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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147336
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】算出プログラムおよび算出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20241008BHJP
【FI】
G01R31/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060284
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】本田 歩
【テーマコード(参考)】
2G003
【Fターム(参考)】
2G003AA01
2G003AA02
2G003AB01
2G003AE06
2G003AE09
2G003AH05
(57)【要約】
【課題】パラメータの算出を容易に行うことが可能な算出プログラムを提供する。
【解決手段】算出プログラムは、コンピュータを、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出部と、として機能させる。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、
前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、
前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、
前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出部と、
として機能させる算出プログラム。
【請求項2】
前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流を含む項を減算する関係である請求項1に記載の算出プログラム。
【請求項3】
前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と寄生抵抗との積を含む項を減算する関係である請求項1に記載の算出プログラム。
【請求項4】
前記算出部は、前記第1算出後に前記算出電流または前記内部電圧の収束している度合いが第1目標および前記第1目標より緩い第2目標に達しているか否かを判定し、前記度合いが前記第2目標に達しないとき、前記第1処理を実行し、前記度合いが前記第2目標に達しかつ前記第1目標に達しないとき、前記第2処理を実行する請求項1または2に記載の算出プログラム。
【請求項5】
前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する関係であり、
前記算出部は、前記係数を0と1との間の第1係数に設定し、その後前記第1処理を実行し、その後前記第2処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定し、その後前記第1処理を実行し、その後前記第2処理を実行する請求項1または2に記載の算出プログラム。
【請求項6】
コンピュータを、
電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、
前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、
前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行する算出部と、
として機能させる算出プログラム。
【請求項7】
前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と前記係数と寄生抵抗との積を含む項を減算する関係である請求項6に記載の算出プログラム。
【請求項8】
前記電子素子は、第1端子、第2端子および第3端子を有するトランジスタであり、前記電圧は、前記第1端子に対する前記第2端子の第1電圧と、前記第1端子に対する前記第3端子の第2電圧と、を含み、前記電流は、前記第2端子から前記第1端子に流れる電流を含む請求項1または請求項6に記載の算出プログラム。
【請求項9】
前記トランジスタはFETであり、前記第1端子はソースであり、前記第2端子はドレインであり、前記第3端子はゲートである請求項8に記載の算出プログラム。
【請求項10】
電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、
前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、
前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、
前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出方法。
【請求項11】
電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、
前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、
前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行する算出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、算出プログラムおよび算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ等の電子素子における電流-電圧特性をモデル化することがある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/146460号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流電圧特性のモデル化は、以下のように行われる。まず、対象となる電子素子の電流電圧特性を測定する。モデルを表す数式より算出された電流電圧特性が、測定された電流電圧特性と合うように、数式のパラメータを最適化することでパラメータを算出する。パラメータを算出することで、モデル化が実行される。しかしながら、パラメータを算出するときに、計算が収束せずに、モデル化できないことがある。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みなされたものであり、パラメータの算出を容易に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態は、コンピュータを、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出部と、として機能させる算出プログラムである。
【0007】
本開示の一実施形態は、コンピュータを、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行する算出部と、として機能させる算出プログラムである。
【0008】
本開示は、このような特徴的な算出プログラムおよび算出方法として実現することができるだけでなく、かかる特徴的なステップを処理する算出装置として実現することができる。また、算出装置の一部又は全部を実現する半導体集積回路として実現したり、算出装置を含む算出システムとして実現したりすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、パラメータの算出を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、FETの電流および電圧を示す図である。
図2図2は、FETの等価回路を示す回路図である。
図3図3は、Ids-Vds特性を示す図である。
図4図4は、コンピュータのブロック図である。
図5図5は、算出装置の機能ブロック図である。
図6図6は、比較例1における算出方法を示すフローチャートである。
図7図7は、比較例1および実施例1から3におけるIds、VdsおよびVgsのデータを示す図である。
図8図8は、比較例1および実施例1から3におけるVdsiおよびVgsiのデータを示す図である。
図9図9は、比較例1および実施例1から3におけるIdsc、VdsiおよびVgsiのデータを示す図である。
図10図10は、比較例1のステップS14において算出されたIdscの例を示す図である。
図11図11は、比較例1のステップS14において算出されたIdscの例を示す図である。
図12図12は、比較例1のステップS14において算出されたIdscの例を示す図である。
図13図13は、実施例1における算出方法を示すフローチャートである。
図14図14は、実施例2における算出方法を示すフローチャートである。
図15図15は、実施例2におけるIdsc-Vdsi特性を示す図である。
図16図16は、実施例3における算出方法を示すフローチャートである。
図17図17は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。
図18図18は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。
図19図19は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。
図20図20は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。
図21図21は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の一実施形態は、コンピュータを、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出部と、として機能させる算出プログラムである。これにより、パラメータの算出が発散することを抑制できる。よって、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(2)上記(1)において、前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流を含む項を減算する関係であってもよい。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(3)上記(1)において、前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と寄生抵抗との積を含む項を減算する関係であってもよい。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記算出部は、前記第1算出後に前記算出電流または前記内部電圧の収束している度合いが第1目標および前記第1目標より緩い第2目標に達しているか否かを判定し、前記度合いが前記第2目標に達しないとき、前記第1処理を実行し、前記度合いが前記第2目標に達しかつ前記第1目標に達しないとき、前記第2処理を実行してもよい。これにより、ある程度収束させた内部電圧を出発点として、算出電流および内部電圧を収束させることができる。
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する関係であり、前記算出部は、前記係数を0と1との間の第1係数に設定し、その後前記第1処理を実行し、その後前記第2処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定し、その後前記第1処理を実行し、その後前記第2処理を実行してもよい。これにより、算出電流および内部電圧を漸近的に収束させることができる。
(6)本開示の一実施形態は、コンピュータを、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得する取得部と、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行する算出部と、として機能させる算出プログラムである。これにより、算出電流および内部電圧を漸近的に収束させることができる。よって、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(7)上記(6)において、前記第2関係は、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と前記係数と寄生抵抗との積を含む項を減算する関係であってもよい。これにより、モデル化を容易に行うことができる。
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、前記電子素子は、第1端子、第2端子および第3端子を有するトランジスタであり、前記電圧は、前記第1端子に対する前記第2端子の第1電圧と、前記第1端子に対する前記第3端子の第2電圧と、を含み、前記電流は、前記第2端子から前記第1端子に流れる電流を含んでもよい。これにより、トランジスタのパラメータの算出を容易に行うことができる。
(9)上記(8)において、前記トランジスタはFETであり、前記第1端子はソースであり、前記第2端子はドレインであり、前記第3端子はゲートであってもよい。これにより、FETのパラメータの算出を容易に行うことができる。
(10)本開示の一実施形態は、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行する算出方法である。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(11)本開示の一実施形態は、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行する算出方法である。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(12)本開示の一実施形態は、メモリと、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧と前記算出電流により表される第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを固定して前記第1算出を実行する第1処理を実行した後に、前記処理として、前記第2算出を実行した後に前記パラメータを更新して前記第1算出を実行する第2処理を実行するプロセッサと、を備える算出装置である。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
(13)本開示の一実施形態は、メモリと、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と前記複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性を取得し、前記電流がパラメータと前記電圧に対応する内部電圧とにより表される第1関係を用い、前記パラメータと前記内部電圧とから算出電流を算出する第1算出と、前記内部電圧が前記電圧から前記算出電流と係数との積を含む項を減算する第2関係を用い、前記算出電流から前記内部電圧を算出する第2算出と、を交互に実行する処理を実行し、前記係数を0と1との間の第1係数に設定して、前記処理を実行した後に、前記係数を前記第1係数より大きく1以下の第2係数に設定して、前記処理を実行するプロセッサと、を備える算出装置である。これにより、パラメータの算出を容易に行うことができる。
【0012】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態にかかる算出プログラムおよび算出方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。算出装置は、コンピュータを備えて構成され、算出装置の各機能は、コンピュータの記憶装置に記憶されたコンピュータプログラムがコンピュータのCPU(Central Processing Unit)によって実行されることで発揮される。コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)またはDVD(Digital Versatile Disc)などの記憶媒体に記憶させることができる。
【0014】
[FETの電流電圧について]
以下、電子素子として、FET(Field Effect Transistor)を例に説明する。FETの電流電圧特性としてIds-Vds特性を例に説明する。図1は、FETの電流および電圧を示す図である。図1に示すように、FET10はソースS、ゲートGおよびドレインDを有している。ソースS、ゲートGおよびドレインDはそれぞれ端子Ts、TgおよびTdに接続されている。端子Tsに対し端子Tdに加わる電圧はVdsであり、端子Tsに対し端子Tgに加わる電圧はVgsである。端子TdからTsに流れる電流はIdsである。FETは、例えばGaN HEMT(Gallium Nitride High Electron Mobility Transistor)またはLDMOS(Laterally Diffused Metal Oxide Semiconductor)である。
【0015】
[FETの等価回路の説明]
図2は、FETの等価回路を示す回路図である。図2に示すように、FET10では、電流Idsを、電流源12を用い表す。電流Idsは端子TdからTsに流れる方向が正である。電流源12の両端のうち端子Tsに近い端N1と端子Tsとの間に、ソース抵抗RsおよびソースインダクタンスLsが直列に接続される。電流源12に並列にドレインソース容量Cdsが接続される。電流源12の両端のうち端子Tdに近い方の端N2と端子Tdとの間に、ドレイン抵抗RdおよびドレインインダクタンスLdが直列に接続される。電流源12の端N2と端子Tgとの間に、ゲートドレイン容量Cgd、ゲートドレイン抵抗Rgd、ゲートインダクタンスLgおよびゲート抵抗Rgが直列に接続される。ゲートドレイン抵抗RgdとゲートインダクタンスLgとの間のノードN3と、端N1との間に、チャネル抵抗Riとゲートソース容量Cgsとが直列に接続される。
【0016】
[内部電圧VgsiおよびVdsiの算出式]
端子Tsに対し端子Tdに電圧Vdsを印加し、端子Tsに対し端子Tgに電圧Vgsを印加すると、ドレインソース容量Cdsの両端に内部電圧Vdsiが生じ、ゲートソース容量Cgsの両端に内部電圧Vgsiが生じる。内部電圧VdsiおよびVgsiは、ドレインソース電流Ids、ゲートソース電圧Vgs、ドレインソース電圧Vds、ソース抵抗Rsおよびドレイン抵抗Rdにより式1および式2のように表される。
Vdsi=Vds-(Rd+Rs)×Ids (式1)
Vgsi=Vgs-Rs×Ids (式2)
【0017】
図3は、Ids-Vds特性を示す図である。横軸は、電圧Vdsまたは内部電圧Vdsiであり、縦軸はIdsである。図3において、X印はIds-Vds特性を示し、白丸はIds-Vdsi特性を示す。白丸およびX印は、各々6本の線で近似できる、各線はゲートソース電圧Vgsが異なっている。ドレインソース電圧Vdsが小さくドレインソース電流Idsが大きい領域では、Ids-Vds特性とIds-Vdsi特性との乖離が大きくなる。これは、ドレインソース電流Idsが大きい場合、式1および式2の第2項の影響が大きくなるためである。ドレインソース電圧Vdsが小さくかつドレインソース電流Idsが大きい領域では、Ids-Vdsi特性は、Ids-Vds特性に比べVdsi=0に近くなる。
【0018】
[Ids-Vds特性のモデル]
Ids-Vds特性をモデル化する方法として、例えば大信号モデルを用いる場合、Angelovモデルまたはカーチスモデル等がある。これらのモデルでは、ドレインソース電流Idsは、パラメータP、内部電圧VdsiおよびVgsiの関係を用いて式3のように表される
Ids=f(P、Vdsi、Vgsi) (式3)
例えばAngelovモデルでは、パラメータPの個数は11個である。fは、パラメータP、内部電圧VdsiおよびVgsiの関数である。
【0019】
[コンピュータのブロック図]
図4は、コンピュータのブロック図である。コンピュータ30は、ソフトウエアと協働し、モデルのパラメータを算出する算出装置として機能する。コンピュータ30は、算出プログラムを実行し、算出方法を実行する。
【0020】
図4に示すように、コンピュータ30は、プロセッサ32、メモリ34、入出力装置36および内部バス38を備えている。プロセッサ32は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、算出プログラムおよび算出方法を実行する。メモリ34は、例えば揮発性メモリまたは不揮発性メモリであり、プロセッサ32が算出プログラムおよび算出方法を実行するときに用いるデータ等を記憶する。メモリ34は、プロセッサ32が実行する算出プログラムを記憶してもよい。入出力装置36は、プロセッサ32が取得するデータを外部装置から入力し、プロセッサ32が出力するデータを外部装置に出力する。外部装置は、別のコンピュータ、または同じコンピュータ内の別プログラムなどである。内部バス38は、プロセッサ32、メモリ34および入出力装置36を接続し、データ等を伝送する。算出プログラムは、記憶媒体35に記憶される。記憶媒体35は、例えば一時的でない有形の媒体であり、CD-ROMまたはDVD等である。
【0021】
[機能ブロック図]
図5は、算出装置の機能ブロック図である。図5に示すように、算出装置20は、取得部22、算出部24および出力部26を備えている。プロセッサ32はソフトウエアと協働し、取得部22、算出部24および出力部26として機能する。取得部22は、外部装置から入出力装置36を介し、算出の条件などを取得する。算出部24は、取得部22が取得したIds-Vds特性に基づき、モデルのパラメータを算出する。出力部26は、算出部24が算出した結果を、入出力装置36を介し外部装置に出力する。
【0022】
[比較例1]
まず、比較例1におけるパラメータの算出方法を説明する。図6は、比較例1における算出方法を示すフローチャートである。図6に示すように、取得部22は、Ids-Vds特性を取得する(ステップS10)。Ids-Vds特性は、図1のFET10にDC(Direct Current)のドレインソース電圧Vdsおよびゲートソース電圧Vgsを印加し、ドレインソース電流Idsを測定して得られたデータある。
【0023】
図7は、比較例1および実施例1から3におけるIds、VdsおよびVgsのデータを示す図である。図7に示すように、電流Idsは電圧VdsとVgsに対応付けられている。jおよびnは整数である。Ids(1)は、Vds(1)およびVgs(1)のときの電流Idsである。Ids(2)、Ids(3)、Ids(j)およびIds(n)は、それぞれVds(2)およびVgs(2)、Vds(3)およびVgs(3)、Vds(j)およびVgs(j)、並びにVds(n)およびVgs(n)のときの電流Idsである。
【0024】
続いて、算出部24は、初期設定する(ステップS12)。例えば算出部24は、内部電圧VdsiおよびVgsiをそれぞれ取得した電圧VdsおよびVgsに設定する。図8は、比較例1および実施例1から3におけるVdsiおよびVgsiのデータを示す図である。図8における、Vdsi(1)、Vdsi(2)、Vdsi(3)、Vdsi(j)およびVdsi(n)を、Vds(1)、Vds(2)、Vds(3)、Vds(j)およびVds(n)にそれぞれ設定する。Vgsi(1)、Vgsi(2)、Vgsi(3)、Vgsi(j)およびVgsi(n)を、Vgs(1)、Vgs(2)、Vgs(3)、Vgs(j)およびVgs(n)にそれぞれ設定する。また、式3のパラメータPを初期のパラメータP0に設定する。パラメータP0は、ステップS10において、取得部22が外部から取得してもよい。パラメータPはメモリに記憶されていてもよい。
【0025】
続いて、算出部は、式3を用い、算出電流Idsc=f(P、Vdsi、Vgsi)を算出する(ステップS14)。図9は、比較例1および実施例1から3におけるIdsc、VdsiおよびVgsiのデータを示す図である。ステップS12において設定したパラメータP、図8のVdsi(1)およびVgsi(1)を式3に代入し、図9のIdsc(1)を算出する。同様に、パラメータP、図8のVdsiおよびVgsiを式3に代入し、図9のIdsc(2)、Idsc(3)、Idsc(j)およびIdsc(n)を算出する。
【0026】
続いて、算出部24は、前回算出した算出電流Idscと今回算出した算出電流Idscとの差ΔIが目標値E1より小さいか判定する(ステップS20)。算出電流Idscの算出が初回の場合には、ステップS12において取得した図7の電流Idsと図9の算出電流Idscの差を差ΔIとする。差ΔIは、|前回Idsc(j)-今回Idsc(j)|のjが1からnまでの合計とすることができる。差ΔIの代わりに|前回Vdsi(j)-今回Vdsi(j)|+|前回Vgsi(j)-今回Vgsi(j)|のjが1からnまでの合計としてもよい。差ΔIは、算出電流Idscまたは内部電圧VdsiおよびVgsiの算出の収束の度合いとなる指標であればよい。
【0027】
ステップS20においてNoのとき、算出部24は、ステップS14において算出した算出電流Idscを式1および式2にIdsとして代入し、内部電圧VdsiおよびVgsiを算出する(ステップS22)。算出される内部電圧VdsiおよびVgsiは、例えば図8である。
【0028】
続いて、算出部24は、パラメータPを更新する(ステップS24)。パラメータPの算出方法は、例えば差ΔIを目的関数とし、差ΔIが最小になるように、最適化手法を用いパラメータPを更新する。最適化手法としては、ベイズ最適化法等の公知の最適化手法を用いてもよいし、機械学習を用いてもよい。
【0029】
続いて、ステップS14において、算出部24は、ステップS22において算出された内部電圧Vdsi、VgsiおよびステップS24において更新されたパラメータPを式3に代入し、図9のようにIdscを算出する。
【0030】
続いて、ステップS20において、算出部24は、前回算出した算出電流Idscと今回算出した算出電流Idscとの差ΔIが目標値E1より小さいか判定する。Noの場合、差ΔIが目標値E1より小さくなるまで、ステップS22、S24およびS14を繰り返す。
【0031】
ステップS20において、Yesのとき、ステップS14、S22およびS24のループ処理は収束したと考えられる。そこで、出力部26は、ステップS24において、直前に更新された最新のパラメータPをFET10のモデルのパラメータとして出力する(ステップS30)。その後終了する。
【0032】
このように、比較例1では、ステップS14において式3にパラメータP、内部電圧VdsiおよびVgsiを代入して算出電流Idscを算出する。ステップS22において、式1および式2に算出電流Idscを代入して内部電圧VdsiおよびVgsiを算出する。その後、ステップS24において、パラメータPを更新し、ステップS14に戻る。このように、ステップS22、S24およびS14のループを繰り返す。
【0033】
[比較例1において算出されたIdscの例]
図10から図12は、比較例1のステップS14において算出されたIdscの例を示す図である。図10から図12では、横軸は図9の内部電圧Vdsiに相当し、縦軸は図9の算出電流Idscに相当する。
【0034】
図10のように、最初に算出されたIdsc-Vdsi特性では、内部電圧Vdsiは全て正である。図11のように、2回目に算出されたIdsc-Vdsi特性では、内部電圧Vdsiが負となる点がある。これは、算出電流Idscが大きくかつ内部電圧Vdsiが小さい範囲50では、式1において、第2項が第1項より大きくなるためである。図12のように、3回目に算出されたIdsc-Vdsi特性では、内部電圧Vdsiが正となるが、内部電圧Vdsiが小さい範囲52においてIdsc-Vdsi特性が図10より歪んだ特性になる。これは、図11において、負となった内部電圧Vdsiを修正するバイアスがかかったためと考えられる。その後、図11図12を繰り返し、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiは収束しなくなる。よって、パラメータPの算出が難しい。
【0035】
比較例1のように、モデル化の計算が収束しない原因としては、式1および式2と式3とが陰関数となっており、内部電圧VdsiおよびVgsiが変わると算出電流Idscが変わり、算出電流Idscが変わると、内部電圧VdsiおよびVgsiが変わる関係となっているためと考えられる。
【0036】
[実施例1]
そこで、実施例1では、まず、内部電圧VdsiおよびVgsiを変化させ算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させる内部電圧ループ処理を行った後に、パラメータPを更新し算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させる処理を行う。
【0037】
図13は、実施例1における算出方法を示すフローチャートである。図13に示すように、ステップS10、S12およびS14のフローは、比較例1の図6と同じである。
【0038】
続いて、算出部24は、スキップするか判定する(ステップS15)。例えば、1度もパラメータ更新(ステップS24)の処理を行っていない場合には、算出部24はYesと判定し、その他の場合には、算出部24は、Noと判定する。ステップSS15は実行しなくてもよい。
【0039】
最初はステップS24を実行していないため、算出部24はYesと判定し、ステップS16をスキップする。ステップS20、S22およびS24は、比較例1の図6と同じである。
【0040】
続いて、ステップS24の処理を行ったため、ステップS15において、算出部24は、Noと判定する。続いて、算出部24は、前回算出した算出電流Idscと今回算出した算出電流Idscとの差ΔIが目標値E2より小さいか判定する(ステップS16)。目標値E2は、図6の比較例1のステップS20の目標値E1より大きい値である。
【0041】
ステップS16において、Noのとき、算出部24は、ステップS14において算出した算出電流Idscを式1および式2に代入し、内部電圧VdsiおよびVgsiを算出する(ステップS18)。続いて、算出部24は、ステップS18において算出された内部電圧VdsiおよびVgsiを式3に代入し算出電流Idscを算出する(ステップS14)。このときのパラメータPは前回のステップS14のパラメータPと同じである。
【0042】
算出部24は、ステップS16においてYesとなるまで、ステップS14およびS18を繰り返す。差ΔIが目標値E2より小さくなると、算出部24はステップS16においてYesと判定する。
【0043】
算出部24は、差ΔIが、目標値E2より小さいか判定する(ステップS16)。Noのとき、差ΔIが目標値E2より小さくなるまで、ステップS18およびS14を繰り返す。ステップS16においてYesのとき、ステップS20、S22およびS24からステップS14を繰り返す。
【0044】
ステップS20において、Yesのとき、出力部26は、ステップS24において、直前に更新された最新のパラメータPをFET10のモデルのパラメータとして出力する(ステップS30)。その後終了する。その他のステップおよびフローの内容は、比較例1と同じである。
【0045】
このように、実施例1では、ステップS14とS18の内部電圧ループ処理において、パラメータPを更新せずに、内部電圧VdsiおよびVgsiを変えて、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiをある程度収束させる。その後、比較例1と同様に、ステップS22、S24およびS14のループにおいて、パラメータPを更新し、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させる。このように、最初にパラメータPを固定して、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiをある程度収束させてからパラメータPを更新する処理を行うため、内部電圧VdsiおよびVgsiが負となり、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが収束しにくくなることを抑制できる。
【0046】
[実施例2]
実施例2では、漸近的に算出電流Idscを収束させる漸近収束処理を行う例である。式1および式2を式4および式5のように変更する。
Vdsi=Vds-(Rd+Rs)×Ids×α (式4)
Vgsi=Vgs-Rs×Ids×α (式5)
係数αは、収束を漸近的に行うための係数であり、係数αは0以上かつ1以下である。α=1のとき、式4および式5は、それぞれ式1および式2と同じ式となる。なお、内部電圧Vgsiの算出には係数αを用いず式5の代わりに式2を用いてもよい。
【0047】
図14は、実施例2における算出方法を示すフローチャートである。図14に示すように、ステップS10およびS12のフローは、比較例1および実施例1と同じである。
【0048】
その後、算出部24は、i=1に設定する(ステップS13)。ここで、iは1からNの整数である。式4および式5のα=α(i)であり、iが大きくなると、α(i)は大きくなる。i=Nのとき、α(N)=1である。例えばα(1)=0.1、α(2)=0.2、…、α(N)=1とする。
【0049】
続いて、算出部24は、比較例1の図6と同様に、ステップS14、S22およびS24のループを繰り返す。i=1では、α=0.1であり、ステップS22における内部電圧VdsiおよびVgsiの算出には、α=0.1とした式4および式5を用いる。ステップS20においてYesのとき、α=0.1において、算出電流Idscが収束したことを示す。
【0050】
続いて、算出部24は、i=Nか判定する(ステップS26)。ステップS26においてNoのとき、算出部24は、i=i+1に設定する(ステップS28)。i=2となる。ステップS22において、算出部24は、α=0.2とした式4および式5を用い、内部電圧VdsiおよびVgsiを算出する。その後、算出部24は、ステップS20においてYesとなるまで、ステップS14、S22およびS24のループを繰り返す。ステップS20においてYesのとき、α=0.2において、算出電流Idscが収束したことを示す。
【0051】
このようにして、α(i)のiが1からNまで、算出部24は、ステップS14、S22およびS24のループを繰り返す。ステップS26において、Yesのとき、出力部26は、ステップS24において、直前に更新された最新のパラメータPをFET10のモデルのパラメータとして出力する(ステップS30)。その後終了する。その他のステップおよびフローの内容は、比較例1および実施例1と同じである。
【0052】
このように、式1および式2では、第2項が大きくなると、内部電圧VdsiおよびVgsiが負となり、図10から図12のように、算出電流Idscが収束しなくなる。そこで、式4および式5のように、係数αを導入し、αの値を1に漸近させながら算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させていく。
【0053】
図15は、実施例2におけるIdsc-Vdsi特性を示す図である。横軸はVdsiであり、縦軸はIdscである。示している曲線は、算出電流Idscが大きくなるような内部電圧Vgsiのときを示している。まず、α=0.1では、内部電圧Vdsiが小さい箇所において算出電流Idscが小さい。これは、α=0.1のとき、式4および式5における第2項が小さくなるためである。その後、αを徐々に大きくしていくと、算出電流Idscが大きくなる。α=1.0において、算出電流Idscは、本来収束すべき算出電流Idscに収束する。
【0054】
このように、実施例2では、算出電流Idscが漸近的に収束するため、算出途中において、内部電圧Vdsiが負となり、図10から図12のように、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが収束せず発散することを抑制できる。
【0055】
[実施例3]
実施例3は、実施例1の内部電圧ループ処理と実施例2の漸近収束処理の両方の処理を行う例である。図16は、実施例3における算出方法を示すフローチャートである。図16に示すように、ステップS10、S12、S13およびS15のフローは、実施例2と同じである。ステップS14、S16、S18、S20、S22およびS24の処理は、実施例1と同じである。
【0056】
ステップS20においてYesのとき、算出部24は、i=Nか判定する(ステップS26)。ステップS26においてNoのとき、算出部24は、i=i+1に設定する(ステップS28)。その後、ステップS18に戻る。
【0057】
このようにして、α(i)のiが1からNまで、算出部24は、ステップS14、S16、S18、S20、S22およびS24のループを繰り返す。ステップS26において、Yesのとき、出力部26は、ステップS24において、直前に更新された最新のパラメータPをFET10のモデルのパラメータとして出力する(ステップS30)。その後終了する。その他のステップおよびフローの内容は、比較例1、実施例1および2と同じである。
【0058】
このように、実施例3では、実施例1のような内部電圧ループ処理を行い、その後、パラメータPを更新して算出電流Idscを算出する処理を、係数αを漸近的に1に近づけながら実行する。これにより、内部電圧Vdsiが負となり、図10から図12のように、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが収束せず発散することを抑制できる。
【0059】
[実施例3の結果の例]
実施例3を用いてIds-Vds特性をモデル化したときの例を説明する。FET10として、GaN HEMTを用い、式3として、Angelovモデルを用いた。
【0060】
図17から図21は、実施例3におけるIdscの例を示す図である。図17から図21は、実施例3のステップS20においてYesとなり、各α(i)について算出されたIdscの例を示す図である。図17から図21では、X印のIdsc-Vds特性では、横軸はVdsであり、縦軸はIdscである。白丸のIdsc-Vdsi特性では、横軸はVdsiであり、縦軸はIdscである。
【0061】
図17に示すように、α=0.1では、電圧Vdsおよび内部電圧Vdsiが小さくかつ算出電流Idscが大きい範囲54において、Idsc-Vds特性とIdsc-Vdsi特性との差が小さい。これは、式4および式5の第2項が小さくなるため、内部電圧VdsiおよびVgsiが小さくなることが抑制されているためである。
【0062】
図18に示すように、α=0.3では、範囲54において、Idsc-Vds特性とIdsc-Vdsi特性との差は、図17より大きくなる。図19に示すように、α=0.5では、範囲54において、Idsc-Vds特性とIdsc-Vdsi特性との差は、図18よりさらに大きくなる。図20に示すように、α=0.8では、範囲54において、Idsc-Vds特性とIdsc-Vdsi特性との差は、図19よりさらに大きくなる。
【0063】
図21に示すように、α=1.0では、範囲54において、Idsc-Vds特性とIdsc-Vdsi特性との差は、図20よりさらに大きくなる。範囲54において、内部電圧Vdsiは0Vに近づく。このように、実施例3では、係数αを0から1に漸近させることで、比較例1の図10から図12のように、内部電圧Vdsiが負となり、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを発散させることなく、Idsc-Vdsi特性をVdsi=0近くに収束させることができる。
【0064】
実施例1および3によれば、図13および図16のステップS10のように、取得部22は、図7のようにFETの電圧VdsおよびVgsと電流Idsとが対応付けられたIds-Vds特性を取得する。ステップS14のように、算出部24は、電流IdsがパラメータPと電圧VdsおよびVgsにそれぞれ対応する内部電圧VdsiおよびVgsiとにより表される式3(第1関係)を用い、パラメータPと内部電圧VdsiおよびVgsiとから算出電流Vdscを算出する第1算出を実行する。ステップS18のように、算出部24は、内部電圧VdsiおよびVgsiが電圧VdsおよびVgsと算出電流Idscにより表される式1および式2(または式3および式4)(第2関係)を用い、算出電流Idscから内部電圧VdsiおよびVgsiを算出する第2算出を実行する。ステップS14とS18(またはS22)とは交互に実行される。まず、算出部24は、ステップS18の後にパラメータPを固定してステップS14を実行するループ(第1処理)を実行する。第1処理の後に、ステップS22を実行した後にパラメータPを更新してステップS14を実行するループ(第2処理)を実行する。
【0065】
このように、ステップS14とS18とを実行する第1処理を実行することで、内部電圧VdsiおよびVgsiをある程度収束させておく。その後、ステップS14、S22およびS24を実行することで、ある程度収束させた内部電圧VdsiおよびVgsiを出発点として、パラメータP、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させる。これにより、比較例1の図10から図12のように、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが発散することを抑制できる。よって、パラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0066】
式1および式2(または式3および式4)のように、第2関係は、内部電圧VdsiおよびVgsiが電圧VdsおよびVgsから算出電流Idscを含む項を減算する関係である。このような場合、算出電流Idscの値によって、内部電圧VdsiおよびVgsiが負になりやすく、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが発散しやすい。よって、第1処理を実行した後に第2処理を実行することで、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiが収束しやすくし、パラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0067】
さらに、式1および式2(または式3および式4)のように、第2関係は、内部電圧VdsiおよびVgsiが電圧VdsおよびVgsから算出電流Idscと寄生抵抗であるRsおよびRdを含む項を減算する関係である。このような場合、算出電流Idscの値によって、内部電圧VdsiおよびVgsiが負になりやすい。よって、第1処理を実行した後に第2処理を実行することで、パラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0068】
算出部24は、ステップS14の後に、ステップS16およびS20のように、算出電流Idscまたは内部電圧VdsiおよびVgsiの収束している度合いである差ΔIが目標値E1(第1目標)および目標値E2(第2目標)に達しているか否かを判定する。ここで、目標値E2は目標値E1より目標が緩い。そして、ステップS16において、算出部24は、差ΔIが目標値E2に達しないとき、ステップS18およびS14の第1処理を実行する。ステップS20において、差ΔIが目標値E2に達しかつ目標値E1に達しないとき、算出部24は、ステップS22、S24およびS14の第2処理を実行する。これにより、ある程度収束させた内部電圧VdsiおよびVgsiを出発点として、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを収束させることができる。
【0069】
実施例2によれば、式3および式4のように、第2関係は、内部電圧VdsiおよびVgsiが電圧VdsおよびVgsから算出電流Idscと係数αとの積を含む項を減算する関係である。図16のステップS13、S26およびS28のように、算出部24は、係数αを0と1との間の第1係数α(i)に設定して、ステップS22、S24およびS14の処理を実行する。これにより、図15のように、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを漸近的に収束させることができる。これにより、パラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0070】
さらに、実施例3によれば、図16のステップS13、S26およびS28のように、算出部24は、係数αを0と1との間の第1係数α(i)に設定して、第1処理を実行した後に第2処理を実行した後に、係数αをα(i)より大きく1以下の第2係数α(i+1)に設定して、第1処理を実行した後に第2処理を実行する。これにより、図17から図21のように、算出電流Idsc、内部電圧VdsiおよびVgsiを漸近的に収束させることができる。これにより、パラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0071】
実施例1から3において、電子素子として、FETの例を説明したが、取得部22が取得する電流電圧特性は、電子素子の複数の端子間に加わる電圧と複数の端子間を流れる電流とが対応付けられた電流電圧特性であればよい。
【0072】
また、電子素子として、トランジスタの場合に、電流電圧特性における電圧は、第1端子に対する第2端子の第1電圧と、第1端子に対する第3端子の第2電圧と、を含み、電流は、第2端子から第1端子に流れる電流を含んでもよい。この場合、比較例1では、第1電圧および第2電圧に対応する内部電圧が負になりやすい。よって、実施例1から3のような処理を行うことができる。これにより、トランジスタのパラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0073】
また、トランジスタがFETであり、第1端子はソースであり、第2端子はドレインであり、第3端子はゲートである場合に、比較例1では、内部電圧VdsiおよびVgsiが負になりやすい。よって、実施例1から3のような処理を行うことができる。これにより、FETのパラメータPの算出を容易に行うことができる。
【0074】
上述の実施形態の各処理(各機能)は、1または複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。上記処理回路は、上記1または複数のプロセッサに加え、1または複数のメモリ、各種アナログ回路、各種デジタル回路が組み合わされた集積回路等で構成されてもよい。上記1または複数のメモリは、上記各処理を上記1または複数のプロセッサに実行させるプログラム(命令)を格納する。上記1または複数のプロセッサは、上記1または複数のメモリから読み出した上記プログラムに従い上記各処理を実行してもよいし、予め上記各処理を実行するように設計された論理回路に従って上記各処理を実行してもよい。
【0075】
上記プロセッサは、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specication Integrated Circuit)等、コンピュータの制御に適合する種々のプロセッサであってよい。なお物理的に分離した上記複数のプロセッサが互いに協働して上記各処理を実行してもよい。例えば物理的に分離した複数のコンピュータのそれぞれに搭載された上記プロセッサがLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等のネットワークを介して互いに協働して上記各処理を実行してもよい。
【0076】
上記プログラムは、外部のサーバ装置等から上記ネットワークを介して上記メモリにインストールされても構わないし、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等の記録媒体に格納された状態で流通し、上記記録媒体から上記メモリにインストールされても構わない。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
12 電流源
20 算出装置
22 取得部
24 算出部
26 出力部
30 コンピュータ
32 プロセッサ
34 メモリ
36 入出力装置
38 内部バス
50、52、54 範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21