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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147693
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】伸縮自在のプランジャーアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A61M5/315 512
A61M5/315 514
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024113529
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2020555029の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】62/654,663
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/666,450
(32)【優先日】2018-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/672,934
(32)【優先日】2018-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512082716
【氏名又は名称】エスアイオーツー・メディカル・プロダクツ・インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】2250 Riley Street,Auburn,Alabama 36832 U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・ラッセル・リリー
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・エム・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】シャンカラ・ナラヤナッパ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プランジャースリーブと、プランジャーロッドと、プランジャースリーブの内腔内に配置される軸方向突起とを含む、プランジャーアセンブリが開示される。
【解決手段】プランジャーロッド22によってプランジャー24に遠位力を加えることによって、軸方向突起30が内腔の係合面に接触して圧力を加えるようにする。係合面は、軸方向突起の端からの遠位力を受けるように構成されている。これにより、プランジャーを伸長させてわずかに収縮させるため、解放力を低下させ、且つプランジャーの貯蔵モードから投薬モードへの移行を容易にする。
【選択図】図11C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用筒内で使用するためのプランジャーアセンブリであって:
遠位端及び近位端を有するプランジャーロッド;
前記プランジャーロッドの前記遠位端に固定される、そこから延在する、又はそれに当接する軸方向突起;及び
外表面と、内腔を取り囲む内部表面とを有するプランジャースリーブを含むプランジャーであって、前記外表面は、遠位ノーズコーンと、前記ノーズコーンから近位に延在し且つ前記プランジャースリーブの近位端にある開口部に至る環状外壁とを含み、前記開口部は前記軸方向突起を受け入れて、前記軸方向突起が前記内腔内へ延在し且つ前記内部表面の係合面と接触するようにし、前記係合面は、前記軸方向突起によって遠位方向に加えられた力を受け、前記プランジャーロッドが遠位方向に動かされると、前記プランジャーアセンブリを遠位方向に動かすように構成されている、プランジャー
を含み、
前記プランジャーロッドの前記遠位端は、前記プランジャーが伸長前の状態にあるとき、最初は前記プランジャースリーブの前記近位端に接触しておらず、及び前記プランジャーロッドの前記近位端を予め決められた距離、軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、前記プランジャーロッドの前記近位端に近位方向に加えても、前記プランジャーを軸方向に近位方向に移動させることはない、プランジャーアセンブリ。
【請求項2】
前記プランジャーロッド及び軸方向突起は、ユニタリー構造のシングルピースとして提供される、請求項1に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項3】
前記軸方向突起は、シリンダー状であり、且つ実質的にその全長に沿って均一な直径のものであり、前記軸方向突起のシリンダー状の外面は、締り嵌めを用いずに、前記プランジャースリーブの前記内部表面に緩く接触するため、前記軸方向突起は、前記プランジャースリーブが医療用筒内に配置されているとき、前記プランジャースリーブから手動で引っ張り出され得る、請求項2に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項4】
前記プランジャーロッド及び軸方向突起は、第1の近位部分及び第2の遠位部分を含む、マルチピースアセンブリとして提供され、前記第2の部分は前記軸方向突起を含み、前記第1の部分及び第2の部分は、少なくとも予め決められた距離まで手動で引き離され得る、請求項1に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項5】
前記第1の部分及び第2の部分は入れ子式配置構成に組み立てられて、それらが、予め決められた距離まで引き離され得るようにし、そこでは、それらはそれ以上手動で引き離されることはできず、前記第1の部分及び第2の部分は、それ以上一緒に押し進めることができなくなるまで、縮められ得る、請求項4に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項6】
前記第1の部分又は前記第2の部分の一方は、前記第1の部分又は前記第2の部分の他方のシャフトを受け入れるように構成された中心中空部を有するハブを含む、請求項5に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項7】
十分に縮められると、プランジャーロッドに、十分に遠位に向けられた力を加えることによって、前記マルチピースアセンブリを一体として遠位方向へ動かす、請求項5又は6に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項8】
前記軸方向突起は、その遠位端にヘッドを含み、前記ヘッドは、前記ヘッドに至る前記軸方向突起の部分よりも横断面の幅又は直径が大きく、前記ヘッドは、前記プランジャースリーブの前記内部表面の前記係合面に接触する、請求項4~7のいずれか1項に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項9】
前記ヘッドは、前記内腔内の遠位区画室に配置され、前記遠位区画室は、前記遠位区画室の近位にある前記内腔のより狭いセクションよりも横断面の幅又は直径が大きく、前記軸方向突起は、前記ヘッドの直径又は横断面の幅が前記内腔の前記より狭いセクションよりも大きいため、前記プランジャーから簡単に手動で引っ張り出すことができない、請求項8に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項10】
前記ヘッドの幾何学的形状及び寸法は、前記プランジャースリーブの前記内腔の前記遠位区画室の対応する幾何学的形状及び寸法に実質的に一致する、請求項9に記載のプランジャーアセンブリ。
【請求項11】
内壁と、製品を入れる領域とを含む医療用筒であって、前記製品を入れる領域は、内部に注入可能な製品、例えば液体組成物が配置されており、前記医療用筒は、前記注入可能な製品を投薬するための遠位投薬端と、プランジャーアセンブリを受け入れるように構成された、開放した近位端とを含む、医療用筒;及び
請求項1~10のいずれか1項に記載のプランジャーアセンブリであって、前記プランジャーは、前記医療用筒内に配置されて、前記ノーズコーンが前記注入可能な製品に対面するようにし、且つ任意選択的に、前記プランジャーロッドの少なくとも一部分が、前記医療用筒の前記開放した近位端から近位に延在するようにする、プランジャーアセンブリ
を含む、プレフィルドシリンジ。
【請求項12】
前記プランジャーロッドに遠位方向に十分な力を加えることによって、前記プランジャーアセンブリを前記医療用筒で遠位に移動させる、請求項11に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項13】
前記プランジャーは伸張ゾーンを含み、前記伸張ゾーンは、前記軸方向突起によって前記係合面に前記遠位方向に力が加えられると、前記プランジャーの中心軸に沿って伸長するように適合されており、前記伸長によって、前記環状外壁の外側輪郭を前記伸張ゾーンに沿って減少させ、任意選択的に、前記プランジャーの前記伸長は、2.0mm未満、任意選択的に1.75mm未満、任意選択的に1.5mm未満、任意選択的に1.25mm未満、任意選択的に1.0mm未満である、請求項12に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項14】
前記プランジャーロッド及び軸方向突起は、前記アセンブリが前記医療用筒を遠位方向に前進させられるとき、前記プランジャーロッドが前記プランジャースリーブの前記近位端と接触しないように、構成されて、作動中、前記プランジャーを軸方向に圧迫しないようにする、請求項13に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項15】
前記プランジャーロッドの少なくとも一部を近位方向に予め決められた距離、軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、前記プランジャーロッドの前記近位端に近位方向に加えても、前記プランジャーを軸方向に近位方向に移動させることはない、請求項11~14のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項16】
前記プランジャーアセンブリは、請求項2又は3に記載のプランジャーアセンブリであり、及び前記プランジャーロッドを近位方向に予め決められた距離、軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、前記プランジャーロッドの前記近位端に近位方向に加えることによって、前記プランジャースリーブから前記軸方向突起を取り外す、請求項15に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項17】
前記シリンジは0.5mLシリンジである、請求項11~16のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項18】
前記医療用筒は、透明なポリマー、任意選択的にCOP又はCOCから射出成形されている、請求項11~17のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項19】
前記医療用筒の前記内壁は、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)コーティング又はコーティングセットを含む、請求項11~18のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項20】
前記PECVDコーティング又はコーティングセットは:
任意選択的に、結合層と、前記結合層上に配置されたSiOxバリア層とを含む、2層コーティングセット;
任意選択的に、結合層と、前記結合層上に配置されたSiOxバリア層と、前記SiOxバリア層上に配置されたオルガノ-シロキサン層とを含む、3層コーティングセット;及び
任意選択的に、結合層と、前記結合層上に配置されたSiOxバリア層と、前記SiOxバリア層上に配置されたオルガノ-シロキサン層と、前記オルガノ-シロキサン層上に配置された潤滑性層とを含む、4層コーティングセット
からなる群から選択される、請求項19に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項21】
前記プランジャーと医療用筒との間に、流動性潤滑剤のコーティング、任意選択的にシリコーンオイルを含む、請求項11~19のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項22】
前記プレフィルドシリンジは0.5mLシリンジであり、及び前記注入可能な製品は、任意選択的に約165μLの量で存在する液体眼用製剤である、請求項11~21のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項23】
前記液体眼用製剤は、硝子体内注入に好適であり、且つ、VEGF拮抗薬を含み、任意選択的に、前記VEGF拮抗薬は、抗VEGF抗体、又はそのような抗体の抗原結合フラグメントを含む、請求項22に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項24】
前記液体眼用製剤は、ラニビズマブ及び/又はアフリベルセプトを含む、請求項22又は23に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項25】
前記プランジャーを前記医療用筒で前進させて、前記液体眼用製剤の一部分をプライミングステップで投薬し、それに続いて、患者の目の組織に針を挿入し、ここで、前記針は、前記製品を入れる領域から前記医療用筒の前記投薬端を通る流体連通を提供し、及びさらに、前記プランジャーを前記筒で前進させて、前記眼用製剤を前記患者の目の組織に注入することを含む、請求項22~24のいずれか1項に記載のプレフィルドシリンジの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年4月9日出願の米国仮特許出願第62/654,663号、2018年5月3日出願の同第62/666,450号、及び2018年5月17日出願の同第62/672,934号の優先権を主張し、それらの全ては全体を参照することにより本明細書に援用する。
【0002】
本開示の概念は、プランジャーに関し、及び薬物送出装置、例えば(プレフィルドの、使用前に充填される、又は空の)シリンジ、カートリッジ又はオートインジェクターにおけるプランジャーの使用に関する。より詳細には、本開示の概念は、とりわけ、プレフィルドシリンジの保存期間中の貯蔵モードにおいて、容器クロージャーの完全性をもたらして維持する伸縮自在のプランジャーに関する。これらのプランジャーは、プランジャーを伸張させるようにプランジャーを作動させることによって、投薬モードへ切り替え可能であり、これにより、シリンジの内容物を投薬するときに、滑らかで、弱いプランジャー力を容易に生じさせるのを助ける。
【背景技術】
【0003】
本開示は、主に、プレフィルドシリンジと関連して、本開示の概念によるプランジャー及びプランジャーアセンブリの使用を説明している。しかしながら、本発明は、プレフィルドシリンジに限定されず、他の薬物送出装置、例えば(プレフィルド、使用前に充填される、又は空の)シリンジ、カートリッジ及びオートインジェクターも含み得る。
【0004】
プレフィルドの非経口容器、例えばシリンジ又はカートリッジは、一般に、患者又は介護者が使用前にシリンジを充填する必要がないように準備されて販売されている。シリンジ、より具体的にはシリンジの筒は、例えば、いくつかあるアイテムの中でも特に、食塩溶液、注入用色素、又は医薬的有効製剤を含む、様々な異なる注射剤がプレフィルドされ得る。これは、特に、眼科用などの、非常に少量且つ正確な量の注入可能な製品を投薬するために使用される、シリンジの場合である。
【0005】
プレフィルドの非経口容器は、一般に、ゴムプランジャーで密封されており、容器の内容物の保存期間にわたってクロージャーの完全性をもたらしている。プレフィルドシリンジを使用するために、パッケージング及びキャップを取り外し、任意選択的に皮下注射針又は別の送出導管を筒の投薬端に取り付け、送出導管又はシリンジを使用位置まで動かし(例えば患者の血管へ、又はシリンジの内容物ですすぎ流されるべき器具へ挿入することによって)、及びプランジャーを筒内で軸方向に前進させて、筒の内容物を適用点に注入する。
【0006】
ゴムプランジャーによって筒にもたらされたシールすなわち密封は、一般に、プランジャーのゴムを筒に押し付けることを含む。一般に、ゴムプランジャーの直径は、筒の内径よりも小さい。それゆえ、注射剤をシリンジから投薬するときにゴムプランジャーを変位させるためには、ゴムプランジャーのこの押圧に打ち勝つ必要がある。さらに、プランジャーを最初に動かすときに、ゴムシールによってもたらされたこの押圧に一般に打ち勝つ必要があるだけでなく、注射剤を投薬する間、ゴムプランジャーが筒に沿って変位されるので、この押圧に打ち勝ち続ける必要もある。シリンジ内でプランジャーを前進させるために、さらにわずかに強い力が必要であることは、使用者がシリンジから注射剤(injection product)を投薬する際の難しさを増大させ得る。そのような強い力はまた、眼科用シリンジを用いるプライミングステップの最中などに、少量且つ正確な量を投薬する使用者の能力を妨げ得る。そのような強い力は、特に、シリンジが自動注入装置に配置され且つプランジャーが固定バネによって前進される自動注入システムにとって、問題となることを証明し得る。従って、プレフィルドの非経口容器におけるプランジャーの使用に関する主な検討事項は:(1)貯蔵及び使用中に容器内にプランジャーによってもたらされるシールの妥当性、例えばプランジャーが容器クロージャーの完全性(「CCI」、下記で定義する)をもたらすかどうか;及び(2)シリンジの内容物を投薬するために必要とされるプランジャー力(下記で定義する)を含む。
【0007】
実際には、CCI及びプランジャー力は、矛盾する検討事項となる傾向を有する。換言すると、他の要因がない場合、適切なCCIを維持するためのプランジャーと容器の内部表面との間の嵌合がきついほど、使用時にプランジャーを前進させるために必要な力は大きくなる。医療用シリンジの分野では、プランジャーが、筒内で前進させられるときに、実質的に一定の速度で及び実質的に一定の力によって動くことができることを保証することが重要である。さらに、プランジャーの動きを開始させ、且つその後、プランジャーを前進させ続けるために必要な力は、使用者によって正確に投与できるようにし且つ患者にとって快適であるように、十分に弱い必要がある。
【0008】
プランジャー力は、本質的に、接触している面のそれぞれ(すなわち、プランジャーの表面及びシリンジの内壁面)の摩擦係数と、シリンジの内壁に対してプランジャーによって加えられる法線力との関数である。それぞれの摩擦係数が大きいほど、及び法線力が大きいほど、プランジャーを前進させるために必要な力は大きくなる。従って、プランジャー力を改善するための努力は、摩擦を低減させ、且つ接触している面と面との間の法線力を弱くするように向けられるべきである。しかしながら、そのような努力は、上述のように、適切なシール、例えばCCIを維持する必要があることによって、加減されるべきである。
【0009】
摩擦を低減させ、それゆえプランジャー力を改善するために、プランジャー、容器の内部表面、又はそれら双方が潤滑にされ得る。液体又はゲルのような流動性の潤滑剤、例えば遊離シリコーンオイル(例えば、ポリジメチルシロキサンすなわち「PDMS」)が、所望レベルの潤滑性をもたらして、プランジャー力を最適にし得る。流動性潤滑剤は、プレフィルドシリンジと一緒に使用されると、時間と共にプランジャーから移動することがあり、プランジャーと容器の内部表面との間に、潤滑性がほとんどない又は全くないスポットを生じ得る。これは、プランジャーと筒との間の接着性に関する業界用語である「スティックション(sticktion)」として公知の現象を生じることがあり、このスティックションに対して、プランジャーが離脱して(break out)動き始めることができるようにするために、打ち勝つ必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
適切なCCIを維持しながら、非経口容器におけるプランジャー力を最適にして、薬物の漏れを防止し、薬物製品を保護し、且つ十分な製品保存期間を達成することに対するニーズがある。例えば、眼科用の注射筒内にある間は後方に引くことができないプランジャーによって、これらの目標を達成することに対してもニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、1つの任意選択的な実施形態では、医療用筒内で使用するためのプランジャーアセンブリが提供される。プランジャーアセンブリは、プランジャーロッド、軸方向突起、及びプランジャーを含む。プランジャーロッドは、遠位端及び近位端を有する。軸方向突起は、プランジャーロッドの遠位端に固定される、そこから延在する、又はそれに当接する。プランジャーは、外表面と、内腔を取り囲む内部表面とを有するプランジャースリーブを含む。外表面は、遠位ノーズコーンと、ノーズコーンから近位に延在し且つプランジャースリーブの近位端にある開口部に至る環状外壁とを含む。開口部は軸方向突起を受け入れて、軸方向突起が内腔内へと延在するようにし、且つ内部表面の係合面に接触するようにする。係合面は、プランジャーロッドが遠位方向に動かされると、プランジャーアセンブリを遠位方向に動かすように、軸方向突起によって遠位方向に加えられた力を受けるように構成されている。プランジャーロッドの遠位端は、プランジャーが伸長前の状態にあるとき、プランジャースリーブの近位端に最初に接触しない。プランジャーロッドの近位端を予め決められた距離、軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、プランジャーロッドの近位端に近位方向に加えても、プランジャーを軸方向に近位方向に移動させることはない。
【0012】
別の任意選択的な態様では、本開示の概念は、ユニタリー構造のシングルピースとして提供される、プランジャーロッド及び軸方向突起に関する。或いは、プランジャーロッド及び軸方向突起は、マルチピースアセンブリとして提供され、マルチピースアセンブリの第1の部分は、アセンブリの第2の部分から少なくとも予め決められた距離へと手動で引き離され得る。
【0013】
別の任意選択的な実施形態では、本開示の概念は、上述のプランジャーアセンブリのプランジャーが、注入可能な製品を入れている医療用筒内に配置されている状態の、プレフィルドシリンジである。プランジャーは、プランジャーが貯蔵モードにあるとき、所望の保存期間にわたって十分なCCI及び気密シールをもたらすように構成されている。プランジャーは、プランジャーを軸方向に長くすることによって投薬モードに変換され、軸方向に長くすることは、プランジャーの環状外壁をわずかに収縮させて、筒の内壁に対するプランジャーの半径方向の圧迫を低減させる。これにより、依然として少なくとも液密シールを維持しながら、プランジャーを筒内で前進させるのを容易にする。
【0014】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、軸方向突起及び/又はプランジャーの内部表面は、流動性潤滑剤、例えばシリコーンオイルを含む。任意選択的に、いずれかの実施形態では、軸方向突起及び/又はプランジャーの内部表面は潤滑性コーティングを含み、任意選択的に、潤滑性コーティングは、以下の原子比:SiwOxCy又はSiwNxCy(ここで、wは1であり、xは約0.5~2.4であり、及びyは約0.6~約3である)のうちの一方を有するプラズマ促進化学蒸着(「PECVD」)を使用して成膜されたコーティングである。そのような潤滑性は、所望の場合、プランジャーから軸方向突起を動かすのを容易にするのを助け得る。
【0015】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、プランジャーは、任意選択的に30~70、好ましくは40~60のデュロメータを有する、熱可塑性エラストマー又はゴム、任意選択的にブロモブチルゴムから作製される。任意選択的に、いずれかの実施形態では、プランジャーの環状外壁は、少なくとも1つの環状リブ、任意選択的に少なくとも2つの環状リブ、任意選択的に少なくとも3つの環状リブを含む。
【0016】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、本開示の概念は、プランジャーが内部に配置された医療用筒を含むシリンジであって、プランジャーは、本明細書で説明するプランジャーアセンブリのいずれかの実施形態の構成要素である、シリンジに関する。そのようなシリンジは、任意選択的に、製品を入れる領域に注入可能な製品が貯蔵されたプレフィルドシリンジである。いずれかの実施形態では、プランジャーは、軸方向突起によって、プランジャーの内腔の係合面に遠位方向に力を加えると、プランジャーの中心軸に沿って伸長するように適合された伸張ゾーンを含む。そのような伸長によって、伸張ゾーンに沿って環状外壁の外側輪郭を減少させる。任意選択的に、プランジャーの伸長は1.5mm未満である。
【0017】
いずれかのシリンジの実施形態では、プランジャーロッドは、プランジャーが伸長前の状態にあるとき、最初は、プランジャースリーブに接触していない。ひとたびプランジャーが投薬モードに移行されると、プランジャーは伸長して筒内で移動し、いくつかの実施形態では、プランジャーはプランジャースリーブに接触しないが、他の実施形態では接触する。
【0018】
いずれかの実施形態では、プランジャーの伸長によって、伸張ゾーンに沿って環状外壁を収縮させ、それにより、医療用筒の内壁に対する環状外壁の半径方向の圧迫を低減させる。
【0019】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、係合面は、プランジャーの内腔の内部表面の遠位セクションに設けられ、及び軸方向突起の遠位部分、任意選択的に、軸方向突起の遠位部分のみが、係合セクションに接触する。
【0020】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、プランジャーは、プランジャーロッドによって遠位方向にのみ平行移動するように構成されている。
【0021】
任意選択的に、プレフィルドシリンジのいずれかの実施形態では、貯蔵モードにあるとき、プランジャーは、医療用筒の内壁に外向きの半径方向の圧迫を加えて、それと液密、CCI及び気密インターフェースを形成する。プランジャーが投薬モードに変換された後、液密インターフェースを維持し続け、且つ任意選択的に、プランジャーが筒内を前進させられて注入可能な製品を投薬するとき、CCI及び気密インターフェースを維持する。
【0022】
任意選択的に、プレフィルドシリンジのいずれかの実施形態では、流動性潤滑剤、例えばシリコーンオイルが、シリンジの側壁及び/又はプランジャーの環状外壁にコーティングされる。任意選択的に、代替的な実施形態では、プランジャーとシリンジ側壁との間に流動性潤滑剤は提供されない。
【0023】
任意選択的に、プレフィルドシリンジのいずれかの実施形態では、プランジャーの解放力(break loose force)は、10Nを下回る、任意選択的に9Nを下回る、任意選択的に8Nを下回る、任意選択的に7Nを下回る、任意選択的に6Nを下回る、任意選択的に4~8Nである、任意選択的に4~6Nである。任意選択的に、この解放力は、プランジャーとシリンジ側壁との間に流動性潤滑剤がなくても達成される。任意選択的に、プレフィルドシリンジのいずれかの実施形態では、解放力と滑走力(glide force)との間の差は、6Nを下回る、任意選択的に4Nを下回る、任意選択的に3Nを下回る、任意選択的に2Nを下回る、任意選択的に1.5Nを下回る、任意選択的に1.0Nを下回る、任意選択的に0.5Nを下回る、任意選択的に0.25Nを下回る、任意選択的に0.5N~4Nである。
【0024】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、プランジャーは、その外面にフルオロポリマーフィルムコーティングが成膜されている。これは、薬物接触面を含み、及び任意選択的に、プランジャーに潤滑性をもたらしてプランジャー力を低下させるように、プランジャーの環状外壁の少なくとも一部分に沿って延在し得る。
【0025】
本発明について、以下の図面と併せて説明し、図面では、同様の参照符号は、同様の要素を指定する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示の概念が実施され得る、例示的なプレフィルドシリンジアセンブリの等角図である。
図2】本開示の概念の第1の任意選択的な実施形態による、例示的なワンピースのプランジャーロッドと軸方向突起とのアセンブリの等角図である。
図3A】ここでは、注射筒内でシリンジプランジャーを下方に前進させるように構成された、縮められた(collapsed)位置で示す、本開示の概念の第2の任意選択的な実施形態による、例示的なマルチピースのプランジャーロッドと軸方向突起とのアセンブリの等角図である。
図3B】ここでは、部分的に延長された位置で示す、図3Bのマルチピースのプランジャーロッドの等角図である。
図4】本開示の概念のいずれかの実施形態に従って使用され得る、例示的なプランジャーの孤立の縦断面図である。
図5】軸方向突起が、注射筒内でプランジャーに挿入されている、図2の1ピースのプランジャーロッドを含む、部分的なシリンジアセンブリの縦断面図である。
図5A】3層コーティングセットが配置されている、図5のシリンジの内面の第1の代替的な実施形態の拡大断面図である。
図5B】4層コーティングセットが配置されている、図5のシリンジの内面の第2の代替的な実施形態の拡大断面図である。
図5C】オルガノ-シロキサンコーティングが配置されている、図5のシリンジの内面の第3の代替的な実施形態の拡大断面図である。
図6】軸方向突起及びプランジャーロッドがプランジャーから引き出されている、図5の部分的なシリンジアセンブリの縦断面図である。
図7図3A及び図3Bのマルチピースのプランジャーロッドと軸方向突起とのアセンブリを含む、部分的なシリンジアセンブリを、部分的に延長された位置で示す、縦断面図である。
図8】マルチピースのプランジャーロッドと軸方向突起とのアセンブリの、図7の部分的なシリンジアセンブリを、縮められた位置で示す、縦断面図である。
図9】本開示の概念の第3の任意選択的な実施形態による、例示的な2ピースのプランジャーロッドと軸方向突起とのアセンブリを含む、部分的なシリンジアセンブリを、ここでは、ロッドが、プランジャー内に配置されたロッド延長部から分離されている、延長された位置で示す、縦断面図である。
図10】ロッドの遠位端が、プランジャー内に配置されたロッド延長部の近位端に当接している、2ピースのプランジャーロッド及び軸方向突起を備える、図9の部分的なシリンジアセンブリを、組み立てられた位置で示す、縦断面図である。
図11A】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図5の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図11B】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図5の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図11C】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図5の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図12A】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図8の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図12B】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図8の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図12C】貯蔵モードから投薬モードへ移行するためのプランジャーの伸張を示す、図8の部分的なシリンジアセンブリの部分的な縦断面図である。
図13A】本開示の概念の任意選択的な態様によるプランジャーアセンブリの代替的な実施形態の拡大断面図である。
図13B】本開示の概念の任意選択的な態様によるプランジャーアセンブリの代替的な実施形態の拡大断面図である。
図13C】本開示の概念の任意選択的な態様によるプランジャーアセンブリの代替的な実施形態の拡大断面図である。
図14】解放力(Fi)に対する、プランジャーロッドから延在する軸方向突起の存在及び長さの影響に関するデータを示すグラフである。
図15】特定の時間間隔での経時変化後の解放力(Fi)に対する、プランジャーロッドの軸方向突起の存在及び長さの影響に関するデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
開示された概念を、以下、いくつかの実施形態を示す添付図面を参照して、さらに十分に説明する。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で供されてもよく、及びここで説明する実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、特許請求の範囲の言語によって示される全範囲を有する本発明の例である。同様の符号は、全体にわたって同様の要素を指す。別段の指示がない限り、下記で説明する実施形態及び態様を特徴付ける特徴は、互いに組み合わせられてもよく、及び結果として生じる組み合わせも、本発明の実施形態である。
【0028】
定義
本開示において使用される通り、「有機ケイ素前駆体」は、結合:
【化1】
の少なくとも一方を有する化合物であり、酸素原子又は窒素原子と有機炭素原子(有機炭素原子は、少なくとも1つの水素原子に結合された炭素原子である)とに接続された四価ケイ素原子である。プラズマ促進化学蒸着(PECVD)器具において蒸気として供給され得るような前駆体と定義される揮発性有機ケイ素前駆体は、任意選択的な有機ケイ素前駆体である。任意選択的に、有機ケイ素前駆体は、直鎖シロキサン、単環シロキサン、多環シロキサン、ポリシルセスキオキサン(polysilsesquioxane)、アルキルトリメトキシシラン(alkyl trimethoxysilane)、直鎖シラザン、単環シラザン、多環シラザン、ポリシルセスキアザン(polysilsesquiazane)、及びこれらの前駆体のいずれか2つ以上の組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、有機ケイ素前駆体は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)である。w、x、y、及びzの値は、本明細書を通して、実験的組成(empirical composition)Siwxyzに適用可能である。本明細書を通して使用されるw、x、y、及びzの値は、分子中の原子の数又はタイプの限定ではなく、比率又は実験式(例えばコーティング又は層に対する)であると理解される。例えば、分子組成Si44824を有するオクタメチルシクロテトラシロキサンは、以下の実験式によって説明され、分子式のw、x、y、及びzのそれぞれを4で割ることによって、最大共通因子:Si1126を達成することができる。w、x、y、及びzの値はまた、整数に限定されない。例えば、(非環式)オクタメチルトリシロキサン、分子組成Si32824は、Si10.672.678に小さくできる。また、SiOxyzは、SiOxyと同等であると説明されるが、SiOxyの存在を示すために、どの比率においても水素の存在を示す必要はない。
【0029】
「容器クロージャーの完全性」又は「CCI」は、容器クロージャーシステム、例えば、プレフィルド注射筒に配置されたプランジャーが、容器に入れられた無菌製品の保存期間にわたって、有効性及び無菌性を保護及び維持できる能力を指す。
【0030】
本発明に関連して、「プランジャー滑り力(sliding force)」(この説明で同様に使用される「滑走力(glide force)」、「維持力(maintenance force)」、又はFmと同義語である)は、例えば吸引又は投薬の最中に、注射筒のプランジャーチップの動きを維持するために必要な力である。当該技術分野で公知のISO7886-1:1993の試験を使用して決定されることが好都合であるとし得る。当該技術分野で使用されることが多い「プランジャー滑り力」の同義語は、「プランジャー力」又は「押す力」である。
【0031】
本発明に関連して、「プランジャーブレークアウト力」(同様にこの説明で使用される「ブレークアウト力」、「解放力(break loose force)」、「開始力」、Fiと同義語)は、シリンジ、例えばプレフィルドシリンジ内でプランジャーの動作を開始するために必要な初期力である。
【0032】
用語「シリンジ」は、機能的なシリンジを提供するために、1つ以上の他の構成要素と組み立てられるように適合されたカートリッジ、「ペン」型注入器、及び他のタイプの筒又はリザバーを含むと広く理解される。「シリンジ」はまた、内容物を投薬する機構を提供するオートインジェクターなどの関連の物品を含む。任意選択的に、「シリンジ」はプレフィルドシリンジを含み得る。本明細書では、「シリンジ」はまた、ワクチンを入れる製品空間を含むワクチン投薬シリンジに適用され得る。本明細書では、「シリンジ」はまた、診断に、例えば、診断用薬剤(例えば、造影剤)などがプレフィルドされた医療用筒を含むサンプリング機器に、適用され得る。
【0033】
「PECVD」は、プラズマ促進化学蒸着を指す。
【0034】
任意選択的な注射筒材料
任意選択的に、本発明のいずれかの実施形態によるシリンジは、限定されるものではないが:オレフィンポリマー;ポリプロピレン(PP);ポリエチレン(PE);環状オレフィンコポリマー(COC);環状オレフィンポリマー(COP);ポリメチルペンテン;ポリエステル;ポリエチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリブチレンテレフタレート(PBT);PVdC(ポリ塩化ビニリデン);ポリ塩化ビニル(PVC);ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレート;ポリ乳酸;ポリ乳酸;ポリスチレン;水素化ポリスチレン;ポリ(シクロヘキシルエチレン)(PCHE);ナイロン;ポリウレタン・ポリアクリロニトリル;ポリアクリロニトリル(PAN);アイオノマー樹脂;Surlyn(登録商標)アイオノマー樹脂を含む、1種以上の射出成形可能な熱可塑性材料から作製され得る。透明でガラスのようなポリマーが望まれる用途(例えば、シリンジ及びバイアル用)では、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、又はポリカーボネートが好ましいかもしれない。そのような材料は、例えば、射出成形又は射出延伸ブロー成形によって、非常に厳しい及び精密な許容誤差(一般的に、ガラスで達成可能なものよりも遥かに厳しい)で製造され得る。或いは、本発明の実施形態によるシリンジは、ガラスから作製され得る。
【0035】
シリンジ及びプランジャーアセンブリの構成要素及び実施形態
上述の通り、本開示の概念は、概して、プランジャーを伸張させるようにプランジャーを作動させることによって投薬モードへ切り替え可能であるプランジャーであって、それにより、シリンジの内容物を投薬するときに、滑らかで、弱いプランジャー力を容易に生じさせるのを助ける、プランジャーに関する。出願人SiO2 Medical Products,Inc.は、他の切り替え可能な(convertible)プランジャーを開発しており、これらは、その公開されている国際特許出願のいくつか、2015年4月16日公開の国際公開第2015/054282号パンフレット、2016年3月17日公開の同第2016/039816号パンフレット、2017年1月19日公開の同第2017/011599号パンフレット、及び2017年12月7日公開の同第2017/209800号パンフレットに説明されている。これらの公開出願はそれぞれ、それらの開示内容の全体が本書に参照することにより援用される。
【0036】
図1を参照すると、本開示の概念の任意選択的な態様によるシリンジアセンブリ10(例えば、プレフィルドシリンジアセンブリ)の例示的な実施形態が示されている。シリンジアセンブリは、医療用筒12と、その内部に配置されたプランジャーアセンブリとを含み、そのプランジャーロッド22の一部分を図1に示す。シリンジアセンブリ10は、一般にプレフィルドシリンジと一緒に含まれる装具、例えばエンドキャップ、任意選択的に使用時に注射針が固定され得るルアーフィッティングなどを含み得る。或いは、シリンジは、固定針(staked needle)シリンジとしてもよい。
【0037】
いずれかの実施形態では、例えば図5~10に示すように、シリンジアセンブリ10は、中心縦軸Aを有する中空の医療用筒12を含む。医療用筒12は、内壁14を有し、且つ注入可能な液体16、任意選択的に薬物製品を内部に保持するように構成されている。注入可能な液体16は、好ましくは、プレフィルドシリンジを提供するために、プレフィルドされる。代替的な実施形態では、シリンジはプレフィルドされない。医療用筒12の遠位端に針(図示せず)が設けられて、注入可能な液体16を投薬し得る。
【0038】
用語「遠位」及び「近位」が、本明細書を通して使用される。用語「遠位」及び「近位」は、一般的に、所与の基準点に対する空間的又は位置的な関係を指し、「近位」は、その基準点にあるか又はそれに比較的近い箇所にあり、及び「遠位」は、その基準点から遠い箇所にある。本明細書で医療用筒に適用されるように、図5を参照すると、関連の基準点は、筒の後端、例えば、筒12の頂部にあるフランジ21にある。遠位端は、針が装着され得る筒12の底部又は投薬端13にある。この同じしきたりが、本明細書で説明される他の構成要素、例えばプランジャー及びプランジャーアセンブリに適用される。「近位」及び「遠位」はまた、移動の力ベクトル及び方向を指すために使用され得る。例えば、シリンジの内容物を投薬するための押す力は、「遠位方向」に又は「遠位に」加えられる、すなわち、プランジャーを押す力によって、プランジャーを医療用筒の投薬端又は遠位端の方へ下方に前進させる。それに反して、筒の投薬端からプランジャーロッドを引き離すようにプランジャーロッドに加わる引張力は、「近位方向」に又は「近位に」加わる力である。
【0039】
シリンジアセンブリのいずれかの実施形態では、又は本開示の概念のそれ自体の態様として、プランジャーアセンブリ20、120、220が提供され、且つ図5~10に示されている。プランジャーアセンブリ20、120、220は、プランジャーロッド22、122、222と、プランジャーロッド22、122、222の遠位端27、127、227に固定される、そこから延在する又はそれに当接する軸方向突起30、130、230と、軸方向突起30、130、230が内部に配置されるプランジャー24とを含む。これらのアセンブリについて、下記でより詳細に説明する。
【0040】
本開示の概念の態様に従って使用できる例示的なプランジャー24が、図4に示されている。プランジャー24は、外表面36と、内腔40を取り囲む内部表面38とを有するプランジャースリーブ34を含む。外表面36は、遠位ノーズコーン42と、そこから近位に延在する環状外壁44とを含む。環状外壁44は、1つ以上のリブ52を含み得、且つプランジャースリーブ34の近位端48にある開口部46に至る。開口部46は、上述の通り、軸方向突起30、130、230を受け入れるように構成され、軸方向突起30、130、230が内腔40内へ延在し、且つ内部表面38の係合面50と接触するようにする。係合面50は、プランジャーアセンブリ20、120、220を遠位方向に動かすように、プランジャーロッド22、122、222によって遠位方向に加えられた力を受けるように構成されている。内腔40は、任意選択的に、遠位区画室40aに至る内腔40の部分よりも幅広の内部形態を有する遠位区画室40aを含む。
【0041】
プランジャーアセンブリ20、120、220と組み立てられ、且つ医療用筒12内に配置されると、プランジャー24は、プレフィルドシリンジ又はカートリッジ筒の内壁14に対して十分な圧迫力をもたらして、効果的に密封し、且つ貯蔵中、筒の内容物の保存期間を保つように構成されている。プランジャー24が、貯蔵中に筒を効果的に密封し且つ筒の内容物の保存期間を保つのに適切な容器クロージャーの完全性(CCI)及び気密シールを提供する(例えば、酸素、湿分及び/又は任意選択的に追加的な気体に対する遮断性を提供する)とき、プランジャー(又はその外表面の少なくとも一部分)は、その代わりに、「拡張状態」又は「貯蔵モード」にあると特徴付けられ得る。拡張状態又は貯蔵モードは、例えば、プランジャーの注射筒接触面の少なくとも一部分の広げられた外径又はプロファイル及び/又はプランジャーが配置される注射筒の内壁にプランジャーが加える法線力の積とし得る。プランジャー24(又はその外表面の少なくとも一部分)は、代替的に「収縮状態」又は「投薬モード」と特徴付けられ得る程度まで縮小でき、ここでは、筒の側壁に対する圧迫力が削減されるか又は一部にはなくされ、使用者が、より簡単に筒内でプランジャーを前進させ、それゆえシリンジ又はカートリッジの内容物を投薬することができるようにする。下記でより詳細に説明するように、貯蔵モードから投薬モードへの変換は、プランジャー24の伸長によってもたらされる。伸長前、プランジャー24は、その自然状態又は「伸長前の状態」にあると言われ得る。プランジャーが医療用筒内に配置されると、伸長前の状態は、拡張状態又は貯蔵モードと同義である。
【0042】
本開示の概念によれば、プランジャーロッド及び軸方向突起は、任意選択的に、例えば、図2図5及び図6に示すような、ユニタリー構造のシングルピースとして提供され得る。本開示の概念の代替的な態様によれば、例えば、図3A図3B、及び図7~10に示すように、プランジャーロッド及び軸方向突起は、マルチピースアセンブリ123、223として提供されてもよく、ここで、マルチピースアセンブリ123、223の第1の部分123a、223aは、アセンブリの第2の部分123b、223bから、少なくとも予め決められた距離へと、手動で引き離され得る。図示のマルチピースアセンブリ123、223は2ピースのアセンブリであるが、3ピース以上のアセンブリが本開示の概念の範囲内とし得ることを理解すべきである。上述の代替的な実施形態について下記で詳述する。
【0043】
図2図5及び図6は、プランジャーロッド22及び軸方向突起30がユニタリー構造である実施形態を示す。「ユニタリー構造」は、単一の製造ピース、又は組み立て済みの構成要素(例えば、プランジャーロッド及び突起)がユニタリー部品としてどの方向へも一緒に動くように互いにしっかりと固定されているアセンブリを意味し得る。プランジャーロッド22は、近位端25及び遠位端27を有する、細長い部材である。プランジャーロッド22は、任意選択的に、近位端25にディスク形のサムレスト28を含む。軸方向突起30は、プランジャーロッド22の遠位端27に固定され(及び、この場合、それと一体的である)、且つそこから延在する。下記で説明するように、軸方向突起は、代替的な形状で設けられてもよい。しかしながら、この実施形態では、軸方向突起30は、全体的にシリンダー状であり、且つほぼその全長、例えば、その全長の少なくとも90%に沿って、例えば任意選択的にその丸みを帯びた先端まで、実質的に均一な断面のものであることが好ましい。任意選択的に、プランジャーロッド22は、1つ以上の半径方向安定化部材32を含み、半径方向安定化部材は、使用時に医療用筒の内壁に緩く係合して、プランジャーアセンブリ20が筒を前進させられるときに、プランジャーロッド22を安定化させ得る(例えば、ぐらつきを防止することによって)。
【0044】
図3A図3B図7及び図8を参照すると、プランジャーロッド122及び軸方向突起130がマルチピースアセンブリ123として設けられている実施形態が示されている。この実施形態では、その第1の部分123aは、近位プランジャーロッドピース122aを含む。アセンブリ123の第2の部分123bは、遠位プランジャーロッドピース122bを含み、軸方向突起130は、プランジャーロッド122の遠位端127に固定され(及び、この場合、それと一体である)、且つそこから延在する。軸方向突起130は、任意選択的に、その遠位端に、ヘッド130aに至る軸方向突起130のセクションのものよりも広い横断面の幅又は直径を有するヘッド130aを含む。ヘッド130aの図示の特有の幾何学的形状は例示にすぎず、ヘッドは、他の形状、例えば球又はシリンダー状で供されてもよいことを理解すべきである。プランジャーロッド122は、任意選択的に、近位端125にディスク形のサムレスト128を含む。任意選択的に、図2の実施形態に関して上述したように、プランジャーロッド122は、1つ以上の半径方向安定化部材132を含む。
【0045】
マルチピースアセンブリ123の第1の部分123a及び第2の部分123bは、入れ子式配置構成に、一緒に組み立てられる。第1及び第2の部分123a、123bは、予め決められた距離へと軸方向に引き離され、且つそれら部分がそれ以上一緒に押し進めることができなくなるまで、縮められ(collapsed)得る。図示の例示的な実施形態では、第1の部分は、第2の部分123bの近位シャフト140を受け入れるように構成された中心中空部142を有するハブ143を含む。中心中空部142は、上向きの壁154、及び対向する下向きの壁152を含む。第1の部分123aは遠位当接面144を含み、及び第2の部分123bは近位当接面146を含む。これら2つの当接面(144及び146)は、第1の部分123a及び第2の部分123bが完全に一緒に縮められると、互いに当接するように構成される。それらの部分がこのように一緒に縮められると、サムレスト128に、遠位に向けられた力が十分に加えられて、マルチピースアセンブリ123を一体として遠位方向に動かす。任意選択的な代替的な実施形態では(図示せず)、構成は逆にされて、ハブ及び中空部は第2の部分の一部であり、且つその内部に配置可能なシャフトは第1の部分の一部であるようにする。
【0046】
近位シャフト140は、図3A及び図8に示すようなアセンブリ123の十分に縮められた状態から、十分に延長された状態へと、軸Aに沿って可動である。部分的に延長された状態が、図3B及び図7に示されている。近位シャフト140の近位端は、半径方向当接部150を有するプロング148を含む。半径方向当接部150は、アセンブリ123が十分に延長された位置にあるとき、上向きの壁154に当接して、十分に延長された状態において第1の部分123a及び第2の部分123bが互いにそれ以上引き離されるのを防止するように構成されている。任意選択的に、プロング148の上端は、アセンブリ123が十分に縮められているとき、下向きの壁152に当接する。
【0047】
代替的なマルチピースアセンブリ223が図9及び図10に示されている。アセンブリは、プランジャーロッド222を含む第1の部分223aと、軸方向突起230を含む第2の部分223bとを含む。第1の部分223a及び第2の部分223bは、互いに固定されていない。プランジャーロッド222の遠位端227は、プランジャーロッド222に遠位力を加えることによって(任意選択的にサムレスト228を介して)、プランジャーロッド222が軸方向突起230を遠位方向に動かすことができるように、軸方向突起230の近位端に当接するように構成されている。プランジャーロッド222へ近位力を加えることによって、プランジャーロッド222、すなわちアセンブリ223の第1の部分223aを、軸方向突起230、すなわちアセンブリ223の第2の部分223bから完全に分離するように作用する。
【0048】
上述の通り、プランジャー24は、プランジャーアセンブリ20、120、220の一部として、シリンジの医療用筒12、好ましくはプレフィルドシリンジ内に配置されるように構成されている。その位置では、十分な遠位力がプランジャーアセンブリ20、120 220に加えられると、プランジャー24は、医療用筒12の投薬端13から、例えば、針を通して、注入可能な液体16を投薬するように、医療用筒12を前進させられる。この前進が生じると、プランジャー24は、貯蔵モードから投薬モードへ変換される。貯蔵モードでは、プランジャー24は、上述の通り、緊密なシールを提供する。この緊密なシールは、医療用筒12の内壁14に対してあるレベルの半径方向の圧迫を加え得るので、これにより、プランジャーが筒で前進するのを困難にする。使用者が最初にプランジャーアセンブリ20、120、220に十分な遠位力を加えると、プランジャー24は、軸方向に伸張し始め、依然として液体シールはもたらしている状態で、プランジャースリーブ34の環状外壁44の少なくとも一部分をわずかに収縮させて、内壁14に対する半径方向の圧迫を低減させ、それゆえ、プランジャースリーブ34を伸長させることなく達成可能であるものよりも望ましい滑走力をもたらす。
【0049】
ここで図11A~11Cを参照すると、プランジャーアセンブリ20(図5)のプランジャー24の貯蔵モードから投薬モードへの変換が示されている。図11Aは、伸長前の状態又は貯蔵モードのプランジャー24を示す。この位置では、軸方向突起30は、プランジャースリーブ34の内部表面38の係合面50に遠位力をほとんど若しくは全く加えない。そのようなものとして、プランジャーは、その「最も太い」状態にあり、医療用筒12の内壁14に対してその最大の半径方向の圧迫をもたらして、例えば、製品12の保存期間にわたってCCIをもたらす。軸方向突起30の直径又は横断面の幅は、好ましくは、プランジャー24が提供するシールを補強するための半径方向の支持をもたらす。しかしながら、この実施形態では、軸方向突起30は、締り嵌めを用いずに、プランジャースリーブ34の内腔40に比較的緩く嵌っていることが好ましい。このようにして、軸方向突起30は、近位力がプランジャーロッド22に加えられる場合、プランジャー24から比較的に簡単に引き出され得る。従って、プランジャーロッドを軸方向に近位方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、プランジャーロッド22の近位端に近位方向に加えても、プランジャー24を軸方向に近位方向に移動させることはない。これは、図10のプランジャーアセンブリ220の場合も同様である。唯一の違いは、プランジャーアセンブリ220のプランジャーロッド222を引き戻すことによって、軸方向突起230をプランジャーロッド222から完全に離して、軸方向突起230がプランジャースリーブ34内に留まるようにする一方、プランジャーロッド222は、そこから近位に移動されるようにすることである。それに反して、プランジャーロッド22及び軸方向突起30は、双方とも、一体として軸方向に動くため、図5のプランジャーアセンブリ20のプランジャーロッド22を引き戻すことによって、図6に示すように、プランジャースリーブ34から軸方向突起30を引き出す。任意選択的に、潤滑剤がプランジャースリーブ34の内腔40に提供されて、プランジャーロッド22が後方に引かれるときに、軸方向突起30をそこから簡単に取り外すことができるようにする。
【0050】
図11B及び図11Cは、投薬モードへのプランジャー24の移行を示す。使用者がプランジャーロッド22に十分な初期の遠位力を加えると、これにより、軸方向突起30が、係合面50に遠位方向に力を加える。任意選択的に、プランジャースリーブ34の一部分は、「スティックション」によって最初は内壁に接着していてもよい。これが起こると、プランジャー24は、伸張ゾーンZに沿って軸方向に伸長し、プランジャー24を伸張ゾーンZの辺りでわずかに収縮させる。プランジャー24の収縮によって、医療用筒12の側壁14に対する半径方向の圧迫を低減させるため、プランジャー24を投薬モードに変換する。それゆえ、プランジャー24は、液密シール及び任意選択的にCCIを維持する間じゅう、医療用筒12をより簡単に前進させ得る。
【0051】
ここで図12A~12Cを参照すると、プランジャーアセンブリ120(図7及び図8)のプランジャー24の貯蔵モードから投薬モードへの変換が示されている。図12Aは、伸長前の状態又は貯蔵モードにあるプランジャー24を示す。この位置では、軸方向突起130のシャフトは、プランジャースリーブ34の内部表面38の係合面50に遠位力をほとんど若しくは全く加えない。しかしながら、内腔40内で遠位区画室40aに配置される軸方向突起130のヘッド130aは、内部表面38の隣接するセクションに当接するような直径又は横断面の幅のものである。好ましくは、この構成は、プランジャースリーブ34の環状外壁44の遠位部分、任意選択的に、ノーズコーン42に最も近いリブ52が、医療用筒12の内壁14に対して追加的な半径方向の圧迫(すなわち、ヘッド130aがない場合よりも大きい半径方向の圧迫)をもたらすようにする。
【0052】
プランジャースリーブ34は、好ましくは、遠位区画室40aの近位に内腔40のより狭いセクションを含む。ヘッド130aが内腔40の遠位区画室40aを占めるとき、ヘッド130aが、内腔40のより狭いセクションよりも大きな直径又は横断面の幅であるため、軸方向突起130を、プランジャー24から容易に手動で引っ張り出すことはできない。それにもかかわらず、プランジャーロッド122の引き戻しによって、プランジャー24を近位に移動させることはない。上述の通り、マルチピースアセンブリ123の入れ子式配置構成は、プランジャーロッド122の近位端に、近位方向に、近位プランジャーロッドピース122aを軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を加えることによっても、軸方向突起130又はプランジャー24を近位方向に引かないように、構成されている。
【0053】
図12Aに示すように、プランジャー24は、貯蔵モード又は伸長前のモードにある。この位置では、プランジャー24は、その「最も太い」状態にあり、医療用筒12の内壁14に対してその最大の半径方向の圧迫をもたらし、例えば、注射剤16の保存期間にわたってCCIを提供する。図12B及び図12Cは、投薬モードへのプランジャー24の移行を示す。使用者がプランジャーロッド122に十分な初期の遠位力を加えると、これにより、軸方向突起30が係合面50に遠位方向に力を加える。任意選択的に、プランジャースリーブ34の一部分は、「スティックション」によって最初は内壁に接着していてもよい。これが起こると、プランジャー24は、伸張ゾーンZに沿って軸方向に伸長し、プランジャー24が伸張ゾーンZの辺りでわずかに収縮する。プランジャー24の収縮によって、医療用筒12の側壁14に対する半径方向の圧迫を低減させるため、プランジャー24を投薬モードに変換する。それゆえ、プランジャー24は、液密シール及び任意選択的にCCIを維持する間じゅう、医療用筒12をより簡単に前進させられ得る。
【0054】
図13A~13Cを参照すると、本開示の概念の任意選択的な態様によるプランジャーアセンブリ20a、20b、20cの部分の代替的な実施形態が示されている。プランジャーアセンブリ20、120、220のように、プランジャーアセンブリ20a、20b、20cのそれぞれは、プランジャー24a、24b、24c及びプランジャーロッド22a、22b、22cを含む。各プランジャーロッド22a、22b、22cは、そこから延在する独特な形状の軸方向突起30a、30b、30cを有する。それぞれの各軸方向突起30a、30b、30cは、プランジャースリーブ34の内腔40内に延在し、且つプランジャースリーブ34の内部表面の部分とインターフェースを取る。
【0055】
図13A及び図13Cは、遠位へと内向きにテーパが付けられた軸方向突起30a、30cの実施形態を示す。このようにして、各軸方向突起30a、30cは、プランジャースリーブ34の内部表面に接触し、且つ、遠位へ押されると、そこに、軸方向(遠位方向)及び半径方向の双方に力ベクトルを加えることが考えられる。軸方向の力ベクトルは、上述の通り、伸張ゾーンに沿ってプランジャー24a、24cを軸方向に伸張させる。半径方向の力ベクトルによって、プランジャー24a、24cが貯蔵モードから投薬モードへ移行するとき、プランジャースリーブ34a、34cを半径方向に拡張させる及び/又はプランジャー自体が潰れないように補強し、これは、いくつかの適用例では望ましいとし得る。
【0056】
図13Bは、より太い近位部分を有する軸方向突起30bの実施形態を示す。しかしながら、軸方向突起30bは、テーパ付きの側面を全く有していない。そのようなものとして、より太い部分は、プランジャー24bがそれ自体潰れないように補強する。しかしながら、この構成は、プランジャーが筒を前進させられているときにプランジャーを能動的に拡張させることなく、プランジャーを軸方向に伸張させるために内腔内に軸方向(遠位方向)の力ベクトルを加えるだけであろう。
【0057】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、軸方向突起30、130、230は、プランジャースリーブ34の内腔40内に、そこに配置される唯一の構成要素として、提供される。軸方向突起30、130、230は、ねじ係合によって、プランジャー24に、又はプランジャー内のインサートに固定されない。
【0058】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、プランジャー24が貯蔵位置にあるとき、プランジャーロッド22、122、222の遠位端27、127、227は、プランジャー24の近位端48に接触しない。任意選択的に、いくつかの実施形態では(例えば、図7図8及び図12A~12C、及び任意選択的に、本明細書で説明する他の実施形態に示すものなど)、プランジャー24が投薬位置にあるとき、プランジャーロッド122の遠位端127は、プランジャー24の近位端48に接触しない。換言すると、任意選択的に、貯蔵位置(伸長前の状態)及び投薬位置(伸長後)の双方において、プランジャー24の近位端48とプランジャーロッドの遠位端との間に空間が設けられ得る。
【0059】
好ましくは、いずれかの実施形態では、プランジャーロッドは、シリンジを充填し且つプランジャーを装填した後は、どの時点でもプランジャーを後方に引くことができない。この特徴は、いくつかの適用例(例えば、眼科)では必要であるが、出願人らの発明まで、切り替え可能プランジャーアセンブリは提供されていなかった。
【0060】
好ましくは、いずれかの実施形態では、シリンジを充填し且つプランジャーを装填した後は、どの時点でもシリンジの充填済み部分内の圧力が増加するため、プランジャーは、2mmを超えて後方に動くことはできない。
【0061】
任意選択的に、ほぼその全長に沿って(例えば、その遠位端まで)軸方向突起が同じ直径であるいずれかの実施形態では、軸方向突起は、直径1.8mm以下、任意選択的に直径1.6mm以下である。任意選択的に、いずれかのそのような実施形態では、軸方向突起は、直径1.45mm~1.8mm、任意選択的に直径1.45mm~1.6mmである。任意選択的に、軸方向突起30、230が、ほぼその全長に沿って(例えば、その遠位端まで)同じ直径である場合、直径は、プランジャースリーブ34の内腔40に接触して、プランジャーの能力を補強して、内腔と締り嵌めで係合されるのではなく、シールをもたらすようにする。そのようなものとして、プランジャーが筒内にある間、軸方向突起を後ろに引くことによっても、プランジャーを後ろには引かない。
【0062】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、シリンジは、用語が当該技術分野で理解されているように、0.5mLシリンジである。
【0063】
PECVDコーティング層
別の態様では、本発明は、任意選択的に、PECVDコーティング又はPECVDコーティングセットを有するシリンジ内での、本開示の概念によるプランジャーのいずれかの実施形態(又は実施形態の組み合わせ)の使用を含む。シリンジは、例えば、ガラス又はプラスチックから作製され得る。任意選択的に、いずれかの実施形態による注射筒は、上記で定義されたような射出成形可能な可塑性材料、特に、最終形態において透明でガラスのように見える材料、例えば、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、又はポリカーボネートから作製される。そのような材料は、例えば、射出成形によって、非常に厳しく且つ正確な精度(一般的に、ガラスで達成可能なものよりも遥かに厳しい)で製造され得る。これは、プランジャー設計におけるシール緊密性及び弱いプランジャー力という、矛盾する検討事項のバランスをとるときに、利点となる。
【0064】
本開示のこのセクションは、主に、本発明の任意選択的な態様の好ましい実装例として、プレフィルドシリンジに注目する。しかしながら、ここでも、本発明は、プランジャーを利用する任意の非経口容器、例えば空のシリンジ、カートリッジ、オートインジェクター、プレフィルドシリンジ、又はプレフィルドのカートリッジを含み得ることを理解されたい。
【0065】
いくつかの適用例に関し、非経口容器の内壁に1つ以上のコーティング又は層を提供し、その容器の特性を修正することが望ましいとし得る。例えば、1つ以上のコーティング又は層は、非経口容器に追加されて、例えば、容器のバリア性すなわち遮断性を高め、且つ容器壁(又は下層のコーティング)と容器内に保持される薬物製品との間の相互作用を防止し得る。そのようなコーティング又は層は、2014年3月11日出願のPCT出願PCT/US2014/023813号明細書の教示に従って構成され得、その全体を参照することにより本書に援用する。
【0066】
例えば、図5のシリンジアセンブリ10の医療用筒12の拡大断面図の代替的な第1の実施形態である図5Aに示すように、医療用筒12の内面14は、1つ以上のコーティング又は層を含むコーティングセット400を含み得る。医療用筒12は、少なくとも1つの結合コーティング(tie coating)又は層402、少なくとも1つのバリアコーティング又は層404、及び少なくとも1つのオルガノ-シロキサンコーティング又は層406を含み得る。オルガノ-シロキサンコーティング又は層406は、好ましくは、pH保護特性を有する。本明細書では、コーティングセット400のこの実施形態を、「3層コーティングセット」と称し、ここではバリアコーティング又は層404が、pH保護オルガノ-シロキサンコーティング又は層406と結合コーティング又は層402との間に挟まれることによって内容物から保護され、そうでなければ、その内容物は、バリアコーティングが除去され得るほど十分に高いpHを有する。考慮されるそれぞれの層の厚さ(ナノメートル)(丸括弧内は好ましい範囲)は、以下の3層の厚さの表で与えられている:
【0067】
【表1】
【0068】
3層コーティングセットを構成するコーティングのそれぞれの特性及び組成について、以下説明する。
【0069】
結合コーティング又は層402は、少なくとも2つの機能を有する。結合コーティング又は層402の1つの機能は、基材(例えば、筒12の内面14)、特に熱可塑性基材へのバリアコーティング又は層404の接着性を高めることであるが、結合層は、ガラス基材又は別のコーティング又は層への接着性を高めるために使用され得る。例えば、接着層又はコーティングとも称する結合コーティング又は層は基材に適用され、及びバリア層は、基材へのバリア層又はコーティングの接着性を高めるために接着層に適用され得る。
【0070】
結合コーティング又は層402の別の機能が発見されている:バリアコーティング又は層404の下側に適用された結合コーティング又は層402は、バリアコーティング又は層404の上側に適用されたpH保護オルガノ-シロキサンコーティング又は層406の機能を高め得る。
【0071】
結合コーティング又は層402は、SiOxy(式中、xは0.5~2.4及びyは0.6~3である)で構成され得る、それを含み得る、又は本質的にそれからなり得る。或いは、原子比が式Siwxyとして表わされ得る。結合コーティング又は層402におけるSi、O、及びCの原子比は、いくつかのオプションとして:
Si 100:O 50~150:C 90~200(すなわちw=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2);
Si 100:O 70~130:C 90~200(すなわちw=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)
Si 100:O 80~120:C 90~150(すなわちw=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)
Si 100:O 90~120:C 90~140(すなわちw=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)、又は
Si 100:O 92~107:C 116~133(すなわちw=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)
である。
【0072】
原子比は、XPSによって決定され得る。それゆえ、XPSによって測定されないH原子を考慮すると、結合コーティング又は層402は、一態様においては、式Siwxyz(又はその等価物SiOxy)を有し、例えば、ここでは、wは1であり、xは約0.5~約2.4であり、yは、約0.6~約3であり、及びzは、約2~約9である。従って、一般に、結合コーティング又は層402は、炭素と酸素とケイ素の元素の総原子数を100%として標準化された、36%~41%の炭素を含む。
【0073】
本明細書で定義された任意の実施形態に対するバリアコーティング又は層404は(特定の場合において他に特に規定がなければ)、任意選択的に、米国特許第7,985,188号明細書に示されているようなPECVDによって適用されるコーティング又は層である。バリアコーティングは、好ましくは、「SiOx」コーティングとして特徴付けられる(式中、酸素対ケイ素原子の比であるxは、約1.5~約2.9である)。SiOx又は他のバリアコーティング又は層の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定され、及びその組成は、X線光電子分光法(XPS)によって測定され得る。バリア層は、酸素、二酸化炭素、水蒸気、又は他の気体(例えば、容器の壁が作製されるポリマーの残留モノマー)が容器に入るのを防ぐ及び/又は医薬材料が容器の壁内へ若しくはそこを通ってにじみ出るのを防ぐのに効果的である。
【0074】
筒12の内面14にバリア層404及び結合層402を適用する好ましい方法は、例えば、米国特許出願公開第20130291632号明細書(その全体を参照することにより本書に援用する)に説明されているような、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)による方法である。
【0075】
本出願人は、SiOxのバリア層又はコーティングは、例えばpHが約5を上回る水性組成物などの、いくつかの流体によって、腐食又は溶解されることを見出した。化学蒸着によって適用されるコーティングは、非常に薄い-厚さ数十~数百ナノメートル-とし得るため、腐食速度が比較的遅くても、バリア層の有効性を取り除き得るか又は製品パッケージの所望の保存期間よりも短い時間にバリア層の有効性を低下させ得る。これは、特に、液体医薬組成物に関し問題である。なぜなら、それらの多くのpHが約7であり、又はより広範には、血液及び他のヒト又は動物の体液のpHと同様の5~9の範囲であるためである。医薬品のpHが高いほど、SiOxコーティングをより迅速に腐食又は溶解させる。任意選択的に、この問題は、バリアコーティング又は層、又は他のpHの影響を受けやすい材料を、pH保護オルガノ-シロキサンコーティング又は層によって保護することによって、対処され得る。
【0076】
任意選択的に、pH保護コーティング又は層406は、Siwxyz(又はその等価のSiOxy)又はSiwxyz(又はその等価のSiNxy)で構成され得る、それを含み得る又は本質的にそれからなり得る。Si:O:C又はSi:N:Cの原子比は、XPS(X線光電子分光法)によって決定され得る。それゆえ、H原子を考慮すると、一態様において、pH保護コーティング又は層は、式Siwxyz、又はその等価のSiOxy(例えば式中、wは1であり、xは約0.5~約2.4であり、yは約0.6~約3であり、及びzは約2~約9である)を有し得る。
【0077】
一般に、式Siwxyとして表わされるように、Si、O、及びCの原子比は、いくつかのオプションとして:
Si 100:O 50~150:C 90~200(すなわちw=1、x=0.5~1.5、y=0.9~2);
Si 100:O 70~130:C 90~200(すなわちw=1、x=0.7~1.3、y=0.9~2)
Si 100:O 80~120:C 90~150(すなわちw=1、x=0.8~1.2、y=0.9~1.5)
Si 100:O 90~120:C 90~140(すなわちw=1、x=0.9~1.2、y=0.9~1.4)
Si 100:O 92~107:C 116~133(すなわちw=1、x=0.92~1.07、y=1.16~1.33)、又は
Si 100:O 80~130:C 90~150
である。
【0078】
或いは、オルガノ-シロキサンコーティング又は層は、炭素、酸素、及びケイ素の元素の総原子数を100%として標準化され、X線光電子分光法(XPS)によって決定されたように、50%未満の炭素及び25%超のケイ素の、原子濃度を有し得る。或いは、原子濃度は、25~45%の炭素、25~65%のケイ素、及び10~35%の酸素である。或いは、原子濃度は、30~40%の炭素、32~52%のケイ素、及び20~27%の酸素である。或いは、原子濃度は、33~37%の炭素、37~47%のケイ素、及び22~26%の酸素である。
【0079】
任意選択的に、X線光電子分光法(XPS)によって決定されたように、炭素、酸素、及びケイ素の元素の総原子数を100%として標準化された、pH保護コーティング又は層406における炭素の原子濃度は、有機ケイ素前駆体の原子式における炭素の原子濃度を上回り得る。例えば、炭素の原子濃度が1~80原子百分率だけ、或いは10~70原子百分率だけ、或いは20~60原子百分率だけ、或いは30~50原子百分率だけ、或いは35~45原子百分率だけ、或いは37~41原子百分率だけ上昇する実施形態が考慮される。
【0080】
任意選択的に、pH保護コーティング又は層406における炭素対酸素の原子比は、有機ケイ素前駆体と比較して高くなり、及び/又は酸素対ケイ素の原子比は、有機ケイ素前駆体と比較して低くなり得る。
【0081】
任意選択的な実施形態によるpH保護コーティングの例示的な実験的組成は、SiO1.30.83.6である。
【0082】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406は、PECVDを適用されたコーティングを含む、本質的にそれからなる、又はそれからなる。
【0083】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、シランを含む、本質的にそれからなる、又はそれからなる前駆体を用いることによって、pH保護コーティング又は層406は適用される。任意選択的に、いずれかの実施形態において、シラン前駆体は、非環状又は環状シランのいずれか1つ以上を含み、本質的にそれからなり、又はそれからなり、任意選択的に、シラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、Si2-Si4シラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、テトラプロピルシラン、テトラブチルシラン、又はオクタメチルシクロテトラシラン、又はテトラメチルシクロテトラシランのいずれか1つ以上を含む、本質的にそれらからなる、又はそれらからなる。
【0084】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406は、PECVDを適用された非晶質又はダイヤモンドのような炭素を含む、本質的にそれからなる、又はそれからなる。任意選択的に、いずれかの実施形態において、非晶質又はダイヤモンドのような炭素は、炭化水素前駆体を使用して適用される。任意選択的に、いずれかの実施形態において、炭化水素前駆体は、飽和又は不飽和である直鎖、分岐鎖、又は環状アルカン、アルケン、アルカジエン、又はアルキン、例えばアセチレン、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n-ブタン、i-ブタン、ブタン、プロピン、ブチン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、又はこれらの2つ以上の組み合わせを含む、本質的にそれらからなる、又はそれらからなる。任意選択的に、いずれかの実施形態において、非晶質又はダイヤモンドのような炭素コーティングの水素原子百分率は、0.1%~40%、或いは0.5%~10%、或いは1%~2%、或いは1.1~1.8%である。
【0085】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406は、PECVDを適用されたSiNを含む、本質的にそれからなる、又はそれからなる。任意選択的に、いずれかの実施形態において、PECVDを適用されたSiNは、シラン及び窒素含有化合物を前駆体として使用して適用される。任意選択的に、いずれかの実施形態において、シランは、非環状又は環状シランであり、任意選択的に、シラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、Si2-Si4シラン、トリエチルシラン、テトラエチルシラン、テトラプロピルシラン、テトラブチルシラン、オクタメチルシクロテトラシラン、又はこれらの2つ以上の組み合わせを含む、本質的にそれらからなる、又はそれらからなる。任意選択的に、いずれかの実施形態において、窒素含有化合物は、窒素ガス、亜酸化窒素、アンモニア又はシラザンのうちのいずれか1つ以上を含む、本質的にそれらからなる、又はそれらからなる。任意選択的に、いずれかの実施形態において、シラザンは、直鎖シラザン、例えばヘキサメチレンジシラザン(HMDZ)、単環シラザン、多環シラザン、ポリシルセスキアザン(polysilsesquiazane)、又はこれらの2つ以上の組み合わせを含む、本質的にそれからなる、又はそれからなる。
【0086】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406用のPECVDは、酸化気体が実質的に存在しない又は完全に存在しない状態で実施される。任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406用のPECVDは、キャリアガスが実質的に存在しない又は完全に存在しない状態で実施される。
【0087】
任意選択的に、pH保護コーティング又は層406、SiOxCyHzのFTIR吸光度スペクトルは、約1000~1040cm-1の間に通常あるSi-O-Si対称伸縮ピーク(symmetrical stretch peak)の最大振幅と、約1060~約1100cm-1の間に通常あるSi-O-Si非対称伸縮ピーク(asymmetric stretch peak)の最大振幅との比が、0.75を上回る。或いは、いずれかの実施形態において、この比は、少なくとも0.8、又は少なくとも0.9、又は少なくとも1.0、又は少なくとも1.1、又は少なくとも1.2とし得る。或いは、いずれかの実施形態において、この比は、多くても1.7、又は多くても1.6、又は多くても1.5、又は多くても1.4、又は多くても1.3とし得る。代替的な実施形態として、ここで述べたいずれかの最小比を、ここで述べたいずれかの最大比と組み合わせることができる。
【0088】
任意選択的に、いずれかの実施形態において、pH保護コーティング又は層406は、液体充填物が存在しない状態で、油分を含んでいない外見を有する。この外見は、ある場合には、有効pH保護コーティング又は層406を、場合よっては油分の多い(すなわち光沢のある)外見を有するように観察された潤滑性層(例えば、米国特許第7,985,188号明細書に説明されているような)から区別するために観察された。
【0089】
pH保護コーティング又は層は、任意選択的に、非環状シロキサン、単環シロキサン、多環シロキサン、ポリシルセスキオキサン、単環シラザン、多環シラザン、ポリシルセスキアザン、シラトラン(silatrane)、シルクアシラトラン(silquasilatrane)、シルプロアトラン(silproatrane)、アザシラトラン(azasilatrane)、アザシルクアシアトラン(azasilquasiatrane)、アザシルプロアトラン(azasilproatrane)、又はこれら前駆体のいずれか2つ以上の組み合わせを含む前駆体供給物のプラズマ促進化学蒸着(PECVD)によって適用され得る。そのような使用に考えられるいくつかの特定の非限定的な前駆体は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)を含む。
【0090】
他の前駆体及び方法を使用して、pH保護コーティング又は層406又は不動態化処理を適用できる。例えば、ヘキサメチレンジシラザン(HMDZ)を前駆体として使用できる。HMDZは、その分子構造に酸素を含有しないという利点を有する。この不動態化処理は、HMDZによるSiOxバリア層の表面処理であると考慮される。シラノール結合部位における二酸化ケイ素コーティングの分解の速度を落とす及び/又は分解を中止にするために、コーティングは不動態化される必要がある。HMDZによる表面の不動態化(及び任意選択的に、HMDZ由来のコーティングのいくつかの単層の適用)は、溶解に対して表面を強化させ、分解を減少させることが考慮される。HMDZは、二酸化ケイ素コーティングに存在する-OH部位と反応し、NH3を発生させ、且つS-(CH3)3をケイ素に結合させることが考慮される(水素原子が発生され、及びHMDZからの窒素と結合して、NH3を生じることが考慮される)。
【0091】
pH保護コーティング又は層を適用する別の方法は、pH保護コーティング又は層として、非晶質炭素又はフルオロカーボンコーティング、又はこれら2つの組み合わせを適用することを含む。
【0092】
非晶質炭素コーティングは、プラズマ重合のために、飽和炭化水素(例えばメタン又はプロパン)又は不飽和炭化水素(例えばエチレン、アセチレン)を前駆体として使用するPECVDによって形成され得る。フルオロカーボンコーティングは、フルオロカーボン(例えば、ヘキサフルオロエチレン又はテトラフルオロエチレン)から生じ得る。いずれのタイプのコーティング、又はそれらの組み合わせも、真空PECVD又は大気圧PECVDによって堆積され得る。非晶質炭素及び/又はフルオロカーボンコーティングは、シラノール結合を含まないため、非晶質炭素及び/又はフルオロカーボンコーティングは、シロキサンコーティングよりも良好なSiOxバリア層の不動態化をもたらすことが考慮される。
【0093】
さらに、フルオロシリコン前駆体を使用して、SiOxバリア層の上側を覆ってpH保護コーティング又は層を提供することが考慮される。これは、前駆体としてフッ素化シラン前駆体、例えばヘキサフルオロシランを使用し、且つPECVDプロセスを使用することによって、実施され得る。その結果生じるコーティングはまた、非湿潤性コーティングであると期待される。
【0094】
SiOxバリア層を保護又は不動態化するために考えられるさらに別のコーティングモダリティは、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂によってバリア層を被覆することである。例えば、バリア被覆部分は、流動ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂の溶融物、溶液又は分散物において浸漬被覆され、及び60~100℃の温度でオートクレーブ又は他の加熱によって硬化され得る。ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂のコーティングは、pH5~8の水性の環境において優先的に使用され得ることが考慮され、これは、そのような樹脂は、そのpH範囲において、紙において高い湿潤強度をもたらすことが知られているためである。湿潤強度は、長期間、完全に水浸しにされる紙の機械的強度を維持する能力であるため、SiOxバリア層上のポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂のコーティングは、水媒質での溶解に同様に抵抗することが考慮される。また、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン樹脂は、紙の潤滑性を向上させるため、同様に、例えば、COC又はCOPで作製された熱可塑性面にコーティングの形態の潤滑性をもたらすことが考慮される。
【0095】
SiOx層を保護するためのさらに別の手法は、pH保護コーティング又は層として、ポリフルオロアルキルエーテルの液体適用コーティングを塗布し、それに続いてpH保護コーティング又は層を大気プラズマ硬化することである。例えば、商標TriboGlide(登録商標)下で実施されるプロセスを使用して、同様に潤滑性をもたらすpH保護コーティング又は層406を提供し得ることが考慮される。
【0096】
それゆえ、本発明の態様による熱可塑性シリンジ壁用のpH保護コーティングは、以下:式SiOxCyHz(式中、xは、X線光電子分光法(XPS)によって測定されるように、0~0.5、或いは0~0.49、或いは0~0.25であり、yは、XPSによって測定されるように、約0.5~約1.5、或いは約0.8~約1.2、或いは約1であり、及びzは、Rutherford Backscattering Spectrometry(RBS)によって、或いはHydrogen Forward Scattering Spectrometry(HFS)によって測定されるように、0~2である)を有する、プラズマ促進化学蒸着(PECVD)を適用されたコーティング;又はPECVDを適用された非晶質又はダイヤモンドのような炭素、CHz(式中、zは0~0.7、或いは0.005~0.1、或いは0.01~0.02である);又はPECVDを適用されたSiNb(式中、bは、XPSによって測定されるように、約0.5~約2.1、或いは約0.9~約1.6、或いは約1.2~約1.4である)のうちのいずれか1つを含み得る、本質的にそれからなり得る、又はそれからなり得る。
【0097】
結合コーティング又は層、バリアコーティング又は層又はオルガノ-シロキサンコーティング又は層を含む、本明細書において説明されるPECVDコーティング又は層のいずれかを適用するのに好適なPECVD器具が、米国特許第7,985,188号明細書及び米国特許出願公開第20130291632号明細書において示され、且つ説明されている。この器具は、任意選択的に、ベッセルホルダー、内側電極、外側電極、及び電源装置を含む。ベッセルホルダーに載置されたベッセルは、プラズマ反応チャンバーを画成し、任意選択的にそれ自体の真空チャンバーの機能を果たす。任意選択的に、真空源、反応ガス源、ガス供給物又はこれらの2つ以上の組み合わせが供給され得る。任意選択的に、真空源を必ずしも含まないガスドレーンが設けられて、閉鎖チャンバーを画成するようにポートに載置されたベッセルの内部へ又はそこからガスを送る。
【0098】
プランジャー接触内面を有するシリンジは、実質的に流動性潤滑剤を存在させずに提供されることが考えられる。本明細書では、「流動性潤滑剤が実質的に存在しない」は、プランジャー-シリンジシステムの潤滑性に寄与する量で流動性潤滑剤(例えば、PDMS)が注射筒に提供されていないことを意味する。シリンジに組み立てる前に、プランジャーを取り扱うときに流動性潤滑剤を使用することは習慣であることもあるため、「流動性潤滑剤が実質的に存在しない」は、場合によっては、そのような取扱いの習慣の結果、そのような潤滑剤が微量で存在することを考慮し得る。
【0099】
従って、任意選択的な一態様では、本発明は、許容範囲のプランジャーの動作につながる潤滑性をもたらす非経口容器の内面上のオルガノ-シロキサンコーティングを含み得る。オルガノ-シロキサンコーティングは、例えば、上述のpH保護コーティングの任意の実施形態とし得る。オルガノ-シロキサンコーティングは、容器の内壁に直接、又は多層コーティングセット、例えば、上述の3層コーティングセット上の最上層として、適用され得る。
【0100】
オルガノ-シロキサンコーティングは、任意選択的に複数の機能:(1)pH4~10、任意選択的に5~9の薬物製品から、下位層又は下位ポリマー基材を保護するpH耐性層;(2)凝集、抽出及び浸出を最小限にする薬物接触面;(3)タンパク質をベースにした薬物の場合には、容器表面上でのタンパク質結合の低減;及び(4)例えば、シリンジ内の内容物を投薬するときにプランジャーの前進を促す潤滑層をもたらし得る。
【0101】
プランジャー用の接触面としての、ポリマーベースの容器上でのオルガノ-シロキサンコーティングの使用は、明白な利点をもたらす。プラスチックシリンジ及びカートリッジは、それらのガラスの相手方部品よりも厳しい公差に射出成形され得る。射出成形によって達成可能な寸法精度は、シリンジの内径の最適化を可能にして、一方では、プランジャーにCCI及び気密性のための十分な圧迫をもたらすが、薬物製品の投与の際に所望のプランジャー力をもたらすために、プランジャーを圧迫しすぎないことが考慮される。最適には、これにより、シリンジ又はカートリッジを流動性潤滑剤で潤滑する必要性がなくなるか、又は劇的に減少する。
【0102】
例えば、米国特許第7,985,188号明細書(その全体が参照することにより本書に援用される)に開示されている方法に従って作られた潤滑性コーティングは、非経口容器のプランジャーに所望レベルの潤滑性をもたらすのに特によく適している。そのような潤滑性コーティングは、好ましくはプラズマ促進化学蒸着(「PECVD」)を使用して適用され、且つ以下の原子比、SiwOxCy又はSiwNxCy(ここで、wは1であり、xは約0.5~2.4であり、及びyは約0.6~約3である)のうちの一方を有し得る。そのような潤滑性コーティングの厚さは、10~500nmとし得る。そのようなプラズマコーティング潤滑性層の利点は、薬物製品又は患者内へと動く移動可能性が、液体、噴霧又はミクロンコーティングされたシリコーンよりも低いことを含み得る。プランジャー力を弱めるためのそのような潤滑性コーティングの使用は、本発明の広い範囲内にあることが考えられる。任意選択的に、図5Bに示すように、PECVD潤滑性コーティング408は、3層コーティングセットの上部に配置され、4層のコーティングセットにし得る。
【0103】
PECVDコーティング器具及びプロセスは、一般的に、米国特許第7,985,188号明細書、又はPCT/US特許出願第16/47622号明細書のPECVDプロトコルに説明されている。米国特許第7,985,188号明細書及びPCT/US特許出願第16/47622号明細書の全テキスト及び図面が、参照することにより本書に援用される。
【0104】
一実施形態では、結合(tie)若しくは接着コーティング若しくは層、及びバリアコーティング若しくは層、及び任意選択的にpH保護層は、同一の器具内で成膜され、その際、接着コーティング若しくは層の成膜とバリアコーティング若しくは層の成膜との間、又は、任意選択的に、バリアコーティング若しくは層の成膜とpH保護コーティング若しくは層の成膜との間で真空破壊することはない。プロセスの最中、ルーメンが部分真空に引かれる。ルーメン内の部分真空を破壊せずに維持している間、SiOxCyの結合コーティング又は層は、結合PECVDコーティングプロセスによって適用される。結合PECVDコーティングプロセスは、コーティングを形成するのに好適なガスを供給しながら、ルーメン内にプラズマを生成するための十分なパワーを加えることによって、実施される。供給されるガスは、直鎖状シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に希釈不活性ガスを含む。x及びyの値は、X線光電子分光法(XPS)によって決定される。そのため、ルーメン内の部分真空を破壊せずに維持している間、プラズマは消滅される。その結果、xが約0.5~約2.4及びyが約0.6~約3であるSiOxCyの結合コーティング又は層が、内面に生じる。
【0105】
後に、プロセスの最中、ルーメン内の部分真空を破壊せずに維持している間、バリアコーティング又は層が、バリアPECVDコーティングプロセスによって成膜される。バリアPECVDコーティングプロセスは、ガスを供給しながら、ルーメン内にプラズマを生成するために十分なパワーを適用することによって、実施される。供給されるガスは、直鎖状シロキサン前駆体及び酸素を含む。その結果、XPSによって決定されるようにxが1.5~2.9であるSiOxのバリアコーティング又は層は、結合コーティング又は層とルーメンとの間に生じる。
【0106】
そのため、任意選択的に、ルーメン内の部分真空を破壊せずに維持している間、プラズマは消滅する。
【0107】
後に、さらなるオプションとして、SiOxCyのpH保護コーティング又は層が成膜され得る。この式でも、それぞれXPSによって決定されるように、xは、約0.5~約2.4であり、及びyは、約0.6~約3である。pH保護コーティング又は層は、任意選択的に、pH保護PECVDコーティングプロセスによって、バリアコーティング又は層とルーメンとの間に成膜される。このプロセスは、直鎖状シロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に、希釈不活性ガスを含むガスを供給しながら、ルーメン内にプラズマを生成するために十分なパワーを加えることを含む。
【0108】
そのため、任意選択的に、ルーメン内の部分真空を破壊せずに維持している間、プラズマは消滅する。
【0109】
後に、さらなるオプションとして、SiOxCyの潤滑性コーティング又は層が成膜され得る。この式でも、それぞれXPSによって決定されるように、xは、約0.5~約2.4、及びyは、約0.6~約3である。潤滑性コーティング又は層は、任意選択的に、潤滑性PECVDコーティングプロセスによってpH保護コーティングの上面に成膜される。このプロセスは、オルガノシロキサン前駆体、任意選択的に酸素、及び任意選択的に希釈不活性ガスを含むガスを供給しながら、ルーメン内にプラズマを生成するために十分なパワーを加えることを含む。
【0110】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、結合コーティング若しくは層、バリアコーティング若しくは層、及び/又はpH保護コーティング若しくは層、及び/又は潤滑性コーティング、又はこれら2つ以上の任意の組み合わせを成膜するためのPECVDプロセスは、ルーメン内にプラズマを生成するために、パルスパワー(或いは、同じ概念は、本明細書において、「エネルギー」と称す)を加えることによって、実施される。
【0111】
或いは、結合PECVDコーティングプロセス、又はバリアPECVDコーティングプロセス、又はpH保護PECVDコーティングプロセス、又はこれらのうちの2つ以上の任意の組み合わせは、ルーメン内にプラズマを生成するために、連続パワーを加えることによって、実施され得る。
【0112】
3層コーティングプロセスプロトコル(全ての層が同じ器具内でコーティングされる)
この実施形態において説明されるような3層コーティングは、単一の有機ケイ素モノマー(HMDSO)及び酸素の流れを調整し、且つまた各層間でPECVD生成パワーを変化させる(いずれかの2つの層間の真空を破壊することなく)ことによって、成膜される。
【0113】
ベッセル(例えば、COCシリンジ)が、ベッセルホルダーに置かれ、密封され、及び真空がベッセル内に引かれる。真空に引いた後、前駆体、酸素、及びアルゴンのガス供給が導入され、その後、「プラズマ遅延」の最後に、13.56MHzの連続(すなわちパルスではない)RFパワーがオンにされて、結合コーティング又は層を形成する。その後、パワーはオフにされて、ガス流は調整され、及びプラズマ遅延後、第2の層--SiOxバリアコーティング又は層のためにパワーがオンにされる。その後、これは、ガスが遮断され、真空シールが壊され、及びベッセルがベッセルホルダーから除去される前に、第3の層に対して繰り返される。層は、結合層の次にバリア層、その次にpH保護層の順番で置かれる。例示的なプロセス設定が以下の表に示されている:
【0114】
【表2】
【0115】
さらに他の代替例として、パルスパワーをいくつかのステップに使用でき、及び連続パワーを他のものに使用できる。例えば、結合コーティング又は層、バリアコーティング又は層、及びpH保護コーティング又は層で構成された3層コーティング又は層を作るとき、結合PECVDコーティングプロセス及びpH保護PECVDコーティングプロセスに具体的に考慮されるオプションは、パルスパワーであり、及び対応するバリア層に考慮されるオプションは、連続パワーを使用して、ルーメン内にプラズマを生成することである。
【0116】
任意選択的な注入可能な製品の組成
任意選択的に、いずれかの実施形態では、本開示の概念によるシリンジは、注入可能な薬物製品をプレフィルドされる。
【0117】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、注入可能な薬物製品は、硝子体内注入に好適な眼薬とし得る。任意選択的に、いずれかの実施形態では、眼薬は、VEGF拮抗薬、任意選択的に抗VEGF抗体、又はそのような抗体の抗原結合フラグメントを含む。任意選択的に、いずれかの実施形態では、VEGF拮抗薬は、ラニビズマブ(Ranibizumab)、アフリベルセプト(Aflibercept)、又はこれらの組み合わせを含む。
【0118】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、硝子体内注入に好適な眼薬の液剤の濃度は、液剤40の1ml当たり有効薬剤(drug active agent)1~100mg(mg/ml)、或いは2~75mg/ml、或いは3~50mg/ml、或いは5~30mg/ml、及び或いは6又は10mg/mlである。
【0119】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、硝子体内注入に好適な眼薬の液剤は、6mg/ml、或いは10mg/mlのラニビズマブを含む。
【0120】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、硝子体内注入に好適な眼薬は、さらに:約5~約7の範囲の液剤40のpHをもたらすのに効果的な量の緩衝液;液剤全体の0.005~0.02%の範囲のmg/mL、或いは液剤全体の0.007~0.018%の範囲のmg/mL、或いは液剤全体の0.008~0.015%の範囲のmg/mL、或いは液剤全体の0.009~0.012%の範囲のmg/mL、或いは液剤全体の0.009~0.011%の範囲のmg/mLの、或いは液剤全体の0.01%のmg/mLの非イオン界面活性剤;及び注入用の水を含む。
【0121】
任意選択的に、いずれかの実施形態では、硝子体内注入に好適な眼薬は、注入用の水中に、6mg/mL、或いは0mg/mLのラニビズマブ;100mg/mLのα,α-トレハロース二水和物、1.98mg/mLのL-ヒスチジン;及び0.1mg/mLのポリソルベート(Polysorbate)20を含む。
【0122】
プランジャーの態様を試験するための業界基準
プランジャーアセンブリの圧迫設定特性の試験は、当該技術分野で公知の方法、例えば、ASTM D395を使用して実施され得る。
【0123】
フィルム(例えば、フルオロポリマー)とプランジャーとの間の接着特性又は結合強度の試験は、当該技術分野で公知の方法を使用して、例えば、ASTM D1995-92(2011)又はD1876-08に従って実施され得る。
【0124】
プランジャー滑り力(sliding force)は、例えば吸引又は投薬の最中に、シリンジ又はカートリッジ筒内でプランジャーの動きを維持するのに必要な力である。例えば、当該技術分野で公知のISO 7886-1:1993試験、又はISO 11040-4に組み込まれる予定の、現在審理中の公開されている試験方法を使用して判断されることが好都合とし得る。プランジャー滑り力の試験と同じ方法を使用して試験され得るプランジャーブレークアウト力は、シリンジ又はカートリッジ筒内でプランジャーの定常の動きを開始するために必要な力である。プランジャーの滑り力及びブレークアウト力を試験するのに有用な機械は、例えば、50Nのトランスデューサを使用するInstron機である。
【0125】
抽出物、すなわち、プランジャーからシリンジ又はカートリッジ内の液体内へ移動する材料の量の試験は、例えば、Ph. Eur. 2.9.17 Test for Extractable Volume of Parenteral Preparationsに記載の方法を使用して実施され得る。
【0126】
容器クロージャーの完全性(CCI)の試験は、真空崩壊漏出検出方法を使用して行われ得、ここで、真空は、試験体積内に維持され、且つ圧力上昇が経時的に測定される。十分に大きい圧力上昇は、システムへの流入があることの表示であり、これは漏出の証拠である。任意選択的に、真空崩壊試験は2つの別々のサイクルにわたって実施される。第1のサイクルは、非常に短期間にわたる、大量の漏出を検出することに専念する。第1のサイクルに関しては、比較的弱い真空が引かれる。なぜなら、グロスリークが検出される場合、大きな圧力上昇を検出するためには、圧力差は大きい必要がないためである。説明したような第1のサイクルの使用は、グロスリークが存在する場合に、総試験時間を短くするのを助ける。第1のサイクルにおいて漏出が検出されない場合、ASTM F2338-09 Standard Test Method for Nondestructive Detection of Leaks in Packages by Vacuum Decay Methodに従う第2のサイクルが実行される。第2のサイクルは、圧力上昇測定における信号対雑音比を下げるために、システム評価から始める。第2のサイクルでは、長期間、比較的強い真空が引かれて、システムにおける圧力上昇を検出する機会を増やす。
【0127】
吸引中にシリンジピストンを越える空気の漏れの試験が、当該技術分野で公知の方法、例えば、ISO 7886-1:1993を使用して実施され得る。
【0128】
圧迫下でのシリンジピストンにおける液体の漏れの試験が、当該技術分野で公知の方法、例えば、使用中に生成される最大の力に一致する軸方向の力を完成品のプランジャーロッドによってプランジャーストッパーへ加えることによって流体経路が遮断された状態で、液体の漏れに関するISO 7886-1:2015、Annex Bを使用して実施され得る。
【0129】
この基準を適用する例示的な方法では、0.5mLシリンジに、0.165mLのMILLI-Q高純度水が充填され得る。プランジャー、任意選択的に、West FLUROTECプランジャーが、充填済みシリンジに真空装填される。軸方向突起を備えるプランジャーアセンブリは、本明細書で説明されるようにプランジャー内に配置されて、プランジャーを貯蔵モードに置く。クロスヘッドは、シリンジ内での300kPaの圧力(又は、使用中に生成される最大の力に一致する力)に対応する5.43Nの最大の力に達するまで、10mm/分の速度で圧迫する。クロスヘッドは、最大の力で30秒間保持するように、小さな調整を行う。この実施形態では、ISO 7886-1試験は、シリンジ内から水が少しでもプランジャーのいずれかのリブを越えて戻るような場合には、失敗したと考えられる。
【0130】
本発明の様々な態様を、以下の実施例を参照して、より詳細に説明するが、本発明がそれらに限定されるとはみなされないことを理解されたい。
【実施例0131】
実施例1
経時変化後のFiに対する突起の軸方向長さの影響
この実施例では、COP製の3つの群のシリンジA、B及びCが、経時変化後の解放力(Fi)に及ぼす軸方向突起の長さの影響を決定するための実験の対象であった。各群は、5個のシリンジを有した。群Aは、プランジャーロッドに軸方向突起を有していなかった(それゆえ、プランジャースリーブの内腔内の代わりに、プランジャーの近位端でプランジャーを押した)。群Bは、図5及び図6に示す、軸方向長さが5.71mmの軸方向突起を備える構成であった。群Cは、図5及び図6に示す、軸方向長さが9.1mmの軸方向突起を備える構成であった。3つの構成の唯一の違いは、突起の軸方向長さ(L)である。3つ全ての群のシリンジに関し、プランジャーは同一であった。各プランジャーの内腔の軸方向長さは、5.3mmであった。この測定値は、プランジャーがその自然状態にある(すなわち、半径方向又は軸方向に圧縮又は伸張されていない)ときの、プランジャースリーブの近位端から内部表面の最も遠位のセクション(係合面)までの長さを表す。
【0132】
シリンジの筒は全て、3層コーティングセットでコーティングされ、3層コーティングセット上にOMCTS潤滑性コーティングが配置され、それにより、本明細書で開示したように、4層コーティングセットを提供した(図5B参照)。これらのシリンジは、緩衝溶液(10mMのヒスチジンHCl、10%のα,α-トレハロース脱水物、0.01%のポリソルベート、pH5.5の水溶液)で充填された。充填済みシリンジは、4℃で貯蔵された。9カ月の貯蔵後、これらのシリンジは、それらの解放力に関して、針なしで、190mm/分で試験された。軸方向突起の長さに依存する解放力のデータが、図14に示されている。
【0133】
これらのシリンジが解放力に関して試験されたとき、プランジャーロッドは、筒内で近位端から遠位端へ軸方向に動いた。群Aのシリンジでは、試験中、突起が欠如していることによって、プランジャーロッドを遠位方向に動かすことによって、軸方向圧迫力がプランジャーの近位端に完全に加えられた。群Bのシリンジでは、内腔の軸方向長さよりもわずかに長い軸方向突起が、プランジャーの近位端に軸方向圧迫力を加えるが、プランジャーが、プランジャーの遠位端において内側から突起によって伸張された。群Cのシリンジでは、内腔の軸方向長さよりもかなり長い軸方向突起は、プランジャーが静止位置から動かされたときに、プランジャーの近位端とプランジャーロッドの遠位端との間に顕著な間隙を生じた。それゆえ、群Cでは、プランジャーは、圧迫力がプランジャーの近位端に加えられない状態で、突起によって内腔の遠位端において内側から伸張された。データは、群Cのシリンジが最低の解放力を提供し、群Aのシリンジが最高の解放力を提供し、及び群Bのシリンジがそれらの中間であったことを示している。
【0134】
実施例2
経時変化後のFiに対する突起の軸方向長さの影響
この実施例では、シリンジは、本明細書で説明し且つ図5Bに示したプロセスによって、筒の内壁の4層コーティングセットでPECVDがコーティングされていた。シリンジは、1.165mLの高純度水が充填され、且つプランジャーによって真空装填されていた。プランジャーは、以下の群に分離されたプランジャーアセンブリの一部であった:A1、B1、C1及びD1。各プランジャー(West 4023/50)は、デュロメータが50のブロモブチルゴム製であり、ノーズコーン領域などの薬物接触面がフルオロポリマー(例えばETFE)フィルムで覆われている。これらのシリンジ及びプランジャーアセンブリは、それぞれ貯蔵1日後、7日後及び28日後のそれらの解放力(Fi)に関して試験された。4つのシリンジに対応するプランジャーアセンブリの構成は、以下の通りであった:
A1:突起なし(長さ=0.0mm);
B1:突起(長さ=4.7mm);
C1:突起(長さ=5.2mm);
D1:突起(長さ=5.7mm)。
【0135】
群B1、C1及びD1では、それぞれの長さは別として、軸方向突起は、図5の設計と同様であった。試験結果は、下記の表1、及び図15に示されている。データは、プランジャーの内腔よりも長い突起を備えるシリンジ(すなわちD1)は、最低のブレークアウト力Fiを提供していることを実証している。突起のないシリンジ(A1)は、プランジャーが全く伸張せず且つ後ろから圧迫されるため、最高のブレークアウト力Fiを提供する。プランジャーの内腔よりも短い突起を備えるシリンジ(すなわちB1及びC1)は、A1とD1の間の結果を提供する。以下の表は、この試験の結果を説明し、数値は、平均解放力(N)を表す。
【0136】
【表3】
【0137】
これらのデータは、軸方向突起を含むプランジャーアセンブリが、所与の時点で、軸方向突起のないプランジャーロッドと比較して、解放力を平均約20%~25%低減させたことを示す。
【0138】
実施例3
プランジャーロッドの軸方向突起を用いるバースト試験
バースト試験は、ゴムプランジャーを突破するためのプランジャーロッドの延長部に必要な最大の力を決定するために使用される(以下「バースト」と呼ぶ)。
【0139】
図5のプランジャーアセンブリ20をバースト試験の対象とした。軸方向突起は、ポリプロピレン製であり、長さ9.1mm及び直径1.4mmである。一群のシリンジは、0.165mLの注入用の水(WFI)が充填され、且つストッパー付きであった(すなわち、プランジャーが筒に挿入される)。充填済みシリンジは、4℃で15日間貯蔵される。シリンジは、冷蔵庫から取り出され、且つ試験前に1時間、室温まで温めることができる。
【0140】
シリンジは、Instron計測器に装填され、及びプランジャーロッドは、本開示で説明したように、プランジャースリーブと組み立てられる。
【0141】
計測器は、プランジャーロッドを、190mm/分の定速で押す。プランジャーを押すために必要な力が測定される。プランジャーロッドがプランジャーの下面と接触すると、力が増大し始める。データは、バースト前に、プランジャーロッドの延長部によってゴムプランジャーを約1.5mm伸張させることを示す。バーストに必要な力の量は、約25Nである。この試験は、好ましいプランジャー及びプランジャーロッド材料を好ましい寸法で利用するとき、ゴムプランジャーが1.5mmを上回って長くならないように、ロッドの延長部の長さを制限することが望ましいことを実証する。これは、プランジャーロッドのバーストが発生しないことを保証するのに役立つ。
【0142】
実施例4
ヘッドのある軸方向突起を有するプランジャーアセンブリの漏れの試験
この実施例では、漏れの試験は、上述したように並びに図3A図3B図7図8及び図12A~12Cに示すように、ヘッド130aを含む軸方向突起130を有するプランジャーアセンブリを用いて実施された。漏れの試験は、本明細書で説明したような流体経路が遮断されている状態で、液体の漏れに関するISO 7886-1:2015、Annex Bに従って実施された。様々な形状及び寸法のヘッド(例えば、130a)が試験された。温度及び時点毎に、各軸方向突起ヘッド形態を使用して、合計20個のシリンジが試験された。試験は、4℃、25℃及び40℃の貯蔵温度で、それぞれ、1日、3日、7日、1カ月、3カ月、6カ月及び9カ月の時点で実施されたが、その試験は、40℃での6カ月及び9カ月では行われなかった。換言すると、各軸方向突起ヘッド形態及び寸法に対して合計380回の試験が実施された。
【0143】
図3A図3B図7図8及び図12A~12Cに正確に示すようなヘッド130aを有する軸方向突起130は、試験された他の形態と比べて優れた性能を有していることが分かった。さらに、より大きな直径(この場合、2.10mm及び2.00mmと比較して2.25mm)を有するヘッド130aが、優れた結果をもたらしたことが分かった。この試験は、この構成において、より太いヘッド130a(直径2.25mm)が、筒壁に対してより大きな半径方向の圧迫をもたらし、それが違いをもたらしたことを実証した。その実施形態は、380回の試験の中で唯一の失敗のみを生じただけであり、及びその失敗は、25℃においてであった、すなわち、総失敗率は0.26%であった。4℃のより典型的な冷蔵貯蔵温度では、その実施形態は、140回の試験の中で失敗はゼロであった、すなわち、その温度では0%の失敗率であった。次善の結果は、同じ形状であるが、直径2.10mmのヘッド130aであった。その実施形態は、380回の試験の中で26の失敗、すなわち、総失敗率6.8%、及び4℃で、140回の試験の中で5の失敗を生じた、すなわち、その温度での失敗率は3.6%であった。同じ形状であるが直径2.00mmの別の実施形態は、同じ形状の直径2.10mmと同様の結果を有した。
【0144】
それに反して、内腔の内部形状にきちんと一致しない、直径2.00mmの弾丸形を有する実施形態は、遥かに成績が悪かった。「弾丸形」の実施形態は、380回の試験の中で67の失敗を生じた、すなわち、総失敗率17.6%であった。その実施形態はまた、4℃で140回の試験の中で23の失敗を生じた、すなわち、その温度での失敗率は16.4%であった。
【0145】
この実験は、ヘッドを有する軸方向突起では、ヘッドの形状及び寸法は、プランジャーによってもたらされた液体シールの有効性に劇的に影響を与え得ることを実証した。ヘッドの幾何学的形状が、プランジャースリーブの内腔の遠位区画室の対応する幾何学的形状及び寸法に実質的に一致することが、シール完全性を高めるようである。
【0146】
実施例5
ヘッドを備える軸方向突起を有するプランジャーアセンブリの試験にわたるFi
この実施例では、試験にわたる解放力が、上記で説明され且つ図3A図3B図7図8及び図12A~12Cに示すような、ヘッド130aを含む軸方向突起130を有するプランジャーアセンブリによって行われた。様々な形状及び寸法のヘッド(例えば、130a)が試験された。試験は、異なる時点及び異なる温度で、異なる形状/寸法のヘッドを使用して行われた。特に、合計8の時点(1日、3日、7日、1カ月、3カ月及び9カ月)に関し、1時点当たり5個のシリンジが、それぞれ3つの異なる温度(4℃、25℃及び40℃)で試験された。換言すると、合計40個のシリンジが、各温度で試験された。筒は、潤滑性のためにシリコーンオイルでコーティングされていた。
【0147】
シリンジは、0.165mLのMILLI-Q高純度水が充填されていた。プランジャーは、28 in Hg(65mbarの絶対圧)の真空圧まで真空ローダを使用して装填された。この充填プロセスは、高さ約0.3mmの気泡を生じた。気泡のサイズは、Fi又は最大Fmに影響を及ぼさなかった。試験前、それぞれの温度で貯蔵されたシリンジは、室温に戻された。
【0148】
対照群は、軸方向突起のないプランジャーロッド、すなわち、貯蔵モードから投薬モードを通してプランジャースリーブの近位端に直接接触する遠位端を有するプランジャーロッドからなった。データは、平均で、特定のヘッドの形状及び形態にかかわらず、対照群は、Fiにおいて、所与の時点で試験群と比べて約2N大きい傾向があったことを示した。例えば、9カ月では、対照群は、Fiに関して平均約8Nであったが、その同じ時点で、試験群のプランジャーアセンブリは、Fiに関して平均6N未満であった。
【0149】
この実験は、実施形態の形状及び寸法が、Fiに関して試験集団において他の部分群と比較して測定された、最低の漏れの試験の失敗率を有したことを実証した。換言すると、その形状及びそれらの寸法は、シール完全性とプランジャー力との間をうまく両立させているようである。この実験は、さらに、プランジャーを伸張させるために軸方向突起を使用することによって、シール完全性を著しく犠牲にすることなく、解放力を低減させ得ることを実証した。
【0150】
本発明を詳細に且つ特定の実施例を参照して説明したが、当業者には、その趣旨及び範囲から逸脱せずに、様々な変更及び修正をなし得ることが明らかである。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図14
図15
【手続補正書】
【提出日】2024-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用筒内で使用するためのプランジャーアセンブリであって:
遠位端及び近位端を有するプランジャーロッド;
前記プランジャーロッドの前記遠位端に固定される、そこから延在する、又はそれに当接する軸方向突起;及び
外表面と、内腔を取り囲む内部表面とを有するプランジャースリーブを含むプランジャーであって、前記外表面は、遠位ノーズコーンと、前記ノーズコーンから近位に延在し且つ前記プランジャースリーブの近位端にある開口部に至る環状外壁とを含み、前記開口部は前記軸方向突起を受け入れて、前記軸方向突起が前記内腔内へ延在し且つ前記内部表面の係合面と接触するようにし、前記係合面は、前記軸方向突起によって遠位方向に加えられた力を受け、前記プランジャーロッドが遠位方向に動かされると、前記プランジャーアセンブリを遠位方向に動かすように構成されている、プランジャー
を含み、
前記プランジャーロッドの前記遠位端は、前記プランジャーが伸長前の状態にあるとき、最初は前記プランジャースリーブの前記近位端に接触しておらず、及び前記プランジャーロッドの前記近位端を予め決められた距離、軸方向に移動させるのに十分な軸方向の力を、前記プランジャーロッドの前記近位端に近位方向に加えても、前記プランジャーを軸方向に近位方向に移動させることはない、プランジャーアセンブリ。
【外国語明細書】