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特開2024-147597多重化した患者サンプル中のテストステロンのマススペクトロメトリーによる決定
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  • 特開-多重化した患者サンプル中のテストステロンのマススペクトロメトリーによる決定 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147597
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】多重化した患者サンプル中のテストステロンのマススペクトロメトリーによる決定
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241008BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20241008BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/88 E
G01N30/06 E
G01N30/72 C
G01N33/74
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106593
(22)【出願日】2024-07-02
(62)【分割の表示】P 2023125964の分割
【原出願日】2019-03-15
(31)【優先権主張番号】62/644,351
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517308264
【氏名又は名称】クエスト ダイアグノスティックス インヴェストメンツ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドマン,ミルドレッド エム.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドマン,スコット
(72)【発明者】
【氏名】コレティ,ジュリエット
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ニゲル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】異なる質量の少なくとも2つの異なる誘導体化薬を利用する、テストステロンをハイスループット定量する方法が、提供される。
【解決手段】単一のマススペクトロメトリーアッセイで、複数のヒトサンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を決定する方法であって、
i)複数のヒトサンプルのそれぞれを、異なる誘導体化薬に付して、前記複数のサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること、ここで、前記誘導体化薬は、塩化ヒドロキシルアミン及び塩化メトキシルアミンを含む、
ii)前記複数のサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること、
iii)前記複数のサンプルを固相抽出で精製すること、及び
iv)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化すること
を含む、方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のマススペクトロメトリーアッセイで、複数のヒトサンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を決定する方法であって、
i)複数のヒトサンプルのそれぞれを、異なる誘導体化薬に付して、前記複数のサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること、
ii)前記複数のサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること、及び
iii)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記誘導体化薬が、塩化ヒドロキシルアミン及び塩化メトキシルアミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体クロマトグラフィーを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記液体クロマトグラフィーが、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記液体クロマトグラフィーが、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン化が、加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン化が、陽イオンモードである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
304.18±0.5及び318.21±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ又は複数の前駆イオンの量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
112.05±0.5、124.05±0.5、126.07±0.5、138.07±0.5、及び152.08±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ又は複数のフラグメントイオンの量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
内部標準を添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記内部標準が、同位体で標識されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
307.19±0.5及び321.21±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ若しくは複数の内部標準前駆イオン、又は127.06±0.5及び129.07±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ若しくは複数のプロダクトイオンの量を測定することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
方法の定量限界が、1ng/dL未満、又はそれに等しい、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
1ng/dL~2,000ng/dLの範囲にわたり定量の直線性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
完全に自動化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
抗体を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記サンプルが、血清である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願に対する相互参照
本出願は、2018年3月16日出願の米国仮特許出願第62/644,351号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
テストステロン(4 アンドロステン 17β-オール-3-オン)はステロイドホルモンであり、男性における主要なアンドロゲンである。男性におけるテストステロン低下の主要な原因として、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症、精巣機能不全、高プロラクチン血症、下垂体機能低下症、いくつかの種類の肝臓及び腎臓の疾患、及び重要な疾病が挙げられる。
【0003】
女性では、アンドロゲンのレベルが正常であれば、エストロゲン産生の基盤を提供し得る。女性で血清テストステロンレベルが上昇すると、それは、様々な状態の中でもとりわけ多嚢胞性卵巣症候群及び副腎皮質過形成症を示唆し得る。女性におけるテストステロン過剰の臨床症状として、不妊症、多毛症、無月経症、及び肥満が挙げられる。
【0004】
テストステロンの正確且つ効率的な測定が必要とされる。
【発明の概要】
【0005】
本明細書において、異なる質量の少なくとも2つの異なる誘導体化薬を利用する、テストステロンをハイスループット定量する方法が提供される。
【0006】
特定の実施形態では、1つのマススペクトロメトリーアッセイ内で、複数の患者サンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を検出する方法が、本明細書において提供される。方法は、各患者サンプルを個別に処理して、複数の処理済みのサンプルを形成することであって、処理の結果として、各処理済みのサンプル中のテストステロンは、マススペクトロメトリーにより、その他の処理済みのサンプル中のテストステロンから区別可能であること;処理済みのサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;マススペクトロメトリーにより検出可能な1つ又は複数のイオンを生成するのに適する条件下で、多重化サンプルをイオン源に付すことであって、各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから生成した1つ又は複数のイオンは、その他の処理済みのサンプルに由来するテストステロンの1つ又は複数のイオンとは異なること;各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから得られた1つ又は複数のイオンの量をマススペクトロメトリーにより検出すること;及び各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから得られた1つ又は複数のイオンの量を、各患者サンプル中のテストステロンの量と関連付けることを含む。
【0007】
特定の実施形態では、本明細書において提供される方法は、単一のマススペクトロメトリーアッセイで、複数のヒトサンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を決定することを含み、同方法は、i)複数のヒトサンプルのそれぞれを異なる誘導体化薬に付して、複数のサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること;ii)複数のサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;及びiii)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、単一のマススペクトロメトリーアッセイで、2つのヒトサンプル中のテストステロンの量を決定することを含み、同方法は、i)2つのヒトサンプルのそれぞれを異なる誘導体化薬に付して、2つのサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること;ii)2つのサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;及びiii)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化することを含む。
【0009】
特定の実施形態では、本明細書において提供される誘導体化薬は、ヒドロキシルアミン又はメトキシアミンを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、完全に自動化されている。
【0011】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、抗体を含まない方法である。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される精製することは、固相抽出(SPE)を使用した血清の抽出を含む。いくつかの実施形態では、SPEは、陰イオン交換固相抽出である。いくつかの実施形態では、SPEは、ミックスモード陰イオン交換固相抽出である。いくつかの実施形態では、抽出後のサンプルは濃縮される。
【0013】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される精製することは、液体クロマトグラフィーを含む。いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィーは、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む。いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィーは、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を含む。
【0014】
好ましい実施形態では、イオン化は、加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む。好ましい実施形態では、イオン化は、ポジティブモードでイオン化することを含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ネガティブモードでイオン化することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、イオン化は、大気圧化学イオン化(APCI)を含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ポジティブモードでイオン化することを含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ネガティブモードでイオン化することを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、ヒドロキシルアミン誘導体化テストステロンについて、304.18±0.5の質量対電荷の比を有する前駆イオンの量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、メトキシルアミン誘導体化テストステロンについて、318.21±0.5の質量対電荷の比を有する前駆イオンの量を測定することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、ヒドロキシルアミン誘導体化テストステロンについて、112.05±0.5又は124.05±0.5の質量対電荷の比を有するフラグメントイオンの量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、メトキシルアミン誘導体化テストステロンについて、126.07±0.5、138.07±0.5又は152.08±0.5の質量対電荷の比を有するフラグメントイオンの量を測定することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、内部標準を添加することを更に含む。いくつかの実施形態では、内部標準は、同位体で標識されている。
【0019】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、307.19±0.5(ヒドロキシルアミン誘導体化の場合)若しくは321.21±0.5(メトキシルアミン誘導体化の場合)の質量対電荷の比を有する内部標準前駆イオン、及び/又は127.06±0.5(ヒドロキシルアミン誘導体化の場合)若しくは129.07±0.5(メトキシルアミン誘導体化の場合)の質量対電荷の比を有するプロダクトイオンの量を測定することを含む。
【0020】
特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイ又はカラムの多重化よりも少なくとも2倍高速である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイよりも少なくとも3倍高速である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイよりも少なくとも4倍高速である。
【0021】
特定の実施形態では、方法の定量限界は、10ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、5ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、4ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、3ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、2ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、1ng/dL未満、又はそれに等しい。
【0022】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、2.5ng/dL~2,000ng/dLの範囲にわたり定量の直線性を含む。いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、1ng/dL~2,000ng/dLの範囲にわたり定量の直線性を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、8~1,200ng/dLにおいて、1%~11%又は1%~9%又は2%~11%の測定の不正確性(CV)を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、90%~110%のうち、95%から105%の回収率を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、最大10,000ng/dLの臨床的報告可能範囲(CRR)を含む。
【0026】
特定の実施形態では、サンプルは、体液である。いくつかの実施形態では、サンプルは、血漿又は血清である。いくつかの実施形態では、サンプルは、全血である。いくつかの実施形態では、サンプルは、唾液又は尿である。いくつかの実施形態では、サンプルは、脳脊髄液(CSF)である。
【0027】
いくつかの実施形態では、方法は、サンプルをタンパク質除去するのに十分な量で、薬剤をサンプルに添加することを含み得る。
【0028】
適する試験サンプルとしては、目的とする分析物を含有し得る任意の試験サンプルが挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、サンプルは、生体サンプルである;すなわち、任意の生物起源物質、例えば動物、細胞培養物、臓器培養物等から得られるサンプルである。特定の好ましい実施形態では、サンプルは、哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ等から得られる。特に好ましい哺乳動物は、霊長類、最も好ましくは男性又は女性のヒトである。特に好ましいサンプルとして、血液、血漿、血清、毛髪、筋肉、尿、唾液、涙、
脳脊髄液、又はその他の組織サンプルが挙げられる。そのようなサンプルは、例えば患者;すなわち、疾患又は状態を診断、予測、又は処置するために、臨床現場において自己を提示する生存者、男性又は女性から取得され得る。試験サンプルは、好ましくは患者、例えば血清から得られる。
【0029】
本明細書で用いる場合、別途記載がなければ、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数形の意味を含む。従って、例えば、「1つのタンパク質」と言う場合、複数のタンパク質分子も含まれる。
【0030】
本明細書で用いる場合、用語「精製」又は「精製すること」とは、サンプルから目的とする分析物以外のすべての物質を除去することを意味しない。むしろ、精製とは、目的とする分析物の検出を妨害する可能性がある、サンプル中のその他の成分と比較して、目的とする1つ又は複数の分析物の量を富化させる手順を意味する。サンプルは、本明細書では、1つ又は複数の妨害物質、例えば、マススペクトロメトリーによる、選択されたTの親及び娘イオンの検出を妨害する1つ又は複数の物質の除去を可能にする様々な手段により精製される。
【0031】
本明細書で用いる場合、用語「試験サンプル」とは、Tを含み得る任意のサンプルを指す。本明細書で用いる場合、用語「体液」とは、個人の身体から単離可能な任意の液を意味する。例えば、「体液」として、血液、血漿、血清、胆汁、唾液、尿、涙、汗等を挙げることができる。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「誘導体化すること」とは、2つの分子を反応させて新規分子を形成することを意味する。誘導体化薬は、イソチオシアネート基、ジニトロフルオロフェニル基、ニトロフェノキシカルボニル基、及び/又はフタルアルデヒド基等を含み得る。
【0033】
本明細書で用いる場合、用語「クロマトグラフィー」とは、液体又は気体により搬送される化学的混合物が、静止した液相又は固相の周辺又は上方を流通する際に、化学的実体の差動的分配の結果として成分に分離するプロセスを意味する。
【0034】
本明細書で用いる場合、用語「液体クロマトグラフィー」又は「LC」とは、微細な物質からなるカラムを通じて、又はキャピラリー通路を通じて流体が均一に浸透する際に、流体の溶液の1つ又は複数の成分が選択的に遅延するプロセスを意味する。遅延は、1つ又は複数の固定相とバルク液(すなわち、移動相)の間で、この流体が固定相に対して相対的に移動する際に生ずる、混合物中の成分の分配に起因する。「液体クロマトグラフィー」の例として、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、及び高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)が挙げられる。
【0035】
本明細書で用いる場合、用語「高性能液体クロマトグラフィー」又は「HPLC」とは、固定相、一般的には稠密充填カラムを通じて、加圧条件下で移動相に力を加えることにより、分離度が増加する液体クロマトグラフィーを意味する。
【0036】
本明細書で用いる場合、用語「高乱流液体クロマトグラフィー」又は「HTLC」とは、分離を実施する基本原理として、カラム充填材を通じてアッセイされる物質の乱流を活用するクロマトグラフィーの一形態を意味する。HTLCは、マススペクトロメトリーによる分析前に、2つの無名の薬物を含有するサンプルを調製するのに適用されてきた。例えば、Zimmerら、J.Chromatogr.A854巻:23~35頁(1999年)を参照;HTLCについて更に説明する米国特許第5,968,367号、同第5,919,368号、同第5,795,469号、及び同第5,772,874号も参照
。当業者は「乱流」について理解している。流体がゆっくりとスムーズに流れる場合、この流れは「層流」と呼ばれる。例えば、HPLCカラムを通じて、低い流速で移動する流体は、層流である。層流内では、流体中の粒子の動きは規律正しく、粒子は直線的に移動するのが一般的である。より高速では、水の慣性力が流体の摩擦力を上回り、その結果乱流が生ずる。不規則な境界と接触しない流体は、摩擦により低速化した、又は不均等な表面により向きが変わった流体を「追い越す」。流体が乱れた状態で流れるとき、ぐるぐる渦巻いて(又は渦状に)流れ、流れが層状の場合よりもより「抵抗性」となる。どの場合に流体の流れが層流又は乱流であるか判断するのに役立つ多くの参考資料が入手可能である(例えば、Turbulent Flow Analysis:Measurement and Prediction、P.S.Bernard&J.M.Wallace、John Wiley&Sons、Inc.、(2000年);An Introduction to Turbulent Flow Flow、Jean Mathieu&Julian Scott、Cambridge University Press(2001年))。
【0037】
本明細書で用いる場合、用語「ガスクロマトグラフィー」又は「GC」とは、サンプル混合物が気化され、そして液体又は微粒子固体から構成される固定相を含有するカラムを通じて移動するキャリヤガス(窒素又はヘリウム)の流れの中に注入され、そして化合物の固定相に対する親和性に基づき、その構成化合物に分離されるクロマトグラフィーを意味する。
【0038】
本明細書で用いる場合、用語「大型の粒子カラム」又は「抽出カラム」とは、約35μmを上回る平均粒子径を含有するクロマトグラフィーカラムを意味する。この文脈で使用される場合、用語「約」とは±10%を意味する。好ましい実施形態では、カラムは、直径約60μmの粒子を含有する。
【0039】
本明細書で用いる場合、用語「分析カラム」は、カラムから溶出するサンプル中の物質について、分析物の存否又は量の決定を可能にするのに十分な分離を有効にする、十分なクロマトグラフプレートを有するクロマトグラフィーカラムを意味する。そのようなカラムは、更なる分析用として精製されたサンプルを取得するために、保持された物質を保持されない物質から分離又は抽出するという一般的な目的を有する「抽出カラム」から多くの場合区別される。この文脈で使用される場合、用語「約」とは、±10%を意味する。好ましい実施形態では、分析カラムは、直径約4μmの粒子を含有する。
【0040】
本明細書で用いる場合、例えば「オンライン自動化方式」又は「オンライン抽出」として使用されるような用語「オンライン」又は「インライン」とは、オペレーターの介入を必要とせずに実施される手順を意味する。対照的に、用語「オフライン」とは、本明細書で用いる場合、オペレーターの手動介入を必要とする手順を意味する。従って、サンプルが沈殿処理され、そして次に上清が手作業によりオートサンプラーにロードされる場合、沈殿及びロードステップは後続ステップからオフラインの状態にある。本方法の様々な実施形態では、1つ又は複数のステップが、オンライン自動化方式で実施され得る。
【0041】
本明細書で用いる場合、用語「マススペクトロメトリー」又は「MS」とは、化合物をその質量別に識別する分析技法を意味する。MSは、イオンを、その質量対電荷の比、又は「m/z」に基づきフィルター処理、検出、及び測定する方法を意味する。MS技術は、(1)化合物をイオン化して、荷電した化合物を形成すること;及び(2)荷電した化合物の分子量を検出し、そして質量対電荷の比を計算すること一般的に含む。化合物は、任意の適する手段によりイオン化及び検出され得る。「質量分析装置」は、イオン化装置及びイオン検出器を一般的に含む。一般的に、1つ又は複数の目的とする分子がイオン化され、イオンがその後マススペクトログラフィック装置に導入され、そこでは磁場と電場
の組合せにより、イオンは、質量(「m」)及び電荷(「z」)に依存する空間内の経路をたどる。例えば、「Mass Spectrometry From Surfaces」と題する米国特許第6,204,500号、「Methods And Apparatus for Tandem Mass Spectrometry」と題する同第6,107,623号、「DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry」と題する同第6,268,144号、「Surface-Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes」と題する同第6,124,137号、Wrightら、Prostate Cancer and Prostatic Diseases、第2巻:264~76頁(1999年);並びにMerchant及びWeinberger、Electrophoresis、第21巻:1164~67頁(2000年)を参照。
【0042】
本明細書で用いる場合、用語「陰イオンモードでの操作」とは、陰イオンが生成及び検出されるマススペクトロメトリー法を意味する。用語「陽イオンモードでの操作」とは、本明細書で用いる場合、陽イオンが生成及び検出されるマススペクトロメトリー法を意味する。
【0043】
本明細書で用いる場合、用語「イオン化」又は「イオン化すること」とは、1又は複数のエレクトロンユニットに等しい正味の電荷を有する分析物イオンを生成するプロセスを意味する。陰イオンは、1又は複数のエレクトロンユニットの正味負電荷を有するイオンである一方、陽イオンは、1又は複数のエレクトロンユニットの正味正電荷を有するイオンである。
【0044】
本明細書で用いる場合、用語「電子イオン化法」又は「EI法」とは、気相〔gaseous phase〕又は気相〔vapor phase〕の目的とする分析物が電子の流れと相互作用する方法を意味する。分析物への電子の衝撃は分析物イオンを産生し、次にマススペクトロメトリー技術の対象となり得る。
【0045】
本明細書で用いる場合、用語「化学イオン化法」又は「CI法」とは、試薬気体(例えば、アンモニア)が電子の衝撃を受け、そして試薬気体イオンと分析物分子との相互作用により、分析物イオンが形成される方法を意味する。
【0046】
本明細書で用いる場合、用語「高速原子衝撃法」又は「FAB法」とは、高エネルギー原子(多くの場合Xe又はAr)のビームが、不揮発性サンプルに衝撃を与え、サンプルに含まれる分子を脱離及びイオン化する方法を意味する。試験サンプルは、粘稠性の液体マトリックス、例えばグリセロール、チオグリセロール、m-ニトロベンジルアルコール、18-クラウン-6-クラウンエーテル、2-ニトロフェニルオクチルエーテル、スルホラン、ジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等に溶解する。化合物又はサンプルに適するマトリックスの選択は、実験に基づいたプロセスである。
【0047】
本明細書で用いる場合、用語「マトリックス支援レーザー脱離イオン化法」又は「MALDI」とは、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化、及びクラスター崩壊を含む様々なイオン化経路によって、不揮発性サンプルが、サンプル中の分析物を脱離及びイオン化するレーザー照射に曝露される方法を意味する。MALDIの場合、サンプルは、分析物分子の脱離を促進するエネルギー吸収性マトリックスと混合される。
【0048】
本明細書で用いる場合、用語「表面増強レーザー脱離イオン化法」又は「SELDI法」とは、光イオン化、プロトン化、脱プロトン化、及びクラスター崩壊を含む様々なイオン化経路によって、非揮発性サンプルが、サンプル中の分析物を脱離及びイオン化するレ
ーザー照射に曝露される別の方法を意味する。SELDIでは、サンプルは、1つ又は複数の目的とする分析物を優先的に保持する表面に一般的に結合する。MALDIと同様に、このプロセスも、イオン化を促進するために、エネルギー吸収性材料を利用し得る。
【0049】
本明細書で用いる場合、用語「エレクトロスプレーイオン化法」又は「ESI法」は、溶液が短尺のキャピラリー管に沿って通過し、そのキャピラリー管の端部に正又は負の高電位が印加される方法を意味する。溶液が管の端部に到達すると気化(噴霧化)されて、溶媒蒸気内で溶液の非常に小さい液滴からなるジェット又はスプレーとなる。この液滴のミストは、凝結を防止し、溶媒を蒸発させるためにわずかに加熱された蒸発チャンバーを流通する。液滴がより小型になるに従い、表面電荷密度は増加し、やがて同一荷電間で自然反発して、イオン並びに中性分子の放出が引き起こされる。
【0050】
本明細書で用いる場合、用語「大気圧化学イオン化法」又は「APCI法」とは、ESIと類似する質量分析法を意味するが、しかしAPCIは、大気圧でプラズマ内に生ずるイオン-分子反応によりイオンを産生する。プラズマは、スプレーキャピラリーと対電極の間の放電により維持される。次にイオンは、差次的にポンプ搬送される一連のスキマーステージの使用により質量分析器中に一般的に抽出される。乾燥及び事前加熱されたNガスの向流を使用して、溶媒の除去を改善することができる。極性がより低い種を分析する場合、APCIにおける気相イオン化の方がESIよりも有効であり得る。
【0051】
用語「大気圧光イオン化法」又は「APPI法」とは、本明細書で用いる場合、分子Mを光イオン化する機構が、分子イオンM+を形成する光子吸収及び電子放出である質量分析法の形態を意味する。光子エネルギーは、一般的にイオン化電位のすぐ上にあるので、分子イオンは、それほど解離しやすくない。多くの場合、クロマトグラフィーを必要とせずにサンプルを分析することができると考えられ、従ってかなりの時間及び出費が抑えられる。水蒸気又はプロトン性溶媒の存在下で、分子イオンは、Hを取り出してMH+を形成することができる。これは、Mが高プロトン親和性を有する場合に生ずる傾向がある。M+とMH+の合計は一定なので、これは定量の正確性に影響を及ぼさない。プロトン性溶媒中の薬物化合物は、通常MH+として観察される一方、非極性化合物、例えばナフタレン又はテストステロン等は、通常M+の形態を採る。Robb、D.B.、Covey、T.R.及びBruins、A.P.(2000年):例えば、Robbら、Atmospheric pressure photoionization:An ionization method for liquid chromatography-mass spectrometry.Anal.Chem.第72巻(15号):3653~3659頁を参照。
【0052】
本明細書で用いる場合、用語「誘導結合プラズマ法」又は「ICP法」とは、ほとんどの元素が微粒化及びイオン化されるような十分に高温度において、サンプルが部分的にイオン化した気体と相互作用する方法を意味する。
【0053】
本明細書で用いる場合、用語「電界脱離法」とは、非揮発性の試験サンプルがイオン化表面上に配置され、そして分析物イオンを生成するのに強電界が使用される方法を意味する。
【0054】
本明細書で用いる場合、用語「脱離」とは、表面から分析物を取り出すこと、及び/又は分析物を気相に導入することを意味する。
【0055】
本明細書で用いる場合、用語「定量化限界〔limit of quantification〕」、「定量限
界〔limit of quantitation〕」、又は「LOQ」とは、測定が定量的に意味を有するよ
うになるポイントを意味する。このLOQにおける分析物の応答は、識別可能であり、個
別的であり、並びに20%の精密度及び80%~120%の正確度で再現性を有する。
【0056】
本明細書で用いる場合、用語「検出限界」又は「LOD」は、測定値が、それと関連した不確実性より大きくなるポイントである。LODは、ゼロ濃度から2標準偏差(SD)として任意に定義される。
【0057】
本明細書で用いる場合、体液サンプル中のTの「量」とは、体液の容積内で検出可能なTの質量を反映する絶対値を一般的に意味する。但し、量は、別のTの量と比較した相対的な量についても考慮する。例えば、体液中のTの量は、通常存在するTの対照レベル又は正常なレベルを上回る又はそれ未満である量であり得る。
【0058】
用語「約」とは、イオン質量測定を除き定量測定と関連して本明細書で用いる場合、表示の数値±10%を意味する。マススペクトロメトリー装置は、所与の分析物の質量を決定する際に、ほとんど変化し得ない。用語「約」とは、イオンの質量又はイオンの質量/電荷の比の文脈において、±0.5原子質量単位を意味する。
【0059】
上記した本発明の概要は、非限定的であり、また本発明のその他の特性及び長所は、下記の発明を実施するための形態から、及び特許請求の範囲から明白である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1図1は、多重化したテストステロンLC-MS/MSアッセイについて、分析ワークフローを示す。内部標準の、重同位体で標識されたTが、処理期間中のサンプルの喪失を補正するのに使用される。LC-MS/MSは、TSQ(登録商標)Quantum Ultra(Thermo Fisher Scientific社、Waltham、MA)MS検出器を備えたAria TX-4LC(Thermo Scientific社、Franklin、MA)上で実施した。
図2図2は、1回の注入での1例の患者試料についてのクロマトグラムの例(A);及び1回の注入での2例の患者試料についてのクロマトグラムの例、多重化したサンプル法(B)を示す。
図3図3は、(A)ヒドロキシルアミン誘導体化T及び(B)メトキシアミン誘導体化テストステロンについて、2.5~2,000ng/dLにわたり10の校正ポイントを表わす代表的な校正曲線を示す。
図4図4は、多重化したテストステロンLC-MS/MSアッセイについてアッセイ性能特性を示す。CV、変動係数;HOA、ヒドロキシルアミン;MOA、メトキシアミン;QC、品質コントロール;ND、未測定。
図5図5は、患者サンプルを希釈した後のテストステロンの回収率を示す。
図6図6は、T<100ng/dLである(A)1,830例の患者サンプル、及び(B)842例の患者サンプルについて、サンプル多重化法と個々のサンプルランニングの間の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
液体クロマトグラフィー-タンデム型質量分析(LC-MS/MS)は、テストステロン(T)を測定するためにこれまでに使用された技術よりも改善した正確性を提供する。ハイスループットLC-MS/MSは、複数のサンプルが並行してランニングされるカラムの多重化により実現される。ここでは、我々の目的は、1回のLC-MS/MSランにつき少なくとも2つの患者サンプルを組み合わせることにより、スループットを更に増加させることであった。「サンプルの多重化」の原理は、異なる質量の少なくとも2つの誘導体化薬を使用することと関係する。患者サンプルは、一方又は他方の誘導体化薬を用いて個別にタグ化される。各患者に対する結果は、誘導体化薬の特徴的なフラグメントの質量により区別され、これにより1回のLC-MS/MSランで2つの個別の結果をもたら
す。
【0062】
特定の実施形態では、1つのマススペクトロメトリーアッセイ内で、複数の患者サンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を検出する方法が、本明細書において提供される。方法は、各患者サンプルを個別に処理して、複数の処理済みのサンプルを形成することであって、処理の結果として、各処理済みのサンプル中のテストステロンは、マススペクトロメトリーにより、その他の処理済みのサンプル中のテストステロンから区別可能であること;処理済みのサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;マススペクトロメトリーにより検出可能な1つ又は複数のイオンを生成するのに適する条件下で、多重化サンプルをイオン源に付すことであって、各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから生成した1つ又は複数のイオンは、その他の処理済みのサンプルに由来するテストステロンの1つ又は複数のイオンとは異なること;各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから得られた1つ又は複数のイオンの量をマススペクトロメトリーにより検出すること;及び各処理済みのサンプルに由来するテストステロンから得られた1つ又は複数のイオンの量を、各患者サンプル中のテストステロンの量と関連付けることを含む。
【0063】
特定の実施形態では、本明細書において提供される方法は、単一のマススペクトロメトリーアッセイで、複数のヒトサンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を決定することを含み、同方法は、i)複数のヒトサンプルのそれぞれを異なる誘導体化薬に付して、複数のサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること;ii)複数のサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;及びiii)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化することを含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、単一のマススペクトロメトリーアッセイで、2つのヒトサンプル中のテストステロンの量を決定することを含み、同方法は、i)2つのヒトサンプルのそれぞれを異なる誘導体化薬に付して、2つのサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること;ii)2つのサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること;及びiii)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化することを含む。
【0065】
特定の実施形態では、本明細書において提供される誘導体化薬は、ヒドロキシルアミン又はメトキシアミンを含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、完全に自動化されている。
【0067】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、抗体を含まない方法である。
【0068】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される精製することは、固相抽出(SPE)を使用した血清の抽出を含む。いくつかの実施形態では、SPEは、陰イオン交換固相抽出である。いくつかの実施形態では、SPEは、ミックスモード陰イオン交換固相抽出である。いくつかの実施形態では、抽出後のサンプルは濃縮される。
【0069】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される精製することは、液体クロマトグラフィーを含む。いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィーは、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む。いくつかの実施形態では、液体クロマトグラフィーは、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を含む。
【0070】
好ましい実施形態では、イオン化は、加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む。好ましい実施形態では、イオン化は、ポジティブモードでイオン化することを含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ネガティブモードでイオン化することを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、イオン化は、大気圧化学イオン化(APCI)を含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ポジティブモードでイオン化することを含む。いくつかの実施形態では、イオン化は、ネガティブモードでイオン化することを含む。
【0072】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、ヒドロキシルアミン誘導体化テストステロンについて、304.18±0.5の質量対電荷の比を有する前駆イオンの量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、メトキシルアミン誘導体化テストステロンについて、318.21±0.5の質量対電荷の比を有する前駆イオンの量を測定することを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、ヒドロキシルアミン誘導体化テストステロンについて、112.05±0.5又は124.05±0.5の質量対電荷の比を有するフラグメントイオンの量を測定することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、メトキシルアミン誘導体化テストステロンについて、126.07±0.5、138.07±0.5、又は152.08±0.5の質量対電荷の比を有するフラグメントイオンの量を測定することを含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、内部標準を添加することを更に含む。いくつかの実施形態では、内部標準は、同位体で標識されている。
【0075】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、307.19±0.5(ヒドロキシルアミン誘導体化の場合)若しくは321.21±0.5(メトキシルアミン誘導体化の場合)の質量対電荷の比を有する内部標準前駆イオン、及び/又は127.06±0.5(ヒドロキシルアミン誘導体化の場合)若しくは129.07±0.5(メトキシルアミン誘導体化の場合)の質量対電荷の比を有するプロダクトイオンの量を測定することを含む。
【0076】
特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイ又はカラムの多重化よりも少なくとも2倍高速である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイよりも少なくとも3倍高速である。特定の実施形態では、本明細書において提供されるサンプルの多重化は、単一アッセイよりも少なくとも4倍高速である。
【0077】
特定の実施形態では、方法の定量限界は、10ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、5ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、4ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、3ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、2ng/dL未満、又はそれに等しい。いくつかの実施形態では、方法の定量限界は、1ng/dL未満、又はそれに等しい。
【0078】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、1ng/dL~2,000ng/dLの範囲にわたり定量の直線性を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、8~1,200ng/
dLにおいて、1%~11%又は1%~9%又は2%~11%の測定の不正確性(CV)を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、90%~110%のうち、95%から105%の回収率を含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、本明細書において提供される方法は、最大10,000ng/dLの臨床的報告可能範囲(CRR)を含む。
【0082】
特定の実施形態では、サンプルは、体液である。いくつかの実施形態では、サンプルは、血漿又は血清である。いくつかの実施形態では、サンプルは、全血である。いくつかの実施形態では、サンプルは、唾液又は尿である。いくつかの実施形態では、サンプルは、脳脊髄液(CSF)である。
【0083】
いくつかの実施形態では、方法は、サンプルをタンパク質除去するのに十分な量で、薬剤をサンプルに添加することを含み得る。
【0084】
適する試験サンプルは、目的とする分析物を含有し得る任意の試験サンプルを含む。いくつかの好ましい実施形態では、サンプルは、生体サンプルである;すなわち、任意の生物起源物質、例えば動物、細胞培養物、臓器培養物等から得られるサンプルである。特定の好ましい実施形態では、サンプルは、哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマ等から得られる。特に好ましい哺乳動物は、霊長類、最も好ましくは男性又は女性のヒトである。特に好ましいサンプルとして、血液、血漿、血清、毛髪、筋肉、尿、唾液、涙、脳脊髄液、又はその他の組織サンプルが挙げられる。そのようなサンプルは、例えば患者;すなわち、疾患又は状態を診断、予測、又は処置するために、臨床現場において自己を提示する生存者、男性又は女性から取得され得る。試験サンプルは、好ましくは患者から得られ、例えば血清である。
【0085】
マススペクトロメトリーのためのサンプル調製
サンプル中のその他の成分(例えば、タンパク質)と比較してそれよりもTを富化させるのに利用可能である方法として、例えば、フィルター処理法、遠心分離法、薄層クロマトグラフィー(TLC)法、キャピラリー電気泳動法を含む電気泳動法、免疫親和性分離法を含む親和性分離法、酢酸エチル抽出法及びメタノール抽出法を含む抽出法、及びカオトロピック薬剤の使用、又は上記の任意の組合せ等が挙げられる。
【0086】
タンパク質沈殿法は、試験サンプルを調製する1つの好ましい方法である。そのようなタンパク質精製法は、当技術分野に周知であり、例えば、Polsonらの、Journal of Chromatography B、第785巻:263~275頁(2003年)は、本方法で使用するのに適するタンパク質沈殿技術について記載する。タンパク質沈殿法は、上清にTを残して、サンプルからほとんどのタンパク質を取り除くのに利用可能である。サンプルは、沈殿したタンパク質から液体上清を分離するために遠心分離され得る。得られた上清は、次に、液体クロマトグラフィー及び後続するマススペクトロメトリー分析に適用され得る。特定の実施形態では、タンパク質沈殿法、例えばアセトニトリルタンパク質沈殿法等を使用すれば、HPLC及びマススペクトロメトリーを行う前に、高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)又はその他のオンライン抽出を行う必要がなくなる。従って、そのような実施形態では、方法は、(1)目的とするサンプルのタンパク質沈殿を実施すること;及び(2)オンライン抽出又は高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)を使用することなく、上清をHPLC-質量分析装置に直接ロードすることと関係する。
【0087】
いくつかの好ましい実施形態では、HPLCは、単独で、又は1つ若しくは複数の精製法と組み合わせて、マススペクトロメトリーの前にTを精製するのに利用可能である。そのような実施形態では、サンプルは、分析物を捕捉するHPLC抽出カートリッジを使用して抽出され、次に溶出され、そして第2のHPLCカラム上でクロマトグラフされ得る、又はイオン化前に分析用HPLCカラム上に溶出され得る。このようなクロマトグラフィー手順に関与するステップは、自動化方式で連結可能であるので、分析物の精製期間中にオペレーターが関与する必要性は、最低限に抑えることができる。このような特性は、その結果、時間とコストの節約をもたらし、またオペレーターがミスする機会を取り除くことができる。
【0088】
例えば、HTLCカラムや諸方法等が引き起こす乱流は、物質移動速度を増強する可能性があり、分離特性を改善すると考えられている。HTLCカラムは、剛性粒子を含有する充填カラムを通じた、クロマトグラフィーの高い流速によって成分を分離する。高速流速(例えば、3~5mL/分)を利用することにより、乱流がカラム内に生じ、固定相と目的とする分析物の間でほぼ完全な相互作用を引き起こす。HTLCカラムを使用する長所として、高分子量の種は、乱流条件下では保持されないので、生体液マトリックスと関連した高分子の蓄積が回避されることが挙げられる。1つの手順において複数の分離法を組み合わせるHTLC法では、サンプル調製を長時間行う必要性が低下し、また著しく高速で作動する。そのような方法は、層流(HPLC)クロマトグラフィーよりも優れた分離性能も実現する。HTLCは、生体サンプル(血漿、尿、等)の直接注入を可能にする。直接注入する場合、変性したタンパク質及びその他の生物学的デブリが分離カラムを急速にブロックするので、従来型のクロマトグラフィーでは実現が難しい。また、HTLCは、1mL未満、好ましくは0.5mL未満、好ましくは0.2mL未満、好ましくは0.1mLの非常に少ないサンプルボリュームも可能にする。
【0089】
マススペクトロメトリーによる分析前に、サンプル調製に適用されるHTLCの例は、別途記載されている。例えば、Zimmerら、J.Chromatogr.A854巻:23~35頁(1999年)を参照;米国特許第5,968,367号;同第5,919,368号;同第5,795,469号;及び同第5,772,874号も参照。本方法の特定の実施形態では、サンプルは、HTLCカラムにロードする前に上記のようなタンパク質沈殿処理がなされる;代替的な好ましい実施形態では、サンプルは、タンパク質沈殿処理されることなく、HTLC上に直接ロードされ得る。HTLC抽出カラムは、好ましくは大型の粒子カラムである。様々な実施形態では、方法の1つ又は複数のステップは、オンラインの自動化された方式で実施され得る。例えば、1つの実施形態では、ステップ(i)~(v)は、オンラインの自動化された方式で実施される。別の場合、イオン化及び検出のステップは、ステップ(i)~(v)の後に、オンラインで実施される。
【0090】
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を含む液体クロマトグラフィー(LC)は、比較的低速の層流技術に基づく。従来型のHPLC分析法は、カラムを通過するサンプルの層流が、サンプルから目的とする分析物を分離する基礎となる、カラム充填材に依存する。当業者は、そのようなカラムにおける分離は、拡散プロセスであると理解している。HPLCは、生体サンプル中の化合物の分離に問題なく適用されるが、かなりの量のサンプル調製が、分離及び質量分析装置(MS)によるその後の分析の前に必要とされ、この技術を労働集約的なものとしている。更に、ほとんどのHPLCシステムは、質量分析装置をその能力の最大限まで活用しておらず、1つのHPLCシステムが1つのMS装置に接続可能としているにすぎず、その結果、多数のアッセイを実施するのに冗長な時間を必要とする。
【0091】
マススペクトロメトリー分析前のサンプル除去を目的としたHPLCの使用について、様々な方法が記載されている。例えば、Taylorら、Therapeutic Dr
ug Monitoring、第22巻:608~12頁(2000年);及びSalmら、Clin.Therapeutics、22巻Supl.B:B71~B85頁(2000年)を参照。
【0092】
当業者は、Tと共に使用するのに適するHPLC装置及びカラムを選択し得る。クロマトグラフ用カラムは、化学的部分の分離(すなわち、分画)を促進する媒体(すなわち、充填材料)を一般的に含む。媒体として微細粒子を挙げることができる。粒子は、様々な化学的部分と相互作用して化学的部分の分離を促進する結合表面を備える。1つの適する結合表面は、疎水結合表面、例えばアルキル結合表面等である。アルキル結合表面は、C-4、C-8、C-12、又はC-18結合アルキル基、好ましくはC-18結合基を含み得る。クロマトグラフ用カラムは、サンプルを受け取るための注入ポートと、分画されたサンプルを含む流出物を排出するための排出ポートを備える。1つの実施形態では、サンプル(又は事前精製されたサンプル)が、注入ポートにおいてカラムに適用され、溶媒又は溶媒混合物により溶出され、そして排出ポートから排出される。異なる溶媒モードが、目的とする分析物を溶出させるのに選択され得る。例えば、液体クロマトグラフィーは、勾配モード、アイソクラチックモード、又は多型(すなわち、混合)モードを使用して実施され得る。クロマトグラフィー期間中に、材料の分離は、変動要因、例えば溶離液(「移動相」としても知られている)の選択、溶出モード、勾配条件、温度等により影響を受ける。
【0093】
特定の実施形態では、分析物は、目的とする分析物がカラム充填材料により可逆的に保持される一方、1つ又は複数のその他の物質は保持されない条件下で、サンプルをカラムに適用することにより精製され得る。このような実施形態では、第1の移動相の条件は、目的とする分析物がカラムにより保持されるように設定可能であり、また第2の移動相の条件は、その後、保持されなかった物質が洗い出されたら、保持された物質がカラムから取り出されるように、設定可能である。或いは、分析物は、1つ又は複数のその他の物質と比較して、異なる速度で目的とする分析物が溶出するような移動相の条件下でサンプルをカラムに適用することにより精製され得る。そのような手順は、サンプルの1つ又は複数のその他の成分と比較して、目的とする1つ又は複数の分析物の量を富化させる可能性がある。
【0094】
1つの好ましい実施形態では、HTLCは、疎水性カラムクロマトグラフィーシステム上のHPLCに後続し得る。特定の好ましい実施形態では、Cohesive Technologies社製のTurboFlow Cyclone P(登録商標)ポリマーベースカラム(粒径60μm、カラム寸法50×1.0mm、ポアサイズ100Å)が使用される。関連する好ましい実施形態では、親水性エンドキャッピングを有する、Phenomenex Inc社製のSynergi Polar-RP(登録商標)エーテル結合型フェニルの分析カラム(粒径4μm、カラム寸法150×2.0mm、ポアサイズ80Å)が使用される。特定の好ましい実施形態では、HTLC及びHPLCが、移動相としてHPLCグレード超純水及び100%メタノールを使用して実施される。
【0095】
慎重なバルブの選択及びコネクター配管作業により、手動ステップを一切必要とせずに、物質が1つのカラムから次のカラムへと通過するように、2つ以上のクロマトグラフィーカラムが、必要に応じて接続され得る。好ましい実施形態では、バルブの選択及び配管作業は、必要なステップを実施するように事前プログラムされたコンピューターにより管理される。最も好ましくは、クロマトグラフィーシステムも、検出器システム、例えばMSシステムと、そのようなオンライン方式で接続される。従って、オペレーターは、サンプルのトレーをオートサンプラーに配置すればよく、そして残りの作業は、コンピューター制御下で実施され、その結果、選択されたすべてのサンプルの精製及び分析が完了する。
【0096】
特定の好ましい実施形態では、サンプル中のT又はそのフラグメントは、イオン化の前に精製され得る。特に好ましい実施形態では、クロマトグラフィーは、ガスクロマトグラフィーではない。
【0097】
マススペクトロメトリーによる検出及び定量
様々な実施形態では、T又はそのフラグメントは、当業者にとって公知の任意の方法によりイオン化することができる。マススペクトロメトリーは、分画されたサンプルをイオン化し、そして更なる分析用として荷電分子を生み出すイオン源を備える質量分析装置を使用して実施される。例えば、サンプルのイオン化は、電子イオン化、化学イオン化、加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、光子イオン化、大気圧化学イオン化(APCI)、光イオン化、大気圧光イオン化(APPI)、高速原子衝撃(FAB)、液体二次イオン化(LSI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、電界イオン化、電界脱離、サーモスプレー/プラズマスプレーイオン化、表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)、誘導結合プラズマ(ICP)、及び粒子ビームイオン化により実施され得る。当業者は、イオン化法の選択は、測定される分析物、サンプルの種類、検出器の種類、ポジティブモードとネガティブモードの選択等に基づき決定され得るものと理解する。
【0098】
好ましい実施形態では、T又はそのフラグメントは、陽イオンモードでの加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)によりイオン化する。
【0099】
サンプルがイオン化した後、これにより生成した正に荷電したイオン又は負に荷電したイオンは、質量対電荷の比を決定するために分析され得る。質量対電荷の比を決定するための適するアナライザーとして、四重極型アナライザー、イオントラップアナライザー、及び飛行時間アナライザーが挙げられる。イオンは、いくつかの検出モードを使用して検出可能である。例えば、選択されたイオンは、すなわち、選択的イオンモニタリングモード(SIM)を使用して検出可能であるか、また或いは、イオンは、スキャニングモード、例えば、多重反応モニタリング(MRM)又は選択的反応モニタリング(SRM)を使用して検出可能である。好ましくは、質量対電荷の比は、四重極型アナライザーを使用して決定される。例えば、「四重極」又は「四重極型イオントラップ」装置では、電極間に印加されたDC電位、RFシグナルの振幅、及び質量/電荷の比に比例した力が、振動性ラジオ周波数場内のイオンに加わる。電圧及び振幅は、特定の質量/電荷の比を有するイオンのみが、四重極の長さを移動する一方、その他のすべてのイオンは外れるように選択され得る。従って、四重極型装置は、装置に注入されたイオンに対して、「マスフィルター」及び「マス検出器」の両方として作用し得る。
【0100】
「タンデム型質量分析」又は「MS/MS」を利用することにより、MS技術の分解能を強化することができる。この技術では、目的とする分子から生成した前駆イオン(親イオンとも呼ばれる)を、MS装置内でフィルター処理することができ、そして前駆イオンは、その後フラグメント化されて、次に第2のMS手順において分析の対象とされる1つ又は複数のフラグメントイオン(娘イオン又はプロダクトイオンとも呼ばれる)となる。前駆イオンを慎重に選択することにより、特定の分析物より産生するイオンのみが、フラグメント化チャンバーを通過し、そこで、不活性気体の原子と衝突してフラグメントイオンが産生する。前駆イオン及びフラグメントイオンのいずれも、イオン化/フラグメント化させる一連の所定条件下で再現的に産生するので、MS/MS技術は、極めて強力な分析ツールを提供し得る。例えば、フィルター処理/フラグメント化の組合せは、妨害物質を取り除くのに利用可能であり、また複合サンプル、例えば生体サンプル等において特に有用であり得る。
【0101】
質量分析装置は、一般的に、イオンスキャン;すなわち、所定の範囲(例えば、100~1000amu)において、特定の質量/電荷を有する各イオンの相対的存在量をユーザーに提供する。分析物アッセイの結果、すなわち質量スペクトルは、当技術分野において公知の非常に多くの方法により、オリジナルサンプル内の分析物の量と関連付けることができる。例えば、サンプリング及び分析パラメーターが慎重に管理されることを前提とすれば、所定のイオンの相対的存在量は、相対的存在量をオリジナル分子の絶対量に変換する表と比較することができる。或いは、分子標準をサンプルと共にランニングすることができ、そしてその標準から生成したイオンに基づき、標準曲線が構築される。そのような標準曲線を使用して、所定のイオンの相対的存在量が、オリジナル分子の絶対量に変換され得る。特定の好ましい実施形態では、内部標準が、Tの量を計算するための標準曲線を生成するのに使用される。そのような標準曲線を生成及び使用する方法は、当技術分野に周知であり、また当業者は、適切な内部標準を選択する能力を有する。例えば、Tの同位体が、内部標準として利用可能である。イオンの量をオリジナル分子の量と関連付けるための非常に多くのその他の方法が、当業者に周知である。
【0102】
方法の1つ又は複数のステップは、自動化された機械を使用して実施され得る。特定の実施形態では、1つ又は複数の精製ステップが、オンラインで実施され、またより好ましくは、精製及びマススペクトロメトリーステップのすべてが、オンライン方式で実施され得る。
【0103】
特定の実施形態、例えば前駆イオンが更なるフラグメント化を目的として単離されるようなMS/MS等では、衝突活性化解離法〔collision activation dissociation〕が、
更なる検出を目的としてフラグメントイオンを生成するのに多くの場合使用される。CADでは、前駆イオンは、不活性気体との衝突を通じてエネルギーを獲得するが、その後「単分子分解反応」と呼ばれるプロセスによりフラグメント化する。振動エネルギーの増加に起因して、イオン内の特定の結合が破壊され得るように、十分なエネルギーが、前駆イオン内に蓄積しなければならない。
【0104】
特に好ましい実施形態では、Tが、MS/MSを使用して、以下のように検出及び/又は定量化される。サンプルは、液体クロマトグラフィー、好ましくはHPLCで処理され、クロマトグラフ用カラムからの液体溶媒の流れは、MS/MSアナライザーの加熱されたネブライザーインターフェースに進入し、そして溶媒/分析物混合物が、インターフェースの加熱されたチューブ内で蒸気に変換される。分析物は、選択されたイオン化装置によりイオン化される。イオン、例えば前駆イオンは、装置の開口部を通過し、そして第1の四重極に進入する。四重極1及び3(Q1及びQ3)は、質量フィルターであり、その質量対電荷の比(m/z)に基づき、イオン(すなわち、「前駆」及び「フラグメント」イオン)の選択を可能にする。四重極2(Q2)は衝突セルであり、そこでイオンがフラグメント化される。質量分析装置の第1の四重極(Q1)は、Tの質量対電荷の比を用いて分子を選択する。Tの正しい質量/電荷の比を有する前駆イオンが、衝突チャンバー(Q2)に導入可能となる一方、その他の質量/電荷の比を有する望ましくないイオンはいずれも四重極の側面と衝突し、除去される。Q2に進入する前駆イオンは、中性のアルゴン気体分子と衝突して、フラグメント化する。このプロセスは衝突活性化解離(CAD)と呼ばれる。生成したフラグメントイオンは、四重極3(Q3)に導入され、そこでは、Tのフラグメントイオンが選択される一方、その他のイオンは除去される。
【0105】
方法は、陽イオンモード又は陰イオンモードのいずれかで実施されるMS/MSと関係し得る。当技術分野において周知の標準法を使用して、当業者は、四重極3(Q3)での選択で利用可能な、特定のTの前駆イオンの1つ又は複数のフラグメントイオンを識別する能力を有する。
【0106】
イオンが検出器と衝突すると、イオンは、デジタルシグナルに変換される電子のパルスを産生する。取得されたデータは、収集されたイオンのカウントを時間に対してプロットするコンピューターに伝達される。得られた質量クロマトグラムは、従来型のHPLC法で生成されるクロマトグラムと類似している。特定のイオンに対応するピーク下面積、又はそのようなピークの振幅が測定され、そして面積又は振幅が、目的とする分析物の量と関連付けられる。特定の実施形態では、フラグメントイオン及び/又は前駆イオンに関する曲線下面積又はピークの振幅が、Tの量を決定するために測定される。上記のように、内部分子標準の1つ又は複数のイオンに由来するピークに基づく校正標準曲線を使用して、所定のイオンの相対的存在量は、オリジナルの分析物の絶対量に変換され得る。
【0107】
下記の実施例は、本発明を説明する役目を果たす。これらの実施例には、本方法の範囲に制限を設けるような意図は一切存在しない。
【実施例0108】
[実施例1]
マススペクトロメトリーによる多重化したテストステロンの定量
ストリップ血清にテストステロンをスパイクすることにより、校正標準及び品質コントロール(QC)を調製した。QCレベルは:QC1、8ng/dL;QC2、80ng/dL、QC3、250ng/dL;QC4、1,200ng/dLであった。患者血漿又は血清試料、並びに標準及びQC品のアリコート(200μL)を、図1に示すワークフローに基づき処理した。すべてのピペッティングステップは、Tecan IP8と連結したHamilton Star液体取り扱いロボットを使用して自動化された。
【0109】
分析対象サンプルを、サンプルプレートA及びサンプルプレートBとして識別される2つのセットに分割した。内部標準(IS)を添加し、そして次に(T)を、直接プレート内タンパク質沈殿及び濾過を使用してサンプルから抽出した。両方のサンプルプレートを独立に誘導体化した。サンプルプレートAは、メトキシアミン塩酸塩を使用して誘導体化した;サンプルプレートBは、ヒドロキシルアミン塩酸塩を使用して誘導体化した。誘導体化後、自動化された固相抽出を、Strata C18固相抽出プレートを使用して、Hamilton STARと連結したSPEware IP8システム上でオートメーションにより実施した。2つの誘導体(サンプルプレートA及びB)をこのステップにおいて組み合わせた。溶出の後、サンプルを窒素下で乾燥させ、そして注入の前に再構成した。
【0110】
40マイクロリットルのサンプルを高乱流液体クロマトグラフィー(HTLC)システムに注入し、そして加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)源を備えたTSQ Quantum Ultra MS/MS(Thermo Fisher Scientific社)を検出器として使用した。質量分析装置データを陽イオンモードで取得した。総ランタイムは、カラムの平衡化を含め1回の注入当たり6.5分であった。複数のチャネルを使用することで、1.5分毎に2サンプル又は6.5分間で8サンプルの分析が可能となった。定量は、固有の親-生成物遷移に基づいた。下記の前駆体-フラグメントの対又は「質量遷移」を使用した:
【0111】
ヒドロキシルアミン誘導体及びその(IS)について304.18/112.05、124.05、及び307.19/127.06;並びにメトキシアミン誘導体及びそのISについて318.21/126.07、138.07、152.08、及び321.21/129/07。
【0112】
多重化誘導体化Tアッセイ法の性能を、既存のTアッセイ(Salameh、2010)から蓄積したサンプル廃棄品から得られた結果と並行テストにおいて比較した。259
個の残滓試料サンプルを、LCMS/MSによりTを検出するための最新の方法によりアッセイした。
【0113】
カラムの多重化により、6.5分毎に4サンプルを分析することが可能になる。サンプルの多重化は、6.5分間で8サンプルまでスループットを倍増させた。図2は、単一サンプルとサンプルの多重化のクロマトグラフプロファイルについて比較する。
【0114】
方法は、2,000ng/dLまで直線的であり(図3)、また校正曲線は、再現性及び直線性において一貫性を示した。
【0115】
分析感度:定量限界は1ng/dLであった。
【0116】
8~1,200ng/dLにおける測定の不正確性(CV)は、メトキシアミン誘導体について2.6%~10.3%、及びヒドロキシルアミン誘導体について1.7%~8.7%であった(図4)。
【0117】
患者サンプル中に2~4スパイクされたQCにおけるTの回収率は、95%から105%であった(図4)。
【0118】
1:4稀釈された患者サンプル中のTの回収率は、95%~109%であった(図5);従ってヒドロキシルアミン及びメトキシアミン誘導体の両方について、臨床的報告可能範囲(CRR)を10,000ng/dLまで拡張した。
【0119】
個別にランニングした場合と多重化法を使用してランニングした場合の両方で、1,830例の患者の廃棄品についてT結果の回帰分析を行い、3~4,862ng/dLの濃度範囲において、4.79+1.03xのDemingのフィッティングを得た(図6a)。
【0120】
T<100ng/dLである842例の患者サンプルについて、回帰分析を行い、-1.51+1.09xのDemingのフィッティングを得た(図6b)。
【0121】
結論:我々は、アッセイの正確性及び特異性を損なわずに、LC-MS/MSスループットを倍増させる、完全に自動化された「サンプルの多重化」法を開発し、妥当性確認した。
【0122】
本明細書に記載又は引用する文献、特許、及び特許出願、並びにその他のすべての文書及び電子的に利用可能な情報の内容は、個々の公開資料が参照として組み込まれるものと特別及び個別に示唆されたのと同程度に、参照により本明細書にその全体が援用される。出願者らは、任意のそのような文献、特許、特許出願、又はその他の物理的及び電子的な文書に由来する任意の及びすべての資料及び情報を本出願に物理的に組み込む権利を留保する。
【0123】
本明細書に事例的に記載する方法は、本明細書に特に開示されない、任意の1つの要素又は複数の要素、1つの制限又は複数の制限が存在しなくても、好適に実践できる。従って、例えば、用語「含む〔comprising〕」、「含む〔including〕」、「含有する〔containing〕」等は、拡大的及び非限定的に解釈されなければならない。更に、本明細書で採
用されている用語及び表現は、制限の用語としてではなく、説明の用語として使用されており、そのような用語及び表現の使用において、提示及び記載された特性の任意の等価物又はその一部分を排除する意図は存在しない。様々な修正が、主張された本発明の範囲内で可能であると認識される。従って、本発明は、好ましい実施形態及び任意選択的な特性
により特別に開示されているが、本明細書に開示する本発明に取り込まれた本発明の修正及び変更は、当業者により実施可能であるものと理解し、またそのような修正及び変更は、本発明の範囲内であるとみなされるものと理解すべきである。
【0124】
本発明は、本明細書において広範且つ全体的に記載されている。一般的な開示の範囲に含まれるより狭い種及び亜属のグルーピングのそれぞれも、本方法の一部をなす。これには、属から主題のいずれかを除去する条件又は否定的限定を伴う方法の一般的な説明が、切り取られた題材が本明細書において特に列挙されるか、又はされないかを問わず含まれる。
【0125】
その他の実施形態は、下記の特許請求の範囲内に含まれる。更に、方法の特徴又は態様が、マーカッシュ群によって記載されている場合、当業者は、発明は、これにより、マーカッシュ群の個々のメンバー又はメンバーのサブグループのいずれについても記載されているものと認識する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のマススペクトロメトリーアッセイで、複数のヒトサンプルのそれぞれにおいて、テストステロンの量を決定する方法であって、
i)複数のヒトサンプルのそれぞれを、異なる誘導体化薬に付して、前記複数のサンプルのそれぞれにおいて個別に誘導体化されたテストステロンを生成すること、ここで、前記誘導体化薬は、塩化ヒドロキシルアミン及び塩化メトキシルアミンを含む
ii)前記複数のサンプルを組み合わせて多重化サンプルを形成すること
iii)前記複数のサンプルを固相抽出で精製すること、及び
iv)マススペクトロメトリーにより、各サンプル中のテストステロンの量を定量化すること
を含む、方法。
【請求項2】
液体クロマトグラフィーを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体クロマトグラフィーが、高性能液体クロマトグラフィーを含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記液体クロマトグラフィーが、高乱流液体クロマトグラフィーを含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記マススペクトロメトリーが、加熱式エレクトロスプレーイオン化(HESI)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記HESIが、陽イオンモードである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
304.18±0.5及び318.21±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ又は複数の前駆イオンの量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
112.05±0.5、124.05±0.5、126.07±0.5、138.07±0.5、及び152.08±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ又は複数のフラグメントイオンの量を測定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
内部標準を添加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記内部標準が、同位体で標識されている、請求項に記載の方法。
【請求項11】
307.19±0.5及び321.21±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ若しくは複数の内部標準前駆イオン、又は127.06±0.5及び129.07±0.5からなる群から選択される質量対電荷の比を有する1つ若しくは複数のプロダクトイオンの量を測定することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
1ng/dL~2,000ng/dLの範囲にわたり定量の直線性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
完全に自動化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
抗体を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記サンプルが、血清である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、1ng/dL未満、又はそれに等しい定量限界を有する、請求項1に記載の方法。