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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147411
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】コルク部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 3/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B27N3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060402
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】勢野 洋嗣
(72)【発明者】
【氏名】奥田 松弘
(72)【発明者】
【氏名】西原 大貴
【テーマコード(参考)】
2B260
【Fターム(参考)】
2B260BA10
2B260CD03
2B260CD15
2B260DA11
2B260EB02
(57)【要約】
【課題】ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低いコルク部材を提供する。
【解決手段】コルク部材は、コルク粒同士が結着剤を介して互いに結着してなる。結着剤はセルロースナノファイバーである。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コルク粒同士が結着剤を介して互いに結着してなるコルク部材であって、前記結着剤がセルロースナノファイバーである、コルク部材。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーが前記コルク粒間に介在している、請求項1に記載のコルク部材。
【請求項3】
コルク粒とセルロースナノファイバー分散液とを混合する工程と、得られた混合物から前記セルロースナノファイバー分散液の分散媒を蒸発させる工程と、を含むコルク部材の製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバー分散液に、セルロースナノファイバーの水分散液を用いる、請求項3に記載のコルク部材の製造方法。
【請求項5】
前記混合物を圧縮する工程をさらに含み、前記混合物を圧縮しながら前記分散媒を前記混合物から蒸発させる、請求項3または4に記載のコルク部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルク部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コルクガシの樹皮であるコルク組織は、弾力性、断熱性、防水性、通気性および吸音性などの種々の特性を有する。そのため、コルク樹皮の破砕物であるコルク粒を接着剤と共に圧縮成形して接着剤で互いに接着し、必要に応じて加熱して接着剤中の溶剤を留去して、用途に応じた種々の形態のコルク部材として利用される。たとえば、セルロース系乾燥微粉とコルク粉との混合物の層と樹脂製などの板状部材とを有する木質床材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、接着剤については、環境負荷の軽減の観点から様々な水性の接着剤が検討されている。また、天然由来の接着剤成分の一種として、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」とも言う)が知られている。CNFを含有する水性接着剤には、CNFおよびその他添加剤を水に分散した易剥離性接着剤組成、および、水系樹脂接着剤およびCNFを含有する水系接着剤組成物、が知られている(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-210406号公報
【特許文献2】特開2017-025130号公報
【特許文献3】特開2014-132072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、環境保全の観点から天然由来の製品が求められている。また、製品の生産から廃棄までの過程で生じる二酸化炭素(CO)の総排出量を表示する取り組みが知られており、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低い製品が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低いコルク部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るコルク部材は、コルク粒同士が結着剤を介して互いに結着してなるコルク部材であって、前記結着剤がセルロースナノファイバーである。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るコルク部材の製造方法は、コルク粒とセルロースナノファイバー分散液とを混合する工程と、得られた混合物から前記セルロースナノファイバー分散液の分散媒を蒸発させる工程と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低いコルク部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1のコルク部材の全体の写真を示す図である。
図2】実施例1のコルク部材の表面の一部の拡大写真を示す図である。
図3】実施例2のコルク部材の全体の写真を示す図である。
図4】実施例2のコルク部材の表面の一部の拡大写真を示す図である。
図5】実施例1のコルク部材の断面におけるコルク粒の境界部の走査型顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔コルク部材〕
コルク部材は、コルク粒同士が結着剤を介して互いに結着してなる。コルク部材は、このようなコルク粒の接合体であり、種々の形状であり得るし、種々の用途に用いられ得る。
【0012】
コルク粒は、コルクの破砕物である。数百ミクロンから数十ミリまでの種々のサイズのコルク粒が知られている。本発明の実施形態では、コルク部材の用途または所望の特性に応じた適当なサイズのコルク粒が用いられる。
【0013】
コルク部材の例には、コルク栓、コースター、コルクボード、コルクマットおよび機能性部材が含まれる。機能性部材は、所期の機能を発現するために、用途に応じた特定の形状を有する。機能性部材の例には、断熱部材、吸音部材および絶縁部材が含まれる。
【0014】
コルク粒同士を結着する結着剤は、セルロースナノファイバー(CNF)である。CNFは、ナノサイズの繊維幅を有するセルロースの繊維である。CNFの繊維径は、例えば数nmから数百nm(例えば4~500nm)であり、CNFのアスペクト比(平均繊維径に対する平均繊維長の比)は例えば100以上である。なお、本明細書において「~」は、その前後の数値を境界値とする以上以下の範囲を意味する。
【0015】
CNFの平均繊維径および平均繊維長は、例えば透過型電子顕微鏡を用いてランダムに選ばれる複数本(例えば200本)の繊維の繊維径および繊維長のそれぞれの平均値であってよい。CNFの繊維のサイズは、CNFがナノオーダの繊維幅を有する繊維であることが示される範囲において、他の測定方法による数値であってもよいし、カタログ値であってもよい。
【0016】
CNFは、変性されていてもよい。変性されたセルロースの例には、カルボキシメチル化されたセルロース、カルボキシル化されたセルロース、および、カチオン変性されたセルロース、が含まれる。CNFは、実質的に無変性のセルロースのナノファイバーのみであってもよいし、無変性のセルロースのナノファイバーと変性セルロースのナノファイバーとの混合品であってもよいし、実質的に変性セルロースのナノファイバーのみであってもよい。
【0017】
コルク部材において、より具体的には、CNFはコルク粒間に介在している。コルク粒は独立気泡体であり、コルク粒を結着している状態においてCNFは、コルク粒が有する多数の空隙中に侵入せず、コルク粒の表面同士を結合している。
【0018】
このようにCNFはコルク粒の境界に介在することから、コルク部材は、実質的にはコルク粒の集合として構成され得る。そのため、コルク部材を形成する観点では、コルク部材におけるCNFの含有量は、コルク粒を結着可能な範囲であればよい。
【0019】
コルク部材は、前述したコルク粒およびそれを結着するCNFのみから構成されていてもよいし、本実施形態の効果が得られる範囲において他の成分をさらに含有していてもよ
い。他の成分の例には、断熱性粒子および添加剤が含まれる。コイル部材における他の成分の含有量は、本発明の効果と他の成分の添加による効果との両方が得られる範囲において適宜に決められ得る。
【0020】
断熱性粒子は、断熱性を有する粒子であり、例えばコルク粒と同様に多数の空隙を有し、かつコルク粒と同等かそれ以上の断熱性を有する粒子である。また、断熱性粒子は、コルク粒と同様にCNFによって結着される粒子であることが好ましく、このような断熱性粒子をさらに含有するコルク部材では、コルク粒および断熱性粒子がCNFを介して互いに結着していることが好ましい。
【0021】
添加剤は、添加剤の例には、難燃剤、界面活性剤、増粘剤、保湿剤、濃染化剤、防腐剤、防黴剤、脱気剤、消泡剤および還元防止剤が含まれる。
【0022】
〔コルク部材の特性〕
本発明の実施形態に係るコルク部材は、コルク粒およびCNFによってもたらされる種々の特性を発現し得る。
【0023】
[断熱性]
コルク部材の熱伝導率は、コルク部材を断熱部材に適用する観点から、0.1W/(m/K)以下であることが好ましく、0.08W/(m/K)以下であることがより好ましい。コルク部材の熱伝導率の下限は限定されず、当該コルク部材で実現可能な範囲で適宜に設定されてよい。コルク部材の熱伝導率は、コルク部材の熱伝導率を測定する公知の方法によって測定可能であり、またコルク部材の熱伝導率を調整する公知の方法によって調整可能である。
【0024】
本実施形態に係るコルク部材は、断熱性以外の他の特性を発現し、そのような特定に応じた用途への適用が期待される。たとえば、当該コルク部材は、吸音性を発現することが期待され、吸音部材への適用が期待される。当該吸音性は、コルク部材の吸音性を測定可能な公知の技術によって測定され得る。また、本実施形態に係るコルク部材は、絶縁性を発現することが期待され、絶縁部材への適用が期待される。当該絶縁性も、前述の吸音性と同様に、コルク部材の絶縁性を測定可能な公知の技術によって測定され得る。
【0025】
また、本実施形態に係るコルク部材は、CNFを接着剤として製造され得ることから、後述するように、有機溶剤を使用せずに製造し得る。そのため、本実施形態では、コルク部材の調達段階でのLC-CO排出量が十分に低く、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量(LC-CO排出量)が従来のコルク部材に比べて低いコルク部材の提供が期待される。なお、コルク部材の調達段階でのLC-CO排出量は、下記式から求めることができる。
<式>
素材別の質量(kg)×素材別の排出係数(kg-CO/kg)
【0026】
〔コルク部材の製造方法〕
本実施形態に係るコルク部材は、コルク粒とCNF分散液とを混合する混合工程と、得られた混合物からCNF分散液の分散媒を蒸発させる蒸発工程と、を含む方法によって製造することが可能である。
【0027】
[混合工程]
混合工程において、コルク粒は、市販品でもよいし、コルク材を破砕し、必要に応じて分級したものであってもよい。
【0028】
CNF分散液は、分散質としてのCNFと分散媒とによって構成される。CNF分散液は、市販品であってもよいし、調製品であってもよい。CNF分散液は、例えば、天然セルロースを水に懸濁させ、これを高圧ホモジナイザーまたはグラインダーなどで処理して微細化することにより調製され得る。
【0029】
分散媒は、CNFを良好に分散可能な液体であればよい。分散媒の例には、水、有機溶剤、およびこれらの混合溶液、が含まれる。環境への負荷を軽減する観点から、CNF分散液に、CNFの水分散液を用いること、すなわち分散媒は水であること、が好ましい。また、環境への負荷を軽減する観点から、CNF分散液は、CNFと水のみからなり、添加剤を含有しない分散液であることが好ましい。なお、CNF分散液中のCNFの含有量は、コルク粒の接着剤として機能し得る量であればよく、例えば1質量%以上であればよい。
【0030】
[蒸発工程]
蒸発工程において、上記の混合物からの分散媒の留去は、加熱によって実施可能であるが、それに限定されない。蒸発工程は、上記混合物を乾燥させる工程であってよく、例えば分散媒が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法または真空乾燥法などの方法によって実施することが可能である。分散媒が水と有機溶媒との混合溶液である場合では、蒸発工程は、ドラムドライヤーによる乾燥法、またはスプレードライヤーによる噴霧乾燥法、などの方法によって実施することが可能である。
【0031】
蒸発工程の温度は、蒸発工程の方法に応じて適宜に決めることが可能である。加熱する場合には、さらに、コルク粒およびCNFが熱によって変性しない範囲において蒸発工程の温度を決めればよい。
【0032】
[その他の工程]
本実施形態における製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した工程以外の他の工程をさらに含んでもよい。たとえば、当該製造方法は、混合物を圧縮する圧縮工程をさらに含んでもよい。当該圧縮工程は、成形による特定の形状を有するコルク部材を得る観点から好適である。
【0033】
圧縮工程は、蒸発工程と同時に実施すること、すなわち混合物を圧縮しながら前記分散媒を前記混合物から蒸発させることが、成形されたコルク部材を得る観点から好ましい。このような工程は、上記の特定の形状に応じた形状を有する型に上記の混合物を収容し、型で圧縮しながら加熱することによって実施することが可能である。
【0034】
〔まとめ〕
本発明の第一の態様は、コルク粒同士が結着剤を介して互いに結着してなるコルク部材であって、結着剤がセルロースナノファイバーであるコルク部材である。第一の態様によれば、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低いコルク部材を提供することができる。
【0035】
本発明の第二の態様は、第一の態様において、セルロースナノファイバーがコルク粒間に介在している。第二の態様は、コルク部材においてコルクの特性を十分に発現させる観点からより一層効果的である。
【0036】
本発明の第三の態様は、コルク粒とセルロースナノファイバー分散液とを混合する工程と、得られた混合物からセルロースナノファイバー分散液の分散媒を蒸発させる工程と、を含むコルク部材の製造方法である。第三の態様によれば、ライフサイクルにおける二酸化炭素の排出量が低いコルク部材を提供することができる。
【0037】
本発明の第四の態様は、第三の態様において、セルロースナノファイバー分散液に、セルロースナノファイバーの水分散液を用いる。第四の態様は、コルク部材の製造による環境への負荷を軽減する観点からより一層効果的である。
【0038】
本発明の第五の態様は、第三の態様または第四の態様において、混合物を圧縮する工程をさらに含み、混合物を圧縮しながら分散媒を混合物から蒸発させる。第五の態様は、所望の形状に成形されたコルク部材を得る観点からより一層効果的である。
【0039】
前述の本発明の実施形態によれば、実質的にコイル粒とCNFとからなり、シンプルに構成されながらも、種々の有用な特性を発現し得るコルク部材が提供される。本発明は、二酸化炭素の排出削減に寄与することが期待され、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動に具体的な対策を」等の達成に貢献することが期待される。
【0040】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0041】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0042】
〔実施例1〕
以下の成分を以下の量でボール中に投入し、混合して混合物1を得た。CNF水分散液Aは、大王製紙(株)製の水分散液であり、CNFの含有量は14質量%である。
コルク粒(粒径4mm~8mm) 20質量部
CNF水分散液A 80質量部
【0043】
混合物1を当該成形型に供給し、型で圧縮しながら加熱して型内の水を蒸発させた。こうして板状のコルク部材1を製造した。コルク部材1の写真を図1および図2に示す。図1は、コルク部材1の全体の写真を示しており、図2は、コルク部材1の表面における一部の拡大写真を示している。図1および図2に示されているように、コルク粒同士がCNFを介して互いに結着してコルク部材1が構成されている。
【0044】
〔実施例2〕
CNF水分散液Aに代えてCNF水分散液Bを用いる以外は実施例1と同様にして、板状のコルク部材2を製造した。CNF水分散液Bは、日本製紙(株)製の水分散液であり、CNFの含有量は1質量%である。コルク部材2の写真を図3および図4に示す。図3は、コルク部材2の全体の写真を示しており、図4は、コルク部材2の表面における一部の拡大写真を示している。図3および図4に示されているように、コルク部材2もコルク部材1と同様に、コルク粒同士がCNFを介して互いに結着して構成されている。これらの写真で示される範囲において、コルク部材1とコルク部材2との間には実質的な差異は確認されない。
【0045】
〔評価〕
<断面の顕微鏡観察>
コルク部材1の断面におけるコルク粒同士の接合部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。この顕微鏡写真を図5に示す。図5から明らかなように、二つのコルク粒Aおよびコルク粒Bが隣接しており、図中の矢印に示されるように、両コルク粒間にCNFが介在している。このように、CNFがコルク粒同士を接着していることが分かる。つまり、
コルク粒間にCNF層が存在し、コルク粒同士はCNFを介して面状に接着されていることが確認できる。
【0046】
<断熱性>
コルク部材1および2のそれぞれについて、測定装置として定常法熱伝導率測定装置(ULVAC社製)を用いてコルク部材の熱伝導率を測定した。コルク部材1の熱伝導率は0.07W/(m/K)であり、コルク部材2の熱伝導率は0.07W/(m/K)であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、環境負荷がより低く、かつ種々の特性を発現可能な機能的部材の提供に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5