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特開2024-147717リチウムイオン二次電池用負極材およびその製造方法並びにそれを用いた負極およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147717
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材およびその製造方法並びにそれを用いた負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20241008BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241008BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/36 D
H01M4/36 C
H01M4/1393
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114409
(22)【出願日】2024-07-18
(62)【分割の表示】P 2021049983の分割
【原出願日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2020060059
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】井尻 真樹子
(72)【発明者】
【氏名】北川 知己
(72)【発明者】
【氏名】酒井 稔
(72)【発明者】
【氏名】間所 靖
(57)【要約】      (修正有)
【課題】充放電時の膨張収縮が小さく、高容量の黒鉛質炭素粒子からなるリチウムイオン二次電池用負極材およびそれを用いた負極を提供する。
【解決手段】平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bの少なくとも2種以上の混合物を含み、黒鉛質粒子Aは球状化天然黒鉛粒子で、黒鉛質粒子Bは人造黒鉛粒子であって、黒鉛質粒子Aの粒径dに対する黒鉛質粒子Bの粒径dの粒径比(d/d)が0.24以下で、かつ黒鉛質粒子Aの質量Mと黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下であるリチウムイオン二次電池用負極材であり、その負極材を用いた負極である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bとの少なくとも2種以上の混合物を含み、前記黒鉛質粒子Aは球状化天然黒鉛粒子で、前記黒鉛質粒子Bは人造黒鉛粒子であって、前記黒鉛質粒子Aの表面に炭素質材料の被膜が存在し、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.24以下で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記炭素質材料の被膜は、炭素質前駆体の焼成体であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記人造黒鉛粒子は、球晶黒鉛粒子および/またはニードルコークス黒鉛化粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記黒鉛質粒子Aの変形率が15.0%以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bとを少なくとも2種以上含み、前記黒鉛質粒子Aは球状化天然黒鉛粒子で、前記黒鉛質粒子Bは人造黒鉛粒子であって、前記黒鉛質粒子Aの表面に炭素質材料の被膜が存在し、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.24以下で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下で混合することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用負極を電極として用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材およびその製造方法並びにそれを用いた負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、長寿命であることから、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末などに広く用いられている。最近では、電気自動車、ハイブリッド自動車の車載用の電池としての利用も拡大化している。
【0003】
モバイル用途としては、電池の膨れによる形状の変化が課題であり、長寿命かつ安全で膨張の少ない材料が求められている。同様に車載用でも、搭載する電池の積層数が多く、1個あたりの電池の膨張が大きければそれだけ全体の膨張が大きくなるため低膨張の材料が求められている。
【0004】
負極材の中でも人造黒鉛は、種類にもよるが、天然黒鉛系の材料に比べて充放電時の膨張収縮が小さい傾向にある。一方で、価格面では現状人造黒鉛より天然黒鉛の方が経済的であることから、天然黒鉛系材料においては、表面を低結晶性の炭素質で被覆したり、球状化したりすることで、膨張の低減や、サイクル特性、放電負荷特性を改善する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-259689号公報
【特許文献2】特開2011-60465号公報
【特許文献3】特開2014-67643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、加圧処理された天然黒鉛に低結晶炭素質の被覆を行い、さらに複合炭素材料を混合して、充電時膨張率を低下させているが、製造方法が複雑であるという問題点がある。特許文献2では、加圧処理された球状化天然黒鉛を被覆処理したものであるが、改善幅が狭く、効果が不十分である。特許文献3では、特許文献1よりも製造工程が簡素であるが、サイクル容量維持率の改善幅が狭く、初期充放電効率、膨張率その他の改善に関しては不明な部分がある。
【0007】
本発明は、今後ますます重要となる電池の膨張抑制のニーズに鑑みてなされたものであり、高密度化しても十分な電池性能を保ち、低膨張を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した。従来、結晶性の高い黒鉛材料を負極として使用すると充電時の膨張が大きいことは解っていたが、その黒鉛材料に低膨張の人造黒鉛、あるいは非晶質炭素粒子を単純混合すると、加成則よりも膨張が大となる現象をしばしば経験した。さらに詳細に分析を行ったところ、結晶性の高い黒鉛材料は、電極とするためにプレスすると、その過程で粒子が容易に変形し、その後充放電を行うと、プレスによる変形が大きければ大きいほど、電極の膨張が大きくなる現象を見出した。すなわち電極の膨張を小さくするには、電極製造時のプレスによる負極材料の変形を小さくする(具体的には本発明の黒鉛質粒子Aの変形率を15.0%以下にする)ことが重要であるという本発明の着想に至った。
【0009】
すなわち、軟質な黒鉛質粒子と硬質な黒鉛質粒子との混合物で、それぞれの粒子を最適な構成で混合することで、粒子の膨張収縮を抑制した経済的な負極材が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bとの少なくとも2種以上の混合物を含み、前記黒鉛質粒子Aは球状化天然黒鉛粒子で、前記黒鉛質粒子Bは人造黒鉛粒子であって、前記黒鉛質粒子Aの表面に炭素質材料の被膜が存在し、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.24以下で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
〔2〕前記〔1〕において、前記炭素質材料の被膜は、炭素質前駆体の焼成体であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
〔3〕前記〔1〕または〔2〕において、前記人造黒鉛粒子は、球晶黒鉛粒子および/またはニードルコークス黒鉛化粒子であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
〔4〕前記〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つにおいて、前記黒鉛質粒子Aの変形率が15.0%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
〔5〕前記〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つのリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bとを少なくとも2種以上含み、前記黒鉛質粒子Aは球状化天然黒鉛粒子で、前記黒鉛質粒子Bは人造黒鉛粒子であって、前記黒鉛質粒子Aの表面に炭素質材料の被膜が存在し、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.24以下で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下で混合することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
〔6〕前記〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つのリチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極。
〔7〕前記〔6〕のリチウムイオン二次電池用負極を電極として用いたリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電時の膨張収縮を抑制しつつ、レート特性(1C充電率、2C放電率)およびサイクル特性に優れ、充電膨張率と放電膨張率が小さいリチウムイオン二次電池用の負極材、負極およびリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】評価用のコイン型二次電池を示す断面図である。
図2】膨張率試験に用いる変位セルの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
[負極材]
まず、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の実施形態について説明する。
本発明の負極材は、平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bの少なくとも2種以上の混合物を含み、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.25未満で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下であることを特徴とするものである。
【0015】
[黒鉛質粒子A]
本発明の黒鉛質粒子Aは、基材となる球状化天然黒鉛粒子の表面に炭素質材料の被膜を有することが好ましく、この炭素質材料の被膜は、炭素質焼成体であることが好ましい。
【0016】
[球状化天然黒鉛粒子]
球状化天然黒鉛粒子とは、一次粒子の形状が鱗片状である天然黒鉛を、粉砕工程などの途中の粉体加工により球状化したもの、あるいは造粒(粉砕して再凝集するものを含む)したもの等を示す。その中でも、結晶性が高く、アスペクト比(長径/短径)が1.00に近いもの(例えば1.67以下、より好ましくは、1.25以下)が好ましい。特に、等方、異方を問わず加圧処理され、内部空隙の少ない球状化天然黒鉛粒子が好ましい。
【0017】
元々、扁平な鱗片状の天然黒鉛粒子は、圧力をかけると一方向に配向する性質がある。球状化加工をしたものでも、加圧されて変形して電極上に配向した状態で存在すると、集電体と並行にグラフェン層が並ぶ。グラフェン層間にリチウムを吸蔵するため、充電時には層間距離が増大し、放電時には収縮するといったように、一方向に負極材の膨張収縮が起こりやすくなる。そのため、電極内の粒子に力がかかり、電極と垂直方向に粒子が膨張収縮するので、電地のサイクル寿命が悪くなる。すなわち、この現象は、結晶性の高い黒鉛は、電極とするためにプレスをすることで、粒子が容易に変形し、その後充放電を行うと、変形が大きければ大きいほど、電極の膨張が大きくなるからと推定している。
【0018】
[炭素質材料の被膜]
天然黒鉛粒子の表面に炭素質材料の被膜を設ける目的は、負極材表面での電解液の分解を抑制してリチウムイオン二次電池の安全性を向上させるためである。負極材表面での電解液の分解を抑制するには、通常、負極材に比表面積の小さい材料を用いるのが好ましい。しかし、天然黒鉛は、人造黒鉛と比較して比表面積が大きい傾向にあるので、後述するように、表面をピッチなどの炭素質材料で被覆した後、熱処理を行うことにより、比表面積を低減させてから負極材として使用する。
また、被覆材の種類と量によっては、球状化天然黒鉛の硬さを調節でき、容易には変形しないようにすることも、この被覆による特性改善の効果であると考えられる。
【0019】
[炭素質材料]
前記の炭素質材料の被膜は、例えば、石炭系ピッチや石油系ピッチなどのピッチ、フェノール樹脂やフラン樹脂などの樹脂およびこれらのピッチと樹脂との混合物等の炭素質前駆体を熱処理(焼成)したものである。炭素質前駆体は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。経済性等の観点から、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチが好ましい。石炭系ピッチの具体例としては、コールタールピッチ、石炭液化ピッチ等が挙げられる。
なお、ピッチを用いる場合、キノリン不溶分(QI)含有量は、特に限定されないが、電池の容量を上げる観点から、2質量%以下であるのが好ましい。
【0020】
[炭素質材料被膜の被覆量]
本発明の黒鉛質粒子Aの表面に被覆する炭素質材料の被覆量は、平均粒径、粒子の硬さから適切な被覆量が選ばれるが、好ましくは、1質量%~10質量%である。1質量%未満では、基材の表面反応性を十分に抑制できず、また変形を助長する。10質量%超では、充放電効率、放電容量の低下を招く。より好ましくは、5質量%~8質量%である。この被覆量は、炭素質前駆体の残炭率から計算して求めることができる(例えば、炭素質前駆体の添加量×残炭率)。
【0021】
[炭素質前駆体の熱処理]
前記の炭素質前駆体を基材となる球状化天然黒鉛粒子に付着させたのち、熱処理を行うことにより、基材の表面に炭素質焼成体を生成させる。この際の熱処理温度は、700℃~1300℃とすることが好ましい。700℃未満では、炭化が進まず、電池内で、電解液との反応分解等が起こり、特性が低下し、1300℃超では、不経済であるうえ、炭素質が硬質化し、プレスの際に基材が露出するおそれがある。より好ましくは、900℃~1250℃であり、被膜の安定性の観点から、さらに好ましくは、1000℃~1200℃である。
【0022】
熱処理の雰囲気は、非酸化性雰囲気であることが好ましい。酸化性雰囲気では、被覆材が燃焼して消失するからであり、酸素は微量でも表面に官能基を生成して表面反応性を助長するため、窒素気流下、アルゴン気流下、ヘリウム気流下、真空下、または周囲にコークスブリーズなど、自ら酸化して、焼成体の酸化を抑制するものを存在させて酸素濃度を下げて実質的に非酸化性雰囲気とするなどの雰囲気が好ましく選ばれる。
【0023】
[平均破壊強度]
本発明の効果を十分に発現するには、黒鉛質粒子Aの硬さが重要であり、平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である。5MPa未満では、柔らかすぎて変形が進み電池特性が悪化し、50MPa以上では、硬すぎてプレスにより割れて新生面が露出することで電池特性が悪化するからである。より好ましくは、25MPa~48MPaである。さらに好ましくは、25MPa~35MPaである。
【0024】
[平均破壊強度の測定方法]
粒子の破壊強度とは、粒子1個を圧縮破壊する力のことであり、本発明の黒鉛質粒子Aおよび後述する黒鉛質粒子Bの平均破壊強度の測定方法は、次の通りである。
【0025】
島津製作所製微小粒子圧縮試験MCT-W500により、単一粒子を50μmΦダイヤモンド製平面圧子にて10mN/secの速度で圧縮力を加えていき、破壊した時点の力から破壊強度(MPa)を求めた。10個の粒子について圧縮試験を行い、それぞれの破壊強度の値を平均して求めた。
【0026】
[平均粒径]
本発明の黒鉛質粒子Aの平均粒径dは、7.0μm~40.0μmが好ましい。7.0μm未満では、電極の作成上困難となる上、比表面積の増加により、充放電試験における初回充放電効率が著しく低下するおそれがあるからである。40.0μm超では、大きな粒子が電極上に点在することで、電池の反応が不均一になるおそれがある他、負荷特性といった電池の特性を阻害するおそれがある。より好ましくは、10.0μm~30.0μm、さらに好ましくは、15.0μm~25.0μmである。
【0027】
[平均粒径の測定方法]
本発明の黒鉛質炭素粒子Aおよび後述する黒鉛質粒子Bの平均粒径(μm)は、JIS Z 8825:2013に準拠し、レーザー回折式粒度分布計により、分散媒として、イオン交換水に界面活性剤であるトリトンX-100の3%水溶液を数滴加えたものを用いて測定した。
【0028】
[黒鉛質粒子B]
本発明の黒鉛質粒子Bは、人造黒鉛粒子であることが好ましく、球晶黒鉛粒子および/またはニードルコークス黒鉛化粒子であることがより好ましい。
【0029】
[人造黒鉛粒子]
人造黒鉛粒子としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、ニードルコークスを黒鉛化処理したもの、黒鉛化したメソカーボン小球体である球晶黒鉛粒子、バルクメソフェーズ、黒鉛化メソフェーズピッチ炭素繊維、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチを焼成後に2500℃以上で黒鉛化処理したもの等が挙げられる。その中でも、配向し難く、黒鉛質粒子Aの変形率を小さくすることができることから、球晶黒鉛粒子またはその粉砕品が特に好ましい。
【0030】
[平均破壊強度]
本発明の黒鉛質粒子Bの硬さは、混合する黒鉛質粒子Aの平均粒径や硬さ、また黒鉛質粒子Aとの混合比によって適する範囲が変わりうるが、黒鉛質粒子Aよりも硬いものであり、その平均破壊強度は、50MPa~150MPaである。50MPa未満では、黒鉛質粒子Aの硬さにもよるが、黒鉛質粒子Bの方が変形してしまう可能性があり、150MPa超では、黒鉛質粒子Aを必要以上に変形させてしまう可能性があるからである。好ましくは50MPa~130MPaである。より好ましくは、100MPa~130MPaである。特に好ましくは、110MPa~125MPaである。
【0031】
[平均粒径]
本発明の黒鉛質粒子Bの平均粒径dは、混合する黒鉛質粒子Aの性状によるが、1.0μm~10.0μmが好ましい。1.0μm未満では、バインダーを吸収して電極の密着性が低下し、膨張を助長する。平均粒径が大きすぎると膨張しやすくなる。より好ましくは、3.0μm~5.0μmである。さらに好ましくは、3.5μm~4.5μmである。
【0032】
[黒鉛質粒子AとBの粒径比]
本発明の黒鉛質粒子Aと黒鉛質粒子Bとの粒径比を定める目的は、黒鉛質粒子Aの変形を防ぐためであり、黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.25未満である。0.25以上になると黒鉛質粒子Bの割合が大きくなって、黒鉛質粒子Aの変形を防止する効果が不十分となり、その変形を助長することになるからである。より好ましくは、0.24以下である。また、粒径比(d/d)の好ましい下限値は、0.025であり、より好ましくは、0.10であり、さらに好ましくは、0.15である。
【0033】
[黒鉛質粒子AとBの質量比]
本発明の黒鉛質粒子Aの質量Mと黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))は、0.30以下である。好ましくは、0.05~0.30である。0.05未満、あるいは0.30超では、黒鉛質粒子Aの変形率が高くなるからである。より好ましくは、0.08~0.20であり、さらに好ましくは、0.10~0.20であり、特に好ましくは、0.10~0.16である。
【0034】
本発明によれば、軟質な黒鉛質粒子Aに、硬質な黒鉛質粒子Bを前述の範囲で混合することにより、電極製造のプレス時に黒鉛質粒子Aのまわりに存在する少量の黒鉛質粒子Bが、黒鉛質粒子Aにかかるプレス力を分散することで、黒鉛質粒子Aの塑性変形を阻害し、充放電時の膨張を防ぐことになると推定される。
【0035】
[黒鉛質粒子の比表面積]
さらに、本発明の黒鉛質粒子Aおよび黒鉛質粒子Bの比表面積は、電解液との反応性を抑制するという理由から、10.00m/g以下であるのが好ましい。より好ましくは、8.00m/g以下、さらに好ましくは5.00m/g以下、特に好ましくは4.00m/g以下である。また、比表面積の好ましい下限値は、1.00m/gである。なお、本発明における比表面積の測定は、窒素ガスの吸着によるBET法により求めたものである。
【0036】
[負極材の製造方法]
本発明の負極材の製造方法は、平均破壊強度が5MPa以上、50MPa未満である黒鉛質粒子Aと平均破壊強度が50MPa~150MPaである黒鉛質粒子Bとを少なくとも2種以上含み、前記黒鉛質粒子Aの平均粒径dに対する前記黒鉛質粒子Bの平均粒径dの粒径比(d/d)が0.25未満で、かつ前記黒鉛質粒子Aの質量Mと前記黒鉛質粒子Bの質量Mの合計質量(M+M)に対する前記黒鉛質粒子Bの質量Mの質量比(M/(M+M))が0.30以下で混合することを特徴とするものである。
【0037】
上記の範囲に調整した黒鉛質粒子Aと黒鉛質粒子Bを混合することにより、負極材を製造するものであり、混合する方法としては、特に限定されず、従来公知のもので、一般的な混合機(ミキサー)を使用して行うことができる。混合機としては、例えば、ナウタミキサ(登録商標)などの円錐形混合機、ニーダー混合機(混練機)、プラネタリーミキサー(遊星式混練機)、フィルミックス(プライミクス社)、あるいはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0038】
なお、本発明の負極材には、前記黒鉛質粒子Aと前記黒鉛質粒子Bの他に、本発明の効果を阻害するものでない範囲で、別の性状の黒鉛質粒子や類似の炭素材料などを適当量加えても良い。
【0039】
[負極]
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前述の負極材を使用して後述する製造方法にて得られるものである。また、その負極の密度が1.00g/cm~2.00g/cmとすることが好ましい。
【0040】
負極の密度(g/cm)とは、特定の体積当たりの負極の質量を示す指標であり、負極を一定の面積に打抜いた後、質量(電子天秤を使用)と厚み(マイクロメーターを使用)を測定して求めることができる。(負極材を塗布する)集電体を同じ面積に打抜いたもの10枚の質量を測定し、平均して集電体の質量を求め、さらに、集電体の金属の密度から、集電体の厚みを求めるものである。つまり、次のような式(1)となる。
【0041】
負極の密度=(負極の質量-集電体の質量)/(負極の厚み-集電体の厚み)×(打抜き面積)・・・・(1)
負極の密度の好ましい範囲は、1.00g/cm~2.00g/cmである。より好ましくは、1.10g/cm~1.90g/cmで、さらに、1.20g/cm~1.80g/cmである。密度が高い方が効果が明確となるので、1.40g/cm~1.80g/cmが特に好ましい。
【0042】
[負極の製造方法]
本発明の負極を製造する方法は、本発明の負極材をプレス加工をすることが好ましい。負極の製造方法に関するその他の工程については、特に限定されず、通常の製造方法に準じて行うことができる。
【0043】
負極を製造する際には、まず本発明の黒鉛質粒子Aと黒鉛質粒子Bの少なくとも2種以上の混合物を含む負極材に、結合剤、導電材、溶媒などを加えた負極合剤とする。この結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものを用いるのが好ましく、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリル酸塩、ポリオレフィンなどが挙げられる。結合剤の添加量は、負極合剤全量中1質量%~20質量%程度の量で用いるのが好ましい。溶媒としては蒸留水、またはN-メチルピロリジノン等、導電材としてはカーボンブラック、炭素繊維等を例示できる。負極合材は、黒鉛質粒子A、黒鉛質粒子B、結合剤、導電材、溶媒を加え、撹拌、混合して、ペースト状の負極合剤(塗料)を調製する。
【0044】
次に、この負極合剤を、集電体の片面または両面に塗布し、送風乾燥機などで溶媒を揮発させて乾燥し、集電体に負極合剤層を形成する。この集電体の形状は、特に限定されず、例えば、箔状や、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状等が挙げられる。集電体の材質は、例えば、銅、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
【0045】
ペースト状の負極合剤が乾燥した後、ローラープレスなどの加圧機を用いてプレス加工をし、電池構造に合うように成形して、負極を形成する。
【0046】
[黒鉛質粒子Aの変形率]
前述の変形率(%)とは、負極製造時に所望の密度になるように負極合剤をプレス圧縮した際の黒鉛質粒子Aのプレス前後の変形の程度を表す指標であり、プレス前後の粒子のアスペクト比の変化の割合を意味するものである。この変形率は、15.0%以下が好ましい。15.0%超では、変形が大きくなり膨張抑制の効果が得られなくなる。より好ましくは、12.0%以下である。本発明の負極材料の構成をとれば、通常の負極密度(1.00g/cm~2.00g/cm)において、変形率は15.0%以下となる。
【0047】
[変形率の測定方法]
変形率の測定方法は、以下の通りである。
プレスする前の電極とプレス後の電極とを、樹脂に埋め込み、研磨して電極断面を露出させ、偏光顕微鏡、またはレーザー顕微鏡によって、断面写真を撮影する。視野の拡大率50倍で撮影した画像を基に、100μm×50μmの範囲で、使用した黒鉛質粒子Aの平均粒径に近い10個前後の粒子画像を選ぶ。粒子が融着してくっついているものは除いて選択する。個々の粒子の長径および短径を測定した後、それぞれのアスペクト比(長径/短径)を算出し、平均アスペクト比を得る。本発明の変形率は、プレス前後の粒子画像から求めた平均アスペクト比の比率を表すものであり、次のような式(2)となる。
変形率(%)=100-{平均アスペクト比(プレス前)/平均アスペクト比(プレス後)}×100・・・・(2)
ここで、長径は、測定対象の粒子の最も長い径を意味し、短径は、測定対象の粒子の長軸に直交する短い径を意味する。
【0048】
[リチウムイオン二次電池]
次に、本発明の負極を電極として用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解液を主たる電池構成要素とし、正極および負極には、それぞれリチウムイオンを、層状化合物として、あるいはリチウム含有化合物やクラスター状に吸蔵可能な物質が用いられる。そして、充放電過程におけるリチウムイオンの出入は層間で行われる。充電時にはリチウムイオンが負極中にドープされ、放電時には負極から脱ドープする電池機構である。
【0049】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極材として本発明の黒鉛質粒子Aおよび黒鉛質粒子Bの少なくとも2種以上の混合物を含むものであり、その負極材を用いた負極と、その他の電池構成要素(正極や非水電解液等)から構成されるが、その他の電池構成要素については、特に限定されず、一般的なリチウムイオン二次電池の構成要素に準ずる。
【0050】
[正極]
正極の材料(正極活物質)としては、充分量のリチウムイオンをドープまたは脱ドープすることができるものを選択するのが好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそれらのリチウム含有化合物、一般式MMo8-Y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは遷移金属などの金属を表す)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。例えば、正極活物質中に炭酸リチウムなどの炭酸塩を添加することもできる。
【0051】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。このリチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM(1)1-PM(2)(化学式中のPは0≦P≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)、または、LiM(1)2-QM(2)(化学式中のQは0≦Q≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)で示される。ここで、M(1)、M(2)で示される遷移金属元素としては、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどが挙げられ、特に、Co、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alが好ましい。
【0052】
前記のリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Liまたは遷移金属の酸化物または塩類を出発原料とし、これら出発原料を組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600℃~1000℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。なお、出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などからも合成可能である。
【0053】
このような正極の材料を用いて正極を形成する方法としては、例えば、正極活物質、結合剤および導電剤等からなるペースト状の正極合剤塗料を集電体の片面あるいは両面に塗布することで正極合剤層を形成する。結合剤としては、負極で例示したものを使用できる。導電剤としては、例えば、微粒の炭素材料、繊維状の炭素材料、黒鉛、カーボンブラックを使用できる。集電体の形状は特に限定されず、負極と同様の形状のものが用いられる。材質は通常、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどを使用することができる。
【0054】
[非水電解質]
リチウムイオン二次電池の構成要素の一つである非水電解質としては、LiPF、LiBFなどのリチウム塩を電解質塩として含む通常の非水電解質が用いられる。非水電解質は、液系の非水電解液であってもよいし、固体電解質やゲル電解質などの高分子電解質であってもよい。
【0055】
液系の非水電解質液とする場合には、非水溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非プロトン性有機溶媒を使用できる。
【0056】
高分子電解質とする場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化されたマトリクス高分子を含む。このマトリクス高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子などを単独または混合して用いることができ、なかでも、酸化還元安定性等の観点から、フッ素系高分子が好ましい。
【0057】
高分子電解質に含有される可塑剤(非水電解液)を構成する電解質塩や非水溶媒としては、液系の電解液に使用できるものを使用できる。
【0058】
[リチウムイオン二次電池の構造]
本発明のリチウムイオン二次電池においては、通常ポリプロピレン、ポリエチレンの微多孔膜、またはそれらの層構造としたものや不織布などのセパレータを使用する。ゲル電解質を用いることも可能である。この場合、例えば、本発明の負極材からなる負極、ゲル電解質、正極をこの順で積層し、電池外装材内に収容することで構成される。本発明のリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、角型、コイン型から任意に選択することができる。
【実施例0059】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
(黒鉛質粒子A)
平均粒径が15.0μmの球状化天然黒鉛粒子100質量部に対して、コールタールピッチ(残炭率50%)の粉砕品粉末を7質量部添加し、混合機としてナウタミキサ(登録商標)を用いて30分混合した。得られた混合物を、黒鉛るつぼ中、管状炉を用い窒素2L/min流通下1100℃で3時間の熱処理を行うことで表面に炭素質焼成体の被膜を有する黒鉛質粒子Aを得た。平均粒径は16.7μmであり、比表面積は3.62m/gであった。
【0061】
(黒鉛質粒子B)
JFEケミカル(株)製メソカーボン小球体を平均粒径3.0μmに粉砕した後、アルゴン気流中2800℃で3時間熱処理を行い、得られた黒鉛質粒子を篩にて粗粒分を除き黒鉛質粒子Bを得た。平均粒径は4.0μmであり、比表面積は3.42m/gであった。
【0062】
(負極材の製造)
得られた黒鉛質粒子A8.5質量部に対して、黒鉛質粒子Bを1.5質量部添加して、実施例1の負極材を得た。
【0063】
<実施例2>
(黒鉛質粒子A)
平均粒径が20.0μmの球状化天然黒鉛粒子100質量部に対して、コールタールピッチ(残炭率50%)の粉砕品粉末を15質量部添加し、混合機としてナウタミキサ(登録商標)を用いて30分混合した。得られた混合物を、黒鉛るつぼ中、管状炉を用い窒素2L/min流通下1300℃で3時間の熱処理を行うことで表面に炭素質焼成体の被膜を有する黒鉛質粒子Aを得た。平均粒径は19.1μmであり、比表面積は1.43m/gであった。
【0064】
(黒鉛質粒子B)
ニードルコークスを平均粒径3.0μmに粉砕した後、アルゴン気流中2800℃で3時間熱処理を行い、得られた粉末を篩にて粗粒分を除き黒鉛質粒子Bを得た。平均粒径は3.6μmであり、比表面積は3.53m/gであった。
【0065】
(負極材の製造)
得られた黒鉛質粒子A9.0質量部に対して、黒鉛質粒子Bを1.0質量部添加して、実施例2の負極材を得た。
【0066】
<比較例1>
比較例1では、実施例1の黒鉛質粒子Aを、他の黒鉛質粒子Bと混合することなく、実施例1の黒鉛質粒子Aをそのまま用いた。
【0067】
<比較例2>
(黒鉛質粒子A)
平均粒径が18.0μmの球状化天然黒鉛粒子100質量部に対して、コールタールピッチ(残炭率50%)のタール中油溶解物を固形分で4質量部添加し、混合機としてニーダー混合機を用いて30分混合した。得られた混合物を、黒鉛るつぼ中、管状炉を用い窒素2L/min流通下1100℃で3時間の熱処理を行うことで表面に炭素質の焼成体被膜を有する黒鉛質粒子Aを得た。平均粒径は19.2μmであり、比表面積は1.09m/gであった。
【0068】
(負極材の製造)
得られた黒鉛質粒子Aを、他の黒鉛質粒子Bと混合することなく、得られた黒鉛質粒子Aをそのまま用いた。
【0069】
<比較例3>
(黒鉛質粒子B)
JFEケミカル(株)製メソカーボン小球体を平均粒径2.5μmに粉砕した後、アルゴン気流中2800℃で3時間熱処理を行い、得られた黒鉛質粒子を篩にて粗粒分を除き黒鉛質粒子Bを得た。平均粒径は2.8μmであり、比表面積は4.14m/gであった。
【0070】
(負極材の製造)
比較例3では、得られた黒鉛質粒子Bを、他の黒鉛質粒子Aと混合することなく、そのまま用いた。
【0071】
<比較例4>
(黒鉛質粒子B)
JFEケミカル(株)製メソカーボン小球体を平均粒径3.0μmに粉砕した後、アルゴン気流中2800℃で3時間熱処理を行い、得られた黒鉛質粒子を篩にて粗粒分を除き黒鉛質粒子Bを得た。平均粒径は3.1μmであり、比表面積は3.25m/gであった。
【0072】
(負極材の製造)
比較例4では、得られた黒鉛質粒子Bを、他の黒鉛質粒子Aと混合することなく、そのまま用いた。
【0073】
<比較例5>
(黒鉛質粒子A)
平均粒径が20.0μmの球状化天然黒鉛粒子100質量部に対して、コールタール33質量部をタール中油に溶解したもの(残炭率60%)を添加し、混合機としてナウタミキサ(登録商標)を用いて30分混合した。得られた混合物を、黒鉛るつぼ中、管状炉を用い窒素2L/min流通下1200℃で3時間の熱処理を行うことで表面に炭素質焼成体の被膜を有する黒鉛質粒子Aを得た。平均粒径は20.7μmであり、比表面積は1.08m/gであった。
【0074】
(黒鉛質粒子B)
ニードルコークスを平均粒径4.0μmに粉砕した後、アルゴン気流中2800℃で3時間熱処理を行い、得られた粉末を篩にて粗粒分を除き黒鉛質粒子Bを得た。平均粒径は4.2μmであり、比表面積は4.74m/gであった。
【0075】
(負極材の製造)
得られた黒鉛質粒子A6.5質量部に対して、黒鉛質粒子Bを3.5質量部添加して、比較例5の負極材を得た。
【0076】
<比較例6>
(黒鉛質粒子A)
実施例2で用いた黒鉛質粒子Aを使用した。
【0077】
(黒鉛質粒子B)
中越黒鉛(株)製の天然黒鉛BF-5Aを用いた。平均粒径は5.0μmであり、比表面積は10.00m/gであった。
【0078】
(負極材の製造)
得られた黒鉛質粒子A8.5質量部に対して、黒鉛質粒子Bを1.5質量部添加して、比較例6の負極材を得た。
【0079】
<評価>
(黒鉛質粒子の評価)
上記の実施例および比較例に使用した黒鉛質粒子について、平均粒径(単位:μm)、比表面積(単位:m/g)、平均破壊強度(単位:MPa)、黒鉛質粒子Aの変形率(単位:%)を、上述した方法によって測定した。その結果を表1に示す。
【0080】
次に、それぞれの実施例と比較例で得られた黒鉛質粒子を負極材として用い、図1に示す評価用のコイン型二次電池を作製し各種の評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0081】
(負極合剤ペーストの調製)
まず、得られた黒鉛質粒子を負極材として、ペースト状の負極合剤(以下、負極合剤ペーストともいう)を調製した。具体的には、混合機としてプラネタリーミキサーを用い、黒鉛質粒子(98質量部)とカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(固形分2質量部)50質量部とを投入し、50rpmで30分間攪拌し、さらに、蒸留水を追加して固形分比55%となるように調整して引き続き15分間攪拌を行った後、スチレンブタジエンゴムエマルジョン(固形分で1質量部)とを入れ、負極合剤ペーストを調製した。
【0082】
(負極の作製)
調製した負極合剤ペーストを、集電体となる銅箔上に均一な厚さになるように塗布し、さらに送風乾燥機内に入れて100℃で溶媒を揮発させ、負極合剤層を形成した。次に、負極合剤層をローラープレスによって表1に示す負極密度になるように加圧し、さらに直径15.5mmの円形状に打ち抜くことで、銅箔からなる集電体に密着した負極合剤層を有する負極(作用電極)を作製した。なお、評価を行う前に、真空中100℃で8時間以上の乾燥を行なった。
【0083】
(電解液の調製)
電解液として、エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)とを混合して得られた混合溶媒に、LiPFを1mol/dmとなる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0084】
図1に示す評価用のコイン型二次電池(単に「評価電池」ともいう)のセパレータ5、作用電極2は、あらかじめ非水電解液にひたして液を含浸させた。
【0085】
(評価電池の作製)
次に、作製した作用電極(負極)を用いて、図1に示す評価電池を作製した。
【0086】
まず、リチウム金属箔をニッケルネットに押し付け、直径15.5mmの円形状に打ち抜くことにより、ニッケルネットからなる集電体7aに密着したリチウム箔からなる円盤状の対極4を作製した。
【0087】
次に、セパレータ5を、集電体7bに密着した作用電極(負極)2と、集電体7aに密着した対極(正極)4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ、密閉することにより、評価電池を作製した。
【0088】
作製された評価電池においては、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、図1に示すように、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、対極(正極)4、セパレータ5、作用電極(負極)2、および、集電体7bが積層されている。
【0089】
(充放電試験)
作製した評価電池について、25℃で以下の充放電試験を行なった。なお、リチウムを対極とする充放電試験では、リチウムイオンを黒鉛質粒子中にドープする過程を「充電」とし、黒鉛質粒子から脱ドープする過程を「放電」とした。
【0090】
まず、0.9mAの電流値で回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切り替え、さらに、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から充電容量(「初回充電容量」ともいう)(単位:mAh/g)を求めた。その後、120分間休止した。次に、0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量(「初回放電容量」ともいう)(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。
電解液を用いた場合の初回放電容量、初回充放電効率、充電時の膨張率を表2に示す。
【0091】
(初回充放電効率)
充放電試験の結果から、次の式(3)により初回充放電効率(単位:%)を求めた。
初回充放電効率=(初回放電容量/初回充電容量)×100・・・・(3)
また、1C充電率(%)は、次の式(4)から計算した。
1C充電率=(1C電流値におけるCC部分の充電容量/第1サイクルの放電容量)×100・・・・(4)
また、2C放電率(%)は、次の式(5)から計算した。
2C放電率=(2C電流値における放電容量/第1サイクルの放電容量)×100・・・(5)
なお、1Cとはその電池の容量を1時間で充放電できる電流値であり、2Cとは1Cの2倍の電流値である。また、CCとは定電流のことである。
【0092】
(膨張率)
膨張率は、対極にコバルト酸リチウム電極を使用して、図2に示す宝泉(株)製のHS変位セルを用いて、下記に示す条件で充放電を行い、正極と負極の合計の膨張厚みを測定することによって求めた。図2のHS変位セルは、電解液13の入った容器内に電極としてセパレータ11を挟んで負極10と正極12が設けられ、その電極上部に電極押え14と変位伝達棒15を有しており、その上部に設けた変位計(図示せず)により、充放電試験によって電極が膨張する厚みを変位量として測定するものである。
【0093】
具体的には、次のように充放電を12回繰り返した後の正極と負極の合計の膨張厚みから膨張率を求めた。
・初回充放電条件:0.1C(1Cの10分の1の電流値)で4.2Vまで充電し、4.2Vに達したら4.2Vを維持するように電流値を制御し、電流値が0.01CmAに下がってくるまで充電を続けた(定電流定電圧充電:CCCV)。次に、10分休止後に、0.1Cで放電をし、電圧が3.0Vに下がるまで定電流で放電をした。
・2回目:0.2Cで充放電を行った。電流値を変えた以外は初回と同じ条件で行った。
・3回目~12回目:0.5Cで充放電を行った。電流値を変えた以外は初回と同じ条件で行った。
【0094】
膨張率の計算は、下記の式(6)および式(7)にて行った。
12サイクル時の充電膨張率(%)={(12サイクル時の充電時の電極厚み(正極と負極の合計厚み)-試験開始前の電極厚み(正極と負極の合計厚み))}/(試験開始前の使用した負極の電極厚み)×100-100・・・・(6)
12サイクル時の放電膨張率(%)={(12サイクル時の放電時の電極厚み(正極と負極の合計厚み)-試験開始前の電極厚み(正極と負極の合計厚み))}/(試験開始前の使用した負極の電極厚み)×100-100・・・・(7)
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
実施例1、2は、高容量で2C放電率も高く、放電膨張率が低く抑えられている。一方、比較例1、2は、2C放電率が低く、充電膨張率と放電膨張率がともに高い。黒鉛質粒子Bのみの比較例3、4は、充電膨張率と放電膨張率とは低いが材料の特性上、電極密度を高密度化できず、材料自体の放電容量も低く、本発明の目的となる高容量の電池をつくることができない。比較例5は、変形率や充電膨張率と放電膨張率が低く抑えられていても、電極密度が低く、放電容量も小さいため、高容量の電池を作ることができない。比較例6は、2C放電率が低く、充電膨張率と放電膨張率がともに高い。
【0098】
以上のように、本発明の負極材は、プレス時の変形率が低い材料であるため、充放電時の膨張が低く抑えられ、サイクル特性が向上し、長期間にわたって使用することが可能となる。
【符号の説明】
【0099】
1 外装カップ
2 作用電極(負極)
3 外装缶
4 対極(正極)
5 セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a、7b 集電体
10 負極
11 セパレータ
12 正極
13 電解液
14 電極押え
15 変位伝達棒
図1
図2