(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147797
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電動機、圧縮機、及び機器
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20241008BHJP
H02K 21/16 20060101ALI20241008BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20241008BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20241008BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K21/16 M
H02K7/14 B
F04B39/00 106C
F04C29/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024120773
(22)【出願日】2024-07-26
(62)【分割の表示】P 2024540026の分割
【原出願日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2023027017
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】北島 健二
(72)【発明者】
【氏名】角 正貴
(72)【発明者】
【氏名】宮川 健吾
(57)【要約】
【課題】高効率を維持して、径方向の電磁力の抑制と、回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる電動機、この電動機を用いた圧縮機、この圧縮機を用いた機器を提供する。
【解決手段】固定子ティース先端部32Bに固定子側小孔80を形成し、固定子ティース基部32Aを形成する一対の固定子ティース基部側面を、回転子20の回転方向に位置する前方固定子ティース基部側面32AFと、回転子20の反回転方向に位置する後方固定子ティース基部側面32ARとし、固定子ティース基部32Aの周方向の幅Tの時、固定子側小孔80を後方固定子ティース基部側面32ARから幅1/3Tの範囲に配置し、前方フラックスバリア60Fを後方フラックスバリア60Rよりも長くし、前方フラックスバリア60Fの後端に回転子側前方小孔70Fを形成し、後方フラックスバリア60Rの前端に回転子側後方小孔70Rを形成した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に複数の永久磁石を配置した回転子と、
前記回転子とエアギャップを介して配置された固定子と
を有し、
前記固定子は、
前記回転軸を中心とした環状の固定子ヨークと、
前記固定子ヨークから前記回転子に向かって延出した複数の固定子ティースと、
前記固定子ティース間に形成されるスロットと
を有し、
前記スロットには巻線が配置され、
前記固定子ティースは、
前記巻線が巻かれる固定子ティース基部と、
前記回転子と対向する固定子ティース内周面を形成する固定子ティース先端部と
を有し、
前記回転子には、前記永久磁石の両端から前記永久磁石の磁極中心に向けて延びるフラックスバリアを有し、
前記フラックスバリアは、前記回転子の回転子外周面に沿って形成されて、前記永久磁石よりも前記固定子側に配置され、
前記フラックスバリアとして、
前記回転子の回転方向に形成する前方フラックスバリアと、
前記回転子の反回転方向に形成する後方フラックスバリアと
を有する電動機であって、
前記固定子ティース先端部には固定子側小孔を形成し、
前記固定子ティース基部を形成する一対の固定子ティース基部側面を、前記回転子の前記回転方向に位置する前方固定子ティース基部側面と、前記回転子の前記反回転方向に位置する後方固定子ティース基部側面とし、前記固定子ティース基部の周方向の幅をTとしたときに、
前記固定子側小孔を、前記後方固定子ティース基部側面から幅1/3Tの範囲に配置し、
前記前方フラックスバリアを、前記後方フラックスバリアよりも長くし、
前記前方フラックスバリアの後端に回転子側前方小孔を形成し、
前記後方フラックスバリアの前端に回転子側後方小孔を形成した
ことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記前方フラックスバリアを、前記回転軸の中心に対して角度αの範囲に形成し、
前記回転子の極数をPとすると、
磁極の中心を基準として
前記角度αを、4≦α≦120/P
の範囲とした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記固定子側小孔、前記回転子側前方小孔、及び前記回転子側後方小孔を空隙とした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項4】
前記固定子側小孔、前記回転子側前方小孔、及び前記回転子側後方小孔を円形とした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項5】
前記固定子ティース先端部の前記固定子ティース内周面から前記固定子側小孔までの寸法Lを、前記固定子側小孔の直径よりも小さくした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項6】
前記回転子外周面から前記回転子側前方小孔までの寸法Mを、前記回転子側前方小孔の直径よりも小さくした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項7】
前記回転子外周面から前記回転子側後方小孔までの寸法Nを、前記回転子側後方小孔の直径よりも小さくした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項8】
前記回転子外周面から前記フラックスバリアまでの寸法Qを、前記フラックスバリアの径方向幅よりも小さくした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項9】
前記固定子側小孔を1つとし、前記回転子側前方小孔及び前記回転子側後方小孔をそれぞれ2つとした
ことを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項10】
請求項1から請求項9に記載の電動機を用いた圧縮機であって、
前記回転軸に圧縮機構部を連結し、
前記圧縮機構部によって冷媒を圧縮する
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項11】
請求項10に記載の圧縮機を用いた機器であって、
前記圧縮機、凝縮器、減圧装置、及び蒸発器を配管によって環状に接続した
ことを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、この電動機を用いた圧縮機、及びこの圧縮機を用いた機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、回転子に磁気飽和助長手段を設けることで飽和しやすくなり、回転子と固定子の間で発生する不平衡磁気吸引力を低減させることができ、シャフトの軸振れを抑えて圧縮機構を適切に駆動できる電動機を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、回転子に回転方向側に磁気抵抗部を配置して、径方向の電磁力である不平衡磁気吸引力を低減させシャフトの軸振れを抑制して、圧縮機構を適切に駆動できるが、モータの回転ムラであるトルクリップルが大きくなりやすい。
【0005】
そこで本発明は、高効率を維持して、径方向の電磁力の抑制と、回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる電動機、この電動機を用いた圧縮機、この圧縮機を用いた機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の電動機14は、回転軸4を中心に複数の永久磁石22を配置した回転子20と、前記回転子20とエアギャップを介して配置された固定子30とを有し、前記固定子30は、前記回転軸4を中心とした環状の固定子ヨーク31と、前記固定子ヨーク31から前記回転子20に向かって延出した複数の固定子ティース32と、前記固定子ティース32間に形成されるスロット33とを有し、前記スロット33には巻線が配置され、前記固定子ティース32は、前記巻線が巻かれる固定子ティース基部32Aと、前記回転子20と対向する固定子ティース内周面32Sを形成する固定子ティース先端部32Bとを有し、前記回転子20には、前記永久磁石22の両端から前記永久磁石22の磁極中心に向けて延びるフラックスバリア60を有し、前記フラックスバリア60は、前記回転子20の回転子外周面20Sに沿って形成されて、前記永久磁石22よりも前記固定子30側に配置され、前記フラックスバリア60として、前記回転子20の回転方向に形成する前方フラックスバリア60Fと、前記回転子20の反回転方向に形成する後方フラックスバリア60Rとを有する電動機14であって、前記固定子ティース先端部32Bには固定子側小孔80を形成し、前記固定子ティース基部32Aを形成する一対の固定子ティース基部側面を、前記回転子20の前記回転方向に位置する前方固定子ティース基部側面32AFと、前記回転子20の前記反回転方向に位置する後方固定子ティース基部側面32ARとし、前記固定子ティース基部32Aの周方向の幅をTとしたときに、前記固定子側小孔80を、前記後方固定子ティース基部側面32ARから幅1/3Tの範囲に配置し、前記前方フラックスバリア60Fを、前記後方フラックスバリア60Rよりも長くし、前記前方フラックスバリア60Fの後端に回転子側前方小孔70Fを形成し、前記後方フラックスバリア60Rの前端に回転子側後方小孔70Rを形成したことを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記前方フラックスバリア60Fを、前記回転軸4の中心に対して角度αの範囲に形成し、前記回転子20の極数をPとすると、前記角度αを、極間の中心を基準として4≦α≦120/Pの範囲としたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記固定子側小孔80、前記回転子側前方小孔70F、及び前記回転子側後方小孔70Rを空隙としたことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記固定子側小孔80、前記回転子側前方小孔70F、及び前記回転子側後方小孔70Rを円形としたことを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記固定子ティース先端部32Bの前記固定子ティース内周面32Sから前記固定子側小孔80までの寸法Lを、前記固定子側小孔80の直径よりも小さくしたことを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記回転子外周面20Sから前記回転子側前方小孔70Fまでの寸法Mを、前記回転子側前方小孔70Fの直径よりも小さくしたことを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記回転子外周面20Sから前記回転子側後方小孔70Rまでの寸法Nを、前記回転子側後方小孔70Rの直径よりも小さくしたことを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記回転子外周面20Sから前記フラックスバリア60までの寸法Qを、前記フラックスバリア60の径方向幅よりも小さくしたことを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項1に記載の電動機14において、前記固定子側小孔80を1つとし、前記回転子側前方小孔70F及び前記回転子側後方小孔70Rをそれぞれ2つとしたことを特徴とする。
請求項10記載の本発明の圧縮機10は、請求項1から請求項9に記載の電動機14を用いた圧縮機10であって、前記回転軸4に圧縮機構部13を連結し、前記圧縮機構部13によって冷媒を圧縮することを特徴とする。
請求項11記載の本発明の機器は、請求項10に記載の圧縮機10を用いた機器であって、前記圧縮機10、凝縮器17、減圧装置18、及び蒸発器19を配管によって環状に接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高効率を維持して、径方向の電磁力の抑制と、回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による電動機を用いた圧縮機、及びこの圧縮機を用いた冷凍装置の構成図
【
図5】本発明と比較例との電磁力最大時におけるギャップ中の磁束密度を示すグラフ
【
図6】本実施例による電動機を用いたスクロール圧縮機、及びこのスクロール圧縮機を用いた冷凍装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による電動機は、固定子ティース先端部には固定子側小孔を形成し、固定子ティース基部を形成する一対の固定子ティース基部側面を、回転子の回転方向に位置する前方固定子ティース基部側面と、回転子の反回転方向に位置する後方固定子ティース基部側面とし、固定子ティース基部の周方向の幅をTとしたときに、固定子側小孔を、後方固定子ティース基部側面から幅1/3Tの範囲に配置し、前方フラックスバリアを、後方フラックスバリアよりも長くし、前方フラックスバリアの後端に回転子側前方小孔を形成し、後方フラックスバリアの前端に回転子側後方小孔を形成したものである。本実施の形態によれば、高効率を維持して、径方向の電磁力の抑制と、回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、前方フラックスバリアを、回転軸の中心に対して角度αの範囲に形成し、回転子の極数をPとすると、
角度αを、極間の中心を基準として4≦α≦120/Pの範囲としたものである。本実施の形態によれば、回転子の極数に適したフラックスバリアを形成することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、固定子側小孔、回転子側前方小孔、及び回転子側後方小孔を空隙としたものである。本実施の形態によれば、生産性に優れる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、固定子側小孔、回転子側前方小孔、及び回転子側後方小孔を円形としたものである。本実施の形態によれば、生産性に優れる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、固定子ティース先端部の固定子ティース内周面から固定子側小孔までの寸法Lを、固定子側小孔の直径よりも小さくしたものである。本実施の形態によれば、回転子と固定子との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、回転子外周面から回転子側前方小孔までの寸法Mを、回転子側前方小孔の直径よりも小さくしたものである。本実施の形態によれば、回転子と固定子との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、回転子外周面から回転子側後方小孔までの寸法Nを、回転子側後方小孔の直径よりも小さくしたものである。本実施の形態によれば、回転子と固定子との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、回転子外周面からフラックスバリアまでの寸法Qを、フラックスバリアの径方向幅よりも小さくしたものである。本実施の形態によれば、回転子と固定子との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第1の実施の形態による電動機において、固定子側小孔を1つとし、回転子側前方小孔及び回転子側後方小孔をそれぞれ2つとしたものである。本実施の形態によれば、径方向の電磁力の変動幅を低減できるとともに、トルクリップルを大幅に低減できる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態による圧縮機は、第1から第9のいずれかの実施の形態による電動機を用いた圧縮機であり、回転軸に圧縮機構部を連結し、圧縮機構部によって冷媒を圧縮するものである。本実施の形態によれば、低振動による圧縮機を実現できる。
【0019】
本発明の第11の実施の形態による機器は、第10の実施の形態による圧縮機を用いた機器であり、圧縮機、凝縮器、減圧装置、及び蒸発器を配管によって環状に接続したものである。本実施の形態によれば、トルクを低下させることなく、低振動による低騒音と、高効率な機器を実現できる。
【実施例0020】
以下本発明の一実施例による圧縮機について説明する。なお、以下の実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0021】
図1は、本実施例による電動機を用いた圧縮機、及びこの圧縮機を用いた冷凍装置の構成図である。本実施例による圧縮機はロータリー圧縮機を示している。
密閉容器1には、冷媒を吸入する吸入管2と、冷媒を吐出する吐出管3とが接続されている。密閉容器1の内部には、吸入管2から吸入された冷媒を圧縮する圧縮機構部13と、圧縮機構部13を駆動する電動機14とが配置されている。密閉容器1内の底部は貯オイル部11となっている。
圧縮機構部13は、シリンダ13aと、ピストン13bと、ベーン(図示せず)と、主軸受13cと、副軸受13dとから構成されている。シリンダ13aは密閉容器1に固定される。ピストン13bはシリンダ13a内を貫通する回転軸4の偏心部4aに自転自在に嵌合される。ベーンは、シリンダ13aの内壁面に沿って転動するピストン13bに追従して、ベーン溝を往復動する。主軸受13cと副軸受13dは、シリンダ13aの上端面と下端面を密閉するとともに、回転軸4を支持する。
電動機14は、密閉容器1に固定される固定子30と、固定子30の内周に配置される回転子20とからなる。
冷媒は、吸入管2から圧縮機構部13に吸入され、圧縮機構部13で圧縮される。その後、冷媒は、電動機14を通過して吐出管3から吐出される。
【0022】
本実施例による冷凍装置は、圧縮機10、凝縮器17、減圧装置18、及び蒸発器19が配管によって環状に接続されている。凝縮器17では吐出管3から吐出される冷媒を凝縮し、減圧装置18では凝縮器17で凝縮された冷媒を減圧し、蒸発器19では減圧装置18で減圧された冷媒を蒸発させる。
蒸発器19で蒸発された冷媒は、アキュムレータ16を介して圧縮機10に戻される。
図1に示す圧縮機10は、回転軸4の一端(下端)側だけを軸受(主軸受13c、副軸受13d)で受けるため、回転軸4の他端(上端)側での軸振れが生じやすい。従って、径方向の電磁力の抑制と回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる電動機14による低振動化の効果が高い。
【0023】
図2は本実施例による電動機の要部構成図であり、
図2(a)は固定子と回転子とを示す要部構成図、
図2(b)は回転子を示す要部構成図、
図2(c)は
図2(a)の要部拡大図である。
本実施例では、回転子20は回転軸4に固定され、固定子30は密閉容器1に固定される。また、本実施例では、極数Pが6極の電動機14を示している。
なお、
図2(a)に示す矢印は回転子20の回転方向を示しており、本実施例では、回転子20は反時計回りに回転する。
【0024】
回転子20は、ロータコアシートが積層されて筒状に形成されるロータコア21と、ロータコア21の外周部に形成されたスリットに配置される永久磁石22とを有している。回転子20は、回転軸4を中心に複数の永久磁石22を配置している。
ロータコアシートは、厚さが0.3mm程度の電磁鋼板であり、ロータコア21は磁性体で構成されている。
ロータコア21は、中心部には回転軸4を配置する貫通孔23を有し、貫通孔23の周囲には軸方向に複数のロータ冷媒通路24を備えている。ロータ冷媒通路24は、貫通孔23と永久磁石22との間に同心円状に複数形成される。
【0025】
回転子20には、永久磁石22の両端から永久磁石22の磁極中心に向けて所定幅で延びるフラックスバリア60を有している。フラックスバリア60は、永久磁石22を配置するスリットから連続する空隙で形成される磁気抵抗部である。なお、フラックスバリア60は、磁気抵抗を高めるものであり、非磁性であれば効果が高く、樹脂が埋まっていてもよい。
フラックスバリア60は、回転子20の回転子外周面20Sに沿った円弧状に形成されて、永久磁石22よりも固定子側に配置される。フラックスバリア60として、回転子20の回転方向に形成する前方フラックスバリア60Fと、回転子20の反回転方向に形成する後方フラックスバリア60Rとを有する。
【0026】
前方フラックスバリア60Fは、回転軸4の中心に対して極間の中心を基準として角度αの範囲に形成し、後方フラックスバリア60Rは、回転軸4の中心に対して極間の中心を基準として角度βの範囲に形成する。
ここで、角度αは角度βより大きい。すなわち、前方フラックスバリア60Fは、後方フラックスバリア60Rよりも長く形成する。
前方フラックスバリア60Fを形成する角度αは、回転子20の極数をPとすると、極間の中心を基準として4≦α≦120/Pの範囲とする。
回転子外周面20Sからフラックスバリア60までの寸法Qは、フラックスバリア60の径方向幅よりも小さくすることで、回転子20と固定子30との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
【0027】
前方フラックスバリア60Fの後端には回転子側前方小孔70Fを形成し、後方フラックスバリア60Rの前端には回転子側後方小孔70Rを形成している。回転子側前方小孔70F及び回転子側後方小孔70Rは、それぞれ2つとすることが好ましい。回転子側前方小孔70F及び回転子側後方小孔70Rは、磁気抵抗を高めるものであり、非磁性であれば効果が高く、樹脂が埋まっていてもよいが空隙であることが好ましい。このように、回転子側前方小孔70F及び回転子側後方小孔70Rを空隙とすることで、生産性に優れる。
【0028】
回転子外周面20Sから回転子側前方小孔70Fまでの寸法Mは、回転子側前方小孔70Fの直径よりも小さくすることで、回転子20と固定子30との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
また、回転子外周面20Sから回転子側後方小孔70Rまでの寸法Nは、回転子側後方小孔70Rの直径よりも小さくすることで、回転子20と固定子30との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
なお、回転子外周面20Sからフラックスバリア60までの寸法Q、回転子外周面20Sから回転子側前方小孔70Fまでの寸法M、及び回転子外周面20Sから回転子側後方小孔70Rまでの寸法Nは同一とすることが好ましい。
【0029】
固定子30は、回転子20とエアギャップを介して配置される。固定子30は、ステータコアシートが回転軸4の軸方向に積層されて構成される。ステータコアシートは、厚さが0.3mm程度の電磁鋼板であり、固定子30は磁性体で構成されている。
固定子30は、回転子20の回転軸4を中心とした環状の固定子ヨーク31と、固定子ヨーク31から回転子20に向かって延出した複数の固定子ティース32と、固定子ティース32間に形成されるスロット33とを有している。スロット33には巻線(図示せず)が配置される。
なお、本実施例における固定子30は、固定子ティース32ごとに複数に分割された分割固定子が円環状に配置されることで形成されている。
【0030】
固定子ティース32は、絶縁材(図示せず)を介して巻線(図示せず)が巻かれる固定子ティース基部32Aと、固定子ティース基部32Aの先端に形成される固定子ティース先端部32Bとを有している。
固定子ティース先端部32Bは、回転子20の回転子外周面20Sと対向する固定子ティース内周面32Sを形成している。
固定子ティース先端部32Bは、固定子ティース基部32Aの周方向の幅Tよりも両側に張り出して形成されている。この張り出して形成される固定子ティース内周面32Sの両側部には、端部に向かってエアギャップが漸次拡大する固定子ティース内周テーパー面32Saが形成されている。
【0031】
固定子ティース先端部32Bには1つの固定子側小孔80を形成している。固定子側小孔80は、磁気抵抗を高めるものであり、非磁性であれば効果が高く、樹脂が埋まっていてもよいが空隙であることが好ましい。このように、固定子側小孔80を空隙とすることで、生産性に優れる。
固定子ティース基部32Aを形成する一対の固定子ティース基部側面を、回転子20の回転方向に位置する前方固定子ティース基部側面32AFと、回転子20の反回転方向に位置する後方固定子ティース基部側面32ARとすると、固定子側小孔80は、後方固定子ティース基部側面32ARから幅1/3Tの範囲に配置する。より好ましくは、固定子側小孔80は、後方固定子ティース基部側面32ARから幅1/4Tの範囲である。また、固定子側小孔80は、固定子ティース内周テーパー面32Saではなく、一定のエアギャップを形成する固定子ティース内周面32Sに沿って配置する。なお、前方固定子ティース基部側面32AFと後方固定子ティース基部側面32ARとの間が、固定子ティース基部32Aの周方向の幅Tである。
【0032】
固定子ティース先端部32Bの固定子ティース内周面32Sから固定子側小孔80までの寸法Lを、固定子側小孔80の直径よりも小さくすることで、回転子20と固定子30との間のエアギャップ中の磁束密度の低減効果を高めることができる。
なお、固定子ティース内周面32Sから固定子側小孔80までの寸法Lは、回転子外周面20Sからフラックスバリア60までの寸法Q、回転子外周面20Sから回転子側前方小孔70Fまでの寸法M、及び回転子外周面20Sから回転子側後方小孔70Rまでの寸法Nと同一とすることが好ましい。
また、固定子側小孔80の直径は、回転子側前方小孔70Fの直径、及び回転子側後方小孔70Rの直径と同一とすることが好ましい。
なお、本実施例では、固定子側小孔80、回転子側前方小孔70F、及び回転子側後方小孔70Rは円形としているが、楕円形や多角形であってもよい。
【0033】
図3は本発明の電動機の効果を示す説明図である。
本発明の電動機14には、
図2で説明した電動機14を用い、比較例として
図3(c)に示す電動機14を用いている。
図3(c)に示す電動機では、固定子側小孔80及び回転子側後方小孔70Rを形成していない。また、
図3(c)に示す電動機14では、前方フラックスバリア60Fは、後方フラックスバリア60Rと同じ長さとしている。
図3(c)に示す電動機14は、その他の点は
図2に示す電動機14と同一構成とした。
図3(a)は半径方向の力として働く電磁力を示しており、本発明は比較例に対して振幅値を7.6%低減することができている。
図3(b)はトルク変動を示しており、本発明は比較例に対してトルクリップルを50%低減することができている。
なお、本発明による電動機14は、比較例と同一の効率を維持していた。
【0034】
図4は本発明と比較例との磁束密度コンター図である。
図4(a)は
図2に示す固定子、
図4(b)は
図2に示す回転子、
図4(c)は
図3(c)に示す固定子、
図4(d)は
図3(c)に示す回転子である。
図4では、半径方向の力として働く電磁力が同値時における磁束密度を示しており、前方フラックスバリア60F、回転子側前方小孔70F、回転子側後方小孔70R、及び固定子側小孔80による影響が生じていることが分かる。
【0035】
図5は本発明と比較例との電磁力最大時におけるギャップ中の磁束密度を示すグラフである。
図5に示すように、本発明は比較例に対してギャップ中磁束密度を1ティース分について2.7%低減することができている。
【0036】
図6は、本実施例による電動機を用いたスクロール圧縮機、及びこのスクロール圧縮機を用いた冷凍装置の構成図である。
本実施例による圧縮機10は、密閉容器1内に、冷媒ガスを圧縮する圧縮機構部13と、圧縮機構部13を駆動する電動機14とを備えている。
密閉容器1内は、圧縮機構部13によって、一方の容器内空間と他方の容器内空間に分割している。そして、他方の容器内空間には、電動機14を配置している。
また、他方の容器内空間は、電動機14によって、圧縮機構側空間と貯オイル側空間に分割している。そして、貯オイル側空間には、貯オイル部11を配置している。
密閉容器1には、吸入管2と吐出管3とが溶接によって固定されている。吸入管2と吐出管3とは密閉容器1の外部に通じ、冷凍サイクルを構成する部材と接続されている。吸入管2は密閉容器1の外部から冷媒ガスを導入し、吐出管3は一方の容器内空間から密閉容器1の外部に冷媒ガスを導出する。
【0037】
主軸受部材7aは、密閉容器1内に溶接や焼き嵌めなどで固定され、回転軸4を軸支している。回転軸4は、一方を主軸受部材7aで軸支され、他方を軸受7bで軸支される。この主軸受部材7aには、固定スクロール13jがボルト止めされている。固定スクロール13jと噛み合う旋回スクロール13kは、主軸受部材7aと固定スクロール13jとで挟み込まれている。固定スクロール13j及び旋回スクロール13kは、スクロール式の圧縮機構部13を構成している。
旋回スクロール13kと主軸受部材7aとの間には、オルダムリングなどによる自転拘束機構9を設けている。自転拘束機構9は、旋回スクロール13kの自転を防止し、旋回スクロール13kが円軌道運動するように案内する。旋回スクロール13kは、回転軸4の上端に設けている偏心部4aにて偏心駆動される。この偏心駆動により、固定スクロール13jと旋回スクロール13kとの間に形成している圧縮室は、圧縮機構部13の外周から中央部に向かって移動し、容積を小さくして圧縮を行う。
【0038】
電動機14は、回転軸4を中心に回転自在に配置された回転子20と、回転子20とエアギャップを介して配置された固定子30とを有する。なお、電動機14の構成については
図2と同一であるため説明を省略する。
【0039】
冷媒は、吸入管2から圧縮機構部13に吸入され、圧縮機構部13で圧縮される。その後、冷媒は、吐出管3から吐出される。
本実施例による冷凍装置は、圧縮機10、凝縮器17、減圧装置18、及び蒸発器19が配管によって環状に接続されている。凝縮器17では吐出管3から吐出される冷媒を凝縮し、減圧装置18では凝縮器17で凝縮された冷媒を減圧し、蒸発器19では減圧装置18で減圧された冷媒を蒸発させる。
蒸発器19で蒸発された冷媒は、吸入管2から圧縮機10に戻される。
図6に示す圧縮機10は、回転軸4の一端(下端)を軸受7bで受け、回転軸4の他端(上端)を主軸受部材7aで受けるため軸振れは生じにくいが、電動機14からの振動は密閉容器1に伝わりやすいため、径方向の電磁力の抑制と回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる電動機14による低振動化の効果が高い。
【0040】
図1及び
図6に示すように、本実施例による電動機14は、回転軸4に圧縮機構部13を連結し、圧縮機構部13によって冷媒を圧縮する圧縮機10に適している。
なお、本実施例では、縦型の圧縮機10を用いて説明したが、横置き型の圧縮機10であっても同様に効果があり、例えば車載用圧縮機にも適している。また、
図1ではロータリー圧縮機を示し、
図6ではスクロール圧縮機を示したが、レシプロ圧縮機やその他の圧縮機であってもよい。
車載用圧縮機では、特に低騒音化が必要とされるため、径方向の電磁力と回転ムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる本実施例による電動機14を用いることで低振動による低騒音の効果が高い。
また、本実施例による電動機14を用いた圧縮機10を、凝縮器17、減圧装置18、及び蒸発器19とともに配管によって環状に接続した冷凍装置では、トルクを低下させることなく、低振動による低騒音と、高効率化を実現することができる。
【0041】
以上のように、本実施例による電動機14は、固定子側小孔80を、後方固定子ティース基部側面32ARから幅1/3Tの範囲に配置し、前方フラックスバリア60Fを、後方フラックスバリア60Rよりも長くし、前方フラックスバリア60Fの後端に回転子側前方小孔70Fを形成し、後方フラックスバリア60Rの前端に回転子側後方小孔70Rを形成することで、高効率を維持して、径方向の電磁力の抑制と、回転方向のトルクムラであるトルクリップルの抑制を同時に実現できる。
特に、固定子側小孔80を1つとし、回転子側前方小孔70F及び回転子側後方小孔70Rをそれぞれ2つとすることで、径方向の電磁力の変動幅を低減できるとともに、トルクリップルを大幅に低減できる。
なお、本実施例では、固定子ティース32ごとに複数に分割された固定子30が円環状に配置されるものを示したが、一体化された固定子30においても同様である。