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特開2024-147499継目無鋼管圧延用プラグ、その製造方法、継目無鋼管圧延用プラグミルおよび継目無鋼管の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147499
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】継目無鋼管圧延用プラグ、その製造方法、継目無鋼管圧延用プラグミルおよび継目無鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 25/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B21B25/00 A
B21B25/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032952
(22)【出願日】2024-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2023060103
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】赤池 淳
(72)【発明者】
【氏名】勝村 龍郎
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、複数回の熱処理を施さなくとも、密着性、耐摩耗性を向上させ、かつ十分な変形抑制を実現した継目無鋼管圧延用プラグ、その製造方法、継目無鋼管圧延用プラグミルおよび継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】プラグ母材の外表面の算術平均粗さRaが0.04μm以上であり、前記プラグ母材の表面に酸化物層を有することを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグ1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラグ母材の外表面の算術平均粗さRaが0.04μm以上であり、前記プラグ母材の表面に酸化物層を有することを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項2】
前記プラグ母材の外表面は、前記プラグの圧延方向と垂直方向に研磨目を有しており、かつ前記プラグの圧延方向に粗さ測定を行った試験において、算術平均粗さRaが0.04μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項3】
前記プラグ母材は、質量%で、Si:0.3~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Ni:0.01~5.0%、Cr:12~20%、MoとWの1種または2種の合計:0.1~3.0%、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項4】
前記プラグ母材は、質量%で、Si:0.3~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Ni:0.01~5.0%、Cr:12~20%、MoとWの1種または2種の合計:0.1~3.0%、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項2に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項5】
前記成分組成が、さらに、質量%で、C:1.0~2.0%、Al:0.01~0.1%、V:0.01~0.1%を含有することを特徴とする請求項3に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項6】
前記成分組成が、さらに、質量%で、C:1.0~2.0%、Al:0.01~0.1%、V:0.01~0.1%を含有することを特徴とする請求項4に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグの製造方法であって、
プラグ母材を、研磨研削または切削で加工することを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグの製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグを備えることを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグミル。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグを使用することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継目無鋼管のマンネスマン・プラグミル圧延に用いられる芯金(以下「プラグ」と称す。)に関し、特に、その表面に母材との密着性、耐摩耗性に優れた硬質な酸化物層を生成させ、プラグ寿命を向上させた継目無鋼管圧延用プラグ、その製造方法、継目無鋼管圧延用プラグミルおよび継目無鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の継目無鋼管の製造方法におけるプラグミル圧延に用いられるプラグとしては、質量%で、C:1.0~2.0%、Cr:12~20%、Ni:1.0~2.5%、MoとWの1種または2種を(Mo+W):1.0~2.5%を含有し、残部が主にFeよりなる高Cr系の高合金鋼が使用されている。このような高Cr系の高合金鋼からなるプラグは、高温強度、高温耐酸化性が優れていることから、特に、プラグミル圧延のような過酷な条件下で使用されるプラグとして好適である。
【0003】
しかしながら、このような材料を用いたプラグであっても、実際の操業においては高温下の高圧力により、圧延本数が少ない段階で表面の摩耗、局所的なえぐれ、焼き付き等によるプラグ損傷から使用不能になることが多いという問題があった。これらの損傷が製品内面疵や寸法精度不良の原因となることから、プラグ寿命向上等のために、耐摩耗性に優れたプラグの開発が望まれている。
【0004】
一般に、耐摩耗性を向上させるためにはプラグ表面の強度を高める必要があり、その問題を解決するための技術として、例えば、特許文献1に、高強度化させるMoやWを多量に添加し、900HV以上の硬さを有するようにしたプラグが開示されている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、酸化性雰囲気中で加熱してプラグ素材表面に酸化物層を生成させ、続いて温度幅が少なくとも350℃以上にわたる温度域を大気中放冷以上の冷却速度で冷却する第1次熱処理を施し、しかる後再び酸化性雰囲気中でプラグ素材を加熱してその表面に再度酸化物層を生成させる第2次熱処理を行う方法が開示されている。これにより、第1次熱処理によって形成された酸化物層のうち、Ni富化地鉄粒子の生成が不十分であって地鉄に対する密着性が劣る部分が、その第1次熱処理後の放冷以上の冷却速度での冷却過程で剥離し、次いで再度加熱処理によって新たに酸化物層が形成される過程で、上記密着性が劣る部分にNi富化地鉄粒子が増加し、Niが選択酸化されることで酸化物層と地鉄の界面にくぎ打ちされたような酸化物層が形成される(アンカー効果)。この第2次熱処理により得られるアンカー効果により、酸化物層と地鉄との密着性が向上し、その酸化物層によってプラグを保護し、プラグ寿命を延ばすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57-198243号公報
【特許文献2】特開昭61-281819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、継目無鋼管製造用に供される被圧延材は高合金化の傾向にあり、それに伴い圧延負荷が増大し、更には生産性向上を目的として圧延速度を上げる傾向にある。このような、被圧延材における高合金の多量添加による高硬度化や、圧延速度の増加により、プラグの原単価の増加をもたらすという問題があった。特許文献1に記載の技術では、高強度化を目的とした合金元素を多量に含有する技術が開示されているが、合金元素を多量に含有しなくても、耐摩耗性を向上させられる技術の確立も求められている。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術のように、プラグの製造において、酸化物層と地鉄との高密着化を目的として、熱処理を2回行うことは、時間を要し、製造時のコストアップとなる。
【0009】
さらに、特許文献2に記載の技術のように、熱処理による酸化物層の密着性向上について、母材表面付近に偏析が生じていた場合、アンカー効果を十分に得られない可能性があり、被圧延材と接触した際に酸化物層が部分的に剥離し、焼付きが生じエグレが発生する。そしてそのエグレが被圧延材に転写されることで被圧延材内面にスリ疵が生じてしまう。プラグミルプラグは全周圧延面のため、部分的な酸化物層の剥離であっても交換する必要がある。
【0010】
さらに、酸化物層の密着性のみを向上させても、酸化物層の耐摩耗性も向上させることは難しい。過酷な圧延環境下では、酸化物層が摩耗して薄くなることにより焼付きは防止できても、プラグ本体の高温強度が低い場合、プラグの変形を抑制することが困難となる。逆に高い高温強度を有していたとしても酸化物層が母材との密着性が低い場合、母材成分が鉄主体であると焼き付きを抑制することは困難のため、早期に剥離し焼付き、エグレが発生する。
このように、過酷な圧延条件下で使用できる、酸化物層の密着性と耐摩耗性を兼ね備えた高寿命のプラグを得ることは難しかった。
【0011】
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであって、複数回の熱処理を施さなくとも、密着性、耐摩耗性を向上させ、かつ十分な変形抑制を実現した継目無鋼管圧延用プラグ、その製造方法、継目無鋼管圧延用プラグミルおよび継目無鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、プラグ母材の外表面に粗さ加工を施すことで、熱処理の方法に左右されない高密着な酸化物層を形成させることができる。そのためプラグ素材への熱処理回数が1回のみであったとしても、高密着な酸化物層が形成されているため、圧延過程で酸化物層が摩耗・剥離しても、プラグの地金が表面に露出し被圧延材と金属同士が接触するまでの時間を十分確保することができる。
【0013】
本発明は以上の知見に基づいて完成されたものであり、以下の[1]~[7]を提供する。
[1] プラグ母材の外表面の算術平均粗さRaが0.04μm以上であり、前記プラグ母材の表面に酸化物層を有することを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグ。
[2] 前記プラグ母材の外表面は、前記プラグの圧延方向と垂直方向に研磨目を有しており、かつ前記プラグの圧延方向に粗さ測定を行った試験において、算術平均粗さRaが0.04μm以上であることを特徴とする[1]に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
[3] 前記プラグ母材は、質量%で、Si:0.3~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Ni:0.01~5.0%、Cr:12~20%、MoとWの1種または2種の合計:0.1~3.0%、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
[4] 前記成分組成が、さらに、質量%で、C:1.0~2.0%、Al:0.01~0.1%、V:0.01~0.1%を含有することを特徴とする[3]に記載の継目無鋼管圧延用プラグ。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグの製造方法であって、
プラグ母材を、研磨研削または、切削で加工することを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグの製造方法。
[6] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグを備えることを特徴とする継目無鋼管圧延用プラグミル。
[7] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の継目無鋼管圧延用プラグを使用することを特徴とする継目無鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数回の熱処理を施さなくとも、密着性と耐摩耗性を向上させ、変形抑制を実現した継目無鋼管圧延用プラグが提供される。
これにより、従来のプラグに比べて高寿命のプラグを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】プラグミル圧延の概要を示す図である。
図2】熱間摺動試験機の概要を示す図である。
図3】代表的な熱間摺動試験後の試験片を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
本発明の継目無鋼管圧延用プラグは、プラグ母材の外表面のRaが0.04μm以上であり、プラグ母材の表面に酸化物層を有する。
【0018】
図1は、本発明のプラグミル圧延の概要を示す図であり、以下で継目無鋼管圧延用プラグを説明する。本発明のプラグ1は、図1に示すように、圧延機101に備えられ、バー3に後端が支持される。本発明のプラグ1は、一対の圧延弧型(カリバー)ロール2a、2b間に送給されたホローSを所定の肉厚まで減肉させる減肉圧延を施すために用いられる。その後の工程を経て継目無鋼管となる。
【0019】
本発明のプラグ1及びプラグ母材の形状は特に限定されないが、例えば、図1に示すように、円柱形状を有していたり、圧延方向に漸次断面形状が小さくなるような略円錐形状を有していたりすることができる。
【0020】
本発明のプラグ1の形状は、特に限定されず、大きさとしては、プラグ外径でφ40mm未満であると、酸化スケールが摩耗した際に、素管の寸法精度に影響が出やすくなるため、プラグ外径(圧延方向垂直断面視でプラグの最大外径)でφ40mm以上であることが好ましい。上限は特に限定されるわけではないが、φ500mm以下であることが好ましい。
【0021】
<プラグ母材の外表面粗さ>
次に、本発明のプラグ母材の外表面算術平均粗さRaの限定理由を説明する。
【0022】
Ra:0.04μm以上
プラグ母材の上に形成される酸化物層とプラグ母材の密着性を向上するため、プラグ母材の外表面算術平均粗さRaは0.04μm以上とする。酸化物の剥離をより抑制するためにプラグ母材の外表面粗さRaは0.50μm以上が好ましい。加工のしやすさを考慮すると切削加工ままでも効果が得られる1.00μm以上がより好ましい。さらに5.00μm以上が好ましい。
また、上限値については特に限定しないが、母材が粗くし過ぎることによって、熱処理後の試験片表面に粗さに沿った凹凸が形成されたことが原因による転写疵または、部分的な焼き付きが発生するため、プラグ母材の外表面粗さRaは100.00μm未満が好ましい。プラグ母材の外表面粗さRaは10.00μm未満がより好ましい。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2013の規定に従って、測定する。また、上記の粗さ測定方向は、特定の方向に限定されるものではない。
【0023】
さらに、特に、プラグの圧延方向に対して垂直方向に研磨目があることで酸化物層の密着性が向上するといった理由から、前記プラグ母材の外表面算術平均粗さRaは、前記プラグの圧延方向(軸方向)に粗さ測定を行った試験において、算術平均粗さRaが0.04μm以上であることが好ましい。前記プラグの圧延方向(軸方向)に粗さ測定を行った試験において、算術平均粗さRaが0.50μm以上であることがより好ましく、1.00μm以上とすることがさらに好ましい。5.00μm以上がもっとも好ましい。また、上限値については特に限定しないが、前記プラグ母材の外表面算術平均粗さRaは、前記プラグの圧延方向(軸方向)に粗さ測定を行った試験において、100.00μm未満が好ましい。プラグ母材の外表面粗さRaは10.00μm未満がより好ましい。なお、プラグの圧延方向(軸方向)に粗さ測定を行うとは、プラグの圧延方向と平行に粗さ計の接触端子を走らせて、上述しているJIS B 0601:2013の規定に従って、測定することを指す。
【0024】
なお、圧延方向に対して垂直方向に研磨目があることで酸化物層の密着性が向上する理由として、詳細なメカニズムは不明であるが、以下の内容が挙げられる。プラグミルはロール形状がカリバー形状のため、中心のプラグはパイプと接触すると周方向に材料が流れる。そのため、プラグの周方向に引張応力が働く。圧延方向に対して垂直方向に粗さを設けることでメタルフローがスムーズになり、プラグにかかる負荷が低下する。一方、圧延方向に対して平行方向に粗さを設ける場合は周方向に凹凸が生じているため、材料が流れにくく、つまりメタルフローが停滞傾向となる。よって、研磨目が圧延方向に対し垂直方向である方が、平行方向に比べて酸化物層の剥離が起きにくい、と考えられる。
【0025】
なお、研磨目とは、プラグを回転させながら研削、研磨などを行う時に、プラグの表面に生じる線状の模様のことである。つまり、プラグ表面においてプラグの圧延方向と垂直方向に形成される線状模様が研磨目である。
【0026】
また、圧延方向に対して垂直方向に研磨目があることで酸化物層の密着性が向上するといった理由から、前記プラグ母材の外表面は、前記プラグの圧延方向(軸方向)と垂直方向に研磨目を有することが好ましい。
【0027】
また、プラグ母材の内表面粗さについては特に限定されるものではないが、プラグ内径の酸化物層が剥離することで内径が変化(内径増加)し、バーとプラグとの嵌め合いが緩くなり、ガタが生じやすくなるという理由からプラグ母材の内表面粗さRaは0.05μm以上が好ましい。プラグ母材の内表面粗さRaは10.00μm未満が好ましい。
【0028】
<酸化物層>
本発明では、プラグ母材の表面に酸化物層を有する必要がある。以下で詳細を説明する。プラグ母材の上に酸化物層を有していないと、プラグ母材の密着性、耐摩耗性が低下するため、プラグ母材の表面に酸化物層を有する必要がある。密着性、耐摩耗性、変形抑制に寄与の大きい断熱特性を得るために、酸化物層の厚みは0.10mm以上とすることが好ましい。より好ましくは0.40mm以上である。一方で、酸化物層の厚みが厚すぎると酸化物層が一気に剥離する場合もあり、酸化物層の厚みは3.00mm以下が好ましい。より好ましくは2.00mm以下である。さらに、鉄の酸化物層はコランダム型よりもスピネル型の方が高温延性に優れているためと考えられるため、酸化物層はスピネル型構造の方が好ましく、例えばCrを含みFeとOから構成された層が挙げれられる。スピネル型とは面心立方型の配列を示す結晶構造である。また、ここで示すスピネル型構造は正スピネル型と逆スピネル型の両方を含む。他に、ヘマタイト、マグネタイト、ウスタイト等の通常熱間工具鋼の表面に形成される酸化物層も挙げられる。上記の酸化物を得るためには炉内の酸素濃度や水蒸気量、加熱温度と保持時間を制御することが好ましい。
【0029】
<プラグ母材(素材)の成分組成>
合金元素の添加が少なく、高温強度が低いと、プラグが圧延中に高温化して変形しやすくなる。しかし、高温強度を上げるために合金を多量添加すると酸化物層が薄くなり、又は密着性が小さくなり、プラグが高温化しやすい場合がある。
このような点も考慮して、次に、本発明のプラグ母材の合金の成分組成の好ましい含有量の範囲とその理由を説明する。以下、合金の成分を示す%は、質量%である。
【0030】
本発明のプラグ母材の合金は、好ましくは、質量%でSi:0.3~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Ni:0.01~5.0%、Cr:12~20%、MoとWの1種または2種の合計:0.1~3.0%、を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有する。
【0031】
Si:0.3~1.5%
Siは、溶湯の脱酸と湯流れをよくするために含有する。また、Siを含有すると酸化物層のウスタイトを少なくし、硬質で耐摩耗性が高いと言われている高スピネル型酸化物であるマグネタイトを多くする。Si含有量が0.3%未満ではその効果が得られない。そのため、Si含有量は0.3%以上とする。好ましくは0.4%以上である。より好ましくは0.5%以上である。さらに好ましくは0.6%以上である。一方、Si含有量が1.5%を超えると靱性の低下を招く。また、過剰にSiを含有すると酸化物と地鉄の界面にSiOの層が形成され耐衝撃性が低下する。したがって、Si含有量は1.5%以下とする。また、Si含有量は、好ましくは1.4%以下である。また、Si含有量は、より好ましくは1.2%以下である。また、Si含有量は、さらに好ましくは1.0%以下である。また、Si含有量は、もっとも好ましくは0.7%以下である。
【0032】
Mn:0.3~1.5%
Mnは、脱酸のためにSiと共に添加される。Mn含有量が0.3%未満では、十分な脱酸効果が得られない。そのため、Mn含有量は0.3%以上とする。好ましくは、0.4%以上である。より好ましくは0.5%以上である。さらに好ましくは0.6%以上である。一方、Mn含有量が1.5%より多いと靱性が低下する。したがって、Mn含有量は1.5%以下とする。さらに、スピネル型の酸化物層が増加する範囲を考慮すると、Mn含有量は1.4%以下であることが好ましい。Mn含有量は1.3%以下であることがより好ましく、1.2%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
Ni:0.01~5.0%
Niは、基地の焼き入れ性を向上させるもので、Ni含有量が0.01%未満では添加の効果がない。そのため、Ni含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.6%以上である。より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは1.2%以上である。一方、このような焼入れ性改善効果は、Niが5.0%を超えて含有すれば飽和する。さらに、Niは、酸化物層中でのNi富化地鉄粒子の混在を通じて酸化物層の密着性の向上に寄与するが、過剰にNiが添加されれば軟化不足による切削性の低下、残留オーステナイトの生成による熱処理性の劣化を引き起こす。したがって、Ni含有量は5.0%以下とする。また、Ni含有量は、好ましくは4.5%以下とする。Ni含有量は、より好ましくは3.5%以下である。さらに好ましくは3.0%以下である。
【0034】
Cr:12~20%
Crは、高温高圧下で使用されるプラグミル圧延用のプラグとして高温強度を与え、かつ潤滑剤などに含まれる腐食環境で使用されることの多いプラグに対して耐食性を与える。これらの効果を得るために、Cr含有量を12%以上とすることが必要である。そのため、Cr含有量は12%以上とする。好ましくは13%以上である。より好ましくは14%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。一方、Cr含有量が20%を超えれば、熱処理を施した際に酸化物層を十分な厚みにすることが困難となり、また、フェライト相が生成して熱処理性を害する。したがって、Crの含有量は20%以下とする。さらに、コランダム型の酸化物層を少なくし、スピネル型酸化物をより多く含有するために、Cr含有量は19%以下とすることが好ましい。より好ましくは18%以下である。
【0035】
MoとWの1種または2種(Mo+W)の合計:0.1~3.0%
MoおよびWは、基地に固溶して高温軟化抵抗などの高温特性を改善するほか、焼戻しによりCと結合して微細な複合炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。さらに、MoとWは、FeよりもOとの結合性が貴であるため、酸化物層を形成する際に選択酸化が起こり、酸化物層と地鉄の界面がくぎで打ちつけられたような形状になり、アンカー効果による高密着性が得られる。これらの効果は、MoとWの1種または2種の含有量の合計(Mo+W)を0.1%以上とすれば得られる。このためMoとWの1種または2種の含有量の合計(Mo+W)を0.1%以上とする。好ましくは0.2%以上とし、より好ましくは0.3%以上とし、さらに好ましくは0.4%以上とする。
一方、MoとWはフェライト形成元素であるため、その含有量を増加すればオーステナイトを生成する組成範囲を狭くする。また、この組成範囲の狭さを補うためにCやNiを増量するとしても、各元素の含有量には前述した制限がある。そのため、MoとWの含有量の合計(Mo+W)は3.0%以下とする。好ましくは2.8%以下とし、より好ましくは2.6%以下とし、さらに好ましくは2.4%以下とする。以上の理由と、経済性の観点から、MoとWについては1種または2種を含有し、MoとWの含有量の合計(Mo+W)を0.1~3.0%とする。
【0036】
本発明では、上記した成分を基本の組成とする。本発明では、必要に応じて、さらに選択元素として以下に示す成分を加えてもよい。
【0037】
C:1.0~2.0%
Cは、Cr、Mo、V、Wなどと結合して高硬度の複合炭化物を形成し耐摩耗性を高める。また、基地のオーステナイト中にも一部固溶して、焼入れ操作により形成されるマルテンサイトによる高強度化の効果にも寄与する。Cは、このようにして、耐摩耗性ならびに常温から高温までの硬度および強度を向上させる作用を有する。C含有量が1.0%未満では炭化物の晶出量が少なく、そのため高い耐摩耗性が得られない。このため、Cを含有する場合には、C含有量は1.0%以上とする。また、炭化物の晶出量と耐熱衝撃性のバランスをより良くするという点から、好ましくは1.2%以上である。より好ましくは1.3%以上である。一方、C含有量が2.0%を超えると、炭化物の晶出量が過剰となって熱衝撃に著しく敏感となり、早期に割れを生じるようになる。したがって、Cを含有する場合には、C含有量は2.0%以下とする。また、好ましくは1.8%以下である。炭化物の晶出量と耐熱衝撃性のバランスの観点からより好ましくは1.5%以下である。
【0038】
Al:0.01~0.1%
Alは、脱酸のためにSiやMnと共に添加される。Al含有量が0.01%未満では十分な脱酸効果が得られない。そのため、Alを含有する場合にはAl含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.03%以上である。一方、Al含有量が、0.1%より多いと靱性が低下する。したがって、Alを含有する場合には、Al含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.09%以下である。より好ましくは0.08%以下である。
【0039】
V:0.01~0.1%
Vは微量の添加で炭化物や窒化物になり結晶粒の微細化へ寄与し、靱性も向上する。この効果は、V含有量を0.01%以上とすれば得られる。このため、Vを含有する場合には、V含有量は0.01%以上である。好ましくは0.03%以上である。一方、V含有量が0.1%を超えると、上記の効果は飽和し、硬質な相が形成されることで靭性が低下する。したがって、Vを含有する場合には、V含有量は0.1%以下とする。好ましくは0.08%以下である。より好ましくは0.05%以下である。
【0040】
上記以外の残部は、Feおよび不可避不純物からなる。
【0041】
<プラグの製造方法>
次に、本発明の継目無鋼管圧延用プラグの製造方法について説明する。
【0042】
プラグは一般的な公知の製造方法を用いてよい。例えば、木型やロストワックス工法で作製した枠内に溶かした鋼を流し込む鋳造によって製造する。鋳造まま(鋳肌)の場合、母材表面の粗さは100.00μmを超える。また、母材の表面を観察すると鋳肌では、基準面に対して凸になるような形状で形成されるため、酸化物層が摩耗してくると鋳肌の凸部が剥き出しになるため、その箇所が焼付きを形成させプラグ表面をエグり、変形を促進させる場合がある。したがって、焼付きを抑制するという点から、プラグ母材の表面は、凸形状の粗さであることは好ましくない。焼付きを抑制するにはなるべくプラグの金属肌と被圧延材を接触させないことが重要であるため、プラグ母材の表面は加工による凹形状の粗さが好ましい。
【0043】
本発明のプラグ母材の外表面粗さを達成するには、プラグ母材を、研磨研削または、切削で加工することで得られる。研磨研削は1000番以下の粒度を有する研磨布紙による研磨研削が好ましい。研磨研削の粒度番号は番号が小さいほど粗くなる番手である。研磨布紙による研磨研削には、エメリー紙や、砥石研磨、ラッピング研磨、ポリシング研磨(バフ研磨)、バレル研磨を用いることができ、他に電解研磨などを用いることができる。研磨紙布の粒度番号とは、JIS R 6010で規定される粒度に対して、JIS R 6011やJIS R 6012に規定される方法で測定された粒度を表すものである。JIS規格ではPで表記されるが、本願は一般的に呼ばれている番手(#または番)で表記する。
【0044】
研磨研削の粒度番号を1000番以下とする理由としては、所定の外表面の粗さをRaが0.04μm以上を得るためである。好ましくは240番以下である。一方で、下限については番手が低いほど母材を削りやすいため、少しでも均一に力がかかっていないと面積が小さくなる角部が削られ過ぎてしまい所謂ダレが発生しやすい。このダレが発生すると修正するために全体的に削る必要があり所定の寸法から外れる可能性が出てくる。平行が出しにくいという理由から80番以上とすることが好ましい。
【0045】
研磨布紙を用いた研磨研削、電解研磨を用いた研磨研削、切削加工は粗さの加工は均一に粗さを制御することができるため好ましい。さらにNC旋盤加工などプログラムによって粗さのピッチや深さが制御可能な切削がより好ましい。例えば、切削速度は5~500mm/sec、1回あたりの切削量は0~30μmとすることが好ましく、切削速度は100~300mm/sec、1回あたりの切削量は0~10μmとすることがより好ましい。
【0046】
外表面に粗さをつける加工方法として、他にショットブラストによる方法が考えられるが、ショットブラストは金属破片や砂をエアーなどで押出し、母材にぶつけることで加工を行う方法であり、衝撃により表面加工を行うため、母材表面が凸形状になる可能性がある。また、ショットブラストは使用するほどショット材の形状が変化するため、均一に加工することが難しいと考えられる。粗さが異なる箇所で密着性が変化するため、一部の酸化物層が剥離し焼き付きによるエグレが発生する可能性がある。そのため、ショットブラストによる加工は好ましくない。
【0047】
以上説明したように、本発明では、プラグ母材表面に所定の粗さ加工を施し、場合によっては所定の成分でプラグを製造することで、1度の熱処理であっても(複数回熱処理を繰り返さなくても)、密着性が優れ、耐摩耗性に優れた酸化物層を形成し、過酷な圧延過程を経ても地鉄が表面に露出し難くなる。これにより、プラグ寿命を向上させることができる。
また、単価が高く、高強度化を目的とした合金元素の含有量を少なくしても所望の効果を得られるため、プラグの原単価を削減することができる。
さらに、プラグ寿命を向上させることによりプラグ1個あたりで圧延が可能なパイプの量が増え、製品の製造コストに占める工具単価を減らすことができるため、製造コストを削減することもできる。
【0048】
また、本発明では、前述した継目無鋼管圧延用プラグを備えた継目無鋼管圧延用プラグミル、更には前述した継目無鋼管圧延用プラグを使用した継目無鋼管の製造方法も提供される。
【0049】
さらに、本発明はプラグミル以外の設備、たとえばピアサーやエロンゲータ―に使用するプラグにも適用することが可能である。
【実施例0050】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに説明する。
【0051】
実施例1
酸化物層の密着性を評価するために、熱間ロール摩耗・熱衝撃兼用試験装置を用いてプラグミル圧延の模擬実験を実施し、プラグを模擬した試験片の酸化物層の残厚みと密着性の指標となる酸化物層の剥離状態や焼付き状態の関係を評価した。
【0052】
図2は上記の模擬試験(熱間摺動試験機)の概要図である。具体的には、相手片Rと呼ばれる回転体と酸化物層付けしたサンプルの試験片4を用いた。相手片Rは周囲にコイル5を設置することで加熱が可能で試験中も常に一定の温度になるように設定した。試験片4の寸法は長さ30mm×幅5mm×高さ15mm、相手片Rの寸法はφ190mm×5Lmmとして、試験片4に1分間150kgの荷重で指定温度になった相手片Rを350rpmで接触させた。
【0053】
密着性評価用の試験片は、上記の表1に示す成分組成を有する母材に対して、表2に示す粗さとなるように母材表面に加工した。前記加工は表2に記載する方法で実施しており、水準1~4の切削加工はフライス加工による平面加工や平面研削による平面研削加工にて実施した。また、水準5、6は1000番、3000番のペーパーを用いて砥石研磨という方法で研磨研削を行った。各種試験片については大気雰囲気炉を用いて1185℃で2時間保持して、試験片表面に酸化物層を形成させた。判断基準は以下の通りで評価結果を表2に記載する。
(判断基準)
A(合格、より優れている):酸化物層の剥離箇所はなく、焼付きによるエグレも認められない。
B(合格、優れている):焼付きによる変形(エグレ)はなく、酸化物層の剥離箇所が一部で認められるが、全体の1.0%以下であり、密着性は優れていると判断。
C(合格):局所的に焼付きがあり、相手片に転写疵が認められ、酸化物層の剥離箇所が一部で認められるが、全体の1.0%以下であり、密着性は良好と判断。
D(不合格):酸化物層の剥離が全体で認められ、密着性は不良であると判断。
【0054】
図3に代表的な熱間摺動試験後の試験片4の正面図(上側)と側面図(下側)を示す。側面図は試験後の試験片4を半割り切断し、相手片Rの底R部と接触した中心が見えるように加工し、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX-5000)にて倍率30倍にて相手片接触範囲13を側面から観察した。
【0055】
図3(a)は表2の水準4、図3(b)は水準6の結果である。図3(a)に示すように表2の水準4(Ra0.640μm)は相手片接触範囲13(相手片Rとの接触部)に酸化物層11が試験後も残存しており、エグレ20が発生していないが、図3(b)に示すように水準6(Ra0.025μm)は相手片接触範囲13(相手片Rとの接触部)に母材10の上に酸化物層11は残っておらず、エグレ20が発生しており、密着性が不良である。水準5は母材10の上に一部酸化物層11の剥離が認められたが、剥離箇所は全体の1.0%以下であり、焼付きによるエグレ20は発生していない。
【0056】
加工を施していない鋳肌の水準1は、母材10の上に一部酸化物層11の剥離が認められたが、剥離箇所は全体の1.0%以下であり、プラグにエグレ20は発生していないが、局所的な焼付きが発生しており、相手片に転写疵が認められた。水準1(Ra121.290μm)は水準3(Ra1.180μm)と比べて試験前の酸化物層の厚みは同じであるが、鋳肌ままとすることで凸形状になっており、さらに母材の粗さを大きくすることにより母材より外表面側に存在し、酸化物層が摩耗していった際に母材の金属部がより早く剥き出しになることによって、その箇所が焼付いた。また、相手片Rに疵が認められた。これは母材が粗くし過ぎることによって、熱処理後の試験片表面に粗さに沿った凹凸が形成されたことが原因による転写疵または、部分的な焼き付きによるものだと考えられる。水準2~4は酸化物層の剥離箇所は試験片の全体に渡って認められず、焼付きによる変形(エグレ)も認められなかった。以上の結果を踏まえて、評価結果の序列は、(優秀)A>B>C>Dの序列であり、A、B、Cが得られた水準を密着性が良好であると判断して、A、B、Cの評価結果が得られる試験後の酸化物層の残厚みが0.10mm以上であったものを密着性が合格水準に達していると判断した。
【0057】
実施例2
本実施例で用いたプラグのプラグ母材の成分組成を表3に示す。
鋼No.A~Wを成分組成とするプラグ母材を、大気中(大気雰囲気炉を用いて)において、1185℃で2時間保持することでプラグ母材表面に酸化物層を生成させる熱処理を行い、表4に記載のプラグNo.1~35を得た。
プラグNo.1~21については母材表面にフライス加工の加工方法にて加工を施し、母材の算術平均粗さRaの狙い値を10.00μmとした。プラグNo.22~23についてはプラグ母材に加工を施さず鋳込みままの鋳肌(Raが100.00μm以上)とした。
鋼No.Bを用いたプラグNo.24~27については、母材の算術平均粗さRaの狙い値を100.00~0.01μmまで変化させた。
鋼No.H、K、V、Wを用いたプラグNo.28~31については、母材の算術平均粗さRaの狙い値を1.00μmとした。
なお、上記プラグのRaの実績値は表4に示すとおりである。
【0058】
[評価]
上記の各プラグを用いて、同一の被圧延材に対して、熱間でプラグミル圧延を実施し、プラグ寿命まで圧延した。用いた被圧延材は外径φ223mm×肉厚16.99mm×長さ8mであり、素材規格は0.2質量%C-13質量%Crであった。上記の圧延は、圧下量が減肉率:30%となる圧延条件で行った。また、被圧延材の温度は、放射温度計により測定した外表面の温度で950~1000℃とした。そして、プラグは1度圧延をすると水冷し、プラグの外表面温度が50℃以下になってから、10分間水冷を続けて、再度使用した。
【0059】
プラグ寿命としては、良好な耐摩耗性と変形抑制を実現できているかを評価するという点から以下の基準で判断した。
【0060】
(密着性・耐摩耗性評価)
圧延後、目視でプラグ表面に焼付きが生じていないかを観察し、焼付きが生じていないものは、超音波センサーを利用した非接触厚み測定器(日本パナメトリクス株式会社 37DL PLUS)により測定範囲30mm×30mmにおいて測定された酸化物層の厚みが0.10mm未満の場合、上記の結果を基に、プラグの酸化物層は剥離し、摩耗が生じていると判断して、一方、プラグ表面の全体にわたって酸化物層の厚みが0.10mm以上の場合、プラグに酸化物層は残存しており、摩耗は生じていないと判断した。なお、10回以上の圧延を実施しても、プラグ表面の全体にわたって酸化物層の厚みが0.10mm以上認められたものを◎、5回以上10回未満の圧延を実施しても、プラグ表面の全体にわたって酸化物層の厚みが0.10mm以上認められたものを〇、5回以上10回未満の圧延を実施しても、プラグ表面の概ねの箇所で酸化物層の厚みが0.10mm以上認められたが一部(測定範囲の内10%以下)酸化物層の厚みが0.10mm未満のものを△、5回未満の圧延で上記測定範囲の10%を越えた箇所で酸化物層の厚みが0.10mm未満となったものを×と判断し、その結果を表4に示す。
【0061】
(変形評価)
圧延後、3Dスキャナーによる寸法測定を実施し、10%以上の体積変化が確認された場合、プラグに変形が生じているとして、10%未満の体積変化の場合、プラグに変形は生じていないとした。なお、この評価では、接触温度計を用いて、プラグの表面温度が常温(25℃以下)になったことを確認してから変形の有無を判定した。なお、10回以上の圧延を実施しても、プラグの全体にわたって10%未満の体積変化であったものを◎、5回以上10回未満の圧延を実施してもプラグの全体にわたって10%未満の体積変化であったものを〇、5回以上10回未満の圧延を実施してもプラグの概ねの箇所で10%未満の体積変化であるが局所的に(測定範囲の5%以下)10%以上の体積変化だったものを△、5回未満の圧延でプラグの全体にわたって10%以上の体積変化であったものを×と判断し、その結果を表4に示す。
【0062】
(総合評価判断基準)
◎(合格(より優れている)):10回以上の圧延を実施しても、プラグに摩耗が生じておらず、且つプラグに変形も生じていない(密着性・耐摩耗性評価◎かつ変形特性◎)と判断できた。
○(合格):5回以上10回未満の圧延を実施しても、プラグに摩耗が生じておらず、且つプラグに変形も生じていない(密着性・耐摩耗性評価〇かつ変形特性〇、あるいは密着性・耐摩耗性評価◎かつ変形特性〇、あるいは密着性・耐摩耗性評価〇かつ変形特性◎)と判断できた。
△(合格):5回以上10回未満の圧延を実施しても、密着性・耐摩耗性評価△かつ変形特性△、あるいは密着性・耐摩耗性評価△かつ変形特性〇、あるいは密着性・耐摩耗性評価△かつ変形特性◎、あるいは密着性・耐摩耗性評価〇かつ変形特性△、あるいは密着性・耐摩耗性評価◎かつ変形特性△であると判断できた。
×(不合格):5回未満の圧延で、プラグに摩耗、変形の少なくとも一方が生じている(密着性・耐摩耗性評価×または変形特性×のいずれかを含む)と判断した。
【0063】
結果を表4に示す。
【0064】
本発明例は、Raが0.04μm以上であり、本発明例のプラグは、酸化物層の密着性や耐摩耗性に優れ、十分な変形抑制を実現できた。これにより、コストパフォーマンスが良い高寿命のプラグであることが分かった。本発明例の中でも、特に、粗さが好適範囲かつ、耐摩耗性が高いスピネル型の酸化物層が厚く形成したと考えられるプラグNo.1、2、5、25~26は、より優れた結果を得られた。また、プラグNo.28~29も、元々スピネル型の酸化物層が厚く形成していると考えられるため耐摩耗性が高く、さらにRaを1.00μm前後にすることで酸化物層の密着性が向上し、より優れた結果が得られた。
また、プラグNo.30~31は鋳肌から平面研削加工によりRaを0.81~0.97μmにすることで優れた結果が得られた。No.22、23は鋳肌ままでかつRaは100.00μm超えであり、5回以上10回未満の圧延を実施しても、プラグ表面の一部(測定範囲の内10%以下)で酸化物層の厚みが0.10mm未満であり、局所的に焼付きがあり、相手片に転写疵が認められた。
【0065】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、Raが0.04μm以上を確保できていない、あるいは酸化物層を有していなかった。そのため、比較例のプラグは、酸化物層の高密着性、耐摩耗性、変形抑制の少なくとも一つが所望の効果を得られなかった。
【0066】
実施例3
研磨目の方向が酸化物層の密着性に及ぼす影響を評価するために、表2の水準3の条件において相手片の回転方向に対して母材の研磨目の方向が平行になるもの(プラグ母材の外表面は、前記プラグの圧延方向と平行方向に研磨目を有していることに相当する。)と、垂直になるもの(プラグ母材の外表面は、前記プラグの圧延方向と垂直方向に研磨目を有していることに相当する。)を用意した。研磨目の方向を変えたものを用いて実施例1で使用した熱間摺動試験(図2)を実施した。酸化物層の剥離が全体で認められる状態になるまでの時間を測定し、酸化物層の密着性を評価した。具体的には1分間の試験後に酸化物層の剥離状態含めて密着性を実施例1と同様の評価を行い、A~Cの判定であれば同じサンプルを使用し、上記と同様の試験を再度1分間実施した。これをD判定になるまで繰り返した。評価結果は、下記のとおりである。
相手片の回転方向に対して母材の研磨目の方向を平行に付けたものが3分(3回目の試験でD判定)であった。
相手片の回転方向に対して母材の研磨目の方向を垂直に付けたものが5分(5回目の試験でD判定)であった。
以上より、相手片の回転方向に対して母材の研磨目の方向(粗さ)を垂直にすることで、D判定になるまでの時間を長く要し、つまり酸化物層をより高密着化した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【符号の説明】
【0071】
1 プラグ
2a 圧延弧型(カリバー)ロール
2b 圧延弧型(カリバー)ロール
3 バー
S ホロー
4 試験片
5 コイル
6 圧延方向
7 回転方向
R 相手片
10 母材
11 酸化物層
13 相手片接触範囲
20 エグレ
101 圧延機
201 熱間ロール摩耗・熱衝撃兼用試験装置
図1
図2
図3