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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147372
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】走査光学装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20241008BHJP
   G02B 26/12 20060101ALI20241008BHJP
   B41J 2/47 20060101ALI20241008BHJP
   H04N 1/113 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G02B26/10 F
G02B26/12
B41J2/47 101D
H04N1/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060338
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大湊 寛之
(72)【発明者】
【氏名】星野 秀隆
【テーマコード(参考)】
2C362
2H045
5C072
【Fターム(参考)】
2C362AA03
2C362AA35
2C362AA46
2C362BA04
2C362BA83
2C362BA84
2C362BA86
2C362BA87
2H045AA03
2H045BA22
2H045BA34
2H045CA03
2H045CA63
2H045DA04
5C072AA03
5C072BA20
5C072HA02
5C072HA06
5C072HA08
5C072HA13
5C072HB10
(57)【要約】
【課題】ポリゴンミラーの汚損を抑制しつつ、像面上におけるビーム径の変動を小さく抑えて常に良質な画像を形成することができる光走査装置を実現する。
【解決手段】樹脂製のカップリングレンズ(21)は回折光学素子を有する。筐体(100)の底面と蓋との間に、ポリゴンミラー(40)およびモータ(PM)が位置する空間(X)を囲む隔壁(120)が設けられ、隔壁の開口(121)が樹脂製の第1走査レンズ(50)にて塞がれている。主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量であって、通常環境温度のときのずれ量をΔAmm、上限環境温度のときのずれ量をΔBmm、第1走査レンズが通常環境温度よりも高い所定の第1温度のときのずれ量をΔCmm、とすると、ΔA<0、ΔC>0、かつΔA<ΔB<ΔCを満足する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザと、
前記半導体レーザから出射された光をビームに変換し、少なくとも1面に回折光学素子を有する樹脂製のカップリングレンズと、
前記ビームを主走査方向に偏向するポリゴンミラーと、
前記ポリゴンミラーを回転させるモータと、
前記ポリゴンミラーにて偏向されたビームを像面に結像する走査光学系と、
前記半導体レーザ、前記カップリングレンズ、前記ポリゴンミラー、前記モータおよび前記走査光学系を保持し、前記ポリゴンミラーの軸線方向の一方側が底面となる筐体と、
前記筐体における前記軸線方向の他方側を覆う蓋と、
前記底面と前記蓋との間で前記ポリゴンミラーおよび前記モータが位置する空間を囲み、偏向された前記ビームが通過する開口を有する隔壁と、
を備え、
前記走査光学系に含まれる、前記ポリゴンミラーに最も近い樹脂製の第1走査レンズにて前記開口が塞がれ、
主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量であって、
前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が通常環境温度のときの前記ずれ量をΔAmm、
前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が上限環境温度のときの前記ずれ量をΔBmm、
前記半導体レーザ、前記カップリングレンズが前記通常環境温度であり、前記第1走査レンズが前記通常環境温度よりも高い所定の第1温度のときの前記ずれ量をΔCmm、
とすると、
ΔA<0、ΔC>0、かつΔA<ΔB<ΔCを満足する走査光学装置。
【請求項2】
前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が下限環境温度のときの前記ずれ量をΔDmmとすると、
ΔA<ΔD<ΔCを満足する、請求項1に記載の走査光学装置。
【請求項3】
前記走査光学系は、前記第1走査レンズと第2走査レンズとを備え、
前記第1走査レンズは、前記第2走査レンズより主走査方向の結像パワーが大きい、請求項1に記載の走査光学装置。
【請求項4】
前記隔壁は、前記軸線方向に沿った壁であり、前記軸線方向の一方側において前記底面と当接あるいは接続され、前記軸線方向の他方側において前記蓋と当接あるいは接続されている、請求項1に記載の走査光学装置。
【請求項5】
前記隔壁は、前記筐体又は前記蓋と一体に形成されている、請求項4に記載の走査光学装置。
【請求項6】
記録シート上に画像を形成する画像形成装置であって、
請求項1~5の何れか1項に記載の走査光学装置と、
前記走査光学装置によりビームが走査されて静電潜像が形成される感光体と、
前記静電潜像に現像剤を供給して現像剤像を形成する現像器と、
前記現像剤像を前記記録シート上に転写する転写器と、
前記記録シート上に転写された前記現像剤像を定着する定着装置と、を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査光学装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学系の一部に回折光学素子を応用して、環境温度変動による焦点位置(ピント)の移動の影響を相殺する走査光学装置が知られている(例えば、特許文献1)。このような走査光学装置では、光源手段から発せられた光束を集光する第1結像光学系、又は偏向手段によって偏向された光束で像面(被走査面)上を走査する第2結像光学系の中に、少なくとも1つの屈折光学素子と回折光学素子とが備えられている。光源手段からの光の発振波長が変動したときの像面における焦点位置移動と、環境温度が変動したときに像面における焦点位置移動を、回折光学素子のパワーを適切に設定することによって補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-194610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
走査光学装置において、第1結像光学系、偏光手段であるポリゴンミラー、および第2結像光学系は、一方面が開放された箱状の筐体に保持される。筐体の開放面は、蓋体にて覆われる。ポリゴンミラーを駆動するためのモータも、ポリゴンミラーと一緒に筐体内に収容される。モータは動作時、走査光学装置の内部温度を上昇させる熱源となる。
【0005】
外気に含まれる汚れや塵等でポリゴンミラーが汚損されると、ポリゴンミラーの反射率が低下し、印刷不良や書き出しタイミングの取得ができなくなるなどの不具合が生じ、走査光学装置の寿命が短くなる。そのため、ポリゴンミラーの汚損を抑制すべく、ポリゴンミラーの周囲に隔壁を設けて囲い、ポリゴンミラー周辺部の密封性を高めることが考えられる。
【0006】
その場合に、隔壁に開口を設け、この開口に、走査光学系の中の最もポリゴンミラーに近い第1走査レンズを配置することが考えられる。しかしながら、このような構成とすると、モータからの熱により、第1走査レンズの温度が、第1走査レンズを除く他の光学系と比較して高くなる局所昇温が生じる。
【0007】
上記特許文献1に記載された構成では、このような局所昇温が生じた状態を考慮したものではないため、局所昇温が生じた状態では像面に対しての焦点位置の移動が大きくなる。像面に対しての焦点位置の移動が大きくなると、像面上におけるビーム径の変動が大きくなり、画像の品質が低下する場合がある。
【0008】
本開示は、ポリゴンミラーの汚損を抑制しつつ、像面上におけるビーム径の変動を小さく抑えて常に良質な画像を形成することができる光走査装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る走査光学装置は、半導体レーザと、前記半導体レーザから出射された光をビームに変換し、少なくとも1面に回折光学素子を有する樹脂製のカップリングレンズと、前記ビームを主走査方向に偏向するポリゴンミラーと、前記ポリゴンミラーを回転させるモータと、前記ポリゴンミラーにて偏向されたビームを像面に結像する走査光学系と、前記半導体レーザ、前記カップリングレンズ、前記ポリゴンミラー、前記モータおよび前記走査光学系を保持し、前記ポリゴンミラーの軸線方向の一方側が底面となる筐体と、前記筐体における前記軸線方向の他方側を覆う蓋と、前記底面と前記蓋との間で前記ポリゴンミラーおよび前記モータが位置する空間を囲み、偏向された前記ビームが通過する開口を有する隔壁と、を備え、前記走査光学系に含まれる、前記ポリゴンミラーに最も近い樹脂製の第1走査レンズにて前記開口が塞がれ、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量であって、前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が通常環境温度のときの前記ずれ量をΔAmm、前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が上限環境温度のときの前記ずれ量をΔBmm、前記半導体レーザ、前記カップリングレンズが前記通常環境温度であり、前記第1走査レンズが前記通常環境温度よりも高い所定の第1温度のときの前記ずれ量をΔCmm、とすると、ΔA<0、ΔC>0、かつΔA<ΔB<ΔCを満足する。
【0010】
上記構成によれば、筐体の底面と蓋との間の、ポリゴンミラーおよびモータが位置する空間を隔壁で囲うことで、外気に含まれる汚れや塵等によるポリゴンミラーの汚損を抑制できる。隔壁には偏向されたビームを通過させる開口が形成されるが、該開口を塞ぐように第1走査レンズが配置されているため、空間の気密性は保持される。
【0011】
この場合、開口を塞ぐ第1走査レンズの温度が他の光学系の温度よりも高くなる局所昇温が生じ、焦点距離が長くなって像面上におけるビーム径の変動が大きくなる。
【0012】
そこで、上記構成では、通常環境温度での主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔAを、ΔA<0として、主走査方向の焦点位置が負となるように構成している。これにより、局所昇温が生じて焦点距離が長くなっても、基準像面にからの焦点位置の移動量を小さくして、ビーム径の変動を抑制することができる。
【0013】
さらに、上記構成では回折光学素子を有する樹脂製のカップリングレンズを備えることで、半導体レーザ、カップリングレンズおよび走査光学系が上限環境温度となったときの、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量をΔBとしている。つまり、環境温度が上限環境温度となったとき、走査光学系の焦点位置が基準像面の正側に移動するのを、カップリングレンズの回折パワーの変動により相殺し、焦点位置のずれを抑制している。
【0014】
上記構成では、ΔA<ΔB<ΔCの関係を満たすことで、上限環境温度での焦点位置を表すΔBを、負の最大位置であるΔAから正の最大位置であるΔCの間となるように補償する。これにより、上限環境温度でのビーム径の変動を従来通り補償しつつ、局所昇温状態でのビーム径の変動による影響も極力抑制することができる。
【0015】
本開示の一態様に係る走査光学装置は、さらに、前記半導体レーザ、前記カップリングレンズおよび前記走査光学系が下限環境温度のときの前記ずれ量をΔDmmとすると、ΔA<ΔD<ΔCを満足していてもよい。
【0016】
上記構成では回折光学素子を有する樹脂製のカップリングレンズを備えることで、半導体レーザ、カップリングレンズおよび走査光学系が下限環境温度となったときの、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量をΔDとしている。つまり、環境温度が下限環境温度となったとき、走査光学系の焦点位置が基準像面の正側に移動するのを、カップリングレンズの回折パワーの変動により相殺し、焦点位置のずれを抑制している。
【0017】
上記構成ではΔA<ΔD<ΔCの関係を満たすようにして、下限環境温度での焦点位置を表すΔDを、負の最大位置であるΔAから正の最大位置であるΔCの間となるように補償する。これにより、下限環境温度でのビーム径の変動についても従来通り補償しつつ、局所昇温状態でのビーム径の変動による影響も極力抑制することができる。
【0018】
本開示の一態様に係る走査光学装置は、さらに、前記走査光学系は、前記第1走査レンズと第2走査レンズとを備え、前記第1走査レンズは、前記第2走査レンズより主走査方向の結像パワーが大きくてもよい。上記構成によれば、局所昇温が主走査方向の結像位置に影響することを補償できる。
【0019】
本開示の一態様に係る走査光学装置は、さらに、前記隔壁は、前記軸線方向に沿った壁であり、前記軸線方向の一方側において前記底面と当接あるいは接続され、前記軸線方向の他方側において前記蓋と当接あるいは接続されていてもよい。上記構成によれば、隔壁が底面および蓋と当接あるいは接続されるように設けられているので、ポリゴンミラーおよびモータの密閉性を高めることができる。
【0020】
本開示の一態様に係る走査光学装置は、さらに、前記隔壁は、前記筐体又は前記蓋と一体に形成されていてもよい。上記構成によれば、隔壁が筐体又は蓋と一体に形成されているので、組立時の工程数、および部品点数を削減できる。
【0021】
本開示の一態様に係る画像形成装置は、記録シート上に画像を形成する画像形成装置であって、本開示の一態様に係る走査光学装置と、前記走査光学装置によりビームが走査されて静電潜像が形成される感光体と、前記静電潜像に現像剤を供給して現像剤像を形成する現像器と、前記現像剤像を前記記録シート上に転写する転写器と、前記記録シート上に転写された前記現像剤像を定着する定着装置と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本開示の一態様によれば、ポリゴンミラーの汚損を抑制しつつ、像面上におけるビーム径の変動を小さく抑えて常に良質な画像を形成することができる光走査装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の実施形態に係る画像形成装置の一例としてのカラーレーザプリンタの全体構成を示す断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る走査光学装置の分解斜視図である。
図3】蓋を外した状態の上記走査光学装置の斜視図である。
図4】蓋を外した状態の上記走査光学装置の平面図である。
図5】上記走査光学装置の断面図である。
図6】上記走査光学装置における温度補償を説明する模式図である。
図7】上記走査光学装置における、局所昇温が生じた状態および局所昇温が生じていない状態の解析温度条件を示す図である。
図8図7の解析温度条件にて主走査方向の焦点位置の移動量を解析した結果を示す図である。
図9】局所上昇が生じる前と生じた後との、通常環境温度のときの主走査方向のビーム径と深度位置との関係を示す図であり、局所昇温が生じる前の主走査方向の焦点位置が深度位置ゼロに設定されている状態を示す図である。
図10】局所上昇が生じる前と生じた後との、通常環境温度のときの主走査方向のビーム径と深度位置との関係を示す図であり、局所昇温が生じる前の主走査方向の焦点位置が負側に設定されている状態を示す図である。
図11】上記走査光学装置における、各条件下での基準像面に対しての主走査方向の焦点位置のずれ量の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
【0025】
(画像形成装置)
図1は、画像形成装置の一例としてのカラーレーザプリンタの全体構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る走査光学装置5は、カラーレーザプリンタ1に用いられる。カラーレーザプリンタ1は、本体筐体2内に、記録シートPを供給するシート供給部3と、供給された記録シートPに画像を形成する画像形成部4と、を備えている。
【0026】
画像形成部4は、走査光学装置5と、4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kと、転写器に相当する転写ユニット7と、定着装置に相当する定着ユニット8と、を備えている。
【0027】
シート供給部3は、本体筐体2内の下部に設けられる。シート供給部3は、記録シートPを収容する供給トレイ31と、供給トレイ31から記録シートPを画像形成部4に供給するシート供給機構32と、を備えている。供給トレイ31内の記録シートPは、シート供給機構32によって1枚ずつ分離されて画像形成部4に供給される。
【0028】
走査光学装置5は、本体筐体2内の上部に設けられ、印刷データに基づくビームBY,BM,BC,BKを、各プロセスユニット6Y~6Kに備えられた各感光体61Y~61Kの表面に照射することで、各感光体61Y~61Kの表面を露光して静電潜像を形成する。各感光体61Y~61Kの表面が像面に相当し、以下、各感光体61Y~61Kの表面を像面と称することもある。各感光体61Y~61Kは、カラーレーザプリンタ1の幅方向に延びる円筒形状で表面に感光層を有する感光体ドラムである。以下において、各感光体61Y~61Kの延びる方向を「幅方向」とも称する。
【0029】
4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kは、供給トレイ31と走査光学装置5の間で前後方向に沿って並列配置されている。以下において、カラーレーザプリンタ1の前後方向に沿った方向を「前後方向」とも称する。プロセスユニット6Yは感光体61Yを備え、プロセスユニット6Mは感光体61Mを、プロセスユニット6Cは感光体61Cを、プロセスユニット6Kは感光体61Kを備えている。
【0030】
さらに、4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kは、それぞれ、帯電器62と、現像ローラ63と、供給ローラ64と、層厚規制ブレード65と、現像剤を収容する現像剤収容部66と、を備えている。現像剤は、正帯電性の一成分乾式トナーを用いることができる。なお、現像ローラ63、供給ローラ64、層厚規制ブレード65、および現像剤収容部66にて現像器が構成される。
【0031】
本明細書および図面において、現像剤の色に対応して感光体61などを特定する場合に、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのそれぞれに対応させて、Y、M、C、Kの記号を付している。4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kは、記録シートPの搬送方向上流側からこの順で並んで配置されている。
【0032】
転写ユニット7は、供給トレイ31とプロセスユニット6との間に設けられている。転写ユニット7は、駆動ローラ71と、従動ローラ72と、駆動ローラ71および従動ローラ72の間に張設された無端状の搬送ベルト73と、4つの転写ローラ74と、を備えている。搬送ベルト73は、外側の面が各感光体61に接しており、その内側に、各転写ローラ74が、各感光体61との間で搬送ベルト73を挟持するように配置されている。
【0033】
定着ユニット8は、プロセスユニット6および転写ユニット7の後方に設けられている。定着ユニット8は、加熱ローラ81と、加熱ローラ81と対向配置されて加熱ローラ81を押圧する加圧ローラ82と、を備えている。
【0034】
画像形成部4では、感光体61の表面が、帯電器62により一様に正帯電された後、走査光学装置5からのビームBの照射によって露光されることで、感光体61上に印刷データに基づく静電潜像が形成される。現像ローラ63上に担持された現像剤が感光体61上に形成された静電潜像に供給されることで、静電潜像が可視像化され、感光体61上に現像剤像が形成される。
【0035】
シート供給部3から供給された記録シートPは、搬送ベルト73上を各感光体61に接触しながら前から後ろに向けて移動する。この過程において、各感光体61上の現像剤像は、感光体61と、転写バイアスが印加された転写ローラ74との間で記録シートP上に順次重ね合わせて転写される。して、現像剤像が転写された記録シートPは、加熱ローラ81と加圧ローラ82の間を通過することで現像剤像が熱定着され、搬送ローラ23によって本体筐体2内から外部に排出されて排出トレイ22上に載置される。
4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kと、転写器に相当する転写ユニット7と、定着装置に相当する定着ユニット8と、を備えている。
【0036】
なお、ここでは、4つのプロセスユニット6Y,6M,6C,6Kを備えたカラーレーザプリンタを例示したが、ブラックのプロセスユニット6Kのみを備えた、モノクロレーザプリンタであってもよい。
【0037】
(走査光学装置)
次に、走査光学装置5の構成について説明する。図2は、本開示の一実施形態に係る走査光学装置5の分解斜視図である。図3は、蓋を外した状態の走査光学装置5の斜視図である。図4は、蓋を外した状態の走査光学装置5の平面図である。図5は、走査光学装置5の断面図である。なお、図3図4では、カラーレーザプリンタ1に搭載された状態で下方を向く走査光学装置5の面を上方に向けた状態を示している。
【0038】
図2図3図4に示すように、走査光学装置5は、筐体100と、蓋110と、4つの半導体レーザ20Y,20M,20C,20Kと、カップリングレンズ21と、シリンドリカルレンズ22と、ポリゴンミラー40と、第1走査光学系SC1と、第2走査光学系SC2と、を備えている。第2走査光学系SC2は、カラーレーザプリンタ1の前後方向において、ポリゴンミラー40の回転軸線Oを挟んで第1走査光学系SC1とは反対側に配置されている。
【0039】
筐体100は、半導体レーザ20Y~20K、カップリングレンズ21、シリンドリカルレンズ22、ポリゴンミラー40および第1,第2走査光学系SC1,SC2を保持する。筐体100は樹脂からなり、底面101と対向する一面が開放面となった浅い箱型をなす。底面101は、ポリゴンミラー40の回転軸線Oに沿った方向から見て矩形となる略板状の壁である。以下、回転軸線Oに沿った方向を「軸線方向」とも称する。底面101は、軸線方向の一方側に位置している。本実施形態において軸線方向は、カラーレーザプリンタ1の上下方向である。
【0040】
蓋110は、筐体100の開放面側に配されて開放面を覆う。蓋110は、筐体100における軸線方向の他方側を覆う。蓋110は樹脂からなり、筐体100にねじ等を用いて締結される。蓋110には、ビームBY,BM,BC,BKを通過させる開口窓111が4つ形成されている。
【0041】
半導体レーザ20Y,20M,20C,20Kは、それぞれ、上述したビームBY,BM,BC,BKとなるレーザ光を出射する装置である。半導体レーザ20Y,20M,20C,20Kは、走査光学装置5が走査露光する4つの感光体61Y,61M,61C,61K(図1図5参照)に対応して4つ設けられている。
【0042】
各半導体レーザ20Y~20Kから出射されたレーザ光は、図4に示すカップリングレンズ21およびシリンドリカルレンズ22を通って、ポリゴンミラー40に入射される。半導体レーザ20Y,20Mから出射されたレーザ光であるビームBY,BMは、ポリゴンミラー40によって、第1走査光学系SC1に向けて偏向される。半導体レーザ20C,20Kから出射されたレーザ光であるビームBC,BKは、ポリゴンミラー40によって、第2走査光学系SC2に向けて偏向される。
【0043】
カップリングレンズ21は、半導体レーザ20Y~20Kから発散して出射されるレーザ光をビームBY~BKに変換するレンズである。カップリングレンズ21は、4つの半導体レーザ20Y~20Kに対応して4つ設けられている。なお、カップリングレンズ21によって変換されて得られたビームBY~BKは、平行光、収束光および発散光のいずれであってもよい。カップリングレンズ21は、樹脂製であり、レーザ光をビームに変換する屈折光学素子を有している。そして、本実施形態ではカップリングレンズ21は、少なくとも1面に回折光学素子を有している。これについては後述する。
【0044】
シリンドリカルレンズ22は、ポリゴンミラー40の面倒れを補正するため、ビームBY~BKを屈折させて副走査方向に収束し、ポリゴンミラー40の偏向面41上で主走査方向に長い線状に結像させるレンズである。シリンドリカルレンズ22は、カップリングレンズ21とポリゴンミラー40との間に配置されている。なお、図4の例では、シリンドリカルレンズ22は、4つの半導体レーザ20Y~20Kに対して1つ備えられているが、この構成に限定されるものではなく、個々に備えられていてもよい。
【0045】
ポリゴンミラー40は、偏向器であり、筐体100のほぼ中央で、半導体レーザ20Y~20Kと対向して配置されている。ポリゴンミラー40は、回転軸線Oから等距離に設けられた6つの偏向面41を有している。ポリゴンミラー40にはモータPMが接続されている。ポリゴンミラー40は、モータPMの駆動によって、各偏向面41が回転軸線Oを中心に回転することで、ビームBY~BKを反射して主走査方向に偏向する。
【0046】
第1走査光学系SC1は、ポリゴンミラー40で偏向されたビームBY,BMを、感光体61Y,61Mに結像する結像光学系である。第1走査光学系SC1は、1つの第1走査レンズ50-1と、2つの第2走査レンズ51Y,51Mと、複数の反射ミラー52と、を備えている。なお、図3図4では、便宜上、第2走査レンズ51Mの図示を省略している。
【0047】
第2走査光学系SC2は、ポリゴンミラー40で偏向されたビームBC,BKを、感光体61C,61Kに結像する結像光学系である。第2走査光学系SC2は、1つの第1走査レンズ50-2と、2つの第2走査レンズ51C,51Kと、複数の反射ミラー52と、を備えている。
【0048】
第1走査レンズ50-1,50-2、および第2走査レンズ51Y,51M,51C,51Kは、いずれもfθレンズである。第1走査レンズ50-1,50-2は、第2走査レンズ51Y,51M,51C,51Kより主走査方向の結像パワーが大きい。第1走査レンズ50-1,50-2は軸対称のレンズである。第1走査レンズ50-1,50-2は、第1走査光学系SC2,第2走査光学系SC2において主走査方向のパワーを支配的に有している。第2走査レンズ51Y,51M,51C,51Kは、ポリゴンミラー40と像面とを副走査方向に共役結像する(面倒れ補正系)レンズである。第2走査レンズ51Y,51M,51C,51Kは、第1走査光学系SC2,第2走査光学系SC2において副走査方向のパワーを支配的に有している。
【0049】
図5に示すように、ポリゴンミラー40で偏向されたビームBY,BMは、第1走査光学系SC1において、第1走査レンズ50-1を通過し、対応する反射ミラー52で反射され、第2走査レンズ51Y,51Mを通過して、感光体61M,61Cの表面を走査露光する。
【0050】
ポリゴンミラー40で偏向されたビームBC,BKは、第2走査光学系SC2において、第1走査レンズ50-2を通過し、対応する反射ミラー52で反射され、第2走査レンズ51C,51Kを通過して、感光体61C,61Kの表面を走査露光する。
【0051】
(ポリゴンミラー周辺領域の構造)
図2図3図4図5を用いて、ポリゴンミラー40の周辺領域の構造を説明する。図3図4に示すように、走査光学装置5は、筐体100の底面101と蓋110との間でポリゴンミラー40およびモータPMが位置する空間Xを囲む隔壁120を有している。
【0052】
具体的には、隔壁120として、第1走査光学系SC1とポリゴンミラー40との間を仕切る隔壁120-1と、第2走査光学系SC2とポリゴンミラー40との間を仕切る隔壁120-2と、隔壁120-1および隔壁120-2における、軸線方向と直交する方向の両側の端部同士を繋ぐ隔壁120-3,120-4を備えている。
【0053】
隔壁120-1には、偏向されたビームBY,BMが通過する開口121-1が形成され、該開口121-1に第1走査レンズ50-1が取り付けられている。第1走査レンズ50-1は、第1走査光学系SC1においてポリゴンミラーに最も近い走査レンズである。開口121-1は第1走査レンズ50-1にて塞がれている。
【0054】
隔壁120-2には、偏向されたビームBC,BKが通過する開口121-2が形成され、該開口121-2に第1走査レンズ50-2が取り付けられている。第1走査レンズ50-2は、第2走査光学系SC2においてポリゴンミラーに最も近い走査レンズである。開口121-2は第1走査レンズ50-2にて塞がれている。
【0055】
このような構成とすることで、ポリゴンミラー40およびモータPMが位置する空間Xに外気が入り込み難くすることができ、ポリゴンミラー40の汚損を抑制することができきる。
【0056】
隔壁120は、軸線方向に沿った壁であり、軸線方向の一方側において筐体100の底面101と当接あるいは接続され、軸線方向の他方側において蓋110と当接あるいは接続されていてもよい。隔壁120を底面101又は蓋110と、当接あるいは接続されている構成とすることで、空間Xを密閉あるいは密閉に近い状態とることができる。これにより、ポリゴンミラー40の汚損を効果的に抑制することができる。
【0057】
この場合、隔壁120は、筐体100および蓋110とは完全に別体として形成し、筐体100および蓋110と突き当てる構成としてもよいが、筐体100又は蓋110、又はその両方の一部として一体に形成してもよい。本実施形態では、筐体100の底面101および蓋110の内面112(図2参照)からそれぞれ軸線方向に突き出た部分壁を形成し、互いを付き当てることで隔壁120-1,120-2を構成している。隔壁120が筐体100又は蓋110と一体に形成することで、組立時の工程数、および部品点数を削減できる。
【0058】
開口121-1,121-2に、第1走査レンズ50-1,50-2を取り付ける構成においては、第1走査レンズ50-1,50-2は筐体100に位置決めされて取り付けられている。本実施形態では、第1走査レンズ50-1,50-2の位置決め精度に影響を与えないために、図3に示すように、開口121-1,121-2に取り付けられた状態の第1走査レンズ50-1,50-2の、蓋110で覆われる側には隙間Sが設けられている。しかしながら、このような隙間Sは、空間Xへの外気の侵入路となり得る。
【0059】
そこで、本実施形態では、図5に示すように、この隙間Sにスポンジ55を配置し、筐体100に蓋110を取り付けた状態で隙間Sをスポンジ55で塞ぐ構成としている。スポンジ55は、第1走査レンズ50-1,50-2レンズあるいは、隔壁120-1,120-2を構成する蓋110の部分壁における第1走査レンズ50-1,50-2レンズに対応する位置に貼り付けておくことで、組立時の工程数、および部品点数を削減できる。
【0060】
(温度補償)
次に、図6を用いて、走査光学装置5における、環境温度変動による焦点位置の移動の影響を相殺する温度補償について説明する。図6は、走査光学装置5における温度補償を説明する模式図である。温度補償の仕組みは、現像剤の色が異なっても同じである。したがって、これ移行、現像剤の色で区別することなく、半導体レーザ20、走査光学系SC、第1走査レンズ50、第2走査レンズ51、感光体61、ビームBBとして説明する。
【0061】
図6に示すように、カップリングレンズ21は、屈折光学素子21Aと、回折光学素子21Bと、を有している。具体的には、カップリングレンズ21は樹脂製のレンズであり、出射面が正のパワーを有する屈折面であり、入射面が正のパワーを有する回折面である。カップリングレンズ21は、屈折光学素子21Aのパワーおよび回折光学素子21Bのパワーにて半導体レーザ20から出射されたレーザ光をビームBBに変換する。さらに、カップリングレンズ21は、環境温度が上昇した場合に、半導体レーザ20から出射されるレーザ光の発振波長の変化と、回折光学素子21Bの格子ピッチの変化によって、回折光学素子21Bのパワーが増加する。これにより、カップリングレンズ21は、半導体レーザ20、当該カップリングレンズ21、および走査光学系SCが、上限環境温度のときの主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量をΔBmmとなるように補償する。ここで、ΔBmmは、走査中央位置SSにおける値である。基準像面は、焦点のずれがゼロの像面である。ずれ量ΔBmmは、焦点位置がBmmずれたとしても、像面上のビーム径の変動が良質な画像を形成可能な範囲となる値である。
【0062】
環境温度の変動に伴う焦点位置変動の要因としては、温度による半導体レーザ20から出射されるレーザ光の発振波長の変動、温度によるレンズ部品の膨張縮小、筐体100等のレンズ部品を保持している部材の線膨張等がある。
【0063】
環境温度が上昇すると、走査光学系SCの焦点位置が基準像面の正側に移動するが、この移動をカップリングレンズ21のパワーの増加により補償することができる。上記構成では、回折光学素子21Bのパワーが適切に設定することで、環境温度が上昇しても、上限環境温度以内であれば、主走査方向の焦点位置のずれをΔBmm以内となるように補償し、像面上におけるビーム径の変動を小さく抑えて良質な画像を形成することができる。なお、ここで主走査方向の焦点位置を調整しているのは、副走査方向の焦点位置のずれよりも画質に対する影響が大きいためである。
【0064】
さらに、カップリングレンズ21は、環境温度が低下した場合に、半導体レーザ20から出射されるレーザ光の発振波長の変化と、回折光学素子21Bの格子ピッチの変化によって、回折光学素子21Bのパワーが低下する。これにより、カップリングレンズ21は、半導体レーザ20、当該カップリングレンズ21、および対応する第1走査光学系SC1又は第2走査光学系SC2が、下限環境温度のときの主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量をΔDmmに補償する構成であってもよい。ずれ量ΔDmmは、焦点位置がDmmずれたとしても、像面上のビーム径の変動が良質な画像を形成可能な範囲となる値である。
【0065】
環境温度が低下した場合も、走査光学系SCの焦点位置が基準像面の正側に移動するが、この移動についてもカップリングレンズ21のパワーの増加により補償することができる。上記構成では、回折光学素子21Bのパワーが適切に設定することで、環境温度が低下しても、下限環境温度以内であれば、主走査方向の焦点位置のずれをΔDmm以内となるように補償し、像面上におけるビーム径の変動を小さく抑えて良質な画像を形成することができる。
【0066】
上限環境温度とは、走査光学装置5の動作可能温度範囲の上限値である。また、下限環境温度とは、走査光学装置5の動作可能温度範囲の下限値である。走査光学装置5の動作可能温度範囲が、例えば通常環境温度25℃の±30℃とすると、上限環境温度は55℃、下限環境温度は-5℃となる。
【0067】
(局所昇温への対策)
図6図11を用いて、走査光学装置5における局所昇温への対策について説明する。前述したように、走査光学装置5では、ポリゴンミラー40およびモータPMが位置する空間Xを囲む隔壁120が設けられ、該隔壁120の開口121-1および開口121-2に第1走査レンズ50を取り付けている。そのため、空間Xを密閉あるいは密閉に近い状態として、ポリゴンミラー40の汚損を効果的に抑制することができる。
【0068】
しかしながら、このような構成では、モータPMからの熱にて第1走査レンズ50の温度が、第1走査レンズ50を除く他の光学系と比較して高くなる局所昇温が生じる。ここで言う他の光学系とは、カップリングレンズ21、シリンドリカルレンズ22、および第2走査レンズ51である。
【0069】
図7は、走査光学装置5における、局所昇温が生じた状態および局所昇温が生じていない状態の解析温度条件を示す図である。本願発明者らが検証したところ、第1走査レンズ50が昇温した場合、熱源であるモータMPに近い内側の第1面50Aが、外側の第2面50Bよりも高温となることがわかった。
【0070】
そこで、図7に示すように、第1走査レンズ50の第1面50Aと第2面50Bとに温度差、ここでは10℃の温度差をつけて、第1走査レンズ50のみ、他の光学系および半導体レーザ20よりも昇温させた条件とした。他の光学系および半導体レーザ20の温度は環境温度から変動しないものとし、第1面50Aの温度を環境温度+30℃、第2面50Bの温度を環境温度+20℃とした。環境温度は、通常環境温度、上限環境温度、および下限環境温度を用い、通常環境温度は25℃、上限環境温度は通常環境温度+30℃の55℃、下限環境温度は通常環境温度-30℃の-5℃とした。
【0071】
図8は、図7にて、局所昇温が無い場合と局所昇温がある場合とで、主走査方向の焦点位置の移動量を解析した結果を示す図である。解析条件は、図7に示す局所昇温が生じていない状態の解析温度条件にて、環境温度の変動による焦点位置に移動を相殺するように適切に回折パワーが設定された状態での値である。局所昇温が生じていない状態での移動量は、通常環境温度25℃においてゼロ、上限環境温度55℃および下限環境温度-5℃において0.17mmである。
【0072】
局所昇温が生じない状態では、-5℃から55℃の間の温度変動が生じても、主走査方向の焦点位置の基準像面に対する移動量を0~0.17mmの範囲に抑えることができる。
【0073】
しかしながら、図8に示すように、局所昇温が生じると、環境温度に係わらず、主走査方向の焦点位置の基準像面に対する移動量が1.00mm程にまで大きくなる。図8の例では、下限環境温度では1.10mm程も移動している。
【0074】
つまり、半導体レーザ20、カップリングレンズ21が、環境温度であるのに対し、熱源の近くに位置する樹脂製の第1走査レンズ50が環境温度よりも高い第1温度となった局所昇温状態となると、主走査方向の焦点位置が基準像面を超えて遠くなる正側に移動することがわかった。基準像面に対する焦点位置の移動が大きくなると、画像の品質が低下する場合がある。そのため、走査光学装置5においては、局所昇温に対する対策を講じる必要がある。
【0075】
図9および図10は、局所上昇が生じる前と生じた後との、通常環境温度のときの主走査方向のビーム径と深度位置との関係を示す図である。このうち、図9は、局所昇温が生じる前の主走査方向の焦点位置が深度位置ゼロに設定されている状態を示す。深度位置ゼロは基準像面である。局所昇温が生じると焦点位置が正側に移動する。この移動量をΔとすると、局所昇温が生じる前の焦点位置が深度位置ゼロに設定されている場合、印字中の基準像面に対する焦点位置の移動量は0~Δとなる。
【0076】
一方、図10は、局所昇温が生じる前の主走査方向の焦点位置が負側の-Δ/2に設定されている状態を示す。この場合、局所昇温が生じて焦点位置が正側に移動しても、移動量はΔ/2となる。このように、局所昇温が生じる前の焦点位置を-Δ/2に設定しておくことで、印字中の基準面に対する焦点位置の移動量は-Δ/2~Δ/2となり、主走査方向のビーム径の変動を抑制することができる。
【0077】
そこで、走査光学装置5では、局所昇温が生じた場合の主走査方向の焦点位置の移動量を考慮して、主走査方向の焦点位置を設定している。つまり、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量であるΔAmm、ΔBmm、ΔCmmを、ΔA<0、ΔC>0、かつΔA<ΔB<ΔCを満足する構成としている。
【0078】
ΔAmmは、半導体レーザ20、カップリングレンズ21および走査光学系SCが通常環境温度のときの、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量である。前述したように、ΔBmmは、半導体レーザ20、カップリングレンズ21および走査光学系SCが上限環境温度のときのずれ量であり、カップリングレンズ21の回折パワーにより、移動量が小さくなるように補正されたずれ量である。ΔCmmは、半導体レーザ20、カップリングレンズ21が通常環境温度であり、第1走査レンズ50が通常環境温度よりも高い所定の第1温度のときのずれ量である。第1温度は、第1走査レンズ50の第1面50Aの温度を環境温度+30℃、第2面50Bの温度を環境温度+20℃としてもよい。
【0079】
上記構成によれば、通常環境温度での主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔAを、ΔA<0として、主走査方向の焦点位置を負、つまり、基準像面よりも手前で焦点を結ぶように構成している。このように、主走査方向の焦点位置を負に設定しておくことで、局所昇温状態となって、焦点距離が長くなったとしても、基準像面にからの焦点位置の移動量を小さくして、ビーム径の変動を抑制することができる。
【0080】
さらに、上記構成ではΔA<ΔB<ΔCの関係を満たすようにして、上限環境温度での焦点位置を表すΔBを、負の最大位置であるΔAから正の最大位置であるΔCの間となるように補償する。これにより、上限環境温度でのビーム径の変動を従来通り補償しつつ、局所昇温状態でのビーム径の変動による影響も極力抑制することができる。
【0081】
また、走査光学装置5においては、ΔA<ΔD<ΔCを満足する構成としてもよい。前述したように、ΔDmmは、半導体レーザ20、カップリングレンズ21および走査光学系SCが下限環境温度のときの、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量であり、カップリングレンズ21の回折パワーにより、移動量が小さくなるように補正されたずれ量である。
【0082】
このようにすることで、下限環境温度での焦点位置を表すΔDについても、負の最大位置であるΔAから正の最大位置であるΔCの間となるように補償する。これにより、下限環境温度でのビーム径の変動を従来通り補償しつつ、局所昇温状態でのビーム径の変動による影響も極力抑制することができる。
【0083】
図11は、走査光学装置5における、各条件下での基準像面に対しての主走査方向の焦点位置のずれ量の計算値の一例を示す図である。25℃の通常環境温度で局所昇温が生じていない状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔAmmは-0.500mmである。-5℃の下限環境温度で局所昇温が生じていない状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔDmmは-0.330mmである。55℃の上限環境温度で局所昇温が生じていない状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔBmmは-0.330mmである。
【0084】
25℃の通常環境温度で局所昇温が生じている状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量ΔCmmは0.504mmである。-5℃の下限環境温度で局所昇温が生じている状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量は0.590mmである。55℃の上限環境温度で局所昇温が生じている状態での、主走査方向の焦点位置の基準像面に対してのずれ量は0.480mmである。
【0085】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。一例として、上述した実施形態においてはカップリングレンズ21は回折光学素子を有する構成としたが、これに限定されず屈折光学素子のみを有する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 カラーレーザプリンタ(画像形成装置)
3 シート供給部
5 走査光学装置
7 転写ユニット(転写器)
8 定着ユニット(定着装置)
20,20Y,20M,20C,20K 半導体レーザ
21 カップリングレンズ
21A 屈折光学素子
21B 回折光学素子
23 搬送ローラ
40 ポリゴンミラー
50,50-1、50-1,50-2 第1走査レンズ
51,51Y,51M,51C,51K 第2走査レンズ
61,61Y,61M,61C,61K感光体(像面)
63 現像ローラ(現像器)
100 筐体
101 底面
120 隔壁
121 開口
SC 走査光学系
SC1 第1走査光学系(走査光学系)
SC2 第2走査光学系(走査光学系)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11