(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147412
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】粒子線治療用固定具
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A61N5/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060410
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】村田 和俊
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 久美子
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 収三
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】小此木 範之
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC04
4C082AE01
4C082AL03
4C082AL04
(57)【要約】
【課題】粒子線を用いた腫瘍の治療において、患者を固定する固定具を改善すること。
【解決手段】乳癌の粒子線治療を受ける患者を固定する粒子線治療用固定具(100)は、粒子線治療を受ける患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔(11)を有する板部(1)と、前記治療対象の乳房を覆う固定シェル(6)と、を備えている。前記粒子線治療用固定具(100)と、前記固定シェル(6)とは、着脱可能に取り付けられることにより、前記患者の治療対象の乳房を固定する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳癌の粒子線治療を受ける患者を固定する粒子線治療用固定具であって、
前記患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔を有する板部と、
前記治療対象の乳房を覆う固定シェルと、
を備える、粒子線治療用固定具。
【請求項2】
前記板部の上面が、伏臥位の前記患者の胸部に当接する、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項3】
前記患者が乗っている寝台の上面よりも高い位置から前記板部がせり出している、請求項2に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項4】
前記貫通孔の周縁部の上面は、前記寝台の上面よりも、100mm以上140mm以下高い位置に固定されている、請求項3に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項5】
前記固定シェルは、前記板部の前記胸部と当接する面とは反対側の面に着脱可能に取り付けられる、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項6】
前記固定シェルには、金属マーカが付加されている、請求項5に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項7】
前記貫通孔の周縁部における前記板部の厚さは、5mm以上11mm以下である、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項8】
前記板部は、前記胸部に当接する面が凹状になるように湾曲している、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項9】
前記板部の曲率半径は、50cm以上73cm以下である、請求項8に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項10】
前記板部は、前記貫通孔に挿入されることにより前記貫通孔から突出した前記治療対象の乳房に対して、水平方向から粒子線を照射可能な構造を有している、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項11】
前記貫通孔の幅は、10cm以上16cm以下であり、
前記貫通孔の径は、10cm以上16cm以下である、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項12】
前記貫通孔の開口部の形状は、円である、請求項11に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項13】
前記貫通孔の大きさは、前記治療対象の乳房に応じて変更される、請求項11に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項14】
寝台に着脱可能に固定する固定部を備えている、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項15】
前記粒子線治療は、回転ガントリーを用いた粒子線治療である、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【請求項16】
前記粒子線治療は、重粒子線治療である、請求項1に記載の粒子線治療用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳癌の粒子線治療において、患者を固定する固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、乳癌の治療は、抗がん剤等の薬物治療、手術による切除、放射線治療の組合せによって行われているが、基本的には、手術による切除を避けることは難しい。そのため、患者のQOL(Quality Of Life)の向上や手術に適さない患者のため、非切除による治療の開発が求められている。
【0003】
非切除による治療としては、外照射治療法、ラジオ波焼灼療法、凍結療法、超音波集束療法等が臨床試験として行われている。外照射治療法のうち、X線を用いた治療法では、多数の例において重篤な皮膚炎が起こることが報告されている(非特許文献3参照)。
【0004】
一方、本発明者らは、より低侵襲な治療として重粒子線を用いた重粒子線治療の開発を進めている(非特許文献1及び2参照)。重粒子線は、体内に入ってから一定の深さにおいて線量がピークとなる。これにより、皮膚の損傷を抑制し、腫瘍を標的として照射することができる。そのため、重粒子線治療では、事前に精密な照射計画を立て、計画に従って照射治療が実施される。この時、計画時と治療時とで患者の乳房の形状が異なっていると有効な治療ができないため、患者を固定する固定具が使用される。例えば、非特許文献1では、患者の胸部を締め付ける弾性ベルト及び患者の胸部前面を覆う固定シェルが用いられている。
【0005】
なお、上述した重粒子線治療は、粒子線を用いた腫瘍の治療である粒子線治療の一態様であり、上述したような弾性ベルト及び固定シェルは、粒子線治療の他の態様である陽子線を用いた陽子線治療においても患者を固定するために使用され得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Karasawa K et. al.,Journal of Radiation Research,Vol. 60,No. 3,p. 342-47,2019
【非特許文献2】Karasawa K et. al.,Radiation Oncology, 2020
【非特許文献3】Shibamoto Y et. al.,Journal of Radiation Research,p.1-7,2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
重粒子線治療や陽子線治療等の粒子線治療において、上述のような固定具を用いて患者を固定するためには、弾性ベルトの装着等に時間がかかるという問題がある。
【0008】
本発明の一態様に係る粒子線治療用固定具は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒子線を用いた腫瘍の治療において、患者を固定する固定具を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粒子線治療用固定具は、乳癌の粒子線治療を受ける患者を固定する粒子線治療用固定具であって、前記患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔を有する板部と、前記治療対象の乳房を覆う固定シェルと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、患者の固定にかかる時間を削減することにより、当該患者及び治療を行う医療関係者の負担を軽減する粒子線治療用固定具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】粒子線治療用固定具の構造の一例を示す模式図である。
【
図2】粒子線治療用固定具の構造の一例を示す模式図である。
【
図3】粒子線治療用固定具の構造の一例を示す模式図である。
【
図6】粒子線治療用固定具が備えている板部の構成の一例を示す模式図である。
【
図7】粒子線治療用固定具が備えている板部の構成の一例を示す模式図である。
【
図8】粒子線治療用固定具の一使用例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、
図1~
図8を参照して説明する。
【0013】
(粒子線治療用固定具の概要)
乳癌における非切除治療の一態様である粒子線治療では、体外から癌細胞に粒子線を照射することにより当該癌細胞を死滅させる。一般的に粒子線治療に用いられる粒子線は、水素原子核の流れである陽子線やヘリウムよりも重い原子核の流れである重粒子線である。重粒子線の一例としては、炭素原子核の流れである炭素線が挙げられる。陽子線及び重粒子線は、体内に入ってから一定の深さにおいて線量がピークとなるため、癌細胞において当該線量がピークになるように精密な照射計画を立てることで、治療効果を増大させ、正常組織への影響を低減する。よって、粒子線治療を実施する際には、照射計画と同じ位置に癌細胞が位置するように患者を固定する必要がある。粒子線治療用固定具100は、このような粒子線治療において、患者を固定することに適した粒子線治療用固定具である。なお、本実施形態においては、粒子線治療を受ける患者を伏臥位で固定する場合を例として、粒子線治療用固定具100について説明する。
【0014】
(粒子線治療用固定具の構成)
本発明の一態様に係る粒子線治療用固定具100の構成について、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、粒子線治療用固定具100の平面図である。
図2は、粒子線治療用固定具100の正面図である。
図3は、粒子線治療用固定具100の左側面図である。
図4及び
図5は、
図1に図示する粒子線治療用固定具100のA-A’線を通る横断面における断面図である。
【0015】
粒子線治療用固定具100は、
図1~
図3に示すように、板部1、台座部2、第1平板部3、第2平板部4、固定シェル6を備えている。板部1は、患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔11を有する。また、固定シェル6は、治療対象の乳房を覆う。
【0016】
粒子線治療を受ける患者は、寝台5の上面に固定された粒子線治療用固定具100に乗る。寝台5は、患者が横たわることができる台である。寝台5は、診察台、手術台、医療用ベッド等であってもよいし、レントゲン、CT、及びMRI等の医療機器において患者が横たわる寝台であってもよい。
【0017】
そして、患者の胸部を板部1に押し付け、治療対象の乳房を貫通孔11から通すとともに、治療対象の乳房を固定シェル6によって覆うことで、乳癌の粒子線治療を受ける患者を速やかに固定することができる。以下、各構成の詳細について説明する。
【0018】
[板部]
板部1は、台座部2の上部に接続され、伏臥位の患者の胸部を支持する。一例として、板部1は、台座部2と接続されている下面の反対側の面である上面が伏臥位の患者の胸部と当接する。これにより、患者の自重によって胸部を板部1に押し付け、患者を効果的に固定することができる。
【0019】
貫通孔11は、板部1の上面から下面まで貫通する貫通孔であり、貫通孔11には、患者の治療対象である乳房が挿入される。一例として、貫通孔11は、治療対象である乳房が患者の左右どちらの乳房であっても挿入できるように、板部1の中心部近傍に設けられる。
【0020】
貫通孔11の大きさ、および形状は、治療対象の乳房を好適に挿入することができるように適宜定めることができる。
【0021】
例えば、女性の乳房の標準的な大きさを参照して貫通孔11の幅を10cm以上16cm以下、貫通孔11の径を10cm以上16cm以下とすることができる。ここで「幅」とは、貫通孔11の両側から接する2本の平行線の間の最短距離とし、「径」とは、貫通孔11の両側から接する2本の平行線の間の最長距離とする。
【0022】
また、貫通孔11の大きさを治療対象の乳房に応じて変更できる構成を採用してもよい。例えば、板部1を異なる大きさの貫通孔を有する板部に付け替え可能な構成にすることで実現してもよい。これにより、治療対象の乳房の大きさに応じて貫通孔の大きさを変更するため、より好適に治療対象の乳房を固定することができる。
【0023】
また、貫通孔11の開口部の形状は、一例として、
図1に示すような円であってよいが、真円に限定されず、楕円、角が丸められた多角形等、円が変形したものであってもよい。
【0024】
貫通孔11の深さは、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さによって規定される。貫通孔11の周縁部における板部1の厚さは、伏臥位の患者の体重を支持することができる強度が担保される厚さであれば、薄ければ薄いほどよい。例えば、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さは、5mm以上11mm以下であることが好ましく、また、より好ましくは、6mm以上10mm以下、更に好ましくは、7mm以上9mm以下である。なお、
図2において貫通孔11は、見えないため符号11の引き出し線を破線で図示している。
【0025】
貫通孔11の周縁部における板部1の厚さを上記のように設定することにより、治療対象の乳房を板部1からより突出させることができる。粒子線は、板部1から突出した部分に照射されるため、これにより、腫瘍に対してより広い範囲の角度から粒子線を照射することができる。貫通孔11の周縁部における板部1の厚さと、粒子線を照射することができる角度の範囲との関係について
図4を参照して説明する。
図4(a)は、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さが薄い場合(例えば、5mm以上11mm以下)を示す。
図4(b)は、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さが厚い場合(例えば、11mmより大きい)を示す。また、両図において黒点は、腫瘍を示し、矢印は粒子線の照射方向を示す。
【0026】
図4(a)及び(b)に示すように、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さが薄い方が、より治療対象の乳房が板部1から突出している。特に、黒点で示す腫瘍のように胸壁に近い腫瘍の場合であっても、
図4(a)のように治療対象の乳房がより突出することで矢印の示す水平方向からの粒子線の照射が可能である。一方、
図4(b)のように、板部1が厚いために、治療対象の乳房の突出が小さい場合には、板部1と粒子線照射装置における粒子線の照射口との干渉や、板部1と粒子線の光路との干渉により水平方向からの粒子線の照射が制限される可能性がある。その場合、矢印が示すような角度から粒子線を照射する。したがって、貫通孔11の周縁部における板部1の厚さを上記の様に設定することにより、胸壁に近い腫瘍に対しても水平方向から粒子線を照射することができるため、粒子線の照射角度の選択肢が広がり、より適切な治療を行なうことができる。
【0027】
さらに、回転ガントリーを用いて粒子線治療を行なう場合に、照射計画の選択の幅を広げ、より適切な治療を行なうことができる。すなわち、回転ガントリーを用いた粒子線治療では、様々な角度から粒子線を照射することができるため、患者の皮膚へのダメージを軽減するために複数の方向から粒子線を照射する場合がある。そのような場合に、腫瘍に対してより広い範囲の角度から粒子線を照射することができれば、照射計画の選択の幅を広げることができる。
【0028】
また、板部1は、胸部に当接する面が凹状になるように湾曲していることが好ましい。これにより、より好適に患者の身体にかかる負荷を分散させることができる。また、貫通孔11から突出した治療対象の乳房に対して、より広い範囲の方向から粒子線を照射できるようにすることができる。
【0029】
板部1の曲率は、患者の体型に応じて任意に定めることができるが、たとえば、1.37rad/m以上2.00rad/m以下とすることができ(曲率半径は、50cm以上73cm以下)、好ましくは0.01.40rad/m以上1.90rad/m以下、さらに好ましくは1.50rad/m以上1.80rad/m以下とすることができる。これにより、より好適に、患者の体にかかる負荷を分散させることができる。また、貫通孔から突出した治療対象の乳房に対して、広い範囲の方向から重粒子線を照射できるようにすることができる。板部1の曲率と、粒子線を照射することができる角度の範囲との関係について
図5を参照して説明する。
図5(a)は、板部1の曲率が大きい場合(例えば、曲率が1.37rad/m以上2.00rad/m以下)を示す。
図5(b)は、板部1の曲率が小さい場合(例えば、曲率が1.37rad/mより小さい)を示す。また、両図において黒点は、腫瘍を示し、矢印は粒子線の照射方向を示す。
【0030】
図5(a)及び(b)において黒点で示す腫瘍の様に、胸壁に近い腫瘍の場合、
図5(a)のように板部1の曲率が大きいと、矢印で示す水平方向から粒子線を照射することができる。一方、
図5(b)のように板部1の曲率が小さいと、板部1と粒子線照射装置における粒子線の照射口との干渉や、板部1と粒子線の光路との干渉により水平方向からの粒子線の照射が制限される可能性がある。その場合、矢印が示すような角度から粒子線を照射する。したがって、板部1は、上記のような曲率を有するように湾曲していることにより、胸壁に近い腫瘍に対しても水平方向から粒子線を照射することができるため、粒子線の照射角度の選択肢が広がり、より適切な治療を行なうことができる。
【0031】
以上のように、板部1は、貫通孔11に挿入され、貫通孔11から突出した治療対象の乳房に対して、水平方向から粒子線を照射可能な構造とすることが好ましい。これにより、例えば、回転ガントリーを用いて粒子線治療を行う場合には、照射計画の選択の幅を広げ、より適切な治療を行うことができる。また、回転ガントリーを用いずに粒子線治療を行う場合であっても、胸壁に近い腫瘍に対しても水平方向から粒子線を照射することができ、適切な治療を行うことができる。
【0032】
なお、板部1の材料としては、特に限定されないが、カーボン、樹脂、木材等を適宜使用することができる。
【0033】
また、一態様において、板部1は、寝台5の上面よりも高い位置からせり出している。一般に、粒子線治療機器やCT、MRI等の検査機器が標的とする高さは、寝台5の上面よりも高い位置である。患者が伏臥位である状態で粒子線治療用固定具100を用いた場合、治療対象の乳房は板部1よりも低い位置に位置する。そのため、板部1が、寝台5の上面よりも高い位置からせり出していることにより、治療対象の乳房を、粒子線治療のための好適な高さにおいて固定することができる。
【0034】
なお、板部1の高さは、粒子線の照射口が患者の上部に設けられる場合、患者の背中が粒子線の照射口と接触すること及び治療対象の乳房が患者の乗っている寝台と接触することを避けるように設定することが好ましい。例えば、板部1の貫通孔11の周縁部の上面は、寝台5の上面よりも、100mm以上140mm以下100mm以上140mm以下高い位置に固定されてよく、好ましくは110mm以上130mm、さらに好ましくは115mm以上125mm高い位置に固定されてよい。これにより、治療対象の乳房を、粒子線治療のための好適な高さにおいて固定しつつ、患者の背中が粒子線の照射口と接触すること及び治療対象の乳房が患者の乗っている寝台と接触することを避け、さらに診断用MRIを撮像することができる。
【0035】
[台座部]
台座部2は、板部1、第1平板部3、及び第2平板部4と接続されている。一例として、台座部2は、板部1の下部に位置し、板部1の上面における貫通孔11の周縁部の上面が伏臥位の患者の胸部を寝台5よりも高い位置で支持するための台座である。台座部2は、上述したような板部1の高さを実現できるように構成すればよい。
【0036】
また、台座部2は、貫通孔11に挿入されることにより当該貫通孔11から突出した治療対象の乳房に対して水平方向(
図2において矢印で示す紙面に対して垂直な方向)から粒子線を照射できるような開口部を有している。当該開口部の形状及び大きさは、粒子線が治療対象の乳房に照射されるのを妨げなければ任意に定め得るが、粒子線の照射方向の選択肢が広がるように治療対象の乳房全体が見えるような開口部であることが好ましい。
【0037】
[第1平板部及び第2平板部]
第1平板部3及び第2平板部4は、台座部2から突出するように構成されている。一例として、第1平板部3は、伏臥位の患者の頭部又は腕部を支持し、第2平板部4は、伏臥位の患者の足部を支持する。また、第2平板部4は、寝台5に着脱可能に固定される固定部(図示せず)を備えている。なお、本実施形態においては、粒子線治療用固定具100が寝台5に着脱可能に固定する固定部を第2平板部4が備えている構成を想定するがこれに限定されない。例えば、当該固定部は、台座部2が備えていてもよいし、粒子線治療用固定具100のその他の構成が備えていてもよい。
【0038】
粒子線治療用固定具100が、寝台5に着脱可能であることにより、粒子線治療用固定具100のみを搬送することが可能であるため、様々な場面(例えば、治療計画を立てるためのCT検査や、粒子線治療時等)において同じ固定具を使用することができ、治療の精度を高めることができる。また、本願発明において、粒子線治療用固定具100を構成する材料は特に限定されないが、当該材料を工夫することで、軽量化を図ることができる。粒子線治療用固定具100を構成する材料としては、例えば、木材やカーボン等が挙げられる。このように材料を工夫することで、人力での搬送が可能になるため、より様々な場面において粒子線治療用固定具100を使用することができる。
【0039】
[固定シェル]
固定シェル6は、治療対象の乳房の形状を照射計画立案時と同様の形状で固定するためのカバーである。一例として、固定シェル6は、患者の治療対象である乳房の形状に合わせて作成される。また、固定シェル6には、金属マーカが付加されていることが好ましい。医療関係者(例えば、医師又は技師)は、当該金属マーカの位置に基づいて治療対象である乳房を所望の形状で固定する。固定シェル6を構成する材料は、粒子線を透過させ、患者の乳房の形状に合わせて加工が容易な材料であればよく、例えば、熱可塑性樹脂が好適である。また、一態様において、固定シェル6は、板部1の胸部と当接する面とは反対側の面に着脱可能に取り付けられる。
【0040】
(金属マーカによる乳房の固定)
治療対象である乳房に照射する粒子線は、上述したように、体内に入ってから一定の深さにおいて線量がピークとなるため、癌細胞において当該線量がピークになるように精密な照射計画を立てる必要がある。一般的に照射計画は、治療対象である乳房に癌細胞の位置を示す金属マーカを付加して撮像したCT画像又はX線画像に基づいて、粒子線の照射位置及び線量がピークになる深さ等を設定する照射計画を立てる。治療時に治療対象である乳房を固定する時には、照射計画における乳房の形状と同様の形状で固定されることが好ましく、固定シェル6には、その目印となる金属マーカが付加されている。癌細胞の位置を示す金属マーカと固定シェル6に付加されている金属マーカとの位置関係をCT画像又はX線画像で確認しながら照射計画における乳房の形状と同様の形状になるように調整して固定シェル6で治療対象である乳房を固定する。これにより、金属マーカに基づいて固定シェルの位置や形状を確認し、治療対象の乳房の位置や形状の調整の要否を確認することができる。
【0041】
(固定シェルの着脱)
上述したように、一態様において、固定シェル6は、板部1の胸部と当接する面とは反対側の面に着脱可能に取り付けられる。固定シェル6の着脱について、
図6及び
図7を参照して説明する。
図6及び
図7は、板部1の下面の構造を示す図である。
【0042】
図6は、固定シェル6の取り付け前の板部1の下面の構造を示しており、
図7は、固定シェル6の取り付け後の板部1の下面の構造を示している。
図6及び
図7に示すように、固定シェル6は、貫通孔11から突出している乳房を覆うように枠12に合わせられ、枠12の各辺に設けられている、つまみ13を貫通孔11の中心部に向かう方向に引き出すことにより板部1に取り付けられる。取り外す場合には、つまみ13を貫通孔11の中心部から離れる方向に戻す。なお、
図7において貫通孔11は、固定シェル6に覆われて見えないため貫通孔11の輪郭及び符号11の引き出し線を破線で図示している。
【0043】
このように、固定シェル6が、板部1の外側(患者とは反対側)から着脱可能になっていることによって、治療対象の乳房の位置や形状の調整が必要な場合に、固定シェルを外してから、胸部が板部に当接した状態でずらしてから、固定シェルを再装着することができる。これにより、一旦患者の身体を板部から大きく離す必要がなく、治療対象の乳房を微調整することができる。
【0044】
(粒子線治療用固定具の使用例)
粒子線治療用固定具100の使用例について、
図8を参照して説明する。
図8は、粒子線治療用固定具100の一使用例を示す模式図である。
【0045】
図8に示すように、粒子線治療を受ける患者は、治療対象ある乳房を貫通孔11に挿入し、固定シェル6により当該乳房の形状が固定される。また、固定シェル6による治療対象である乳房の固定に加えて当該患者は、固定クッション31及び固定クッション41により腕部及び足部も固定される。これにより、身体が動いた時に固定シェル6の内部で乳房が動くことを防ぐ。治療対象である乳房の固定及び患者の固定が完了したあとに、粒子線照射装置から癌細胞の位置に対応する固定シェル6上の位置に粒子線を照射する。一例として、粒子線の照射方向は、
図8において矢印で示す紙面に対して垂直な方向である。ここで使用する固定クッション31及び41は、放射線治療時、CT撮影時、及びMRI撮影時等において患者を固定するために一般的に使用される固定具から任意に選択し得るものである。
【0046】
なお、本実施形態においては、粒子線照射装置として粒子線を照射する照射口が寝台5を中心に360℃回転可能である回転ガントリーを用いてもよい。これにより、貫通孔11から突出した治療対象の乳房の癌細胞に対して水平方向からの照射に限らず、板部1の下面から癌細胞に対して鉛直方向に粒子線を照射することができ、照射計画の選択肢が広がる。
【0047】
(変形例)
なお、
図1~
図5では、患者が伏臥位で固定される構成について説明したが、本実施形態はこれに限定されず、患者が仰臥位で固定される構成であってもよい。すなわち、患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔11を有する板部1と、治療対象の乳房を覆う固定シェル6とを備える粒子線治療用固定具100を、仰臥位で寝台5上に乗っている患者に対して、上方から載せることにより、
図1~
図5の構成と同様に、患者の胸部を板部1に押し付け、治療対象の乳房を貫通孔11から通すとともに、治療対象の乳房を固定シェル6によって覆うことで、乳癌の粒子線治療を受ける患者を速やかに固定することができる。
【0048】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0049】
(まとめ)
本実施形態の態様1に係る粒子線治療用固定具は、乳癌の粒子線治療を受ける患者を固定する粒子線治療用固定具であって、前記患者の胸部に当接し、治療対象の乳房が挿入される貫通孔を有する板部と、前記治療対象の乳房を覆う固定シェルと、を備える。
【0050】
上記の構成によれば、患者の胸部が板部に押し付けられ、治療対象の乳房を貫通孔から通すとともに、治療対象の乳房を固定シェルによって覆うことで、乳癌の粒子線治療を受ける患者を速やかに固定することができる。
【0051】
本実施形態の態様2に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1において、前記板部の上面が、伏臥位の前記患者の胸部に当接する。
【0052】
上記の構成によれば、患者の自重によって胸部を板部に押し付け、乳癌の粒子線治療を受ける患者を効果的に固定することができる。
【0053】
本実施形態の態様3に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1又は2において、前記患者が乗っている寝台の上面よりも高い位置から前記板部がせり出している。
【0054】
上記の構成によれば、治療対象の乳房を、粒子線治療のための好適な高さにおいて固定することができる。
【0055】
本実施形態の態様4に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~3の何れか1つにおいて、前記貫通孔の周縁部の上面は、前記寝台の上面よりも、100mm以上140mm以下高い位置に固定されている。
【0056】
上記の構成によれば、治療対象の乳房を、粒子線治療のための好適な高さにおいて固定しつつ、患者の背中が粒子線の照射口と接触すること及び治療対象の乳房が患者の乗っている寝台と接触することを避け、さらに診断用MRIを撮像することができる。
【0057】
本実施形態の態様5に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~4の何れか1つにおいて、前記固定シェルは、前記板部の前記胸部と当接する面とは反対側の面に着脱可能に取り付けられる。
【0058】
上記の構成によれば、治療対象の乳房の位置や形状の調整が必要な場合に、固定シェルを外してから、胸部が板部に当接した状態でずらしてから、固定シェルを再装着することができるため、一旦患者の身体を板部から大きく離す必要がなく、治療対象の乳房を微調整することができる。
【0059】
本実施形態の態様6に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~5の何れか1つにおいて、前記固定シェルには、金属マーカが付加されている。
【0060】
上記の構成によれば、金属マーカに基づいて固定シェルの位置や形状を確認し、治療対象の乳房の位置や形状の調整の要否を確認することができる。
【0061】
本実施形態の態様7に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~6の何れか1つにおいて、前記貫通孔の周縁部における前記板部の厚さは、5mm以上11mm以下である。
【0062】
上記の構成によれば、治療対象の乳房を板部からより突出させることができ、腫瘍に対してより広い範囲の角度から粒子線を照射することができる。これにより、例えば、回転ガントリーを用いて粒子線治療を行なう場合には、照射計画の選択の幅を広げ、より適切な治療を行なうことができる。また、回転ガントリーを用いずに粒子線治療を行なう場合であっても、胸壁に近い腫瘍に対しても水平方向から粒子線を照射することができ、適切な治療を行なうことができる。
【0063】
本実施形態の態様8に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~7の何れか1つにおいて、前記胸部に当接する面が凹状になるように湾曲している。
【0064】
上記の構成によれば、上記の構成によれば、より好適に患者の身体にかかる負荷を分散させることができる。また、貫通孔から突出した治療対象の乳房に対して、より広い範囲の方向から粒子線を照射できるようにすることができる。
【0065】
本実施形態の態様9に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~8の何れか1つにおいて、前記板部の曲率は、1.37rad/m以上2.00rad/m以下である。
【0066】
上記の構成によれば、より好適に、患者の体にかかる負荷を分散させることができる。また、貫通孔から突出した治療対象の乳房に対して、広い範囲の方向から重粒子線を照射できるようにすることができる。
【0067】
本実施形態の態様10に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~9の何れか1つにおいて、前記板部は、前記貫通孔に挿入されることにより前記貫通孔から突出した前記治療対象の乳房に対して、水平方向から粒子線を照射可能な構造を有している。
【0068】
上記の構成によれば、例えば、回転ガントリーを用いて粒子線治療を行う場合には、照射計画の選択の幅を広げ、より適切な治療を行うことができる。また、回転ガントリーを用いずに粒子線治療を行う場合であっても、胸壁に近い腫瘍に対しても水平方向から粒子線を照射することができ、適切な治療を行うことができる。
【0069】
本実施形態の態様11に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~10の何れか1つにおいて、前記貫通孔の幅は、10cm以上16cm以下であり、前記貫通孔の径は、10cm以上16cm以下である。
【0070】
上記の構成によれば、治療対象の乳房を好適に挿入することができる。
【0071】
本実施形態の態様12に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~11の何れか1つにおいて、前記貫通孔の開口部の形状は、円である。
【0072】
上記の構成によれば、治療対象の乳房を好適に挿入することができる。
【0073】
本実施形態の態様13に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~12の何れか1つにおいて、前記貫通孔の大きさは、前記治療対象の乳房に応じて変更される。
【0074】
上記の構成によれば、粒子線治療固定具は、治療対象の乳房の大きさに応じて貫通孔の大きさを変更するため、より好適に治療対象の乳房を固定することができる。
【0075】
本実施形態の態様14に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~13の何れか1つにおいて、寝台に着脱可能に固定する固定部を備えている。
【0076】
上記の構成によれば、粒子線治療用固定具は、寝台に着脱可能であり、搬送することが可能であるため、様々な場面(例えば、治療計画を立てるためのCT検査時や、粒子線治療時等)において同じ固定具を使用することができ、治療の精度を高めることができる。
【0077】
本実施形態の態様15に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~14の何れか1つにおいて、前記粒子線治療は、回転ガントリーを用いた粒子線治療である。
【0078】
上記の構成によれば、回転ガントリーを用いた粒子線治療において、患者を速やかに固定することができる。
【0079】
本実施形態の態様16に係る粒子線治療用固定具は、上記態様1~15の何れか1つにおいて、前記粒子線治療は、重粒子線治療である。
【0080】
上記の構成によれば、乳癌の重粒子線治療を受ける患者を速やかに固定することができる。
【符号の説明】
【0081】
100 粒子線治療用固定具
1 板部
11 貫通孔
13 つまみ
2 台座部
3 第1平板部
31 固定クッション
4 第2平板部
41 固定クッション
5 寝台
6 固定シェル