(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014740
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ボールペン用水性インキ組成物およびそれを収容したボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20240125BHJP
B43K 1/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K1/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098451
(22)【出願日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022117085
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA09
2C350NA02
2C350NC10
4J039BC52
4J039BC55
4J039BC56
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039CA03
4J039DA01
4J039EA44
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 コバルトを金属結合材として含む超硬合金製ボールの腐食を高度に抑制でき、経時安定性に優れるボールペン用水性インキ組成物を提供すること。
【解決手段】1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびカルボキシベンゾトリアゾールから選ばれる1種以上(A)と、一般式(1)で示される物質、および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールから選ばれる1種以上(B)と、リン酸エステル系界面活性剤(C)と、着色材と、水とを少なくとも含有してなり、(A)、(B)、(C)の含有量を所定量としたボールペン用水性インキ組成物とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびカルボキシベンゾトリアゾールから選ばれる1種以上(A)と、下記一般式(1)で示される物質、および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールから選ばれる1種以上(B)と、リン酸エステル系界面活性剤(C)と、着色材と、水とを少なくとも含有してなるインキ組成物であって、
インキ組成物全質量を基準として、(A)の含有率が0.01~2質量%であり、(B)の含有率が0.1~3質量%であり、(C)の含有率が0.1~2質量%であるボールペン用水性インキ組成物。
【化1】
式中、RはCH
3、NH
2、SMから選ばれるいずれかであり、該Mおよび一般式(1)におけるMは、独立して、水素、アルカリ金属、アンモニウム、アルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、およびシクロヘキシルアルカノールアミンから選ばれるいずれかである。
【請求項2】
前記(A)、(B)、および(C)の含有率が下記一般式(2)の関係を満たす、請求項1に記載のインキ組成物。
(A)の含有率+(B)の含有率 >(C)の含有率 (2)
【請求項3】
請求項1または2に記載のインキ組成物を収容し、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製のボールを備えてなるボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン用水性インキ組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボールペン用のボールとしては、炭化珪素、酸化ジルコニウム、タングステンカーバイド等を主成分とするものが用いられ、安価で高い筆記性能が得られることから、タングステンカーバイドを主成分として金属結合材を含む超硬合金ボールが広く使用されている。
【0003】
しかしながら、前記結合材として、主にコバルト、クロム、チタン、ニッケル等の金属が使用されていることから、水性ボールペンに用いた場合、インキ中の溶存酸素等の腐食成分により前記結合材が経時的にインキ中に溶出し、ボールから結合材が失われることで、主成分であるタングステンカーバイドの結晶粒子が脱落したり、溶出した結合材が金属酸化物となり不溶化し、再びボール表面に付着する等、所謂腐食状態になることがある。前記腐食によりボール表面の凹凸が大きくなるため、ボールのスムーズな回転が阻害されて筆記に不具合が生じることがあった。
特に、金属結合材としてコバルトやニッケルを用いた超硬合金ボールは、汎用性が高いものの、金属結合材の含有量が多いため水性ボールペンにおいては経時的に腐食し易いという欠点を有している。
【0004】
そこで前述の経時的な腐食を防止する方法として、インキ中にスルフィド化合物やベンゾトリアゾールのアミノ誘導体を添加する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
しかしながら、前記スルフィド化合物を添加した場合、化合物の構造によっては臭気を発したり、長期経時によって析出してしまい腐食抑制効果が十分に得られ難い等の不具合を生じることがある。
また、ベンゾトリアゾールのアミノ誘導体は、水性媒体中への溶解度が低いため、インキ中での溶解安定性に欠けるとともに、銅系金属に対しては効果を発現するものの、超硬に対しては十分な効果が得られないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-115684号公報
【特許文献2】特公平1-23512
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製ボールの腐食を高度に抑制でき、経時安定性に優れるボールペン用水性インキ組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
「1.1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびカルボキシベンゾトリアゾールから選ばれる1種以上(A)と、下記一般式(1)で示される物質、および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールから選ばれる1種以上(B)と、リン酸エステル系界面活性剤(C)と、着色材と、水とを少なくとも含有してなるインキ組成物であって、
インキ組成物全質量を基準として、(A)の含有率が0.01~2質量%であり、(B)の含有率が0.1~3質量%であり、(C)の含有率が0.1~2質量%であるボールペン用水性インキ組成物。
【化1】
式中、RはCH
3、NH
2、SMから選ばれるいずれかであり、該Mおよび一般式(1)におけるMは、独立して、水素、アルカリ金属、アンモニウム、アルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、およびシクロヘキシルアルカノールアミンから選ばれるいずれかである。
2.前記(A)、(B)、および(C)の含有率が下記一般式(2)の関係を満たす、第1項に記載のインキ組成物。
(A)の含有率+(B)の含有率 >(C)の含有率 (2)
3.第1項または第2項に記載のインキ組成物を収容し、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製のボールを備えてなるボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製ボールの腐食を高度に抑制でき、経時安定性に優れるボールペン用水性インキ組成物と、それを収容した、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製のボールを備えてなるボールペンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明によるボールペン用水性インキ組成物(以下、場合により、「水性インキ組成物」、「インキ組成物」、または「組成物」と表すことがある。)は、着色材と、1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびカルボキシベンゾトリアゾールから選ばれる1種以上と、一般式(1)で示される物質、および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールから選ばれる1種以上と、リン酸エステル系界面活性剤と、水とを少なくとも含んでなる。尚、本明細書において、1,2,3-ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、およびカルボキシベンゾトリアゾールからなる群をトリアゾール系物質、一般式(1)で示される物質、および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールからなる群をチアジアゾール系物質と称することがある。
トリアゾール系物質、チアジアゾール系物質およびリン酸エステル系界面活性剤の何れかが欠けても、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製のボールの腐食を抑制でき、経時安定性に優れるインキを形成することが困難となる。
以下、本発明による水性インキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0012】
トリアゾール系物質の含有率は、インキ組成物全質量を基準として0.01~2質量%であり、0.05~1.5質量%であることが好ましく、0.1~1.5質量%であることがより好ましい。
トリアゾール系物質の含有率が前記範囲内であると、インキの経時安定性を良好とするとともに、前記超硬合金製ボールからコバルトが過度に溶出することを抑えてボールの腐食を十分に抑制でき、1.5質量%を超えて添加しても腐食抑制効果は大きく向上しない。
トリアゾール系物質は1種または2種以上を用いることができる。また、トリアゾール系物質はアルカリ金属塩であっても良い。
【0013】
チアジアゾール系物質としては、下記一般式(1)に示す物質および5-メルカプト-3-フェニル-1,3,4-チアジアゾールが例示できる。
【化1】
式中、RはCH
3、NH
2、SMから選ばれるいずれかであり、該Mおよび一般式(1)におけるMは、独立して、水素、アルカリ金属、アンモニウム、アルカノールアミン、シクロヘキシルアミン、およびシクロヘキシルアルカノールアミンから選ばれるいずれかである。
【0014】
チアジアゾール系物質の含有率は、前記超硬合金製ボールのコバルトの溶出を抑えてボールの腐食を抑制することを考慮すれば、インキ組成物全質量を基準として、0.1~3質量%であり、0.2~3質量%であることが好ましく、0.2~2.5質量%であることがより好ましい。チアジアゾール系物質の含有率が前記範囲内であると、インキの経時安定性を良好とするとともに、前記超硬合金製ボールからコバルトが過度に溶出することを抑えてボールの腐食を十分に抑制でき、3質量%を超えて添加しても腐食抑制効果は大きく向上しない。
チアジアゾール系物質は1種または2種以上を用いることができる。
【0015】
リン酸エステル系界面活性剤は従来公知のものが適用可能であり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレンエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルリン酸エステルを例示でき、前記ポリオキシエチレンアリールエーテルリン酸エステルとしては、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンナフチルエーテルリン酸エステルを例示でき、いずれも好ましく用いられる。リン酸エステル系界面活性剤はナトリウム塩またはモノアルカノールアミン塩、ジアルカノールアミン塩、トリアルカノールアミン塩等のアルカノールアミン塩であっても良い。市販品では、例えば、プライサーフシリーズ(第一工業製薬社製)として、プライサーフA212C、同A215C、同A208F、同M208F、同A208N、同A208B、同A219B、同DB-01、同A210D、同ALが挙げられ、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業社製)として、フォスファノール2P、同ML-200、同GF-185、同BH-650、同ED-200、同RA-600、同ML-220、同ML-240、同RD-510Y、同RS-410、同RS-610、同RS-710、同RL-210、同RL-310、同RB-410、同RD-710、同RP-710、同LF-200、同RM-410、同RM-510、同SP-212、同CP-120、同720、同SC-6103、同RD-720.同LP-700、同LP-500、同LB-400が挙げられ、アンステックスシリーズ(東邦化学社製)として、アンステックスAK-25、同AK-25B、同SM-172、同GF-339、同GF-199、同ML-200、同GF-185等が挙げられる。インキ組成物に適用できるリン酸エステル系界面活性剤はこれらに限られるものではない。
リン酸エステル系界面活性剤は単一種を用いても良く、複数種を併用しても良い。
【0016】
リン酸エステル系界面活性剤の含有率は、インキの経時安定性および筆記性を損なわず、前記超硬ボールの腐食を抑制することを考慮すれば、インキ組成物全質量を基準として、0.1~2質量%であり、0.2~1.5質量%であることが好ましく、0.2~1.0質量%であることがより好ましい。
【0017】
さらに、インキの経時安定性および筆記性を損なわず、前記超硬ボールの腐食を抑制することをより考慮すれば、トリアゾール系物質(A)の含有率、チアジアゾール系物質(B)の含有率、およびリン酸エステル系界面活性剤(C)の含有率の関係は、下記一般式(2)を満たすことが好ましい。
(A)の含有率 +(B)の含有率 >(C)の含有率・・・(2)
前記(A)、(B)、および(C)の含有率はインキ組成物全質量を基準とする。
【0018】
(着色材)
本発明のボールペン用水性インキ組成物は、従来からの着色材を用いることができる。
顔料としては、カーボンブラック、金属酸化物または金属塩などの無機顔料、有機色素顔料またはレーキ顔料などの有機顔料、ならびにアルミニウム顔料などの光沢のある光輝性顔料、および蛍光顔料が挙げられ、染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染料が挙げられる。
着色材の含有量は、インキ組成物全質量に対して0.1~30質量%の範囲で適用される。
【0019】
さらに、インキ組成物に適用できる着色材としては、摩擦熱により変色する着色材も例示できる。
【0020】
前記摩擦熱により変色する着色材としては、筆跡を摩擦体等で擦過して加温することによって、筆跡が変色(色相変化や透明化や消色)するものが、可逆、不可逆を問わず選択的に適用できる。尚、着色材自身が色相変化するものの他、透明化(消色)するものと、前記した染料、顔料等の汎用の着色材を併用することで、色相が変化する構成とすることもできる。
前記加熱変色する着色材としては、例えば、引用文献として例示した、特開2012-219160号公報、特開2014-5422号公報等に開示される可逆タイプや、特開2010-229332号公報等に開示される不可逆タイプのものが適用可能である。
特に、前記筆跡の変化は、熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させることで、組成変化を生じることなく長期間安定して発現できるものとなるため好適である。前記マイクロカプセル顔料に内包される熱変色性組成物としては、繰り返しの使用性、温度変化の正確性等の点から、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適である。
【0021】
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、筆記具インキに適用される、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0022】
前記熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更にマイクロカプセル顔料の表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与したり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0023】
(増粘剤)
水性インキ組成物には、増粘剤を用いることが出来る。
増粘剤としては従来公知の物質を用いることが可能であるが、好ましくは、インキ組成物にせん断減粘性を付与できる物質(せん断減粘性付与剤)である。せん断減粘性付与剤は、静置時においてはインキの高粘度を維持しつつ、ボールからインキに剪断力が加わったときにインキ組成物を容易に低粘度化させることができるため、静置時におけるインキ中での顔料の沈降、凝集を抑制しつつ、筆記時におけるペン先からのインキ吐出性を良好とすることができる。
【0024】
せん断減粘性付与剤の具体例としては、トラガントガム、プルラン、サイクロデキストリン、サクシノグリカン、キサンタンガム、ウェランガム、λ-カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、グルコマンナン、カラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ポリN-ビニル-カルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、スメクタイトおよびラポナイト等の無機質微粒子等を例示できる。
【0025】
インキ組成物には、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることもできる。水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3-ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用することもでき、インキ組成物中2~60重量%、好ましくは5~35質量%の範囲で用いられる。
【0026】
更に、インキ組成物の特性に合わせ、所望のpHに調整するためにpH調整剤を用いることもできる。
pH調整剤としては、従来公知の酸性物質、塩基性物質が適用でき、酸性物質としては例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、塩基性物質としては例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の強アルカリ、或いは炭酸ナトリウム、アンモニア、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等の弱アルカリが挙げられる。また、塩基性物質としてはモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類も適用可能である。
【0027】
その他、必要に応じて、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2-ベンズチアゾリン3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を使用してもよい。さらに前記した塩基性物質を、式(1)に示される物質の中和剤として用いることもできる。
更に、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、N-アシルアミノ酸系界面活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β-アラニン型界面活性剤、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールのオリゴマー、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α-リポ酸、N-アシル-L-グルタミン酸とL-リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
また、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピペリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0028】
さらに、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を一種又は二種以上添加したり、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を一種又は二種以上添加することもできる。
【0029】
(ボールペン)
本発明の水性インキ組成物が充填されるボールペンについて説明する。ボールペンは、ペン先、インキ充填機構、インキ供給機構等を備えてなる。
【0030】
ペン先は、ボールペンチップ本体のボールハウス(ボール抱持室)にボールを回転自在に抱持してなる、金属製のボールペンチップが用いられる。
【0031】
ボールハウスは、例えば、金属を切削加工して内部にボール受け座とインキ導出部を形成したもの、金属製パイプの先端近傍の内面に複数の内方突出部を外面からの押圧変形により設け、前記内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成したもの等を適用でき、特に押圧変形により内方突出部を設けたボールハウスは、ボール後端との接触面積が比較的小であり、低筆記圧でのスムーズな筆記感を与えることができる。
【0032】
前記ボールハウスに抱持されるボールは、例えば、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等からなり、0.1~2.0mmの外径を有するものが挙げられ、本願発明のインキ組成物がコバルトを金属結合材に含む超硬合金製のボールの腐食抑制に優れることから、このような超硬合金製のボールを好ましく用いることができる。
尚、前記ボールペンチップには、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配して、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することもでき、不使用時のインキ漏れを抑制できる。
前記弾発部材は、金属細線のスプリング、前記スプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたものを例示でき、5~40gの弾発力により、押圧可能に構成して適用される。
【0033】
インキ充填機構は、水性インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、水性インキ組成物を充填することのできるインキ収容体またはインキ吸蔵体を備えるものであってもよい。
ボールペンが水性インキ組成物を充填することのできるインキ吸蔵体を備えるものである場合は、インキ吸蔵体は、撚り合わせた繊維を用いてなる繊維集束体が好ましい。
また、インキ充填機構はインキ組成物を直に充填可能なカートリッジであっても良い。
【0034】
また、インキ供給機構についても特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束などからなるインキ誘導芯をインキ流量調節部材として備え、水性インキ組成物をペン先に誘導する機構、(2)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、前記インキ誘導溝を通じてペン先へインキ組成物を供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、前記円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝及び該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ貯蔵部からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介してインキ組成物をペン先へ誘導する機構、(4)ペン先を具備したインキ収容体または軸筒より、水性インキ組成物を直接、ペン先に供給する機構などを挙げることができる。
ペン先を具備したインキ収容体としては、前記ボールペンチップをインキ収容管の先端に直接またはホルダーを介して具備し、インキ後端にグリース等の粘調液体からなるインキ逆流防止体が充填されてなるインキレフィルであっても良い。
【0035】
ボールペンは、ペン先出没機構を具備していても良い。ペン先出没機構としては、ノック式、回転式およびスライド式などが挙げられる。また、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0036】
本発明の組成物を収容するボールペンは、前記したペン先、インキ充填機構、インキ供給機構、およびペン先出没機構の中から機構を適宜選択して構成することが可能である。
【0037】
前記摩擦熱により変色する着色材をインキに適用したボールペンを用いて被筆記面に筆記して得られる筆跡は、加熱具又は冷却具により変色させることができる。加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤーの適用が挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。すなわち、ボールペンは、摩擦部材を更に備えるものであってもよい。
【0038】
摩擦部材としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることができるプラスチック発泡体等の弾性体、粘弾性体が好適である。なお、消しゴムを使用して筆跡を摩擦することもできるが、摩擦時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない前述の摩擦部材が好適に用いられる。摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂、SEBS樹脂(スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂、αオレフィン系共重合体等が用いられる。
【0039】
摩擦部材はボールペンとは別体の任意形状の部材(摩擦体)とし、これとボールペンとを組み合わせて筆記具セットとして構成することもできるが、ボールペンに摩擦部材を設けることにより、携帯性に優れる。
キャップを備えるボールペンの場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)又は軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)に摩擦部材を設けたりすることができる。
出没式ボールペンの場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではない。例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)又はノック部に摩擦部材を設けたりすることができる。
【0040】
冷却具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、冷蔵庫や冷凍庫の適用が挙げられる。
【0041】
本発明の実施例は以下の通りである。
(実施例1)
下記原材料および配合量にて、室温で1時間攪拌混合することにより、筆記具用水性インキ組成物を得た。
・着色材 7.0質量%
(赤色染料、製品名:食用赤色104号)
・1,2,3-ベンゾトリアゾール 0.3質量%
・式(1)に示す物質(R:-SH、M:-H) 0.3質量%
・リン酸エステル系界面活性剤 0.5質量%
(ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、製品名:プライサーフAL、第一工業製薬社製)
・トリエタノールアミン 1.0質量%
・ジエチレングリコール 10.0質量%
・グリセリン 5.0質量%
・水 75.9質量%
【0042】
(実施例2~14、比較例1~11)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1および表2に示したとおりに変更して、実施例2~14、比較例1~11のインキ組成物を得た。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
(1)赤色染料(食用赤色104号)
(2)青色顔料(アシッドブルー90)
(3)ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、(製品名:プライサーフAL、第一工業製薬社製)
(4)ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル(製品名:プライサーフA-212C、第一工業製薬社製)
(5)高分子ブロック共重合物(40質量%水溶液、製品名:DISPERBYK-190、BYK社製)
【0043】
【0044】
【0045】
調製したインキ組成物を用いてボールペンを作製し、下記の通り評価を行った。得られた結果は表3および表4に記載したとおりであった。
【0046】
ボールペンレフィルの作製
得られた各インキ組成物を、コバルトを金属結合材として含む超硬合金製の外径0.7mmボールを回転自在に抱持するボールペンチップを先端に具備したポリプロピレン樹脂からなるインキ収容管内に充填し、後端に粘調液体からなるインキ逆流防止体を充填した。次いで、尾栓をパイプの後部に嵌合させてボールペンレフィルをそれぞれ得た。
【0047】
ボールペンの作製
得られたボールペンレフィルを、出没式ボールペン(商品名:Vコーンノック07、株式会社パイロットコーポレーション製)外装に装着し、ボールペンを作製した。
尚、筆記用の試験紙には、旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。
【0048】
(1)超硬合金製ボールの耐腐食性の評価
前記ボールペンを50℃、90%RH環境下に60日保管し、保管後のボール表面を電子顕微鏡(製品名:卓上顕微鏡MiniscopeTM-1000、日立ハイテクノロジーズ社製)により観察した。評価基準は、A、B、およびCを合格とし、Dを不合格とした。
A:表面荒れが確認されず、また、保管前のボール表面と比較して変化が確認されない。
B:保管前のボール表面と比較して表面の荒れが確認されるものの、筆記上問題なく初筆と同等の筆感で筆記できる。
C:保管前のボール表面と比較して表面の荒れが確認される。筆記上問題ないが、初筆と比較して筆感が重くなる。
D:保管前のボール表面と比較してボール表面に顕著な荒れが確認され、筆記が困難。
(2)超硬合金製ボールからのコバルト溶出性の評価
前記環境における保管前後での超硬合金製ボール中のコバルト含有量(単位:質量%)をエネルギー分散型蛍光エックス線分析装置(製品名:MiniscopeTM専用エネルギー分散型エックス線分析装置SwiftED-TM、日立ハイテクノロジーズ社製)で測定した。尚.保管前のボール中のコバルト量は10質量%であった。
(3)インキ外観
保管後のボールペンからインキを取り出し、光学顕微鏡にてインキを観察した。Aを合格、Bを不合格とした。
A:保管前のインキと比較して、顕著な変化は確認されない。
B:析出物が確認される。
【0049】
試験結果を以下の表3および表4に記す。
【0050】
【0051】