(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147433
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】PET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/24 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
C08J11/24 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060449
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA26
4F401BA06
4F401CA25
4F401CA30
4F401CA67
4F401CA75
4F401CB01
4F401EA07
4F401EA59
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】廃棄物がPET樹脂とポリウレタンの混合物である場合に、PET樹脂から可塑剤を、ポリウレタンからポリウレタン原料を、それぞれリサイクル可能に回収可能なPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を提供する。
【解決手段】処理方法1は、PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物60を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の対象用アルコール中で、反応温度180℃以上240℃以下で塩基触媒を用いて解重合させて、テレフタル酸ジエステル63と、ポリオール64と、カルバミン酸ジエステル65に分解するステップS1の解重合工程と、テレフタル酸ジエステル63と、ポリオール64と、カルバミン酸ジエステル65と、をろ過及び/又は層分離で分離するステップS2の分離工程と、テレフタル酸ジエステル63を、ろ過及び/又は蒸留で精製するステップS3の精製工程と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物を1段階の解重合で処理する処理方法であって、
前記対象混合物を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の対象用アルコール中で、反応温度180℃以上240℃以下で塩基触媒を用いて解重合させて、テレフタル酸ジエステルと、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルに分解する解重合工程と、
前記テレフタル酸ジエステルと、前記ポリオールと、前記カルバミン酸ジエステルとを、ろ過及び/又は層分離で分離する分離工程と、
前記テレフタル酸ジエステルを、ろ過及び/又は蒸留で精製する精製工程と、
を備えることを特徴とするPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法。
【請求項2】
前記対象用アルコールが、1価アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法。
【請求項3】
前記対象用アルコールが、2価アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法。
【請求項4】
PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物を2段階の解重合で処理する処理方法であって、
前記対象混合物を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の第1のアルコール中で、反応温度180℃以上240℃以下で弱塩基触媒を用いて前記PET樹脂をテレフタル酸ジエステルに解重合する第1の解重合工程と、
前記第1の解重合工程で得られた前記テレフタル酸ジエステルと、前記ポリウレタンを含む第1の混合物を固液分離する第1の分離工程と、
前記第1の分離工程で分離した前記第1の混合物が含む前記ポリウレタンを、第2のアルコール中で、240℃以下で強塩基触媒を用いてポリオールと、カルバミン酸ジエステルに解重合する第2の解重合工程と、
前記第1の分離工程で分離した前記テレフタル酸ジエステルを、ろ過及び/又は蒸留して精製する精製工程と、
前記第2の解重合工程で得られた前記ポリオールと、前記カルバミン酸ジエステルを含む第2の混合物を、固液分離によりそれぞれの成分に分離する第2の分離工程と、
を備えることを特徴とするPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法。
【請求項5】
前記第1のアルコールが、1価アルコールであり、
前記第2のアルコールが、2価のアルコールであることを特徴とする請求項4に記載のPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種のプラスチックが混合された廃棄物の処理方法に係り、特に、廃棄物がPET樹脂とポリウレタンの混合物である場合の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PET樹脂と、これ以外の樹脂が混合された廃棄物を処理し、再生材料を得る方法が試みられている。しかし、再生材料が例えば可塑剤である場合、処理の反応速度が非常に遅かったり、複雑な工程を要するために処理コストが高価になったりすることから、実用的でないという課題があった。
そこで、近年、このような課題を解決するための技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「PET及びPTTのリサイクル流の統合処理方法」という名称で、PET及びPTTのリサイクル流から、ポリエステルポリオール及び可塑剤を製造する方法に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示された発明は、(a)複数種類のPET物品、またはそれらの混合物から選択されたリサイクル流を反応器内でグリコールと反応させて、ポリオールを含む消化生成物流と、少なくとも1つの未消化流とを生じさせる工程と、(b)複数種類の油類、分岐鎖状もしくは直鎖状のC6~C36 脂肪族アルコール等、またはそれらの混合物、から選択された疎水性物質と、消化生成物流とを反応器内で反応させて、ポリエステルポリオールを生じさせる工程と、を備えることを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、PETまたはPTTカーペット繊維は、一例として、疎水性物質、一塩基酸(一価酸)、二塩基酸(二価酸)、またはモノオール、グリコール、水、またはそれらの組み合わせと反応して、硬質発泡体、ポリイソシアヌレート発泡体、ポリウレタンポリマー、または軟質ポリウレタン発泡体に使用できるポリオール;単量体型可塑剤;または高分子型可塑剤を生成させる。
【0004】
次に、特許文献2には「スクラップまたは未使用テレフタル酸ポリエステルの崩壊エステル交換によるテレフタル酸ジエステルの製造方法」という名称で、テレフタル酸ポリエステル生成物の崩壊エステル交換によるテレフタル酸ジエステルの製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示された発明は、テレフタル酸ポリエステルを、高分子量アルコールまたは各々6~20個の炭素原子を有する高分子量アルコールの混合物と、触媒の存在下で反応させること、およびテレフタル酸ジエステルを回収することを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、ジオクチルテレフタレート(DOTP)のような可塑剤が、現在有効な方法のコストと同等なコストで製造され得る。
【0005】
さらに、特許文献3には「ポリエステル含有多種混合プラスチックの処理方法」という名称で、ポリエステルを含む廃プラスチック混合物からポリエステル成分を選択的に分離したポリエステル成分を可塑剤としてリサイクルする方法等に関する発明が開示されている。
特許文献3に開示された発明は、ポリエステルを含む廃プラスチック混合物をエチルヘキサノール及び炭酸カリウムと反応させて可塑剤を合成する可塑剤合成工程と、可塑剤合成工程でエチルヘキサノールと反応させた廃プラスチック混合物を、固体部分と液体部分に分離する固液分離工程と、固液分離工程で分離された可塑剤と過剰エチルヘキサノールを含む液体部分から、過剰エチルヘキサノールを除去する精製工程を有することを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、廃プラスチック混合物に含まれているポリエステルをアルコール分解することで、可塑剤をリサイクルすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2018-510225号公報
【特許文献2】特許第2927495号公報
【特許文献3】特開2021-63181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、PET物品にポリウレタンが混合されているとき、PETとポリウレタンがともにアルコールに反応するため、PETからの可塑剤のほか、ポリウレタンに起因する成分が含まれる溶液が回収される。さらに、この溶液と可塑剤とを分離することが困難であるため、可塑剤の収率が低く、リサイクルに適していないことが考えられる。
【0008】
また、特許文献2に開示された発明においては、廃棄物がテレフタル酸ポリエステルのみからなる場合についての、可塑剤の回収方法が開示されている。すなわち、廃棄物がポリウレタンをも含む場合についての、可塑剤の回収方法については開示されていない。
また、特許文献2に開示された発明においては、テレフタル酸ポリエステルを、高分子量アルコール等と反応させるため、特許文献1と同様に、回収された可塑剤がリサイクルに適していないおそれがある。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された発明においては、廃プラスチック混合物にポリウレタンが含まれる場合に、分離された固体部分を熱分解し、熱分解ガスと残渣とを発生させる熱分解工程を行うことで、ウレタンを熱分解油化することができる。しかし、ウレタンを熱分解する際に、アミン溶媒が用いられると、塩基性化されて、ウレタンを化学原料化してリサイクルすることが困難である。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、廃棄物がPET樹脂とポリウレタンの混合物である場合に、PET樹脂から可塑剤を、さらにポリウレタンからポリウレタン原料を、それぞれリサイクル可能に回収することのできるPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、第1の発明は、PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物を1段階の解重合で処理する処理方法であって、対象混合物を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の対象用アルコール中で、反応温度180℃以上240℃以下で塩基触媒を用いて解重合させて、テレフタル酸ジエステルと、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルに分解する解重合工程と、テレフタル酸ジエステルと、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルとを、ろ過及び/又は層分離で分離する分離工程と、テレフタル酸ジエステルを、ろ過及び/又は蒸留で精製する精製工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成の発明において、対象混合物として、例えば、自動車のシートや内装品が破砕処理された廃棄物が想定されている。そして、対象混合物は、PET樹脂とポリウレタンが分離されておらず一体的となっているもの、又は互いに分離しているPET樹脂とポリウレタンが混合されているもの、のいずれであってもよい。
また、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の対象用アルコールとは、沸点180℃以上の単一アルコール、又はアルコールの異性体が混合されてなる沸点180℃以上のアルコールをいう。
【0013】
上記構成の発明においては、解重合工程において、対象混合物が、テレフタル酸ジエステルと、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルと、に分解される。
次の分離工程においては、解重合工程で分解されたテレフタル酸ジエステルと、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルが、ろ過による固液分離及び層分離の少なくともいずれかによって、カルバミン酸ジエステルと、テレフタル酸ジエステル及びポリオールと、に分離される。なお、カルバミン酸ジエステルはろ取物として分離され、テレフタル酸ジエステル及びポリオールは、ろ液として分離される。
【0014】
続く精製工程において、分離工程で分離されたポリオール及びテレフタル酸ジエステルから、ろ過及び蒸留の少なくともいずれかにより、ポリオールを分離する。これにより、テレフタル酸ジエステルが精製されて、可塑剤として回収される。
なお、分離工程において分離されたカルバミン酸ジエステルと、精製工程で分離されたポリオールは、ポリウレタン原料として回収される。
すなわち、可塑剤と、ポリウレタン原料は、いずれも1段階の解重合を経て回収される。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、対象用アルコールが、1価アルコールであることを特徴とする。
このような構成の発明においては、1価アルコールとして、例えば、沸点が190~240℃の炭素数が9~11であるアルコールが使用される。
上記構成の発明においては、第1の発明と同様に、可塑剤としてテレフタル酸ジエステルが、ポリウレタン原料としてカルバミン酸ジエステルと、ポリオールがそれぞれ回収される。
加えて、1価アルコールの種類を変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収される。
【0016】
第3の発明は、第1の発明において、対象用アルコールが、2価アルコールであることを特徴とする。
このような構成の発明においては、2価アルコールとして、例えば、沸点が197.6℃の炭素数が2であるエチレングリコールや、沸点が245℃の炭素数が4であるジエチレングリコールが使用される。
上記構成の発明においては、第1の発明と同様に、可塑剤としてテレフタル酸ジエステルが、ポリウレタン原料としてカルバミン酸ジエステルと、ポリオールがそれぞれ回収される。
加えて、第2の発明と同様に、2価アルコールの種類を変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収される。
【0017】
第4の発明は、PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物を2段階の解重合で処理する処理方法であって、対象混合物を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の第1のアルコール中で、反応温度180℃以上240℃以下で弱塩基触媒を用いてPET樹脂をテレフタル酸ジエステルに解重合する第1の解重合工程と、第1の解重合工程で得られたテレフタル酸ジエステルと、ポリウレタンを含む第1の混合物を固液分離する第1の分離工程と、第1の分離工程で分離した第1の混合物が含むポリウレタンを、第2のアルコール中で、240℃以下で強塩基触媒を用いてポリオールと、カルバミン酸ジエステルに解重合する第2の解重合工程と、第1の分離工程で分離したテレフタル酸ジエステルを、ろ過及び/又は蒸留して精製する精製工程と、第2の解重合工程で得られたポリオールと、カルバミン酸ジエステルを含む第2の混合物を、固液分離によりそれぞれの成分に分離する第2の分離工程と、を備えることを特徴とする。
【0018】
このような構成の発明において、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の第1のアルコールとは、第1の発明におけるアルコールと同様に、沸点180℃以上の単一アルコール、又はアルコールの異性体が混合されてなる沸点180℃以上のアルコールをいう。
また、「第2の混合物を、固液分離によりそれぞれの成分に分離する」における「それぞれの成分」とは、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルを指している。
【0019】
上記構成の発明においては、第1の解重合工程において、対象混合物が含むPET樹脂が、テレフタル酸ジエステルに分解される。ただし、対象混合物が含むポリウレタンは、第1の解重合工程において分解されない。すなわち、第1の解重合工程においては、分解されたテレフタル酸ジエステルと、分解されないポリウレタンを含む第1の混合物との混合体が生成される。
次の第1の分離工程においては、解重合工程で分解されたテレフタル酸ジエステルと、上記の第1の混合物との混合体が、例えばろ過による固液分離によって、テレフタル酸ジエステルと、第1の混合物とに分離される。なお、第1の混合物は、ろ取物として分離され、テレフタル酸ジエステルは、ろ液として分離される。
【0020】
続く第2の解重合工程において、第1の分離工程で分離された第1の混合物が含むポリウレタンが、ポリオールと、カルバミン酸ジエステルとに分解される。ここで、分解されたポリオールと、カルバミン酸ジエステルを含む混合体を、第2の混合物とする。
また、第2の解重合工程においては、反応温度を240℃以下とするため、カルバミン酸ジエステルがさらに分解されて、有毒物質に変化することが防止される。
【0021】
さらに、精製工程においては、第1の分離工程で分離したテレフタル酸ジエステルを、ろ過による固液分離及び蒸留の少なくともいずれかによって精製し、可塑剤として回収する。
そして、第2の分離工程においては、第2の混合物を、固液分離によりポリオールと、カルバミン酸ジエステルとに分離する。これらは、それぞれポリウレタン原料として回収される。
すなわち、可塑剤は、第1の解重合工程という1段階の解重合を経て回収され、ポリウレタン原料は、第1及び第2の解重合工程という2段階の解重合を経て回収される。
【0022】
第5の発明においては、第4の発明において、第1のアルコールが、1価アルコールであり、第2のアルコールが、2価のアルコールであることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第4の発明と同様に、可塑剤としてテレフタル酸ジエステルが、ポリウレタン原料としてカルバミン酸ジエステルと、ポリオールがそれぞれ回収される。加えて、1価アルコールと、2価アルコールの種類をそれぞれ変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収される。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、廃棄物がPET樹脂とポリウレタンの混合物である場合に、PET樹脂から可塑剤を、さらにポリウレタンからポリウレタン原料を、それぞれ回収することができる。これらの可塑剤及びポリウレタン原料は、解重合工程と、分離工程と、精製工程を経ることで、高収率に回収できるため、第1の発明は、従来困難であったPET樹脂とポリウレタンの混合物のリサイクルを可能とする方法として有効である。
また、第1の発明によれば、可塑剤と、ポリウレタン原料は、いずれも1段階の解重合を経て回収されるので、従来技術よりも処理時間を短縮可能であるとともに、低コストでの処理が可能である。
さらに、第1の発明は、ポリウレタンを熱分解油化する工程を含まないため、生成された油が塩基性化されることがない。この点においても、ポリウレタンを化学原料化してリサイクルすることが可能になる。
【0024】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、1価アルコールの種類を変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収されることから、可塑剤やポリウレタン原料の用途範囲を大幅に拡大することができる。
また、1価アルコールとして、例えば、炭素数が9~11であるアルコールが使用されることによれば、回収された可塑剤を配合した樹脂製品の特性(例えば、耐熱性、耐寒性)を向上させることが期待できる。なお、樹脂製品として、例えば、カーテン、壁紙、フローリング、自動車用レザーシートが挙げられる。
【0025】
第3の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、2価アルコールの種類を変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収されることから、第2の発明と同様に、可塑剤やポリウレタン原料の用途範囲を大幅に拡大することができる。
【0026】
第4の発明によれば、可塑剤と、ポリウレタン原料は、いずれも2段階の解重合を経て回収されるが、従来技術よりも処理時間を短縮可能であるとともに、低コストでの処理が可能であることは、第1の発明の効果と同様である。これ以外の第4の発明の効果も、第1の発明の効果と同様である。
【0027】
第5の発明によれば、第4の発明の効果に加えて、1価アルコールと、2価アルコールの種類をそれぞれ変更することで、所望の種類の可塑剤やポリウレタン原料が回収されるから、第2及び第3の発明の各効果とそれぞれ同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を構成する解重合工程において使用される反応容器の構成図である。
【
図2】実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法の概要を示す工程図である。
【
図3】実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を実施するための装置と、各工程での結果物を示す工程図である。
【
図4】実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法の実施結果を示す一覧表である。
【
図5】実施例9乃至実施例14に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法の概要を示す工程図である。
【
図6】実施例9乃至実施例14に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を実施するための装置と、各工程での結果物を示す工程図である。
【
図7】実施例9乃至実施例14に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法の実施結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法について、
図1乃至
図4を用いて詳細に説明する。まず、同処理方法を構成する解重合工程において使用される反応容器の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を構成する解重合工程において使用される反応容器の構成図である。
図1に示すように、PET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を構成するステップS1の解重合工程(
図2参照)において使用される反応容器50は、容器体51と、この容器体51の上方に設けられる冷却塔52を備える。容器体51では、対象混合物60を対象用アルコール61中で、塩基触媒62を用いて解重合させる。また、解重合が進むに連れて蒸発した対象用アルコール61は、冷却塔52を通過することで冷却され、液体として回収される。
【0030】
次に、処理方法1を構成する各工程について、
図2を用いて説明する。
図2は、実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法の概要を示す工程図である。なお、
図1で示した構成要素については、
図2においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図2に示すように、PET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法(以下、処理方法という。)1は、PET樹脂とポリウレタンを含む対象混合物60を1段階の解重合で処理する処理方法であって、ステップS1の解重合工程と、ステップS2の分離工程と、ステップS3の精製工程と、を備える。
【0031】
ステップS1の解重合工程は、対象混合物60を、沸点180℃以上の単一又は異性体混合物の対象用アルコール61中で、反応温度180℃以上240℃以下で塩基触媒62を用いて解重合させて、テレフタル酸ジエステル63と、ポリオール64と、カルバミン酸ジエステル65に分解する。
【0032】
ステップS2の分離工程は、ステップS1の解重合工程で分解されたテレフタル酸ジエステル63と、ポリオール64と、カルバミン酸ジエステル65が、ろ過による固液分離及び層分離の少なくともいずれかによって、カルバミン酸ジエステル65と、テレフタル酸ジエステル63及びポリオール64と、に分離される。
【0033】
ステップS3の精製工程は、ステップS2の分離工程において分離されたテレフタル酸ジエステル63及びポリオール64を蒸留することで、ポリオール64を分離し、テレフタル酸ジエステル63を精製する。なお、本工程では、この蒸留以外に、ろ過、又はろ過及び蒸留の双方が行われてもよい。
【0034】
続いて、処理方法1を構成する各工程について、
図3を用いてより詳細に説明する。
図3は、実施例1乃至実施例8に係るPET樹脂とポリウレタン混合物の処理方法を実施するための装置と、各工程での結果物を示す工程図である。なお、
図1及び
図2で示した構成要素については、
図3においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3に示すように、対象混合物60は、予め破砕機53によって、小片に破砕されたものである。次に、対象混合物60は、反応容器50の容器体51に、対象用アルコール61と、塩基触媒62とともに投入されて、ステップS1の解重合工程において解重合される。
【0035】
解重合によって生成されたカルバミン酸ジエステル65は、ステップS2の分離工程においてろ過されることで、ろ取物として取り出される。さらに、取り出されたカルバミン酸ジエステル65を洗浄することで、このカルバミン酸ジエステル65がポリウレタン原料として回収される。
なお、対象用アルコール61は、反応容器50の冷却塔52を介し、容器体51へ戻される。
【0036】
一方、解重合によって生成されたテレフタル酸ジエステル63及びポリオール64は、ステップS2の分離工程においてろ過されることにより、ろ液として回収される。次いで、回収されたろ液は、蒸留容器54に投入される。なお、ろ液に含まれる対象用アルコール61は、蒸留容器54の冷却塔を介し、容器体51へ戻される。
次に、対象用アルコール61が除かれたろ液は、活性炭ろ過後に、減圧蒸留容器55に投入される。よって、ステップS3の精製工程は、蒸留容器54と、減圧蒸留容器55を用いて行われる。この工程では、ろ液からポリオール64が分離されて、テレフタル酸ジエステル63が精製される。精製されたテレフタル酸ジエステル63は、可塑剤として回収され、分離されたポリオール64は、ポリウレタン原料として回収される。
【0037】
さらに、処理方法1に基づく実施例1乃至実施例8と、比較例1乃至比較例4の各内容について、以下に示す。なお、実施例1乃至実施例8と、比較例1乃至比較例4の各内容において、テレフタル酸ジエステル63、ポリオール64及びカルバミン酸ジエステル65の各符号の記載は省略する。
【実施例0038】
PET樹脂60wt%と軟質ポリウレタン(ジフェニルメタンジイソシアネートとポリオールを原料とする)40wt%の混合物5gを、ディーンスターク装置を取り付け、50mLのイソノナノール中、1wt%の水酸化ナトリウムを触媒とし、200℃で還流させて4時間反応を行った。冷却後、ろ過をしてカルバミン酸ジイソノニルをろ取した。ろ液のテレフタル酸ジイソノニルとポリオールを活性炭でろ過し、テレフタル酸ジイソノニルを蒸留回収し、蒸留残渣としてポリオールを得た。テレフタル酸ジイソノニルは収率95%、カルバミン酸ジイソノニルを収率90%、ポリオールを収率88%で回収した。
実施例1のイソノナノールをエチルヘキサノールに変更し、反応温度を185℃にした以外は実施例1と同様の方法で実施した。テレフタル酸ジエチルヘキシルを収率90%、カルバミン酸ジエチルヘキシルを収率87%、ポリオールを収率84%で回収した。