(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147520
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】熱交換用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20241008BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C09K5/10 F
F28D20/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056731
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023060331
(32)【優先日】2023-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399040313
【氏名又は名称】谷川油化興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】神田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】山田 輝
(72)【発明者】
【氏名】原田 仁
(57)【要約】
【課題】製造に際して、使用するエネルギーが少ない熱交換用組成物を得ることが望まれる。
【解決手段】熱交換用組成物は、留分と、リン酸及び/又はリン酸塩とを含む。留分は、エチレングリコール及び水を含み、エチレンオキサイド及び水の混合物の高沸点成分である。水は40~85重量部、エチレングリコールは10~55重量部、ジエチレングリコールは0.5~5重量部である。熱交換用組成物のpHは7.0~8.5である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコール及び水を含み、エチレンオキサイド及び水の混合物の高沸点成分である留分と、
リン酸及び/又はリン酸塩と、を含み、
水40~85重量部、エチレングリコール10~55重量部、ジエチレングリコール0.5~5重量部を有し、
pHが7.0~8.5であることを特徴とする熱交換用組成物。
【請求項2】
リン酸及びリン酸塩の合計含有量が0.5~2.0重量部であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用組成物。
【請求項3】
リン酸塩は、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム及び、リン酸2水素ナトリウムのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用組成物。
【請求項4】
ギ酸及び/又はギ酸塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱交換用組成物。
【請求項5】
前記留分は、エチレン及び酸素を触媒の存在下で気相接触酸化して得たエチレンオキサイドを含む反応ガスを水で処理した処理物において、エチレンオキサイドが低沸点成分として分離された高沸点成分であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造に際して、追加のエネルギーの消費が極めて少ない熱交換用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の装置を冷却するに際して使用される熱媒体としては、水を始めとして多くの液体が使用されている。この液体としては、安価で熱安定性に優れ、しかも凝固点を広い範囲で制御できることから、水とグリコール系化合物の混合物が広く用いられている。
【0003】
一方、地球規模での温暖化に対して世界的に二酸化炭素の発生を抑える動きが進んでおり、使用する材料を製造するに際して、排出するであろう二酸化炭素の量を厳しく問う動きが盛んになっている。
【0004】
上述のグリコール系化合物であるエチレングリコールは、工業的には、まず、エチレンを酸素と銀系触媒で反応させてエチレンオキサイドを製造した後、エチレンオキサイドと水を反応させることで製造される。グリコール系化合物を分離精製するには過大なエネルギーを必要とし、結果的に多量の二酸化炭素を排出することになるため、二酸化炭素の排出量の削減ができるようなグリコール系化合物を含む混合物が得られることが望まれる。
【0005】
エチレングリコールを分離精製する方法として、エチレンオキサイドを含む反応ガスを吸収液で洗浄してエチレンオキサイドを吸収液に吸収させ、吸収液からエチレンオキサイドを放出させ、吸収液を陽イオン交換樹脂でクロマト分離することでエチレングリコール水溶液を精製する方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載の精製方法は、蒸留分離に比較すれば大幅にエネルギーを削減できると考えられるが、使用する陽イオン交換樹脂の製造、再生に要するエネルギーが必要である。また、エチレングリコール水溶液は展開剤である水により希釈されるため、熱交換用組成物とするためには、精製されたエチレングリコール水溶液から、水を除去して濃縮する必要があり、相当量のエネルギーを必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題を解決して、製造に際して、使用するエネルギーが少ない熱交換用組成物を得ることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題を解決する方法について鋭意検討し、エチレングリコールをプロセス内で分離精製することなく、エチレンオキサイドを分離精製する際の残渣をベースに調合して特定の化合物を組み合わせた熱交換用組成物とすることで上記問題が解決できることを見出し本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明である熱交換用組成物は、エチレングリコール及び水を含み、エチレンオキサイド及び水の混合物の高沸点成分である留分と、リン酸及び/又はリン酸塩とを含む。ここで、水を40~85重量部とし、エチレングリコールを10~55重量部とし、ジエチレングリコールを0.5~5重量部とする。また、熱交換用組成物のpHを7.0~8.5とする。
【0010】
リン酸及びリン酸塩の合計含有量を0.5~2.0重量部とすることができる。リン酸塩としては、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム及び、リン酸2水素ナトリウムのうちの少なくとも1つを用いることができる。
【0011】
熱交換用組成物には、ギ酸及び/又はギ酸塩を含めることができる。また、上述した留分としては、エチレン及び酸素を触媒の存在下で気相接触酸化して得たエチレンオキサイドを含む反応ガスを水で処理した処理物において、エチレンオキサイドが低沸点成分として分離された高沸点成分とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱交換用組成物は、従来のエチレングリコール系組成物と同様の性能を有し、しかもその製造に際して使用するエネルギーを低減することが可能となり、工業的に極めて価値のあるものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明である熱交換用組成物は、後述する留分と、リン酸及び/又はリン酸塩を含む。熱交換用組成物のベースとなる留分は、エチレングリコール及び水を含んでおり、以下に説明する工程において、高沸点成分として回収される回収液である。
【0014】
触媒(銀系触媒など)を用いてエチレンを酸素で酸化することによりエチレンオキサイドが得られる。そして、エチレンオキサイドを含む反応ガスを水で処理することにより、エチレンが分離され、水に溶解したエチレンオキサイドはストリッピング塔などで分離される。ここで、水にはエチレンオキサイド及びエチレングリコールが溶解しており、エチレンオキサイドは低沸点成分として分離でき、エチレングリコールは高沸点成分として分離できる。このように分離され、エチレングリコール及び水を含む留分を熱交換用組成物として用いることができる。
【0015】
熱交換用組成物は、リン酸及びリン酸塩のうちの少なくとも1つを含有させることができる。リン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩を用いることができ、例えば、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム及び、リン酸2水素ナトリウムが挙げられる。複数種類のリン酸塩を併用することもできる。
【0016】
熱交換用組成物にリン酸及び/又はリン酸塩を含有させることにより、熱交換用組成物のpHを7.0~8.5に調整することができる。リン酸やリン酸塩を用いたときの合計の含有量は0.5~2.0重量部とすることができる。
【0017】
熱交換用組成物は、有効成分として、水を40~85重量部、エチレングリコールを10~55重量部、ジエチレングリコールを0.5~5重量部含む。ここで、熱交換用組成物を構成する成分の合計量が100重量部となるように、水、エチレングリコール、ジエチレングリコールを上述した含有量の範囲内で決めることができる。
【0018】
なお、熱交換用組成物には、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール以外の成分が含まれていてもよい。例えば、エチレングリコールやジエチレングリコールのほかに、トリエチレングリコールを含有させることができる。
【0019】
熱交換用組成物には、ギ酸及びギ酸塩の少なくとも一方を含有させることができる。ギ酸塩としては、ギ酸のアルカリ金属塩を用いることができ、例えば、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウムが挙げられる。複数種類のギ酸塩を併用することもできる。ギ酸やギ酸塩を用いたときの合計の含有量は0.3~2.0重量部とすることができる。
【0020】
熱交換用組成物には、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン及びベンゾトリアゾールのうち、少なくとも1つを含有させることができる。水酸化ナトリウムやベンゾトリアゾールの含有量は0.10重量部以下とすることができる。また、トリエタノールアミンの含有量は0.3~1.0重量部とすることができる。
【実施例0021】
[実施例1]
銀触媒の存在下、エチレンを酸素で気相酸化して得たエチレンオキサイドを含む反応ガスを水で処理する工程を含むエチレンオキサイドの製造工程において、エチレンオキサイドを低沸点成分として分離し、高沸点成分として分離される留分1Aを用意した。この留分1Aの組成は、後述する表1に示すように、エチレングリコールが30重量部、水が67重量部、ギ酸ナトリウムが1重量部、ジエチレングリコールが2重量部であった。
【0022】
100重量部の留分1Aに3重量部の水を加えて合計103重量部とし、熱交換用組成物の母液を用意した。
【0023】
この母液に、リン酸、リン酸塩、トリエタノールアミンを添加して、実施例1である熱交換用組成物を製造した。ここで、リン酸及びリン酸塩を添加することにより、熱交換用組成物のpHを8に調整した。リン酸塩として、リン酸ナトリウム及びリン酸カリウムを用いた。リン酸ナトリウムとして、リン酸二水素一ナトリウム0.2重量部、リン酸水素二ナトリウム0.5重量部を添加した。また、リン酸カリウムとして、リン酸二水素カリウム0.6重量部、リン酸水素二カリウム0.2重量部を添加した。更に、トリエタノールアミンの含有量を1重量部とし、リン酸の含有量を0.6重量部とした。この熱交換用組成物について、分析評価を行った。
【0024】
分析評価の結果は、後述する表2に示す。表2では、評価項目として、金属腐食性、炭酸ガス削減量及び凝固温度を示す。表2において、実施例1,2及び比較例1では、留分100質量部に対して水を加えているため、組成の合計が100重量部となるように、各成分の含有量を計算しなおしている。
【0025】
金属腐食性の評価では、アルミニウム鋳物及び鋳鉄でそれぞれ形成された金属試験片を用い、金属腐食性試験(JIS K2234)に準拠して、実施例1~3及び比較例1~3の熱交換用組成物に金属試験片を浸漬させた。
【0026】
金属腐食性の評価は、目視で行い、腐食が見られないものを「A」とし、金属試験片の表面積に対して10%未満の面積に腐食が見られるものを「B」とし、金属試験片の表面積に対して10%を超える面積に腐食が見られるものを「C」として評価した。
【0027】
炭酸ガス削減量の評価では、実施例1で使用した熱交換用組成物の留分1Aを蒸留操作してエチレングリコールを精製して取り出し、実施例1と同じ組成を有する熱交換用組成物を製造する場合の炭酸ガス排出量を算出し、この炭酸ガス排出量を基準として、炭酸ガス削減量を算出した。即ち、下記表1の留分1Aから精製したエチレングリコールを用いて、実施例1と同じ組成の熱交換用組成物(基準組成物)を得るときの炭酸ガス排出量を基準とする。
【0028】
上述した基準組成物を製造する場合には、実施例1の熱交換用組成物を製造する場合に対して、留分1Aからエチレングリコールを精製するときの炭酸ガス排出量が加算されることになる。このため、実施例1の熱交換用組成物を用いたときに削減される炭酸ガス排出量(言い換えれば、炭酸ガス削減量)は、基準組成物の製造において、留分1Aの蒸留に由来する炭酸ガス排出量に相当する。
【0029】
炭酸ガス削減量が過大とならないように、留分1Aの蒸留に伴う炭酸ガス排出量は、以下に説明するように、蒸留に要するエネルギー(蒸留エネルギー)の計算式から求められる。ここで、蒸留エネルギー以外は、炭酸ガス削減量に算入しないものとする。
【0030】
また、下記表1に示すように、留分1Aの主成分は水及びエチレングリコールであるため、蒸留エネルギーの算出対象は、水とエチレングリコールのみとする。
【0031】
蒸留エネルギー=蒸発潜熱+昇温顕熱+蒸留ガス回収用触媒の冷却エネルギー(冷水塔のエネルギー)+蒸留用ポンプの駆動エネルギー
【0032】
下記表2に示す炭酸ガス削減量は、熱交換用組成物を10万トン製造した場合において、基準組成物の炭酸ガス排出量と、他の熱交換用組成物の炭酸ガス排出量との差(削減量)である。実際の炭酸ガス排出量は、上述した蒸留エネルギー以外のエネルギーに起因する炭酸ガス排出量も含まれることになるため、表2においては、炭酸ガス削減量を、上記蒸留エネルギーから算出された炭酸ガス削減量以上と表示している。
【0033】
上述した蒸留エネルギーを炭酸ガス排出量に変換するときには、上述した蒸留エネルギーからA重油の燃焼時に必要となるエネルギー量を算出し、A重油の燃焼でもたらされる炭酸ガス排出量として算出する。
【0034】
ここで、A重油の燃焼エネルギーの効率は90%とし、A重油の発熱量は39MJ/Lとし、炭酸ガス排出量は2.71-CO2kg/A重油とする(環境省基準)。
【0035】
また、蒸留エネルギーの算出において、水の蒸発潜熱は2442kJ/kgとし、エチレングリコールの蒸発潜熱は800kJ/kgとする。
【0036】
下記表2に示すように、実施例1では、基準組成物と比較し、炭酸ガス削減量が大きく、金属腐食性はなく、凝固点は目標レベルに到達していた。
【0037】
[比較例1]
実施例1である熱交換用組成物の組成に対して、リン酸及びリン酸塩を用いることなく、比較例1である熱交換用組成物を製造した。ここで、リン酸及びリン酸塩を用いていないため、比較例1の熱交換用組成物ではpHを調整していない。下記表2に示すように、比較例1では、実施例1と比べて、金属腐食性が劣っていた。
【0038】
[比較例2]
実施例1の留分1Aを用いることなく、実施例1の熱交換用組成物と同じ成分の試薬を混合して比較例2である熱交換用組成物を製造した。実施例1と比べて、比較例2では、ギ酸ナトリウム、リン酸及びリン酸塩を用いていない。下記表2に示すように、比較例2では、実施例1と比べて金属腐食性が劣っているとともに、炭酸ガスの削減効果が無かった。
【0039】
[実施例2]
母液の水の添加量を100重量部とした他は、実施例1の熱交換用組成物と同じ成分を有するように実施例2である熱交換用組成物を製造した。実施例2では、凝固点が目標レベルに到達し、金属腐食性はなく、比較例2と比べて炭酸ガス削減効果が認められた。
【0040】
[比較例3]
比較例2である熱交換用組成物と同じ成分である試薬を混合して比較例3である熱交換用組成物を製造した。比較例3では、比較例2と比べて、熱交換用組成物を構成する各成分の含有量が異なっている。下記表2に示すように、比較例3では、比較例2と比べて、凝固温度が上昇した。
【0041】
[実施例3]
母液として、下記表1に示す留分1Bを用い、水を添加せずに、実施例3である熱交換用組成物を製造した。実施例3では、実施例1で用いられたリン酸を省略し、リン酸の代わりに、水酸化ナトリウムを0.005重量部添加した。また、実施例3では、実施例1で用いられていたトリエタノールアミンを省略し、トリエタノールアミンの代わりに、ベンゾトリアゾールを0.10重量部添加した。他の成分については、実施例1と同様であり、実施例1,2と同様にpHを8に調整した。ここで、リン酸ナトリウムとして、リン酸二水素一ナトリウム0.5重量部、リン酸水素二ナトリウム0.5重量部を添加するとともに、リン酸カリウムとして、リン酸二水素カリウム0.6重量部、リン酸水素二カリウム0.2重量部を添加した。下記表2に示すように、実施例3では、基準組成物と比較し、炭酸ガス削減量が大きく、金属腐食性はなく、凝固点は目標レベルに到達していた。
【0042】
【0043】