(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147854
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】アークスタート制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/067 20060101AFI20241009BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241009BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B23K9/067
B23K9/095 505A
B23K9/12 306
B23K9/12 303C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060526
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】下新原 春菜
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA01
4E082DA01
4E082EB02
4E082EC03
4E082EC13
(57)【要約】
【課題】消耗電極式アーク溶接において、常に良好な溶接開始部の品質を得ること。
【解決手段】溶接電流Iwが通電を開始すると時刻t2~t3のホットスタート期間Thに入り、ホットスタート期間Th中は定電流制御によってホットスタート電流を通電すると共に送給速度Fwをホットスタート送給速度に設定し、その後は定電圧制御によって溶接電圧Vwが定常溶接電圧設定値と等しくなるように制御すると共に送給速度Fwを定常送給速度に設定するアークスタート制御方法において、ホットスタート期間Thの後に時刻t3~t4の送給速度増加期間Tuを設け、送給速度増加期間Tu中は送給速度Fwをホットスタート送給速度から定常送給速度まで予め定めた増加率で増加させ、ホットスタート期間Th中のアーク長を検出し、検出したアーク長が長いほど増加率が大きくなるように設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接開始に際して、溶接ワイヤが母材と接触して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、前記ホットスタート期間中は定電流制御によってホットスタート電流を通電すると共に送給速度をホットスタート送給速度に設定し、
その後は定電圧制御によって溶接電圧が定常溶接電圧設定値と等しくなるように制御すると共に前記送給速度を定常送給速度に設定するアークスタート制御方法において、
前記ホットスタート期間の後に送給速度増加期間を設け、前記送給速度増加期間中は前記送給速度を前記ホットスタート送給速度から前記定常送給速度まで予め定めた増加率で増加させ、
前記ホットスタート期間中のアーク長を検出し、前記アーク長が長いほど前記増加率が大きくなるように設定する、
ことを特徴とするアークスタート制御方法。
【請求項2】
前記アーク長を、前記ホットスタート期間の終了時点における前記溶接電圧の値によって検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法。
【請求項3】
前記アーク長を、前記ホットスタート期間中の前記溶接電圧の平均値によって検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法。
【請求項4】
前記送給速度増加期間中は、予め定めた送給速度増加溶接電圧設定値に基づいて前記溶接電圧を制御する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のアークスタート制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好なアークスタート性を得ることができる消耗電極式アーク溶接のアークスタート制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶接開始に際して、溶接ワイヤが母材と接触して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、ホットスタート期間中は定電流制御によってホットスタート電流を通電すると共に送給速度をホットスタート送給速度に設定し、その後は定電圧制御によって溶接電圧が定常溶接電圧設定値と等しくなるように制御すると共に送給速度を定常送給速度に設定するアークスタート制御方法が慣用されている。
【0003】
特許文献1の発明では、上記のホットスタート期間を、溶接電圧の検出値が基準値まで増加した時点で終了して定常期間に移行させるアークスタート制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、アークスタート直後のアーク長がばらつきやすいために、定常のアーク長に収束するまでの過渡期間中の溶接状態が不安定になる場合がある。これにより、スタート部の溶け込み不良やスパッタなどが発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、アークスタート直後のアーク長を円滑に定常アーク長に収束させて、アークスタート部の溶接品質を良好にすることができるアークスタート制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接開始に際して、溶接ワイヤが母材と接触して溶接電流が通電を開始するとホットスタート期間に入り、前記ホットスタート期間中は定電流制御によってホットスタート電流を通電すると共に送給速度をホットスタート送給速度に設定し、
その後は定電圧制御によって溶接電圧が定常溶接電圧設定値と等しくなるように制御すると共に前記送給速度を定常送給速度に設定するアークスタート制御方法において、
前記ホットスタート期間の後に送給速度増加期間を設け、前記送給速度増加期間中は前記送給速度を前記ホットスタート送給速度から前記定常送給速度まで予め定めた増加率で増加させ、
前記ホットスタート期間中のアーク長を検出し、前記アーク長が長いほど前記増加率が大きくなるように設定する、
ことを特徴とするアークスタート制御方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記アーク長を、前記ホットスタート期間の終了時点における前記溶接電圧の値によって検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記アーク長を、前記ホットスタート期間中の前記溶接電圧の平均値によって検出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のアークスタート制御方法である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記送給速度増加期間中は、予め定めた送給速度増加溶接電圧設定値に基づいて前記溶接電圧を制御する、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のアークスタート制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアークスタート制御方法によれば、アークスタート直後のアーク長を円滑に定常アーク長に収束させて、アークスタート部の溶接品質を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を実施するための溶接電源のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0015】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Drに従ってインバータ制御等による出力制御を行い、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を上記の駆動信号Drに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を整流する2次整流器、整流された直流を平滑するリアクトルを備えている。
【0016】
溶接ワイヤ1は、送給モータWMに結合された送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生して溶接が行われる。溶接ワイヤ1と母材2との間には溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接ワイヤ1の材質は、鉄鋼、アルミニウム等である。溶接トーチ4は、ロボット(図示は省略)に搭載されている。
【0017】
溶接電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、溶接電圧検出信号Vdを出力する。
【0018】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。通電判別回路CDは、この電流検出信号Idを入力として、この値がしきい値以上のときはHighレベルとなる通電判別信号Cdを出力する。この通電判別信号Cdは、溶接電流Iwが通電するとHighレベルとなる信号である。したがって、しきい値は、5A程度に設定される。
【0019】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムを記憶しており、この作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)の動作を制御すると共に、駆動回路DRおよび送給制御回路FCに対して溶接開始信号Stを出力する。
【0020】
ホットスタート期間設定信号THRは、予め定めたホットスタート期間設定信号Thrを出力する。
【0021】
期間設定回路MSは、上記の溶接開始信号St、上記の通電判別信号Cd、上記のホットスタート期間設定信号Thr、後述する送給速度設定信号Fr及び後述する定常送給速度設定信号Fcrを入力として、以下の処理を行い、期間信号Msを出力する。
1)溶接開始信号StがHighレベル(開始)に変化すると、その値が0から1となる期間設定信号Msを出力する。Ms=1の期間はスローダウン送給期間となる。
2)その後に、通電判別信号CdがHighレベル(通電)に変化すると、その値が2となる期間設定信号Msを出力する。Ms=2の期間はホットスタート期間Thとなる。
3)その後に、ホットスタート期間設定信号Thrによって定まるホットスタート期間Thが終了すると、その値が3となる期間設定信号Msを出力する。Ms=3の期間は送給速度増加期間Tuとなる。
4)その後に送給速度設定信号Frの値が定常送給速度設定信号Fcrの値まで増加すると、その値が4となる期間設定信号Msを出力する。Ms=4の期間は定常期間となる。
【0022】
基準電圧設定回路VSRは、予め定めた基準電圧設定信号Vsrを出力する。
【0023】
送給速度増加溶接電圧設定回路VURは、予め定めた送給速度増加溶接電圧設定信号Vurを出力する。
【0024】
定常溶接電圧設定回路VCRは、予め定めた定常溶接電圧設定信号Vcrを出力する。
【0025】
溶接電圧設定回路VRは、上記の期間信号Ms、上記の送給速度増加溶接電圧設定信号Vur及び上記の定常溶接電圧設定信号Vcrを入力として、期間信号Ms=0~3のときは送給速度増加溶接電圧設定信号Vurを溶接電圧設定信号Vrとして出力し、期間信号Ms=4の定常期間のときは定常溶接電圧設定信号Vcrを溶接電圧設定信号Vrとして出力する。
【0026】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の溶接電圧設定信号Vrと上記の溶接電圧検出信号Vdとの誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0027】
ホットスタート電流設定回路IHRは、予め定めたホットスタート電流設定信号Ihrを出力する。電流誤差増幅回路EIは、このホットスタート電流設定信号Ihrと上記の電流検出信号Idとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。
【0028】
制御方式切換信号生成回路CSは、上記の期間信号Msを入力として、Ms=1(スローダウン送給期間)及び2(ホットスタート期間Th)のときはLowレベル(定電流制御)となり、Ms=3(送給速度増加期間Tu)及びMs=4(定常期間Tc)のときはHighレベル(定電圧制御)になる制御方式切換信号Csを出力する。
【0029】
制御切換回路SWは、上記の電圧誤差増幅信号Ev、上記の電流誤差増幅信号Ei及び上記の制御方式切換信号Csを入力として、Cs=Lowレベル(定電流制御)のときは電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして出力し、Cs=Highレベル(定電圧制御)のときは電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして出力する。
【0030】
駆動回路DRは、上記の誤差増幅信号Ea及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは誤差増幅信号Eaに基づいてPWM変調制御を行い、上記の電源主回路PM内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Drを出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは駆動信号Drの出力を停止する。
【0031】
スローダウン送給速度設定回路FSRは、予め定めたスローダウン送給速度設定信号Fsrを出力する。
【0032】
ホットスタート送給速度設定回路FHRは、予め定めたホットスタート送給速度設定信号Fhrを出力する。
【0033】
定常送給速度設定回路FCRは、予め定めた定常送給速度設定信号Fcrを出力する。ここで、Fsr≦Fhr<Fcrである。
【0034】
差分電圧値算出回路DVは、上記の溶接電圧検出信号Vd、上記の期間信号Ms及び上記の基準電圧設定信号Vsrを入力として、期間信号Ms=3に変化するホットスタート期間Thの終了時点における差分電圧値信号Dvを以下の1)又は2)の方法によって算出して出力する。差分電圧値信号Dvは、ホットスタート期間Thの終了時点におけるアーク長と基準アーク長との差分値と相関する値である。
1)期間信号Ms=3に変化した時点における溶接電圧検出信号Vdの値Vhdと基準電圧設定信号Vsrの値との差分値を算出して差分電圧値信号Dv=Vhd-Vsrとして出力する。
2)期間信号Ms=2のホットスタート期間Th中の溶接電圧検出信号Vdの平均値Vadと基準電圧設定信号Vsrの値との差分値を算出して差分電圧値信号Dv=Vad-Vsrとして出力する。
【0035】
基準増加率設定回路USRは、予め定めた基準増加率設定信号Usrを出力する。増加率は、送給速度(m/分)の1秒間当たりの増加率である。例えばFsr=1.0(m/s2)である。この場合、送給速度を1.2m/分から7.2m/分まで増加させるのにかかる時間は100msとなる。
【0036】
増加率設定回路URは、上記の基準増加率設定信号usr及び上記の差分電圧値信号Dvを入力として、予め定めた関数によって増加率設定信号Urを算出して出力する。関数の例を以下に示す。関数の詳細については、
図2で後述する。
1)Dv=0のときはUr=Usr (1)式
2)Dv>0のときはUr=Usr・(1.0+Dv・0.2) (2)式
3)Dv<0のときはUr=Usr・(1.0+Dv・0.1) (3)式
但し、Dvの範囲は±3Vに制限される。
【0037】
送給速度設定回路FRは、上記のスローダウン送給速度設定信号Fsr、上記のホットスタート送給速度設定信号Fhr、上記の定常送給速度設定信号Fcr、上記の増加率設定信号Ur及び上記の期間信号Msを入力として、以下の処理を行い、送給速度設定信号Frを出力する。
1)期間信号Ms=0及び1のときはスローダウン送給速度設定信号Fsrの値を送給速度設定信号Frとして出力する。
2)期間信号Ms=2に変化すると、ホットスタート送給速度設定信号Fhrの値を送給速度設定信号Frとして出力する。
3)期間信号Ms=3に変化すると、ホットスタート送給速度設定信号Fhrの値から定常送給速度設定信号Fcrの値まで増加率設定信号Urによって定まる増加率で増加する送給速度設定信号Frを出力する。
4)期間信号Ms=4に変化すると、定常送給速度設定信号Fcrの値を送給速度設定信号Frとして出力する。
【0038】
送給制御回路FCは、上記の送給速度設定信号Fr及び上記の溶接開始信号Stを入力として、溶接開始信号StがHighレベルのときは溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって定まる速度で送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力し、溶接開始信号StがLowレベルのときは送給を停止するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態に係るアークスタート制御方法を示す
図1の溶接電源における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの時間変化を示し、同図(B)は制御方式切換信号Csの時間変化を示し、同図(C)は溶接ワイヤの送給速度Fwの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(E)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図は、ロボットを使用した溶接の場合を例示している。以下、同図を参照して説明する。
【0040】
同図において、時刻t1~t2の期間が
図1の期間信号Ms=1のスローダウン送給期間となり、時刻t2~t3の期間が
図1の期間信号Ms=2のホットスタート期間Thとなり、時刻t3~t4の期間が
図1の期間信号Ms=3の送給速度増加期間Tuとなり、時刻t4以降の期間が
図1の期間信号Ms=4の定常期間Tcとなる。
【0041】
時刻t1において、ロボットが移動して溶接トーチが溶接開始位置に到達すると、ロボット制御装置から溶接電源に対してHighレベルの溶接開始信号Stが出力される。
【0042】
(1)時刻t1~t2のスローダウン送給期間
同図(A)に示すように、時刻t1において、ロボット制御装置からの溶接開始信号StがHighレベルになると、溶接電源の出力が開始されるので、同図(E)に示すように、80V程度の無負荷電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加される。同時に、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、
図1のスローダウン送給速度設定信号Fsrによって定まるスローダウン送給速度Fsとなり、溶接ワイヤは母材へと次第に接近する。スローダウン送給速度Fsは、例えば1.0m/分程度である。同図(B)に示すように、制御方式切換信号Csは、ホットスタート期間Thが終了する時刻t3まではLowレベル(定電流制御)となり、それ以降はHighレベル(定電圧制御)となる。この制御方式切換信号Csは、溶接電源の出力制御の方式を定電流制御にするか定電圧制御にするかを切り換える信号である。
【0043】
(2)時刻t2~t3のホットスタート期間Th
時刻t2において、溶接ワイヤと母材とが接触して導通すると、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、数V程度の短絡電圧値に急減する。同時に、同図(D)に示すように、溶接電流Iwの通電が開始されて、
図1のホットスタート電流設定信号Ihrによって設定されるホットスタート電流Ihが通電する。このホットスタート期間Th中は、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがLowレベルであるので、定電流制御となる。同図(C)に示すように、送給速度Fwは、
図1のホットスタート送給速度設定信号Fhrによって設定されるホットスタート期間送給速度Fhの値となる。ホットスタート電流Ihは、例えば500A程度に設定される。ホットスタート期間送給速度Fhの値は、定常送給速度Fwcよりも小さな値に設定され、例えば1.2m/分程度に設定される。ホットスタート送給速度Fhをスローダウン送給速度Fsと等しい値に設定しても良い。このホットスタート電流Ihは、溶接ワイヤの先端を早急に溶融してアークを発生させるために通電する。したがって、時刻t2から1ms程度の短時間経過後の時刻t21において、アークが発生する。アークが発生すると、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは20V程度のアーク電圧値に急増する。ホットスタート電流Ihによって溶接ワイヤ先端が溶融されるので、アーク長は次第に長くなる。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t21からアーク長に比例して次第に増加する。そして、時刻t3において、時刻t2からの経過時間が
図1のホットスタート期間設定信号Thrによって定まる値に達するとホットスタート期間Thが終了する。ホットスタート期間Thは、5~10ms程度に設定される。このホットスタート期間Thが終了する時点t3におけるアーク長を、溶接電圧Vwによって検出する。アーク長の検出は、
図1の差分電圧値算出回路DVによって以下のようにして行う。ホットスタート期間Thが終了した時点におけるアーク長と基準アーク長との差分値を、溶接電圧検出信号Vdの値と基準電圧設定信号Vsrの値との差分電圧値信号Dvとして検出する。
1)ホットスタート期間Thの終了時点(期間信号Ms=3に変化した時点)における溶接電圧検出信号Vdの値Vhdと基準電圧設定信号Vsrの値との差分値を算出して差分電圧値信号Dv=Vhd-Vsrを出力する。
2)期間信号Ms=2のホットスタート期間Th中の溶接電圧検出信号Vdの平均値Vadと基準電圧設定信号Vsrの値との差分値を算出して差分電圧値信号Dv=Vad-Vsrとして出力する。
【0044】
(3)時刻t3~t4の送給速度増加期間Tu
時刻t3においてホットスタート期間Thが終了すると、送給速度増加期間Tuに入る。これに応動して、同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsがHighレベルに変化するので、溶接電源は
図1の送給速度増加溶接電圧設定信号Vurに基づいて定電圧制御される。送給速度増加溶接電圧設定信号Vurは、時刻t3の定常溶接電圧設定信号Vcrよりも数V程度大きな値から時刻t4の定常溶接電圧設定信号Vcrの値まで減少するように設定される。さらに、同図(C)に示すように、送給速度Fwは、本期間中に、ホットスタート送給速度Fhから
図1の定常送給速度設定信号Fcrによって定まる定常送給速度Fwcまで
図1の増加率設定信号Urによって定まる増加率で増加する。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは、時刻t3直後に300A程度まで急減した後に緩やかに減少して、時刻t4近傍で定常溶接電流値に収束する。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは、時刻t3から緩やかに減少して、時刻t4近傍で定常溶接電圧値に収束する。
【0045】
送給速度Fwの増加率を設定する
図1の増加率設定信号Urは、上述した差分電圧値信号Dvを入力として
図1の増加率設定回路URによって以下のように設定される。
1)Dv=0のときはUr=Usr (1)式
2)Dv>0のときはUr=Usr・(1.0+Dv・0.2) (2)式
3)Dv<0のときはUr=Usr・(1.0+Dv・0.1) (3)式
【0046】
1)ホットスタート期間Thの終了時点におけるアーク長が基準アーク長と等しいときは、差分電圧値Dv=0となり、送給速度Fwの増加率は基準増加率となる。
2)ホットスタート期間Thの終了時点におけるアーク長が基準アーク長よりも長いときは、差分電圧値Dv>0となり、送給速度Fwの増加率は基準増加率よりも大きくなる。この結果、送給速度増加期間Tuは、1)の場合よりも短くなる。
3)ホットスタート期間Thの終了時点におけるアーク長が基準アーク長よりも短いときは、差分電圧値Dv<0となり、送給速度Fwの増加率は基準増加率よりも小さくなる。この結果、送給速度増加期間Tuは、1)の場合よりも長くなる。
【0047】
上記の関数の数値例を以下に示す。ここで、Usr=1.0(m/s2)であり、送給速度FWを1.2m/分から7.2m/分まで増加させる場合とする。
1)Dv=0vのときはUr=1.0(m/s2)、Tu=100ms
2)Dv=3vのときはUr=1.4(m/s2)、Tu=63ms
3)Dv=-3vのときはUr=0.8(m/s2)、Tu=143ms
【0048】
(4)時刻t4以降の定常期間tc
時刻t4において送給速度増加期間Tuが終了すると、定常期間Tcに移行する。同図(B)に示すように、制御方式切換信号CsはHighレベルであるので、溶接電源は
図1の定常溶接電圧設定信号Vcrに基づいて定電圧制御される。同図(C)に示すように、送給速度Fwは
図1の定常送給速度設定信号Fcrの値となる。同図(D)に示すように、溶接電流Iwは定常送給速度Fwcで定まる値となる。同図(E)に示すように、溶接電圧Vwは
図1の定常溶接電圧設定信号Vcrの値となる。
【0049】
同図においては、時刻t3以降の送給速度増加期間Tu及び定常期間Tcにおける溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形を曲線でしめしているが、パルスアーク溶接の場合にはパルス波形となる。
【0050】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態によれば、ホットスタート期間の後に送給速度増加期間を設け、送給速度増加期間中は送給速度をホットスタート送給速度から定常送給速度まで予め定めた増加率で増加させ、ホットスタート期間中のアーク長を検出し、アーク長が長いほど増加率が大きくなるように設定する。本実施の形態では、アークスタート直後のアーク長のばらつきをホットスタート期間中のアーク長によって検出している。本実施の形態では、検出したアーク長が長いほど送給速度の増加率を大きくすることによって、アークスタート直後のアーク長を迅速にかつ円滑に定常アーク長に収束させることができるので、アークスタート部の溶接品質を良好にすることができる。
【0051】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、アーク長を、ホットスタート期間の終了時点における溶接電圧の値によって検出する。このようにすると、アーク長のばらつきを、溶接電圧によってホットスタート期間の終了時点におけるアーク長として検出することができる。
【0052】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、アーク長を、ホットスタート期間中の溶接電圧の平均値によって検出する。このようにすると、アーク長のばらつきを、溶接電圧の平均値によってホットスタート期間中のアーク長の平均値として検出することができる。
【0053】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、送給速度増加期間中は、予め定めた送給速度増加溶接電圧設定値に基づいて溶接電圧を制御する。このようにすると、送給速度が増加している状態に適した溶接電圧に制御することができるので、送給速度増加期間中の溶接状態を安定化することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
5 送給ロール
CD 通電判別回路
Cd 通電判別信号
CS 制御方式切換信号生成回路
Cs 制御方式切換信号
DR 駆動回路
Dr 駆動信号
DV 差分電圧値算出回路
Dv 差分電圧値信号
Ea 誤差増幅信号
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
EV 電圧誤差増幅回路
Ev 電圧誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FCR 定常送給速度設定回路
Fcr 定常送給速度設定信号
Fh ホットスタート送給速度
FHR ホットスタート送給速度設定回路
Fhr ホットスタート送給速度設定信号
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fs スローダウン送給速度
FSR スローダウン送給速度設定回路
Fsr スローダウン送給速度設定信号
Fw 送給速度
Fwc 定常送給速度
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ih ホットスタート電流
IHR ホットスタート電流設定回路
Ihr ホットスタート電流設定信号
Iw 溶接電流
MS 期間設定回路
Ms 期間信号
PM 電源主回路
RC ロボット制御装置
St 溶接開始信号
SW 制御切換回路
Tc 定常期間
Th ホットスタート期間
THR ホットスタート期間設定回路
Thr ホットスタート期間設定信号
Tu 送給速度増加期間
UR 増加率設定回路
Ur 増加率設定信号
USR 基準増加率設定回路
Usr 基準増加率設定信号
VCR 定常溶接電圧設定回路
Vcr 定常溶接電圧設定信号
VD 溶接電圧検出回路
Vd 溶接電圧検出信号
VR 溶接電圧設定回路
Vr 溶接電圧設定信号
VSR 基準電圧設定回路
Vsr 基準電圧設定信号
VUR 送給速度増加溶接電圧設定回路
Vur 送給速度増加溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
WM 送給モータ