IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイピージー フォトニクス コーポレーションの特許一覧

特開2024-1476881.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム
<>
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図1
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図2
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図3
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図4
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図5
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図6
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図7
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図8
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図9
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図10
  • 特開-1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147688
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】1.02~1.06μmクラッド励起方式を用いる高出力イッテルビウム:エルビウム(Yb:Er)ファイバーレーザーシステム
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20241008BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20241008BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20241008BHJP
   H01S 3/1055 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/10 D
H01S3/0941
H01S3/1055
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024113360
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2020571681の分割
【原出願日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】62/691,935
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ・ザイツェフ
(72)【発明者】
【氏名】フェドール・シチェルビーナ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ・マシュキン
(57)【要約】
【課題】1μm波長範囲での低利得を特徴とする高出力の効率的なYb:Erレーザーおよび増幅器を提供する。
【解決手段】ファイバーレーザーが、エルビウム(Er+3)およびイッテルビウム(Yb+3)のイオンを添加されたコアを有するダブルクラッドファイバーで構成される。少なくとも2つの離間した高低反射ミラーが、コアの側面に位置し、それらの間に共振空洞を定める。ファイバーレーザーは、Yb:Er添加ダブルクラッドファイバーに結合される1.02~1.06μm波長範囲の光を出力する励起レーザーをさらに含む。
ファイバー増幅器が、エルビウム(Er+3)およびイッテルビウム(Yb+3)のイオンを添加されたコアを有するダブルクラッドファイバーと、1.02~1.06μm波長範囲の励起波長で放射を発生させる励起レーザーであって、Yb:Er添加ダブルクラッドファイバーに結合される1.02~1.06μm波長範囲の光を出力する、励起レーザーとを含む。
開示するファイバーレーザーおよびファイバー増幅器は各々、9xx nm励起波長で動作する既知の概略図のしきい値よりもかなり高い1μm波長範囲のレーザー発振しきい値を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
920~980nmの波長範囲の出力を有する励起光を発生させる励起レーザーと、
前記励起光によって励起されるツリウム(Tm)レーザーシステムと、
前記励起光によって励起される少なくとも1つのエルビウムおよびイッテルビウム共添加(Er:Yb)リン酸塩ファイバーであって、これにより、1つのEr:Yb媒質が1μm波長範囲における寄生利得を有し、ある出力パワーで1.5μm波長範囲における信号を出力する、エルビウムおよびイッテルビウム共添加(Er:Yb)リン酸塩ファイバーと、
と共に構成されるレーザーシステムであって、
励起レーザーが1.02~1.06μmの波長範囲に出力で励起光を出力し、前記1つのEr:Yb媒質を励起し、これにより、
前記1μm波長範囲における寄生利得は、920~980nmの波長範囲における波長で励起された前記1つのEr:Yb媒質の利得よりも2~3倍小さく、
前記1つのEr:Yb媒質の前記出力パワーは、920~980nmの波長領域において励起されたEr:Yb媒質の出力パワーの2~3倍大きい、
ことを特徴とするレーザーシステム。
【請求項2】
前記励起レーザーは、複数の横モードをサポートするマルチモード(MM)コアを挟んでいる、一対の離隔されたマルチモード(MM)ファイバーブラッググレーティング(FBG)を有するYbファイバーレーザーであることを特徴とする請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項3】
前記励起レーザーは、複数の横モードまたは単一の横モード(SM)をサポートし、離隔されたSM FBGに挟まれたコアを有するYbファイバーレーザーであることを特徴とする請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項4】
前記1つのEr:Yb媒質は、前記励起レーザーからの前記励起光を受容するEr:Ybダブルクラッドファイバー(Er:Ybファイバー)発振器を含むことを特徴とする請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項5】
前記Er:Ybファイバー発振器は、SMまたはMM Er:Ybファイバー発振器として構成されえおり、前記MM Er:Ybファイバー発振器は、隔離されたMMファイバブラッググレーティングと共に構成されていることを特徴とする請求項4に記載のレーザーシステム。
【請求項6】
前記Er:Yb媒質は、Er:Ybダブルクラッドファイバー(Er:YbDCファイバー)増幅器であることを特徴とする請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項7】
前記Er:YbDCファイバー増幅器は、Er:Yb SMまたはMMファイバー増幅器として構成されることを特徴とする請求項6に記載のレーザーシステム。
【請求項8】
前記励起レーザーは、Nd:YAG、Yb:YAG、または、レーザーダイオードから選択されることを特徴とする請求項1に記載のレーザーシステム。
【請求項9】
前記Er:Ybファイバー発振器の出力に結合された追加的な利得媒質をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載のレーザーシステム。
【請求項10】
前記追加的な利得媒質は、主発振器出力ファイバー増幅器(MOPFA)構成の前記Er:Ybファイバー発振器に結合されたEr:Ybファイバー増幅器であることを特徴とする請求項9に記載のレーザーシステム。
【請求項11】
前記Er:Ybファイバー増幅器の出力に結合された別の利得媒質をさらに含み、この利得媒体はTm添加利得媒質であることを特徴とする請求項10に記載のレーザーシステム。
【請求項12】
前記ポンプは、前記Er:Ybファイバー発振器および前記Er:Ybファイバー増幅器の両方を励起することを特徴とする請求項10に記載のレーザーシステム。
【請求項13】
さらに、1~1.06μmの励起光を出力する1つ以上の追加的なポンプを備え、主発振器および出力ファイバー増幅器それぞれに結合し、励起することを特徴とする請求項10に記載のレーザーシステム。
【請求項14】
前記ポンプは、前記Er:Ybファイバー発振器および前記出力ファイバー増幅器それぞれに側面励起方式で結合され、前記Er:Ybファイバー発振器および前記出力ファイバー増幅器は一方向または双方向に励起されることを特徴とする請求項13に記載のレーザーシステム。
【請求項15】
前記ポンプは、前記Er:Ybファイバー発振器および前記出力ファイバー増幅器に端面励起方式で結合されることを特徴とする請求項12に記載のレーザーシステム。
【請求項16】
共添加エルビウムイッテルビウム利得媒質(Er:Yb媒質)において出力パワーを増加させる方法であって、当該方法は:
1~1.06μmの波長範囲においてある出力で励起光を発生させるステップと、
前記励起光を前記Er:Yb媒質に結合させるステップであって、これにより、
波長1μm範囲における前記Er:Yb媒質の寄生利得を、波長920~980nmの範囲における出力を有する励起光によって励起される前記Er:Yb媒質の寄生利得と比較して、2~3倍に減少させ、
一方で、前記Er:Yb媒質の出力パワーを、920~980nmの波長範囲の励起光を受光する前記Er:Yb媒質の出力パワーの2~3倍に増加させることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記Er:Yb媒質の出力を後続のEr:Yb媒質に結合させるステップをさらに含み、
前記Er:Yb媒質は、主発振器出力ファイバー増幅器(MOPFA)方式で配置されたそれぞれのファイバー発振器およびファイバー増幅器であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記Er:Yb媒質の出力をツリウム(Tm)添加利得媒質に結合するステップをさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記Er:Yb利得媒質の温度を通常の室温以上に制御可能に維持するステップをさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記励起光は、複数の横モードの伝搬をサポートするコアと、離隔されたMM FBGと、を備えるYbまたはNdファイバーレーザーによって発生されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1ミクロンnm波長範囲にYbレーザー発振の開始(onset)を抑制した高出力Yb:Erファイバーレーザーシステムに関する。詳細には、本開示は、1020~1060nm波長範囲でクラッド励起される(clad pumped)Yb:Er添加ファイバーをベースとする高出力ファイバー発振器および増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
1.5~1.6μm波長範囲で動作する、高出力で実用的な低コストのエルビウム(Er)添加ダブルクラッドファイバーレーザーシステムの需要がある。この波長範囲のレーザー動作は、いくつかの理由で魅力のあるものであり、それはツリウム(Tm)レーザーシステム、mid-IRパラメトリック増幅器および発振器を励起するのに優れており、さらにそれはファイバー損失が少なく、多くの科学および工学応用において高出力Erレーザーを非常に有利にする。
【0003】
Erにおける最も一般的なレーザー遷移は、1550nmあたりに集中している。Erベースのレーザーシステムの圧倒的に普及している励起構成は、980nm励起波長あたりで動作し、Erファイバーシステムにおいて広く利用される。しかしながら、9xx nm波長範囲で励起されるErファイバーデバイスは、ますます増加している産業需要を満たす十分な出力がない場合がある。Erファイバーデバイスのパワースケーリングを制限する主な理由は、高出力シングルモード(SM)出力源がないことである。一般に、知られているSM出力源は、ダイオードレーザーをベースとし、その出力は2~3Wを上回らない。別の制限は、Erイオン添加濃度が以下の理由で比較的低いものであることから生じる。第1に、高いEr濃度では、発光は、ErイオンとOHとの間の相互作用に起因してエネルギー移動過程によって消滅する場合がある。第2に、それは、静電双極子-双極子相互作用によりErイオンを下方遷移させる、よく知られている「濃度消光」過程である。この現象は、効率および利得を下げる原因となる。その上、高い励起パワーが加えられる場合、別の協同アップコンバージョン(cooperative upconversion)過程が発生し、ファイバー劣化を引き起こす、非常に望ましくないフォトダークニング(photodarkening)につながる。
【0004】
Er+3を、増感剤として働くYb+3と共添加することは、Erファイバーでの比較的低い励起吸収(pump absorption)を回避し、ErレーザーおよびEr増幅器のパワースケーリングを増大させるために使用されている。Ybイオンは、基底状態の上に1つの準安定状態しかない単純な電子構造、広い吸収スペクトル、ならびにシリカファイバーについて図2に示すように、高い吸収および放出断面積を有する。Erとは異なり、Ybは、高い添加濃度で使用されてもよく、高出力MMダイオードレーザーによるクラッド励起方式の利用を可能にする。励起は、原則として、910nm~1064nmの広い波長範囲で行われ得る。特に976nmでの大きい吸収断面積は、高い励起吸収を可能にし、比較的短いファイバー長につながる。
【0005】
図3は、高低反射ミラー15間に定められる光共振器内に配置された、Yb:Er共添加ダブルクラッド(DC)ファイバー12を有するErレーザー10で構成された高出力ファイバーシステムの一般的な概略図を示す。Yb:Erレーザーは、ダイオードレーザーベースのポンプ14によって、9xx nm波長で双方向に側面励起される。動作中、励起光が放たれ、内側クラッディングに閉じ込められて、ファイバー12のコアに空間的に重なる。Yb+3イオンは、ファイバー12の長さ全体にわたって励起光子(pump photon)を吸収し、それのエネルギーをEr+3イオンに共鳴的に移動させる。ファイバー12は、それの高放出断面積によってYb3+Er3+共添加システムの優れたホストであると考えられているリンケイ酸塩ガラス(phosphor-silicate glass)である。リン酸塩ホストのより大きいフォノンエネルギーは、Er+3からYb+3へのエネルギー移動を防ぐ望ましい緩和の遷移確率(transition probability)を増大させる。また、Yb発光スペクトルとEr吸収スペクトルとの間の空間の重なりが大きく、リンケイ酸塩ファイバーにおけるYb3+からEr3+へのエネルギー移動効率は、95%に達し得る。
【0006】
9xx nm波長範囲で動作する、図3の励起構成14を持つレーザー12のパワースケーリングを妨げるいくつかの制限要素がある。これらの制限の1つが、1μm波長範囲における寄生発振(parasitic)Yb放出であり、これは、この波長範囲での不要な高利得係数のためにYb:Erファイバーレーザーのファイバー12を修復不能なほど破損する可能性がある。図4は、1μm波長範囲において図2のYb:Erファイバーレーザー10で寄生発振が発生したことを示す。下のグラフ1は、1570nmでのEr出力パルスを示す。上のグラフ2は、1μm波長範囲にレーザー発振ピークがある、Ybのスーパールミネッセンス信号(superluminescence signal)を示す。
【0007】
1μm波長範囲の不要な放出を説明する要素の1つは、Erイオンへのエネルギー移動に関与しない、ファイバーのコアにおいてErイオンから分離した限られた量のYbイオンが存在することである。一般に、分離したYbイオンは、Ybイオンの総量のわずか数パーセントを構成する。しかしながら、分離したYbイオンは、それぞれの図5および図6で利得スペクトルを比較することによってわかるように、9xx励起波長でエネルギー移動に関与するYbイオンとは比較にならないほど大きい全体的な不要な反転分布の一因となる。1μm波長範囲でのYbイオンの高利得は、Yb:Erファイバーレーザーシステムにおける一般的な不要な現象である。
【0008】
パワースケーリングに影響を及ぼすさらに別の要素は、1μm波長範囲での寄生発振発生である。アクティブファイバーの温度が上がるにつれて、この波長範囲での吸収係数およびErイオンとYbイオンとの間の遷移速度も上がる。しかし後者の条件が満たされない場合、1μm波長範囲での寄生発振発生がより増大する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に基づいて、1μm波長範囲での低利得を特徴とする高出力の効率的なYb:Erレーザーおよび増幅器が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この必要は、1~1.06μm励起波長範囲でYb:Er添加ファイバーを励起する少なくとも1つのYbファイバーレーザーを実装することによる本発明の高出力Yb:Erレーザー/増幅器によって満たされる。
【0011】
Yb:Er添加ファイバーを1~1.06μm励起波長範囲で励起すると、9xx nm励起波長での70%の反転分布と比較して、分離したYbイオンの反転分布が約2~15%に抑えられる。同時に、より長い励起波長は、Er+3イオンへのエネルギー移動に加わるYb+3イオンの反転分布に著しく影響を及ぼすことはない。分離したYb+3イオンの小規模な反転分布では、1020~1060nm励起波長での1μm範囲の最大利得係数は、9xx nm励起波長でのそれよりもかなり低い。結果として、本発明のシステムは、9xx nm励起波長で動作する既知の概略図のしきい値よりも、1μm波長範囲でかなり高いレーザー発振しきい値(lasing threshold)を有する。
【0012】
より具体的には、本開示の一態様によれば、本発明のシステムは、Yb:Erファイバーレーザーで構成される。詳細には、ファイバーレーザーは、1~1.06μm励起波長範囲で動作するレーザー源によって励起されるEr:Yb共添加ダブルクラッド(DC)構成をベースとしている。励起光は、(信号光伝搬方向に対して)前方方向および後方方向の一方、または双方向のいずれかで、DCファイバーの励起クラッディングに結合され得る。
【0013】
15xx nm波長あたりで信号光を出力する、開示するYb:Er DCファイバーは、シングルモード(SM)コア、5未満の、好ましくは2を下回るMを有する15xx nm範囲の信号光を出力する低モード(LM)コア、またはマルチモード(MM)ファイバーで構成されてもよい。
【0014】
さらに別の態様によれば、開示する励起レーザーは、SMまたはMMのいずれかであってよい。さらに、Yb:Erファイバーを励起する技法は、側面励起または端面励起のいずれかであってよい。具体的な励起技法は、当面のタスク次第であり、上述の態様のいずれかまたはあらゆる特徴、および開示するシステムの特徴と共に使用することができる。
【0015】
本開示の以下の態様によれば、Yb:Erシステムが、1000~1060nm波長範囲で動作するYbレーザーポンプと、15xx~16xx nm波長で信号光を出力するシードと、1つまたは複数の増幅カスケードとで構成されてもよい。シードおよび増幅器の少なくとも一方または両方が、Yb:Erファイバーをベースとしている。組み合わせて、シードおよび増幅器は、主発振器出力ファイバー増幅器(master oscillator power fiber amplifier:MOPFA)アーキテクチャを構成する。
【0016】
上記の態様のすべてにおいて開示するYb励起ファイバーレーザーは、上記で開示する励起技法のすべてに従って、シード源、またはファイバー増幅器、またはシード源と増幅器の両方を選択的に励起してもよい。さらに、開示するYbファイバー励起は、他の励起構成と組み合わせて使用することができる。たとえば、シードおよび増幅器の一方は、ダイオードレーザーベースのポンプと組み合わせて動作するが、他方は、Ybファイバーレーザーポンプを使用する。
【0017】
開示する上記の個々のファイバーレーザーおよびMOPFA構成は、様々に添加される活性媒質にYb:Er励起として使用することができる。Yb:Er励起の個々の応用の1つは、Yb:Er励起光の波長よりも長い波長で動作するErファイバーレーザーまたは増幅器を励起することを含む。Yb:Er励起のさらに別の応用は、ツリウム添加(Tm)利得媒質に結合される励起光を出力することを含む。
【0018】
上記で開示するYb:ErレーザーおよびMOPFA構成は、異なる動作領域(operating regime)で動作することができる。すなわち、それらは、連続波(CW)領域、準連続波(QCW)領域、または純粋なパルス領域を動作させることができる。
【0019】
上記および他の特徴および利点は、以下の図面が付いた具体的な説明からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】Yb:Erリン酸塩ガラスにおけるEr+3イオンの知られている吸収および放出断面積の図である。
図2】シリカガラスにおけるYb+3イオンの知られている吸収および放出断面積の図である。
図3】9xx nm励起波長で励起される知られているYb:Erレーザーの光学的概略図である。
図4】Yb:Er QCWファイバーレーザーにおけるそれぞれの1.5μmおよび1μm波長での信号および寄生発振発生の一例を示す図である。
図5図2の9xx nm励起波長でのYb:ErファイバーにおけるEr+3へのエネルギー移動に関与するYb+3イオンの利得を示す図である。
図6図2の概略図のYb:Erファイバーにおける分離したYb+3イオンの利得を示す図である。
図7図2の概略図の1μm寄生発振波長における寄生発振でのすべてのYb+3イオンの総利得を示す図である。
図8】開示するレーザーシステムの光学的概略図である。
図9図8の概略図の1μm寄生発振波長でのすべてのYb+3イオンの総利得の図である。
図10】主発振器出力ファイバー増幅器構成で動作する図8の本発明のファイバーレーザーシステムを示す光学的概略図である。
図11】Tmのイオンを添加された利得媒質を励起する図9の本発明のファイバーレーザーシステムの光学的概略図である。
図12】レーザー発振しきい値の温度への依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図8は、MM波長反射器24間に定められる共振空洞に配置された、ダブルクラッドYb:Er添加ファイバー22をベースとするMM Erファイバーレーザーまたは増幅器20の本発明の概略図を示す。知られている技術とは対照的に、Erファイバーレーザーは、1020~1060nm励起波長で動作するファブリペロー(Fabry-Perrot)Ybファイバーレーザー、または1050~1060nm励起波長でのネオジム(Nd)添加ファイバーレーザーなどの励起源(pump source)によってクラッド励起されて、15xx nm波長あたりの信号光を出力する。励起構成は、反対の光伝搬方向のどちらか一方での単方向励起、または図示のように双方向励起を可能にする、側面励起または端面励起技法に従って構成されてもよい。
【0022】
図8の例示的なファイバー22は、1つまたは複数のMM Yb励起ファイバーレーザー26が1028nm励起波長でファイバー22を側面励起することによって励起される。ファイバー22は、Yb:Erイオンを添加された50μm MMコアを有し、約10メートルの長さを有する。QCW領域における1570nm信号波長での1kW出力は、1μm波長範囲でYb+3イオンの寄生発振発生に達することなく得られる。対照的に、960~970nm励起で動作する、図3の構成の同じ例示的な概略図は、1570nm信号波長で最大300~400Wを出力し、その後、理論的には1μm波長範囲の寄生発振発生が決定される。理論的には、図3の構成を使用することによって、960nm励起波長での1kW出力が達成可能であった場合、すべてのYb+3イオンの1μmでの全体的な増幅は、図7に示すように、80dBを超えることになる。対照的に、理論的には、図8の本発明の構造は、上記で開示したように上記と共にファイバー22について図9ではっきりとわかるように、同じ1kW出力に対して32dBの全体的な寄生発振の増幅しかない。
【0023】
図10は、主発振器出力ファイバー増幅器(MOPFA)構成において1020~1060nm励起波長範囲で本発明のQCW Yb:Erファイバーレーザーを利用する光学的概略図30を示す。Yb:Erファイバーレーザー20とYb:Erファイバー増幅器またはブースター30との間に、Yb添加ファイバーの長さとして構成されたフィルター32が配置され、ファイバー22の出力での1μm波長範囲の寄生発振信号をさらに処理する。Ybファイバーレーザー34を含む励起構成は、レーザー20とブースター30の両方を励起するように構成される。Yb:Erファイバーの励起は、2つの比較的弱い波長反射器36および38の間に、Ybポンプ34の共振空洞を設けることによって実現され、レーザー20に結合される励起光を、ファイバーブースター30に結合される励起光よりも実質的に弱くして、励起光がレーザー20およびブースター30に結合されるのを可能にする。15xx nm波長での信号光がレーザー20の空洞から不要に漏れるのを防ぐために、複数のMMの強い波長反射器40の組合せが、Yb:Erファイバー22の上流に沿って設置される。
【0024】
図11を参照すると、本発明のYb:Erファイバー構成は、Tmファイバーレーザーシステム42の励起ユニットとして利用されてもよい。Tmファイバーレーザーシステム42は、個々のTmファイバーレーザーとして、または図示のようにMOPFA構成で、または別個のTmファイバー増幅器として実装されてもよい。
【0025】
要約すれば、1020~1060nm励起波長範囲は、分離したYb+3イオンの利得を下げること、および1μm波長での寄生発振発生のしきい値を、Yb:Erリン酸塩ファイバーでは2~3倍に上げることを可能にする。
【0026】
本開示の手法は、所与のタスクにYb:Erファイバーの構成を最適化するのに役立つことができる。一般に、レーザーシステムの最大出力および光の質が、最初から設定される。アプリオリに知られるこれらのパラメータを用いて、1μm波長範囲における最大許容寄生発振利得が決定される。Yb:Erレーザーシステムの具体的な用途に応じて、許容寄生発振利得は変動し得る。たとえば、Yb:ErファイバーレーザーがTm添加ファイバーの励起として利用される場合、1μm波長範囲における最大許容利得は、反射面を有する熱処理材料に使用されるYb:Erファイバーのそれよりも高いことがある。Yb:Erファイバーレーザーの出力での光信号の質については、それは主として利得媒質、すなわちYb:Erファイバーのパラメータ、たとえばコア径、ファイバー長、コアNA、およびレーザー技術の当業者によく知られている他のものなどによって決まる。
【0027】
15xx μm波長のYb:Erレーザーの所望の出力について、1μm波長で動作する、高出力励起が必要とされると仮定する。一般に、励起効率は、様々な光損失のために50%であると仮定され、すなわち、たとえば1550nmでの1kWのシステム出力は、1μm波長範囲でのおおよそ2kWの励起光を必要とする。
【0028】
上記によれば、Yb:Er媒質にはYbイオンの2つのグループがある。第1のグループは、Yb+3イオンの総数の5%以下を構成し、1ms~1.4msの寿命を有する、分離したYb+3イオンを含む。他のグループは、たとえば、数十マイクロ秒(μs)の寿命を有する、Er+3イオンへのエネルギー移動に加わるYb+3イオンの95%を含む。Yb+3のイオンによる励起光の吸収は、後者が、第2のエネルギー移動するYb+3イオンのイオンによって吸収されるにつれて、5%~95%として分散される。
【0029】
上記に開示した仮定では、Yb+3イオングループの各々における反転分布のレベルは、所与のファイバー長に対してたとえば1020nm波長での2kW励起出力で決定される。その場合Yb+3イオンの両方のグループでの反転分布がわかると、両方のグループのYb+3イオンのそれぞれの利得は決定され、合計される。最大寄生発振利得が最大許容レベルを超える場合、以下のステップを始めることができる。
【0030】
第1に、添加ファイバー長を変更し、上記で開示した手順に続いて、Yb+3イオンの結果として生じる利得を再計算することができる。しかしながら、ファイバー長は、耐えられない光損失およびレーザー効率の低下をもたらすことがあるので、無限に増やすことはできない。
【0031】
第2に、励起波長を増やす。たとえば、1020nm波長ではなく、1030nm波長を使用する。励起波長がより長くなると、分離したYbイオンの反転分布、したがって不要な波長範囲の利得は減る。結果として、同じ2kW励起パワーで、分離したYbイオンの反転分布は減少するが、エネルギー移動するYb+3イオンの反転分布は変わらないままである。その結果、1μm波長範囲の不要な総Yb利得もまた減少する。
【0032】
励起波長がより長くなると、Yb:Erファイバーの構成もまた、再検討されるべきである。たとえば、クラッド径を、たとえば200μから150μに縮小する必要がある場合がある。
【0033】
図12は、1μmでの寄生発振発生を最小限に抑えるのに役立つ別の重要な要素を示す。アクティブEr:Ybファイバーは、レーザー動作の初期段階で室温に近い温度を有する。レーザーが動作し続けるにつれて、利得媒質の温度は上昇する。1μ波長範囲の寄生発振発生は、いわゆるコールドスタート中に比較的低温で存在する。さらに、レーザーが動作し続け、温度が上がるにつれて、この発生は実際には消失する。したがって、1μ波長範囲の寄生発振発生をさらに最小限に抑えるために、図8に示す本発明のファイバーレーザーシステムは、ある温度範囲でまさに最初からYb:Erファイバーの温度を維持するように制御可能なサーモスタットを含む。範囲の下限は、明らかに室温よりも高くなければならず、最高温度は、明らかにファイバーの完全性に有害なレベルに達してはならない。範囲は、各個々のレーザーについて分析的または実験的に決定することができる。
【0034】
開示する個々のファイバーレーザーの多くの異なる構成が、本発明の意図する範囲から逸脱することなく容易に実装できることは、レーザー技術の当業者には容易に了解されよう。本発明の構造の動作可能な領域はQCW構成に限定されず、CW領域とパルス領域の両方で正常に使用できることは明らかである。SMまたは低モードレーザー、ポンプ、および増幅器はすべて、上記の開示したMMデバイスに取って代わることができる。励起構成は、ファイバーレーザーを含むことが好ましいが、代わりに他の好適なポンプを含んでもよい。開示した信号光出力は、例示にすぎず、励起パワーおよび冷却構成の最適化に伴って増加することがあり得る。
【0035】
したがって、本発明をそれの詳細な説明と共に説明したが、上記の説明は例示を目的とし、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定しないことを理解されたい。他の態様、利点、および変更形態が、以下の特許請求の範囲内に入る。
【符号の説明】
【0036】
10 Erレーザー
12 ファイバー
14 ダイオードレーザーベースポンプ
15 高低反射ミラー
20 Yb:Erレーザー/増幅器
22 ファイバー
24 波長反射器
26 Yb励起ファイバーレーザー
30 Yb:Erファイバー増幅器/ブースター
32 フィルター
34 Ybファイバーレーザー/ポンプ
36 波長反射器
38 波長反射器
40 波長反射器
42 Tmファイバーレーザーシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
図1】Yb:Erリン酸塩ガラスにおけるEr+3イオンの知られている吸収および放出断面積の図である。
図2】シリカガラスにおけるYb+3イオンの知られている吸収および放出断面積の図である。
図3】9xx nm励起波長で励起される知られているYb:Erレーザーの光学的概略図である。
図4】Yb:Er QCWファイバーレーザーにおけるそれぞれの1.5μmおよび1μm波長での信号および寄生発振発生の一例を示す図である。
図5図2の9xx nm励起波長でのYb:ErファイバーにおけるEr+3へのエネルギー移動に関与するYb+3イオンの利得を示す図である。
図6図2の概略図のYb:Erファイバーにおける分離したYb+3イオンの利得を示す図である。
図7図2の概略図の1μm寄生発振波長における寄生発振でのすべてのYb+3イオンの総利得を示す図である。
図8】開示するレーザーシステムの光学的概略図である。
図9図8の概略図の1μm寄生発振波長でのすべてのYb+3イオンの総利得の図である。
図10】主発振器出力ファイバー増幅器構成で動作する図8の本発明のファイバーレーザーシステムを示す光学的概略図である。
図11】Tmのイオンを添加された利得媒質を励起する図9の本発明のファイバーレーザーシステムの光学的概略図である。
【外国語明細書】