(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147399
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】トルクリミッター
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
F16D7/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060373
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000110206
【氏名又は名称】株式会社TOK
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】秋場 潤一郎
(57)【要約】
【課題】半硬質磁性体と永久磁石との相対回転時に、半硬質磁性体から発生する熱を効率的に逃がして、高温化するのを防止できるトルクリミッターを提供する。
【解決手段】規制凸部11Bを有する外側回転体11と、外側回転体11の内周面に回転不能に配設される半硬質磁性体13と、第1の軸受部材12Aと、内側回転体15と、永久磁石14と、内側回転体15の外周面に配設される規制部材16と、内側回転体15の他端側を回転可能に保持して、外側回転体11の内周面に配設されるリング状をした第2の軸受部材12Bと、を有する構成とした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に規制凸部を有する外側回転体と、
一端縁側に第1の規制溝を有するとともに他端縁側に第2の規制溝を有し、前記第1の規制溝を前記規制凸部に係合させて、前記外側回転体の内周側に前記外側回転体に対して相対的に回転不能に配設された略円筒状の半硬質磁性体と、
外周面に前記規制凸部に係合する第1の凹部を有して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状に形成された第1の軸受部材と、
外周面の全周に亘って形成された凹溝を有し、前記第1の軸受部材の内周孔に一端側を回転可能に配設して前記半硬質磁性体内に挿通された内側回転体と、
端縁に第2の凹部を有して、前記半硬質磁性体と前記内側回転体との間に設けられた前記略円筒状の永久磁石と、
前記凹溝に係合して固定される腕部と前記第2の凹部に係合する凸部とを有して、前記内側回転体の外周面に配設されて前記内側回転体に対する前記永久磁石の相対的な回転を規制する規制部材と、
前記内側回転体の他端側を回転可能に保持して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状に形成された第2の軸受部材と、
を有する、ことを特徴とするトルクリミッター。
【請求項2】
前記第1の軸受部材と前記永久磁石との間にリング状に形成されたスラスト規制板を設けている、ことを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッター。
【請求項3】
前記半硬質磁性体に、前記内側回転体の回転方向に円弧状に湾曲しているスリットを設けている、ことを特徴とする請求項1又は2記載のトルクリミッター。
【請求項4】
前記第2の軸受部材の外周面に断面凸状に形成された加締め結合用の結合部を設けている、ことを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッター。
【請求項5】
前記第2の軸受部材の外周面に、前記外側回転体の内周面と前記半硬質磁性体の前記第2の規制溝と共に排熱口を形成する凹部を設けた、ことを特徴とする請求項4に記載のトルクリミッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトルクリミッターに関するものであり、特に、永久磁石を内蔵したマグネット式のトルクリミッターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を内蔵したマグネット式のトルクリミッターは、従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に開示されるトルクリミッターは、概略、次のように構成されている。なお、以下()を付けて説明する符号は、特許文献1の図面に示す部材の符号に対応している。すなわち、特許文献1に示すトルクリミッター(1)は、内周面に半硬質磁性体(13)を備えた外側回転体(10)と、外周面にリング状の第1の溝(55)を有して外側回転体(10)に組み込まれる内側回転体(11)と、端縁に凹部(70)を有して内側回転体(11)の外周面に設けられる永久磁石(12)と、第1の溝(55)内に係合して固定される腕部(61)と凹部(70)に係合する凸部(62)とを備えた規制部材(14)と、Oリング(15)と、キャップ(16)等により構成されている。
【0004】
トルクリミッター(1)の動作は、内側回転体(11)に加えられる回転力が一定値以下の場合は、永久磁石(12)と半硬質磁性体(13)と間の磁力により、外側回転体(10)は内側回転体(11)に連動して回転する。一方、内側回転体(11)に加えられる回転力が一定値を超えると、永久磁石(12)と半硬質磁性体(13)とが磁力に打ち勝って相対回転し、過大な負荷が外側回転体(10)または内側回転体(11)に作用しない。
【0005】
ところで、従来のトルクリミッター(1)は、外側回転体(10)と内側回転体(11)とキャップ(16)を、ポリアセタール樹脂で形成していた。この種のトルクリミッター(1)は、回転数が500min-1(rpm)以下の条件では特に問題となることなく、使用可能である。
【0006】
しかし、回転数が1000min-1(rpm)を越えた状態で連続動作をさせると、動作直後に、外側回転体(10)と内側回転体(11)とキャップ(16)が熱で溶けてしまう問題が発生する恐れがあった。これは、外側回転体(10)の内周面に嵌合締結して設けた半硬質磁性体(13)と永久磁石(12)が相対回転すると、ヒステリシス損によって半硬質磁性体(13)が発熱し、約180℃以上の高温になることが原因と思われる。
【0007】
また、半硬質磁性体(13)が発熱すると、その熱の影響で外側回転体(10)が大きく膨張し、外側回転体(10)の内周面に嵌合締結して設けた、半硬質磁性体(13)と外側回転体(10)との間の嵌合締結が弛んでしまう不都合も発生していた。半硬質磁性体(13)と外側回転体(10)との嵌合締結が緩むと、外側回転体(10)と半硬質磁性体(13)とが一体回転できなくなり、トルクリミッター(1)が動作不能になる恐れもあった。
【0008】
また、従来のトルクリミッター(1)は、外側回転体(10)と内側回転体(11)とキャップ(16)をポリアセタール樹脂で形成し、さらに外側回転体(10)とキャップ(16)を、凹凸のスナップフィット方式で嵌合締結していた。この構造では、半硬質磁性体(13)の発熱の影響で、外側回転体(10)とキャップ(16)が大きく膨張して塑性変形すると、外側回転体(10)とキャップ(16)との間の嵌合締結が外れて分解する問題が発生する恐れもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、特許文献1に記載の発明に係るトルクリミッターは、規定値を超えるトルクを加えると、半硬質磁性体と永久磁石が相対回転する。その際に、設定値以上の高速、例えば1000min-1(rpm)を超える速さで半硬質磁性体と永久磁石との間を相対回転させると、半硬質磁性体が発熱して高温となり、この熱で構成部品が膨張したり、溶けたりし、破損に至ることがあるという問題点があった。
【0011】
そこで、半硬質磁性体と永久磁石との相対回転時に、半硬質磁性体と永久磁石との間に発生する熱を効率的に逃がして高温化するのを防止するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、内周面に規制凸部を有する外側回転体と、一端縁側に第1の規制溝を有するとともに他端縁側に第2の規制溝を有し、前記第1の規制溝を前記規制凸部に係合させて、前記外側回転体の内周側に前記外側回転体に対して相対的に回転不能に配設された略円筒状の半硬質磁性体と、外周面に前記規制凸部に係合する第1の凹部を有して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状をした第1の軸受部材と、外周面の全周に亘って形成された凹溝を有し、前記第1の軸受部材の内周孔に一端側を回転可能に配設して前記半硬質磁性体内に挿通された内側回転体と、端縁に第2の凹部を有して、前記半硬質磁性体と前記内側回転体との間に設けられた前記略円筒状の永久磁石と、前記凹溝に係合して固定される腕部と前記第2の凹部に係合する凸部とを有して、前記内側回転体の外周面に配設されて前記内側回転体に対する前記永久磁石の相対的な回転を規制する規制部材と、前記内側回転体の他端側を回転可能に保持して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状に形成された第2の軸受部材と、を有するトルクリミッターを提供する。
【0013】
この構成によれば、第1の軸受部材と半硬質磁性体と第2の軸受部材と外側回転体が一体に回転するとともに、永久磁石と内側回転体が一体に回転するようにして、外側回転体側と内側回転体側とが相対回転する。そして、相対回転する際、第1の凹部を有する第1の軸受部材と第2の凹部を有する第2の軸受部材が放熱部材として機能し、半硬質磁性体から発生する熱を、第1の軸受部材と第2の軸受部材と外側回転体を通して外部に効率良く放出することができる。これにより、トルクリミッター内部の温度上昇を抑えて、熱による破損をなくすことができる。
また、外側回転体の規制凸部を、半硬質磁性体の第1の規制溝と第1の軸受部材の第1凹部に各々係合させて、外側回転体と半硬質磁性体と第1の軸受部材を一体化しているので、外側回転体が熱膨張して、例え外側回転体と半硬質磁性体との間における締結が緩んだとしても、外側回転体と半硬質磁性体との間が空回りしてトルクリミッターの機能に影響を及ぼすこともない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記第1の軸受部材と前記永久磁石との間にリング状に形成されたスラスト規制板を設けている、トルクリミッターを提供する。
【0015】
この構成によれば、相対回転時におけるスラスト方向のガタツキをスラスト規制板により簡単に解消することが可能になる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記半硬質磁性体に、前記内側回転体の回転方向に円弧状に湾曲しているスリットを設けている、トルクリミッターを提供する。
【0017】
この構成によれば、永久磁石の外周面に、軸方向に沿うN極、S極が交互に周方向設けられていても、スリットは、内側回転体の回転方向に円弧状に湾曲しているので、そのスリットの繋ぎ目では、必ずN極とS極が同時に対向するので、スリットの繋ぎ目での極結合が途切れることがない。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1、2又は3の構成において、前記第2の軸受部材の外周面に断面凸状に形成された加締め結合用の結合部を設けている、トルクリミッターを提供する。
【0019】
この構成によれば、外側回転体の内周面に配設した第2の軸受部材の結合部と外側回転体の他端との間を、加締め結合することにより、外側回転体と第2の軸受部材との間を強固に一体化することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記第2の軸受部材の外周面に、前記外側回転体の内周面と前記半硬質磁性体の前記第2の規制溝と共に排熱口を形成する凹部を設けた、トルクリミッターを提供する。
【0021】
この構成によれば、第2の軸受部材の凹部と外側回転体の内周面及び半硬質磁性体の前記第2の規制溝で形成された排熱口を通して、トルクリミッターの内部の熱を、速やかに外部に放出できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、半硬質磁性体から発生する熱を、第1の軸受部材と第2の軸受部材と外側回転体を通して外部に効率良く放出することができるので、トルクリミッター内部における温度上昇を抑えることができる。これにより、熱によるトルクリミッターの破損をなくすことができる。
また、外側回転体の規制凸部を、半硬質磁性体の第1の規制溝と第1の軸受部材の第1凹部に各々係合させて、外側回転体と半硬質磁性体と第1の軸受部材を一体化しているので、外側回転体が熱膨張して、例え外側回転体と半硬質磁性体との間における締結が緩んだとしても、外側回転体と半硬質磁性体との間が空回りしてトルクリミッターの機能に影響を及ぼすこともなくなり、発熱による動作不良を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る一実施例として示すトルクリミッターの外観図で、(a)は側面図、(b)は(a)の矢印B方向(後側)から見た正面図、(c)は(a)の矢印F方向(前側)から見た背面図である。
【
図2】
図1におけるトルクリミッターの加締め前の状態を前側から見た図で、(a)は外観斜視図、(b)は
図2(a)のA-A線縦断側面図である。
【
図3】
図1におけるトルクリミッターの分解斜視図である。
【
図4】
図1におけるトルクリミッターの断面図で、(a)はC-C断面図、(b)はD-D断面図である。
【
図5】
図1におけるトルクリミッターの外側回転体を示し、(a)は背面側(後側)から見た外観斜視図、(b)は正面側(前側)から見た外観斜視図、(c)は背面図、(d)は正面図、(e)は(c)のE-E断面図、(f)は(c)のF-F断面図である。
【
図6】
図1におけるトルクリミッターの第1の軸受部材と第2の軸受部材を示し、(a)はその外観斜視図、(b)は(a)のG-G断面図、(c)は軸受部材の部分拡大断面斜視図である。
【
図7】
図1におけるトルクリミッターの半硬質磁性体を示し、(a)は外観斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【
図8】
図1におけるトルクリミッターの内側回転体ユニットを、永久磁石を取り外した状態で示し、(a)はその外観斜視図、(b)は(a)のH-H断面図、(c)は(a)の分解斜視図である。
【
図9】
図1におけるトルクリミッターの永久磁石の外観斜視図である。
【
図10】
図1におけるトルクリミッターの外側回転体と第2の軸受部材を一体化する加締め加工を説明するもので、(a)は加締め加工前の状態図、(b)は加締め加工された状態図、(c)は加締め加工部分(符号K)における拡大断面図である。
【
図11】トルクリミッターを連続回転させたときの表面温度の推移を数値で示した図である。
【
図12】トルクリミッターを連続回転させたときの表面温度の推移をグラフで示した図である。
【
図13】トルクリミッターを連続回転させたときのトルク値の変動を数値で示し図である。
【
図14】トルクリミッターを連続回転させたときのトルク値の変動をグラフで示し図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、半硬質磁性体と永久磁石との相対回転時に、半硬質磁性体から発生する熱を効率的に逃がして、高温化するのを防止するという目的を達成するために、内周面に規制凸部を有する外側回転体と、一端縁側に第1の規制溝を有するとともに他端縁側に第2の規制溝を有し、前記第1の規制溝を前記規制凸部に係合させて、前記外側回転体の内周側に前記外側回転体に対して相対的に回転不能に配設された略円筒状の半硬質磁性体と、外周面に前記規制凸部に係合する第1の凹部を有して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状をした第1の軸受部材と、外周面の全周に亘って形成された凹溝を有し、前記第1の軸受部材の内周孔に一端側を回転可能に配設して前記半硬質磁性体内に挿通された内側回転体と、端縁に第2の凹部を有して、前記半硬質磁性体と前記内側回転体との間に設けられた略円筒状の永久磁石と、前記凹溝に係合して固定される腕部と前記第2の凹部に係合する凸部とを有して、前記内側回転体の外周面に配設されて前記内側回転体に対する前記永久磁石の相対的な回転を規制する規制部材と、前記内側回転体の他端側を回転可能に保持して、前記外側回転体の内周面に配設されるリング状に形成された第2の軸受部材と、を有する、構成としたことにより実現した。
【実施例0025】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0026】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0027】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0028】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明のトルクリミッターの各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0029】
図1~
図4は本発明に係るトルクリミッター10を示すもので、
図1はその外観図であり、
図1の(a)は側面図、(b)は(a)の矢印B方向(後側)から見た正面図、(c)は(a)の矢印F方向(前側)から見た背面図、
図2は
図1におけるトルクリミッターを前側から見た図で、(a)は外観斜視図、(b)は
図2(a)のA-A断側面図、
図3は
図1におけるトルクリミッター10の分解斜視図、
図4は
図1におけるトルクリミッターの断面図で、(a)はC-C断面図、(b)はD-D断面図である。以下の説明において、
図1の左右方向右側をトルクリミッター10の前後方向前側、左側を後側として説明する。
【0030】
図1~
図4において、トルクリミッター10は、例えば過負荷防止用に使われ、外側回転体11と第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bと半硬質磁性体13とを備える外側回転体ユニット10Aと、永久磁石14と内側回転体15と1対の規制部材16とOリング17とを備える内側回転体ユニット10Bとよりなる。また、外側回転体ユニット10Aの第1の軸受部材12Aにおける一側面と内側回転体ユニット10Bの永久磁石14の一端面との間にスラスト規制板18を設けている。
【0031】
また、ここでの過負荷防止用に用いられるトルクリミッター10は、外側回転体ユニット10A側に図示しない従動用回転部材が連結され、内側回転体ユニット10B側に同じく図示しない駆動用回転部材を連結して使用される。なお、使用方法よっては、従動用回転部材と駆動用回転部材とが逆になる場合もある。
【0032】
そして、トルクリミッター10の概略機構の動作を説明すると、駆動用回転部材と一体に回転する内側回転体ユニット10Bに加えられる回転力が一定値以下の場合は、永久磁石14と半硬質磁性体13との間の磁力により、外側回転体ユニット10Aが内側回転体ユニット10Bに連動して回転し、駆動用回転部材の回転を従動用回転部材に伝達する。一方、駆動用回転部材側から内側回転体ユニット10Bに加えられる回転力が一定値を超えると、永久磁石14と半硬質磁性体13とが磁力に打ち勝ち、外側回転体ユニット10Aと内側回転体ユニット10Bとが相対回転して、過大な負荷が駆動用回転部材または従動用回転部材に作用しないように機能する。
【0033】
次に、トルクリミッター10の細部構成を、
図1~
図4の他に、必要な図面を適宜加えて説明する。
【0034】
まず、外側回転体ユニット10Aの細部構成を説明する。
図5に示すように、外側回転体11は、非磁性体の材質(本実施例では、アルミニウム合金)で円筒状に形成されている。なお、
図5はトルクリミッター10の外側回転体11を示しており、(a)は背面側(後側)から見た外観斜視図、(b)は正面側(前側)から見た外観斜視図、(c)は背面図、(d)は正面図、(e)は(c)のE-E断面図、(f)は(c)のF-F断面図である。外側回転体11は、一端側にリング状をした端壁11aを設け、他端側(開口端縁11b側)は開口させている。外側回転体11は、トルクリミッター10のハウジングとしても機能する。外側回転体11における端壁11aの外面には、本発明外の例えば従動用回転部材等に係止される係止部11Aが、それぞれ上下対称な位置に1対設けられている。一方、端壁11aの内面側における外側回転体11の内周面には、第1の軸受部材12A及び半硬質磁性体13の周方向の回転を規制するための規制凸部11Bが、それぞれ左右対称な位置に設けられている。
【0035】
第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bは、本実施例では同一部材として形成されている。なお、第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bは、必ずしも同一部材でなくてもよいが、同一部材にすると部品管理等がし易くし、またコストダウンが図れる。
【0036】
図6に示すように、第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bは、リング状の部材で、例えば焼結金属(本実施例ではオイルを含浸させた銅系焼結金属)で形成されている。なお、
図6は、トルクリミッター10の第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bを示しており、(a)はその外観斜視図、(b)は(a)のG-G断面図、(c)は第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bの部分拡大斜視図である。第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bの外径は外側回転体11の内径と略等しく、内周は内側回転体15の外径と略等しく、内側回転体15を回転保持可能に形成されている。また、第1の軸受部材12Aの外周面と第2の軸受部材12Bの外周面の各中央部分には、前後の周縁角部12bを各々湾曲に形成された断面凸状の結合部12aが、略全周に亘って設けられている。また、第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bの外周面には、結合部12aの外周面から一部を切欠して作られた1対の凹部12Cが、それぞれ180度変位した位置に設けられている。なお、以下の説明において、凹部12Cは、第1の軸受部材12Aに設けられている凹部12Cと第2の軸受部材12Bに設けられている凹部12Cとを区別して説明する必要がある場合は、第1の軸受部材12Aに設けられている凹部12Cを第1の凹部12ca、第2の軸受部材12Bに設けられている凹部12Cを第2の凹部12cbと、それぞれ区別をして呼ぶ。なお、第1の軸受部材12Aの第1の凹部12caは、外側回転体11の規制凸部11Bと凹凸係合し、第1の軸受部材12Aと外側回転体11の当接面積(伝熱面積)を広げている。一方、第2の軸受部材12Bは、半硬質磁性体13と永久磁石14に当接させている。
【0037】
図7は、トルクリミッター10の半硬質磁性体13を示しており、(a)は外観斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図である。半硬質磁性体13は、鉄・クロム・コバルト系の塑性加工磁石が用いられており、帯状の板材を円筒形に加工してなる。半硬質磁性体13を構成している板材の両端側の繋ぎ目の部分は、
図7の(a)及び(c)に示すように、内側回転体ユニット10Bの回転方向に向かって、一端側が凸の円弧状に湾曲切断されているとともに、他端側が一端側とは逆に凹の円弧状に湾曲切断されている。そして、
図7の(a)、(c)に示すように、その両端同士を、繋ぎ目部分が完全に繋がることなく僅かに離して突き合わし、その両端との間に内側回転体ユニット10Bの回転方向に向かって円弧状に湾曲しているスリット19を設けた状態になっている。この繋ぎ目の部分に設けたスリット19は、半硬質磁性体13が熱で膨張または収縮した際、その膨張または収縮による変形を吸収し、半硬質磁性体13の外周面が外側回転体11の内周面と常に密着できるように機能する。また、半硬質磁性体13は、一端側と他端側との間にスリット19を設けているので縮径が容易で、そのため、半硬質磁性体13の外側回転体11への挿入も容易になる。加えて、半硬質磁性体13と外側回転体11の嵌合シロを大きく設定できるため、半硬質磁性体13と外側回転体11の嵌合を強固にすることを可能にしている。さらに、
図7の(c)に示すように、スリット19の回転方向の湾曲幅W1は、後述する永久磁石14の外周に設けているN極、S極の各磁極幅W2よりも大きく(W1>W2)形成されている。これは、半硬質磁性体13のスリット19の箇所を永久磁石14のN極又はS極が順次通過して行くとき、スリット19と隣接する繋がり部分の各端では、必ずN極、S極の両方の極が対向するようにして、スリット19による繋がり部分で、各極が途切れないようにしている。
【0038】
また、半硬質磁性体13の軸方向両端において、一端側には外側回転体11の規制凸部11Bと係合する第1の規制溝13Aが、1対の規制凸部11Bに各々対応して1対設けられている。第1の規制溝13Aの円周方向の幅は規制凸部11Bと噛み合い係合可能に、規制凸部11Bの周方向幅と略等しいか、若しくは僅かに大きく形成されている。第1の規制溝13Aは、外側回転体11の規制凸部11Bと凹凸係合し、半硬質磁性体13と外側回転体11の当接面積(伝熱面積)を広げている。そして、第1の規制溝13Aと規制凸部11Bとの係合により、外側回転体11の回転時に半硬質磁性体13も一体に回転できるようになっている。なお、1対の第1の規制溝13Aと1対の第2の規制溝13Bは、
図7の(b)及び(c)に示すように軸方向において互いに対向した位置に設けられており、スリット19は、
図7の(b)に示すように1対の第1の規制溝13Aと1対の第2の規制溝13Bに対してそれぞれ周方向において略90度変位した位置に設けている。
【0039】
次に、内側回転体ユニット10Bの細部構成を説明する。
図8は、トルクリミッター10の内側回転体ユニット10Bを、永久磁石14を取り外した状態で示しており、(a)はその外観斜視図、(b)は(a)のH-H断面図、(c)は(a)の分解斜視図である。
図8に示すように、内側回転体15は、樹脂材(本実施例では、ポリエーテルイミド)で円筒状に形成されている。内側回転体15の他端側には、図示しない駆動用回転部材側のピンが係合されて駆動用回転部材と内側回転体15との一体回転を可能にする係止部15Aが上下対称な位置に1対設けられている。また、内側回転体15の外周径は、第1の軸受部材12A及び第2の軸受部材12Bの内周径に等しく、第1の軸受部材12Aで内側回転体15の後端側を、第2の軸受部材12Bで内側回転体15の前端側(係止部15Aを設けている側)を回転保持可能になっている。
【0040】
また、内側回転体15の外周には、規制部材16が嵌め込まれるリング状の第1の溝15Bと、Oリング17が組み付けられるリング状の第2の溝15Cが、それぞれ内側回転体15の外周に沿って設けられている。また、第1の溝15B内には、後述する規制部材16の1対の爪部16Cが掛着される1対の掛着部15Dが上下対称位置に1対設けられている。なお、本実施例での掛着部15Dは、第1の溝15Bの底面から内側回転体15の内周面まで貫通している、横断面が矩形状をした穴である。そして規制部材16の爪部16Cは、この穴の縁に掛け止めされるものである。したがって、本実施例での掛着部15Dは、穴の内面である。この穴は、内側回転体15の内周面まで貫通していない凹部であってもよい。
【0041】
規制部材16は、フォーミング加工によってバネ性を有する金属製長方形材料を長さ方向に曲げて形成されている。
図8に示すように、規制部材16は、中央部分に設けられ永久磁石14の凹部14Aに係合する凸部16Aと、この凸部16Aの両側に伸び内側回転体15の外周上の第1の溝15Bに沿って内側回転体15に密着する一対の円弧状の腕部16Bと、この腕部16Bの端部において内側に突出するように曲げられてなる一対の爪部16Cとからなる。この爪部16Cが掛着部15Dに嵌め込まれることによって、規制部材16が内側回転体15に固定される。凸部16Aは、規制部材16の中心付近において、規制部材16が折り曲げられることにより内側回転体15の直径方向外側に突出した形状をしている。規制部材16は板バネとしての性質も有するから、規制部材16が内側回転体15に組み付けられる際、爪部16Cが内側回転体15の第1の溝15Bに当接されつつ滑る。この際、規制部材16は広がるように弾性変形し、爪部16Cが掛着部15Dに入り込んで掛着すると元の形状に復元する。つまり、規制部材16はワンタッチで内側回転体15に組み込まれる。
【0042】
図9には、トルクリミッター10における永久磁石14の外観を示している。
図9に示す永久磁石14は、円筒形の希土類ボンド磁石が用いられ、錆止めのためのエポキシ電着塗装で表面処理されている。永久磁石14は、一端面側に1対の規制部材16の凸部16Aと係合する1対の凹部14Aが設けられている。そして、凸部16Aと凹部14Aの係合によって、永久磁石14が規制部材16に、すなわち内側回転体15に固定される。したがって、永久磁石14は、規制部材16を介して内側回転体15と一体に回転する。また、
図9に示すように、永久磁石14の外周面には、各々幅W2で軸方向に沿って延びるN極とS極が、周方向に交互に形成されて複数設けられている。
【0043】
弾性部材であるOリング17はゴム製であり、内側回転体15の外周面に設けられた第2の溝15Cに嵌め込まれ密着する。Oリング17が第2の溝15Cに装着された際における外径は、内側回転体15の外径より大きく、内側回転体の外周面より僅かに出っ張る大きさとなっている。これにより、規制部材16よりも後端側において、内側回転体15の外面に永久磁石14が挿入されると、Oリング17が永久磁石14の内面に圧接して弾性変形し、Oリング17によって内側回転体15と永久磁石14との間が埋められ、内側回転体15と永久磁石14とが互いにガタツクことなく保持される。また、内側回転体15に永久磁石14を装着する際、永久磁石14の1対の凹部14Aが内側回転体15の外周に取り付けられている1対の規制部材16の凸部16Aとそれぞれ係合するようにして装着される。これにより、内側回転体15の外周面に取り付けられた永久磁石14は、内側回転体15と共に一体に回転可能になる。
【0044】
外側回転体ユニット10Aにおける第1の軸受部材12Aの一面と内側回転体ユニット10Bにおける永久磁石14の一面との間に密に配置されるスラスト規制板18は、樹脂材(本実施例では、ポリアミド樹脂)でリング円板状に形成されている。スラスト規制板18の外径は半硬質磁性体13の内径に略等しいか、若しくは僅かに小さく形成されており、半硬質磁性体13内に収納配置可能に形成されており、軸方向に向かうスラスト力を受けると共に、第1の軸受部材12Aの一面と永久磁石14の一面との間の摩擦抵抗を抑制している。一方、スラスト規制板18の内径は、内側回転体ユニット10Bにおける内側回転体15の外径よりも僅かに大きく、内側回転体15が回転可能に貫通できるように形成されている。
【0045】
次に、トルクリミッター10の組み立て手順の一例を説明する。まず、外側回転体ユニット10A側を第2の軸受部材12Bを除いて組み立てる。すなわち、外側回転体11内における1対の規制凸部11Bに、凹部12C、第1の規制溝13Aをそれぞれ略面密着係合させて、外側回転体ユニット10A内に第1の軸受部材12A、半硬質磁性体13を挿入する。この規制凸部11Bと凹部12Cと第1の規制溝13Aとの面密着係合は、伝熱面積を拡げ、半硬質磁性体13から発生する熱を、第1の軸受部材12Aと外側回転体11と内側回転体15に伝達して放熱をし易くし、冷却に寄与する。
【0046】
次いで、内側回転体15の外周面上に、1対の規制部材16とOリング17と永久磁石14とスラスト規制板18とを順に取り付けて、内側回転体ユニット10Bを組み立て、内側回転体ユニット10Bをスラスト規制板18側から外側回転体ユニット10A内に組み込み挿入させる。そして、挿入側における内側回転体15の一端側を第1の軸受部材12Aの内周面に挿入保持させ、スラスト規制板18が第1の軸受部材12Aの側面と永久磁石14の側面とにそれぞれ当接して挟まれるまで挿入する。次いで、内側回転体15の他端側に第2の軸受部材12Bを装着する。すると、外側回転体11の開口側が第2の軸受部材12Bにより塞がれ、そして内側回転体ユニット10Bの内側回転体15が第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bとで回転可能に保持された、仮組立状態になる。
【0047】
次に、第2の軸受部材12Bと外側回転体11の開口端とを加締め加工して本組立状態にする。仮組立状態から本組立状態する一例は、
図10に示す。
図10の(a)は加締め加工前の仮組立状態を示し、(b)は加締め加工をして本組立された状態を示しており、(c)は(b)の符号K部拡大図である。本例では、仮組立状態から本組立状態への移行は、加締め加工装置21を用いて行うが、必ずしもこの加工手段に限定されるものではない。加締め加工装置21は、仮組立状態のトルクリミッター10をセットする台座22と、台座22上の仮組立状態にあるトルクリミッター10の外側回転体11の開口端部と第2の軸受部材12Bとの間を加締め加工するパンチ23とを有している。
【0048】
図10を用いて、第2の軸受部材12Bと外側回転体11の開口端との加締め加工を説明すると、(a)に示すように、台座22とパンチ23とが互いに上下方向に大きく離れている状態において、仮組立状態のトルクリミッター10を台座22上に、第2の軸受部材12B側を上側にしてセットする。次いで、回転しているパンチ23を下降させて、下降させた回転しているパンチ23により外側回転体11の開口端縁11bを第2の軸受部材12Bの外周側に向けて加圧する。すると、外側回転体11の開口端縁11bの全周が第2の軸受部材12Bの周縁角部12b側に、
図10の(b)、(c)に示すように周縁角部12bを覆って押し潰され、加締め加工がなされる。このとき、第2の軸受部材12Bの第2の凹部12cbは、周縁角部12bによって覆われず、そして
図2でも示しているように、外側回転体11の内周面、及び半硬質磁性体13の第2の規制溝13Bとで形成される開口空間となる。この開口空間は、トルクリミッター10の内部から外部へ連通する排熱用の口、すなわち排熱口となる。そして、第2の軸受部材12Bと外側回転体11の開口端縁11bとが加締め加工されて本組立状態になる。
【0049】
このように構成され本実施例によるトルクリミッター10では、外側回転体11と内側回転体15は、外側回転体ユニット10Aを構成している第1の軸受部材12Aと半硬質磁性体13と第2の軸受部材12Bと外側回転体11が一体に回転するとともに、内側回転体ユニット10Bを構成している永久磁石14と内側回転体15が一体に回転するようにして、外側回転体11側と内側回転体15側とが相対回転する。その際、半硬質磁性体13から発生する熱が、第1の軸受部材12Aに伝達される。ここで、第1の軸受部材12Aと外側回転体11は、第1の凹部12caと規制凸部11Bの凹凸係合で伝熱面積を広げているため、外側回転体11を通して、効率よく熱を外部に逃がすことができる。また、半硬質磁性体13の第1の規制溝13Aは、外側回転体11の規制凸部11Bと凹凸係合し、半硬質磁性体13と外側回転体11の当接面積(伝熱面積)を広げているため、外側回転体11を介し、効率よく熱を外部に逃がすことができる。加えて、第1の軸受部材12Aにオイルを含浸させた銅系焼結金属(多孔質金属)を用いた場合、第1の軸受部材12Aに伝達された熱は、含浸オイルの気化と凝縮によって放熱が促進される。そして、第2の軸受部材12Bは、熱源となる半硬質磁性体13に当接させ、半硬質磁性体13から受け取った熱を、効率良く外側回転体11に伝達させている。同時に、外側回転体11の内周面と半硬質磁性体13の第2の規制溝13B、及び第2の軸受部材12Bの第2の凹部12cbで排熱口を形成し、トルクリミッター10の内部の熱を、速やかに外部に放出することを可能にしている。加えて、第2の軸受部材12Bにオイルを含浸させた銅系焼結金属(多孔質金属)を用いた場合、第2の軸受部材12Bに伝達された熱は、含浸オイルの気化と凝縮によって放熱が促進される。これにより、トルクリミッター10内部の温度上昇を抑えて、熱による破損をなくすことができる。
【0050】
また、外側回転体11の規制凸部11Bを、半硬質磁性体13の第1の規制溝13Aと第1の軸受部材12Aの第1の凹部12caに各々係合させて、外側回転体11と半硬質磁性体13と第1の軸受部材12Aを一体化しているので、外側回転体11が熱膨張し、例え外側回転体11と半硬質磁性体13との間の締結が緩んだとしても、外側回転体11と半硬質磁性体13との間が空回りしてトルクリミッター10の機能に影響を及ぼすこともない。
【0051】
また、第1の軸受部材12Aと永久磁石14との間にリング状をしたスラスト規制板18を設けているので、外側回転体ユニット10Aと内側回転体ユニット10Bとの相対回転時におけるスラスト方向のガタツキをスラスト規制板により簡単に解消することが可能になる。
【0052】
また、第2の軸受部材12Bの外周面に断面凸状をした加締め結合用の結合部12aを設けて、外側回転体11の内周面(開口端縁11b)と第2の軸受部材12Bの結合部12aとの間を、加締め結合することにより、外側回転体11と第2の軸受部材との間を強固に一体化することができる。
【0053】
また、半硬質磁性体13に、内側回転体15の回転方向に円弧状に湾曲しているスリット19を設けているので、永久磁石14の外周面に、軸方向に沿うN極、S極が交互に周方向設けられていても、そのスリット19の繋ぎ目では、必ずN極とS極が同時に対向するので、スリット19の繋ぎ目での極結合が途切れることがなく、常に良好な磁気結合が得られる。
【0054】
また、第1の軸受部材12Aと第2の軸受部材12Bを、多孔質体である焼結金属で形成してオイルを含浸させているので、半硬質磁性体13から発生する熱を、含浸オイルの気化と凝縮によって放熱を促進するとともに、外側回転体11を通して、外部へ効率良く放出することができる。
【0055】
次に、上記効果を検証するために、特許文献1に示す従来構造のトルクリミッター(先行技術)の表面温度(℃)と本発明構造におけるトルクリミッター10の表面温度変化の検証試験を行った。
【0056】
検証試験1では、トルクリミッターを2000min-1(rpm)で連続回転させたときの表面温度の推移を検証した。その試験結果は、次の
図11、
図12のとおりである。すなわち、
図11は、トルクリミッターを2000min-1(rpm)で連続回転させたときの経過時間(min)と表面温度(℃)の推移を数値で示し、
図12は、表面温度と経過時間をグラフで表したものである。
図11及び
図12の試験結果によれば、先行技術のトルクリミッターでは、開始時間から0.33分(min)経過すると温度が180℃に達して、動作不良になった。これに対して、本発明のトルクリミッター10では、試験開始から15分を過ぎたあたりから温度上昇が抑制され、それ以降は温度が安定した状態が得られた。
【0057】
次いで、検証試験2で、トルクリミッターを2000min-1(rpm)で連続回転させたときのトルク値(mN・m)の変動、すなわち耐久性を検証した。その試験結果は、次の
図13、
図14のとおりである。すなわち、
図13は、トルクリミッターを2000min-1(rpm)で連続回転させたときのトルク値(mN・m)の変動を数値で示し、
図14は回転回数とトルク値の変化をグラフで表したものである。試験結果によれば、先行技術のトルクリミッターでは、開始直後に動作不能になった。これに対して、本発明のトルクリミッター10では、試験開始から10,000,000回転まで問題なく動作した。
【0058】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。