(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014739
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】グローバル量子鍵配送ネットワークの確立に適した量子鍵配送装置および方法
(51)【国際特許分類】
H04L 9/12 20060101AFI20240125BHJP
H04B 10/70 20130101ALI20240125BHJP
【FI】
H04L9/12
H04B10/70
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023098196
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】22186505
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521124319
【氏名又は名称】テラ クアンタム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】TERRA QUANTUM AG
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】ヴィノコール・ヴァレリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】キルサーノフ・ニキータ エス.
(72)【発明者】
【氏名】レソヴィク・ゴルデイ ベー.
(72)【発明者】
【氏名】セカツキ・パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】コリベルニコフ・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】パストゥシェンコ・ヴァレリア
(72)【発明者】
【氏名】コドゥホフ・アレクセイ
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AB11
5K102AH02
5K102AH13
5K102AH27
5K102AL01
5K102AL02
5K102AL10
5K102AL22
5K102PA12
5K102PD13
5K102PD15
5K102PH01
5K102PH31
5K102PH43
5K102PH49
5K102RB00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】信頼できる第三者に依存しない量子鍵配送のためのグローバネットワークを確立する量子鍵配送装置を提供する。
【解決手段】量子鍵配送装置10は、送信器装置から複数の光入力信号を受信する入力信号経路12と、第1端部16で入力信号経路に接続され、かつ、第1端部と反対側の第2端部20で複数の第1光出力信号を発信する出力信号経路14と、第3端部24で入力信号経路に接続され、かつ、第3端部と反対側の第4端部28に光子検出器装置26を含む検出器信号経路22と、を備え、光子検出器装置が、送信器装置からの複数の光入力信号を検出し、検出した複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立する。入力信号経路は、第1ビームスプリッタ18を備えるマッハツェンダ干渉計30の入力経路を形成し、出力信号経路および検出器信号経路は、マッハツェンダ干渉計の出力経路を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)であって、
送信器装置から複数の光入力信号を受信する入力信号経路(12;12a~12f)と、
第1端部(16)で前記入力信号経路(12;12a~12f)に接続され、かつ前記第1端部と反対側の第2端部(20)で複数の第1光出力信号を発信する出力信号経路(14;14a~14f)と、
第3端部(24)で前記入力信号経路(12)に接続され、かつ前記第3端部(24)と反対側の第4端部(28)に光子検出器装置(26)を含む検出器信号経路(22)とを備え、
前記光子検出器装置(26)は、前記送信器装置からの前記複数の光入力信号を検出し、
前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、検出された前記複数の光入力信号に基づいて、前記送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立し、
前記入力信号経路(12;12a~12f)は、マッハツェンダ干渉計(30)の入力経路を形成し、前記出力信号経路(14;14a~14f)および前記検出器信号経路(22)は、前記マッハツェンダ干渉計(30)の出力経路を形成する
量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項2】
前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、当該量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)の第1構成設定において、前記出力信号経路(14;14a~14f)を介して前記複数の光入力信号を送信し、特に、前記出力信号経路(14)を介して実質的に影響を受けない状態で前記複数の光入力信号を送信し、
前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、前記第1構成設定とは異なる当該量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)の第2構成設定において、前記複数の光入力信号を前記検出器信号経路(22)に送信する
請求項1に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項3】
前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、前記検出器信号経路(22)に第1位相変調器装置(34)を備え、
前記第1位相変調器(34)は、前記検出器信号経路(22)の光信号の位相を変調し、かつ/または前記検出器信号経路(22)の光信号の強度を変調し、かつ/または前記出力信号経路(14;14a~14f)に光信号を形成し、かつ/または前記出力信号経路(14;14a~14f)の光信号の強度を変調する
請求項1に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項4】
前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、さらに、前記出力信号経路(14;14a~14f)に第2位相変調器装置(38)を備え、
前記第2位相変調器装置(38)は、前記出力信号経路(14;14a~14f)の光信号の位相を変調し、かつ/または前記出力信号経路(14;14a~14f)の光信号の強度を変調し、かつ/または前記出力信号経路(14;14a~14f)に光信号を形成し、かつ/または前記検出器信号経路(22)の光信号の強度を変調する
請求項1に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項5】
前記第1位相変調器装置(34)および/または前記第2位相変調器装置(38)は、光電子位相変調器を含む
請求項3に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項6】
前記第1位相変調器装置(34)および/または前記第2位相変調器装置(38)の切替速度は、5ns以下、特に1ns以下または0.5ns以下である
請求項3に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項7】
さらに、複数の光信号を前記出力信号経路(14;14a~14f)へ発信する光子源を備える
請求項1に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)。
【請求項8】
相互接続された請求項1~7のいずれか1項に記載の量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)を複数備える量子鍵配送ネットワーク(42、42′、42″)であって、
前記送信器装置は、複数の前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)のうちの第1量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)であり、複数の前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)のうちの前記第1量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)の出力信号経路(14;14a~14f)は、複数の前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)のうちの第2量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)の入力信号経路(12;12a~12f)に接続されており、
前記第2量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、検出された前記複数の光入力信号に基づいて、前記第1量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)との間に共有量子暗号化鍵を確立する
量子鍵配送ネットワーク(42、42′、42″)。
【請求項9】
複数の前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、リングトポロジーで配置されている
請求項8に記載の量子鍵配送ネットワーク(42′)。
【請求項10】
複数の前記量子鍵配送装置(10、10′、10″;10a~10f)は、格子トポロジーで配置されている
請求項8に記載の量子鍵配送ネットワーク(42″)。
【請求項11】
量子鍵配送方法であって、
送信器装置から複数の光入力信号を受信するステップと、
受信された前記複数の光入力信号を、マッハツェンダ干渉計(30)を介して出力信号経路(14;14a~14f)へ、または光子検出器装置(26)を含む検出器信号経路(22)へ選択的に送信するステップとを含み、
受信された前記複数の光入力信号を前記検出器信号経路(22)へ送信する場合、前記方法は、さらに、
前記送信器装置からの前記複数の光入力信号を、前記光子検出器装置(26)によって前記検出器信号経路(22)で検出するステップと、
検出された前記複数の光入力信号に基づいて、前記送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立するステップとを含む
量子鍵配送方法。
【請求項12】
受信された前記複数の光入力信号は、受信されたスイッチ信号に応答して前記マッハツェンダ干渉計(30)を介して送信される
請求項11に記載の量子鍵配送方法。
【請求項13】
さらに、特に第1位相変調器装置(34)によって、前記検出器信号経路(22)の光信号の位相を変調するステップ、および/または前記検出器信号経路(22)の光信号の強度を変調するステップ、および/または前記出力信号経路(14;14a~14f)に光信号を形成するステップ、および/または、前記出力信号経路(14;14a~14f)の光信号の強度を変調するステップを含む
請求項11に記載の量子鍵配送方法。
【請求項14】
さらに、複数の光信号を前記出力信号経路(14;14a~14f)へ発信するステップを含む
請求項11に記載の量子鍵配送方法。
【請求項15】
前記送信器装置との間に前記共有量子暗号化鍵を確立するステップは、共有ビット列を確立するステップと、特に古典情報チャネルを介して、前記送信器装置と共にプライバシー増幅を行うステップとを含む
請求項11~14のいずれか1項に記載の量子鍵配送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、量子鍵配送(QKD)の技術、特に、信頼できる第三者に依存しない量子鍵配送のためのグローバネットワークを確立する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
今後の量子コンピューティングの見通しでは、古典通信ネットワークのセキュリティの柱そのものが脅かされるとのことである。従来の(古典的な)暗号法によって提供されるセキュリティの信用および信頼は、保護を破るための計算の複雑さを打破することはできないという確信に基づいている。しかしながら、量子コンピュータは、既存の複雑さを乗り越える可能性を秘めている。量子鍵配送(QKD)は、これらの制約を克服し、かつ安全性が証明可能な古典鍵を正当な当事者間において確立することを可能にする技術である。最近、場合によっては地球全体に及ぶ非常に長い距離にわたって量子暗号化鍵を交換する技術が確立されている。非特許文献1を参照。
【0003】
3人以上の正規ユーザ間、すなわちネットワーク環境において、安全性が証明可能な古典暗号化鍵を確立することを可能にする量子鍵配送ネットワークも研究されている。非特許文献2では、分岐構成またはループ構成のファイバリンクを介した偏光コーディングを用いる量子鍵配送が研究されている。非特許文献3では、ニオブ酸リチウムなどの光スイッチ素子、微小電気機械システム(MEMS)、および光学機械システムを利用する、スイッチド・マルチノード・アーキテクチャを備えたQKDが研究されている。ニオブ酸リチウム光スイッチのさらなる参考文献としては、非特許文献4および非特許文献5を参照。
【0004】
非特許文献6には、市販の光スイッチ、Thorlabs社のOSW22-2x2を利用するQKDスイッチベース・ネットワークが開示されている。
【0005】
先行技術に鑑みて、要求されるものは、事実上地球全体に及ぶ長距離にわたって高い鍵レートで確実に暗号化鍵を共有することを可能にするQKDネットワークである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N.S.キルサーノフ(N.S.Kirsanov)ら著、「物理的損失制御に基づく長距離量子鍵配送(Long-distance quantum key distribution based on the physical loss control)」、コーネル・プレプリント・サーバ(Cornell Preprint Server)、arXiv:2105.00035v1、2021年4月30日
【非特許文献2】X.タン(X.Tang)ら著、「アクティブ量子鍵配送ネットワークのデモンストレーション(Demonstration of an active quantum key distribution network)」、SPIEの会報6305(Proceedings of SPIE 6305)、量子通信および量子イメージングIV(Quantum Communications and Quantum Imaging IV)、630506、2006年8月29日
【非特許文献3】P.トリバー(P.Toliver)ら著、「透明な光スイッチ素子による量子鍵配送の実験的研究(Experimental Investigation of Quantum Key Distribution Through Transparent Optical Switch Elements)」、IEEEフォトニクス・テクノロジー・レターズ(IEEE Photonics Technology Letters)、第15巻、第11号、2003年11月
【非特許文献4】H.岡山(H.Okayama)著、「ニオブ酸リチウム電気光学スイッチング(Lithium Niobate Electro-Optic Switching)」、スプリンガー(Springer)、ボストン(Boston)、2006年
【非特許文献5】H.ワング(H.Wang)ら著、「逆テーパ状方向性結合器を備えたマッハツェンダ干渉計に基づく広帯域2×2ニオブ酸リチウムの電気光学スイッチ(Broadband 2x2 lithium niobate electrooptic switch based on a mach-zehnder interferometer with counter-tapered directional couplers)」、応用光学(Appl.Opt)、第56巻、第29号、2017年10月、p.8164-8168
【非特許文献6】A.タイドガノフ(A.Tayduganov)ら著、「量子鍵配送スイッチベース・ネットワークの配備の最適化(Optimizing the deployment of quantum key distribution switch-based networks)」コーネル・プレプリント・サーバ(Cornell preprint server)、arXiv:2104.04155v2、2021年4月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの課題は、独立請求項1に記載の量子鍵配送装置と、請求項8に記載の量子鍵配送ネットワークと、独立請求項11に記載の量子鍵配送方法とによって対処される。従属請求項は、好ましい実施の形態に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本開示は、送信器装置から複数の光入力信号を受信する入力信号経路と、第1端部で入力信号経路に接続され、かつ第1端部と反対側の第2端部で複数の第1光出力信号を発信する出力信号経路と、第3端部で入力信号経路に接続され、かつ第3端部と反対側の第4端部に光子検出器装置を含む検出器信号経路とを備える量子鍵配送装置に関する。光子検出器装置は、送信器装置からの複数の光入力信号を検出する。量子鍵配送装置は、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立する。入力信号経路は、マッハツェンダ干渉計の入力経路を形成し、出力信号経路および検出器信号経路は、マッハツェンダ干渉計の出力経路を形成する。
【0009】
有利には、マッハツェンダ干渉計は、信号が検出される受信モードと、信号がネットワーク内の異なるノードに伝えられる送信モードとをユーザが切り替えることを可能にし得るQKDネットワークのネットワークノードを構築できるようにしてもよい。さらに、マッハツェンダ干渉計は、非常に低い損失で数ナノ秒(ns)以下の範囲の非常に速い切替速度を可能にするため、地球規模で暗号化鍵の高速かつ信頼性のある交換を可能にし得る。
【0010】
本開示において、入力信号経路、出力信号経路、および/または検出器信号経路は、光信号を送信する任意の通信経路を示してもよい。例えば、入力信号経路、出力信号経路、および/または検出器信号経路は、光ファイバ、または自由空間光信号リンクを含んでもよい。
【0011】
それぞれの信号経路の第1端部、第2端部、第3端部、および第4端部は、それぞれ信号経路の端部の順番も順位も表しておらず、単に信号経路の異なる端部を表記上区別するためだけのものである。いくつかの実施の形態では、第1端部、第2端部、第3端部、および第4端部は、異なる位置にあってもよい。他の実施の形態では、第1端部、第2端部、第3端部、および第4端部のうちの2以上が同じ位置にあってもよく、または一致してもよい。
【0012】
送信器装置は、単一光子または光子束などの光信号を量子鍵配送装置に送信する任意の装置を示してもよい。特に、送信器装置は、光子源を含んでもよい。
【0013】
本開示において、光子検出器装置は、光子などの光信号を検出する任意の装置を示してもよい。いくつかの実施の形態では、光子検出器装置は、単一光子を検出してもよい。他の実施の形態では、光子検出器装置は、光子束または光強度を検出してもよい。
【0014】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、入力信号経路を、出力信号経路の第1端部に接続し、かつ検出器信号経路の第3端部に接続する第1ビームスプリッタを備える。
【0015】
代替または追加として、量子鍵配送装置は、出力信号経路と検出器信号経路とを、特に第1ビームスプリッタの下流で接続する第2ビームスプリッタを備えてもよい。
【0016】
第1ビームスプリッタおよび/または第2ビームスプリッタは、50/50ビームスプリッタであってもよい。
【0017】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、量子鍵配送装置の第1構成設定において、出力信号経路を介して複数の光入力信号を送信し、特に、出力信号経路を介して実質的に影響を受けない状態で複数の光入力信号を送信してもよい。
【0018】
第1構成設定は、量子鍵配送装置がバイスタンダとして働く送信モードに対応してもよく、光入力信号は、実質的に影響を受けない状態で量子鍵配送ネットワーク内の別の量子鍵配送装置に送信される。
【0019】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、量子鍵配送装置の第1構成設定において、光入力信号を出力信号経路まで確率pで送信してもよく、ここで、pは、0.7以上、特に0.8以上または0.9以上である。
【0020】
さらに、量子鍵配送装置は、第1構成設定とは異なる量子鍵配送装置の第2構成設定において、複数の光入力信号を検出器信号経路に送信してもよい。
【0021】
第2構成設定は、送信器装置から受信された複数の光信号が光検出器装置によって検出される受信モードに対応してもよく、それにより、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に量子暗号化鍵を確立することができる。
【0022】
実施の形態において、量子鍵配送装置、特にマッハツェンダ干渉計は、特に受信されたスイッチ信号に応答して、第1構成設定と第2構成設定とを切り替えてもよい。
【0023】
本開示において、スイッチ信号は、量子鍵配送ネットワーク内の別の量子鍵配送装置、または量子鍵配送ネットワークの中央管理ノードから受信された古典信号を示してもよい。
【0024】
マッハツェンダ干渉計により、光入力信号が送信される第1構成と、信号が検出される第2構成とを迅速かつ効率的に構成切替えできることが本開示の利点である。
【0025】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、検出器信号経路に第1位相変調器装置を備えてもよく、第1位相変調器は、検出器信号経路の光信号の位相を変調し、かつ/または検出器信号経路の光信号の強度を変調し、かつ/または出力信号経路に光信号を形成し、かつ/または出力信号経路の光信号の強度を変調する。
【0026】
特に、第1位相変調器装置は、第1ビームスプリッタと第2ビームスプリッタとの間に位置してもよい。
【0027】
第1位相変調器装置は、第2ビームスプリッタの前の検出器信号経路の光信号の位相を変調してもよい。その位相変調は、第2ビームスプリッタの後の検出器信号経路および/または出力信号経路における強度の変化をもたらし得る。
【0028】
第1位相変調器装置は、第1位相変調器装置の位相設定に応じて、検出器信号経路の信号強度および/または出力信号経路の信号強度を調整してもよい。
【0029】
実施の形態によれば、第1位相変調器装置は、特に受信されたスイッチ信号に応答して、第1構成設定と第2構成設定とを切り替えてもよい。
【0030】
場合によっては、本開示に係る量子鍵配送装置では、単一の位相変調器装置で十分であり得る。しかしながら、さらに詳細に後述するように、位相変調器装置を1つしか備えない構成では、信号強度範囲にいくつかの制限が適用される場合がある。
【0031】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、出力信号経路に第2位相変調器装置を備え、第2位相変調器装置は、出力信号経路の光信号の位相を変調し、かつ/または出力信号経路の光信号の強度を変調し、かつ/または出力信号経路に光信号を形成し、かつ/または検出器信号経路の光信号の強度を変調する。
【0032】
特に、第2位相変調器装置は、第1ビームスプリッタと第2ビームスプリッタとの間に位置してもよい。
【0033】
第2位相変調器装置は、位相変調器装置を1つしか備えない量子鍵配送装置において適用される得る信号強度範囲への制限を緩和してもよい。特に、第2位相変調器装置は、量子鍵配送装置が任意に小さい強度の光信号を出力信号経路へ発信することを可能にしてもよい。
【0034】
第2位相変調器装置は、意匠および機能において第1位相変調器装置に対応してもよい。実施の形態によれば、第1位相変調器装置および/または第2位相変調器装置は、光電子位相変調器を含む。
【0035】
第1位相変調器装置および/または第2位相変調器装置によって数ナノ秒以下のオーダの非常に速い切替えが可能になることが、本開示の技術の利点である。
【0036】
実施の形態によれば、第1位相変調器装置および/または第2位相変調器装置の切替速度は、5ns以下、特に3ns以下、2ns以下、1ns以下、0.5ns以下、0.2ns以下、または0.1ns以下である。
【0037】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、さらに、複数の光信号を出力信号経路へ発信する光子源を備える。
【0038】
光子源によって、量子鍵配送装置は、ネットワーク内の受信器装置との間に量子暗号化鍵を確立するなどのための、量子鍵配送ネットワーク内で光信号を送信する送信器装置として働いてもよい。
【0039】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、さらに、乱数生成器、特に量子乱数生成器を備える。乱数生成器、特に量子乱数生成器は、検出器信号経路、特に第1位相変調器装置に接続されてもよい。
【0040】
乱数生成器、特に量子乱数生成器は、第1位相変調器装置の動作および/または第2位相変調器装置の動作を制御してもよい。
【0041】
乱数生成器、特に量子乱数生成器は、量子鍵配送装置が、量子鍵配送ネットワーク内の別の装置との間にセキュアな通信および/または認証のためのセキュアな暗号化鍵を確立するなどのために、対称暗号化に基づく方法、例えばワンタイムパッドなどによって、光信号をランダムに生成することを可能にしてもよい。
【0042】
実施の形態によれば、量子鍵配送装置は、さらに、古典情報チャネルによって送信器装置に接続されてもよい。特に、量子鍵配送装置は、共有ビット列を確立し、かつ、特に古典情報チャネルを介して、送信器装置と共にプライバシー増幅を行ってもよい。
【0043】
共有ビット列を確立するステップは、測定結果の事後選択および/または誤り訂正処理を含んでもよい。
【0044】
上で詳述した説明では、本開示の技術を、主に単一の量子鍵配送装置を参照して説明してきた。しかしながら、本開示はそのように限定されるものではなく、第2の態様では、上述した特徴の一部またはすべてを有する相互接続された量子鍵配送装置を複数備える量子鍵配送ネットワークにも言及する。
【0045】
第2の態様によれば、第1の態様を参照して上述したような送信器装置は、複数の量子鍵配送装置のうちの第1量子鍵配送装置であってもよく、複数の量子鍵配送装置のうちの第1量子鍵配送装置の出力信号経路は、複数の量子鍵配送装置のうちの第2量子鍵配送装置の入力信号経路に接続されてもよい。第2量子鍵配送装置は、検出された複数の光入力信号に基づいて、第1量子鍵配送装置との間に共有量子暗号化鍵を確立してもよい。
【0046】
有利には、本開示に係る量子鍵配送ネットワークは、空間的に離れた異なる地理的位置にわたって分布した複数のエンティティ間において、高い鍵レートで量子暗号化鍵の信頼性のある交換を可能にし得る。
【0047】
実施の形態によれば、複数の量子鍵配送装置は、リングトポロジーで配置されてもよい。
【0048】
リングトポロジーは、隣接するノードへの接続によって定義され得るため、ネットワークトポロジーを指す場合があるが、ネットワーク内のそれぞれの量子鍵配送装置の地理的位置に必ずしも対応しなくてもよい。
【0049】
実施の形態によれば、リングトポロジーは、n個の量子鍵配送装置(nは、2以上の任意の整数)を含んでもよく、n個の量子鍵配送装置は、1からnの順にリング状に配置されてもよい。リングトポロジーのn番目の量子鍵配送装置の出力信号経路は、リングトポロジーの第1量子鍵配送装置の入力信号経路に接続されてもよい。
【0050】
別の実施の形態によれば、複数の量子鍵配送装置は、格子トポロジーで配置されてもよい。
【0051】
この場合も、格子トポロジーは、隣接するノードへの接続によって定義され得るため、ネットワークトポロジーを指す場合があるが、ネットワーク内の量子鍵配送装置の地理的位置に必ずしも対応しなくてもよい。
【0052】
格子は、複数の格子ノードを含んでもよく、隣接する格子ノードは、光信号線によって互いに接続されてもよい。
【0053】
実施の形態によれば、複数の格子ノード、特に各格子ノードは、m個のマッハツェンダ干渉計のうちの複数をリングトポロジーで含んでもよく、mは、2以上の任意の正の整数、特にm=4であってもよい。
【0054】
同様に、リングトポロジーまたは格子トポロジーとは異なるトポロジーが本開示において利用されてもよい。
【0055】
実施の形態によっては、リングトポロジーおよび/または格子トポロジーは、単一のユーザクラスタのトポロジーを表してもよい。いくつかの別個のクラスタが、光ハイウェイ線によって相互接続されてもよい。
【0056】
第3の態様において、本開示は、送信器装置から複数の光入力信号を受信するステップと、受信された複数の光入力信号を、マッハツェンダ干渉計を介して出力信号経路へ、または光子検出器装置を含む検出器信号経路へ選択的に送信するステップとを含む量子鍵配送方法に関する。
【0057】
受信された複数の光入力信号を検出器信号経路へ送信する場合、本方法は、さらに、送信器装置からの複数の光入力信号を、光子検出器装置によって検出器信号経路で検出するステップと、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立するステップとを含む。
【0058】
実施の形態によれば、マッハツェンダ干渉計は、本開示の第1の態様および/または第2の態様を参照して上述した特徴の一部またはすべてを有するマッハツェンダ干渉計である。
【0059】
実施の形態において、光入力信号は、実質的に影響を受けない状態でマッハツェンダ干渉計を介して出力信号経路へ送信される。
【0060】
実施の形態によれば、光入力信号は、マッハツェンダ干渉計を介して出力信号経路へ確率pで送信されてもよく、pは、0.7以上、特に0.8以上、または0.9以上である。
【0061】
実施の形態において、受信された複数の光入力信号は、受信されたスイッチ信号に応答してマッハツェンダ干渉計を介して送信される。
【0062】
実施の形態によれば、本方法は、さらに、特に検出器信号経路の第1位相変調器装置などの第1位相変調器装置によって、検出器信号経路の光信号の位相を変調するステップ、および/または検出器信号経路の光信号の強度を変調するステップ、および/または出力信号経路に光信号を形成するステップ、および/または、出力信号経路の光信号の強度を変調するステップを含む。
【0063】
実施の形態によれば、本方法は、さらに、特に出力信号経路の第2位相変調器装置などの第2位相変調器装置によって、出力信号経路の光信号の位相を変調するステップ、および/または出力信号経路の光信号の強度を変調するステップ、および/または出力信号経路に光信号を形成するステップ、および/または、検出器信号経路の光信号の強度を変調するステップを含む。
【0064】
第2位相変調器装置は、意匠および機能において第1位相変調器装置に対応してもよい。
【0065】
実施の形態において、本方法は、さらに、制御された光子源などによって複数の光信号を出力信号経路へ発信するステップを含む。
【0066】
実施の形態によれば、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立するステップは、共有ビット列を確立するステップと、特に古典情報チャネルを介して、送信器装置と共にプライバシー増幅を行うステップとを含む。
【0067】
共有ビット列を確立するステップは、測定結果の事後選択および/または誤り訂正処理を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
本開示の技術および関連する利点は、添付の図に関連した例示的な実施の形態の詳細な説明から最良に理解される。
【
図1】
図1は、実施の形態に係る量子鍵配送装置の概略図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る量子鍵配送装置において1つの位相変調器が利用されるマッハツェンダ干渉計アーキテクチャの概略図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る量子鍵配送装置において2つの位相変調器が利用される別のマッハツェンダ干渉計アーキテクチャの概略図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る量子鍵配送の方法のフロー図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る量子鍵配送ネットワークの概略図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係るリングトポロジーの量子鍵配送ネットワークを概略的に示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る、リングトポロジーを有する量子鍵配送ネットワーク内における量子鍵配送のネットワーク動作方法を概略的に示す図である。
【
図8a】
図8aは、実施の形態に係る格子トポロジーの量子鍵配送ネットワークを概略的に示す図である。
【
図8b】
図8bは、格子トポロジーを有する量子鍵配送ネットワークにおける、実施の形態に係る格子ノードを概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、実施の形態に係るクラスタトポロジーの量子鍵配送ネットワークを概略的に示す図である。
【
図10】
図10は、実施の形態に係る複数のクラスタから構築されたグローバル量子鍵配送ネットワークを概略的に示す図である。
【
図11】
図11は、実施の形態に係る量子鍵配送ネットワークにおいて、グローバルな距離にわたって達成することができる鍵生成レートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図1は、実施の形態に係る量子鍵配送装置10の概略図である。量子鍵配送装置10は、送信器装置(図示せず)から複数の光入力信号を受信する入力信号経路12を備え、送信器装置は、光ファイバチャネルによって量子鍵配送装置10に接続されてもよい。量子鍵配送装置10は、さらに、第1端部16、例えば第1ビームスプリッタ18で入力信号経路12に接続された出力信号経路14を備える。出力信号経路14は、さらに、第1端部16と反対側の第2端部20で複数の第1光出力信号を発信してもよい。
【0070】
図1からさらに分かるように、量子鍵配送装置10は、さらに、第3端部24で入力信号経路12に接続された検出器信号経路22を備える。
図1に示す構成では、検出器信号経路22の第3端部24は、出力信号経路14の第1端部16、ひいては第1ビームスプリッタ18の位置に相当する。第1ビームスプリッタ18は、出力信号経路14の第1端部16/検出器信号経路22の第3端部24において、入力信号経路12を出力信号経路14と検出器信号経路22に分けている。
【0071】
図1に示すアーキテクチャでは、入力信号経路12は、機能的にマッハツェンダ(MZ)干渉計30と考えることができる装置の入力経路を形成し、出力信号経路14および検出器信号経路22は、マッハツェンダ干渉計30の出力経路を形成している。
【0072】
検出器信号経路22の第3端部24と反対側の第4端部28には、光子検出器装置26が位置する。光子検出器装置26は、送信器装置からの複数の光入力信号を検出し、複数の光入力信号は、量子鍵配送装置10のスイッチ設定、または特にマッハツェンダ干渉計30のスイッチ設定に応じて、入力信号経路12、第1ビームスプリッタ18、および検出器信号経路22を介して光子検出器装置26に到達し得る。
【0073】
入力信号経路12、出力信号経路14、および検出器信号経路22は、光ファイバを含んでもよいが、一般に、自由空間伝送リンクを含む、光信号を送信する任意のチャネルが、本発明において適用され得る。
【0074】
信号経路の第1端部16、第2端部20、第3端部24、および第4端部28という表示は、単に表記上区別するためだけのものであり、必ずしも順番または順位を示唆するものではない。
【0075】
図1に示すような量子鍵配送装置10は、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間にワンタイムパッドの形態などの共有量子暗号化鍵を確立する。
【0076】
有利には、第1ビームスプリッタ18によって、量子鍵配送装置10は、入力信号経路12で受信された複数の光入力信号が実質的に影響を受けない状態で出力信号経路14まで送信される送信構成と、入力信号経路12で受信された複数の光信号が検出器信号経路22に送信され、光検出器装置26で受信および測定される受信構成に切り替えられてもよい。送信構成では、量子鍵配送装置10は、入力信号に(実質的に)干渉しないバイスタンダ装置として働く。対照的に、量子鍵配送装置10の受信構成では、さらに詳細に後述するように、入力信号経路12で受信された複数の光信号は、光検出器装置26で傍受および測定され、量子鍵配送装置10が、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立することを可能にする。
【0077】
図2は、実施の形態に係る、マッハツェンダ干渉計30として実装された量子鍵配送装置10′の概略図である。
図2の量子鍵配送装置10′の機能は、
図1の量子鍵配送装置10に概ね対応し、対応する構成要素は、同じ参照番号を共有する。
【0078】
50/50ビームスプリッタであってもよい第1ビームスプリッタ18において、入力信号経路12は、出力信号経路14と検出器信号経路22に分岐している。マッハツェンダ干渉計30は、さらに、第1ビームスプリッタ18の下流に第2ビームスプリッタ32を備え、第2ビームスプリッタ32は、出力信号経路14を再び検出器信号経路22と干渉させる別の50/50ビームスプリッタであってもよい。光電子位相変調器などの第1位相変調器34は、第1ビームスプリッタ18と第2ビームスプリッタ32との間の検出器信号経路22に位置してもよい。第1位相変調器34は、スイッチ信号に応答して、検出器信号経路22の光信号の位相を変調してもよく、それによって、検出器信号経路22および/または出力信号経路14の光信号強度を変更してもよい。この機構により、第1位相変調器34は、マッハツェンダ干渉計30を送信構成と受信構成に有効に切り替え得る。
【0079】
光電子位相変調器34は、数ナノ秒(ns)のオーダ、例えば0.5nsまたは0.1nsの非常に短い切替時間を可能にするという利点を有する。これらの切替時間は、典型的には0.1ms~30msの範囲内の市販の微小電気機械スイッチ(MEMS)の切替時間、または約1msの典型的な切替時間を有する光学機械スイッチ素子の切替時間に匹敵することが好ましい。
【0080】
光電子位相変調器34を備えるマッハツェンダ干渉計30は、複数のさらなる利点を有し、それにより、量子鍵配送ネットワークでの使用に特に適している。送信モードでは、これは信号損失が比較的小さい(約10%以下)ことを特徴としており、受信モードでは、出力信号経路14をさらに下る送信を完全に遮断することができる。
【0081】
図1にさらに示すように、検出器信号経路22は、第2ビームスプリッタ32の下流に光アイソレータ素子36を含んでもよい。光アイソレータ素子36は、光ダイオードまたは(矢印で示すような)一方向素子として働いてもよく、光検出器装置26からの光信号が出力信号経路14に到達しないようにしてもよい。
【0082】
位相変調器34を1つだけ備えるマッハツェンダ干渉計30の最適なパラメータを算出する。マッハツェンダ干渉計30の受動動作モードは、位相変調器34によって与えられた位相φ、例えば、受信についてはφ=π、送信についてはφ=0に依存する。一般に、マッハツェンダ干渉計30と相互作用する光状態を二次元ベクトルとして表すことができ、入力状態は、1つのポートに真空0と、入力信号経路12に対応する別のポートに複素振幅αを有する入力信号とを有する。MZ型スイッチが入力状態(0,α)
Tに与える変換は、
【数1】
と表すことができ、ここで、
【数2】
は、第1ビームスプリッタ18および第2ビームスプリッタ32それぞれに対応する変換であり、それらのビームスプリッタは、それぞれの送信確率T
1(2)を特徴とし、
【数3】
は、損失係数γを有する位相変調器の位相シフトφに対応する変換である。振幅αを有する任意の入って来る信号については、以下の2つの条件が満たされるべきである。
【0083】
【0084】
ここで、α′およびα″は、それぞれ検出器信号経路22および出力信号経路14から出て来る光の複素振幅である。これらの式を書き換えると、
【数6】
【数7】
が得られる。したがって、
【数8】
および
【数9】
が得られる。
【0085】
パルスの送信にも、同じ構成が使用されてもよい。送信モードにおいて、入力状態を(β,0)
Tとして表すことができ、出力は、
【数10】
であり、ここで、β′は、検出器信号経路22を伝播して、光子検出器装置26に到達する任意の成分を示し、振幅β″を有するパルスは、出力信号経路14を下って行き、ひいては、信号を構成する。同じ式から、
【数11】
が得られる。したがって、0でないγによって、可能な信号強度Iが
【数12】
のように制限され、ここで、I
0は、変調された入力光の強度によって決まる。
【0086】
光ファイバ内の信号の質は、偏光および位相の変動によって低下し得る。MZスイッチの適切な動作のために、これらの変動は、連続的な信号チューニングによって補償されてもよい。入力信号は、例えば高速3パドル偏光コントローラでチューニングすることができる。そのようなチューニングは、高強度テストパルスで行われるQKDプロトコルの回線制御サブルーチン中に行うことができる。有効性を高めるために、スイッチそれ自体は、通常のシングルモードファイバの代わりに偏光保持ファイバに組み付けられてもよい。MZスイッチ自体の位相差変動は、情報送信用の動作周波数よりはるかに低い周波数で位相変調器34によって制御することができる。
【0087】
図2を参照して上述したマッハツェンダ・アーキテクチャは、第1位相変調器34によって量子鍵配送装置10、10′の動作モードを受信モードと送信モードに切り替えることを可能にし、そのため、信号を受信することが主な役割である量子鍵配送装置10、10′を動作させるのに完全に十分であり、必ずしも信号を量子鍵配送ネットワークへ送る必要はない。しかしながら、構成によっては、さらに特に光信号を量子鍵配送ネットワークへ送り、ひいては、量子鍵配送ネットワーク内で受信器・送信器複合装置として働き得るマッハツェンダ・アーキテクチャを提供することが有利な場合がある。
【0088】
量子鍵配送ネットワークは、主にまたは専ら受信器装置として動作する1以上の量子鍵配送装置と、受信器・送信器複合装置として働く1以上の量子鍵配送装置とを含んでもよい。
【0089】
構成によっては、量子鍵配送ネットワーク内の中央制御ノードまたは管理ノード(図示せず)は、量子鍵配送ネットワーク内の異なる量子鍵配送装置の機能を指定してもよい。特に、中央制御ノードまたは管理ノードは、ネットワーク内の複数の異なる量子鍵配送装置に接続されてもよく、また、複数の異なる量子鍵配送装置が選択的に受信器装置または受信器・送信器複合装置として働くように複数の異なる量子鍵配送装置の動作設定を設定してもよい。
【0090】
図3は、
図2を参照して上述した量子鍵配送装置10′に概ね対応する別の量子鍵配送装置10″の概略図であり、対応する要素は、同じ参照番号を共有する。しかしながら、量子鍵配送装置10″は、さらに、第1ビームスプリッタ18と第2ビームスプリッタ32との間の出力信号経路14に第2位相変調器38を備える。第2位相変調器38は、意匠および機能において、
図2を参照して上述した第1位相変調器34に概ね対応してもよい。第1位相変調器34および第2位相変調器38は、併用される場合、最小信号強度を制限することなく、出力信号経路14および検出器信号経路22の信号強度を任意の信号レベルに調整してもよい。
【0091】
図3にさらに示すように、量子鍵配送装置10″は、さらに、第1位相変調器34および/または第2位相変調器38に動作可能に結合されている、量子乱数生成器40などの乱数生成器を備える。
図2の構成と比較すると、
図3に示すアーキテクチャでは、光信号を生成したり、その光信号を出力信号経路14に供給したりする自由度が高いが、これは、信号損失が高まることを犠牲にして成り立ち得る。
【0092】
図1~
図3を参照して上で示した量子鍵配送装置10、10′、10″は、送信器装置(図示せず)から入力信号経路12上で受信された複数の光信号が、実質的に歪まずに出力信号経路14へ送信される送信モードと、入力信号経路12上で受信された複数の光信号が検出器信号経路22へ方向転換され、光子検出器装置26によって検出される受信モードに、高速かつ高い信頼性で選択的に切り替えることを可能にする。受信モードでは、量子鍵配送装置10、10′、10″は、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵を確立することを可能にする。このために、それぞれの量子鍵配送装置10、10′、10″は、さらに、情報整合およびプライバシー増幅を行う通信を提供するために古典情報チャネルを介して送信器装置に接続されてもよい。
【0093】
光子検出器装置26は、受信された光信号の強度測定を行ってもよいが、他の例において、ホモダイン検波または位相暗号化が同様に利用されてもよい。一般に、本開示において、任意の量子鍵配送プロトコルを利用して、送信器装置とそれぞれの量子鍵配送装置10、10′、10″との間に暗号化鍵を確立することができる。特に、プロトコルは、非特許文献1に記載されているような伝送線に沿った物理的な損失制御を考慮してもよく、これにより、何千キロメートルという範囲の非常に大きい距離であっても特に高い鍵生成レートが有利にもたらされ得る。
【0094】
図4は、実施の形態に係る量子鍵配送方法を示すフロー図である。
【0095】
第1ステップS10では、複数の光入力信号が送信器装置から受信される。
【0096】
第2ステップS12では、受信された複数の光入力信号は、マッハツェンダ干渉計を介して送信され、出力信号経路、または光子検出器装置を含む検出器信号経路のどちらかへ選択的に送られる。
【0097】
受信された複数の光入力信号が検出器信号経路へ送信される場合、送信器装置からの複数の光入力信号は、第3ステップS14において、光子検出器装置によって検出器信号経路で検出される。
【0098】
第4ステップS16では、検出された複数の光入力信号に基づいて、送信器装置との間に共有量子暗号化鍵が確立される。
【0099】
本開示の技術について、単一の量子鍵配送装置10、10′、10″に関する
図1~
図4を参照して上述してきた。しかしながら、本開示の技術における特有の利点は、個々のビルディングブロックからより大きい量子鍵配送ネットワークを構築するために当該技術を有利に利用し得、それにより、any-to-any通信によって、量子鍵配送ネットワーク内の任意の2つの当該ビルディングブロック間に共有暗号化鍵を確立でき得ることである。
【0100】
図5は、本開示の技術が利用され得る量子鍵配送ネットワーク42の概略図である。
【0101】
図5の量子鍵配送ネットワーク42は、複数の量子鍵配送装置10a、10b、10cを含み、量子鍵配送装置10a、10b、10cの各々は、
図1~
図4を参照して上述した構成のうちの1つに対応してもよい。したがって、対応する参照番号は、対応する要素を示すために用いられている。特に、参照番号12a、12b、12cは、それぞれの入力信号経路を示し、参照番号14a、14b、14cは、量子鍵配送装置10a、10b、10cのそれぞれの出力信号経路を示す。
【0102】
図5から分かるように、量子鍵配送ネットワーク42内において、第1量子鍵配送装置10aの出力信号経路14aは、第2量子鍵配送装置10bの入力信号経路12bに接続されるか、またはそれと一致する。同様に、第2量子鍵配送装置10bの出力信号経路14bは、第3量子鍵配送装置10cの入力信号経路12cに接続されるか、またはそれと一致する。
【0103】
例えば、
図5に示す量子鍵配送ネットワーク42の動作モードにおいて、第1量子鍵配送装置10aは、送信器装置として働いてもよく、光信号を出力信号経路14aへ発信してもよい。第2量子鍵配送装置10bとの間にセキュアな暗号化鍵が確立される場合、第2量子鍵配送装置10bは、
図1~
図4を参照して上述したように、第2量子鍵配送装置10bの位相変調器の対応する設定をトリガするスイッチ信号などによって、受信モードで動作するように指示されてもよい。第2量子鍵配送装置10bは、スイッチ信号を、第2量子鍵配送装置10bのユーザ、または量子鍵配送ネットワーク42内の中央制御ノードもしくは管理ノード(図示せず)から受信してもよい。
【0104】
第2量子鍵配送装置10bの受信モードでは、入力信号経路12b上で受信されたすべての光信号が第2量子鍵配送装置10bの検出器信号経路に到達し、そのため、第3量子鍵配送装置10cは、確立された鍵に関して何も学習しない。
【0105】
あるいは、セキュアな暗号化鍵が第1量子鍵配送装置10aと第3量子鍵配送装置10cとの間に確立される場合、第2量子鍵配送装置10bは、位相変調器34の動作位相を変更することなどにより送信モードで動作するようスイッチ信号によってトリガされてもよい。この構成では、第2量子鍵配送装置10bは、第1量子鍵配送装置10aから受信された光信号を、第2入力信号経路12bにおいて、受信モードで動作する第3量子鍵配送装置10cに向かって(実質的に)歪まずに第2出力信号経路14bへ送信してもよい。この構成では、第2量子鍵配送装置10bは、中間ノードまたは無害なバイスタンダとして働き、第1量子鍵配送装置10aと第3量子鍵配送装置10cとの間に確立された暗号化鍵に関して何も学習しない。万一、第2量子鍵配送装置10bが通信を盗聴する場合、量子鍵配送プロトコルによって、これを第1量子鍵配送装置10aおよび第3量子鍵配送装置10cにおいて検出することができるであろう。
【0106】
図5は、3つの量子鍵配送装置10a、10b、10cが直列に接続された構成を示すが、これは、説明を簡単にするためだけのものであり、一般に、量子鍵配送ネットワークは、任意の整数個の量子鍵配送装置を利用してもよく、それらの量子鍵配送装置は、異なるトポロジーで接続されてもよい。実施の形態によっては、ネットワーク内の量子鍵配送装置を接続する信号線には、伝送距離を延ばし、かつ/または量子鍵生成レートを高めるために、量子中継器として働く光増幅器のカスケードが装備されてもよい。さらに、ネットワーク内の量子鍵配送装置はすべて、プライバシー増幅および情報整合を容易にするなどのために、古典認証ネットワークによって接続されてもよい。
【0107】
量子鍵配送ネットワーク内に順次配置することができるMZ型スイッチを有するユーザの数(N)を推定する。第1ユーザおよび最後のユーザは、依然として通信することができる。非特許文献1の分析では、ユーザが2人だけの場合、QKDプロトコルが伝送距離D=40,000kmで動作できることが示されている。しかしながら、さらにユーザをネットワークに加えると、それらのスイッチによる損失のために信号が減衰する。したがって、最大伝送距離が低下する。可能なユーザ数を推定するために、2人の隣人間の距離は、a=1kmと考える。1つのスイッチの送信確率がT
s=0.8である場合(
図2の構成など、1つの位相変調器を有するMZスイッチの場合に現実的)、事実上、隣人間の距離は
【数13】
であり、ここで、
【数14】
は、ファイバ内の自然散乱損失を表す係数である(距離xと共に減少する信号強度は、
【数15】
である)。Nを推定するために、総有効回線長は、最大伝送距離Dと等しいとみなす。
【0108】
【0109】
この数を代入すると、N≒10,000となることが分かる。
図5の線形のものよりも高性能のネットワーク構造を用いると、この数はさらに増加し得る。
【0110】
図6は、機能および意匠において、
図5を参照して上述した量子鍵配送ネットワーク42に概ね対応する量子鍵配送ネットワーク42′を概略的に示し、対応する構成要素は、同じ参照番号を共有する。しかしながら、
図6の構成では、量子鍵配送装置10a、10b、10cは、リングトポロジーで配置され、そのため、最後の(この場合、第3)量子鍵配送装置10cの出力信号経路14cは、第1量子鍵配送装置10aの入力信号経路12aに一致するか、またはそれに接続される。
図6にさらに示すように、光スイッチ44によって異なるリングが相互接続されてもよい。これにより、量子鍵配送ネットワーク42′の範囲をさらに拡大することができる。
【0111】
図1~
図5を参照して上述した技術に基づいて、送信ノードと受信ノードとの間のリングセクタの長さが、QKDプロトコルの伝送距離の制限を超えない限り、量子鍵配送ネットワーク42′内の任意の2つの量子鍵配送装置間で量子暗号化鍵が交換され得る。(ある程度まで避けられない)強度損失は、量子中継器として働く光増幅器(図示せず)のカスケードで補償されてもよい。リング構造は、構成が比較的単純であるが、そのようなクラスタ内の平均通信は、多数のユーザを含み、比較的大きい伝送距離を特徴とする。これにより、通信回線による予期せぬ損失のリスクが高まる可能性がある。
【0112】
量子鍵配送ネットワーク42、42′内における異なるペアの量子鍵配送装置間の量子鍵配送には、中央制御ノードまたは管理ノードの形態などの何らかの論理的組織が必要な場合がある。しかしながら、そのプロトコル内では、量子鍵生成を完全に分散化させることができる。意図した送信器および受信器が自力で送信を制御できることから、それらは量子鍵生成に第三者のいずれの助けも必要とせず、これは、信頼できる仲介者に依存する量子鍵配送ネットワークに対する利点である。
【0113】
ここで
図7の量子鍵配送ネットワーク42′を参照してより詳細に説明するように、可能な動作プロトコルは、先入れ先出し(FIFO)方式に基づいてもよく、
図7は、6つの量子鍵配送装置10a~10fを有する別のリングトポロジーを示す。量子暗号化鍵は、(
図7において矢印で示すように)一方では量子鍵配送装置10aと10cとの間に、他方では量子鍵配送装置10dと10eとの間に確立されると仮定する。それぞれの通信経路は重ならず、そのため、量子鍵生成は、干渉することなく同時並行で進み得る。しかしながら、量子暗号化鍵が、一方では量子鍵配送装置10aと10cとの間に、他方では量子鍵配送装置10fと10bとの間に確立される場合、それぞれの信号経路は重なり、妨害を避けるために時間多重化技術が利用されてもよい。
【0114】
図8aは、二次元格子トポロジーを有する量子鍵配送ネットワーク42″を示し、格子ノード46a~46pの各々は、
図1~
図7を参照して上述した量子鍵配送装置10、10′、10″のうちのいずれかなどの少なくとも1つの量子鍵配送装置を含んでもよい。
図8aは、16個の格子ノード46a~46pを有する格子を示すが、一般には、量子鍵配送ネットワーク42″は、任意の数の格子ノードを含んでもよい。
【0115】
図6および
図7のリングトポロジーと比較して、二次元格子トポロジーを有する量子鍵配送ネットワーク42″は、任意の2つの量子鍵配送装置間の信号リンクがより多いことを特徴とし、さらに、異なる量子鍵配送装置間の代替経路を確立することを可能にし得る。これにより、平均伝送距離が小さくなり、同時に量子鍵配送ネットワーク42″の信頼性および回復力が高まる。この場合も、格子ノード46a~46pのうちのいずれかの間の信号経路が重なっている場合には、時間多重化技術が利用されてもよい。
【0116】
図8bは、
図8aを参照して上述してきた量子鍵配送ネットワーク42″の格子ノード46gなどの、格子トポロジーを有する量子鍵配送ネットワークの格子ノードの概略図である。
【0117】
図8bに示す例では、格子ノード46gは、リングトポロジーで配置された4つの量子鍵配送装置10a~10dを含み、量子鍵配送装置10a~10dのうちのいずれかが、
図1~
図5を参照して上述した量子鍵配送装置10、10′、10″のうちの1つに対応し得る。この構成では、高い自由度および冗長性を実現することができ、量子鍵配送用の光信号は、隣接するノードのうちのいずれとも、場合によってはいずれの方向にも、交換され得る。
【0118】
鍵生成の地理的範囲をさらに拡大するために、いくつかの量子鍵配送ネットワークを組み合わせて、より大きいクラスタネットワークにしてもよい。
図9は、複数のクラスタ50a~50fを有するクラスタネットワーク48を示し、クラスタ50a~50fの各々は、
図6~
図8bを参照して上述した量子鍵配送ネットワーク42、42′、42″のうちの1以上を含んでもよい。異なるクラスタ50a~50fは、光ハイウェイ線52a~52hによって接続されてもよく、光ハイウェイ線52a~52hは、ノードを含まないか、または数個しか含まない光ファイバリンクであってもよく、依然として高い信号レートを提供しつつ、最大5,000km以上の距離に及んでもよい。場合によっては、クラスタ50a~50fのほぼ任意の2つが直接接続されてもよく、その場合、光ハイウェイ線52a~52hの数は、クラスタ50a~50fの数に対して二次関数的に増加する。
【0119】
図10に概略的に示すように、これらの技術を利用して、地球全体に及ぶ量子鍵配送ネットワーク54を構築してもよい。
【0120】
本開示に係る量子鍵配送ネットワーク内で得られ得る量子鍵レートは、非特許文献1の技術を利用することによって推定されてもよい。
図11は、信号経路における量子中継器間の距離dの異なる値(下から上へd=50km、d=40km、d=20km、d=10km)について、40,000kmのグローバル通信距離にわたる鍵生成レートL
f/Lを、伝送経路に沿った信号漏洩r
Eの関数として示す。特に、設置される増幅器が多いほど、得られ得る鍵生成レートは高い。
図11は、10
-5以上の実際に関連する範囲における漏洩値r
Eに対して、依然として高い量子鍵生成レートを実現できることを示す。
【0121】
特定の実施の形態の説明および図面は、単に本開示の技術を説明するためだけものであり、いかなる限定も意味しないことが理解されるべきである。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲から決定される。
【外国語明細書】