(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014742
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】防汚性評価方法、防汚性評価装置、及び化粧料のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/28 20100101AFI20240125BHJP
G01N 13/00 20060101ALI20240125BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240125BHJP
G01N 33/32 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
G01Q60/28
G01N13/00
G01N33/15 Z
G01N33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100068
(22)【出願日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2022117371
(32)【優先日】2022-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 徳信
(72)【発明者】
【氏名】牟田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】北川 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 克行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 稜哉
(57)【要約】
【課題】化粧料の防汚性を、より高精度で評価できる方法を提供する。
【解決手段】防汚性評価方法が、プローブを化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ、前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定し、前記力に基づき、前記化粧料の防汚性を評価することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブを化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ、
前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定し、
前記力に基づき、前記化粧料の防汚性を評価する、防汚性評価方法。
【請求項2】
前記化粧料が、化粧料用流動成分を含む、請求項1に記載の防汚性評価方法。
【請求項3】
前記プローブによる測定面積が1μm2以上1,000mm2以下である、請求項1又は2に記載の防汚性評価方法。
【請求項4】
前記持ち上げの際の前記プローブの撓み量を測定し、前記撓み量に基づき、前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定する、請求項1又は2に記載の防汚性評価方法。
【請求項5】
前記プローブが、原子間力顕微鏡におけるカンチレバーである、請求項4に記載の防汚性評価方法。
【請求項6】
前記プローブがインデンタである、請求項1又は2に記載の防汚性評価方法。
【請求項7】
前記化粧料の厚みが1,000μm以下である、請求項1又は2に記載の防汚性評価方法。
【請求項8】
前記防汚性の評価が、平均粒径0.1μm以上100μm以下の微粒子に対する難付着性の評価を含む、請求項1又は2に記載の防汚性評価方法。
【請求項9】
化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ可能なプローブを含み、前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定する測定部と、
前記力に基づき、前記化粧料の防汚性を評価する評価部と
を備えた、防汚性評価装置。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の評価方法によって複数の化粧料を評価し、
前記評価に基づき、前記複数の化粧料から所定の化粧料を選択する、化粧料のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性評価方法、防汚性評価装置、及び化粧料のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚に適用される外用剤(化粧料、医薬部外品等)の特性として、防汚性が注目されている。防汚性は、外用剤を皮膚に適用して外部環境に晒した際に、外部環境中の粒子状異物(花粉、PM2.5等も含む)の付着しにくさ、及び/又は付着した粒子状異物の離れやすさである。
【0003】
外用剤の防汚性を評価するためには、外用剤を、粒子状異物が付着する環境に暴露して、粒子状異物が実際にどの程度付着したかを暴露前後の色の違いによって判定するという方法が一般的である。
【0004】
例えば、特許文献1には、評価用大気汚染物質(黒鉛粉末)の送風環境中に、外用剤を適用した白色人工皮革表面を暴露し、測色計を用いて暴露前後のL*a*b*値を測定して色差ΔEを求め、その色差ΔEに基づき、外用剤への大気有害物質の付着抑制効果を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような方法には、評価用物質(粉末)を送風機等により空気中に浮遊させる手順等が必要であるが、その際に測定条件を安定させるのが難しい場合がある。また、当該方法は、色差ΔEに基づいて評価を行うものであるので、用いられる評価用物質(粉末)は、付着前後で被付着面に色差ΔEを生ぜしめる色を有するものに限定される。このような限定された評価用物質では、実際の粒子状異物と詳細な挙動が異なる可能性があり、評価が正確にできない場合がある。よって、より高い精度で防汚性を評価できる方法が求められていた。
【0007】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、化粧料の防汚性を、より高精度で評価できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、防汚性評価方法において、プローブを化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ、前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定し、前記力に基づき、前記化粧料の防汚性を評価する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、化粧料の防汚性を、より高精度で評価できる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態による評価方法で用いられる評価装置の構成の概略図である。
【
図2】本発明の実施形態による評価方法の一例のフロー図を示す。
【
図3】実施例における一測定スポットでの測定により得られたフォースカーブである。
【
図4】実施例により得られたインタラクション値の二次元マッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、防汚性評価方法であって、プローブを化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ、前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定し、前記力に基づき、前記化粧料の防汚性(アンチポリューション性)を評価する方法である。
【0012】
また、本発明の一実施形態は、防汚性評価装置であって、化粧料に接触させた後、前記化粧料から離すように持ち上げ可能なプローブと、前記プローブの持ち上げの際に前記プローブと前記化粧料との間で作用する力を測定する測定部と、前記力に基づき、前記化粧料の防汚性を評価する評価部とを備えた装置である。
【0013】
本明細書において、「防汚性(アンチポリューション性)」は、化粧料を外部環境に晒した際の、外部環境中の粒子状異物の付着しにくさ(難付着性)、及び/又は付着した粒子状物質の離脱しやすさを指す。「粒子状異物」は、空気中を浮遊可能な物質であり、平均粒径0.1μm以上100μm以下の固体及び/又は液体の粒子(微粒子)を含んでいてよい。上記粒子状異物には、粉塵、煤塵、ミスト、花粉、黄砂、PM2.5等が含まれる。上記化粧料の防汚性は、化粧料を皮膚に適用した場合に外部環境に晒された化粧料表面の防汚性であってよいし、化粧料を何等かの物体表面に載置した場合に外部環境に晒された化粧料表面の防汚性であってもよい。また、容器に収容されている化粧料を、例えば容器を開封することで、外部環境に晒された化粧料表面の防汚性であってもよい。なお、本明細書において「適用」は、化粧料を何等かの表面に接触させる又は載置する動作であればよく、「適用」には、化粧料を皮膚表面に塗り広げること、及び皮膚表面に塗って擦り込むことも含まれる。さらに、適用された化粧料の状態は、層状(平面視の寸法が厚みに比して大きい形状)になっていてもよいし、塊状になっていてもよい。
【0014】
本形態の方法において評価される化粧料は、皮膚又は毛髪に対し使用可能なものであれば特に限定されない。すなわち、厚み1~1,000μm程度の層を形成可能な化粧料であればよい。よって、化粧料は、サスペンション、エマルション等の分散体、溶液、スラリー、粉体等の形態の、流動性を有するもの(非ニュートン流体を含む)であってよく、ローション、クリーム、ゲル、バーム等と呼ばれるものも含み得る。また、化粧料は、使用時に、皮膚又は毛髪に直接適用されるものであってもよいし、噴射剤等と共に充填されエアゾールとして適用されるものであってもよい。
【0015】
化粧料の具体例としては、化粧水、乳液、美容液、美容クリーム等の基礎化粧品、化粧下地、ファンデーション、コンシーラー、チーク、アイシャドー、アイブロー、アイライナー、口紅等のメーキャップ化粧品が挙げられる。また、本明細書において、化粧料には、日焼け止め剤、リップクリーム等のパーソナルケア製品(衛生日用品)も含まれ得る。また、化粧料には、化粧料を調製するために用いられる化粧料用の成分も含まれ得る。この化粧料用の成分は、1種の物質からなっていても、2種以上の物質を混合して得られたものであってもよい。
【0016】
図1に、本形態による防汚性評価方法で用いられる防汚性評価装置100の模式図を示す。
図1に示すように、防汚性評価装置100は、測定部50、解析部60、及び表示部70を備えており、さらに、測定部50は、プローブ21と、プローブ21の変化量(撓み量等)を測定するためのレーザ発生部31及びレーザ検出部32と、化粧料の層が形成された基材(対象表面)10を載置するための試料台40とを備えていてよい。
【0017】
図1に示す例では、測定部50は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy;AFM)として構成されている。原子間力顕微鏡では、プローブ21は探針であり、このプローブ21はカンチレバー22の先端付近に形成されている。但し、測定部50の構成は、プローブを化粧料と接触させて持ち上げる際に、プローブと化粧料との間で作用する力(プローブが化粧料から受ける引張り力等)を測定できるものであれば、原子間力顕微鏡を利用するものに限られない。例えばインデンタ等を利用した構成を測定部50としてもよい。インデンタを利用する場合には、プローブ21として圧子が用いられる。圧子は、サファイヤ等で形成されていてよく、先端(化粧料と接触する先端)は、円筒状になっていてもよいし、丸められて部分球状になっていてもよい。
【0018】
本形態による評価方法は、より具体的には、
図2に示すように、基材10に化粧料Cを適用し(S1)、プローブ21を化粧料Cに接触させて持ち上げる動作にわたって、プローブ21と化粧料Cとの間で作用する力を測定し(S2)、上記力に基づき、化粧料Cの防汚性を評価する(S3)ことを含む。
【0019】
基材10に化粧料Cを適用することによる試料の準備(S1)においては、例えば、化粧料Cを基材10の表面に適用して、好ましくは1~50μm、より好ましくは10~20μmの厚みの層となるようにする。その際、化粧料は、化粧料の性状に応じて、載置若しくは滴下された状態のままとしてもよいし、化粧料を表面上で塗り広げたり、表面に対して擦り込んだりしてもよい。基材10の材料は、特に限定されず、樹脂、金属、ガラス、人工皮膚、ヒト角層シート等の人の皮膚組織を模した材料であってよい。基材10の表面状態は、平坦であってもよいし、人の皮膚表面と同等の表面粗さであれば、ある程度粗くなっていてよい。
【0020】
試料の準備(S1)後、準備された試料を試料台40の上に載置する。試料台40は、例えば二次元又は三次元に走査可能な機器、例えばピエゾ駆動式の台とすることができる。その後、作用力の測定(S2)を開始する。作用力の測定(S2)においては、プローブ21に所定の動作をさせつつ、プローブ21の移動距離に応じた、プローブ21と化粧料Cとの間で作用する力を測定する。作用力の測定(S2)におけるプローブ21の動作は、プローブ21を化粧料Cに接触させた後に、化粧料Cの層に対して垂直方向に、化粧料Cの層から離れる方向に持ち上げる動作であってよい。より具体的には、(i)プローブ21を化粧料Cに近付け、接触させ(アプローチ工程)、(ii)化粧料Cから離すように持ち上げる(リリース工程)という一連の動作であってよい。(i)アプローチ工程においては、プローブ21を、化粧料Cからの受ける所定の反発力を検出するまで押し込んだ後、(ii)リリース工程に移行する。そして、プローブ21の工程(i)及び(ii)にわたって、すなわちアプローチ及びリリースの動作にわたって、プローブ21の化粧料Cの初期表面レベル(測定開始前の化粧料Cの表面の高さ位置)に対する垂直方向の距離Z(例えば単位μm)、及びプローブ21が化粧料Cから受ける力F(例えば単位nN)を測定する。
【0021】
測定部50が、原子間力顕微鏡を利用して構成されている場合、測定(S2)は、単一もしくは複数の測定ポイントのそれぞれで(i)アプローチ工程及び(ii)リリース工程を行って測定値を得ることができる。複数の場合には、(i)アプローチ工程及び(ii)リリース工程のセットを二次元にわたって繰り返し、複数の測定ポイントで測定値を得る。測定値を得る際には、上記二次元の領域内の複数の測定ポイントの測定順序は、隅の測定ポイントから開始し、隣接する測定ポイントに1つずつ進めていく順序としてもよいし、ランダムであってもよい。そして、各測定ポイントでフォースカーブ(後述の
図3に例示)を得て、それを解析することができる。
【0022】
図1の例では、プローブ21は、ばね特性を有するカンチレバー(片持ち梁)22に形成されている。測定部50では、カンチレバー22の撓み量が電気信号として検出され、その信号は解析部60に送信される。さらに、カンチレバー22のばね特性(ばね定数)に基づいて、カンチレバー22の撓み量から、プローブ21が化粧料Cから受ける力(プローブ21と化粧料Cとの間の作用力)Fを算出できる。プローブ21が化粧料Cから受ける力Fは、(i)アプローチ工程では主として反発力(化粧料Cが押す力)となり、(ii)リリース工程では主として引張力(化粧料Cが引っ張る力)となる。
【0023】
カンチレバー22のばね定数は、0.1N/m以上100N/m以下とすることができる。また、プローブ(探針)21は、ケイ素、窒化ケイ素等から形成されていてよい。プローブ21の先端形状は、丸みを帯びているものが好ましく、その先端の円相当径(先端の面積に等しい面積を有する真円の直径)は、1nm以上5,000nm(=5μm)以下であってよい。
【0024】
カンチレバー22の撓み量の検出においては、
図1に示すように、レーザ発生部31から検出用のレーザ光をプローブ21に向けて照射し、反射した光をセンサによって検出する、いわゆる光てこを利用することができる。レーザ発生部31及び検出部(センサ)32によって、レーザスポット位置の変位を検出することで、カンチレバーの撓み量を測定できる。レーザ発生部31は公知のレーザ発生装置であってよく、半導体レーザ等を利用できる。また、センサは、例えば4分割又は2分割フォトダイオードであってよい。
【0025】
また、上記工程(i)及び(ii)では、カンチレバー22が試料台40に対して垂直方向に移動してもよいし、試料台40がカンチレバー22に対して垂直方向(基材10に対する垂直方向)に移動してもよい。試料台40がピエゾ駆動等によって垂直方向に可動である場合には、試料台40の移動距離のデータが電気信号として解析部60に送信される。得られた試料台40の垂直方向での移動距離データから、プローブ21と化粧料Cの表面レベルとの距離Zが求められる。距離Zは、プローブ21と化粧料Cとが接触した状態でゼロとすることができる。
【0026】
なお、測定部50のために
図1に示すような原子間力顕微鏡を用いるのではなく、インデンタを用いる場合であっても、インデンタが化粧料Cから受ける力と、インデンタの垂直方向での移動距離データとを測定する。インデンタの先端の円相当径は、1μm以上1,000μm以下であってよい。
【0027】
測定(S2)は、化粧料Cの所定面積を有する測定範囲に対して行うことができる。測定範囲の所定面積は、評価に用いられる特性値を求めるための測定に必要な面積である。本形態における測定面積は、特に限定されないが、原子間力顕微鏡を利用する場合には、1μm2以上1,000mm2以下、好ましくは100μm2以上100mm2以下、さらに好ましくは100μm2以上10,000μm2(=0.01mm2)以下である。なお、測定面積は、インデンタを利用する場合には1mm2以上10,000mm2以下であってよい。本形態によれば、例えば一般的な粘着性測定の方法に比べて微小な測定範囲の評価が可能である。また、別の言い方をすると、上記面積を有する化粧料Cの層が形成できれば化粧料Cの防汚性を評価できるので、評価に要する試料の量はごく少量で済む。
【0028】
また、上記測定面積内における測定ポイント、すなわち上述の(i)アプローチ工程及び(ii)リリース工程を行って1つのフォースカーブを得る測定を行う箇所は、10×10以上100×100以下、若しくは100以上10,000以下であってよい。
【0029】
測定(S2)によって電気信号として検出された信号(データ)は、解析部60に送られ、化粧料Cの防汚性評価(S3)のために利用される。評価(S3)においては、解析部60にて、プローブ21の化粧料Cの表面に対する距離Zを横軸、及びプローブ21が化粧料力Fから受ける力を縦軸にプロットした、フォースカーブ(フォースマップ)を生成できる(
図3、実施例)。フォースカーブにおいては、上記(i)アプローチ工程及び(ii)リリース工程で異なった経路をたどる。さらに、フォースカーブは、表示部70に画像として表示することもできる。
【0030】
フォースカーブにおける所定値は、防汚性評価の指標となる特性値とすることができる。例えば、特性値は、(ii)リリース工程でのフォースカーブでの力F、すなわち化粧料Cから受ける引張力が最大となった時の力Fの値とすることができる。このような特性値(インタラクション値)は、1つの測定ポイントから得られた値であってもよいし、上述のように測定範囲内における複数の測定ポイントからそれぞれ得られた特性値の平均を求め、その平均値を、測定範囲に対する特性値としてもよい。
【0031】
また、測定範囲内の特性値の分布も求めることができる。このような分布は、解析部60において生成でき、二次元マッピング(後述の
図4に例示)として表示部70で表示できる。測定範囲内の特性値の分布を求めることで、測定範囲内での防汚性の均一性を把握することができる。
【0032】
評価(S3)においては、例えば、所定の化粧料(基準化粧料)との比較で、対象となる化粧料の防汚性の大小を評価できる。その場合、まず、経験から防汚性が高いとされている基準化粧料Csを選定し、当該基準化粧料Csについて上述の測定(S2)を行って特性値Vsを求めておく。さらに、防汚性を検証したい対象化粧料Cについて、基準化粧料Csについておこなった測定(S2)と同じ条件で特性値Vを求め、対象化粧料Cの特性値Vと基準化粧料Csの特性値Vsとを比較して、対象化粧料Cの防汚性が基準化粧料Csの防汚性より大きいか、小さいかを評価し、同程度かを判断することができる。また、対象化粧料Cの防汚性が基準化粧料Csの防汚性よりどの程度大きいか小さいかの判断することもできる。
【0033】
また、評価(S3)では、特性が未知の第1化粧料C1及び第2化粧料C2の防汚性の大小の評価をすることもできる。その場合、第1化粧料C1について上述の測定(S2)を行って特性値V1を求め、第2化粧料C2についても、第1化粧料C1の測定条件と同じ条件で特性値V2を求める。さらに、特性値V1と特性値V2の大小を比較することで、どちらの防汚性が高いかを評価できる。
【0034】
このように、本形態の評価方法は、化粧料自体の特性を測定し、その測定値によって防汚性を評価するものである。本形態によれば、付着させる評価用物質(粉末)も不要であり、評価用物質を送るための送風機、グローブバック等の装置の設営も不要である。よって、従来の方法に比べ、評価用物質(評価用粉末)、装置等の条件の要素が入り込むことなく、化粧料の特性を直接的に測定するので、より高い精度で評価することができる。また、評価装置を準備、調整するための煩雑さも低減され、好ましい。さらに、評価用物質を用いる従来の方法では、色差ΔEの測定のために十分な測定面積を確保する必要があったが、本形態による評価方法では、微小面積の化粧料の特性を測定できるので、評価に要する化粧料を微量にできる。
【0035】
また、化粧料の防汚性には化粧料の粘着性が大きく関連することから、防汚性の評価のために、粘着剤の一般的な粘着力試験方法(剥離強度試験、剪断強度試験等)を利用することも考えられる。しかしながら、このような試験方法によって得られる評価は、比較的大きな面積にわたって広げられた化粧料全体の挙動の評価、或いはさらに追加的に化粧料と基材との相互作用も反映された評価となり得る。ここで、化粧料の防汚性は、微小な粒子状異物の付着しにくさ、及び/又は一旦付着した微小な粒子状異物の離れやすさを含む特性である。しかしながら、従来の方法では、微小面積で接触する粒子状物に対する化粧料の特性は十分な精度で評価できない場合がある。これに対し、本形態による方法では、微小な測定範囲に対して測定が可能であり、微小な粒子状異物に対する防汚性の評価をより高い精度で行うことができる。また、評価のために使用される試料の量も微量で済む。
【0036】
さらに、本発明の一実施形態は、上述の評価方法(S1~S3)によって複数の化粧料(若しくは化粧料用流動成分)を評価し、前記評価に基づき、前記複数の化粧料から所定の化粧料を選択する、化粧料のスクリーニング方法であってもよい。
【0037】
より具体的には、化粧料のスクリーニング方法は、n種の化粧料c1、c2、…cnを準備し、各化粧料c1、c2、…cnに対して、上述の評価方法を用いて防汚性を評価することを含む。すなわち、化粧料c1、c2、…cnについて、防汚性の指標となる特性値v1、v2、…vnをそれぞれ求める。さらに、特性値v1、v2、…vnを比較して、必要に応じて防汚性の高い順若しくは低い順に順序付けし、n未満の任意の数の化粧料を選択することができる。例えば、最も防汚性の高い化粧料を1つ選択したり、防汚性が比較的高い2つの化粧料を選択したりすることができる。このようなスクリーニング方法は、化粧料の処方、より具体的には、最終製品の処方を検討する際に役立てることができる。
【実施例0038】
<実施例1>
化粧料、具体的には日焼け止めを、高粘度用ピペットを用いて樹脂のプレートに滴下し、塗り広げた。その後、20分間、室温(25℃)で保持した。
【0039】
上記化粧料に対し、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて以下の条件で測定を行った。測定開始前には、常法により、ばね定数及び反り感度のキャリブレーションを行った。
・装置:ブルカー社製、Dimension Icon(登録商標)XR
・プローブ(カンチレバー):ブルカー社製、RTESPA150-125(公称ばね定数4N/m、プローブ先端半径125nm)
・測定モード:フォースボリュームモード
・測定範囲(測定面積):10μm四方
・測定ポイント数:16×16。
【0040】
各測定ポイントにおいて、(i)プローブを試料に近付け、プローブ先端が試料表面に到達した後、一定の反発力(50nN)を検出するまで押し込み(アプローチ工程)、さらにその後、(ii)プローブを引き離す(リリース工程)という一連の動作を行った。そして、この一連の動作において、プローブ先端の化粧料表面に対する厚み方向(化粧料の層に対する垂直方向)の移動距離Z(μm)と、プローブが受ける力F(nN)とを記録した。
【0041】
さらに、移動距離Zを横軸に、力Fを縦軸にプロットしたグラフ(フォースカーブ)を出力した。このフォースカーブでは、プローブが受ける反発力を正、引張力を負とする。
図3に、本実施例の一測定ポイントにおいて得られたフォースカーブを示す。
図3においては、(i)アプローチ工程を点線で、(ii)リリース工程を実線で示す。フォースカーブにおける、上記の(ii)リリース工程で、プローブが化粧料からの引張り力が最大となった時の値(
図3では力Fの最小値)を、インタラクション値として記録した。
図3の例では、インタラクション値は-150nNであった。
【0042】
また、
図4に示すように、インタラクション値の二次元マッピングを生成した。このような二次元マッピングより、測定範囲内のインタラクション値の分布が分かる。また、全測定ポイントで得られたインタラクション値の平均値を求め、本測定の測定範囲における測定値とすることができる。
【0043】
<実施例2>
化粧料、具体的には日焼け止めを、ガラスプレートに滴下した。その後30分間、室温(25℃)で保持した。
【0044】
上記化粧料に対し、インデンタを用いて以下の条件で測定を行った。
・装置:インデント・プローブ・テクノロジー社製、顕微インデンタ
・圧子:先端半径500μmの球状圧子。
【0045】
圧子を試料に近づけ接触を検知した(アプローチ工程)後に、引き離す(リリース工程)という一連の動作を行った。この一連の動作において、圧子を引き離す方向にかかる最大の力をインタラクション値として記録した。同様の測定を、異なる測定ポイントにおいて計3回行ったところ、インタラクション値は平均-98μNであった。
【0046】
このようにして、インデンタを利用した方法でも、化粧料についてインタラクション値を測定できることが分かった。
【0047】
以上、本発明を具体的な実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態は例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。本発明の開示の範囲内において、様々な変
更、修正、置換、削除、付加、及び組合せ等が可能である。