(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147672
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】装飾鏡の製造方法及び装飾鏡
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20241008BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241008BHJP
A47G 1/00 20060101ALI20241008BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20241008BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20241008BHJP
B41M 3/06 20060101ALI20241008BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20241008BHJP
【FI】
C03C3/087
B41M5/00 132
B41M5/00 116
B41M5/00 100
B41M5/00 112
A47G1/00 C
C03C19/00 Z
C03C17/34 A
B41M3/06 Z
C09D11/40
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024112323
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2020157045の分割
【原出願日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】P 2020068119
(32)【優先日】2020-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302003967
【氏名又は名称】有限会社エムアンドジーキタデ
(74)【代理人】
【識別番号】100100376
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 誠一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幹生
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガラス表面に高画質の画像をカラー印刷した装飾鏡を提供する。
【解決手段】ガラス基材1に印刷された透明又は半透明のプライマー層3と、プライマー層3に部分的に印刷された紫外線硬化型の白色インク層4と、白色インク層4の全面、及び、露出状態のプライマー層3に積層された紫外線硬化型のカラーインク層5と、ガラス基材の裏面全面に設けられた反射層2と、を有し、ガラス基材1は、二酸化ケイ素60~80Wt%と、酸化カルシウム2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3mm~8mmである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3mm~8mmであるガラス基材の表面を、算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨する研磨工程と、
第1工程後のガラス基材の表面に、透明又は半透明のプライマー層を形成するプライマー工程と、
カラー印刷工程に先行して、部分的に白色インクを印刷して、紫外線硬化させることで、デザイン上の要部領域を白色にする下地工程と、
前記プライマー工程を経たガラス表面又は、下地層の上に、カラーインクを印刷して紫外線硬化させるカラー印刷工程と、を有する装飾鏡の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基材の裏面か、又は、他の補助基材に、反射層を設ける裏面工程を更に有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
カラー印刷工程を経た前記ガラス基材に、前記補助基材を積層して、一体的に保持する追加工程を更に有する請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
カラー印刷工程を経た前記ガラス基材の表面側に、反射シートを固定する重合工程を更に有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
カラー印刷工程では、前記要部領域にキャラクタが描かれる請求項1~4の何れかに記載の装飾鏡の製造方法。
【請求項6】
カラー印刷工程後のガラス表面の適所に金属箔を定着させる箔形成工程を更に有する請求項1~5の何れかに記載の装飾鏡の製造方法。
【請求項7】
ガラス表面に艶出し材を印刷する最終工程を更に有する請求項1~6の何れかに記載の装飾鏡の製造方法。
【請求項8】
前記補助基材は、プラスチック材料か又はガラス材料で構成されている請求項2又は3に記載の装飾鏡の製造方法。
【請求項9】
算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨加工されたガラス基材に印刷された透明又は半透明のプライマー層と、
前記プライマー層に部分的に印刷された紫外線硬化型インクによる白色インク層と、
前記白色インク層の全面、及び、露出状態の前記プライマー層に印刷された紫外線硬化型インクによるカラーインク層と、
を有して構成された装飾鏡であって、
前記ガラス基材は、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3~8mmであることを特徴とする装飾鏡。
【請求項10】
前記カラーインク層には、部分的に金属箔が熱転写されている請求項9に記載の装飾鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス表面に高画質の画像をカラー印刷した装飾鏡、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカのカフェやバーには、パブミラー(PUB MIRROR)と称される装飾品がよく飾られている。ここで、パブミラーとは、鏡の表面に、絵や文字が描かれた装飾品であり、壁に掛けるか、或いは、棚に飾ることで、オシャレな店の雰囲気を醸し出している。
【0003】
一方、日本でも、この種の商品が普及しつつあり、レストランや居酒屋に飾る用途だけでなく、自分好みのアニメキャラクタなどを描いた商品として、個人向けにも注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭57-142971号公報
【特許文献2】特開2016-106674号公報
【特許文献3】特開平10-127449号公報
【特許文献4】実用新案登録第3182102号公報
【特許文献5】特開平06-030832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガラスに絵や文字を定着させるのは容易でなく、ガラス表面のインクが剥がれやすい欠点がある。そのため、一般には、ガラス裏面に絵や文字を印刷するか(特許文献1~特許文献2)、印刷済みのシートなどをガラス面に貼り付ける手法が採られる(特許文献3~特許文献4)。
【0006】
なお、ガラス表面側に、画像を熱転写する技術を記載した文献も存在する(特許文献5)。しかし、この発明では、鏡面が露出するガラス露出部を残すため、プライマー工程に先行して、粘着剤を塗布したマスキングフィルムをガラス表面に部分的に貼る必要があり、マスキングフィルムの性質上、文字などの微細な模様を作ることはできない。
【0007】
また、そもそも、この発明おいて、木目や石目などの画像を印刷した転写シートから熱転写される画像は、鏡面の周りを彩る単純な繰り返し装飾に過ぎず、インパクトに欠け、また、鏡の板厚を利用して立体感を表現するものでもない。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ガラス表面に高画質の画像をカラー印刷した装飾鏡、及び、このような装飾鏡の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る装飾鏡の製造方法は、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3mm~8mmであるガラス基材の表面を、算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨する研磨工程と、第1工程後のガラス基材の表面に、透明又は半透明のプライマー層を形成するプライマー工程と、カラー印刷工程に先行して、部分的に白色インクを印刷して、紫外線硬化させることで、デザイン上の要部領域を白色にする下地工程と、前記プライマー工程を経たガラス表面又は、下地層の上に、カラーインクを印刷して紫外線硬化させるカラー印刷工程と、を有して構成されている。
【0010】
また、本発明は、算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨加工されたガラス基材に印刷された透明又は半透明のプライマー層と、前記プライマー層に部分的に印刷された紫外線硬化型インクによる白色インク層と、前記白色インク層の全面、及び、露出状態の前記プライマー層に印刷された紫外線硬化型インクによるカラーインク層と、を有して構成された装飾鏡であって、前記ガラス基材は、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3~8mmであることを特徴とする。
【0011】
特に限定されないが、本発明において、好適には、下地工程とカラー印刷工程とは、一台又は複数台のインクジェットプリンタを使用して実行される。なお、更に好適には、プライマー工程も、インクジェットプリンタを使用して実行される。
【0012】
プライマーをインクジェット印刷することで、プライマー層が存在しないガラス鏡面の露出部(つまり、ガラス露出部)を、任意に形成することができる。すなわち、プライマーをインクジェット印刷することで、文字やロゴなど微細で複雑な模様であっても、任意の形状のガラス露出部を形成することができる。
【0013】
一般に、インクジェットプリンタでは、圧力や熱を加え微粒子になったインクが、印刷基材に吹き付けられるが、本発明においては、印刷処理に連続して、紫外線硬化処理を実行する構成を採用するのが好適である。紫外線硬化後のインクは、JIS K-5400 8.4に基づく鉛筆硬度において、3H程度であるのが好適である。
【0014】
何れにしても、本発明では、研磨工程を設けてガラス基板を研磨するので、肉眼では認識できない程度の経度な油汚れや手垢についても確実に除去することができ、最終の仕上がりが大幅に良質化される。なお、研磨工程を設けない場合には、肉眼では認識できない汚れが、その後に印刷されるインクの影響で浮き上がってしまうことがある。
【0015】
また、本発明では、カラー印刷工程に先行して、デザイン上の要部領域を白色する下地工程を設けるので、ガラス板厚を通して、デザイン上の要部領域のシルエットがガラス裏面に形成され、その結果、要部領域がやや浮き上がって見えるという効果がある。
【0016】
ここで、第1実施例、第2実施例、及び第4実施例のように、一枚のガラス基材で装飾鏡を形成する場合には、ガラス板厚が公称値2mm(実測値1.7~2.3mm程度)より薄いと、浮き上がり効果にやや欠ける上に強度的に問題があり、一方、ガラス板厚が8mm以上であると、重量化する上に、やや不自然となってしまう。
【0017】
そこで、一枚のガラス基材で装飾鏡を形成する場合には、ガラス板厚としては、公称値3mm(実測値2.7mm~3.3mm程度)や、公称値5mm(実測値4.7mm~5.3mm程度)の板厚が好適であり、公証値2.0mm~8.0mm程度、最適には、公称値3mm程度のガラス板厚を選択すべきである。
【0018】
一方、第3実施例や第5実施例のように、第1基材と第2基材を重合させて装飾鏡を形成する場合には、第1基材が第2基材を補強するので、軽量化の観点から、ガラス基材の板厚を2mm以下(好適には1mm以下)とすべきであって、板厚を0.3mm程度まで薄肉化することができる。
【0019】
白色インクは、特に限定されないが、感光性樹脂40~60Wt%と、アクリル酸エステル10~20Wt%と、ホスフィンオキサイド誘導体5~10Wt%と、を含有するものが好適に選択される。ここで、アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸エチル(ethyl acrylate)、アクリル酸ブチル(butyl acrylate)、アクリル酸2-エチルヘキシル(2-ethylhexyl acrylate )、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-hydroxyethyl acrylate )などを好適に例示することができる。
【0020】
また、白色インクは、顔料として、好適には、酸化チタンを含むべきである。但し、この組成の白色インクは、ガラスへの密着性に劣るので、剥がれ落ちを防止する観点から、ガラス基材にプライマー層を設けることが必須である。なお、ガラスに対する密着性に劣る点は、白色インクに限らず他のカラーインクについても同様である。
【0021】
プライマーは、ガラスとの密着性に優れた材料であれば特に限定されないが、好適には、アクリル酸エステル類と、感光性樹脂と、ホスフィンオキサイド誘導体とで、総量98~99.9Wt%となるものが選択される。なお、更に重合禁止剤を含有するのも好適である。
【0022】
何れにしてもプライマー層は、透明又は半透明であるべきであり、プライマー層が透明又は半透明であることから、下地層の上に描かれるデザイン上の要部領域と、下地層を設けないデザイン上の背景部分との透明感に差異を設けることができる。すなわち、やや透けて見える背景部分と、透けることのない要部領域とが、視覚上ハッキリ区別されるので、要部領域が、より鮮明にアピールされることになる。なお、要部領域は、例えば、アニメキャラクタなどの表示領域であり、好適には、ガラス表面のほぼ中央に位置し、その周りが背景部分となる。
【0023】
白色インクの膜厚は、特に限定されないが、好適には、20μm~50μmとすべきであり、より好適には、30μm程度とすべきである。この程度の膜厚を設けることで、その後のカラーインクの色彩が、ガラスに透けることが防止され、且つ、カラー印刷面の仕上がりを、より自然にすることができる。
【0024】
なお、白色インクは、一般的には、プライマー層に直接印刷するのが好適であるが、プライマー層に印刷された黒色層やカラー層に重ねて印刷することが禁止されるわけでない。ここで、白色インクをプライマー層に直接印刷する場合には、ガラス裏面に白いシルエットが形成されるが、黒色インクをプライマー層に印刷することで、ガラス裏面に黒いシルエットを形成することができる。
【0025】
但し、黒いシルエットを形成するための黒色インク層に重ねて、本来のデザインを実現するべく、カラーインクをインクジェット方式で印刷すると、定着した黒インクの粒子の間に、カラーインクの粒子が入り込むことになり、色がくすんで、良い仕上がりとはならない。したがって、この場合には、黒色インク層に重ねて、膜厚30μm程度の白色インク層を、一層又は二層設けた上で、本来のデザインを実現するべく、カラーインクを印刷すべきである。
【0026】
同様に、カラーインクをプライマー層に印刷することで、ガラス裏面に表面側と同様のシルエットが形成しても良い。但し、同一デザインであっても、カラーインクを重複して印刷すると画像の輪郭が不鮮明となるので、プライマー層に印刷したカラー印刷層に重ねて、膜厚30μm程度の白色インク層を、一層又は二層設けた上で、本来のデザインを実現するべくカラーインクを印刷すべきである。
【0027】
以上の通り、本発明では、白色インクをプライマー層に直接印刷してガラス裏面に白いシルエットを形成する実施態様の他に、黒色インクをプライマー層に印刷して黒いシルエットを形成すること、及び、カラーインクをプライマー層に印刷して、表面側と同様のシルエットが形成することもできる。但し、製造コストと、仕上がりとを総合評価すると、白色インク一層をプライマー層に直接印刷するのが一般的には最適となる。
【0028】
何れにしても、本発明では、カラー印刷工程を経て、ガラス露出部を除いて、ガラス表面にカラー画像が印刷される。すなわち、カラー印刷前のタイミングでガラス表面を平面視すると、ガラス表面は、プライマー層と、プライマー層に白色インクなどが印刷された下地層と、プライマーが存在しないガラス露出部とに、区分されるが、ガラス露出部を除いた、プライマー層及び下地層にカラー画像が印刷される。
【0029】
ここで、カラーインクの膜厚も、20μm~50μmとすべきであり、より好適には、30μm程度とすべきである。
【0030】
カラー印刷工程で使用されるカラーインクは、少なくとも、シアン(Cyan)、マゼンタ(Magenta )、イエロー(Yellow)、及びブラック(Black )の各色のインクを含んでいる。これらのインクは、紫外線(UV)硬化型のインクであれば特に限定されないが、シアンインクとしては、感光性樹脂1~20Wt%、アクリル酸エステル類60~90Wt%と、ホスフィンオキサイド誘導体1~20Wt%を主成分とし、1~5%の顔料を含むものが好適に選択される。ここで、顔料は、銅化合物であることが好ましい。また、光重合開始剤を含有するとともに、重合禁止剤を含有すべきである。
【0031】
光重合開始剤は、受光によって活性種を発生させて、光重合性モノマーの重合反応を開始させる成分であり、例えば、ラジカル光重合開始剤や陽イオン系光重合開始剤等が挙げられる。また、本発明では、重合禁止剤を含有することで、光重合性モノマーの重合を高いレベルで抑制して、インクの保存性や安定性を高めることができる。
【0032】
上記の点は、マゼンタインクやイエローインクについても、同様であり、これらのインクにも、好適には、光重合開始剤を含有するとともに、重合禁止剤を含有すべきである。また、感光性樹脂1~20Wt%、アクリル酸エステル類60~90Wt%と、ホスフィンオキサイド誘導体1~20Wt%を主成分とし、マゼンタインクは、1~5%のマゼンタ色材を含み、イエローインクは、ニッケル化合物の顔料を含むものが好適に選択される。
【0033】
ブラックインクは、色材として、1~5%のカーボンブラックを含み、好適には、光重合開始剤と重合禁止剤を含有する。また、好適には、感光性樹脂1~10Wt%と、アクリル酸エステル類60~90Wt%と、ホスフィンオキサイド誘導体5~10Wt%とを含有して構成されている。
【0034】
なお、カラー印刷工程を終えたガラス表面には、その全体にわたって、適宜な保護層や、反射防止層を設けても良い。但し、デザイン全体の色艶や光沢を増すため、ガラス表面全体に、膜厚30μmのグロス材を印刷すると、保護層の代用となり効果的である。ここで、グロス材も紫外線硬化型であるのが好適であり、紫外線硬化後の硬さは、JIS K-5400 8.4に基づく鉛筆硬度において、3H程度であるのが好適である。
【0035】
ガラス基材は、酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料とすれば特に限定されないが、好適には、酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%、酸化アルミニウム(Al2O3)0~7Wt%、酸化カルシウム(CaO)2~18Wt%、酸化マグネシウム(MgO)0~8Wt%、酸化ナトリウム(Na2O)と酸化カリウム(K2O)の総量が5~25Wt%のガラス材料を使用するべきである。
【0036】
ここで、酸化鉄(Fe2O3)の含有量は、1Wt%、以下に抑えるべきであり、含有量を0.05Wt%以下に抑制すると高透過度で高級感が更に増した商品を製造することができる。
【0037】
ところで、高級感を高めるには、カラー印刷工程に続いて、必要な位置に金属箔を熱転写する転写工程を設けるのが好適である。この場合には、金属箔を均一に付着させた金属箔シートを、カラーインク層に重ねて配置し、金属箔シートの上からレーザ光を、スポット状に照射することで、金属箔を熱転写することになる。なお、レーザ光に代えて、熱と圧力に基づいて金属箔を転写するのも好適である。これらの場合、ガラス基材には、既にカラーインク層が積層されているので、金属箔を熱転写することができる。
【発明の効果】
【0038】
上記した本発明によれば、ガラス表面に高画質の画像をカラー印刷した装飾鏡を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、実施例の装飾鏡の製造方法について更に詳細に説明するが、具体的な記載内容は、何ら本発明を限定するものではない。先ず、
図1(a)は、第1実施例に係る製造方法を概略的に示すフロー図であり、
図1(b)と
図1(c)は、製造工程の途中を示すガラス基材の断面図である。
【0041】
図1(a)は、ガラス裏面に、アルミニウム又は銀による反射層が形成された後の製造工程について記載している。なお、反射層は、例えば、真空蒸着によって形成されるが、
図1(b)は、反射層2を設けたガラス基材1を示している。
【0042】
ガラス基材1の板厚は、特に限定されないが、好適には、公称値3mm(実測値2.7mm~3.3mm程度)のものが選択される。このようなガラス基材は、温水によってブラシ洗浄されることで、表面汚れが除去された状態で(ST10)、適宜なサイズに切断される(ST11)。切り出しサイズは、特に限定されないが、好適には、A2(420 ×594mm )、A3(297 ×420mm )、A4(210 ×297mm )、B5(182 ×257mm )程度のサイズが選択される。
【0043】
以上の切断処理(ST11)が終わると、セシウムによる研磨洗浄が実行される(ST12)。具体的には、印刷面となるガラス表面について、粒径1.2~1.4μm程度の酸化セリウム粒子を使用して研磨する。この研磨の処理の結果、切断工程で発生したガラス微粉のガラス表面への付着物も含め完全に除去される。また、手垢やその他の油汚れも完全に除去される。
【0044】
研磨後のガラス表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.0007~0.0025μm程度であり、好ましくは、0.0011~0.0020μm、より好ましくは、0.0011~0.0016μmに加工される。
【0045】
続いて、平坦に研磨されたガラス基板に、透明のプライマー層3を30μm程度の膜厚に設ける(ST13)。プラマーは、ガラス面にプライマー液を塗布又は噴射しても良いが、微細模様のガラス露出部を残すには、プライマーをインクジェット印刷するのが好適である。なお、本実施例では、ステップST13~ST15、及び、ステップST17の処理は、インクジェットプリンタを使用して実行される。
【0046】
次に、アニメキャラクタなどを描いたカラー画像原稿について、適宜な色補正をする共に、色補正された画像原稿から、キャラクタなどが描かれた要部領域を注出する。そして、要部領域を特定する画像データをプリンタに供給すると共に、この要部領域を白色インクで印刷することを指示する。
【0047】
その結果、プライマー層3を設けたガラス表面の要部領域には、30μm程度の白色の下地層4が形成される(ST14)。このステップST14の処理では、紫外線硬化型の白色インクが使用され、要部領域が白色にインクジェット印刷された後、紫外線が照射されることで、要部領域が素早く紫外線硬化される。
【0048】
続いて、要部領域と背景領域とで構成された色補正後の画像原稿の画像データをプリンタに供給することで、下地層4とプライマー層3とに区分されたガラス表面(但し、ガラス露出部を除く)に原稿画像をカラー印刷する(ST15)。カラー印刷では、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックのインクが使用されるが、全て、紫外線硬化型のインクである。
【0049】
そして、各部が適宜な色にインクジェット印刷された後、紫外線が照射されることで、カラーインクが素早く紫外線硬化される。このカラーインク層5も30μm程度の膜厚であり、
図1(c)は、ステップST15の処理後のガラス基材の断面を示している。
【0050】
続いて、紫外線硬化したカラーインクに金属箔を熱転写する(ST16)。具体的には、ステップST15の処理後のガラス基材を、熱転写機に配置すると共に、金属箔を転写すべき箇所に金属箔シートを配置する。そして、パソコンから、転写位置を示す位置データを送ることで、レーザ光を必要個所に照射して、金属箔シートの金属箔をカラーインクに熱転写する(ST16)。
【0051】
特に限定されないが、金属箔の熱転写によって、ガラス表面の4頂点の何れかのコーナーに近接して、文字や記号やロゴなどが描かれる。
【0052】
そして、最後に、インクジェットプリンタを使用して、光沢を増すべくグロス材を印刷する(ST17)。なお、光沢を必要としない場合には、グロス層に代えて、適宜な保護層を設けることになる。なお、グロス層や保護層の硬さは、JIS K-5400 8.4に基づく鉛筆硬度において、3H程度とされる。
【0053】
以上の通り、第1実施例では、カラー印刷工程(ST15)に先行して、プライマー工程(ST13)と、下地工程(ST14)を設けるので、ガラス板厚を通して、デザイン上の要部領域のシルエットがガラス裏面に形成され、その結果、要部領域がやや浮き上がって見えるという効果がある。また、最初に研磨工程(ST12)を設けるので、意図しない模様が浮き出るおそれもない。
【0054】
以上、要部領域である下地層4を白色にする実施例を説明したが、下地層を黒色にするか、本来の色彩にするのも好適である。
図2は、この第2実施例を説明するフロー図である。
【0055】
ステップST10~ST13の処理は、第1実施例の場合と同様であるが、下地印刷工程(ST14)では、要部領域である下地層が、シルエット層6と白色層4とに分かれている。
【0056】
すなわち、先ず、キャラクタなどが描かれた要部領域には、黒色インク又はカラーインクが印刷されてシルエット層6が形成され、次に、このシルエット層6を覆うように、白色インクが印刷されて白色層4が形成される。なお、各インク層が30μm程度である場合、黒色又は各種カラーのインク粒子の隙間に、白色のインキ粒子が入り込むことで、灰色などのくすんだ色となる。そのため、白色層4を二重に設けることで、くすみのない完全が下地層を形成するのが好適である。
【0057】
このようにして、白色の下地層4が形成された後は、要部領域と背景領域とで構成された色補正後の画像原稿の画像データをプリンタに供給することで、下地層4とプライマー層3とに区分されたガラス表面(但し、ガラス露出部を除く)に、画像原稿をカラー印刷する(ST15)。そして、その後の処理は、第1実施例の場合と同じである。この実施例では、デザイン上の要部領域の黒色又は自然色のシルエットが、ガラス板厚を通して、ガラス裏面に形成される効果がある。
【0058】
以上、第1実施例と第2実施例では、一枚のガラス基材について、その裏面側に反射層2を設ける一方、その表面側に、カラー印刷層(3,4,5,6など)を設ける構成を採ったが、特に限定されない。
【0059】
例えば、
図3に示すように、表面又は裏面に反射層2を設けた第1基材BS1(
図3(a)参照)と、反射層を設けていない第2基材BS2(
図3(b)参照)と、を用意し、第2基材BS2の表面又は裏面にカラー印刷層(3~5又は3~6など)を設けた後、第2基材BS2のカラー印刷層に第1基材BS1を重ねる構成を採るのも好適である(
図3(c)参照)。この第3実施例において、第2基材BS2は、ガラス材料であるが、第1基材BS1は、必ずしも、ガラス材料に限らず、プラスチック材料であっても良い。
【0060】
この第3実施例では、奥行きのあるカラー印刷面を表現できるだけでなく、カラー印刷面が露出しないので、カラー印刷面が確実に保護される利点がある。なお、印刷面を保護する観点からは、特許文献2の構成を採ることもできるが、この場合には、印刷工程(ST10~ST17)を経たガラス基材の印刷面に、反射層を真空蒸着する過程で、印刷面に付着した汚れに基づく不具合箇所が反射層に生じることがあり歩留まり率が落ちる。これに対して、第3実施例では、反射層の真空蒸着に先行してガラス基材BS1を確実に研磨できるので(
図1(a)のST3参照)、反射層に生じる不具合を未然に防止できる。
【0061】
図3に示す第3実施例において、第1基材BS1や第2基材としては、好適には、前記した好適なガラス材料、すなわち、酸化ケイ素(SiO
2)60~80Wt%、酸化アルミニウム(Al
2O
3)0~7Wt%、酸化カルシウム(CaO)2~18Wt%、酸化マグネシウム(MgO)0~8Wt%、酸化ナトリウム(Na
2O)と酸化カリウム(K
2O)の総量が5~25Wt%のガラス材料が使用される。
【0062】
但し、第1基材BS1や第2基材BS2として、上記した以外の組成のガラス材料でも良く、また、第1基材BS1については、ガラス材料に代えて、プラスチック材料を使用しても良い。第1基材BS1にプラスチック材料を使用することで、ガラス基材を使用する場合より軽量化でき、また、ガラス製の第2基材BS2が、プラスチック製の第1基材BS1で補強されることで、割れにくい利点が生じる。
【0063】
そのため、ガラス材料を使用する場合には、第2基材BS2及び/又は第1基材BS1の板厚を、0.3mm~1.0mm程度とするのが好ましい。この点は、以下に説明する第5実施例についても同様である。
【0064】
第3実施例において、第1基材BS1にプラスチック材料を使用する場合には、表裏面一方にフィルムミラーを貼り付けたプラスチック素材、或いは、表裏面一方に鏡面反射層2を蒸着させたプラスチック素材を使用するのが好適である。ここで、フィルムミラーとは、例えば、鏡面加工したポリエステルフィルムを意味する。
【0065】
なお、プラスチック材料としては、剛性・耐薬品性・耐熱性に優れるABS樹脂(Acrylonitrile butadiene styrene )や、透明性・強靭性・剛性・耐熱性に優れるPET樹脂(polyethylene terephthalate)や、ポリメタクリル酸メチル樹脂PMMA(Polymethyl methacrylate )など、特に、透明性・耐久性に優れるアクリル樹脂(acrylic resin )を好適に例示することができる。
【0066】
また、第1基材BS1がガラス製であるか、プラスチック製であるかに拘わらず、第1基材BS1と第2基材BS2の接触面は、必ずしも接着などで固定化する必要はない。固定化しない場合には、重ね合わせた2枚の基材BS1,BS2の周縁を、適宜な保持部FIXで保持すれば良い(
図3(c)参照)。なお、直接、額縁その他の部材で保持しても良いが、何れにしても、第1基材BS1としてガラス材料を使用する場合、第1ガラス基材BS1の板厚t1を第2ガラス基材BS2の板厚t2より薄くすることで、全体のガラス板厚t1+t2を、2mm~5mm程度に抑制するのが好適である。
【0067】
ところで、軽量化の観点からは、第1基材BS1として、鏡面加工したポリエステルフィルム(フィルムミラー)を使用するのも好適である。
図4は、この第4実施例を示すもので、フィルムミラーと称される第1基材BS1を、第2基材BSの印刷面に貼り付ける構成を示している。なお、軽量化や破損強度を究極的に高めるには、第2基材BS2についても、アクリル樹脂などのプラスチック材料を使用しても良い。
【0068】
また、
図3(a)に示す第1基材BS1と、
図3(b)に示す第2基材BS2とは、必ずしも、
図3(c)の状態に重ね合わせる必要はなく、積層方向を逆転しても良い。
図5は、このような構成を示す第5実施例であり、第2基材BS2は装飾鏡として機能し、一方、第1基材BS1は通常の鏡として機能する利点がある。
【符号の説明】
【0069】
1 ガラス基材
2 反射層
3 プライマー層
4 白色インク層
5 カラーインク層
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に反射層を設けたガラス基材で構成されるか、又は、反射層を設けた補助基材を前記ガラス基材と一体化させて構成される装飾鏡において、
前記ガラス基材は、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3~8mmであり、
算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨加工された前記ガラス基材には、デザイン上の要部領域と、デザイン上の非要部領域と、が設けられ、
前記デザインを鑑賞方向から見た場合、
前記要部領域には、紫外線硬化型インクによるカラーインク層と、その奥側の紫外線硬化型インクによる白色インク層とが形成されている一方、前記非要部領域には、前記白色インク層が積層されない状態で前記カラーインク層が形成されていることを特徴とする装飾鏡。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る装飾鏡は、裏面に反射層を設けたガラス基材で構成されるか、又は、反射層を設けた補助基材を前記ガラス基材と一体化させて構成される装飾鏡において、前記ガラス基材は、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3~8mmであり、算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨加工された前記ガラス基材には、デザイン上の要部領域と、デザイン上の非要部領域と、が設けられ、前記デザインを鑑賞方向から見た場合、前記要部領域には、紫外線硬化型インクによるカラーインク層と、その奥側の紫外線硬化型インクによる白色インク層とが形成されている一方、前記非要部領域には、前記白色インク層が積層されない状態で前記カラーインク層が形成されていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、本発明は、典型的には、二酸化ケイ素(SiO2)60~80Wt%と、酸化カルシウム(CaO)2~20Wt%と、を構成材料として含み、その板厚が公称値0.3mm~8mmである前記ガラス基材の表面を、算術平均粗さRa=0.0007~0.0025μmに研磨する研磨工程と、前記研磨工程の後、前記ガラス基材の表面に、透明又は半透明のプライマー層を形成するプライマー工程と、前記プライマー工程の後、部分的に白色インクを印刷して、紫外線硬化させることで、デザイン上の要部領域を白色にする下地工程と、前記要部領域以外であって前記プライマー層の表面、及び、前記下地工程を経た前記要部領域の表面に、カラーインクを印刷して紫外線硬化させるカラー印刷工程と、を有して製造される。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
例えば、
図3に示すように、表面又は裏面に反射層2を設けた第1基材BS1(
図3(a)参照)と、反射層を設けていない第2基材BS2(
図3(b)参照)と、を用意し、第2基材BS2の表面又は裏面にカラー印刷層(3~5又は3~6など)を設けても良い。この第3実施例において、第2基材BS2は、ガラス材料であるが、第1基材BS1は、必ずしも、ガラス材料に限らず、プラスチック材料であっても良い。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0063
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0063】
そのため、ガラス材料を使用する場合には、第2基材BS2及び/又は第1基材BS1の板厚を、0.3mm~1.0mm程度とするのが好ましい。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
また、第1基材BS1がガラス製であるか、プラスチック製であるかに拘わらず、第1基材BS1と第2基材BS2の接触面は、必ずしも接着などで固定化する必要はない。固定化しない場合には、重ね合わせた2枚の基材BS1,BS2の周縁を、適宜な保持部FIXで保持すれば良い。なお、直接、額縁その他の部材で保持しても良いが、何れにしても、第1基材BS1としてガラス材料を使用する場合、第1ガラス基材BS1の板厚t1を第2ガラス基材BS2の板厚t2より薄くすることで、全体のガラス板厚t1+t2を、2mm~5mm程度に抑制するのが好適である。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0067
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0067】
ところで、本発明の範囲ではないが、軽量化の観点からは、第1基材BS1として、鏡面加工したポリエステルフィルム(フィルムミラー)を使用するのも好適であり、軽量化や破損強度を究極的に高めるには、第2基材BS2についても、アクリル樹脂などのプラスチック材料を使用しても良い。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正11】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正12】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正13】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】削除
【補正の内容】