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特開2024-147498ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147498
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20241008BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20241008BHJP
   B01J 23/62 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20241008BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20241008BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20241008BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20241008BHJP
   C25B 11/093 20210101ALI20241008BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M4/86 B
B01J23/89 M
B01J23/62 M
H01M4/92
H01M4/86 M
C25B11/053
C25B11/077
C25B11/081
C25B11/093
C25B11/065
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031971
(22)【出願日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】10-2023-0043384
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】520355529
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディヴェロップメント・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESS DEVELOPMENT FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】(JIGOK‐DONG), 77, CHEONGAM‐RO,NAM‐GU, POHANG‐SI, GYEONGSANBUK‐DO 37673,REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ、 サンホン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヨンタエ
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB04B
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EC28
4G169EE09
4G169FC08
4K011AA23
4K011AA30
4K011AA69
4K011BA07
4K011BA09
4K011DA01
5H018BB07
5H018EE12
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH03
(57)【要約】
【課題】耐久性が高いショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒を提供する。
【解決手段】本発明は、ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒に関し、具体的には、ショットキーバリアーを制御することで、選択的に酸化還元反応を引き起こすように金属と半導体物質として働く金属酸化物との界面がショットキー接触を形成するように構成することにより、燃料電池又は水電解槽を構成する酸化極(Anode)においては酸化反応のみが、かつ、還元極(Cathode)においては還元反応のみが起こるようにして触媒の劣化現象を防ぎ、耐久性を増大させる効果を有するショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体物質からなる支持体層と前記支持体層の表面に形成される金属からなる触媒層とから構成されて前記支持体層と前記触媒層とがショットキー接合状態となるように形成されており、
半導体物質がn型である場合には還元反応触媒としてのみ機能し、半導体物質がp型である場合には酸化反応触媒としてのみ機能することを特徴とする、ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項2】
前記支持体層をなす半導体物質がp型である場合に、前記触媒層をなす金属の仕事関数値よりもさらに大きな仕事関数値を有し、
前記支持体層をなす半導体物質がn型である場合に、前記触媒層をなす金属の仕事関数値よりもさらに小さな仕事関数値を有することを特徴とする、請求項1に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項3】
前記触媒層を形成する物質は、白金であることを特徴とする、請求項1に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項4】
前記触媒層を形成する白金粒子の粒径は、1.2nm以上であることを特徴とする、請求項3に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項5】
前記n型の半導体物質は、酸化錫(SnO)であり、
前記p型の半導体物質は、酸化コバルト(Co)であることを特徴とする、請求項4に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項6】
前記白金からなる触媒層の層厚は5nmであり、
前記支持体層を形成する前記p型の半導体物質である酸化コバルトの厚さは15~30nmであって、
選択的な酸化反応触媒として機能することを特徴とする、請求項5に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。
【請求項7】
前記白金からなる前記触媒層の層厚は7nmであり、
前記支持体層を形成する前記n型の半導体物質である酸化錫の厚さは50nmであって、
選択的な還元反応触媒として機能する、請求項5に記載のショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒に関し、具体的には、ショットキーバリアーを制御することで、選択的に酸化還元反応を引き起こすように金属と半導体物質として働く金属酸化物との界面がショットキー接触を形成するように構成することにより、燃料電池又は水電解槽を構成するアノードにおいては実質的に酸化反応のみが、かつ、カソードにおいては実質的に還元反応のみが起こるようにして触媒の劣化現象を防ぎ、耐久性を増大させる効果を有するショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
電気触媒は、水素経済の根幹となるグリーン水素を生産する水電解技術、これに基づいて電気を生産する燃料電池、CO還元を用いてCO排出量を直接的に減少させるCO還元技術など数多くの分野において活用されている。電気触媒に関する研究への取り組みもまた盛んに行われているが、主として触媒の活性、耐久性又は経済性に焦点を当てた研究がほとんどを占める。例えば、触媒構造を変更して活性面積を広げ、これに基づいて性能を向上させるか、あるいは、さらに安定的な状態のための合金物質の探索、貴金属の量の減少もしくは非貴金属触媒の開発を用いた価格節減に関する文献が既に膨大な規模をなしている。
【0003】
しかしながら、燃料電池や水電解槽の耐久性に相当の影響を及ぼすという点でさらに盛んな研究が行われるべきであるという必要性があるにも拘わらず、触媒の選択性に関する研究はかなり制限的に行われてきた。燃料電池においては、水素が酸化される反応である水素酸化反応(Hydrogen Oxidation Reaction;HOR)と酸素が還元される反応である酸素還元反応(Oxygen Reduction Reaction;ORR)とがそれぞれアノード極とカソード極において進められ、水電解槽には酸素発生反応である酸素発生反応(Oxygen Evolution Reaction;OER)と水素発生反応である水素発生反応(Hydrogen Evolution Reaction;HER)とがそれぞれアノード極とカソード極において同時に進められる。ところが、酸化/還元反応がペアで起こる電気化学触媒の特徴は、時々、意図せずに、逆に、還元/酸化反応として起こることに伴い、問題を引き起こしてしまう。
【0004】
代表的に、燃料電池の始動/停止(Start-Up/Shut-Down;SU/SD)の状況下で、アノードに外部の空気が漏れて入ってくることに伴い、不要に起こったORRが反対極であるカソード側の電位を1.4V以上に上昇させる。これにより、カソード側において炭素が酸化される炭素酸化反応(Carbon Oxidation Reaction;COR)が起こることに伴い、触媒が劣化してしまうという問題が生じている。また、水電解槽の停止(Shut-Down)の状況下では、残留電圧がカソードにクロスオーバーして超えてきた溶存酸素をしてカソード電極の酸化反応を引き起こさせる。このように、設計通りの反応構成とは正反対に、アノードにおいて還元反応が、かつ、カソードにおいて酸化反応が起こることに伴い、触媒を劣化させてしまうという問題が生じている。
【0005】
選択的な触媒(Selective Catalyst)に関する研究は、概して光触媒をはじめとするガスセンサーシステムの分野において先行されてきた。電気触媒に関しては、COからCOへと転換される歩留まり率や酸素還元反応(ORR)において2電子反応を用いたH生成率などの競争反応に対する選択性に限られて活用されていて、マルコビッチ(Markovic)グループにより選択的なHORへの研究が紹介された後から次第に反応それ自体の選択性とも表現されている。当該研究は、燃料電池のSU/SDの条件下で触媒の耐久性の向上に向けて、自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)手法を用いてカリックス[4]アレーン(Calix[4]arene)という有機物を白金(Pt)の表面に吸着させて活性面積を制御することにより、HOR活性は保持しながらも、ORR活性のみを選択的に抑えることができた。
【0006】
その他にも、ドデカンチオール(Dodecanethiol)を用いたHOR選択性を実現するのに成功したことがあるが、有機物は、その特性からみて、熱的/電気化学的に安定性を保証することができないという致命的な欠点があるが故に、実際に活用されるには無理があった。この後、半導体研究においてしばしば活用されるヘテロ接合(hetero junction)における整流作用を用いた電気的な特性の制御からアイディアを導き出して、金属触媒を酸化物支持体に接合したときに起こる金属と絶縁体の転移(Metal-Insulator Transition;MIT)現象を活用して有機物の限界を克服しようとする試みがあった。金属触媒として白金(Platinum)、酸化物支持体として酸化タングステン(Tungsten Oxide)を用いて、燃料電池の酸化反応は促しながらも、これと同時に還元反応は抑える選択性を実現するのに成功した。当該研究は、2020年に英国科学誌「Nature Catalysis」のメイン表紙論文として選定されて優れた成果を認められ、電気触媒の選択性に関する最高のレベルの研究として評価されている。一方、水電解槽の停止(Shut-Down)の状況下における触媒の耐久性の問題は、燃料電池のSU/SDの研究に比べて比較的に最近になって進められたため、関連研究をはじめとする解決方案を見出し難いのが現状である。
【0007】
イリジウム(Iridium)に基づく二官能性(bifunctional)合金触媒を活用した類似の研究が報告されているが、性能保持の側面からみて、商用触媒に比べられるものではなく、イリジウム(Ir)の高い値段によって経済性の側面からも多少物足りないところがあった。
【0008】
このような観点から、本発明の発明者らは、燃料電池及び水電解槽における触媒の耐久性の問題を解消できる選択的な触媒の研究への取り組みが必要であることを認識し、特に、金属酸化物を半導体の観点から解釈しながら、MIT現象よりもさらに一般化した方法であるショットキーバリアー(Schottky Barrier)を制御することで、選択的に電気化学的な酸化還元反応を進めることができるという興味深いことを見出し、これを金属-酸化物触媒の選択性のメカニズムとして確立し、これに基づくショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒の開発への必要性を実感することになった。
【0009】
これと関連して、先行特許1及び2においては、電気化学的な二酸化炭素の還元に使用可能な粗触媒がコーティングされた3次元金属触媒電極の製造方法について開示しているが、ショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒又はその製造方法を具体的に提示できずにおり、燃料電池や水電解槽に適用可能な触媒ではないという点で、前述したような開発への必要性を満たすことができないという限界点が依然として残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国登録特許第10-1784626号公報(2017年9月27日付け登録)
【特許文献2】韓国登録特許第10-1771368号公報(2017年8月18日付け登録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述した従来の発明の問題及び限界点を解消するために案出されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、燃料電池及び水電解槽における正極(cathode)及び負極(anode)用の触媒がそれぞれ反応を誘導すべき電気化学的な酸化還元反応を各極において選択的に生じさせるようにショットキー接合型の電気化学触媒を提供することにより、停止と始動の状況下で副反応による触媒の劣化現象を防ぐことにより、耐久性を高めるようにするショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒を提供することである。
【0012】
本発明が解決しようとする技術的課題は、上述した課題に何ら制限されるものではなく、言及されていない他の課題は、下記の記載から本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明確に理解できるものであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒は、半導体物質からなる支持体層と支持体の表面に形成される金属からなる触媒層とから構成されて支持体層と触媒層とがショットキー接合状態となるように形成されるが、半導体物質がn型である場合には還元反応触媒としてのみ機能し、半導体物質がp型である場合には酸化反応触媒としてのみ機能することを特徴とする。
【0014】
このとき、前記支持体をなす半導体物質がp型である場合に前記触媒層をなす金属の仕事関数値よりもさらに大きな仕事関数値を有し、前記支持体をなす半導体物質がn型である場合に前記触媒層をなす金属の仕事関数値よりもさらに小さな仕事関数値を有することになる。
【0015】
一般に、金属触媒を金属酸化物支持体の上に担持すれば、金属と半導体とが接合されるときと同一の界面が形成される。この界面は、2つの物質の仕事関数(work function)の大きさの関係とn型又はp型半導体の種類に応じて、ショットキー接触(Schottky Contact)もしくはオーム接触(Ohmic Contact)に分けられる。金属の仕事関数値Φが半導体の仕事関数値Φよりもさらに大きく、半導体がn型である場合であるか、あるいは、金属の仕事関数値Φが半導体の仕事関数値Φよりもさらに小さく、半導体がp型である場合には、ショットキー接触(Schottky Contact)をすることになり、その以外の場合にはオーム接触(Ohmic Contact)をすることになる。
【0016】
電子の移動が生じないオーム接触(Ohmic Contact)は排除し、ショットキー接触(Schottky Contact)条件のみを考慮して述べてみると、半導体の種類がn型及びp型であるそれぞれの場合に応じて、特定の電流方向を有するということが分かる。この電流方向を触媒反応における電子移動をもって解析してみると、半導体がn型である場合には支持体から触媒方向にのみ電子が伝達されるため、還元反応のみが起こることができ、半導体がp型である場合には触媒から支持体方向にのみ電子が移動するため、酸化反応のみが進められることができる。したがって、このような現象を用いると、所望の種類の酸化反応又は還元反応のみを選択的に引き起こす選択的な電気化学酸化還元触媒(Selective Electrochemical Redox Catalyst)を製造することができる。
【0017】
一方、本発明であるショットキー接合型の選択的な酸化還元触媒は、支持体の役割を果たす半導体の表面の上に触媒の役割を果たす金属を単に担持した形態で構成される。このとき、前記触媒層を形成する物質は、白金であることを特徴とするが、白金は、燃料電池においてHOR及びORRの両方において活用される触媒であるからである。併せて、クォンタムサイズ効果に鑑みて、通常の嵩高い物質の性質と同じ性質を有するようにナノ寸法レベルの材料を用いなければならないが、白金粒子の粒径は、1.2nm以上であることが好ましい。
【0018】
一方、支持体として活用される半導体物質は、燃料電池において用いられる場合、強酸性である電解液に露出される筈であることを考慮してpH 1の強酸性の条件下で安定的な状態ではなければならない。HORには酸化反応のみを引き起こすようにp型半導体物質を、ORRには還元反応のみを引き起こすようにn型半導体物質を支持体として選択しなければならないが、ショットキー接触(Schtttky Contact)条件に符合するようにするために、白金(Pt)の仕事関数値である5.65eVよりもさらに高い仕事関数値を有するp型半導体物質と白金の仕事関数値よりもさらに低い仕事関数値を有するn型半導体物質を支持体として選択しなければならない。
【0019】
このような条件を満たす半導体物質を見出したところ、前記n型半導体物質は、酸化錫(SnO)であり、前記p型半導体物質は、酸化コバルト(Co)であることが好ましい。酸化コバルトは、燃料電池の酸化極(アノード)における酸化反応である水素酸化反応(HOR:Hydrogen Oxidation Reaction)を選択的に保持するためのp型半導体物質として採択されたが、これは、pH 1において安定性を有するとともに、白金の仕事関数値である5.65eVよりもさらに大きな仕事関数値である6.3eVを有しているからである。併せて、酸化錫は、水電解の還元極(カソード)において還元反応である水素発生反応(HER:Hydrogen Evolution Reaction)を選択的に保持するためのn型半導体物質として採択されたが、これは、pH 1における安定性を有するとともに、白金の仕事関数値である5.65eVよりもさらに小さな仕事関数値である4.9eVを有しているからである。
【0020】
このとき、本発明に係るショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒の構成するに当たって、選択的な酸化反応触媒は、白金からなる触媒層の層厚は5nmであり、支持体層を形成するp型半導体物質である酸化コバルトの厚さは15~30nmであることが好ましい。
【0021】
一方、本発明に係るショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒を構成するに当たって、選択的な還元反応触媒は、白金からなる触媒層の層厚は3~7nmであり、支持体層を形成するn型半導体物質である酸化錫の厚さは50nmであることが好ましい。
【0022】
その他の実施形態の具体的な事項は、詳細な説明の欄及び図面に盛り込まれている。
【発明の効果】
【0023】
したがって、本発明によれば、白金触媒と半導体物質との界面においてショットキー接触が生じて電子がいずれか一方向にのみ流れることになり、選択的に酸化反応又は還元反応のみが生じるように誘導される。したがって、燃料電池及び水電解槽の各極において生じ得る副反応を極力抑えることができるので、燃料電池又は水電解槽の始動と停止の際に生じ得る耐久性が劣化するという問題を解決することができるという顕著な効果がある。
【0024】
本発明の効果が上述した効果に何ら制限されるものではなく、言及されていない他の効果は以下の明細書の記載から本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者にとって明確に理解できるものであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係るショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒の作動メカニズムを説明したものである。
図2】本発明の実施形態に係る燃料電池用の触媒において、白金と酸化コバルトとからなるショットキー接合型の選択的な酸化反応触媒の効能が実現される度合いを比較して示すグラフである。
図3】本発明の実施形態に係る水電解槽用の触媒において、白金と酸化錫とからなるショットキー接合型の選択的な還元反応触媒の効能が実現される度合いを比較して示すグラフである。
図4】本発明の実施形態に係るPt、Co、Pt/Coに対して水素酸化反応(HOR)及び酸素還元反応(ORR)の条件を模写した環境下で定電圧測定を行ったグラフである。
図5】本発明の実施形態に係るPt/Coの色々な反応による仕事関数を測定したデータである。
図6】本発明の実施形態に係るPt/SnOの色々な反応による仕事関数を測定したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面に基づいて、本出願の実施形態についてさらに詳しく説明する。しかしながら、本出願に開示された技術は、ここで説明される実施形態に何ら限定されるものではなく、他の形態に具体化される場合もある。単に、ここで紹介される実施形態は、開示された内容が徹底的に完全たるものになるように、かつ、当業者に本出願の思想が十分に伝わるようにするために提供されるものである。図中、各装置の構成要素を明確に表現するために前記構成要素の幅や厚さなどの大きさをやや拡大して示している。
【0027】
また、説明のしやすさのために、構成要素の一部のみを示している場合もあるが、当業者であれば、構成要素の残りの部分についても容易に把握できる筈である。本明細書の全般にわたって、図面の説明に際して観察者の視点から説明し、ある要素が他の要素の上又は下に位置すると言及される場合、これは、前記ある要素が他の要素のすぐ上又はすぐ下に位置し得る意味と、これらの要素の間にさらなる要素が介在し得る意味を両方とも含む。
【0028】
さらに、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本出願の技術的思想を逸脱しない範囲内において本出願の思想を様々な他の形態により実現することができる筈である。そして、複数の図中の同じ符号は、実質的に互いに同じ要素を指す。
【0029】
さらにまた、単数の表現は、文脈からみて明らかに他の意味を有さない限り、複数の言い回しを含むものと理解されなければならず、「含む」「備える」または「有する」などの用語は、明細書に記載の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものに過ぎず、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解すべきである。
【0030】
これらに加えて、方法又は製造方法を行うに当たって、前記方法をなす各過程は、文脈からみて明らかに特定の順序を記載しない限り、明記された順序とは異なる順序に従って行われることもある。すなわち、各過程は、明記された順序と同じ順序に従って行われてもよいし、あるいは、実質的に同時に行われてもよいし、あるいは、逆順に従って行われてもよい。
【0031】
図1は、本発明に係るショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒の作動メカニズムを説明したものである。
【0032】
本発明に係る電気化学触媒は、支持体の役割を果たす半導体物質の表面の上に触媒の役割を果たす金属を単に担持した構造からなる。
【0033】
右側にある図中に示すように、選択的な酸化反応用の触媒においては、金属から半導体物質へと電子が移動しなければならないため、半導体物質としては、p型半導体物質を採択しなければならず、金属触媒の仕事関数値よりもさらに大きな仕事関数値を有していなければならない。
【0034】
左側にある図中に示すように、選択的な還元反応用の触媒においては、半導体物質から金属へと電子が移動しなければならないため、n型半導体物質を採択しなければならず、金属触媒の仕事関数値がn型半導体物質の仕事関数値よりもさらに大きくなければならない。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記金属触媒としては、HOR及びORRの両方において一般に活用される白金(Pt)を選定している。燃料電池の酸化反応であるHORには酸化反応のみを引き起こすように、p型半導体物質を支持体として採択しなければならず、還元反応であるORRには還元反応のみを引き起こすように、n型半導体物質を支持体として採択しなければならない。このとき、支持体として活用される半導体物質は、強酸性の電解液に露出される筈であることを考慮して、pH 1である強酸性の条件下で安定的な状態を保持する物質ではなければならない。また、ショットキー接触(Schottky Contact)条件を作り出さなければならないため、触媒物質である白金(Pt)の仕事関数値である5.65eVよりもさらに高い仕事関数値を有するp型半導体物質を支持体として選択しなければならない。併せて、触媒物質である白金(Pt)の仕事関数値である5.65eVよりもさらに低い仕事関数値を有するn型半導体物質を支持体として選択しなければならない。
【0036】
一方、このようなショットキー接合型の選択的な酸化還元反応用の電気化学触媒は、ガラス質カーボン棒(glassy carbon rod)の上に物理的な気相蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)手法により半導体物質をそれぞれ蒸着し、この後、半導体物質の表面の上に順次に白金(Pt)を蒸着して製造した。
【0037】
実施例1においては、燃料電池用の触媒として酸化極(アノード)において酸化反応のみを生じさせる選択的な酸化反応触媒を製造した。ガラス質カーボン棒の上にp型半導体物質である酸化コバルト(Co)をPVD手法によりそれぞれ50、30、15nmの厚さに蒸着した後、その表面の上に金属物質として白金(Pt)を5nmの厚さに蒸着してそれぞれ製造した。
【0038】
これに対する対照群としては、ガラス質カーボン棒の上に白金(Pt)のみを5nmの厚さに蒸着して製造された触媒を採択した。
【0039】
これは、ショットキー接合型の選択的な酸化反応触媒として効果を奏する触媒の構成条件を確認するためである。
【0040】
実施例2においては、水電解槽用の触媒として還元極(カソード)において還元反応のみを生じさせる選択的な還元反応触媒を製造したが、同様に、ガラス質カーボン棒の上にn型半導体物質である酸化錫(SnO)を50nmの厚さに一定にPVD手法により蒸着した後、白金(Pt)を7nmの厚さに蒸着して製造した。
【0041】
これに対する対照群として、ガラス質カーボン棒の上に白金(Pt)のみを7nmの厚さに蒸着して触媒を採択した。
【0042】
これは、ショットキー接合型の選択的な還元反応触媒として効果を奏する触媒の構成条件を確認するためである。
【0043】
図2は、燃料電池用の触媒として白金と酸化コバルトとからなるショットキー接合型の選択的な酸化反応触媒の作用が実現される度合いを比較して示すグラフである。
【0044】
実施例1により製造された選択的な酸化反応触媒により実現したPt/Co触媒のHOR活性、ORR活性のグラフを確認してみると、HOR活性を基準としてCoを薄肉状に蒸着すれば蒸着するほど、さらに良好な性能を示している。但し、Coを30nm以上蒸着したサンプルにおいては、伝導度それ自体が過剰に低すぎるように形成されることに伴い、比較すべき意味のある活性を示すことはできなかった。これは、過剰に厚過ぎるCo層において金属酸化物の不導体的な特性が支配的に働くことに伴い、ショットキー接触(Schottky Contact)の際に形成されるバンドバリアー(Band Barrier)を超えて電子を伝達するのに困難さがあると解釈することができる。適切な厚さであると考えられている15nmの厚さに蒸着されたサンプルは、純粋な白金(Bare Pt)触媒のHOR活性と略同じレベルの性能を示している。これに対し、ORRの評価結果を調べてみると、同様にCoが30nm以上蒸着されたサンプルにおいては低い伝導度を示しているが、15nmに蒸着されたサンプルにおいても純粋なPtに比べて活性が急激に低くなった。このようなPt/Coの酸化反応及び還元反応についての互いに異なる結果から、実際の実験条件下で選択的な酸化反応触媒作用が実現されることを確認することができた。
【0045】
図3は、水電解槽用の触媒として白金と酸化錫からなるショットキー接合型の選択的な還元反応触媒の作用が実現される度合いを比較して示すグラフである。
【0046】
ガラス質カーボン棒にn型半導体物質としてSnOの蒸着厚さを50nmにして蒸着し、この後、その表面に再び順次に金属触媒物質である白金(Pt)を7nmの厚さに蒸着して製造した実施例と、これに対する対照群であって、白金触媒のみをガラス質カーボンに7nmに蒸着した触媒(Pt/GC)をそれぞれ製造して水電解槽の触媒としてそれぞれ採択して停止テストの実施の前後の状態を比較した。
【0047】
左側に示されているCVグラフから確認できるように、還元電流密度を示す水素吸着(アンダーポテンシャル吸着水素(HUPD))は、SnOの蒸着ウムとは無関係に、互いに略同様に形成されるものの、酸化ピークは、n型半導体物質であるSnOが一緒に構成されていない白金触媒のみを用いた触媒(Pt/GC)においてのみ形成されることから、酸化錫をn型半導体物質として採択して構成した触媒(Pt/SnOon GC)においてのみ酸化反応は抑えられ、還元反応が選択的に起こることを確認することができた。
【0048】
右側に示されているHERグラフから確認できるように、水電解槽の停止テストの前には、SnOの存在にも拘わらず、Pt/GCと略同一の初期活性(ビフォー(Before)データ)を示すことから、還元電流の供給には問題がないということが分かる。
【0049】
これに対し、水電解槽において停止テストを行った後の結果(アフター(After)データ)を調べてみるとき、10mA/cmを基準としてHERオーバーポテンシャル(overpotential)が対照群であるPt/GCが2.4倍(32→78mV)大きくなる間に、実施例2の選択的な還元反応触媒であるPt/SnOは、約1.1倍(39→43mV)ほどにしか大きくならないため、大した変化はなかった。したがって、このような実験結果を通じて、実施例2の酸化錫(SnO)をn型半導体として採択した選択的な還元反応触媒を採択した水電解槽の停止条件下では、酸化電流の供給を抑えることにより、触媒の耐久性を向上させていることを確認することができた。
【0050】
以下では、本発明の効果を調べてみるための多種多様な実験を進めた結果について説明する。
【0051】
図4は、Pt、Co、Pt/Coに対して水素酸化反応(HOR)及び酸素還元反応(ORR)条件を模写した環境下で定電圧測定を進めたグラフである。HOR条件である0.05V、H飽和(saturation)条件下で不導体(絶縁体)に近いCoを除いたPtとPt/Coは、高い電流を示している。
【0052】
ORR条件である0.8V、O飽和(saturation)条件下では、同様に、Coは、きわめて低い電流を、かつ、Ptは依然として高い電流を示すのに対し、Pt/Coは、Coに近い低い電流を示している。このことから、還元電流は抑えられ、酸化電流のみを盛んに伝達するという選択的な様相を確認することができた。
【0053】
図5を参照すると、各反応に応じて仕事関数を自ら測定したデータである。蒸着の直後の状態であるイニシャル(Initial)のサンプルとHOR以降のサンプルにおいて略同様の仕事関数が現れ、ORR以降のサンプルにおいては値が増加した仕事関数が現れた。これは、還元反応であるORRを通じてのみひときわショットキーバリア(Schottky Barrier)が増加することにより、電流を妨げるということを裏付けている。
【0054】
このような面間の伝導度を確認してみると、下記の表1の通りである。
【0055】
【表1】
【0056】
ホール測定システム(Hall Measurement System)を用いて測定した面間の伝導度を確認してみると、選択的な酸化触媒(Selective Oxidation Catalyst)としてPt/Coを酸化反応に曝露させると、伝導度がPtと略同様に形成される。しかしながら、還元反応に曝露されれば、伝導度が10倍減ることを確認することができる。
【0057】
図6は、本発明の実施形態に係るPt/SnOの色々な反応による仕事関数を測定したデータである。Pt/Coに比べて、Pt/SnOは、各サンプルの仕事関数が相対的に略同様に形成される。
【0058】
しかしながら、それらの中でも、HER<イニシャル<停止の順に仕事関数がさらに大きくなるが、蒸着の直後の状態であるイニシャルに比べて、還元反応であるHERを経るときには、仕事関数がやや減少する。しかしながら、逆に、酸化反応である停止以降には、ショットキーバリアー(Schottky Barrier)が増加することにより、電流を妨げることを裏付けている。
【0059】
したがって、本発明によれば、白金触媒と半導体物質との界面においてショットキー接触が生じて電子がいずれか一方向にのみ流れることになり、選択的に酸化反応又は還元反応のみが生じるように誘導される。したがって、燃料電池及び水電解槽の各極において生じ得る副反応を極力抑えることができるので、燃料電池又は水電解槽の始動と停止の際に生じ得る耐久性が劣化するという問題を解決することができるという顕著な効果がある。
【0060】
一方、本発明は、限定された実施形態と図面により説明されたが、本発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から多種多様な修正及び変形を行うことが可能である。そのため、本発明の範囲は、説明された実施形態に限られて定められてはならず、添付の特許請求の範囲と均等なものによって定められるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6