(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147350
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】酸の濃縮方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20230101AFI20241008BHJP
C01B 21/44 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C02F1/04 C
C01B21/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060302
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】507027162
【氏名又は名称】DOWAテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】中塚 清次
【テーマコード(参考)】
4D034
【Fターム(参考)】
4D034AA27
4D034BA01
4D034CA12
4D034CA21
(57)【要約】
【課題】硝酸などの水より沸点が高い高沸点酸と、ギ酸などの沸点が水と同等以下の低沸点酸とを含む混合酸水溶液である廃液(被処理水)について、より多くの低沸点酸を分離し、高沸点酸を濃縮し得る方法を提供すること。
【解決手段】水より沸点が高い酸A及び沸点が水の沸点以下である酸Bを含む被処理水を蒸発濃縮して、前記被処理水における濃度より高濃度で酸Aを含む濃縮液を得る、酸Aの濃縮方法であって、前記被処理水に水を補充しながら前記蒸発濃縮を実施する、酸Aの濃縮方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水より沸点が高い酸A及び沸点が水の沸点以下である酸Bを含む被処理水を蒸発濃縮して、前記被処理水における濃度より高濃度で酸Aを含む濃縮液を得る、酸Aの濃縮方法であって、
前記被処理水に水を補充しながら前記蒸発濃縮を実施する、酸Aの濃縮方法。
【請求項2】
前記水を連続的に又は間欠的に補充する、請求項1に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項3】
前記蒸発濃縮に供する被処理水中の、酸Aの濃度が40~200g/Lであり、酸Bの濃度が500~15000ppmである、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項4】
前記水の補充を間欠的に行い、
前記蒸発濃縮において被処理水の体積が3/4~1/10になったときに、その被処理水の体積の1/4~3倍の量の水を補充する、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項5】
前記水の補充を1~8回行う、請求項4に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項6】
前記酸Aが硝酸であり、前記酸Bがギ酸である、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項7】
前記蒸発濃縮を、0.1~0.8気圧、60~95℃で実施する、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項8】
前記蒸発濃縮を、
前記被処理水を加熱して蒸発させる蒸発缶と、
該蒸発缶と接続した、前記被処理水の蒸発により生じた蒸気を圧縮・昇温して前記被処理水の加熱の熱源として供給するヒートポンプと
を備えた蒸発濃縮装置により実施する、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項9】
前記被処理水における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pbefore(=酸A/酸B(g/L/ppm))と、前記濃縮液における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pafter(=酸A/酸B(g/L/ppm))とを比較すると、Pafter/Pbeforeが10以上である、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【請求項10】
前記濃縮液における酸Aの濃度が700~950g/Lである、請求項1又は2に記載の酸Aの濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の酸A及びBを含む被処理水を蒸発濃縮して、酸Aを濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硝酸は広く産業で使用されている薬品であり、これを含む廃液も大量に発生している。環境負荷や資源価格の高騰を考えると、廃液中の硝酸をリサイクルすることが望ましい。リサイクルにあたっては、硝酸の濃度を高めたり、夾雑物を低減することが一般に求められる。なお硝酸単体の沸点は80℃程度であるが、硝酸水溶液の濃度が68質量%になると沸点約120℃の共沸混合物を形成することが知られている。
【0003】
廃液からの硝酸のリサイクルではないが、特許文献1には、硝酸水溶液に硝酸金属を溶解させて蒸留することにより、68質量%より高濃度の硝酸水溶液を得ることが開示されている。また特許文献2には、85~95質量%濃度の硝酸を70~115℃、0.1~2barにて蒸留することで、陽イオンや陰イオンの少ない高純度硝酸を得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-250294号公報
【特許文献2】特表2004-529841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硝酸を含む廃液のうち、銀粉などの金属粉の製造において発生する廃液は、硝酸の他に低分子で沸点が水と同等以下の有機酸(ギ酸など。以下「低沸点酸」ともいう)を含む場合もある。共沸混合物とならなくとも、水の共存下では硝酸の沸点は水の沸点よりも高い(水より沸点の高い酸を、以下「高沸点酸」ともいう)。このような酸の混合液である廃液について硝酸のリサイクルを行うためには、前記の酸混合液からの硝酸の濃縮と低沸点酸の分離が重要である。
【0006】
本発明は、硝酸などの水より沸点が高い高沸点酸と、ギ酸などの沸点が水と同等以下の低沸点酸とを含む混合酸水溶液である廃液(被処理水)について、より多くの低沸点酸を分離し、高沸点酸を濃縮し得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した。被処理水を加熱した場合、本発明における濃縮対象である硝酸などの高沸点酸より低沸点酸と水が先に蒸発し、高沸点酸が濃縮されるとともに低沸点酸が分離される。そこで、被処理水を加熱して低沸点酸及び水を蒸発させていく、蒸発濃縮を試みた。その結果、ある程度低沸点酸が分離され、(そして水も蒸発して)濃縮された高沸点酸が得られた。さらに本発明者らは検討を進め、水を補充しながら蒸発濃縮を実施することによって、より多くの低沸点酸を分離して高沸点酸を濃縮することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
[1]水より沸点が高い酸A及び沸点が水の沸点以下である酸Bを含む被処理水を蒸発濃縮して、前記被処理水における濃度より高濃度で酸Aを含む濃縮液を得る、酸Aの濃縮方法であって、前記被処理水に水を補充しながら前記蒸発濃縮を実施する、酸Aの濃縮方法。
【0009】
[2]前記水を連続的に又は間欠的に補充する、[1]に記載の酸Aの濃縮方法。
【0010】
[3]前記蒸発濃縮に供する被処理水中の、酸Aの濃度が40~200g/Lであり、酸Bの濃度が500~15000ppmである、[1]又は[2]に記載の酸Aの濃縮方法。
【0011】
[4]前記水の補充を間欠的に行い、前記蒸発濃縮において被処理水の体積が3/4~1/10になったときに、その被処理水の体積の1/4~3倍の量の水を補充する、[1]~[3]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【0012】
[5]前記水の補充を1~8回行う、[4]に記載の酸Aの濃縮方法。
【0013】
[6]前記酸Aが硝酸であり、前記酸Bがギ酸である、[1]~[5]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【0014】
[7]前記蒸発濃縮を、0.1~0.8気圧、60~95℃で実施する、[1]~[6]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【0015】
[8]前記蒸発濃縮を、前記被処理水を加熱して蒸発させる蒸発缶と、該蒸発缶と接続した、前記被処理水の蒸発により生じた蒸気を圧縮・昇温して前記被処理水の加熱の熱源として供給するヒートポンプとを備えた蒸発濃縮装置により実施する、[1]~[7]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【0016】
[9]前記被処理水における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pbefore(=酸A/酸B(g/L/ppm))と、前記濃縮液における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pafter(=酸A/酸B(g/L/ppm))とを比較すると、Pafter/Pbeforeが10以上である、[1]~[9]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【0017】
[10]前記濃縮液における酸Aの濃度が700~950g/Lである、[1]~[9]のいずれかに記載の酸Aの濃縮方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、硝酸などの水より沸点が高い高沸点酸と、ギ酸などの沸点が水と同等以下の低沸点酸とを含む混合酸水溶液である被処理水について、より多くの低沸点酸を分離し、高沸点酸を濃縮し得る方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の濃縮方法を実施するための代表的な蒸発濃縮装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について説明する。
[被処理水]
<酸A>
本発明の濃縮方法の対象である被処理水は、水より沸点が高い酸A(高沸点酸)を含み、これを濃縮することを目的とする。本発明でいう前記酸Aの沸点は、被処理水中に存在する状態での沸点である。また酸Aの被処理水中での濃度が沸点に影響する場合は、当該濃度も加味した沸点である。例えば酸Aに該当する硝酸は、単体ではその沸点は80℃程度(常圧)であるが、水が共存するとその沸点は高まり、水の沸点を超えるようになる。なお本発明の濃縮方法において蒸発濃縮を減圧条件下で実施する場合は、酸Aの沸点はその減圧下でのものとする。以上のことは、酸B等の他の物質の沸点についても同様である。水の沸点についても、蒸発濃縮を減圧条件下で実施する場合は、その減圧下でのものとする。
【0021】
酸Aの具体例としては、硝酸、硫酸が挙げられる。被処理水は酸Aとして1種類の酸を含んでいても、複数種類の酸を含んでいてもよい。本発明の効果が好適に奏される観点から、酸Aとしては硝酸が好ましい。
【0022】
また前記被処理水中の、酸Aの濃度(酸Aに該当する複数種類の酸を被処理水が含んでいる場合は、それらの合計の濃度)に特に制限はないが、本発明における蒸発濃縮コストの観点からはある程度以上の濃度であることが好ましく、本発明の濃縮方法により実効ある濃縮が実現される観点から、ある程度以下の濃度であることが好ましい。具体的には、40~200g/Lであることが好ましく、60~120g/Lであることがより好ましい。
【0023】
<酸B>
本発明の濃縮方法の対象である被処理水は、沸点が水と同等以下の酸B(低沸点酸)を含む。本発明でいう前記酸Bの沸点は、被処理水中に存在する状態での沸点である。酸Bは低沸点酸であることから、蒸発濃縮により被処理水から水と共に除去することができる。
【0024】
酸Bの具体例としては、ギ酸が挙げられる。被処理水は酸Bとして1種類の酸を含んでいても、複数種類の酸を含んでいてもよい。本発明の効果が好適に奏される観点から、酸Bとしてはギ酸が好ましい。
【0025】
また前記被処理水中の、酸Bの濃度(酸Bに該当する複数種類の酸を被処理水が含んでいる場合は、それらの合計の濃度)に特に制限はないが、例えば500~15000ppmであり、好ましくは1000~10000ppmである。
【0026】
<被処理水のpH>
本発明において、被処理水のpHは特に制限されるものではないが、酸AやBを含んでいるので、通常酸性であり、例えばpHが3以下の範囲にある。なおpHは25℃で測定した値である。
【0027】
<被処理水中のその他の成分>
本発明において、被処理水は以上説明した酸A及びBの他に、塩素、アンモニアなどを含んでいてもよい。これらのうち塩素については、前記の通り被処理水が通常酸性であることから、あまり含有量が多いと腐食作用を発揮し、蒸発濃縮の装置に対して有害となり得る。このような事態を避けるため、被処理水中の塩素濃度は50ppm以下であることが好ましい。これより濃度が高い場合は、塩素を除去して前記の濃度まで低減させてから、本発明の濃縮方法に被処理水を供することが好ましい。被処理水中のアンモニア濃度は、安全性の点から6000ppm以下であることが好ましい。
【0028】
[水補充蒸発濃縮]
本発明では以上説明した被処理水に対して蒸発濃縮を実施するが、低沸点酸である酸Bの分離度合いを高めるため、被処理水に水を補充しながら蒸発濃縮を行う。
【0029】
<蒸発濃縮>
本発明において、蒸発濃縮は通常の条件で行えばよい。
図1に示した、本発明の濃縮方法を実施するための代表的な蒸発濃縮装置10を例にとって説明すると、被処理水はポンプにより蒸発濃縮装置10の蒸発缶12に送られ、ここで加熱される。
図1の態様では、被処理水は蒸発缶12の底部付近に導入され、底部に取り付けられた配管から下に引き出され、ポンプにより上方に送られる。そして蒸発缶12の上部に導入されて被処理水は噴霧部20から蒸発缶12内に噴霧され、加熱される。加熱により蒸発した気体(水及び酸Bを含む)は蒸発缶12から抜き出され、冷却されて凝縮水となる。蒸発しなかった液成分は再び蒸発缶12の底部から下に引き出され、再度上方に送られて蒸発缶12内に噴霧される。このサイクルにより目的の濃度まで酸Aが濃縮されたら、弁18を切り替えて、蒸発缶12底部から下に引き出された液を濃縮液として回収する。
【0030】
なお蒸発缶12内は、水及び酸Bの蒸発を容易とするため、減圧環境とすることが好ましい。具体的には、例えば0.1~0.8気圧とし、前記蒸発の促進の観点及び過度な減圧環境の実現はコスト的に不利であることから、好ましくは0.15~0.4気圧とする。
【0031】
また蒸発缶12は伝熱管14を備え、これにより、供給されてくる被処理水を加熱する。伝熱管14は例えば、外部から供給された加熱蒸気により昇温される。被処理水は、水及び酸Bの蒸発促進並びに加熱コストの観点から、好ましくは60~95℃に、より好ましくは70~90℃に加熱される。
【0032】
蒸発濃縮の濃縮倍率(どの程度の酸Aの濃度を目指すか)は適宜設定可能であるが、高すぎると、蒸発濃縮の後半~終盤において被処理水を加熱してもなかなか水(と酸B)が蒸発せず、また酸Aが蒸発することもあり、濃縮効率が悪くなってくる。濃縮効率の点から、例えば酸Aが硝酸であれば、蒸発濃縮で得られる濃縮液における硝酸濃度として、700~950g/Lを目標とすることが好ましい。ここで、硝酸など比重の大きい酸は、蒸発濃縮されている被処理水の比重をモニターすることで(濃縮が進むにつれて比重が高まり、酸自体の比重に近づいていく)、被処理水中の酸の濃度を大まかに把握することができるので、蒸発濃縮の終点を定める際に有効である。
【0033】
<水補充>
被処理水を蒸発濃縮で濃縮しきることで、酸Bをある程度分離することができるが、再利用可能な酸Aをリサイクルする観点からは、さらに酸Bを分離することが望まれる。この目的のために本発明においては、被処理水の蒸発濃縮において、水を補充する。
【0034】
水は連続的に又は間欠的に補充する。この補充に使用される水は、例えば純水などである。
【0035】
水を連続的に補充する場合、被処理水の体積の0.2~0.4倍の水を補充することが、酸Bの分離及び処理コストの観点から望ましい。また水の連続的補充は、より多くの酸Bを分離する観点から、蒸発濃縮により被処理水の体積が半分以上減少してから開始することが好ましい。
【0036】
一方水を間欠的に補充する場合、蒸発濃縮において被処理水の体積が3/4~1/10になったときに、その被処理水の体積の1/4~3倍の量の水を補充することが、酸Bの分離及び処理コストの観点から好ましい。同様の観点から、蒸発濃縮において被処理水の体積が2/3~1/8になったときに、その被処理水の体積の1/3~1.5倍の量の水を補充することがより好ましい。多くの水を補充すると、多くの酸Bを分離できる傾向にあるが、処理コストは上昇する。また水の補充の回数は、目指す酸Bの分離量により適宜調整することができ、例えば1~8回、処理コストの観点から好ましくは1~4回とすることができる。
【0037】
[濃縮液]
本発明の濃縮方法の実施により、被処理水から酸Bのより多くが除去され、かつ、被処理水における濃度より高濃度で酸Aを含む濃縮液が得られる。この濃縮液における酸Aの濃度は、蒸発濃縮によりどこまで酸Aを濃縮するかという目標次第ではあるが、例えば700~950g/L(硝酸であれば約50~約67体積%)である。各種の用途へリサイクル利用を可能とする観点からは、前記濃度は800~950g/L(硝酸であれば約56~約67体積%)であることが好ましい。
【0038】
濃縮液における酸Bの濃度は、被処理水における濃度の影響が大きく、被処理水における濃度が高いほど、濃縮液中の酸Bの濃度は高くなる傾向にある。なお本発明の酸Aの濃縮方法を通じて被処理水から酸Bを多く分離することができるので、酸Bに対する酸Aの比率は大きくすることができる。具体的には、蒸発濃縮に供する被処理水における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pbefore(=酸A/酸B(g/L/ppm))と、濃縮液における酸Aの濃度(g/L)及び酸Bの濃度(ppm)の比率Pafter(=酸A/酸B(g/L/ppm))とを比較すると、Pafter/Pbeforeが10以上である。Pafter/Pbeforeは好ましくは14~25である。
【0039】
濃縮液は、実質的に水と酸Aと微量の酸Bとから構成されるが、被処理水が蒸発濃縮によっては十分に分離できないほかの成分を含んでいた場合には、それらの成分を含み得る。具体的には、例えば、被処理水が酸性であった場合にはアンモニアを含みうる。
【0040】
[ヒートポンプの利用]
本発明の濃縮方法における蒸発濃縮を実施する装置においては、ヒートポンプを利用することがコストの観点から非常に好ましい。ヒートポンプ16を備えた蒸発濃縮装置10の模式図を
図1に示しており、当該蒸発濃縮装置10は、被処理水を加熱して蒸発させる蒸発缶12と、それに接続した、前記被処理水の蒸発により生じた蒸気を圧縮・昇温して再加熱蒸気として、これを前記被処理水の加熱の熱源として供給するヒートポンプ16とを備えている。
【0041】
蒸発缶12内には伝熱管14があり、被処理水は例えばこれの上部にある噴霧部20から噴霧される形で蒸発缶12内に供給され、伝熱管14の個所で加熱され、水及び酸Bが蒸発する。これにより生じた蒸気の一部はヒートポンプ16に導かれ、ここで圧縮されることで高温になり、高温になった再加熱蒸気は伝熱管14に導かれ、これを昇温させる。伝熱管14を昇温させたことで、前記再加熱蒸気は熱を奪われ液化し、凝縮水として回収される。
【0042】
一方被処理水のうち高沸点成分(代表的には酸A)は蒸発せず、上述の通り、蒸発缶12の底部に設けられた配管から下に抜き出され、上方に送られて蒸発缶12の上部にある噴霧部20から再度噴霧されて(伝熱管14により)加熱される、というサイクルを繰り返す。そして酸Aが目的の濃度まで濃縮されたら弁18を切り替えて濃縮液として回収する。
【0043】
[塩素の事前除去]
上述の通り塩素は、酸性である被処理水中において濃度が高い場合、腐食作用を発揮し、蒸発濃縮の装置に対して有害となり得る。そこで前処理として、被処理水の塩素を除去する(塩素濃度を低減させる)ことが好ましい。具体的には、例えば被処理水に硝酸銀を添加して塩化銀の沈殿を生じさせ、ろ過することにより、塩素濃度が50ppm以下に低減された被処理水を得ることができる。
【実施例0044】
以下、実施例を参照しながら、本発明についてより具体的に説明する。
尚、実施例において、
硝酸濃度・ギ酸濃度・ヘキサメチレンテトラミン(HMT)濃度は、イオンクロマトグラフ(IC-800,東ソー製)で測定した。
アンモニア濃度は、インドフェノール青比色法により発色させた後、分光光度計(Ocean Photonics製)で吸光度を測定し、濃度を測定した。
【0045】
(実施例1)
ある銀粉製造廃液を被処理水として、本発明に係る酸Aの濃縮方法を実施した。本実施例では酸Aは硝酸であり、酸Bはギ酸である。
以下、1.1次蒸発濃縮処理工程、2.水補充蒸発濃縮処理工程、3.2次蒸発濃縮処理工程、の順に説明する。
【0046】
1.1次蒸発濃縮処理工程
ある銀粉製造廃液 3LをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。液の組成は硝酸 104g/L、ギ酸 2060ppm、塩素 30ppm、アンモニア 3000ppm、HMT 0ppm、残部水、であり、pHは1未満だった。
【0047】
蒸発濃縮装置の運転条件は、蒸発缶内の圧力は220hPa(約0.2気圧)とし、銀粉製造廃液の温度は85℃とした。この条件下で硝酸は水より沸点が高く、ギ酸は沸点が水の沸点以下であった。銀粉製造廃液から揮発成分を蒸発・凝縮させて凝縮水を生成し、蒸発濃縮装置から取り出した。凝縮水の液量を監視し、濃縮液が6倍濃縮の液量(500mL)になった時点で蒸発濃縮装置を停止した。得られた1次濃縮液中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ530g/L、3500ppmであった。
【0048】
2.水補充蒸発濃縮処理工程
1次濃縮液500mLに純水(常温、以下同様)500mLを添加し、EYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、再度蒸発濃縮処理を行った。
【0049】
蒸発濃縮装置の運転条件は、上記1次蒸発濃縮処理工程と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水量が450mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約1.8体積倍だった。得られた濃縮液(水補充蒸発濃縮1回目濃縮液)中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ460g/L、2100ppmであった。
【0050】
前記濃縮液550mLに純水450mLを添加し、EYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、再度蒸発濃縮処理を行った。蒸発濃縮装置の運転条件は、上記1次蒸発濃縮処理工程と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水液量が500mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約2体積倍だった。得られた濃縮液(水補充蒸発濃縮2回目濃縮液)中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ560g/L、1300ppmであった。
【0051】
3.2次濃縮処理工程
上記で得られた、水補充蒸発濃縮2回目濃縮液500mLをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。
【0052】
蒸発濃縮装置の運転条件は、上記1次蒸発濃縮処理工程と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水量が200mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約1.7体積倍だった。得られた2次濃縮液の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ840g/L、1250ppmであり、そのpHは1未満だった。
【0053】
以上の操作における、1次濃縮液、水補充蒸発濃縮1回目濃縮液、水補充蒸発濃縮2回目濃縮液、2次濃縮液中の硝酸濃度、ギ酸濃度、液中の硝酸濃度/ギ酸濃度比率の本実施例のプロセスによる変化(Pafter/Pbefore)、液量を下記表1に示す。
【0054】
【0055】
上記表において、1次濃縮液、水補充蒸発濃縮1回目の濃縮液及び2回目の濃縮液は液量が(おおよそ)同じであり、水を補充して蒸発濃縮処理をすることによって、一度の蒸発濃縮(1次濃縮液)よりも硝酸及びギ酸を含む廃液からギ酸を多く分離できることがわかる。
【0056】
また本発明の酸Aの濃縮方法はヒートポンプを備えた蒸発濃縮装置で実施することが好ましいが、本実施例で全ての工程を、化石燃料の燃焼で発生させた蒸気による加熱で実施したと仮定した場合のコスト1と、2次濃縮以外の工程をヒートポンプを利用した加熱により実施して2次濃縮工程は化石燃料の燃焼で発生させた蒸気による加熱で実施したと仮定した場合のコスト2とを計算して比較したところ、コスト2はコスト1のわずか37%であった(コスト1→コスト2のコスト削減率が63%だった)。
【0057】
(実施例2)
ある銀粉製造廃液を被処理水として、本発明に係る酸Aの濃縮方法を実施した。
以下、1.1次蒸発濃縮処理工程、2.水補充蒸発濃縮処理工程、3.2次蒸発濃縮処理工程、の順に説明する。
【0058】
1.1次蒸発濃縮処理工程
ある銀粉製造廃液 2LをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。前記廃液の組成は硝酸 83g/L、ギ酸 4600ppm、pHは1未満であった。
【0059】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、濃縮液が5倍濃縮の液量になった時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約5体積倍だった。得られた1次濃縮液中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ350g/L、7200ppmであった。
【0060】
2.水補充蒸発濃縮処理工程
1次濃縮液400mLに純水200mLを添加し、EYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。
【0061】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、添加した純水と凝縮水液量が等量になった(凝縮水液量が200mLとなった)時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約1.5体積倍だった。得られた濃縮液(水補充蒸発濃縮1回目濃縮液)の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ350g/L、5200ppmであった。
【0062】
再度同様な方法にて、2回目の水補充蒸発濃縮処理(200mLの純水添加及び濃縮率約1.5体積倍での蒸発濃縮処理)を行った。得られた濃縮液(水補充蒸発濃縮2回目濃縮液)の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ350g/L、3800ppmであった。
【0063】
3.2次濃縮処理工程
水補充蒸発濃縮2回目濃縮液400mLをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。
【0064】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水量が250mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。濃縮率は約2.7体積倍だった。2次濃縮液中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ900g/L、3000ppmであり、そのpHは1未満だった。
【0065】
以上の操作における、1次濃縮液、水補充蒸発濃縮1回目濃縮液、水補充蒸発濃縮2回目濃縮液、2次濃縮液の硝酸濃度、ギ酸濃度、液中の硝酸濃度/ギ酸濃度比率の本実施例のプロセスによる変化(Pafter/Pbefore)、液量を下記表2に示す。
【0066】
【0067】
(比較例1)
ある銀粉製造廃液を被処理水として、蒸発濃縮処理を実施した。
以下、1.1次蒸発濃縮処理工程、2.2次蒸発濃縮処理工程、の順に説明する。
【0068】
1.1次蒸発濃縮処理工程
ある銀粉製造廃液 1LをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。液の組成は硝酸 57g/L、ギ酸 1100ppm、残部水、pHは1未満であった。
【0069】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、濃縮液量が120mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。得られた1次濃縮液中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ480g/L、2600ppmであった。
【0070】
2.2次蒸発濃縮処理工程
得られた1次濃縮液120mLをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、更に蒸発濃縮処理を行った。
【0071】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水量が70mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。得られた2次濃縮液(50mL)の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ840g/L、1900ppm、そのpHは1未満であった。
【0072】
以上の操作における、1次濃縮液、2次濃縮液中の硝酸濃度、ギ酸濃度、液中の硝酸濃度/ギ酸濃度比率の本比較例のプロセスによる変化(Pafter/Pbefore)、液量を下記表3に示す。
【0073】
【0074】
(比較例2)
ある銀粉製造廃液を被処理水として、蒸発濃縮処理を実施した。
以下、1.1次蒸発濃縮処理工程、2.2次蒸発濃縮処理工程、の順に説明する。
【0075】
1.1次蒸発濃縮処理工程
ある銀粉製造廃液 1LをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、蒸発濃縮処理を行った。液の組成は硝酸 78g/L、ギ酸 8400ppm、残部水、pHは1未満であった。
【0076】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、濃縮液量が200mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。得られた1次濃縮液中の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ410g/L、14800ppmであった。
【0077】
2.2次蒸発濃縮処理工程
得られた1次濃縮液200mLをEYELA 東京理化器械株式会社製の蒸発濃縮装置(ロータリーエバポレーター N-1000)に導入して、更に蒸発濃縮処理を行った。
【0078】
蒸発濃縮装置の運転条件は、実施例1の1次蒸発濃縮処理の場合と同様とした。凝縮水の液量を監視し、凝縮水量が100mLになった時点で蒸発濃縮装置を停止した。得られた2次濃縮液(100mL)の硝酸濃度とギ酸濃度はそれぞれ620g/L、14000ppm、そのpHは1未満であった。
【0079】
以上の操作における、1次濃縮液、2次濃縮液中の硝酸濃度、ギ酸濃度、液中の硝酸濃度/ギ酸濃度比率の本比較例のプロセスによる変化(Pafter/Pbefore)、液量を下記表4に示す。
【0080】