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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147341
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アルミニウム製フィン材
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/12 20060101AFI20241008BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20241008BHJP
   F28F 19/04 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F28F1/12 G
F28F21/08 A
F28F19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060290
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】覚道 直治
(72)【発明者】
【氏名】安宅 圭
(72)【発明者】
【氏名】館山 慶太
(57)【要約】
【課題】潤滑性皮膜層を備え、機能層による特性と防カビ性が共に良好なアルミニウム製フィン材の提供。
【解決手段】アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備え、前記潤滑性皮膜層は防カビ剤を含み、室温で、前記防カビ剤0.5gを添加したイオン交換水50mL中に銅を14日間浸漬させた後の、前記銅表面の赤外吸収スペクトルにおいて、C-H結合に由来する2800~3000cm-1に観測されるピークの強度が0.15以下である、アルミニウム製フィン材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備え、
前記潤滑性皮膜層は防カビ剤を含み、
室温で、前記防カビ剤0.5gを添加したイオン交換水50mL中に銅を14日間浸漬させた後の、前記銅表面の赤外吸収スペクトルにおいて、C-H結合に由来する2800~3000cm-1に観測されるピークの強度が0.15以下である、アルミニウム製フィン材。
【請求項2】
前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の含有量は0.35mg/dm以上である、請求項1に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項3】
前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の濃度は5~65質量%である、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項4】
前記潤滑性皮膜層は、抗菌剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項5】
前記潤滑性皮膜層の皮膜量は1.0~10mg/dmである、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項6】
前記親水性皮膜層の皮膜量は0.1~25mg/dmである、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項7】
前記アルミニウム板と前記親水性皮膜層との間に、耐食性皮膜層をさらに備える、請求項1又は2に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項8】
前記耐食性皮膜層は抗菌剤を含む、請求項7に記載のアルミニウム製フィン材。
【請求項9】
前記耐食性皮膜層の皮膜量は3~60mg/dmである、請求項7に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製フィン材に関し、特に、空調機等の熱交換器に好適に用いられるアルミニウム製フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどの様々な分野の製品に用いられている。熱交換器のフィンの材料としては、熱伝導性、加工性、耐食性などに優れるアルミニウムやアルミニウム合金が一般的である。プレートフィン式やプレートアンドチューブ式の熱交換器は、アルミニウム製フィン材が狭い間隔で並列した構造を有している。
【0003】
熱交換器のアルミニウム製フィン材は、表面温度が露点以下になると結露水が付着した状態になる。この結露水等の影響により、アルミニウム製フィン材表面が湿潤状態となると、最近やカビ等が発生しやすい。
【0004】
これに対し特許文献1では、耐食性樹脂よりなる第1塗膜(耐食性皮膜層)と親水性樹脂よりなる第2塗膜(親水性皮膜層)に、防カビ性を有する物質を含有させた熱交換器用アルミニウムフィン材が開示されている。これにより、親水性と、防カビ性の速効性及び持続性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-186149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような熱交換器用アルミニウムフィン材に対し、優れたプレス加工性の付与を目的として、ポリエチレングリコール(PEG)からなる第3塗膜、すなわち潤滑性皮膜層を設ける場合がある。
【0007】
しかしながら、防カビ性を有する物質を含有させた層の上に潤滑性皮膜層等のさらなる機能層を設けると、上記機能層がない場合と同等の防カビ性能を得るためには、防カビ剤の添加量を増やす必要がある。防カビ剤の添加量の増加は、上記機能層本来の機能を果たすために必要な成分の含有率を下げることに繋がる。また、防カビ剤の添加量増加に伴いコストも増大する。
【0008】
そこで本発明は、潤滑性皮膜層を備え、機能層による特性と防カビ性が共に良好なアルミニウム製フィン材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対し、本発明者らが検討を進めたところ、潤滑性皮膜層に防カビ剤を含有させることで、その添加量を増加させることなく、良好な防カビ性を実現できることに想到した。防カビ剤の添加量が少なくてよいことから、機能層である、潤滑性皮膜層による潤滑性や親水性皮膜層による親水性といった特性も良好なものとできる。
【0010】
しかしながら、潤滑性皮膜層に防カビ剤を含有させると、アルミニウム製フィン材の使用段階において防カビ剤が溶出しやすく、熱交換器の銅部材を腐食させやすいことが分かった。これらから、銅と反応しない防カビ剤を用いることも重要であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の[1]~[9]に係るものである。
[1] アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備え、前記潤滑性皮膜層は防カビ剤を含み、室温で、前記防カビ剤0.5gを添加したイオン交換水50mL中に銅を14日間浸漬させた後の、前記銅表面の赤外吸収スペクトルにおいて、C-H結合に由来する2800~3000cm-1に観測されるピークの強度が0.15以下である、アルミニウム製フィン材。
[2] 前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の含有量は0.35mg/dm以上である前記[1]に記載のアルミニウム製フィン材。
[3] 前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の濃度は5~65質量%である、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[4] 前記潤滑性皮膜層は、抗菌剤をさらに含む、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[5] 前記潤滑性皮膜層の皮膜量は1.0~10mg/dmである、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[6] 前記親水性皮膜層の皮膜量は0.1~25mg/dmである、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[7] 前記アルミニウム板と前記親水性皮膜層との間に、耐食性皮膜層をさらに備える、前記[1]又は[2]に記載のアルミニウム製フィン材。
[8] 前記耐食性皮膜層は抗菌剤を含む、前記[7]に記載のアルミニウム製フィン材。
[9] 前記耐食性皮膜層の皮膜量は3~60mg/dmである、前記[7]に記載のアルミニウム製フィン材。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るアルミニウム製フィン材は、潤滑性皮膜層を備え、機能層による特性と防カビ性が共に良好である。また、防カビ剤による銅の腐食を防げることから、アルミニウム製フィン材の使用段階において防カビ剤が溶出しても、熱交換器の銅部材を腐食させることがない。その結果、銅管との密着性を維持し、熱交換性能の低下を抑制できる。また、銅管に穴が開くことによる内部の冷媒の漏出や、銅部材の変色による外観変化も防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るアルミニウム製フィン材を実施するための形態について、詳細に説明する。なお数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<アルミニウム製フィン材>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材(以下、単に「フィン材」と称することがある。)は、アルミニウム板と、上記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備える。
【0015】
《潤滑性皮膜層、防カビ剤》
防カビ剤は潤滑性皮膜層に含まれる。そして、室温で、防カビ剤0.5gを添加したイオン交換水50mL中に銅を14日間浸漬させた後の、上記銅表面の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)において、C-H結合に由来する2800~3000cm-1に観測されるピークの強度が0.15以下である。これにより、本実施形態において必要な銅との未反応性を有していると判断でき、アルミニウム製フィン材の使用段階において、潤滑性皮膜層から防カビ剤が溶出しても、防カビ剤による熱交換器の銅部材の腐食を抑制できる。
上記ピークの強度は0.1以下が好ましく、0.1未満がより好ましく、0.05以下がさらに好ましい。ピークの強度の下限は特に限定されず0、すなわちピークが検出されなくてもよい。
【0016】
また簡易的には、銅を防カビ剤と接触させた前後で、目視において銅表面に変色や何等かの変化が見られなければ、上記ピークの強度が0.15以下である可能性が高いと判断できる。
【0017】
本明細書における防カビ剤の対象とするカビとは、多細胞で構成されている2~10μm程度の菌類であり、例えば、アオカビ、クロコウジカビ、クロカビ、白癬菌等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
防カビ剤は、銅と反応しなければ特に限定されないが、例えば、イミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾリン系、ピリジン系、トリアジン系、アルデヒド系、フェノール系、ピグアナイド系、ニトリル系、ハロゲン系、アニリド系、ジスルフィド系、チオカーバメート系、4級アンモニウム塩系、有機金属系、アルコール系、カルボン酸系、天然系等が挙げられる。中でも、イミダゾール系、チアゾール系が好ましい。
また、銀イオンとゼオライトからなる防カビ剤等も好ましい。
防カビ剤は、1種のみを含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。また、防カビ剤が抗菌性等の他の性能を併せ持っていてもよい。
【0019】
銅と反応しない防カビ剤のより好ましい具体例として、大和化学工業株式会社製の、アモルデン D-CL50P(製品名)、アモルデン NBP-8(製品名)、アモルデン PPC(製品名)、アモルデン V-GPZ(製品名)、アモルデン V-CHG(製品名)、アモルデン MCD(製品名)や、株式会社シナネンゼオミック製のゼオミック等が挙げられる。中でもアモルデンMCDが好ましい。
【0020】
潤滑性皮膜層における防カビ剤の含有量は0.35~6.0mg/dmが好ましい。ここで、より良好な防カビ性を得る観点から、防カビ剤の含有量は0.35mg/dm以上が好ましく、0.50mg/dm以上がより好ましく、0.70mg/dm以上がさらに好ましい。また、防カビ剤の含有量は、潤滑性皮膜層としてより良好な潤滑性を得る観点から、6.0mg/dm以下が好ましく、5.9mg/dm以下がより好ましい。なお、本実施形態に係るフィン材は、防カビ剤を潤滑性皮膜層に含有させることができるため、防カビ剤の含有量を従来より少ない上記0.35mg/dm程度としても、十分に良好な防カビ性が得られる。
【0021】
潤滑性皮膜層における防カビ剤の濃度は5~65質量%が好ましい。ここで、より良好な防カビ性を得る観点から、上記防カビ剤の濃度は5質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、防カビ剤の濃度は、潤滑性皮膜層がより良好な潤滑性を発現する観点から、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0022】
潤滑性皮膜層は、親水性皮膜層の表面に形成される層であり、フィン材表面の潤滑性を高めることで良好な加工性を得ることを目的とする層である。
潤滑性皮膜層を構成する樹脂は、従来公知の潤滑性を高める樹脂を使用できる。それにより、フィン材表面の摩擦係数が低減されて潤滑になり、フィン材をフィンに加工する際のプレス成形性等が向上する。
【0023】
潤滑性を高める樹脂は、例えば、親水基を有する樹脂が挙げられる。親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0024】
水酸基を有する樹脂は、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。ヒドロキシ基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。ポリエーテル基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)やその変性化合物等が挙げられる。ポリエチレングリコール(PEG)の変性化合物とは、例えば、ウレタン変性PEG、エーテル変性PEG等が挙げられる。これらの他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も適用できる。
【0025】
潤滑性皮膜層には、上記樹脂及び防カビ剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜層の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防汚剤、防錆剤、抗菌剤等が挙げられる。中でも、抗菌剤を含むことが好ましい。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0026】
本明細書における抗菌剤の対象とする菌とは、単細胞で構成されており、それが分裂することで繁殖する、0.5~5μm程度の菌類であり、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ピロリ菌等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
潤滑性皮膜層に含まれる抗菌剤は、防カビ剤と同様、銅と反応しないものを用いることが好ましい。例えば、イミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾリン系、ピリジン系、トリアジン系、アルデヒド系、フェノール系、ピグアナイド系、ニトリル系、ハロゲン系、アニリド系、ジスルフィド系、チオカーバメート系、4級アンモニウム塩系、有機金属系、アルコール系、カルボン酸系、天然系等が挙げられる。中でも、イミダゾール系、有機金属系が好ましい。
抗菌剤は、1種のみを含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。
【0028】
銅と反応しない抗菌剤として、より好ましい具体例として、大和化学工業株式会社製のアモルデン AG-S1000(製品名)等が挙げられる。
潤滑性皮膜層が防カビ剤とは別に抗菌剤も含む場合、潤滑性皮膜層における抗菌剤の含有量は、0.0001mg/dm超15mg/dm以下が好ましい。ここで、良好な抗菌性を得る観点から、上記抗菌剤の含有量は0.0001mg/dm超が好ましく、0.0005mg/dm以上がより好ましく、0.001mg/dm以上がさらに好ましい。また、潤滑性皮膜層としてより良好な潤滑性を得る観点から、上記抗菌剤の含有量は15mg/dm以下が好ましく、10mg/dm以下がより好ましい。
【0029】
潤滑性皮膜層は、水酸基を有する樹脂等の潤滑性を高める樹脂を含有する塗料組成物を親水性皮膜層上に、塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
潤滑性皮膜層は、最外層とすることが好ましい。
【0030】
潤滑性皮膜層の皮膜量は、0.5~15mg/dmが好ましく、1.0~10mg/dmがより好ましい。ここで、十分な潤滑性を得る観点から、潤滑性皮膜層の皮膜量は0.5mg/dm以上が好ましく、1.0mg/dm以上がより好ましく、1.5mg/dm以上がさらに好ましく、2.0mg/dm以上が特に好ましい。一方、良好な潤滑性を得る観点から、潤滑性皮膜層の皮膜量は15mg/dm以下が好ましく、10mg/dm以下がより好ましい。
【0031】
潤滑性皮膜層の厚みや皮膜量は、潤滑性皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0032】
《親水性皮膜層》
親水性皮膜層はフィン材の表面に親水性を付与する皮膜層であり、従来公知の親水性樹脂を含有する。
親水性樹脂は、親水基を有していればよく、1種の樹脂を含有しても、2種以上の樹脂を含有してもよい。親水基としては、例えば水酸基(ヒドロキシ基)、カルボキシル基、スルホン酸基、ポリエーテル基等が挙げられる。
【0033】
水酸基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。カルボキシル基を有するものとしては、ポリアクリル酸(PAA)等が挙げられる。ヒドロキシ基とカルボキシル基を有するものとしては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。スルホン酸基を有するものとしては、スルホエチルアクリレート等が挙げられる。ポリエーテル基を有するものとしては、ポリエチレングリコール(PEG)や、その変性化合物等が挙げられる。
【0034】
中でも、親水性皮膜層の表面に潤滑性皮膜層が形成されていても、所望する親水性をより好適に発現する観点から、親水性樹脂は、スルホン酸基を含むもの、ポリエーテル基、すなわちエーテル結合を含むものが好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むものがより好ましく、スルホン酸基及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂が特に好ましい。
【0035】
スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂とは、不飽和二重結合基とスルホン酸基を含有するアクリル酸樹脂であり、例えば3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(HAPS)が代表的であるが、その他にアクリルアミドメチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。なお、スルホン酸及びエーテル結合を含むアクリル酸樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0036】
親水性樹脂は、上記の他に、親水基を有する単量体の2種以上の共重合体も使用できる。例えばアクリル酸とスルホエチルアクリレートの共重合体が挙げられる。共重合体は、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体等、単量体の配列方法には特に限定されない。
【0037】
親水性皮膜層は、親水性樹脂に加えて、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。これにより、親水性皮膜層上に形成されている潤滑性皮膜層による加工性と共に、より良好な親水性を両立できる。これは、界面活性剤の表出作用によるものだと考えられる。
【0038】
界面活性剤はアニオン型、カチオン型、ノニオン型のいずれも適用可能であるが、親水性皮膜層中での分散のしやすさの観点からノニオン型界面活性剤が好ましい。
【0039】
ノニオン型界面活性剤としては、例えばエチレンジアミンポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン縮合物、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等が挙げられる。
【0040】
親水性皮膜層は、親水性樹脂を含有する塗料組成物を、後述する、アルミニウム板、下地処理層、又は耐食性皮膜層の上に、塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0041】
親水性皮膜層には、親水性樹脂や界面活性剤の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜層の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
親水性皮膜層の厚みや皮膜量は、親水性皮膜層の形成に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0043】
親水性皮膜層の皮膜量は、0.1~28mg/dmが好ましく、0.1~25mg/dmがより好ましい。ここで、より良好な親水性を得る観点から、親水性皮膜層の皮膜量は0.1mg/dm以上が好ましく、0.3mg/dm以上がより好ましく、0.5mg/dm以上がさらに好ましい。また、親水性皮膜層形成時の良好な塗布作業性を得る観点や、親水性皮膜層のアルミニウム板側に耐食性皮膜層等の他の機能を有する皮膜層が形成されている場合には、かかる皮膜層の他の機能を良好に発揮する観点から、親水性皮膜層の皮膜量は28mg/dm以下が好ましく、25mg/dm以下がより好ましい。
【0044】
《耐食性皮膜層》
耐食性皮膜層は、主として、アルミニウム板の耐食性を高めるために、アルミニウム板の上に形成される層である。したがって、アルミニウム板と親水性皮膜層との間には、耐食性皮膜層をさらに備えることが好ましい。
アルミニウム板の表面に後述する下地処理層が形成されている場合には、耐食性皮膜層は下地処理層と親水性皮膜層との間に備えることが好ましい。また、アルミニウム板の上又は下地処理層の上に着氷霜抑制皮膜層等の他の機能を有する皮膜層が形成されている場合には、その皮膜層の上に耐食性皮膜層を形成してもよい。
【0045】
耐食性皮膜層は疎水性樹脂を含有することが好ましく、例えば疎水性樹脂を含有する塗料組成物をアルミニウム板上、下地処理層上、又は着氷霜抑制皮膜層等の皮膜層上に塗布、乾燥等により固化することで形成できる。
【0046】
耐食性皮膜層によって、結露水などの水分、酸素、塩化物イオンをはじめとするイオン種などがアルミニウム板に浸入し難くなり、アルミニウム板の腐食や臭気を発生するアルミ酸化物の生成などが抑制される。
【0047】
耐食性皮膜層における疎水性樹脂は、従来公知の物を用いることができる。例えば、ポリエステル系、ポリオレフィン系、メラミン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系の各種樹脂が挙げられ、これらの1種または2種以上を混合したものを適用できる。
【0048】
耐食性皮膜層には、上記の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、他の任意成分を含有させてもよい。任意成分としては、例えば塗装性、作業性、皮膜の物性などを改善するための各種の水系溶媒や塗料添加物等が挙げられる。
塗料添加物としては、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤等が挙げられる。中でも、抗菌剤を含むことが好ましい。これらの塗料添加物は、1種が含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0049】
耐食性皮膜層に含まれる抗菌剤は従来公知の抗菌剤を使用できる。例えば、イミダゾール系、チアゾール系、イソチアゾリン系、ピリジン系、トリアジン系、アルデヒド系、フェノール系、ピグアナイド系、ニトリル系、ハロゲン系、アニリド系、ジスルフィド系、チオカーバメート系、4級アンモニウム塩系、有機金属系、アルコール系、カルボン酸系、天然系等が挙げられる。
なお、耐食性皮膜層は、その表面にさらに親水性皮膜層や潤滑性皮膜層が形成されることから、潤滑性皮膜層に含まれる抗菌剤とは異なり、銅と反応する抗菌剤を用いることもできる。
【0050】
耐食性皮膜層の皮膜量は特に限定されないが、3~60mg/dmが好ましい。ここで、アルミニウム板に十分な耐食性を付与する観点から、耐食性皮膜層の皮膜量は3mg/dm以上が好ましい。一方、耐食性皮膜層の皮膜量を増やしても、得られる耐食性の効果は頭打ちにあること、及び、フィン材の熱交換効率の低下を抑制する観点から、耐食性皮膜層の皮膜量は60mg/dm以下が好ましい。
【0051】
耐食性皮膜層の厚みは、良好な耐食性を得る観点から0.05μm以上が好ましい。また、成膜性が良く、割れなどの欠陥が低減されると共に、耐食性皮膜層の伝熱抵抗が低く抑えられ、良好なフィンの熱交換効率が得られるという観点から15μm以下が好ましい。
なお、耐食性皮膜層の厚みや皮膜量は、耐食性皮膜層の成膜に用いる塗料組成物の濃度やバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。
【0052】
フィン材において、潤滑性皮膜層、親水性皮膜層、及び潤滑性皮膜層の合計の厚みは、フィン材の熱交換効率の低下を抑制する観点から5μm以下が好ましい。
【0053】
《アルミニウム板》
アルミニウム板は、アルミニウムからなる板と、アルミニウム合金からなる板とを含む概念であり、アルミニウム製フィン材に従来用いられているアルミニウム板を用いることができる。
アルミニウム板としては、熱伝導性及び加工性に優れることから、JIS H 4000:2014に規定されている1000系のアルミニウムが好ましい。より具体的には、アルミニウム板として合金番号1050、1070、1200のアルミニウムがより好ましい。但し上記記載は、アルミニウム板として、2000系ないし9000系のアルミニウム合金や、その他のアルミニウム板を用いることを何ら排除するものではない。
【0054】
アルミニウム板は、フィン材の用途や仕様などに応じて適宜所望する厚みとする。熱交換器用のフィン材については、フィンの強度等の観点から、0.08mm以上の厚みが好ましく、0.1mm以上がより好ましい。一方、フィンへの加工性や熱交換効率等の点から、厚みは0.3mm以下が好ましく、0.2mm以下がより好ましい。
【0055】
このアルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備えるが、両方の表面上に親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とを備えてもよい。また、両方の表面上に親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とを備える場合であっても、両方の表面における皮膜層の構成は必ずしも同一とする必要はない。
【0056】
《下地処理層》
下地処理層は、所望により、アルミニウム板の上に備えることができる。フィン材が耐食性皮膜層を備える場合には、アルミニウム板と耐食性皮膜層との間に下地処理層を備えることが好ましい。
下地処理層を備えることにより、アルミニウム板の耐食性を高めることができ、また、フィン材が耐食性皮膜層を備える場合には、アルミニウム板と耐食性皮膜層との密着性を高めることができる。
【0057】
下地処理層は、アルミニウム板に耐食性を付与できればよく、従来公知のものを用いることができる。例えば、無機酸化物又は無機-有機複合化合物からなる層を用いることができる。
無機酸化物や無機-有機複合化合物を構成する無機材料としては、主成分としてクロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)又はチタン(Ti)が好ましい。
【0058】
下地処理層となる無機酸化物からなる層は、例えば、アルミニウム板にリン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、酸化ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理等を行うことによって形成できる。但し、無機酸化物の種類は、これらの処理で形成されるものに限定されない。
【0059】
下地処理層となる無機-有機複合化合物からなる層は、例えば、アルミニウム板に塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理等を行うことによって形成できる。このような無機-有機複合化合物の具体例としては、例えば、アクリル-ジルコニウム複合体などが挙げられる。
【0060】
下地処理層の膜厚等は特に限定されず、適宜設定すればよいが、単位面積あたりの皮膜量が金属(Cr、Zr、Ti)換算で1~100mg/mとなるように形成されることが好ましく、膜厚は1~100nmが好ましい。
下地処理層の付着量や膜厚は、下地処理層の成膜に用いる化成処理液の濃度や、成膜処理時間を調節することによって調整することができる。
【0061】
下地処理層を形成する前に、アルミニウム板の表面をアルカリ性脱脂液を用いて予め脱脂してもよく、これにより下地処理の反応性が向上し、さらに、形成された下地処理層の密着性も向上する。
【0062】
《アルミニウム製フィン材の特性》
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、平均粒径の小さい防カビ剤を用いても、潤滑性皮膜層中に防カビ剤が含まれるため、良好な親水性と防カビ性とを両立し、かつ、フィン材の使用段階においても銅を腐食させない。
【0063】
フィン材の親水性は、下記方法により評価できる。
水道水を流した水槽にフィン材を8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥させる工程を1サイクルとし、この浸漬と乾燥を14サイクル繰り返す。10サイクル実施後と14サイクル実施後に室温に戻し、フィン材表面に約2μLのイオン交換水を滴下して、その液滴の接触角を接触角測定器(協和界面科学社製:CA-05型)で測定する。接触角は各サンプル3回測定し、その平均値を接触角とする。
液滴の接触角は、10サイクル実施後及び14サイクル実施後の少なくとも一方が45°以下であれば良好と判断でき、両方が45°以下が好ましい。上記接触角は、40°以下がより好ましく、30°以下がさらに好ましい。接触角は小さいほど好ましいが、通常5°以上となる。
【0064】
フィン材の防カビ性は、フィン材に対して、(公社)全国家庭電気製品公正取引協議会「菌等の抑制に関する用語使用基準」の付属書に定める防カビ試験方法(ハロー法)(2007年度改訂版)に基づくカビハロー試験により評価できる。
クロコウジカビ、アオカビ、クロカビに対するハローの幅が認められなかった場合に、良好な防カビ性を有すると判断する。
【0065】
フィン材の抗菌性は、フィン材を用いて、JIS Z 2801:2012年に準拠した、フィルム密着法による大腸菌に対する抗菌性評価試験により評価できる。
上記評価試験により抗菌活性値を算出し、かかる値が2.0以上である場合に良好な抗菌性を有すると判断する。
【0066】
フィン材の潤滑性、すなわち加工性は、摩擦係数を用いて評価できる。
具体的には、バウデン試験機でフィン材に対して200gの荷重をかけ、位置を変えながら3往復摺動させて、その平均値を摩擦係数とする。
摩擦係数が0.20未満であれば潤滑性は良好と判断でき、摩擦係数は0.15未満が好ましく、0.10未満がより好ましい。摩擦係数は小さいほど好ましいが、通常0.20以上となる。
【0067】
<アルミニウム製フィン材の製造方法>
本実施形態に係るアルミニウム製フィン材の製造方法の一例について説明するが、かかる態様に限定されず、本実施形態の効果を妨げない範囲において、他の製造方法により製造することもできる。
また、下記一例は、アルミニウム板の表面に、下地処理層、耐食性皮膜層、親水性皮膜層、及び潤滑性皮膜層をこの順に形成する場合についての説明であるが、下地処理層、耐食性皮膜層の形成は任意である。また、他の機能を有する皮膜層をさらに設けてもよい。また、親水性皮膜層の表面に潤滑性皮膜層が形成されていれば、その他の各層の順序も適宜変更できる。
【0068】
アルミニウム板の表面上に下地処理層を公知の方法により形成する。その表面上に耐食性皮膜層、親水性皮膜層を順に、それぞれ公知の方法により形成する。
【0069】
次いで、潤滑性皮膜層となる塗料組成物として、潤滑性を高める樹脂及び銅と反応しない防カビ剤含む塗料組成物を調製し、親水性皮膜層の表面に塗布、乾燥し、焼き付けることにより潤滑性皮膜層を形成する。塗料組成物は、銅と反応しない抗菌剤や、界面活性剤等のその他の任意の添加物をさらに含んでいてもよい。
【0070】
焼き付けの温度は、潤滑性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、100℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、潤滑性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。なお、上記焼き付けの温度は、焼き付けを行う炉の温度である。
【0071】
焼き付けの時間も、潤滑性皮膜層が剥離しなければ特に限定されないが、例えば、3秒以上が好ましく、5秒以上がより好ましい。また、潤滑性皮膜層の樹脂が酸化するのを防ぐ観点から焼き付けの時間は30秒以下が好ましく、20秒以下がより好ましい。
【0072】
塗料組成物の溶媒は特に限定されないが、例えば水、アルコール、エーテル等が挙げられる。中でも、水やアルコールが好ましく、アルコールとしては、ブタノール、エタノール等が好ましい。
溶媒は1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよく、例えば、水とアルコールとの混合溶媒とする場合には、水100質量部に対して、アルコールは1~20質量部とすることが塗工性の観点から好ましい。
【0073】
以上、本実施形態に係るアルミニウム製フィン材について詳述したが、本実施形態に係る別の一態様は以下のとおりである。
[1]’ アルミニウム板と、前記アルミニウム板の少なくとも一方の表面上に、親水性皮膜層と潤滑性皮膜層とをこの順に備え、
前記潤滑性皮膜層は防カビ剤を含み、
室温で、前記防カビ剤0.5gを添加したイオン交換水50mL中に銅を14日間浸漬させた後の、前記銅表面の赤外吸収スペクトルにおいて、C-H結合に由来する2800~3000cm-1に観測されるピークの強度が0.15以下である、アルミニウム製フィン材。
[2]’ 前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の含有量は0.35mg/dm以上である前記[1]’に記載のアルミニウム製フィン材。
[3]’ 前記潤滑性皮膜層における前記防カビ剤の濃度は5~65質量%である、前記[1]’又は[2]’に記載のアルミニウム製フィン材。
[4]’ 前記潤滑性皮膜層は、抗菌剤をさらに含む、前記[1]’~[3]’のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[5]’ 前記潤滑性皮膜層の皮膜量は1.0~10mg/dmである、前記[1]’~[4]’のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[6]’ 前記親水性皮膜層の皮膜量は0.1~25mg/dmである、前記[1]’~[5]’のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[7]’ 前記アルミニウム板と前記親水性皮膜層との間に、耐食性皮膜層をさらに備える、前記[1]’~[6]’のいずれか1に記載のアルミニウム製フィン材。
[8]’ 前記耐食性皮膜層は抗菌剤を含む、前記[7]’に記載のアルミニウム製フィン材。
[9]’ 前記耐食性皮膜層の皮膜量は3~60mg/dmである、前記[7]’又は[8]’に記載のアルミニウム製フィン材。
【実施例0074】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0075】
《実施例1》
アルミニウム板として、厚みが0.1mmのJIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格を用いた。アルミニウム板の一方の表面上にリン酸クロメート処理により下地処理層を形成した。
次に、エポキシ樹脂をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が10mg/dmとなるように下地処理層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、焼き付けることにより耐食性皮膜層を形成した。
次に、アクリルスルホン酸樹脂をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が6mg/dmとなるように耐食性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、焼き付けることにより親水性皮膜層を形成した。
次に、ウレタン変性ポリエチレングリコール及び防カビ剤(大和化学工業株式会社製、アモルデン MCD)をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が1.2mg/dmとなるように親水性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、180℃で10秒焼き付けることによって、潤滑性皮膜層を形成した。潤滑性皮膜層中の防カビ剤の含有量及び濃度は表1に示すとおりである。以上により、アルミニウム製フィン材を得た。
【0076】
《実施例2、3》
潤滑性皮膜層中の防カビ剤の含有量と濃度を、表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0077】
《実施例4~21》
耐食性皮膜層の皮膜量、親水性皮膜層の皮膜量を表1に記載の値に変更し、さらに、潤滑性皮膜層については、抗菌剤(大和化学工業株式会社製、アモルデン AG-S1000)を表1に記載の含有量で添加し、皮膜量、並びに、防カビ剤の含有量及び濃度を表1に記載の値に変更した以外は実施例1と同様にしてアルミニウム製フィン材を得た。
【0078】
《比較例1》
実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面に下地処理層及び耐食性皮膜層を形成した。
次に、エポキシ樹脂及び防カビ剤(大和化学工業株式会社製、アモルデン MCD)をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が8mg/dmとなるように耐食性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、焼き付けることにより親水性皮膜層を形成した。親水性皮膜層中の防カビ剤の含有量及び濃度は表1に示すとおりである。
次に、ウレタン変性ポリエチレングリコールをイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が0.5mg/dmとなるように親水性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、180℃で10秒焼き付けることによって、潤滑性皮膜層を形成した。以上により、アルミニウム製フィン材を得た。
【0079】
《参考例1》
実施例1と同様にしてアルミニウム板の表面に下地処理層を形成した。
次に、エポキシ樹脂及び防カビ剤兼抗菌剤であるジンクピリチオン(大和化学社製、アモルデンPT-50)をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が2mg/dmとなるように下地処理層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、焼き付けることにより耐食性皮膜層を形成した。耐食性皮膜層における防カビ剤兼抗菌剤となるジンクピリチオンの含有量及び濃度は表1に示すとおりである。なお、ジンクピリチオンは防カビ剤兼抗菌剤であることから、表1中、抗菌剤の項目は記載していない。
次に、エポキシ樹脂をイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が4.3mg/dmとなるように耐食性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、焼き付けることにより親水性皮膜層を形成した。
次に、ウレタン変性ポリエチレングリコールをイオン交換水に分散させた塗料組成物を調製し、皮膜量が1.3mg/dmとなるように親水性皮膜層の表面にバーコーターを用いて塗布し、乾燥後、180℃で10秒焼き付けることによって、潤滑性皮膜層を形成した。以上により、アルミニウム製フィン材を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
《評価》
・防カビ剤及び抗菌剤の銅反応性
表2に記載の防カビ剤、抗菌剤、又は防カビ剤兼抗菌剤をそれぞれ室温で0.5g添加した各イオン交換水50mL中に、長さ1cmに切断した銅を14日間浸漬した。その後、銅表面をイオン交換水で洗浄、乾燥させた後、赤外分光光度計(Thermo Fisher Scientific社製、Nicolet IN10)で測定した。得られたIRスペクトルのうち、2800~3000cm-1に観測されるピークをC-H結合に由来するピークであると帰属し、そのピーク強度を求めた。結果を表2に示すが、ピーク強度が0.15以下であれば、銅と反応しないと判断した。
【0082】
【表2】
【0083】
防カビ剤であるアモルデン FS-300(製品名、大和化学工業株式会社製)や防カビ剤兼抗菌剤であるジンクピリチオンは、従来、耐食性皮膜層や親水性皮膜層に添加されているが、ピーク強度が0.15超であり、銅と反応する。そのため、耐食性皮膜層や親水性皮膜層よりも外層となる潤滑性皮膜層に添加した場合には、防カビ剤の溶出のしやすさも相まって、アルミニウム製フィン材の使用段階において銅の腐食が懸念される。
一方、防カビ剤であるアモルデン D-CL50、アモルデン NBP-8、アモルデン PPC、アモルデン V-GPZ、アモルデン V-CHG、アモルデン MCD(いずれも製品名、大和化学工業株式会社製)や、抗菌剤であるアモルデン AG-S1000(製品名、大和化学工業株式会社製)、防カビ剤兼抗菌剤であるゼオミック(製品名、株式会社シナネンゼオミック製)はいずれも銅と反応しない。そのため、アルミニウム製フィン材の使用段階における銅の腐食を懸念することなく、潤滑性皮膜層に添加できる。
【0084】
・親水性
水道水を流した水槽にフィン材を8時間浸漬した後、80℃で16時間乾燥させる工程を1サイクルとし、この浸漬と乾燥を14サイクル繰り返した。10サイクル実施後と14サイクル実施後に室温に戻し、フィン材表面に約2μLイオン交換水を滴下して、その液滴の接触角を接触角測定器(協和界面科学社製:CA-05型)で測定した。接触角は各サンプル3回測定し、その平均値を接触角とした。
結果を表1の「親水性」に示すが、10サイクル実施後と14サイクル実施後の双方の接触角が45°以下であれば非常に良好であると判断し、「評価」は「○」とした。また、10サイクル実施後及び14サイクル実施後の少なくとも一方の接触角が45°以下であれば合格と判断し、「評価」は「△」とした。10サイクル実施後と14サイクル実施後の双方の接触角が45°超であれば不良と判断し、「評価」は「×」とした。
【0085】
・防カビ性
フィン材に対して、(公社)全国家庭電気製品公正取引協議会「菌等の抑制に関する用語使用基準」の付属書に定める防カビ試験方法(ハロー法)(2007年度改訂版)に基づくカビハロー試験を行った。結果を表1の「防カビ性」に示すが、クロコウジカビ、アオカビ、クロカビに対するハローの幅がいずれも認められなかった場合に、防カビ性が良好であると判断し、「○」とした。
【0086】
・抗菌性
フィン材を用いて、JIS Z 2801:2012年に準拠した、フィルム密着法による大腸菌に対する抗菌性評価試験を行った。結果を表1の「抗菌性」に示すが、かかる評価試験により抗菌活性値を算出し、抗菌活性値が2.0以上である場合に抗菌性が良好であると判断し、「○」とした。抗菌活性値が2.0未満である場合に抗菌性が不良であると判断し、「×」とした。なお、実施例1~3及び比較例1は評価試験を行わなかったために、表1では「-」としている。
【0087】
・潤滑性
フィン材の潤滑性、すなわち加工性は、摩擦係数により評価した。摩擦係数は、バウデン試験機でフィン材に対して200gの荷重をかけ、位置を変えながら3往復摺動させ、その平均値を用いた。結果を表1の「潤滑性」「摩擦係数(-)」に示すが、摩擦係数が0.15未満であれば非常に良好であると判断し、「評価」は「○」とした。また、摩擦係数が0.15以上0.20未満であれば良好、すなわち合格であると判断し、「評価」は「△」とした。摩擦係数が0.20以上であれば不良、すなわち不合格である。なお、比較例1では評価試験を行わなかったために、表1では「-」としている。
【0088】
表1の結果から、実施例1~21のアルミニウム製フィン材はいずれも、銅と反応しない防カビ剤を潤滑性皮膜層に含み、良好な防カビ性を実現しつつ、親水性及び潤滑性も良好であった。これに対し、比較例1のアルミニウム製フィン材は、親水性皮膜層に防カビ剤を含むが、実施例1~21に比べて防カビ剤の含有量が多く、濃度も高いにも関わらず、防カビ性は不良であった。さらに、比較例1は、防カビ剤の含有量が多く、濃度も高いことで、親水性樹脂の相対量が減る。そのため、親水性皮膜量を8mg/dmとしたにも関わらず、親水性も不良との結果となった。これらから、実施例1~21のアルミニウム製フィン材は、防カビ剤を潤滑性皮膜層に含むことで、親水性皮膜層による良好な親水性を阻害しないことが分かる。
また、実施例4~21の結果より、潤滑性皮膜層に対して、銅と反応しない抗菌剤をさらに適量含有させることで、良好な抗菌性も併せ持つアルミニウム製フィン材が得られた。
以上より、本実施形態に係るアルミニウム製フィン材は、機能層である親水性皮膜層による良好な親水性と、防カビ性とが共に良好であり、使用段階においても銅を腐食させないことが分かった。
【0089】
なお、参考例1のアルミニウム製フィン材は、防カビ性と抗菌性を有するジンクピリチオンを耐食性皮膜層に含有させた従来例であり、防カビ性や抗菌性と、親水性皮膜層による親水性の指標となる例である。
参考例1のアルミニウム製フィン材は防カビ性、抗菌性共に良好な結果が得られるものの、潤滑性皮膜層にジンクピリチオンを含有させたことで、アルミニウム製フィン材におけるアルミニウムが腐食し、耐食性皮膜層本来の機能である耐食性の効果を奏することができなかった。