(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014748
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】可撓性ガイドを具備する時打ち機構を備える時計のムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 21/06 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G04B21/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023104844
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】22185894.7
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】バティスト・イノー
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ファーヴル
(72)【発明者】
【氏名】ジョナタン・メイエール
(57)【要約】
【課題】可撓性ガイドを具備する時打ち機構を備える時計のムーブメントを提供する。
【解決手段】本発明は、振動要素(11)と、可撓性ガイド(122)のブレードを経由して時計のムーブメントの構造に片持ち支持されて締結されたハンマ(121)を備え、振動要素(11)の時打ち装置(120)とを含むウオッチの時打ち機構(10)を備える時計のムーブメントに関し、ブレード(122)は、振動要素(11)に接する軸Tに平行な方向に従って伸展するように配列される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計のムーブメントであって、前記時計のムーブメントは
振動要素(11)と、
可撓性ガイドを形成する弾性ブレード(122)を経由して前記時計のムーブメントの構造に片持ち支持されて締結されたハンマ(121)を備え、
前記振動要素(11)の時打ち装置(120)を備えるウオッチの時打ち機構(10)を備える時計のムーブメントにおいて、前記時打ち機構(10)は、前記ブレード(122)が前記ハンマ(121)の打点で前記振動要素(11)に接する軸Tに平行な方向に従って伸展するように配列されることを特徴とする時計のムーブメント。
【請求項2】
前記時打ち装置(120)は、埋込型の機械的接続だけにより前記時計のムーブメントの前記構造に締結される、請求項1に記載の時計のムーブメント。
【請求項3】
少なくとも前記ブレード(122)は深部反応性イオンエッチングによりシリコンから作られる、請求項1に記載の時計のムーブメント。
【請求項4】
少なくとも前記ブレード(122)は、詳細にはフェムト秒レーザによるレーザ加工により、または放電加工により作られる、請求項1に記載の時計のムーブメント。
【請求項5】
前記時打ち装置(120)は一体で作られる、請求項1に記載の時計のムーブメント。
【請求項6】
前記時打ち装置(120)は、成形または熱間形成によりアモルファス金属から作られる、請求項5に記載の時計のムーブメント。
【請求項7】
前記時打ち装置(120)は、LIGA処理によりニッケルまたはニッケルリンから作られる、請求項5に記載の時計のムーブメント。
【請求項8】
前記ブレード(122)の厚さは、前記ハンマ(121)の厚さよりも薄い、請求項1に記載の時計のムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計のムーブメントの複雑化の分野に関し、詳細にはウオッチの時打ち機構に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、可撓性ガイドを具備する時打ち機構を備える時計のムーブメントに関する。
【0003】
そのような時打ち機構は15分の反復、分、大きな鳴動、小さな鳴動、またはアラームなど任意の鳴動タイプに適合されてよい。
【背景技術】
【0004】
ウオッチの時打ち機構は、ゴングなどの振動要素をたたくことが意図されるハンマを含むことが公知である。
【0005】
詳細には、ハンマは、ばねにより振動要素に向けて動くように強制され振り上げられる、すなわち、リフトまたは別の専用機構などの活動化機構によりゴングから離して保持される。
【0006】
一般に、振動要素は、ウオッチボックスの中で曲線をなす方向に従って、たとえば該ボックスの中心軸の周囲に伸展する。ハンマは、振動要素に打ち当たると振動要素に対して力を発生させ、振動要素の振動を、その結果として鳴動音を生じさせる。これらの力は、法線成分および接線成分を含み、接線成分は、ハンマが振動要素に及ぼす摩擦の特徴を表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
詳細には、事実上ハンマが加える力の法線成分により振動要素を振動状態に設定させ、それに関して、ハンマが振動要素に及ぼす衝撃の有効性、およびこの衝撃により作り出される音響を制御するこの法線成分を制御および最大化する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、この目的を達成するために、振動要素と、該振動要素の時打ち装置とを備えるウオッチの時打ち機構を備える時計のムーブメントを提供することにより前述の欠点を解決する。時打ち装置は、可撓性ガイドを形成する少なくとも2つの弾性ブレードを経由して時計のムーブメントの構造に片持ち支持されて締結されたハンマを備える。2つのブレードは、詳細には時打ち装置のハンマがたたくことが意図される振動要素の打点で振動要素に接する軸Tに平行な方向に従って伸展するように配列される。
【0009】
特定の実施形態では、本発明は、単体で取り上げられる、または技術的に実現可能な任意の組合せによる、以下の特徴のうち1つまたは複数をさらに含んでよい。
【0010】
特定の実施形態では、時打ち装置は、埋込型の機械的接続だけにより時計のムーブメントの構造に締結される。
【0011】
特定の実施形態では、少なくともブレードは、深部反応性イオンエッチング(deep reactive-ion etching)によりシリコンから作られる。
【0012】
特定の実施形態では、少なくともブレードは、詳細にはフェムト秒レーザによるレーザ加工により、または放電加工により作られる。
【0013】
特定の実施形態では、時打ち装置は一体形で作られる。
【0014】
特定の実施形態では、時打ち装置は、成形または熱間成形によりアモルファス金属から作られる。
【0015】
特定の実施形態では、時打ち装置は、LIGA処理によりニッケルまたはニッケルリンから作られる。
【0016】
特定の実施形態では、ブレードの厚さはハンマの厚さよりも薄い。
【発明の効果】
【0017】
本発明の他の特徴および有利な点は、添付図面を参照して限定しない例として示す以下の詳細な記述を読むと明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による、静止状態にある時打ち装置を備える時打ち機構の上面図を概略的に表す。
【
図2】
図1の時打ち機構の時打ち装置の横断面図を概略的に表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図は、明瞭化のために必ずしも縮尺通りに描かれていないことに留意されたい。
【0020】
図1は、本発明の好ましい実施形態での、ウオッチの時計のムーブメントの時打ち機構10を示す。
【0021】
時打ち機構10は、振動要素11と、音響を生じさせるために該振動要素11をたたくことが意図される時打ち装置120とを備える。振動要素11は、時計のムーブメントの構造に、たとえばブリッジ、ディスクなどに締結され、
図1に表す実施形態ではゴングにより形成される。
【0022】
時打ち装置120は、可撓性ガイドを形成するいくつかのブレード122を経由して時計のムーブメントの構造に片持ち支持されて締結されたハンマ121を備える。ブレード122は弾性変形能力を有し、本発明ではハンマ121を誘導および駆動するために使用される。好ましくは、ブレード122の数は2つである。詳細には、時打ち装置120が静止状態にある、すなわち平衡位置にあるとき、各ブレード122の形状は直線状である。ブレード122により形成された可撓性ガイドは並進ガイドである。
【0023】
要約すれば、当業者によりそれ自体が公知の手法で、時打ち装置120は、リフトまたは任意の他の専用機構などの活動化機構(図に表さず)により振り上げられる、すなわち、ハンマ121は、振り上げた状態に到達するまで漸次変形するようにブレード122を強制するように、振動要素11から離して駆動される。次に、現在時間の所定の時間値を通過することに応答して、またはユーザの指示で、活動化機構は、ブレード122の弾性付勢力の効果により、次に駆動されるハンマ121を解放して、振動要素11をたたき、時打ち装置120はこのとき、時打ち状態にある。
【0024】
有利には、ブレード122は、従来の計時器枢軸とは対照的に、どんなバックスラッシュもなく、かつ油をさすことなく、時計のムーブメントの構造に対して、かつ詳細には振動要素11に対して、ハンマ121を非常に正確に位置決めできるようにする。その上、ブレード122は、時打ち装置120が振動要素11をたたくたびに一定量のエネルギーを提供してハンマ121を並進状態で動かす。
【0025】
図1および
図2に概略的に示すように、ブレード122は、2つの長手方向端部の間で伸展する。したがって、各ブレード122は、その長手方向端部の一方により時計のムーブメントの構造に、各ブレード122の他の長手方向端部によりハンマ121に、機械的に接続される。換言すれば、時打ち装置120は、埋込型の機械的接続だけにより時計のムーブメントの構造に締結される、すなわち、ブレード122は、ハンマ121と構造の間で機械的接続だけを形成する。
【0026】
詳細には、各ブレード122は溶接、ねじ締め、接着、密着はめ合いにより、または当業者が利用できる範囲内で任意の他の適切な手段により、時計のムーブメントの構造に締結されてよい。
【0027】
ブレード122は、
図1に示すように、振動要素11に接する軸Tに平行な方向に従って伸展するように配列される。より具体的には、軸Tは、ハンマ121の衝撃を受けることが意図される点で、すなわちハンマ121の打点で、振動要素11に接する。その結果、ハンマは、軸Tに垂直な方向Dに従って並進状態で、または軸Tに垂直な方向Dに接する方向に従って実質的に並進状態で駆動される。
【0028】
この特徴には有利な点が多くある。
【0029】
実際はこの特徴により、たたくときにハンマ121が振動要素11に加える力の法線成分を最大にできるようになる、または場合によってはどんな接線成分も抑制できるようになる。その結果、このようにたたくことは、ブレード122の所与の弾性特性を得るために振動要素11に伝達される力に関してより効果的であり、それにより、該たたくことにより、より大きな音量を生じさせる。
【0030】
その上、この特徴により、振動要素11の表面上でハンマ121の打点の位置をよりよく制御できるようになり、その結果、該振動要素11の振動反応を、したがって、たたいたときに作り出される音響効果を、よりよく制御できるようになる。より具体的には、たたいたときに作り出される音響効果は、打点が振動要素11の振動モードの振動の腹に位置するか振動の節に位置するかに応じて異なる。
【0031】
最後に、可撓性ガイドおよびその特定の配列を使用することにより、該可撓性ガイドが誘導機能と弾性付勢機能の両方を果たす範囲で時打ち装置120の大きさを低減できるようになり、該時打ち機器を形成する部品数を著しく低減できるようになる。
【0032】
好ましくは、時打ち装置120は一体で作られる。その結果、時打ち装置120は特に作りやすく、その製造費用は抑制される。さらに、本機構は、時打ち装置120がさまざまな部品を組み立てることにより設計された場合に存在していたであろう、想定される機械的バックスラッシュに関連する、たたいたときの力の低下を欠点として持つ可能性が低い。
【0033】
詳細には、時打ち装置120は、たとえば成形もしくは熱間成形によりアモルファス金属から、またはたとえばLIGA処理によりニッケルまたはニッケルリンから作られてよい。
【0034】
あるいは、時打ち装置120および詳細にはブレード122は、たとえばドライエッチングにより、およびより詳細にはDeep Reactive Ion Etchingを意味する頭字語DRIEで当業者などに公知の製造法である深部反応性イオンエッチングにより、シリコンから作られてよい。あるいは、ブレード122は、詳細にはフェムト秒レーザによるレーザ加工により、または放電加工により鋼鉄から作られてよい。
【0035】
詳細には、ハンマ121は、ねじまたは植込みボルトにより打ち込み接着することによりブレード122が締結される金属材料から、たとえばタングステンまたは鋼鉄から作られた1つまたは複数の質量を含んでよい。
【0036】
有利には、ブレード122の厚さは、
図2の概略的断面図に示すように、ハンマ121の厚さよりも薄い。この特徴により、ブレード122の質量と比較してハンマ121の質量を増大させることができるようになり、したがって、振動要素11をたたくときにブレード122が加えるエネルギーを増大させることができるようになる。
【0037】
厚さは、時打ち装置120および振動要素11が移動可能な平面に垂直な方向に従って伸展する寸法であると規定されることに留意されたい。
【0038】
より一般的には、本明細書では上記で考慮した実装形態および実施形態について、限定しない例として記述してきたこと、およびその結果としてその他の変形形態を考慮できることに留意されたい。
【0039】
詳細には、ハンマは、
図1に表す実施形態では台形の形状を有するが、さらにまた時打ちを行うのに適した任意の形状を有してよい。
【0040】
さらに、
図1に表す実施形態では、振動要素11は、時打ち装置120が内側に配置された周方向に従って伸展するストランドを備えるゴングにより形成される。代わりに、時打ち装置120は、ゴングのストランドの外側に配列できる。
【0041】
その上、振動要素11は、ハンマがたたいた後に振動要素11が振動してベルまたはゴングのように、振動するときに音響を生成できるようにする任意の適切な形状を採用してよい。
【符号の説明】
【0042】
10 時打ち機構
11 振動要素
120 時打ち装置
121 ハンマ
122 ブレード
D 軸Tに垂直な方向
T 振動要素に接する軸
【外国語明細書】