(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147865
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20241009BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20241009BHJP
C08L 97/00 20060101ALI20241009BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K5/11 ZBP
C08L97/00
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060553
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】591161623
【氏名又は名称】株式会社コバヤシ
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】山田 知夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AB002
4J002AH002
4J002AJ002
4J002CF181
4J002EH096
4J002GA01
4J002GG00
4J200AA04
4J200BA14
4J200BA36
4J200BA38
4J200CA01
4J200DA03
4J200EA07
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】
本発明は、成形性に優れ且つ色や臭気などの官能特性においても優れており、さらに優れた生分解性を有するとともに、引張弾性率が高いながらも、引張伸びが大きな組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、ポリ乳酸と、クエン酸エステルと、植物性食品残渣と、を含む組成物を提供する。前記組成物を特定の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下であってよい。また、前記クエン酸エステルは少なくともアセチルクエン酸トリエチル又はアセチルクエン酸トリブチルを含みうる。さらに、前記植物性食品残渣は、野菜、果実、穀物、コーヒー、及び茶のうちから選ばれる食品材料の残渣であってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と、
クエン酸エステルと、
植物性食品残渣と、
を含む組成物。
【請求項2】
前記組成物を以下の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下である、請求項1に記載の組成物。
<前記昇圧試験機による測定の条件>
押出機径:25mm
温度:200℃
メッシュ:100メッシュ
試験に付される組成物の量:200g
【請求項3】
前記クエン酸エステルは少なくともアセチルクエン酸トリエチル又はアセチルクエン酸トリブチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記植物性食品残渣は、野菜、果実、穀物、コーヒー、及び茶のうちから選ばれる食品材料の残渣である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記植物性食品残渣は、野菜又は穀物由来のでん粉抽出残渣、果実由来の果汁抽出残渣、コーヒー又は茶の飲料抽出残渣、又は穀物精白残渣である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記植物性食品残渣は、5mm以下のサイズを有する残渣片を主成分とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物性食品残渣は、植物性食品残渣の粉砕物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、熱可塑性組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、フィルム又はシートを成形可能な組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物はさらに、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂を少なくとも含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリ乳酸を、前記組成物の質量に対して90質量%以下の割合で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ポリ乳酸と、
クエン酸エステルと、
植物性食品残渣と、
を含む成形体。
【請求項13】
前記成形体は、フィルム又はシートである、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
クエン酸エステルに植物性食品残渣を分散させて前記クエン酸エステルと前記植物性食品残渣を含有する複合材料を製造すること、
前記複合材料をポリ乳酸と混練して組成物を製造すること、
を含む組成物の製造方法。
【請求項15】
前記組成物を以下の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下である、請求項14に記載の組成物の製造方法。
<前記昇圧試験機による測定の条件>
押出機径:25mm
温度:200℃
メッシュ:100メッシュ
試験に付される組成物の量:200g
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び当該組成物の製造方法に関し、特には植物性食品残渣とポリ乳酸とを含む組成物及び当該組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源等を原料として製造されたプラスチック成形品は、飲食用容器を初め、シート、フィルムなどの各種包装材料、緩衝材、生活用品、農業用品など産業資材として広範囲の用途に用いられている。一方で、プラスチック材料の大量消費により温室効果ガスによる地球温暖化や石油資源の枯渇が地球規模で長期的に取り組む重要な課題となっている。
【0003】
そこで、プラスチック材料の使用量を減少するために、バイオマス材料の活用が検討されている。例えば、下記特許文献1には、全組成物の45~70重量%のデンプン含有農業廃棄物を含む混合物を配合することから得られる熱可塑性デンプン組成物であって、前記農業廃棄物が、乾重量で50%未満のデンプン量;全組成物の25~50重量%の熱可塑性合成ポリマー;全組成物の1~10重量%の可塑剤;および全組成物の1~5重量%のカップリング剤、を含有し;前記配合が、室温よりも高い第一の温度で実施される、組成物が開示されている。
また、プラスチック材料は、廃棄後に自然環境下では分解し難く、自然環境を汚染する一つの原因となっている。近年、廃棄後に自然環境下で分解される生分解性プラスチックが注目されている。このような生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸が検討されている。しかしながら、ポリ乳酸は、引張弾性率(剛性)が高いものの、柔軟性及び耐衝撃性が低いという性質を有し、用途が限られていた。下記特許文献2には、柔軟性を改善する方法としてポリ乳酸に可塑剤を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-511648号公報
【特許文献2】特開2020-117692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマス材料の一つとして、植物性食品残渣が挙げられる。植物性食品残渣の活用の手法の一つとして、例えばポリエステル及びポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂と混合して熱可塑性組成物を製造することが考えられる。しかしながら、植物性食品残渣と熱可塑性樹脂とを含む組成物は、成形性に劣る場合があり、色又は臭気などの問題も有する場合も多い。
また、ポリ乳酸に可塑剤を混合すると、柔軟性(引張伸び)は改善されるが、弾性率が大きく低下するため、用途が限られるという問題がある。
【0006】
本発明は、成形性に優れ且つ色や臭気などの官能特性においても優れており、さらに優れた生分解性を有するとともに、引張弾性率が高いながらも、引張伸びが大きな組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本技術は、
ポリ乳酸と、
クエン酸エステルと、
植物性食品残渣と、
を含む組成物を提供する。
前記組成物を以下の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下でありうる。
<前記昇圧試験機による測定の条件>
押出機径:25mm
温度:200℃
メッシュ:100メッシュ
試験に付される組成物の量:200g
前記クエン酸エステルは少なくともアセチルクエン酸トリエチル又はアセチルクエン酸トリブチルを含みうる。
前記植物性食品残渣は、野菜、果実、穀物、コーヒー、及び茶のうちから選ばれる食品材料の残渣であってよい。
前記植物性食品残渣は、野菜又は穀物由来のでん粉抽出残渣、果実由来の果汁抽出残渣、コーヒー又は茶の飲料抽出残渣、又は穀物精白残渣であってよい。
前記植物性食品残渣は、5mm以下のサイズを有する残渣片を主成分としうる。
前記植物性食品残渣は、植物性食品残渣の粉砕物を含みうる。
前記組成物は、熱可塑性組成物であってよい。
前記組成物は、フィルム又はシートを成形可能な組成物であってよい。
前記組成物はさらに、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂を少なくとも含みうる。
前記組成物は前記ポリ乳酸を、前記組成物の質量に対して90質量%以下の割合で含みうる。
また、本技術は、
ポリ乳酸と、
クエン酸エステルと、
植物性食品残渣と、
を含む成形体も提供する。
前記成形体は、フィルム又はシートであってよい。
また、本技術は、
クエン酸エステルに植物性食品残渣を分散させて前記クエン酸エステルと前記植物性食品残渣を含有する複合材料を製造すること、
前記複合材料をポリ乳酸と混練して組成物を製造すること、
を含む組成物の製造方法も提供する。
前記組成物を以下の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下であってよい。
<前記昇圧試験機による測定の条件>
押出機径:25mm
温度:200℃
メッシュ:100メッシュ
試験に付される組成物の量:200g
【発明の効果】
【0008】
本発明に従う組成物は、成形性に優れており、且つ色及び臭気などの官能特性においても優れている。そのため、本発明に従う組成物は、植物性食品残渣の活用を進展させるために適している。また、本発明に従う組成物は、引張弾性率が高いながらも、引張伸びの大きな成形体を成形することもできる。さらに、ポリ乳酸と植物性食品残渣は生分解性を有するので本発明の組成物も生分解性を有し、SDGsの達成のために貢献することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】押出圧力差ΔPを測定するための用いられる昇圧試験機の摸式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態を示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0011】
本発明について、以下の順序で説明を行う。
1.第1の実施形態(組成物)
2.第2の実施形態(組成物の製造方法)
3.実施例
【0012】
1.第1の実施形態(組成物)
【0013】
上記で述べたとおり、ポリ乳酸及び可塑剤を含む組成物は、柔軟性(引張及び物性)は改善されるが、弾性率が大きく低下するという物性面において問題を有する場合がある。
また、植物性食品残渣と熱可塑性樹脂とを含む組成物は、成形性又は色や臭気などにおいて問題を有する場合がある。このような問題は、特には植物性食品残渣の含有割合を高める場合に特に生じやすい。
【0014】
本発明者らは、ポリ乳酸と、クエン酸エステルと、植物性食品残渣とを含むことにより、引張弾性率(剛性)が高いながらも、引張伸びを大きくできること、また、成形性を向上でき且つ色又は臭気などの官能特性も向上できることを見出した。一実施態様において、本発明の組成物は、ポリ乳酸と、クエン酸エステルと、植物性食品残渣とを含む。さらに、本発明の組成物は、当該組成物を所定の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが25bar以下である。
【0015】
以下で、本発明の組成物についてより具体的に説明する。
【0016】
(1)組成
【0017】
(1-1)ポリ乳酸
【0018】
本発明の組成物は、ポリ乳酸を含む。前記ポリ乳酸は、乳酸を基本単位とし、複数の乳酸が連なって高分子量となった脂肪族ポリエステルの一種である。このようなポリ乳酸として、例えば、構造単位がL-乳酸であるポリ(L-乳酸)、構造単位がD-乳酸であるポリ(D-乳酸)、構造単位がL-乳酸及びD-乳酸であるポリ(DL-乳酸)、及びこれらの混合物、L-乳酸とD-乳酸とのランダム共重合体等が挙げられる。
【0019】
本発明の組成物に含まれるポリ乳酸は、原料モノマーとして乳酸成分のみを縮重合させて得られるポリ乳酸ホモポリマーだけではなく、原料モノマーとして乳酸成分と乳酸成分と共重合可能なその他のモノマー成分とを縮重合させて得られるポリ乳酸共重合体であってもよい。
【0020】
ポリ乳酸は、原料モノマーとして乳酸成分のみを適切な触媒と、開始剤を使用して、脱水重合する方法、原料モノマーとして乳酸成分と乳酸成分と共重合可能なその他のモノマー成分と、開始剤を使用して、脱水重合する方法、リパーゼなどの酵素反応を利用して合成する方法などにより製造することができる。前記乳酸成分と共重合可能なその他のモノマー成分として、特に制限はないが、例えば、オキシ酸、二価アルコール類、又は三価以上の多価アルコール類、芳香族ヒドロキシ化合物、二価のカルボン酸、または三価以上の多価カルボン酸、ラクトン類などが挙げられる。
【0021】
オキシ酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、このうち、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0022】
二価のアルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチエレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられ、また、三価以上の多価アルコール類としては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0023】
芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0024】
二価のカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)エーテル、5-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられ、三価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0025】
ラクトン類としては、例えばカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5-オキセパン-2-オン等が挙げられる。
【0026】
なお、ポリ乳酸が含有する乳酸以外のその他の成分は、ポリ乳酸本来の生分解性を損なわない範囲において共重合することが可能であるが、その量比は全構成成分の20モル%以下とすることが好ましく、より好ましくは0~10モル%、さらに好ましくは0~5モル%の範囲である。
【0027】
ポリ乳酸の融点は、160℃~170℃の範囲であり、ガラス転移温度は、60℃~70℃の範囲である。また、ポリ乳酸は、生分解性でコンポスト化が可能であり、環境対応型素材である。
【0028】
ポリ乳酸の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0029】
また、ポリ乳酸の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは88質量%以下である。
【0030】
(1-2)クエン酸エステル
【0031】
本発明の組成物は、クエン酸エステルを含む。前記クエン酸エステルとしては、クエン酸トリエチル(TEC)、クエン酸トリブチル(TBC)、アセチルクエン酸トリス(2-エチルヘキシル)、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)等が挙げられる。クエン酸エステルは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の組成物においてクエン酸エステルは可塑剤として機能しうる。なお、クエン酸エステルは、少なくともアセチルクエン酸トリエチル(ATEC)又はアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)を含むのが好ましい。
【0032】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上であり、さらに好ましくは11質量%以上である。
【0033】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、さらに好ましくは16質量%以下である。
【0034】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは15質量%以上であり、さらに好ましくは20質量%以上である。
【0035】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは28質量%以下であり、さらに好ましくは26質量%以下である。
【0036】
本発明の組成物に含まれるクエン酸エステルは、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)と、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)とを混合した混合物であってもよい。アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)と、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)との混合物の場合、混合比は、例えば、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC):アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)が、好ましくは12:1~12:5であり、より好ましくは12:1.5~12:4であり、さらに好ましくは12:2~12:3である。
【0037】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)と、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)とを混合した混合物の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。
【0038】
本発明の組成物においては、二軸押出等の押出時の温度を低下させる観点から、アセチルクエン酸トリエチル(ATEC)と、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)とを混合した混合物の含有割合は、組成物の質量に対し、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは37質量%以下であり、さらに好ましくは35質量%以下である。
【0039】
(1-3)植物性食品残渣
【0040】
本発明の組成物は、植物性食品残渣を含む。前記植物性食品残渣は、植物繊維を含む残渣であってよい。例えば、前記植物性食品残渣は、食物繊維を、当該残渣の乾燥重量100g当たり、例えば10g以上、好ましくは15g以上、より好ましくは20g以上含むものであってよく、さらに好ましくは30g以上、40g以上、50g以上であってよく、さらには60g以上又は70g以上であってもよい。食物繊維含有量は、当該残渣の乾燥重量100g当たり例えば99g以下、97g以下、又は95g以下であってよく、さらには90g以下、85g以下、又は80g以下であってもよい。このように食物繊維含有量が高い食品残渣は、しばしば熱可塑性樹脂と混ざりにくいが、可塑化澱粉を利用することで、組成物中に良好に分散され、組成物の品質が向上する。
【0041】
植物性食品残渣に含まれる食物繊維の乾燥重量100g当たり含有量は、植物性食品残渣を、凍結乾燥し、ミルで粉砕し、そして、その粉砕物を、0.8mmメッシュに通して得られる産物に対して、Prosky法(Prosky L et al., Determination of total dietary fiber in foods and food products, Collaborative study. J Assoc Off Anal Chem. 58:677-679, 1985.)に従い、食物繊維の抽出を行いそして測定される。
【0042】
前記植物性食品残渣は、例えば野菜、果実、穀物、コーヒー、及び茶のうちから選ばれる食品材料の残渣であってよい。本発明において、種々の植物性食品残渣が利用されてよい。
【0043】
一実施態様において、前記植物性食品残渣は、野菜の食品残渣であってよい。野菜の残渣は、例えばいも類、根菜類、豆類、葉茎菜類、果菜類、あぶらな科野菜、又は葉菜類の残渣であってよい。
前記いも類として、ばれいしょ、かんしょ、さといも、及びやまのいもを挙げることができる。前記根菜類として、てんさい、だいこん、にんじん、及びかぶを挙げることができる。前記豆類として、だいず、あずき、そらまめ、及びえだまめを挙げることができる。このように、本発明は、種々の野菜食品残渣に適用できる。
【0044】
他の実施態様において、前記植物性食品残渣は、果実の食品残渣であってよい。前記果実は、かんきつ類、仁果類、核果類、又はベリー類の残渣であってよい。
前記かんきつ類として、例えばみかん、グレープフルーツ、及びオレンジを挙げることができる。前記仁果類として、リンゴ及びナシを挙げることができる。前記核果類として、モモ及ぶウメを挙げることができる。前記ベリー類として、ぶどう及びブルーベリーが挙げられる。このように、本発明は、種々の果実食品残渣に適用できる。
【0045】
さらに他の実施態様において、前記植物性食品残渣は、穀物の残渣であってよい。前記穀物の残渣は、米、とうもろこし、麦類(例えば小麦、大麦、又はライ麦など)、又はそばの残渣であってよい。前記穀物の残渣の例として米ぬかが挙げられる。
さらに他の実施態様において、前記植物性食品残渣は、コーヒー又は茶の残渣であってもよい。例えば、当該残渣の例として、コーヒー液抽出残渣(例えばコーヒーかす)又は茶飲料抽出残渣(例えば茶がら)であってよい。
このように、本発明は、野菜又は果実以外の植物性食品残渣に適用することもできる。
【0046】
一実施態様において、前記植物性食品残渣は、野菜又は穀物由来のでん粉抽出残渣、果実由来の果汁抽出残渣、コーヒー又は茶の飲料抽出残渣、又は穀物精白残渣(例えば米又は麦の精白残渣)であってよい。この実施態様において、前記野菜は、上記で述べた野菜のいずれかであってよく、特にはいも類、根菜類、又は豆類であってよい。この実施態様において、前記穀物は、特には米、とうもろこし、又は麦類であってよい。この実施態様において、前記果実は、かんきつ類、仁果類、核果類、又はベリー類であってよく、特にはリンゴ又はブドウであってよい。
前記残渣は、例えば、皮部分を含んでよい。例えば前記残渣がいも類残渣である場合は、当該残渣は、いもの皮を含んでもよく又は含まなくてもよい。また、前記残渣が果実である場合は、前記残渣は、果皮を含んでよく又は含まなくてもよい。
これらの残渣は、食品製造プロセスにおいて生成される量が特に多い。本発明の組成物は、このような残渣を利用することができるので、アップサイクルの観点から特に適している。
【0047】
好ましくは、前記植物性食品残渣は、5mm以下のサイズを有する残渣片を主成分とする残渣であってよい。このようなサイズを有する残渣片を主成分とする残渣を用いることは、組成物の物性の向上の貢献にする。本明細書内において、前記残渣片を主成分とする残渣は、例えば全体の質量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上が、5mm以下のサイズを有するということを意味してよい。
当該残渣片を主成分とする残渣は、例えば残渣原料を粉砕処理することによって得られてよい。粉砕処理の種類は、例えば残渣原料の種類などに応じて、当業者により適宜選択されてよい。すなわち、前記植物性食品残渣は、植物性食品残渣の粉砕物を含んでよい。粉砕によって、上記で述べた、5mm以下のサイズを有する残渣片を主成分とする残渣が得られてよい。
【0048】
前記植物性食品残渣は、好ましくは乾燥処理されていない残渣であってよい。残渣の水分含有率は、例えば、好ましくは5質量%以上であってよく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、特定の実施形態においては前記水分含有率は50質量%以上であってもよい。水分含有率は、乾燥減量法により測定される。このように水分を含む状態で、前記植物性残渣を組成物(特にはポリ乳酸とクエン酸エステルと植物性食品残渣とを含む残渣含有複合材料(マスターバッチ))を製造するために用いることが、ポリ乳酸と植物性食品残渣を混合させることができ、組成物の成形性及び官能特性の向上のために特に好ましい。また、植物性食品残渣を乾燥しないため、乾燥処理が必要でなく、熱エネルギー等を削減することができる。すなわち、前記植物性食品残渣は、湿式で当該マスターバッチを製造するために用いられてよい。なお、残渣の水分含有率の下限値は特に限定されないが、例えば、好ましくは90質量%以下であってよく、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下であってよい。
【0049】
(1-4)熱可塑性樹脂
【0050】
前記組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。当該熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂を少なくとも含んでよい。本発明に従う組成物は、ポリエステル系樹脂若しくはポリオレフィン系樹脂を含んでよく又はこれらの両方を含んでもよい。また、熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂であってもよい。また、当該熱可塑性樹脂は、生分解性を低下させないため生分解性材料を含んでいてもよい。
【0051】
前記組成物は、前記熱可塑性樹脂を、前記組成物の質量に対して例えば、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下の割合で含んでよい。また、前記組成物は、前記熱可塑性樹脂を、前記組成物の質量に対して例えば、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは8質量%以上の割合で含んでよい。
【0052】
本実施形態において、熱可塑性樹脂の種類は、例えば、組成物から成形される成形体の用途に応じて当業者により適宜選択されてよく、加工温度が低い熱可塑性樹脂が好ましい。例えば、食料品包装用容器に使用されるシートの場合、熱可塑性樹脂は、例えば、好ましくはポリオレフィン系樹脂であり、より好ましくはポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂であってよい。
【0053】
本実施形態において、熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは170℃以下であり、より好ましくは165℃以下でありうる。より低い融点を有する熱可塑性樹脂を採用することによって、成形時の温度を低くすることができる。また、熱可塑性樹脂の融点は、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは95℃以上でありうる。
【0054】
(1-5)他の成分
【0055】
本発明の組成物は、さらに他の成分を含んでもよい。当該他の成分として、例えば、高融点添加剤等を挙げることができる。
【0056】
また、本発明の組成物には、熱可塑性樹脂の溶融温度より低い融点温度を有し、比較的低温度で溶融する低融点添加剤よりも高い融点を有する高融点添加剤が含まれていてもよい。このような高融点添加剤は、融点が、好ましくは100~150℃の範囲にあり、熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い融点を有するものであってよい。このような高融点添加剤として、脂肪酸金属塩、炭化水素系、高級アルコール系、脂肪族アミド系、脂肪酸エステルなどが挙げられ、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム等が用いられる。
【0057】
前記高融点添加剤は、前記組成物の質量に対して例えば、好ましくは10質量%以下の割合で含んでよく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下の割合で含んでよい。また、前記高融点添加剤は、前記組成物の質量に対して例えば、好ましくは0.5質量%以上の割合で含んでよく、より好ましくは1質量%以上以下、さらに好ましくは2質量%以上の割合で含んでよい。
【0058】
その他の添加剤として、ポリ乳酸、クエン酸エステル、植物性食品残渣、及び熱可塑性樹脂の親和性を向上させるために、相溶化剤が本発明の組成物に含まれてよい。相溶化剤は、熱可塑性樹脂の種類に応じて選択されてよい。このような相溶化剤として、例えば、酸変性ポリオレフィン、酸変性ナイロン、酸変性ポリスチレン、酸変性EVA、酸変性エチレン共重合ポリマー、酸変性アクリレート、アクリル酸変性EVA、及び変性エチレンアクリレートなどを挙げることができる。
【0059】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、相溶化剤は好ましくは酸変性ポリオレフィンであり、特には無水カルボン酸変性ポリオレフィン又はオレフィン系のコモノマーでありうる。
【0060】
当該無水カルボン酸変性ポリオレフィンを構成する無水カルボン酸は、好ましくは無水マレイン酸でありうる。相溶化剤は、例えば、無水マレイン酸グラフト化ポリオレフィン樹脂であり、より特には無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、及び無水マレイン酸変性エチレン-プロピレン共重合体からなる群から選ばれる1つ又は2以上の組合せであってよい。相溶化剤には、ゴム成分が分散されていてもよい。
【0061】
前記相溶化剤は、前記組成物の質量に対して、例えば、好ましくは0.5質量%~5質量%、より好ましくは1質量%~4.5質量%、さらに好ましくは1.5質量%~4質量%の含有割合で、前記組成物に含まれてよい。
【0062】
その他の添加剤として、着色剤を用いることができる。
【0063】
着色剤は、組成物に着色を施すために用いられうる。着色剤として、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、染料、及び顔料を挙げることができる。
【0064】
また、前記他の成分として、例えば、酸化防止剤、架橋剤、紫外線吸収剤、発泡剤及び耐衝撃剤などが用いられてもよい。これら添加剤として、市販のものが用いられてもよい。
【0065】
(2)物性
【0066】
(2-1)昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔP
【0067】
本発明の組成物は、前記組成物を以下の条件で昇圧試験機により測定したときに測定される押出開始圧力と押出終了圧力との差ΔPが、好ましくは25bar以下であってよく、より好ましくは20bar以下、さらにより好ましくは18bar以下、14bar以下、又は12bar以下であってもよく、特に好ましくは10bar以下、8bar以下、又は6bar以下であってもよい。前記差ΔPは、例えば-1bar以上であってよく、-0.5bar以上、-0.3bar以上、又は0bar以上であってよい。以下で、当該測定の方法を説明する。
【0068】
組成物について以下で説明する昇圧試験機により押出圧力を測定すると、例えば
図1に示されるようなグラフが得られる。当該グラフは、圧力を時間に対してプロットしたグラフの模式的な例である。
組成物について測定される押出圧力差ΔPとは、ベースのポリ乳酸(商品名「REVODE110」、浙江海正生物材料社製)の押出圧力が平衡状態(直近5分間の圧力変化が±0.5%以下になった状態)になった時点の押出開始圧力P
startと押出開始後600秒経過時の押出終了圧力P
endとの圧力差を表す指標をいう。単位は、barで表す。換言すれば、組成物に含まれる粒などの存在の程度を示す指標として使用されうる。この数値が低いほど、メッシュ詰まりが発生しにくいことを意味する。
【0069】
前記押出圧力差ΔPは、昇圧試験機「LFT44-GP」(ラボテック社製)を使用して測定される。
【0070】
前記押出圧力差ΔPは、以下の手順で測定される。
図2は、本実施形態に係る組成物に関する押出圧力差ΔPを測定する際に使用する昇圧試験機の一例を示す摸式図である。
図2に示す昇圧試験機40は、単軸スクリュー押出機43、ギアポンプ42と、メッシュ41とを備える。昇圧試験機40において、ギアポンプ入口側圧力P1と、ギアポンプ出口側圧力P2が測定される。押出圧力差ΔPの測定に際し、ギアポンプ42の回転数が30RPMで一定となるように設定し、ギアポンプ入口側圧力P1を50barに設定し、P1が50barを維持するように単軸スクリュー押出機43の回転数を連動制御させるようにし、ギアポンプ出口側圧力P2の値を測定する。押出圧力差ΔPの測定は、以下の手順で行われる。
(i)
図2に示す、100メッシュ(目開き0.154mm(公称)、空間率37%)のメッシュ41が設置され、押出圧力のモニタリングが可能な昇圧試験機40を用いて、ベースのポリ乳酸の押出を行い、昇圧試験機40のギアポンプ出口側圧力P2において押出圧力が平衡状態(直近5分間の圧力変化が±0.5%以下になった状態)になった後に、前記押出圧力のモニタリングが可能な昇圧試験機40を設定温度200℃で用いて、前記組成物200gの押出を開始する。
(ii)
図2に示す昇圧試験機40のギアポンプ出口側圧力P2において押出圧力が平衡状態(直近5分間の圧力変化が±0.5%以下になった状態)になった時点の押出開始圧力P
startを測定する。
(iii)組成物200gを全て昇圧試験機40から押出した後にベースとなるポリ乳酸に切り替えを行い、ギアポンプ出口側圧力P2において圧力が平衡状態(直近1分間の圧力変化が±0.5%以下になった状態)になった時点の押出終了圧力P
endを測定する。
(iv)押出圧力差ΔPを下記式より算出する。
押出圧力差ΔP=P
end-P
start
【0071】
(2-2)引張特性
【0072】
本発明に従う組成物を成形して得られる成形体は、引張特性である引張弾性率が、好ましくは1.5GPa以上であり、より好ましくは1.7GPa以上であり、さらに好ましくは2.0GPa以上である。また、引張弾性率の上限値は特に限定されないが、引張弾性率は、好ましくは3GPa以下であり、より好ましくは2.8GPa以下であり、さらに好ましくは2.5GPa以下である。
【0073】
前記成形体は、引張特性である引張伸びが、好ましくは8%以上であり、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。また、引張伸びの上限値は特に限定されないが、引張伸びは、好ましくは200%以下であり、より好ましくは180%以下であり、さらに好ましくは150%以下である。
【0074】
前記成形体は、引張特性である引張強度が、好ましくは30MPa以上であり、より好ましくは40MPa以上であり、さらに好ましくは50MPa以上である。また、引張強度の上限値は特に限定されないが、引張強度は、好ましくは60MPa以下であり、より好ましくは58MPa以下であり、さらに好ましくは55MPa以下である。
【0075】
上記引張特性の測定は、例えば、JIS K 7161に準じて行うことができる。ニンジン残渣をクエン酸エステルに分散させ、これにポリ乳酸を加えて得られた混合物を二軸押出機(型番PCM30、株式会社池貝製)に供給し、溶融混練(溶融温度は、試料に応じ、115~155℃の範囲で適宜設定する。)して、ペレットを作製する。熱プレス機(LAB TECHエンジニアリング社製)を使用して180℃で前記ペレットを熱プレスしてシートを作製する。JIS K 7161に準じ、テンシロン万能試験機(エー・アンド・ディー社製)により引張特性を測定する。
【0076】
(2-3)成形性
【0077】
本発明に従う組成物は、フィルム又はシートを成形可能な組成物であってよい。本発明に従う組成物を成形することによって形成された成形体は、ポリ乳酸と、クエン酸エステルと、植物性食品残渣と、を含む。特には、本発明の組成物は、熱可塑性組成物であり、すなわち、熱が加えられた状態において成形可能な組成物であってよい。本発明に従う組成物は、例えばフィルム形状又はシート形状に成形されたものであってよい。また、本発明に従う組成物はペレット形状にあってもよい。
【0078】
2.第2の実施形態(組成物の製造方法)
【0079】
本発明の組成物は、以下のとおり分散工程、及び混練工程を経て製造されうる。これら2つの工程によって製造することで、上記で述べた数値範囲内の圧力差ΔPを有する組成物が得られる。
【0080】
(1)分散工程
【0081】
分散工程において、湿った状態の植物性食品残渣をクエン酸エステルに分散させて植物性食品残渣とクエン酸エステルとを含有する複合材料を製造する。分散の方法は、特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機等を使用する方法が挙げられる。分散温度、分散時間、回転数等の分散条件も適宜設定され得る。
【0082】
(2)混練工程
【0083】
混練工程において、クエン酸エステルに分散させた植物性食品残渣(前記複合材料)と、ポリ乳酸とを混合する。クエン酸エステルに分散させた植物性食品残渣とポリ乳酸との混合は、例えば、高温撹拌機、ヘンシェルミキサー、タンブラー型混合機、バーバリミキサー、ニーダーミキサー等の混合機により行われてよい。当該混合は、常温で行われてよい。
【0084】
前記混合により得られた混合物は、加熱処理に付される。当該加熱処理は、押出機による混練処理として実行されてもよい。混練処理は、例えば、一軸混練押出機、又は二軸混練押出機等により行われてよい。これらの混練押出機として、当該技術分野で既知の装置が用いられてよい。好ましくは、前記混合加熱工程は、二軸混練押出機による加熱及び混練処理を少なくとも含む。二軸混練押出機として、同方向回転式の二軸混練押出機が用いられてよく、又は、異方向回転式の二軸混練押出機が用いられてよい。二軸混練押出機による混練処理を行うことにより、原料がより均一に分散した混練産物である組成物を得ることができる。混合加熱工程において、混合物は130℃以下の温度条件で加熱処理される。当該温度条件は、用いられるクエン酸エステルの種類及びその含有割合に応じて当業者により適宜選択されてよい。
【0085】
前記混練工程において、例えば、前記クエン酸エステルがアセチルクエン酸トリエチル(ATEC)である場合、加熱処理は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらにより好ましくは120℃以上で行われうる。また、加熱処理は、130℃以下、好ましくは125℃以下、より好ましくは123℃以下で行われうる。
【0086】
前記混練工程において、例えば、前記クエン酸エステルがアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)である場合、加熱処理は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらにより好ましくは120℃以上で行われうる。また、加熱処理は、130℃以下、好ましくは125℃以下、より好ましくは123℃以下で行われうる。
【0087】
前記混練工程において、例えば、前記クエン酸エステルがアセチルクエン酸トリエチル(ATEC)とアセチルクエン酸トリブチル(ATBC)との混合物である場合、加熱処理は、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、さらに好ましくは115℃以上、さらにより好ましくは120℃以上で行われうる。また、加熱処理は、130℃以下、好ましくは125℃以下、より好ましくは123℃以下で行われうる。
【0088】
前記混練工程において、例えば、押出機を使用する場合、前記押出機から組成物が排出される。当該組成物は、例えば、柱状形状(特には円柱形状)を有してよい。また、当該柱状の形状の断面寸法(特には円柱形状の断面径)は、例えば2mm~10mm、特には3mm~8mm、より特には4mm~6mmであってよい。また、例えば、当該組成物は、ストランド状であってよい。当該組成物は、例えば透明又は半透明であってよい。当該柱状の組成物は、例えば、ペレタイザーによりペレット状にカットされてもよい。すなわち、当該組成物はペレット形状を有してもよい。
代替的には、当該組成物は、必ずしも柱状を有している必要はなく、例えばケーキ状、特にはウェットケーキ状を有していてもよい。
また、当該組成物は、熱可塑性樹脂と組み合わせるために、適宜粉砕されてもよい。
【0089】
(3)成形工程
【0090】
前記製造方法は、上記(1)分散工程、及び(2)混練工程を経て得られた組成物を成形する成形工程を含んでもよいが、含まなくてもよい。当該成形工程において採用される成形手法は、所望の成形体の形状又は種類に応じて当業者により適宜選択されてよい。例えば、前記成形工程において、フィルム又はシート状の成形体を得るための処理が行われてよい。当該成形体を得るために、例えばインフレーション成形、射出成形、押出成形、又は延伸成形などが実行されてよい。
【0091】
3.実施例
【0092】
以下、本発明を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものでない。
【0093】
当該実施例において用いられた評価方法を以下に説明し、次に、各組成物について説明する。
【0094】
(1)評価方法
【0095】
(1-1)昇圧試験
【0096】
各組成物を昇圧試験機(LABTECH ENGINEERING、押出機径25mm、温度200℃)へ供給し、昇圧試験を行った。当該昇圧試験は200℃で行われメッシュは100を使用し、測定スタートと測定終了時の圧力差ΔPを測定した。圧力差ΔPの測定は、上記1.の「(2)物性」において記載したとおりに行われた。
【0097】
(1-2)引張特性
【0098】
引張特性の測定は、上記1.の「(2)物性」において記載したとおりに行われた。
【0099】
(1-3)成形性(インフレーション成形)
【0100】
各組成物は、インフレーション成形機(株式会社プラコー、ダイスΦ65、押出機径55mm、温度150℃)へ供給され、そして、インフレーション成形が行われた。当該インフレーション成形は、150℃~160℃で行われた。当該インフレーション成形によって、厚み50μmのフィルムを得た。当該インフレーション成形により得られたフィルムを以下の基準で評価した。
<評価基準>
A:インフレーション成形でき、且つ、得られたフィルムは破れを有さず、均一な外観を有した。
B:インフレーション成形でき、且つ、得られたフィルムは破れを有さなかったが、フィルムの一部に凝集物が確認された。
C:穴あきなどの要因により、インフレーション成形できなかった。
【0101】
試験例1:組成物(第1の実施形態)の製造
【0102】
[実施例1]
【0103】
ニンジン残渣を用意した。当該ニンジン残渣は、ニンジン澱粉の抽出処理において生じた搾りかすであり、すなわち、ニンジン由来のでん粉抽出残渣である。当該ニンジン残渣は、5mm以下のサイズを有するように粉砕処理された。前記ニンジン残渣は乾燥処理されていないので湿っていた。当該ニンジン残渣は、手で触ったときに、水分が手に付着する程度の湿った状態を有していた。
【0104】
組成物中においてニンジン残渣の含有割合が10質量%(乾燥ニンジン残渣の含有割合)、アセチルクエン酸トリブチル(田岡化学社製)の含有割合が22.2質量%となるように各成分を用意した。これら2成分を混合し、ニンジン残渣をアセチルクエン酸トリブチルに分散させた。ポリ乳酸(商品名「REVODE110」、浙江海正生物材料社製)の含有割合が67.8質量%となるようにポリ乳酸をドライブレンドした。当該ドライブレンドは常温で行われた。
【0105】
前記ドライブレンドにより得られた混合物を二軸押出機(PCM30、株式会社池貝)内へ供給し、そして、これらの成分が混練処理に付された。当該混練処理におけるシリンダー温度は120℃であった。
【0106】
前記混合物は当該押出機のダイから押し出され、そして細長い略円柱状のペレットが得られた。当該混練処理によって、組成物(以下、「実施例1の組成物」ともいう)のペレットを得た。
【0107】
実施例1の組成物を昇圧試験機(LABTECH ENGINEERING、押出機径25mm、温度200℃)へ供給し、上記で説明したとおりに昇圧試験を行って圧力差ΔPを測定した。ΔPは20.1barであった。
【0108】
実施例1の組成物のペレットを熱プレス機(LAB TECHエンジニアリング社製)へ供給し、そして、熱プレスを行った。当該熱プレスは、180℃で行われた。当該熱プレスによって、厚み500μmのシートを得た。
【0109】
得られたシートに関し、引張弾性率、引張伸び、引張強度を第1の実施形態にて説明した方法に従い測定した。得られたシートは、引張弾性率は1.5GPaであり、引張伸びは86.7%であり、引張強度は20.8MPaであった。
また、成形性はA評価であった。
【0110】
[実施例2]
【0111】
組成物中においてニンジン残渣の含有割合が15質量%(乾燥ニンジン残渣の含有割合)、ポリ乳酸(商品名「REVODE110」、浙江海正生物材料社製)の含有割合が62.8質量%となるようにしたこと以外は実施例1と同じ方法で組成物(以下、「実施例2の組成物」ともいう)のペレットを得た。
【0112】
実施例2の組成物を実施例1と同じように昇圧試験を行って圧力差ΔPを測定した。ΔPは6.0barであった。
【0113】
実施例2の組成物のペレットを実施例1と同じように熱プレスを行って、厚み500μmのシートを得た。
【0114】
得られたシートに関し、引張弾性率、引張伸び、引張強度を実施例1と同じ方法により測定した。得られたシートは、引張弾性率は2.6GPaであり、引張伸びは8.3%であり、引張強度は29.8MPaであった。
また、成形性はA評価であった。
【0115】
[比較例1]
【0116】
ニンジン残渣を用意した。当該ニンジン残渣は、ニンジン澱粉の抽出処理において生じた搾りかすであり、すなわち、ニンジン由来のでん粉抽出残渣である。当該ニンジン残渣は、5mm以下のサイズを有するように粉砕処理され、且つ、乾燥処理された。このようにして、ニンジン残渣の乾燥粉末が容易された。
【0117】
組成物中において乾燥ニンジン残渣の含有割合が10質量%、ポリ乳酸(商品名「REVODE110」、浙江海正生物材料社製)の含有割合が90質量%、クエン酸エステルの含有割合が0質量%となるようにしたこと以外は実施例1と同じ方法で組成物(以下、「比較例1の組成物」ともいう)のペレットを得た。
【0118】
比較例1の組成物を実施例1と同じように昇圧試験を行って圧力差ΔPを測定した。ΔPは49.8barであった。
【0119】
比較例1の組成物のペレットを実施例1と同じように熱プレスを行って、厚み500μmのシートを得た。
【0120】
得られたシートに関し、引張弾性率、引張伸び、引張強度を実施例1と同じ方法により測定した。得られたシートは、引張弾性率は3.5GPaであり、引張伸びは1.0%であり、引張強度は27.6MPaであった。
【0121】
(2)評価結果
【0122】
比較例1に関する評価結果に示されるとおり、クエン酸エステルを含まない組成物は、圧力差ΔPが高いため成形性に劣っていた。
【0123】
実施例1及び実施例2は、圧力差ΔPが高いため成形性に優れていた。
【0124】
上述の実施形態及び実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料、及び数値はあくまでも例に過ぎず、これと異なる構成、方法、工程、形状、材料、及び数値が用いられてもよい。
【0125】
また、上述の実施形態及び実施例の構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0126】
また、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階における数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階における数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。