(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014734
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094955
(22)【出願日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2022115402
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】市川 大智
(57)【要約】
【課題】測定電極へ到達するNO
xの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサ素子において、被測定ガスの流路の、被測定ガスの流れる方向に直交する面の70%以上を占める多孔質拡散層は、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、測定電極よりも上流側の、測定電極までの距離が0.15mm以下である位置に設けられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、
少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う先端保護層と、
前記内部空間に設けられた測定電極と、
前記被測定ガスの流れる方向において前記測定電極よりも上流側に、前記測定電極までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層と
を備え、
前記多孔質拡散層は、
気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層の気孔率よりも気孔率が低く、
前記被測定ガスの流れる方向に直交する面が、前記被測定ガスの流路の、前記被測定ガスの流れる方向に直交する面の70%以上を占める、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記内部空間において前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部をさらに備え、
前記拡散律速部は、
気孔率が、前記多孔質拡散層の気孔率よりも低く、
前記被測定ガスの流れる方向において前記測定電極よりも上流側に設けられ、
前記流路は、少なくとも1つの面を、前記拡散律速部によって規定されている、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記多孔質拡散層は、
前記拡散律速部と、
前記内部空間を規定する面と
に接している、
請求項2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記流路の少なくとも2つの面は、前記拡散律速部によって規定されている、
請求項2または3に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は、0.2mm以上である、
請求項1から3の何れか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記先端保護層は、少なくとも、
前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する内側先端保護層と、
前記先端保護層の最外面を構成する外側先端保護層と、
を含み、
前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、
前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下である、
請求項1から3の何れか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
請求項1から3の何れか1項に記載のガスセンサ素子を用いて、前記被測定ガス中の特定のガス成分の量を測定するように構成してなるガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定ガス中に含まれる特定のガス成分の濃度を測定するために使用されるガスセンサ素子について、前記ガスセンサ素子の備える内部空間に導入された前記被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与するための種々の試みが知られている。例えば、下掲の特許文献1には、前記内部空間に導入された前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部を備えるガスセンサ素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らは、上述のような拡散律速部を備える従来のガスセンサ素子には、次のような問題点があることを見出した。すなわち、ガソリン車では、排気ガス中のH2O濃度がディーゼル車に比べて高い。また、水素エンジン車は、環境に配慮して高リーン下で使用されることが想定され、排気ガス中のH2O濃度も高いと予想される。そして、H2Oは、NOxおよびO2に比べて分子量が小さい。本件発明者らは、係る高H2O濃度下の環境においては、以下に説明する問題が発生することを見出した。
【0005】
図15は、或る分子が他の分子と衝突することによって拡散する分子拡散の例を示す図である。本件発明者らは、
図15に例示するような分子拡散が支配的となる領域では、以下の事象が発生すると考えた。すなわち、
図15に例示するように、分子拡散では、或る分子と別の分子とが衝突することで或る分子の拡散が進むため、或る分子が衝突する別の分子によって拡散係数は変わり、つまり、被測定ガスのガス組成によって拡散係数は変化する。そのため、被測定ガス中に分子量が小さいH
2Oが存在すると、NO
xおよびO
2はH
2Oの間を拡散しやすくなり、被測定ガス中に含まれる特定のガス成分の濃度を測定するための測定電極へ到達するNO
xおよびO
2ガスが増えると考えられる。その結果、H
2O濃度に応じて(例えば、H
2O濃度が高くなると)、NO
x出力が変動したり、測定電極が劣化しやすくなったりするのではないかと、本件発明者らは考えた。本件発明者らは、実験により、H
2O濃度が高い場合は、低い場合と比べて、NO
x出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。
【0006】
図16は、分子拡散とは異なる拡散形態であるクヌーセン拡散の例を示す図である。
図16に例示するように、クヌーセン拡散においては、細孔壁(流路の壁面)に衝突することで或る分子の拡散が進み、壁面の細孔径は例えば焼成時に決まるため、被測定ガスのガス組成が変わっても、拡散係数は変わらない。そこで、本件発明者らは、高H
2O濃度下でのNO
xの分子拡散に起因すると考えられる上述の問題を解決する方法として、以下の方法が有用であることを見出した。すなわち、測定電極へ到達するNO
xの拡散形態を、分子拡散から、
図16に例示するクヌーセン拡散のように、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する方法が有用であることを見出した。
【0007】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の観点に係るガスセンサ素子は、表面に開口したガス導入口から被測定ガスが内部空間へと導入される素子基体と、少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う先端保護層と、前記内部空間に設けられた測定電極と、前記被測定ガスの流れる方向において前記測定電極よりも上流側に、前記測定電極までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層とを備える。そして、前記多孔質拡散層は、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層よりも気孔率が低い。また、前記多孔質拡散層は、前記被測定ガスの流れる方向に直交する面(面の面積)が、前記被測定ガスの流路の、前記被測定ガスの流れる方向に直交する面(面の面積)の70%以上を占める。なお、前記多孔質拡散層が、気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、前記多孔質拡散層の平均気孔率が、5%以上かつ25%以下であってもよく、また、前記多孔質拡散層の平均気孔率が、前記先端保護層の気孔率よりも低くてもよい。
【0010】
当該構成では、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、前記先端保護層よりも気孔率の低い前記多孔質拡散層は、前記被測定ガスの流れる方向において前記測定電極より上流側に、前記測定電極までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる。そして、前記多孔質拡散層の、前記被測定ガスの流れる方向に直交する面(面の面積)は、前記被測定ガスの流路の、前記被測定ガスの流れる方向に直交する面(面の面積)の70%以上を占めている。つまり、前記多孔質拡散層は、前記測定電極よりも上流側に、前記測定電極までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられ、前記被測定ガスの流れる方向において、前記流路の所定範囲(70%以上)を占めている(塞いでいる)。
【0011】
係る前記多孔質拡散層によって、前記測定電極の周囲の拡散形態を、つまり、前記流路を通って前記測定電極へと至る被測定ガスの拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができる。そのため、前記ガスセンサ素子は、前記被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、前記多孔質拡散層によって、H2Oガスの、NOxガス(およびO2ガス)への影響を小さくすることができる。具体的には、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動および前記測定電極の劣化を抑制することができる。
【0012】
ここで、前記測定電極の周囲に拡散抵抗の大きな前記多孔質拡散層を設けると、被毒物質等により前記多孔質拡散層が目詰まりを起こす可能性がある。そこで、前記ガスセンサ素子は、少なくとも前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面を覆う前記先端保護層を備える。そのため、前記ガスセンサ素子は、前記先端保護層によって被毒物質等をトラップし、つまり、前記先端保護層によって被毒物質等を捉える(捕捉する)ことができる。
【0013】
特に、前記ガスセンサ素子において、前記先端保護層の気孔率は、前記測定電極までの距離が0.15mm以下となる位置で前記流路の所定範囲を塞ぐ前記多孔質拡散層の気孔率よりも大きい(高い)。前記ガスセンサ素子は、前記先端保護層の気孔率を前記多孔質拡散層の気孔率よりも大きくすることで、「前記先端保護層が被毒物質等によって目詰まりしてしまい、NOx出力が低下する」といった事態を回避することができる。
【0014】
第2の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1の観点に係るガスセンサ素子において、前記内部空間において前記被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する拡散律速部をさらに備えてもよい。例えば、前記拡散律速部は、気孔率が、前記多孔質拡散層の気孔率よりも低く、また、前記被測定ガスの流れる方向において前記測定電極よりも上流側に設けられる。そして、前記流路は、少なくとも1つの面を、前記拡散律速部によって規定される。
【0015】
当該構成では、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極よりも上流側に設けられ、前記多孔質拡散層の気孔率よりも気孔率の低い(小さい)前記拡散律速部をさらに備える。そして、前記流路は、少なくとも1つの面を、前記拡散律速部によって規定されている(区画されている)。つまり、前記測定電極へと至る前記被測定ガスの前記流路は、少なくとも1つの面を、前記多孔質拡散層よりも緻密な(気孔率が低い)前記拡散律速部によって規定されている。それゆえ、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層よりも緻密な前記拡散律速部によって少なくとも1つの面が規定された前記流路を利用して、前記被測定ガスを前記測定電極へと導くことができる。前記ガスセンサ素子は、例えば、前記流路の途中で漏れ出した前記被測定ガスが、前記多孔質拡散層によって拡散形態を変更されることなく、前記測定電極へと至るといった事態が発生する可能性を抑えることができる。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極へと至る前記被測定ガスの拡散形態を、前記被測定ガスが導かれる前記流路の所定範囲を塞ぐ前記多孔質拡散層によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0016】
第3の観点に係るガスセンサ素子は、上記第2の観点に係るガスセンサ素子において、前記多孔質拡散層は、前記拡散律速部と、前記内部空間を規定する面とに接していてもよい。
【0017】
当該構成では、前記多孔質拡散層は、前記拡散律速部と、前記内部空間を規定する面とに接しており、つまり、前記多孔質拡散層と前記拡散律速部との間、及び、前記多孔質拡散層と前記内部空間を規定する面との間には、空間(隙間)がない。前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層と前記拡散律速部との間の隙間、及び、前記多孔質拡散層と前記内部空間を規定する面との隙間をなくすことによって、以下の効果を実現することができる。すなわち、前記ガスセンサ素子は、前記被測定ガスが、前記多孔質拡散層と前記拡散律速部との間の隙間、及び、前記多孔質拡散層と前記内部空間を規定する面との隙間の少なくとも一方から前記測定電極へと至ることを防ぐことができる。つまり、前記ガスセンサ素子は、例えば、前記流路の途中で漏れ出した前記被測定ガスが、前記多孔質拡散層によって拡散形態を変更されることなく、前記測定電極へと至るといった事態が発生する可能性を抑えることができる。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極へと至る前記被測定ガスの拡散形態を、前記被測定ガスが導かれる前記流路の所定範囲を塞ぐ前記多孔質拡散層によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0018】
第4の観点に係るガスセンサ素子は、上記第2または上記第3の観点に係るガスセンサ素子において、前記流路の少なくとも2つの面は、前記拡散律速部によって規定されていてもよい。
【0019】
当該構成では、前記流路の少なくとも2つの面は、前記拡散律速部によって規定されており、そして、前述の通り、前記拡散律速部は、前記多孔質拡散層よりも緻密である(気孔率が低い)。つまり、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層よりも緻密な前記拡散律速部を利用して、前記被測定ガスを前記測定電極へと導く前記流路の少なくとも2つの面を、規定する(区画する)。それゆえ、前記ガスセンサ素子は、前記多孔質拡散層よりも緻密な前記拡散律速部によって少なくとも2つの面が規定された前記流路を利用して、前記被測定ガスを前記測定電極へと導くことができる。前記ガスセンサ素子は、例えば、前記流路の途中で漏れ出した前記被測定ガスが、前記多孔質拡散層によって拡散形態を変更されることなく、前記測定電極へと至るといった事態が発生する可能性を、より抑えることができる。したがって、前記ガスセンサ素子は、前記測定電極へと至る前記被測定ガスの拡散形態を、前記被測定ガスが導かれる前記流路の所定範囲を塞ぐ前記多孔質拡散層によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0020】
第5の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第4の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は、0.2mm以上であってもよい。
【0021】
当該構成では、前記ガスセンサ素子において、前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離は0.2mm以上である。前記先端保護層の最外面から前記ガス導入口までの距離を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、前記先端保護層の厚みを十分に厚くすることで、前記ガスセンサ素子は、以下の効果を実現することができる。すなわち、前記ガスセンサ素子は、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を前記先端保護層において確実にトラップして(捕捉して)、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0022】
第6の観点に係るガスセンサ素子は、上記第1から第5の何れかの観点に係るガスセンサ素子において、前記先端保護層は、少なくとも、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する内側先端保護層と、前記先端保護層の最外面を構成する外側先端保護層と、を含み、前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下であってもよい。
【0023】
当該構成では、前記先端保護層は、少なくとも、前記素子基体の前記ガス導入口が開口している面に接する前記内側先端保護層と、前記先端保護層の最外面を構成する前記外側先端保護層とを含む。そして、前記内側先端保護層の気孔率は、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きく、また、前記内側先端保護層の厚みは、前記先端保護層の厚みの30%以上、90%以下である。
【0024】
前記内側先端保護層の気孔率を、前記外側先端保護層の気孔率よりも大きくすることによって、前記ガスセンサ素子は、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0025】
特に、前記外側先端保護層よりも気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みを厚くすることによって、つまり、前記先端保護層の厚みに対する前記内側先端保護層の厚みの割合を高くすることによって、前記ガスセンサ素子は、以下の効果を実現することができる。すなわち、気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みを十分に確保することで、前記ガス導入口付近での被毒物質等による目詰まりを抑制し、特に、前記ガス導入口に近い層(つまり、前記内側先端保護層)が目詰まりを起こす可能性を抑制することができる。言い換えれば、前記先端保護層の厚みに対する、気孔率の大きな前記内側先端保護層の厚みの割合を、30%から90%とすることによって、前記ガス導入口に接する前記内側先端保護層が被毒物質等によって目詰まりを起こすのを回避することができる。
【0026】
また、本発明の一観点に係るガスセンサは、上記各観点に係るガスセンサ素子を用いて、前記被測定ガス中の特定のガス成分の量を測定するように構成されてもよい。係るガスセンサは、前記測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する。そのため、係るガスセンサは、前記多孔質拡散層によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び前記測定電極の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、測定電極へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更したガスセンサ素子等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のセンサ素子が備える素子基体の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す素子基体のII-II線矢視断面の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、変形例に係る多孔質拡散層を備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図6】
図6は、変形例に係る拡散律速部を備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図7】
図7は、変形例に係る多孔質拡散層及び拡散律速部を備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図8】
図8は、変形例に係る流路を備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す素子基体のII-II線矢視断面の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、
図8に例示したのと同様の流路と、
図8に例示したのとは異なる多孔質拡散層とを備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図11】
図11は、拡散律速部によって規定されていない流路を備える素子基体の要部を説明するための拡大図である。
【
図12】
図12は、変形例に係る先端保護層を備えるセンサ素子の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図13】
図13は、測定電極の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層の有無によるNO
x出力の経時変化の違いを示すグラフである。
【
図14】
図14は、測定電極の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層の有無によるNO
x出力のH
2O依存性の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0030】
本件発明者らは、被測定ガス中のH2O濃度が高いと、NOx出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。例えば、被測定ガス中のH2O濃度が20%以上(具体的には、25%程度)であるような、H2O濃度が高い環境下(高H2O濃度下)では、NOx出力が変動しやすくなり、また、測定電極の劣化が早まることを確認した。このような高H2O濃度下でのNOx出力の変動および測定電極の劣化といった問題の要因の1つとして、測定電極44の周囲の拡散形態が分子拡散であることが考えられる。そして、本件発明者らは、測定電極44の周囲の拡散形態を、分子拡散から、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」へと変更することによって、上述の問題を解決できることを確認した。
【0031】
そこで、本実施形態に係るガスセンサ素子101において、測定電極44の周囲には、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層91が設けられる。具体的には、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に、多孔質拡散層91が設けられる。そして、多孔質拡散層91は、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CHの所定範囲を塞いでいる。具体的には、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、被測定ガスの流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている(塞いでいる)。ガスセンサ素子101は、測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、好適なものとする。具体的には、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、分子拡散から、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」へと変更する。これにより、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、係るH2Oガスの、NOxガス(およびO2ガス)への影響を、多孔質拡散層91によって小さくし、NOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、高H2O濃度下での測定電極44の劣化を抑制し、例えば、高H2O濃度下で長期間駆動した場合の測定電極44の劣化を抑制する。また、ガスセンサ素子101は、高H2O濃度下でのNOx出力の変動を抑制し、例えば、NOxガスが流れている時のNOx出力のH2O依存性を抑制し、NOx濃度測定の精度を向上する。詳細は後述するが、本実施形態において、気孔率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)に対して公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで導出した値である。例えば、或る層の断面を観察面とするようにガスセンサ素子101を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEM写真(2次電子像、加速電圧15kV、倍率1000倍、ただし倍率1000倍で不適切な場合は1000倍より大きく5000倍以下の倍率を用いる)にて観察用試料の観察面を撮影することで、係る或る層のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、係る或る層の気孔率[%]として導出する。
【0032】
本実施形態に係るガスセンサ素子101はさらに、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を、先端保護層200によって覆っている。ガスセンサ素子101は、係る先端保護層200によって、測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等をトラップする(捕捉する)。具体的には、ガスセンサ素子101は、気孔率が多孔質拡散層91の気孔率よりも大きい先端保護層200により、被毒物質等をトラップし、測定電極44の周囲での目詰まりを、例えば、多孔質拡散層91の目詰まりを抑制する。それゆえ、ガスセンサ素子101は、測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91が被毒物質等によって目詰まりを起こし、NO
x出力が低下したり、測定精度が低下したりすることを防ぐことができる。以下、本実施形態に係るガスセンサ素子101について、
図1等を用いて、その詳細を説明していく。
【0033】
[構成例]
図1は、本実施形態に係るガスセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
図1に例示するように、ガスセンサ素子101は、素子基体100と、先端保護層200とを備える。素子基体100は、表面にガス導入口10が開口しており、ガス導入口10から被測定ガスが素子基体100の内部空間である被測定ガス流通部7へと導入される。
図1に示す例では、素子基体100の前側(先端側)の表面にガス導入口10が開口している。以下の説明においては、素子基体100の前側(先端側)の表面を、素子基体100の「先端面」と称することがある。
図1において、素子基体100の前側(先端側)は、紙面左側である。
【0034】
<先端保護層>
先端保護層200は、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面(素子基体100の先端面)を覆う。
図1に示す例では、先端保護層200は、素子基体100の先端面と、係る先端面と連続する素子基体100の4つの側面とを覆うように設けられている。
【0035】
詳細は後述するが、先端保護層200を設けることによって、測定電極44の周囲に設けられる多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等を、先端保護層200においてトラップする(捕捉する)ことができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、先端保護層200において被毒物質等を捕捉する(捉える)ことによって、多孔質拡散層91が目詰まりを起こすのを回避することができる。また、先端保護層200の気孔率は、測定電極44の周囲に設けられる多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。そのため、ガスセンサ素子101は、先端保護層200自体が被毒物質等により目詰まりを起こして、ガスセンサ素子101のNOx出力が低下するといった事態を防ぐことができる。
【0036】
先端保護層200は、所定の厚みを有し、具体的には、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、先端保護層200の厚みを十分に厚くすることで、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現することができる。すなわち、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を先端保護層200において確実にトラップして(捕捉して)、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0037】
<素子基体>
図2は、ガスセンサ素子101の備える素子基体100の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。素子基体100は、例えば、長手方向(軸方向)に沿って延びる細長な長尺の板状体形状を呈し、また、例えば、直方体状に形成される。
図2に例示する素子基体100は、長手方向それぞれの端部として先端部及び後端部を有しており、以下の説明においては、先端部を
図2の左側の端部(つまり、前側の端部)とし、後端部を
図2の右側の端部(つまり、後側の端部)とする。しかしながら、素子基体100の形状は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。なお、以下の説明においては、
図2の紙面奥側を素子基体100の右側とし、紙面手前側を素子基体100の左側とする。
【0038】
図2に例示するように、素子基体100は、第1基板層1、第2基板層2、第3基板層3、第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6を下側から順に積層することで構成される積層体を備える。各層1-6は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。各層1-6を形成する固体電解質は、緻密質なものであってよい。緻密質は、気孔率が5%以下であることを指す。
【0039】
素子基体100は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに、所定の加工、配線パターンの印刷等の工程を実行した後にそれらを積層し、更に、焼成して一体化させることで製造される。一例として、素子基体100は、複数のセラミックス層の積層体である。本実施形態では、第2固体電解質層6の上面が、素子基体100の上面を構成し、第1基板層1の下面が、素子基体100の下面を構成し、各層1~6の各側面が、素子基体100の各側面を構成する。
【0040】
本実施形態では、素子基体100の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面及び第1固体電解質層4の上面の間には、被測定ガスを外部の空間から受け入れるように構成される内部空間が設けられる。本実施形態に係る内部空間は、ガス導入口10、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13、第1内部空所15、第3拡散律速部16、第2内部空所17、第4拡散律速部18、及び第3内部空所19が、この順に連通する態様にて隣接形成されるように構成される。すなわち、本実施形態に係る内部空間は、3室構造(第1内部空所15、第2内部空所17及び第3内部空所19)を有する。
【0041】
一例では、この内部空間は、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる。内部空間の上部は、第2固体電解質層6の下面で区画される。内部空間の下部は、第1固体電解質層4の上面で区画される。内部空間の側部は、スペーサ層5の側面で区画される。
【0042】
第1拡散律速部11は、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する部材(部位)であり、
図2に示す例では、第1拡散律速部11は、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)スリット(被測定ガスの流れる流路CH)を形成している。例えば、第1拡散律速部11は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第1架橋部)であり、係る第1拡散律速部11と層6との間、および、第1拡散律速部11と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路CHとなる。同様に、第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18は、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する部材である。第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18のそれぞれは、図面に垂直な方向に延びる長さが、第1内部空所15、第2内部空所17、及び第3内部空所19のそれぞれよりも短い孔(被測定ガスの流れる流路CH)を形成している。
【0043】
図2に例示するように、第2拡散律速部13および第3拡散律速部16は、いずれも、第1拡散律速部11と同様に、2本の横長(図面に垂直な方向に開口が長辺方向を有する)のスリット(流路CH)を形成してもよい。これに対して、第4拡散律速部18は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリット(流路CH)を形成してもよい。すなわち、第4拡散律速部18は、第1固体電解質層4の上面に接していてもよい。例えば、第2拡散律速部13は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第2架橋部)であり、係る第2拡散律速部13と層6との間、および、第2拡散律速部13と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路CHとなる。例えば、第3拡散律速部16は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第3架橋部)であり、係る第3拡散律速部16と層6との間、および、第3拡散律速部16と層4との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路CHとなる。例えば、第4拡散律速部18は、スペーサ層5のくり抜かれたスペースを架橋する架橋部(第4架橋部)であり、係る第4拡散律速部18と層6との間が、スリットとなり、つまり、被測定ガスの流れる流路CHとなる。第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18のそれぞれについては、後ほど詳細に説明する。ガス導入口10から第3内部空所19に至る部位(内部空間)を被測定ガス流通部7と称する。
【0044】
被測定ガス流通部7よりも先端側(素子基体100の前側)から遠い位置には、第3基板層3の上面及びスペーサ層5の下面の間であって、第1固体電解質層4の側面で側部を区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられる。基準ガス導入空間43には、例えば、大気等の基準ガスが導入される。ただし、素子基体100の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例として、第1固体電解質層4は、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよく、基準ガス導入空間43は省略されてよい。この場合、大気導入層48が、素子基体100の後端まで延びるように構成されてよい。
【0045】
基準ガス導入空間43に隣接する第3基板層3の上面の一部には、大気導入層48が設けられる。大気導入層48は、多孔質アルミナから成り、基準ガス導入空間43を介して基準ガスが導入されるように構成される。加えて、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0046】
基準電極42は、第3基板層3の上面及び第1固体電解質層4の間に挟まれるように形成され、その周囲には、上記基準ガス導入空間43に接続する大気導入層48が設けられている。基準電極42は、第1内部空所15内及び第2内部空所17内の酸素濃度(酸素分圧)の測定に使用される。詳細は後述する。
【0047】
ガス導入口10は、被測定ガス流通部7において、外部空間に対して開口してなる部位である。素子基体100は、当該ガス導入口10を通じて外部空間から内部に被測定ガスを取り込むように構成される。本実施形態では、
図2に例示されるとおり、ガス導入口10は、素子基体100の先端面(前面)に配置される。つまり、被測定ガス流通部7は、素子基体100の先端面において開口を有するように構成される。ただし、被測定ガス流通部7が、素子基体100の先端面において開口を有するように構成されること、つまり、ガス導入口10を素子基体100の先端面に配置することは、必須ではない。素子基体100は、外部空間から被測定ガス流通部7の内部に被測定ガスを取り込むことができればよく、ガス導入口10を、例えば、素子基体100の右面に配置したり、左面に配置したりしてもよい。
【0048】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0049】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0050】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所15に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0051】
被測定ガスは、素子基体100の外部空間から第1内部空所15内まで導入されるにあたり、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって、ガス導入口10から素子基体100内部に急激に取り込まれる場合がある。この場合であっても、当該構成では、取り込まれる被測定ガスは、直接第1内部空所15へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所15へ導入される。これにより、第1内部空所15へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0052】
第1内部空所15は、第2拡散律速部13を通じて(つまり、第2拡散律速部13によって形成される流路CHを通って)導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0053】
主ポンプセル21は、内側ポンプ電極22、外側ポンプ電極23、及びこれらの電極に挟まれた第2固体電解質層6によって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。内側ポンプ電極22は、第1内部空所15に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられる天井電極部22aを有する。外側ポンプ電極23は、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aに対応する領域に外部空間に隣接する態様にて設けられる。
【0054】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所15を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6及び第1固体電解質層4)、及び側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所15の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成される。そして、それら天井電極部22a及び底部電極部22bに接続するように、側部電極部(図示省略)が、第1内部空所15の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されている。つまり、内側ポンプ電極22は、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態の構造で配設されている。
【0055】
内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPt及びZrO2により構成されるサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0056】
素子基体100(ガスセンサ素子101)は、主ポンプセル21において、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の間に正方向又は負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所15内の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間の酸素を第1内部空所15に汲み入れ可能に構成される。
【0057】
また、第1内部空所15における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42により、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0058】
素子基体100(ガスセンサ素子101)は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所15内の酸素濃度(酸素分圧)を特定可能に構成される。更に、起電力V0が一定となるようにVp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所15内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0059】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く部位である。
【0060】
第2内部空所17は、第3拡散律速部16を通じて(つまり、第3拡散律速部16によって形成される流路CHを通って)導入された被測定ガス中の酸素分圧を更に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。
【0061】
補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、素子基体100の外側の適当な電極であれば足りる)、及び第2固体電解質層6により構成される補助的な電気化学的ポンプセルである。補助ポンプ電極51は、第2内部空所17に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する。
【0062】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所15内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態の構造で、第2内部空所17内に配設されている。つまり、第2内部空所17の天井面を与える第2固体電解質層6の下面に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所17の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが形成される。そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所17の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成される。これにより、補助ポンプ電極51は、トンネル形態の構造を有している。
【0063】
なお、補助ポンプ電極51も、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中の窒素酸化物成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0064】
素子基体100(ガスセンサ素子101)は、補助ポンプセル50において、補助ポンプ電極51及び外側ポンプ電極23の間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、又は外部空間から第2内部空所17内に汲み入れ可能に構成される。
【0065】
また、第2内部空所17内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51、基準電極42、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び第3基板層3により、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。
【0066】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより、第2内部空所17内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0067】
また、これと共に、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部16から第2内部空所17内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所17内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0068】
第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く部位である。第4拡散律速部18は、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路CHを形成し、
図2に示す例では、第2固体電解質層6の下面との間のスリット(隙間)として、流路CHを形成している。すなわち、第4拡散律速部18は、被測定ガスの流れる方向DR(
図2に示す例では、紙面左側から紙面右側)において測定電極44よりも上流側において、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CHの下面を規定している。
【0069】
第4拡散律速部18は、以下に説明する多孔質拡散層91よりも気孔率が低く、つまり、多孔質拡散層91よりも緻密である。なお、詳細は
図8、10等を用いて後述するが、測定電極44を第4拡散律速部の表面(例えば、下面)に設ける場合、係る第4拡散律速部は、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。すなわち、第4拡散律速部の表面に測定電極44を設ける場合、係る第4拡散律速部は、酸素イオン伝導性を有する、緻密な(つまり、気孔率が5%以下である)層として構成される。
【0070】
流路CHには、多孔質拡散層91が配置され、
図2に示す例では、第4拡散律速部18の上面と第2固体電解質層6の下面との間の流路CH上に、多孔質拡散層91が、第4拡散律速部18の上面に接した状態で設けられている。
【0071】
多孔質拡散層91は、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200よりも気孔率の低い多孔体であり、例えば、アルミナ(Al2O3)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。
【0072】
多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に配置され、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を好適なものとする。具体的には、多孔質拡散層91は、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」とする。
【0073】
多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側の流路CH上に設けられる。
図2に示す例では、多孔質拡散層91は、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路CHを形成する第4拡散律速部18の上面に接した状態で、第4拡散律速部18によって形成される流路CH上に設けられている。
【0074】
詳細は
図3等を用いて後述するが、多孔質拡散層91は、流路CH上に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる。また、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める。測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める多孔質拡散層91によって、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現する。すなわち、ガスセンサ素子101は、係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」とする。そのため、ガスセンサ素子101は、測定電極44の周囲の拡散形態が分子拡散である場合に発生する、高H
2O濃度下におけるNOx出力の変動及び測定電極の劣化を抑制することができる。
【0075】
なお、以下では多孔質拡散層91が、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層である例について説明する。ただし、多孔質拡散層91の気孔率が多孔質拡散層91の全体に亘って一定であることは必須ではない。多孔質拡散層91は、気孔率の異なる複数の面(層)を含んでいてもよい。すなわち、多孔質拡散層91において互いに反対側を向く2つの面の気孔率は互いに異なっていてもよく、例えば、多孔質拡散層91において上流側の面と下流側の面とで気孔率は異なっていてもよい。特に、多孔質拡散層91は、測定電極44に対向する(面する)面と、測定電極44に対向しない(面していない)面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)とで、気孔率が異なっていてもよい。多孔質拡散層91が気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、多孔質拡散層91の平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、また、先端保護層200の気孔率よりも低い。
【0076】
これまでに説明してきたように、ガスセンサ素子101は、被測定ガス流通部7(内部空間)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する第4拡散律速部18(拡散律速部)を備える。第4拡散律速部18は、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に設けられる。また、第4拡散律速部18の気孔率は、多孔質拡散層91の気孔率よりも低く、つまり、第4拡散律速部18は多孔質拡散層91よりも緻密である。ガスセンサ素子101において、多孔質拡散層91によって所定範囲を塞がれる流路CHの少なくとも1つの面は、第4拡散律速部18によって規定され(区画され)、
図2に示す例では、流路CHの下面が、第4拡散律速部18によって規定されている。
【0077】
当該構成では、ガスセンサ素子101は、測定電極44よりも上流側に設けられ、多孔質拡散層91の気孔率よりも気孔率の低い(小さい)第4拡散律速部18をさらに備える。そして、多孔質拡散層91によって所定範囲を塞がれる流路CHは、少なくとも1つの面を、第4拡散律速部18によって規定されている(区画されている)。つまり、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CHは、少なくとも1つの面を、多孔質拡散層91よりも緻密な(気孔率が低い)第4拡散律速部18によって規定されている。それゆえ、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91よりも緻密な第4拡散律速部18によって少なくとも1つの面が規定された流路CHを利用して、被測定ガスを測定電極44へと導くことができる。ガスセンサ素子101は、例えば、流路CHの途中で漏れ出した被測定ガスが、多孔質拡散層91によって拡散形態を変更されることなく、測定電極44へと至るといった事態が発生する可能性を抑えることができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0078】
第3内部空所19は、第4拡散律速部18を通じて(つまり、第4拡散律速部18により形成され、多孔質拡散層91が設けられた流路CHを通って)導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度は、測定用ポンプセル41の動作により測定される。本実施形態では、第1内部空所15において酸素濃度(酸素分圧)が予め調整された後、第2内部空所17において、第3拡散律速部16を通じて導入された被測定ガスに対して、補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が更に行われる。これにより、第2内部空所17から第3内部空所19に導入される被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。そのため、本実施形態に係る素子基体100は、精度の高いNOx濃度の測定が可能となる。
【0079】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所19内において、被測定ガス中の窒素酸化物濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4により構成される電気化学的ポンプセルである。
図2の一例では、測定電極44は、第3内部空所19に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面に設けられる。
図8、10等を用いて後述するように、測定電極44は、第4拡散律速部の表面(例えば、下面)に設けてもよい。
【0080】
測定電極44は、多孔質サーメット電極であり、シリカ(SiO
2)およびアルミナ(Al
2O
3)の少なくとも一方を含んでいてもよい。例えば、測定電極44は、Pt(白金)を80~90重量%、第1固体電解質層4の構成材料(例えばZrO
2)を9.5~19.8重量%、シリカおよびアルミナの少なくとも一方を含む混合物を0.2~0.5重量%含む。測定電極44は、第1固体電解質層4の構成材料よりも貴金属が多くなるように含有比率が設定されている。そのため、第1固体電解質層4と測定電極44との付着力が強化される。しかも、本実施の形態における測定電極44は、シリカおよびアルミナの少なくとも一方を含む混合物を0.2~0.5重量%含む。ここで、高温(例えば、摂氏700度~800度)でNO
xを測定する場合、測定電極44には絶えず、膨張と収縮とが繰り返し発生することになる。そのような環境下においても、測定電極44がシリカおよびアルミナの少なくとも一方を含むことにより、以下の効果を実現することができる。すなわち、測定電極44での膨張と収縮とが抑制され、測定電極44が第1固体電解質層4から剥離したりするという現象は発生しなくなる。また、測定電極44と多孔質拡散層91とが接する場合、特に、後述する
図5、7、10に例示するように多孔質拡散層91が測定電極44を覆う場合、測定電極44がシリカおよびアルミナの少なくとも一方を含むことにより、以下の効果を実現することができる。すなわち、測定電極44での膨張と収縮とが抑制されることで、測定電極44に接する多孔質拡散層91に亀裂、割れなどが入るのを防止することができる。特に、多孔質拡散層91が測定電極44に接して測定電極44を覆う場合、測定電極44に接する多孔質拡散層91に亀裂、割れなどが入るのを防止することができるとの効果は有用である。ただし、ガスセンサ素子101において、測定電極44と多孔質拡散層91とが接することは必須ではない。ガスセンサ素子101において多孔質拡散層91は、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、被測定ガスの流路CHの所定範囲を塞いでいればよい。
【0081】
測定電極44は、第3内部空所19内の雰囲気中に存在するNO
xを還元するNO
x還元触媒としても機能する。
図2の一例では、測定電極44は、第3内部空所19内で露出している。他の一例では、測定電極44は、拡散律速部または多孔質拡散層(例えば、
図5、7、10に例示する多孔質拡散層91A、91C、91Eの何れか)により被覆されていてよい。係る拡散律速部は、アルミナ(Al
2O
3)を主成分とする多孔体の膜により構成されてよい。測定電極44を被覆する(覆う)拡散律速部または多孔質拡散層は、測定電極44に流入するNO
xの量を制限する役割を担うと共に、測定電極44の保護膜としても作用する。
【0082】
素子基体100は、測定用ポンプセル41において、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出可能に構成される。
【0083】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、測定電極44、及び基準電極42により、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82(すなわち、電気化学的なセンサセル)が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧(起電力)V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0084】
第3内部空所19内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される制御電圧V2が一定となるように可変電源の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0085】
また、測定電極44、第1固体電解質層4、第3基板層3、及び基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすることで、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができる。これにより、被測定ガス中の窒素酸化物成分の濃度を求めることも可能である。
【0086】
また、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、第3基板層3、外側ポンプ電極23、及び基準電極42から電気化学的なセンサセル83が構成されている。素子基体100は、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能に構成されている。
【0087】
以上の構成を有する素子基体100において、主ポンプセル21及び補助ポンプセル50を作動させることにより、酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスを測定用ポンプセル41に与えることができる。したがって、素子基体100は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることで流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中の窒素酸化物濃度を特定可能に構成されている。
【0088】
更に、素子基体100は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、素子基体100を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ70を備えている。
図2の一例では、ヒータ70は、ヒータ電極71、発熱部72、リード部73、ヒータ絶縁層74、及び圧力放散孔75を備えている。リード部73は、スルーホールにより構成されてよい。
【0089】
本実施形態では、ヒータ70は、素子基体100の厚み方向(鉛直方向/積層方向)において、素子基体100の上面よりも素子基体100の下面に近い位置に配置されている。ただし、ヒータ70の配置は、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0090】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(素子基体100の下面)に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することにより、外部からヒータ70へ給電することができるようになっている。
【0091】
発熱部72は、第2基板層2及び第3基板層3に上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。発熱部72は、リード部73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、素子基体100を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0092】
また、発熱部72は、第1内部空所15から第2内部空所17の全域に渡って埋設されており、素子基体100全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0093】
ヒータ絶縁層74は、発熱部72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2及び発熱部72の間の電気的絶縁性、並びに第3基板層3及び発熱部72の間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0094】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0095】
<多孔質拡散層>
図3は、素子基体100の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図3は、第4拡散律速部18によって形成される(規定される)流路CH上に配置される多孔質拡散層91について、その詳細を示す図である。多孔質拡散層91は、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、先端保護層200よりも気孔率の低い、多孔質な層(多孔質体)である。多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DR(
図3に示す例では、紙面左側から紙面右側)において測定電極44より上流側の流路CH上に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる。
図3に示す例では、多孔質拡散層91は、第4拡散律速部18の上面と第2固体電解質層6の下面との間に形成された流路CH上に、第4拡散律速部18の上面に接した状態で、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられている。例えば、多孔質拡散層91は、測定電極44に最も近い面(測定電極44に面する(対向する)面)から測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるように、測定電極44より上流側の流路CH上に設けられる。
図3に示す例において多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DRにおける下流側の面(測定電極44に面する面)から、測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となるように、測定電極44より上流側の流路CH上に設けられている。
【0096】
また、詳細は
図4を用いて後述するが、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める。係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、「十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態」とすることができる。そのため、測定電極44の周囲の拡散形態が分子拡散である場合に発生する、高H2O濃度下におけるNOx出力の変動及び測定電極の劣化を抑制することができる。
【0097】
図3に例示する素子基体100は、
図2を用いて説明したように、第1固体電解質層4と第2固体電解質層6との間のスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられる内部空間(被測定ガス流通部7)を備える。被測定ガス流通部7は、上部(上面)を第2固体電解質層6の下面によって、下部(下面)を第1固体電解質層4の上面によって、区画されている(規定されている)。被測定ガス流通部7は、第1内部空所15、第2内部空所17、及び第3内部空所19を含む。
【0098】
第1内部空所15は、内側ポンプ電極22(天井電極部22a及び底部電極部22b)と、
図3には図示していない外側ポンプ電極23及び第2固体電解質層6とにより構成される主ポンプセル21によって、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間である。
【0099】
第3拡散律速部16は、第1内部空所15で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所17に導く。すなわち、第3拡散律速部16は、第1内部空所15から第2内部空所17への、被測定ガスの流路を形成する。
【0100】
第2内部空所17において、被測定ガス中の酸素分圧は、補助ポンプセル50によって更に調整される。補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51(天井電極部51a及び底部電極部51b)と、
図3には図示していない外側ポンプ電極23及び第2固体電解質層6とにより構成される。
【0101】
第4拡散律速部18は、第2内部空所17で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所19に導く。第4拡散律速部18は、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路CHを形成し、
図3に示す例では、第2固体電解質層6の下面との間のスリット(隙間)として、流路CHを形成している。
【0102】
流路CHには、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層91が配置される。多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DR(
図3に示す例では、紙面左側から紙面右側)において測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる。そして、係る位置に設けられた多孔質拡散層91は、流路CHの所定範囲(具体的には、70%以上)を塞ぐ。
【0103】
第2内部空所17において補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行なわれた被測定ガスは、第3内部空所19において、測定用ポンプセル41によって、窒素酸化物濃度が測定される。測定用ポンプセル41は、測定電極44、第2固体電解質層6、スペーサ層5、及び第1固体電解質層4と、
図3には図示していない外側ポンプ電極23と、により構成される。
【0104】
測定電極44の周囲には、具体的には、「測定電極44よりも上流側、かつ、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置」には、被測定ガスの流路CHの所定範囲を塞ぐ、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層91が配置される。係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲における被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CHの所定範囲(具体的には、70%以上)を塞ぐ多孔質拡散層91によって、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、クヌーセン拡散のような好適なものとする。
【0105】
ここで、測定電極44の周囲に拡散抵抗の大きな多孔質拡散層91を設けると、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性がある。これを防ぐために、ガスセンサ素子101は、
図1に例示するように、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層200を備えている。そして、多孔質拡散層91の気孔率は、先端保護層200の気孔率よりも低く、つまり、先端保護層200の気孔率は、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。
【0106】
このような構成を採用することにより、多孔質拡散層91の目詰まりの原因となる被毒物質等は、予め先端保護層200において捕捉されるため、多孔質拡散層91および測定電極44にまで到達する被測定ガス中の被毒物質等はごくわずかとなる。そのため、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性を抑えることができる。また、被毒物質等が測定電極44にまで到達し、測定電極44に付着したとしても、電極金属の酸化/還元能力に影響を与えることはほとんどない。
【0107】
そのため、本実施の形態に係るガスセンサ素子101は、被毒物質等による多孔質拡散層91の目詰まりを抑制し、また、被毒物質等による測定電極44の酸化/還元能力への影響を抑制するすることができる。具体的には、ガスセンサ素子101は、使用に伴う測定精度の低下が好適に抑制されたものとなっており、つまり、繰り返しの使用によっても測定精度が安定的に保たれたものとなっている。
【0108】
図4は、
図3に示す素子基体100のII-II線矢視断面の一例を示す図である。多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DR(
図4に示す例では、紙面手前側から紙面奥側)に直交する面の面積は、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める。
図4に示す例では、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路CHは、第4拡散律速部18によって形成され(規定され)、具体的には、第4拡散律速部18と第2固体電解質層6との間のスリット(隙間)として、流路CHが形成されている。すなわち、
図4に二点鎖線を用いて例示する流路CHは、上面を第2固体電解質層6の下面によって、下面を第4拡散律速部18の上面によって、両側面をスペーサ層5の側面によって、区画されている(規定されている)。そして、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上は、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積によって、占められている。すなわち、第4拡散律速部18の上面に接した状態で設けられた多孔質拡散層91が、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている(塞いでいる)。
【0109】
なお、
図4に示す例では、多孔質拡散層91の上面と第2固体電解質層6の下面との間に空間(隙間)がある。つまり、
図4に示す例では、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積に対して、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積が占める割合は、100%ではない。しかしながら、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積に対して、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積が占める割合は、70%以上であればよく、100%であってもよい。つまり、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面は、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の全体を占めていてもよい。
図4に示す例に即していえば、多孔質拡散層91と第2固体電解質層6とは接していてもよく、具体的には、多孔質拡散層91の上面と第2固体電解質層6の下面とは接していてもよい。
【0110】
また、
図3及び
図4に例示する多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が一定であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低かった。しかしながら、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層の気孔率が、係る多孔質拡散層の全体に亘って一定であることは必須ではない。
【0111】
ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層は、気孔率の異なる複数の面(層)を含んでいてもよい。この場合、多孔質拡散層において互いに反対側を向く2つの面のうち、「測定電極44に対向する(面する)面」の気孔率は、「測定電極44に対向しない(面していない)面」の気孔率よりも高くすることが望ましく、特に、10%以上高くすることが望ましい。例えば、
図3に示す例では、多孔質拡散層91において互いに反対側を向く2つの面のうち、下流側を向いて測定電極44に対向する面の気孔率は、上流側を向いて第2内部空所17に対向する(面する)面の気孔率よりも、高くてもよい。特に、多孔質拡散層91において互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(面する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない面の気孔率よりも、10%以上高くてもよい。多孔質拡散層において互いに反対側を向く2つの面のうち、「測定電極44に対向する面」の気孔率を「測定電極44に対向しない面」の気孔率よりも高くすることにより、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面に付着したH
2Oが分解されてH
2が発生した場合の影響を抑え、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間を短縮することができる。特に、「測定電極44に対向する面」の気孔率を「測定電極44に対向しない面」の気孔率よりも10%高くすることにより、ガスセンサ素子101は、ライトオフ時間をより短縮することができる。
【0112】
多孔質拡散層において互いに反対側を向く2つの面のうち、「測定電極44に対向する(面する)面」の気孔率を、「測定電極44に対向しない面」の気孔率よりも高くする場合、多孔質拡散層は、以下の条件を満たす。すなわち、係る多孔質拡散層は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。気孔率の異なる複数の面(層)を含む多孔質拡散層について、その詳細は
図5等を用いて後述する。
【0113】
(多孔質拡散層と測定電極との接触の要否)
測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするため、多孔質拡散層91は、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲(具体的には、70%以上)を塞いでいる。係る多孔質拡散層91は、測定電極44に接していてもよいし、測定電極44に接することなく、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるように、測定電極44より上流側に設けられてもよい。すなわち、
図2、3に例示した多孔質拡散層91は、測定電極44に接することなく、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるように、測定電極44より上流側に設けられていた。しかしながら、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層91は、測定電極44に接していてもよい。以下に、
図5を用いて、測定電極44に接する多孔質拡散層91の例について説明する。
【0114】
(多孔質拡散層と測定電極とが接している例)
図5は、変形例に係る多孔質拡散層91Aを備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図5は、被測定ガスの流れる方向DR(
図5に示す例では、紙面左側から紙面右側)において測定電極44よりも上流側に設けられ、流路CHの所定範囲を塞いで、測定電極44に接する多孔質拡散層91Aの例を示す図である。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91に代えて、以下に詳細を説明する多孔質拡散層91Aを備えてもよい。なお、
図5における第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6などは、
図2、3等を用いて説明したのと同様であるから、説明は繰り返さない。
【0115】
図2、3に例示した多孔質拡散層91は、測定電極44に接することなく、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるように、測定電極44より上流側の流路CH上に設けられていた。しかしながら、ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層が、測定電極44との間に空間(隙間)を備えていることは必須ではない。ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層は、
図5に例示する多孔質拡散層91Aのように、測定電極44に接していてもよい。
【0116】
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、測定電極44よりも上流側に配置される点において、
図2、3に例示した多孔質拡散層91と同様である。ただし、測定電極44よりも上流側に配置された多孔質拡散層91Aは、下流側に延伸しており、具体的には、測定電極44へと延伸して、測定電極44に接している。特に、
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、測定電極44よりも下流側まで延伸して、測定電極44を覆っている。
【0117】
ここで、測定電極44に接する多孔質拡散層91Aは、
図5に示す例では、測定電極44を覆っている。しかしながら、ガスセンサ素子101において、測定電極44に接する多孔質拡散層91Aが、測定電極44を覆うことは必須ではない。ガスセンサ素子101において多孔質拡散層91Aは、測定電極44を覆うことなく、測定電極44に接していてもよい。
【0118】
また、
図5に示す例では、測定電極44を覆う多孔質拡散層91Aは、測定電極44に接しており、つまり、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向する(面する)面と、測定電極44とは、接している。ただし、ガスセンサ素子101は、測定電極44に接することなく、測定電極44の周囲を覆う多孔質拡散層を備えていてもよい。ガスセンサ素子101において、測定電極44を覆う多孔質拡散層が、測定電極44に接することは必須ではなく、測定電極44を覆う多孔質拡散層は、測定電極44に接していなくてもよい。つまり、ガスセンサ素子101は、測定電極44を覆う多孔質拡散層を備えていてもよく、係る多孔質拡散層と測定電極44との間には空間(隙間)があってもよい。ただし、測定電極44を覆う多孔質拡散層と測定電極44との間に隙間を設ける場合、測定電極44を覆う多孔質拡散層の、測定電極44に対向する面と、測定電極44との距離d2は0.15mm以下とする。つまり、ガスセンサ素子101において、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層は、測定電極44よりも上流側の、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられていればよい。
【0119】
これまでの説明を整理すると、ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に設けられ、流路CHの所定範囲(具体的には、70%以上)を塞ぐ多孔質拡散層は、
図5に例示する多孔質拡散層91Aのように、測定電極44に接していてもよい。ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層は、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられていればよく、測定電極44に接していても、接していなくてもよい。また、多孔質拡散層91Aのように、ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層は、測定電極44を覆っていてもよい。
【0120】
つまり、ガスセンサ素子101において、「気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、5%以上かつ25%以下である」多孔質拡散層は、以下の条件を満たすものであればよい。すなわち、係る多孔質拡散層は、被測定ガスの流路CHにおいて、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲(70%以上)を塞いでいればよい。ガスセンサ素子101は、係る多孔質拡散層と測定電極44とを接触させてもよいし、接触させなくてもよい。また、ガスセンサ素子101は、係る多孔質拡散層によって測定電極44を覆ってもよいし、覆わなくてもよい。係る多孔質拡散層の、測定電極44に対向する(面する)面は、測定電極44に接していてもよいし、接していなくてもよい。ただし、係る多孔質拡散層の、測定電極44に対向する面が測定電極44に接していない場合、係る多孔質拡散層の、測定電極44に対向する面と測定電極44との間の距離d2は0.15mm以下とする。
【0121】
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、第4拡散律速部18(拡散律速部)と、被測定ガス流通部7(内部空間)を規定する面(
図5に示す例では、第2固体電解質層6。特に、第2固体電解質層6の下面)と、に接している。つまり、多孔質拡散層91Aと第4拡散律速部18との間、及び、多孔質拡散層91Aと被測定ガス流通部7を規定する面との間には、空間(隙間)がない。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Aと第4拡散律速部18との間の隙間、及び、多孔質拡散層91Aと被測定ガス流通部7を規定する面との隙間をなくすことで、以下の効果を実現することができる。すなわち、ガスセンサ素子101は、被測定ガスが、多孔質拡散層91Aと第4拡散律速部18との間の隙間、及び、多孔質拡散層91Aと被測定ガス流通部7を規定する面との隙間の少なくとも一方から測定電極44へと至ることを防ぐことができる。つまり、ガスセンサ素子101は、例えば、流路CHの途中で漏れ出した被測定ガスが、多孔質拡散層91Aによって拡散形態を変更されることなく、測定電極44へと至るといった事態が発生する可能性を抑えることができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91Aによって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0122】
なお、
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、
図2、3に例示した多孔質拡散層91と同様に、気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。そして、多孔質拡散層91Aは、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられ、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CHの70%以上を塞いでいる。特に、
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、第4拡散律速部18によって形成される流路CH(具体的には、第4拡散律速部18と第2固体電解質層6との間のスリット(隙間)として形成される流路CH)の全体を(つまり、100%を)占めている。すなわち、多孔質拡散層91Aの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面は、流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている。
【0123】
図5に例示する多孔質拡散層91Aは、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定である。しかしながら、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層の気孔率が、係る多孔質拡散層の全体に亘って一定であることは必須ではない。ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層は、以下のように構成されてもよい。すなわち、多孔質拡散層において互いに反対側を向く2つの面のうち、「測定電極44に対向する(面する)面」と、「測定電極44に対向しない(面していない)面」とで、気孔率が異なるように、多孔質拡散層は構成されてもよい。
【0124】
具体的には、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも、高くてもよい。例えば、多孔質拡散層91Aは、互いに反対側を向く2つの面のそれぞれを、以下のように構成されてもよい。すなわち、多孔質拡散層91Aは、測定電極44に対向せずに被測定ガス流通部7に面する面を、多孔質な層である第1多孔質拡散層によって構成されてもよく、また、測定電極44に対向する面を、多孔質な層である第2多孔質拡散層によって構成されてもよい。第1多孔質拡散層と第2多孔質拡散層とは、互いに気孔率が異なり、第2多孔質拡散層の気孔率は、第1多孔質拡散層の気孔率よりも高くてもよい。
【0125】
多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率を、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも高くすることによって、以下の効果を実現することができる。すなわち、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合の影響を抑え、ガスセンサが起動されてから定常動作状態となるまでに要するライトオフ時間を短縮することができる。これは、以下に説明する理由による。
【0126】
ガスセンサの駆動直後、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合、測定電極44と基準電極42との間の電位差(つまり、酸素濃度差)が増える。そのため、測定電極44へと酸素を汲み入れることで、アンダーシュート波形となり、ライトオフ時間が長くなってしまうことがある。
【0127】
しかしながら、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層について、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率を、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率より高くすることで、ガスセンサ素子101は以下の効果を実現する。すなわち、測定電極44に対向する面の気孔率を、測定電極44に対向しない面の気孔率より高くすることで、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面付近に発生したH2を素早く拡散させることができる。つまり、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されることにより発生するH2を、「測定電極44に対向しない(接しない)面」よりも大きな気孔率を有する「測定電極44に対向する(接する)面」によって、素早く拡散させることができる。そのため、ガスセンサ素子101においては、一定制御の際に測定電極44と基準電極42との間の電位差が大きくなり過ぎることがなく、ガスセンサ素子101は、ライトオフ時間を短縮することができる。つまり、ガスセンサ素子101は、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合であっても、係るH2の影響を抑えて、ライトオフ時間が長くなってしまうのを回避することができる。
【0128】
特に、多孔質拡散層91Aと測定電極44との間に空間を設けない場合、つまり、両者が接する場合、多孔質拡散層91Aは以下のように構成されることが望ましい。すなわち、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に接する面の気孔率が、測定電極44に接しない面の気孔率よりも高くなるように、多孔質拡散層91Aは構成されることが望ましい。具体的には、多孔質拡散層91Aと測定電極44とが接する場合、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に接する面の気孔率は、測定電極44に接しない面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)の気孔率よりも高くすることが望ましい。多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に接する面の気孔率を、測定電極44に接しない面の気孔率よりも高くすることによって、多孔質拡散層91Aと測定電極44とが接する場合であっても、多孔質拡散層91Aは、以下の効果を実現することができる。すなわち、多孔質拡散層91Aは、測定電極44の表面に付着したH2Oが分解されてH2が発生した場合の影響を抑え、ライトオフ時間を短縮することができる。
【0129】
なお、気孔率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)に対して公知の画像処理手法(二値化処理など)を適用することで導出した値である。具体的には、「多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向する(接する)面」の気孔率は、例えば、以下のようにして導出した。すなわち、先ず、長さ方向(センサ素子の軸方向)で見た時に測定電極44の中央付近で、かつ、測定電極44と多孔質拡散層91Aとの界面から10~15μmの範囲のSEM画像を取得した。次に、取得したSEM画像に対して、二値化処理などの公知の画像処理手法を適用することで、「多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向する(接する)面」の気孔率を求めた。「多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向しない(接しない)面」の気孔率も、同様の手法を適用して求めた。すなわち、先ず、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向しない(接しない)面(表面。例えば、上面)から10~15μmの範囲のSEM画像を取得する。そして、係るSEM画像に対して公知の画像処理手法を適用することで、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率を導出した。
【0130】
上述の通り、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも高くてもよい。特に、多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも、10%以上高くてもよい。
【0131】
ここで、本件発明者らは、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率が、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも10%以上高い場合、10%未満の場合よりも、ライトオフ時間が短くなることを確認した。それゆえ、多孔質拡散層91Aにおいて、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率と、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率との差は、10%以上あることが望ましい。具体的には、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも、10%以上高い方が望ましい。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Aの、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率を、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも10%以上高くすることで、10%未満の場合よりもライトオフ時間を短くすることができる。例えば、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Aの、「測定電極44に対向する面」の気孔率を、「測定電極44に対向せずに被測定ガス流通部7に面する面」の気孔率よりも10%以上高くすることによって、ライトオフ時間をより短縮することができる。
【0132】
これまでに説明してきたように、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも高くてもよく、例えば、10%以上高くてもよい。ここで、多孔質拡散層91Aにおける、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面への、気孔率の変化の態様は、特に限られるものではない。
【0133】
多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)へと、段階的(非連続的)に変化してもよい。具体的には、多孔質拡散層91Aは、互いに反対側を向く2つの面として、互いに気孔率の異なる以下の2つの面を備えていてもよい。すなわち、多孔質拡散層91Aは、「測定電極44に対向せずに被測定ガス流通部7に面する多孔質な層である第1多孔質拡散層」及び「測定電極44に対向する多孔質な層である第2多孔質拡散層」を含んでいてもよい。この場合、第1多孔質拡散層の気孔率は、第2多孔質拡散層の気孔率よりも低い方が望ましく、特に、第2多孔質拡散層の気孔率よりも10%以上低いことが望ましい。つまり、多孔質拡散層91Aは、互いに気孔率の異なる複数の層を含み、多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面へと、段階的(非連続的)に変化してもよい。
【0134】
また、多孔質拡散層91Aにおいて気孔率は、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)へと、連続的に変化してもよい。つまり、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面へと、気孔率は連続的に変化してもよい。例えば、測定電極44に対向する面から、測定電極44に対向しない面(例えば、被測定ガス流通部7に面する面)へと、気孔率が徐々に低下し、結果として、両者の気孔率の差が10%以上となるように、多孔質拡散層91Aを構成してもよい。
【0135】
以上に説明した通り、多孔質拡散層91Aにおいて互いに反対側を向く2つの面のうち、測定電極44に対向する(接する)面の気孔率は、測定電極44に対向しない(接しない)面の気孔率よりも高くてもよく、特に、10%以上高くてもよい。そして、測定電極44に対向する(接する)面から、測定電極44に対向しない(接しない)面への、気孔率の変化の態様については、特に限定されるものではなく、例えば、段階的(非連続的)に変化してもよいし、連続的に変化してもよい。
【0136】
なお、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられ、流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層が、互いに気孔率の異なる複数の面(層)を備える場合、係る多孔質拡散層の平均気孔率は、以下の条件を満たす。すなわち、係る多孔質拡散層が互いに気孔率の異なる複数の面を備える場合、係る多孔質拡散層は、平均気孔率が5%以上かつ25%以下であって、また、平均気孔率が先端保護層200の気孔率よりも低い。例えば、多孔質拡散層91Aにおいて測定電極44に対向する(接する)面と測定電極44に対向しない(接しない)面とで気孔率が異なる場合、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。具体的には、前述の第1多孔質拡散層及び第2多孔質拡散層の各々の気孔率から算出される多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。すなわち、多孔質拡散層91Aが複数の面(層)を含む場合、特に、気孔率の異なる複数の面を含む場合、多孔質拡散層91Aの平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200の気孔率よりも低い。
【0137】
(多孔質拡散層及び拡散律速部の軸方向の長さ)
図2、
図3に例示した多孔質拡散層91、及び、
図5に例示した多孔質拡散層91Aは、何れも、その幅(ガスセンサ素子101の軸方向の長さ)が、第4拡散律速部18の幅(ガスセンサ素子101の軸方向の長さ)以上であった。すなわち、多孔質拡散層91の幅と第4拡散律速部18の幅とは同様であり、多孔質拡散層91Aの幅は第4拡散律速部18の幅よりも長かった。しかしながら、ガスセンサ素子101(素子基体100)において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層の幅が、第4拡散律速部18の幅以上であることは必須ではない。ガスセンサ素子101において、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられる多孔質拡散層の幅は、第4拡散律速部18の幅よりも短くてもよい。すなわち、ガスセンサ素子101において、多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路CHを形成する拡散律速部(例えば、第4拡散律速部18)の幅は、係る多孔質拡散層の幅よりも長くてもよい。以下に、
図6を用いて、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられる多孔質拡散層の幅よりも、長い幅を有する第4拡散律速部18の例について説明する。
【0138】
(多孔質拡散層の幅よりも長い幅を有する拡散律速部の例)
図6は、変形例に係る第4拡散律速部18Bを備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図6は、
図2、3、5に例示した第4拡散律速部18の幅(ガスセンサ素子101の軸方向の長さ)よりも長い幅を有する第4拡散律速部18Bの一例を示す図である。なお、
図6における第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6などは、
図2、3等を用いて説明したのと同様であるから、説明は繰り返さない。
【0139】
第4拡散律速部18Bの基本的な構成は、第4拡散律速部18と同様である。すなわち、第4拡散律速部18Bは、被測定ガス流通部7(内部空間)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する。また、第4拡散律速部18Bの気孔率は、多孔質拡散層91の気孔率よりも低く、つまり、第4拡散律速部18Bは多孔質拡散層91よりも緻密である。さらに、第4拡散律速部18Bは、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に設けられる。
【0140】
ただし、第4拡散律速部18Bは、以下の点において、第4拡散律速部18と異なる。すなわち、測定電極44よりも上流側に配置された第4拡散律速部18Bは、下流側に、つまり、測定電極44へと延伸し、特に、測定電極44よりも下流側まで延伸している。
図6に示す例では、測定電極44よりも上流側に配置された第4拡散律速部18Bは、測定電極44よりも下流側まで延伸して、スペーサ層5に接している。そのため、第4拡散律速部18Bの幅(ガスセンサ素子101の軸方向の長さ)は、多孔質拡散層91の幅よりも長い。
【0141】
図6に示す例では、第4拡散律速部18B及び第2固体電解質層6によって規定された流路CH(B)は、測定電極44の配置される第3内部空所19Bと一体となっている。すなわち、第4拡散律速部18Bは、下流側に延伸しており、特に、測定電極44よりも下流側まで延伸して、スペーサ層5に接している。そして、係る第4拡散律速部18Bと、第2固体電解質層6とによって、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CH(B)は、規定されている。具体的には、
図6に示す例において、流路CH(B)(すなわち、第3内部空所19B)は、上面を第2固体電解質層6によって、下面を第4拡散律速部18Bによって、側面及び後面をスペーサ層5によって、規定されている(区画されている)。そして、流路CH(B)(すなわち、第3内部空所19B)の入口を、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下である多孔質拡散層91が塞いでいる。
【0142】
すなわち、第4拡散律速部18Bは、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CH(B)の少なくとも1つの面を規定し(区画し)、
図6に示す例では、流路CH(B)の下面を規定している。そして、第4拡散律速部18Bによって形成された(規定された)流路CH(B)の所定範囲は、測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となる位置に設けられた多孔質拡散層91によって塞がれている。
【0143】
ガスセンサ素子101は、
図2等を用いて説明した流路CHに代えて、多孔質拡散層91によって所定範囲(具体的には、70%以上)を塞がれる流路CH(B)を備えていてもよい。ガスセンサ素子101において、流路CH(B)を規定する拡散律速部は、第4拡散律速部18Bのように、下流側に延伸してもよく、特に、測定電極44よりも下流側まで延伸してもよい。
図6に示す例では、測定電極44よりも上流側に配置された第4拡散律速部18Bが、測定電極44よりも下流側まで延伸している。そして、測定電極44よりも上流側に配置され、かつ、測定電極44よりも下流側まで延伸した第4拡散律速部18Bと、第2固体電解質層6とによって規定された流路CH(B)(すなわち、第3内部空所19B)の入口を、多孔質拡散層91が塞いでいる。
【0144】
これまでに説明してきたように、流路CH(B)は、流路CHと同様に、少なくとも1つの面が、第4拡散律速部18Bによって規定され(区画され)、
図6に示す例では、流路CH(B)の下面が、第4拡散律速部18Bによって規定されている。ガスセンサ素子101は、第4拡散律速部18Bによって少なくとも1つの面が規定された流路CH(B)を利用して、被測定ガスを測定電極44へと導くことができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(B)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0145】
また、流路CH(B)の、第4拡散律速部18Bによって規定される面とは異なる面(
図6に示す例では上面)は、第2固体電解質層6によって規定されている(区画されている)。そして、多孔質拡散層91は、流路CH(B)の入り口に、つまり、測定電極44よりも上流側に、配置され、特に、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下である位置に配置されている。係る多孔質拡散層91によって、流路CH(B)の入り口は所定範囲を塞がれ、具体的には、70%以上を塞がれる。
【0146】
特に、
図6に示す例において多孔質拡散層91は、第4拡散律速部18B(拡散律速部)と、被測定ガス流通部7(内部空間)を規定する面(
図6に示す例では、第2固体電解質層6。特に、第2固体電解質層6の下面)と、に接している。つまり、多孔質拡散層91と第4拡散律速部18Bとの間、及び、多孔質拡散層91と被測定ガス流通部7を規定する面との間には、空間(隙間)がない。そのため、ガスセンサ素子101は、被測定ガスが、多孔質拡散層91と第4拡散律速部18Bとの間の隙間、及び、多孔質拡散層91と被測定ガス流通部7を規定する面との隙間の少なくとも一方から測定電極44へと至ることを防ぐことができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(B)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0147】
(変形例に係る多孔質拡散層及び拡散律速部)
これまでに説明してきたように、ガスセンサ素子101において、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられる多孔質拡散層は、測定電極44に接していてもよい。また、係る多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路は、拡散律速部によって規定されていてもよい。そして、係る拡散律速部は、下流側に延伸していてもよく、例えば、測定電極44よりも下流側に延伸していてもよい。以下に、
図7を用いて、測定電極44に接する多孔質拡散層と、測定電極44よりも下流側に延伸する拡散律速部とを備えるガスセンサ素子101(素子基体100)の例について説明する。
【0148】
図7は、変形例に係る多孔質拡散層91C及び第4拡散律速部18Cを備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図7は、測定電極44よりも上流側に配置され、下流側(つまり、測定電極44へと)延伸する「多孔質拡散層91C及び第4拡散律速部18C」について、それぞれの一例を示す図である。なお、
図7における第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6などは、
図2、3等を用いて説明したのと同様であるから、説明は繰り返さない。ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91に代えて、以下に詳細を説明する多孔質拡散層91Cを備えていてもよい。
【0149】
多孔質拡散層91Cは、多孔質拡散層91Aと同様に、測定電極44よりも上流側に配置され、下流側に延伸しており、具体的には、測定電極44へと延伸して、測定電極44に接している。特に、
図7に例示する多孔質拡散層91Cは、測定電極44よりも下流側まで延伸して、測定電極44を覆っている。また、多孔質拡散層91Cは、これまでに説明した多孔質拡散層91、91Aと同様に、気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。多孔質拡散層91Cは、多孔質拡散層91、91Aと同様に、測定電極44よりも上流側で、被測定ガスの流路CH(C)の所定範囲(具体的には、70%以上)を塞いでいる。
【0150】
第4拡散律速部18Cは、第4拡散律速部18Bと同様に、測定電極44よりも上流側に配置され、下流側に(つまり、測定電極44へと)延伸し、特に、
図7に例示する第4拡散律速部18Cは、測定電極44よりも下流側まで延伸している。具体的には、測定電極44よりも上流側に配置された第4拡散律速部18Cは、下流側に延伸して、スペーサ層5に接している。また、第4拡散律速部18Cは、第4拡散律速部18、18Bと同様に、気孔率が多孔質拡散層91の気孔率よりも低く、つまり、第4拡散律速部18Cは多孔質拡散層91Cよりも緻密である。第4拡散律速部18Cは、被測定ガス流通部7(内部空間)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する。
【0151】
図7に示す例では、第4拡散律速部18C及び第2固体電解質層6によって規定された流路CH(C)は、測定電極44の配置される第3内部空所19Cと一体となっている。すなわち、第4拡散律速部18Cは、下流側に延伸しており、特に、測定電極44よりも下流側まで延伸して、スペーサ層5に接している。そして、係る第4拡散律速部18Cと、第2固体電解質層6とによって、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CH(C)は、規定されている。具体的には、
図7に示す例において、流路CH(C)(すなわち、第3内部空所19C)は、上面を第2固体電解質層6によって、下面を第4拡散律速部18Cによって、側面及び後面をスペーサ層5によって、規定されている(区画されている)。そして、第4拡散律速部18Cと第2固体電解質層6とによって規定された流路CH(C)(すなわち、第3内部空所19C)の全体を、多孔質拡散層91Cが塞いでいる。
【0152】
流路CH(C)は、流路CH、CH(B)と同様に、少なくとも1つの面が、第4拡散律速部18Cによって規定され(区画され)、
図7に示す例では、流路CH(C)の下面が、第4拡散律速部18Cによって規定されている。ガスセンサ素子101は、第4拡散律速部18Cによって少なくとも1つの面が規定された流路CH(C)を利用して、被測定ガスを測定電極44へと導くことができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(C)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91によって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0153】
また、流路CH(C)の、第4拡散律速部18Cによって規定される面とは異なる面(
図7に示す例では上面)は、第2固体電解質層6によって規定されている(区画されている)。そして、多孔質拡散層91Cは、流路CH(C)の入り口に、つまり、測定電極44よりも上流側に、配置され、下流側に延伸して測定電極44に接する。係る多孔質拡散層91によって、流路CH(C)(すなわち、第3内部空所19C)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面は所定範囲を塞がれ、具体的には、70%以上を塞がれる。
【0154】
特に、
図7に示す例において多孔質拡散層91Cは、第4拡散律速部18C(拡散律速部)と、被測定ガス流通部7(内部空間)を規定する面(
図7に示す例では、第2固体電解質層6。特に、第2固体電解質層6の下面)と、に接している。つまり、多孔質拡散層91Cと第4拡散律速部18Cとの間、及び、多孔質拡散層91Cと被測定ガス流通部7を規定する面との間には、空間(隙間)がない。そのため、ガスセンサ素子101は、被測定ガスが、多孔質拡散層91Cと第4拡散律速部18Cとの間の隙間、及び、多孔質拡散層91Cと被測定ガス流通部7を規定する面との隙間の少なくとも一方から測定電極44へと至ることを防ぐことができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(C)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91Cによって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0155】
(変形例に係る流路)
これまでに説明してきた、流路CH、CH(B)、CH(C)は、何れも、拡散律速部(第4拡散律速部18、18B、18Cの何れか)によって、1つの面(例えば、下面)を規定されていた(区画されていた)。しかしながら、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられる多孔質拡散層(多孔質拡散層91、91A、91Cの何れか)によって所定範囲を塞がれる流路が、拡散律速部によって1つの面を規定されていることは必須ではない。測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられる多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路は、複数の面を拡散律速部によって規定されていてもよく、例えば、少なくとも2つの面を拡散律速部によって規定されていてもよい。また、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするために設けられる多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路は、拡散律速部によって規定されていなくてもよい。以下、
図8から
図10を用いて、多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路が、複数の面を拡散律速部によって規定される例を説明する。また、
図11を用いて、多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路が、拡散律速部によって規定されない(区画されない)例を説明する。
【0156】
(複数の面を拡散律速部によって規定される流路の例1)
図8は、変形例に係る流路CH(D)を備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図8は、第4拡散律速部18D(1)と第4拡散律速部18D(2)とによって、上面及び下面を規定された(区画された)流路CH(D)の一例を示す図である。なお、以下の説明においては、第4拡散律速部18D(1)と第4拡散律速部18D(2)とを特に区別しない場合は、第4拡散律速部18D(1)と第4拡散律速部18D(2)とは共に、「第4拡散律速部18D」と称する。また、
図8における第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6などは、
図2、3等を用いて説明したのと同様であるから、説明は繰り返さない。ガスセンサ素子101は、
図2等を用いて説明した流路CH及び多孔質拡散層91に代えて、以下に詳細を説明する流路CH(D)及び多孔質拡散層91Dを備えていてもよい。
【0157】
これまでに説明してきた、流路CH、CH(B)、CH(C)は、何れも、1つの面を、拡散律速部(第4拡散律速部18、18B、18Cの何れか)によって、規定されていた(区画されていた)。具体的には、流路CH等は何れも、下面を拡散律速部(第4拡散律速部18、18B、18Cの何れか)によって、上面を第2固体電解質層6によって、規定されていた(区画されていた)。これに対して、流路CH(D)は、少なくとも2つの面を、拡散律速部(具体的には、第4拡散律速部18D)によって規定されている。すなわち、流路CH(D)は、上面を第4拡散律速部18D(1)によって、下面を第4拡散律速部18D(2)によって、規定されている。
【0158】
第4拡散律速部18D(1)及び第4拡散律速部18D(2)によって上面及び下面を規定された流路CH(D)は、測定電極44Dの配置される第3内部空所19Dと一体となっている。具体的には、
図8に示す例において、流路CH(D)(すなわち、第3内部空所19D)は、上面及び下面を第4拡散律速部18Dによって、側面及び後面をスペーサ層5によって、規定されている(区画されている)。そして、第4拡散律速部18D(1)及び第4拡散律速部18D(2)によって規定された流路CH(D)(すなわち、第3内部空所19D)の入口を、測定電極44Dまでの距離d2が0.15mm以下である多孔質拡散層91Dが塞いでいる。
【0159】
第4拡散律速部18Dの基本的な構成は、これまでに説明してきた第4拡散律速部18と同様である。すなわち、第4拡散律速部18Dは、被測定ガス流通部7(内部空間)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する。また、第4拡散律速部18Dは、多孔質拡散層91Dよりも気孔率が低く、つまり、多孔質拡散層91Dよりも緻密である。
【0160】
ただし、第4拡散律速部18Dは、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。
図8に例示する測定電極44Dは、第4拡散律速部18Dの表面に設けられる。そのため、第4拡散律速部18Dを介して酸素の汲み出し及び汲み入れが可能となるよう、第4拡散律速部18Dは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。
【0161】
第4拡散律速部18Dは、第4拡散律速部18B、18Cと同様に、測定電極44Dよりも上流側に設けられ、下流側に(つまり、測定電極44Dへと)延伸している。特に、
図8に例示する第4拡散律速部18Dは、第4拡散律速部18B、18Cと同様に、測定電極44Dよりも下流側まで延伸して、スペーサ層5に接している。
【0162】
測定電極44Dは、第3内部空所19に隣接する(面する)第2固体電解質層6の下面に代えて、第4拡散律速部18D(1)の下面に設けられる点を除いて、これまでに説明してきた測定電極44と同様である。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び、酸素イオン伝導性を有する第4拡散律速部18Dにより構成される。なお、測定電極44Dを第4拡散律速部18D(1)の下面に設けることは必須ではなく、測定電極44Dは、第4拡散律速部18D(2)の上面に設けてもよい。
【0163】
多孔質拡散層91Dは、第4拡散律速部18Dによって少なくとも2つの面(
図8に示す例では、上面及び下面)を規定された流路CH(D)上に配置されている点を除いて、これまでに説明してきた多孔質拡散層91と同様である。すなわち、多孔質拡散層91Dの気孔率は、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。また、多孔質拡散層91Dは、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44Dよりも上流側に、測定電極44Dまでの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる。係る多孔質拡散層91Dによって、流路CH(D)の入り口は所定範囲を塞がれる。具体的には、
図9を用いて後述するが、多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、被測定ガスの流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める(塞ぐ)。
【0164】
図9は、
図8に示す素子基体100のII-II線矢視断面の一例を示す図である。多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DR(
図9に示す例では、紙面手前側から紙面奥側)に直交する面の面積は、流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める。
図9に示す例では、第2内部空所17から第3内部空所19への被測定ガスの流路CH(D)は、第4拡散律速部18Dによって形成されている(規定されている)。具体的には、第4拡散律速部18D(1)及び第4拡散律速部18D(2)の間のスリット(隙間)として、流路CH(D)が形成されている。すなわち、
図9に二点鎖線を用いて例示する流路CHは、上面を第4拡散律速部18D(1)の下面によって、下面を第4拡散律速部18D(2)の上面によって、両側面をスペーサ層5の側面によって、区画されている(規定されている)。そして、流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上は、多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面によって、占められている。すなわち、第4拡散律速部18D(2)の上面に接した状態で設けられた多孔質拡散層91Dが、流路CH(D)の70%以上を占めている(塞いでいる)。
【0165】
なお、
図9に示す例では、多孔質拡散層91Dの上面と第4拡散律速部18D(1)の下面との間に空間(隙間)がない。つまり、
図9に示す例では、流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積に対して、多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積が占める割合は、100%である。しかしながら、流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積に対して、多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積が占める割合は、70%以上であればよく、100%でなくてもよい。つまり、多孔質拡散層91Dの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面は、流路CH(D)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の全体を占めていなくてもよい。
図9に示す例に即していえば、多孔質拡散層91Dと第4拡散律速部18D(1)とは接していなくてもよく、具体的には、多孔質拡散層91Dの上面と第4拡散律速部18D(1)の下面とは接していなくてもよい。
【0166】
これまでに説明してきたように、流路CH(D)の少なくとも2つの面(
図8に示す例では、上面及び下面)は、第4拡散律速部18Dによって規定されている。そして、前述の通り、第4拡散律速部18Dは、多孔質拡散層91Dよりも緻密である(気孔率が低い)。つまり、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Dよりも緻密な第4拡散律速部18Dを利用して、被測定ガスを測定電極44Dへと導く流路CH(D)の少なくとも2つの面を、規定する(区画する)。それゆえ、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Dよりも緻密な第4拡散律速部18Dによって少なくとも2つの面が規定された流路CH(D)を利用して、被測定ガスを測定電極44Dへと導くことができる。ガスセンサ素子101は、例えば、流路CH(D)の途中で漏れ出した被測定ガスが、多孔質拡散層91Dによって拡散形態を変更されることなく、測定電極44Dへと至るといった事態が発生する可能性を、より抑えることができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44Dへと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(D)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91Dによって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0167】
(複数の面を拡散律速部によって規定される流路の例2)
図10は、
図8に例示した流路CH(D)と同様の流路CH(E)と、
図8に例示した多孔質拡散層91Dとは異なる多孔質拡散層91Eとを備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図10は、第4拡散律速部18E(1)と第4拡散律速部18E(2)とによって、上面及び下面を規定された(区画された)流路CH(E)、及び、下流側に延伸する多孔質拡散層91Eについて、それぞれの一例を示す図である。なお、以下の説明においては、第4拡散律速部18E(1)と第4拡散律速部18E(2)とを特に区別しない場合は、第4拡散律速部18E(1)と第4拡散律速部18E(2)とは共に、「第4拡散律速部18E」と称する。また、
図10における第1固体電解質層4、スペーサ層5、及び第2固体電解質層6などは、
図2、3等を用いて説明したのと同様であるから、説明は繰り返さない。
【0168】
流路CH(E)は、流路CH(D)と同様に、少なくとも2つの面(
図10に示す例では、上面及び下面)を第4拡散律速部18Eによって規定されている(区画されている)。すなわち、流路CH(E)は、上面を第4拡散律速部18E(1)によって、下面を第4拡散律速部18E(2)によって、規定され、測定電極44の配置される第3内部空所19Eと一体となっている。具体的には、
図10に示す例において、流路CH(E)(すなわち、第3内部空所19E)は、上面及び下面を第4拡散律速部18Eによって、側面及び後面をスペーサ層5によって、規定されている(区画されている)。そして、流路CH(E)(すなわち、第3内部空所19E)の全体が、多孔質拡散層91Eによって塞がれている。
【0169】
第4拡散律速部18Eの構成は、第4拡散律速部18Dと同様である。すなわち、第4拡散律速部18Eは、被測定ガス流通部7(内部空間)において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与する。第4拡散律速部18Eは、多孔質拡散層91Eよりも気孔率が低く、つまり、多孔質拡散層91Eよりも緻密である。第4拡散律速部18Eは、ジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性を有する固体電解質層により構成される。第4拡散律速部18Eは、測定電極44Eよりも上流側に設けられ、下流側に(つまり、測定電極44Eへと)延伸し、特に、
図10に例示する第4拡散律速部18Eは、測定電極44Eよりも下流側まで延伸している。具体的には、測定電極44Eよりも上流側に配置された第4拡散律速部18Eは、下流側に延伸して、スペーサ層5に接している。
【0170】
これまでに説明してきたように、流路CH(E)の少なくとも2つの面(
図10に示す例では、上面及び下面)は、第4拡散律速部18Eによって規定されている。そして、前述の通り、第4拡散律速部18Eは、多孔質拡散層91Eよりも緻密である(気孔率が低い)。つまり、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Eよりも緻密な第4拡散律速部18Eを利用して、被測定ガスを測定電極44Eへと導く流路CH(E)の少なくとも2つの面を、規定する(区画する)。それゆえ、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91Eよりも緻密な第4拡散律速部18Eによって少なくとも2つの面が規定された流路CH(E)を利用して、被測定ガスを測定電極44Eへと導くことができる。ガスセンサ素子101は、例えば、流路CH(E)の途中で漏れ出した被測定ガスが、多孔質拡散層91Eによって拡散形態を変更されることなく、測定電極44Eへと至るといった事態が発生する可能性を、より抑えることができる。したがって、ガスセンサ素子101は、測定電極44Eへと至る被測定ガスの拡散形態を、被測定ガスが導かれる流路CH(E)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91Eによって、クヌーセン拡散のような好適な拡散形態へと、より近付けることができる。
【0171】
測定電極44Eは、測定電極44Dと同様に、第4拡散律速部18E(1)の下面に設けられる。測定用ポンプセル41は、測定電極44、外側ポンプ電極23、第2固体電解質層6、スペーサ層5、第1固体電解質層4、及び、酸素イオン伝導性を有する第4拡散律速部18Eにより構成される。なお、測定電極44Eを第4拡散律速部18E(1)の下面に設けることは必須ではなく、測定電極44Eは、第4拡散律速部18E(2)の上面に設けてもよい。
【0172】
多孔質拡散層91Eは、測定電極44Eに接する点を除いて、多孔質拡散層91Dと同様である。すなわち、多孔質拡散層91Eは、多孔質拡散層91A、91Cと同様に、測定電極44Eよりも上流側に設けられ、下流側に延伸しており、具体的には、測定電極44Eへと延伸して、測定電極44Eに接している。特に、
図10に例示する多孔質拡散層91Eは、測定電極44Eよりも下流側まで延伸して、測定電極44Eを覆っている。また、多孔質拡散層91Eは、これまでに説明した多孔質拡散層91等と同様に、気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。多孔質拡散層91Eの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、被測定ガスの流路CH(E)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている(塞いでいる)。
【0173】
(拡散律速部によって規定されない流路の例)
図11は、拡散律速部(第4拡散律速部18等)によって規定されていない流路CH(F)を備える素子基体100(ガスセンサ素子101)の要部を説明するための拡大図である。具体的には、
図11は、第4拡散律速部18を備えずに、測定電極44へと至る被測定ガスの流路CH(F)の所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91Fの一例を示す図である。ガスセンサ素子101は、
図2等を用いて説明した流路CH及び多孔質拡散層91に代えて、以下に詳細を説明する流路CH(F)及び多孔質拡散層91Fを備えていてもよい。
【0174】
これまでに説明してきた流路CH、CH(B)、CH(C)、CH(D)、CH(E)は、何れも、拡散律速部(第4拡散律速部18等)によって、少なくとも1つの面(例えば、下面)を規定されていた(区画されていた)。言い換えれば、これまでに説明してきたガスセンサ素子101は、「被測定ガス流通部7において被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与し、気孔率が、多孔質拡散層の気孔率よりも低く、測定電極44よりも上流側に設けられる」拡散律速部を備えていた。そして、係る拡散律速部によって、多孔質拡散層91等によって所定範囲(具体的には、70%以上)を塞がれる流路(上述の流路CH等)は、少なくとも1つの面を規定されていた。
【0175】
これに対して、
図11に例示する流路CH(F)は、何れの面も、係る拡散律速部(第4拡散律速部18等)によって規定されていない。具体的には、
図11に例示する流路CH(F)は、被測定ガス流通部7であり、上面を第2固体電解質層6の下面によって、下面を第1固体電解質層4の上面によって、側面をスペーサ層5の側面によって、規定されている(区画されている)。
【0176】
流路CH(F)の、被測定ガスの流れる方向DR(
図11に示す例では、紙面左側から紙面右側)に直交する面は、70%以上が、多孔質拡散層91Fの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面によって、占められている。すなわち、多孔質拡散層91Fの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、流路CH(F)(つまり、被測定ガス流通部7)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている(塞いでいる)。
【0177】
多孔質拡散層91Fは、何れの面も拡散律速部(第4拡散律速部18等)によって規定されていない流路CH(F)の所定範囲(具体的には、70%以上)を塞ぐ点を除いて、これまでに説明してきた多孔質拡散層91等と同様である。すなわち、多孔質拡散層91Fは、その気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。また、多孔質拡散層91Fは、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる。さらに、多孔質拡散層91Fの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、流路CH(F)の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占める(塞ぐ)。係る多孔質拡散層91Fによって、ガスセンサ素子101は、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とする。
【0178】
測定電極44は、被測定ガス流通部7(内部空間)において、多孔質拡散層91Fによって上流側が規定された(区画された)第3内部空所19F(内部空所)に配置される。そして、多孔質拡散層91Fによって所定範囲(70%以上)を塞がれた流路CH(F)を通って第3内部空所19Fへと導入された被測定ガスは、測定用ポンプセル41の動作により、窒素酸化物(NOx)濃度が測定される。第3内部空所19Fは、第4拡散律速部18に代えて、被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与することのできる多孔質拡散層91Fによって、上流側が規定されている点を除いて、第3内部空所19と同様である。
【0179】
図11を用いて説明してきたように、ガスセンサ素子101において、測定電極44へと至る被測定ガスの流路は、測定電極44よりも上流側に配置される拡散律速部(第4拡散律速部18等)によって少なくとも1つの面を規定されるものに限られない。ガスセンサ素子101において、「測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとするための多孔質拡散層」によって所定範囲を塞がれる流路は、「測定電極44よりも上流側に配置される拡散律速部」によって少なくとも1つの面を規定されるものに限られない。ガスセンサ素子101において、測定電極44へと至る被測定ガスの流路は、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の70%以上が、上述の多孔質拡散層の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面によって占められていればよい。測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層は、測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられ、測定電極44へと至る流路の所定範囲(具体的には、70%以上)を塞ぐことができればよい。多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路が、測定電極44よりも上流側に配置される拡散律速部によって少なくとも1つの面を規定されることは、ガスセンサ素子101にとって必須ではない。
【0180】
なお、
図11には、被測定ガス流通部7の長手方向(ガスセンサ素子101の長手方向)と、被測定ガスの流れる方向DRとが一致する例を示した。しかしながら、ガスセンサ素子101にとって、被測定ガス流通部7の長手方向(ガスセンサ素子101の長手方向)と、被測定ガスの流れる方向DRとが一致することは必須ではない。ガスセンサ素子101において、流路CH(F)における被測定ガスの流れる方向DRは、被測定ガス流通部7の長手方向に対して傾いていてもよく、例えば、被測定ガス流通部7の長手方向に直交する方向であってもよい。
【0181】
(先端保護層を多層構造とする例)
図1に例示する先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。しかしながら、ガスセンサ素子101が備える先端保護層について、全体に亘って気孔率が一定であることは必須ではない。ガスセンサ素子101が備える先端保護層は、多層構造を備えていてもよい。以下に、
図12を用いて、ガスセンサ素子101が備える先端保護層が多層構造である例について説明する。
【0182】
図12は、変形例に係る先端保護層200Gを備えるガスセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。具体的には、
図12は、互いに気孔率の異なる内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含む先端保護層200Gの一例を示す図である。ガスセンサ素子101は、
図1に例示する先端保護層200に代えて、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含む、
図12に例示する先端保護層200Gを備えてもよい。
【0183】
先端保護層200Gは、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面(素子基体100の先端面)を覆う。
図12に示す例では、先端保護層200Gは、素子基体100の先端面と、係る先端面と連続する素子基体100の4つの側面とを覆うように設けられている。
【0184】
先端保護層200Gは、少なくとも、内側先端保護層201及び外側先端保護層202を含む。内側先端保護層201は、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する。外側先端保護層202は、先端保護層200Gの最外面を構成する。内側先端保護層201の気孔率は、外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、また、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Gの厚みの30%以上、90%以下である。すなわち、先端保護層200Gは、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含み、内側先端保護層201の気孔率は外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Gの厚みの30%から90%である。
【0185】
当該構成では、先端保護層200Gは、少なくとも2層以上の層を含み、内側の層(例えば、内側先端保護層201)の方が、外側の層(例えば、外側先端保護層202)よりも気孔率が大きい。内側の層(内側先端保護層201)の気孔率を、外側の層(外側先端保護層202)の気孔率よりも大きくすることによって、ガスセンサ素子101は、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NOx感度の低下を回避することができる。
【0186】
特に、外側先端保護層202よりも気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みを厚くすることによって、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する内側先端保護層201の厚みの割合を高くすることによって、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現する。すなわち、気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みを十分に確保することで、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制し、特に、ガス導入口10に近い層(つまり、内側先端保護層201)が目詰まりを起こす可能性を抑制する。具体的には、先端保護層200Gの厚みに対する、気孔率の大きな内側先端保護層201の厚みの割合を、30%から90%とすることによって、ガス導入口10に接する内側先端保護層201が被毒物質等によって目詰まりを起こすのを回避することができる。
【0187】
また、先端保護層200Gは、先端保護層200と同様に、所定の厚みを有し、具体的には、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。すなわち、
図12に示す例において、外側先端保護層202の最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm以上である。先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1を十分に長くする(具体的には、0.2mm以上とする)ことで、つまり、先端保護層200Gの厚みを十分に厚くすることで、以下の効果を実現することができる。すなわち、被毒物質等が多い厳しい環境下においても、係る被毒物質等を先端保護層200Gにおいて確実にトラップして(捕捉して)、ガス導入口10付近での被毒物質等による目詰まりを抑制して、NO
x感度の低下を回避することができる。
【0188】
図12に例示する先端保護層200Gは、内側先端保護層201と外側先端保護層202とを含み、つまり、2層構造である。しかしながら、先端保護層200Gが2層構造であることは必須ではなく、先端保護層200Gが3層以上の層を含んでいてもよい。すなわち、先端保護層200Gは、内側先端保護層201及び外側先端保護層202に加えて、さらに別の層を含んでいてもよく、例えば、3層構造であってもよいし、4層以上の多層構造であってもよい。先端保護層200Gは、少なくとも、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201と、先端保護層200Gの最外面を構成する外側先端保護層202とを含んでいればよく、両者の間にさらに別の層を含んでいてもよい。先端保護層200Gにおいては、内側先端保護層201の気孔率が外側先端保護層202の気孔率よりも大きく、かつ、内側先端保護層201の厚みが先端保護層200Gの厚みの30%以上、90%以下であればよい。
【0189】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態に係るガスセンサ素子101は、素子基体100と、先端保護層200と、測定電極44と、多孔質拡散層91と、を含む。ガスセンサ素子101は、先端保護層200に代えて、先端保護層200Gを含んでいてもよい。また、ガスセンサ素子101は、測定電極44に代えて、測定電極44D及び測定電極44Eの何れかを含んでいてもよい。さらに、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91に代えて、多孔質拡散層91A、91C、91D、91E、及び91Fの何れかを含んでいてもよい。例えば、素子基体100は、内部空間として、被測定ガス流通部7を備え、被測定ガス流通部7には、素子基体100の表面に開口したガス導入口10から、被測定ガスが導入される。例えば、先端保護層200は、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う。測定電極44は、被測定ガス流通部7に設けられる。例えば、多孔質拡散層91は、その気孔率が、先端保護層200の気孔率よりも低く、また、5%以上かつ25%以下である。多孔質拡散層91が気孔率の異なる複数の面(層)を含む場合、多孔質拡散層91の平均気孔率は、5%以上かつ25%以下であり、先端保護層200の気孔率よりも低い。多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる。また、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面(面の面積)は、被測定ガスの流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面(面の面積)の70%以上を占める(塞ぐ)。
【0190】
当該構成では、気孔率が5%以上かつ25%以下であって、先端保護層200よりも気孔率の低い多孔質拡散層91は、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44より上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられる。そして、多孔質拡散層91の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面(面の面積)は、被測定ガスの流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面(面の面積)の70%以上を占めている。つまり、多孔質拡散層91は、測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設けられ、被測定ガスの流れる方向DRにおいて、流路CHの所定範囲(70%以上)を占めている(塞いでいる)。
【0191】
係る多孔質拡散層91によって、測定電極44の周囲の拡散形態を、つまり、流路CHを通って測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることができる。そのため、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、多孔質拡散層91によって、H2Oガスの、NOxガス(およびO2ガス)への影響を小さくすることができる。具体的には、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91によって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動および測定電極44の劣化を抑制することができる。
【0192】
ここで、測定電極44の周囲に拡散抵抗の大きな多孔質拡散層91を設けると、被毒物質等により多孔質拡散層91が目詰まりを起こす可能性がある。そこで、ガスセンサ素子101は、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層200を備える。そのため、ガスセンサ素子101は、先端保護層200によって被毒物質等をトラップし、つまり、先端保護層200によって被毒物質等を捉える(捕捉する)ことができる。
【0193】
特に、ガスセンサ素子101において、先端保護層200の気孔率は、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層91の気孔率よりも大きい(高い)。ガスセンサ素子101は、先端保護層200の気孔率を多孔質拡散層91の気孔率よりも大きくすることで、「先端保護層200が被毒物質等によって目詰まりしてしまい、NOx出力が低下する」といった事態を回避できる。
【0194】
以上に説明してきたように、ガスセンサ素子101は、測定電極44の周囲に、具体的には、被測定ガスの流れる方向DRにおいて測定電極44よりも上流側に、多孔質拡散層(例えば、多孔質拡散層91)を設けている。そして、係る多孔質拡散層の、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積は、被測定ガスの流路CHの、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の面積の70%以上を占めている。係る多孔質拡散層によって、測定電極44へと至る被測定ガス(特に、NOxガス)の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とすることで、ガスセンサ素子101は、以下の効果を実現する。すなわち、ガスセンサ素子101は、被測定ガス中にH2Oガスが存在していたとしても、多孔質拡散層91によって、H2Oガスの、NOxガス(およびO2ガス)への影響を小さくすることができる。
【0195】
ここで、係る多孔質拡散層を設ける位置について、測定電極44に近いほど望ましく、少なくとも測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となる位置に設ける。測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層は、測定電極44に接していてもよい。測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となる位置に設ける多孔質拡散層によって、ガスセンサ素子101は、H2Oガスの、NOxガス(およびO2ガス)への影響を抑制することができる。
【0196】
係る多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路CHは、少なくともその一面が、第4拡散律速部18によって規定されてもよい。流路CHは、例えば、第2固体電解質層6(例えば、その下面)と第4拡散律速部18(例えば、その上面)との間のスリットとして、構成されてもよい。ただし、多孔質拡散層によって所定範囲を塞がれる流路が、少なくとも1つの面を第4拡散律速部18によって規定されることは必須ではない。多孔質拡散層によって、被測定ガスの流れる方向DRに直交する面の所定範囲(具体的には、70%以上)を塞がれる流路は、被測定ガス流通部7であってもよい。
【0197】
測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離d2が、0.15mm以下となる位置に設ける多孔質拡散層は、下流側に延伸させてもよく、特に、測定電極44の配置される内部空所まで延伸させてもよい。例えば、測定電極44を第3内部空所19に配置し、流路CH(
図5に示す例では、第4拡散律速部18によって構成される流路CH)の入口に配置した多孔質拡散層(
図5に示す例では、多孔質拡散層91A)を、第3内部空所19まで延伸させてもよい。
【0198】
また、本発明の一観点に係るガスセンサは、ガスセンサ素子101を用いて、被測定ガス中の特定のガス成分の量を、言い換えれば、特定のガス成分の濃度を、測定するように構成されてもよい。係るガスセンサは、測定電極44へ到達するNOxの拡散形態を、分子拡散から、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態へと変更する。そのため、係るガスセンサは、多孔質拡散層91、91A、91C、91D、91E、91Fの何れかによって、高H2O濃度下でのNOxの分子拡散に起因すると考えられるNOx出力の変動及び測定電極44の劣化を抑制することができる。
【0199】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良及び変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状及び寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0200】
(変形例1)
これまで、測定電極44が第2固体電解質層6の下面に設けられる例を説明してきたが、ガスセンサ素子101において、測定電極44を第2固体電解質層6の下面に設けることは必須ではない。また、これまでに説明してきた例では、第2固体電解質層6の下面に配置した測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるよう、多孔質拡散層91を第4拡散律速部18(特に、その上面)と第2固体電解質層6(特に、その下面)との間に設けていた。しかしながら、ガスセンサ素子101において、多孔質拡散層91の配置位置は、第4拡散律速部18(特に、その上面)と第2固体電解質層6(特に、その下面)との間に限られるものではない。
【0201】
測定電極44は、例えば、第1固体電解質層4の上面に設けられてもよい。その場合、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下となるように、多孔質拡散層91は、第4拡散律速部18(特に、その下面)と第1固体電解質層4(特に、その上面)との間に設けてもよい。また、
図8及び
図10等を用いて説明したように、測定電極44は、拡散律速部(例えば、第4拡散律速部18Dまたは第4拡散律速部18E)の表面(上面または下面)に設けられてもよい。ガスセンサ素子101において、測定電極44の配置位置は、ガスセンサ素子101の利用状況などに応じて適宜選択することができる。また、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)は、測定電極44の配置位置に応じて、測定電極44よりも上流側に、測定電極44までの距離が0.15mm以下となる位置に設ければよい。
【0202】
(変形例2)
これまで、測定電極44が、第3内部空所19に配置される例を示してきた。しかしながら、ガスセンサ素子101にとって、測定電極44が、第3内部空所19に配置されることは必須ではない。また、ガスセンサ素子101が備える内部空所が複数(例えば、2室または3室)であることも必須ではなく、ガスセンサ素子101は、例えば、1室構造であってもよい。すなわち、ガスセンサ素子101にとって、拡散律速部(第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、第3拡散律速部16、及び第4拡散律速部18の少なくとも1つ)を備えることは必須ではない。ガスセンサ素子101は、測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)と、少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層(先端保護層200、200Gの何れか)を備えていればよい。ガスセンサ素子101を1室構造とするか、または、複数室構造(2室以上の内部空所を備える構造)とするかは、ガスセンサ素子101の利用状況などに応じて適宜選択することができる。同様に、ガスセンサ素子101において、測定電極44をどこに配置するかは、ガスセンサ素子101の利用状況などに応じて適宜選択することができる。
【0203】
[実施例]
上述の通り、ガスセンサ素子101は、測定電極44へと至る被測定ガスの拡散形態を所望のものとする多孔質拡散層91等と少なくとも素子基体100のガス導入口10が開口している面を覆う先端保護層200等とを備えることで、以下の効果を実現する。すなわち、ガスセンサ素子101は、多孔質拡散層91によって、例えば、高H2O濃度環境下での測定電極44の劣化を抑制し、また、耐久性を向上させることができる。ガスセンサ素子101は、先端保護層200によって、例えば、多孔質拡散層91の被毒物質等による目詰まりを抑制し、長期間にわたって測定精度を維持することができる。
【0204】
本件発明者らは、以下の実施例及び比較例等に係るガスセンサを作製し、各種の試験を行なって上述の効果を検証した。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0205】
【0206】
表1は、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るガスセンサ素子を備えるガスセンサについて、各ガスセンサ素子の構成、及び、判定1~4の各々に係る試験の結果を示す。なお、以下の説明においては、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るガスセンサ素子を備えるガスセンサを、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るガスセンサ(NOxセンサ)と略記することがある。
【0207】
(実施例1~9及び比較例1~5の各々の詳細)
実施例1は、
図1に例示する先端保護層200と、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。実施例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は12%である。実施例1に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(12%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(20%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例1に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0208】
実施例2は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.05mmであり、0.15mm以下である。実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は8%である。実施例2に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91の気孔率(8%)よりも高い。つまり、実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(8%)は、外側先端保護層202の気孔率(20%)よりも低い。また、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は60%であり、多孔質拡散層91の気孔率(8%)よりも高い。つまり、実施例2に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(8%)は、内側先端保護層201の気孔率(60%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、1020μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは280μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは740μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、73%であり、30%以上、90%以下である。
【0209】
実施例3は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.02mmであり、0.15mm以下である。実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は13%である。実施例3に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は17%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(13%)は、外側先端保護層202の気孔率(17%)よりも低い。また、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は62%であり、多孔質拡散層91の気孔率(13%)よりも高い。つまり、実施例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(13%)は、内側先端保護層201の気孔率(62%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、480μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは400μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは80μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、17%であり、実施例2と異なり、30%未満である。
【0210】
実施例4は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.05mmであり、0.15mm以下である。実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は10%である。実施例4に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は25%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、外側先端保護層202の気孔率(25%)よりも低い。また、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は65%であり、多孔質拡散層91の気孔率(10%)よりも高い。つまり、実施例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、内側先端保護層201の気孔率(65%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、990μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは360μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは630μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、64%であり、30%以上、90%以下である。
【0211】
実施例5は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.05mmであり、0.15mm以下である。実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は10%である。実施例5に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は15%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、外側先端保護層202の気孔率(15%)よりも低い。また、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は50%であり、多孔質拡散層91の気孔率(10%)よりも高い。つまり、実施例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、内側先端保護層201の気孔率(50%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、1050μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは200μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは850μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、81%であり、30%以上、90%以下である。
【0212】
実施例6は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は15%である。実施例6に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は23%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(15%)は、外側先端保護層202の気孔率(23%)よりも低い。また、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は55%であり、多孔質拡散層91の気孔率(15%)よりも高い。つまり、実施例6に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(15%)は、内側先端保護層201の気孔率(55%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、500μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは350μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは150μmである。つまり、実施例2、4、5と違い、実施例6において内側先端保護層201の厚み(150μm)は、外側先端保護層202の厚み(350μm)よりも薄い。ただし、実施例6における内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、実施例2、4、5と同様に、30%であり、30%以上、90%以下である。
【0213】
実施例7は、
図1に例示する先端保護層200と、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.13mmであり、0.15mm以下である。実施例7に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は20%である。実施例7に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」である。ただし、実施例2-6と異なり、実施例7において先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は30%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例7に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(20%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(30%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、200μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例7に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、200μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0214】
実施例8は、
図12に例示する先端保護層200Gと、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は25%である。実施例8に係るガスセンサについて、先端保護層200Gの有無は「有」であり、また、実施例1と異なり、先端保護層200Gは、内側先端保護層201を含む。具体的には、外側先端保護層202の気孔率は15%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも低い。つまり、実施例1-7と異なり、実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(25%)は、外側先端保護層202の気孔率(15%)よりも高い。ただし、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の気孔率は45%であり、多孔質拡散層91の気孔率(25%)よりも高い。つまり、実施例8に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(25%)は、内側先端保護層201の気孔率(45%)よりも低い。先端保護層200Gとガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200Gの最外面からガス導入口10までの距離d1は、900μmであり、200μm(0.2mm)以上である。先端保護層200Gの備える外側先端保護層202の厚みは300μmであり、先端保護層200Gの備える内側先端保護層201の厚みは600μmである。それゆえ、内側先端保護層201の厚み割合は、つまり、先端保護層200Gの厚みに対する、内側先端保護層201の厚みの割合は、67%であり、30%以上、90%以下である。
【0215】
実施例9は、
図1に例示する先端保護層200と、
図3に例示する多孔質拡散層91とを備えるガスセンサ素子101を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.15mmであり、0.15mm以下である。実施例9に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は10%である。実施例9に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」である。ただし、実施例2-6、8と異なり、実施例9において先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、実施例9に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(20%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、実施例9に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0216】
比較例1は、先端保護層200を備えていない点を除き、構造は実施例1と同様のセンサ素子を含むガスセンサである。具体的には、比較例1においては、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。比較例1に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は10%である。前述の通り、比較例1に係るガスセンサは、先端保護層200を備えていないため、先端保護層200の有無は「無」であり、外側先端保護層202の気孔率、及び内側先端保護層201の気孔率は、何れも、「-」である。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離、外側先端保護層202の厚み、内側先端保護層201の厚み、内側先端保護層201の厚み割合についても、何れも「-」である。
【0217】
比較例2は、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えず、
図1に例示する先端保護層200のみを備えるセンサ素子を含むガスセンサである。比較例2は、多孔質拡散層を備えていないため、測定電極44と多孔質拡散層との距離、多孔質拡散層の気孔率は、何れも「-」である。比較例2に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」である。ただし、実施例2-6、8と異なり、比較例2において先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は15%である。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、250μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、比較例2に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、250μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0218】
比較例3は、測定電極44と多孔質拡散層91との間の距離d2が0.15mmよりも大きい点を除き、構造は実施例1と同様のセンサ素子を含むガスセンサである。具体的には、比較例3においては、実施例1とは異なり、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.2mmであり、0.15mmよりも大きい。比較例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は15%である。比較例3に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」である。ただし、実施例2-6、8と異なり、比較例3において先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は25%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、比較例3に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(15%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(25%)よりも低い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、300μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、比較例3に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、300μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0219】
比較例4は、多孔質拡散層91の気孔率が25%よりも大きい点、及び、多孔質拡散層91の気孔率が外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率よりも高い点を除き、構造は実施例1と同様のセンサ素子を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。比較例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が一定な多孔質の層であるが、実施例1とは異なり、比較例4における多孔質拡散層91の気孔率は35%であり、25%よりも大きい。比較例4に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」である。ただし、実施例2-6、8と異なり、比較例4において先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は30%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも低い。つまり、実施例1とは異なり、比較例4に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(35%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(30%)よりも高い。また、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、言い換えれば、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、280μmであり、200μm(0.2mm)以上である。前述の通り、比較例4に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、280μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0220】
比較例5は、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)が0.2mm(200μm)未満である点を除き、構造は実施例1と同様のセンサ素子を含むガスセンサである。具体的には、測定電極44と多孔質拡散層91との間に空間(隙間)が有り、両者の間の距離d2は0.1mmであり、0.15mm以下である。比較例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91は、全体に亘って気孔率が5%以上かつ25%以下で一定な多孔質の層であり、具体的には、多孔質拡散層91の気孔率は10%である。比較例5に係るガスセンサについて、先端保護層200の有無は「有」であり、先端保護層200は、内側先端保護層201を含んでおらず、つまり、先端保護層200は、全体に亘って気孔率が一定である。具体的には、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率は20%であり、多孔質拡散層91の気孔率よりも高い。つまり、比較例5に係るガスセンサにおいて、多孔質拡散層91の気孔率(10%)は、外側先端保護層202(先端保護層200)の気孔率(20%)よりも低い。ただし、実施例1とは異なり、比較例5に係るガスセンサにおいて、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、つまり、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1は、0.2mm(200μm)未満である。具体的には、先端保護層200とガス導入口10との最短距離(d1)は、100μmであり、0.2mm(200μm)未満である。前述の通り、比較例5に係るガスセンサにおいて、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでいないため、外側先端保護層202の厚みは、先端保護層200の最外面からガス導入口10までの距離d1と同じであり、100μmである。また、内側先端保護層201の気孔率、内側先端保護層201の厚み、及び内側先端保護層201の厚み割合は、何れも「-」である。
【0221】
(判定1~4の各々の詳細)
判定1は、高H2O濃度による測定電極の劣化を抑制する効果を検証するものである。具体的には、先ずH2O濃度=25%、O2濃度=20.5%の環境を準備した。そして、係る環境下で、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るNOxセンサについて、2000時間の長期耐久試験を行った。本件発明者らは、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るNOxセンサが長期間にわたって連続的に使用された場合の、特性の劣化(高H2O濃度による測定電極の劣化)の程度を把握するべく、以下の加速劣化試験条件の下で、この長期耐久試験を行なった。すなわち、本件発明者らは、発熱部72による加熱温度を、センサ素子駆動温度よりも所定の温度(本長期耐久試験においては摂氏100度)だけ高い温度とした加速劣化試験条件の下で、長期耐久試験を行なった。センサ素子駆動温度は、NOxセンサが使用される(実際に使用される)際の、発熱部72による加熱温度であり、ガスセンサ素子101が駆動される際の、加熱温度と捉えることができる。試験の前後で、モデルガスを用いた評価を行い、NOx=500ppmを流した時のNOx出力の変化の度合いを調査した。「A」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス10%よりも大きく、20%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度変化率がプラスマイナス20%よりも大きかった」ことを示す。
【0222】
判定2は、NOxガスが流れている時のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する効果を検証するものであり、具体的には、以下の検証(調査)を行なった。すなわち、判定1の試験実施後、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るNOxセンサについて、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=3%をベースとして、NOx濃度=500ppm、H2O濃度=15%に変化させた時の、NOx出力の変化度合を調査した。「A」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率(変化度合)がプラスマイナス5%以内であった」ことを示す。「B」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率がプラスマイナス10%以内であった」ことを示す。「F」は、「H2O濃度=3%の時から、H2O濃度=15%の時へのNOx感度の変化率がプラスマイナス10%よりも大きかった」ことを示す。
【0223】
判定3は、先端保護層の「被毒物質をトラップして、測定電極の周囲(例えば、多孔質拡散層)での目詰まりを抑制する効果」を検証するものであり、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るNOxセンサについて、以下のMg被毒試験を行なった。すなわち、Mgイオン濃度が5mmol/LであるMgイオン溶液を10μL滴下し、1分間静置後、ガスセンサを摂氏800度で10分間駆動させるサイクルを10回繰り返し、合計100μLのMgイオン溶液を滴下した。そして、試験前後でのNOx出力の変化度合(変化率)を調査した。具体的には、先ず、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るNOxセンサを使用して、NOx濃度=500ppmのNOxモデルガス中でNOx感度測定を行い、この感度を初期NOx感度とした。そして、各NOxセンサのガス導入口に上述のMgイオン溶液を10μL滴下し、1分間静置後、各NOxセンサを摂氏800度で10分間駆動させるというサイクルを10回繰り返し、合計100μLのMgイオン溶液を滴下した。その後、各NOxセンサを使用して、再び上述のNOxモデルガス中でNOx感度の測定を行い、測定されたNOx感度を初期NOx感度と比較して、感度低下率を算出した。「A」は、「NOx感度の変化率が10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度の変化率が20%よりも大きく、30%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度の変化率が30%よりも大かった」ことを示す。
【0224】
判定4は、判定3と同様に、先端保護層の「測定電極の周囲での目詰まりを抑制する効果」を検証するものだが、判定3の方法よりも厳しい条件において、係る効果を検証するものであり、具体的には、先端保護層が目詰まりを起こす可能性を高くした。すなわち、判定4では、判定3と同様のMg被毒試験を行ない、ただし、滴下するMgイオン溶液を合計500μLとした。そして、試験前後でのNOx出力の変化度合(変化率)を調査し、つまり、NOx濃度=500ppmのNOxモデルガスを流した時のNOx出力の変化度合を調査した。「A」は、「NOx感度の変化率が10%以内であった」ことを示す。「B」は、「NOx感度の変化率が20%よりも大きく、30%以内であった」ことを示す。「F」は、「NOx感度の変化率が30%よりも大きかった」ことを示す。
【0225】
(表1から確認できる事項の概要)
以下、実施例1~9及び比較例1~5の各々に係るセンサ素子を備えるガスセンサについての、判定1~4の各々に係る試験の結果を示す表1から確認できる事項について、その概要を整理する。
【0226】
判定3(及び判定4)における実施例1-9と比較例1との対比結果に示される通り、先端保護層200(または先端保護層200G)を備えることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、先端保護層200または先端保護層200Gを備える実施例1-9の判定3の結果(「A」または「B」)は何れも、先端保護層200も先端保護層200Gも備えていない比較例1の判定3の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、先端保護層200(または先端保護層200G)を備えることで、「被毒物質をトラップして、測定電極44の周囲(例えば、多孔質拡散層91)での目詰まりを抑制する」ことができることが確認された。
【0227】
判定1及び判定2における実施例1-9と比較例2との対比結果に示される通り、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、多孔質拡散層91等を備える実施例1-9の判定1の結果(「A」または「B」)は何れも、多孔質拡散層91等を備えていない比較例2の判定1の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、「測定電極の劣化(特に、高H2O濃度による測定電極の劣化)を抑制する」ことができることが確認された(判定1)。また、多孔質拡散層91等を備える実施例1-9の判定2の結果(「A」または「B」)は何れも、多孔質拡散層91等を備えていない比較例2の判定2の結果(「F」)に比べて、良好である。したがって、ガスセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)を備えることで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された(判定2)。
【0228】
測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)から測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とするか否かで、実施例1と比較例3とで、判定2の結果が大きく異なっている。具体的には、距離d2が0.1mm(0.15mm以下)である実施例1の判定2の結果は「B」であるのに対し、距離d2が0.2mm(0.15mmより大きい)である比較例3の判定2の結果は「F」である。そのため、測定電極44の周囲の拡散形態を好適なものとする多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)から測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とすることで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、多孔質拡散層から測定電極44までの距離d2を0.15mm以下とすることで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された。
【0229】
測定電極44までの距離d2が0.15mm以下である多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)について、「気孔率を、5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」か否かで、実施例1と比較例4とで、判定1、2の結果が大きく異なっている。具体的には、「気孔率が、5%以上かつ25%以下で、先端保護層の気孔率よりも低い」多孔質拡散層91を備える実施例1の判定1、2の結果は、何れも「B」である。これに対して、「気孔率が、25%より大きく、かつ、先端保護層の気孔率よりも高い」多孔質拡散層91を備える比較例4の判定1、2の結果は、何れも「F」である。そのため、測定電極44までの距離d2が0.15mm以下である多孔質拡散層(多孔質拡散層91等)の気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、ガスセンサは、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、係る多孔質拡散層の気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、高H2O濃度による測定電極の劣化を抑制することができることが確認された(判定1)。また、ガスセンサは、係る多孔質拡散層の気孔率を「5%以上かつ25%以下とし、さらに、先端保護層の気孔率よりも低くする」ことで、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができることが確認された(判定2)。
【0230】
なお、実施例8では、多孔質拡散層91の気孔率は、5%以上かつ25%以下だが、実施例1-7と異なり、外側先端保護層202の気孔率よりも高い。そして、実施例2-7の判定2の結果は何れも「A」であるのに対して、実施例8の判定2の結果は「B」である。ただし、実施例8では、多孔質拡散層91の気孔率は、内側先端保護層201の気孔率よりも低く、つまり、素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201の気孔率よりも低い。これに対して、比較例4では、先端保護層200は内側先端保護層201を含んでおらず、また、多孔質拡散層91の気孔率は、25%よりも大きく、かつ、先端保護層200の気孔率よりも高い。そして、比較例4の判定2の結果は「F」である。そのため、多孔質拡散層91の気孔率を、5%以上かつ25%以下とし、さらに、少なくとも「素子基体100のガス導入口10が開口している面に接する内側先端保護層201の気孔率よりも低くする」ことで、以下の効果を実現できると考えられる。すなわち、「NOx感度(NOx出力)のH2O依存性を抑制し、測定精度を向上する」ことができると考えられる。
【0231】
先端保護層200(または先端保護層200G)の最外面からガス導入口10までの距離d1を0.2mm(200μm)以上とするか否かで、実施例1と比較例5とで、判定3、4の結果が異なっている。具体的には、『最外面からガス導入口10までの距離d1が300μmであり、0.2mm以上である』先端保護層200を備える実施例1の判定3、4の結果は、それぞれ、「A」、「B」である。これに対して、『最外面からガス導入口10までの距離d1が100μmであり、0.2mm未満である』先端保護層200を備える比較例5の判定3、4の結果は、それぞれ、「B」、「F」である。そのため、ガスセンサは、距離d1を0.2mm以上とすることで、以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、距離d1を0.2mm以上とすることで、「被毒物質をトラップして、測定電極の周囲(例えば、多孔質拡散層)での目詰まりを抑制する」ことができることが確認された(判定3)。また、ガスセンサは、距離d1を0.2mm以上とすることで、先端保護層が目詰まりを起こし得るような、被毒物質等の多い厳しい環境下においても、「被毒物質をトラップして、測定電極の周囲での目詰まりを抑制する」ことができるのが確認された(判定4)。
【0232】
実施例1と、実施例2、4-6とを対比すると、実施例2、4-6の方が、実施例1よりも、判定1、2、及び4の結果が改善している。また、実施例7と、実施例2、4-6とを対比すると、実施例2、4-6の方が、実施例7よりも、判定3及び4の結果が改善している。さらに、実施例2、4-6の判定4の結果が何れも「A」であるのに対し、実施例3の判定4の結果は「B」である。ここで、前述の通り、実施例2、4-6は、実施例1及び7と異なり、以下の構成を備える。すなわち、実施例2、4-6は、外側先端保護層202と、外側先端保護層202よりも気孔率の大きな内側先端保護層201とを含む先端保護層200Gを備え、かつ、内側先端保護層201の厚みは、先端保護層200Gの厚みの30%以上、90%以下である。また、実施例2、4-6と異なり、実施例3において、内側先端保護層201の厚みの割合は、30%未満である。それゆえ、係る先端保護層200Gを備え、内側先端保護層201の厚みを、先端保護層200Gの厚みの30%以上、90%以下とすることで、ガスセンサは、少なくとも、判定4に係る以下の効果を実現することができることが確認された。すなわち、ガスセンサは、「先端保護層自体が目詰まりを起こし得るような、被毒物質等が多い厳しい環境下」においても、「被毒物質をトラップして、測定電極の周囲(例えば、多孔質拡散層)での目詰まりを抑制する」ことができることが確認された。
【0233】
(NO
x感度の変化率について)
図13は、測定電極の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層の有無によるNO
x出力の経時変化の違いを示すグラフである。具体的には、
図13は、測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層(91、91A、91C、91D、91E、91Fの何れか)の有無を除いて、同様の構造を備えるNO
xセンサについて、高H
2O濃度下での各NO
xセンサのNO
x出力の経時変化を示している。「高H
2O濃度下」とは、例えば、H
2O濃度=25%である。
図13のグラフにおいて、横軸は時間(駆動時間)、縦軸はNO
x感度の変化率である。黒色の実線は、「測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層を備えるNO
xセンサ」のNO
x出力の経時変化を示している。また、灰色の点線は、「測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層を備えないNO
xセンサ(具体的には、拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNO
xセンサ)」のNO
x出力の経時変化を示している。
【0234】
具体的には、モデルガス装置を用いてNO
x濃度=500ppmで、残余が窒素であるモデルガス雰囲気下で、上述の各NO
xセンサについて、NO
x電流(ポンプ電流Ip2)を測定した。各駆動時間における測定結果から算出したNO
x感度(NO
x感度の変化率)をプロットして
図13に示すグラフを作成した。
【0235】
図13に示される通り、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けていないNO
xセンサ(拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNO
xセンサ)では、高H
2O濃度下での長期駆動試験において、NO
x感度の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。これに対し、多孔質拡散層を備えるNO
xセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態をクヌーセン拡散のような好適なものとすることで、高H
2O濃度下でも、NO
x感度の変動(経時変化)を抑制することができている。
【0236】
(NO
x出力のH
2O依存性について)
図14は、測定電極の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層の有無によるNO
x出力のH
2O依存性の違いを示すグラフである。具体的には、
図14は、測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層(91、91A、91C、91D、91E、91Fの何れか)の有無を除いて、同様の構造を備えるNO
xセンサについて、NO
x出力のH
2O依存性の違いを示している。
図14のグラフにおいて、横軸は時間(駆動時間)、縦軸はNO
x感度のH
2O依存性である。黒色の実線は、「測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層を備えるNO
xセンサ」のNO
x出力のH
2O依存性の経時変化を示している。また、灰色の点線は、「測定電極44の周囲で流路CHの所定範囲を塞ぐ多孔質拡散層を備えないNO
xセンサ(具体的には、拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNO
xセンサ)」のNO
x出力のH
2O依存性の経時変化を示している。
【0237】
NO
x出力のH
2O依存性は、以下の条件において計測したNO
x電流(ポンプ電流Ip2)の変化度合(変化率)から求めた。すなわち、NO
x濃度=500ppm、H
2O濃度=3%をベースとして、NO
x濃度=500ppm、H
2O濃度=15%に変化させた時のNO
x電流の変化率から、NO
x出力のH
2O依存性を算出した。各駆動時間におけるNO
x出力のH
2O依存性(NO
x電流の変化率)をプロットして
図14に示すグラフを作成した。
【0238】
図14に示される通り、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けていないNO
xセンサ(拡散律速部によるスリット構造のみを備える、従来のNO
xセンサ)では、高H
2O濃度下での長期駆動試験において、NO
x出力のH
2O依存性の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。これに対し、多孔質拡散層を備えるNO
xセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態を、クヌーセン拡散のような、十分に狭い流路の壁面との衝突を繰り返しながら拡散する形態とし、高H
2O濃度下でも、NO
x出力のH
2O依存性の経時変化を抑制する。これに対し、多孔質拡散層を備えるNO
xセンサは、測定電極44の周囲の拡散形態をクヌーセン拡散のような好適なものとすることで、高H
2O濃度下でも、NO
x出力のH
2O依存性の変動(経時変化)を抑制することができている。
【0239】
(各種検証により確認できた事項)
これまでに説明してきた表1、
図13及び
図14の試験結果(検証結果)の一部は、以下のように整理することもできる。すなわち、測定電極44の周囲に多孔質拡散層を設けず、拡散律速部によるスリット構造のみを備えるガスセンサ(従来のNO
xセンサ)では、高H
2O濃度下での長期駆動試験において、NO
x感度、及び、高H
2O濃度に対するNO
x出力の変動が大きい。これは、従来の「拡散律速部によるスリット構造」では、測定電極44の周囲における拡散形態は、分子拡散が支配的であるためと考えられる。
【0240】
そこで、気孔率が5%以上かつ25%以下である多孔質拡散層(例えば、多孔質拡散層91など)を、測定電極44より上流側に設け、特に、係る多孔質拡散層から測定電極44までの距離d2を十分に小さくした(具体的には、0.15mm以下とした)。係る構成を採用したガスセンサでは、以下の効果が確認された。すなわち、係るガスセンサは、NOx感度の変化を抑制することができている。測定電極44の周囲においてクヌーセン拡散が支配的となると、分子量が小さいH2Oガスが存在したとしても、NOx及びO2ガスの拡散のしやすさは変化し難く、測定電極44へ到達するNOx、O2ガスの増加も少ないためと考えられる。
【0241】
表1の結果に示される通り、先端保護層(200、200G)の最外面からガス導入口10までの最短距離(距離d1)は、0.2mm以上とすることが好ましい。先端保護層の最外面からガス導入口10までの距離d1を大きくすることで、ガスセンサは、目詰まり物質(被毒物質等)が多い厳しい環境に曝されたとしても、ガス導入口10付近での目詰まりを抑制し、NOx感度の低下を抑制ことができる。すなわち、先端保護層の最外面からガス導入口10までの距離d1を、0.2mm以上とすることで、ガスセンサは、被毒物質等が多い厳しい環境に曝されたとしても、ガス導入口10付近での目詰まりを抑制し、NOx感度の低下を抑制ことができる。
【0242】
先端保護層は、さらに、少なくとも2層以上の層を含み、内側の層(内側先端保護層201)の気孔率を、外側の層(外側先端保護層202)の気孔率よりも大きく(高く)することが望ましい。特に、先端保護層において、先端保護層全体の厚みに対する、内側の層の厚みの割合は、30%以上、90%以下とすることが望ましい。外側の層よりも気孔率の大きい内側の層の厚みの、先端保護層全体の厚みに対する割合を高くすることによって、ガス導入口10に近い層(つまり、内側の層)が被毒物質等によって目詰まりを起こす可能性を抑制することができる。
【符号の説明】
【0243】
100…素子基体、101…センサ素子、200、200G…先端保護層、
201…内側先端保護層、202…外側先端保護層、10…ガス導入口、
7…被測定ガス流通部(内部空間)、44、44D、44E…測定電極、
91、91A、91C、91D、91E、91F…多孔質拡散層、
18、18B、18C、18D、18E…第4拡散律速部(拡散律速部)、
19、19B、19C、19D、19E、19F…第3内部空所(内部空所)、
CH、CH(B)、CH(C)、CH(D)、CH(E)、CH(F)…流路