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特開2024-147413ナトリウムイオン電池用負極活物質及びその製造方法、負極材料並びにナトリウムイオン電池
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  • 特開-ナトリウムイオン電池用負極活物質及びその製造方法、負極材料並びにナトリウムイオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147413
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用負極活物質及びその製造方法、負極材料並びにナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20241008BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060417
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 楊
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK11
5H029AL04
5H029AM02
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029DJ16
5H029HJ02
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA17
5H050CB05
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】繰り返し使用した後でも大きな容量を有することができるナトリウムイオン電池を構築することができる負極活物質を提供する。
【解決手段】本発明は、金属硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質であって、前記金属硫化物は、FeS及びFeを含有する、または、前記金属硫化物は、少なくともCr及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む硫化物である。本発明の負極活物質は、繰り返し使用した後でも大きな容量を有することができるナトリウムイオン電池を構築することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質であって、
前記金属硫化物は、FeS及びFeを含有する、ナトリウムイオン電池用負極活物質。
【請求項2】
金属硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質であって、
前記金属硫化物は、少なくともCr及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む硫化物である、ナトリウムイオン電池用負極活物質。
【請求項3】
前記金属硫化物は、葉状構造を有する粉末である、請求項1に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質を含む、負極材料。
【請求項5】
請求項4に記載の負極材料を備える、ナトリウムイオン電池。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質の製造方法であって、
鉄源を含む原料液を加熱して前駆体を得る工程1と、
前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理して金属硫化物を生成する工程2と
を含む、負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムイオン電池用負極活物質及びその製造方法、負極材料並びにナトリウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の蓄電池の主流は、リチウムイオン電池(LIB)であるが、近年では、ナトリウムイオン電池(SIB)が将来の有望な蓄電池の一つとして期待されている。SIBは、豊富なナトリウム資源、幅広い分布、LIB同様のエネルギー貯蔵メカニズム、及び、低コスト等の観点から、LIBの最も潜在的な代替品になり得るものであるからである。
【0003】
ナトリウムイオン電池において、各種金属を含有する化合物が注目されており、代表例として、遷移金属の硫化物が知られている。斯かる硫化物は、特有の物理的特性を備えるものであり、Naイオンの挿入/抽出が繰り返すことで効果的なイオン拡散経路を提供することが期待される。
【0004】
例えば、FeSをナトリウムイオン電池用の活物質に適用することが提案されており(例えば、非特許文献1)、形態制御、ナノ結晶化、元素置換、ハイブリダイゼーション、欠陥の導入等により改良研究が進められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】F. Wangら,Chemical Engineering Journal 380 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FeSをナトリウムイオン電池用負極活物質に適用した場合であっても、電池を繰り返し使用した後における容量が十分ではなく、サイクル容量特性という点で課題を残すものであった。このため、ナトリウムイオン電池において、電池特性、とりわけサイクル容量特性を向上させることができる負極活物質の開発が強く求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、繰り返し使用した後でも大きな容量を有することができるナトリウムイオン電池を構築することができる負極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の金属の硫化物を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
金属硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質であって、
前記金属硫化物は、FeS及びFeを含有する、ナトリウムイオン電池用負極活物質。
項2
金属硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質であって、
前記金属硫化物は、少なくともCr及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む硫化物である、ナトリウムイオン電池用負極活物質。
項3
前記金属硫化物は、葉状構造を有する粉末である、項1に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質。
項4
項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質を含む、負極材料。
項5
項4に記載の負極材料を備える、ナトリウムイオン電池。
項6
項1~3のいずれか1項に記載のナトリウムイオン電池用負極活物質の製造方法であって、
鉄源を含む原料液を加熱して前駆体を得る工程1と、
前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理して金属硫化物を生成する工程2と
を含む、負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のナトリウムイオン電池用負極活物質によれば、繰り返し使用した後でも大きな容量を有することができるナトリウムイオン電池を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)及び(b)は実施例1で得られた負極活物質のSEM画像、(c)及び(d)は比較例1で得られた負極活物質のSEM画像である。
図2】実施例1で得られた負極活物質のX線回折測定(XRD)結果である。
図3】(a)、(b)及び(c)は、実施例1で得られた負極活物質のTEM画像、(d)は、実施例1で得られた負極活物質のHRTEM画像、(e)は実施例1で得られた負極活物質のSAEDパターン、(f)は実施例1で得られた負極活物質中のFeS及びFeを含有する金属硫化物粉末のEDS分析結果である。
図4】作製例1(実施例1の負極活物質)及び作製例2(比較例1の負極活物質)で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果である。
図5】(a)は、作製例1及び作製例2で組み立てた電池の各電流密度に変化に伴うサイクル容量特性の評価結果、(b)は、作製例1で組み立てた電池の電流密度2Ag-1でのサイクル特性を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.ナトリウムイオン電池用負極活物質
本発明のナトリウムイオン電池用負極活物質(以下、単に「負極活物質」と表記する)は、金属硫化物を含有する。本発明の負極活物質の一実施形態において、前記金属硫化物は、FeS及びFeを含有するものである。以下、本発明において、FeS及びFeを含有する金属硫化物を含むナトリウムイオン電池用負極活物質を「負極活物質A」と表記する。また、負極活物質Aに含まれる前記金属硫化物を「金属硫化物a」と表記する。
【0014】
負極活物質Aによれば、繰り返し使用した後でも大きな容量を有することができるナトリウムイオン電池を構築することができる。すなわち、負極活物質Aは、ナトリウムイオン電池に適用することで、サイクル容量特性を向上させることができる。従って、本発明の負極活物質は、ナトリウムイオン電池を構成するための負極材料を形成するための活物質として好適に使用することができるものである。
【0015】
負極活物質Aに含まれる前記金属硫化物aは、少なくともFeS及びFeの2種類の硫化鉄を含有する。
【0016】
前記金属硫化物aにおいて、FeS及びFeの含有割合は特に限定されない。例えば、FeS及びFeの質量比であるFeS:Feは、10:1~0.1:1とすることができ、8:1~1:1であることが好ましく、4:1~2:1であることがさらに好ましい。
【0017】
金属硫化物a中にFeS及びFeが存在するか否かについては、負極活物質AのXRDスペクトルから確認することができ、具体的には、FeSのシグナル及びFeのシグナルの有無により判断することができる。
【0018】
金属硫化物aは、FeS及びFe以外の成分を含むことができ、あるいは、FeS及びFeのみからなるものであってもよい。金属硫化物は、FeS及びFeを50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0019】
金属硫化物aは固体であって、例えば、粉末状、塊状、顆粒状、繊維状等の種々の形態をとり得る。特に金属硫化物aは葉状構造を有する粉末であることが好ましい。これにより、金属硫化物aが活物質としての機能が高まり、ナトリウムイオン電池に適用することで、サイクル容量特性を特に向上させることができる。
【0020】
葉状構造とは、枝に多数の葉を有するような構造である。葉の形状は特に限定されず、例えば、シダ植物のような形状、ラベンダーのような形状、ローズマリーのような形状を有することができる。
【0021】
負極活物質Aにおいて、Fe及び硫黄(S)の含有割合は特に限定されない。例えば、Fe及び硫黄の全質量に対し、Feの含有割合を5~60質量%とすることができ、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは20~35質量%、特に好ましくは25~27質量%である。負極活物質Aは、本発明の効果が阻害されない程度である限り、Fe及び硫黄以外の元素を含むことができる。
【0022】
負極活物質Aは、本発明の効果が阻害されない限り、前記金属硫化物a以外に他の成分を含むこともできる。負極活物質Aは、前記金属硫化物aを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。負極活物質Aは、前記金属硫化物aのみからなるものであってもよい。
【0023】
負極活物質Aの形態は特に限定されず、粉末状、塊状、顆粒状、繊維状等の種々の形態をとり得る。負極活物質Aが粉末状である場合、粉末に含まれる前記金属硫化物aは、前述の葉状構造を有する。
【0024】
本発明の負極活物質の他の一実施形態において、前記金属硫化物は、少なくともCr及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む硫化物である。以下、本発明において、少なくともCr及びNiからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む硫化物を含有するナトリウムイオン電池用負極活物質を「負極活物質B」と表記する。また、負極活物質Bに含まれる前記硫化物を「金属硫化物b」と表記する。
【0025】
前記金属硫化物bは、例えば、Crを含む硫化物を挙げることができ、具体例として、Cr、NiCr、TiCr、FeCrが挙げられる。その他、前記金属硫化物bは、NiS、NiS、Ni、Ni、及びNiからなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。前記金属硫化物bの形状は、例えば、前記金属硫化物aと同様の形状とすることができる。従って、金属硫化物bも、葉状構造を有する粉末であることが好ましい。
【0026】
2.負極活物質の製造方法
本発明の負極活物質を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。なお、本発明負極活物質とは、前記負極活物質A及び前記負極活物質Bを包含する。例えば、負極活物質Aの製造方法であれば、下記の工程1及び工程2を備える製造方法が挙げられる。
工程1:鉄源を含む原料液を加熱して前駆体を得る工程。
工程2:前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理して金属硫化物を生成する工程。
【0027】
(工程1)
工程1は、鉄源を含む原料液を加熱する工程であり、斯かる工程によって、負極活物質の前駆体が得られる。
【0028】
鉄源は、Fe体であってもよいし、Feの化合物であってもよいし、これらの混合物であってもよく、好ましくはFeの化合物である。Feの化合物の種類は特に限定されず、例えば、Feの無機化合物、塩化物、有機化合物を挙げることができる。Feの無機化合物としては、例えば、Coの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酸化物、塩素酸塩、過塩素酸塩、クロリド錯体、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩、シアン化合物、シアン化合物塩、オキソアニオンを含む化合物(鉄酸塩)等を挙げることができる。Feの有機化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩及びコハク酸塩等を挙げることができる。
【0029】
中でも鉄源は、Feの無機化合物であることが好ましく、Feのシアン化合物塩(例えば、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム;K[Fe(CN)])であることが好ましい。
【0030】
工程1で使用する原料液は、前記鉄源の他、溶媒を含む。溶媒としては水を使用することができる他、各種有機溶媒も使用することができる。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、オレイン酸、エチレングリコール、オクタデセン、エチレンジアミン等を挙げることができる。工程1で使用する溶媒は、水と有機溶媒との混合物とすることもできる。工程1で使用する溶媒は、水であることが好ましい。
【0031】
工程1で使用する原料液において、鉄源及び溶媒の含有割合は特に限定されない。例えば、工程1で使用する原料液において、前記鉄源の濃度は、0.1~100mMとすることができ、好ましくは0.2~50mM、より好ましくは0.5~30mM、さらに好ましくは1~20mMである。
【0032】
工程1では、前記原料液を加熱処理する。加熱処理の方法として、例えば、原料を容器内に収容して容器を密閉し、該容器内を加熱する方法が挙げられる。原料中の溶媒が水である場合、いわゆる水熱合成法となる。
【0033】
工程1での加熱処理時の容器内の温度は特に制限されず、例えば、100~400℃とすることができ、150~250℃であることが好ましい。加熱時間も特に限定されず、加熱温度に応じて適宜決定することができ、例えば、6~40時間とすることができる。加熱処理時の容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0034】
工程1において、加熱処理が終了した後は、適宜の方法で生成物を取り出すことができ
る。例えば、生成物は固形分として得られる場合、固形分を遠心分離等の方法で分離し、
洗浄及び乾燥することで、生成物を固形物として得ることができる。
【0035】
工程1において、加熱処理で得られた前駆体は凍結乾燥をすることが好ましい。凍結乾燥の方法は特に限定されず、例えば、公知の凍結乾燥の条件を広く適用することができる。
【0036】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた前記前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理して硫化物を生成するための工程である。
【0037】
工程2で使用する硫黄源は硫黄を含む化合物であることが好ましい。この場合、FeS及びFeを含有する金属硫化物aが生成しやすい。
【0038】
硫黄を含む化合物としては、例えば、公知の硫黄化合物を広く挙げることができ、例えば、チオアセトアミド(CHCSNH)、チオ尿素(SC(NH)、システイン(CNOS)、チオ硫酸ナトリウム(Na)、硫化アンモニウム((NHS)、硫化ナトリウム(NaS)等を挙げることができる。なお、硫黄を含む化合物としては、硫黄元素の一部が、Se及び/又はTe元素に置き換えられてもよい。
【0039】
工程2で使用する硫黄源はチオアセトアミド(CHCSNH)であることが特に好ましい。この場合、FeS及びFeを含有する金属硫化物aが特に生成しやすい。
【0040】
工程2では、硫黄源は1種単独で使用することができ、あるいは、2種以上を併用することもできる。
【0041】
工程2において、前駆体を硫黄源の存在下で加熱処理する方法は特に限定されず、例えば、公知の硫化方法を広く採用することができる。中でも、硫化方法として、固体硫化法を採用することが好ましい。具体的には、固体状の硫黄源と、固体状の前駆体とが存在する空間内を加熱処理する方法が好ましい。この方法では、例えば、固体状の硫黄源が収容された容器と、工程1で得られた固体状の前駆体が収容された容器とを密閉容器内に収容し、この密閉容器を加熱処理する方法で、硫化物を生成させることができる。
【0042】
工程2の加熱処理の温度は、例えば、150~700℃とすることができ、好ましくは200~600℃、より好ましくは300~550℃、さらに好ましくは400~530℃である。加熱処理の時間は温度等に応じて適宜設定することができ、例えば、1~5時間である。工程2の加熱処理は真空雰囲気下で行うことができる。また、工程2の加熱処理は、真空雰囲気下で行うことが好ましい。この場合、FeS及びFeを含有する金属硫化物aが生成しやすい。真空雰囲気下で加熱を行った後は、不活性ガス雰囲気下での再度の加熱処理を行わないことが好ましい。
【0043】
工程2で使用する前駆体及び硫黄源の使用割合は特に限定されず、前駆体に対して過剰量の硫黄源を使用することができる。
【0044】
以上の工程2により、工程1で得られた前駆体が硫化処理され、目的の金属硫化物、すなわち、FeS及びFeを含有する金属硫化物aを得ることができる。得られた金属硫化物aを負極活物質Aとして使用することができ、必要に応じて他の成分と金属硫化物aとを組み合わせて負極活物質Aとして使用することができる。
【0045】
なお、負極活物質Bを製造する場合は、例えば、前記工程1において、鉄源を対応する金属源に替えること以外は、負極活物質Aと同様の製造方法を採用することができる。例えば、金属源として、K[Cr(CN)]、K[Ni(CN)]を使用することで、負極活物質Bを製造することができる。
【0046】
3.負極材料
本発明の負極材料は、負極活物質A又は負極活物質Bを含む限り、他の成分を含むこともでき、例えば、ナトリウムイオン電池の負極材料に使用されている公知の成分を挙げることができる。例えば、本発明の負極材料は、上記負極活物質の他、導電助剤及びバインダーを含むことができる。
【0047】
導電助剤は、例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知の導電助剤を広く挙げることができる。導電助剤としては、例えば、各種の炭素材料が例示され、硬質炭素、軟質炭素、グラフェン、還元型酸化グラフェン、天然黒鉛、人造黒鉛、導電性カーボンブラック、炭素繊維等を挙げることができる。炭素繊維としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。導電助剤は、その他、銅、ニッケル等の金属粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等を使用することもできる。
【0048】
バインダーとしては、例えば、各種電池の電極材料を形成するために使用されている公知のバインダーを広く挙げることができる。バインダーとしては、例えば、各種樹脂材料を挙げることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0049】
負極材料において、負極活物質の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、負極活物質が50~95質量%含まれることが好ましく、60~90質量%含まれることがより好ましい。
【0050】
負極材料において、導電助剤の含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、導電助剤が3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0051】
負極材料において、バインダーの含有割合は特に限定されない。例えば、負極材料に含まれる負極活物質、導電助剤及びバインダーの全質量に対して、バインダー3~30質量%含まれることが好ましく、5~20質量%含まれることがより好ましい。
【0052】
負極材料は、負極活物質、導電助剤及びバインダーのみで構成されていてもよいし、その他の成分が含まれていてもよい。
【0053】
負極材料の調製方法は特に限定されず、例えば、公知の負極材料の調製方法を広く採用することができる。例えば、負極活物質、導電助剤及びバインダーを所定の割合にて、適宜の方法で混合することで、負極材料を調製することができる。負極材料を調製するにあたっては、負極活物質、導電助剤及びバインダーを分散させるべく、溶媒を使用することもできる。溶媒としては、水の他、各種の有機溶媒、例えば、炭素数1~3の低級アルコール化合物、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)等を挙げることができる。負極材料が溶媒を含む場合は、例えば、スラリー状やペースト状となる。
【0054】
4.ナトリウムイオン電池
本発明のナトリウムイオン電池は、前記負極材料を備える限り、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知のナトリウムイオン電池と同様の構成とすることができる。本発明のナトリウム電池は、ナトリウムイオン二次電池であることがさらに好ましい。ナトリウム電池は、全固体ナトリウム電池であってもよい。
【0055】
ナトリウムイオン電池は、例えば、正極、負極、電解質及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、その用途に応じて適宜決定することができる。
【0056】
正極は、例えば、金属箔と正極材料で構成された構造を有することができる。金属箔を形成するための金属としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。正極材料は公知の正極材料を広く適用することができ、例えば、正極材料を構成する材料としては、ナトリウム金属、NaFePO、Na(PO、NaMO(M=Co、Mn、V、Fe)等が挙げられる。正極は公知の方法で作製することができ、例えば、金属箔上に正極材料を塗布する方法が挙げられる。
【0057】
負極は、例えば、金属箔に本発明の負極活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。負極は公知の方法で作製することができる。
【0058】
ナトリウムイオン電池において、電解質の種類も特に限定されず、例えば、公知の電解質を使用することができる。電解質は固体電解質及び液体電解質のいずれでもよい。
【0059】
液体電解質としては、電解質が溶媒に溶解した溶液を挙げることができる。電解質としては各種ナトリウム塩を挙げることができ、例えば、NaPF、NaClO、NaCFSO、NaFSI、NaTFSI等が挙げられる。溶媒は水、ジグライム、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸プロピル、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が例示される。
【0060】
固体電解質としては、硫化物系や酸化物系等の無機物材料や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料が挙げられる。
【0061】
セパレータとしては、二次電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等で形成された材料を挙げることができる。セパレータは、多孔質膜、不織布、織布等の形態とすることができる。その他、セパレータとしては、各種の高分子膜、および無機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、例えば、LiLaTiO、LiLaZr12(LLZO)、NaZrSiPO12、Na11SnPS12、NaPSe等が挙げられる。
【実施例0062】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
1mmolのK[Fe(CN)]を60mLの脱イオン水に溶解することで原料液を得た。この原料液をテフロン(登録商標)で裏打ちされた100mL容量のオートクレーブに移して当該オートクレーブを密閉し、200℃で20時間加熱して水熱合成を行うことで前駆体を得た(工程1)。この前駆体を遠心分離によって収集し、次いで、24時間の凍結乾燥処理をして前駆体の粉末を得た。次いで、磁器製ボートに前駆体100mgと、チオアセトアミド(TAA)粉末0.8gとを互いに接触しないように配置し、真空雰囲気下の管状炉内にて500℃で3時間の加熱を行った。これにより、目的の金属硫化物を負極活物質として得た(工程2)。
【0064】
(比較例1)
1mmolのK[Fe(CN)]を60mLの脱イオン水に溶解することで原料液を得た。この原料液をテフロン(登録商標)で裏打ちされた100mL容量のオートクレーブに移して当該オートクレーブを密閉し、200℃で20時間加熱して水熱合成を行うことで前駆体を得た。この前駆体を遠心分離によって収集し、次いで、24時間の凍結乾燥処理をして前駆体の粉末を得た。次いで、磁器製ボートに前駆体100mgと、チオアセトアミド(TAA)粉末0.8gとを互いに接触しないように配置し、真空雰囲気下の管状炉内にて500℃で3時間の加熱を行うことで金属硫化物を得た。この金属硫化物100mgと硫黄粉末0.8gとをそれぞれ、後記アルゴンの下流側及び上流側に配置し、このポーセレンボートを管状炉内にてアルゴンを流通させながら400℃で3時間加熱した。これにより、比較用の金属硫化物を負極活物質として得た。
【0065】
(作製例1)
実施例1で得られた負極活物質を用いて電池を作製した。具体的には、負極活物質と、導電性添加剤としてsuperP(導電性カーボンブラック)と、バインダーとしてメチルピロリジノン中に溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)とからなる負極材料用スラリーを準備した。このスラリーにおいて、負極活物質:superP:PVDF=7.5:1.5:1(質量比)とした。スラリーを銅箔にコーティングし、真空中80℃で12時間乾燥させることで、直径12mmの負極を製作した。この負極と、正極(アルミニウム箔付きナトリウム金属)と、液体電解質をしみ込ませたセパレータ(Cytiva提供の「Whatman GF/Cガラス繊維ろ紙」)とを用い、公知の方法により、電池を組み立てた。電解質は、1Mトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム溶液とし、斯かる溶液の溶媒は、ジグライムとした。
【0066】
(作製例2)
実施例1で得られたそれぞれの負極活物質を比較例1で得られた負極活物質に変更したこと以外は作製例1と同様の方法で電池を組み立てた。
【0067】
(評価結果)
図1(a)及び(b)は、実施例1で得られた負極活物質のSEM画像を、図1(c)及び(d)は、比較例1で得られた負極活物質のSEM画像を示している。図1(a)、(b)から、実施例1で得られた負極活物質は、葉状構造を有することがわかった。
【0068】
図2は、実施例1で得られた負極活物質のX線回折測定(XRD)結果である。X線回折測定には、Rigaku社製の「SmartLab」を使用し、2θ=10~100°の範囲でCu-Kα(λ=1.540Å)放射線源を使用して測定を行った。なお、図2には、参考として、FeS(JCPDS:71-2219)及びFe(JCPDS:71-0591)ののXRDパターンを示している。
【0069】
図2のXRDパターンから、実施例1で得られた負極活物質中の金属硫化物は、FeS及びFeを含有することが確認された。
【0070】
図3(a)、(b)及び(c)は、実施例1で得られた負極活物質のTEM画像、(d)は、実施例1で得られた負極活物質のHRTEM画像、(e)は実施例1で得られた負極活物質のSAEDパターン、(f)は実施例1で得られた負極活物質中のFeS及びFeを含有する金属硫化物粉末のEDS分析結果である。
【0071】
図3(a)、(b)及び(c)から、実施例1で得られた負極活物質は、葉状構造を有することがわかった。また、図4(d)及び(e)から、SAEDパターンは複数の同心円を示すものであったので、FeS及びFeを含有する金属硫化物はハイブリッドヘテロ接合であることが確認された。また、図3(f)のEDS分析結果から、実施例1で得られた負極活物質(金属硫化物)は、FeとS元素が均一に分布していることも確認された。
【0072】
図4は、作製例1(実施例1の負極活物質)及び作製例2(比較例1の負極活物質)で組み立てた電池の定電流充放電試験の結果を示す。この測定には、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して測定した。ここで、測定温度は30℃、印加電圧は0.3~3V(1Ag-1)とした。なお、図4において、Y軸の第1軸は容量(mAhg-1)を示し、Y軸の第2軸はクーロン効率(%)を示す。
【0073】
表1は図4の結果に基づいて、初期の容量(mAhg-1)、初期のクーロン効率(%)及び200サイクル目における容量保持率(%)をまとめたものである。
【0074】
表1及び図4から、実施例1で得られた負極活物質を用いた電池(作製例1)は、2サイクル目以降であっても高い容量保持を示し、200サイクル目で685.2mAhg-1の可逆充電容量を実現した。これは2サイクル目の充電容量を基準とした場合に93.1%の容量保持率に相当し、比較例1の負極活物質に比べて非常に優れたサイクル特性を有していることが確認された。
【0075】
【表1】
【0076】
図5(a)は、作製例1及び作製例2で組み立てた電池の各電流密度に変化に伴うサイクル容量特性の評価結果を示している。図5(b)は、作製例1で組み立てた電池の電流密度2Ag-1でのサイクル特性を示す結果である。
【0077】
図5(a)から、作製例1の電池は、電流密度は0.1から0.2、1.0、2.0、5.0、10及び20Ag-1に増加させたとき、それぞれ721.4、730.7、673.2、649.8、563.7、486.3、および307.2mAhg-1といった可逆容量を提供することができた。電流密度を0.1Ag-1に戻すと可逆容量が747.7mAhg-1に回復した。従って、実施例1で得られた負極活物質を用いた電池は、優れたサイクル容量特性を有していることが明らかとなった。
【0078】
図5(b)から、作製例1の電池は、2Ag-1では、1100サイクル後に631.9mAhg-1という高い充電容量を実現できることもわかった。
図1
図2
図3
図4
図5