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特開2024-147812積層セラミック電子部品の製造方法、積層セラミック電子部品及び回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147812
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品の製造方法、積層セラミック電子部品及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 201G
H01G4/30 513
H01G4/30 311E
H01G4/30 516
H01G4/30 517
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024122313
(22)【出願日】2024-07-29
(62)【分割の表示】P 2020087445の分割
【原出願日】2020-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智紀
(57)【要約】
【課題】 水素による悪影響を受けにくく、外部電極のメッキ膜の密着性に優れ、かつ実装時におけるはんだの接合性を十分に確保することが可能な積層セラミック電子部品の製造方法等を提供する。
【解決手段】 本発明の積層セラミック電子部品の製造方法は、積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体の上記表面上に、導電性材料で形成された下地膜を上記内部電極と接続されるように形成する工程を含む。上記下地膜上に、電解メッキ法により第1ニッケル膜が形成される。上記第1ニッケル膜の形成後、上記第1ニッケル膜が再結晶化する温度以上で、弱還元雰囲気によって熱処理される。上記熱処理された第1ニッケル膜上に、電解メッキ法により第2ニッケル膜が形成される。上記熱処理において、上記第1ニッケル膜には、上記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織が形成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体の前記表面上に、導電性材料で形成された下地膜を前記内部電極と接続されるように形成し、
前記下地膜上に、電解メッキ法により第1ニッケル膜を形成し、
前記第1ニッケル膜の形成後、前記第1ニッケル膜が再結晶化する温度以上で、弱還元雰囲気によって熱処理し、
前記熱処理された第1ニッケル膜上に、電解メッキ法により第2ニッケル膜を形成し、
前記熱処理において、前記第1ニッケル膜には、前記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織が形成される
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記熱処理において、前記第1ニッケル膜には、前記第2ニッケル膜の結晶粒より大きい結晶粒が形成される
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記熱処理の温度は、450℃以上800℃以下である
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記第1ニッケル膜の厚さは、1.0μm以上10.0μm以下である
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記第2ニッケル膜の厚さは、1.5μm以上6.0μm以下である
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記下地膜の厚さは、2μm以上50μm以下である
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記下地膜は、銅又はその合金を主成分として含む
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法であって、
前記第2ニッケル膜上に、電解メッキ法により錫又はその合金を主成分として含む表層膜を形成する
積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体と、
前記セラミック素体の前記表面上に配置され、前記内部電極と接続され、かつ、導電性材料で形成された下地膜と、
前記下地膜上に配置された第1ニッケル膜と、
前記第1ニッケル膜よりも水素濃度が高く、前記第1ニッケル膜上に配置された第2ニッケル膜と、
を有する外部電極と、
を具備し、
前記第1ニッケル膜は、前記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織を有する
積層セラミック電子部品。
【請求項10】
請求項9に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1ニッケル膜は、前記第2ニッケル膜の結晶粒より大きい結晶粒を含む
積層セラミック電子部品。
【請求項11】
請求項9または10に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第1ニッケル膜の厚さは、1.0μm以上10.0μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記第2ニッケル膜の厚さは、1.5μm以上6.0μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記下地膜の厚さは、2μm以上50μm以下である
積層セラミック電子部品。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記下地膜は、銅又はその合金を主成分として含む
積層セラミック電子部品。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一項に記載の積層セラミック電子部品であって、
前記外部電極は、前記第2ニッケル膜上に配置され、錫又はその合金を主成分として含む表層膜をさらに有する
積層セラミック電子部品。
【請求項16】
実装基板と、
積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体と、前記セラミック素体の前記表面上に配置され、前記内部電極と接続された外部電極と、を有する積層セラミック電子部品と、
前記外部電極と前記実装基板とを接続するはんだと、
を具備し、
前記外部電極は、
前記セラミック素体の前記表面上に配置され、導電性材料で形成された下地膜と、
前記下地膜上に配置された第1ニッケル膜と、
前記第1ニッケル膜よりも水素濃度が高く、前記第1ニッケル膜上に配置された第2ニッケル膜と、を有し、
前記第1ニッケル膜は、前記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織を有する
回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部電極を有する積層セラミック電子部品の製造方法、積層セラミック電子部品及びそれを用いた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、積層セラミックコンデンサの製造工程には、外部電極を形成するためのメッキ工程が含まれる。このメッキ工程で発生する水素は、外部電極内に吸蔵されて残存しやすい。積層セラミックコンデンサでは、外部電極内の水素がセラミック素体内に拡散することによって、絶縁抵抗の低下などの不具合が発生する。
【0003】
これに対し、特許文献1には、Cuを含む外部電極本体を酸化処理することでCuOを含む保護層を形成し、当該保護層上にNiめっき層を形成し、Niめっき層の形成後に150℃以上の温度条件で熱処理し、熱処理後にSnめっき層を形成する、積層セラミックコンデンサの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-66783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、外部電極本体の酸化処理後にNiめっき層を形成する際、酸化膜である保護層とNiめっき層との密着性が低下する可能性がある。さらに、熱処理後のNiめっき層の表面は酸化し不安定な状態となり得る。このため、その表面に直接Snめっき層を形成することで、Snめっき層の密着性の低下や、基板実装時に用いられるはんだの濡れ性が低下する可能性もある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、水素による悪影響を受けにくく、外部電極のメッキ膜の密着性に優れ、かつ実装時におけるはんだの接合性を十分に確保することが可能な積層セラミック電子部品の製造方法、積層セラミック電子部品及びそれを用いた回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミック電子部品の製造方法は、積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体の上記表面上に、導電性材料で形成された下地膜を上記内部電極と接続されるように形成する工程を含む。
上記下地膜上に、電解メッキ法により第1ニッケル膜が形成される。
上記第1ニッケル膜の形成後、上記第1ニッケル膜が再結晶化する温度以上で、弱還元雰囲気によって熱処理される。
上記熱処理された第1ニッケル膜上に、電解メッキ法により第2ニッケル膜が形成される。
上記熱処理において、上記第1ニッケル膜には、上記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織が形成される。
さらに上記熱処理において、上記第1ニッケル膜には、上記第2ニッケル膜の結晶粒より大きい結晶粒が形成されてもよい。
【0008】
第1ニッケル膜の形成後に当該膜が再結晶化する温度で熱処理することにより、第1ニッケル膜等に取り込まれた水素が外部に放出される。さらに、熱処理された第1ニッケル膜が再結晶化して水素の拡散を抑制する構成となるため、熱処理後におけるセラミック素体への水素の侵入が防止される。これにより、セラミック素体への水素の拡散による絶縁抵抗の低下などの不具合を抑制することができる。
また、熱処理された第1ニッケル膜上に第2ニッケル膜を形成することにより、表層側に、酸化の少ない安定した表面状態の第2ニッケル膜を配置することができる。したがって、積層セラミック電子部品を基板に実装する際に、はんだの濡れ性の低下を抑制することができ、はんだの接合性を十分に確保することができる。
さらに、熱処理された第1ニッケル膜上に同種の材料による第2ニッケル膜を形成することで、これらの密着性を十分に確保することができる。
【0009】
具体的には、上記熱処理の温度は450℃以上800℃以下であってもよい。
これにより、第1ニッケル膜を再結晶化させ、第1ニッケル膜等に吸蔵された水素を十分に放出できるともに、水素の拡散を十分に抑制することが可能な第1ニッケル膜を得ることができる。
【0010】
例えば、上記第1ニッケル膜の厚さは、1.0μm以上10.0μm以下であってもよい。
これにより、熱処理後に水素の拡散を十分に抑制することが可能な第1ニッケル膜を得ることができるとともに、水素を放出させるための熱処理の条件を緩和することができる。
【0011】
例えば、上記第2ニッケル膜の厚さは、1.5μm以上6.0μm以下であってもよい。
これにより、実装時におけるはんだの濡れ性を十分に確保できるとともに、積層セラミック電子部品の小型化を図ることができる。
【0012】
例えば、上記下地膜の厚さは、2μm以上50μm以下であってもよい。
これにより、下地膜によってセラミック素体の表面を確実に覆いつつ、積層セラミック電子部品の小型化を図ることができる。
【0013】
例えば、上記下地膜は、銅又はその合金を主成分として含んでいてもよい。
【0014】
上記第2ニッケル膜上に、電解メッキ法により錫又はその合金を主成分として含む表層膜を形成してもよい。
はんだと反応しやすい表層膜を形成することにより、実装時におけるはんだの接合性をより確実に確保することができる。
【0015】
本発明の他の実施形態に係る積層セラミック電子部品は、セラミック素体と、外部電極と、を具備する。
上記セラミック素体は、積層され表面に引き出された内部電極を有する。
上記外部電極は、下地膜と、第1ニッケル膜と、第2ニッケル膜と、を有する。
上記下地膜は、上記セラミック素体の上記表面上に配置され、上記内部電極と接続され、かつ、導電性材料で形成される。
上記第1ニッケル膜は、上記下地膜上に配置される。
上記第2ニッケル膜は、上記第1ニッケル膜よりも水素濃度が高く、上記第1ニッケル膜上に配置される。
上記第1ニッケル膜は、上記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織を有する。
さらに、上記第1ニッケル膜は、上記第2ニッケル膜の結晶粒より大きい結晶粒を含んでもよい。
【0016】
例えば、上記第1ニッケル膜は、再結晶組織を含んでいてもよい。
これにより、第1ニッケル膜の再結晶組織によって水素の拡散が抑制され、セラミック素体への水素の侵入が妨げられる。
【0017】
例えば、上記第1ニッケル膜の厚さは、1.0μm以上10.0μm以下であってもよい。
【0018】
例えば、上記第2ニッケル膜の厚さは、1.5μm以上6.0μm以下であってもよい。
【0019】
例えば、上記下地膜の厚さは、2μm以上50μm以下であってもよい。
【0020】
例えば、上記下地膜は、銅又はその合金を主成分として含んでいてもよい。
【0021】
上記外部電極は、上記第2ニッケル膜上に配置され、錫又はその合金を主成分として含む表層膜をさらに有していてもよい。
【0022】
本発明のさらに他の実施形態に係る回路基板は、実装基板と、積層セラミック電子部品と、はんだと、を具備する。
上記セラミック電子部品は、積層され表面に引き出された内部電極を有するセラミック素体と、上記セラミック素体の上記表面上に配置され、上記内部電極と接続された外部電極と、を有する。
上記はんだは、上記外部電極と上記実装基板とを接続する。
上記外部電極は、
上記セラミック素体の上記表面上に配置され、導電性材料で形成された下地膜と、
上記下地膜上に配置された第1ニッケル膜と、
上記第1ニッケル膜よりも水素濃度が高く、上記第1ニッケル膜上に配置された第2ニッケル膜と、を有する。
上記第1ニッケル膜は、上記第2ニッケル膜の結晶組織より転移及び格子欠陥が少ない再結晶組織を有する。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、水素による悪影響を受けにくく、外部電極のメッキ膜の密着性に優れ、かつ実装時におけるはんだの接合性を十分に確保することが可能な積層セラミック電子部品の製造方法、積層セラミック電子部品及びそれを用いた回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミック電子部品を模式的に示す斜視図である。
図2】上記積層セラミック電子部品のA-A'線に沿った断面図である。
図3】上記積層セラミック電子部品のB-B'線に沿った断面図である。
図4】上記積層セラミック電子部品を実装した回路基板を示す模式的な断面図である。
図5】上記積層セラミック電子部品の製造方法を示すフローチャートである。
図6】上記積層セラミック電子部品の製造過程を示す斜視図である。
図7】上記積層セラミック電子部品のセラミック素体に異なる構成の外部電極を形成した試験用チップに対し、昇温脱離ガス分析(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)を行った結果を示すグラフであり、横軸は試験用チップの番号、縦軸は50mg分の試験用チップから脱離した水素の総量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0026】
[積層セラミックコンデンサ10の構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。図2は、積層セラミックコンデンサ10の図1のA-A'線に沿った断面図である。図3は、積層セラミックコンデンサ10の図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0027】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を備える。セラミック素体11の表面は、典型的には、X軸方向を向いた第1端面11a及び第2端面11bと、Y軸方向を向いた第1側面11c及び第2側面11dと、Z軸方向を向いた第1主面11e及び第2主面11fと、を有する。より具体的に、第1端面11aは、X軸方向に平行な一方向を向き、第2端面11bは、X軸方向に平行であって当該一方向とは反対の方向を向く。第1側面11cは、Y軸方向に平行な一方向を向き、第2側面11dは、Y軸方向に平行であって当該一方向とは反対の方向を向く。第1主面11eは、Z軸方向に平行な一方向を向き、第2主面11fは、Z軸方向に平行であって当該一方向とは反対の方向を向く。第1端面11a及び第2端面11bは、Y軸方向及びZ軸方向に沿って延びる。第1側面11c及び第2側面11dは、Z軸方向及びX軸方向に沿って延びる。第1主面11e及び第2主面11fは、X軸方向及びY軸方向に沿って延びる。
【0028】
セラミック素体11の第1端面11a及び第2端面11b、第1側面11c及び第2側面11d並びに第1主面11e及び第2主面11fは、いずれも、平坦面として構成される。本実施形態に係る平坦面とは、全体的に見たときに平坦と認識される面であれば厳密に平面でなくてもよく、例えば、表面の微小な凹凸形状や、緩やかな湾曲形状などを有する面も含まれる。
【0029】
セラミック素体11は、第1端面11a及び第2端面11b、第1側面11c及び第2側面11d並びに第1主面11e及び第2主面11fを相互に接続する稜部を有している。稜部は、例えば面取りされて丸みを帯びているが、面取りされていなくてもよい。
【0030】
セラミック素体11は、誘電体セラミックスで形成されている。セラミック素体11は、誘電体セラミックスに覆われてZ軸方向に積層された第1内部電極12及び第2内部電極13を有する。複数の内部電極12,13は、いずれもX-Y平面に沿って延びるシート状であり、Z軸方向に沿って交互に配置されている。
【0031】
つまり、セラミック素体11には、内部電極12,13がセラミック層16を挟んでZ軸方向に対向する対向領域が形成されている。第1内部電極12は、対向領域から第1端面11aに引き出され、第1外部電極14に接続されている。第2内部電極13は、対向領域から第2端面11bに引き出され、第2外部電極15に接続されている。
【0032】
このような構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、内部電極12,13の対向領域において複数のセラミック層16に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0033】
セラミック素体11では、内部電極12,13間の各セラミック層16の容量を大きくするため、高誘電率の誘電体セラミックスが用いられる。高誘電率の誘電体セラミックスとしては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)に代表される、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の材料が挙げられる。
【0034】
なお、誘電体セラミックスは、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸マグネシウム(MgTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O)、ジルコン酸バリウム(BaZrO)、酸化チタン(TiO)などの組成系でもよい。
【0035】
第1外部電極14は、セラミック素体11の表面に配置され、例えば第1端面11aを覆っている。第2外部電極15は、セラミック素体11の表面に配置され、例えば第2端面11bを覆っている。外部電極14,15は、セラミック素体11を挟んでX軸方向に対向し、積層セラミックコンデンサ10の端子として機能する。
【0036】
外部電極14,15は、セラミック素体11の端面11a,11bから主面11e,11f及び側面11c,11dに沿ってX軸方向内側にそれぞれ延出し、主面11e,11f及び側面11c,11d上において相互に離間している。
【0037】
なお、外部電極14,15の形状は、図1及び2に示すものに限定されない。例えば、外部電極14,15は、セラミック素体11の端面11a,11bから一方の主面のみに延び、X-Z平面に平行な断面がL字状となっていてもよい。また、外部電極14,15は、いずれの主面及び側面にも延出していなくてもよい。
【0038】
第1外部電極14は、4層構造を有し、下地膜140と、第1ニッケル膜141と、第2ニッケル膜142と、表層膜143と、を含む。第1外部電極14では、セラミック素体11側の内側から外側に向けて、下地膜140、第1ニッケル膜141、第2ニッケル膜142、表層膜143の順に積層されている。
【0039】
第2外部電極15は、4層構造を有し、下地膜150と、第1ニッケル膜151と、第2ニッケル膜152と、表層膜153と、を含む。第2外部電極15では、セラミック素体11側の内側から外側に向けて、下地膜150、第1ニッケル膜151、第2ニッケル膜152、表層膜153の順に積層されている。
【0040】
下地膜140,150は、導電性材料で形成される。例えば、下地膜140,150は、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)又はその合金を主成分として含んでいてもよい。一例として、下地膜140,150は、Cu又はその合金を主成分として含んでいてもよい。なお、主成分とは、最も含有モル比率の高い成分のことを言うものとする。
【0041】
下地膜140,150は、例えば、スパッタリング法によって形成された少なくとも1層のスパッタ膜や、導電性金属ペーストを焼き付けた少なくとも1層の焼き付け膜などとして構成することができる。また、下地膜140,150は、スパッタ膜と焼き付け膜とが組み合わされて構成されていてもよい。
【0042】
第1ニッケル膜141,151は、電解メッキ法により形成された膜であり、下地膜140,150上に配置される。第1ニッケル膜141,151は、Ni又はその合金を主成分として含む。第1ニッケル膜141,151は、再結晶化する温度以上の温度による熱処理を受けた膜であり、詳細を後述するように、Niを主成分とする金属又は合金の再結晶粒を含んでいる。
【0043】
第2ニッケル膜142,152は、電解メッキ法により形成された膜であり、第1ニッケル膜141,151上に配置される。第2ニッケル膜142,152も、Ni又はその合金を主成分として含む。第2ニッケル膜142,152は、上記熱処理の後に形成されるため、上記熱処理は受けていない。
【0044】
表層膜143,153は、電解メッキ法により形成された膜であり、第2ニッケル膜142,152上に配置される。表層膜143,153は、例えば、Sn(錫)又はその合金を主成分として含む。これにより、積層セラミックコンデンサ10を実装基板へ実装するためのはんだ付けの際に、外部電極14,15とはんだとの反応性を高め、これらを十分に接合させることができる。
【0045】
[回路基板100の構成]
図4は、本実施形態の回路基板100を示す断面図であり、図2に対応する断面を示す図である。
【0046】
図4に示すように、回路基板100は、実装基板110と、積層セラミックコンデンサ
10と、第1はんだH1及び第2はんだH2と、を備える。
【0047】
実装基板110は、積層セラミックコンデンサ10を実装する基板であり、図示しない回路が形成されていてもよい。実装基板110は、積層セラミックコンデンサ10に対向する実装面110aと、実装面110aに形成され回路基板100と接続するための第1ランドL1及び第2ランドL2と、を有する。
【0048】
第1はんだH1は、実装基板110の第1ランドL1と第1外部電極14とを接続する。第2はんだH2は、実装基板110の第2ランドL2と第2外部電極15とを接続する。これらのはんだH1,H2は、例えば、ランドL1,L2に塗布されたはんだペーストが溶融し、外部電極14,15に濡れ上がることによって形成される。
【0049】
積層セラミックコンデンサ10では、表層膜143,153がはんだと良好に反応することで、はんだの濡れ上がりを促進し、第1はんだH1及び第2はんだH2と外部電極14,15とを十分に接合させることができる。
【0050】
また、はんだの濡れ上がりは、表層膜143,153のみならず、その下層の表面状態にも影響を受ける。本実施形態では、表層膜143,153の下層に、熱処理を受けていない第2ニッケル膜142,152を設けることにより、はんだの濡れ性を良好に維持することができる。
【0051】
第1ニッケル膜141,151及び第2ニッケル膜142,152の詳細な作用効果については、後述する。
【0052】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図5は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。図6は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、図5に沿って、図6を適宜参照しながら説明する。
【0053】
(ステップS01:セラミック素体11作製)
ステップS01では、第1セラミックシートS1、第2セラミックシートS2及び第3セラミックシートS3を図6に示すように積層して焼成し、セラミック素体11を作製する。
【0054】
セラミックシートS1,S2,S3は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。第1セラミックシートS1には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極12uが形成され、第2セラミックシートS2には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極13uが形成されている。第3セラミックシートS3には内部電極が形成されていない。
【0055】
図6に示す未焼成のセラミック素体11uでは、セラミックシートS1,S2が交互に積層され、そのZ軸方向上下面に第3セラミックシートS3が積層される。未焼成のセラミック素体11uは、セラミックシートS1,S2,S3を圧着することにより一体化される。なお、セラミックシートS1,S2,S3の枚数は図6に示す例に限定されない。
【0056】
なお、以上では1つのセラミック素体11に相当する未焼成のセラミック素体11uについて説明したが、実際には、個片化されていない大判のシートとして構成された積層シートが形成され、セラミック素体11uごとに個片化される。
【0057】
未焼成のセラミック素体11uを焼結させることにより、図1~3に示すセラミック素体11が作製される。焼成温度は、セラミック素体11uの焼結温度に基づいて決定可能である。例えば、誘電体セラミックスとしてチタン酸バリウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0058】
(ステップS02:下地膜140,150形成)
ステップS02では、セラミック素体11の表面上に、導電性材料で形成された下地膜140,150を、内部電極12,13と接続されるように形成する。下地膜140,150は、本実施形態において、第1端面11a及び第2端面11bを覆うように形成される。
【0059】
下地膜140,150は、例えば、ディップ法、印刷法等によってセラミック素体11の端面11a,11bに導電性ペーストを塗布し、焼き付けることによって形成される。この場合、下地膜140,150を構成する導電性材料は、例えば、Cu,Ni,Ag,Au,Pt,Pd又はその合金を主成分として含んでいてもよい。
【0060】
あるいは、下地膜140,150は、スパッタリング法によって形成されてもよい。この場合、下地膜140,150を構成する導電性材料は、例えば、Ti,Ni,Ag,Au,Pt,Pd,Ta,W又はその合金を主成分として含んでいてもよい。
【0061】
下地膜140,150の厚さは、2μm以上50μm以下とすることができる。これにより、下地膜140,150によって端面11a,11bを確実に覆いつつ、積層セラミックコンデンサ10の小型化を図ることができる。下地膜140,150の厚さは、例えば、端面11a,11b上の領域の厚さであって、Z軸方向及びY軸方向における中央部の、X軸方向に沿った寸法とすることができる。
【0062】
(ステップS03:第1ニッケル膜141,151形成)
ステップS03では、下地膜140,150上に、第1ニッケル膜141,151を形成する。第1ニッケル膜141,151は、Ni又はその合金を主成分として含み、電解メッキ法により形成される。
【0063】
(ステップS04:熱処理)
ステップS04では、第1ニッケル膜141,151の形成後に、弱還元雰囲気によって熱処理する。本実施形態において、弱還元雰囲気とは、酸素濃度が30ppm以下の雰囲気を意味する。これにより、第1ニッケル膜141,151の過度の酸化が抑制される。熱処理の温度は、第1ニッケル膜141,151が再結晶化する温度以上であり、具体的には、450℃以上800℃以下とすることができる。また、熱処理の時間は、例えば5分以上30分以下とすることができる。
【0064】
(ステップS05:第2ニッケル膜142,152形成)
ステップS05では、熱処理された第1ニッケル膜141,151上に、第2ニッケル膜142,152を形成する。第2ニッケル膜142,152は、Ni又はその合金を主成分として含み、電解メッキ法により形成される。
【0065】
(ステップS06:表層膜143,153形成)
ステップS06では、第2ニッケル膜142,152上に、表層膜143,153を形成する。表層膜143,153は、例えばSnまたはその合金を主成分として含み、電解メッキ法により形成される。
【0066】
表層膜143,153の厚さは、3μm以上10μm以下とすることができる。これにより、はんだとの反応性を十分に確保しつつ、積層セラミックコンデンサ10の小型化を図ることができる。表層膜143,153の厚さは、例えば、端面11a,11b上の領域の厚さであって、Z軸方向及びY軸方向における中央部の、X軸方向に沿った寸法とすることができる。
【0067】
以上のように、積層セラミックコンデンサ10が製造される。
【0068】
[外部電極14,15の詳細な説明]
第1ニッケル膜141,151、第2ニッケル膜142,152及び表層膜143,153を形成するための電解メッキ法によるメッキ工程では、セラミック素体11を劣化させる作用の強い水素が発生する。メッキ工程で発生した水素は、外部電極14,15の下地膜140,150、第1ニッケル膜141,151、第2ニッケル膜142,152及び表層膜143,153内に吸蔵されやすい。
【0069】
外部電極14,15に吸蔵された水素のセラミック素体11への拡散が内部電極12,13の対向領域まで進行すると、内部電極12,13間のセラミック層16の絶縁抵抗が低下する。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、絶縁不良が発生しやすくなる。
【0070】
なお、外部電極14,15に吸蔵される水素は、メッキ工程で発生した水素に限らず、例えば、大気中の水蒸気などの水分に含まれる水素などであってもよい。また、外部電極14,15に吸蔵される水素は、水素原子や水素イオンや水素同位体など、水素のとりうるいずれの状態であってもよい。
【0071】
本実施形態では、ステップS03の第1ニッケル膜141,151の形成後に、ステップS04の熱処理を行う。これにより、第1ニッケル膜141,151等に吸蔵された水素が外部に放出されて除去される。
【0072】
さらに、この熱処理によって、第1ニッケル膜141,151の再結晶化が促進され、第1ニッケル膜141,151が水素の拡散を抑制する構成となる。つまり、第1ニッケル膜141,151は、再結晶組織を含む。これにより、第2ニッケル膜142,152及び表層膜143,153の形成時に水素が発生しても、第1ニッケル膜141,151によって当該水素の拡散が抑制され、セラミック素体11への水素の侵入が妨げられる。また、積層セラミックコンデンサ10の外部からの水素の侵入も妨げられる。このため、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11内への水素の拡散が抑制される。
【0073】
なお、第1ニッケル膜141,151の再結晶組織は、第2ニッケル膜142,152と比較して、転移や格子欠陥が少ない結晶組織として確認することができる。また第1ニッケル膜141,151の再結晶組織は、第2ニッケル膜142,152と比較して結晶粒が大きくなっている。これらの結晶組織の確認方法としては、例えば対象表面を化学研磨した後、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で500~5000倍で観察する方法を用いることができる。
【0074】
例えば、第1ニッケル膜141,151の再結晶組織の検証方法としては、まず第1ニッケル膜141,151及び第2ニッケル膜142,152の組織を確認し、次に第2ニッケル膜142,152にステップS04と同程度の熱処理(検証用熱処理と称する)をし、検証用熱処理後の第2ニッケル膜142,152の組織と、検証用熱処理前の第1ニッケル膜141,151の組織とを比較する。検証用熱処理後の第2ニッケル膜142,152の組織が、検証用熱処理前の第1ニッケル膜141,151の組織と同様の組織に変化している場合、第1ニッケル膜141,151が、ステップS04の熱処理によって再結晶組織となっていることを確認することができる。
【0075】
つまり、本実施形態では、セラミック素体11、下地膜140,150及び第1ニッケル膜141,151に吸蔵された水素の放出と、水素の拡散を抑制する拡散抑制層の形成とが、同一の熱処理工程において行われる。したがって、水素の放出及び拡散抑制層の形成に伴うセラミック素体11等への熱負荷を最小限に抑制しつつ、水素の悪影響を受けにくい構成を得ることができる。
【0076】
第1ニッケル膜141,151の厚さは、例えば、1.0μm以上10.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上4.5μm以下とすることができる。第1ニッケル膜141,151の厚さは、例えば、端面11a,11b上の領域の厚さであって、Z軸方向及びY軸方向における中央部の、X軸方向に沿った寸法とすることができる。
【0077】
第1ニッケル膜141,151の厚さを1.0μm以上とすることで、第1ニッケル膜141,151が下地膜140,150を十分に覆い、水素の拡散を効果的に抑制できる。また、下地膜140,150の成分が第1ニッケル膜141,151の表面まで拡散しにくくなり、当該表面と第2ニッケル膜142,152との密着性が高められる。第1ニッケル膜141,151の厚さを10.0μm以下とすることで、第1ニッケル膜141,151の形成によって発生する水素量を抑制し、水素を放出させる熱処理の条件を緩和することができる。さらに、第1ニッケル膜141,151の厚さを4.5μm以下とすることで、外部電極14,15の厚さを抑制し、積層セラミックコンデンサ10の小型化を図ることができる。
【0078】
ここで、熱処理された第1ニッケル膜141,151の表面は、酸化膜が形成されやすく、不安定な状態である。このような第1ニッケル膜141,151上に表層膜143,153を直接形成した場合、はんだによる実装工程において、はんだの濡れ性が低下し、はんだによる良好な接合が得られない可能性がある。
【0079】
また、第1ニッケル膜141,151の不安定な表面に表層膜143,153が形成された場合、表層膜143,153の密着性が低下し、表層膜143,153の剥がれ等の不具合が生じる可能性もある。
【0080】
そこで、本実施形態では、熱処理された第1ニッケル膜141,151上に、第2ニッケル膜142,152を形成する。酸化の影響の少ない第2ニッケル膜142,152が表層側に配置されることによって、はんだの濡れ性の低下を抑制することができる。
【0081】
また、第2ニッケル膜142,152は第1ニッケル膜141,151と同種の金属又は合金を用いているため、第1ニッケル膜141,151と第2ニッケル膜142,152との密着性は十分に確保できる。さらに、表層膜143,153は、酸化膜等の影響の少ない第2ニッケル膜142,152上に形成されるため、第2ニッケル膜142,152と表層膜143,153との密着性も十分に確保できる。これにより、外部電極14,15の各メッキ膜の密着性を高め、メッキ膜の剥がれを防止することができる。
【0082】
また、熱処理により、第1ニッケル膜141,151の水素濃度は減少する。一方で、第2ニッケル膜142,152には、熱処理後のメッキ工程において発生した水素が吸蔵される。したがって、第2ニッケル膜142,152の水素濃度は、第1ニッケル膜141,151の水素濃度よりも高くなる。なお、水素濃度は、ニッケル膜の主成分であるニッケル又はその合金を100モル%とした場合の水素の濃度(モル%)とすることができる。
【0083】
水素濃度の測定には、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)が用いられる。水素濃度を測定するための試料としては、例えば、積層セラミックコンデンサ10をX-Z平面に平行に切断したものを用いることができる。当該試料の断面は、例えば、ダイヤモンドペースト等を用いた鏡面研磨を施して、測定に十分な平滑性が得られるように処理される。
【0084】
第2ニッケル膜142,152の厚さは、例えば、1.5μm以上6.0μm以下とすることができる。第2ニッケル膜142,152の厚さは、例えば、端面11a,11b上の領域の厚さであって、Z軸方向及びY軸方向における中央部の、X軸方向に沿った寸法とすることができる。
【0085】
第2ニッケル膜142,152の厚さを1.5μm以上とすることで、第2ニッケル膜142,152が、熱処理された第1ニッケル膜141,151を十分に覆う構成となる。これにより、実装時におけるはんだの濡れ性を十分に確保できるとともに、表層膜143,153の密着性を高めることができる。第2ニッケル膜142,152の厚さを6.0μm以下とすることで、外部電極14,15の厚さを抑制し、積層セラミックコンデンサ10の小型化を図ることができる。
【0086】
次に、試験の結果を示して、本実施形態の作用効果をさらに説明する。
【0087】
[試験例]
セラミック素体11に異なる構成の外部電極を形成した試験用チップに対して、昇温脱離ガス分析(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)を行った。TDSでは、100℃から1000℃まで昇温させながら、50mg分の試験用チップ(約8個の電子部品)から脱離する水素量を測定した。
【0088】
図7は、TDSの結果を示すグラフであり、横軸は試験用チップの番号、縦軸は50mg分の試験用チップから脱離した水素の総量を示す。具体的に、縦軸は、50mg分の試験用チップ1から脱離した水素分子の個数を基準とした場合の、50mg分の各試験用チップから脱離した水素分子の個数の相対量を示している。
【0089】
試験用チップは、セラミック素体に対して、Cuを主成分とする40μmの厚さの下地膜を形成し、当該下地膜上にそれぞれ所定のメッキ膜を形成したものである。セラミック素体のサイズとしては、X軸方向における寸法が約1.5mm、Y軸方向における寸法が約0.7mm、Z軸方向における寸法が約0.7mmである。
【0090】
試験用チップ1~3は、いずれも、3μmの厚さの第1ニッケル膜を有する。試験用チップ1は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、熱処理を行っていないも
のである。試験用チップ2は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、450~550℃で20分間、弱還元雰囲気によって熱処理したものである。試験用チップ3は、下地膜、第1ニッケル膜及び第2ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、試験用チップ2と同一の条件で熱処理したものである。試験用チップ3の第2ニッケル膜の厚さは、6μmである。
【0091】
試験用チップ4~6は、いずれも、6μmの厚さの第1ニッケル膜を有する。試験用チップ4は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、熱処理を行っていないものである。試験用チップ5は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、試験用チップ2と同一の条件で熱処理したものである。試験用チップ6は、下地膜、第1ニッケル膜及び第2ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、試験用チップ2と同一の条件で熱処理したものである。試験用チップ6の第2ニッケル膜の厚さは、6μmである。
【0092】
試験用チップ7~9は、いずれも、10μmの厚さの第1ニッケル膜を有する。試験用チップ7は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、熱処理を行っていないものである。試験用チップ8は、下地膜及び第1ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、試験用チップ2と同一の条件で熱処理したものである。試験用チップ9は、下地膜、第1ニッケル膜及び第2ニッケル膜からなる外部電極を有し、第1ニッケル膜の形成後、試験用チップ2と同一の条件で熱処理したものである。試験用チップ9の第2ニッケル膜の厚さは、6μmである。
【0093】
図7を参照し、熱処理を行っていない試験用チップ1と熱処理を行った試験用チップ2の結果を比較すると、試験用チップ2の水素脱離量が大幅に減少していた。試験用チップ4と5、試験用チップ7と8の結果も同様であった。TDSにおいて水素脱離量が少ないということは、試験用チップに含まれていた水素が少ないことを意味する。つまり、これらの結果により、熱処理によって第1ニッケル膜等に吸蔵された水素が外部に放出されることがわかった。
【0094】
6μm及び10μmの第1ニッケル膜を有する試験用チップ4及び7では、3μmの第1ニッケル膜を有する試験用チップ1と比較して、水素脱離量が大幅に多かった。このことから、第1ニッケル膜を厚く形成すると、第1ニッケル膜等に吸蔵される水素量が多くなることがわかった。
【0095】
一方で、6μm及び10μmの第1ニッケル膜を有し熱処理を行った試験用チップ5及び8では、熱処理を行っていない試験用チップ4及び7と比較して、水素脱離量が大幅に減少していた。このことから、第1ニッケル膜を6μm又は10μmの厚さで形成した場合でも、吸蔵された水素を熱処理によって十分に放出できることがわかった。
【0096】
第2ニッケル膜を有する試験用チップ3では、第2ニッケル膜を有さない試験用チップ2と比較して、水素脱離量が多かった。試験用チップ6と5、試験用チップ9と8でも、同様の結果が得られた。このことから、熱処理後に第2ニッケル膜を形成すると、外部電極に水素が吸蔵されることがわかった。
【0097】
次に、熱処理によって水素の悪影響が抑制されるか確認するため、各試験用チップに対して、高速加速寿命試験(HALT:Highly Accelerated Limit Test)を行った。HALTにおいては、各試験用チップ1~9を10個ずつ準備し、150℃、400時間の条件下で、200Vの電圧を印加し、絶縁不良となるチップの個数をカウントした。
【0098】
この結果、第1ニッケル膜の形成後、熱処理を行っていない試験用チップ1、4及び7では、10個全てが絶縁不良となった。一方で、第1ニッケル膜の形成後、熱処理を行った試験用チップ2,3,5,6,8及び9では、いずれのチップも絶縁不良とならなかった。
【0099】
この結果から、熱処理を行わなかった場合には、高温、高電圧印加等によって、外部電極に吸蔵された水素がセラミック素体の対向領域まで拡散し、絶縁抵抗低下が発生しやす
いことがわかった。一方で、試験用チップ2,3,5,6,8及び9のように熱処理を行った場合は、過酷な条件下でも、水素による絶縁抵抗低下が抑制されることがわかった。
【0100】
特に、熱処理後、第2ニッケル膜を形成した試験用チップ3,6及び9についても、絶縁不良を抑制することができた。これにより、第2ニッケル膜の形成によって外部電極が水素を吸蔵した場合でも、熱処理された第1ニッケル膜が水素の拡散を抑制する構成となっており、セラミック素体への水素による悪影響が抑制されることがわかった。
【0101】
さらに、各10個の試験用チップ3,6及び9に対して4μmの錫メッキ膜を形成し、リフロー法によって基板へはんだ付けしたところ、いずれのチップもはんだの濡れ性が良好で、実装不良とならなかった。また、これらの試験用チップ3,6及び9の外部電極を目視および実体顕微鏡により確認したところ、いずれのチップもメッキ膜の剥がれが確認されなかった。
【0102】
したがって、本実施形態により、水素の悪影響を受けにくく、メッキ膜の密着性が良好で、かつはんだとの接合性を十分に確保することが可能な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0103】
なお、図7のTDSの結果からわかるように、発生する水素量を低減する観点からは、メッキ膜の層数を削減することが考えられる。一方で、本実施形態では、第1ニッケル膜を再結晶化させる温度で熱処理した後に、敢えて第2ニッケル膜を設ける。これにより、本実施形態によれば、第1ニッケル膜を水素の拡散を抑制する拡散抑制層として機能させて水素の悪影響を抑制しつつ、表層膜との密着性やはんだの濡れ性の問題を解決することができる。
【0104】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0105】
本発明に係る外部電極の構成は、上記実施形態のような4層構造に限定されず、少なくとも下地膜、第1ニッケル膜及び第2ニッケル膜の3層を有していればよい。例えば、本発明に係る外部電極は、5層以上の構成であってもよい。
【0106】
また、本発明は、積層セラミックコンデンサのみならず、外部電極を有する積層セラミック電子部品全般に適用可能である。本発明を適用可能な積層セラミック電子部品としては、積層セラミックコンデンサ以外に、例えば、チップバリスタ、チップサーミスタ、積層インダクタなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0107】
10…積層セラミックコンデンサ(積層セラミック電子部品)
11…セラミック素体
12,13…内部電極
14,15…外部電極
140,150…下地膜
141,151…第1ニッケル膜
142,152…第2ニッケル膜
143,153…表層膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7