(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147389
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】工作機械の熱変位補正方法及び熱変位補正システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20241008BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241008BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B23Q15/18
B23Q17/00 A
G05B19/404 K
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060357
(22)【出願日】2023-04-03
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100227835
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 剛孝
(72)【発明者】
【氏名】坂上 昭裕
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB04
3C001TA02
3C001TB02
3C001TB10
3C001TC05
3C029EE01
3C269AB05
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF10
3C269JJ18
3C269MN16
3C269MN28
3C269QD00
3C269QE34
(57)【要約】
【課題】工作機械の熱変位補正において、最適な補正パラメータを高精度かつ容易に取得できる方法及びシステムを提供する。
【解決手段】熱変位補正方法は、テーブル18に固定した校正球44と、校正球44の位置を測定するプローブ28と、温度計48a~48dとを備えること、温度変化量を積算した値が校正球44の位置の熱変位に相当する固定係数及び重み付けのために固定係数に積算する変動係数を設定すること、温度が変化する1周期間に複数回の校正球44の位置及び温度変化量の測定を同時に行うこと、測定した温度変化量と固定係数との積に、複数の変動係数を積算して複数の予測熱変位量Zを算出することと、複数の予測熱変位量Zのうち校正球44の位置の1周期の変動量との差が最小となる1つの変動係数を特定すること、熱変位補正を固定係数、温度変化量及び決定した変動係数から算出した予測熱変位量Zに基づいて行うことを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、前記被加工物を前記工具によって加工する工作機械の熱変位補正方法であって、
前記テーブルに対して固定された測定基準と、前記工作機械の前記主軸に配置され、前記測定基準の位置を測定する位置測定手段と、前記工作機械に取り付けられた温度計とを備えることと、
定数であって、温度変化量を積算した値が前記測定基準の位置の熱変位量に相当する固定係数と、重み付けのために前記固定係数に積算する変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを設定することと、
前記設置環境において、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって、前記位置測定手段を用いた前記測定基準の位置の測定と前記温度計を用いた前記温度変化量の測定とを同時に行うことと、
測定した前記温度変化量と前記固定係数とを積算した値に、複数の前記変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出することと、
複数の前記予測熱変位量について、測定した前記測定基準の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の前記変動係数を特定することと、
前記設置環境における前記被加工物の加工時の熱変位補正を、前記固定係数と前記温度変化量と当該特定した前記変動係数との積によって算出した前記予測熱変位量に基づいて行うことを含む、工作機械の熱変位補正方法。
【請求項2】
複数の前記温度計を前記工作機械の複数個所に取り付けることをさらに含む、請求項1に記載の熱変位補正方法。
【請求項3】
前記測定基準は、前記被加工物の表面、リング形状を有する物体の上面及び内周面、球体状物体の表面、又は、円柱状物体の上面及び外周面の何れかで構成し、前記位置測定手段は、前記主軸に保持されたプローブであることを特徴とする、請求項2に記載の熱変位補正方法。
【請求項4】
前記1周期は24時間であり、前記測定基準の位置及び前記温度変化量の測定は当該1周期又は複数周期にわたって行うことを特徴とする、請求項3に記載の熱変位補正方法。
【請求項5】
前記固定係数及び複数の前記変動係数のデータを記憶するための記憶部を前記工作機械に備えることと、
測定した前記測定基準の位置の前記1周期の前記変動量と、複数の前記変動係数から選択した1つの前記変動係数を用いて算出した前記予測熱変位量に基づいて前記変動量を補正した場合の補正後変動量とを前記記憶部に接続されたディスプレイに表示することと、
ユーザが、表示された前記変動量及び前記補正後変動量に基づいて、複数の前記変動係数の中から1つの前記変動係数を特定することをさらに含む、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の熱変位補正方法。
【請求項6】
周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、前記被加工物を前記工具によって加工する工作機械の熱変位補正システムであって、
前記テーブルに対して固定された測定基準と、
前記工作機械の前記主軸に配置され、前記測定基準の位置を測定する位置測定手段と、
前記工作機械に取り付けられた温度計と、
前記位置測定手段及び前記温度計と電気的に接続され、前記設置環境において前記位置測定手段及び前記温度計を作動して、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって前記測定基準の位置及び前記温度計を用いた温度変化量の測定を同時に行うように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、
予め設定された定数であって、前記温度変化量を積算した値が前記測定基準の位置の熱変位に相当する固定係数と、重み付けのために前記固定係数に積算するために予め設定された変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを記憶し、
測定した前記温度変化量と前記固定係数とを積算した値に、複数の前記変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出し、
複数の前記予測熱変位量について、測定した前記測定基準の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の前記変動係数を特定し、
前記設置環境における前記被加工物の加工時の熱変位補正を、前記固定係数と前記温度変化量と当該特定した前記変動係数との積によって算出した前記予測熱変位量に基づいて行うことを特徴とする、工作機械の熱変位補正システム。
【請求項7】
前記温度計は、前記工作機械の複数個所に取り付けること特徴とする、請求項6に記載の熱変位補正システム。
【請求項8】
前記測定基準は、前記被加工物の表面、リング形状を有する物体の上面及び内周面、球体状物体の表面、又は、円柱状物体の上面及び外周面の何れかで構成し、前記位置測定手段は、前記主軸に保持されたプローブであることを特徴とする、請求項7に記載の熱変位補正システム。
【請求項9】
前記1周期は24時間であり、前記測定基準の位置及び前記温度変化量の測定は当該1周期又は複数周期にわたって行うことを特徴とする、請求項8に記載の熱変位補正システム。
【請求項10】
前記工作機械は、前記固定係数及び複数の前記変動係数のデータを記憶するための記憶部と、
前記記憶部と電気的に接続され、測定した前記測定基準の位置の前記1周期の前記変動量と、複数の前記変動係数から選択した1つの前記変動係数を用いて算出した前記予測熱変位量に基づいて前記変動量を補正した場合の補正後変動量とを表示するディスプレイとを備え、
ユーザが、表示された前記変動量及び前記補正後変動量に基づいて、複数の前記変動係数の中から1つの前記変動係数を特定できることを特徴とする、請求項6から請求項9の何れか1項に記載の熱変位補正システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の熱変位補正方法及び熱変位補正システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械には、工作機械が稼働することによる内部発熱、加工熱、工作機械が設置されている工場等の室温変化等に起因して熱変位が生じる。このような熱変位は、加工寸法の精度に影響を及ぼすため、熱変位を最小化することが望ましい。そこで、近年では、熱変位補正システムを備えた工作機械が広く提供されている。
【0003】
しかしながら、工作機械の製造時の外的環境と実際に工作機械を使用する工場等の設置環境は異なることが多く、製造時に設定した熱変位補正システムでは、適切に熱変位を補正することができない場合がある。このような場合には、工作機械の設置環境において熱変位補正システムを再度設定することとなり、工作機械の効率低下や作業工数及びコストの増加を招いている。また、特許文献1には、24時間測定した工作機械の温度を用いて熱変位を補正する補正方法が開示されている。ここでは、熱変位は工作機械の温度に比例するものと仮定として補正値を決定している。しかしながら、実際に発生した熱変位がどの程度補正されているのか明確ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、工作機械の熱変位補正において、最適な補正パラメータを高精度かつ容易に取得できる熱変位補正方法及び熱変位補正システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、被加工物を工具によって加工する工作機械の熱変位補正方法であって、テーブルに対して固定された測定基準と、工作機械の主軸に配置され、測定基準の位置を測定する位置測定手段と、工作機械に取り付けられた温度計とを備えることと、定数であって、温度変化量を積算した値が測定基準の位置の熱変位量に相当する固定係数と、重み付けのために固定係数に積算する変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを設定することと、設置環境において、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって、位置測定手段を用いた測定基準の位置の測定と温度計を用いた温度変化量の測定とを同時に行うことと、測定した温度変化量と固定係数とを積算した値に、複数の変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出することと、複数の予測熱変位量について、測定した測定基準の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の変動係数を特定することと、設置環境における被加工物の加工時の熱変位補正を、固定係数と温度変化量と当該特定した変動係数との積によって算出した予測熱変位量に基づいて行うことを含む、工作機械の熱変位補正方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、被加工物を工具によって加工する工作機械の熱変位補正システムであって、テーブルに対して固定された測定基準と、工作機械の主軸に配置され、測定基準の位置を測定する位置測定手段と、工作機械に取り付けられた温度計と、位置測定手段及び温度計と電気的に接続され、設置環境において位置測定手段及び温度計を作動して、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって測定基準の位置及び温度計を用いた温度変化量の測定を同時に行うように構成された制御部とを備え、制御部は、予め設定された定数であって、温度変化量を積算した値が測定基準の位置の熱変位に相当する固定係数と、重み付けのために固定係数に積算するために予め設定された変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを記憶し、測定した温度変化量と固定係数とを積算した値に、複数の変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出し、複数の予測熱変位量について、測定した測定基準の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の変動係数を特定し、設置環境における被加工物の加工時の熱変位補正を、固定係数と温度変化量と当該特定した変動係数との積によって算出した予測熱変位量に基づいて行うことを特徴とする、工作機械の熱変位補正システムが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システムによれば、工作機械は、テーブルに対して固定された測定基準と、工作機械の主軸に配置され、測定基準の位置を測定する位置測定手段と、工作機械に取り付けられた温度計とを備える。このため、周期的に温度変化が生じる設置環境において、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって、位置測定手段を用いた測定基準の位置の測定と温度計を用いた温度変化量の測定とを同時に行うことができる。これによって、工作機械が実際に稼働する設置環境における温度変化量と測定基準の位置の変動量との関係を把握することができる。これによって、設置環境の影響を反映した変動係数を決定することができる。
【0009】
また、本発明に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システムによれば、測定した温度変化量と固定係数とを積算した値に、重み付けのための複数の変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出し、これらの測定した測定基準の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の変動係数を特定することができる。このため、特定した変動係数から算出した予測熱変位量に基づいて変動量を補正することによって、熱変位による変動量を最も小さくすることができ、最適な熱変位補正を行うことができる。また、測定した測定基準の位置の変動量と温度変化量とを対比することによって変動係数を特定することができるため、ユーザが試行錯誤や経験則に基づくことなく、熱変位補正をするための変動係数を高精度かつ容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る熱変位補正システムを備えた工作機械の側面図を示す。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るディスプレイの表示例を示す。
【
図3】
図3は、本実施形態の変形例に係る工作機械の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る工作機械の熱変位補正システムを説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0012】
図1には、本実施形態に係る熱変位補正システム10を備えた工作機械12の斜視図を示す。工作機械12は、基台となるベッド14と、ベッド14の上面に立設されたコラム16とを備える。ベッド14の上面には、被加工物であるワーク(図示省略)を配置及び固定するためのテーブル18が配置されている。
【0013】
コラム16の前面にはサドル20が配置され、サドル20の前面にはZスライダ22が配置されている。また、Zスライダ22の下方側には、主軸ヘッド24が配置され、主軸ヘッド24の先端側、ここでは、下方側には、主軸ヘッド24に対してZ軸に平行な軸線回りに回転可能に構成された主軸26が取り付けられている。主軸26は、これと共に回転しながらワークを加工するための工具(図示省略)を着脱可能に構成されている。
【0014】
ここでは、主軸26の先端側には、位置測定手段としてのプローブ28が取り付けられている。プローブ28の先端には、測定対象に接触したことを検出できる接触部28aが配置されている。接触を検知した際のX軸、Y軸、Z軸の位置を取得することで、測定対象の位置を検出することができる。
【0015】
本実施形態に係る工作機械12は、加工対象となるワークに対する工具の相対位置を変更可能に構成されている。工作機械12には、所定の位置を原点とした機械座標が予め設定されており、互いに直交する直動軸として、X軸、Y軸及びZ軸を含む。
【0016】
本実施形態に係る工作機械12は立形であり、Z軸は鉛直方向に沿って延在する。また、X軸及びY軸は、Z軸に垂直な平面上、ここでは、水平面上に設定する。本実施形態に係る工作機械12では、テーブル18は、Y軸方向(機械前後方向)に沿って移動するように構成されている。また、サドル20は、X軸方向(機械左右方向)に沿って移動可能に構成されている。さらに、Zスライダ22は、Z軸方向(機械上下方向)に沿って移動可能に構成されている。これによって、工作機械12は、工具(図示省略)を取り付けるための主軸26と被加工物としてのワーク(図示省略)を配置するテーブル18とをX軸、Y軸及びZ軸に沿って相対移動可能に構成されている。
【0017】
工作機械12は、工具とワークとをX軸方向に沿って相対移動させるために、コラム16の前面に形成された一対のX軸レール30a、30bを有する。サドル20は、X軸レール30a、30bに取り付けられ、X軸方向に沿った往復移動が可能となるように構成されている。また、工作機械12は、ボールねじ機構等によりサドル20を移動させるX軸モータ32を有する。このため、主軸26は、サドル20と共にX軸方向に沿って移動させることができる。
【0018】
工作機械12は、工具とワークとをY軸方向に沿って相対移動させるために、ベッド14の上面に配置された一対のY軸レール34a、34bを有する。テーブル18は、ガイドブロック36を介してY軸レール34a、34bに支持され、Y軸方向に沿った往復移動が可能となるように構成されている。また、工作機械12は、テーブル18をY軸レール34a、34bに沿って移動させるためのY軸モータ38を有する。
【0019】
工作機械12は、工具とワークとをZ軸方向に沿って相対移動させるために、サドル20の前面に形成された一対のZ軸レール40a、40bを有する。Zスライダ22は、Z軸レール40a、40bに取り付けられ、Z軸方向に沿って往復移動が可能となるように構成されている。また、工作機械12は、ボールねじ機構等によりZスライダ22を移動させるためのZ軸モータ42を有する。このため、工具及び主軸26は、主軸ヘッド24と共にZ軸方向に沿って移動させることができる。さらに、主軸ヘッド24の内部には、主軸26をZ軸方向に沿った軸線回りに回転させるための駆動モータ(図示省略)が配置されている。
【0020】
テーブル18の上面には、半径の寸法が既知である測定基準としての校正球44が固定されている。熱変位補正システム10は、工作機械12を作動させて主軸26とテーブル18とを相対移動させる制御部46を有する。制御部46は、工作機械12を作動してプローブ28を基準位置からテーブル18上の校正球44へと移動し、プローブ28の接触部28aを校正球44に複数方向から接触させる。接触したときのX軸、Y軸、Z軸の位置から、基準位置に対する校正球44の位置を求めることができる。なお、以下の説明では、測定基準として校正球44が用いられているとして説明するが、これに限らず、測定基準には、テーブルに固定された寸法が既知であるワーク、内径、外径及び高さの寸法が既知であるリングゲージ、並びに、半径及び高さの寸法が既知の円柱形状物体等が用いられてもよい。
【0021】
工作機械12の内部には複数の温度計、ここでは、4つの温度計48a、48b、48c、48dが配置されている。具体的には、コラム16の内部には第1の温度計48aが配置されており、サドル20の内部には第2の温度計48bが配置されている。また、主軸ヘッド24の内部には第3の温度計48cが配置されており、ベッド14の内部には第4の温度計48dが配置されている。
【0022】
4つの温度計48a、48b、48c、48dは、熱変位補正システム10の制御部46と電気的に接続されており、計測した温度データを熱変位補正システム10の記憶部50に記憶、すなわち記録するように構成されている。また、制御部46は、プローブ28と電気的に接続されている。このため、プローブ28によって測定した校正球44の位置データを記憶部50に記録するように構成されている。
【0023】
さらに、制御部46の記憶部50は、ユーザによって設定された固定係数Za、Zb、Zc、Zdと変動係数A、B、C、Dとを予め記録できるように構成されている。固定係数Za、Zb、Zc、Zdは、工作機械12の形状やこれを構成する部材の線膨張係数等に基づいて決定される定数であって、温度変化量を積算した値が熱変位によって生じる校正球44の位置の変動量に相当する、すなわち、校正球44の位置の変動量を温度変化量の関数とした場合の定数(係数)である。固定係数は、X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向の軸方向成分に定義されており、
図1に示す固定係数Za、Zb、Zc、Zdは、これらのうち、Z軸方向、すなわち主軸26の軸線方向の成分を表す。ここでは、固定係数Za、Zb、Zc、Zdは、変動量に対する影響因子ごとに分解して定義されている。具体的には、コラム16が熱変位、すなわち熱で伸縮することに起因する変動量に相当する固定係数Za、主軸26が熱で伸縮することに起因する変動量に相当する固定係数Zb、テーブル18が熱で伸縮することに起因する変動量に相当する固定係数Zc、及び、ベッド14が熱で伸縮することに起因する変動量に相当する固定係数Zdに分解して定義されている。このため、熱変位により生じる校正球44の位置の変動量である予測熱変位量Zは、これらの4つの固定係数Za、Zb、Zc、Zdにそれぞれ温度変化量を掛けた値を足し合わせて算出する。
【0024】
また、これらの4つの固定係数Za、Zb、Zc、Zdは、工作機械12の設置環境や工作機械12の使用状況によって予測熱変位量Zに及ぼす影響の度合いが変わり得るため、重み付けをしたうえで足し合わせるように定義されている。具体的には、4つの固定係数Za、Zb、Zc、Zdと温度変化量との積に、重み付けのための4つの変動係数A、B、C、Dをそれぞれ掛けた値を足し合わせて予測熱変位量Zを算出する。このため、
図1にも示すように、Z軸方向の予測熱変位量Zは、以下の式で算出することができる。
Z=Za×A+Zb×B+Zc×C+Zd×D (1)
なお、式(1)では、便宜上、温度変化量を積算して校正球44の位置の変動量に相当する値に換算したものを固定係数Za、Zb、Zc、Zdとして表している。4つの変動係数A、B、C、Dは、所定の範囲で変動する変数であり、変動係数A、B、C、Dごとに複数の値が予め設定、すなわち準備され、記憶部50に記録されている。
【0025】
以下の説明では、主に、代表例として、Z軸方向の予測熱変位量Zについて説明するが、X軸方向成分の予測熱変位量X、Y軸方向成分の予測熱変位量YもZ軸方向の予測熱変位量Zと同様に取り扱うことができ、以下の式で算出することができる。
X=Xa×E+Xb×F+Xc×G+Xd×H (2)
Y=Ya×I+Yb×J+Yc×K+Yd×L (3)
ここで、固定係数Xa、Xb、Xc、Xd及び固定係数Ya、Yb、Yc、Ydは、コラム16、主軸26、テーブル18、及び、ベッド14が熱で伸縮することに起因するX軸方向及びY軸方向の変動量に相当する固定係数であり、変動係数E、F、G、H及び変動係数I、J、K、Lは、固定係数Xa、Xb、Xc、Xd及び固定係数Ya、Yb、Yc、Ydにそれぞれ対応する変動係数である。また、式(1)と同様に、式(2)及び式(3)についても、便宜上、温度変化量を積算して校正球44の位置の変動量に相当する値に換算したものを固定係数Xa、Xb、Xc、Xd及び固定係数Ya、Yb、Yc、Ydとして表している。
【0026】
図1及び
図2に示すように、熱変位補正システム10は、制御部46及び記憶部50と電気的に接続されたディスプレイ52を備える。
図2には、ディスプレイ52の表示例を示す。ディスプレイ52には、工作機械12の温度計測位置A-01、A-02、A-03における温度の時間変化(時系列)が表示される。ここでは、1周期を24時間とする複数周期、すなわち数日間、校正球44の位置と温度を計測している。1周期を24時間とするのは、図中に示すように、昼夜の気温変化のような外的環境の変化が熱変位に及ぼす影響を適切に考慮するためであり、これを複数周期(数日間)連続して行うことによって計測データの信頼性を向上させることができる。
【0027】
図2のディスプレイ52には、また、プローブ28によって測定した校正球44の位置の1周期の変動量ED1及び変動量ED1のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向成分の棒グラフCP1が表示される。ディスプレイ52中の変位量ED1は、視認を容易にするために、数値ではなく、測定手段の画像の上に半径が変位量ED1に相当する円で表示されている。さらに、ディスプレイ52には、記憶部50に記録された複数の変動係数A~Lのセットの中の1つを用いて変位量ED1を補正した補正後変動量ED2及び補正後変動量ED2のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向成分の棒グラフCP2が表示される。補正後変動量ED2は、予め設定され、記憶部50に記録された複数の変動係数A、B、C、Dのセットの中の1つと固定係数Xa~Xd、Ya~Yd、Za~Zdと測定した温度変化量との積から予測熱変位量Zを算出し、これを変位量ED1から引くことによって算出する。ディスプレイ52中の補正後変動量ED2は、視認を容易にするために、数値ではなく、測定手段の画像の上に半径が補正後変動量ED2に相当する円で表示されている。このため、ユーザは、ディスプレイ52に表示された変動量ED1及び補正後変動量ED2に基づいて、複数の変動係数A~Lのセットの中から最適に熱変位補正を行うための1つの変動係数A~Lのセットを簡便に特定することができる。
【0028】
続いて、本実施形態に係る熱変位補正システム10を使用した熱変位補正の説明を通じて、熱変位補正方法及び熱変位補正システム10の作用及び効果を説明する。
【0029】
本実施形態に係る熱変位補正システム10によれば、工作機械12の設置環境において、1周期として定義した24時間の間に温度変化の影響が分かるようにユーザが選択した複数の時間において、プローブ28を用いた校正球44の位置の測定と温度計48a、48b、48c、48dを用いた温度変化量の測定とを同時に行うことができる。
【0030】
また、測定した温度変化量と固定係数Za、Zb、Zc、Zdとを積算した値に、複数の変動係数A、B、C、Dのセットをそれぞれ積算して複数の予測熱変位量Zを算出し、複数の予測熱変位量Zについて、測定した校正球44の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の1つの変動係数A、B、C、Dのセットを特定することができる。
【0031】
さらに、設置環境におけるワーク(図示省略)の加工時の熱変位補正を、固定係数Za、Zb、Zc、Zdと温度変化量と当該特定した1つの変動係数A、B、C、Dのセットとの積によって算出した予測熱変位量Zに基づいて行うことができる。
【0032】
本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、工作機械12は、テーブル18に対して固定された校正球44と、工作機械12の主軸26の軸線に沿って配置され、校正球44の位置を測定するプローブ28と、工作機械12に取り付けられた温度計48a、48b、48c、48dとを備える。このため、周期的に温度変化が生じる設置環境において、温度変化が生じる24時間に複数回にわたって、プローブ28を用いた校正球44の位置の測定と温度計48a、48b、48c、48dを用いた温度変化量の測定とを同時に行うことができる。これによって、工作機械12が実際に稼働する設置環境における温度変化量と校正球44の位置の変動量との関係を把握することができる。これによって、設置環境の影響を反映した1つの変動係数A、B、C、Dのセットを決定することができる。
【0033】
また、本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、測定した温度変化量と固定係数Za、Zb、Zc、Zdとを積算した値に、重み付けのための複数の変動係数A、B、C、Dのセットをそれぞれ積算して複数の予測熱変位量Zを算出し、これらの測定した校正球44の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の1つの変動係数A、B、C、Dのセットを特定することができる。このため、特定した1つの変動係数A、B、C、Dのセットから算出した予測熱変位量Zに基づいて変動量を補正することによって、熱変位による変動量を最も小さくすることができ、最適な熱変位補正を行うことができる。また、測定した校正球44の位置の変動量と温度変化量とを対比することによって変動係数A、B、C、Dを特定することができるため、ユーザが試行錯誤や経験則に基づくことなく、熱変位補正をするための1つの変動係数A、B、C、Dのセットを高精度かつ容易に決定することができる。
【0034】
さらに、本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、温度計48a、48b、48c、48dは、工作機械12の複数個所に取り付けられている。このため、熱変位が比較的生じやすいコラム16、サドル20、主軸ヘッド24、及び、ベッド14等に近い位置で温度変化量を測定することができ、温度変化量と変動量との相関を精度よく把握することができる。これによって、熱変位補正をするのに最適な1つの変動係数A、B、C、Dのセットを高精度で取得することができる。
【0035】
また、本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、主軸26に取り付けたプローブ28を用いてテーブル18に固定された寸法が既知の校正球44の位置を計測することができる。このため、校正球44の位置を精度よく計測することができ、校正球44の位置計測に及ぼす工作機械12の熱変位の影響を精度よく把握することができる。これによって、熱変位補正をするのに最適な1つの変動係数A、B、C、Dのセットを高精度で取得することができる。
【0036】
さらに、本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、測定を行う1周期は24時間であり、校正球44の位置及び温度変化量の測定は当該1周期又は複数周期にわたって行う。このため、24時間単位で変動する気温の影響を考慮して温度変化量と変動量との相関を精度よく把握することができる。これによって、熱変位補正をするのに最適な1つの変動係数A、B、C、Dのセットを高精度で取得することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム10によれば、工作機械12は、固定係数Za、Zb、Zc、Zd及び複数の変動係数A、B、C、Dのセットのデータを記憶するための記憶部50を備える。また、記憶部50と電気的に接続され、測定した校正球44の位置の1周期、ここでは24時間の変動量と、複数の変動係数A、B、C、Dのセットの中から選択した1つの変動係数A、B、C、Dのセットを用いて算出した予測熱変位量Zに基づいて変動量を補正した場合の補正後変動量とを表示するディスプレイ52とを備える。このため、ユーザは、ディスプレイ52に表示された変動量ED1及び補正後変動量ED2に基づいて、複数の変動係数A、B、C、Dのセットの中から1つの変動係数A、B、C、Dのセットを特定することができる。これによって、熱変位補正をするのに最適な1つの変動係数A、B、C、Dのセットを容易に取得することができる。
【0038】
以上の説明のとおり、本実施形態に係る熱変位補正システム10は、工作機械12の熱変位補正において、最適な変動係数A、B、C、Dを高精度かつ容易に取得することができる。
【0039】
(変形例)
以下、本実施形態に係る熱変位補正システム10の変形例について説明する。本実施形態と同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0040】
図3に示すように、変形例に係る熱変位補正システム70によれば、工作機械72は横形であり、主軸26の軸線方向(Z軸方向)は、機械前後方向に沿って延在し、鉛直方向がY軸方向とされている。。このため、X軸及びZ軸は、Y軸に垂直な平面上、ここでは、水平面上に設定する。
【0041】
コラム16の前面には一対のY軸レール74a、74bが形成され、Y軸レール74a、74bには、スライダ76がY軸方向に沿ってスライド可能に取り付けられている。また、工作機械72は、ボールねじ機構等によりスライダ76をY軸方向に沿って移動させるためのY軸モータ78を有する。さらに、コラム16は、図示しないX軸モータによってX軸方向に沿ってスライド可能に構成されている。このため、スライダ76は、Y軸方向(鉛直方向)及びX軸方向(機械左右方向)に沿ってスライド可能に構成されている。これによって、軸線がY軸方向に沿って延在する主軸ヘッド24及び主軸26は、スライダ76のスライドに合わせてY軸方向(鉛直方向)及びX軸方向(機械左右方向)に沿ってスライド可能に構成されている。
【0042】
工作機械72は、工具とワークとをZ軸方向に沿って相対移動させるために、ベッド14の上面に配置された一対のZ軸レール80a、80bを有する。テーブル18は、ガイドブロック36を介してZ軸レール80a、80bに支持され、Z軸方向に沿った往復移動が可能となるように構成されている。また、工作機械72は、テーブル18をZ軸レール80a、80bに沿って移動させるためのZ軸モータ82を有する。
【0043】
テーブル18の上面には、イケール84が立設されており、Z軸方向に沿って主軸26と対向する側のイケール84の側面には校正球44が固定されている。校正球44は、プローブ28の方へ向けて固定されている。
【0044】
工作機械72の内部には複数の温度計、ここでは、3つの温度計86a、86b、86cが配置されている。ベッド14の内部には第1の温度計86aが配置されており、コラム16の内部には第2の温度計86bが配置されている。また、主軸ヘッド24の内部には第3の温度計86cが配置されており、3つの温度計86a、86b、86cは、熱変位補正システム10の制御部46と電気的に接続されており、計測した温度データを熱変位補正システム10の記憶部50に記録するように構成されている。
【0045】
本実施形態に係る熱変位補正方法及び熱変位補正システム70によれば、測定した温度変化量と固定係数Za、Zb、Zc、Zdとを積算した値に、重み付けのための複数の変動係数A、B、C、Dのセットをそれぞれ積算して複数の予測熱変位量Zを算出し、これらの測定した校正球44の位置の1周期の変動量との差を算出し、当該差が最小となる1つの変動係数A、B、C、Dのセットを特定することができる。このため、特定した1つの変動係数A、B、C、Dのセットから算出した予測熱変位量Zに基づいて変動量を補正することによって、熱変位による変動量を最も小さくすることができ、最適な熱変位補正を行うことができる。また、測定した校正球44の位置の変動量と温度変化量とを対比することによって1つの変動係数A、B、C、Dのセットを特定することができるため、ユーザが試行錯誤や経験則に基づくことなく、熱変位補正をするための1つの変動係数A、B、C、Dのセットを高精度かつ容易に決定することができる。
【0046】
以上、工作機械12、72の熱変位補正システム10、70の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者が想到する範囲において、上記の実施形態の様々な変形が本発明の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 熱変位補正システム
12 工作機械
18 テーブル
26 主軸
28 プローブ(位置測定手段)
44 校正球(測定基準)
46 制御部
48a 第1の温度計
48b 第2の温度計
48c 第3の温度計
48d 第4の温度計
50 記憶部
52 ディスプレイ
70 熱変位補正システム
72 工作機械
86a 第1の温度計
86b 第2の温度計
86c 第3の温度計
A~D 変動係数
E~H 変動係数
I~L 変動係数
ED1 変動量
ED2 補正後変動量
Xa~Xd 固定係数
Ya~Yd 固定係数
Za~Zd 固定係数
Z 予測熱変位量
【手続補正書】
【提出日】2024-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、前記被加工物を前記工具によって加工する工作機械の熱変位補正方法であって、
前記テーブルに対して固定された測定基準と、前記工作機械の前記主軸に配置され、前記測定基準の位置を測定する位置測定手段と、前記工作機械に取り付けられた温度計とを備えることと、
定数であって、温度変化量を積算した値が前記測定基準の位置の熱変位量に相当する固定係数と、重み付けのために前記固定係数に積算する変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを設定することと、
前記設置環境において、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって、前記位置測定手段を用いた前記測定基準の位置の測定と前記温度計を用いた前記温度変化量の測定とを同時に行うことと、
測定した前記温度変化量と前記固定係数とを積算した値に、複数の前記変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出することと、
複数の前記予測熱変位量について、測定した前記測定基準の位置の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の前記変動係数を特定することと、
前記設置環境における前記被加工物の加工時の熱変位補正を、前記固定係数と前記温度変化量と当該特定した前記変動係数との積によって算出した前記予測熱変位量に基づいて行うことを含む、工作機械の熱変位補正方法。
【請求項2】
複数の前記温度計を前記工作機械の複数個所に取り付けることをさらに含む、請求項1に記載の熱変位補正方法。
【請求項3】
前記測定基準は、前記被加工物の表面、リング形状を有する物体の上面及び内周面、球体状物体の表面、又は、円柱状物体の上面及び外周面の何れかで構成し、前記位置測定手段は、前記主軸に保持されたプローブであることを特徴とする、請求項2に記載の熱変位補正方法。
【請求項4】
前記1周期は24時間であり、前記測定基準の位置及び前記温度変化量の測定は当該1周期又は複数周期にわたって行うことを特徴とする、請求項3に記載の熱変位補正方法。
【請求項5】
前記固定係数及び複数の前記変動係数のデータを記憶するための記憶部を前記工作機械に備えることと、
測定した前記測定基準の位置の前記1周期の前記変動量と、複数の前記変動係数から選択した1つの前記変動係数を用いて算出した前記予測熱変位量に基づいて前記変動量を補正した場合の補正後変動量とを前記記憶部に接続されたディスプレイに表示することと、
ユーザが、表示された前記変動量及び前記補正後変動量に基づいて、複数の前記変動係数の中から1つの前記変動係数を特定することをさらに含む、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の熱変位補正方法。
【請求項6】
周期的に温度変化が生じる設置環境において設置され、工具が取り付けられた主軸と被加工物を載置したテーブルとを相対的に移動し、前記被加工物を前記工具によって加工する工作機械の熱変位補正システムであって、
前記テーブルに対して固定された測定基準と、
前記工作機械の前記主軸に配置され、前記測定基準の位置を測定する位置測定手段と、
前記工作機械に取り付けられた温度計と、
前記位置測定手段及び前記温度計と電気的に接続され、前記設置環境において前記位置測定手段及び前記温度計を作動して、温度変化が生じる1周期の間に複数回にわたって前記測定基準の位置及び前記温度計を用いた温度変化量の測定を同時に行うように構成された制御部とを備え、
前記制御部は、
予め設定された定数であって、前記温度変化量を積算した値が前記測定基準の位置の熱変位に相当する固定係数と、重み付けのために前記固定係数に積算するために予め設定された変数であって、所定の範囲で変動する変動係数とを記憶し、
測定した前記温度変化量と前記固定係数とを積算した値に、複数の前記変動係数をそれぞれ積算して複数の予測熱変位量を算出し、
複数の前記予測熱変位量について、測定した前記測定基準の位置の変動量との差を算出し、当該差が最小となる場合の前記変動係数を特定し、
前記設置環境における前記被加工物の加工時の熱変位補正を、前記固定係数と前記温度変化量と当該特定した前記変動係数との積によって算出した前記予測熱変位量に基づいて行うことを特徴とする、工作機械の熱変位補正システム。
【請求項7】
前記温度計は、前記工作機械の複数個所に取り付けること特徴とする、請求項6に記載の熱変位補正システム。
【請求項8】
前記測定基準は、前記被加工物の表面、リング形状を有する物体の上面及び内周面、球体状物体の表面、又は、円柱状物体の上面及び外周面の何れかで構成し、前記位置測定手段は、前記主軸に保持されたプローブであることを特徴とする、請求項7に記載の熱変位補正システム。
【請求項9】
前記1周期は24時間であり、前記測定基準の位置及び前記温度変化量の測定は当該1周期又は複数周期にわたって行うことを特徴とする、請求項8に記載の熱変位補正システム。
【請求項10】
前記工作機械は、前記固定係数及び複数の前記変動係数のデータを記憶するための記憶部と、
前記記憶部と電気的に接続され、測定した前記測定基準の位置の前記1周期の前記変動量と、複数の前記変動係数から選択した1つの前記変動係数を用いて算出した前記予測熱変位量に基づいて前記変動量を補正した場合の補正後変動量とを表示するディスプレイとを備え、
ユーザが、表示された前記変動量及び前記補正後変動量に基づいて、複数の前記変動係数の中から1つの前記変動係数を特定できることを特徴とする、請求項6から請求項9の何れか1項に記載の熱変位補正システム。