(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014741
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】細胞培養装置及び細胞数算出方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240125BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240125BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240125BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 D
C12Q1/06
C12N1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099514
(22)【出願日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2022116656
(32)【優先日】2022-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】今高 寛人
(72)【発明者】
【氏名】山内 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】須田 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】占部 雄士
(72)【発明者】
【氏名】加納 伸吾
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029FA11
4B029GA08
4B029GB10
4B063QA01
4B063QQ15
4B063QS28
4B063QS36
4B063QX02
4B065BC11
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】細胞数を正確に算出することが可能な細胞培養装置及び細胞数算出方法を提供する。
【解決手段】細胞培養装置1は、培地中の乳酸濃度を測定するセンサ26を有する。センサ26は、細胞の培養中における培養容器21内の培地中の乳酸濃度を第1物理量として測定する。また、センサ26は、供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度の出力値、すなわち、培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定する。さらに、細胞培養装置1は、第1物理量の値から誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量の値に基づいて、培養容器21内の細胞数を算出する算出部14を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び培地が収容され、細胞を培養するための培養容器と、
前記細胞の増殖に伴って増加する前記細胞の代謝物の物理量について、前記細胞の培養中における前記培養容器内の前記培地中の前記物理量である第1物理量と、前記培養容器に供給される培地中の前記物理量の出力値である誤差出力値と、を測定するセンサと、
前記第1物理量の値から前記誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて、前記培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出手段と、
を備えることを特徴とする細胞培養装置。
【請求項2】
1つの前記センサが、前記第1物理量と前記誤差出力値の両方を測定することを特徴とする請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記培養容器内の前記培地は、培養の途中で交換されるものであり、
前記センサは、前記誤差出力値として、前記培地の交換が行われるときに前記培養容器に新たに供給される前記培地中の前記物理量の出力値を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記第1物理量は、乳酸の濃度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
細胞及び培地が収容され、細胞を培養するための培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出方法であって、
前記細胞の増殖に伴って増加する前記細胞の代謝物の物理量について、前記細胞の培養中における前記培養容器内の前記培地中の前記物理量である第1物理量を測定する第1測定工程と、
前記培養容器に供給される培地中の前記物理量の出力値である誤差出力値を測定する第2測定工程と、
前記第1物理量の値から前記誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて、前記培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出工程と、
を実行することを特徴とする細胞数算出方法。
【請求項6】
前記培養容器内の前記培地は、培養の途中で交換されるものであり、
前記第2測定工程においては、前記誤差出力値として、前記培地の交換が行われるときに前記培養容器に新たに供給される前記培地中の前記物理量の出力値を測定することを特徴とする請求項5に記載の細胞数算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置及び細胞数算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、培養容器内で細胞を培養する細胞培養装置が知られている。例えば、特許文献1には、細胞と細胞培養用の液体培地が収容された培養容器(特許文献1の第2の容器)を有する細胞培養装置が開示されている。
【0003】
特許文献1のような細胞培養装置では、細胞の培養中において培養容器内の細胞数が適宜算出され、目標細胞数に到達すると培養を終了する。細胞数を算出する方法としては、例えば、センサによって測定された培養容器内の培地中の乳酸濃度に基づいて細胞数を予測する方法がある。乳酸は、細胞の代謝によって排出される物質であり、細胞数が増えるのに伴って乳酸の排出量も増加する。乳酸排出量に対応する細胞数は、細胞の種類や培地の組成ごとに決まっているため、培地中の乳酸濃度を測定することで細胞数を予測することができる。
【0004】
乳酸濃度を測定するセンサとしては、特許文献2に開示されているように、酵素反応を利用した酵素センサ(特許文献2のバイオセンサ)が一般に用いられる。特許文献2の酵素センサは、測定対象物質であって細胞の代謝物の一つである乳酸と反応する酸化還元酵素と、乳酸の酸化還元反応によって得られた電子を測定電極に伝達する電子伝達物質とを含む。酵素センサは、培地中の乳酸と酸化還元酵素との反応によって生じた電子であって、測定電極に伝達された電子を測定することによって、培地中の乳酸濃度を定量することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-087364号公報
【特許文献2】特開2019-002738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酵素センサによって培養容器内の培地中の乳酸濃度を測定した場合に、細胞から実際に排出された乳酸に基づく乳酸濃度よりも大きい値が得られることがある。これは、細胞の代謝によって排出された乳酸とは別に、培地に元々含まれている他の物質である妨害物質が酵素センサと意図せずに反応してしまうためである。これにより、酵素センサは、培地に含まれる乳酸由来の出力値の他に、妨害物質由来の出力値を乳酸濃度として誤って認識してしまい、乳酸濃度の測定値に誤差を生じさせてしまう。このように、乳酸濃度の測定値に誤差が生じると、乳酸濃度に基づいて予測される細胞数にもずれが生じ、培養容器内の細胞数を正確に算出することができない。
【0007】
なお、上記の問題は乳酸濃度を測定することによって細胞数を算出する場合に限られず、細胞の代謝物にかかわる物理量を測定することによって細胞数を算出する方法を採用する場合においても同様に生じ得る。
【0008】
本発明の目的は、細胞数を正確に算出することが可能な細胞培養装置及び細胞数算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の細胞培養装置は、細胞及び培地が収容され、細胞を培養するための培養容器と、前記細胞の増殖に伴って増加する前記細胞の代謝物の物理量について、前記細胞の培養中における前記培養容器内の前記培地中の前記物理量である第1物理量と、前記培養容器に供給される培地中の前記物理量の出力値である誤差出力値と、を測定するセンサと、前記第1物理量の値から前記誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて、前記培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、培養容器内の培地中の第1物理量の値から、培地に元々含まれている妨害物質由来の誤差出力値を引いて、補正物理量を算出する。これにより、培地に含まれる妨害物質の影響を受けない細胞の代謝物の物理量であって、培養容器内の細胞数に紐づいた補正物理量を得ることができる。このため、補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器内の細胞数を正確に算出することができる。
【0011】
本発明の細胞培養装置において、1つの前記センサが、前記第1物理量と前記誤差出力値の両方を測定することが好ましい。
【0012】
同じ種類のセンサでも、ロットの違い等によって測定能が異なることがある。そうすると、互いに異なるセンサによって、培養容器内の培地中の物理量と培養容器に供給される培地中の物理量を測定する場合、各センサ間で測定誤差が生じるおそれがある。本発明によれば、1つのセンサによって培養容器内の培地中の物理量と培養容器に供給される培地中の物理量を測定するため、センサ間の測定誤差を無くすことができる。
【0013】
本発明の細胞培養装置において、前記培養容器内の前記培地は、培養の途中で交換されるものであり、前記センサは、前記誤差出力値として、前記培地の交換が行われるときに前記培養容器に新たに供給される前記培地中の前記物理量の出力値を測定することが好ましい。
【0014】
物理量を測定するセンサは、測定を重ねると劣化して測定能が低下することがある。そうすると、センサの測定するタイミングによって物理量の測定値にずれが生じる。仮に、センサが第1物理量の測定を行うタイミングとセンサが誤差出力値の測定を行うタイミングとが大きくずれている場合、測定能の異なるセンサによって第1物理量と誤差出力値が測定されることになる。このように、測定能にずれがあるセンサによって測定された第1物理量と誤差出力値から算出された補正物理量は、実際の値からずれてしまうおそれがある。本発明によれば、センサは、培地が交換されるタイミングで、培養容器に新たに供給される培地中の物理量の出力値を誤差出力値として測り直している。このため、センサが、培養中における培養容器内の培地中の第1物理量を測定するタイミングと、誤差出力値を測定するタイミングとが大きくずれることを抑制することができる。これにより、センサの測定能のずれによって補正物理量が実際の値からのずれることを抑制することができる。このようにして求められた補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器内の細胞数をより正確に算出することができる。
【0015】
本発明の細胞培養装置において、前記物理量は、乳酸の濃度であることが好ましい。
【0016】
一般に、総量が多い物質の濃度の方が、総量が少ない物質の濃度と比べて、精度良く測定することができる。本発明では、物理量として乳酸濃度を測定している。乳酸は、細胞の代謝物としての排出量が多く、乳酸濃度は、他の物質の濃度と比べて精度良く測定することができる。
【0017】
本発明の細胞数算出方法は、細胞及び培地が収容され、細胞を培養するための培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出方法であって、前記細胞の増殖に伴って増加する前記細胞の代謝物の物理量について、前記細胞の培養中における前記培養容器内の前記培地中の前記物理量である第1物理量を測定する第1測定工程と、前記培養容器に供給される培地中の前記物理量の出力値である誤差出力値を測定する第2測定工程と、前記第1物理量の値から前記誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて、前記培養容器内の細胞数を算出する細胞数算出工程と、を実行することを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、培養容器内の培地中の第1物理量の値から、培地に元々含まれている妨害物質由来の誤差出力値を引いて、補正物理量を算出する。これにより、培地に含まれる妨害物質の影響を受けない細胞の代謝物の物理量であって、培養容器内の細胞数に紐づいた補正物理量を得ることができる。このため、補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器内の細胞数を正確に算出することができる。
【0019】
本発明の細胞数算出方法において、前記培養容器内の前記培地は、培養の途中で交換されるものであり、前記第2測定工程においては、前記誤差出力値として、前記培地の交換が行われるときに前記培養容器に新たに供給される前記培地中の前記物理量の出力値を測定することが好ましい。
【0020】
物理量を測定するセンサは、測定を重ねると劣化して測定能が低下することがある。そうすると、センサの測定するタイミングによって物理量の測定値にずれが生じる。仮に、センサが第1物理量の測定を行うタイミングとセンサが誤差出力値の測定を行うタイミングとが大きくずれている場合、測定能の異なるセンサによって第1物理量と誤差出力値が測定されることになる。このように、測定能にずれがあるセンサによって測定された第1物理量と誤差出力値から算出された補正物理量は、実際の値からずれてしまうおそれがある。本発明によれば、センサは、培地が交換されるタイミングで、培養容器に新たに供給される培地中の物理量の出力値を誤差出力値として測り直している。このため、センサが、培養中における培養容器内の培地中の第1物理量を測定するタイミングと、誤差出力値を測定するタイミングとが大きくずれることを抑制することができる。これにより、センサの測定能のずれによって補正物理量が実際の値からのずれることを抑制することができる。このようにして求められた補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器内の細胞数をより正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係る細胞培養装置の構成を示した概略正面図である。
【
図2】培養部の内部に配置された各構成部を示す概略図である。
【
図3】細胞バッグから培養容器に細胞懸濁液を送るときの培養部の様子を示す図である。
【
図4】供給用バッグ内の培地中の乳酸濃度を測定するときの培養部の様子を示す図である。
【
図5】供給用バッグから培養容器に培地を送るときの培養部の様子を示す図である。
【
図6】培養容器内の培地中の乳酸濃度を測定するときの培養部の様子を示す図である。
【
図7】培養容器から排液用バッグに培地を送るときの培養部の様子を示す図である。
【
図8】培養容器から回収用バッグに細胞懸濁液を送るときの培養部の様子を示す図である。
【
図9】細胞培養装置において細胞を培養する際のフローチャートである。
【
図10】第1変形例の細胞培養装置において細胞を培養する際のフローチャートである。
【0022】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(細胞培養装置1)
細胞培養装置1は、培養環境を調整しながら自動で細胞を培養する装置である。
図1に示すように、細胞培養装置1は、培地、剥離液などの試薬を保存する冷蔵保存部11と、培養容器21が内部に配置され、内部の環境を調整しながら細胞培養を行う培養部12と、培養部12の内部において、細胞の培養及び継代、培養容器21の内部の培地交換、細胞懸濁液の回収などが行われるように制御する制御部13と、培養容器21内の細胞数を算出する算出部14(本発明の細胞数算出手段)とを含む。
【0024】
図2に示すように、培養部12の内部には、培養容器21と、細胞バッグ22と、供給用バッグ23と、排液用バッグ24と、回収用バッグ25とが配置されている。培養容器21は、複数の培養層で細胞を培養することが可能な略直方体形状の容器である。細胞培養を行う際には、培養容器21の各培養層の底面に細胞を接着させる。細胞は、培養が進行するにつれて、培養容器21の各培養層の底面に沿って増殖する。細胞バッグ22には、培養容器21に供給するための細胞懸濁液が収容されている。細胞懸濁液は、細胞を培地に懸濁させたものである。供給用バッグ23には、培養容器21に供給するための培地が収容されている。なお、細胞バッグ22に収容されている細胞懸濁液を構成する培地と、供給用バッグ23に収容されている培地は、例えば、同一の種類の培地である。排液用バッグ24は、培地交換が行われる際に培養容器21から排出される培地が収容されるものである。回収用バッグ25は、培養が終了した細胞を含む培地または細胞懸濁液を回収するためのものである。
【0025】
また、培養部12の内部には、培養容器21内の培地中の乳酸濃度及び供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度を測定するセンサ26が配置されている。本実施形態では、センサ26は、酵素反応を利用して物理量を測定するセンサであって、物理量として乳酸濃度を測定するセンサである。細胞は、培地に含まれるグルコースを取り込み、代謝によって乳酸を排出する。すなわち、乳酸は、細胞の増殖に伴って増加する細胞の代謝物である。センサ26は、例えば、Sartorius社製の酵素センサである。センサ26の構成に以下に説明する。センサ26は、それぞれ不図示だが、少量の培地及びバッファ液を収容可能な容器部分と、容器部分に収容されたバッファ液に浸される電極部分と、電極部分にコーティングされた酵素と、発生した電子を電極部分に伝達するための電子伝達物質と、を含む。容器部分は、培地が収容される部分とバッファ液が収容される部分を有し、各部分が透析膜によって区切られている。培養容器21や供給用バッグ23からセンサ26の容器部分に送られた少量の培地に含まれる成分は、透析膜を通ってバッファ液側に流れ込む。培地に含まれる成分が流れ込んだバッファ液は、センサ26の電極部分に移送される。電極部分は例えば白金電極である。酵素は、乳酸オキシダーゼである。センサ26が乳酸濃度を測定する手順としては、以下の通りである。まず、乳酸オキシダーゼによって、培地に含まれる乳酸が酸化されピルビン酸と過酸化水素水が生じる。次に、電極部分によって電圧が印加されることで、過酸化水素が酸素と水素イオンに分解されるとともに、電子が生じる。続いて、生じた電子を電流として測定し、測定された電流に基づいて乳酸濃度を算出する。
【0026】
ところで、センサ26は、酵素反応を利用した上述した原理によって、培養容器21内の培地中の乳酸濃度を測定するものである。しかしながら、センサ26は、培地中の所定の妨害物質とセンサ26の酵素や電極部分等との意図しない反応が生じてしまうことにより、当該妨害物質由来の出力値を誤って乳酸濃度として認識してしまうことがある。なお、「所定の妨害物質」とは、培地に含まれる一または複数の化学物質であって、センサ26の酵素や電極部分等との何らかの反応によって電子を発生させ得る物質である。本実施形態における妨害物質とは、例えば、センサ26の乳酸オキシダーゼや白金電極等と化学反応をし得る物質である。したがって、細胞の培養中における培養容器21内の培地中の乳酸濃度について、センサ26が測定した乳酸濃度の測定値には、実際の乳酸濃度の他に、培地中の妨害物質由来の誤った出力値が含まれることとなる。そこで、本実施形態では、センサ26は、細胞の培養中における培養容器21内の培地中の乳酸濃度を第1物理量として測定するとともに、培養容器21に供給される培地である供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度の出力値を、妨害物質由来の誤差出力値として測定する。そして、後述の算出部14は、第1物理量から誤差出力値を減じることによって補正物理量を算出する。補正物理量は、培養容器21内の培地中の妨害物質由来の出力値の影響を受けない真の乳酸濃度であるといえる。算出部14は、この補正物理量に基づいて培養容器21内の細胞数を算出することで、正確に細胞数を算出することができる。なお、本実施形態では、1つのセンサ26が、培養容器21内の培地中の乳酸濃度である第1物理量と、培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度の出力値である誤差出力値の両方を測定する。
【0027】
培養容器21、細胞バッグ22、供給用バッグ23、排液用バッグ24、回収用バッグ25及びセンサ26の培地が供給される容器部分は、内部が無菌状態となっている。
【0028】
図2に示すように、培養容器21と、細胞バッグ22と、供給用バッグ23と、排液用バッグ24と、回収用バッグ25と、センサ26とは、接続経路27によって接続されている。培養容器21、細胞バッグ22、供給用バッグ23、排液用バッグ24及び回収用バッグ25は、無菌状態を維持した状態で後述する接続経路27に着脱可能である。接続経路27は例えば樹脂製のチューブである。接続経路27は、主経路27aと、分枝経路27bとを有する。分枝経路27bは、主経路27aから枝分かれした経路であって、6つの分枝経路27b1~27b6を有する。
【0029】
分枝経路27b1は、培養容器21と主経路27aとを接続する経路である。分枝経路27b2は、細胞バッグ22と主経路27aとを接続する経路である。分枝経路27b3は、供給用バッグ23と主経路27aとを接続する経路である。分枝経路27b4は、排液用バッグ24と主経路27aとを接続する経路である。分枝経路27b5は、回収用バッグ25と主経路27aとを接続する経路である。分枝経路27b6は、センサ26と主経路27aとを接続する経路である。
図2に示すように、分枝経路27b1、分枝経路27b2、分枝経路27b3及び分枝経路27b6と、分枝経路27b4及び分枝経路27b5とは、後述する第2ポンプ28bを挟んで反対側において、主経路27aとを接続されている。
【0030】
分枝経路27b2にはバルブV1が設けられている。バルブV1が開いているとき、液体は分枝経路27b2を通過可能であり、バルブV1が閉じているとき、液体は分枝経路27b2を通過することができない。分枝経路27b3にはバルブV2が設けられている。バルブV2が開いているとき、液体は分枝経路27b3を通過可能であり、バルブV2が閉じているとき、液体は分枝経路27b3を通過することができない。分枝経路27b6にはバルブV3が設けられている。バルブV3が開いているとき、液体は分枝経路27b6を通過可能であり、バルブV3が閉じているとき、液体は分枝経路27b6を通過することができない。分枝経路27b4にはバルブV4が設けられている。バルブV4が開いているとき、液体は分枝経路27b4を通過可能であり、バルブV4が閉じているとき、液体は分枝経路27b4を通過することができない。分枝経路27b5にはバルブV5が設けられている。バルブV5が開いているとき、液体は分枝経路27b5を通過可能であり、バルブV5が閉じているとき、液体は分枝経路27b5を通過することができない。各バルブの開閉は、制御部13によって制御される。
【0031】
また、
図2に示すように、分枝経路27b1には第1ポンプ28aが設けられている。主経路27aには第2ポンプ28bが設けられている。センサ26には第3ポンプ28cが取り付けられている。各ポンプは、例えば、金属のロータでチューブを挟み、ロータを回転することで流体の吸引及び送出を行う、ロータを駆動するモータを含むペリスタポンプである。また、各ポンプは、筒状のシリンダと、シリンダの内部で往復運動することによって流体の吸引及び送出を行うピストンと、ピストンを駆動するモータ―とを含むシリンジポンプであってもよい。
【0032】
制御部13は、バルブV1~V5、第1ポンプ28a、第2ポンプ28b、第3ポンプ28c等と接続されている。制御部13は、バルブV1~V5の開閉制御、各ポンプの駆動制御を行う。制御部13と、各バルブ及び各ポンプとの接続は、無線接続でも電気的接続でもよい。
【0033】
算出部14は、センサ26と接続されており、センサ26が測定した培地中の乳酸濃度に基づいて、細胞数を算出する。算出部14による細胞数の算出の方法については、後で詳しく説明する。
【0034】
(細胞培養の工程)
続いて、本実施形態の細胞培養装置1において細胞が培養される際の手順について、
図3~
図9を参照しつつ以下に説明する。細胞培養では、培養容器21内の細胞数を算出する細胞数算出方法が実行される。
図9には、細胞を培養する際のフローチャートを示す。
【0035】
まず、細胞培養を行うにあたって、培養部12の内部には、空の状態の培養容器21と、元となる細胞と培地とを含む細胞懸濁液が収容された細胞バッグ22と、培地が収容された供給用バッグ23と、空の状態の排液用バッグ24と、空の状態の回収用バッグ25とが予めセットされる。言い換えると、培養容器21と、細胞バッグ22と、供給用バッグ23と、排液用バッグ24と、回収用バッグ25とが、予め接続経路27に接続される。各バッグの接続経路27への接続は、作業者によって行われる。このとき、各バルブV1~V5は閉じた状態となっている。なお、
図3~
図8において、黒抜きのバルブが閉じた状態を示し、白抜きのバルブが開いた状態を示す。
【0036】
次に、
図3に示すように、制御部13は、バルブV1を開き、第1ポンプ28aを駆動する。これにより、細胞バッグ22に収容された細胞懸濁液が、培養容器21に送られる(ステップS1)(
図3の実線矢印参照)。このとき、細胞バッグ22に収容されている細胞懸濁液は、全量が培養容器21に送られる。
【0037】
続いて、
図4に示すように、制御部13は、バルブV1を閉じ、バルブV2及びV3を開き、第3ポンプ28cを駆動する。これにより、供給用バッグ23内の培地の一部がセンサ26に送られる(
図4の実線矢印参照)。このとき、供給用バッグ23からセンサ26に送られる培地の量は、供給用バッグ23に収容されている培地のうちの一部であって、例えば40mlである。センサ26は、供給用バッグ23から送られた培地中の妨害物質由来の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定する(ステップS2)。ここでいう乳酸濃度の出力値とは、乳酸濃度と同様の物理量として出力される値であるが、実際の乳酸濃度とは異なる。誤差出力値を測定する工程が、本発明の第2測定工程に相当する。なお、供給用バッグ23からセンサ26に送られた培地は、センサ26によって誤差出力値が測定された後、後述するステップS5が行われる前までの間の所定のタイミングで、排液用バッグ24に送られる。例えば、供給用バッグ23からセンサ26に送られた培地は、センサ26によって誤差出力値が測定された後、後述するステップS3が行われる前に、排液用バッグ24に送られる。
【0038】
次に、
図5に示すように、制御部13は、バルブV3を閉じ、第1ポンプ28aを駆動する。これにより、供給用バッグ23に収容された培地が培養容器21に送られる(ステップS3)(
図5の実線矢印参照)。このとき、供給用バッグ23に収容されている培地は、必要量が培養容器21に送られる。必要量は、培養容器21の種類によって異なるが、例えば、培養容器21の1つの培養層あたり200~300mlである。すなわち、例えば、5層の培養層を有する培養容器21に対して、供給用バッグ23から供給される培地の量は1000ml~1500mlである。なお、本実施形態では、供給用バッグ23には、例えば、10層の培養層を有する培養容器21に一度に培地を供給可能な量の培地が収容されている。
【0039】
なお、供給用バッグ23から培養容器21に培地の供給が行われるのに伴って供給用バッグ23の内部に収容されている培地の量が減少すると、供給用バッグ23には冷蔵保存部11に保存されている培地が新たに送液される。供給用バッグ23と冷蔵保存部11の内部において培地を収容している容器(不図示)とは、不図示のチューブ等によって接続されている。細胞の培養を開始してから細胞を回収するまでの1回の培養サイクルにおいては、同じロットの培地が冷蔵保存部11から供給用バッグ23に供給される。1回の培養サイクルにおいて細胞を増殖させた後、細胞を継代して別の培養サイクルを行う場合には、各培養サイクルで異なるロットの培地が用いられる場合がある。
【0040】
培養容器21に細胞バッグ22から細胞懸濁液が送られ、供給用バッグ23から培地が送られると、培養容器21内において細胞の培養が開始される(ステップS4)。このとき、細胞懸濁液中の細胞は、培養容器21の複数の培養層の底面に接着する。細胞培養が行われているとき、培養部12の内部の温度やCO2濃度等が適宜調整される。温度は、例えば37℃となるように調整される。CO2濃度は、例えば5%となるように調整される。また、細胞培養が行われているとき、各バルブV1~V5は閉じられた状態となっている。
【0041】
(細胞数の算出)
細胞培養が開始されてから所定時間が経過したときに、培養容器21内の細胞数が算出される。培養容器21内の細胞数が算出されるタイミングは、例えば予め設定される。具体的には、まず、
図6に示すように、制御部13は、バルブV3を開き、第3ポンプ28cを駆動する。これにより、培養容器21内の培地の一部がセンサ26に送られる(
図6の実線矢印参照)。このとき、培養容器21からセンサ26に送られる培地の量は、培養容器21に収容されている培地の内の一部であって、例えば20mlである。また、このとき、培養容器21の各培養層の底面に接着した細胞は剥がれることがない。センサ26は、培養容器21から送られた培地中の乳酸濃度を第1物理量として測定する(ステップS5)。なお、センサ26による第1物理量の測定後、制御部13は、バルブV3を閉じる。第1物理量を測定する工程が、本発明の第1測定工程に相当する。
【0042】
続いて、算出部14は、センサ26によって測定された第1物理量と誤差出力値に基づいて、培養容器21内の細胞数を算出する(ステップS6)。具体的には、算出部14は、第1物理量の値から誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて、培養容器21内の細胞数を算出する。補正物理量に対応する細胞数は、例えば、細胞の種類や培地の種類ごとに予め定められている。算出部14が培養容器21内の細胞数を算出する工程が、本発明の細胞数算出工程に相当する。次に、制御部13は、算出部14によって算出された培養容器21内の細胞数が予め設定された目標細胞数に到達しているか否かを判断する(ステップS7)。
【0043】
培養容器21内の細胞数が目標細胞数に到達している場合(S7:YES)、細胞の回収が行われる(ステップS8)。細胞を回収する工程については、後述にて説明する。培養容器21内の細胞数が目標細胞数に到達していない場合(S7:NО)、培養容器21内において細胞培養が引き続き行われる(ステップS9)。
【0044】
(培地の交換)
細胞培養が所定時間行われると、培養容器21内の培地の交換が行われる(ステップS10)。所定時間は、細胞の種類や培地の種類等によって予め設定された時間である。培地の交換について具体的に説明すると、まず、
図7に示すように、制御部13は、バルブV4を開き、第2ポンプ28bを駆動する。これにより、培養容器21内の培地が排液用バッグ24に送られる(
図7の実線矢印参照)。このとき、培養容器21内において細胞の培養に用いられた培地は、ほぼ全量が排液用バッグ24に送られる。次に、制御部13は、バルブV4を閉じ、バルブV2を開き、第1ポンプ28aを駆動する。これにより、供給用バッグ23に収容された培地が培養容器21に送られる(
図5の実線矢印参照)。このとき、供給用バッグ23に収容されている培地は、必要量が培養容器21に送られる。必要量は上述した通りである。すなわち、必要量は、培養容器21の種類によって異なるが、例えば、培養容器21の1つの培養層あたり200~300mlである。以上によって、培養容器21内の培地の交換が行われる。
【0045】
培養容器21内の培地の交換が完了すると、ステップS4に戻り、培養容器21内において再び細胞の培養が開始される。そして、細胞培養が再び開始されてから所定時間が経過したときに、センサ26は、培養容器21内の培地中の乳酸濃度を第1物理量として測定する(ステップS5)。そして、算出部14は、センサ26によって再度測定された第1物理量と、最初に培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度の出力値としてセンサ26に測定された誤差出力値と、に基づいて培養容器21内の細胞数を算出する(ステップS6)。
【0046】
(細胞の回収)
培養容器21内の細胞数が目標細胞数に到達している場合(S7:YES)、細胞の回収が行われる(ステップS8)。具体的には、まず、制御部13は、バルブV4を開き、第2ポンプ28bを駆動する。これにより、培養容器21内の培地が全量排液用バッグ24に送られる(
図7の実線矢印参照)。続いて、制御部13は、バルブV14を閉じ、細胞バッグ22に換えて剥離液バッグ(不図示)が接続経路27の分枝経路27b2に接続される。剥離液バッグには、培養容器21の各培養層の底面に接着した細胞を、底面から剥離させるための剥離液が収容されている。細胞バッグ22と剥離液の交換は、例えば作業者によって行われる。細胞バッグ22と剥離液の交換は、無菌状態を維持した状態で行われる。次に、制御装置13は、バルブV1を開き、第1ポンプ28aを駆動する(各バルブの開閉状態は
図3を参照)。これにより、剥離液バッグ(不図示)に収容された剥離液の全量が培養容器21に送られる。次に、制御部13は、バルブV1を閉じ、バルブV2を開き、第1ポンプ28aを駆動する(各バルブの開閉状態は
図5を参照)。これにより、供給用バッグ23に収容された培地が培養容器21に送られる。この状態で、制御部13はバルブV2を閉じるとともに、第1ポンプ28aの駆動を停止し、培養容器21内の培地を攪拌させる。これにより、培養容器21内には、細胞を培地に懸濁させた細胞懸濁液が収容された状態となる。この状態で制御部13は、バルブV5を開き、第2ポンプ28bを駆動する。これにより、培養容器21内の細胞懸濁液が回収用バッグ25に送られる。これによって、細胞の回収が完了する。
【0047】
以上によって、細胞培養装置1における、細胞培養の工程が終了する。
【0048】
(効果)
以上のように、本実施形態の細胞培養装置1は、培地中の乳酸濃度を測定するセンサ26を有する。センサ26は、細胞の培養中における培養容器21内の培地中の乳酸濃度を第1物理量として測定する。また、センサ26は、供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度、すなわち、培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定する。さらに、細胞培養装置1は、第1物理量の値から誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量の値に基づいて、培養容器21内の細胞数を算出する算出部14を有する。また、本実施形態の細胞数算出方法は、第1物理量を測定する第1測定工程と、誤差出力値を測定する第2測定工程と、第1物理量の値から誤差出力値を減じることによって算出された補正物理量に基づいて培養容器21内の細胞数を算出する細胞数算出工程と、を実行する。
【0049】
本実施形態によれば、培養容器21内の培地中の第1物理量の値から、培地に元々含まれている物質由来の誤差出力値を引いて、補正物理量を算出する。これにより、培地に含まれる物質の影響を受けない細胞の代謝物である乳酸濃度であって、培養容器21内の細胞数に紐づいた補正物理量を得ることができる。このため、補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器21内の細胞数を正確に算出することができる。
【0050】
また、本実施形態の細胞培養装置1では、1つのセンサ26が、第1物理量と誤差出力値の両方を測定する。同じ種類のセンサでも、ロットの違い等によって測定能が微妙に異なることがある。そうすると、互いに異なるセンサによって、培養容器21内の培地中の乳酸濃度と供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度を測定する場合、各センサ間で測定誤差が生じるおそれがある。本実施形態によれば、1つのセンサ26によって培養容器21内の培地中の乳酸濃度と供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度を測定するため、センサ間の測定誤差を無くすことができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、細胞の増殖に伴って増加する細胞の代謝物の物理量は、乳酸の濃度である。一般に、総量が多い物質の濃度の方が、総量が少ない物質の濃度と比べて、精度良く測定することができる。乳酸は、細胞の代謝物としての排出量が多く、乳酸濃度は、他の物質の濃度と比べて精度良く測定することができる。
【0052】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0053】
(第1変形例)
上記実施形態では、センサ26は、最初に培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定し、培地交換の際には新たに誤差出力値を測定し直さない構成である。しかしながら、センサ26は、培地の交換が行われるときに培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定し直してもよい。以下、
図10を参照しつつ説明する。なお、
図10において、上記実施形態と共通するステップS1~S10については、同じ符号を使用している。
図10に示すように、培地の交換が行われるのに際して、培地交換(ステップ10)よりも前に、まず、誤差出力値の再測定が行われる(ステップS20)。具体的には、制御部13は、バルブV2及びV3を開き、第3ポンプ28cを駆動する。これにより、供給用バッグ23内の培地の一部がセンサ26に送られる(
図4の実線矢印参照)。このとき、供給用バッグ23からセンサ26に送られる培地の量は、供給用バッグ23に収容されている培地のうちの一部であって、例えば20mlである。センサ26は、供給用バッグ23から送られた培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定する。すなわち、センサ26は、培地の交換が行われるときに培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として再測定する。なお、センサ26による誤差出力値の測定後、制御部13は、バルブV3を閉じる。誤差出力値の再測定が行われた後に、培養容器21内の培地の交換が行われる(ステップS10)。培地を交換する手順については、上記実施形態と同様である。
【0054】
すなわち、第1変形例では、培養容器21内の培地は、培養の途中で交換されるものであり、センサ26は、誤差出力値として、培地の交換が行われるときに培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を測定する。また、本実施形態の細胞数算出方法では、第2測定工程においては、誤差出力値として、培地の交換が行われるときに培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を測定する。
【0055】
乳酸濃度を測定するセンサ26は、測定を重ねると劣化して測定能が低下することがある。そうすると、センサ26の測定するタイミングによって乳酸濃度の測定値にずれが生じる。仮に、センサ26の第1物理量を測定するタイミングと誤差出力値を測定するタイミングとが大きくずれている場合、測定能の異なるセンサ26によって第1物理量と誤差出力値が測定されることになる。このように、測定能にずれがあるセンサ26によって測定された第1物理量と誤差出力値から算出された補正物理量は、実際の値からずれてしまうおそれがある。本実施形態によれば、センサ26は、培地が交換されるタイミングで、培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測り直している。このため、培養中における培養容器21内の培地中の乳酸濃度である第1物理量を測定するタイミングと、誤差出力値を測定するタイミングとが大きくずれることを抑制することができる。これにより、経年劣化によるセンサ26の測定能のずれによって補正物理量が実際の値からのずれることを抑制することができる。このようにして求められた補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器21内の細胞数をより正確に算出することができる。
【0056】
また、細胞を培養する際に、複数回の培養サイクルが行われることがある。すなわち、細胞の培養を開始してから細胞が回収されるまでの1回の培養サイクルが終わった後に、細胞が継代されるなどして、次の培養サイクルが行われることがある。この場合、ある培養サイクルにおいて用いられる培地と、次の培養サイクルにおいて用いられる培地のロットが異なることがある。言い換えれば、ある培養サイクルにおいて供給用バッグ23から培養容器21に供給される培地と、次の培養サイクルにおいて供給用バッグ23から培養容器21に供給される培地のロットが異なることがある。ここで、ロットが違う培地は、同じ種類だとしても組成が微妙に異なることがある。そうすると、例えば、最初の培養サイクルにおいて培養容器21に供給される培地中の誤差出力値と、次の培養サイクルにおいて培養容器21に供給される培地中の誤差出力値が、培地のロットの違いによってばらついてしまう。仮に、このような培地間のロット差による誤差出力値のばらつきを考慮しない場合、第1物理量の値から誤差出力値を引いて算出される補正物理量の値は、実際の値からずれてしまうおそれがある。この点、第1変形例では、センサ26は、培地交換が行われるときに培養容器21に新たに供給される培地中の乳酸濃度の出力値を誤差出力値として測定し直している。このため、複数の培養サイクルが行われる場合においてロットが異なる培地が用いられるとしても、ロットが異なる培地間での誤差出力値のばらつきを考慮して、補正物理量の正確な値を求めることができる。このようにして求められた補正物理量に基づいて細胞数を導き出すことで、培養容器21内の細胞数をより正確に算出することができる。
【0057】
(その他の変形例)
上記実施形態では、1つのセンサ26が、第1物理量と誤差出力値の両方を測定する。しかしながら、第1物理量を測定するセンサと、誤差出力値を測定するセンサは、それぞれ別に設けられていてもよい。
【0058】
上記実施形態では、センサ26は、細胞の代謝物の物理量として乳酸濃度を測定している。しかしながら、センサ26が測定する物理量は乳酸濃度に限られない。例えば、分化状態の細胞を培養する場合、センサ26が測定する物理量としては、乳酸の他にグルタミン酸、キヌレニンの濃度が挙げられる。また、未分化状態の細胞を培養する場合、センサ26が測定する物理量としては、乳酸の他にグルタミン酸、2-アミノアジピン酸の濃度が挙げられる。
【0059】
上記実施形態では、センサ26は、培養容器21に供給される培地中の乳酸濃度である誤差出力値を測定する際に、供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度を測定している。しかしながら、センサ26は、供給用バッグ23内の培地中の乳酸濃度を測定するものでなくてもよい。例えば、センサ26は、供給用バッグ23内の培地と同じ種類の培地であって、供給用バッグ23に収容されている培地とは別の培地中の乳酸濃度を測定するものでもよい。具体的には、センサ26は、接続経路27(分枝経路27b6)に接続されている供給用バッグ23とは別の供給用バッグ(不図示)内の培地中の乳酸濃度を測定してもよい。この場合、センサ26によって乳酸濃度が測定された供給用バッグ(不図示)内の培地は、その後、所定のタイミングで接続経路27に接続され、培養容器21内に供給される。なお、当該別の供給用バッグ(不図示)は、無菌状態を維持した状態で接続経路27に着脱可能である。
【0060】
上記実施形態では、補正物理量に基づいて培養容器21内の細胞数を算出する算出部14は、細胞培養装置1に含まれるものである。しかしながら、算出部14は、外部PCに内蔵されるものでもよい。この場合、センサ26によって測定された第1物理量及び誤差出力値のデータは、外部PCに送信される。また、細胞数算出方法においては、作業者が、細胞培養装置1において算出された補正物理量に基づいて、補正物理量に対応する培養容器21内の細胞数を算出してもよい。あるいは、作業者が、センサ26によって測定された第1物理量及び誤差出力値に基づいて補正物理量の算出し、さらに、算出された補正物理量に基づいて培養容器21内の細胞数を算出してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 細胞培養装置
13 制御部
14 算出部(細胞数算出手段)
21 培養容器
23 供給用バッグ
26 センサ
27 接続経路