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特開2024-147483結晶形成方法、結晶形成装置、画像形成方法、及び立体造形物の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147483
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】結晶形成方法、結晶形成装置、画像形成方法、及び立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/25 20210101AFI20241008BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241008BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241008BHJP
   C23C 14/00 20060101ALI20241008BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20241008BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20241008BHJP
   B22F 1/07 20220101ALI20241008BHJP
【FI】
B22F10/25
B33Y10/00
B33Y70/00
C23C14/00 Z
B22F1/054
B22F1/06
B22F1/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023184070
(22)【出願日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2023060403
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 晃大
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗朗
(72)【発明者】
【氏名】尾松 孝茂
(72)【発明者】
【氏名】川口 晴生
【テーマコード(参考)】
4K018
4K029
【Fターム(参考)】
4K018AB01
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB01
4K018BB03
4K018BB05
4K018BB06
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K029BA26
4K029DB20
(57)【要約】
【課題】光吸収材を含む転写対象材料を飛散させることなく、光吸収材をより高精細に転写することができる結晶形成方法の提供
【解決手段】基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を飛翔体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程を含み、
25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、
前記被付与物の十点平均粗さRzが4.9μm以下であることを特徴とする結晶作成方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を飛翔体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程を含み、
25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、
前記被付与物の十点平均粗さRzが4.9μm以下であることを特徴とする結晶形成方法。
【請求項2】
前記被付与物の十点平均粗さRzが0.007μm以上1.5μm以下である、請求項1に記載の結晶形成方法。
【請求項3】
前記光吸収材が無機材料を含む、請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法。
【請求項4】
前記無機材料のメディアン径(D50)が50nm以上500nm以下である、請求項3に記載の結晶形成方法。
【請求項5】
前記光吸収材が、異なる2種以上の無機材料を含み、
前記異なる2種以上の無機材料が、同一の結晶構造を持つ物質からなる、請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法。
【請求項6】
前記分散媒がグリセロール水溶液である、請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法。
【請求項7】
形成された前記結晶の80%以上が単結晶である、請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法。
【請求項8】
基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成手段と、
25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、
前記被付与物の十点平均粗さRzが4.9μm以下であることを特徴とする結晶形成装置。
【請求項9】
前記被付与物の十点平均粗さRzが0.007μm以上1.5μm以下である、請求項8に記載の結晶形成装置。
【請求項10】
請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法によって、画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【請求項11】
請求項1から2のいずれかに記載の結晶形成方法によって、立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶形成方法、結晶形成装置、画像形成方法、及び立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー励起前方転写(Laser-Induced Forward Transfer:LIFT)法は、基板上に光吸収材を含む転写対象材料を配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料にレーザービームを照射し、前記転写対象材料を飛翔させ、前記転写対象材料の対面に配置した被付与物(アクセプター基板)の所望の位置に前記転写対象材料を転写する方法である。
【0003】
このようなLIFT法としては、例えば、前記レーザービームとして光渦レーザービームを用いることにより、光吸収材を含む高粘度液体を飛散させることなく、精細に転写できる画像形成方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光吸収材を含む転写対象材料を飛散させることなく、光吸収材をより高精細に転写することができる結晶形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明の結晶形成方法は、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程を含み、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、前記被付与物の十点平均粗さが4.9μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、光吸収材を含む転写対象材料を飛散させることなく、光吸収材をより高精細かつ高精度で転写することができる結晶形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A図1Aは、一般的なレーザービームにおける波面(等位相面)の一例を示す概略図である。
図1B図1Bは、一般的なレーザービームにおける光強度分布の一例を示す図である。
図1C図1Cは、一般的なレーザービームにおける位相分布の一例を示す図である。
図2A図2Aは、光渦レーザービームにおける波面(等位相面)の一例を示す概略図である。
図2B図2Bは、光渦レーザービームにおける光強度分布の一例を示す図である。
図2C図2Cは、光渦レーザービームにおける位相分布の一例を示す図である。
図3A図3Aは、一般的なレーザービームを光吸収材に照射させたときの一例を示す写真である。
図3B図3Bは、光渦レーザービームを光吸収材に照射させたときの一例を示す写真である。
図4A図4Aは、光渦レーザービームにおける干渉計測の結果の一例を示す説明図である。
図4B図4Bは、中心に光強度0の点を有するレーザービームにおける干渉計測の結果の一例を示す説明図である。
図5A図5Aは、本発明の飛翔体転写装置の一例を示す説明図である。
図5B図5Bは、本発明の飛翔体転写装置の他の一例を示す説明図である。
図5C図5Cは、本発明の飛翔体転写装置の他の一例を示す説明図である。
図6A図6Aは、本発明の画像形成装置の一例を示す概略断面図である。
図6B図6Bは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図7A図7Aは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図7B図7Bは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図7C図7Cは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図8A図8Aは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図8B図8Bは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す概略断面図である。
図9図9は、立体造形物の製造装置の一例を示す概略断面図である。
図10A図10Aは、実施例及び比較例で用いた光渦レーザービームを有するレーザー照射装置の一例を示す概略図である。
図10B図10Bは、実施例及び比較例で用いた光渦レーザービームを有するレーザー照射装置の一例を示す概略図である。
図11図11は、転写対象材料No.1~8におけるグリセロール濃度(質量%)と複素粘度(mPa・s)の関係の一例を示すグラフである。
図12図12は、転写対象材料No.1(グリセロール濃度43質量%、複素粘度6mPa・s)に対して、光渦レーザービームを照射してから0μs、3μs、5μs、10μs、20μs、30μs、及び40μsの挙動の一例を示す写真である。
図13A図13Aは、転写対象材料から1.5mm離れた場所に設置した被付与物(松浪硝子工業株式会社製のS1214、水縁磨、t1.3)に転写された転写対象材料(以下ドットと呼ぶ)を、300℃で加熱処理を行い転写対象材料中の分散媒を除去した状態の一例を示す写真である。
図13B図13Bは、図13Aを、共焦点レーザー顕微鏡を用い測定して得られた3D像の一例を示す概略図である。
図14A図14Aは、全角運動量J=2(L=1、S=1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットの一例を示す上部写真である。
図14B図14Bは、全角運動量J=2(L=1、S=1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットの一例を示す側面の断面写真である。
図15A図15Aは、全角運動量J=-2(L=-1、S=-1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットの一例を示す上部写真である。
図15B図15Bは、全角運動量J=-2(L=-1、S=-1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットの一例を示す側面の断面写真である。
図16図16は、スピン角運動量Sにより、全角運動量Jを変化させた際のドット直径及びコア直径の関係を示す。
図17A図17Aは、転写対象材料Nо.1を用いて形成したドットを、走査型顕微鏡(SEM)を用いて観察した観察像の一例を示す写真である。
図17B図17Bは、図17Aを、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、コアを薄片化した加工物のSEM観察像の一例である。
図18A図18Aは、図17Aを、透過型電子顕微鏡を用いて観察した明視野像の一例を示す写真である。
図18B図18Bは、図18Aにおけるaの位置から得られた電子回折パターンの一例である。
図18C図18Cは、図18Cにおける白丸で囲まれた電子線回折スポットから得られた暗視野像の一例である。
図18D図18Dは、図18Aにおけるbの位置から得られた電子回折パターンの一例である。
図18E図18Eは、図18Dにおける白丸で囲まれた電子線回折スポットから得られた暗視野像の一例である。
図18F図18Fは、図18C及び図18Eで示された領域と、図18Aとの対応関係の一例である。
図19A図19Aは、図18Cの領域から得られた電子線回折パターンの一例である。
図19B図19Bは、ReciProからシミュレーションされた、ミラー指数(122)におけるスピネル型結晶(鉄フェライト)の電子線回折パターンの一例である。
図19C図19Cは、図18Eの領域から得られた電子線回折パターンの一例である。
図19D図19Dは、ReciProからシミュレーションされた、ミラー指数(100)におけるスピネル型結晶(鉄フェライト)の電子線回折パターンの一例である。
図19E図19Eは、図19A~D中に表記されたa~eの回折スポット間の比率、角度を比較した結果の一例である。
図19F図19Fは、異なる晶帯軸を有する2つのスピネル型結晶の一例を示す概略図である。
図20A図20Aは、図17Aを、透過型電子顕微鏡を用いて観察した明視野像の一例を示す写真である。
図20B図20Bは、図20A中の白丸aにおけるミラー指数(100)における電子回折パターンの一例である。
図21A図21Aは、図20A中の白丸aにおけるミラー指数(100)における電子回折パターンの一例である。
図21B図21Bは、元素分析測定により得られた鉄(Fe)の分布を図21Aにマッピングした結果の一例である。
図21C図21Cは、元素分析測定により得られたマンガン(Mn)の分布を図21Aにマッピングした結果の一例である。
図22A図22Aは、図10Aの実験系を用いたパターニングの一例を示す図である。
図22B図22Bは、図22Aにレーザービーム照射領域を追記した結果を示す図である。
図22C図22Cは、転写対象材料と被付与物の距離を変化させた際の、ポジションエラー及びドット直径の関係の一例を示す図である。
図23A図23Aは、転写対象材料Nо.1を用いた際の各フルエンスと飛翔速度の関係を示す一例である。
図23B図23Bは、転写対象材料Nо.1を用いた際に観察された単一液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図23C図23Cは、転写対象材料Nо.1を用いた際に観察された複数液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図23D図23Dは、転写対象材料Nо.1を用いた際に観察された膨らみを伴うジェットによる飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図23E図23Eは、転写対象材料Nо.1を用いた際に観察された飛散モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図24A図24Aは、転写対象材料Nо.7を用いた際の各フルエンスと飛翔速度の関係を示す一例である。
図24B図24Bは、転写対象材料Nо.7を用いた際に観察された単一液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図24C図24Cは、転写対象材料Nо.7を用いた際に観察された複数液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図24D図24Dは、転写対象材料Nо.7を用いた際に観察された膨らみを伴うジェットによる飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図24E図24Eは、転写対象材料Nо.7を用いた際に観察された飛散モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図25A図25Aは、転写対象材料Nо.8を用いた際の各フルエンスと飛翔速度の関係を示す一例である。
図25B図25Bは、転写対象材料Nо.8を用いた際に観察された単一液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図25C図25Cは、転写対象材料Nо.8を用いた際に観察された複数液滴飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図25D図25Dは、転写対象材料Nо.8を用いた際に観察された膨らみを伴うジェットによる飛翔モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図25E図25Eは、転写対象材料Nо.8を用いた際に観察された飛散モードに分類される飛翔体を示す一例である。
図26図26は、図23B図24B、及び図25Bにより転写対象材料から1.5mm離れた場所に設置した被付与物に転写されたドットを、300℃で加熱処理を行い転写対象材料中の分散媒を除去したドットと転写対象材料の複素粘度の関係を示す一例である。
図27A図27Aは、解析方法のイメージ図の一例を示す概略図である。
図27B図27Bは、転写対象材料Nо.1を用いて得られたドットの空間分布の一例を示す概略図である。
図27C図27Cは、転写対象材料Nо.7を用いて得られたドットの空間分布の一例を示す概略図である。
図27D図27Dは、転写対象材料Nо.8を用いて得られたドットの空間分布の一例を示す概略図である。
図28A図28Aは、転写対象材料Nо.1を用いて膜厚を26μmとし、ビームスポット径を34μm、49μm、74μm、97μmとした際のドット直径と、コアの直径の関係の一例を示す概略図である。
図28B図28Bは、図28Aでビームスポット径を変化させた際の、ドット体積と、コアの高さの関係の一例を示す概略図である。
図29A図29Aは、レーザービームを照射した後の3.0μs後までの気泡成長の時間変化の一例を示す図である。
図29B図29Bは、レイリー・プレセット方程式から算出した内部圧力とレーザービーム照射後の経過時間との関係の一例を示す図である。
図30A図30Aは、解析方法の一例を示す簡略図である。
図30B図30Bは、転写対象材料Nо.1で統一して実験を行った結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(結晶形成方法及び結晶形成装置)
本発明の結晶形成方法は、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程を含み、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、前記被付与物の十点平均粗さが4.9μm以下であり、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0009】
本発明の結晶形成装置は、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成手段を有し、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、前記被付与物の十点平均粗さが4.9μm以下であり、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0010】
本発明の飛翔体転写方法は、本発明の結晶形成装置により好適に実施することができ、結晶形成工程は結晶形成手段により行うことができ、その他の工程はその他の手段により行うことができる。
【0011】
従来技術では、被付与物の表面平滑性(以下、「平滑性」と称することがある)が、被付与物上に転写された転写対象材料(以下、転写物)の形状に与える影響に関する言及はなく、転写物の形状を精度良く再現することは困難であった。
【0012】
したがって、本発明においては、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程と、を含み、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であることにより、光渦レーザーを用いた飛翔体の形成において所定の波長の光を吸収する光吸収材を一点に高密度で集束させることができる。この高密度な凝集物(以下、「コア」と称することがある)は、光吸収材の結晶性を有した状態で溶融凝集しており、材料の合成を促進させることができる。このため、転写物の高さ方向に厚みが増し、三次元形状での転写が可能である。
また、飛翔体を付与する被付与物の十点平均粗さが4.9μm以下であることにより、再現性よくコアを被付与物の中央付近に形成することができ、高精度でのコアの転写が可能となる。
【0013】
<結晶形成工程及び結晶形成手段>
前記飛翔工程は、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を飛翔体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する工程であり、結晶形成手段により実施することができる。
【0014】
<<ドナー基板>>
前記ドナー基板は、基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料を配したものである。
本発明において、「飛翔」とは、空中を進むこと、又は空中を移動することを意味する。
本発明において、「飛散」とは、飛んで散乱することを意味する。
【0015】
-基板-
前記基板としては、その形状、構造、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0016】
前記基板の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状、真円又は楕円等の筒状、筒状の一部を切り出した面、無端ベルト状などが挙げられる。これらの中でも、前記基板が筒状であって、周方向に回転する前記基板の表面に前記転写対象材料を供給する供給手段を有することが好ましい。前記筒状の前記基板の表面に前記転写対象材料を担持すると、前記外周方向における前記被付与物の寸法に依存せずに供給することができる。また、この場合、前記筒状の内部には飛翔手段を配置し、前記内部から外周に向けて前記光渦レーザービームを照射可能とし、前記基板が周方向に回転することで連続的に照射することができる。
また、平板状の前記基板としては、例えば、スライドガラスなどが挙げられる。
【0017】
前記基板の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
前記基板の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記転写対象材料が付与される被付与物の幅に合わせた寸法とすることが好ましい。
【0019】
前記基板の材質としては、光を透過するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、酸化珪素を主成分とする各種ガラス等の無機材料、透明性の耐熱プラスチック、エラストマー等の有機材料が、透過率と耐熱性の点で、好ましい。
【0020】
前記基板における前記光渦レーザービームの透過率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、75%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。前記透過率が好ましい範囲内であると、前記基板に吸収された前記光渦レーザービームのエネルギーが熱に変換されにくいため、前記転写対象材料に乾燥や溶融などの変化を与えることが少なく、また、前記転写対象材料に与えるエネルギーが低下しにくいため、飛翔させた前記転写対象材料を付与する位置のバラつきが生じにくい点で有利である。
なお、前記透過率の測定方法としては、例えば、分光光度計(日本分光株式会社製、V-660DS)などを用いて測定することができる。
【0021】
前記基板の表面粗さRaとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記光渦レーザービームの屈折散乱を抑制し、前記転写対象材料に付与するエネルギーを低下させないようにする点で、表面及び裏面のどちらも1μm以下であることが好ましい。また、前記表面粗さRaが好ましい範囲内であると、前記転写対象材料が付与される被付与物に付与した前記転写対象材料の平均厚みのバラつきを抑制することができ、所望の量の前記転写対象材料を付与させることができる点で有利である。
前記表面粗さRaは、JIS B0601に従って測定することができ、例えば、触針式表面形状測定装置(Dektak150、ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて測定することができる。
また、前記基板が布のような柔らかい材料である場合は、例えば、コンフォーカル顕微鏡(H1200、レーザーテック株式会社)を用いることで、非接触で表面粗さRaを見積もり測定することができる。
【0022】
-転写対象材料-
前記転写対象材料は、光吸収材及び分散媒を含み、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記転写対象材料は、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下である。前記複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であると、光吸収材の結晶性を有した状態で溶融凝集し材料の合成を促進できる。
前記複素粘度は、動的粘弾性測定装置を用い、加える応力を変化させ、その時に生じたひずみ量を測定する応力制御法により、以下の条件に基づき測定することができる。
-測定条件-
・装置名:レオメータ、HAAKE RheoStress 600、Thermo Fisher Scientific社製
・温度:25℃
・剪断応力:200Pa
【0023】
--光吸収材--
前記光吸収材としては、光の波長に対する吸光度が1よりも大きいことが好ましく、2よりも大きいことがより好ましい。光吸収材が光の波長に対する吸光度が2よりも大きいと、エネルギー効率を高めることができる点で有利である。
【0024】
前記光吸収材としては、所定の波長の光を吸収するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、無機材料などが挙げられる。
【0025】
前記無機材料としては、その形態、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記無機材料の形態としては、例えば、固体、粉体などが挙げられる。なお、前記固体とは、25℃において容器の形とは無関係にその形状を保持するものを意味する。
【0026】
前記無機材料としては、例えば、マンガンフェライト、鉄フェライト、マグネシウムフェライト、ストロンチウムフェライト、四酸化三鉄、酸化チタン、硫化亜鉛、黒色系酸化鉄、黒色系銅酸化物、黒色系クロム酸化物、黄色酸化鉄、黄色系ニッケルチタン、硫化カドミウム、セレン、セレン化カドミウム、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、赤色酸化鉄、酸化コバルト、含水酸化クロム、酸化クロム、金、鉛アンチモン、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化ネオジム、酸化エルビウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、アルミニウム、ブロンズ、雲母、カーボンブラック、カーボン、ゼオライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、硫化水銀カドミウム、紺青、群青などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記光吸収材としては、異なる2種以上の無機材料を含む場合は、前記異なる2種以上の無機材料が、同一の結晶構造を持つ物質からなることが好ましい。
前記結晶構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピネル型の結晶構造などが挙げられる。
前記光吸収材としては、例えば、同じスピネル型の結晶構造を持つ、鉄フェライト及びマンガンフェライトからなる光吸収材などが挙げられる。
【0028】
前記無機材料のメディアン径(D50)は、50nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上240nm以下がより好ましい。
前記メディアン径(D50)は、例えば、走査型電子顕微鏡(SU8200シリーズ、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定を行う。得られた画像を画像処理ソフトA像君(旭化成エンジニアリング株式会社製)で二値化し、メディアン径(D50)を算出することができる。又は、例えば、透過型電子顕微鏡(JEM-2100、日本電子株式会社製)を用いて測定を行う。観察サンプルは、無機材料が0.4質量%のエタノール分散液を作製し、超音波洗浄機で1時間ほど分散させたものを、コロジオン膜貼付メッシュ(日新EM株式会社製)を用い測定を行う。得られた画像を画像処理ソフトA像君(旭化成エンジニアリング株式会社製)で二値化し、メディアン径(D50)を算出することができる。
【0029】
--分散媒--
前記分散媒としては、前記光吸収材を分散することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、有機溶剤、ワックス、樹脂ワニスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、強熱残分が0.1%以下又は蒸発残分が1.0以下である分散媒が高純度での転写対象材料の転写が可能となる点から、純水、グリセロール水溶液が好ましい。
グリセロール水溶液におけるグリセロール濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、52質量%未満が好ましく、43質量%以下がより好ましい。前記グリセロール濃度が52質量%未満であると、25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下に制御し易くなる。
【0030】
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水などが挙げられる。
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリセロール、エタノール、アセトンなどが挙げられる。
【0031】
前記ワックスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭化水素系ワックス、エステルワックス、ケトンワックスなどが挙げられる。
【0032】
前記樹脂ワニスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系、ポリエステル系、スチレン系、ポリウレタン系、アルキド系、エポキシ系、コハク、ロジン系などが挙げられる。
【0033】
前記分散媒は、光吸収材の分散性の点から界面活性剤を含有していてもよい。
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0034】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸せっけん、アルキルコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム塩、アルキル硫酸エステルナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩、ジアルキルスルホサクシネートナトリウム塩、アルキルリン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤などが挙げられる。更に、前述したナトリウム塩のみならず、例えば、任意の金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
前記カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
前記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
前記両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アミドベタインなどが挙げられる。
【0035】
-その他の成分-
その他の成分としては、例えば、着色剤、分散剤、熱安定剤、酸化防止剤、還元防止剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、湿潤剤、浸透剤などが挙げられる。
【0036】
前記基板上に配されたドナー基板における転写対象材料は、層状であっても膜状であってもよく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記転写対象材料は、基板上に一体的(連続的)に層(膜)を形成していてよく、断続的に層(膜)を形成していてもよい。
【0037】
前記転写対象材料(転写対象層)が25℃において液体の場合の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上が好ましく、10μm以上50μm以下がより好ましく、20μm以上50μm以下が更に好ましい。25℃における前記転写対象層が液体の場合に、前記転写対象層の平均厚みが10μm以上であると、光を照射しときに転写対象材料の飛散を抑制することができ、また、前記連続的に層状にして供給した場合、連続して飛翔させたときであっても基板上の層の強度を確保することができるため、連続して前記転写対象材料を飛翔させることができる点で好ましい。
また、25℃における前記転写対象層が液体の場合に、前記転写対象層の平均厚みが50μm以下であると、前記転写対象材料を飛翔させるのに必要な光のエネルギーが大きくなりすぎないため、特に光吸収材が有機物の場合、劣化や分解が発生しにくい点で有利である。
なお、塗布する方法によっては、一定のパターンを保持した層として供給することも可能となる。
前記転写対象層が25℃において固体の場合の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40μm以下が好ましく、0.2μm以上20μm以下がより好ましく、5μm以上18μm以下が更に好ましい。25℃における前記転写対象層が固体の場合に、前記転写対象層の平均厚みが、40μm以下であると、比較的弱い光エネルギーで転写が可能なため、光吸収材へのダメージを抑制することができる。
【0038】
前記転写対象層の平均厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記転写対象層に対して任意の複数の点を選択し、複数の点の厚みの平均を算出することにより求める方法などが挙げられる。平均としては、5点の厚みの平均が好ましく、10点の厚みの平均がより好ましく、20点の厚みの平均が特に好ましい。
平均厚みの測定機器としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザー変位計やマイクロメータなどの非接触又は接触方式の方法が挙げられる。
【0039】
本発明においては、前記ドナー基板を用いて、前記ドナー基板の前記基板側から転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を飛翔させる。
本発明において、「飛翔させる」とは、転写対象材料の少なくとも一部が前記ドナー基板から脱離することを意味する。
光渦レーザービームを用いることによって、飛翔させる転写対象材料を飛散させにくくすることができる。
【0040】
前記光渦レーザービームについて、以下に詳細に説明する。
一般的なレーザービームは、位相が揃っているため、図1Aに示すように平面状の等位相面(波面)を有している。レーザービームのポインティングベクトルの方向が平面状の等位相面の直交方向であることにより、レーザービームの照射方向と同じ方向となるため、レーザービームが転写対象材料中の光吸収材に照射された場合には、光吸収材に対して照射方向に力が作用する。しかし、レーザービームの断面における光強度分布が、図1Bに示すようにビームの中心が最も強い正規分布(ガウシアン分布)であるため、転写対象材料が飛散しやすい。また、位相分布の観察を行うと図1Cに示すように位相差がないことが確認される。
これに対し、光渦レーザービームは、図2Aに示すように螺旋状の等位相面を有している。光渦レーザービームのポインティングベクトルの方向が螺旋状の等位相面に対して直交方向であるため、光渦レーザービームが転写対象材料中の光吸収材に照射された場合には、直交方向に力が作用する。このため、図2Bに示すように光強度分布がビームの中央が零となる凹んだドーナツ状の分布となり、光渦レーザービームを照射された光吸収材は、ドーナツ状のエネルギーを放射圧として印加される。すると、光渦レーザービームを照射された光吸収材は、光渦レーザービームの照射方向に沿って飛翔し、被付与物に飛散しにくい状態で付与する。また、位相分布の観察を行うと図2Cに示すように位相差が発生していることが確認される。
【0041】
図3Aは、一般的なレーザービームを転写対象材料中の光吸収材に照射させたときの一例を示す写真である。図3Bは、光渦レーザービームを転写対象材料中の光吸収材に照射させたときの一例を示す写真である。
図3A図3Bとを比較すると、図3Aのほうが図3Bよりも転写対象材料が飛散していることが確認できる。このことから、光渦レーザービームを照射された転写対象材料中の光吸収材は、ドーナツ状のエネルギーを放射圧として印加され、光渦レーザービームの照射方向に沿って飛翔し、被付与物に飛散しにくい状態で付与することがわかる。
【0042】
光渦レーザービームか否かを判別する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述の位相分布の観察、干渉計測などが挙げられ、干渉計測が一般的である。
干渉計測は、レーザービームプロファイラ(Spiricon社製レーザービームプロファイラ、浜松ホトニクス株式会社製レーザービームプロファイラなど)を用いて観察でき、干渉計測した結果の一例を図4A図4Bに示す。
図4Aは、光渦レーザービームにおける干渉計測の結果の一例を示す説明図であり、図4Bは、中心に光強度0の点を有するレーザービームにおける干渉計測の結果の一例を示す説明図である。
光渦レーザービームを干渉計測すると、図4Aに示すように、エネルギー分布がドーナツ状であって、図1Cと同様に中心に光強度0の点を持つレーザービームであることが確認できる。
一方、中心に光強度0の点を有する一般的なレーザービームを干渉計測すると、図4Bに示すように、図4Aで示した光渦レーザービームの干渉計測と類似しているが、ドーナツ状部のエネルギー分布が一様ではないことから、光渦レーザービームとの差異が確認できる。
【0043】
-飛翔手段-
前記飛翔手段は、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光を照射する、換言すると、前記転写対象材料を表面に配した基板における、前記転写対象材料が配された側とは反対側の基板の表面に光を照射することにより、光の照射方向に前記転写対象材料を飛翔させる。
【0044】
前記飛翔手段としては、レーザー光源と、光渦変換部と、波長変換部とを有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0045】
--レーザー光源--
前記レーザー光源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザービームを発生させる固体レーザー、気体レーザー、半導体レーザーなどが挙げられ、パルス発振可能なものが好ましい。
前記固体レーザーとしては、例えば、YAGレーザー、チタンサファイアレーザーなどが挙げられる。
前記気体レーザーとしては、例えば、アルゴンレーザー、ヘリウムネオンレーザー、炭酸ガスレーザーなどが挙げられる。
これらの中でも、出力が30mW程度の半導体レーザーが、装置の小型化及び低コスト化の点から好ましい。ただし、本実施形態では、チタンサファイアレーザーを使用した。
前記レーザービームの波長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300nm以上11μm以下が好ましく、350nm以上1100nm以下がより好ましい。
前記レーザービームのビーム径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上10mm以下が好ましく、10μm以上1mm以下がより好ましい。
前記レーザービームのパルス幅としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2ナノ秒以上100ナノ秒以下が好ましく、2ナノ秒以上10ナノ秒以下がより好ましい。
前記レーザービームのパルス周波数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10Hz以上200Hz以下が好ましく、20Hz以上100Hz以下がより好ましい。
なお、前記レーザー光源としては、光渦レーザービームを出力可能なレーザー光源でもよい。
【0046】
--光渦変換部--
前記光渦変換部としては、レーザービームを光渦レーザービームに変換できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、回折光学素子、マルチモードファイバ、液晶位相変調器などが挙げられる。
前記回折光学素子としては、例えば、螺旋位相板、ホログラム素子などが挙げられる。これらの中でも、螺旋位相板(Spiral Phase Plate)が好ましい。
なお、前記光渦レーザービームを発生させる方法としては、前記光渦変換部を用いる方法に限らず、例えば、レーザー共振器から光渦を固有モードとして発振させる方法、ホログラム素子を共振器に挿入する方法などが挙げられる。他の前記光渦レーザービームを発生させる方法としては、例えば、ドーナツビームに変換した励起光を用いる方法、暗点を有する共振器ミラーを用いる方法、側面励起固体レーザーで発生する熱レンズ効果を空間フィルタとして用いて光渦モード発振する方法などが挙げられる。
【0047】
--波長変換部--
前記光渦レーザービームは、螺旋状の等位相面かつ、円環状のビーム強度分布であり、光波面内に位相特異点もつことを特徴とする。本発明においては、これらの特性を有すれば特に制限はなく、波長変換部として光渦レーザービームに円偏光を付与した円偏光光渦レーザービームなど、目的に応じて適宜選択することができる。
円偏光光渦レーザービームは、軌道角運動量と、円偏光によるスピン角運動量からなる全角運動量Jを有し、以下の数式(1)で示される。
前記波長変換部としては、例えば、1/4波長板などが挙げられる。1/4波長板の場合には、光学軸を+45°又は-45°以外に設置して光渦レーザービームに楕円状の円偏光(楕円偏光)を付与してもよいが、光学軸を+45°又は-45°に設置して前記光渦レーザービームに真円状の円偏光を付与し、上記の条件を満たすことが好ましい。これにより、飛翔体転写装置は、前記光吸収材を安定的に飛翔させ、飛散を抑制した形状で被付与物に付与させる効果を大きくすることができる。
【0048】
【数1】
ただし、前記数式(1)において、εは真空中の誘電率であり、ωは光の角周波数であり、Lはトポロジカルチャージであり、Iは下記数式(2)で表される光渦レーザービームの渦次数に対応する強度分布であり、Sは円偏光に対するスピン角運動量であり、rは円筒座標系の動径である。
【数2】
ただし、前記数式(2)において、ωは光のビームウエストサイズである。
なお、トポロジカルチャージとは、光渦レーザービームの円筒座標系における方位方向の周期的境界条件から現れる量子数を意味する。また、ビームウエストサイズとは、光渦レーザービームにおけるビーム径の最小値を意味する。
【0049】
Lは、波長板における螺旋波面の巻数で決まるパラメータである。Sは、波長板における円偏光の向きで決まるパラメータである。なお、L及びSはいずれも整数である。また、L及びSの符号は、それぞれ回転の向き(時計回り、反時計回り)を表す。
なお、光渦レーザービームにおける全角運動量Jは、J=L+Sと表すことができる。
【0050】
本発明の飛翔体転写装置は、例えば、レーザービームを光渦レーザービームに変換する光渦変換部、及び光渦レーザービームに円偏光を付与する波長変換部を備え、円偏光光渦レーザービームとすることで、高粘度の転写対象材料の飛翔体の直線指向性を発現させ、転写対象材料の飛散を抑制する効果を向上させることができる。
【0051】
--その他の部材--
その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーム径変更部材、ビーム波長変更素子、出力調整部などが挙げられる。
【0052】
---ビーム径変更部材---
ビーム径変更部材としては、光渦レーザービームのビーム径を変更できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、集光レンズなどが挙げられる。
光渦レーザービームのビーム径(照射径)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以下が好ましい。光渦レーザービームの照射径が100μm以下であると、高解像度の画像を形成しやすい点で好ましい。
なお、ビーム径は、例えば、レーザースポット径及び集光レンズにより変更することが可能である。
また、転写対象材料が分散体の場合、ビーム径としては、転写対象材料の体積平均粒径の最大値以上が好ましく、分散体の最大値の3倍がより好ましい。ビーム径がより好ましい範囲内であると、転写対象材料を安定して飛翔させることが可能となる点で有利である。
【0053】
---ビーム波長変更素子---
ビーム波長変更素子としては、光渦レーザービームの波長を、転写対象材料中の光吸収材が吸収可能であり、かつ後述する基板を透過可能である波長に変更できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ビーム波長変更素子としては、例えば、KTP結晶、BBO結晶、LBO結晶、CLBO結晶などが挙げられる。
【0054】
---出力調整部---
出力調整部としては、レーザービーム又は光渦レーザービームを適正な出力値に調整することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラスなどが挙げられる。
【0055】
転写対象材料に照射する光渦レーザービームの出力値としては、照射方向を軸とした照射径の中心軸に回転運動をしながら照射径よりも小さい径に収束する液柱を生じ得る状態、あるいは一部が切り離され液滴を生じ得る状態を実現可能である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、以下では「出力値」を「照射エネルギー」と称することもある。
光渦レーザービームの照射エネルギーとしては、転写対象材料の粘度や膜厚によっても適正値が変化するため、適宜調整されることが好ましいが、具体的には、100μJ/ドット以下がより好ましく、60μJ/ドット以下が更に好ましい。光渦レーザービームの照射エネルギーが60μJ/ドット以下であると、照射方向を軸とした照射径の中心軸に回転運動をしながら照射径よりも小さい径に収束する液柱を生じ得る状態、あるいは一部が切り離され液滴を生じ得る状態を実現しやすい点で有利である。
【0056】
前記飛翔体を被付与物に付与する手段としてとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記転写対象材料の液柱乃至液滴を被付与物に接触させる機構を備える手段などが挙げられる。具体的には、前記付与手段としては、例えば、被付与物と転写対象材料との間隙を調整する機構や、被付与物を搬送する機構などが挙げられる。
なお、前記「付与」とは、「付着」とほぼ同義の意味である。
【0057】
-被付与物-
前記被付与物の十点平均粗さRz(表面平滑性)としては、再現性よくコアを転写物の中央付近に形成することができる点から、4.9μm以下であり、2.3μm以下が好ましく、より高精度の点から、0.007μm以上1.5μm以下がより好ましい。前記十点平均粗さRzが4.9μm以下であると、再現性よくコアを転写物の中央付近に形成することができ、転写物の形状を精度良く再現が可能となる。
前記十点平均粗さRzは、JIS B0601に従って測定することができ、例えば、触針式表面形状測定装置(Dektak150、ブルカー・エイエックスエス株式会社製)を用いて測定することができる。
【0058】
前記被付与物の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来、画像形成装置で用いられている記録媒体や中間転写ベルト、立体造形物を形成するための造形物支持基板などが挙げられる。なお、本明細書においては、前記被付与物を被転写媒体と称することもある。
断面の作成には、ウルトラミクロトームULTRACUT-S(ライカ株式会社)又は、収束イオンビーム装置(FIB)などを用いることができ、必要に応じ適宜選択する。
前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コート紙、上質紙、フィルム、布、繊維などが挙げられる。
【0059】
前記被付与物と前記転写対象材料との間隙(ギャップ、距離)としては、前記被付与物と前記転写対象材料とを接触させなければ特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.05mm以上5mm以下が好ましく、0.10mm以上2mm以下がより好ましく、0.50mm以上1.50mm以下が特に好ましい。前記被付与物と前記転写対象材料との間隙が好ましい範囲内であると、前記被付与物に対する前記転写対象材料の付与位置の精度が低下しにくくなる点で有利である。また、前記被付与物と前記転写対象材料とを接触させないことにより、前記光吸収材、前記被付与物の組成を選ばず前記転写対象材料を前記被付与物に付与させることが可能となる。
更に、間隙は、例えば、被付与物の位置を一定に維持する位置制御手段などにより一定に保たれることが好ましい。この場合、前記転写対象材料及び被付与物の位置変動、平均厚みのバラつきを考慮して各部位を配置することが重要となる。
【0060】
また、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均直径(平均ドット径)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、100μm以下とすることが、形成する画像や立体造形物の解像度をより向上させることができる点で好ましい。
また、前記平均ドット径は、例えば、マイクロスコープ等で前記転写対象材料のドット画像を取得して画像輝度情報からドット領域を検出し、検出したドット領域のピクセル数から各ドットの面積を算出、円形に換算した時の直径をドット径とし、これを平均することにより求めることができる。
【0061】
更に、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均直径(ドット径)のばらつきの値としては、10%以下とすることが好ましく、6%以下とすることがより好ましい。前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均直径のばらつきの値を、上記の好ましい範囲とすることにより、画像や立体造形物を形成する際の精度をより向上させることができる。
また、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均直径のばらつきの値は、例えば、マイクロスコープ等で転写対象材料のドット画像を取得して画像輝度情報からドット領域を検出し、検出したドット領域のピクセル数から各ドットの面積を算出、円形に換算した時の直径をドット径とし、各ドットの粒径分布の平均粒径と標準偏差から算出することにより求めることができる。
【0062】
加えて、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の位置(ドット位置)のばらつきの値としては、10μm以下とすることが好ましく、5μm以下とすることがより好ましい。前記被付与物に付与された前記転写対象材料の位置のばらつきの値を、上記の好ましい範囲とすることにより、画像や立体造形物を形成する際の精度をより向上させることができる。なお、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の位置のばらつきの値としては、例えば、前記転写対象材料のドットを一列に付与させる場合には、そのドットの列と直行する方向における、各前記転写対象材料の位置のばらつきの値とすることができる。
例えば、マイクロスコープ等で前記転写対象材料のドット画像を取得して画像輝度情報からドット領域を検出し、検出した各ドット領域の重心座標を算出、各重心の最小二乗法による近似直線からのずれを算出することにより求めることができる。
【0063】
前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以下が好ましい。前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均厚みが100μm以下であると、前記転写対象材料を飛翔させるためのエネルギーを小さくできるため、前記転写対象材料の耐久性、前記光吸収材が有機物である場合の組成の分解などが発生しにくくなる点で有利である。なお、前記被付与物に付与された前記転写対象材料の平均厚みとしては、記録媒体、目的などにより適宜選択することができる。
【0064】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、例えば、供給工程、光走査工程、制御工程などが挙げられる。
【0065】
<<供給工程及び供給手段>>
前記供給工程としては、前記飛翔手段と前記被付与物との間の光路に、前記転写対象材料を供給する工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記供給手段を用いて好適に行うことができる。
前記供給手段としては、前記飛翔手段と前記被付与物との間の光路に、前記転写対象材料を供給する手段であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0066】
前記供給手段としては、例えば、円筒状の基板などが挙げられる。前記円筒状の基板を用いる場合には、光路上に前記円筒状の基板を配置し、前記円筒状の基板を介して、前記ドナー基板に前記転写対象材料を供給するようにしてもよい。
より具体的には、前記転写対象材料が液体であって、前記ドナー基板に転写対象材料を供給する場合には、前記供給手段として供給ローラ及び規制ブレードを設けることが、非常に簡単な構成で転写対象材料を基板の表面に一定の平均厚みで供給することができるため好ましい。
この場合、前記供給ローラは、前記転写対象材料を貯蔵する貯蔵槽に表面が一部浸漬し、前記転写対象材料を表面に担持しながら回転して、前記ドナー基板に当接することにより前記転写対象材料を供給する。前記規制ブレードは、前記供給ローラの回転方向における前記貯蔵槽の下流側に配置され、前記供給ローラが担持した前記転写対象材料を規制して平均厚みを均一にし、飛翔させる前記転写対象材料の量を安定させる。供給する前記転写対象材料の平均厚みを非常に薄くすることにより、飛翔させる前記転写対象材料の量を低減できるため、前記転写対象材料を飛散が抑制された微小なドットとして前記被付与物に付与可能とし、網点が太るドットゲインを抑制することができる。なお、前記規制ブレードは、前記供給ローラの回転方向における前記供給ローラの下流側に配置されていてもよい。
【0067】
また、前記転写対象材料が高粘度である場合には、前記供給ローラの材質は、前記ドナー基板と確実に接触させるようにする点で、少なくとも表面が弾性を有するものが好ましい。前記転写対象材料が比較的低粘度である場合における、前記供給ローラとしては、例えば、精密ウェットコーティングで用いられるような、グラビアロール、マイクログラビアロール、フォーワードロールなどが挙げられる。
【0068】
更に、前記供給ローラを設けない前記供給手段としては、前記貯蔵槽内の前記転写対象材料に前記ドナー基板を直接接触させた後にワイヤーバーなどで余分な前記転写対象材料を掻き取ることにより前記ドナー基板の表面に前記転写対象材料の層を形成するようにしてもよい。
なお、前記貯蔵槽は、前記供給手段とは別に設け、ホース等で前記転写対象材料を前記供給手段に供給するようにしてもよい。
【0069】
<<光走査工程及び光走査手段>>
前記光走査工程としては、前記光渦レーザービームを前記転写対象材料に走査させる工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光走査手段を用いて好適に行うことができる。
前記光走査手段としては、前記光渦レーザービームを前記転写対象材料に対して走査可能であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記光走査手段は、飛翔手段から照射された前記光を前記転写対象材料に向けて反射させる反射鏡と、反射鏡の角度及び位置を変化させて前記光渦レーザービームを前記転写対象材料に対して走査させる反射鏡駆動部とを有するようにしてもよい。
【0070】
<<制御工程>>
前記制御工程は、各工程を制御する工程であり、制御手段により好適に行うことができ、前記制御手段としては、各手段の動きを制御することができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シーケンサー、コンピュータ等の機器が挙げられる。
【0071】
次に、本発明における飛翔体転写装置の一例について図面を参照して説明する。
なお、本発明の飛翔体転写装置の部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0072】
図5Aは、本発明の飛翔体転写装置の一例を示す説明図である。
図5Aにおいて、飛翔体転写装置300は、飛翔手段1と、転写対象材料(転写対象層)20と、被付与物30と、ドナー基板40とを有する。前記ドナー基板40は、転写対象層20のドナー基板40とは反対側の上面に有している。
前記飛翔体転写装置300は、前記ドナー基板40に担持されている前記転写対象層20に、前記飛翔手段1によりレーザービーム112を照射し、前記レーザービーム12のエネルギーにより前記転写対象層20を照射方向に飛翔させる。図5A中、被付与物30は飛翔させた前記転写対象層20を付与させる対象である。被付与物30を前記転写対象層20の対面に配置しておくことで、前記被付与物30に前記転写対象層20を付与することができる。
【0073】
前記飛翔手段1は、レーザー光源2と、ビーム径変更部材3及び7と、ビーム波長変更部材4と、光渦変換部5と、波長変換部6と、を有している。
【0074】
前記レーザー光源2は、例えば、チタンサファイアレーザーであり、パルス発振させたレーザービーム11を発生させ、前記ビーム径変更部材3に照射する。
前記ビーム径変更部材3は、例えば、集光レンズであり、前記レーザー光源2が発生させた前記レーザービーム11の光路におけるレーザー光源2の下流に配置され、レーザービーム11の径を変更する。
前記ビーム波長変更部材4は、例えば、KTP結晶であり、前記レーザービーム11の光路における前記ビーム径変更部材3の下流に配置され、前記レーザービーム11の波長を前記転写対象層20が吸収可能な波長に変更する。
前記光渦変換部5は、例えば、螺旋位相板であり、前記レーザービーム11の光路における前記ビーム波長変更部材4の下流に配置され、前記レーザービーム11を光渦レーザービーム12に変換する。
前記波長変換部6は、例えば、1/4波長板であり、前記光渦レーザービーム12に円偏光を付与する。
【0075】
前記転写対象層20は、前記飛翔手段1から前記光渦レーザービーム12を照射され、前記光渦レーザービーム12の径の範囲におけるエネルギーを受けて飛翔する。被付与物30を前記転写対象層20の対面に配置しておくことで、前記被付与物30に前記転写対象層20を付与することができる。
なお、飛翔した前記転写対象層20は、前記光渦レーザービーム12により付与された、適度なエネルギーによる前方推進とジャイロ効果により、ビーム径の中心軸近傍に収束しながら捩じ切られることにより、周辺への飛散を抑制されつつ前記被付与物30に付与する。
このとき、飛翔する前記転写対象層20の飛翔量は、前記光渦レーザービーム12が照射された前記転写対象層20の面積のうち一部であり、前記波長変換部6などにより調整することができる。
【0076】
図5Bは、本発明の飛翔体転写装置の他の一例を示す説明図である。
図5Bにおいて、飛翔体転写装置301は、図5Aに示した飛翔体転写装置300の各手段などに加え、光走査手段60を有している。図5Bにおいては、前記ドナー基板40は、前記ドナー基板40の長軸方向が光渦レーザービーム12の照射方向と直交する方向に配されている。この飛翔体転写装置301は、前記飛翔手段1が発生させた光渦レーザービーム12を、光走査手段60により前記ドナー基板40に走査する。これにより、飛翔体転写装置301は、前記ドナー基板40の任意の位置に照射し、転写対象材料(転写対象層)20を飛翔させることができる。これにより、前記被付与物30を前記転写対象層20の対面に配置し多場合に、前記被付与物30の任意の位置に前記転写対象層20を付与することができる。
【0077】
前記光走査手段60は、光渦レーザービーム12の光路における飛翔手段1の下流に配置され、反射鏡61を有している。
前記反射鏡61は、反射鏡駆動手段により図5B中矢印Sで示す走査方向に可動し、光渦レーザービーム12を前記転写対象層20の任意の位置に反射する。
なお、前記光走査手段60は、例えば、前記飛翔手段1自体を移動させるか、前記飛翔手段1を回動させて前記光渦レーザービーム12の照射方向を変化させるようにしてもよい。あるいは、前記光走査手段60は、前記反射鏡61として前記ポリゴンミラーを用いることにより、任意の位置に光渦レーザービーム12を走査させるようにしてもよい。
【0078】
前記ドナー基板40は、前記光渦レーザービーム12の光路における前記光走査手段60の下流に配置され、例えば、前記転写対象層20が高粘度の液体である場合、前記転写対象層20が塗布されて固定する目的で用いられる。この前記ドナー基板40は、前記光を透過可能であって、前記転写対象層20を前記光渦レーザービーム12が照射される面とは反対側の面に担持している。
また、前記転写対象層20が前記ドナー基板40に担持される段階で、層を形成した転写対象層20の平均厚みが一定となるように制御することにより、転写対象層20の飛翔量を安定させることができる。
なお、飛翔手段1と、前記光走査手段60とを合わせたものをレーザービーム照射ユニット100と称する。
【0079】
図5Cは、本発明の飛翔体転写装置の他の一例を示す説明図である。
図5Cにおいて、飛翔体転写装置301aは、図5Bに示した前記飛翔体転写装置301における前記光走査手段60として、ガルバノスキャナー(ガルバノミラー)62a及び62bを有する。前記ガルバノスキャナー62a及び62bは、それぞれが独立した走査方向(2次元)に可動し、前記光渦レーザービーム12を前記転写対象層20の任意の位置に反射することができる。前記光走査手段60として前記ガルバノスキャナー62a及び62bを用いることにより、前記光渦レーザービーム12の走査スピード及び走査精度をより向上させることができる。
また、飛翔体転写装置301aとしては、ガルバノスキャナーに光を通した後にfθレンズ(以下、「集光レンズ」と称することがある)で集光してもよい。前記集光レンズは、実験の目的に応じ適宜選択すればよく、集光した場合に得られる最小ビームスポット径の理論的限界がレンズの焦点距離と比例関係にあることから適切な集光レンズを選択すればよい。これにより、焦点距離の長いレンズを選択した場合、転写対象材料に照射されるレーザービームの面積も大きくなり、転写物の体積は増える。
また、前記飛翔体転写装置301aにおいては、例えば、ガルバノスキャナー62bと基板40の間に、fθレンズを配置することも好ましい。
【0080】
本発明の結晶形成方法及び結晶形成装置の用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、画像形成、立体造形物の製造、プリンタブル回路形成などが挙げられる。
【0081】
(画像形成方法)
本発明の画像形成方法は、本発明の結晶形成方法によって、画像を形成し、更に必要に応じてその他の工程を含む。具体的には、結晶形成工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記結晶形成工程は、本発明の結晶形成方法における結晶形成工程と同様である。
【0082】
画像形成を行う場合には転写対象材料として着色剤が用いられる。
前記着色剤としては、その形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0083】
液体の着色剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、溶剤としての水に、染料、顔料、着色粒子、着色油滴などの色材を分散させた水性インクが使用可能である。また、水性インクに限らず、溶剤として、例えば、炭化水素系の有機溶剤や各種アルコールなど、比較的低沸点の液体を含んだ着色剤も使用可能である。これらの中でも、揮発成分の安全性、爆発の危険性などの点から、水性インクが好ましい。
【0084】
また、画像形成装置では、版を用いるオフセット印刷用のプロセスインキ、JAPAN COLOR対応インキ、特色インキなどでも画像形成が可能であるため、オフセット印刷で用いる色に合わせたデジタル画像を無版で容易に再現することができる。
更に、UV硬化インキでも画像形成が可能であるため、定着工程において紫外線を照射して硬化することにより、重なった記録媒体が貼り付くブロッキングの防止、及び乾燥工程の簡略化ができる。
【0085】
前記色材の材質としては、例えば、有機顔料、無機顔料、染料などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
前記有機顔料としては、例えば、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンバイオレット、銅フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、サップグリーン、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ポリアゾイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー、イソインドリノンイエロー、ファーストイエロー、クロモフタルイエロー、ニッケルアゾイエロー、アゾメチンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、アリザリンレッド、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、モノアゾレッド、ポリアゾレッド、ペリレンレッド、アンスラキノニルレッド、ジケトピロロピロールレッド、ジケトピロロピロールオレンジ、ベンズイミダゾロンブラウン、セピア、アニリンブラック、などが挙げられ、有機顔料のうち金属レーキ顔料としては、例えば、ローダミンレーキ、キノリンイエローレーキ、ブリリアントブルーレーキなどが挙げられる。
【0087】
前記無機顔料としては、例えば、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、チタンイエロー、クロムチタンイエロー、ライトレッド、クロムオキサイドグリ-ン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、リトポン、ウルトラマリーン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレット、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫化ストロンチウム、アルミン酸ストロンチウム、黄銅、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、真鍮顔料、アイボリーブラック、ピーチブラック、ランプブラック、カーボンブラック、プルシャンブルー、オーレオリン、雲母チタン、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、オーピメント、辰砂、珊瑚末、胡粉、ベンガラ、群青、紺青、魚燐箔、酸化鉄処理パールなどが挙げられる。
【0088】
これらの中でも、ブラック顔料としては、色相、画像保存性の点から、カーボンブラックが好ましい。
シアン顔料としては、色相、画像保存性の点から、銅フタロシアニンブルーであるC.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
【0089】
マゼンタ顔料としては、キナクリドンレッドであるC.I.ピグメントレッド122、ナフトールレッドであるC.I.ピグメントレッド269、及びローダミンレーキであるC.I.ピグメントレッド81:4が好ましく、これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、色相、画像保存性の点から、C.I.ピグメントレッド122及びC.I.ピグメントレッド269の混合物がより好ましく、C.I.ピグメントレッド122(P.R.122)及びC.I.ピグメントレッド269(P.R.269)の混合物としては、P.R.122:P.R.269が5:95以上80:20以下の混合物が特に好ましい。P.R.122:P.R.269が特に好ましい範囲内であると、色相がマゼンタ色として外れない。
【0090】
イエロー顔料としては、モノアゾイエローであるC.I.ピグメントイエロー74、ジスアゾイエローであるC.I.ピグメントイエロー155、ベンズイミダゾロンイエローであるC.I.ピグメントイエロー180、イソインドリンイエローであるC.I.ピグメントイエロー185が好ましい。これらの中でも、色相、画像保存性の点から、C.I.ピグメントイエロー185がより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0091】
前記転写対象材料を着色剤としてのプロセスカラーインクとして用いる場合、4色のインクセットで用いることが好ましい。
【0092】
前記無機顔料は、体積平均粒径が10nmを超える粒子からなるものが多い。体積平均粒径が10nm以上の無機顔料を着色剤として用いる場合、着色剤としては、液体であることが好ましい。着色剤が液体であれば、静電気力など非静電付着力以外の力を用いることなく着色剤を安定した状態で維持できる点で有利である。また、この場合、ノズルつまりやインクの沈降などが顕著となりやすく、安定した連続印刷プロセスは望みにくいインクジェット記録方式と比較すると、本発明の画像形成方法は、非常に有効である。更に、着色剤の粒子の表面積が小さくなると十分な帯電量が得られず、安定した連続印刷プロセスとして成立しない電子写真方式と比較しても、本発明の画像形成方法は、非常に有効である。
【0093】
前記染料としては、例えば、モノアゾ染料、ポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料、アントラキノン誘導体、アントロン誘導体、インジゴ誘導体、チオインジゴ誘導体、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、ポリメチン染料、アゾメチン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料などが挙げられる。
【0094】
前記着色剤の粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
記録媒体に浸透する液体の着色剤を用いた場合、記録媒体に付与した着色剤がフェザリングやブリーディングを発生することがあるが、本発明の飛翔体転写方法で取り扱いが可能である高粘度の着色剤にすると、記録媒体への浸透速度に対して乾きのほうが速いため、特にブリーディングの減少によって発色性の向上とエッジ部分の鮮鋭化が図れ、高画質の画像を形成することができる。また、着色剤を重ねて付与させる重ね打ちによる階調表現を行う場合にも、着色剤の量の増加による滲みも少なくすることができる。
更に、この飛翔体転写方法は、液体の着色剤を飛翔させて付与させるものであるため、例えば、フィルム状のドナー基板から熱により着色剤を溶融転写するいわゆる熱転写方式と比較すると、記録媒体に微小な凹凸が存在していても良好に記録を行うことができる。
【0095】
<その他の手工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、被付与物搬送工程、定着工程などが挙げられる。
【0096】
前記被付与物搬送工程としては、前記被付与物を搬送する工程であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、被付与物搬送手段を用いて好適に行うことができる。
前記被付与物搬送手段としては、前記被付与物を搬送することができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、搬送ローラ対などが挙げられる。
【0097】
前記定着手段としては、前記被付与物に付与させた前記転写対象材料に含まれる光吸収材を定着させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱加圧部材を用いた熱圧着方式のものなどが挙げられる。
前記加熱加圧部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、加熱ローラ、加圧ローラ、加熱ローラ及び加圧ローラを組み合わせたものなどが挙げられる。他の加熱加圧部材としては、例えば、これらに定着ベルトを組合せたもの、これらのうち加熱ローラを加熱ブロックに代えたものなどが挙げられる。
【0098】
前記加圧ローラとしては、前記被付与物搬送手段により搬送される前記被付与物と等速度で加圧面が移動するものが、擦れによる画像劣化を抑制する点で、好ましい。この中でも、表面近傍に弾性層を形成したものが、前記被付与物に対して接触加圧しやすい点で、より好ましい。更に、最表面にシリコーン系の撥水性材料やフッ素化合物などの低表面エネルギーの素材で撥水性表面層を形成した前記加圧ローラが、表面に前記転写対象材料が付与することによる画像の乱れを抑制する点で、特に好ましい。
前記シリコーン系の撥水性材料からなる前記撥水性表面層としては、例えば、シリコーン系離型剤の皮膜、シリコーンオイル又は各種変性シリコーンオイルの焼付皮膜、シリコーンワニスの皮膜、シリコーンゴムの皮膜、シリコーンゴムと各種金属、ゴム、プラスチック、セラミック等の複合物からなる皮膜などが挙げられる。
前記フッ素化合物からなる前記撥水性表面層としては、フッ素樹脂の皮膜、有機フッ素化合物の皮膜、フッ素オイルの焼付皮膜又は吸着膜、フッ素ゴムの皮膜、若しくはフッ素ゴムと各種金属、ゴム、プラスチック、セラミック等の複合物からなる皮膜などが挙げられる。
【0099】
前記加熱ローラにおける加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、80℃以上200℃以下が好ましい。
【0100】
前記定着ベルトとしては、耐熱性があり、機械的強度が高ければ特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリイミド、PET、PEN等のフィルムなどが挙げられる。また、前記定着ベルトとしては、表面に前記転写対象材料が付与することによる画像の乱れを抑制する点で、前記加圧ローラの最表面を形成する材料と同じものを用いることが好ましい。前記定着ベルトは、肉厚を薄くすることができることにより、ベルト自体を加熱するエネルギーを小さくできるため、電源を入れてすぐに使用することができる。このときの温度及び圧力は定着させる光吸収材の組成により変化するが、温度としては200℃以下が省エネルギーの観点から好ましく、圧力としては1kg/cm以下が装置の剛性の点で好ましい。
【0101】
本発明の画像形成方法及び画像形成装置においては、飛翔手段、供給手段、及び光走査手段を一体として飛翔ユニットとして扱ってもよい。
例えば、前記転写対象材料として色材を含有する着色剤を用いる場合における例を説明する。前記飛翔ユニットを画像形成装置に4つ設け、プロセスカラーであるイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの前記着色剤を飛翔させるようにしてもよい。前記着色剤の色数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、必要に応じて飛翔ユニット(以下、着色剤飛翔ユニット)の数を増減させてもよい。また、記録媒体の搬送方向における、プロセスカラーの前記着色剤を有する前記飛翔ユニットの上流側に、白色の着色剤を有する前記飛翔ユニットを配置することで、白色隠蔽層を設けることが可能となるため、透明な記録媒体に色再現性に優れた画像を形成できる。ただし、特にイエロー、白色、透明の着色剤においては、レーザービームの波長の光の透過率(吸光度)が適正となるように、レーザー光源を、例えば、ブルーレーザービーム、紫外線レーザービームなどに適宜選択してしなければならない場合がある。
【0102】
更に、本発明の画像形成方法に係る画像形成装置では、高粘度の着色剤を用いることができるので、記録媒体上に順次異なる色の着色剤を重ねて画像を形成しても、着色剤が滲み出して交じり合うブリーディングの発生を抑制できるため、高画質のカラー画像を得ることができる。
本発明の画像形成方法に係る画像形成装置の小型化などを目的として、飛翔ユニットを1つだけ設け、供給ローラ及びドナー基板に供給する着色剤自体を切り替えて複数色の画像を形成するようにしてもよい。
【0103】
次に、本発明の画像形成方法に係る画像形成装置の一例について図面を参照して説明する。
なお、本発明の画像形成方法に係る画像形成装置の部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0104】
図6Aは、図5Bに示す飛翔体転写装置において、供給手段及び被付与物搬送手段を付加した画像形成装置の一例を示す説明図である。
図6Aにおいて、画像形成装置302は、図5Bに示した飛翔体転写装置301の各手段などに加え、供給手段50と、被付与物搬送手段70とを有しており、平板状の基板40を円筒状の担持ローラ41に変更したものである。また、担持ローラ41の内側には、レーザービーム照射ユニット100が配置されており、担持ローラ41が外周に担持する転写対象材料(転写対象層)20に光渦レーザービーム12を照射する。
【0105】
供給手段50は、貯蔵槽51と、供給ローラ52と、規制ブレード53とを有している。
貯蔵槽51は、供給ローラ52の下方の近傍に配置され、転写対象材料20を貯蔵する。
供給ローラ52は、担持ローラ41と当接するように配置され、貯蔵槽51の転写対象材料20に一部が浸漬されている。供給ローラ52は、回転駆動手段により、又は担持ローラ41の回転に従動して図6A中矢印R2で示す回転方向に回転しながら転写対象材料20を表面に付与させる。付与した転写対象材料20は、規制ブレード53により平均厚みを均一にされ、担持ローラ41に転移することにより層として供給される。担持ローラ41の表面に供給された転写対象材料20は、担持ローラ41が回転することにより、光渦レーザービーム12が照射される位置に連続的に供給される。
規制ブレード53は、図6A中矢印R2で示す回転方向における担持ローラ41の上流側に配置され、供給ローラ52が表面に付与させた転写対象材料20を規制し、担持ローラ41に供給する転写対象材料20の平均厚みを均一にする。
【0106】
被付与物搬送手段70は、担持ローラ41と搬送する被付与物30が接触しないように担持ローラ41の近傍に配置され、被付与物搬送ローラ71と、被付与物搬送ローラ71に張架された被付与物搬送ベルト72とを有している。この被付与物搬送手段70は、回転駆動手段により被付与物搬送ローラ71を回転させ、被付与物搬送ベルト72により被付与物30を図6A中矢印Cで示す搬送方向に搬送する。
このとき、レーザービーム照射ユニット100は、画像情報に従って担持ローラ41の内側より光渦レーザービーム12を照射し、被付与物30に転写対象材料20を付与させる。被付与物30を被付与物搬送ベルト72により移動させながら、このような転写対象材料20を被付与物30に付与させる付与動作を行うことにより、被付与物30に2次元の画像を形成することができる。
【0107】
なお、担持ローラ41の表面に担持されたが飛翔させなかった転写対象材料(転写対象層)20は、担持ローラ41が回転し、供給ローラ52との当接により溜まっていき、やがて貯蔵槽51に落下して回収される。また、転写対象材料20の回収方法としては、それに限られることなく、担持ローラ41の表面の転写対象層20を掻き取るスクレーパなどを設けてもよい。
【0108】
図6Bは、図5Bに示す飛翔体転写装置において、供給手段及び被付与物搬送手段を付加した画像形成装置の他の一例を示す説明図である。
図6Bにおいて、画像形成装置303は、図6Aで示した画像形成装置302における円筒状の担持ローラ41を、軸方向に沿って2分割した担持部42とし、画像形成装置302の配置を変更したものである。
【0109】
担持部42は、円筒状の一部の面となっており、かつ円筒中心線の対向側には面が無い形状である。このように対向面がない担持体とすることにより、レーザービーム照射ユニット100を円筒状の担持ローラ41に設けることなく、光渦レーザービーム12の光路が確保しやすくなるため、装置を単純化することができる。
【0110】
図7Aは、定着手段を付加した図6Aに示す画像形成装置の一例を示す説明図である。
図7Aにおいて、画像形成装置305は、図6Aに示した画像形成装置302の各手段などに加え、定着手段80を有しており、被付与物30に付与させた転写対象層20を定着させて平滑にするようにしている。なお、被付与物搬送手段70の位置は、図6Aでは担持ローラ41の側面としたが、図7Aでは説明の便宜上、担持ローラ41の上方とした。
【0111】
定着手段80は、加圧方式の定着手段であって、被付与物30の図7A中矢印Cで示す搬送方向において担持ローラ41の下流側に配置され、加圧ローラ83と、対向ローラ84とを有している。この定着手段80は、転写対象層20が付与した被付与物30を、挟持しながら搬送することにより加圧して定着させる。
【0112】
加圧ローラ83は、対向ローラ84に向かって付勢されており、表面が被付与物30と接触し、対向ローラ84とにより被付与物30を挟持しながら加圧する。
対向ローラ84は、加圧ローラ83と当接する位置に配置され、被付与物30を加圧ローラ83とにより被付与物搬送ベルト72を介して挟持する。
【0113】
例えば、画像形成装置305として、1,000mPa・s以上である非常に高粘度の転写対象材料20を用いると、転写対象材料20の被付与物30への浸透又は濡れが遅くなりやすい。そして、転写対象材料20がそのままの状態で乾燥してしまうと、画像の表面粗さが粗くなり、画像の光沢が低下してしまう場合がある。このような場合、定着手段80は、転写対象材料20が付与した被付与物30を加圧ローラ83で加圧し、転写対象材料20を被付与物30に押し込む、あるいは転写対象材料20を潰すことができるため、転写対象材料20が付与した被付与物30の表面粗さを小さくできる。
【0114】
図7Bは、定着手段を付加した図6Aに示す画像形成装置の他の一例を示す説明図である。
図7Bにおいて、画像形成装置306は、図7Aで示した画像形成装置305における加圧方式の定着手段80を加熱加圧方式の定着手段81に変更したものである。
定着手段81は、被付与物30の図7B中矢印Cで示す搬送方向において担持ローラ41の下流側に配置され、加熱加圧ローラ85と、定着ベルト86と、従動ローラ87と、ハロゲンランプ88と、対向ローラ84とを有している。この定着手段81は、溶融が必要な材料を分散した分散液の転写対象材料20として用いた場合で、加圧のみでは狙いの画像を得られないときに用いられる。
【0115】
加熱加圧ローラ85は、対向ローラ84に向かって付勢されており、定着ベルト86を介して、被付与物30を対向ローラ84と挟持しながら加熱及び加圧する。
定着ベルト86は、無端のベルト状であり、加熱加圧ローラ85及び従動ローラ87に張架され、表面が被付与物30と接触する。
従動ローラ87は、加熱加圧ローラ85の下方に配置され、加熱加圧ローラ85の回転に従って従動する。
ハロゲンランプ88は、加熱加圧ローラ85の内部に配置され、被付与物30に転写対象層20を定着させるための熱を発生させる。
対向ローラ84は、定着ベルト86と当接する位置に配置され、被付与物30を加圧ローラ83とにより被付与物搬送ベルト72を介して挟持する。
【0116】
図7Cは、定着手段を付加した図6Aに示す画像形成装置の他の一例を示す説明図である。
図7Cにおいて、画像形成装置307は、図7Aで示した画像形成装置305における加圧方式の定着手段80をUV照射方式の定着手段82に変更したものである。
定着手段82は、被付与物30の図7C中矢印Cで示す搬送方向において担持ローラ41の下流側に配置され、UVランプ89を有している。この定着手段81は、転写対象層20として紫外線硬化性材料を用いた場合に使用され、UVランプ89によりUVを照射して被付与物30に定着させる。
【0117】
図8Aは、本発明の画像形成装置の一例を示す説明図である。
図8Aにおいて、画像形成装置400は、図7Bに示した画像形成装置306の各手段などに加え、飛翔ユニット120を4つ有しており、転写対象材料20として色材を含有する着色剤21を用いた場合に変更したものである。
また、飛翔ユニット120は、供給手段50と、飛翔手段100と、図示しないビーム走査手段60と、担持ローラ41と、転写対象材料20(着色剤21)とにより構成される。
【0118】
飛翔ユニット120Y、M、C、Kは、それぞれプロセスカラーであるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のトナーを着色剤21として貯蔵している。
これにより、被付与物30としての記録媒体31上に各色の画像を順次形成し、カラー画像を得るカラープロセスに適用することができる。
【0119】
図8Bは、本発明の画像形成装置の他の一例を示す説明図である。
図8Bにおいて、画像形成装置401は、図8Aに示した画像形成装置400の各手段などに加え、被付与物としての中間転写手段90を有している。
【0120】
中間転写手段90は、中間転写体91と、中間転写体駆動ローラ92と、中間転写体従動ローラ93とを有している。
中間転写体91は、例えば、無端状のベルトであり、4つの飛翔ユニット120の上方に配置され、中間転写体駆動ローラ92と、中間転写体従動ローラ93とにより張架されている。
中間転写体駆動ローラ92は、回転駆動手段により図8B中矢印R2で示す回転方向に回転し、中間転写体91を回転させる。
中間転写体従動ローラ93は、中間転写体駆動ローラ92の回転に従って従動する。
このように、まず、中間転写体91に画像を形成し、これを所望の記録媒体31に転写するようにしてもよい。この画像形成装置201においても、画像形成装置400と同様に高画質のカラー画像を得ることができる。また、中間転写体91に形成した画像を記録媒体31に転写する際に中間転写体駆動ローラ92により押圧するので、画像形成装置200と同様に、着色剤21を付与させた記録媒体31の表面粗さを小さくすることができる。
【0121】
また、図5Bでは、レーザービームを照射する方向を重力方向としたが、図5A及び図6A図8Bでは、レーザービームを照射する方向を重力方向とは逆の方向にすることや、水平方向にすることを示した。
このように、本発明の画像形成方法では、基板の表面へのレーザービームの照射方向が非重力方向であり、液柱乃至液滴が非重力方向に生ずるようにしてもよい。これにより、装置の設計において自由度を高めることができる。
【0122】
また、本発明の画像形成方法及び画像形成装置を、以下のように、立体造形物の製造方法及び立体造形物の製造装置に応用することもできる。
【0123】
(立体造形物の製造方法)
本発明の立体造形物の製造方法は、本発明の結晶形成方法によって、立体造形物を製造し、更に必要に応じてその他の工程を含む。具体的には、結晶形成工程を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
前記結晶形成工程は、本発明の結晶形成方法における結晶形成工程と同様である。
なお、前記立体造形物の製造方法における結晶形成工程は、被付与物に対して立体造形剤としての転写対象材料を層として積み重ね、立体的に付与する。
【0124】
-立体造形剤-
前記立体造形剤としては、転写対象材料と同様に、その形状、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。以下、前記立体造形物の製造方法における転写対象材料としての立体造形剤とした際に異なる点を説明する。
【0125】
前記被付与物上に付与した立体造形剤の一層当たりの平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、求められる精密さなどにより変化するが、5μm以上500μm以下が好ましい。前記被付与物上に付与した立体造形剤の一層当たりの平均厚みが5μm以上500μm以下であると、立体造形物の精度、質感、滑らかさ、製造時間などの点で有利である。また、前記被付与物上に付与した立体造形剤の一層当たりの平均厚みとしては、5μm以上100μm以下がより好ましい。前記被付与物上に付与した立体造形剤の一層当たりの平均厚みがより好ましい範囲内であると、レーザービームのエネルギーを低く抑えられ、立体造形剤の劣化などを抑制する点で有利である。
【0126】
前記立体造形剤としては、硬化性材料を少なくとも含有してなり、更に必要に応じて、その他の成分を含有してなる。
【0127】
--硬化性材料--
前記硬化性材料としては、活性エネルギー線(紫外線、電子線等)照射、加熱等により重合反応を生起し硬化する化合物であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、活性エネルギー線硬化性化合物、熱硬化性化合物などが挙げられる。これらの中でも、常温で液体の材料が好ましい。
前記活性エネルギー線硬化性化合物は、分子構造中にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する比較的低粘度のモノマーであり、単官能モノマー、多官能モノマーなどが挙げられる。
【0128】
--その他の成分--
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、有機溶剤、光重合開始剤、界面活性剤、着色剤、安定化剤、水溶性樹脂、低沸点アルコール、表面処理剤、粘度調整剤、接着性付与剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、紫外線吸収剤、可塑剤、防腐剤、分散剤などが挙げられる。
【0129】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、供給工程、立体造形ヘッドユニット走査工程、被付与物位置調整工程、制御工程などが挙げられる。
【0130】
<<硬化工程及び硬化手段>>
前記硬化工程は、前記転写対象材料としての立体造形剤を硬化する工程である。
前記硬化手段は、前記転写対象材料としての立体造形剤を硬化する手段である。
前記硬化手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、立体造形剤が紫外線硬化性材料であれば、紫外線照射器などが挙げられる。
前記硬化工程としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、立体造形剤が紫外線硬化性材料であれば、紫外線照射工程などが挙げられ、紫外線照射手段を用いて好適に行うことができる。
【0131】
<<立体造形剤供給工程及び立体造形剤供給手段>>
前記立体造形剤供給工程は、前記転写対象材料が立体造形剤であること以外は、本発明の画像形成方法における供給工程と同様であるため、その説明を省略する。
前記供給手段は、前記転写対象材料が立体造形剤であること以外は、本発明の画像形成装置における供給手段と同様であるため、その説明を省略する。
【0132】
<<立体造形ヘッドユニット走査工程及び立体造形ヘッドユニット走査手段>>
前記立体造形ヘッドユニット走査工程は、飛翔ユニットと前記硬化手段とを一体とした立体造形ヘッドユニットを被付与物上の装置の幅(X軸)方向で走査させる工程である。
前記立体造形ヘッドユニット走査手段は、飛翔ユニットと前記硬化手段とを一体とした立体造形ヘッドユニットを被付与物上の装置の幅(X軸)方向で走査させる手段である。
また、前記立体造形ヘッドユニットは複数設けるようにしてもよい。
【0133】
<<被付与物位置調整工程及び被付与物位置調整手段>>
前記被付与物位置調整工程は、装置の奥行き方向(Y軸)及び高さ方向(Z軸)に被付与物の位置を調整する工程である。
前記被付与物位置調整手段は、装置の奥行き方向(Y軸)及び高さ方向(Z軸)に被付与物の位置を調整する手段である。
前記被付与物位置調整手段としては、例えば、装置の奥行き方向(Y軸)及び高さ方向(Z軸)に被付与物の位置を調整可能な基体(ステージ)などが挙げられる。
【0134】
<<制御工程及び制御手段>>
制御工程は、前述した画像形成装置の制御工程と同様である。
制御手段は、前述した画像形成装置の制御手段と同様である。
【0135】
次に、前記立体造形物の製造装置の一例について図面を参照して説明する。
なお、前記立体造形物の製造装置の部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状等にすることができる。
【0136】
図9は、立体造形物の製造装置の一例を示す説明図である。
図9において、立体造形物の製造装置500は、被付与物としての造形物支持基板122と、ステージ123と、立体造形ヘッドユニット130とを有している。この立体造形物の製造装置500は、付与した立体造形剤22を硬化しながら積層して立体造形物124を製造する。
立体造形ヘッドユニット130は、立体造形物の製造装置500の上部に配置され、駆動手段により図9中矢印Lで示す方向に走査することができる。この立体造形ヘッドユニット130は、飛翔ユニット120と、硬化手段として紫外線照射器121とを有している。
【0137】
飛翔ユニット120は、立体造形ヘッドユニット130の中央に配置され、下方に転写対象材料20を飛翔させ、造形物支持基板122又はすでに硬化させた転写対象層20に付与する。
紫外線照射器121は、飛翔ユニット120の両側面に配置され、飛翔ユニット120が飛翔させた転写対象材料20に紫外線を照射して、転写対象層20を硬化する。
造形物支持基板122は、立体造形物の製造装置500の下部に配置され、立体造形ヘッドユニット130が立体造形剤22の層を形成する際の基板となる。
ステージ123は、造形物支持基板122の下方に配置され、駆動手段により造形物支持基板122を図9中垂直方向に移動させることができる。また、このステージ123は、図9中矢印Hで示す方向に移動させることができ、立体造形ヘッドユニット130と立体造形物124との間隙を調整することができる。
【0138】
なお、画像形成装置及び立体造形物の製造装置においては、被付与物(記録媒体)を搬送又は移動させる例を示したが、これに限らず、被付与物などを静止させて飛翔ユニットなどを移動させてもよい。あるいは、被付与物などと飛翔ユニットなどの両者を移動させてもよい。
また、被付与物の全面の画像を同時に形成する場合などでは、少なくとも記録時には両者が静止しレーザーのみ動作させてもよい。
【実施例0139】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
(転写対象材料の製造例1)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.1(グリセロール濃度43質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):44質量部
・純水:56質量部
【0141】
(転写対象材料の製造例2)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散媒と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.2(グリセロール濃度0質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・純水:100質量部
【0142】
(転写対象材料の製造例3)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.3(グリセロール濃度32質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):33質量部
・純水:67質量部
【0143】
(転写対象材料の製造例4)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.4(グリセロール濃度52質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):53質量部
・純水:47質量部
【0144】
(転写対象材料の製造例5)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、3質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.5(グリセロール濃度43質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):44質量部
・純水:56質量部
【0145】
(転写対象材料の製造例6)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、5質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.6(グリセロール濃度43質量%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):44質量部
・純水:56質量部
【0146】
(転写対象材料の製造例7)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.7(グリセロール濃度質量87%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):88質量部
・純水:12質量部
【0147】
(転写対象材料の製造例8)
以下の組成の分散媒に、無機粒子として真球状ナノフェライト粉_M001(パウダーテック株式会社製)を、分散液と無機粒子の合計100質量部に対して、1質量部添加し攪拌することにより、転写対象材料No.8(グリセロール濃度質量98%)を調製した。
[分散媒の組成]
・植物性グリセリン98%以上(株式会社自然化粧品研究所製):99質量部
・純水:1質量部
【0148】
次に、作製した各転写対象材料について、以下のようにして、メディアン径(D50)及び25℃で剪断応力が200Paにおける複素粘度を測定した。結果を表1に示した。
【0149】
<メディアン径(D50)の測定>
メディアン径(D50)は、走査型電子顕微鏡(SU8200シリーズ、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定を行う。得られた画像を画像処理ソフトA像君(旭化成エンジニアリング株式会社製)で二値化し、メディアン径(D50)を算出した。
【0150】
<25℃で剪断応力が200Paにおける複素粘度の測定>
複素粘度は、動的粘弾性測定装置を用い、加える応力を変化させ、その時に生じたひずみ量を測定する応力制御法により、以下の条件に基づき測定を行った。図11に、転写対象材料No.1~8におけるグリセロール濃度(質量%)と複素粘度(mPa・s)の関係を示した。
-測定条件-
・装置名:レオメータ、HAAKE RheoStress 600、Thermo Fisher Scientific社製
・温度:25℃
・剪断応力:200Pa
【0151】
【表1】
【0152】
表1中の各成分の詳細については、以下のとおりである。
*M001:真球状ナノフェライト粉_M001、鉄フェライト、マンガンフェライト、パウダーテック株式会社製
*グリセロール:植物性グリセリン98%以上、株式会社自然化粧品研究所製
【0153】
表1及び図11の結果から、グリセロール濃度が増加するにしたがって、転写対象材料の複素粘度が大きくなり、25℃で剪断応力が200Paにおける転写対象材料の複素粘度は1mPa・s~752mPa・sの範囲で変化することがわかった。
【0154】
(ドナー基板の製造例1~8)
次に、得られた各転写対象材料をスライドガラス(松浪硝子工業株式会社製、マイクロスライドガラスS7213;532nm波長光の透過率が99%)の片面上にバーコーターで塗布し、平均厚みが26μm(バラつき範囲は20~29μm)の転写対象層を有するドナー基板1~8を作製した。
【0155】
(実施例1~7及び比較例1~3)
次に、表2に示す転写対象材料とレーザー照射の組み合わせにより、転写方法を実施した。本実施例では、10nsのパルス幅、及び50Hzのパルス周波数をもつレーザービームを使用した。また、前記被付与物と前記転写対象材料との距離を1.2mm以上1.5mm以下として実験を行った。
本実施例の一部では、図10A及び図10Bに示した実験装置を用い測定を行った。ここでは、集光レンズを通し、集光レンズから焦点距離の間に、Canоn社製ガルバノスキャナーGM-1015を設置し光を走査、転写対象層に焦点が一致するよう設定している。
図10A及び図10Bは、実施例及び比較例で用いた光渦レーザービームを有するレーザー照射装置の一例を示す概略図である。
図10A及び図10Bに示す実験装置は、パルスレーザー131(波長:532nm、50Hz、10ns)と、Spatial light modulator132と、ミラー133と、Quarter-wave plate134と、集光レンズ135と、ガルバノスキャナー136と、ガラス137と、受容体138とを有する。
図10Aは、レーザー光源として、波長532nm、ナノ秒パルス(10ns程度)のパルスレーザーを使用し、空間光変調器(SLM)、λ/4板(QWP)で軌道角運動量及びスピン角運動量を制御することにより光渦レーザービームを生成し、集光レンズ(Lens)で光渦レーザービームを集光して、集光レンズから焦点距離の間に、Canоn社製ガルバノスキャナーGM-1015を設置し転写対象層に焦点が一致するよう設定し、ドナー基板の基板側から転写対象層に光渦レーザービームを照射した。
図10Bは、レーザー光源として、波長532nm、ナノ秒パルス(10ns程度)のパルスレーザーを使用し、空間光変調器(SLM)で光渦レーザービームに変換した後、ミラーで上空に跳ね上げ、λ/4板(QWP)を通しスピン角運動量を制御することにより光渦レーザービームを生成し、集光レンズ(Lens)で光渦レーザービームを集光して転写対象層に焦点が一致するよう設定し、ドナー基板の基板側から転写対象層に光渦レーザービームを照射した。
両者の違いは、ガルバノスキャナー装置による光走査を行うかどうかだけであり、光の特殊性などへの影響はない。そのため、目的に応じ適宜選択することができる。
また、本検討ではガルバノスキャナーの手前に集光レンズを置いた。また、本検討では焦点距離125mm~300mmのレンズを使用した。
【0156】
図12に光渦レーザービームを照射したときのNo.1の転写対象材料(グリセロール濃度43質量%、複素粘度6mPa・s)の挙動を示す。
光渦レーザービームは図12の下面より上方向に向けて照射される。
図12の結果から、レーザー照射後3.0μsec以降では、転写対象材料中の無機粒子が中央に集まり、自転しながら高い指向性で液柱が成長していく、いわゆる「スピンジェット」と呼ばれる現象が観察できる。この「スピンジェット」は、光渦レーザービームの有する円環状の強度プロファイルと、軌道角運動量の転写により発生すると考えられる。
【0157】
図13Aは、転写対象材料から1.5mm離れた場所に設置した被付与物(松浪硝子工業株式会社製のS1214、水縁磨、t1.3)に転写された転写対象材料(以下ドットと呼ぶ)を、300℃で加熱処理を行い転写対象材料中の分散媒を除去した状態の一例を示す写真である。
図13Bは、図13Aを、共焦点レーザー顕微鏡を用い測定して得られた3D像の一例を示す概略図である。
【0158】
本実施例では、円偏光光渦レーザービームを用い実験を行っており、全角運動量Jは任意に変更することができ、Jの値によるコアの形成位置精度への影響は確認されなかった。
一方、全角運動量が変化することでコアの形状、転写されたドットの形状に違いが見られた。
図14A及び図14Bは、全角運動量J=2(L=1、S=1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットである。図14Aは、前記ドットの上部写真であり、図14Bは、前記ドットの側面の断面写真である。前記図14Aにおける矢印は、ドット中央(コア)の蜷局の回転方向を示す。
図15A及び図15Bは、全角運動量J=-2(L=-1、S=-1)の光渦レーザービームを照射することで得られたドットである。図15Aは、前記ドットの上部写真であり、図15Bは、前記ドットの側面の断面写真である。前記図15Aにおける矢印は、ドット中央(コア)の蜷局の回転方向を示す。
両者はドット中央に位置するコアが蜷局を巻き、その回転方向が逆方向となっており、これは光渦レーザービームによる影響であると想定される。
本実施例の実験条件とは異なるが、図16はスピン角運動量Sにより、全角運動量Jを変化させた際のドット直径(△)及びコア直径(○)の関係を示す。全ての条件でコアが形成されていることが確認できるが、Jが小さくなるにつれドット外周に乱れが生じる傾向にあり、光渦レーザービームの運動量による影響である。
【0159】
図17Aは、Nо.1の転写対象材料を用いて、転写対象材料から1.5mm離れた場所に設置した被付与物に転写されたドットを、300℃で加熱処理を行い転写対象材料中の分散媒を除去した後、走査型顕微鏡(SEM)を用いた観察像の一例である。図17Aのドット中央にコアが確認できる。
図17Bは、図17Aを、集束イオンビーム装置(FIB)を用い、コアを薄片化した加工物のSEM観察像の一例である。
図18Aは、図17Aを、透過型電子顕微鏡を用い観察した明視野像の一例である。
図18Bは、図18Aにおけるaの位置から得られた電子回折パターンの一例である。
図18Cは、図18Bにおける白丸で囲まれた電子線回折スポットから得られた暗視野像の一例であり、同一の晶帯軸を持つ結晶領域を示す。
図18Dは、図18Aにおけるbの位置から得られた電子回折パターンの一例である。
図18Eは、図18Dにおける白丸で囲まれた電子線回折スポットから得られた暗視野像の一例であり、同一の晶帯軸を持つ結晶領域を示す。
図18Fは、図18C図18Eで示された領域と、図18Aの対応関係を示しており、コアが2つの単結晶から形成されており、最も領域を有する結晶は全体の90%以上が同じ晶帯軸を持つ結晶であった。
【0160】
得られたコアの結晶構造解析を行った。解析には、北海道大学 瀬戸先生が公開している、単結晶電子線回折図形の指数付けやシミュレーションを行うオープンソースソフトウェア(ReciPro)を用いた。
図19Aは、図18Cの領域から得られた電子線回折パターンである。
図19Bは、ReciProからシミュレーションされた、ミラー指数(122)におけるスピネル型結晶(鉄フェライト)の電子線回折パターンである。
図19Cは、図18Eの領域から得られた電子線回折パターンである。
図19DはReciProからシミュレーションされた、ミラー指数(100)におけるスピネル型結晶(鉄フェライト)の電子線回折パターンである。
図19Eは、図19A~D中に表記されたa~eの回折スポット間の比率、角度を比較した結果であり、非常に高い精度で一致している。このことから、コアは、異なる晶帯軸を有する2つのスピネル型結晶(図19F)で構成されていることがわかる。
【0161】
図20Aは、図17Aを、透過型電子顕微鏡を用いて観察した明視野像の一例を示す写真である。
図20A中の白丸aは、図18C及び図18Eで示された、異なる晶帯軸の領域の境界に位置し、ミラー指数(100)における電子回折パターンである図20Bを取得した領域を示す。
図20B中に挿入した軸a、bを軸とすると、正方格子で並ぶはずの回折スポットが約±4°程度傾いており、結晶がb軸方向に対し歪んだ状態で成長していることがわかる。一方、a軸方向は等間隔で並んでいる。これはコアを形成する2つの結晶が非常に細かいスケールでフラットな基準が存在するために生じたと思われ、この役割を被付与物が果たしている可能性があると想定する。これらの点からも、被付与物の表面性は、平滑であることが好ましい。
【0162】
図21Aは、転写対象材料Nо.1を用いて形成したドットを走査型電子顕微鏡で観察した像である。
図21Bは、元素分析測定により得られた鉄(Fe)の分布を図21Aにマッピングした結果の一例である。図21Cは、元素分析測定により得られたマンガン(Mn)の分布を図21Aにマッピングした結果の一例である。鉄が全体に対し検出されているのに対し、マンガンは外枠で検出される傾向にあり、結晶性の違いなどによる影響が想定される。
【0163】
図22Aは、図10Aの実験系を用いたパターニングの一例を示す図である。
まず、図10Aの実験系を用いて、ガルバノスキャナー136を図10AにおけるX軸方向に走査し、転写対象材料から0.6mm離れた場所に設置した被付与物(受容体138)にドット間隔が100μmとなるように連続で転写させた。
図22Aは、上記転写を2列分繰り返し、得られたドットを300℃で加熱処理して転写対象材料中の分散媒を除去した状態の一例を示す図である。
【0164】
図22Bは、図22Aにおけるビーム照射領域(Beam irradiation position)を破線円で示した写真である。この結果から、ドットの重心位置と、ビームの照射領域の重心位置が判断でき、ビームの照射位置からのドットのズレ(以下ポジションエラーと呼ぶ)を見積もることができる。
【0165】
図22Cは、転写対象材料と被付与物の距離を0.6mm~1.4mmまで変化させた際の光渦(Optical vortex)のポジションエラー及びドット直径(Dot size)の関係と、比較対象として、転写対象材料と被付与物の距離を1.2mmとした際の一般的なレーザービームのポジションエラー及びドット直径の関係との一例を示す図である。
図22Cによると光渦を用いた際にポジションエラーは、一般的なレーザービームを用いた際の半分程度となっている。さらに、光渦では転写対象材料と被付与物の距離を0.6mm以下とすることでポジションエラーは数μmまで抑制でき、非常に高精度での転写を可能とする。
また光渦を用いた際の射出角度は、転写対象材料と被付与物の距離に依存せず、約0.8deg程度であることが確認された。
【0166】
以下において、コアの形成されるNо.1の転写対象材料と、コアの形成されないNо.7及びNо.8の転写対象材料を用いた比較を示す。
図23Aは、Nо.1の転写対象材料を用い転写対象材料の膜厚を20μm、ビームスポット径を49μmとした際の各フルエンスと飛翔速度(視野内のジェットヘッド又は、先頭液滴の飛翔速度)の関係を示す。
図23B~Eは確認された4つの飛翔モード(B:単一液滴飛翔、C:複数液滴飛翔、D:膨らみを伴うジェットによる飛翔、E:飛散)に分類でき、フルエンスは0.16[J/cm]、0.21[J/cm]、0.42[J/cm]、0.72[J/cm]での結果となる。この時、再現性よくコアが形成されるのは単一液滴飛翔、複数液滴飛翔のであり、フルエンスは0.16[J/cm]以上0.27[J/cm]以下のときであり、転写されたドットの周囲にチリの発生しない条件は単一液滴飛翔であり、フルエンスは0.16[J/cm]以上0.18[J/cm]以下がより好ましい。
また、膜厚20μmに対し単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅は約0.02~0.03[J/cm]程度だが、膜厚が厚くなるにつれ、単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅はほぼ変化せず、その閾値となるフルエンスが大きくなる方向にずれる。膜厚を28μmとした場合、単一液滴飛翔のフルエンスの閾値は0.27[J/cm]以上0.28[J/cm]以下であり、成立するフルエンスの幅は大きく変化せず、閾値のみがシフトしたことがわかる。この変化は膜厚に対し連続的に変化していると予測され、他の飛翔モードに関しても同様の傾向がある。
【0167】
図24Aは、Nо.7の転写対象材料を用い転写対象材料の膜厚を20μm、ビームスポット径を49μmとした際の各フルエンスと飛翔速度(視野内のジェットヘッド又は、先頭液滴の飛翔速度)の関係を示す。
図24B~Eは確認された4つの飛翔モード(B:単一液滴飛翔、C:複数液滴飛翔、D:膨らみを伴うジェットによる飛翔、E:飛散)に分類でき、フルエンスは0.36[J/cm]、0.51[J/cm]、1.52[J/cm]、4.08[J/cm]での結果となる。この時、再現性よくコアが形成されるのは単一液滴飛翔、複数液滴飛翔のであり、フルエンスは0.36[J/cm]以上0.72[J/cm]以下のときであり、転写されたドットの周囲にチリの発生しない条件は単一液滴飛翔であり、フルエンスは0.36[J/cm]以上0.42[J/cm]以下がより好ましい。
また、膜厚20μmに対し単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅は約0.05~0.06[J/cm]程度だが、膜厚が熱くなるにつれ、単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅はほぼ変化せず、その閾値となるフルエンスが大きくなる方向にずれる。
膜厚を29μmとした場合、単一液滴飛翔のフルエンスの閾値は、0.57[J/cm]以上0.65[J/cm]以下であり、成立するフルエンスの幅は大きく変化せず、閾値のみがシフトしたことがわかる。この変化は膜厚に対し連続的に変化していると予測され、他の飛翔モードに関しても同様の傾向がある。
【0168】
図25Aは、Nо.8の転写対象材料を用い転写対象材料の膜厚を20μm、ビームスポット径を49μmとした際の各フルエンスと飛翔速度(視野内のジェットヘッド又は、先頭液滴の飛翔速度)の関係を示す。図25B~Eは確認された4つの飛翔モード(B:単一液滴飛翔、C:複数液滴飛翔、D:膨らみを伴うジェットによる飛翔、E:飛散)に分類でき、フルエンスは0.53[J/cm]、0.65[J/cm]、0.99[J/cm]、4.08[J/cm]での結果となる。この時、再現性よくコアが形成されるのは単一液滴飛翔、複数液滴飛翔のであり、フルエンスは0.53[J/cm]以上0.72[J/cm]以下のときであり、転写されたドットの周囲にチリの発生しない条件は単一液滴飛翔であり、フルエンスは0.53[J/cm]以上0.58[J/cm]以下がより好ましい。
また、膜厚20μmに対し単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅は約0.05~0.06[J/cm]程度だが、膜厚が厚くなるにつれ、単一液滴飛翔の成立するフルエンスの幅はほぼ変化せず、その閾値となるフルエンスが大きくなる方向にずれる。膜厚を29μmとした場合、単一液滴飛翔のフルエンスの閾値はフルエンスは0.87[J/cm]以上0.93[J/cm]以下であり、成立するフルエンスの幅は大きく変化せず、閾値のみがシフトしたことがわかる。この変化は膜厚に対し連続的に変化していると予測され、他の飛翔モードに関しても同様の傾向がある。
【0169】
図26は、図23B図24B、及び図25Bにより転写対象材料から1.5mm離れた場所に設置した被付与物に転写されたドットを、300℃で加熱処理を行い転写対象材料中の分散媒を除去したドットと転写対象材料の複素粘度の関係の一例を示す。
【0170】
図23Bおいて形成されたドットは直径約14μm、中央に無機粒子が集まり、直径4μm程度のコアを形成されており、ビームスポットよりもはるかに小さいドットが形成された。
【0171】
図24Bのドナーにおいて形成されたドットは直径約25μm、中央に無機粒子が緩く凝集したドメインを持つドットが形成された。
【0172】
図25Bのドナーにおいては、直径約20[μm]、半径10μmの円状の領域に、一様に無機粒子が分布しているドットが得られた。これらは、転写対象材料の複素粘度が低いほど、無機粒子がドットの中央付近に集中していることが見て取れる。
【0173】
ここで図26に示された3つのドットにおける、無機粒子の空間分布を定量的に評価した。
【0174】
図27Aは、解析方法のイメージ図を示しており、ドットの重心からドットの外周までをRD[μm]、ドットの中心から各磁気粒子(塗りつぶされたドメイン)の重心までをRGn[μm]とし、(RGn/RD)*100[%]を定義した。
この定義した領域5[%]間隔の円環状の領域に分割(図27A中の円環の領域)し、この領域に重心を持つ磁気粒子ドメインの総和を計算し、各領域における磁気粒子ドメインの面積比率を算出しヒストグラムを作成した。
【0175】
図27BはNо.1の転写対象材料を用いて得られたドットの空間分布を示し、図27CはNо.7の転写材料を用いて得られたドットの空間分布を示し、図27DはNо.8の転写材料を用いて得られたドットの空間分布を示す。
この結果から、転写対象材料の複素粘度が低くなるに伴い、無機粒子ドメインの比率がピークとなる位置がドット中央部にシフトしていることがわかる。
具体的な比較のため、無機粒子ドメインの累積が、全体の60%となる(RGn/RD)*100[%]を算出したところ、Nо.1の転写材料は~8[%]、Nо.7の転写材料は~40[%]、Nо.8の転写材料は~53[%]であった。
Nо.8の転写材料において無機粒子ドメインの累積面積の60[%]がドット半径の中央に位置し、比較的均一に無機粒子が分布している一方で、Nо.1の転写材料においては無機粒子の半数以上が中央付近に集まり、局在化していることに注意されたい。この結果から、転写対象材料の複素粘度が低いほど、無機粒子がドットの中央付近に集中していることが明らかとなる。このことは、無機粒子には光渦レーザービームの前方散乱力による面内輻射力と、全角運動量による動径方向の輻射力によりらせん状の中心力が働き、無機粒子の動きを促すが、転写対象材料の複素粘度が大きくなることによって無機粒子の動きが妨げられるためであると考えられる。
【0176】
以下に示すようにして、転写対象材料の液滴中における無機粒子の空間分布の解析を行うことができる。
図27Aにおけるドットの面積領域SAll[μm]は、画像解析ソフトImageJの多角形選択ツールを用い、液滴の淵を選択することでドットの面積領域[μm]とドットの重心位置[XDG、YDG]を決定した。
図27Aにおける各無機粒子の面積領域は、ImageJの2値化画像作成機能、又は旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト「A像くん」の2値化処理機能を用いている。
得られた各無機粒子の面積領域[μm]、重心位置を[XGn、YGn]とした。
使用した画像解析ソフトは、無料画像解析ソフトImageJと、旭化成エンジニアリング社製画像解析ソフト「A像くん」である。
【0177】
は、液滴全体の重心位置[XDG、YDG]と、各無機粒子の重心位置[XGn、YGn]の距離を三平方の定理より求めた値であり、下記数式(A)で表される。
【数3】
【0178】
ドットの半径RD[μm]は、ドットの面積領域SAll[μm]に対する、円相当径(半径)を示し、下記数式(B)で表される。
【数4】
【0179】
無機粒子ドメインの重心位置[XGn、YGn]からの離れ度合いを(RGn/RD)*100で定義、磁気粒子が分布する最も遠方の位置は、ドットの外周に該当し(RGn/RD)*100=100[%]で示される。
ここではドット内の磁気粒子の空間分布を比較するため、r≦(RGn/RD)*100 < r+5 [%]で表される円環状の領域(図27A中の円環の領域)を設定し、r=5n(n=0~19)の刻みで円環状の領域を定義した。円環状の領域に重心位置を持つ磁気粒子ドメインの面積を加算し、円環状領域の面積で規格化することで、各円環状の領域に対する面積比率を算出した。
【0180】
上記数式(A)及び(B)は、図13B図15Bのヒストグラムを作成するために使用した式である。以下では、累積の算出方法、及びヒストグラムの算出方法についてそれぞれ説明する。
【0181】
―累積の算出―
ドット重心[XDG、YDG]から、円相当径RDまでの長さを100%とし、(RGn/RD)*100を定義した。
無機粒子の面積領域[μm]の総和を100%とし、(RGn/RD)*100の値が小さいものから順に足していき、累積が60%となる粒子に該当する(RGn/RD)*100の値を評価した。
【0182】
―ヒストグラムの算出―
r≦(RGn/RD)*100 < r+5 [%]で表される円環状の領域に重心位置を持つ磁気粒子ドメインの面積の総和を、各円環状の領域ごと算出し、円環状領域の面積で規格化することで、各円環状の領域に対する面積比率を算出することで、図27B図27Dのヒストグラムが得られる。
【0183】
したがって、光渦レーザーを用いたLIFT(OV-LIFT)法では転写対象材料の複素粘度を制御することにより、転写対象材料の液滴における無機粒子の空間分布を制御することが可能であることがわかる。
【0184】
図28Aは、Nо.1の転写材料を用い転写対象材料の膜厚を26μmとし、ビームスポット径を34μm、49μm、74μm、97μmとした際のドット直径と、コアの直径の関係を示す。このとき集光レンズはf=125~300mmで変化させ、狙いのビームスポットサイズを得ている。ここで、ビーム径はエネルギー密度分布の特異点を対象中心としたピーク位置の間隔としており、光渦における動径方向の強度分布が下記数式(C)、(D)、強度のピーク位置が下記数式(E)で表されることから計算した。
【数5】
【数6】
【数7】
ここでωはビームウエスト、lは軌道角運動量である。
ドット中心にある磁気コアの半値幅が、ドット径の半分以下に集まることが確認された。
また磁気コア径はビームスポットサイズに線形に依存する。ビームウエストを34μmに設定した場合、ドットサイズは10μm、中心部のコアの半値幅は2μmとなり、非常に高解像度のドットが得られている。
【0185】
図28Bは、ビームスポット径を34μm、49μm、74μm及び97μmとした際に得られたドットの体積及び磁気コアの高さの関係の一例を示す図である。図28Bに示すようにドットの体積はビームスポット径の2乗(照射面積)に比例することがわかる。一方、磁性コアの高さはビームスポット径によって変化するが、その変動は1μm以下と非常に小さい。これらの結果から、得られるドットと磁性コアはビームスポット径によって変化することが確認できる。
【0186】
図29Aは、レーザーを照射した後の3.0μs後までの気泡成長(キャビテーション)の時間変化の一例を示す図である。このキャビテーションの過程における内部圧力の変化をレイリー・プレセット方程式(下記数式(G))より算出したものを図29Bに示す。
【数8】
ここでは
気泡内部の圧力、
は気泡外部の∞遠方での圧力、
は気泡外部の液体の密度、
は気泡の半径、
は気泡外部の液体の動粘度、
は気泡外部の液体と気泡内部の期待との間の表面張力を示す。
図29Bより、レーザーが照射された約2.0μs後、外側に向かっていた力が負となり、中央に向かう圧力に変化していることが予測される。
【0187】
<コアのドット重心位置からのズレ>
顕微鏡を用い被付与物上の液滴を観察し、以下に示す方法で算出した。図30Aは解析方法の簡略図を示す。
顕微鏡観察により得られたドット画像に対し、画像解析ソフトImageJの多角形選択ツールを用い、ドットの淵を選択することでドットの面積領域[μm]とドットの重心位置[Xドット、Yドット]を決定した。ドットの半径は、数式(B)を用い算出した。
続いて、顕微鏡観察により得られたドット画像に対し、画像解析ソフトImageJの多角形選択ツールを用い、コアの淵を選択することでコアの重心位置[Xコア、Yコア]を決定した。
【0188】
コアのドット重心位置からのズレは、以下の数式(F)を用いて算出した。
【数9】
数式(F)により算出された、コアのドット重心からのズレを以下の基準で評価した。本検討で実施した全ての実験結果を表2に示した。
[評価基準]
◎:15%以下
〇:15%超50%以下
△:50%超65%以下
×:65%超(又はコアが形成されない)
【0189】
図30Bは、Nо.1の転写材料で統一して実験を行った結果であり、実施例1、実施例5、実施例6、実施例7、比較例1、比較例2及び比較例3の比較である。
【0190】
【表2】
【0191】
表2の結果から、光渦レーザービームを用いた本発明の結晶形成方法は、所定の波長の光渦レーザービームを吸収する光吸収材を強く収束させ形成されたコアを、ドットの中心に配置することができ、これにより、コアの配列の際により高精度でコアを並べることが可能となることが明らかとなった。
【0192】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> 基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を飛翔体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成工程を含み、
25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、
前記被付与物の十点平均粗さRzが4.9μm以下であることを特徴とする結晶形成方法である。
<2> 前記被付与物の十点平均粗さRzが0.007μm以上1.5μm以下である、前記<1>に記載の結晶形成方法である。
<3> 前記光吸収材が無機材料を含む、前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶作成方法である。
<4> 前記無機材料のメディアン径(D50)が50nm以上500nm以下である、前記<3>に記載の結晶形成方法である。
<5> 前記光吸収材が、異なる2種以上の無機材料を含み、
前記異なる2種以上の無機材料が、同一の結晶構造を持つ物質からなる、前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶形成方法である。
<6> 前記分散媒がグリセロール水溶液である、前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶形成方法である。
<7> 形成された前記結晶の80%以上が単結晶である、前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶形成方法である。
<8> 基板と、前記基板上に光吸収材及び分散媒を含む転写対象材料とを配したドナー基板に対して、前記ドナー基板の前記基板側から前記転写対象材料に光渦レーザービームを照射して前記転写対象材料を転写体として飛翔させて被付与物に付与し、結晶を形成する結晶形成手段と、
25℃で剪断応力が200Paにおける前記転写対象材料の複素粘度が1mPa・s以上8.6mPa・s以下であり、
前記被付与物の十点平均粗さRzが4.9μm以下であることを特徴とする結晶形成装置。
<9> 前記被付与物の十点平均粗さRzが0.007μm以上1.5μm以下である、前記<8>に記載の結晶形成装置。
<10> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶形成方法によって、画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
<11> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶形成方法によって、立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。
【0193】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶形成方法、前記<8>から<9>のいずれかに記載の結晶形成装置、前記<10>に記載の画像形成方法、前記<11>に記載の立体造形物の製造方法によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0194】
1 飛翔手段
11 レーザービーム
12 光渦レーザービーム
20 転写対象材料(転写対象層)
30 被付与物
31 記録媒体
32 基板
40 ドナー基板
300、301、301a 飛翔体転写装置
302~307 画像形成装置
400、401 画像形成装置
500 立体造形物の製造装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0195】
【特許文献1】特許第6455588号公報
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図18F
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
図19F
図20A
図20B
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図22C
図23A
図23B
図23C
図23D
図23E
図24A
図24B
図24C
図24D
図24E
図25A
図25B
図25C
図25D
図25E
図26
図27A
図27B
図27C
図27D
図28A
図28B
図29A
図29B
図30A
図30B