆われている。ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を変更する。具体的には、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、分子拡散から、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」へと変更する。これにより、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、係るH2Oガスの、NOxガス(及びO2ガス)への影響を、多孔質拡散層91によって小さくし、NOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、高H2O濃度下での測定電極44の劣化を抑制し、例えば、高H2O濃度下で長期間駆動した場合の測定電極44の劣化を抑制する。また、ガスセンサ素子101は、高H2O濃度下でのNOx出力の変動を抑制し、例えば、NOxガスが流れている時のNOx出力のH2O依存性を抑制し、NOx濃度測定の精度を向上する。詳細は後述するが、本実施形態において、気孔率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)に対して公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで導出した値である。例えば、或る層の断面を観察面とするようにガスセンサ素子101を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEM写真(2次電子像、加速電圧15kV、倍率1000倍、ただし倍率1000倍で不適切な場合は1000倍より大きく5000倍以下の倍率を用いる)にて観察用試料の観察面を撮影することで、係る或る層のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、係る或る層の気孔率[%]として導出する。
【0037】
本実施形態に係るガスセンサ素子101はさらに、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を、先端保護層200によって覆っている。係る先端保護層200によって、測定電極44を覆う多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等をトラップする(捕捉する)。具体的には、ガスセンサ素子101は、気孔率が多孔質拡散層91の気孔率よりも大きい先端保護層200により、被毒物質等をトラップし、測定電極44の周囲での目詰まりを、例えば、多孔質拡散層91の目詰まりを抑制する。それゆえ、ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層91が被毒物質等によって目詰まりを起こし、NOx出力が低下したり、測定精度が低下したりすることを防ぐことができる。以下、本実施形態に係るガスセンサ素子101について、図1等を用いて、その詳細を説明していく。
【0038】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。図1に例示するように、ガスセンサ素子101は、素子基体100と、先端保護層200とを備える。素子基体100は、表面にガス導入口10が開口しており、ガス導入口10から被測定ガスが素子基体100の内部空間である被測定ガス流通部7へと導入される。図1に示す例では、素子基体100の前側(先端側)の表面にガス導入口10が開口している。以下の説明においては、素子基体100の前側(先端側)の表面を、素子基体100の「先端面」と称することがある。図1において、素子基体100の前側(先端側)は、紙面左側である。
【0039】
<先端保護層>
先端保護層200は、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面(素子基体100の先端面)を覆う。図1に示す例では、先端保護層200は、素子基体100の先端面と、係る先端面と連続する素子基体100の4つの側面とを覆うように設けられている。
【0040】
詳細は後述するが、先端保護層200を設けることによって、測定電極44の周囲に設けられる多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等を、先端保護層200においてトラップする(捕捉する)ことができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、先端保護層200において被毒物質等を捕捉する(捉える)ことによって、多孔質拡散層91が目詰まりを起こすのを回避することができる。また、先端保護層200の気孔率は、測定電極44の周囲に設けられる多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。そのため、ガスセンサ素子101は、先端保護層200自体が被毒物質等により目詰まりを起こして、ガスセンサ素子101のNOx出力が低下するといった事態を防ぐことができる。
【0041】
先端保護層200は、所定の厚みを有し、具体的には、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、先端保護層200の厚みを十分に厚くすることで、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現することができる。すなわち、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を先端保護層200において確実にトラップして(捕捉して)、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0042】
<素子基体>
図2は、ガスセンサ素子101の備える素子基体100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。素子基体100は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。図2に例示する素子基体100は、長手方向それぞれの端部として先端部及び後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を図2の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を図2の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、素子基体100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、図2の紙面奥側を素子基体100の右側とし、紙面手前側を素子基体100の左側とする。
【0043】
図2に例示するように、素子基体100は、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6を下側から順に積層することで構成される積層体を備える。各層1-6は、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。各層1-6を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0044】
素子基体100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、素子基体100は、複数のセラミックス層の積層体である。本実施形態では、第2固体電解質層6の上面が、素子基体100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、素子基体100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、素子基体100の各側面を構成する。
【0045】
本実施形態では、素子基体100の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面及び第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスを外部の空間から受け入れる(被測定ガスが導入される)ように構成される内部空間が設けられる。本実施形態に係る内部空間は、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、及び第2内部空所17が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、本実施形態に係る内部空間は、2室構造(第1内部空所15及び第2内部空所17)を有する。
【0046】
一例では、この内部空間は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。内部空間の上部は、第2固体電解質層6の下面で区画される。内部空間の下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。内部空間の側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0047】
第1拡散律速部11は、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する部材(部位)であり、図2に示す例では、第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリット(被測定ガスの流れる流路)を形成している。例えば、第1拡散律速部11は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第1架橋部)であり、係る第1拡散律速部11と層6との間、および、第1拡散律速部11と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路となる。同様に、第2拡散律速部13及び第3拡散律速部16は、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する部材であり、図2に示す例では、第2拡散律速部13及び第3拡散律速部16のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所15及び第2内部空所17のそれぞれよりも短い孔(被測定ガスの流れる流路)を形成している。
【0048】
図2に例示するように、第2拡散律速部13及び第3拡散律速部16は、いずれも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットを形成してもよい。例えば、第2拡散律速部13は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第2架橋部)であり、係る第2拡散律速部13と層6との間、および、第2拡散律速部13と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路となる。例えば、第3拡散律速部16は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第3架橋部)であり、係る第3拡散律速部16と層6との間、および、第3拡散律速部16と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路となる。第2拡散律速部13及び第3拡散律速部16のそれぞれについては、後ほど詳細に説明する。ガス導入口10から第2内部空所17に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部7と称する。
【0049】
被測定ガス流通部7よりも先端側(素子基体100の前側)から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、第1固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、素子基体100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1固体電解質層4は、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0050】
基準ガス導入空間43に隣接する第3基板層3の上面の一部には、大気導入層48が設けられる。大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成される。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0051】
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所15内及び第2内部空所17内の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0052】
ガス導入口10は、被測定ガス流通部7において、外部空間に対して開口してなる部位である。素子基体100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間から内部に被測定ガスを取り込む(被測定ガスが導入される)ように構成される。本実施形態では、図2に例示されるとおり、ガス導入口10は、素子基体100の先端面(前面)に配置される。つまり、被測定ガス流通部7は、素子基体100の先端面において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部7が、素子基体100の先端面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10を素子基体100の先端面に配置することは、必須ではない。素子基体100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、素子基体100の右側面に配置したり、左側面に配置したりしてもよい。
【0053】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0054】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0055】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所15に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0056】
被測定ガスは、素子基体100の外部空間から第1内部空所15内まで導入されるにあたり、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって、ガス導入口10から素子基体100内部に急激に取り込まれる場合がある。この場合であっても、当該構成では、取り込まれる被測定ガスは、直接第1内部空所15へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所15へ導入される。これにより、第1内部空所15へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0057】
第1内部空所15は、第2拡散律速部13を通じて(つまり、第2拡散律速部13によって形成される流路を通って)導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0058】
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、及びこれらの電極に挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所15に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。
【0059】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所15を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6及び第1固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所15の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所15の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0060】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0061】
素子基体100は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所15内の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間の酸素を第1内部空所15に汲み入れ可能に構成される。
【0062】
また、第1内部空所15における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0063】
素子基体100は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所15内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所15内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0064】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く部位である。
【0065】
第2内部空所17は、第3拡散律速部16を通じて(つまり、第3拡散律速部16によって形成される流路を通って)導入された被測定ガス中の酸素分圧を更に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0066】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、素子基体100の外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所17に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0067】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所15内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所17内に配設されている。つまり、第2内部空所17の天井面を与える第2固体電解質層6の下面に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所17の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所17の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0068】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0069】
素子基体100は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間から第2内部空所17内に汲み入れ可能に構成される。
【0070】
また、第2内部空所17内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0071】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0072】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部16から第2内部空所17内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所17内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0073】
すなわち、ガスセンサ素子101においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれる。
【0074】
NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所17において、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17における被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係る素子基体100は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0075】
測定用ポンプセル41は、第2内部空所17内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。すなわち、第2内部空所17内において補助ポンプセル50により酸素濃度が調整された被測定ガスは、測定用ポンプセル41が作動することによってそのNOx濃度を測定される。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。図2の一例では、測定電極44は、第2内部空所17に隣接する(面する)第1固体電解質層4の上面に設けられる。また、測定電極44は、その周囲を、多孔質拡散層91によって覆われる。
【0076】
測定電極44は、多孔質サーメット電極であり、シリカ(SiO2)及びアルミナ(Al23)の少なくとも一方を含む。例えば、測定電極44は、Pt(白金)を80~90重量%、第1固体電解質層4の構成材料(例えばZrO2)を9.5~19.8重量%、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む混合物を0.2~0.5重量%含む。測定電極44は、第1固体電解質層4の構成材料よりも貴金属が多くなるように含有比率が設定されている。そのため、第1固体電解質層4と測定電極44との付着力が強化される。しかも、本実施の形態における測定電極44は、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む混合物を0.2~0.5重量%含む。ここで、高温(例えば、摂氏700度~800度)でNOxを測定する場合、測定電極44には絶えず、膨張と収縮とが繰り返し発生することになる。そのような環境下においても、測定電極44がシリカ及びアルミナの少なくとも一方を含むことにより、以下の効果を実現することができる。すなわち、測定電極44での膨張と収縮とが抑制され、測定電極44を被覆する多孔質拡散層91に亀裂、割れなどが入ったり、また、測定電極44が第1固体電解質層4から剥離したりするという現象は発生しなくなる。
【0077】
測定電極44は、第2内部空所17内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。測定電極44は、その周囲を、多孔質拡散層91によって覆われ、つまり、多孔質拡散層91によって被覆されている。
【0078】
多孔質拡散層91は、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200よりも気孔率の低い多孔体である。多孔質拡散層91が気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、多孔質拡散層91は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。例えば、多孔質拡散層91の厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面と、測定電極44に対向しない外側の面とで気孔率が異なる場合、多孔質拡散層91の平均気孔率は、以下の条件を満たす。すなわち、多孔質拡散層91の平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。言い換えれば、測定電極44を覆う多孔質拡散層91の、厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に近い側(内側)の面と、反対側の、測定電極44に遠い側(外側)の面とで気孔率が異なる場合、多孔質拡散層91の平均気孔率は、以下の条件を満たす。すなわち、多孔質拡散層91の平均気孔率は5%以上かつ25%以下であって、また、多孔質拡散層91の平均気孔率は先端保護層200の気孔率よりも低い。測定電極44に遠い側の面(外側の面)は、被測定ガス流通部7に面する(対向する)面と言い換えてもよく、図2(及び、後述する図3)に示す例では、第2内部空所17に面する面と言い換えてもよい。
【0079】
多孔質拡散層91は、測定電極44を覆うことで、測定電極44の周囲における被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とする。また、多孔質拡散層91は、測定電極44の保護膜としても作用する。多孔質拡散層91は、例えば、アルミナ(Al23)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。
【0080】
NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。すなわち、素子基体100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0081】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0082】
第3拡散律速部16によって形成される流路を通って第2内部空所17内に導かれた被測定ガスは、補助ポンプセル50により酸素分圧が制御されたうえで、測定電極44に到達することとなる。特に、被測定ガスは、多孔質拡散層91を通じて窒素酸化物(NOx)濃度の測定に適した拡散形態となり、言い換えれば、所定の拡散抵抗が付与される。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0083】
また、測定電極44、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0084】
また、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。素子基体100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0085】
以上の構成を有する素子基体100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、素子基体100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0086】
更に、素子基体100は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、素子基体100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。図2の一例では、ヒータ70は、ヒータ電極71、発熱部72、リード部73、ヒータ絶縁層74、及び圧力放散孔75を備えている。リード部73は、スルーホールにより構成されてよい。
【0087】
本実施形態では、ヒータ70は、素子基体100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、素子基体100の上面よりも素子基体100の下面に近い位置に配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0088】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(素子基体100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0089】
発熱部72は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。発熱部72は、リード部73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、素子基体100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0090】
また、発熱部72は、第1内部空所15から第2内部空所17の全域に渡って埋設されており、素子基体100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0091】
ヒータ絶縁層74は、発熱部72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2と発熱部72との間の電気的絶縁性、並びに、第3基板層3と発熱部72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0092】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0093】
<多孔質拡散層>
図3は、素子基体100の要部を説明するための拡大図である。具体的には、図3は、第2内部空所17に配置された測定電極44を覆う多孔質な層である多孔質拡散層91について、その詳細を示す図である。測定電極44を覆う多孔質な層として、気孔率が5%以上かつ25%以下で、先端保護層200の気孔率よりも低い多孔質拡散層91を設けることにより、測定電極44に供給される被測定ガスの拡散抵抗が調整される。特に、係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲における被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態は、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態となる。これによって、H2O濃度が高い場合であっても、測定電極44の周囲の拡散形態が分子拡散である場合に発生するNOx出力の変動及び測定電極の劣化を抑制することができる。
【0094】
図3に例示する素子基体100は、図2を用いて説明したように、第1固体電解質層4と第2固体電解質層6との間のスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる内部空間(被測定ガス流通部7)を備える。被測定ガス流通部7は、上部(上面)を第2固体電解質層6の下面によって、下部(下面)を第1固体電解質層4の上面によって、区画されている(規定されている)。被測定ガス流通部7は、第1内部空所15及び第2内部空所17を含む。
【0095】
第1内部空所15は、内側ポンプ電極22(天井電極部22a及び底部電極部22b)と、図3には図示していない外側ポンプ電極23及び第2固体電解質層6とにより構成される主ポンプセル21によって、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間である。
【0096】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く。すなわち、第3拡散律速部16は、第1内部空所15から第2内部空所17への、被測定ガスの流路を形成する。
【0097】
第2内部空所17において、被測定ガス中の酸素分圧は、補助ポンプセル50によって更に調整される。補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51(天井電極部51a及び底部電極部51b)と、図3には図示していない外側ポンプ電極23及び第2固体電解質層6とにより構成される。
【0098】
第2内部空所17内において、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われた被測定ガスは、測定用ポンプセル41によって、窒素酸化物濃度が測定される。測定用ポンプセル41は、測定電極44、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4と、図3には図示していない外側ポンプ電極23と、により構成される。
【0099】
そして、測定電極44は、その周囲を、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも気孔率が低い多孔質拡散層91によって、覆われている。係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲における被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができる。
【0100】
ここで、測定電極44の周囲に拡散抵抗の大きな多孔質拡散層91を設けると、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性がある。これを防ぐために、ガスセンサ素子101は、図1に例示するように、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層200を備えている。そして、多孔質拡散層91の気孔率は、先端保護層200の気孔率よりも低く、つまり、先端保護層200の気孔率は、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。
【0101】
このような構成を採用することにより、多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等は、予め先端保護層200において捕捉されるため、多孔質拡散層91及び測定電極44にまで到達する被測定ガス中の被毒物質等はごくわずかとなる。そのため、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性を抑えることができる。また、被毒物質等が測定電極44にまで到達し、測定電極44に付着したとしても、電極金属の酸化/還元能力に影響を与えることはほとんどない。
【0102】
そのため、本実施の形態に係るガスセンサ素子101は、被毒物質等による多孔質拡散層91の目詰まりを抑制し、また、被毒物質等による測定電極44の酸化/還元能力への影響を抑制するすることができる。具体的には、ガスセンサ素子101は、使用に伴う測定精度の低下が好適に抑制されたものとなっており、つまり、繰り返しの使用によっても測定精度が安定的に保たれたものとなっている。
【0103】
多孔質拡散層91の厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面と、外側の面とで気孔率が異なる場合、多孔質拡散層91は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。つまり、多孔質拡散層91の厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に近い側の面と遠い側の面とで気孔率が異なる場合、多孔質拡散層91は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。例えば、多孔質拡散層91が気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、係る複数の面(層)の各々の気孔率から算出される多孔質拡散層91の平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。測定電極44を覆う多孔質拡散層であって、測定電極44に近い側(内側)の面と遠い側(外側)の面とで気孔率が異なる多孔質拡散層の例について、詳細は図5を用いて後述する。
【0104】
(多孔質拡散層と測定電極との接触の要否)
気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い多孔質拡散層91は、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられ、具体的には、測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となるように設けられる。多孔質拡散層91は、測定電極44に接した状態で測定電極44を覆っていてもよいし、測定電極44に接することなく、測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となるように、測定電極44を覆っていてもよい。以下に、図4から図6を用いて、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低く、測定電極44を覆う多孔質拡散層について、測定電極44に接する例、及び、測定電極44に接しない例について、その詳細を説明する。
【0105】
(多孔質拡散層と測定電極とが接している例)
図4は、素子基体100における測定電極44と多孔質拡散層91との関係の一例を示す図である。具体的には、図4は、測定電極44に接した状態で測定電極44を覆う(被覆する)多孔質拡散層91の例を示す図である。図4に例示する多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、測定電極44の上面、前面、及び後面に接した状態で、測定電極44を覆っている。測定電極44に接した状態で測定電極44を覆う多孔質拡散層91によって、測定電極44へと至る被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができる。図4に例示するように、ガスセンサ素子101において、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低く、測定電極44を覆う多孔質拡散層は、測定電極44に接していてもよい。ただし、ガスセンサ素子101にとって、係る多孔質拡散層が測定電極44に接していることは必須ではない。ガスセンサ素子101において、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低く、測定電極44を覆う多孔質拡散層は、測定電極44に接していなくてもよい。測定電極44に接していない多孔質拡散層の例については、図6を用いて後述する。
【0106】
図5は、変形例に係る多孔質拡散層91Aの一例を示す図である。具体的には、図5は、全体に亘って気孔率が一定ではない、つまり、気孔率の異なる複数の面(層)を含む、多孔質拡散層91Aの例を示す図である。図4に例示した多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定であった。しかしながら、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層の気孔率が、係る多孔質拡散層の全体に亘って一定であることは必須ではない。図5に例示する多孔質拡散層91Aのように、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層は、測定電極44に対向する内側の面と、外側の面とで、気孔率が異なっていてもよい。すなわち、測定電極44を覆う多孔質拡散層の、厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面と、測定電極44に対向しない外側の面とは、互いに気孔率が異なっていてもよい。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91に代えて、多孔質拡散層91Aを備えていてもよい。
【0107】
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、被測定ガス流通部7(第2内部空所17)に面する多孔質な層である第1多孔質拡散層911(外側の面)と、測定電極44に対向する多孔質な層である第2多孔質拡散層912(内側の面)とを含んでいる。第1多孔質拡散層911と第2多孔質拡散層912とは、互いに気孔率が異なり、第2多孔質拡散層912の気孔率は、第1多孔質拡散層911の気孔率よりも高い。つまり、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面(第2多孔質拡散層912)の気孔率は、外側の面(第1多孔質拡散層911)の気孔率よりも、高い。図5に示す例では、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、内側の面(第2多孔質拡散層912)は測定電極44に対向し、外側の面(第1多孔質拡散層911)は、被測定ガス流通部7に面している(対向している)。
【0108】
多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)の気孔率よりも高くすることによって、以下の効果を実現することができる。すなわち、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合の影響を抑え、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間を短縮することができる。これは、以下に説明する理由による。
【0109】
ガスセンサの駆動直後、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合、測定電極44と基準電極42との間の電位差(つまり、酸素濃度差)が増える。そのため、測定電極44へと酸素を汲み入れることで、アンダーシュート波形となり、ライトオフ時間が長くなってしまうことがある。
【0110】
しかしながら、多孔質拡散層91Aのように、測定電極44に対向する内側の面(測定電極44に近い側。第2多孔質拡散層912)の気孔率を、外側の面(第1多孔質拡散層911)の気孔率より高くすることで、ガスセンサ素子101は以下の効果を実現する。すなわち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率より高くすることで、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面付近に発生したH2を素早く拡散させることができる。つまり、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されることにより発生するH2を、第1多孔質拡散層911(外側の面)よりも気孔率の高い第2多孔質拡散層912(測定電極44に対向する内側の面)によって、素早く拡散させることができる。そのため、ガスセンサ素子101においては、一定制御の際に測定電極44と基準電極42との間の電位差が大きくなり過ぎることがなく、ガスセンサ素子101は、ライトオフ時間を短縮することができる。つまり、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合であっても、係るH2の影響を抑えて、ライトオフ時間が長くなってしまうのを回避することができる。
【0111】
特に、多孔質拡散層91Aと測定電極44との間に空間を設けない場合、つまり、両者が接する場合、第2多孔質拡散層912の気孔率を、第1多孔質拡散層911の気孔率よりも高くすることが望ましい。つまり、多孔質拡散層91Aと測定電極44とが接する場合、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に接する内側の面の気孔率は、外側の面(測定電極44に接しない面。表面側。例えば、被測定ガス流通部7に面する面)の気孔率よりも高くすることが望ましい。多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に接する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることによって、多孔質拡散層91Aと測定電極44とが接する場合であっても、多孔質拡散層91Aは、以下の効果を実現することができる。すなわち、多孔質拡散層91Aは、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合の影響を抑え、ライトオフ時間を短縮することができる。
【0112】
なお、気孔率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)に対して公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで導出した値である。具体的には、「多孔質拡散層91Aの、測定電極44に近い側(第2多孔質拡散層912)」の気孔率は、例えば、以下のようにして導出した。すなわち、先ず、長さ方向(センサ素子の軸方向)で見た時に測定電極44の中央付近で、かつ、測定電極44と多孔質拡散層91A(第2多孔質拡散層912)との界面から10~15μmの範囲のSEM画像を取得した。次に、取得したSEM画像に対して、二値化処理などの公知の画像処理手法を適用することで、「多孔質拡散層91Aの、測定電極44に近い側(第2多孔質拡散層912)」の気孔率を求めた。「多孔質拡散層91Aの、表面側(被測定ガス流通部7に面する側。具体的には、第1多孔質拡散層911)」の気孔率も、同様の手法を適用して求めた。すなわち、多孔質拡散層91A(第1多孔質拡散層911)の表面(例えば、上面)から10~15μmの範囲のSEM画像を取得し、係るSEM画像に対して公知の画像処理手法を適用することで、多孔質拡散層91Aの、表面側の気孔率を導出した。
【0113】
上述の通り、多孔質拡散層91Aにおいて、第2多孔質拡散層912の気孔率は、第1多孔質拡散層911の気孔率よりも高く、例えば、第1多孔質拡散層911の気孔率よりも10%以上高い。すなわち、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面(第2多孔質拡散層912)の気孔率は、外側の面(第1多孔質拡散層911)の気孔率よりも、10%以上高い。
【0114】
上述の通り、多孔質拡散層91Aの第2多孔質拡散層912(測定電極44に対向する内側の面の気孔率)の気孔率を、第1多孔質拡散層911(外側の面)の気孔率よりも高くすることによって、以下の効果を実現することができる。すなわち、係る構成によって、多孔質拡散層91Aは、測定電極44の表面付近に発生したH2を素早く拡散させることができ、ライトオフ時間の増大を抑制することができる。そして、本件発明者らは、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率が、外側の面の気孔率よりも10%以上高い場合、10%未満の場合よりも、ライトオフ時間が短くなることを確認した。それゆえ、多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に対向する内側の面(測定電極44に近い側の面。第2多孔質拡散層912)の気孔率と、外側の面(第1多孔質拡散層911)の気孔率との差は、10%以上あることが望ましい。具体的には、多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも、10%以上高い方が望ましい。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Aの第2多孔質拡散層912の気孔率を、第1多孔質拡散層911の気孔率よりも10%以上高くすることで、10%未満の場合よりもライトオフ時間を短くすることができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面(被測定ガス流通部7に面する面)の気孔率より10%以上高くすることで、ライトオフ時間をより短縮できる。
【0115】
これまでに説明してきたように、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率は、外側の面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)の気孔率よりも高く、特に、10%以上高い。ここで、多孔質拡散層91Aにおける、測定電極44に対向する内側の面から、測定電極44に対向しない外側の面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)への、気孔率の変化の態様は、特に、限られるものではない。
【0116】
すなわち、図5に例示するように、多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する内側の面から、外側の面へと、段階的(非連続的)に変化してもよい。図5に例示する多孔質拡散層91Aは、被測定ガス流通部7に面する外側の面(例えば、上面)を第1多孔質拡散層911によって、また、測定電極44に対向する(面する)内側の面(例えば、下面)を第2多孔質拡散層912によって、構成される。そして、第1多孔質拡散層911と第2多孔質拡散層912とは互いに気孔率が異なり、具体的には、第1多孔質拡散層911の気孔率は、第2多孔質拡散層912の気孔率よりも低く、例えば、第2多孔質拡散層912の気孔率よりも10%以上低い。つまり、多孔質拡散層91Aは互いに気孔率の異なる複数の層を含み、多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する内側の面から、外側の面の気孔率へと、段階的(非連続的)に変化する。
【0117】
また、多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する(面する)内側の面から、外側の面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)へと、連続的に変化してもよい。例えば、測定電極44に対向する(面する)内側の面から、外側の面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)へと、気孔率が徐々に低下し、結果として、両者の気孔率の差が10%以上となるように、多孔質拡散層91Aを構成してもよい。
【0118】
以上に説明した通り、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率は、外側の面の気孔率よりも高く、具体的には、10%以上高い。そして、多孔質拡散層91Aにおける、測定電極44に対向する内側の面から、外側の面への、気孔率の変化の態様については、特に限定されるものではなく、例えば、段階的(非連続的)に変化してもよいし、連続的に変化してもよい。
【0119】
なお、ガスセンサ素子101において、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層が、多孔質拡散層91Aのように、互いに気孔率の異なる複数の面(層)を備える場合、係る多孔質拡散層の平均気孔率は、以下の条件を満たす。すなわち、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層が互いに気孔率の異なる複数の面を備える場合、係る多孔質拡散層は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。例えば、図5に例示するように、測定電極44に近い側(内側)の面と遠い側(外側)の面とで気孔率が異なる多孔質拡散層91Aにおいて、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。具体的には、第1多孔質拡散層911及び第2多孔質拡散層912の各々の気孔率から算出される多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。すなわち、多孔質拡散層91Aが複数の面(層)を含む場合、特に、気孔率の異なる複数の面を含む場合、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。
【0120】
図5には、測定電極44に対向する内側の面と、測定電極44に対向しない外側の面とで気孔率の異なる多孔質拡散層91Aが、測定電極44に接した状態で測定電極44を覆っている例を示した。しかしながら、多孔質拡散層91Aにとって、測定電極44に接した状態で測定電極44を覆うことは必須ではない。多孔質拡散層91Aと測定電極44との間には空間(隙間)を設けてもよい。同様に、多孔質拡散層91と測定電極44との間には空間(隙間)を設けてもよい。すなわち、ガスセンサ素子101において、測定電極44を覆い、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも気孔率が低い多孔質拡散層は、測定電極44に接していなくてもよく、両者の間に空間が設けられていてもよい。以下、図6を参照して、ガスセンサ素子101において、測定電極44を覆う多孔質拡散層が、測定電極44に接していない例について説明する。
【0121】
(多孔質拡散層と測定電極とが接していない例)
図6は、変形例に係る測定電極44と多孔質拡散層91(多孔質拡散層91B)との関係の一例を示す図である。具体的には、図6は、測定電極44に接することなく測定電極44を覆い、かつ、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下である多孔質拡散層91Bの例を示す図である。図4、5に例示した多孔質拡散層91、91Aは、測定電極44に接した状態で測定電極44を覆っていた。しかしながら、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層が、測定電極44に接することは必須ではない。図6に例示する多孔質拡散層91Bのように、ガスセンサ素子101において多孔質拡散層は、測定電極44に接することなく測定電極44を覆っていてもよい。つまり、多孔質拡散層と測定電極44との間には空間(隙間)があってもよい。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91に代えて、測定電極44に接することなく測定電極44を覆い、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも気孔率が低い多孔質拡散層91Bを備えていてもよい。
【0122】
図6に例示する多孔質拡散層91Bは、測定電極44に接していない。つまり、測定電極44の周囲に設けられる多孔質拡散層91Bと、測定電極44との間には、空間(隙間)が設けられている。ただし、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層91Bと測定電極44との間の距離d2は、0.15mm以下である。多孔質拡散層91Bと測定電極44との間の距離d2は、例えば、多孔質拡散層91Bの、測定電極44に面する(対向する)面から、測定電極44(特に、その表面。多孔質拡散層91Bに面する(対向する)面)までの距離をいう。
【0123】
多孔質拡散層91Bは、測定電極44に接しておらず、ただし、測定電極44までの距離d2は0.15mm以下であり、つまり、多孔質拡散層91Bと測定電極44との間の距離d2は0.15mm以下である。前述の通り、センサ駆動直後、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合、測定電極44の周囲のH2が原因となって、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間が長くなってしまうことがある。そこで、ガスセンサ素子101は、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)を設けることによって、測定電極44の表面付近に発生したH2を素早く拡散させる。これによって、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合であっても、係るH2の影響を抑えて、ライトオフ時間が長くなってしまうのを回避することができる。つまり、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91と測定電極44との間に空間を設けることで、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されることで発生するH2を素早く拡散させる。そのため、一定制御の際に測定電極44と基準電極42との間の電位差が大きくなり過ぎることがなく、ガスセンサ素子101は、ライトオフ時間を短縮することができる。
【0124】
ただし、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間隔を広くし過ぎると、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更するという多孔質拡散層91Bの効果が低下する。そこで、ガスセンサ素子101において、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離は、0.15mm以下とする。本件発明者らは、両者の間の距離を0.15mm以下とすることで、両者が接している場合と同様に、多孔質拡散層91Bによって測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとすることができるのを確認した。すなわち、測定電極44までの距離が0.15mm以下である多孔質拡散層91Bによって、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができることを確認した。そのため、ガスセンサ素子101は、測定電極44までの距離が0.15mm以下である多孔質拡散層91Bによって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。言い換えれば、ガスセンサ素子101は、測定電極44までの距離が0.15mm以下である多孔質拡散層91Bによって、H2Oガスの、NOxガス(及びO2ガス)への影響を抑えることができる。
【0125】
なお、多孔質拡散層91Bのような、測定電極44に接することなく測定電極44を覆う多孔質拡散層についても、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも、高くしてもよい。例えば、多孔質拡散層91Bの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも、高くしてもよい。測定電極44までの距離d2が0.15mm以下で、測定電極44に接することなく測定電極44を覆う多孔質拡散層は、測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることで、より素早くH2を拡散できるようになる。そのため、係る多孔質拡散層を備えるガスセンサ素子101は、ライトオフ時間をより短縮することができる。
【0126】
(測定電極の配置位置について)
これまで、図2から図6を用いて、測定電極44が第2内部空所17に配置される例について説明してきた。しかしながら、ガスセンサ素子101において、測定電極44が第2内部空所17に配置されることは必須ではない。測定電極44は、第1内部空所15に配置されてもよい。また、ガスセンサ素子101の備える素子基体が2室構造、すなわち、第1内部空所15及び第2内部空所17を備えることは必須ではない。例えば、ガスセンサ素子101の備える素子基体は、1室構造であってもよく、つまり、拡散律速部を備えていない構成としてもよい。また、ガスセンサ素子101の備える素子基体は、3室以上の内部空所を備えていてもよく、例えば、3室構造(3室の内部空所を備える構造)であってもよいし、4室以上の内部空所を備える構造であってもよい。以下に、図7を用いて、ガスセンサ素子101の備える素子基体が3室構造である例について説明する。
【0127】
(測定電極が第3内部空所に配置される例)
図7は、変形例に係る素子基体100Cの要部を説明するための拡大図である。具体的には、図7は、3室の内部空所(第1内部空所15、第2内部空所17、及び、第3内部空所19)を含む素子基体100Cの要部を説明するための拡大図である。ガスセンサ素子101は、素子基体100に代えて、以下に詳細を説明する素子基体100Cを備えていてもよい。
【0128】
素子基体100Cは、素子基体100と同様に、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6を下側から順に積層することで構成される積層体を備える。また、素子基体100と同様に、素子基体100Cにおいても、素子基体100Cの一先端部であって、第2固体電解質層6の下面及び第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスが導入されるように構成される内部空間(被測定ガス流通部7C)が設けられる。
【0129】
被測定ガス流通部7Cの構成は、素子基体100の備える内部空間(被測定ガス流通部7)の構成と、ガス導入口10から第2内部空所17までは、同様である。ただし、素子基体100Cは、さらに、第4拡散律速部18及び第3内部空所19を備える。具体的には、被測定ガス流通部7Cは、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、第2内部空所17、第4拡散律速部18、及び第3内部空所19が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、被測定ガス流通部7Cは、3室構造(第1内部空所15、第2内部空所17、及び第3内部空所19)を有し、ガス導入口10から第3内部空所19へと至る部位(内部空間)である。被測定ガス流通部7Cは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。被測定ガス流通部7Cの上部は、第2固体電解質層6の下面で区画される。被測定ガス流通部7Cの下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。被測定ガス流通部7Cの側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0130】
被測定ガス流通部7Cに備える「ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、及び第2内部空所17」は、被測定ガス流通部7の備えるものと同様であるため、説明は省略する。
【0131】
第4拡散律速部18は、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する部材(部位)である。図7に示す例では、第4拡散律速部18は、図面に垂直な方向に延びる長さが、第3内部空所19よりも短い孔(被測定ガスの流れる流路)を形成している。具体的には、第4拡散律速部18は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットを形成している。すなわち、第4拡散律速部18は、第1固体電解質層4の上面に接している。例えば、第4拡散律速部18は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第4架橋部)であり、係る第4拡散律速部18と層6との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路となる。ただし、第4拡散律速部18は、第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、及び第3拡散律速部16と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリットを形成してもよい。すなわち、第4拡散律速部18は、第1固体電解質層4の上面に接していなくてもよい。第4拡散律速部18は、第2内部空所17から第3内部空所19へと流れる被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与し、また、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路を形成することができればよい。
【0132】
上述の通り、第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く部位である。
【0133】
第3内部空所19は、第4拡散律速部18を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。素子基体100Cにおいては、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整される。その後、第2内部空所17において、第3拡散律速部16によって形成される流路を通って導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17から第3内部空所19に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、素子基体100Cは、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0134】
素子基体100Cにおける測定用ポンプセル41は、第2内部空所17内ではなく、第3内部空所19内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う点を除いて、素子基体100における測定用ポンプセル41と同様である。すなわち、第2内部空所17内において酸素濃度が調整された被測定ガスは、測定用ポンプセル41が作動することによってそのNOx濃度を測定される。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。図7の一例では、測定電極44は、第3内部空所19に隣接する(面する)第1固体電解質層4の上面に設けられる。また、測定電極44は、周囲を、多孔質拡散層91によって覆われる。
【0135】
素子基体100Cにおける測定電極44は、素子基体100における測定電極44と同様である。ただし、素子基体100Cにおける測定電極44は、第3内部空所19内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0136】
これまでに図7を用いて説明してきたように、ガスセンサ素子101は、ガス導入口10から被測定ガスが導入される内部空間(被測定ガス流通部7C)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部(第4拡散律速部18)を備えていてもよい。この場合、測定電極44は、被測定ガスの流れる方向における上流側が第4拡散律速部18によって区画された内部空所(第3内部空所19)に配置される。第3内部空所19は、第4拡散律速部18によって形成される流路(スリット)を通って第2内部空所17から被測定ガスが導入される空所である。第2内部空所17は、被測定ガス中の酸素分圧を調整可能な補助ポンプセル50が配置される空所であり、つまり、酸素が外部空間に汲み出され、または、汲み入れられる空所である。つまり、測定電極44は、補助ポンプセル50が配置される第2内部空所17から第4拡散律速部18によって形成される流路(スリット)を通って被測定ガスが導入される、第3内部空所19に配置される。係る構成を備えることにより、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、測定電極44へ到達するNOxガスの拡散形態を、第4拡散律速部18を備えない場合に比べて、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと、より近付けることができる。
【0137】
(先端保護層を多層構造とする例)
図1に例示する先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。しかしながら、ガスセンサ素子101が備える先端保護層について、全体に亘って気孔率が一定であることは必須ではない。ガスセンサ素子101が備える先端保護層は、多層構造を備えていてもよく、例えば、気孔率の異なる複数の層を含んでいてもよい。以下に、図8を用いて、ガスセンサ素子101が備える先端保護層が多層構造である例について説明する。
【0138】
図8は、変形例に係る先端保護層200Dを備えるガスセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。具体的には、図8は、互いに気孔率の異なる内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含む先端保護層200Dの一例を示す図である。ガスセンサ素子101は、図1に例示する先端保護層200に代えて、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含む、図8に例示する先端保護層200Dを備えてもよい。
【0139】
先端保護層200Dは、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面(素子基体100の先端面)を覆う。図8に示す例では、先端保護層200Dは、素子基体100の先端面と、係る先端面と連続する素子基体100の4つの側面とを覆うように設けられている。
【0140】
先端保護層200Dは、少なくとも、内側先端保護層201及び外側先端保護層202を含む。内側先端保護層201は、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する。外側先端保護層202は、先端保護層200Dの最外面を構成する。内側先端保護層201の気孔率は、外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、また、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Dの厚みの30%以上、90%以下である。すなわち、先端保護層200Dは、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含み、内側先端保護層201の気孔率は外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Dの厚みの30%から90%である。
【0141】
当該構成では、先端保護層200Dは、少なくとも2層以上の層を含み、内側の層(例えば、内側先端保護層201)の方が、外側の層(例えば、外側先端保護層202)よりも気孔率が大きい。内側の層(内側先端保護層201)の気孔率を、外側の層(外側先端保護層202)の気孔率よりも大きくすることによって、ガスセンサ素子101は、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0142】
特に、外側先端保護層202よりも気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みを厚くすることによって、つまり、先端保護層200の厚みに対する内側先端保護層201の厚みの割合を高くすることによって、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現する。すなわち、気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みを十分に確保することで、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制し、特に、ガス導入口10に近い層(つまり、内側先端保護層201)が目詰まりを起こす可能性を抑制する。具体的には、先端保護層200の厚みに対する、気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みの割合を、30%から90%とすることによって、ガス導入口10に接する内側先端保護層201が被毒物質等によって目詰まりを起こすのを回避することができる。
【0143】
また、先端保護層200Dは、先端保護層200と同様に、所定の厚みを有し、具体的には、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。すなわち、図8に示す例において、外側先端保護層202の最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、先端保護層200Dの厚みを十分に厚くすることで、以下の効果を実現することができる。すなわち、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を先端保護層200Dにおいて確実にトラップして(捕捉して)、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0144】
図8に例示する先端保護層200Dは、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含み、つまり、2層構造である。しかしながら、先端保護層200Dが2層構造であることは必須ではなく、先端保護層200Dが3層以上の層を含んでいてもよい。すなわち、先端保護層200Dは、内側先端保護層201及び外側先端保護層202に加えて、さらに別の層を含んでいてもよく、例えば、3層構造であってもよいし、4層以上の多層構造であってもよい。先端保護層200Dは、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201と、先端保護層200Dの最外面を構成する外側先端保護層202とを含んでいればよく、両者の間にさらに別の層を含んでいてもよい。先端保護層200Dにおいては、内側先端保護層201の気孔率が外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、かつ、内側先端保護層201の厚みが先端保護層200Dの厚みの30%以上、90%以下であればよい。
【0145】
[特徴]
以上の通り、本実施形態に係るガスセンサ素子101は、素子基体100(または100C)と、先端保護層200(または200D)と、測定電極44と、多孔質拡散層91(または、91A及び91Bの何れか)と、を含む。例えば、素子基体100は、内部空間として、被測定ガス流通部7を備え、被測定ガス流通部7には、素子基体100の表面に開口したガス導入口10から、被測定ガスが導入される。例えば、先端保護層200は、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う。測定電極44は、被測定ガス流通部7に設けられ、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む。例えば、多孔質拡散層91は、測定電極44を覆い、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200よりも気孔率が低い。気孔率の異なる複数の面(層)を含む多孔質拡散層91Aにおいて、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であり、また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、先端保護層200の気孔率よりも低い。
【0146】
当該構成では、測定電極44の周囲に多孔質拡散層91を設けている。具体的には、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200よりも気孔率の低い多孔質拡散層91によって、測定電極44は覆われている。測定電極44を覆う多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更することができる。そのため、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、測定電極44を覆う多孔質拡散層91によって、H2Oガスの、NOxガス(及びO2ガス)への影響を小さくすることができる。具体的には、ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層91によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。
【0147】
ここで、測定電極44の周囲に拡散抵抗の大きな多孔質拡散層91を設けると、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性がある。そこで、ガスセンサ素子101は、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面(先端面)を覆う先端保護層200を備える。そのため、ガスセンサ素子101は、先端保護層200によって被毒物質等をトラップし、つまり、先端保護層200によって被毒物質等を捉える(捕捉する)ことができる。
【0148】
特に、ガスセンサ素子101において、先端保護層200の気孔率は、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層91(91A、91B)の気孔率よりも高い(大きい)。ガスセンサ素子101は、先端保護層200の気孔率を多孔質拡散層91の気孔率よりも高くすることで、「先端保護層200が被毒物質等によって目詰まりしてしまい、NOx出力が低下する」といった事態を回避することができる。
【0149】
また、ガスセンサ素子101において、測定電極44は、シリカ及びアルミナの少なくとも一方を含む。ここで、高温(例えば、摂氏700度~800度)でNOxを測定する場合、測定電極44には絶えず、膨張と収縮とが繰り返し発生することになる。そのような環境下においても、測定電極44がシリカ及びアルミナの少なくとも一方を含むことにより、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、測定電極44での膨張と収縮とを抑制することができる。そのため、ガスセンサ素子101は、測定電極44を被覆する多孔質拡散層91に亀裂、割れなどが入るのを防止し、また、測定電極44が素子基体100から剥離するのを防止することができる。
【0150】
また、本発明の一観点に係るガスセンサは、ガスセンサ素子101を用いて、被測定ガス中の特定のガス成分の量を、言い換えれば、特定のガス成分の濃度を、測定するように構成されてもよい。係るガスセンサは、測定電極44へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する。そのため、係るガスセンサは、測定電極44を覆う多孔質拡散層91(91A、91B)によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。
【0151】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0152】
(変形例1)
これまで、測定電極44が第1固体電解質層4の上面に配置される例を示してきたが、ガスセンサ素子101において、測定電極44が第1固体電解質層4の上面に配置されることは必須ではない。測定電極44は、例えば、第2固体電解質層6の下面に配置されてもよい。
【0153】
(変形例2)
これまで、測定電極44が、上流側に拡散律速部(例えば、第3拡散律速部16または第4拡散律速部18)を備える内部空所(例えば、第2内部空所17または第3内部空所19)に配置される例を示してきた。しかしながら、測定電極44が、上流側に拡散律速部を備える内部空所に配置されることは必須ではない。また、ガスセンサ素子101が備える内部空所が複数(例えば、2室または3室)であることも必須ではない。ガスセンサ素子101は、例えば、1室構造であってもよい。すなわち、ガスセンサ素子101にとって、拡散律速部(第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18の少なくとも1つ)を備えることは必須ではない。ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層(多孔質拡散層91、91A、91Bの何れか)と、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層(先端保護層200、200Dの何れか)を備えていればよい。ガスセンサ素子101において、測定電極44をどこに配置するかは、利用状況などに応じて適宜選択することができる。
【0154】
[実施例]
上述の通り、ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層(91、91A、91Bの何れか)と少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層(200または200D)とを備えることで、以下の効果を実現する。すなわち、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91によって、例えば、高H2O濃度環境下での測定電極44の劣化を抑制し、また、耐久性を向上させることができる。さらに、ガスセンサ素子101は、先端保護層200によって、例えば、多孔質拡散層91の被毒物質等による目詰まりを抑制し、長期間にわたって測定精度を維持することができる。
【0155】
本件発明者らは、以下の実施例及び比較例等に係るガスセンサを作製し、各種の試験を行なって上述の効果を検証した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0156】
【表1】
【0157】
表1は、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るガスセンサ素子を備えるガスセンサについて、各ガスセンサ素子の構成、及び、判定1~5の各々に係る試験の結果を示す。なお、以下の説明においては、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るガスセンサ素子を備えるガスセンサを、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るガスセンサ(NOxセンサ)と略記することがある。
【0158】
(実施例1~13及び比較例1~3の各々の詳細)
実施例1は、図1に例示する先端保護層200と、図6に例示する多孔質拡散層91Bとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。実施例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91Bの気孔率は12%である。また、多孔質拡散層91Bの表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)の気孔率、及び、電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)の面の気孔率は、共に12%であり、両者の間の気孔率差は0%である。つまり、多孔質拡散層91Bの厚み方向における外側の面と内側の面とは、気孔率が共に12%である。実施例1に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率よりも高い。つまり、実施例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(12%)は、先端保護層200の気孔率(20%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例1に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0159】
実施例2は、図1に例示する先端保護層200と、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、実施例2においては、実施例1と異なり、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1と同様に、実施例2において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は6%であり、電極側の面の気孔率は10%である。つまり、実施例2のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(10%)は、外側の面(表面)の気孔率(6%)よりも高い。ただし、両者の差は10%未満(具体的には、4%)であり、つまり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(10%)は、外側の面の気孔率(6%)よりも、4%高い。実施例2において、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、測定電極44に対向する内側の面の気孔率(10%)は、外側の面の気孔率(6%)よりも高く、具体的には4%高い。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は8%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例2に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は25%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(8%)は、先端保護層200の気孔率(25%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、280μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例2に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、280μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0160】
実施例3は、図8に例示する先端保護層200Dと、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1、2と同様に、実施例3において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は8%であり、電極側の面の気孔率は18%である。つまり、実施例3のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(18%)は、外側の面(表面)の気孔率(8%)よりも高い。そして、実施例2と異なり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(18%)と、外側の面の気孔率(8%)との差は10%以上(具体的には、10%)である。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は12%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例3に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は20%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(12%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(20%)よりも低い。また、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の気孔率は60%である。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、1020μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは280μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは740μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、73%であり、30%以上、90%以下である。
【0161】
実施例4は、図8に例示する先端保護層200Dと、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-3と同様に、実施例4において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は20%であり、電極側の面の気孔率は30%である。つまり、実施例4のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(30%)は、外側の面(表面)の気孔率(20%)よりも高い。そして、実施例2と異なり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(30%)と、外側の面の気孔率(20%)との差は10%以上(具体的には、10%)である。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は25%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例4に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は20%であり、実施例3と異なり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも低い。つまり、実施例3と異なり、実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(25%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(20%)よりも高い。ただし、先端保護層200Dの含む内側先端保護層201の気孔率は、60%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(25%)よりも高い。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、1000μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは300μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは700μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、70%であり、30%以上、90%以下である。
【0162】
実施例5は、図8に例示する先端保護層200Dと、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-4と同様に、実施例5において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は10%であり、電極側の面の気孔率は20%である。つまり、実施例5のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(20%)は、外側の面(表面)の気孔率(10%)よりも高い。そして、実施例2と異なり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(20%)と、外側の面の気孔率(10%)との差は10%以上(具体的には、10%)である。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は15%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例5に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は25%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(15%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(25%)よりも低い。また、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の気孔率は65%である。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、990μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは360μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは630μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、64%であり、30%以上、90%以下である。
【0163】
実施例6は、図8に例示する先端保護層200Dと、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-5と同様に、実施例6において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は7%であり、電極側の面の気孔率は15%である。つまり、実施例6のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(15%)は、外側の面(表面)の気孔率(7%)よりも高い。ただし、実施例3、4、5と異なり、両者の差は10%未満(具体的には、8%)であり、つまり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(15%)は、外側の面の気孔率(7%)よりも、8%高い。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は10%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例6に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は15%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(10%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(15%)よりも低い。また、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の気孔率は50%である。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、1050μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは200μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは850μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、81%であり、30%以上、90%以下である。
【0164】
実施例7は、図8に例示する先端保護層200Dと、図6に例示する多孔質拡散層91B(ただし、表面と電極側の面とで気孔率が異なる)とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmである。ただし、実施例1-6と同様に、実施例7において測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離d2は、0.15mm以下である。また、実施例7に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例1と異なり、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例7に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの表面の気孔率は8%であり、電極側の面の気孔率は18%である。つまり、実施例7のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(18%)は、外側の面(表面)の気孔率(8%)よりも高く、両者の差は10%以上(具体的には、10%)である。また、多孔質拡散層91Bの平均気孔率は15%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例7に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は23%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例7に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)(15%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(23%)よりも低い。また、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の気孔率は55%である。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、500μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは350μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは150μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、30%であり、30%以上、90%以下である。
【0165】
実施例8は、図1に例示する先端保護層200と、図6に例示する多孔質拡散層91B(ただし、表面と電極側の面とで気孔率が異なる)とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.13mmである。ただし、実施例1-7と同様に、実施例8において測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離d2は、0.15mm以下である。また、実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例1と異なり、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの表面の気孔率は17%であり、電極側の面の気孔率は22%である。つまり、実施例8のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(22%)は、外側の面(表面)の気孔率(17%)よりも高い。ただし、実施例3、4、5、及び7と異なり、両者の差は10%未満(具体的には、5%)であり、つまり、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(22%)は、外側の面の気孔率(17%)よりも、5%高い。また、多孔質拡散層91Bの平均気孔率は20%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例8に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は30%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)(20%)は、先端保護層200の気孔率(30%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、200μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例8に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、200μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0166】
実施例9は、図8に例示する先端保護層200Dと、図6に例示する多孔質拡散層91Bとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmである。ただし、実施例1-8と同様に、実施例9において測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離d2は、0.15mm以下である。また、実施例9に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例2-8と異なり、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91Bの気孔率は25%である。また、多孔質拡散層91Bの表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)の気孔率、及び、電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)の面の気孔率は、共に25%であり、両者の間の気孔率差は0%である。実施例9に係るガスセンサについて、先端保護層200Dの有無は「有」であり、また、実施例1、2と異なり、先端保護層200Dは、内側先端保護層201を含む。具体的には、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)は15%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも低い。つまり、実施例1-3、5-8と異なり、実施例9に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(25%)は、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)(15%)よりも高い。ただし、先端保護層200Dの含む内側先端保護層201の気孔率は、45%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(25%)よりも高い。先端保護層200Dとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Dの最外面からガス導入口10までの距離d1は、900μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Dの備える外側先端保護層202の厚みは300μmであり、先端保護層200Dの備える内側先端保護層201の厚みは600μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Dの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、67%であり、30%以上、90%以下である。
【0167】
実施例10は、図1に例示する先端保護層200と、図6に例示する多孔質拡散層91B(ただし、表面と電極側の面とで気孔率が異なる)とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.15mmである。ただし、実施例1-9と同様に、実施例10において測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例10に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例1と異なり、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例10に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの表面の気孔率は12%であり、電極側の面の気孔率は10%である。つまり、実施例3、4、5、及び7と異なり、実施例10のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(10%)は、外側の面(表面)の気孔率(12%)よりも低く、具体的には、2%低い。また、多孔質拡散層91Bの平均気孔率は10%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例10に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例10に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)(10%)は、先端保護層200の気孔率(20%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例10に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0168】
実施例11は、図1に例示する先端保護層200と、図6に例示する多孔質拡散層91B(ただし、表面と電極側の面とで気孔率が異なる)とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmである。ただし、実施例1-10と同様に、実施例11において測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例11に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例1と異なり、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例11に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの表面の気孔率は7%であり、電極側の面の気孔率は12%である。つまり、実施例11のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(12%)は、外側の面(表面)の気孔率(7%)よりも高い。ただし、実施例3、4、5、及び7と異なり、両者の差は10%未満(具体的には、5%)である。また、多孔質拡散層91Bの平均気孔率は10%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例11に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例11に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)(10%)は、先端保護層200の気孔率(20%)よりも低い。また、実施例11に係るガスセンサにおいて、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、100μmである。つまり、実施例1-10と異なり、実施例11において、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、200μm(0.2mm)未満である。前述の通り、実施例11に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、100μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0169】
実施例12は、図1に例示する先端保護層200と、図6に例示する多孔質拡散層91B(ただし、表面と電極側の面とで気孔率が異なる)とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91Bとの間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.2mmである。すなわち、実施例1-11と異なり、実施例12においては、多孔質拡散層91Bから測定電極44までの距離d2は0.2mmであり、0.15mmよりも大きい。実施例12に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bは、実施例1と異なり、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例12に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの表面の気孔率は12%であり、電極側の面の気孔率は14%である。つまり、実施例12のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(14%)は、外側の面(表面)の気孔率(12%)よりも高い。ただし、実施例3、4、5、及び7と異なり、両者の差は10%未満(具体的には、2%)である。また、多孔質拡散層91Bの平均気孔率は15%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例12に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は25%であり、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例12に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Bの気孔率(平均気孔率)(15%)は、先端保護層200の気孔率(25%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例12に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0170】
実施例13は、図1に例示する先端保護層200と、図5に例示する多孔質拡散層91Aとを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、実施例13においては、実施例1と異なり、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-11と同様に、実施例13において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。実施例13に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、実施例13に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は15%であり、電極側の面の気孔率は6%である。つまり、実施例1-9、11、及び12と異なり、実施例13のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(6%)は、外側の面(表面)の気孔率(15%)よりも低い。具体的には、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(6%)は、外側の面の気孔率(15%)よりも、9%低い。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は11%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。実施例13に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は25%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも高い。つまり、実施例13に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(11%)は、先端保護層200の気孔率(25%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、280μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例13に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、280μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0171】
比較例1は、先端保護層200を備えていない点を除き、構造は実施例2と同様のセンサ素子を含むガスセンサである。具体的には、比較例1においては、実施例1と異なり、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-11、13と同様に、比較例1において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。比較例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、比較例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は6%であり、電極側の面の気孔率は12%である。つまり、比較例1のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(12%)は、外側の面(表面)の気孔率(6%)よりも高い。ただし、実施例3-7と異なり、両者の差は10%未満(具体的には、6%)であり、つまり、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率(12%)は、外側の面の気孔率(6%)よりも、6%高い。また、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は10%であり、平均気孔率は5%以上かつ25%以下である。前述の通り、比較例1に係るガスセンサは、先端保護層200を備えていないため、先端保護層200の有無は「無」であり、先端保護層200の気孔率、及び内側先端保護層201の気孔率は、何れも、「-」である。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離、外側先端保護層202の厚み、内側先端保護層201の厚み、内側先端保護層201の厚み割合についても、何れも「-」である。
【0172】
比較例2は、多孔質拡散層(多孔質拡散層91、91A、91B)を備えず、図1に例示する先端保護層200のみを備えるセンサ素子を含むガスセンサである。比較例2は、多孔質拡散層を備えていないため、測定電極44と多孔質拡散層との距離、多孔質拡散層の平均気孔率、多孔質拡散層の表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)の気孔率は、何れも「-」である。また、多孔質拡散層の電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する面)の面の気孔率、及び多孔質拡散層の(表面と測定電極44側の面との間の)気孔率差についても、何れも「-」である。比較例2に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は15%である。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、250μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、比較例2に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、250μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0173】
比較例3は、実施例2と同様の構造だが、多孔質拡散層91Aの平均気孔率が、25%よりも大きく(高く)、かつ、先端保護層200の気孔率よりも高いガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、比較例3においては、実施例1と異なり、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間に空間(隙間)が無く、両者の間の距離d2は0mmである。ただし、実施例1-11、13と同様に、比較例3において測定電極44と多孔質拡散層91Aとの間の距離d2は、0.15mm以下である。比較例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aは、表面(被測定ガス流通部7に面する外側の面)と電極側の面(測定電極44に対向する内側の面、測定電極44に面する(接する)面)とで気孔率が異なる。具体的には、比較例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの表面の気孔率は30%であり、電極側の面の気孔率は40%である。つまり、比較例3のガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率(40%)は、外側の面(表面)の気孔率(30%)よりも高く、両者の差は10%以上(具体的には、10%)である。また、実施例1-3、5-8、10-13と異なり、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は35%であり、平均気孔率は25%よりも大きい(高い)。比較例3に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、また、実施例3-7と異なり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、先端保護層200の気孔率は30%であり、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)よりも低い。つまり、実施例1-3、5-8、10-13と異なり、比較例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91Aの気孔率(平均気孔率)(35%)は、先端保護層200の気孔率(30%)よりも高い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、280μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、比較例3に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、280μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0174】
(判定1~5の各々の詳細)
判定1は、高H2O濃度による測定電極の劣化を抑制する効果を検証するものである。具体的には、先ずH2O濃度=25%、O2濃度=20.5%の環境を準備した。そして、係る環境下で、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサについて、2000時間の長期耐久試験を行った。本件発明者らは、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサが長期間にわたって連続的に使用された場合の、特性の劣化(高H2O濃度による測定電極の劣化)の程度を把握するべく、以下の加速劣化試験条件の下で、この長期耐久試験を行なった。すなわち、本件発明者らは、発熱部72による加熱温度を、センサ素子駆動温度よりも所定の温度(本長期耐久試験においては摂氏100度)だけ高い温度とした加速劣化試験条件の下で、長期耐久試験を行なった。センサ素子駆動温度は、NOxセンサが使用される(実際に使用される)際の、発熱部72による加熱温度であり、ガスセンサ素子101が駆動される際の、加熱温度と捉えることができる。試験の前後で、モデルガスを用いた評価を行い、NOx=500ppmを流した時のNOx出力の変化の度合いを調査した。「A」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス10%よりも大きく、20%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス20%よりも大きかった」ことを示す。
【0175】
判定2は、NOxガスが流れている時のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する効果を検証するものであり、具体的には、以下の検証(調査)を行なった。すなわち、判定1の試験実施後、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサについて、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=3%をベースとして、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=15%に変化させた。そして、係る変化の際のNOx出力の変化度合を調査した。「A」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率(変化度合)がプラスマイナス5%以内であった」ことを示す。「B」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率がプラスマイナス10%以内であった」ことを示す。「F」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率がプラスマイナス10%よりも大きかった」ことを示す。
【0176】
判定3は、先端保護層の「被毒物質をトラップして、測定電極の周囲(例えば、多孔質拡散層)での目詰まりを抑制する効果」を検証するものであり、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサについて、以下のMg被毒試験を行なった。すなわち、Mgイオン濃度が5mmol/LであるMgイオン溶液を10μL滴下し、1分間静置後、ガスセンサを摂氏800度で10分間駆動させるサイクルを10回繰り返し、合計100μLのMgイオン溶液を滴下した。そして、試験前後でのNOx出力の変化度合(変化率)を調査した。具体的には、先ず、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサを使用して、NOx濃度=500ppmのNOxモデルガス中でNOx感度測定を行い、この感度を初期NOx感度とした。そして、各NOxセンサのガス導入口に上述のMgイオン溶液を10μL滴下し、1分間静置後、各NOxセンサを摂氏800度で10分間駆動させるというサイクルを10回繰り返し、合計100μLのMgイオン溶液を滴下した。その後、各NOxセンサを使用して、再び上述のNOxモデルガス中でNOx感度の測定を行い、測定されたNOx感度を初期NOx感度と比較して、感度低下率を算出した。「A」は、「NOx感度の変化率が10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度の変化率が20%よりも大きく、30%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度の変化率が30%よりも大かった」ことを示す。
【0177】
判定4は、判定3と同様に、先端保護層の「測定電極の周囲での目詰まりを抑制する効果」を検証するものだが、判定3の方法よりも厳しい条件において、係る効果を検証するものであり、具体的には、先端保護層が目詰まりを起こす可能性を高くした。すなわち、判定4では、判定3と同様のMg被毒試験を行ない、ただし、滴下するMgイオン溶液を合計500μLとした。そして、試験前後でのNOx出力の変化度合(変化率)を調査し、つまり、NOx濃度=500ppmのNOxモデルガスを流した時のNOx出力の変化度合を調査した。「A」は、「NOx感度の変化率が10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度の変化率が20%よりも大きく、30%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度の変化率が30%よりも大きかった」ことを示す。
【0178】
判定5は、ライトオフ時間(NOxセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要する時間)を検証(測定)するものである。具体的には、NOx濃度=100ppm、H2O濃度=9%、残余がN2である混合ガスの環境を作り、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るNOxセンサをチャンバーへ取り付けて上述の混合ガスを流し、ライトオフ時間を測定した。ライトオフ時間は、ガスセンサ素子への通電開始後、NOx濃度値が90ppmから110ppmまでの範囲に収まる時間として求めた。「A」は、「ライトオフ時間が100秒以内であった」ことを示す。「B」は、「ライトオフ時間が100秒よりも大きく、130秒以内であった」ことを示す。「C」は、「ライトオフ時間が130秒よりも大きく、200秒以内であった」ことを示す。
【0179】
(表1から確認できる事項の概要)
以下、実施例1~13及び比較例1~3の各々に係るセンサ素子を備えるガスセンサについての、判定1~5の各々に係る試験の結果を示す表1から確認できる事項について、その概要を整理する。
【0180】
判定3における実施例1-13と比較例1との対比結果に示される通り、先端保護層200(または先端保護層200D)を備えることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、先端保護層200または先端保護層200Dを備える実施例1-13の判定3の結果(「A」または「B」)は何れも、先端保護層200も先端保護層200Dも備えていない比較例1の判定3の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、先端保護層200(または先端保護層200D)を備えることで、「被毒物質をトラップして、測定電極44の周囲(例えば、多孔質拡散層91)での目詰まりを抑制する」ことができることが確認された。
【0181】
判定1及び判定2における実施例1-13と比較例2との対比結果に示される通り、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、多孔質拡散層91等を備える実施例1-13の判定1の結果(「A」または「B」)は何れも、多孔質拡散層91等を備えていない比較例2の判定1の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、「測定電極の劣化(特に、高H2O濃度による測定電極の劣化)を抑制する」ことができることが確認された(判定1)。また、多孔質拡散層91等を備える実施例1-13の判定2の結果(「A」または「B」)は何れも、多孔質拡散層91等を備えていない比較例2の判定2の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された(判定2)。
【0182】
測定電極44に接して測定電極44を覆う多孔質拡散層91Aについて、「気孔率を、5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」か否かで、実施例2と比較例3とで、判定1、2の結果が大きく異なっている。具体的には、「気孔率が、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層の気孔率よりも低い」多孔質拡散層91Aを備える実施例2の判定1、2の結果は、何れも「A」である。これに対して、「気孔率が、25%より大きく、かつ、先端保護層の気孔率よりも高い」多孔質拡散層91Aを備える比較例3の判定1、2の結果は、何れも「F」である。そのため、係る多孔質拡散層91Aの気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、多孔質拡散層91Aの気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、高H2O濃度による測定電極の劣化を抑制することができることが確認された(判定1)。また、ガスセンサは、多孔質拡散層91Aの気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された(判定2)。
【0183】
なお、実施例4及び9では、多孔質拡散層91A、91Bの気孔率(平均気孔率)は、5%以上かつ25%以下だが、実施例1-3、5-8、及び10-13と異なり、先端保護層200Dの気孔率(平均気孔率)よりも高い。ただし、実施例4及び9では、多孔質拡散層91A、91Bの気孔率(平均気孔率)は、内側先端保護層201の気孔率よりも低く、つまり、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201の気孔率よりも低い。そして、実施例4の判定2の結果は「A」であり、また、実施例9の判定2の結果は「B」である。これに対して、比較例3では、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでおらず、また、多孔質拡散層91の気孔率は、25%よりも大きく、かつ、先端保護層200の気孔率よりも高い。そして、比較例3の判定2の結果は「F」である。そのため、多孔質拡散層91A、91Bの気孔率を、5%以上かつ25%以下とし、さらに、少なくとも「素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201の気孔率よりも低くする」ことで、以下の効果を実現できると考えられる。すなわち、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができると考えられる。
【0184】
実施例2と実施例13とは、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率が、外側の面(表面)の気孔率よりも高いか否かを除いて、同様の構成を備える。そして、実施例2の判定5の結果は「B」であるのに対して、実施例13の判定5の結果は「C」である。そのため、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも高くすることで、ライトオフ時間を短縮できることが確認された(判定5)。
【0185】
実施例8と実施例12とは、多孔質拡散層91Bから測定電極44までの距離d2が0.15mm以下であるか否かを除いて、同様の構成を備える。そして、実施例8の判定1及び判定2の結果は何れも「A」であるのに対して、実施例12の判定1及び判定2の結果は何れも「B」である。そのため、多孔質拡散層91Bから測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とすることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、多孔質拡散層91Bから測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とすることで、「高H2O濃度による測定電極の劣化を抑制する」ことができることが確認された(判定1)。また、ガスセンサは、多孔質拡散層91Bから測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とすることで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された(判定2)。
【0186】
実施例5と実施例6とは、多孔質拡散層91Aの厚み方向における2つの面のうち、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面(電極側の面)の気孔率が、外側の面(表面)の気孔率よりも10%以上高いか否かを除いて、同様の構成を備える。そして、実施例5の判定5の結果は「A」であるのに対して、実施例6の判定5の結果は「B」である。そのため、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも10%以上高くすることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、多孔質拡散層91Aの測定電極44に対向する内側の面の気孔率を、外側の面の気孔率よりも10%以上高くすることで、ライトオフ時間を短縮できることが確認された(判定5)。
【0187】
実施例8と実施例11とは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1が、0.2mm(200μm)以上であるか否かを除いて、同様の構成を備える。そして、実施例8の判定4の結果は「B」であるのに対して、実施例11の判定4の結果は「F」である。そのため、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1を、0.2mm以上とすることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、距離d1を0.2mm以上とすることで、先端保護層自体が目詰まりを起こし得るような被毒物質等が多い厳しい環境下においても、被毒物質をトラップして、測定電極の周囲での目詰まりを抑制できることが確認された(判定4)。
【0188】
実施例2と実施例6とは、先端保護層200を備えるか、それとも、内側先端保護層201及び外側先端保護層202を含む先端保護層200Dを備えるかを除いて、同様の構成を備える。すなわち、実施例6は先端保護層200Dを備え、内側先端保護層201の気孔率は、外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、また、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Dの厚みの30%以上、90%以下である。そして、実施例2の判定4の結果は「B」であるのに対して、実施例6の判定4の結果は「A」である。そのため、係る先端保護層200Dを備え、内側先端保護層201の厚みを、先端保護層200Dの厚みの30%以上、90%以下とすることで、ガスセンサは、少なくとも、判定4に係る以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、上述の構成の先端保護層200Dを備えることで、先端保護層自体が目詰まりを起こし得るような被毒物質等の多い厳しい環境下でも被毒物質をトラップし、測定電極の周囲での目詰まりを抑制できることが確認された(判定4)。
【0189】
(NOx感度の変化率について)
図9は、測定電極を覆う多孔質拡散層の有無によるNOx出力の経時変化の違いを示すグラフである。具体的には、図9は、測定電極44を覆う多孔質拡散層(91、91A、91Bの何れか)の有無を除いて、同様の構造を備えるNOxセンサについて、高H2O濃度下(例えば、H2O濃度=25%)での各NOxセンサのNOx出力の経時変化を示している。図9のグラフにおいて、横軸は時間(駆動時間)、縦軸はNOx感度の変化率である。黒色の実線は、「測定電極44を覆う多孔質拡散層を備えるNOxセンサ」のNOx出力の経時変化を示している。また、灰色の点線は、「測定電極44を覆う多孔質拡散層を備えないNOxセンサ(具体的には、拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNOxセンサ)」のNOx出力の経時変化を示している。
【0190】
具体的には、モデルガス装置を用いてNOx濃度=500ppmで、残余が窒素であるモデルガス雰囲気下で、上述の各NOxセンサについて、NOx電流(ポンプ電流Ip2)を測定した。各駆動時間における測定結果から算出したNOx感度(NOx感度の変化率)をプロットして図9に示すグラフを作成した。
【0191】
図9に示される通り、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けていないNOxセンサ(拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNOxセンサ)では、高H2O濃度下での長期駆動試験において、NOx感度の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。これに対し、多孔質拡散層を備えるNOxセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態をクヌーセン拡散のような好適なものとすることで、高H2O濃度下でも、NOx感度の変動(経時変化)を抑制することができている。
【0192】
(NOx出力のH2O依存性について)
図10は、測定電極を覆う多孔質拡散層の有無によるNOx出力のH2O依存性の違いを示すグラフである。具体的には、図10は、測定電極44を覆う多孔質拡散層(91、91A、91Bの何れか)の有無を除いて、同様の構造を備えるNOxセンサについて、NOx出力のH2O依存性の違いを示している。図10のグラフにおいて、横軸は時間(駆動時間)、縦軸はNOx感度のH2O依存性である。黒色の実線は、「測定電極44を覆う多孔質拡散層を備えるNOxセンサ」のNOx出力のH2O依存性の経時変化を示している。また、灰色の点線は、「測定電極44を覆う多孔質拡散層を備えないNOxセンサ(具体的には、拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNOxセンサ)」のNOx出力のH2O依存性の経時変化を示している。
【0193】
NOx出力のH2O依存性は、以下の条件において計測したNOx電流(ポンプ電流Ip2)の変化度合(変化率)から求めた。すなわち、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=3%をベースとして、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=15%に変化させた時のNOx電流の変化率から、NOx出力のH2O依存性を算出した。各駆動時間におけるNOx出力のH2O依存性(NOx電流の変化率)をプロットして図10に示すグラフを作成した。
【0194】
図10に示される通り、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けていないNOxセンサ(拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNOxセンサ)では、高H2O濃度下での長期駆動試験において、NOx出力のH2O依存性の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。これに対し、多孔質拡散層を備えるNOxセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とし、高H2O濃度下でも、NOx出力のH2O依存性の経時変化を抑制する。これに対し、多孔質拡散層を備えるNOxセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態をクヌーセン拡散のような好適なものとすることで、高H2O濃度下でも、NOx出力のH2O依存性の変動(経時変化)を抑制することができている。
【0195】
(各種検証により確認できた事項)
これまでに説明してきた表1、図9及び図10の試験結果(検証結果)の一部は、以下のように整理することもできる。すなわち、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けず、拡散律速部によるスリット構造のみを備えるガスセンサ(従来のNOxセンサ)では、高H2O濃度下での長期駆動試験において、NOx感度、及び、高H2O濃度に対するNOx出力の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。
【0196】
そこで、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層(例えば、多孔質拡散層91など)によって測定電極44を覆い、特に、係る多孔質拡散層から測定電極44までの距離d2を十分に小さくした(具体的には、0.15mm以下とした)。係る構成を採用したガスセンサでは、以下の効果が確認された。すなわち、係るガスセンサは、NOx感度の変化を抑制することができている。測定電極44の周囲においてクヌーセン拡散が支配的となると、分子量が小さいH2Oガスが存在したとしても、NOx及びO2ガスの拡散のしやすさは変化し難く、測定電極44へ到達するNOx、O2ガスの増加も少ないためと考えられる。
【0197】
表1の結果に示される通り、先端保護層(200、200D)の最外面からガス導入口10までの最短距離(距離d1)は、0.2mm以上とすることが好ましい。先端保護層の最外面からガス導入口10までの距離d1を大きくすることで、ガスセンサは、目詰まり物質(被毒物質等)が多い厳しい環境に曝されたとしても、ガス導入口10付近での目詰まりを抑制し、NOx感度の低下を抑制ことができる。すなわち、先端保護層の最外面からガス導入口10までの距離d1を、0.2mm以上とすることで、ガスセンサは、被毒物質等が多い厳しい環境に曝されたとしても、ガス導入口10付近での目詰まりを抑制し、NOx感度の低下を抑制ことができる。
【0198】
先端保護層は、さらに、少なくとも2層以上の層を含み、内側の層(内側先端保護層201)の気孔率を、外側の層(外側先端保護層202)の気孔率よりも大きく(高く)することが望ましい。特に、先端保護層において、先端保護層全体の厚みに対する、内側の層の厚みの割合は、30%以上、90%以下とすることが望ましい。外側の層よりも気孔率の大きい内側の層の厚みの、先端保護層全体の厚みに対する割合を高くすることによって、ガス導入口10に近い層(つまり、内側の層)が被毒物質等によって目詰まりを起こす可能性を抑制することができる。
【符号の説明】
【0199】
100、100C…素子基体、101…ガスセンサ素子、10…ガス導入口、
7、7C…被測定ガス流通部(内部空間)、44…測定電極、
18…第4拡散律速部(拡散律速部)、91、91A、91B…多孔質拡散層、
19…第3内部空所(内部空所)、911…第1多孔質拡散層(外側の面)、
912…第2多孔質拡散層(測定電極に対向する内側の面)、
200、200D…先端保護層、201…内側先端保護層、202…外側先端保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12