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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147849
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ボルト共回り防止用工具
(51)【国際特許分類】
   B25B 13/00 20060101AFI20241009BHJP
   F16B 39/10 20060101ALI20241009BHJP
   B25B 23/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B25B13/00 C
F16B39/10 A
B25B23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060513
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮廻 康則
(72)【発明者】
【氏名】檜木 朋章
(72)【発明者】
【氏名】山尾 雄大
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA03
3C038AA04
3C038DA05
3C038EA01
(57)【要約】
【課題】ボルトやナットに係合する部分から回り止めを防ぐために係止する箇所までの距離が異なる場合や係止する箇所が取り外そうとしているボルトやナットと同じ面上に存在しているか否かに関わらず適用することが可能なボルト共回り防止用工具を提供する。
【解決手段】ボルト共回り防止用工具1は、ソケット部2aとアーム部2bからなる工具本体2と、ソケット部2aに設けられボルトの頭部又はナットに係合する六角形の固定穴7の中心軸と平行をなすように先端がアーム部2bに固定された棒状の固定部材3と、アーム部2bに設けられ平面視長方形状をなすガイド溝8の内部に長手方向へスライド可能に設置されたスライド部材4と、固定穴7の中心軸と直交する平面内で回転可能に固定部材3を介してアーム部2bに固定された係止部材5と、アーム部2bに埋設された一対の磁石6、6を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナットに螺合されたボルトを前記ナットから取り外す際に用いられるボルト共回り防止用工具であって、
ボルト頭部又は前記ナットに係合する固定穴を有するソケット部と、
このソケット部の側面から前記固定穴の半径方向へ延設されたアーム部と、からなる工具本体と、
前記アーム部に設置された細長いスライド部材と、を備え、
前記アーム部は、前記ソケット部から離れる方向へ前記スライド部材をスライド可能に保持するともに、前記スライド部材のスライドに伴って一端が前記アーム部の外へ突出可能に形成されていることを特徴とするボルト共回り防止用工具。
【請求項2】
前記アーム部に対し、前記固定穴の中心軸と直交する平面内で回転可能に設置された係止部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載のボルト共回り防止用工具。
【請求項3】
前記アーム部に磁石が埋設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボルト共回り防止用工具。
【請求項4】
前記工具本体は、少なくとも前記アーム部が磁性体からなることを特徴とする請求項3に記載のボルト共回り防止用工具。
【請求項5】
円柱状の軸部と、この軸部の基端に設けられる頭部と、からなり、前記スライド部材を前記アーム部に連結する固定部材と、
上方が開口するとともに前記固定部材の前記軸部の先端が底面に固定されたガイド溝と、を備え、
前記スライド部材は、長手方向に細長く形成され前記固定部材の前記軸部が挿通されるとともに前記頭部を挿通不能なガイド穴を有するとともに、前記ガイド溝内に設置され、
前記アーム部は、前記スライド部材の前記一端が前記アーム部の外へ突出可能に、前記側面の一部が切り欠かれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のボルト共回り防止用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔のアングル材などにボルトとナットを締結したり、緩めたりする際に、ボルトとナットが一緒に回転してしまうことを防ぐボルト共回り防止用工具に係り、特に、簡単な構造でありながら適用範囲が広く、汎用性が高いボルト共回り防止用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔の地上部付近には、一般公衆に対する災害予防を目的として昇塔による災害に対する注意を喚起する標識(安全施設標識)が設けられている。この標識が経年劣化した場合、標識そのものが取り替えられるが、標識を鉄塔に固定するボルトが劣化した場合には、ボルトのみが個別に取り替えられる。いずれの場合にも墜落制止用器具を装着した作業者が昇塔し、腐食したボルトを緩めて外した後、新品のボルトを取り付けるという作業が行われる。
このとき、取り外されるボルトが腐食していたり、ボルトに塗膜が付着していたりすることがあり、ボルトを緩める際にボルト本体が共回りする場合がある。この場合、作業者は、自分から見て裏側に配置されたボルトの頭をモンキーレンチなどによって固定しながら、ラチェットレンチを用いてナット部分を緩めることになるが、鉄塔上では作業姿勢が限定されるため、モンキーレンチの把持部とボルトの頭が、ずれてしまうことが多い。また、ボルトが硬く締め付けられている場合には、両手にモンキーレンチとラチェットをそれぞれ持って、ボルトを緩める作業を行うのは困難であり、必要以上に体力を消耗してしまう。
【0003】
このような課題に対処するものとして、例えば、特許文献1には「共廻り防止治具」という名称で、ボルト及びナットの一方を回転させて締結する際に他方の共廻りを防止するための治具に関する発明が開示されている。
特許文献1の図面に示された符号を用いて説明すると、特許文献1に開示された発明は、締結対象物の表面に配置されたナット22が挿入される貫通孔14が設けられた第1固定部12と、この第1固定部12に対して直角に設けられた第2固定部13と、この第2固定部13に対しその厚み方向へ設けられた第2貫通孔13aに挿通された固定ボルト15を備えた構造となっている。
このような構造によれば、隣り合う2つのナット22を1つの大型部材で同時に固定するものではないため、治具を小型・軽量化することができる。
【0004】
また、特許文献2には「ボルトナット回止め工具」という名称で、配管部材のフランジ部同士を固定するボルトとナットを締結したり、その締結を解除したりする際にボルトやナットの回止めをする工具に関する考案が開示されている。
特許文献2の図面に示された符号を用いて説明すると、特許文献2に開示された考案は、ナットNやボルト頭部Bhの厚さと同程度の厚さを有し、六角係合部を有するソケット部2と、このソケット部2と同厚に形成されるアーム部3と、このアーム部3からフランジ部の板厚方向に、かつ、フランジ部の外周外側に突出するように形成されたストッパ部4と、アーム部3とストッパ部4に回動可能に取り付けられたロッド部材6と、このロッド部材6の先端部分に設けられた係止部材7を備えた構造となっている。
このような構造によれば、ストッパ部4の回り止め壁部4aがフランジ部の外周面に点接触又は局部接触する状態になり、工具本体がボルト頭部Bhを回り止めする状態になるため、ナットNの締結作業を能率的に行うことができる。
【0005】
さらに、特許文献3には「ボルトナット回止器」という名称で、被固定部位を固定したボルトナットを取外す際にボルト又はナットの一方の回り止めを行うための工具に関する発明が開示されている。
特許文献3の図面に示された符号を用いて説明すると、特許文献3に開示された発明は、六角のナットCnの周側面(又は六角のボルトCbの頭部Cbhの周側面)に係合可能な筒形(リング形)をなすレンチ口部2と、所定の厚さを有する長方形状に形成され、中間位置を山形に折曲して側面視がへの字形をなすストッパ部3と、このストッパ部3とレンチ口部2を連結するアーム部4を備えた構造となっている。
このような構造によれば、レンチ口部2、ストッパ部3及びレンチ口部2とストッパ部3を連結するアーム部4が一体的に構成されているため、被固定部位の規模やボルトナットのサイズが大きい場合でも、全体の小型化を図ることができる。
【0006】
そして、特許文献4には「ボルト/ナットの供回り防止具」という名称で、送電用鉄塔のアングル材を締結しているボルト・ナットを緩める際に作業者から見て裏面側に隠れているボルト頭部を固定しておくのに適した工具に関する発明が開示されている。
特許文献4の図面に示された符号を用いて説明すると、特許文献4に開示された発明は、供回り防止対象のボルト5の頭部51が嵌合される穴部11を有するソケット部10と、穴部11を覆う蓋体からなる係止部材15と、ソケット部10の周面から半径方向外方(穴部11の軸芯と直交する半径方向外方)へ延設されているアーム部20と、アーム部20内に埋設されている磁石30を備えた構造となっている。
このような構造によれば、めがねレンチを使用できない場合やめがねレンチの使用に適さない場合でも、ボルト/ナットを確実に固定しておくことが可能である。
【0007】
また、特許文献5には「供回り防止治具」という名称で、配管のフランジ等のボルト又はナットを弛めたり、締め付けを行ったりする際に、反対側が供回りをするのを防止する治具に関する考案が開示されている。
特許文献5の図面に示された符号を用いて説明すると、特許文献5に開示された考案は、中央に六角形の固定穴2が形成されたフレーム1と、固定穴2に取り付けられた蝶ナット3と、フレーム1から一旦水平方向に延長された後、垂直方向に折り曲げられるようにして形成されたストッパー4を備えた構造となっている。
このような構造によれば、両手を使用してボルト又はナットの締め付けを行うことができるとともに、転落やスパナの落下等の事故が発生し難いため、作業時の安全性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-039191号公報
【特許文献2】実用新案登録第3191550号公報
【特許文献3】特開2011-025336号公報
【特許文献4】特開2009-034733号公報
【特許文献5】実開平4-133574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された発明は、フランジの側面に固定ボルト15の先端を当接させることによって、そのフランジに取り付けられたナット22の回転を阻止する構造となっているため、ナットからフランジの側面までの距離が長い場合には、固定ボルト15の先端をフランジの側面に当接させることができない場合がある。また、アングル材の内側にナットが取り付けられている場合のように、固定ボルト15の先端を当接させる場所が無い時には、使用することができないという課題があった。
また、特許文献2に開示された考案は、ロッド部材6の長さ方向に対する係止部材7の位置を調節できる構造となっているため、厚さの異なるフランジ部に取り付けられている複数種類のナットNに対して使用できるものの、取り外そうとしているナットNが取り付けられている板材の同じ面に取り付けられている他のナットNに係止部材7を係止させるような使い方ができないという課題があった。
【0010】
特許文献3に開示された発明は、レンチ口部2とストッパ部3の距離を変えることができないため、レンチ口部2が係合するナットCn又はボルトCbと、ストッパ部3を係止させる部分までの距離が異なる物に対しては適用できないという課題があった。
また、特許文献4に開示された発明では、アーム部20に穴部11の軸芯と平行な部分が無いため、取り外そうとしているナットが板材に取り付けられており、そのナットが取り付けられている面上にアーム部20を係止できるものが存在しない場合には適用できないという課題があった。
さらに、特許文献5に開示された考案では、ストッパー4がフレーム1から一旦水平方向に延長された後、垂直方向に折り曲げられるようにして形成されているため、取り外そうとしているナットが板材に取り付けられており、そのナットが取り付けられている面上に取り付けられている別のナットにストッパー4を係止させるような使い方ができないという課題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、ボルトやナットに係合する部分から回り止めを防ぐために係止する箇所までの距離が異なる場合や係止する箇所が取り外そうとしているボルトやナットと同じ面上に存在しているか否かに関わらず適用することが可能なボルト共回り防止用工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、第1の発明は、ナットに螺合されたボルトをナットから取り外す際に用いられるボルト共回り防止用工具であって、ボルト頭部又はナットに係合する固定穴を有するソケット部と、このソケット部の側面から固定穴の半径方向へ延設されたアーム部と、からなる工具本体と、アーム部に設置された細長いスライド部材と、を備え、アーム部は、ソケット部から離れる方向へスライド部材をスライド可能に保持するともに、スライド部材のスライドに伴って一端がアーム部の外へ突出可能に形成されていることを特徴とする。
第1の発明においては、ソケット部の固定穴をボルト頭部又はナットの一方に係合させた状態でラチェットレンチなどを用いてボルト頭部又はナットの他方を緩めるように回転させると、ソケット部とアーム部がボルト頭部又はナットの他方とともに回転し、ボルトやナットが取り付けられている面に対して垂直に曲折された部分や突起部分などにアーム部の側面が当接した時点でボルト頭部又はナットの一方の回転が不能な状態になるという作用を有する。
また、スライド部材をスライドさせることにより、スライド部材がアーム部の側面から突出する部分の長さが変化するという作用を有する。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、アーム部に対し、固定穴の中心軸と直交する平面内で回転可能に設置された係止部材を備えていることを特徴とする。
第2の発明においては、第1の発明の作用に加え、ソケット部の固定穴をボルト頭部又はナットの一方に係合させた状態でラチェットレンチなどを用いてボルト頭部又はナットの他方を緩めるように回転させると、ソケット部とアーム部がボルト頭部又はナットの他方とともに回転し、ボルトやナットが取り付けられている板材の端面などに係止部材が係止する結果、ボルト頭部又はナットの他方の回転が不能な状態になるという作用を有する。
【0014】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明において、アーム部に磁石が埋設されていることを特徴とする。
第3の発明は、ボルトやナットが磁性体に取り付けられている場合には、第1の発明又は第2の発明の作用に加え、アーム部が磁石によって上記磁性体に固定されるという作用を有する。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、工具本体は、少なくともアーム部が磁性体からなることを特徴とする。
第4の発明においては、磁石によって工具本体が磁化するため、ボルトやナットが取り付けられている磁性体に対してアーム部が磁石によって固定されるという第3の発明の作用がより一層発揮される。
【0016】
第5の発明は、第1の発明又は第2の発明において、円柱状の軸部と、この軸部の基端に設けられる頭部と、からなり、スライド部材をアーム部に連結する固定部材と、上方が開口するとともに固定部材の軸部の先端が底面に固定されたガイド溝と、を備え、スライド部材は、長手方向に細長く形成され固定部材の軸部が挿通されるとともに頭部を挿通不能なガイド穴を有するとともに、ガイド溝内に設置され、アーム部は、スライド部材の一端がアーム部の外へ突出可能に、側面の一部が切り欠かれていることを特徴とする。
第5の発明では、第1の発明又は第2の発明の作用を有することに加え、アーム部によってスライド部材がソケット部から離れる方向へスライド可能に保持されるともに、スライド部材をスライドさせると、その一端がアーム部の外へ突出するという機能が簡単な構造によって実現される。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、ボルトやナットが取り付けられている面に対して垂直に曲折された部分や突起部分が存在する場合には、その部分にアーム部を係止させることで、ボルトやナットの共回りを防いで、ボルトやナットの取り外し作業を容易に行うことができる。また、ボルト又はナットにアーム部の固定穴を係合させた状態で、アーム部を上述の突起部分等に係止させることができない場合でも、スライド部材がアーム部の側面から突出する部分の長さを変えることで、スライド部材を上述の突起部分等に係止させることができるため、第1の発明は汎用性が高いという効果を有している。
【0018】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加え、ボルトやナットが取り付けられている板材において、その表面にアーム部を係止可能な突起部分等が存在しない場合でも、板材の端面などに係止部材を係止させることで、ボルトやナットの共回りを防ぐことができるという効果を奏する。
【0019】
第3の発明によれば、第1の発明又は第2の発明の効果に加え、ソケット部の固定穴からボルトやナットが不用意に外れるおそれがないため、作業時の安全性が高まるという効果を奏する。
【0020】
第4の発明によれば、磁石によって工具本体が磁化するため、ボルトやナットが取り付けられている磁性体にアーム部が磁石によって固定されるという第3の発明の作用がより一層発揮されるため、ソケット部の固定穴からボルトやナットが不用意に外れるおそれがなく、作業時の安全性が高いという第3の発明の効果が確実に発揮される。
【0021】
第5の発明によれば、第1の発明又は第2の発明の効果に加え、アーム部によって保持されるスライド部材をソケット部から離れる方向へスライドさせると、その一端がアーム部の外へ突出するという機能が簡単な構造によって実現されることから、製造コストを安くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】(a)は本発明の実施の形態に係るボルト共回り防止用工具の正面図であり、(b)及び(c)はそれぞれ工具本体の正面図及び背面図である。
図2】(a)及び(b)はそれぞれスライド部材の正面図及び背面図であり、(c)及び(d)はそれぞれ係止部材の正面図及び背面図であり、(e)は固定部材の外観図であり、(f)及び(g)はそれぞれ図1(a)におけるA-A線矢視断面図及びB-B線矢視断面図であり、(h)及び(i)はそれぞれ図1(b)におけるC-C線矢視断面図及びD-D線矢視断面図である。
図3】(a)は板材がボルトとナットによってアングル材の外面に締結された状態を示した図であり、(b)は同図(a)においてアングル材の内側に設置されたナットに取り付けられた図1(a)のボルト共回り防止用工具をアングル材の内側から見た状態を示した図である。
図4】(a)は板材がボルトとナットによってアングル材の内面に締結された状態を示した図であり、(b)は同図(a)においてアングル材の内側に設置されたボルトに取り付けられた図1(a)のボルト共回り防止用工具をアングル材の内側から見た状態を示した図である。
図5】(a)及び(b)はそれぞれ図4(a)においてアングル材の外側に設置されたナットに取り付けられたボルト共回り防止用工具をアングル材の外側及び内側から見た状態を示した図である。
図6】アングル材の内面に設置されたボルトの頭部にボルト共回り防止用工具が取り付けられた状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態に係るボルト共回り防止用工具の構造とその作用及び効果について、図1乃至図6を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の説明では、便宜上、本実施の形態に係るボルト共回り防止用工具において、工具本体に接触する面を「下面」と表現するとともに、この「下面」に平行な面を「上面」と表現している。
【実施例0024】
図1(a)は本発明の実施の形態に係るボルト共回り防止用工具1の正面図であり、図1(b)及び図1(c)はそれぞれ図1(a)に示した工具本体2の正面図及び背面図である。また、図2(a)及び図2(b)はそれぞれ図1(a)に示したスライド部材4の正面図及び背面図であり、図2(c)及び図2(d)はそれぞれ図1(a)に示した係止部材5の正面図及び背面図であり、図2(e)は図1(a)に示した固定部材3の外観図である。そして、図2(f)及び図2(g)はそれぞれ図1(a)におけるA-A線矢視断面図及びB-B線矢視断面図であり、図2(h)及び図2(i)はそれぞれ図1(b)におけるC-C線矢視断面図及びD-D線矢視断面図である。
【0025】
図1(a)乃至図1(c)に示すように、ボルト共回り防止用工具1は、ソケット部2aとアーム部2bからなる工具本体2と、ソケット部2aに設けられボルトの頭部又はナットに係合する六角形の固定穴7の中心軸7a(図2(h)を参照)と平行をなすように先端3a(図2(e)を参照)がアーム部2bに固定された棒状の固定部材3と、アーム部2bに設けられ平面視長方形状をなすガイド溝8の内部に長手方向へスライド可能に設置されたスライド部材4と、固定穴7の中心軸7aと直交する平面内で回転可能に固定部材3を介してアーム部2bに固定された係止部材5と、アーム部2bに埋設された一対の磁石6、6を備えている。
【0026】
工具本体2は平面視した場合にそれぞれ六角形をなすソケット部2aとアーム部2bがその六角形の1辺を共有するような形状をなしており、アーム部2bはソケット部2aの側面から固定穴7の半径方向に延設されている。また、アーム部2bの5つの側面2c~2gのうち、ソケット部2aから最も遠い側面2eにガイド溝8と連続するような切り欠き2hが設けられている。そして、アーム部2bには、磁石6が内部に設置される凹部9がガイド溝8を間に挟むようにしてその両側にそれぞれ設けられている。
さらに、ガイド溝8の内部には固定部材3の先端3aが嵌入される嵌合穴10が設けられており、スライド部材4には、ガイド溝8の内部に設置された状態で、嵌合穴10に先端3a(図2(e)を参照)が嵌入された状態の固定部材3が内部に配置される細長いガイド穴11がガイド溝8の長手方向と平行をなすように設けられている。
【0027】
図2(a)及び図2(b)に示すように、平面視長方形状をなすスライド部材4は、工具本体2のアーム部2bに設けられたガイド溝8の内部に配置可能に形成された板材からなり、ガイド溝8の底面8a(図2(h)を参照)と平行に配置される上面4aと下面4bに対して垂直にガイド穴11が設けられている。そして、スライド部材4は、下面4bが底面8aに接触した状態でガイド溝8の内部に設置されている。
図2(c)及び図2(d)に示すように、係止部材5は平面視長方形状をなす板材からなり、互いに平行をなす上面5aと下面5bに対し、固定部材3が挿通される円形の貫通穴5cが垂直に設けられている。
【0028】
図2(e)に示すように、固定部材3は先端3aがアーム部2bの嵌合穴10に嵌入される円柱状の軸部3cと、この軸部3cの基端3bに設けられて平面視円形状をなす頭部3dからなる。なお、軸部3cの外径は係止部材5の貫通穴5cの内径及びスライド部材4のガイド穴11の幅よりも小さく、頭部3dの外径は係止部材5の貫通穴5cの内径よりも大きい。そのため、固定部材3は、図2(f)及び図2(g)に示すように係止部材5の貫通穴5c及びスライド部材4のガイド穴11に軸部3cが連通するとともに先端3aがアーム部2bの嵌合穴10に嵌入された場合に、頭部3dが係止部材5に係止する。
【0029】
すなわち、ボルト共回り防止用工具1は、固定部材3によってスライド部材4がガイド溝8の内部で長手方向へスライド可能な状態で工具本体2に連結されるとともに、係止部材5が固定部材3によって軸部3cを中心として回転可能な状態で工具本体2に連結される構造となっている。
また、前述したように、アーム部2bは側面2eに切り欠き2hが設けられていることから、ガイド溝8は、図2(h)及び図2(i)に示すように平面視長方形状をなす底面8aの輪郭線の3辺をそれぞれ構成する3つの内壁面8b~8dを有する一方、ソケット部2aから最も遠い面が開口している。これにより、ボルト共回り防止用工具1では、ガイド溝8の内部に配置されたスライド部材4を長手方向へスライドさせることにより、一端4c(図2(a)を参照)がソケット部2aから離れる方向へアーム部2bの側面2eから突出する構造となっている。
【0030】
図3(a)は板材12がボルト13とナット14によってアングル材15の外面15aに締結された状態を示しており、図3(b)は図3(a)においてアングル材15の内側に設置されたナット14に取り付けられたボルト共回り防止用工具1をアングル材15の内側から見た状態を示している。
図3(a)に示すようにアングル材15の外面15aに板材12を締結しているボルト13とナット14を取り外す場合、図3(b)に示すようにソケット部2aの固定穴7をボルト13の軸部13bに螺合しているナット14に係合させた状態でラチェットレンチなどによってボルト13が緩む方向へ頭部13aを回転させる。このとき、ナット14とともに回転するボルト共回り防止用工具1は、アーム部2bの側面2dがアングル材15の内面15bに当接した時点で回転不能な状態となる。
【0031】
なお、ボルト13の軸部13bの軸中心と平行をなすようにアングル材15が曲折された部分の内面15bとナット14の距離が図3(a)又は図3(b)に示した状態と異なる場合、アーム部2bにおいて側面2cと側面2dの境界部分や側面2eがアングル材15の上述の内面15bに当接することもある。また、固定部材3がアングル材15の内面15bの側を向くようにボルト共回り防止用工具1がナット14に取り付けられた場合には、アーム部2bにおいて側面2fや側面2gがアングル材15の上述の内面15bに当接することもある。いずれにしてもボルト共回り防止用工具1では、ソケット部2aの固定穴7がナット14に係合した状態で、アーム部2bの側面2c~2gのいずれか又はそれらの内の2つの側面の境界部分がアングル材15の内面15bに当接することにより、ナット14の共回りを防止するという機能を有している。また、アングル材15が磁性体である場合には、一対の磁石6、6がアーム部2bを内面15bに固定するように作用する。この場合、固定穴7からボルト13の頭部13aが不用意に外れるおそれがないため、作業時の安全性が高まる。
なお、工具本体2は繊維強化プラスチックや硬質プラスチックによって形成されても良いが、アングル材15が磁性体の場合、工具本体2が磁性体であれば、磁石6によって磁化されたアーム部2bがアングル材15に固定されるため、ソケット部2aの固定穴7からボルト13やナット14が不用意に外れるおそれがなく、作業時の安全性が高まるというメリットがある。
【0032】
図4(a)は板材12がボルト13とナット14によってアングル材15の内面15bに締結された状態を示しており、図4(b)は図4(a)においてアングル材15の内側に設置されたボルト13に取り付けられボルト共回り防止用工具1をアングル材15の内側から見た状態を示している。
図4(a)に示すようにアングル材15の内面15bに板材12を締結しているボルト13とナット14を取り外す場合、図4(b)に示すようにソケット部2aの固定穴7をボルト13の頭部13aに係合させた状態でラチェットレンチなどによってナット14を緩む方向へ回転させる。このとき、ボルト13とともに回転するボルト共回り防止用工具1は、アーム部2bの側面2dがアングル材15の内面15bに当接した時点で回転不能な状態となる。この場合、ボルト共回り防止用工具1では、ソケット部2aの固定穴7がボルト13の頭部13aに係合した状態で、アーム部2bの側面2dがアングル材15の内面15bに当接することにより、ボルト13の共回りが防止されるという作用が発揮されることになる。
【0033】
図5(a)及び図5(b)はそれぞれ図4(a)においてアングル材15の外側に設置されたナット14に取り付けられたボルト共回り防止用工具1をアングル材15の外側及び内側から見た状態を示している。なお、図5(a)及び図5(b)では板材12の図示を省略している。
図4(a)に示すようにアングル材15の内面15bに板材12を締結しているボルト13とナット14を取り外す場合には、図4(b)に示すようにボルト共回り防止用工具1をボルト13に取り付ける代わりに、図5(a)及び図5(b)に示すように固定部材3がアングル材15の外面15aの側を向くようにボルト共回り防止用工具1を配置してソケット部2aの固定穴7をナット14に係合させるとともに、係止部材5の側面5dをアングル材15の端面15cに係止させることもできる。この場合、ボルト共回り防止用工具1では、ソケット部2aの固定穴7がナット14に係合した状態で、固定部材3がアングル材15の端面15cに係止することによって、ナット14の共回りが防止されるという作用が発揮されることになる。
【0034】
図6はアングル材15の内面15bに設置されたボルト13の頭部13aにボルト共回り防止用工具1が取り付けられた状態を示している。
図6に示すように、アングル材15の内面15bに取り付けられた2つのボルト13、13において、1つ目のボルト13の頭部13aにソケット部2aの固定穴7を係合させた状態で、2つ目のボルト13に対してアーム部2bを係止させることができない場合には、ガイド溝8の内部に配置されたスライド部材4をスライドさせると、スライド部材4がアーム部2bの側面2eから突出する部分をボルト13の頭部13aに係止させることができる。このように、ボルト共回り防止用工具1では、スライド部材4がアーム部2bの側面2eから突出する部分の長さを調節することで、軸部13bの軸中心が平行をなすように設置された2つのボルト13、13の間隔が大きい場合にも適用できるため、汎用性が高い。
【0035】
以上説明したように、ボルト共回り防止用工具1ではアーム部2bによってスライド部材4がソケット部2aから離れる方向へスライド可能に保持されるともに、スライド部材4をスライドさせると、一端4cがアーム部2bの外へ突出するという機能が簡単な構造によって実現されることから、製造コストを安くすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、板材やアングル材などに取り付けられたボルトとナットを取り外す場合だけでなく、上述の板材やアングル材などにボルトとナットを取り付ける場合にも利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…ボルト共回り防止用工具 2…工具本体 2a…ソケット部 2b…アーム部 2c~2g…側面 2h…切り欠き 3…固定部材 3a…先端 3b…基端 3c…軸部 3d…頭部 4…スライド部材 4a…上面 4b…下面 4c…一端 5…係止部材 5a…上面 5b…下面 5c…貫通穴 5d…側面 6…磁石 7…固定穴 7a…中心軸 8…ガイド溝 8a…底面 8b~8d…内壁面 9…凹部 10…嵌合穴 11…ガイド穴 12…板材 13…ボルト 13a…頭部 13b…軸部 14…ナット 15…アングル材 15a…外面 15b…内面 15c…端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6