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特開2024-147516成分採血中のクエン酸反応のリスクを制御するシステムと方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147516
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】成分採血中のクエン酸反応のリスクを制御するシステムと方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A61M1/02 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024050676
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】63/492,695
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】308020283
【氏名又は名称】フェンウォール、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】グニアデック,トマス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】クエン酸反応の発生リスクを低減した成分採血手順を実行するための方法およびシステム10について説明する。
【解決手段】成分採血の対象者の体水分の体積は、対象者への血液成分の注入中にクエン酸反応が起こる可能性を予測するために使用され、注入された血液成分の最適な流量を確立し、維持することを可能にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分採血対象者におけるクエン酸反応のリスクを制御するための方法であって、
成分採血対象者の身体的パラメータを決定する工程と、
前記身体的パラメータに基づいて前記成分採血対象者の体水分の量を決定する工程と、
前記成分採血対象者に対して成分採血手順を実行する工程であって、前記手順は分離されたクエン酸抗凝固処理血液成分を前記成分採血対象者に注入することを含む工程と、
前記成分採血対象者の前記体水分の量に少なくとも部分的に基づいて、前記成分採血対象者への前記分離されたクエン酸抗凝固処理血液成分の注入の速度を確立する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記成分採血対象者の身体的パラメーターは、体重、ボディマス指数、血漿体積、体外流体の体積の1つ以上から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成分採血対象者の体水分の体積に基づいて、前記流入の速度を調整することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記成分採血対象者の前記体水分の体積が選択された量を超える場合に前記成分採血対象者に対する前記分離されたクエン酸抗凝固処理血液成分の前記注入の速度を増加することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記成分採血対象者の血管系と細胞分離装置との間の流体連通を確立することを含む、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞分離装置の分離器にクエン酸抗凝固処理された血液を導入し、前記クエン酸抗凝固処理血液を2以上の成分に分離することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記分離されたクエン酸抗凝固処理血液成分中のクエン酸の量を決定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記体水分の体積と前記クエン酸抗凝固処理血液成分中の前記クエン酸の量に基づいて、前記成分採血対象者に戻される前記分離されたクエン酸抗凝固処理血液成分の最大の注入の速度を確立することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記成分採血対象者の前記体水分の量は、総体水分、総血漿体積、および、細胞外流体の体積の1つ以上に基づく、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記体水分の量は、前記成分採血対象者の年齢、身長、体重、性別の1つ以上に基づく、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
成分採血手順を実行するためのシステムであって、
細胞分離装置駆動ユニットと、1つ以上のポンプと、制御部とを含む、耐久性の再使用可能なハードウェア装置と、
前記ハードウェア装置に搭載するための使い捨ての流体回路であって、分離室と、成分採血対象者と前記分離室との間に流体連通を確立するための静脈アクセス装置とを含み、前記成分採血対象者から前記分離室に血液を導入するための流路を規定するラインと、分離された血液成分を前記分離室から前記成分採血対象者に注入するためのラインとを含む、前記流体回路とを備え、
前記制御部は、(a)成分採血対象者の前記体水分の体積を決定し、(b)分離された血液成分の前記成分採血対象者への最適な注入の速度を確立し、(c)前記最適な注入の速度で前記1つ以上のポンプの動作を実行するように構成されている、システム。
【請求項12】
前記流体回路は、クエン酸抗凝固剤の供給源に取り付けられるように構成されており、さらに、抗凝固剤を前記成分採血対象者から引き出された血液と組み合わせるための流路を規定するラインを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記血液と組み合わされた前記クエン酸抗凝固剤の体積は、前記成分採血対象者から引き出された血液の量に基づく、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記抗凝固剤の供給源は、重量計に関連付けられたクエン酸抗凝固剤の容器を備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記分離室は、分離された血液成分が通って流れる流体出口を含み、
前記システムはさらに、前記出口と前記成分採血対象者との間の流路を規定する返送ラインを備える、請求項11から請求項14までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記制御部は、さらに、前記分離された血液成分中のクエン酸塩の体積を決定するように構成されている、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記返送ラインは、返送ポンプに関連付けられており、
前記制御部はさらに、前記返送ポンプの動作を実行して前記分離された血液成分を前記最適な注入の速度で注入するように構成されている、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記制御部は、前記体水分の量を成分採血対象者の年齢、体重、身長および性別の1つ以上に基づいて決定するように構成されている、請求項11から請求項17までのいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
前記制御部は、前記成分採血対象者の総血漿体積と細胞外流体体積の少なくとも1つを決定することによって、前記体水分の量を決定するように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記分離室は遠心分離器または回転膜を備える、請求項11から請求項19までのいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分採血システムにおける血液およびその成分の処理および収集に関する。より具体的には、本発明は、成分採血のドナーまたは患者におけるクエン酸反応のリスクを予測し、潜在的に軽減することができる成分採血システムおよび方法に関する。さらに具体的には、本発明は、体内の水分量などの特定のドナー/患者特性に基づいて、ドナーまたは患者におけるクエン酸反応のリスクを予測(および軽減)できる成分採血システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な血液処理システムにより、血液源から全血ではなく特定の血液成分を採取することが可能となっている。通常、このようなシステムでは、血液源から全血が採取され、特定の血液成分または構成要素が分離、除去、収集され、残りの血液成分が血液源に戻される。上記の分離、収集、および返送の工程は、しばしば「成分採血」と呼ばれる。成分採血処置の目的が血小板の採取である場合、その工程は「血小板採取」と呼ばれることがあり、目的が血漿の採取である場合、その工程は「血漿採取」と呼ばれる。
【0003】
特定の成分のみを除去することは、血液源が人間のドナーである場合に特に有利である。なぜなら、ドナーの体が献血前のレベルに戻るのに必要な時間が潜在的に短くなり、全血を採取する場合よりも頻繁に献血を行うことができるからである。さらに、成分採血によって特定の成分のみを除去すると、ドナーから全血を採取して同じ成分収集収量を達成する場合には安全に達成できない体積または量の成分を収集できる場合がある。たとえば、血小板、血漿、赤血球の成分採血では、全血献血で同じ量を採取した場合に献血者の健康にリスクをもたらす可能性のある成分の採取量が生じる可能性がある。ドナー数と献血数が限られているため、これによって輸血や治療に利用できる血漿や血小板などの血液成分の全体的な供給量が増加する。
【0004】
全血は、遠心分離、膜分離、その他の分離技術を使用する装置など、多数の自動化手順のいずれかによってその成分に分離することができる。たとえば、遠心分離では、血液を血液源から抜き取った後、血液源に戻す前に、全血を遠心分離器に通す必要がある。汚染や感染の可能性を減らすために(血液源が人間のドナーまたは患者である場合)、遠心分離工程中は、密閉された滅菌の流体流システム内で血液を処理することが望ましい。一般的な血液処理システムには、遠心分離室部分を含む使い捨ての密封された滅菌流体回路が含まれており、これは、遠心分離室を回転させて流体回路を通る流れを制御するハードウェア(遠心分離器、駆動システム、ポンプ、弁アクチュエータ、プログラム可能な制御部など)を含む耐久性のある再利用可能なアセンブリに連携して取り付けられている。
【0005】
使い捨て流体回路は、通常、手順中に使用される流体を含むバッグなどの追加の構成要素を接続できるように構成されている。これらの流体は、体外での血液凝固を防ぐための抗凝固液、分離された血液成分を長期保存するために添加される保存流体、後で使用するために保存されている血液成分を補充するために患者またはドナーに注入される補充液など、さまざまな目的に使用される。
【0006】
クエン酸ナトリウム、例えば酸性クエン酸デキストロースすなわちACD、またはその他のクエン酸含有溶液は、抗凝固剤として一般的に使用され、ドナーまたは患者(「成分採血対象者」)から全血を採取する際に全血と混合される。全血を成分に分離する際、抗凝固中に全血に添加されたクエン酸の一部が、分離された成分に残る。これには、成分採血対象者に返される成分が含まれる。したがって、成分採血の対象者は、一定量のクエン酸を含む1つ以上の血液成分を受け取る。
【0007】
成分採血対象者へのクエン酸の注入は、血液および体液中のクエン酸濃度を上昇させることにより潜在的に有害となる可能性がある。クエン酸は体内のカルシウムやマグネシウムなどのイオンと結合し、それらのイオンの自由濃度を下げる。特に、遊離カルシウム濃度の低下がクエン酸注入に関連する主な副作用を引き起こすと考えられている。重要なのは、クエン酸は代謝と尿への排泄によって体液からも除去されるということである。したがって、クエン酸注入に関連するリスクは、クエン酸注入速度、クエン酸クリアランス速度、およびクエン酸濃度の上昇の影響に対する個人の生物学的感受性と相対的に考慮することができる。クエン酸中毒の症状には、唇や指のしびれやチクチク感、振動感、金属味、悪寒、震え、ふらつき、圧迫感、筋肉の引きつり、脈拍の速さや遅さ、および/または、息切れなどがある。より重篤な症状としては、筋肉のけいれん、嘔吐、また治療せずに放置すると、心停止および/または発作を含む不整脈が起こることがある。
【0008】
クエン酸反応を軽減および/または予防するための一般的な方法の1つは、成分採血対象者に戻される、または(再)注入される血液成分の流量を減らすか、または制御することである。ただし、これにより、成分採血処置の所要時間が希望よりも長くなり、1日にスケジュールできる成分採血処置の数が減少する可能性がある。治療的成分採血の場合、これによって治療が遅れる可能性があり、それ自体が患者に害を及ぼす可能性がある。
【0009】
現在、クエン酸反応が発生するリスクは、体重に対するクエン酸注入速度(例えば、mg/kg/分)に関連していると理解されている。しかし、体重はクエン酸反応のリスクを予測する理想的な指標ではない可能性がある。
【0010】
体内の水分は、体内でクエン酸が分布する流体成分を表す。特に治療用成分採血の場合、成分採血処置時に体液過剰となる可能性のある重篤な患者が関与することがあり、体内の水分(例えば、クエン酸分布容積)は同じ体重の正常体液量の個人とは著しく異なる可能性がある。さらに、身長や男性か女性かなどの入力パラメータを組み込むことで、すべての成分採血対象者の体水分をより正確に計算できるようになる。
【0011】
したがって、成分採血対象者の特定の他の身体的特徴に基づいて、クエン酸反応のリスクをより確実に予測し、特定の対象者に対しては血液成分の注入速度を安全に増加させ、それによって全体の手順の時間を短縮することができる方法およびシステムを提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0012】
本発明の主題には、以下に記載され、特許請求される装置およびシステムにおいて個別にまたは一緒に具体化され得るいくつかの局面がある。これらの側面は、単独で、または本明細書に記載された主題の他の側面と組み合わせて使用することができ、これらの側面を一緒に記載することは、これらの側面を別々に使用すること、または本明細書に添付された請求項に記載されているように、これらの側面を別々に、または異なる組み合わせで請求することを妨げることを意図するものではない。
【0013】
一態様では、成分採血対象者におけるクエン酸反応のリスクを制御する方法が提供される。この方法は、成分採血対象者の物理的パラメータを決定し、その物理的パラメータに基づいて成分採血対象者の体内の水分量を決定することを含む。成分採血法は、分離されたクエン酸抗凝固処理された血液成分を対象者に注入することを含む。分離されたクエン酸抗凝固処理された血液成分の対象者への注入速度は、成分採血対象者の体水分量に少なくとも部分的に基づく。
【0014】
別の態様では、成分採血手順を実行するためのシステムが提供される。システムには、細胞分離器駆動ユニット、1つ以上のポンプ、および制御部を含む耐久性があり再利用可能なハードウェア装置が含まれている。システムには、ハードウェア装置に取り付けるように構成された使い捨ての流体回路も含まれている。流体回路には、分離室と、成分採血対象者と分離室との間の流体連通を確立するための静脈アクセス装置とが含まれる。回路にはさらに、成分採血対象者から分離室に血液を導入するための流路を規定する流体ラインと、分離された血液成分を分離室から成分採血対象者に注入するための流体ラインとが含まれる。制御部は、(a)成分採血対象者の体水分の体積を決定し、(b)分離された血液成分の対象への注入の最適速度を確立し、(c)最適注入速度で1つ以上のポンプの動作を実行するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1は、本発明に従って使用できる例示的な耐久性のある血液処理システムの斜視図である。
【0016】
図2は、図1の耐久性の流体処理システムと組み合わせて使用可能な使い捨てセットの斜視図である。
【0017】
図3は、図1に示す耐久性のシステムの実施形態に取り付けられた図2に示す使い捨てセットの実施形態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に開示される実施形態は、本発明の主題の説明を提供することを目的としている。主題は、詳細に示されていない他の様々な形態および組み合わせで具体化できることが理解されるであろう。したがって、本明細書に開示された特定の設計および特徴は、添付の請求項に定義されている主題を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
図1は、本開示に従った成分採血システム10を示す。このシステムには、現在イリノイ州レイク・チューリッヒのフェンウォール、インコーポレイテッド(ドイツ、バート・ホンブルクのフレセニウス・カビの子会社)によってAMICUS(登録商標)分離器として販売されている成分採血システムに存在する多くの機能が含まれており、たとえば米国特許第9,176,047号に記載されている。この特許の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
血液処理システム10は、様々な流体を処理するために使用することができるが、全血、血液成分、または生物学的細胞材料の他の懸濁液を処理するのに特に適している。システム10には、流体をその構成部分に分離するための耐久性があり再利用可能な血液分離装置12が含まれている。血液分離装置12およびシステム10の他の要素のより詳細な説明は、米国特許第5,996,634号に記載されており、この特許は参照により本明細書に組み込まれる。図1は遠心分離血液処理システムを示しているが、図示されたシステムは単なる一例であり、本開示に従って他の血液処理システム(フィルターまたは膜ベースの血液分離器、および他の遠心分離器または他の分離システムを含む)が使用されてもよいことを理解されたい。回転膜を使用して血液を成分に分離するシステムは、米国特許第11,383,013号、第10,946,131号、第11,097,042号、第11,285,251号および第11,369,724号に記載されており、これらの特許の内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
血液、血液成分、またはその他の体液を処理するために使用される場合、本開示によるシステム、装置、および方法は、通常、生体である対象(血液または生物学的流体の容器が供給源として機能する、以前に収集された血液または生物学的流体の対語として)で使用される。たとえば、流体の供給源は生きた人間または動物であり、その体液は処理のために装置内に直接引き込まれる。
【0022】
耐久性の血液処理装置12は、使い捨て処理セット14と組み合わせて使用され、その一例を図2に示す。図3は、耐久性の装置12に取り付けられた使い捨てセット14を示す。使い捨てセット14は、使用時にシステム10に搭載される、好ましくは1回限りの使用の使い捨てアイテムである。流体処理手順が完了した後、操作者は使い捨てセット14をシステム10から取り外して廃棄することが好ましい。図2に示す使い捨てセット14は、流体回路の一例に過ぎないことが理解されるべきである。図示の使い捨てセット14は、図1に示すシステム10で使用するのに適しているが、当業者であれば、異なる構成の使い捨てセットが異なる血液処理システムで使用するのに適していることを理解するであろう。
【0023】
使い捨てセット14は、処理室16(図2)を含む。使用時には、装置12は処理室16を回転させて血液成分を遠心分離する。全血は処理室16に搬送され、分離された血液成分は、流体回路の一部を形成する複数の可撓性の管を介して処理室16から搬送される。流体回路にはさらに、装置12の上方に配置された高架吊り具によって支持され、処理中に液体を分配および受け取る複数の容器18が含まれる(図3を参照)。容器18の少なくともいくつかは使い捨てセット14とは別個であり、コネクタ20によってそれに接続されている。コネクタ20の性質は、本開示の範囲から逸脱することなく変更することができる。例えば、コネクタ20は、容器18を穿刺して流体回路と容器18との間の流体連通を確立するように構成されたカニューレであってもよい。滅菌接続装置など、個別の容器を使い捨てセット14に接続するための他のコネクタおよび手段は、当業者には既知であり、本開示の範囲から逸脱することなく使用することができる。好ましくは、使い捨てセット14は、コネクタ20によって容器18を流体回路に無菌接続できる、事前に組み立てられた密閉システムである。
【0024】
使い捨てセット14を通る流体の流れは、様々な方法で制御することができる。一実施形態では、流体の流れは、空気圧、油圧、または可動アクチュエータによって選択的に開閉することができる、事前に形成された流体通路を備えたカセット22を介して制御される。カセットの数は変化する可能性があるが、図示の実施形態では、3つのカセット22があり、遠心分離装置12の弁およびポンプステーションと連動して動作し、血液処理手順中に複数の液体源と供給先の間で液体の流れを誘導する。処理室16に接続された管は可撓性のアンビリクス24につながり、アンビリクス24の他端にある追加の管が処理室16を(アンビリクス24を介して)容器18およびカセット22を含む使い捨てセット14の残りの部分に流体接続する。
【0025】
図示のように、装置12には、場所から場所へ容易に移動できる車輪付きキャビネット26が含まれている。ユーザ操作による処理制御部27が備えられ、操作者は血液処理手順のさまざまな局面を制御できるようになる。遠心分離ローターアセンブリ32は、キャビネット26の前面で引いて開くことができる折り畳み式扉34(図1)の後ろに設けられている。キャビネットの上面には、さまざまなカセット22を収容して制御するための複数の弁およびポンプステーション36(図1)が設けられている。図1に示すように、各ポンプステーション36には、カセット22の嵌合管ループ39を受け入れるように構成された一対の(蠕動)ポンプローター37が含まれる。キャビネット26には、各種の容器18を吊り下げるための複数のフックまたは吊り具38が設けられている。
【0026】
使用時には、折り畳み式扉34が開かれ、使い捨てセット14の処理室16が遠心分離ローターアセンブリ32に取り付けられる。アンビリクス24は、遠心分離ローターアセンブリ32を貫通し、キャビネット26の上部パネルの開口部40から外に出ている(図3)。カセット22は、弁ステーション36とポンプステーション36のそれぞれにスナップ留めされ、容器18は適切な吊り具38から吊り下げられる(図3)。既知の静脈内技術を使用して患者またはドナーに適切な接続が行われた後、操作者は処理制御部27に適切なコマンドを入力して、必要な処理手順を開始する。
【0027】
耐久性のハードウェア装置12には、図1および図3に概略的に示す制御部27などの制御部が含まれている。制御部は、耐久性のあるハードウェア装置12のキャビネット26内に示されているが、装置12の別の部分に組み込まれる場合もある。制御部27は、本明細書に記載の実施形態によれば、プログラム可能なマイクロプロセッサを含み、血液処理装置12およびシステム10を工程に従って動作するようにプログラムすることができる。
【0028】
他の実施形態によれば、制御部は、本明細書に記載された動作を実行するように設計された1つ以上の電気回路を含み得る。さらに、制御部には1つ以上のメモリが含まれる場合がある。マイクロプロセッサをプログラムする命令は、マイクロプロセッサに関連付けられたメモリに格納され得、このメモリには、コンピュータ実行可能命令が格納されている1つ以上の有形の非一時的なコンピュータ読み取り可能なメモリが含まれる可能性があり、マイクロプロセッサによって実行されると、マイクロプロセッサは、以下に説明する1つ以上のアクションを実行できる。
【0029】
制御部27は、血液処理装置12の1つ以上の構造、および使い捨てセット14の構造に結合され、例えば、これらの構造から情報(例えば、信号の形態で)を受信したり、これらの構造にコマンド(例えば、信号の形態で)を提供して構造の動作を制御したりすることができる。制御部は、センサ、弁、ポンプに接続され、それらの装置にコマンドを提供して、それらの動作を制御することができる。制御部が、すでに述べた構造のいずれかのような特定の構造から情報を受信したり、その構造にコマンドを提供したりすることも可能である。制御部27は、これらの構造物に直接電気的に接続されて結合されてもよいし、これらの構造物に直接接続されて結合される他の中間機器に直接接続されてもよい。
【0030】
制御部27は、少なくとも1つの血液処理手順を実行するように構成および/またはプログラムされているが、より有利には、分離部分および返送部分を含み得る複数のタイプの血液処理手順を実行するように構成および/またはプログラムされている。
【0031】
より具体的には、血液処理手順を実行する際に、制御部は、ある構成要素から別の構成要素への流体の流れおよび流体の量を制御するように構成および/またはプログラムされる。これには、手順中の特定の時点で弁を開閉するように指示したり、ある容器から別の容器への流体の移送を開始したりすることが含まれる。したがって、本明細書では血液処理システムの特定の構成要素が特定の機能を実行すると説明されているが、その構成要素は制御部によって制御されてその機能を開始および/または実行していることが理解されるべきである。
【0032】
ユーザーインターフェース画面30(例えば、タッチスクリーン)は、血液処理装置12(図1および図3に示すように)に関連付けられ得る。ユーザーインターフェイス画面30により、操作者は装置12のシステム制御部27(マイクロプロセッサなど)と対話して、制御部に指示(特定の手順を実行するなど)を出すことができるほか、成分採血対象者の特性やその他のパラメータの入力など、手順中に使用される情報を制御部に提供することもできる。ユーザーインターフェース画面30は、操作者に指示(例えば、使い捨てセット14と血液源を接続または切断する)や情報(例えば、使い捨てセット14の流体流路の詰まりを操作者に警告する)を提供し、手順のステータスを提供するディスプレイとしても機能する。
【0033】
成分採血処置の一例では、全血または1つ以上の血液成分を含む流体が、瀉血針15またはその他のアクセス装置によって使い捨てセット14に吸引される(図2)。凝固を減らすために、容器18の1つ(例えば18a)からの流体にライン21を介してクエン酸抗凝固剤が添加される。抗凝固処理された血液は、吸引/入口ライン17を介して処理室16に流入し、そこで相対密度に基づいて少なくとも2つの成分(例えば、赤血球などの比較的高密度の成分と、多血小板血漿などの比較的低密度の成分)に分離される。成分の1つ(一実施形態では高密度成分)は、処理室16からポンプで送り出され、貯蔵容器として機能する容器18の1つ(例えば18b)に送り込まれる。貯蔵容器には一定量の保存流体が供給されてもよいし、あるいは保存流体が他の容器18の1つ、例えば18cから貯蔵容器に追加されてもよい。他の成分(一実施形態では低密度成分)は、処理室16からポンプで送り出され、返送ライン19を介して血液供給源に戻される。前述のように、返送ライン19を通じて成分採血対象者に返送される成分には、一定量のクエン酸抗凝固剤(抗凝固処理された全血に由来するもの)が含まれる。分離後に選択された血液成分を貯蔵容器に貯蔵することによって生じた血液体積の不足を補うために、血液源に戻される流体に、生理食塩水(容器18dから)などの補充液を追加することができる。
【0034】
ここで、本開示に従って成分採血手順を実行する方法について説明すると、成分採血対象者に返される成分の流量を決定する際に、体水分などのドナー特性を使用することで、クエン酸反応のリスクを予測し、少なくとも部分的に軽減することができる。対象者と体水分の体積または割合に応じて、流量を安全に増加させることができ、それによって成分採血手順の所要時間を短縮できる可能性がある。
【0035】
「体水分」には、対象者の総体水分、血漿の体積、細胞外流体の体積すなわちECFVが含まれ得る。体水分は、実験的に導き出された方程式、ドナーまたは患者の生理学的測定値、あるいはそれらの組み合わせから計算できる。一実施形態では、体水分の体積は、男性および女性に対するワトソンの式に従って、対象者の年齢、身長、体重、および性別のうちの1つ以上に基づいて算出される。ワトソンの式を使用すると、男性の体内総水分(TBW)の体積(リットル)は、2.447-(0.09145×年齢)+(0.1074×身長(センチメートル))+(0.3362×体重(キログラム))=体内総水分(TBW)(リットル)として算出できる。同様に、ワトソンの式を使用すると、女性の体内総水分の体積(リットル)を算出できる。-2.097+(0.1069×身長(センチメートル))+(0.2466×体重(キログラム))=体内総水分(TBW)(リットル)。ワトソンら「成人男性および成人女性の体内総水分の体積の簡単な人体測定による推定」The American Journal of Clinical Nutrition、第33巻、1980年1月、27~39ページを参照。この内容は参照により組み込まれている。体内総水分(TBW)を計算するその他の方法については、カストロら「慢性血液透析患者の透析前体内水分量を推定する式」、American Journal of Biomedical Science & Research、9(5)(2020)に記載されている。(https://biomedgrid.com/pdf/AJBSR.MS.ID.001436.pdf)。
【0036】
上述のように、「体水分」は、対象者の体重、身長、性別、ヘマトクリット値の1つ以上を使用して算出できる対象者の総血漿体積(TPV)を指すこともあり得る。対象者のTPVを決定する方法は、米国特許第11,383,013号、第10,946,131号、第11,097,042号、第11,285,251号および第11,369,724号に記載されており、これらの特許の内容はすべて参照により本明細書に組み込まれる。上記の特許に記載されているように、TPVは、確立されたFDAノモグラムまたはその他のガイドラインに記載されている体重または体重範囲を参照して推定できる。
【0037】
「体水分」は、本明細書に参照により組み込まれる国際出願公開第WO2023/027780号に記載されているように、ドナーまたは患者の細胞外流体の体積すなわちECFVであってもよい。細胞外流体には、間質液、血漿、リンパ液、経細胞液(脳脊髄液、消化管内の流体など)が含まれる。細胞外流体の量は、さまざまな方法で推定または計算できる。一例では、ドナーの細胞外流体の体積(ECFV)は、ドナーの体重(BM)と身長(H)に基づいて次のように算出される。ECFV(L)=0.02154×BM0.6469(kg)×H0.7236(cm)。ここで、ECFVはリットル、BMはキログラム、Hはセンチメートルで表される。バードら「小児に適した糸球体濾過率の指標化」J. Nucl. Med 2003;44:1037-1043(バード 2003)。SI単位系の別の表現は、ECFV(L)=0.6032×BM0.6469(kg)×H0.7236(m)で、Hはメートル単位で表される。
【0038】
別の例では、ドナーの細胞外流体の体積(ECFV)は、ドナーの体重(W)と身長(H)に基づいて、ECFV(L)=aWとなり、ここで、女性の場合、a=0.0399、b=0.6065、c=0.6217、男性の場合、a=0.0755、b=0.6185、c=0.4982となり、体重(W)はキログラム単位で表され、身長(H)はセンチメートル単位で表される。バード,エヌ、ジェイおよびビータース,エー、エム「成人の身長と体重から細胞外液量を推定する新しい性別固有の計算式」、Nuclear Medicine Communications、42:58-62(2021)(バード 2021)。
【0039】
別の例では、ドナーの細胞外流体の体積(ECFV)は、ドナーの体重(BM)と身長(H)に基づいて、ECFV(L)=√(BM(kg))×H(m)とすることができる。ここで、ECFVはリットルで表され、BMはキログラムで表され、Hはメートルで表される。エイブラハムら「慢性腎臓病小児における細胞外体積と糸球体濾過率」Clin. J. Am. Soc. Nephrol. 2011年4月6(4):741-747。
【0040】
別の例では、ドナーの細胞外流体の体積は、体重(BM)と身長(H)に係数をかけて算出され、ECFV(L)=0.96×BM0.51×H0.96となる。
【0041】
別の例では、細胞外流体の量は、ドナーの体重(BM)に基づいて細胞外流体の重量(ECFW)として計算することができ、ECFW(kg)=0.135×BM(kg)+7.35kgであり、ECFWおよびBMはキログラム単位で表される。
【0042】
さらに別の例では、ドナーの細胞外流体の体積(ECFV)は、ドナーの体重(BM)と身長(H)に基づいて、ECFV(L)=0.0682×BM0.400(kg)×H0.633(cm)のように算出され、ECFVはリットル、BMはキログラム、Hはセンチメートルで表される。フリース・ハンセン「小児の体内水分コンパートメント:成長過程の変化とそれに伴う体組成の変化」Pediatrics、第28巻第2号、1961年8月。
【0043】
フリース・ハンセンのさらに別の例では、ドナーの細胞外流体の体積(ECFV)は、体重(BM)のみに基づいて次のように表される。ECFV(L)=0.583×BM0.678。ここで、ECFVはリットルで表され、BMはキログラムで表される。
【0044】
他の例では、細胞外流体の量は、まず既知のアルゴリズムを使用して総体液(TBF)の量を計算し、細胞内液(ICF)の量を計算し、TBFからICFを減算することによって計算することができる。細胞外流体の他の計算および/または推定も考慮される。
【0045】
ユーザインターフェース画面30を使用して、操作者は、体内水分を推定するためにどの方法を使用するかを選択することができる。システムには、操作者が選択できるように、上記のさまざまな計算方法が事前にプログラムされている場合がある。選択すると、制御部27の指示の下、システムは、選択された体水分計算方法(例えば、総体水分、総血漿体積、ECFVなど)について、身長、体重、性別、年齢など、ドナーまたは患者の必要な生理学的特性を入力するように操作者に指示する場合がある。制御部は推定の体内水分の体積を計算する。計算または推定された体水分の体積と、返送される成分内のクエン酸の推定量(以下で説明)に基づいて、システムは、以下で説明するように、成分採血手順に適した安全な返送流量を確立する。
【0046】
返送される成分中のクエン酸の量は、全血採取中に全血に添加されるクエン酸溶液の組成を含むいくつかの要因によって決まる。成分採血処置で一般的に使用される抗凝固剤には、通常、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、デキストロースが含まれ、酸性クエン酸デキストロース溶液 A(ACD-A)と酸性クエン酸デキストロース溶液B(ACD-B)が含まれる。ACD-Bは、クエン酸塩、クエン酸、デキストロースの濃度が低いという点でACD-Aと異なる。クエン酸、デキストロース、リン酸ナトリウム緩衝液を含むクエン酸リン酸デキストロース(CPD)など、クエン酸塩を含むその他の抗凝固剤も知られているが、成分採血法ではACD-AまたはACD-Bが好まれる場合がある。
【0047】
クエン酸溶液(抗凝固剤)の組成に加えて、ドナーまたは患者に返送されるクエン酸の量は、ドナーまたは患者から採取された全血と混合されたクエン酸溶液の量にも依存する。通常、抗凝固剤と全血の相対量は、クエン酸溶液の体積に対する全血の比率(体積)として確立され、返送される成分中のクエン酸の量を決定するために使用できる。成分採血処置における一般的な抗凝固剤に対する全血の比率(WB:AC比率)は10:1から16:1の範囲であるが、他の比率が使用される場合もある。上記の要因と返送ラインの流量を使用して、クエン酸注入速度を決定する。
【0048】
クエン酸注入速度および/または血液成分の返送速度を決定する際に考慮され得る(および成分採血装置の制御システムにプログラムされる)他のパラメータは、ドナーのヘマトクリット(Hct)であり、これはドナーのクエン酸代謝能力を示す可能性がある。ヘマトクリットは、処置の開始時および/または処置中に測定されることがある(処置の過程でドナーのHctが変化する可能性があるため)。ヘマトクリットは、成分採血システムの選択された流路の近くに配置されたセンサ、および/または装置の分離室16(図3)で血液成分が分離されているときの血液成分の界面に配置されたセンサを使用して光学的に決定できる。
【0049】
適切なクエン酸注入速度を決定する際に考慮され得る(また、装置の制御システムにプログラムされる)さらに他の情報としては、以前の献血中のクエン酸反応のタイミングや重症度など、特定の献血者の履歴データが挙げられる。
【0050】
返送流量の制御は、1つ以上の方法で達成することができる。一実施形態では、成分採血対象者の体水分の体積または体水分率が「高い」場合、システムは「通常よりも高い」返送流量を確立し、制御部は戻りポンプ36を作動させて、確立された流量を達成するようにポンプ速度を維持する。制御部には、事前にプログラムされた体水分の閾値が含まれ、これにより、体水分の体積または体水分率が閾値を超える成分採血対象者の場合、制御部は通常よりも高い返送流量とポンプ速度を確立することになる。体水分の閾値を下回る対象者には、より遅い流量またはデフォルトの流量と低下されたポンプ速度で成分が返される。
【0051】
返送流量は60~120mL/分の範囲であるが、他の範囲が使用され、および/または他の要因に基づいて範囲が調整されてもよい。たとえば、返送流量は、返送ラインの針が挿入される静脈の口径によっても(かなり大きく)左右されることがある。
【0052】
あるいは、予め設定された閾値または「カットオフ」を持つのではなく、最大流量は、患者/ドナーの総体水分と返送流体中のクエン酸含有量に基づいて制御部によって決定されてもよい(すなわち、総体水分1mLあたりの最大クエン酸注入速度を設定する)。最大クエン酸注入速度は、一例として、111mL/分、110mL/分、109mL/分などであるが、いずれの場合も、制御部に事前にプログラムされた厳密な最大値を下回る。事前にプログラムされた最大値は、高い注入圧力によってドナー/患者の静脈が破裂しないようにするための安全設定を提供する。
【0053】
さらなる実施形態では、処置が進むにつれてクエン酸がドナー/患者の体内に徐々に蓄積する可能性があることを考慮して、処置中に最大注入速度(最大クエン酸注入速度)が変化する場合がある。したがって、最大注入速度は、成分採血手順の開始時には高くなり、手順の終了近くになると徐々に低下する可能性がある。最適な設定はドナーごとに異なる場合があり、センターでの慣行(処置の開始時にカルシウムサプリメントを投与するかどうかなど)によっても異なるため、時間の経過に伴う注入速度の変化は操作者/ユーザーによって調整できる場合がある。
【0054】
上記の説明は、例示のみを目的としており、上記で明示的に記載されている場合を除き、本発明の範囲を本明細書で説明する特定の方法、システム、装置、または装置に限定することを意図したものではない。
図1
図2
図3
【外国語明細書】