(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147802
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】単結晶サファイアの種結晶、所望の結晶配向を有するサファイア単結晶を製造する方法、及び携行型時計及び宝飾品のための外側部品又は機能部品
(51)【国際特許分類】
C30B 29/20 20060101AFI20241008BHJP
C30B 33/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C30B29/20
C30B33/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024121035
(22)【出願日】2024-07-26
(62)【分割の表示】P 2022162145の分割
【原出願日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】21205897.8
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599044744
【氏名又は名称】コマディール・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ・コシェ-ミュシー
(72)【発明者】
【氏名】ナセル・ベリシャ
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ・ヴュイユ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】欠陥が少なく加工しやすいサファイア単結晶を得る。
【解決手段】本発明は、サファイア単結晶を製造する方法に関する。単結晶サファイアの種結晶1は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体晶系結晶構造を有し、3つの結晶軸は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、単結晶サファイアの種結晶1は、互いに平行かつ離れて延在している2つの平坦な面4によって境界が形成されたプレート2であり、単結晶サファイアプレート2は、単結晶サファイアプレート2の結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、単結晶サファイアプレート2の平坦な面4の法線D1と、5~85°の角度(α)を形成するように初期サファイア単結晶を切り出して得られる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶サファイアの種結晶を製造する方法であって、
前記単結晶サファイアの種結晶(1)は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定
める菱面体晶系結晶構造を有し、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ結
晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記単結晶サファイアの種結晶(1)は、互いに平行かつ離れて延在している2つの平
坦な面(4)によって境界が形成されたプレート(2)であり、
前記単結晶サファイアプレート(2)は、前記単結晶サファイアプレート(2)の結晶
軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、前記単結晶サファイアプレート(2)の前記
平坦な面(4)の法線(D1)と、5~85°の角度(α)を形成するように初期サファ
イア単結晶を切り出して得られる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
単結晶サファイアの種結晶を製造する方法であって、
前記単結晶サファイアの種結晶は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱
面体晶系結晶構造を有し、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱
面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記単結晶サファイアの種結晶は、結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、前
記単結晶サファイアバー(16A)の断面(S)の法線(D2)と、5~85°の範囲内
の角度(α)を形成するように初期サファイア単結晶(18A)を切り出して予め得た単
結晶サファイアバー(16A)である
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
サファイア単結晶を製造する方法(6、18B)であって、
アルミナ及び/又はサファイアをるつぼ内で溶融させ、溶融したアルミナ及び/又はサ
ファイアを、請求項1に記載の方法によって得られた単結晶サファイアの種結晶に接触さ
せて、溶融したアルミナ及び/又はサファイアを成長方向に沿って徐々に結晶化させて、
サファイア単結晶(6)を形成するステップを備える
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
サファイア単結晶を製造する方法(6、18B)であって、
アルミナ及び/又はサファイアをるつぼ内で溶融させ、溶融したアルミナ及び/又はサ
ファイアを、請求項2に記載の方法によって得られた単結晶サファイアの種結晶に接触さ
せて、溶融したアルミナ及び/又はサファイアを成長方向に沿って徐々に結晶化させて、
サファイア単結晶(6)を形成するステップを備える
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
単結晶サファイアシリンダー(16C)を製造する方法であって、
前記単結晶サファイアシリンダー(16C)は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M
]を定める菱面体晶系結晶構造を有し、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱
面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記方法は、切削工具(20)を用いて、結晶軸[A]又は[M]又は[C]のいずれ
かに沿って成長したサファイア単結晶ボール(18C)に対して、前記サファイア単結晶
ボール(18C)の成長結晶軸と5~85°の範囲内の角度を形成する方向に沿ってコア
ドリリングを行うステップを備える
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
型の上部において溶融状態で結晶化することによって得られるサファイア単結晶(28
)を製造する方法であって、
アルミナ及び/又はサファイアをるつぼで溶融させ、溶融したアルミナ及び/又はサフ
ァイアをダイ(30)のチャネル(32)を通して、予め得た単結晶サファイアの種結晶
(22)に接触させて、溶融したアルミナ及び/又はサファイアを成長方向に沿って徐々
に結晶化させて、サファイア単結晶(28)を形成するステップを備え、
前記単結晶サファイアの種結晶(22)は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を
定める菱面体晶系結晶構造を有し、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱
面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記単結晶サファイアの種結晶(22)は、互いに平行かつ離れて延在している2つの
平坦な面(26)によって境界が形成された第1のプレート(24)であり、
前記結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、前記第1の単結晶サファイアプレ
ート(24)の前記平坦な面(26)に垂直であり、
前記第1の単結晶サファイアプレート(24)は、前記ダイ(30)の前記チャネル(
32)によって定められる平坦な面に対する垂直方向(P)に対して5~85°の範囲内
の角度(α)傾斜しており、
前記結晶成長によって得られたサファイア単結晶(28)は、互いに平行に距離を置い
て延在している2つの平坦な面(34)によって境界が形成される第2の単結晶サファイ
アプレートであり、
前記第2の単結晶サファイアプレートにおいては、結晶軸[A]、[M]又は[C]の
うちの1つが、前記平坦な面(34)の法線に対して、前記ダイ(30)の前記チャネル
(32)に対する前記第1のプレート(24)の角度(α)の傾斜に対応する配向ずれが
ある
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレート(2)の前記
平坦な面(4)の前記法線(D1)と、25~35°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載を製造する方法。
【請求項8】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレート(2)の前記
平坦な面(4)の前記法線(D1)と、25~35°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項4に記載を製造する方法。
【請求項9】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレート(2)の前記
平坦な面(4)の前記法線(D1)と、5~15°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項7に記載を製造する方法。
【請求項10】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレート(2)の前記
平坦な面(4)の前記法線(D1)と、5~15°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項8に記載を製造する方法。
【請求項11】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバー(16A)の断面
(S)の法線(D2)と、25~35°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載を製造する方法。
【請求項12】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバー(16A)の断面
(S)の法線(D2)と、25~35°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項4に記載を製造する方法。
【請求項13】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバー(16A)の断面
(S)の法線(D2)と、5~15°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項11に記載を製造する方法。
【請求項14】
前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバー(16A)の断面
(S)の法線(D2)と、5~15°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする請求項12に記載を製造する方法。
【請求項15】
前記サファイア単結晶を製造する方法は、EFG法、HEM法、Kyropoulos法、Czochr
alski法、Bridgman Vertical法、Bridgman Horizontal法及びMicro Pulling Down法から
選択される方法を用いる
ことを特徴とする請求項3~14のいずれか一項に記載を製造する方法。
【請求項16】
溶融したアルミナ及び/又はサファイアは、純物質である又はドープされている
ことを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
サファイアのスクラップを用いる
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記サファイア単結晶を得た後に、携行型時計又は宝飾品のための外側部品又は機能部
品を前記サファイア単結晶から切り出す
ことを特徴とする請求項3~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記外側部品又は機能部品は、携行型時計のブリッジ、プレート、ケース、表盤又はリ
ストレットリンクである
ことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体晶系結晶構造を有する単結晶サ
ファイアの種結晶(1)であって、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱
面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記単結晶サファイアの種結晶(1)は、互いに平行かつ離れて延在している2つの平
坦な面(4)によって境界が形成されたプレート(2)であり、
前記単結晶サファイアプレート(2)の前記結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれ
かは、前記単結晶サファイアプレート(2)の平坦な面(4)の法線(D1)と、5~8
5°の範囲内の角度(α)を形成する
ことを特徴とする単結晶サファイアの種結晶。
【請求項21】
3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める単結晶サファイアの種結晶であって、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ結
晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記単結晶サファイアの種結晶は、単結晶サファイアバー(16A)であり、
前記単結晶サファイアバー(16A)の前記結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれ
かは、前記単結晶サファイアバー(16A)の断面(S)の法線(D2)と、5~85°
の範囲内の角度(α)を形成する
ことを特徴とする単結晶サファイアの種結晶。
【請求項22】
互いに離れて延在している2つの面によって境界が形成される携行型時計用風防(10
)のブランク(8)であって、
前記2つの面のうちの少なくとも1つの面(12)は、平坦であり、
前記ブランク(8)は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体構造を
有する単結晶サファイアによって作られ、
前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ結
晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、
前記結晶軸[C]が前記携行型時計用風防(10)のブランク(8)の前記平坦な面(
12)内に含まれないように、前記結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかは、前記
ブランクの平坦な面の法線と、5~85°の範囲内の角度を形成する
ことを特徴とする携行型時計用風防のブランク。
【請求項23】
請求項3~14のいずれか一項に記載の方法によって得られたサファイア単結晶を切り
出して得る
ことを特徴とする携行型時計及び宝飾品のための外側部品又は機能部品。
【請求項24】
携行型時計のブリッジ、プレート、風防、ケース、表盤又はリストレットリンクによっ
て構成している
ことを特徴とする請求項23に記載の外側部品又は機能部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の結晶配向を有する単結晶サファイアの種結晶を製造する方法に関する
。本発明は、さらに、このような単結晶サファイアの種結晶から所望の結晶配向を有する
サファイア単結晶を製造する方法に関する。本発明は、さらに、このようなサファイア単
結晶から切り出した携行型時計(例、腕時計、懐中時計)及び宝飾品のための外側部品又
は機能部品に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる単結晶材料は、1mm~数mの大きさのマクロ規模の1つの結晶によって構成
している。単結晶の最も一般的な用途の1つは、宝飾品に用いることである。実際に、宝
石によって作られた装飾品は、ルビー、サファイア、ダイヤモンドのような単結晶を用い
て作られていることが多い。しかし、あまり知られていないだけで最先端の技術分野にお
いても単結晶は不可欠なものとなっている。エレクトロニクスや一部の太陽電池に用いら
れるケイ素、そして、かなり多くの固体レーザーに用いられる化合物が単結晶であるため
である。単純なレーザーポインターから、航空機用タービン、光学機器、核融合用のパワ
ーレーザーまで、至るところで用いられており、単結晶材料の用途は多岐にわたる。
【0003】
化合物が単結晶の形態であると、透明性や複屈折のような特定の光学的性質を有するこ
とがある。アルミナAl2O3結晶は、純度が高いと透明であり、携行型時計の製造業界で
は携行型時計用風防の製造において、よく用いられている。アルミナAl2O3結晶は、ド
ーパントや不純物で着色して貴石として用いられる。単結晶を構成する原子やイオンの化
学的環境は、完全に定められ、同じ単位が繰り返されて組織化しており、このために、こ
の環境に導入されるドーパントの占有可能なサイトはごくわずかであるが、これによって
、そのドーパントは単結晶に非常に特異な性質を与えることができる。例えば、単結晶材
料にドープしてレーザー発光源を作る場合、限られたサイトにしかドーパントが分布しな
いために、ドーパントの電子遷移時に発するエネルギーの変化が小さく、このことによっ
て、精密なレーザー発光を得ることができる。同様に、単結晶ドーパントにおいてドーパ
ントが占有しうるサイトが具体的に定まっているために、このようなドーパントの存在に
固有の性質を変えることが可能になる。例えば、アルミナ結晶中のCr+3イオンの存在に
よって、ルビーの赤色が発生し、同じCr+3イオンを含むベリル(BeeAl2Si6O18
)は緑色になり、これがエメラルドと呼ばれる。
【0004】
このため、単結晶化合物においてドーパントの形態の欠陥が存在することが技術的な応
用のために望まれることがある。しかし、制御されていない不純物、転位や破断のような
構造欠陥については、望まれていない。このため、一般的には、可能な限り品質の高い単
結晶を用いることが望まれる。自然界でも単結晶を見つけることは可能だが、一般的には
希であり、欠陥が非常に多い。このため、20世紀初頭から数々の合成技術が開発されて
きた。人工単結晶を得るには、以下のようないくつかの方法がある。
- 化合物の過飽和溶液から得る。
- 溶融した化合物から得る。
- 化学気相成長法によって得る。
【0005】
ここにおいて、製造された人工単結晶の80%近くを占める、溶融状態での結晶化によ
る単結晶の合成に焦点を当てる。溶融状態において単結晶化合物を結晶化させる方法は、
フランスのオーギュスト・ヴェルヌイユ(Auguste Verneuil)によるところが大きい。こ
の方法は、ヴェルヌイユが宝飾品を作るためにルビーの合成を考えていたときに1891
年に提案されており、予め用意された種結晶と呼ばれる単結晶の一部を、溶融された材料
に接触させて結晶化させるものである。ルビーやサファイアを構成する化学式がAl2O3
であるコランダムを合成するためには、炎温度が約2700℃である酸素水素トーチ(H
2+O2→H2O)を用いて到達させるような非常に高い温度(融点:2050℃)にする
必要がある。微粉末の状態のアルミナ(ドープされている場合もある)が、バイブレータ
ーによってトーチの炎に直接少量ずつ落とされる。こうして形成される溶融アルミナ滴は
、種結晶の頂部に落下し、この種結晶の結晶構成に従って結晶化される。一定の温度で結
晶化させるために、成長している単結晶を徐々に下げていく。合成の最後には、瓶の形を
した単結晶が得られる。
【0006】
ヴェルヌイユ法は、現在もほぼ同じ形態で、特に、宝飾品や携行型時計用のコランダム
(ルビー、サファイア、携行型時計用風防など)の工業生産のために、用いられている。
ヴェルヌイユ法は、他の方法よりも単結晶の欠陥が多くなるが、比較的安価であり迅速で
あるという利点がある。この方法を用いると、例えば、10時間程度で単結晶を得ること
ができる。しかし、ヴェルヌイユ法によって得られるサファイア単結晶は、転位密度が大
きく、局所的な配向ずれを制御することができない。また、気泡、網目、含有物のような
欠陥がヴェルヌイユ法による単結晶にあると、携行型時計用風防などの完成品において肉
眼で確認することができてしまうことがある。
【0007】
本発明は、るつぼ内において溶融状態で結晶化させることによって単結晶を合成する方
法に着目している。特に、本発明は、EFGタイプ、HEMタイプ、Kyropoulosタイプ、
Czochralskiタイプ、Bridgman Verticalタイプ、Bridgman Horizontalタイプ及びMicro P
ulling Downタイプの単結晶成長技術に着目している。
【0008】
1915年にJ. Czochralskiによって提案されたCzochralski法は、溶融状態において
単結晶を結晶化するための代表的な方法である。Czochralski法は、Verneuil法と同じ原
理、すなわち、材料を溶融させて予め得た単結晶の種結晶に接触させて結晶成長させるこ
と、に基づいているが、Verneuil法とは、溶融する材料を少量ずつ徐々に投入するのでは
なく実験開始時に全量投入されて溶融させる点で異なっている。このため、化学的に不活
性であり高温に耐えられる材料、例えば、白金やイリジウム、によって作られたるつぼ内
に、溶融する材料を入れる。高周波電流が流れる導電性コイルの中心にるつぼを置いて、
誘導によってるつぼを加熱する。材料が溶融して温度が安定したら、耐火性の棒体上に予
め得た単結晶の種結晶を配置して、溶融材料と接触させる。その後に、比較的温度が低い
領域の方へと種結晶をゆっくりと引き上げて、種結晶に接触している溶融材料を結晶化さ
せる。このようにして、単結晶を引き上げて溶融材料から単結晶を得る。耐火性の棒体を
継続的に回転させて、結晶化しようとする溶融材料層を均質化する。
【0009】
Czochralski法において、結晶化させる材料の融点に非常に近い温度であるが高すぎな
い温度にセットする必要があるために、温度制御には注意が必要である。温度が高すぎる
と、種結晶が溶けてなくなってしまう。しかし、Czochralski法を実行することが難しく
ても、作られる結晶の品質は高く、この観点からCzochralski法は実績のある結晶成長技
術である。
【0010】
化学組成がAl2O3であるサファイアは、その優れた物理的性質のおかげで、様々な用
途に適している。サファイアはダイヤモンドの次に硬く耐久性の高い材料であるため、携
行型時計の業界において、さらには、高性能が求められる分野において、用いることがで
きる。合成サファイアは、不活性であり、研磨された状態では透明であり、耐酸性があり
、導電率が低く、融点が2000℃よりも高く、非常に需要が高い用途に適している。サ
ファイアは、ほぼ破壊されず、実際に、あらゆる外的攻撃に耐えることができる。サファ
イアによって作られた携行型時計用風防や技術的部品は、傷がつきにくく、その表面は無
孔で光沢があり、研磨すれば完璧な透明度を得ることができる。
【0011】
上記のように、るつぼ内において溶融状態で結晶化させて単結晶を合成する方法によっ
て、高品質の単結晶サファイアを製造することができる。しかし、このような方法は、所
望の結晶の品質を得るために成長速度を一般的には遅くする必要があり、るつぼのような
道具を多く必要とし、複雑であるために、高コストである。したがって、Czochralski法
による単結晶の製造には、1週間以上の時間がかかることがある。このため、可能な限り
欠陥のない単結晶を作ることが望まれる。
【0012】
携行型時計用風防は、サファイア単結晶を切って形成したブランクを機械加工して得ら
れる。しかし、これまでは、るつぼ内において溶融状態で結晶化させることによって作る
サファイア単結晶は、サファイアの主結晶軸、一般的には[A]又は[M]、のいずれか
に対応する方向に沿ってサファイア単結晶を成長させることによって得てきた。これらの
結晶成長モードは、現状では、表面の法線が結晶軸[A]又は[M]でありこの表面に結
晶軸[C]が含まれるようなブランクが作られる。このような結晶配向であるために、加
工に対してブランクが脆くなり、破片の発生が多くなってしまうことがわかっている。し
たがって、携行型時計用風防の加工が難しくなり、スクラップ率が高くなり、このような
風防のコストを大幅に上げてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、欠陥が少なく加工しやすいサファイア単結晶を得ることができるような、サ
ファイア単結晶を製造する方法を提供することによって、上記問題点及び他の問題点を克
服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前置きとして、以下において検討される単結晶サファイアの種結晶が、特定の第1のサ
ファイア単結晶から切り出され、そして、この単結晶サファイアの種結晶を用いてを成長
させて第2のサファイア単結晶を作り、この第2のサファイア単結晶を切って所望の風防
のブランクを形成することを理解することは重要である。
【0015】
このため、本発明は、単結晶サファイアの種結晶を製造する方法に関し、前記単結晶サ
ファイアの種結晶は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体晶系結晶構
造を有し、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、かつ、そ
れぞれ結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、前記単結晶サファ
イアの種結晶は、互いに平行かつ離れて延在している2つの平坦な面によって境界が形成
されたプレートであり、前記単結晶サファイアプレートは、前記単結晶サファイアプレー
トの結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、前記単結晶サファイアプレートの前
記平坦な面の法線と、5~85°の角度を形成するように初期サファイア単結晶を切り出
して得られる。
【0016】
特別な実施形態において、本発明は、さらに、単結晶サファイアの種結晶を製造する方
法に関し、前記単結晶サファイアの種結晶は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を
定める菱面体晶系結晶構造を有し、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互い
に垂直であり、かつ、それぞれ菱面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-
10)に垂直であり、前記単結晶サファイアの種結晶は、結晶軸[A]、[C]又は[M]
のいずれかが、得られる単結晶サファイアバーの断面の法線と、5~85°の範囲内の角
度を形成するように初期サファイア単結晶を切り出して予め得たバーである。
【0017】
別の特別な実施形態において、本発明は、さらに、サファイア単結晶を製造する方法(
6、18B)に関し、アルミナ及び/又はサファイアをるつぼ内で溶融させ、溶融したア
ルミナ及び/又はサファイアを、プレート状又はバー状の単結晶サファイアの種結晶に接
触させて、溶融したアルミナ及び/又はサファイアを成長方向に沿って徐々に結晶化させ
て、サファイア単結晶を形成するステップを備える。
【0018】
別の特別な実施形態において、本発明は、さらに、型の上部において溶融状態で結晶化
することによって得られるサファイア単結晶を製造する方法に関し、アルミナ及び/又は
サファイアをるつぼで溶融させ、溶融したアルミナ及び/又はサファイアをダイのチャネ
ルを通して、予め得た単結晶サファイアの種結晶に接触させて、溶融したアルミナ及び/
又はサファイアを成長方向に沿って徐々に結晶化させて、サファイア単結晶を形成するス
テップを備え、前記単結晶サファイアの種結晶は、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M
]を定める菱面体晶系結晶構造を有し、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、
互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM
(10-10)に垂直であり、前記単結晶サファイアの種結晶は、互いに平行かつ離れて延在
している2つの平坦な面によって境界が形成された第1のプレートであり、前記結晶軸[
A]、[C]又は[M]のいずれかが、前記第1の単結晶サファイアプレートの前記平坦
な面に垂直であり、前記第1の単結晶サファイアプレートは、前記ダイの前記チャネルに
よって定められる平坦な面に対する垂直方向に対して5~85°の範囲内の角度傾斜して
おり、前記結晶成長によって得られたサファイア単結晶は、互いに平行に距離を置いて延
在している2つの平坦な面によって境界が形成される第2の単結晶サファイアプレートで
あり、前記第2の単結晶サファイアプレートにおいては、結晶軸[A]、[M]又は[C
]が、前記平坦な面の法線に対して、前記ダイの前記チャネルに対する前記第1のプレー
トの傾斜に対応する配向ずれがある。
【0019】
本発明に係る方法の特定の実施態様は、以下の特徴を有する。
- 前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレートの前記平坦
な面の前記法線と、25~35°の範囲内の角度を形成する。
- 前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアプレートの前記平坦
な面の前記法線と、5~15°の範囲内の角度を形成する。
- 前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバーの断面の法線と
、25~35°の範囲内の角度を形成する。
- 前記結晶軸[A]、[M]又は[C]は、前記単結晶サファイアバーの断面の法線と
、5~15°の範囲内の角度を形成する。
- 前記サファイア単結晶を製造する方法は、EFG法、HEM法、Kyropoulos法、Czoc
hralski法、Bridgman Vertical法、Bridgman Horizontal法及びMicro Pulling Down法か
ら選択される方法を用いる。
- 溶融したアルミナ及び/又はサファイアは、純物質である又はドープされている。
- サファイアのスクラップを用いる。
- 前記サファイア単結晶を得た後に、携行型時計又は宝飾品のための外側部品又は機能
部品を前記サファイア単結晶から切り出す。
- 前記外側部品又は機能部品は、携行型時計のブリッジ、プレート、風防、ケース、表
盤又はリストレットリンクである。
【0020】
別の特別な実施形態において、本発明は、単結晶サファイアシリンダーを製造する方法
に関し、この方法は、切削工具を用いて、結晶軸[A]又は[M]又は[C]のいずれか
に沿って成長したサファイア単結晶ボールに対して、前記サファイア単結晶ボールの成長
結晶軸と5~85°の範囲内の角度を形成する方向に沿ってコアドリリングを行うステッ
プを備える。
【0021】
本発明は、さらに、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体晶系結晶構
造を有する単結晶サファイアの種結晶に関し、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M
]は、互いに垂直であり、かつ、それぞれ菱面体構造の結晶面A(11-20)、C(0001)
及びM(10-10)に垂直であり、前記単結晶サファイアの種結晶は、互いに平行かつ離れ
て延在している2つの平坦な面によって境界が形成されたプレートであり、前記単結晶サ
ファイアプレートの前記結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかは、前記単結晶サフ
ァイアプレートの平坦な面の法線と、5~85°の範囲内の角度を形成する。
【0022】
本発明は、さらに、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める単結晶サファイア
の種結晶に関し、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、か
つ、それぞれ結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直であり、前記単結晶
サファイアの種結晶は、単結晶サファイアバーであり、前記単結晶サファイアバーの前記
結晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかは、前記単結晶サファイアバーの断面の法線
と、5~85°の範囲内の角度を形成する。
【0023】
本発明は、さらに、互いに離れて延在している2つの面によって境界が形成される携行
型時計用風防のブランクに関し、前記2つの面のうちの少なくとも1つの面は、平坦であ
り、前記ブランクは、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体構造を有す
る単結晶サファイアによって作られ、前記3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互
いに垂直であり、かつ、それぞれ結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に垂直
であり、前記結晶軸[C]が前記ブランクの前記平坦な面内に含まれないように、前記結
晶軸[A]、[C]又は[M]のいずれかは、前記ブランクの平坦な面の法線と、5~8
5°の範囲内の角度を形成する。
【0024】
最後に、本発明は、本発明の方法に従って得られたサファイア単結晶から切り出された
、携行型時計及び宝飾品のための外側部品又は機能部品、特に、携行型時計のブリッジ、
プレート、風防、ケース、表盤、又はリストレットリンク、に関する。
【0025】
これらの特徴によって、本発明は、加工しやすい状態の携行型時計用風防を製造するこ
とを可能にする方法を提供する。特に、本発明に係る方法によって得られる携行型時計用
風防は、サファイア単結晶から切り出して得られ、このサファイア単結晶は、プレート又
はバーの形態の単結晶サファイアの種結晶に接触させて結晶成長させることによって得ら
れ、この種結晶は、単結晶サファイアのプレート又はバーの結晶軸[A]、[C]又は[
M]のいずれかが、プレートの平坦な面の法線又はバーの断面の法線と、5~85°の範
囲内の角度を形成するように加工される。本発明に係る方法を実行して得られたサファイ
ア単結晶から切り出して得た携行型時計用風防のブランクは、その結晶軸[A]、[C]
又は[M]の1つが、その表面の法線に対して、そのブランクが切り出されたサファイア
単結晶の元となったサファイアの種結晶の結晶軸[A]、[C]又は[M]の1つの配向
ずれと同じ値だけ、角度的にずれている。この結果、サファイア単結晶の結晶成長の種結
晶となる単結晶サファイアプレートの平坦な面又は単結晶サファイアバーの断面の法線に
対する結晶軸[A]、[C]又は[M]の角度的なずれのおかげで、結晶軸[C]が、一
般的には携行型時計用風防のブランクの平坦な面内に含まれず、このために、この結晶軸
[C]が携行型時計用風防のブランクのエッジをまたがる箇所において通常発生する機械
加工に対する最大の脆弱性を概して回避することができる。このため、この携行型時計用
風防のブランクは、硬度が低く、これによって、加工がしやすくなっている。特に、この
携行型時計用風防のブランクは壊れにくいため、加工時にブランクのエッジが欠けてしま
うリスクがかなり低くなる。また、本発明の方法によって得られた携行型時計用風防にお
いては、サファイア単結晶における転位、そして、局所的かつ制御されていない配向の変
化がほとんどなく、又はまったくない。
【0026】
添付の図面を参照しながら本発明に係る方法の実装例についての以下の詳細な説明を読
むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。この例は、純粋に例示的な目
的のためにのみ与えられるものであって、限定するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に従って用意されたプレート状の単結晶サファイアの種結晶からいくつかのサファイア単結晶を得ることを可能にするEFGタイプの結晶成長法を示している。
【
図2】本発明に従って用意されたプレート状の単結晶サファイアの種結晶に接触させて結晶成長させることによって得たサファイア単結晶から切り出した携行型時計用風防のブランクを示している。
【
図3】本発明に従って用意されたバー状の単結晶サファイアの種結晶を示している。
【
図4】
図4Aは、結晶軸[A]に沿って成長したいわゆるKyropoulosボールを示しており、このKyropoulosボールからバーが採取され、このバーは本発明に係るサファイア単結晶の成長のための種結晶として機能する。
図4Bは、
図4Aの種結晶を用いて得られたKyropoulosボールの形態のサファイア単結晶を示しており、本発明に係る携行型時計用風防のブランクを得ることができるように、ダイヤモンド工具を用いて、このKyropoulosボールから、このサファイア単結晶の成長方向に沿ってシリンダーを採取している。
図4Cは、いわゆるKyropoulosボールを示しており、本発明に係る携行型時計用風防のブランクを得ることができるように、ダイヤモンド工具を用いて、このKyropoulosボールからシリンダーを直接採取している。
【
図5】本発明に係る方法の別の実施形態に係るサファイア単結晶の成長のためのダイの上面図である。
【
図7】2つの交差型偏光子の間に配置される本発明に係る方法によって得られた携行型時計用風防の上面図である。
【
図8】EFGタイプのサファイア単結晶から携行型時計用風防のブランクを切り出す様子を模式的に示している。
【
図9】単結晶サファイアシリンダーから携行型時計用風防のブランクを切り出す様子を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、特に、プレート状又はバー状の単結晶サファイアの種結晶と接触させて、る
つぼ内で溶融状態で結晶成長させて得られたサファイア単結晶から切り出したブランクか
ら、携行型時計用風防を作るという創造性のある概念に基づいている。本発明の独創性は
、特に、次の点にある。すなわち、サファイア単結晶を成長させるために用いる単結晶サ
ファイアの種結晶自体が、風防のブランクが切り出されるサファイア単結晶の基本単位格
子の結晶面(0001)に垂直な結晶軸[C]がその結晶面内に含まれないように、そのサフ
ァイア単結晶から切り出す。具体的には、第1のサファイア単結晶から切り出して、結晶
軸[A]、[C]又は[M]のいずれかが、プレートの平坦な面の法線又はバーの断面と
、5~85°の範囲内の角度を形成するような、平坦な面があるプレート状の単結晶サフ
ァイアの種結晶を得る。そして、単結晶サファイアの種結晶における結晶軸[A]、[C
]又は[M]の配向ずれが、この単結晶サファイアの種結晶に接触して成長したサファイ
ア単結晶にあり、そして、このサファイア単結晶から切り出された携行型時計用風防のブ
ランクにおいてもある。最後に、結晶軸[C]は、風防のブランクの平面内にて延在して
おらず、したがって、これらのブランクのエッジをまたがらない。このため、結晶軸[C
]が携行型時計用風防のブランクのエッジをまたがる場合に通常認識される加工に対する
最大の脆弱性を回避することができる。このため、携行型時計用風防のブランクは壊れに
くく、その結果、加工がしやすくなっている。特に、欠片の発生のリスクがかなり軽減さ
れる。
【0029】
図1は、本発明に従って得られた単結晶サファイアの種結晶を用いてサファイア単結晶
を製造するためのEFGタイプの方法を模式的に示している。参照数字1によって示して
いる単結晶サファイアの種結晶は、互いに平行かつ離れて延在している2つの平坦な面4
によって境界が形成されたプレート2の形態である。この単結晶サファイアの種結晶1は
、互いに垂直でありそれぞれサファイアの基本単位格子の結晶面A(11-20)、C(0001
)及びM(10-10)に垂直である、3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面
体晶系結晶構造を有する。
【0030】
本発明に従って、例えば、得られたプレート2の結晶軸[C]を結晶軸[M]のまわり
に回転させて、このプレート2の平坦な面4の法線D1と、5~85°の範囲内、例えば
10°、の角度αを形成するように、第1のサファイア単結晶から切り出して単結晶サフ
ァイアの種結晶1を形成する。結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、
結晶軸[A]もプレート2の平坦な面4に対して同じ角度αだけずれており、一方、結晶
軸[M]は自身のまわりを10°回転し、したがって、移動しない。
【0031】
なお、所望の方向に沿ってサファイア単結晶の種結晶を切り出す技術は、サファイア単
結晶成長の分野の当業者に知られているために、ここでは詳細な説明はしない。
【0032】
図1によってわかるように、単結晶サファイアの種結晶1は、サファイア単結晶6の成
長方向
Lを定める結晶軸[M]に沿って引き上げられる。溶融したアルミナ及び/又はサ
ファイアをダイの頂部のうちの1つにおいて単結晶サファイアの種結晶1に接触させ、こ
の単結晶サファイアの種結晶1を成長方向
Lに沿って徐々に引き上げて、溶融したアルミ
ナ及び/又はサファイアからゆっくりと遠ざけて、サファイア単結晶6の漸進的な成長を
可能にすることによって、各サファイア単結晶6が得られる。
【0033】
本発明によると、単結晶サファイアの種結晶1をサファイア単結晶6を成長させるため
に用い、このサファイア単結晶6から携行型時計用風防10のブランク8を切り出す。こ
のような携行型時計用風防10のブランク8は、互いに離れて延在している2つの面によ
って境界が形成され、その2つの面のうちの少なくとも1つの面12は平坦である。単結
晶サファイアの種結晶1は、例えば、結晶軸[C]を結晶軸[M]のまわりに回転させて
、プレート2の平坦な面4の法線D1と、5~85°、例えば、10°、である角度αを
形成するように、初期サファイア単結晶から切り出されるプレート2の形態である。そし
て、単結晶サファイアの種結晶1における結晶軸[A]及び[C]の配向ずれが、この単
結晶サファイアの種結晶1に接触して成長したサファイア単結晶6にあり、そして、この
サファイア単結晶6から切り出された携行型時計用風防10のブランク8にある。
【0034】
最後に、
図2に示しているように、結晶軸[A]及び[C]の配向ずれのため、結晶軸
[C]は、携行型時計用風防10のブランク8の平坦な面12内に含まれず、したがって
、これらのブランク8のエッジ14をまたがらない。したがって、この結晶軸[C]が携
行型時計用風防10のブランク8のエッジ14をまたがる箇所において通常認識される加
工に対する最大の脆弱性を回避することができる。したがって、携行型時計用風防10の
ブランク8は、壊れにくく、結果的に加工しやすくなる。特に、欠片の発生のリスクがか
なり軽減され、損失も少なくなる。
【0035】
図3は、Kyropoulosタイプなどの結晶成長法に用いられる単結晶サファイアバー16A
を模式的に示している。この単結晶サファイアバー16Aは、互いに垂直であり、かつ、
それぞれサファイアの基本単位格子の結晶面A(11-20)、C(0001)及びM(10-10)に
垂直な3つの結晶軸[A]、[C]及び[M]を定める菱面体晶系結晶構造を有する。
【0036】
本発明によると、
図4Aに示しているように、予め得たサファイア単結晶ボール18A
から、例えば結晶軸[M]のまわりに回転させて、単結晶サファイアバー16Aを切り出
し、得られた単結晶サファイアバー16Aの結晶軸[A]が、この単結晶サファイアバー
16Aの断面
Sの法線
D2と、5~85°の範囲内、例えば10°、の角度αを形成する
ようにする。結晶軸[A]、[C]及び[M]は、互いに垂直であり、結晶軸[C]も単
結晶サファイアバー16aの断面
Sに対して同じ角度αだけずれているが、結晶軸[M]
は自身のまわりを回転するために移動しない。そして(
図4Bを参照)、単結晶サファイ
アバー16Aにおける結晶軸[A]及び[C]の配向ずれが、この単結晶サファイアバー
16Aに、溶融したアルミナ及び/又はサファイアを接触させて成長させたサファイア単
結晶ボール18Bにある。次に、ダイヤモンド切削工具20を用いて、サファイア単結晶
ボール18Bから、単結晶サファイアバー16Aからのサファイア単結晶ボール18Bの
成長方向
D3に沿って単結晶サファイアシリンダー16Bを切り出すことができる。その
後で、本発明に係る携行型時計用風防10のブランク8を、順次、この単結晶サファイア
シリンダー16Bから切り出すことができる。
【0037】
図4Cにおいて、Kyropoulosタイプなどのサファイア単結晶ボール18Cを示しており
、これにおいて、このサファイア単結晶ボール18Cの成長の結晶軸[A]と、5~85
°の範囲内、例えば10°、の角度αを形成する方向に沿って、切削工具20を用いてコ
アドリリングが行われる。これによって、本発明に係る携行型時計用風防10のブランク
8の切り出しを可能とする単結晶サファイアシリンダー16Cも得ることができる。
【0038】
なお、予め得たサファイア単結晶ボールから、所望の方向に沿ってKyropoulosタイプな
どの単結晶サファイアの種結晶を切り出す技術は、この種結晶が平坦な面4があるプレー
ト2の形態であろうと、バー16Aの形態であろうと、サファイア単結晶成長の分野の当
業者には知られているので、ここでは詳細な説明をしない。
【0039】
最後に、単結晶サファイアバー16Aの断面Sの法線に対する結晶軸[A]の配向ずれ
のため、結晶軸[C]は、一般的に、携行型時計用風防10のブランク8の平坦な面12
内になく、したがって、一般的に、これらのブランク8のエッジ14をまたがらない。し
たがって、この結晶軸[C]が携行型時計用風防10のブランク8のエッジ14をまたが
る箇所において通常認識される最大の脆弱性を回避することができる。したがって、携行
型時計用風防10のブランク8は、壊れにくく、結果的に加工しやすくなる。特に、欠片
の発生のリスクがかなり軽減され、損失も少なくなる。
【0040】
当然、本発明は、ここで説明した実施態様に限定されず、添付の特許請求の範囲によっ
て定められる本発明の範囲から逸脱することなく、様々な単純な変更及び変異形態を考え
ることができる。特に、ここにおいて説明したように、結晶軸がこのプレートの境界を形
成する平坦な面の法線に対して非ゼロの角度を形成するような、プレートの形態の単結晶
サファイアの種結晶を準備するのではなく、
図5及び6に示しているように、結晶軸[C
]が例えばこの第1のプレート24の境界を形成する平坦な面26に対して伝統的なよう
に垂直であるような、第1のプレート24の形態の単結晶サファイアの種結晶22を用い
ることも考えることができる。本発明の特別な実施形態において、このような単結晶サフ
ァイアの種結晶22は、互いに平行かつ離れて延在しており溶融したアルミナ及び/又は
サファイアが内部を通る複数のチャネル32によって構成しているダイ30の頂部におい
てサファイア単結晶28を成長させるために用いる。その後に、この溶融したアルミナ及
び/又はサファイアが単結晶サファイアの種結晶22と接触して結晶化し始めて、第2の
プレート状のサファイア単結晶28を形成する。これらの第2の単結晶サファイアプレー
トはそれぞれ、互いに平行かつ互いに離れて延在している2つの平坦な面34によって境
界が形成される。この場合、単結晶サファイアの種結晶22を、ダイ30のチャネル32
が延在している平坦な面に対する垂直方向
Pに対して、5~85°の範囲内、例えば10
°、の角度αだけ傾斜させることによって、結晶成長によって得られた第2の単結晶サフ
ァイアプレートにおいては、
図1を参照しながら上で説明したように結晶軸の配向ずれを
有する単結晶サファイアの種結晶を用いて得られたプレートと比べて、平坦な面34の法
線に対する結晶軸[A]の配向ずれが同じである。
【0041】
図7は、本発明の方法によって得られた携行型時計用風防10を上から見た図であり、
これは、2つの交差した偏光子の間に配置される。この
図7において、携行型時計用風防
10には、転位や制御不能な局所的な配向の変化のような欠陥が見られないことを確認で
きる。また、本発明の方法によると、アルミナ及び/又はサファイアを溶融させることを
理解することができる。これらの材料は、純粋なものであることができ、また、ドープさ
れたものであることができる。好ましくは、ドープ物質は、単独又は組み合わさって、チ
タン、鉄、クロム、コバルト及びバナジウムからなる群から選択される。しかし、これに
限定されない。用いられるサファイアは、好ましくは、品質の悪いサファイア結晶のよう
なスクラップ、又は携行型時計用風防10の製造における別のステップに由来する機械加
工の欠片やスクラップによって構成する。特に携行型時計用風防10の製造に関連して、
本発明について説明した。当然、このような例は、純粋に例示的な目的のためにのみ与え
られ、本発明は、より一般的に、携行型時計のブリッジ、プレート、ケース、表盤、リス
トレットリンクのような、特に携行型時計及び宝飾品のための、外側部品や機能部品の製
造に適用することができる。
【0042】
図8に示しているように、携行型時計用風防10のブランク8をEFGタイプのサファ
イア単結晶6から切り出す。
図9に示しているように、携行型時計用風防10のブランク
8は、単結晶サファイアシリンダー16Bを加工して切り出される。この単結晶サファイ
アシリンダー16Bは、単結晶サファイアバー16Aからのサファイア単結晶ボール18
Bの成長方向
D3に沿ってサファイア単結晶ボール18Bから切り出されたものである。
具体的には、携行型時計用風防10のブランク8は、サファイア単結晶ボール18Bの成
長方向
D3に対して垂直に切られる。典型的には、携行型時計用風防10のブランク8の
厚みは、1~2mmの範囲内であり、10mmに達する可能性もある。最後に、上におい
て、「バー」という用語は種結晶に適用され、「シリンダー」という用語はサファイア単
結晶に適用されるものとして用いている。
【符号の説明】
【0043】
1 単結晶サファイアの種結晶
2 プレート
4 平坦な面
α 角度
D1 法線
L 成長方向
6 サファイア単結晶
8 ブランク
10 携行型時計用風防
12 平坦な面
14 エッジ
16A 単結晶サファイアバー
16B 単結晶サファイアシリンダー
16C 単結晶サファイアシリンダー
18A サファイア単結晶ボール
18B サファイア単結晶ボール
18C サファイア単結晶ボール
D2 法線
S 断面
D3 成長方向
20 切削工具
22 単結晶サファイアの種結晶
24 第1のプレート
26 平坦な面
28 サファイア単結晶
30 ダイ
32 チャネル
34 平坦な面
【外国語明細書】