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  • 特開-亜鉛の分離回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147488
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】亜鉛の分離回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 19/20 20060101AFI20241008BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20241008BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241008BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20241008BHJP
   C22B 3/04 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C22B19/20 101
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B7/02
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024007484
(22)【出願日】2024-01-22
(31)【優先権主張番号】P 2023060458
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 令
(72)【発明者】
【氏名】山口 東洋司
(72)【発明者】
【氏名】篠田 万里子
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001BA14
4K001DB02
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB16
4K001DB23
(57)【要約】
【課題】亜鉛含有ダスト中の亜鉛を少ない薬剤量、かつ選択性よく分離する方法を提供する。
【解決手段】亜鉛ダストおよび鉄ダストを含有する亜鉛含有ダストから亜鉛を分離回収する方法であって、亜鉛含有ダストスラリーに酸化剤を添加して酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整工程と、酸化還元電位調整工程において酸化還元電位が調整された調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを調整して亜鉛を浸出させ、亜鉛浸出液および亜鉛浸出残渣を得る亜鉛浸出工程と、亜鉛浸出液と亜鉛浸出残渣とを分離する第一固液分離工程と、分離された亜鉛浸出液のpHを調整して亜鉛を亜鉛沈殿物として沈殿させる亜鉛沈殿工程と、沈殿した亜鉛沈殿物を回収する第二固液分離工程とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛ダストおよび鉄ダストを含有する亜鉛含有ダストから亜鉛を分離回収する方法であって、
前記亜鉛含有ダストを含有する亜鉛含有ダストスラリーに酸化剤を添加して酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整工程と、
前記酸化還元電位調整工程において酸化還元電位が調整された調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを調整して亜鉛を浸出させ、亜鉛浸出液および亜鉛浸出残渣を得る亜鉛浸出工程と、
前記亜鉛浸出液と前記亜鉛浸出残渣とに固液分離する第一固液分離工程と、
分離された前記亜鉛浸出液のpHを調整して亜鉛を亜鉛沈殿物として沈殿させる亜鉛沈殿工程と、
pHが調整された前記亜鉛浸出液を前記亜鉛沈殿物とろ液とに固液分離して、分離された前記亜鉛沈殿物を回収する第二固液分離工程と、
を有する亜鉛の分離回収方法。
【請求項2】
前記酸化還元電位調整工程において、前記亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を、前記鉄ダストの表面にヘマタイトを形成させる酸化還元電位に調整する、請求項1に記載の亜鉛の分離回収方法。
【請求項3】
前記酸化還元電位調整工程において、前記亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を280mV以上に調整する、請求項2に記載の亜鉛の分離回収方法。
【請求項4】
前記亜鉛浸出工程において、前記調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを3以上5以下に調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【請求項5】
前記亜鉛沈殿工程において、前記亜鉛浸出液のpHを8以上11以下に調整する、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【請求項6】
前記亜鉛含有ダストが製鉄工程で発生する製鉄ダストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【請求項7】
前記亜鉛含有ダストが製鋼工程で発生する製鋼ダストである、請求項1~3のいずれか一項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛の分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉、溶銑予備処理炉、電気炉等の製鋼炉から発生する亜鉛含有ダストは、鉄ダストを多く含むため、製鉄工程への有望なリサイクル源である。ただし、亜鉛含有ダストを全量リサイクルすると、亜鉛が製鉄所内を循環し続けるため原料由来の亜鉛分だけ蓄積し、蓄積量が過大になると高炉で操業トラブルの原因となる。そのため、亜鉛含有ダストのリサイクル時には、事前に亜鉛を分離する必要がある。
【0003】
亜鉛含有ダストからの亜鉛分離技術として、特許文献1には、亜鉛を含有する製鋼ダストを反応容器において空気を吹き込んで撹拌しながら水と接触混合し、水の水素イオン濃度をpH3から6に調整して該ダスト中の亜鉛分を溶液側に浸出させた後、亜鉛を溶解した水と鉄分含有ダストとを分離し、引き続き前記亜鉛を溶解した水の水素イオン濃度をpH7から9に調整することによって亜鉛分を沈殿分離する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-309831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、亜鉛含有ダスト中の鉄形態の大部分が酸に易溶な金属鉄やウスタイトの状態であり、水の水素イオン濃度を酸性側に低減する。そのため、ダストの主成分である鉄が2~4%程度溶液に浸出しており、鉄の浸出によって水の水素イオンが消費されるため、水の水素イオン濃度を制御する際に添加する酸の量が大幅に増加する。また、亜鉛を沈殿分離する際に溶液に浸出していた鉄も一緒に沈殿するため、回収する亜鉛の純度が大幅に低減するデメリットがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて開発されたもので、亜鉛含有ダスト中の亜鉛を少ない薬剤量で、かつ選択性よく分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、薬剤量を低減しつつ、選択性良く亜鉛を分離する方法について検討を重ねた。その結果、事前に亜鉛含有ダストを含有する亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を増加させてダスト表面の鉄を酸化して酸に不溶なマグネタイトやヘマタイトにすることによって、鉄の溶解に消費される酸の量を抑制しつつ、亜鉛分離能を向上可能な技術に思い至った。その要旨は次のとおりである。
【0008】
[1]亜鉛ダストおよび鉄ダストを含有する亜鉛含有ダストから亜鉛を分離回収する方法であって、
前記亜鉛含有ダストを含有する亜鉛含有ダストスラリーに酸化剤を添加して酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整工程と、
前記酸化還元電位調整工程において酸化還元電位が調整された調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを調整して亜鉛を浸出させ、亜鉛浸出液および亜鉛浸出残渣を得る亜鉛浸出工程と、
前記亜鉛浸出液と前記亜鉛浸出残渣とに固液分離する第一固液分離工程と、
分離された前記亜鉛浸出液のpHを調整して亜鉛を亜鉛沈殿物として沈殿させる亜鉛沈殿工程と、
pHが調整された前記亜鉛浸出液を前記亜鉛沈殿物とろ液とに固液分離して、分離された前記亜鉛沈殿物を回収する第二固液分離工程と、
を有する亜鉛の分離回収方法。
【0009】
[2]前記酸化還元電位調整工程において、前記亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を、前記鉄ダストの表面にヘマタイトを形成させる酸化還元電位に調整する、前記[1]に記載の亜鉛の分離回収方法。
【0010】
[3]前記酸化還元電位調整工程において、前記亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を280mV以上に調整する、前記[2]に記載の亜鉛の分離回収方法。
【0011】
[4]前記亜鉛浸出工程において、前記調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを3以上5以下に調整する、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【0012】
[5]前記亜鉛沈殿工程において、前記亜鉛浸出液のpHを8以上11以下に調整する、前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【0013】
[6]前記亜鉛含有ダストが製鉄工程で発生する製鉄ダストである、前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【0014】
[7]前記亜鉛含有ダストが製鋼工程で発生する製鋼ダストである、前記[1]~[6]のいずれか1項に記載の亜鉛の分離回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、亜鉛含有ダスト中の亜鉛を少ない薬剤量で、かつ選択性よく分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による亜鉛の分離回収方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による亜鉛の分離方法は、亜鉛ダストおよび鉄ダストを含有する亜鉛含有ダストから亜鉛を分離回収する方法であって、亜鉛含有ダストを含有する亜鉛含有ダストスラリーに酸化剤を添加して酸化還元電位を調整する酸化還元電位調整工程と、酸化還元電位調整工程において酸化還元電位が調整された調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを調整して亜鉛を浸出させ、亜鉛浸出液および亜鉛浸出残渣を得る亜鉛浸出工程と、亜鉛浸出液と亜鉛浸出残渣とに固液分離する第一固液分離工程と、分離された亜鉛浸出液のpHを調整して亜鉛を亜鉛沈殿物として沈殿させる亜鉛沈殿工程と、pHが調整された亜鉛浸出液を亜鉛沈殿物とろ液とに固液分離して、分離された亜鉛沈殿物を回収する第二固液分離工程とを有する。
【0018】
<酸化還元電位調整工程>
図1は、本発明による亜鉛の分離回収方法のフローチャートを示している。まず、ステップS1にて、亜鉛含有ダストを含有する亜鉛含有ダストスラリーに酸化剤を添加して酸化還元電位を調整する(酸化還元電位調整工程)。
【0019】
処理対象である亜鉛含有ダストは、亜鉛ダストおよび鉄ダストを含む。亜鉛含有ダストとしては、高炉ダスト、回転炉床式還元炉(RHF)ダストなどの製鉄ダストや、転炉ダスト、電炉ダストなどの製鋼ダストを挙げることができる。亜鉛含有ダストとして、上記のうちの1つまたは複数を組み合わせて用いることができる。
【0020】
本工程では、酸化剤の添加により、亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を調整する。より具体的には、亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位を増加させる。そのために添加する酸化剤としては、過酸化水素、次亜塩素酸、オゾン、空気等、いずれも適用可能であるが、扱いやすさや排水処理の観点からは過酸化水素や空気が好ましい。
【0021】
亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位は、前記鉄ダストの表面にヘマタイトを形成させる酸化還元電位に調整することが好ましい。具体的には、亜鉛含有ダストスラリーの酸化還元電位は、pHが8以上11以下程度の場合、マグネタイトまたはヘマタイトの形態が優勢となる-300mV以上とすることが好ましい。これにより、亜鉛含有ダストスラリーへの鉄の浸出を抑制しやすくなる。亜鉛含有ダストスラリースラリーの酸化還元電位は、280mV以上に増加させることがより好ましい。これにより、ダスト表面に安定的にマグネタイトまたはヘマタイトを形成することができる。
【0022】
水の酸化還元電位を増加させずに後段の亜鉛浸出工程において酸を添加すると、ダスト表面に残る金属鉄やウスタイト等の酸に易溶な鉄化合物由来の鉄も亜鉛とともに浸出してしまう。更に、亜鉛含有ダストは、その大部分が100μm以下の微粒子で構成されている特徴があり、金属鉄やウスタイト等の酸に易溶な鉄化合物の比表面積も大きい。このため、亜鉛含有ダストに酸を添加すると、鉄の浸出により新たに露出する酸に易溶な鉄化合物形態の表面積も大きく、連鎖的に鉄の浸出および酸に容易な鉄化合物の表面生成が続くことになる。そのため、少しでも先に酸を添加すると、後から酸化還元電位を増加させても、(1)ダスト表面の難溶性な鉄化合物形態への制御と、(2)酸に容易な鉄化合物の表面生成とが競合する形となり、ダスト表面全てをマグネタイトまたはヘマタイトにして鉄の浸出を抑制することが困難となる。これにより、鉄の浸出とダスト表面の鉄化合物形態の制御に薬剤が余分に消費されるだけでなく、後段の亜鉛沈殿工程での初期ダストに対する亜鉛濃縮残渣の亜鉛濃縮度合いも著しく低くなり、鉄の混入により亜鉛原料としての価値が下がり、非経済的である。
【0023】
<亜鉛浸出工程>
次いで、ステップS2にて、酸化還元電位調整工程において酸化還元電位が調整された調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを調整して亜鉛を浸出させ、亜鉛浸出液および亜鉛浸出残渣を得る(亜鉛浸出工程)。
【0024】
調整亜鉛含有ダストスラリーのpHの調整は、調整亜鉛含有ダストスラリーに酸を添加することによって行うことができる。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酪酸等の有機酸いずれも使用することができる。中でも、コストや排水処理の観点から、上記酸として硫酸を用いることが好ましい。
【0025】
本工程では、調整亜鉛含有ダストスラリーのpHを3以上5以下に調整することが好ましい。調整亜鉛含有ダストスラリーのpHが3以上とすることにより、化合物の形態に関わらず鉄のスラリーへの浸出を抑制することができる。また、調整亜鉛含有ダストスラリーのpHが5以下とすることにより、亜鉛の浸出率を高くすることができる。
【0026】
また、酸を調整亜鉛含有ダストスラリーに添加した後の反応時間としては、亜鉛の浸出率および処理効率の観点より、20分以上120分以下とすることが好ましい。
【0027】
<第一固液分離工程>
続いて、ステップS3にて、亜鉛浸出工程において得られた亜鉛浸出液と亜鉛浸出残渣とに固液分離する(第一固液分離工程)。
【0028】
上記固液分離は、例えばろ過、フィルタープレス、遠心分離、重力沈降分離等、一般的な手法を任意に選択して行うことができる。
【0029】
<亜鉛沈殿工程>
その後、ステップS4にて、分離された亜鉛浸出液のpHを調整して亜鉛を亜鉛沈殿物として沈殿させる(亜鉛沈殿工程)。
【0030】
亜鉛浸出液のpHの調整は、亜鉛浸出液にアルカリを添加することによって行うことができる。添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム等、一般的なアルカリを任意に選択できる。亜鉛は両性元素であり、強酸にも強アルカリにも溶解するため、亜鉛浸出液のpHを8以上10以下に調整することが好ましい。これにより、亜鉛の溶解度を極小化し、亜鉛を高い沈殿率で沈殿させて分離することができ、亜鉛の回収率を高めることができる。
【0031】
<第二固液分離工程>
そして、ステップS5にて、亜鉛沈殿工程においてpHが調整された亜鉛浸出液を亜鉛沈殿物とろ液とに固液分離して、分離された亜鉛沈殿物を回収する(第二固液分離工程)。
【0032】
本工程においては、亜鉛沈殿物と、亜鉛イオンが沈殿除去されたろ液とに固液分離し、亜鉛沈殿物を回収する。上記固液分離の手法に関しては、第一固液分離工程同様、例えばろ過、フィルタープレス、遠心分離、重力沈降分離等、一般的な手法を任意に選択できる。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(発明例1~5)
亜鉛含有ダストとして、亜鉛濃度が1~2質量%、鉄濃度が60~70質量%の転炉ダストを用意した。各転炉ダスト30gに対して蒸留水を150ml添加し、転炉ダストスラリーのサンプルを調製した。
次いで、転炉ダストスラリーに過酸化水素を添加し、酸化還元電位を100mV超えに増加させた後(酸化還元電位調整工程)、硫酸を添加し、スラリーのpHを3(発明例1、2、4および5)、5(発明例3)のまま一定の状態に1時間制御した(亜鉛浸出工程)。1時間経過後、ろ過により亜鉛浸出液と亜鉛浸出残渣とに固液分離し(第一固液分離工程)、得られた亜鉛浸出液に水酸化ナトリウムを添加して亜鉛浸出液のpHを8(発明例4)、10(発明例1~3)、11(発明例5)のまま一定の状態に1時間制御した(亜鉛沈殿工程)。1時間経過後、ろ過によりpHが調整された亜鉛浸出液を亜鉛沈殿物とろ液とに固液分離し(第二固液分離工程)、亜鉛沈殿物を得た。各発明例の詳細を表1に示す。
なお、表1において、転炉ダストの亜鉛および鉄の濃度に関しては、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により分析した。また、スラリーのpHは、pHコントローラにより一定になるよう制御し、スラリーの酸化還元電位に関しては、ORP計により測定した。
【0035】
(比較例1)
発明例1と同様に亜鉛含有ダストから亜鉛を回収した。ただし、酸化還元電位調整工程は行わず、転炉ダストスラリーに硫酸を添加してスラリーのpHを3まで一度低減した後、硫酸および過酸化水素を添加し、スラリーのpHを3のまま一定の状態に1時間制御した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0036】
(比較例2)
発明例1と同様に亜鉛含有ダストから亜鉛を回収した。ただし、亜鉛浸出工程において、スラリーのpHを2のまま一定の状態に1時間制御した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0037】
(比較例3)
発明例1と同様に亜鉛含有ダストから亜鉛を回収した。ただし、亜鉛浸出工程において、スラリーのpHを6のまま一定の状態に1時間制御した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0038】
(比較例4)
発明例1と同様に亜鉛含有ダストから亜鉛を回収した。ただし、亜鉛沈殿工程において、スラリーのpHを7のまま一定の状態に1時間制御した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0039】
(比較例5)
発明例1と同様に亜鉛含有ダストから亜鉛を回収した。ただし、亜鉛沈殿工程において、スラリーのpHを12のまま一定の状態に1時間制御した。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に記載の発明例1~5においては、比較例1と比較し、薬剤消費量は少なく、また初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合い(すなわち、初期転炉ダストの亜鉛含有率に対する亜鉛沈殿物の亜鉛含有率)が高くなっている。特に、硫酸添加前の水の酸化還元電位280mV以上の発明例2~5において差が顕著である。比較例1においては、スラリーの酸化還元電位が低位な状態で硫酸の添加を行ったため、鉄も一部浸出して硫酸が過大に消費された。また、亜鉛沈殿工程において水酸化ナトリウムの添加時に浸出した鉄が亜鉛とともに沈殿したため、水酸化ナトリウムが過大に消費され、初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いも低くなったと考えられる。
【0042】
また、表1に記載の発明例1~5において、比較例2~5と比較し、初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いが高くなっている。比較例2においては、硫酸添加後のスラリーのpHが2と低かったため、鉄も一部浸出し、水酸化ナトリウム添加時に浸出した鉄が亜鉛と共に沈殿したため、硫酸が過大に消費された。また、亜鉛沈殿工程において水酸化ナトリウムが過大に消費され、初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いも低くなったと考えられる。比較例3においては、硫酸添加後のスラリーのpHが6と高かったため、亜鉛の浸出率が低く、また水酸化ナトリウム添加時に沈殿回収される初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いも低くなったと考えられる。比較例4においては、亜鉛沈殿工程における水酸化ナトリウム添加時のスラリーのpHが7と低かったため、水酸化ナトリウム添加時に一部の亜鉛が液中に残存し、沈殿回収される初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いも低くなったと考えられる。比較例5においては、亜鉛沈殿工程における水酸化ナトリウム添加時のスラリーのpHが11と高かったため、水酸化ナトリウム添加時に一部の亜鉛が液中に残存し、沈殿回収される初期転炉ダストに対する亜鉛沈殿物の亜鉛濃縮度合いも低くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、亜鉛含有ダスト中の亜鉛を少ない薬剤量、かつ選択性よく分離することができる。
図1