(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147366
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/30 20060101AFI20241008BHJP
H01J 37/073 20060101ALI20241008BHJP
H01J 37/302 20060101ALI20241008BHJP
H01J 37/315 20060101ALI20241008BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01J37/30 A
H01J37/073
H01J37/302
H01J37/315
H01J37/317 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060332
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】遠山 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】中井 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山口 博
(72)【発明者】
【氏名】二村 政範
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光隆
(72)【発明者】
【氏名】仙田 卓也
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA31
5C101AA35
5C101BB05
5C101BB10
5C101DD05
5C101DD19
5C101DD25
5C101DD38
5C101EE13
5C101EE22
5C101EE42
5C101EE53
5C101EE63
5C101GG15
5C101GG44
5C101HH04
5C101HH21
(57)【要約】
【課題】光陰極型の電子線源から出射される電子ビームの電流密度分布を従来に比して均一にすることができる電子ビーム加工装置を得ること。
【解決手段】電子ビーム加工装置は、光源と、像形成パターンを形成する像変更装置と、光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、光源からの光によって像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、光陰極から放出される電子を加速させる電界を生成する電極群と、像変更装置に像形成パターンを設定し、パルス発生器にタイミングを設定する制御装置と、を備える。制御装置は、像形成パターンが複数存在する場合に、複数の像形成パターンのそれぞれが順に光陰極に投影されるとともに、複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように像変更装置およびパルス発生器を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定し、前記パルス発生器に前記タイミングを設定する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記像形成パターンが複数存在する場合に、前記複数の像形成パターンのそれぞれが順に前記光陰極に投影されるとともに、前記複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように前記像変更装置および前記パルス発生器を制御することを特徴とする電子ビーム加工装置。
【請求項2】
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定する制御装置と、
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
を備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成し、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度を変更することを特徴とする電子ビーム加工装置。
【請求項3】
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
をさらに備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成し、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度または前記遅延時間を変更することを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記光陰極に不良領域がある場合に、前記不良領域を含まないように形成した新たな像形成パターンを前記像変更装置に設定することを特徴とする請求項2または3に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項5】
前記電極群と前記加工対象との間に配置され、前記電子ビームを収束させる電子レンズと、
前記電極群と前記加工対象との間に配置され、前記電子ビームの向きを変える偏向コイルと、
をさらに備え、
前記制御装置は、前記不良領域を含む領域に前記像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームの照射位置に、前記新たな像形成パターンが前記光陰極に投影されたときに形成される電子ビームが照射されるように、前記電子レンズおよび前記偏向コイルを制御することを特徴とする請求項4に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記光陰極上を前記像が移動するように前記像形成パターンを変化させて、前記電子ビームを走査することを特徴とする請求項2または3に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記偏向コイルを制御して、前記電子ビームを走査することを特徴とする請求項5に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項8】
前記遅延時間は、前記切り替え前の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームと、前記切り替え後の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームと、の間がクーロン力による影響を無視することができる間隔となるように設定されることを特徴とする請求項1または3に記載の電子ビーム加工装置。
【請求項9】
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定し、前記パルス発生器に前記タイミングを設定する制御装置と、
を備える電子ビーム加工装置での電子ビーム照射方法であって、
前記制御装置は、前記像形成パターンが複数存在する場合に、前記複数の像形成パターンのそれぞれが順に前記光陰極に投影されるとともに、前記複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように前記像変更装置および前記パルス発生器を制御することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【請求項10】
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定する制御装置と、
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
を備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成する電子ビーム加工装置での電子ビーム照射方法であって、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度を変更することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光陰極に光を照射して放出される電子を用いて電子ビームを生成する電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム加工機の電子線源は、熱陰極タイプのタングステンなどが用いられてきた。熱陰極は加熱された領域から電子が放出されるため、電子の放出面を変更することは容易ではない。一方、特許文献1には、光電効果を利用した光陰極型の電子線源を用いる電子ビーム露光装置が開示されている。光陰極型の電子線源では、光陰極に当てる光の強度によって、電子の放出面を自在に変えて電子ビームの像を制御することができる。
【0003】
光陰極型の電子線源は、半導体の製造工程および分析装置に適用されているが、電子ビーム加工機の用途では寿命、量子効率等に課題があり、製品化が難しい。一方で、電子ビームの像を自在に制御できることで、余熱工程の短縮、リードタイムの短縮および品質向上の利点を有するため、光陰極型の電子線源の製品化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、光陰極型の電子線源から出射される電子ビームの電流密度が高い場合には、クーロン力による電子間の反力を無視することができず、電子ビームの電流密度分布が歪んでしまう。つまり、特許文献1に記載の技術では、電子ビームの電流密度が高い場合の電子ビームの電流密度分布の補正ができないという問題があった。また、電子ビームの電流密度分布は、光陰極型の電子線源の位置依存性、経年劣化によっても歪むことがある。特許文献1に記載の技術では、これらの電子ビームの電流密度分布の歪みの補正についても考慮されていない。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、光陰極型の電子線源から出射される電子ビームの電流密度分布を従来に比して均一にすることができる電子ビーム加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電子ビーム加工装置は、光源と、光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、光源からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、光源からの光によって像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、光陰極から放出される電子を加速させる電界を生成する電極群と、像変更装置に像形成パターンを設定し、パルス発生器にタイミングを設定する制御装置と、を備える。制御装置は、像形成パターンが複数存在する場合に、複数の像形成パターンのそれぞれが順に光陰極に投影されるとともに、複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように像変更装置およびパルス発生器を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、光陰極型の電子線源から出射される電子ビームの電流密度分布を従来に比して均一にすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図
【
図2】同時に2つの像を形成するパターンを含む光が光陰極に照射された場合の電子軌道解析の結果の一例を示す図
【
図3】1つの像を形成するパターンを含む光が光陰極に照射された場合の電子軌道解析の結果の一例を示す図
【
図4】実施の形態1に係る電子ビーム照射方法の概要を示す図
【
図5】実施の形態1に係る電子ビーム照射方法における投影機での光照射の一例を示すタイミングチャート
【
図6】実施の形態1に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図7】実施の形態2に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図
【
図8】実施の形態2に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図9】光陰極の電子放出面の量子効率および電子放出面に投影される像の一例をL軸の正方向から見た図
【
図10】光陰極からの電子ビームがビームプロファイラに到達する様子の一例を示す図
【
図12】実施の形態3に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図
【
図13】実施の形態3に係る電子ビーム照射方法の一例を示すフローチャート
【
図14】実施の形態3に係る電子ビーム照射方法の一例を示すフローチャート
【
図15】実施の形態3に係る電子ビーム照射方法の一例を示すフローチャート
【
図16】実施の形態3に係る電子ビーム照射方法の一例を示すフローチャート
【
図17】光陰極に投影する光のパターンの一例を示す図
【
図18】実施の形態4に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図
【
図19】実施の形態4に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図20】実施の形態4に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図21】実施の形態4に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図22】実施の形態4に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャート
【
図23】光陰極の電子放出面の量子効率および電子放出面に投影される像の一例をL軸の正方向から見た図
【
図24】実施の形態1から4に係る電子ビーム加工装置の制御装置のハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態に係る電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
実施の形態1では、従来では困難であった電流密度の増加による電子ビーム電流密度分布の歪みを抑えることができる電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法について説明する。
【0012】
図1は、実施の形態1に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図である。電子ビーム加工装置1は、電子ビームEBの照射対象であり、加工対象であるワークWに電子ビームEBを照射して、ワークWの加工を行う装置である。電子ビーム加工装置1の一例は、溶接装置、積層造形装置である。電子ビーム加工装置1は、投影機10と、光電子銃20と、加工室30と、制御装置40と、を備える。なお、
図1において、光電子銃20の光陰極22からワークWに向かう方向をL軸とし、L軸に垂直な面内における互いに直交する2つの方向のそれぞれをx軸およびy軸とする。L軸は、光陰極22の電子放出面221に垂直であるとする。
【0013】
投影機10は、光源11と、像変更装置12と、パルス発生器13と、を有する。
【0014】
光源11は、光を出射する。光源11から出射される光は、後述する光電子銃20の光陰極22に照射されたときに、電子を放出することができる波長を有する。光源11の一例は、パルスレーザ光源、レーザダイオード、LED(Light Emitting Diode)である。
【0015】
像変更装置12は、光源11からの光を、ワークWに照射する電子ビームEBのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する。像形成パターンは、光電子銃20に投影される像を形成するためのパターンである。像変更装置12は、像形成パターンに光源11からの光を通過させた光Lを光電子銃20に照射する。ここでいう光のパターンは、像変更装置12から光電子銃20までの光路に垂直な2次元の面内で、光が存在するところと存在しないところとに分けられたものである。実施の形態1では、後述する制御装置40からの指示にしたがって、像変更装置12は複数の像を形成することが可能である。像変更装置12には、一例では、各画素を透過させる光の量を液晶によって変化させる透過型液晶パネルを用いることができる。像変更装置12の各画素を透過した光Lの強度は、以下では輝度と称される。これによって、像変更装置12は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の光源11から透過する光Lの輝度を変更することによって像形成パターンを形成する。
【0016】
パルス発生器13は、光源11と接続され、光源11からの光の出射のタイミングを切り替える。具体的には、制御装置40からの指示にしたがって、パルス発生器13は、光源11から光が出射される時間と、光が出射されない時間と、を切り替える。一例では、パルス発生器13は、光源11から光が出射される時間には光源11に電流を流し、光源11から光が出射されない時間には光源11に電流を流さないようにするパルス信号を発生させ、パルス信号を光源11に供給する。
【0017】
光電子銃20は、鏡21と、光陰極22と、補助電極23と、陽極24と、筐体25と、電圧制御装置26と、を有する。
【0018】
鏡21は、投影機10から出力される光Lを光陰極22へと照射させるために設けられる光学素子である。
【0019】
光陰極22は、投影機10からの光Lによって像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する。つまり、光Lが照射された光陰極22の位置からは光電効果によって電子が放出され、光Lが照射されなかった光陰極22の位置からは電子は放出されない。この結果、光陰極22から放出される電子は、投影された像に応じたパターンを有している。光陰極22は、石英ガラス等の基板と、基板の光Lが照射される面に設けられる金属または半導体からなるフォトカソード層と、を有する。光陰極22のフォトカソード層が配置される面は、電子放出面221とも称される。
【0020】
補助電極23は、光陰極22から放出された電子をワークWに向かわせる電界を形成するための電極である。
【0021】
陽極24は、光陰極22および補助電極23との間で電界を形成する電極である。陽極24は、光陰極22および補助電極23との間で形成した電界によって、光陰極22から放出された電子を加速させ、電子ビームEBを形成する。補助電極23および陽極24は、光陰極22から放出される電子をワークWに向かって加速する電界を生成する電極群に対応する。
【0022】
筐体25は、光陰極22、鏡21、補助電極23および陽極24を収容する。筐体25の内部は、真空にされる。筐体25は、投影機10からの光Lを入射する入射窓251を有する。筐体25は、陽極24によって形成される電子ビームEBを加工室30に照射する開口部252を有する。
【0023】
ここで、光陰極22、補助電極23および陽極24は、L軸に対して軸対称の形状を有している。一例では、光陰極22は、L軸を中心とする円板状であり、補助電極23は、光陰極22の電子放出面221の外周を円環状に囲む。筐体25の開口部252がL軸を中心とする円形状であるとすると、陽極24は、開口部252の縁に沿って円環状に配置される。つまり、
図1において、紙面の左右に描かれている補助電極23および陽極24は同一部品である。
【0024】
電圧制御装置26は、光陰極22から放出される電子が加工室30に向かう電子ビームEBとなるように、光陰極22、補助電極23および陽極24に印加する電圧を制御する。電圧制御装置26は、電線27aを介して光陰極22と接続され、電線27bを介して補助電極23と接続され、電線27cを介して陽極24と接続されている。
【0025】
加工室30は、ステージ31と、筐体32と、真空排気装置33と、を有する。ステージ31は、ワークWを載置する。加工室30は、図示していないが、ステージ31をx方向、y方向およびL方向に移動させる移動機構を有していてもよい。筐体32は、ステージ31を収容する。筐体32の光電子銃20の筐体25との接続面には、筐体25の開口部252に対応して開口部321が設けられている。開口部321の縁には、光電子銃20の陽極24が接続されている。
【0026】
真空排気装置33は、筐体25,32の内部を真空の状態、すなわち大気圧よりも低い定められた圧力の状態となるように、筐体25,32の内部を排気する。真空排気装置33は、真空ポンプ、真空計、真空機構の制御装置等を有するが、実施の形態1とは直接に関係ない部分であるため省略する。また、投影機10、電圧制御装置26および真空排気装置33に接続されている電源ケーブルについても、実施の形態1とは関係がない部分であるので省略する。
【0027】
制御装置40は、投影機10と通信線41を介して接続され、像変更装置12に像形成パターンを設定し、パルス発生器13に光源11からの光の出射のタイミングを設定する。実施の形態1では、制御装置40は、投影機10から複数のパターンの光Lの出射の切り替えが周期的に行われるように、像変更装置12およびパルス発生器13の動作を制御する。ワークW上の異なる位置に2つのパターンの電子ビームEB、すなわち第1電子ビームおよび第2電子ビームを照射する場合を例に挙げて説明する。1周期は、第1電子ビームを形成するための第1パターンの光を照射する第1照射期間と、第1パターンの光の照射が終了してから第2電子ビームを形成するための第2パターンの光を照射するまでの第1遅延時間と、第2パターンの光を照射する第2照射期間と、第2パターンの光の照射が終了してから第1パターンの光を照射するまでの第2遅延時間と、を含むものとする。制御装置40は、1周期における光Lの出射および像形成パターンの変更が行われるように像変更装置12およびパルス発生器13の動作を制御する。制御装置40の処理の詳細については、後述する。ここでは、2つのパターンの電子ビームEBを照射する場合を例に挙げたが、3つ以上のパターンの電子ビームEBを照射する場合も同様に行うことができる。
【0028】
このように、制御装置40は、像形成パターンが複数存在する場合に、複数の像形成パターンのそれぞれが順に光陰極22に投影されるとともに、複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように像変更装置12およびパルス発生器13を制御する。
【0029】
次に
図1に示される電子ビーム加工装置1の動作について説明する。制御装置40からの指示にしたがって、投影機10の像変更装置12は、光陰極22に投影される像を形成するための像形成パターンを形成する。具体的には、像変更装置12が透過型液晶パネルである場合には、像変更装置12は、制御装置40からの指示にしたがって、各画素の輝度を調整することによって、ワークWに照射させる電子ビームEBのパターンに対応した像形成パターンを形成する。つまり、像変更装置12は、電子ビームEBが照射される部分に対応する画素では光を透過させ、電子ビームEBが照射されない部分に対応する画素では光を透過させないように、各画素の輝度を設定する。また、パルス発生器13は、制御装置40からの指示にしたがって、光源11から光を出射させる照射期間と、光源11から光を出射させない期間である非出射期間と、を設定する。これによって、照射期間には、光源11からの光が像変更装置12で形成された像形成パターンを通過することで、像形成パターンに対応したパターンの光Lが出力される。また非出射期間には、光源11から光は出射されないので、投影機10からも光Lは出力されない。非出射期間は、遅延時間に対応する。
【0030】
投影機10から出力された光Lは、入射窓251を透過して光電子銃20の筐体25内に入射する。筐体25内に入射した光Lは、鏡21で反射され、光陰極22の電子放出面221に照射される。光Lは、像形成パターンと同じパターンを有しており、像形成パターンが電子放出面221に投影される。この結果、電子放出面221には、光Lが照射される部分と照射されない部分とが形成される。電子放出面221の光Lが照射されない部分からは電子は放出されないが、光Lが照射される部分からは光電効果によって電子が放出される。このとき、光陰極22、補助電極23および陽極24には電圧制御装置26によって定められた電圧が印加されており、光陰極22、補助電極23および陽極24によって発生した静電界によって、電子は、加速され、電子ビームEBとして陽極24に設けられた孔を通過し、加工室30へと向かう。
【0031】
光電子銃20の筐体25および加工室30の筐体32の内部は、電子ビームEBがワークWまで到達できるように、真空排気装置33で真空が保たれている。電子ビームEBは、ワークWに到達すると熱に変わり、溶接、積層造形等の熱源として利用される。以上が、一般的な電子ビーム加工装置1における動作である。
【0032】
ここで、2つの像を形成するパターンを含む光Lを光陰極22に照射した場合の電子ビームEBの軌跡について説明する。
図2は、同時に2つの像を形成するパターンを含む光が光陰極に照射された場合の電子軌道解析の結果の一例を示す図である。ここでは、電子ビーム加工装置1の光陰極22の電子放出面221に垂直で、光陰極22からワークWに向かう方向をL軸とし、光陰極22のL軸に垂直な任意の方向に取った軸をr軸としている。
図2には、光陰極22、補助電極23および陽極24によって発生した静電界を等電位線EPとして示している。
図2には、L軸に対して軸対称の2つの像IMa,IMbを形成するパターンを含む光Lを照射した場合の電子軌道解析の結果が示されている。像IMaは、光陰極22のL軸と交わる位置付近に形成される円形の像である。像IMbは、像IMaからr軸方向に離れた位置に形成される環状の像である。像IMaからの電子によって生成される電子ビームEBの軌道は、電子ビームEBa-1として示される。像IMbからの電子によって生成される電子ビームEBの軌道は、電子ビームEBb-1として示される。
【0033】
図3は、1つの像を形成するパターンを含む光が光陰極に照射された場合の電子軌道解析の結果の一例を示す図である。
図3も、
図2と同様に、L軸およびr軸を取り、光陰極22、補助電極23および陽極24によって発生した静電界を等電位線EPとして示している。
図3の場合には、光陰極22のL軸と交わる位置付近に形成される円形の像IMaを形成するパターンのみを含む光Lが光陰極22に照射された場合の光陰極22の像IMaの部分で発生した電子ビームEBaの軌道が示されている。
【0034】
図3の電子ビームEBaの軌道と
図2の電子ビームEBa-1の軌道とを比較すると、
図2の電子ビームEBa-1は、同時に照射された電子ビームEBb-1によってクーロン力を受け、軌道がr軸方向に広がっている。つまり、電子ビームEBaの軌道を基準とすると、電子ビームEBa-1の軌道、すなわち電流密度分布は歪んでいる。このように、2つ以上の像を形成するパターンが存在する光Lを光陰極22に照射する場合には、光陰極22に形成された像から放出される電子によって形成される電子ビームEBのうち、1つの像に対応する電子ビームEBは他の像に対応する電子ビームEBの影響を受けて、電子ビームEBの電流密度分布に歪みが生じてしまう場合がある。このような場合には、所望のパターンの電子ビームEBをワークW上に照射することが困難となる。
【0035】
次に、電子ビームEBの電流密度分布の歪みを抑える時間制御について説明する。
図4は、実施の形態1に係る電子ビーム照射方法の概要を示す図である。
図4も、
図2と同様に、L軸およびr軸を取っている。
図5は、実施の形態1に係る電子ビーム照射方法における投影機での光照射の一例を示すタイミングチャートである。
図5において、横軸は時刻を示し、縦軸は、光陰極22に投影される像に対応する像変更装置12の画素の輝度を示している。
【0036】
実施の形態1では、光Lに複数の像を形成するパターンが含まれ、複数の像の電子ビームEBが存在することによって電流密度分布が影響を受ける場合には、複数の像が別々に形成されるように、複数の光Lに分ける。つまり、複数の像を、互いに電流密度分布に影響を与えない像にグループ分けし、各グループの像を形成するパターンを含む光Lを形成する。
図4の例では、像IMaを形成するパターン含む第1光Laと、像IMbを形成するパターンを含む第2光Lbと、に分ける。つまり、第1光Laを形成する第1像形成パターンと、第2光Lbを形成する第2像形成パターンと、を用意しておく。
【0037】
制御装置40は、像変更装置12に第1光Laを形成する第1像形成パターンを設定する。その後、時刻t1で、定められた時間ΔtAの間、パルス発生器13によって光源11から光が出射される。これによって、
図4の第1光Laが光陰極22に照射され、光陰極22の電子放出面221に円型の像IMaが形成される。このとき、第1像形成パターンには、第2光Lbが含むパターンがないので、第2光Lbによる像IMbは形成されない。像IMaによって発生した電子ビームEBaはワークWの方向へと向かう。定められた時間ΔtAは、第1照射時間に対応する。
【0038】
次に、時刻t2で、パルス発生器13は、光源11からの光の出射を休止する。このとき、制御装置40は、像変更装置12に第2光Lbを形成する第2像形成パターンを設定する。時刻t2から定められた時間Δtdが経過した時刻t3で、定められた時間ΔtBの間、パルス発生器13によって光源11から光が出射される。これによって、
図4の第2光Lbが光陰極22に照射され、光陰極22の電子放出面221に環型の像IMbが形成される。このとき、第2像形成パターンには、第1光Laが含むパターンがないので、第1光Laによる像IMaは形成されない。像IMbによって発生した電子ビームEBbはワークWの方向へ向かう。定められた時間Δtdは、遅延時間と称される。また、定められた時間ΔtBは、第2照射時間に対応する。
【0039】
その後、時刻t4で、パルス発生器13は、光源11からの光の出射を休止する。このとき、制御装置40は、像変更装置12に第1光Laを形成する第1像形成パターンを設定する。時刻t4から遅延時間Δtdが経過した時刻t5で、再び第1光Laが出射される。このように、時刻t1から時刻t5までに行われる処理が繰り返し実行される。時刻t1から時刻t5までが1周期となる。
【0040】
ここで、第1光Laの照射が終了してから第2光Lbの照射を開始するまでの間と、第2光Lbの照射が終了してから第1光Laの照射を開始するまでの間と、には、それぞれ遅延時間Δtdが設けられている。
図4に示されるように、第1光Laの照射時に生成される電子ビームEBaと、第2光Lbの照射時に生成される電子ビームEBbと、は、遅延時間に対応してL軸上の位置が異なっており、2つの電子ビームEBa,EBb間には隙間ΔLが生じている。このように2つの電子ビームEBa,EBb間に隙間ΔLを設けることで、2つの電子ビームEBa,EBb間のクーロン力の影響は無視することができる。つまり、遅延時間Δtdをおいて2つの第1光Laおよび第2光Lbを交互に光陰極22に照射することで、像IMaによって形成される電子ビームEBaは、他の像IMbによって形成される電子ビームEBbの影響を受けなくなるので、電流密度分布に歪みが生じなくなる。
【0041】
このように、遅延時間Δtdは、切り替え前の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームEBと、切り替え後の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームEBと、の間がクーロン力による影響を無視することができる間隔となるように設定される。
【0042】
なお、ここでは、パターンを有する2つの光Lを交互に遅延時間Δtdをおいて照射する場合を例に挙げたが、パターンを有する3つ以上の光Lを交互に遅延時間Δtdをおいて照射してもよい。
【0043】
図6は、実施の形態1に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、
図4に示したように、2つのパターンの光Lを用いる場合を説明する。まず、制御装置40は、第1光Laの像が光陰極22に形成されるように第1像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS11)。次いで、制御装置40は、パルス発生器13に時間ΔtAの間、光を照射するように指示する(ステップS12)。これによって、投影機10から光陰極22に第1光Laが照射され、光陰極22の電子放出面221に像IMaが形成される。そして、像IMaに対応した電子が光陰極22から放出され、光陰極22、補助電極23および陽極24によって形成される電界によって、ワークWの方に向かって加速される電子ビームEBaが生成される。
【0044】
制御装置40は、第1光Laを時間ΔtAの間照射した後、パルス発生器13に遅延時間Δtdの間、光を出射しないように指示する(ステップS13)。また、この間に、制御装置40は、第2光Lbの像が光陰極22に投影されるように第2像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS14)。遅延時間Δtdの後、制御装置40は、パルス発生器13に時間ΔtBの間、光を出射するように指示する(ステップS15)。これによって、投影機10から光陰極22に第2光Lbが照射され、光陰極22の電子放出面221に像IMbが形成される。そして、像IMbに対応した電子が光陰極22から放出され、光陰極22、補助電極23および陽極24によって形成される電界によって、ワークWの方に向かって加速される電子ビームEBbが生成される。
【0045】
その後、制御装置40は、電子ビームEBの照射処理が終了したかを判定する(ステップS16)。電子ビームEBの照射処理が終了していない場合(ステップS16でNoの場合)には、ステップS11に処理が戻る。また、電子ビームEBの照射処理が終了した場合(ステップS16でYesの場合)には、処理が終了する。
【0046】
実施の形態1の電子ビーム加工装置1は、光源11と、光源11からの光を、ワークWに照射される電子ビームEBのパターンに対応した光Lのパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置12と、光源11からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器13と、光源11からの光によって像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極22と、光陰極22から放出される電子を加速させる電界を生成する電極群である補助電極23および陽極24と、像変更装置12に像形成パターンを設定し、パルス発生器13にタイミングを設定する制御装置40と、を備える。そして、制御装置40は、像形成パターンが複数存在する場合に、複数の像形成パターンのそれぞれが順に光陰極22に投影されるとともに、複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように像変更装置12およびパルス発生器13を制御する。これによって、切り替え前の像形成パターンの投影によって生じる電子ビームEBと、切り替え後の像形成パターンの投影によって生じる電子ビームEBと、は互いにクーロン力の影響を無視できる位置に存在することになり、それぞれの電子ビームEBの電流密度分布の歪みの発生を抑制することができる。つまり、電子ビームEBの電流密度が高くなるパターンを有する光Lの投影によって電子ビームEBのパターンを形成する場合には、電流密度が低くなるようにパターンをグループ分けし、グループ分けしたパターンを含む光Lを遅延時間を挟んで順に光陰極22に投影する。これによって、形状の異なる電子ビームEBの電流密度分布を重ね合わせることができ、均一な電流密度分布の電子ビームEBを生成することができる。この結果、電子ビーム加工装置1による加工の品質を向上させ、リードタイムを削減することができる。
【0047】
実施の形態2.
実施の形態2では、従来では困難であった光陰極22の量子効率の位置依存性、経年劣化による電子ビームEBの電流密度分布の歪みを補正し、均一な電流密度分布を持つ電子ビームEBを走査することができる電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法について説明する。
【0048】
図7は、実施の形態2に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、実施の形態1と異なる部分について説明する。電子ビーム加工装置1Aは、投影機10Aと、光電子銃20と、加工室30Aと、制御装置40Aと、フィードバック装置50と、を備える。
【0049】
投影機10Aは、実施の形態1の投影機10と比較して、パルス発生器13が除去されている。
【0050】
加工室30Aは、実施の形態1の加工室30の構成に加えて、筐体32の内部に、ビームプロファイラ34をさらに有する。ビームプロファイラ34は、ワークWの位置での電子ビームEBのL軸に垂直な面内における電流密度を測定する。つまり、ビームプロファイラ34は、ステージ31上に照射される電子ビームEBのxy面内における電子ビームEBの電流密度を測定する。ビームプロファイラ34は、電子ビームEBの電流密度の測定結果を示す信号をフィードバック装置50に通信線35を介して出力する。ビームプロファイラ34の一例は、電子ビームEBの照射位置に設置されるスリットまたは金属ワイヤである。ビームプロファイラ34は、図示しない移動機構によってxy面内で移動可能である。一例では、ワークWに電子ビームEBを照射する前に、ワークW表面における電子ビームEBのプロファイルを測定し、制御装置40Aおよび後述するフィードバック装置50による電子ビームEBの電流密度分布の調整が終了した後、電子ビームEBがワークWに照射されるようにビームプロファイラ34をステージ31上から退避させる。
【0051】
フィードバック装置50は、ビームプロファイラ34による測定結果を用いて電子ビームEBの電流密度分布を算出し、各位置における算出した電子ビームEBの電流密度分布と目標値とを比較する装置である。フィードバック装置50は、ビームプロファイラ信号処理装置51と、電子ビーム分布比較装置52と、を備える。ビームプロファイラ信号処理装置51は、ビームプロファイラ34と通信線35を介して接続されている。ビームプロファイラ信号処理装置51は、ビームプロファイラ34からの電子ビームEBの電流密度の測定結果を示す信号を受信すると、受信した信号を用いてステージ31上のxy面内における電子ビームEBの電流密度分布を算出する。算出した電子ビームEBの電流密度分布は、電流密度分布算出値と称される。電子ビームEBの電流密度分布の目標値は、一例では、複数の像を含む像形成パターンを光陰極22に投影した複数の像によって生成される複数の電子ビームEBにおけるクーロン力による影響を無視したときの電流密度分布である。
【0052】
電子ビーム分布比較装置52は、ビームプロファイラ信号処理装置51で算出された電流密度分布算出値と、目標となる電子ビームEBの電流密度分布である電流密度分布目標値と、を比較する。電子ビーム分布比較装置52は、一例では、xy面内の各位置における電流密度分布算出値の電流密度分布目標値に対するずれの量を示す情報を比較結果として生成する。電子ビーム分布比較装置52は、通信線53を介して比較結果を制御装置40Aに送信する。
【0053】
制御装置40Aは、各位置における算出した電子ビームEBの電流密度分布と目標値との比較結果を用いて、電子ビームEBの電流密度分布が均一となるように像形成パターンの画素の輝度を変更する。つまり、制御装置40Aは、比較結果のずれの量を用いて、電子ビームEBの電流密度分布が均一となるように像形成パターンを変更し、像変更装置12に設定する。具体的には、制御装置40Aは、電子ビーム分布比較装置52から受信した比較結果において、すべてのxy面内の位置のずれの量が規定値以下である場合には、像変更装置12に設定している像形成パターンの設定が適切であると判定する。一方、制御装置40Aは、比較結果において、ずれの量が規定値を超える部分がある場合には、ずれの量が規定値を超えている位置を特定し、特定した位置に対応する像変更装置12の画素の輝度値を、ずれの量が規定値以内となるように変更する。ずれの量が規定値を超える要因として、光陰極22の量子効率の位置依存性がある場合、光陰極22の経年劣化による場合等が考えられる。また、ここで使用される規定値は、電流密度分布算出値と電流密度分布目標値との差の絶対値が誤差の範囲で一致すると考えられる値である。
【0054】
また、制御装置40Aは、同じ形状の像が光陰極22上で走査されるように、同じ形状で位置が異なる像形成パターンを定められた時間間隔で切り替えることによって、光陰極22上に形成された像で生成される電子ビームEBを走査させる。つまり、制御装置40Aは、光陰極22上を像が移動するように像形成パターンを変化させて、電子ビームEBを走査する。このとき使用される像形成パターンは、電流密度分布算出値と電流密度分布目標値との間のずれの量が規定値以内となるように補正されたものが使用される。
【0055】
なお、実施の形態1と同様に、投影機10A、電圧制御装置26、真空排気装置33、ビームプロファイラ34、ビームプロファイラ信号処理装置51、電子ビーム分布比較装置52に接続されている電源ケーブルは実施の形態2の内容とは直接に関係がないので省略する。
【0056】
次に、
図7に示される電子ビーム加工装置1Aの動作について説明する。
図8は、実施の形態2に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図8には、電子ビーム照射方法のうち、電子ビームEBの電流密度分布を補正し、電子ビームEBを走査する方法が示されている。
【0057】
加工室30Aでは、ステージ31上にビームプロファイラ34が設置される。制御装置40Aは、像が光陰極22に投影されるように像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS31)。一例では、像変更装置12が透過型液晶パネルである場合には、制御装置40Aは、ワークWに照射させる電子ビームEBのパターンに対応したパターンの光Lとなるように、各画素の輝度値を設定する。ここでは、像形成パターンにおいて、光陰極22で像が形成される位置に対応する画素の輝度値はすべて同一の値であるものとする。
【0058】
その後、制御装置40Aは、光源11から光を出射させる(ステップS32)。これによって、光源11からの光は像変更装置12で像形成パターンに対応したパターンの光Lとなり、光電子銃20へと出力される。投影機10Aから出力された光Lは、入射窓251を透過して光電子銃20の筐体25内に入射する。筐体25内に入射した光Lは、鏡21で反射され、光陰極22の電子放出面221に照射され、像形成パターンに対応する像が形成される。光陰極22の電子放出面221では、像が形成された位置で光電効果によって電子が放出される。このとき、光陰極22、補助電極23および陽極24には電圧制御装置26によって定められた電圧が印加されており、光陰極22、補助電極23および陽極24によって発生した静電界によって、電子が加速され、電子ビームEBとなる。電子ビームEBは、陽極24に設けられた孔を通過し、加工室30Aへと向かう。光電子銃20の筐体25および加工室30Aの筐体32の内部は、電子ビームEBがビームプロファイラ34まで到達できるように、真空排気装置33で真空が保たれている。そして、電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達する。
【0059】
電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達すると、ビームプロファイラ34は、ステージ31上のxy方向の電流密度を測定し、測定結果をフィードバック装置50のビームプロファイラ信号処理装置51に送信する(ステップS33)。ビームプロファイラ信号処理装置51は、測定結果を受信すると、ステージ31上のxy方向の電流密度から、電子ビームEBの電流密度分布である電流密度分布算出値を算出し、電流密度分布算出値を電子ビーム分布比較装置52に送信する(ステップS34)。
【0060】
電子ビーム分布比較装置52は、電流密度分布算出値を電流密度分布目標値と比較し、各位置における電流密度分布算出値の電流密度分布目標値からのずれの量を算出した比較結果を生成し、比較結果を制御装置40Aに送信する(ステップS35)。
【0061】
制御装置40Aは、比較結果からずれの量が規定値を超える部分があるかを判定する(ステップS36)。
図9は、光陰極の電子放出面の量子効率および電子放出面に投影される像の一例をL軸の正方向から見た図である。光陰極22の電子放出面221の中心を原点Oとして、光陰極22内の量子効率比を等値線で表している。量子効率比は量子効率の最高値を1とした相対的値である。量子効率は、一例では、光陰極22に入射する光Lの光子数に対して発生する電子の数の比である。
図9では、xy面内の各位置における量子効率比が示されている。
【0062】
図9に示されるように、輝度が均一な像IMcを光陰極22の電子放出面221に照射した場合に、像IMc内には、量子効率比が0.9以上の領域と、0.9未満の領域と、が存在している。このため、像IMcが照射される領域において、光電効果で発生する電子の違いが生じる。つまり、輝度が均一であるので、量子効率が0.9未満の領域から発生する電子の数は、量子効率が0.9以上の領域から発生する電子の数に比して少なくなるような電子数分布が発生する。
【0063】
図10は、光陰極からの電子ビームがビームプロファイラに到達する様子の一例を示す図である。光陰極22に形成された像によって電子ビームEBが生成される。このうち、電子ビームEBcは、像IMcによって生成されたものであることを示している。像IMcで発生した電子数分布は、
図10の電子ビームEBcに示されるようにビームプロファイラ34に転写される。つまり、像IMc内の量子効率比の違いによって生じた電子数分布の歪みは、電子ビームEBの電流密度分布の歪みとして現れる。制御装置40Aは、この歪みを補正する処理を行う。
【0064】
図8に戻り、ずれの量が規定値を超える部分がある場合(ステップS36でYesの場合)には、制御装置40Aは、ずれの量が規定値を超える該当箇所に対応する画素の輝度を補正する(ステップS37)。
【0065】
図9の像IMcを例に挙げて画素の輝度の補正についてさらに詳しく説明する。像IMcは、均一な輝度となっている。
図11は、像変更装置の一例を示す図である。
図11に示されるように、像変更装置12は、複数の画素121が2次元面内にマトリックス状に配置されている。像IMcを表現する場合には、像変更装置12は、像IMcに対応する位置の画素121が均一な輝度値で光るように、すなわち光源11からの光が同じ透過率で透過するように、各画素121の透過率が設定される。
図11では、円形の像IMcに対応する位置の画素121のみを抜き出して示している。抜き出された画素121が、円形の像IMcを形成するために同一の輝度値となるように設定される。
【0066】
ずれの量が規定値を超える部分がある場合には、ずれの量が規定値を超える部分に対応する像変更装置12の画素121を取得し、取得した画素121の輝度を変更する。一例では、
図9の像IMcで、量子効率が0.9未満の領域が原因で電流密度分布算出値が電流密度分布目標値から規定値以上ずれている場合には、量子効率比が0.9未満の領域に対応する画素121の輝度値を上げるか、量子効率比が0.9以上の領域に対応する画素121の輝度値を下げるか、の処理を行う。
【0067】
図8に戻り、その後、ステップS32に処理が戻り、ずれの量が規定値を超える部分がなくなるまで、上記した処理が繰り返し実行される。
【0068】
ステップS36で、ずれの量が規定値を超える部分がない場合(ステップS36でNoの場合)には、制御装置40Aは、現在設定されている像形成パターンの各画素の輝度値を、像IMcを形成する設定値として保存する(ステップS38)。その後、制御装置40Aは、光陰極22の他の位置でも同じ像の補正が必要かを判定する(ステップS39)。一例では、同じ像を光陰極22上で走査させることで電子ビームEBを走査させる場合には、光陰極22の像を走査させる各位置で同様の補正が必要となる。
【0069】
光陰極22の他の位置でも同じ像の補整が必要である場合(ステップS39でYesの場合)には、制御装置40Aは、光陰極22の他の位置に同じ像が投影されるように他の像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS40)。その後、処理がステップS32に戻り、他の像形成パターンについての補正処理が実行される。一例では、
図9に示されるように、像IMcと形状が同じで位置が異なる像IMdなどの像についても上記で示した処理と同様の処理を実行する。ただし、この場合には、
図10に示されるように、電子ビームEBdは、像IMdから発生するが、電流密度分布の中心位置は、像IMcの場合とは異なる。
【0070】
光陰極22の他の位置で同じ像の補整が必要ではない場合(ステップS39でNoの場合)には、制御装置40Aは、保存された設定値を用いて加工処理を行う(ステップS41)。このとき、ビームプロファイラ34はステージ31上から退避され、ステージ31上にはワークWが載置されることになる。また、保存した像形成パターンの各画素の輝度値を像変更装置12に設定することで、電子ビームEBの電流密度分布が均一となる。また、各位置で保存した像形成パターンの各画素の輝度値を順に像変更装置12に設定することで、電子ビームEBをワークW上で走査することが可能となる。加工処理が終了すると、処理が終了する。
【0071】
このように光陰極22の電子放出面221上の各位置に光Lを順に照射して像を形成して、像を走査させるときに、電流密度分布が均一となるように、像変更装置12の像形成パターンの各画素の輝度値の設定をフィードバック制御によって変えるようにした。これによって、同じ像を走査させる場合にも、均一な電流密度分布の電子ビームEBを走査させることが可能となる。
【0072】
実施の形態2に係る電子ビーム加工装置1Aは、光源11と、光源11からの光を、ワークWに照射される電子ビームEBのパターンに対応した光Lのパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置12と、光源11からの光によって像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極22と、光陰極22から放出される電子を加速させる電界を生成する電極群と、像変更装置12に像形成パターンを設定する制御装置40Aと、ワークWの位置での電子ビームEBの進行方向に垂直な面内における電子ビームEBの電流密度を測定するビームプロファイラ34と、ビームプロファイラ34による測定結果を用いて電子ビームEBの電流密度分布を算出し、各位置における算出した電子ビームEBの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置50と、を備える。像変更装置12は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の光源11から透過する光の輝度を変更することによって像形成パターンを形成する。制御装置40Aは、各位置における算出した電子ビームEBの電流密度分布と目標値との比較結果を用いて、電子ビームEBの電流密度分布が均一となるように像形成パターンの各画素の輝度を変更する。これによって、光Lが照射される像内における光陰極22の量子効率の位置依存性による電子ビームEBの電流密度分布の歪み、光陰極22の経年劣化による電子ビームEBの電流密度分布の歪み、光陰極22への光Lの照射位置の変更による電子ビームEBの電流密度分布の歪みを補正することができる。この結果、光陰極22の電子放出面221上に像を走査させた場合でも、電子放出面221上での像の位置にかかわらず、ワークW上に均一な電流密度分布を有する電子ビームEBを走査させることができる。つまり、従来では困難であった光陰極22の量子効率の位置依存性または経年劣化による電流密度分布の歪みを補正し、光陰極22に投影される像を投影機10で動かすことで、電子ビームEBを均一な電流密度分布で走査させることができる。
【0073】
実施の形態3.
実施の形態3では、従来では困難であった複数の電子ビームEBを走査することができる電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法について説明する。
【0074】
図12は、実施の形態3に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、実施の形態1,2と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、実施の形態1,2と異なる部分について説明する。実施の形態3に係る電子ビーム加工装置1Bは、実施の形態1の構成と実施の形態2の構成とを組み合わせたものである。すなわち、実施の形態3に係る電子ビーム加工装置1Bは、実施の形態1の加工室30に代えて加工室30Aを備える。加工室30Aは、実施の形態2で説明したように、ビームプロファイラ34をさらに備える。実施の形態3に係る電子ビーム加工装置1Bは、実施の形態1の構成に、フィードバック装置50をさらに備える。
【0075】
実施の形態3に係る電子ビーム加工装置1Bは、制御装置40に代えて制御装置40Bを備える。制御装置40Bは、制御装置40,40Aの機能に加えて、像変更装置12に設定した、複数の像を形成するパターンを含む像形成パターンを光陰極22に投影して得られる複数の電子ビームEBの電流密度分布算出値に歪みがある場合に、像変更装置12の対応する位置の画素の輝度値を変更するか、あるいは像形成パターンを複数の像を別々に個々の像として形成するパターンを含む像形成パターンに分け、分けた像形成パターンの光陰極22への投影に遅延時間を設定する。以下では、元の複数の像を形成するパターンを含む像形成パターンは、全体像形成パターンと称される。全体像形成パターンを複数の像形成パターンに分けた個々の像形成パターンは、個別像形成パターンと称される。また、全体像形成パターンおよび個別像形成パターンは、ここに区別する必要がない場合には、像形成パターンと称される。
【0076】
また、制御装置40Bは、同じ形状の複数の像が光陰極22上で走査されるように、同じ形状で位置が異なる像形成パターンを定められた時間間隔で切り替えることによって、光陰極22上に形成された像で生成される電子ビームEBを走査させる。このとき使用される像形成パターンは、電流密度分布算出値と電流密度分布目標値との間のずれの量が規定値以内となるように補正されたものが使用される。
【0077】
次に、
図12に示される電子ビーム加工装置1Bの動作について説明する。
図13から
図16は、実施の形態3に係る電子ビーム照射方法の一例を示すフローチャートである。
図17は、光陰極に投影する光のパターンの一例を示す図である。ここでは、
図17に示されるように2つの像IMe,IMfに対応する2つの電子ビームEBが照射される場合を例に挙げて説明を行う。
【0078】
まず、加工室30Aでは、ステージ31上にビームプロファイラ34が設置される。この状態で、制御装置40Bは、像IMeおよび像IMfが同時に光陰極22に投影されるように像変更装置12に全体像形成パターンを設定する(ステップS51)。次いで、制御装置40Bは、パルス発生器13に光を出射するように指示する(ステップS52)。これによって、光源11からの光は像変更装置12で全体像形成パターンに対応したパターンの光Lとなり、光電子銃20へと出力される。投影機10から出力された光Lは、入射窓251を透過して光電子銃20の筐体25内に入射する。筐体25内に入射した光Lは、鏡21で反射され、光陰極22の電子放出面221に照射され、全体像形成パターンに対応する像IMeおよび像IMfが同時に形成される。そして、像IMeおよび像IMfに対応した電子が光陰極22から放出され、光陰極22、補助電極23および陽極24によって形成される電界によって、ステージ31の方に向かって加速される電子ビームEBが生成される。電子ビームEBは、陽極24に設けられた孔を通過し、加工室30Aへと向かう。
【0079】
光電子銃20の筐体25および加工室30Aの筐体32の内部は、電子ビームEBがビームプロファイラ34まで到達できるように、真空排気装置33で真空が保たれている。電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達する。
【0080】
電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達すると、ビームプロファイラ34は、ステージ31上のxy方向の電流密度を測定し、測定結果をフィードバック装置50のビームプロファイラ信号処理装置51に送信する(ステップS53)。ビームプロファイラ信号処理装置51は、測定結果を受信すると、ステージ31上のxy方向の電流密度から、電流密度分布を算出し、電流密度分布算出値を電子ビーム分布比較装置52に送信する(ステップS54)。
【0081】
電子ビーム分布比較装置52は、電流密度分布算出値を電流密度分布目標値と比較し、各位置における電流密度分布算出値の電流密度分布目標値からのずれの量を算出した比較結果を生成し、比較結果を制御装置40Bに送信する(ステップS55)。
【0082】
制御装置40Bは、比較結果からずれの量が規定値を超える部分があるかを判定する(ステップS56)。ずれの量が規定値を超える部分がある場合(ステップS56でYesの場合)には、制御装置40Bは、ずれの量が規定値を超える該当箇所に対応する画素を特定する(ステップS57)。制御装置40Bは、特定した画素での輝度値による変更が不可能であるかを判定する(ステップS58)。輝度値による変更が不可能ではない場合(ステップS58でNoの場合)には、制御装置40Bは、特定した画素の輝度値を補正する(ステップS59)。その後、ステップS52に処理が戻る。特定した画素の輝度値による変更が可能な場合には、上記したステップS52からステップS59までの処理が繰り返し実行される。
【0083】
ステップS56で、ずれの量が規定値を超える部分がない場合(ステップS56でNoの場合)には、制御装置40Bは、現在設定されている全体像形成パターンの各画素の輝度値を、像IMeおよび像IMfを同時に形成する設定値として保存する(ステップS60)。
【0084】
その後、制御装置40Bは、光陰極22の他の位置でも同じ像の補正が必要かを判定する(ステップS61)。ここで、他の位置の同じ像は、像IMeおよび像IMfと同じ形状を有し、光陰極22上での照射位置が異なる像である。一例では、像IMeおよび像IMfを走査する際に、異なる位置の同じ像の全体像形成パターンが使用される。
【0085】
光陰極22の他の位置でも同じ像の補整が必要である場合(ステップS61でYesの場合)には、制御装置40Bは、異なる位置に同じ像IMeおよび像IMfを同時に形成する他の全体像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS62)。その後、処理がステップS52に戻り、他の全体像形成パターンについても同様の処理が実行される。
【0086】
一方、ステップS58で、輝度値による変更が不可能である場合(ステップS58でYesの場合)は、実施の形態1の
図2および
図3で説明したように、像IMeによる電子ビームEBと像IMfによる電子ビームEBとの間のクーロン力の影響が無視できない場合である。この場合には、像IMeと像IMfとを別々に投影し、像IMeを形成するパターンを含む光Lの照射と像IMfを形成するパターンを含む光Lの照射との間に遅延時間を設ける。つまり、制御装置40Bは、ステップS51で設定した全体像形成パターンを、像IMeを形成する個別像形成パターンと、像IMfを形成する個別像形成パターンと、に分ける(ステップS71)。また、制御装置40Bは、光陰極22に像IMe用の個別像形成パターンを投影する照射時間と、像IMf用の個別像形成パターンを投影する照射時間と、の間の遅延時間を変更する(ステップS72)。最初の状態は、遅延時間が0であるとしており、この状態から遅延時間を設けるようにする処理である。遅延時間を最初に変更する場合には、遅延時間を任意の時間とすることができるが、予め定められた値を初期値として設定することもできる。
【0087】
次いで、制御装置40Bは、像IMe用の個別像形成パターンによる像IMeと、像IMf用の個別像形成パターンによる像IMfと、が遅延時間Δtdをあけて順に光陰極22に投影されるように、像変更装置12およびパルス発生器13を設定する(ステップS73)。これによって、実施の形態1の
図4および
図5に示されるように、像IMe用の個別像形成パターンによる光Lと、像IMf用の個別像形成パターンによる光Lと、が光陰極22に交互に投影される。またこれに伴って、光陰極22からは、像IMeによる電子ビームEBと像IMfによる電子ビームEBとが交互に生成されることになる。そして、これらの電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達する。
【0088】
電子ビームEBがビームプロファイラ34に到達すると、ビームプロファイラ34は、ステージ31上のxy方向の電流密度を測定し、測定結果をフィードバック装置50のビームプロファイラ信号処理装置51に送信する(ステップS74)。ビームプロファイラ信号処理装置51は、測定結果を受信すると、ステージ31上のxy方向の電流密度から、電流密度分布算出値を算出し、電流密度分布算出値を電子ビーム分布比較装置52に送信する(ステップS75)。
【0089】
電子ビーム分布比較装置52は、電流密度分布算出値を電流密度分布目標値と比較し、各位置における電流密度分布算出値の電流密度分布目標値からのずれの量を算出した比較結果を生成し、比較結果を制御装置40Bに送信する(ステップS76)。
【0090】
制御装置40Bは、比較結果からずれの量が規定値を超える部分があるかを判定する(ステップS77)。ずれの量が規定値を超える部分がある場合(ステップS77でYesの場合)には、制御装置40Bは、特定した画素での輝度値による変更が不可能であるかを判定する(ステップS78)。輝度値による変更が不可能ではない場合(ステップS78でNoの場合)には、制御装置40Bは、ずれの量が規定値を超える該当箇所に対応する画素の輝度を補正する(ステップS79)。その後、ステップS74に処理が戻り、ずれの量が規定値を超える部分がなくなるまで、上記した処理が繰り返し実行される。
【0091】
輝度値による変更が不可能である場合(ステップS78でYesの場合)には、制御装置40Bは、遅延時間を補正する(ステップS80)。その後、ステップS74に処理が戻り、ずれの量が規定値を超える部分がなくなるまで、上記した処理が繰り返し実行される。
【0092】
ステップS77で、ずれの量が規定値を超える部分がない場合(ステップS77でNoの場合)には、制御装置40Bは、現在設定されている像IMf用の個別像形成パターンの各画素の輝度、像IMf用の個別像形成パターンの各画素の輝度および遅延時間をそれぞれ像IMeおよび像IMfを形成する設定値として保存する(ステップS81)。
【0093】
その後、制御装置40Bは、光陰極22の他の位置でも同じ像の補正が必要かを判定する(ステップS82)。光陰極22の他の位置でも同じ像の補整が必要である場合(ステップS82でYesの場合)には、制御装置40Bは、同じ像IMeおよび同じ像IMfがそれぞれ光陰極22の他の位置に投影されるように新たな像IMe用の個別像形成パターンおよび新たな像IMf用の個別像形成パターンを像変更装置12に設定し、遅延時間をパルス発生器13に設定する(ステップS83)。遅延時間は、ステップS81で保存された遅延時間を用いることができる。その後処理がステップS74に戻り、他の位置で同様の処理が実行される。
【0094】
ステップS82で光陰極22の他の位置で同じ像の補整が必要ではない場合(ステップS82でNoの場合)、あるいはステップS61で光陰極22の他の位置で同じ像の補整が必要ではない場合(ステップS61でNoの場合)には、制御装置40Bは、保存された設定値を用いて加工処理を行う(ステップS84)。このとき、ビームプロファイラ34は退避され、ステージ31上にはワークWが載置されることになる。また、各位置で保存した像形成パターンの各画素の輝度を順に像変更装置12に設定することで、電子ビームEBをワークW上で走査することが可能となる。一例では、像IMeおよび像IMfが同時に投影されても電子ビームEBの電流密度分布が歪まない場合には、像IMeおよび像IMfの光陰極22上での投影位置が変わるように、像IMeおよび像IMfを含む全体像形成パターンを用いて走査を行う。また、像IMeおよび像IMfが同時に投影されると、電子ビームEBの電流密度分布が歪む場合には、光陰極22上での像IMeおよび像IMfの投影位置が変わるとともに、像IMeと像IMfとを遅延時間をおいて光陰極22に投影されるように、像IMe用の個別像形成パターンと像IMf用の個別像形成パターンとを用いて走査を行う。その後、加工処理が終了すると、処理が終了する。
【0095】
以上のように、実施の形態3では、複数の像を同時に光陰極22に投影したときに生成される電子ビームEBの電流密度分布が目標値に対して規定値以上離れている場合には、像変更装置12の画素の輝度値を変更するか、当該画素の輝度調整では不可能な場合に複数の像を個々の像として別々に遅延時間を設けて光陰極22に投影するようにした。これによって、光陰極22への像の投影によって生成する電子ビームEBの電流密度分布の歪みを検出し、均一な電流密度分布となる電子ビームEBをワークWに照射することが可能となる。
【0096】
また、複数の像の投影位置を光陰極22上で変えることによって、電子ビームEBを走査する場合に、複数の像の投影位置のそれぞれで電子ビームEBの電流密度分布の歪みが生じないように、像変更装置12の画素の輝度を設定し、あるいは複数の像を個々の像として別々に投影するように遅延時間を設定するようにした。これによって、従来では困難であった、投影機10と光陰極22とで複数の電子ビームEBをそれぞれ均一な電流密度分布で走査させることができる。
【0097】
実施の形態4.
実施の形態4では、光陰極22を長寿命化することができる電子ビーム加工装置および電子ビーム照射方法を説明する。
【0098】
図18は、実施の形態4に係る電子ビーム加工装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、実施の形態1から3と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、実施の形態1から3と異なる部分について説明する。実施の形態4に係る電子ビーム加工装置1Cは、投影機10と、光電子銃20と、加工室30Aと、制御装置40Cと、フィードバック装置50と、を備える。加工室30Aは、実施の形態3の加工室30Aの構成に加えて、電子レンズ36および偏向コイル37をさらに有する。電子レンズ36は、電子ビームEBを収束させる機能を有する。偏向コイル37は、電子ビームEBの向き、すなわちワークW上の照射位置を変える機能を有する。
【0099】
制御装置40Cは、電子レンズ36および偏向コイル37を制御する機能をさらに有する。一例では、制御装置40Cは、電子ビームEBを電子レンズ36で収束させ、電子ビームEBの向きを偏向コイル37で変えることで、電子ビームEBをワークW上で走査させる。電子レンズ36および偏向コイル37は、補助電極23および陽極24を含む電極群とステージ31またはステージ31に載置されるワークWとの間に配置される。
【0100】
また、制御装置40Cは、光陰極22の電子放出面221の不良領域を検知すると、不良領域に像が照射されないように像変更装置12の像形成パターンを変更し、変更した像形成パターンによる像を光陰極22に投影する。つまり、制御装置40Cは、光陰極22に不良領域がある場合に、不良領域を含まないように形成した新たな像形成パターンを像変更装置12に設定する。
【0101】
光陰極22に不良領域がある場合には、実施の形態2,3のように投影機10,10Aから出力される光Lを光陰極22の電子放出面221上で走査させる方法は使用できない。しかし、実施の形態4では、光陰極22の不良領域を避けた領域に固定した像を投影して電子ビームEBを生成し、偏向コイル37を用いてワークW上に電子ビームEBを走査させることが可能となる。すなわち、制御装置40Cは、偏向コイル37を制御して、電子ビームEBを走査する。不良領域は、量子効率が著しく低下した領域で、光陰極22の寿命によって、あるいは加工室30Aで発生した陽イオンが光陰極22に衝突することによって生じる。光Lを当てても電流密度分布の変化がない、あるいは、対応する像変更装置12の画素が最大輝度でも電子ビームEBの電流密度が規定値を超えない領域は、不良領域であると判定することができる。
【0102】
つまり、制御装置40Cは、不良領域を含む領域に像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームEBの照射位置に、新たな像形成パターンが光陰極22に投影されたときに形成される電子ビームEBが照射されるように、電子レンズ36および偏向コイル37を制御する。
【0103】
次に、実施の形態4に係る電子ビーム照射方法について説明する。
図19から
図22は、実施の形態4に係る電子ビーム照射方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、実施の形態3の
図13から
図16と同一の処理には同一のステップ番号を付して、その説明を省略する。
【0104】
複数の像を同時に投影する際の電子ビームEBの電流密度分布の歪みを補正する場合のステップS57の後、制御装置40Cは、不良領域が光陰極22の像が投影される領域に存在するか判定する(ステップS91)。不良領域が像に存在しない場合(ステップS91でNoの場合)には、ステップS58に処理が移る。
【0105】
一方、不良領域が像に存在する場合(ステップS91でYesの場合)には、制御装置40Cは、不良領域に像が投影されない全体像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS92)。
図23は、光陰極の電子放出面の量子効率および電子放出面に投影される像の一例をL軸の正方向から見た図である。光陰極22の中心を原点Oとして、光陰極22内の量子効率比を等値線で表している。
図23において、原点Oを含む領域が不良領域Rbになったものとする。この場合には、制御装置40Cは、不良領域Rb以外の領域に像IMgが投影されるように像変更装置12に像形成パターンを設定する。その後、ステップS52に処理が移る。すなわち、不良領域Rbを含まない像からの電子ビームEBが均一な電流密度分布となるように補正が行われる。
【0106】
図22の全体像形成パターンを複数の個別像形成パターンに分け、複数の個別像形成パターンのそれぞれを遅延時間を設けて投影する際の電子ビームEBの電流密度分布の歪みを補正する場合のステップS77で、ずれの量が規定値を超える部分がある場合(ステップS77でYesの場合)に、制御装置40Cは、不良領域が光陰極22の像が投影される領域に存在するか判定する(ステップS101)。不良領域が像に存在しない場合(ステップS101でNoの場合)には、ステップS78に処理が移る。
【0107】
一方、不良領域が像に存在する場合(ステップS101でYesの場合)には、制御装置40Cは、像IMe用の個別像形成パターンによる像IMeと、像IMf用の個別像形成パターンによる像IMfと、が不良領域に像が投影されないように像形成パターンを像変更装置12に設定する(ステップS102)。その後、ステップS74に処理が移る。
【0108】
なお、ステップS59およびステップS79の処理は、制御装置40Cは、像変更装置12の画素の輝度値を補正し、または電子レンズ36の焦点距離を変更する処理(ステップS59A,ステップS79A)となる。このような処理によって、電子ビームEBの電流密度分布の歪みが補正される。
【0109】
また、実施の形態4では、光陰極22に投影する像を走査するのではなく、偏向コイル37によって電子ビームEBを走査する。このため、ステップS60の後またはステップS81の後に、保存した設定値を用いて加工処理を行うステップS84が実行される。すなわち、ステップS84の加工処理では、偏向コイル37を用いて、電子ビームEBをワークW上で走査する。
【0110】
一例では、不良領域を含む第1領域に円形の像を投影して電子ビームEBを形成していた場合には、不良領域以外の他の第2領域に円形の像を投影し、第2領域に投影された円形の像によって形成される電子ビームEBを偏向コイル37によって照射位置を変化させる。これによって、第1領域に像を投影して得られる電子ビームEBの照射位置と同じ位置に、不良領域を使用せずに形成した電子ビームEBを照射することができる。
【0111】
実施の形態4では、光陰極22に不良領域が存在する場合に、不良領域を含まないように光陰極22に投影する像を形成する像形成パターンを変更し、光陰極22に投影される像によって形成される電子ビームEBが均一な電流分布密度となるように補正を行う。また、実施の形態4では、電子ビームEBを収束させる電子レンズ36と、電子ビームEBの向きを変える偏向コイル37と、を備えるようにした。実施の形態2,3のように、投影機10によって投影される像を光陰極22上で動かすことで電子ビームEBを走査するのではなく、偏向コイル37で電子ビームEBを走査することが可能となる。これによって、不良領域を含まないように照射された像によって形成される電子ビームEBの照射位置を、偏向コイル37によって、本来、像が投影されるはずの光陰極22の位置から生成される電子ビームEBの照射位置と同じ位置とすることができる。このように、光陰極22の不良領域以外の領域に像を形成しても、偏向コイル37によって所望のパターンの電子ビームEBをワークW上の所望の位置に照射することが可能となる。この結果、光陰極22に不良領域が生じても、不良領域以外の領域を活用して像を形成することが可能となるので、光陰極22を長寿命化することができる。
【0112】
ここで、電子ビーム加工装置1,1A,1B,1Cの制御装置40,40A,40B,40Cのハードウェア構成について説明する。
図24は、実施の形態1から4に係る電子ビーム加工装置の制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0113】
制御装置40,40A,40B,40Cは、
図24に示される制御回路400、すなわちプロセッサ401およびメモリ402により実現することができる。プロセッサ401の例は、CPU(中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ402の例は、RAM(Random Access Memory)またはROM(Read Only Memory)である。
【0114】
プロセッサ401がメモリ402に記憶されている、制御装置40,40A,40B,40Cでの処理を実行するためのプログラムである制御プログラムを読み出して実行することによって、制御装置40,40A,40B,40Cの機能は実現される。また、この制御プログラムは、制御装置40,40A,40B,40Cにおける電子ビーム照射方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。制御装置40,40A,40B,40Cで実行される制御プログラムは、電子ビーム加工装置1,1A,1B,1Cの電子ビームEBの照射処理をモジュール化したモジュール構成となっており、これらが主記憶装置上にロードされ、これらが主記憶装置上に生成される。
【0115】
メモリ402は、電子ビームEBの照射処理を行う際に、像変更装置12に設定するデータ、パルス発生器13に設定するデータ等を記憶したり、フィードバック装置50からの比較結果を用いて像を形成する設定値を補正する際に使用するデータを記憶したりする。メモリ402は、プロセッサ401が各種処理を実行する際の一時メモリにも使用される。
【0116】
プロセッサ401が実行する制御プログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されてもよい。また、プロセッサ401が実行する制御プログラムは、インターネットなどのネットワーク経由で電子ビーム加工装置1,1A,1B,1Cの制御装置40,40A,40B,40Cに提供されてもよい。
【0117】
また、制御装置40,40A,40B,40Cを専用のハードウェアで実現してもよい。また、制御装置40,40A,40B,40Cの機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0118】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【0119】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0120】
[付記1]
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定し、前記パルス発生器に前記タイミングを設定する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記像形成パターンが複数存在する場合に、前記複数の像形成パターンのそれぞれが順に前記光陰極に投影されるとともに、前記複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように前記像変更装置および前記パルス発生器を制御することを特徴とする電子ビーム加工装置。
[付記2]
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定する制御装置と、
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
を備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成し、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度を変更することを特徴とする電子ビーム加工装置。
[付記3]
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
をさらに備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成し、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度または前記遅延時間を変更することを特徴とする付記1に記載の電子ビーム加工装置。
[付記4]
前記制御装置は、前記光陰極に不良領域がある場合に、前記不良領域を含まないように形成した新たな像形成パターンを前記像変更装置に設定することを特徴とする付記2または3に記載の電子ビーム加工装置。
[付記5]
前記電極群と前記加工対象との間に配置され、前記電子ビームを収束させる電子レンズと、
前記電極群と前記加工対象との間に配置され、前記電子ビームの向きを変える偏向コイルと、
をさらに備え、
前記制御装置は、前記不良領域を含む領域に前記像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームの照射位置に、前記新たな像形成パターンが前記光陰極に投影されたときに形成される電子ビームが照射されるように、前記電子レンズおよび前記偏向コイルを制御することを特徴とする付記4に記載の電子ビーム加工装置。
[付記6]
前記制御装置は、前記光陰極上を前記像が移動するように前記像形成パターンを変化させて、前記電子ビームを走査することを特徴とする付記2から4のいずれか1つに記載の電子ビーム加工装置。
[付記7]
前記制御装置は、前記偏向コイルを制御して、前記電子ビームを走査することを特徴とする付記5に記載の電子ビーム加工装置。
[付記8]
前記遅延時間は、前記切り替え前の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームと、前記切り替え後の像形成パターンが投影されたときに形成される電子ビームと、の間がクーロン力による影響を無視することができる間隔となるように設定されることを特徴とする付記1または3に記載の電子ビーム加工装置。
[付記9]
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光の出射のタイミングを切り替えるパルス発生器と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定し、前記パルス発生器に前記タイミングを設定する制御装置と、
を備える電子ビーム加工装置での電子ビーム照射方法であって、
前記制御装置は、前記像形成パターンが複数存在する場合に、前記複数の像形成パターンのそれぞれが順に前記光陰極に投影されるとともに、前記複数の像形成パターンを切り替えるときに切り替え前の像形成パターンの投影が終了してから定められた時間である遅延時間が経過した後に切り替え後の像形成パターンの投影を開始するように前記像変更装置および前記パルス発生器を制御することを特徴とする電子ビーム照射方法。
[付記10]
光源と、
前記光源からの光を、加工対象に照射する電子ビームのパターンに対応した光のパターンに変更する像形成パターンを形成する像変更装置と、
前記光源からの光によって前記像形成パターンが投影された像の位置から電子を放出する光陰極と、
前記光陰極から放出される前記電子を加速させる電界を生成する電極群と、
前記像変更装置に前記像形成パターンを設定する制御装置と、
前記加工対象の位置での前記電子ビームの進行方向に垂直な面内における前記電子ビームの電流密度を測定するビームプロファイラと、
前記ビームプロファイラによる測定結果を用いて前記電子ビームの電流密度分布を算出し、各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と目標値とを比較するフィードバック装置と、
を備え、
前記像変更装置は、2次元面内でマトリックス状に配置された複数の画素の前記光源から透過する光の輝度を変更することによって前記像形成パターンを形成する電子ビーム加工装置での電子ビーム照射方法であって、
前記制御装置は、前記各位置における算出した前記電子ビームの電流密度分布と前記目標値との比較結果を用いて、前記電子ビームの電流密度分布が均一となるように前記像形成パターンの画素の輝度を変更することを特徴とする電子ビーム照射方法。
【符号の説明】
【0121】
1,1A,1B,1C 電子ビーム加工装置、10,10A 投影機、11 光源、12 像変更装置、13 パルス発生器、20 光電子銃、21 鏡、22 光陰極、23 補助電極、24 陽極、25,32 筐体、26 電圧制御装置、27a,27b,27c 電線、30,30A,30B 加工室、31 ステージ、33 真空排気装置、34 ビームプロファイラ、35,41,53 通信線、36 電子レンズ、37 偏向コイル、40,40A,40B,40C 制御装置、50 フィードバック装置、51 ビームプロファイラ信号処理装置、52 電子ビーム分布比較装置、121 画素、221 電子放出面、251 入射窓、252,321 開口部、400 制御回路、401 プロセッサ、402 メモリ、EB,EBa,EBb,EBc,EBd 電子ビーム、EP 等電位線、IMa,IMb,IMc,IMd,IMe,IMf,IMg 像、L 光、La 第1光、Lb 第2光、Rb 不良領域、W ワーク。