(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147400
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】高濃度酸素水製造システム、高濃度酸素水製造方法、高濃度酸素水及びその用途
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20241008BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20241008BHJP
C02F 3/32 20230101ALI20241008BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20241008BHJP
C02F 1/68 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
A01K63/04 Z
A01G33/00
C02F3/32
C02F3/00 D
C02F1/68 510A
C02F1/68 510J
C02F1/68 520B
C02F1/68 530A
C02F1/68 540B
C02F1/68 540J
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060375
(22)【出願日】2023-04-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業「研究題目1:H-OTECシステム研究・開発。研究題目2:H-OTECの発電・造水技術確立。研究題目3:海洋深層水の複合利用モデルの基盤構築。研究題目5:技術移転および人材育成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池上 康之
(72)【発明者】
【氏名】平山 伸
(72)【発明者】
【氏名】浦田 和也
【テーマコード(参考)】
2B026
2B104
4D027
4D040
【Fターム(参考)】
2B026AC03
2B104AA01
2B104AA22
2B104EB01
4D027CA00
4D040CC03
4D040CC05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境負荷が少なく低コストで溶存酸素を高濃度に発生及び維持可能な高濃度酸素水製造システムを提供する。
【解決手段】高濃度酸素水製造システムは、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造システムにおいて、藻類を培養する培養溶液を収容した水槽から構成される培養槽と、前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給手段と、前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給手段と、時期に応じて前記窒素源供給手段及び前記炭素源供給手段による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段と、前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造システムにおいて、
藻類を培養する培養溶液を収容した水槽から構成される培養槽と、
前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給手段と、
前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給手段と、
時期に応じて前記窒素源供給手段及び前記炭素源供給手段による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段と、
前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水手段と、
を備えることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記制御手段が、
昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、
夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御することを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項3】
請求項2に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記培養槽が、
第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、
第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、
を備え、
前記制御手段が、
昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、
夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項4】
請求項3に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記第一の藻類が、不稔性アオサ又は海苔であり、
前記第二の藻類が、イシクラゲであることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項5】
請求項1に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射手段と、
を備えることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項6】
請求項1に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌手段と、
を備えることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項7】
請求項1に記載の高濃度酸素水製造システムにおいて、
前記採水手段が、
前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入部と、
前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉部と、
を備えることを特徴とする
高濃度酸素水製造システム。
【請求項8】
高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造方法において、
培養槽中の培養溶液で藻類を培養する培養工程と、
前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給工程と、
前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給工程と、
時期に応じて前記窒素源供給工程及び前記炭素源供給工程による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御工程と、
前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水工程と、
を含むことを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の高濃度酸素水製造方法において、
前記制御工程が、
昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、
夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御することを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の高濃度酸素水製造方法において、
前記培養槽が、
第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、
第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、
を備え、
前記制御工程が、
昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、
夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げることを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の高濃度酸素水製造方法において、
前記培養工程が、
前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射工程を
含むことを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の高濃度酸素水製造方法において、
前記培養工程が、
前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌工程と、
を含むことを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項13】
請求項9に記載の高濃度酸素水製造方法において、
前記採水工程が、
前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入工程と、
前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉工程と、
を含むことを特徴とする
高濃度酸素水製造方法。
【請求項14】
請求項9~13のいずれかに記載の高濃度酸素水製造システムの前記採水工程により得られた高濃度酸素水であって、
溶存酸素量が、飽和溶存酸素量の2倍~3倍の過飽和状態であることを特徴とする
高濃度酸素水。
【請求項15】
請求項14に記載の高濃度酸素水を含むことを特徴とする
化粧水。
【請求項16】
請求項14に記載の高濃度酸素水を含み、
海藻若しくは魚貝類の養殖又は魚類解体に用いることを特徴とする
養殖用水。
【請求項17】
請求項14に記載の高濃度酸素水を含むことを特徴とする
植物育成用水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度酸素水製造システムに関し、特に、低コストで溶存酸素を高濃度に発生及び維持可能な高濃度酸素水製造システム、高濃度酸素水製造方法、高濃度酸素水及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高濃度の溶存酸素を含有する水(高濃度酸素水)は、各種の産業界からのニーズが高まっている。
【0003】
例えば、藻類や貝類の培養産業は重要な産業となっており、この培養に高濃度酸素水が有用であるとされている。四方を海に囲まれた我が国では、海産物は、日常的な食材として利用されており、その需要は季節を問わず高い。海産物のうち藻類や貝類には、海苔、アワビ、牡蠣、ナマコ等の高級食材もあり贈答用の需要も高く、高濃度酸素水により、高品質な海産物が得られることが期待されている。
【0004】
また、野菜や観賞用等の植物の育成にも、高濃度酸素水を用いることにより、発育が促進されて、高品質な植物が得られることが期待されている。
【0005】
また、ヒトの肌にも、高濃度酸素水を用いることにより、肌の健康が維持・促進されることが期待されている。このように高濃度酸素水を少量に小分けして利用する用途には、高濃度に溶存酸素量が維持・保存された状態で、高濃度酸素水を密閉容器に瓶詰めして運搬可能に提供されることができれば、手軽に利用できて利便性が高いと考えられる。
【0006】
従来では、高濃度酸素水を製造するために、普及自体は僅かであるものの、水を加圧して溶存酸素濃度を高めるという加圧処理型が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の高濃度酸素水製造システムとしては、加圧処理により酸素飽和度200%の高濃度酸素水を発生する装置が知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
また、従来の高濃度酸素水製造システムとしては、高酸素含有量の気体をオゾン発生器に導入してオゾンを生成する段階と、(b)前記オゾンを大気圧における接触タンクに通して酸素化されそしてオゾン化された液体を生成する段階と、(c)前記酸素化されそしてオゾン化された液体をインライン超音波混合器の接触ループに通入して実質上純な過飽和酸素化されそしてオゾン化された液体を生成する段階とを包含する過飽和酸素化液体製造方法が知られている(特許文献2参照)。
【0008】
また、従来の高濃度酸素水製造システムとしては、深冷分離法を用いたものが知られている。すなわち、空気を‐200℃まで冷却、圧縮、冷却後、沸点の差を利用して酸素を取り出して高濃度酸素を製造するもので、この高濃度酸素を用いて高濃度酸素水を製造するシステムが知られている(非特許文献2参照)。
【0009】
この他、高濃度酸素水製造システムには該当しないが、高濃度溶存酸素の用途の一例として、海藻の培養の際の光合成で生じた高濃度溶存酸素を含む溶液を二枚貝の養殖に利用するという藻類及び貝類の同時養殖システムが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2-48098号公報
【特許文献2】特開2001-54725号公報
【特許文献3】特開2022‐114928号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】片倉 徳男ら,「酸素飽和度200%の高濃度酸素水を発生する装置の開発」,海岸工学論文集第52巻(2005) 土木学会,1116-1120
【非特許文献2】木矢博之ら,「高溶存酸素水への浸種によるホウレンソウの高速催芽法の開発」,奈良県農業総合センター研究報告第38号(2007),p37-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1や非特許文献1のような加圧処理型では、高濃度酸素水(過飽和の溶存酸素水)を製造するには高価で堅牢な加圧装置が必要であり、高圧状態から常圧へ戻した際に、溶存酸素が減少し易いという問題がある。また、非特許文献2のでは高濃度酸素水(過飽和の溶存酸素水)を製造するのに高濃度(90%以上)の酸素(酸素ボンベ等)が不可欠である。この高濃度酸素の製造には空気を‐200℃まで冷却、圧縮、冷却後、沸点の差を利用した酸素回収からなる多段操作が含まれ、多くのエネルギー消費が必要で環境負荷が大きい製造法となる。そのため高濃度酸素水を製造するには、このような多段操作によって製造される高価で環境負荷の大きい酸素原料を使うことが必要とされる。特許文献2のようにオゾン発生器や超音波混合器等を用いる手法においても同様に、大規模で高価な装置が必要となり、製造コスト及び装置維持コストが嵩む。
【0013】
また、これら従来の加圧処理型や深冷分離法等の手法では、加圧や温度変化を用いて化学平衡のバランスを利用して溶存酸素濃度を高める手法であることから、特に、瓶詰めするような用途では、高濃度溶存酸素の状態を維持したまま高濃度酸素水を得ることは、その製造プロセス上、困難である。事実として、高濃度溶存酸素の維持・保存や運搬に関して、開示も示唆もされていない。
【0014】
また、特許文献3は、海藻の光合成を利用した高濃度溶存酸素を含む溶液を二枚貝に利用するシステムであるが、あくまで藻類及び貝類の同時養殖を図る目的のシステムであり、高濃度溶存酸素の状態を維持しているかどうかは不明であり、また高濃度溶存酸素の状態を維持した高濃度酸素水を得ることについても開示も示唆もされておらず、また、高濃度溶存酸素の維持・保存や運搬に関しても、開示も示唆もされていない。
【0015】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、環境負荷が少なく低コストで高濃度溶存酸素を製造できる高濃度酸素水製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造システムにおいて、藻類を培養する培養溶液を収容した水槽から構成される培養槽と、前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給手段と、前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給手段と、時期に応じて前記窒素源供給手段及び前記炭素源供給手段による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段と、前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水手段と、を備えるものである。
【0017】
このように、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造システムにおいて、藻類を培養する培養溶液を収容した水槽から構成される培養槽と、前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給手段と、前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給手段と、時期に応じて前記窒素源供給手段及び前記炭素源供給手段による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段と、前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水手段と、を備えることから、窒素源及び炭素源の供給が、時期に応じて最適になされて、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0018】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記制御手段が、昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御するものである。このように、前記制御手段が、昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御することから、夜間に光合成を行わない状態で窒素源が積極的に蓄えられた藻類が、昼間には、炭素源を供給されて、より活発に光合成を行えることとなり、窒素源及び炭素源の供給が、さらに時間帯に応じて最適になされて、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0019】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記培養槽が、第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、を備え、前記制御手段が、昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げるものである。
【0020】
このように、前記培養槽が、第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、を備え、前記制御手段が、昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げることから、夜間に光合成を行わない状態で塩分濃度が高い培養溶液で育成された藻類が、昼間には、塩分濃度が低い培養溶液で育成されて、培養溶液がより高濃度の酸素溶存を可能とした状態で活発に光合成を行えることとなり、さらに高濃度の酸素溶存を可能とした状態で、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0021】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記第一の藻類が、不稔性アオサ又は海苔であり、前記第二の藻類が、イシクラゲであるものである。このように、前記第一の藻類が、不稔性アオサ又は海苔であり、前記第二の藻類が、イシクラゲであることから、入手が容易な原料を用いて高濃度酸素水が得られることとなり、より低コストで高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0022】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射手段と、を備えるものである。このように、前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射手段と、を備えることから、藻類がより光合成しやすい光源を受けて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0023】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌手段と、を備えるものである。このように、前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌手段と、を備えることから、藻類がより光合成しやすい培養溶液の循環流れが形成されて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0024】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造システムは、必要に応じて、前記採水手段が、前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入部と、前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉部と、を備えるものである。このように、前記採水手段が、前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入部と、前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉部と、を備えることから、溶存酸素が高濃度に維持されたまま高濃度酸素水を密閉された収容容器内に得ることができ、より高い溶存酸素の濃度を維持した状態の高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0025】
本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、培養槽中の培養溶液で藻類を培養する培養工程と、前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給工程と、前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給工程と、時期に応じて前記窒素源供給工程及び前記炭素源供給工程による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御工程と、前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水工程と、を含むものである。
【0026】
このように、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造方法において、藻類を培養する培養溶液を収容した水槽から構成される培養槽と、前記培養槽に窒素源を供給する窒素源供給工程と、前記培養槽に炭素源を供給する炭素源供給工程と、時期に応じて前記窒素源供給工程及び前記炭素源供給工程による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御工程と、前記培養槽中の培養溶液を採水して高濃度酸素水を得る採水工程と、を含むことから、窒素源及び炭素源の供給が、時期に応じて最適になされて、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0027】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、必要に応じて、前記制御工程が、昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御するものである。このように、前記制御工程が、昼間には、前記培養槽に炭素源を供給し、夜間には、前記培養槽に窒素源を供給するように制御することから、夜間に光合成を行わない状態で窒素源が積極的に蓄えられた藻類が、昼間には、炭素源を供給されて、より活発に光合成を行えることとなり、窒素源及び炭素源の供給が、さらに時間帯に応じて最適になされて、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0028】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、必要に応じて、前記培養槽が、第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、を備え、前記制御工程が、昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げるものである。
【0029】
このように、前記培養槽が、第一の藻類を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽と、第二の藻類を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽と、を備え、前記制御工程が、昼間から夜間への切り替え時には、前記海水培養槽から前記淡水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、前記淡水培養槽から前記海水培養槽に培養溶液を輸送して前記培養槽全体の培養溶液の塩分濃度を下げることから、夜間に光合成を行わない状態で塩分濃度が高い培養溶液で育成された藻類が、昼間には、塩分濃度が低い培養溶液で育成されて、培養溶液がより高濃度の酸素溶存を可能とした状態で活発に光合成を行えることとなり、さらに高濃度の酸素溶存を可能とした状態で、藻類がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0030】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、必要に応じて、前記培養工程が、前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射工程と、を含むものである。このように、前記培養工程が、前記培養槽の上面及び/又は側面から光を照射する光照射工程と、を含むことから、藻類がより光合成しやすい光源を受けて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0031】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、必要に応じて、前記培養工程が、前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌工程を含むものである。このように、前記培養工程が、前記培養槽を間欠的に攪拌する攪拌工程を含むことから、藻類がより光合成しやすい培養溶液の循環流れが形成されて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0032】
また、本願に開示する高濃度酸素水製造方法は、必要に応じて、前記採水工程が、前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入部と、前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉部と、を含むものである。このように、前記採水工程が、前記培養槽中の培養溶液を収容容器の内壁面に沿って注入する注入部と、前記注入部で注入された前記収容容器を加圧密閉する密閉部と、を含むことから、溶存酸素が高濃度に維持されたまま高濃度酸素水を密閉された収容容器内に得ることができ、より高い溶存酸素の濃度を維持した状態の高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0033】
また、本願に開示する高濃度酸素水は、前記高濃度酸素水製造方法の前記採水工程により得られた高濃度酸素水であって、溶存酸素量が、飽和溶存酸素量の2倍~3倍の過飽和状態であるものである。このように、前記高濃度酸素水製造方法の前記採水工程により得られた高濃度酸素水であって、溶存酸素量が、飽和溶存酸素量の2倍~3倍の過飽和状態であることから、前記高濃度酸素水製造方法の藻類の光合成による高濃度の溶存状態が維持された高濃度酸素水が確実に得られることとなり、より高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの機能ブロックを示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムのフローチャートを示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの機能ブロックを示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムのフローチャートを示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの機能ブロックを示す図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの機能ブロックを示す図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの機能ブロックを示す図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムのフローチャートを示す図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの注入手段を示す図である。
【
図10】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの送水ポンプ510の一例を示す図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの加圧密閉を示す図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムの全体例を示す図である。
【
図13】本発明の実施例1に係る高濃度酸素水製造システムで製造された高濃度酸素水の溶存酸素濃度の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムは、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造システムにおいて、藻類100を培養する培養溶液200を収容した水槽から構成される培養槽1と、この培養槽1に窒素源を供給する窒素源供給手段2と、この培養槽1に炭素源を供給する炭素源供給手段3と、時期に応じてこの窒素源供給手段2及びこの炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段4と、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る採水手段5と、を備える構成である。
【0036】
この培養槽1は、その材質や形状は特に限定されず、例えば、プラスチック製でもよいし、金属製でもよい。
【0037】
この培養槽1中に培養される藻類100としては、海水性でもよいし、淡水性のものでもよい。海水性であれば、不稔性アオサ又は海苔が好適であり、例えば、紅藻類100又は緑藻類100を用いることがより好適であり、紅藻類100としては、例えば、スサビノリ(Porphyra yezoensis Ueda)またはナラワスサビノリ(Neopyropia yezoensis f. narawaensis)を用いることができる。
【0038】
この藻類100である緑藻類100としては、例えば、アオサ属の藻類100を用いることが好適であり、例えば、不稔性アオサとして知られているUlva lactuca及び/又はUlva pertusaを用いることができ、また、通称「あおさ」として知られているアナアオサ、リボンアオサ、アミアオサ、及び/又はミナミアオサを用いることができ、また、通称「青のり」として知られているすじ青のり、うすば青のり、ひら青のり、Porphyra Ueda、及び/又はNeopyropia vezoensis f.narawaensisを用いることができる。この他にも、緑藻類100として、例えば、ヒトエグサ属の藻類100を用いることも可能である。
【0039】
淡水性の藻類100としては、特に限定されないが、陸生藍藻を用いることができ、このうち入手容易性や取り扱いの容易性から、イシクラゲであることが好適である。イシクラゲは、食用も可能であることから、様々な用途における利用に際しても、高い安全性が確保される。
【0040】
この培養槽1は、この藻類100を培養する培養溶液200を収容する。培養溶液200は、藻類100の種類や生育条件に応じて、海水でもよいし淡水でもよい。
【0041】
この培養溶液200として海水を用いる場合には、海域から採水した海水をそのまま用いてもよいが、海水をろ過して用いることも可能である。海水であれば特に限定されないが、海洋深層水、又は海洋深層水を含む海洋中層水が好ましく、特に海洋深層水が好ましい。このように、栄養分豊富であり且つ熱源としても利用可能な海洋深層水を原料とすることにより、藻類100における栄養分及び温度についての育成条件が天然由来の海洋深層水によって高められることとなり、藻類100をさらに効率的に培養できることで、溶存酸素量を増大させることができる。
【0042】
また、この培養溶液200として淡水を用いる場合には、淡水をそのまま用いてもよく、また淡水をろ過して用いることも可能である。
【0043】
この窒素源供給手段2が供給する窒素源は、この藻類100の栄養分となる。窒素源としては、無機物の窒素(NO3-N等)や有機物の窒素(堆肥の熱水抽出物のろ過液等)を用いることができる。
【0044】
また、この炭素源供給手段3が供給する炭素源は、この藻類100の光合成の原料となる。炭素源としては、二酸化炭素(CO2)を用いることができる。
【0045】
この窒素源供給手段2及び炭素源供給手段3は、気体または液体を輸送する手段であれば特に限定されないが、例えば、ポンプを用いることができ、連続式でもよいし間歇式でもよく、用途に応じて、適宜選択可能である。
【0046】
この制御手段4は、時期に応じて窒素源供給手段2及び炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する。時期に応じた制御とは、例えば、1日のうちの昼間や夜間に応じて制御することや、1年のうちの四季に応じて制御することが挙げられる。
【0047】
この採水手段5では、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る。この採水に際しての藻類100と培養溶液200との分別には、特に限定されないが、メッシュによるろ過を用いることができる。藻類100と培養溶液200の分別後の藻類100を用途先へ供給することや、その一部を培養溶液200に戻して再利用することも可能である。
【0048】
上記構成の本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムを用いて、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造方法の流れを、
図2のフローチャートに従って説明する。
【0049】
まず、培養槽1中の培養溶液200で藻類100を培養する(S1:培養工程)。藻類100としては、特に限定されないが、上述の海産性のアオサや淡水性のイシクラゲが好適である。これらの藻類100は、光が射す条件下で、炭素源等の栄養源をもとに以下化学反応の光合成を行い、酸素を発生する。
光合成:CO2+H2O → CH2O (114kcal)+O2
【0050】
この藻類100の培養濃度は、特に限定されないが、乾燥重量当たり0.2~0.3%が好適であり、特に0.25%の場合がより攪拌性がスムーズに行え、受光が容易になり易いため、酸素発生が容易となり好適である。
【0051】
この藻類100の栄養源として、この窒素源供給手段2は、この培養槽1に窒素源を供給する(S2:窒素源供給工程)。窒素源としては、無機物の窒素(NO3-N等)や有機物の窒素(堆肥の熱水抽出物のろ過液等)を用いることができる。より好適には、藻類100を窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)を含む堆肥の熱水抽出物を栄養源にエアーレーション下で培養を行うことであり、栄養的にも好適である。
【0052】
さらに、この炭素源供給手段3が、この培養槽1に炭素源を供給する(S3:炭素源供給工程)。炭素源としては、二酸化炭素(CO2)を用いることができる。この炭素源は、藻類100による光合成の原料となり、光合成の促進がなされる。
【0053】
この炭素源供給手段3が、この培養槽1へ炭素源を供給する時期は、昼間の日照時間帯であること、特に昼間~夕方であることが好ましい。この日照時間帯では、藻類100の光合成活動が呼吸活動よりも比重が高い時間帯であることから、光合成により高い溶存酸素量の培養溶液200が生成される。
【0054】
次に、この制御手段4が、時期に応じてこの窒素源供給手段2及びこの炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する(S4:制御工程)。例えば、この制御手段4の窒素濃度に対する制御としては、窒素濃度を測定計測して、0.3~1.5 ppmに濃度制御しながら培養を行うことが好適である。なお、窒素濃度が2 ppmを超えると珪藻などの他の藻類100が生えやすくなり、コンタミの要因となる。また、藻類100として海苔を用いる場合は、 0.3~0.8 ppmに濃度制御しながら培養を行うことがより好適である。
【0055】
この制御手段4による時期に応じた制御としては、特に限定されないが、例えば、昼間と夜間との切り替え時期に応じた制御が可能である。例えば、この制御手段4は、昼間にはこの培養槽1に炭素源を供給し、夜間にはこの培養槽1に窒素源を供給するようにこの窒素源供給手段2及びこの炭素源供給手段3を制御することができる。この培養槽1への窒素源の供給時期が、この藻類100が光合成を行っていない夜間の時間帯であることから、この藻類100に栄養源である窒素源が夜間に集中的に供給される。
【0056】
このように、この制御手段4が、昼間には、この培養槽1に炭素源を供給し、夜間には、この培養槽1に窒素源を供給するように制御することから、夜間に光合成を行わない状態で窒素源が積極的に蓄えられた藻類100が、昼間には、炭素源を供給されて、より活発に光合成を行えることとなり、窒素源及び炭素源の供給が、さらに時間帯に応じて最適になされて、藻類100がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0057】
さらに、この制御手段4は、各培養槽1内の計測された温度と溶存酸素の結果に基づいて窒素源、炭素源、及び温度の制御を行うことも可能である。この場合には、各培養槽1内の培養溶液200の溶存酸素量と温度を常時計測しておく。この培養溶液200の溶存酸素量は、例えば、予め計測した溶存酸素保持データ、または非接触による溶存酸素計測データに基づいて計測可能である。
【0058】
この制御手段4は、この計測データに基づいて、この培養溶液200の溶存酸素量が目標値となるように制御することや、今後の変動予測を行ったうえで制御することができる。この培養溶液200の温度制御に利用可能な熱源としては、地中熱、海洋深層水(含む海洋中層水)が挙げられ、熱源との熱交換には熱交換率の高いプレート式熱交換器が挙げられる。
【0059】
いずれの藻類100であっても、通年生産できることが前提であることから、その通年生産にとって、この制御手段4による温度コントロールが有効である。より好適には、培養槽1内を15~25℃の範囲で温度制御することによって、藻類100の安定培養が可能となる。
【0060】
この制御手段4の制御により、不稔性アオサ等の藻類100の光合成が活発化されることとなり、その溶存酸素量が10 ppm以上という極めて過飽和な状態が得られる。例えば、不稔性アオサは、一般に、30℃でも旺盛に生育し、32℃の高温下でも生育し、その際の溶存酸素量は10 ppmという過飽和な状態となることが知られているが、これを遥かに上回る過飽和な状態が得られる(後述の実施例参照)。
【0061】
ここで、過飽和な状態とは、平衡状態で溶存可能な量(ある温度における飽和量)よりも多くの酸素が溶液に溶存している状態を意味する。
【0062】
次に、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る(S5:採水工程)。採水に際しては、その方法は特に限定されない。これにより、溶存酸素量が、飽和溶存酸素量の2倍~3倍の過飽和状態の高濃度酸素水が得られることが確認されている(後述の実施例参照)。
【0063】
このように、溶存酸素量が、飽和溶存酸素量の2倍~3倍の過飽和状態の高濃度酸素水が得られることから、藻類100の光合成による高濃度の溶存状態が維持された高濃度酸素水が確実に得られることとなり、より高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0064】
この優れたメカニズムは、詳細には判明していないが、藻類100の光合成により発生する酸素が非常に微細な特有のサイズを有しており、すなわち、単に酸素高圧ガスを溶液に溶解させたような人工的な加圧プロセスで得られる溶存酸素よりも非常に微細化されており、これにより酸素分子が培養溶液200中に高密度に分散して溶存している状態が維持されていることが推察される。
【0065】
このように、本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムにおいて、藻類100を培養する培養溶液200を収容した水槽から構成される培養槽1と、この培養槽1に窒素源を供給する窒素源供給手段2と、この培養槽1に炭素源を供給する炭素源供給手段3と、時期に応じてこの窒素源供給手段2及びこの炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する制御手段4と、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る採水手段5と、を備えることから、窒素源及び炭素源の供給が、時期に応じて最適になされて、藻類100がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0066】
さらに、この制御手段4による時期に応じた制御としては、上記のみならず、塩分(NaCl)濃度も含めた制御も可能である。
【0067】
例えば、
図3に示すように、この培養槽1が、第一の藻類110を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽11と、第二の藻類120を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽12と、を備えると共に、この制御手段4が、昼間から夜間への切り替え時には、この海水培養槽11からこの淡水培養槽12に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、この淡水培養槽12からこの海水培養槽11に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を下げることができる。
【0068】
この海水培養槽11中に培養される第一の藻類110としては、特に限定されないが、上述の不稔性アオサ又は海苔が好適である。
【0069】
この海水培養槽11に収容される海水としては、上述のように、海水をそのまま用いてもよいが、海水をろ過して用いることも可能である。海水であれば特に限定されないが、海洋深層水、又は海洋深層水を含む海洋中層水が好適であり、特に海洋深層水が好適である。
【0070】
この淡水培養槽12中に培養される第二の藻類120としては、特に限定されないが、陸生藍藻を用いることができ、このうち上述のイシクラゲが好適である。
【0071】
このように、光が射す条件下で、海水性の不稔性アオサ又は海苔だけではなく、淡水性のイシクラゲをエアレーション下で培養することで、培養で利用した溶存酸素濃度の高い海水または淡水を得ることが可能となり、また後述のように封入・保管することも可能となる。また、生産したアオサ又は海苔、イシクラゲ自体も産業的価値が高いことから、各種用途に有効利用することができる。
【0072】
このように、この第一の藻類110が、不稔性アオサ又は海苔であり、この第二の藻類120が、イシクラゲであることにより、入手が容易で低コストな原料を用いて高濃度酸素水が得られることとなり、より低コストで高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0073】
上記構成の本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムを用いて、塩分(NaCl)濃度の制御も含めて高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造方法の流れを、
図4のフローチャートに従って説明する。
【0074】
図4に示すように、この制御手段4が、まず、昼間から夜間への切り替え時には、この海水培養槽11からこの淡水培養槽12に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を上げる(S41)。
【0075】
これにより、培養溶液200が汽水(淡水と海水とを混合して形成される中間的な塩分濃度を有する溶液)状態となり、汽水を用いての藻類100の培養も可能となる。この培養溶液200が汽水に近い塩分濃度となることで、この培養溶液200から最終的に得られた高濃度酸素水は、例えば、汽水で生育するシジミ貝の養殖にも利用することも可能となる。
【0076】
また、夜間から昼間への切り替え時には、この淡水培養槽12からこの海水培養槽11に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を下げる(S42)。
【0077】
これにより、藻類100が光合成を行う昼間には、より低い塩分濃度で光合成を行えることから、培養溶液200における溶存酸素の領域が増大することで、溶存酸素量をより高めることができる。
【0078】
また、この切り替えにより、この淡水培養槽12からこの海水培養槽11に培養海水性の藻類100を、淡水に馴れさせる(馴化)こともできる。これにより例えば、汽水で海藻を容易に培養することも可能となる。
【0079】
次に、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る(S5:採水工程)。すなわち、各培養槽1ごとに、海水側採水手段5aはこの海水培養槽11中の培養溶液200を採水し、淡水側採水手段5bはこの淡水培養槽12中の培養溶液200を採水する。
【0080】
このように、この培養槽1が、第一の藻類110を培養するための海水を収容した水槽から成る海水培養槽11と、第二の藻類120を培養するための淡水を収容した水槽から成る淡水培養槽12と、を備え、この制御手段4が、昼間から夜間への切り替え時には、この海水培養槽11からこの淡水培養槽12に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を上げると共に、夜間から昼間への切り替え時には、この淡水培養槽12からこの海水培養槽11に培養溶液200を輸送してこの培養槽1全体の培養溶液200の塩分濃度を下げることから、夜間に光合成を行わない状態で塩分濃度が高い培養溶液200で育成された藻類100が、昼間には、塩分濃度が低い培養溶液200で育成されて、培養溶液200がより高濃度の酸素溶存を可能とした状態で活発に光合成を行えることとなり、さらに高濃度の酸素溶存を可能とした状態で、藻類100がより高効率で光合成しやすい状況が形成されることとなり、高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0081】
従来の高濃度酸素水製造システムでは、大きなエネルギー消費を前提として、高濃度酸素水が製造されているのに対して、本実施形態では、自然エネルギーの源である光エネルギーによる光合成を利用して省エネルギーで過飽和状態の高濃度酸素水が製造できる。
【0082】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムは、上記の第1の実施形態と同様に、前記培養槽1と、前記窒素源供給手段2と、前記炭素源供給手段3と、前記制御手段4と、前記採水手段5と、を備え、さらに、
図5に示すように、前記培養槽1の上面及び/又は側面から光を照射する光照射手段6と、を備える構成である。
【0083】
すなわち、本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムは、
図5に示すように、この培養槽1の上面から光を照射する上面光照射手段61、及び/又は、この培養槽1の側面から光を照射する側面光照射手段62を備える。
【0084】
処理の流れとしては、上記
図2のフローチャートの培養工程において、この培養槽1の上面及び/又は側面から光を照射する光照射工程を含むものとなる。この構成によって、特に側面光照射手段6による藻類100の光合成促進作用が確認されている(後述の実施例参照)。
【0085】
このように、この培養槽1の上面及び/又は側面から光を照射する光照射手段6と、を備えることから、藻類100がより光合成しやすい光源を受けて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0086】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムは、上記の第1の実施形態と同様に、前記培養槽1と、前記窒素源供給手段2と、前記炭素源供給手段3と、前記制御手段4と、前記採水手段5と、を備え、
図6に示すように、前記培養槽1を間欠的に攪拌する攪拌手段7を備える構成である。
【0087】
この攪拌手段7としては、特に限定されないが、例えば、ミキサー型の撹拌機や、超音波撹拌機を用いることができる。例えば、
図6に示すように、撹拌機の先端の羽根状プロペラが回転し、この羽根の回転力で、培養溶液200の全体が攪拌される。
【0088】
処理の流れとしては、上記
図2のフローチャートの培養工程において、この培養槽1を間欠的に攪拌する攪拌工程を含むものとなる。間欠的な攪拌とは、経時的に、攪拌の実施と停止を繰り返すことを意味する。
【0089】
この間欠的な攪拌としては、特に限定されないが、例えば、1~5分曝気後、1~5時間放置することが可能である。例えば、2分曝気後2時間放置(静置)することや、例えば、3分曝気後57分放置(静置)すること等が可能であり、その結果として、培養溶液200中の溶存酸素量が20 ppm以上もの高値まで上昇することが確認されている(後述の実施例参照)。
【0090】
このように、本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムでは、この培養槽1を間欠的に攪拌する攪拌手段7を備えることから、藻類100がより光合成しやすい培養溶液200の循環流れが形成されて光合成が促進されることとなり、より高効率で高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0091】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムは、上記の第1の実施形態と同様に、前記培養槽1と、前記窒素源供給手段2と、前記炭素源供給手段3と、前記制御手段4と、前記採水手段5と、を備え、さらに、
図7に示すように、前記採水手段5が、前記培養槽1中の培養溶液200を収容容器300の内壁面300aに沿って注入する注入部51と、前記注入部51で注入された前記収容容器300を加圧密閉する密閉部52と、を備える構成である。
【0092】
上記構成の本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムを用いて、高濃度酸素水を製造する高濃度酸素水製造方法の流れを、
図8のフローチャートに従って説明する。
【0093】
図8に示すように、上記第1の実施形態に係る高濃度酸素水製造システムと同様に、まず、培養槽1中の培養溶液200で藻類100を培養し(S1:培養工程)、前記窒素源供給手段2は、前記培養槽1に窒素源を供給し(S2:窒素源供給工程)、前記炭素源供給手段3が、前記培養槽1に炭素源を供給し(S3:炭素源供給工程)。前記制御手段4が、時期に応じて前記窒素源供給手段2及び前記炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する(S4:制御工程)。
【0094】
次に、この培養槽1中の培養溶液200を採水して高濃度酸素水を得る(S5:採水工程)。まず、前記注入部51が、この培養槽1中の培養溶液200を収容容器300の内壁面300aに沿って注入する(S51:注入工程)。
【0095】
この注入部51では、この培養槽1中の培養溶液200を、加圧状態で密閉できる密封容器である収容容器300に、外部から培養溶液200に気泡が入らないような流速で容器内側面(内壁面300a)に沿って供給し、容器上限ギリギリまで注入する。この密封容器(収容容器300)は、上部空隙が少ないことが好ましい。この培養槽1中の培養溶液200は、メッシュ等によりろ過したものを使用することが好ましい。
【0096】
より好適には、
図9に示すように、注入時にこの収容容器300を角度α(0°<α≦45°)に傾斜させることであり、これにより、上部空隙が少ない収容容器300に泡立てないように傾斜の付いた収容容器300の内壁面300aに沿って注入することが可能となる。
【0097】
また、この注入部51の注入としては、
図10に示すように、シリコン等で形成された軟質チューブ510bをローラー部510aでしごいて送液する送水ポンプ510を用いることができ、例えば、ペリスタポンプ(登録商標)を用いることができる。また、
図10に示すように、ペリスタポンプ(登録商標)で注入する場合には、管である軟質チューブ510bに重し300bを収容容器300の底面に設置した状態で注入することで、溶存酸素が過飽和状態に維持された状態で収容容器300へ注入することが可能となる。この重し300bとしては、特に限定されないが、例えば、ピンチコック等の金具を用いることができる。
【0098】
次に、この注入部51で培養溶液200が注入されたこの収容容器300を加圧密閉する(S52:密閉工程)。この加圧密閉は、特に限定されないが、
図11に示すように、空隙をできるだけ無くして、加圧して培養溶液200を溢れさせた状態で栓310をすることが好適である。この栓310としては、例えば、コルクを用いることができ、収容容器300内に入った培養溶液200にコルク様の密栓をすることで加圧しつつしっかりと密封させることができる。
【0099】
このように、この採水手段5が、この培養槽1中の培養溶液200を収容容器300の内壁面300aに沿って注入する注入部51と、この注入部51で注入されたこの収容容器300を加圧密閉する密閉部52と、を備えることから、溶存酸素が高濃度に維持されたまま高濃度酸素水を密閉された収容容器300内に得ることができ、より高い溶存酸素の濃度を維持した状態の高品質な高濃度酸素水を製造することができる。
【0100】
以上の各工程を用いてスケールアップすることも可能である。そのような高濃度酸素水製造システムの一例としては、例えば、
図12に示すように、例えば、不稔性アオサやイシクラゲを含む藻類100の光合成を活用して高濃度溶存酸素水を製造し、かつ、高濃度溶存酸素を維持保存し、高濃度酸素を必要とするサイトへ供給することを可能とすることができる。
【0101】
この
図12に示すように、本実施形態に係る高濃度酸素水製造システムを用いて、上記同様に、まず、不稔性アオサやイシクラゲを含む藻類100をこの培養槽1で培養する(S1:培養工程)。また、この培養溶液200の溶存酸素量データと温度を計測して温度計測データを得る(S11:計測工程)。
【0102】
培養により藻類100が経時的に増殖するにつれて、光合成から生じる酸素が発生する。その酸素は溶存酸素計測にて計測可能であり、上記の温度計測データを元に溶存酸素測定結果としての飽和度が算出できる。例えば、測定温度での酸素飽和度が70%以上になった際に、アラーム発信する等によって、藻類100と培養溶液200の分別にろ過装置を用いて分別することができる。
【0103】
また、上記同様に、前記窒素源供給手段2が、前記培養槽1に窒素源を供給し(S2:窒素源供給工程)、前記炭素源供給手段3が、前記培養槽1に炭素源を供給し(S3:炭素源供給工程)、前記制御手段4が、時期に応じて前記窒素源供給手段2及び前記炭素源供給手段3による窒素源及び炭素源の供給を制御する(S4:制御工程)。
【0104】
次に、藻類100と培養溶液200の分別を行う(S12:分別工程)。この培養溶液200と藻類100との分別には、メッシュによるろ過を用いることができる。この分別後の藻類100を用途先へ供給することや、その一部を培養溶液200に戻して再利用することも可能である(S13:再利用工程)。
【0105】
次に、上記同様に、この培養槽1中の培養溶液200を収容容器300の内壁面300aに沿って注入し(S51:注入工程)、培養溶液200が注入されたこの収容容器300を加圧密閉する(S52:密閉工程)。本発明者らは、ここで得た高濃度酸素水が、瓶詰めされた密封状態で最低でも10日間は高濃度酸素が維持され、最長1ヶ月でも維持できることを確認しており、実効的な有効期限の設定も可能となる。
【0106】
次に、この収容容器300が瓶詰めされた密封状態を維持できることから、この培養溶液200が封入されたこの収容容器300を倉庫等の冷暗所で保管できる(S6:保管工程)。この保管された収容容器300を選別し、各種の利用場所・需要先へトラック等を用いて運搬することができる(S7:運搬工程)。
【0107】
この収容容器300が瓶詰めされた密封状態を維持できることから、利用先の必要量と利用時間に応じ、高濃度溶存酸素を供給することが容易に可能となる。すなわち、利用先のニーズに応じ、封入した過飽和溶存酸素水を保管場所からニーズ先に迅速かつ簡易に供給することができ、過飽和溶存酸素水の製造から需要先へ供給するシステムが構築される。
【0108】
この利用場所としては、特に限定されず、広範な分野に利用できる。例えば牡蠣場等の二枚貝陸上養殖場や、海苔やアワビやナマコ等の養殖場が挙げられる。これらは高級食材であり贈答用の需要も高く、本実施形態に係る高濃度酸素水を養殖に用いることにより、生育が促進されて高品質な海産物が得られることとなり、贈答用の海産物としての市場価値を高めることができる。さらに、魚類の解体工場、植物工場、さらには化粧水製造所等が挙げられる。特に化粧水の用途の場合には、ろ過処理等によって、過飽和溶存酸素水を脱塩して利用することが好適である。このろ過処理には、逆浸透膜(RO膜)、ナノろ過膜(NF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、限界ろ過膜(UF膜)等のろ過膜を用いることができ、このうち例えば、逆浸透膜(RO膜)を用いることができる。またこの化粧水の用途の場合には、原料として、溶媒溶液が塩分濃度の低い淡水を利用することが好適である。また、上述の魚類の解体工場における利用としては、鮮魚の血抜き処理が挙げられ、過飽和溶存酸素水を利用することで鮮魚の鮮度向上効果が得られる。
【0109】
このように、本実施形態によれば、藻類100の光合成を活用し、高濃度溶存酸素を含む培養溶液200を供給できると共に、その培養溶液200の溶存酸素を高濃度に維持した状態で保管できることから、利用先の必要量と利用時間に応じ、高濃度溶存酸素を自在に供給することが可能となる。
【0110】
以下、本発明を説明するための具体例として実施例を挙げるが、これは具体例の1つであり、この実施例に本発明が限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
上記実施形態4に記載の高濃度酸素水製造システムで密封して10日間保持した高濃度酸素水の溶存酸素の濃度推移と過飽和度の割合を測定した結果を
図13に示す。縦軸は、計測時の溶存酸素濃度(ppm)を丸印として示す(右側縦軸)と共に、この溶存酸素濃度について計測時の温度における溶存酸素濃度の飽和量に対する過飽和度の割合(倍率)を棒グラフとして示す(左側縦軸)。
【0112】
その結果から、得られた高濃度酸素水は、密封して10日経過後にも、その溶存酸素濃度が約20 ppmであったことから、溶存酸素量の過飽和度が2倍~3倍が維持されており、上記実施形態4に記載の高濃度酸素水製造システムによって、高濃度に酸素の過飽和状態を維持した状態で、高濃度酸素水が保管できることが確認された。
【0113】
(実施例2)
過飽和形成条件(濃度)の確認
(1)保管中の高濃度酸素水の過飽和状態の特定
上記の実施形態4に記載の高濃度酸素水製造システムの保管工程(S6)で保管された収容容器300について、高濃度酸素水の過飽和状態の特定を行った。手法としては、高濃度酸素水の過飽和溶存酸素を未開封非接触で計測する手段:蛍光エネルギーを用いた光学的計測手法(https://www.sanyo-si.com/products/detail/oxy-1-sma-trace/?taxo=maker&parent_id=406)を採用した。また、過飽和溶存酸素維持データからの期限管理についても特定した。
(2)NO3-N濃度の影響
以下条件で、NO3-N濃度の影響を確認した。
(a)NO3-N濃度が晴天時0.07 ppm以下(0.02 ppm~0.07 ppm)の場合、初期溶存酸素(DO)6.6 ppmから、2.5時間後で変動はなかった。
(b)NO3-N濃度が晴天時1 ppmの場合、初期溶存酸素(DO)5.6 ppmから、1時間後で12.6 ppmに増加した。
(c)NO3-N濃度が曇天時1 ppmの場合、初期溶存酸素(DO)5.9 ppmから、1時間後で9.5 ppmに増加した。
(3)藻類100濃度の影響
以下条件で、溶媒溶液中の藻類100濃度(アオサ添加濃度)の影響を確認した。
(a)NO3-Nの初期濃度を0.8 ppmとし、1時間毎に0.8 ppmになるようアオサ添加した場合、1時間でNO3-Nは0.3~0.5 ppmに減少した。
(b)37L培養槽に晴天時アオサ添加量130 gの場合、初期溶存酸素(DO)7.2 ppmから、2時間後に11.6 ppmに増加した。
(c)37L培養槽に晴天時アオサ添加量350 gの場合、初期溶存酸素(DO)が7.5 ppmから、2時間後に15.3 ppmに増加した。
(d)37L培養槽に晴天時アオサ添加量350 gの場合、初期溶存酸素(DO)が6.6 ppmから、2時間後に12.0 ppm、3時間後に14. 1 ppmに増加した。
(e)37L培養槽に晴天時アオサ添加量500 gの場合、初期溶存酸素(DO)が5.8 ppmから、2時間後に14.3 ppm,3時間後に16.9 ppmに増加した。
(f)37L培養槽に晴天時アオサ添加量晴天時アオサ投入量500 gの場合、初期溶存酸素(DO)6.4 ppmから、2時間後に14.7 ppmに増加した。
(g)37L培養槽に晴天時アオサ添加量晴天時アオサ投入量600 gの場合、初期溶存酸素(DO)6.5 ppmから、2時間後に13.8 ppmに増加した。
(4)まとめ
晴天時アオサ投入量600 gの場合には攪拌ができず滞留を観察した。晴天時アオサ投入量500gの場合には、その滞留が無く、スムーズに攪拌ができた。
以上のことから、溶媒溶液中の藻類100濃度について、37 L培養槽へ500 gを入れた際の濃度(乾燥重量比)、すなわち、0.2%(2 g-dry/L)の藻類100濃度がより好適であることが確認された。
【0114】
(実施例3)
過飽和形成条件(温度)の確認
培養槽中の培養溶液200で藻類100を培養する培養工程(S1)における温度の影響を確認し、以下の結果を得た。
(a)36℃ではアオサ全個体が白化し光合成できなかった。
(b)32℃が続くとアオサ一部個体が白化、光合成が低下した。
(c)アオサの増殖速度は15 ℃を下回る日では低下傾向であった(平山ら、日本海水学会誌 第76 巻 第1 号 50-54(2022))。
(d)酸素飽和濃度を高くするには、以下のように低温が有利であった。
(e)牡蠣の養殖用には27℃未満での生育が好ましい(S. Akashige, Y. Hirata, K. Takayama, K. Soramoto, Seasonal changes in oxygen consumption rates and filtration rates of the cultured Pacific oyster Crassostrea gigas,
NIPPON SUISAN GAKKAISHI, 71, 762-767 (2005) (Japanese))。
(f)上記から16℃~27℃がより良いことが確認された。
「エアレーションによる海水中の飽和溶存酸素量(参考値)」
15℃ 7.98 ppm(mg/L) : この温度での過飽和濃度を1とする
20℃ 7.20 ppm (mg/L): 同上
25℃ 6.53 ppm (mg/L): 同上
30℃ 5.95 ppm (mg/L): 同上
【0115】
(実施例4)
過飽和形成条件(光入射)の確認
(1)培養槽側面からの光入射の影響の確認
NO3-Nの初期濃度を0.8 ppmとして、アオサ500 gを37L培養槽へ投入した。
(a)遮光有りの場合、初期溶存酸素(DO)5.5 ppmから、1.5時間後に9.8 ppmに増加し、3時間後に11.0 ppmに増加した。
(b)遮光無しの場合、初期溶存酸素(DO)5.6 ppmから、1.5時間後に13.3 ppmに増加し、3時間後に23.4 ppmに増加した。
(c)上記の結果から、高濃度の溶存酸素(DO)形成には光の受光量が大きな要因であることが確認された。次に、培養槽の各照射面での光強度の差を以下検証した。
(2)培養槽の上下面
(a)遮光有りの場合の光強度は、培養槽の上面2,520.0 μmol m-2s-1、培養槽の下面44.5 μmol m-2s-1であった。
(b)遮光無しの場合の光強度は、培養槽の上面2,520.0 μmol m-2s-1、下面47.0 μmol m-2s-1であった。
(c)上記の結果から、培養槽上面と下面の光強度の差はわずか(ほぼ同じ)であった。
(3)培養槽側面の光入射状況
(a)遮光有りの場合の光強度は、ゼロ(0)μmol m-2s-1であった。
(b)遮光無しの場合の光強度は、1551.7 μmol m-2s-1と上面の約6割の光強度を示した。
(c)上記の結果から、培養槽中心部の側面方向の光強度は大きな違いがあった。すなわち、側面からの受光面積を増加させることで、溶媒溶液に高濃度の溶存酸素(DO)形成が可能となることが確認された。
【0116】
以上の結果から、特に好適には、晴天、側面からの受光、NO3-N濃度0.8 ppm、温度16~27℃、藻類100濃度(アオサ濃度)0.2%(=2 g-dry/L)の条件がより好適であることが確認された。特に、これらの側面受光、温度、N濃度の詳細は、従来技術では明らかにされておらず、新しい知見であった。
【0117】
(実施例5)
過飽和形成条件(間欠的攪拌)の確認
KNO3(0.5mmol/L)を7mL添加した37 L培養槽にアオサ500 gを投入した。前日夜(日没後)に培養液(海水)の入替を行った。昼間のN添加なしで、一晩ゆっくり曝気するという連続曝気(連続エアレーション)を行った。
【0118】
これに対して、間欠的な攪拌として、3分曝気後57分放置(静置)を繰り返すという間欠曝気(間欠エアレーション)を行った。得られた結果を以下の表に示す。この結果から、間欠的攪拌としての間欠曝気(間欠エアレーション)によって、5時間経過後の培養溶液中の溶存酸素量(DO)が、連続曝気の約2倍に相当する23.5 ppmという高値まで上昇することが確認された。
【0119】
【0120】
(実施例6)
上記の実施形態4に記載の高濃度酸素水製造システムの注入工程(S51)における、注入時の溶媒溶液の落下による溶存酸素量の影響を確認した。得られた結果を以下の表に示す。
【0121】
【0122】
上記の得られた結果から、溶媒溶液を自然落下により注入する場合には溶存酸素量が低下することが確認された。このことから、溶存酸素の過飽和度について、注入時に自然落下を行わないこと、すなわち、上述の注入工程(S51)の注入部51における注入操作が、溶媒溶液の溶存酸素の過飽和度状態を維持でき、好適であることが確認された。
【符号の説明】
【0123】
1 培養槽
11 海水培養槽
12 淡水培養槽
2 窒素源供給手段
3 炭素源供給手段
4 制御手段
5 採水手段
5a 海水側採水手段
5b 淡水側採水手段
51 注入部
510 送水ポンプ
510a ローラー部
510b 軟質チューブ
52 密閉部
6 光照射手段
61 上面光照射手段
62 側面光照射手段
7 攪拌手段
100 藻類
110 第一の藻類
120 第二の藻類
200 培養溶液
210 海水側培養溶液
220 淡水側培養溶液
300 収容容器
300a 内壁面
300b 重し
310 栓