(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147482
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】N-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 26/06 20060101AFI20241008BHJP
C09D 11/101 20140101ALI20241008BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20241008BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20241008BHJP
C09J 7/30 20180101ALI20241008BHJP
【FI】
C08F26/06
C09D11/101
C09D4/00
C09J4/00
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023179104
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2023059827
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501321637
【氏名又は名称】和光化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(74)【代理人】
【識別番号】110003362
【氏名又は名称】弁理士法人i.PARTNERS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】管野 弘康
(72)【発明者】
【氏名】中條 正
(72)【発明者】
【氏名】安藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】望月 開斗
【テーマコード(参考)】
4J004
4J038
4J039
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J004AA17
4J004AB06
4J038FA011
4J038FA041
4J038FA061
4J038FA101
4J038FA111
4J038FA261
4J039AD21
4J039BC20
4J039BC53
4J039CA02
4J039EA04
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4J039GA24
4J040FA011
4J040JA09
4J040JB07
4J040LA05
4J040LA10
4J100AL08R
4J100AL08S
4J100AL65S
4J100AL74Q
4J100AQ15P
4J100BA02Q
4J100BA39S
4J100BC07R
4J100CA01
4J100CA03
4J100CA04
4J100CA06
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA01
4J100JA07
(57)【要約】
【課題】N-ビニルメチルオキサゾリジノンは、室温で液体であり、粘度および毒性が低く、ほぼ無臭であることから、放射線硬化性組成物の反応性希釈剤として使用されている。本発明の課題は、製品の経時による粘度上昇を抑制して優れた貯蔵安定性を付与し、高い透明性を有するN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物の提供である。
【解決手段】6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下である、N-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下である、下記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物。
【化1】
【請求項2】
ハーゼン単位色数(APHA)が150以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
下記GC-MS測定条件において、保持時間が14分以上の不純物が1質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
GC/MS: QP-2010Plus(島津製作所製)
カラム: DB-5 ms (0.25φ×40m 0.25μm)
GC オーブン温度: 40℃(3.0 min)~(昇温速度10℃/ min) ~310℃(15minHold)
注入量: 1.0μl
注入モード: スプリット注入 スプリット比: 1/ 30
【請求項4】
3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、および3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オンをさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
下記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノン、3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、および3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オンを含有する混合物を準備し、
前記混合物を蒸留して6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンを1質量%以下に調整し、下記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物を得る、
請求項1に記載の組成物を製造する方法。
【化2】
【請求項6】
ハーゼン単位色数(APHA)が150以下である、前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物を得る、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物を含有してなる、放射線硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の組成物を含有してなる、インクジェット用インク。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を含有してなる、ハードコートフィルム。
【請求項10】
請求項1に記載の組成物を含有してなる、接着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルメチルオキサゾリジノンは、室温で液体であり、粘度および毒性が低く、ほぼ無臭であることから、放射線硬化性組成物の反応性希釈剤として、とくにインクジェット用インクや(下記特許文献1)、コーティング製剤、塗料等として幅広く利用されている。
N-ビニルメチルオキサゾリジノンは、下記特許文献1や下記特許文献2に記載されているように、N-(1-ヒドロキシアルキル)-2-オキサゾリジノンを熱分解する工程、または、レッペ法に従うアセチレンとオキサゾリジノンとの反応を行う工程を経て製造することができる。
一方、N-ビニルメチルオキサゾリジノンは、ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア社から商品名VMOXとして市販されている。
【0003】
前記製造工程を経て得られたN-ビニルメチルオキサゾリジノン、あるいは、現在商業的に入手可能なN-ビニルメチルオキサゾリジノンは、不可避不純物として、3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、および3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オンをさらに含有する。したがって、N-ビニルメチルオキサゾリジノンは、上記のようなそれ以外の化合物を含む組成物として市場に供給されている(以下、N-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物と言うことがある)。
【0004】
しかし、N-ビニルメチルオキサゾリジノンを放射線硬化性組成物の反応性希釈剤として用いる当業界において、前記組成物並びにこれを含んで製造された配合物は、経時により粘度が上昇し、貯蔵安定性に難点があった。(不純物が核剤となって結晶化する現象)また、前記組成物は、黄色から茶色に着色し、ハーゼン単位色数(APHA)が200以上となっており、用途によってはこの着色が問題視されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016-529360号公報
【特許文献2】米国特許第4831153号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、製品の経時による粘度上昇を抑制して優れた貯蔵安定性を付与し、高い透明性を有するN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物には、従来技術で把握されていない不可避不純物が存在することを突き止め、この不純物を組成物から除去することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0008】
すなわち本発明は、(1)6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下である、下記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物を提供するものである。
【0009】
【0010】
また本発明は、(2)前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノン、3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、および3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オンを含有する混合物を準備し、前記混合物を蒸留して6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンを1質量%以下に調整し、前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物を得る、前記(1)に記載の組成物を製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、製品の経時による粘度上昇を抑制して優れた貯蔵安定性を付与し、高い透明性を有するN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物のGCチャートである。
【
図3】特定蒸留条件で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分の、GC-MSチャートである。
【
図4】実施例で調製された、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物(a)、および、VMOX(b)の外観写真である。
【
図5】実施例におけるGC/MS分析を行った結果を示す図である。
【
図6】実施例におけるイオンクロマトグラムを示す図である。
【
図7】実施例におけるMSスペクトルを示す図である。
【
図8A】実施例における
1H-NMR分析結果を示す図である。
【
図8B】実施例における
13C-NMR分析結果を示す図である。
【
図9A】実施例における
1H-NMR分析結果を示す図である。
【
図9B】実施例における
13C-NMR分析結果を示す図である。
【
図10】6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの標品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態についてさらに詳しく説明する。
本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、下記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有し、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下であることを特徴とする。
【0014】
【0015】
上述のように本発明者らは、従来のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物には、従来技術で把握されていない不可避不純物が存在することを突き止め、この不純物を組成物から除去することにより、製品の経時による粘度上昇を抑制して優れた貯蔵安定性を付与し、高い透明性を有するN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物が得られることを見出したものである。当該不可避不純物は、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンは常温液体の化学物質(
図10)で、4-メチルプロリンは常温固体(
図11)の化学物質である。これら化合物は、組成物の貯蔵安定性および密着性に悪影響を及ぼし、また着色を呈する(例えば黄色ないし赤褐色ないし黒色)。
【0016】
本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物の製造方法について説明する。
まず、従来技術にしたがい、N-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する混合物を準備する。この混合物は、従来技術と同様に、N-(1-ヒドロキシアルキル)-2-オキサゾリジノンを熱分解する工程、または、レッペ法に従うアセチレンとオキサゾリジノンとの反応を行う工程を経て得られる。前記2つの工程は公知であり、常法により実施することができる。例えば前者のN-(1-ヒドロキシアルキル)-2-オキサゾリジノンを熱分解する工程は、前記特許文献2に記載されているように、200~500℃の温度範囲、かつ約6~7のpH範囲において、N-(1-ヒドロキシアルキル)-2-オキサゾリジノンまたはN-(1-ヒドロカルビルオキシアルキル)-2-オキサゾリジノンを熱分解する工程を挙げることができる。
これとは別に、前記N-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する混合物は、ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア社製商品名VMOXとして商業的に入手できる製品を利用することもできる。
これらの前記混合物は、前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する、ハーゼン単位色数(APHA)が200以上の混合物である。
【0017】
本明細書において、ハーゼン単位色数(APHA)はJIS K0071-1に従い測定される。
【0018】
続いて、前記混合物は、蒸留され、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下に調整される。得られたN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、ハーゼン単位色数(APHA)が150以下となる。
本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、とくに好ましくは0.05質量%以下、最適には0.01質量%以下である。
【0019】
蒸留法としては、単蒸留が挙げられる。単蒸留は、一定量の原液を蒸留容器に仕込み加熱沸騰させ、発生蒸気を凝縮器で凝縮させ、不純物を濃縮し、精製する方法である。
【0020】
蒸留条件は、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物を得るのに重要であり、例えば下記蒸留条件1が挙げられる。
蒸留条件1:
バス温度:130~140℃(具体的には135℃)
塔頂温度: 97-101℃
減圧度: 1~10hPa (具体的には5 hPa)
初留カット: なし
収率: 97%
なお、前記混合物に対し、少量の重合禁止剤(好ましくはブチルヒドロキシトルエン)を添加してもよい。
【0021】
また、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンが1質量%以下であるのに加え、本発明の効果向上の観点から、下記GC-MS測定条件において保持時間が14分以上の不純物(上述の従来技術で把握されていない不純物)が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、とくに好ましくは0.05質量%以下、最適には0.01質量%以下であるのがよい。
GC/MS: QP-2010Plus(島津製作所製)
カラム: DB-5 ms (0.25φ×40m 0.25μm)
GC オーブン温度: 40℃(3.0 min)~(昇温速度10℃/ min) ~310℃(15minHold)
注入量: 1.0μl
注入モード: スプリット注入 スプリット比: 1/ 30
【0022】
前記GC-MS測定条件では、とくにGC オーブン温度が最終的に150℃以上であり、この昇温条件において上記不純物が良好に検出される。前記GC-MS測定条件において保持時間が14分以上の不純物の具体的な化合物としては、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンおよび4-メチルプロリンに加え、例えば次の化合物が挙げられる。
3-t-ブチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン
イリドミルメシン
【0023】
また、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、ハーゼン単位色数(APHA)が100以下であることが好ましく、80以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、放射線硬化性組成物、とくにインクジェット用インク、ハードコートフィルム、接着フィルムとして有用であり、また、各種コーティング製剤、塗料としても有用である。
【0025】
以下、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物の好適な用途として、とくにインクジェット用インクに用いられる放射線硬化性組成物について説明する。
【0026】
前記放射線硬化性組成物は、本発明の組成物を0.5~80質量%の範囲で含有することができる。
【0027】
また、前記放射線硬化性組成物は、早期重合を防ぐために、安定剤を添加することができる。
【0028】
適した安定剤は、前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンの早期重合を防ぐ公知の安定剤であることができる。安定剤としては、例えばニトロキシル化合物、例えば1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、フェノール基に対してα位に少なくとも1つの置換基を有するフェノール誘導体、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、トコフェロール、キノンおよびヒドロキノン、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル、N-オキシル化合物、芳香族アミンおよびフェニレンジアミン、イミン、スルホンアミド、オキシム、ヒドロキシルアミン、尿素誘導体、リン含有化合物、硫黄含有化合物、テトラアザアヌレン(TAA)および/または金属塩をベースとする錯化剤、並びに適宜それらの混合物を安定剤として挙げることができる。リン含有化合物は、例えばトリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、次亜リン酸、トリノニルホスファイト、トリエチルホスファイトまたはジフェニルイソプロピルホスフィンである。
【0029】
前記放射線硬化性組成物はさらなる成分を含むことができ、例えばさらなる放射線硬化性化合物または添加剤、例えば安定剤、光開始剤等を含むことができる。
【0030】
さらなる放射線硬化性化合物は、重合性エチレン性不飽和基を、例えばビニル基として、例えばビニルエーテル基、ビニルエステル基またはN-ビニル基、アリル基または(メタ)アクリロイル基として有する化合物であることができる。
【0031】
「(メタ)アクリロイル基」という表現は、アクリロイル基またはメタクリロイル基を表し、好ましくアクリロイル基を表す。
【0032】
少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物を、以下で略して(メタ)アクリロイル化合物と呼ぶ。
(メタ)アクリロイル化合物は、前記放射線硬化性組成物中、例えば90質量%以下の割合で存在することができる。
【0033】
そのようなさらなる放射線硬化性化合物は、モノマーであってもオリゴマーであってもよい。
【0034】
モノマー
本明細書におけるモノマーとは、1つの重合性エチレン性不飽和基を有する化合物であると定義される。モノマーは、好ましくは、300g/モル未満、特に200g/モル未満の分子量を有する。これは特に反応性希釈剤として作用する。可能なモノマーは、例えば、C1~C20-アルキル(メタ)アクリレート、20個までの炭素原子を含むカルボン酸のビニルエステル、20個までの炭素原子を含むビニル芳香族化合物、エチレン性不飽和ニトリル、1~10個の炭素原子を含むアルコールのビニルエーテルから選択される。
【0035】
1~20個の炭素原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えば、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルおよび酢酸ビニルである。
【0036】
適したビニル芳香族化合物は、ビニルトルエン、α-およびp-メチルスチレン、α-ブチルスチレン、4-n-ブチルスチレン、4-n-デシルスチレンであり、好ましくはスチレンである。
【0037】
ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。
【0038】
ビニルエーテルとしては、ビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルが挙げられる。1~4個の炭素原子を有するアルコールのビニルエーテルが好ましい。
【0039】
適した(メタ)アクリレートは、特にC1~C10-アルキルアクリレートおよびメタクリレートであり、殊にC1~C8-アルキルアクリレートおよびメタクリレートである。
【0040】
メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートおよびこれらのモノマーの混合物が、特に好ましい。
【0041】
さらに、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、ヒドロキシル基または酸基によって置換された極性モノマーも適している。
【0042】
例えば、カルボキシル基、スルホ基またはホスホン酸基(例えば、ビニルホスホン酸)を有するモノマーが挙げられる。カルボキシル基が好ましい。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸またはフマル酸またはアクリロイルオキシプロピオン酸が挙げられる。
【0043】
さらなるモノマーは、例えばヒドロキシル基を含むモノマー、特にC1~C10-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、およびウレイド基を含むモノマー、例えばウレイド(メタ)アクリレートである。
【0044】
二価または多価アルコールのモノ(メタ)アクリレート、例えばエチレングリコールまたはプロピレングリコールのモノアクリレートまたはモノメタクリレートも、さらなるモノマーとして挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリル酸とモノエポキシドとの反応生成物、例えばフェニルグリシジルエーテルまたはグリシジルバーサテートも適している。
【0046】
フェニルオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アミノ(メタ)アクリレート、例えば2-アミノエチル(メタ)アクリレート、またはN-ビニルピロリドン、またはN-ビニル-N-メチルアセトアミドも、さらなるモノマーとして挙げられる。好ましい一実施形態においては、モノマーは(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
【0047】
オリゴマー
本明細書におけるオリゴマーとは、2~10個の重合性エチレン性不飽和基を有する化合物であると定義される。平均で1.5~6個、特に2~5個の重合性基を有する化合物が好ましい。
【0048】
オリゴマーの重量平均分子量Mwは、好ましくは少なくとも300g/モルであり、さらに好ましくは少なくとも500g/モルである。好ましくは、Mwは5000g/モル未満であり、特に好ましくは3000g/モル未満である(標準物質としてポリスチレンを用いかつ溶離液としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定)。
オリゴマーは、特に(メタ)アクリロイル化合物である。
【0049】
オリゴマーは、特に多官能性アルコールまたはアルコキシ化多官能性アルコールの(メタ)アクリレートである。そのようなアルコールの例は、二官能アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、アルコキシ化フェノール化合物、例えばエトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノール、シクロヘキサンジメタノール、三官能性および多官能性アルコール、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、トリメチロールエタン、ペンタエリトリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリトリトール、ソルビトール、マンニトールおよび対応するアルコキシ化、特にエトキシ化およびプロポキシ化アルコールである。
【0050】
アルコキシ化アルコールは、公知の様式で、上記アルコールとアルキレンオキシド、特にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドとの反応により得られる。ヒドロキシル基のアルコキシ化度は好ましくは0~10であり、すなわち、1モルのヒドロキシル基が好ましくは10モルまでのアルキレンオキシドでアルコキシ化されていてよい。
ポリエステロールの(メタ)アクリレートも、オリゴマーとして挙げることができる。
【0051】
適したポリエステロールは、例えば、ポリカルボン酸、好ましくはジカルボン酸とポリオール、好ましくはジオールとのエステル化によって製造することができるポリエステロールである。そのようなヒドロキシル基を含むポリエステルのための出発物質は、当業者に知られている。好ましく使用されるジカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、o-フタル酸、その異性体およびその水素化生成物、並びにエステル化可能な誘導体、例えば前記酸の無水物またはジアルキルエステルである。マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸またはその無水物も適している。適したポリオールは、上記アルコール、好ましくはエチレングリコール、1,2-および1,3-プロピレングリコール、ブタン-1,4-ジオール、ヘキサン-1,6-ジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、およびエチレングリコールおよびプロピレングリコール系のポリグリコールである。
【0052】
ポリエステロールの(メタ)アクリレートは、例えばEP279303に記載されているように、アクリル酸、ポリカルボン酸およびポリオールから多段または一段で製造することができる。
【0053】
エポキシド(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートも、適したオリゴマーでありうる。
【0054】
エポキシド(メタ)アクリレートは、例えば、エポキシ化オレフィンまたはポリ-若しくはモノ-若しくはジグリシジルエーテル、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応により得られるものである。
【0055】
前記反応は当業者に知られており、例えばR. Holmann, U.V. and E.B. Curing Formulation for Printing Inks and Paints, London 1984に記載されている。
【0056】
ウレタン(メタ)アクリレートは、特にヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとポリ-またはジイソシアネートとの反応生成物である(R. Holmann, U.V. and E.B. Curing Formulation for Printing Inks and Paints, London 1984も参照のこと)。ウレタン(メタ)アクリレートは、前記放射線硬化性組成物中、例えば1~30質量%以下の割合で存在することができる。
【0057】
上記化合物はさらなる官能基を含むことができ、例えば(メタ)アクリル酸でエステル化されていないヒドロキシル基を含むことができる。
【0058】
さらなるオリゴマーは、例えば特にマレイン酸またはフマル酸の含分の結果としての二重結合を有しかつ共重合性である、低分子量不飽和ポリエステルである。
【0059】
好ましいオリゴマーは、20℃、1barで流体である。
【0060】
好ましい一実施形態においては、オリゴマーは(メタ)アクリロイル化合物であり、特に多官能性アルコールの(メタ)アクリレートであり、特にヒドロキシル基またはエーテル基以外に他の官能基を有していない(メタ)アクリロイル化合物である。
【0061】
最も好ましいオリゴマーは、20℃、1barで流体であってかつ2~5個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイル化合物である。
【0062】
ポリマー
上記モノマーおよび/またはオリゴマーに加えて、前記放射線硬化性組成物は、すでに高い分子量を有しているポリマーを含有することができる。そのようなポリマーは、3000超、特に5000超の分子量Mwを有することができる(標準物質としてポリスチレンを用いかつ溶離液としてテトラヒドロフランを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定)。
【0063】
適したポリマーは、反応性基、例えば重合性エチレン性不飽和基または以下のような他の官能基を有することができ、すなわち、いずれかのモノマーまたはオリゴマーの対応する基と反応し、それによって硬化中に上記モノマーまたはオリゴマーへの結合が生じるような他の官能基を有することができる。しかし、そのような基を有しないポリマーであって、その後に、得られる塗膜中に独立した連続相または相互貫入ネットワークを形成するような前記ポリマーも適している。
【0064】
適したポリマーは、例えば、ポリエステル、重付加物、特にポリウレタン、またはフリーラジカル重合により得られるポリマーである。フリーラジカル重合により得られるポリマーが特に適しており、好ましくは、C1~C20-アルキル(メタ)アクリレート、20個までの炭素原子を含むカルボン酸のビニルエステル、20個までの炭素原子を含むモノアルコールのビニルエーテル、20個までの炭素原子を含むビニル芳香族化合物および/またはエチレン性不飽和ニトリルから選択されるいわゆる主モノマーを、少なくとも40質量%、殊に好ましくは少なくとも60質量%、極めて殊に好ましくは少なくとも80質量%含有するものが適している。
【0065】
好ましい一実施形態においては、インクジェット用インクとして使用される前記放射線硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル化合物を含有する。
【0066】
特に好ましい一実施形態においては、インクジェット用インクとして使用される前記放射線硬化性組成物は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー(以後、略して(メタ)アクリロイルモノマーと呼ぶ)および/または(メタ)アクリロイル化合物を有するオリゴマー(以後、略して(メタ)アクリロイルオリゴマーと呼ぶ)を含有する。
【0067】
特に好ましい一実施形態においては、インクジェット用インクとして使用される前記放射線硬化性組成物は、(メタ)アクリロイルオリゴマーを含有し、好ましくは2~5個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリロイルオリゴマーを含有する。
【0068】
好ましい一実施形態においては、前記放射線硬化性組成物の全ての放射線硬化性化合物の少なくとも70質量%は、(メタ)アクリロイル化合物およびN-ビニルオキサゾリジノンである。
【0069】
前記放射線硬化性化合物に加えて、前記放射線硬化性組成物は添加剤を含有することができ、例えば顔料、例えば効果顔料、染料、充填剤、安定剤、例えばUV吸収剤、酸化防止剤または殺生剤、レベリング剤、消泡剤、湿潤剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0070】
前記放射線硬化性組成物は、水または有機溶媒を含有することができる。好ましくは、前記放射線硬化性組成物は水または有機溶媒(20℃、1barで非反応性の化合物)をほとんどまたは全く含有しない。
【0071】
好ましい一実施形態においては、前記放射線硬化性組成物は、印刷インキ100質量部を基準として、20質量%未満、特に好ましくは10質量部未満、殊に5質量部未満の水または有機溶媒を含有する。極めて殊に好ましくは、前記放射線硬化性組成物は、水または有機溶媒を実質的に含有しないかまたは1質量%未満含有する。
【0072】
好ましくは、前記放射線硬化性組成物は、少なくとも1種の光開始剤を含有する。前記光開始剤は、例えばいわゆるα開裂剤であることができ、すなわち化学結合が開裂されて2つのフリーラジカルが生成され、このフリーラジカルがさらなる架橋または重合反応を開始する光開始剤であることができる。
【0073】
例えば、アシルホスフィンオキシド(BASF社Lucirin(登録商標))、ヒドロキシアルキルフェノン(例えば、Irgacure(登録商標)184)、ベンゾイン誘導体、ベンジル誘導体、ジアルキルオキシアセトフェノンが挙げられる。
【0074】
特に、前記光開始剤は、ポリマー鎖から水素原子を除去するいわゆるH引き抜き剤であってもよい。例えばこれは、カルボニル基を有する光開始剤である。このカルボニル基はC-C-O-H基の形成に伴ってC-H結合へと移る。
【0075】
特に、ここではアセトフェノン、ベンゾフェノンおよびその誘導体を挙げることができる。
【0076】
ベンゾインまたはベンゾインエーテルも挙げることができる。
【0077】
光開始剤は、単独で使用されても混合物として使用されてもよく、異なる作用様式を有する光開始剤の混合物も特に適している。
【0078】
存在する場合には、光開始剤は上記ポリマーまたはオリゴマーに結合されていてもよい。
【0079】
熱硬化の場合、または放射線硬化と熱硬化とを組み合わせる場合には、1種以上の熱活性化可能な開始剤、例えばペルオキシド、アゾ化合物等が添加されてもよい。
【0080】
前記放射線硬化性組成物は、総じて少なくとも1種の染料または顔料を含有する。
【0081】
前記放射線硬化性組成物は、任意の所望の様式で、個々の成分を任意の順序で添加して混合することにより調製されることができる。
【0082】
前記放射線硬化性組成物は、インクジェット印刷における印刷インキとして使用される。
【0083】
前記放射線硬化性組成物は、基材に印刷され、かつ好ましくは次いで放射線により硬化される。
【0084】
様々な基材への印刷が可能であり、例えば、紙、金属箔またはポリマーフィルム、例えばポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、例えばポリエチレン、ポリプロピレンまたはアルミニウムに印刷することができる。特にポリオレフィン基材、例えばポリエチレン基材またはポリプロピレン基材に、こうした基材がコロナ前処理されていない場合であっても印刷することができる。
【0085】
本発明の好ましい一実施形態は、ポリプロピレン基材またはポリエチレン基材に印刷されるインクジェット印刷法である。最も好ましい基材は、ポリエチレンである。
【実施例0086】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0087】
以下のようにして本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物を製造した。
(ハーゼン単位色数(APHA)が200以上の混合物の準備)
市販のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物(ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア社製商品名VMOX)を用意した。
図2は、VMOXのGCチャートである。GC測定条件は以下の通りである。
<測定条件>
装置名:島津製作所 GC-2025
カラム:DB-1(Agilent, 長さ:30m, 内径:0.25mm, 膜厚:0.25μm)
カラム温度プロファイル::70-300 ℃ (10℃/min、70℃で2分保持、300℃まで昇温後5分保持、合計30分)
キャリアガス:He
【0088】
市販されているVMOXは例えば次の組成(質量%)を有する(下記に記載する不純物は除く)。
N-ビニルメチルオキサゾリジノン 96.2%
3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン 3.1%
3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン 0.2%
5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン 0.0%(または痕跡量)
3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン 0.1%
【0089】
続いて、前記混合物を下記蒸留条件1で蒸留することにより、ハーゼン単位色数(APHA)が66である、前記式Iで表されるN-ビニルメチルオキサゾリジノンを含有する組成物を得た。
蒸留条件1:
バス温度:135℃
塔頂温度: 97-101℃
減圧度: 5 hPa
初留カット: None
収率: 97%
【0090】
図1は、得られた本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物のGCチャートである。GC測定条件は
図2と同様である。
【0091】
図1を参照すると、保持時間8.471分にメインピークが確認され、この画分はN-ビニルメチルオキサゾリジノンである。また、その他のピークは上記その他の不可避不純物を示している。
図2を参照しても
図1と同様の傾向がみられる。
図1および
図2を比較すると、
図2のVMOXには保持時間19.852分に小さいピークが確認され、
図1にはこのようなピークは確認されない。そこで、保持時間19.852分に相当する成分を特定するため、前記蒸留条件1で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分について、下記測定条件のGC-MS分析を行った。また、化合物同定のためのライブラリは、NISTスペクトラルマスライブラリ(ソフト名NIST08, 08S, 05, 05s)またはWILEYマスライブラリ(ソフト名WILEY 139)を用いた。
【0092】
GC/MS: QP-2010Plus(島津製作所製)
カラム: DB-5 ms (0.25φ×40m 0.25μm)
GC オーブン温度: 40℃(3.0 min)~(昇温速度10℃/ min) ~310℃(15minHold)
注入量: 1.0μl
注入モード: スプリット注入 スプリット比: 1/ 30
【0093】
図3は、前記蒸留条件1で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分の、前記GC-MS測定条件におけるGC-MSチャートである。
図3におけるピーク番号および保持時間14分以上のリテンションタイム(R.T.)、並びにライブラリ検索に基づく化合物名を以下の表1および2に示す。なお、リテンションタイム(R.T.)が14分未満の化合物は、VMOXに含まれる3-エテニル-4-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、3-エチル-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、および3-(1-エトキシエチル)-5-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オンを含むものであると推測される。
【0094】
【0095】
【0096】
なお、表1および2の結果から、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物に含まれる、前記GC-MS測定条件において保持時間が14分以上の不純物の含有量は算出可能であり、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物中、0質量%であった。
【0097】
蒸留後に得られた本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、VMOXとほぼ同じ組成を有していた。
【0098】
図4に、本実施例で調製された、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物(a)、および、VMOX(b)の外観写真を示す。VMOX(b)に着色が観察されるのに対し、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物(a)は、透明の外観を有していた。
【0099】
本発明者らは、前記
図3およびライブラリ検索に基づきピックアップされた化合物群について検討を行ったところ、リテンションタイム(R.T.)が14分以降の、中でもリテンションタイム(R.T.)が約20分(具体的には
図3において20.137分)が6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンであり、約21分(具体的には
図3において21.504分)が4-メチルプロリンであり、これらはVMOX中に存在し、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンは常温液体の赤褐色-黒色を呈し、4-メチルプロリンは黄褐色-赤褐色の結晶性のある常温固体の化学物質であり、組成物の貯蔵安定性および密着性、組成物の透明性にも悪影響を及ぼすことが分かった。
【0100】
具体的には、上述の蒸留条件1で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分(試料)を取り出して、そこに含まれる化合物の同定を行った。
(1)6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン
分析条件:
GC/MS: QP-2010Plus(島津製作所製)
カラム: DB-5 ms (0.25φ×40m 0.25μm)
GC オーブン温度: 40℃(3.0 min)~10℃/min ~310℃(15minHold)
注入量: 1.0μl
注入モード: スプリット注入
スプリット比: 1/30
【0101】
上記試料10.3mgを1.0mlのCHCl
3に溶解し分析用試料とした。一方、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン標品の1.5mgを1.5mlのCHCl
3に溶解し分析用試料とした。前記分析条件にしたがい、GC/MS分析を行ったTICを
図5に示す。
図5(a)は、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン標品の分析結果であり、
図5(b)は上記分析用試料の分析結果である。
【0102】
図5(a)で検出されている6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン標品のリテンションタイム(R.T.)は19.980minであり、
図5(b)でもリテンションタイム(R.T.)19.55min付近にピークが検出されている。そこで、このピークが6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンで有るか否かの確認を、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンのMSフラグメントのベースイオン(M/Z:202)によるイオンクロマトグラムを再描画することにより行った。
図6にそのクロマトグラムを示す。M/Z:202の比較により両者のピークは一致している。
【0103】
前記
図5(a)および(b)で示した試料のMSスペクトルを
図7に示す。両者のMSスペクトルは、略同一のスペクトルを示していることから、前記
図5(a)および(b)で示した対象ピークは、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンであることが判明した。
【0104】
(2)4-メチルプロリン
4-メチルプロリンは、分子構造が複雑なため、下記のNMR分析条件により試料の分析を行った。
分析条件:
分取条件:前記蒸留条件1で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分をメタノールに溶解させ、ODSカラムを用い、6ml/minで通液させ、UV検出器、RI検出器を用いて分取を行った。
NMR測定条件:重水を用い、1H-NMR、 13C-NMRにて測定を行った。
NMR装置:Varian UNITY INOVA
測定周波数: 1H-NMR 500MHz, 13C-NMR 125 MHz
【0105】
得られた分析結果を
図8~9に示す。
図8Aは上記分取した試料の
1H-NMR分析結果であり、
図8Bは上記分取した試料の
13C-NMR分析結果であり、
図9Aは4-メチルプロリンの標品の
1H-NMR分析結果であり、
図9Bは4-メチルプロリンの標品の
13C-NMR分析結果である。
図8~9より、上述の蒸留条件1で蒸留した後の蒸留釜に残存した成分(試料)には、4-メチルプロリンが含まれることが確認された。
【0106】
6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの標品および4-メチルプロリンの標品の写真を
図10および11にそれぞれ示す。
図10に示される6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの標品は黒褐色を呈し、
図11に示される4-メチルプロリンの標品は黄褐色を呈している。
【0107】
(インクジェット用インクの作成)
下記表3に示す配合処方において、各成分を混合し、インクジェット用インクを作成した。
【0108】
【0109】
顔料:ピグメントブルー15:3(PB15:3)
ウレタンアクリレート:BASF社製Laromer PR9000
イソボルニルアルリレート:大阪有機化学工業株式会社製IBXA
多官能アクリレートVEEA:株式会社日本触媒製アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル
Irgacure TPO:BASF社製アシルフォスフィンオキサイド重合開始剤、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
Irgacure 819:BASF社製アシルフォスフィンオキサイド重合開始剤、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
【0110】
得られたインクジェット用インクに対し、次の試験を行った。
<硬化物の作成>
各組成物をPVCフィルム「透明塩ビRE-137」(株式会社ミマキエンジニアリング製)にバーコーターを用いて塗布し、LED光源紫外線照置[型番: E075Sd HD、ウシオ電機(株)製、照射波長365nm] により、紫外線を照射強度80mW/c m2で照射し、硬化物を得た。
【0111】
(密着性試験)
JIS K5600-5-6:1999に準拠して行った。上記の<硬化物の作成>で得られた、表面を指で触ってべた付きがなくなった硬化物を、室温25℃、対湿度50% の環境下で24時間静置した後、1mm幅にカッターナイフで切込みを入れて碁盤目(5×5個)を作成した。碁盤目上にセロハン粘着テープを貼り付け、90度剥離を行い、ポリ塩化ビニル基材からの硬化物の剥離状態を目視で観察した。試料の塗工面の残存面積を目視により次の5段階で評価した。点数が高いほど密着性に優れる。
<評価基準>
5点: 剥離なし、又は、剥離があるが剥離面積5%未満
4点: 剥離面積5%以上10%未満
3点: 剥離面積10%以上30%未満
2点: 剥離面積30%以上50%未満
1点: 剥離面積50%以上
【0112】
(貯蔵安定性試験)
作製した組成物を密閉ガラス容器に入れ、60℃の恒温槽で1週間静置し、下記式(1)で算出される保管前後の粘度変化率から貯蔵安定性を評価した。
粘度変化率(%)=((60℃で1週間保存後の粘度-初期粘度)/初期粘度)×100・・・(1)
<評価基準>
〇:粘度変化率が10%以内である
△:粘度変化率が10%を超え、20%以内である
×:粘度変化率が20%を超える
【0113】
結果を表3に示す。表3の結果から、本発明のN-ビニルメチルオキサゾリジノン含有組成物は、高い透明性を有し、製品の経時による粘度上昇を抑制して優れた貯蔵安定性を付与し得ることが分かった。
【0114】
(表面硬化時間)
下記表4に示す配合処方において、各成分を混合し、混合液1および2を作成した。
【0115】
【0116】
微弱な紫外線を発する光源(例えば蛍光灯)存在下にて、上記表4に記載の混合液1および2を3ml採取し、それぞれ別のシャーレに滴下し、表面が硬化するまでの時間を測定した。
その結果、混合液1の表面硬化までの時間は8分であり、混合液2の表面硬化までの時間は30分であった。
【0117】
(色調変化)
下記表5に示す配合処方において、別途調製した本発明の組成物並びに各成分を混合し、混合液3および4を作成した。
【0118】
【0119】
上記表5に記載の混合液3および4を10g採取し、それぞれ別の100ml容器に入れ、80℃、180分間の加熱条件下で加熱後、色調の経時変化を調べた。
その結果、混合液3の加熱前のAPHAは100であり、加熱後のAPHAは200であった。一方、混合液4の加熱前のAPHAは25であり、加熱後のAPHAは40-50であった。