(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147453
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】チップ抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 17/12 20060101AFI20241008BHJP
H01C 17/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01C17/12
H01C17/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060486
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】593028942
【氏名又は名称】太陽社電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093931
【弁理士】
【氏名又は名称】長屋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 頼季
【テーマコード(参考)】
5E032
【Fターム(参考)】
5E032BB01
5E032CA02
5E032CA11
5E032CC11
(57)【要約】
【課題】スパッタリング法により側面電極を製造する際に、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができるチップ抵抗器の製造方法を提供する。
【解決手段】保護膜形成工程において、保護膜G18を形成した後に、保護膜G18の上面における電極間方向の両側の端部領域にそれぞれ突状保護膜G20を形成し(突状保護膜形成工程)、その後、一次分割することにより形成された短冊状基板1’を積層させた状態で、スパッタリング法により側面電極としての金属薄膜を形成し(金属薄膜形成工程)、その後、二次分割工程とメッキ工程を行なってチップ抵抗器を製造する。製造されたチップ抵抗器においては、突状保護膜の電極間方向における外側の領域に側面電極及びメッキが形成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ抵抗器の製造方法であって、
チップ抵抗器における絶縁基板の素体となる基板素体で、該絶縁基板の複数個分の大きさを少なくとも有する基板素体の下面に下面電極を形成する下面電極形成工程と、
基板素体の上面側に、抵抗体と上面電極の各形成部材を形成する形成部材形成工程と、
抵抗体のトリミング時の熱衝撃を緩和するために抵抗体の上面にカバーコートを形成するカバーコート形成工程と、
抵抗体にトリミング溝を形成して抵抗体の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、
抵抗値調整工程の後に、少なくとも平面視における抵抗体の領域をカバーするように保護膜を形成する保護膜形成工程で、電極間方向と直角の方向である電極間直角方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に保護膜を形成することにより、各チップ抵抗器における保護膜の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器として基板素体が分割された状態となった絶縁基板の幅方向の長さと略同一となるように保護膜を形成する保護膜形成工程と、
保護膜の上面における電極間方向の両側の端部領域にそれぞれ保護膜の上面よりも上方に突出した突状保護膜を形成する突状保護膜形成工程で、電極間直角方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に突状保護膜を形成することにより、各チップ抵抗器における突状保護膜の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器として基板素体が分割された状態となった絶縁基板の幅方向の長さと略同一となるように突状保護膜を形成する突状保護膜形成工程と、
基板素体を一次スリットに沿って分割して複数の短冊状基板を形成する一次分割工程と、
短冊状基板を積層させた状態で、スパッタリング法により側面電極としての金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、
短冊状基板を二次スリットに沿って分割する二次分割工程と、
側面電極に対してメッキを行なうメッキ工程と、
を有し、
製造されたチップ抵抗器においては、突状保護膜の電極間方向における外側の領域に側面電極及びメッキが形成されていることを特徴とするチップ抵抗器の製造方法。
【請求項2】
抵抗値調整工程において、トリミング溝を、平面視において突状保護膜を形成する一対の領域の間の領域に形成し、平面視において突状保護膜を形成する領域にはトリミング溝を形成しないことを特徴とする請求項1に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【請求項3】
金属薄膜形成工程において、短冊状基板を積層させた状態では、突状保護膜と該突状保護膜の上側の短冊状基板における下面電極が密着した状態となることを特徴とする請求項1又は2に記載のチップ抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ抵抗器とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型チップ抵抗器の側面電極を形成する方法として、一次分割後の短冊を積み重ねた後にスパッタリング法により側面電極を形成する際に、保護膜へのスパッタの回り込みを防止するため、フォトリソ法によりマスクを形成する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
すなわち、特許文献1にあるように、ネガタイプのレジストの場合には、レジストを塗布・乾燥した後に、フォトマスクを使用して露光を行ない、露光に際して光が照射されずに未硬化の部分を薬品で溶解して除去して(つまり、現像する)、残ったレジストによりマスクを形成し、一次分割を行って、スパッタリング法により金属薄膜を形成する。その後、二次分割した後に、レジストを薬品により剥離する。
【0004】
また、ポジタイプのレジストの場合には、レジストを塗布・乾燥した後に、フォトマスクを使用して露光を行ない、露光により光が照射された部分を薬品で溶解して除去して(つまり、現像する)、残ったレジストによりマスクを形成し、一次分割を行って、スパッタリング法により金属薄膜を形成する。その後、二次分割した後に、レジストを薬品により剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の方法では、一次分割前にレジストの塗布・乾燥、露光、現像の各工程を行ない、さらに、二次分割後にレジストを剥離する工程を行わなければならず、多くの製造工程を必要とする問題があった。
【0007】
そこで、チップ抵抗器の製造に際して、スパッタリング法により側面電極を製造する際に、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができるチップ抵抗器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するために創作されたものであって、第1には、チップ抵抗器の製造方法であって、チップ抵抗器における絶縁基板の素体となる基板素体で、該絶縁基板の複数個分の大きさを少なくとも有する基板素体の下面に下面電極を形成する下面電極形成工程と、基板素体の上面側に、抵抗体と上面電極の各形成部材を形成する形成部材形成工程と、抵抗体のトリミング時の熱衝撃を緩和するために抵抗体の上面にカバーコートを形成するカバーコート形成工程と、抵抗体にトリミング溝を形成して抵抗体の抵抗値を調整する抵抗値調整工程と、抵抗値調整工程の後に、少なくとも平面視における抵抗体の領域をカバーするように保護膜を形成する保護膜形成工程で、電極間方向と直角の方向である電極間直角方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に保護膜を形成することにより、各チップ抵抗器における保護膜の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器として基板素体が分割された状態となった絶縁基板の幅方向の長さと略同一となるように保護膜を形成する保護膜形成工程と、保護膜の上面における電極間方向の両側の端部領域にそれぞれ保護膜の上面よりも上方に突出した突状保護膜を形成する突状保護膜形成工程で、電極間直角方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に突状保護膜を形成することにより、各チップ抵抗器における突状保護膜の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器として基板素体が分割された状態となった絶縁基板の幅方向の長さと略同一となるように突状保護膜を形成する突状保護膜形成工程と、基板素体を一次スリットに沿って分割して複数の短冊状基板を形成する一次分割工程と、短冊状基板を積層させた状態で、スパッタリング法により側面電極としての金属薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、短冊状基板を二次スリットに沿って分割する二次分割工程と、側面電極に対してメッキを行なうメッキ工程と、を有し、製造されたチップ抵抗器においては、突状保護膜の電極間方向における外側の領域に側面電極及びメッキが形成されていることを特徴とする。
【0009】
これにより、突状保護膜を設ける工程を追加するのみで、保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができ、一次分割前にレジストの塗布・乾燥、露光、現像の各工程を行なったり、さらに、二次分割後にレジストを剥離する工程を行なう必要もなく、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができる。
【0010】
また、第2には、上記第1の構成において、抵抗値調整工程において、トリミング溝を、平面視において突状保護膜を形成する一対の領域の間の領域に形成し、平面視において突状保護膜を形成する領域にはトリミング溝を形成しないことを特徴とする。
【0011】
これにより、スパッタリングのために短冊状基板を積み重ねた際に、突状保護膜と下面電極の間に隙間が生じるおそれを防止でき、一対の突状保護膜間の領域に金属薄膜が形成されず、保護膜へのスパッタの回り込みをより防止することができる。
【0012】
また、第3には、上記第1又は第2の構成において、金属薄膜形成工程において、短冊状基板を積層させた状態では、突状保護膜と該突状保護膜の上側の短冊状基板における下面電極が密着した状態となることを特徴とする。
【0013】
よって、突状保護膜と下面電極が密着することにより、突状保護膜と上側の短冊状基板の間に隙間が形成されるのを防止することができ、一対の突状保護膜間の領域に金属薄膜が形成されず、保護膜へのスパッタの回り込みをより防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に基づくチップ抵抗器の製造方法によれば、突状保護膜を設ける工程を追加するのみで、保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができ、一次分割前にレジストの塗布・乾燥、露光、現像の各工程を行なったり、さらに、二次分割後にレジストを剥離する工程を行なう必要もなく、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のチップ抵抗器の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明のチップ抵抗器の構成を示す平面図である。
【
図3】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【
図5】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【
図6】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【
図7】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【
図8】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【
図9】本発明のチップ抵抗器の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、チップ抵抗器の製造に際して、スパッタリング法により側面電極を製造する際に、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができるチップ抵抗器の製造方法を提供するという目的を以下のようにして実現した。
【0017】
すなわち、本発明に基づく実施例におけるチップ抵抗器1は、
図1に示されるように、絶縁基板10と、上面電極12と、抵抗体14と、カバーコート16と、保護膜18と、突状保護膜20と、下面電極22と、側面電極24と、メッキ26とを有している。
【0018】
ここで、チップ抵抗器1についてさらに詳しく説明すると、上記絶縁基板10は、含有率96%程度のアルミナにて形成された絶縁体である。この絶縁基板10は、直方体形状を呈しており、平面視すると、略長方形形状を呈している。この絶縁基板10は、上記チップ抵抗器1の基礎部材、すなわち、基体として用いられている。
【0019】
なお、この絶縁基板10にはレーザースクライブによりスリットが形成されるので、レーザースクライブして形成したスリットを分割することにより形成された切欠部が絶縁基板10の角部に形成されていることになる。すなわち、本発明においては、絶縁基板の上面側には、一次スリットと二次スリットとを形成し、裏面側には、二次スリットのみを形成することから、
図1に示す断面図においては、絶縁基板10の上面側の角部に切欠部が形成されていることになる。また、二次スリットは、上面側も下面側も形成されるので、
図2におけるY1側の側面とY2側の側面においては、上面側と下面側に切欠部が形成されている。なお、絶縁基板の上面側においては、一次スリットの深さは、二次スリットの深さよりも深く形成するので、絶縁基板10の上面側の切欠部も一次スリット側の方が深くなっている。
【0020】
また、上面電極12は、
図1に示すように、絶縁基板10の上面の長手方向(X1-X2方向(電極間方向、通電方向としてもよい))の両端部領域に一対形成されている。この上面電極12は、具体的には、銀系厚膜(銀パラジウム系メタルグレーズ厚膜)により形成されている。また、上面電極12のY1-Y2方向(このY1-Y2方向は、X1-X2方向及びZ1-Z2方向に直角な方向である。また、Z1-Z2方向は、X1-X2方向及びY1-Y2方向に直角な方向である。)の幅は、絶縁基板10のY1-Y2方向の幅よりも小さく形成されている。なお、Y1-Y2方向は、電極間方向に直角な方向である電極間直角方向といえる。
【0021】
また、抵抗体14は、
図1に示すように、基本的に上記絶縁基板10の上面に設けられていて、X1-X2方向の両端部は上面電極12の上面に接続して形成されている。つまり、抵抗体14は、X1-X2方向に帯状に形成されていて、平面視において略長方形状に形成されている。抵抗体14のY1-Y2方向の幅は、上面電極12のY1-Y2方向の幅よりも小さく形成されている。また、抵抗体14は、具体的には、酸化ルテニウム系厚膜(例えば、酸化ルテニウム系メタルグレーズ厚膜)により形成されている。なお、抵抗体14のY1-Y2方向の幅を上面電極12のY1-Y2方向の幅と同一としてもよい。
【0022】
また、カバーコート16は、抵抗体14の上面に層状に形成され、抵抗体14へのトリミング時の熱衝撃を緩和するために形成される。このカバーコート170の形成位置は、抵抗体14をカバーするように、幅方向(Y1-Y2方向)及び長さ方向(X1-X2方向)に、抵抗体14よりも若干大きく形成されている。このカバーコート16は、ガラス系材料により形成されている。なお、抵抗体14とカバーコート16には、トリミング溝17が形成されている。
【0023】
また、保護膜18は、
図1に示すように、主に、上面電極12の一部とカバーコート16の上面を被覆するように形成されている。すなわち、この保護膜18の形成位置をさらに詳しく説明すると、
図2に示すように、Y1-Y2方向には、該絶縁基板10の幅と略同一(同一としてもよい)に形成され、さらに、X1-X2方向には、カバーコート16と、両端に形成されている一対の上面電極12の一部を被覆するように設けられている。この保護膜18は、樹脂(エポキシ、フェノール、シリコン等)により形成されている。
【0024】
また、突状保護膜20は、保護膜18の上面に一対設けられていて、一方の突状保護膜20Aは、保護膜18の上面におけるX1側の端部領域に設けられ、他方の突状保護膜20Bは、保護膜18の上面におけるX1側の端部領域に設けられている。突状保護膜20A、20Bはともに、保護膜18の上面よりも上方に突出して形成されている。この突状保護膜20は、樹脂(エポキシ、フェノール、シリコン等)により形成されている。
【0025】
突状保護膜20Aと突状保護膜20Bは、ともに、Y1-Y2方向には保護膜18の幅と略同一(同一)の幅に形成され(つまり、保護膜18のY1-Y2方向の一方の端部から他方の端部にまで形成されている)、X1-X2方向には、突状保護膜20Aと突状保護膜20B間に間隔を形成することができる長さに形成され、突状保護膜20Aと突状保護膜20Bは、それぞれ、上面電極12のX1-X2方向の長さよりも短い長さに形成されている。また、突状保護膜20の形成位置は、保護膜18のX1側の端部領域とX2側の端部領域であるが、スパッタリングを行なうために短冊状基板を積み重ねた状態で、突状保護膜20が上側の短冊状基板の下面電極22に接する位置に設けられている。これにより、短冊状基板を積み重ねた状態で、突状保護膜20と下面電極22が密着して突状保護膜20と下面電極22間に隙間が形成されないようにすることにより、スパッタリングにより形成される金属薄膜が、突状保護膜20よりも内側の領域(突状保護膜20Aと突状保護膜20B間の領域)に形成されるのを防止できる。つまり、保護膜18へのスパッタの回り込みを防止することができる。すなわち、保護膜18の上面にスパッタリングによる金属薄膜が形成されてしまうと、基板上に実装されたチップ抵抗器の性能を正しく検査できない等の問題があるが、本実施例のチップ抵抗器の製造方法によれば、保護膜18の上面(すなわち、突状保護膜20Aと突状保護膜20B間の上面)に金属薄膜が形成されるのを防止することができる。
【0026】
また、下面電極22は、
図1に示すように、上記絶縁基板10の下面の長手方向(X1-X2方向(
図1参照))の両端部領域に一対形成されている。つまり、下面電極22は、絶縁基板10の下面のX1側の端部から所定の長さに形成されているとともに、下面電極22は、絶縁基板10の下面のX2側の端部から所定の長さに形成されている。なお、下面電極22のY1-Y2方向の幅は、絶縁基板10のY1-Y2方向の幅と略同一(同一としてもよい)に形成されている。この下面電極22は、金系薄膜により形成されている。なお、下面電極22を銀系厚膜(例えば、銀系メタルグレーズ厚膜)により形成してもよい。
【0027】
また、側面電極24は、
図1に示すように、上面電極12の一部と、突状保護膜20の一部と、下面電極22の一部と、絶縁基板10の側面(X1側とX2側の側面)を被覆するように断面略コ字状に層状に形成され、Y1-Y2方向には、絶縁基板10の幅と略同一(同一としてもよい)に形成さている。この側面電極24は、X1側の端部とX2側の端部にそれぞれ設けられている。この側面電極24は、薄膜により形成されている。なお、この側面電極24は、具体的には、金属薄膜により形成されている。
【0028】
また、メッキ26は、ニッケルメッキ28と、錫メッキ30とから構成されていて、X1側の端部とX2側の端部にそれぞれ設けられている。ニッケルメッキ28は、側面電極24と、下面電極22の一部とを被覆するように形成されている。つまり、側面電極24と下面電極22の露出部分を被覆するように形成されている。このニッケルメッキ28は、電気メッキにより略均一の膜厚で配設されている。このニッケルメッキ28は、ニッケルにて形成されており、上面電極12等の内部電極のはんだ食われを防止するために形成されている。このニッケルメッキ28は、ニッケル以外にも銅メッキが用いられる場合もある。
【0029】
また、錫メッキ30は、ニッケルメッキ28の表面を被覆するように略均一の膜厚で配設されている。この錫メッキ30は、上記チップ抵抗器1の配線基板へのはんだ付けを良好に行うために形成されている。なお、この錫メッキ30は、錫メッキ以外に、はんだが用いられる場合もある。
【0030】
なお、上記上面電極12と、下面電極22と、側面電極24と、メッキ26とで電極部40が形成される。
【0031】
上記構成のチップ抵抗器1の製造方法について、
図3~
図9等を使用して説明する。まず、一次スリットや二次スリットが設けられていない無垢のアルミナ基板(このアルミナ基板は、チップ抵抗器1における絶縁基板10の素体となる基板素体であり、複数のチップ抵抗器の絶縁基板の大きさを少なくとも有する大判のものである)5を用意し、このアルミナ基板5の下面(裏面、底面としてもよい)に、レーザースクライブによって一次スリットJ1と二次スリットJ2を形成する(
図3のS11、
図4(a)参照、下面側スリット形成工程)。つまり、複数の一次スリットをY方向に溝状に形成するとともに、複数の二次スリットをX方向に溝状に形成する。一次スリットJ1は、当然、複数のチップ抵抗器に分割した際にX方向に隣接するチップ抵抗器との境界位置に形成し、二次スリットJ2は、当然、複数のチップ抵抗器に分割した際にY方向に隣接するチップ抵抗器との境界位置に形成する。
【0032】
次に、アルミナ基板5の表側の面(すなわち、上面)にレーザースクライブによって一次スリットJ1と二次スリットJ2とを形成する(
図3のS12、
図4(b)参照、上面側スリット形成工程)。つまり、複数の一次スリットJ1をY方向に溝状に形成するとともに、複数の二次スリットJ2をX方向に溝状に形成する。一次スリットJ1は、当然下面に形成された一次スリットJ1に対応する位置に形成され、二次スリットJ2は、当然下面に形成された二次スリットJ2に対応する位置に形成されることになる。
【0033】
次に、アルミナ基板5の下面に下面電極G22を形成する(
図3のS13、
図5(c)参照、下面電極形成工程)。つまり、下面電極用の銀ペーストを印刷し、乾燥・焼成(840~860℃(好適には850℃)による焼成)する。なお、
図5(c)に示すように、この下面電極の形成に際しては、隣接するチップ抵抗器について同時に下面電極G22を形成する。つまり、X方向(このX方向は二次スリットの方向である)に隣接する2つのチップ抵抗器に対応するアルミナ基板の領域について、境界位置(つまり、一次スリット)となる位置を跨ぐように1つの印刷領域で下面電極を形成する。さらには、Y方向(このY方向は一次スリットの方向であり、X方向とは直角の方向である。つまり、Y方向は電極間直角方向である。)には、帯状に連続して下面電極を形成する。つまり、Y方向には複数のチップ抵抗器分まとめて一連の帯状に下面電極を形成し、さらに、X方向に隣接する2つの下面電極については、その2つの下面電極をまとめて形成する。この下面電極G22は、複数分の下面電極22であるといえる。
【0034】
なお、なお、
図4(a)、
図5(c)は、アルミナ基板を下面側から見た状態を示す図である。また、
図5(c)において、下面電極G22の領域を分かりやすくするためにハッチングを施している。
【0035】
次に、アルミナ基板の表側の面(すなわち、上面)に上面電極(電極)G12を形成する(
図3のS14、
図5(d)参照、上面電極形成工程)。つまり、上面電極ペーストを印刷し、乾燥・焼成(840~860℃(好適には850℃)による焼成)する。この場合の上面電極ペーストは、銀パラジウム系メタルグレーズペーストである。なお、銀系ペースト(例えば、銀系メタルグレーズペースト)により形成してもよい。なお、
図5(d)において、上面電極G12は、チップ抵抗器1における上面電極12の2つ分の上面電極である。つまり、チップ抵抗器となった場合に隣接するチップ抵抗器の上面電極で互いに隣接し合う上面電極について1つの印刷領域で形成する。つまり、一次スリットJ1を跨いだ状態にして上面電極G12を形成し、上面電極G12はチップ抵抗器1における2つ分の上面電極である。
【0036】
次に、アルミナ基板の上面と上面電極G12の一部の上面に抵抗体14を形成する(
図3のS15、
図5(e)参照、抵抗体形成工程)。つまり、抵抗体14の抵抗体ペーストを印刷した後に乾燥・焼成して抵抗体を形成する。なお、この抵抗体ペーストは、酸化ルテニウム系ペースト(例えば、酸化ルテニウム系メタルグレーズ)である。
【0037】
なお、X方向(電極間方向)は、抵抗体14において上面電極が接続される両側を結ぶ方向である。
【0038】
また、上記ステップS14(上面電極形成工程)とステップS15(抵抗体形成工程)とで、「基板素体の上面側に、抵抗体と上面電極の各形成部材を形成する形成部材形成工程」が構成される。つまり、形成される抵抗体や上面電極等は形成部材に当たる。
【0039】
次に、抵抗体14の上面に、ガラスペーストを印刷して焼成し、カバーコート16を形成する(
図3のS16、
図6(f)参照、カバーコート形成工程)。つまり、抵抗体14全体をカバーするように、カバーコート16を形成する。なお、カバーコートを形成する際に、Y方向に帯状にカバーコートを形成して、Y方向に複数のチップ抵抗器分まとめて形成してもよい。なお、カバーコート16は、抵抗体14全体をカバーしなくても、抵抗体14におけるトリミング溝17を形成する領域に形成してもよい。以上のように、抵抗体14の上面にカバーコート16を形成する。
【0040】
次に、抵抗体14にトリミング溝17を形成して抵抗値を調整する(
図3のS17、
図6(g)参照、抵抗値調整工程)。つまり、レーザートリミングにより抵抗体14にトリミング溝17を形成する。なお、トリミング溝17の形成に際しては、平面視において、突状保護膜20を形成する領域(厳密には、突状保護膜20を形成することになる領域)にはトリミング溝17を形成しない。つまり、平面視において突状保護膜20を形成する一対の領域の間の領域(厳密には、突状保護膜20を形成することになる一対の領域の間の領域)(具体的には、
図2における点線のハッチングに示す領域)にトリミング溝17を形成し、具体的には、抵抗体14におけるX方向の中央領域に形成して、完成後のチップ抵抗器1の平面透視において、突状保護膜20とトリミング溝17が重ならないようにする。これにより、スパッタリングのために短冊状基板を積み重ねた際に、突状保護膜G20と下面電極G22の間に隙間が生じるおそれを防止することができる。
【0041】
すなわち、突状保護膜20を形成する領域にトリミング溝17を形成すると、保護膜G18を形成した際に、トリミング溝17の箇所が凹状となり、さらに、突状保護膜G20を形成した際に、保護膜G18の当該箇所が凹状になっていることにより、突状保護膜G20も凹状となって、スパッタリングのために短冊状基板を積み重ねた際に、突状保護膜G20と下面電極G22の間に隙間が生じるおそれがあり、隙間が生じると金属薄膜が突状保護膜20よりも内側の領域に形成されるからである。
【0042】
次に、抵抗体14及びカバーコート16を覆うように保護膜G18を形成する(
図3のS18、
図6(h)参照、保護膜形成工程)。つまり、Y方向(電極間直角方向)に帯状に樹脂ペーストを印刷し、乾燥・硬化(190~210℃(好適には200℃)による硬化)させる。つまり、Y方向には複数のチップ抵抗器分まとめて一連の帯状に保護膜を形成する。この保護膜G18は、保護膜20の複数分であるといえる。つまり、Y方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に保護膜G18を形成することにより、各チップ抵抗器1における保護膜18の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器1として基板素体が分割された状態となった絶縁基板10の幅方向の長さと略同一となるように保護膜を形成する。なお、
図6(h)において、保護膜G18の領域を分かりやすくするためにハッチングを施している。
【0043】
次に、保護膜G18の上面に一対の突状保護膜G20を形成する(
図3のS19、
図7(i)参照、突状保護膜形成工程)。つまり、保護膜G18の上面におけるX方向の両側の端部領域に突状保護膜G20を形成する。突状保護膜G20の形成に際しては、Y方向に帯状に樹脂ペーストを印刷し、乾燥・硬化(190~210℃(好適には200℃)による硬化)させる。つまり、Y方向には複数のチップ抵抗器分まとめて一連の帯状に突状保護膜を形成する。この突状保護膜G20は、突状保護膜20の複数分であるといえる。つまり、Y方向に複数のチップ抵抗器分の領域に帯状に突状保護膜G20を形成することにより、各チップ抵抗器における突状保護膜の電極間直角方向の長さをチップ抵抗器として基板素体が分割された状態となった絶縁基板の幅方向の長さと略同一となるように突状保護膜を形成する。なお、
図7(i)において、保護膜G18の領域と突状保護膜G20の領域を分かりやすくするためにハッチングを施している。
【0044】
保護膜G18と突状保護膜G20の材料は、突状保護膜G20を保護膜G18に十分固定するため同じ材料とする。つまり、樹脂ペーストであれば、保護膜G18、突状保護膜G20ともに樹脂ペーストとする。
【0045】
次に、一次スリットJ1に沿って一次分割する(
図3のS20参照、一次分割工程)。この分割に際しては、例えば、下面側を基点として、アルミナ基板を折り曲げるようにして分割する。つまり、1つのチップ抵抗器分のアルミナ基板の部分を直線状に配列してなる短冊状基板を隣接する短冊状基板に対して折り曲げるように上面側から下方に折曲させて各短冊状基板に分割する。
【0046】
次に、該短冊状基板に対して、金属薄膜G24を形成する(
図3のS21、
図8、
図9参照、金属薄膜形成工程)。つまり、一次分割した短冊状基板1’を
図8に示すように積層して、スパッタリング法により金属薄膜G24を形成する。
【0047】
つまり、
図8に示すように、短冊状基板1’を積み重ねることにより、突状保護膜G20と、その上側の下面電極G22が密着した状態となり、一対の突状保護膜G20間の空間が密閉される。なお、最上位置の短冊状基板1’の上には蓋部40を配置して、一対の突状保護膜G20間の空間を密閉する。
【0048】
なお、短冊状基板1’の平面透視において、下面電極G22の領域と突状保護膜G20の領域が重なるように下面電極G22と突状保護膜G20を形成しておき、短冊状基板1’を積み重ねた際に、突状保護膜G20と上側の短冊状基板1’の下面電極G22が接するようにすることにより、下面電極G22はアルミナ基板5’よりも下方に突出しているので、突状保護膜G20と下面電極G22が密着しやすくなり、突状保護膜G20と上側の短冊状基板1’の間に隙間が形成されるのを防止することができる。
【0049】
そして、スパッタリングを行なうことにより、
図9に示すように、金属薄膜G24が形成される。一対の突状保護膜G20間の空間は密閉されていて、薄膜材料が突状保護膜G20にせき止められるので、保護膜G18の上面における一対の突状保護膜G20間の領域には、金属薄膜が形成されず、保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができる。つまり、突状保護膜G20は、せき止め保護膜として機能する。金属薄膜の薄膜材料としては、例えば、ニッケルクロム系合金が挙げられる。
【0050】
なお、
図8、
図9において、5’は、一次分割したアルミナ基板を示し、1’は、一次分割により形成された短冊状基板を示している。
【0051】
次に、短冊状基板1’を二次スリットJ2に沿って二次分割して個々のチップ片とする(
図3のS22参照、二次分割工程)。その後は、チップ片にメッキを形成して(メッキ工程)チップ抵抗器とする(
図3のS23参照)。
【0052】
なお、製造されたチップ抵抗器1には突状保護膜20が設けられており、チップ抵抗器1を回路基板に実装する際には、突状保護膜20が設けられた状態で実装されることになる。また、製造されたチップ抵抗器1においては、突状保護膜20の電極間方向における外側の領域に側面電極24及びメッキ26が形成されている。製造されたチップ抵抗器1において、突状保護膜20は、保護膜18から上方に突出した状態となっているが、突状保護膜20の外側の領域が側面電極24及びメッキ26に覆われているので、突状保護膜20を保護膜18に対して十分固定することができる。
【0053】
上記のように、本実施例のチップ抵抗器の製造方法によれば、突状保護膜を設ける工程を追加するのみで、保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができ、一次分割前にレジストの塗布・乾燥、露光、現像の各工程を行なったり、さらに、二次分割後にレジストを剥離する工程を行なう必要もなく、少ない工程で保護膜へのスパッタの回り込みを防止することができる。
【0054】
なお、上記の説明において、上面電極12の形成後に抵抗体14を形成し、抵抗体14が上面電極12の上面に重なるものとして説明したが、抵抗体14の形成後に上面電極12を形成して、上面電極12が抵抗体14の上面に形成された構成としてもよい。この場合も、上面電極と抵抗体を形成する工程が形成部材形成工程となる。
【0055】
また、上記の説明においては、アルミナ基板5の下面に二次スリットJ2のみを形成するとしたが、アルミナ基板5の下面に一次スリットと二次スリットを設けてもよく、また、上記の説明では、レーザースクライブにより一次スリットや二次スリットを形成するとしたが、予め上面と下面に一次スリットと二次スリットが形成されたアルミナ基板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 チップ抵抗器
1’ 短冊状基板
5 アルミナ基板
5’ アルミナ基板
10 絶縁基板
12 上面電極
14 抵抗体
16 カバーコート
17 トリミング溝
18 保護膜
20 突状保護膜
22 下面電極
24 側面電極
26 メッキ
28 ニッケルメッキ
30 錫メッキ
G12 上面電極
G18 保護膜
G20 突状保護膜
G22 下面電極
G24 金属薄膜
J1 一次スリット
J2 二次スリット