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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147869
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20241009BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20241009BHJP
   H01M 8/04111 20160101ALI20241009BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/0612
H01M8/04111
H01M8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060564
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 望
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AC15
5H127BA02
5H127BA05
5H127BA12
5H127BA28
5H127BA40
5H127BA57
5H127BB02
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素分離回収機能を備えた燃料電池システムにおいて膜分離法を効果的に適用し、分離回収に要する動力を削減する方法を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック(2)のアノード排気ガスを循環させるアノードリサイクル回路(3)と、アノードリサイクル回路(3)から分岐するアノード分岐管(4)と、アノード分岐管(4)に接続した圧縮機(5)と、圧縮機(5)に接続した分離膜(6)とを備え、アノードリサイクル回路(3)によって二酸化炭素の濃度を高めて分離膜(6)の分離効率を向上させると共に、アノード排気ガスの一部を分離膜(6)に導くことにより、アノードリサイクル回路(3)上に分離膜(6)を設置する場合と比較して分離膜(6)に導かれるガス流量を削減し、圧縮機(5)と分離膜(6)の小型化、圧縮機(5)の動力の削減を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む原燃料を改質反応させて水素を含む改質ガスを生成する改質器と、
空気と前記改質ガスとの電気化学反応によって電力を出力する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックのアノードから排出されたアノード排気ガスを受け入れ、前記原燃料に混合して循環させるリサイクルガスとして導くアノードリサイクル回路と、
前記アノードリサイクル回路から分岐するガス回路に設けられ、分岐された前記ガス回路に導かれた前記アノード排気ガスを圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機で圧縮されたアノード排気ガスが通過することにより、二酸化炭素を分離する分離膜を有し、分離した前記二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離回収装置と、
を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記二酸化炭素分離回収装置で前記二酸化炭素が分離された後の分離済ガスの圧力から動力を回収するためのタービンを備えたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記タービンで動力が回収され冷却された分離済ガスを前記分岐するガス回路を冷却する熱交換器に供給することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料極(以下、アノードと称する)と空気極(以下、カソードと称する)の間に電解質を挟んで構成した単セルを何層も積層したスタックと称される形態で使用される。燃料電池スタックは、炭化水素系の原燃料を改質した水素を含む改質ガスと酸化剤を、電解質を介して隔てた状態で電気化学反応を生じさせることで発電する。
【0003】
しかし、アノードから排出される残余の改質ガス(アノード排気ガス)には、二酸化炭素、水蒸気の他に、電気化学反応で消費されず、原料として再利用できる水素と一酸化炭素が含まれている。そこで、アノード排気ガスを燃焼器で燃焼して利用したり、アノード排気ガスの一部を原燃料に循環したりすることで、アノード排気ガスが有するエネルギを有効利用することが一般に行われている。しかし、アノード排気ガス由来の燃焼排ガス中に含まれる二酸化炭素はそのまま大気に排出され環境への負荷となる。
【0004】
そこで、二酸化炭素を分離回収する機能を備えた燃料電池システムにおいて、回収動力の削減と発電効率の向上が求められ、循環させたアノード排気ガス中の二酸化炭素を膜分離、圧縮液化、化学吸収、物理吸着などの分離法を用いて分離回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
二酸化炭素を分離する膜分離法においては、二酸化炭素と水素の混合気体から二酸化炭素を選択的に透過する促進輸送膜および分子ゲート膜など、新しい方法が開発され実用化が期待されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3000118号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】神尾英治、吉岡朋久、「日本における膜分離法によるCO2分離回収技術」、日本膜学会、「膜」、2017年3月4日、42巻1号p.2-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
膜分離法を利用して二酸化炭素を効率よく分離するためには、分離膜を通過する前後の圧力差および濃度差が必要となる。圧力差および濃度差が高いほど二酸化炭素は通過しやすくなる。しかし、特許文献1のようにアノード排気ガスを固体酸化物燃料電池に循環する回路上に二酸化炭素分離装置を配置する構成では、二酸化炭素分離装置を通過するアノード排気ガスも多くなることから、特に膜分離により二酸化炭素を分離する場合は、分離膜の大径化による装置の大型化が懸念される。
【0009】
本願は、上述のような課題を解決するための技術を開示するものであり、二酸化炭素分離回収機能を備えた燃料電池システムにおいて膜分離法を効果的に適用し、分離回収に要する動力を削減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に開示される燃料電池システムは、
炭化水素を含む原燃料を改質反応させて水素を含む改質ガスを生成する改質器と、
空気と改質ガスとの電気化学反応によって電力を出力する燃料電池スタックと、
燃料電池スタックのアノードから排出されたアノード排気ガスを受け入れ、原燃料に混合して循環させるリサイクルガスとして導くアノードリサイクル回路と、
アノードリサイクル回路から分岐するガス回路に設けられ、分岐されたガス回路に導かれたアノード排気ガスを圧縮する圧縮機と、
圧縮機で圧縮されたアノード排気ガスが通過することにより、二酸化炭素を分離する分離膜を有し、分離した二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離回収装置と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される燃料電池システムによれば、分離膜の設置場所をアノード排気ガスが循環するアノードリサイクル回路上ではなく、アノード排気ガスの一部を分岐させたアノード分岐管に設けることによって、アノードリサイクル回路上に設置した場合と比較してガス流量を削減し、圧縮機と分離膜の小型化、および圧縮機の動力の削減を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る燃料電池システムの概略構成図である。
図2】実施の形態2に係る燃料電池システムの概略構成図である。
図3】実施の形態3に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願に係る燃料電池システムの好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、同一内容および相当部については同一符号を配し、その詳しい説明は省略する。以降の実施形態も同様に、同一符号を付した構成について重複した説明は省略する。
【0014】
実施の形態1.
実施の形態1における燃料電池システムについて図1を用いて説明する。本実施の形態にかかる燃料電池システム100は、発電と二酸化炭素濃縮を行う部分Aと、二酸化炭素の分離を行う部分Bとによって構成される。
【0015】
〈発電と二酸化炭素濃縮を行う部分Aの構成と動作〉
発電と二酸化炭素濃縮を行う部分Aの主な構成要素は、改質器1、燃料電池スタック2、アノードリサイクル回路3の3つからなる。
【0016】
〈改質器〉
改質器1は、改質触媒が充填され、燃焼器から熱を与えられて原燃料中の炭化水素を分解する改質反応が行われ、水素と一酸化炭素を含む改質ガスが生成されるガス変換装置である。原燃料は、都市ガス或いはバイオガスと水蒸気である。
【0017】
改質器1は、以下の式(1)、に示す化学平衡反応において原燃料を水素と一酸化炭素に変換し、燃料電池スタック2に供給する。またアノードリサイクル回路3内の高濃度の二酸化炭素を、式(2)の反応によって利用し、原燃料を水素と一酸化炭素に変換する。
CH+HO ⇔ CO+3H (1)
CH+CO ⇔ 2CO+2H (2)
【0018】
〈燃料電池スタック〉
燃料電池スタック2は、アノード、カソードおよび両極が電解質で構成されるセルを積層したものである。改質器1で生成された改質ガス中の水素と一酸化炭素を消費して発電を行う。吸気した水素と一酸化炭素の残りに、水蒸気と二酸化炭素を加え、アノード排気ガスとして排出する。
【0019】
燃料電池スタック2は、改質器1で生成された改質ガス中の水素、および一酸化炭素などの燃料成分と空気中の酸素が電気化学的に反応することで発電が行われる。すなわち、改質ガス吸気中に含まれる水素と一酸化炭素の一部を以下の式(3)、式(4)に示す電気化学反応によって水蒸気と二酸化炭素に変える。燃料電池スタック2は、反応によって生成した水蒸気と二酸化炭素を、反応に使用しなかった水素、一酸化炭素と共にアノード排気ガスとしてアノードリサイクル回路3に排出する。
+O2- → HO+2e (3)
2CO+O2- → 2CO+2e (4)
【0020】
燃料電池スタック2は、例えば600℃~700℃で動作し、アノードからは高温のアノード排気ガスが、カソードからは高温のカソード排気ガスが排出され、その熱は後流側で利用される。
【0021】
〈アノードリサイクル回路〉
アノードリサイクル回路3は、燃料電池スタック2のアノード排気ガスを改質器1に導く配管回路である。これによってアノード排気ガスが循環する。
【0022】
アノードリサイクル回路3は、水素、一酸化炭素、水蒸気、二酸化炭素からなるアノード排気ガスを循環し、アノード排気ガス中に残存する水素を燃料電池スタック2で再利用(リサイクル)することにより発電効率を向上させる。
【0023】
またアノードリサイクル回路3を利用し、発電に必要な量の原燃料にアノード排気ガスを混合しつつ循環を続けることにより、燃料電池スタック2の発電において水素と一酸化炭素は水蒸気と二酸化炭素に変えられ、循環するガス中の水蒸気と二酸化炭素の濃度が高まる。
【0024】
更にアノードリサイクル回路3の機能により、アノード排気ガス中に含まれる二酸化炭素および水蒸気を改質器1で利用して水蒸気の添加を不要にすることも可能である。これにより原燃料中の水蒸気量を減らして燃料電池スタック2に到達する水蒸気量を削減することが可能で、アノードの水蒸気分圧を低下させて燃料電池スタック2の発電効率を向上させる。
【0025】
なお、改質器1の機能を燃料電池スタック2に持たせ、改質器1を不要とする構成も可能である。
【0026】
〈二酸化炭素の分離を行う部分Bの構成と動作〉
二酸化炭素の分離を行う部分Bの主な構成要素は、アノード分岐管4、圧縮機5、および分離膜6aを有する二酸化炭素分離回収装置6の3つからなる。
【0027】
〈アノード分岐管〉
アノード分岐管4はアノードリサイクル回路3と圧縮機5を接続する管路である。アノードリサイクル回路3中のアノード排気ガスの一部を圧縮機5に導く。
【0028】
アノード分岐管4には、アノードリサイクル回路3を流れるガスの全量ではなく、アノードリサイクル回路3から分岐した一部のアノード排気ガスが流れる。このため、アノードリサイクル回路3上に圧縮機5と分離膜6aを設置した場合と比べ、より少ない量のガスが圧縮機5と分離膜6aに流れる。つまり圧縮機5と分離膜6aの小型化および動力削減が可能となる。
【0029】
〈分離膜を使用した二酸化炭素分離回収装置〉
二酸化炭素分離回収装置6は、アノード分岐管に設けられ、ここで二酸化炭素を分離回収することで、系外への二酸化炭素の排出を抑えることが可能となる。アノードリサイクル回路3により、アノード排気ガス中の二酸化炭素が高濃度に濃縮されているので、二酸化炭素の分離回収が比較的容易になる。二酸化炭素の分離は二酸化炭素を選択的に通過させる機能を有する分離膜6aで行う。
【0030】
二酸化炭素の分離は、一般に分離対象のガス中の二酸化炭素濃度が高い方が、分離がし易く有利とされている。二酸化炭素の分離を分離膜6aを使用した膜分離で行う場合、以下で説明する圧縮機5による圧縮のプロセスを必要とする。この場合、二酸化炭素濃度が高いほど圧縮に要する動力が低くなり、分離効率が良くなる。回収二酸化炭素の利用という観点では、二酸化炭素の液化分離が望ましく、二酸化炭素濃度が高ければ、比較的容易に液化分離できる。
【0031】
二酸化炭素分離回収装置6で二酸化炭素が分離された分離済ガスは、改質器1に熱を与える燃焼器に送られ、改質器1の過熱に利用されてもよい。
【0032】
〈圧縮機〉
圧縮機5は、アノード分岐管4で分岐されたアノード排気ガスを圧縮するガス圧縮機である。アノード排気ガスの圧力を分離膜6aが必要とする圧力まで高める。
【0033】
圧縮機5に流れたアノード排気ガスは圧縮されて分離膜6aに供給される。発電と二酸化炭素濃縮を行う部分Aによりアノード排気ガス中の二酸化炭素の濃度が高められているため、分離膜6aにおいては二酸化炭素が通過しやすく、アノード排気ガスを分離済ガスと二酸化炭素とに高い分離効率で分離する。
【0034】
燃料電池スタック2で再利用するリサイクルガスとアノード分岐管4に流入するアノード排気ガスの分配比を調節するための流量調節器をアノードリサイクル回路3とアノード分岐管4の少なくとも一方に設けても良い。この流量調節器の調節によりアノード排気ガスをリサイクルガスとして循環される割合(リサイクル比)を任意の値に設定することが可能である。
【0035】
例えば、リサイクル比を70%に設定したい場合、リサイクルガスとアノード分岐管4に流入するガスの流量比を7対3の比率に調整すれば良い。
【0036】
以上から、図1に示す燃料電池システム100の構成例によれば、
(1)アノード排気ガスをアノードリサイクル回路3によりリサイクル循環させて水素並びに一酸化炭素を燃料電池において消費してアノード排気ガス中の二酸化炭素濃度を高めることにより分離膜6aでの分離効率を高めることができ、二酸化炭素が分離膜を通過しやすい状態とする。
(2)またリサイクル循環から分岐させたアノード分岐管4に圧縮機5と分離膜6aを設置することにより、アノードリサイクル回路3上に分離膜6aを設置する場合と比較して圧縮機5および分離膜6aに送るガス量を削減して分離膜6aを有する二酸化炭素分離回収装置6並びに圧縮機5の小型化と動力削減を行うことが可能となる。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態2に係る燃料電池システムについて図2を用いて説明する。実施の形態2に係る燃料電池システム200は、実施の形態1の燃料電池システム100にタービン7を追加した構成である。以下実施の形態1と同じ構成および動作の説明は省略する。
【0038】
タービン7は、分離済ガスの圧力から動力を回収するための動力回収用タービンである。圧縮機5で圧縮され、分離膜6aで二酸化炭素と分離された分離済ガスは、高い圧力を有している。分離済ガスの圧力によりタービン7を駆動し、動力を回収する。回収した動力は発電機を用いて電力に変換するなどして圧縮機5で利用可能である。
【0039】
なお、タービン7の代わりに、例えばターボチャージャーを設置し、回収した動力でアノード分岐管4を通過するアノード排気ガスを加圧し、圧縮機5の動力を削減する構成としても良い。
【0040】
以上のように、実施の形態2に係る燃料電池システムによれば、分離済ガスの圧力を動力として回収する動力回収用タービンを設置することにより二酸化炭素の分離回収に係る動力削減などを行うことができる。
【0041】
実施の形態3.
実施の形態3に係る燃料電池システムについて図3を用いて説明する。実施の形態3に係る燃料電池システム300は、実施の形態2の燃料電池システム200に熱交換器8を追加した構成である。以下実施の形態1および2と同じ構成および動作の説明は省略する。
【0042】
熱交換器8は、タービン7で動力が回収され、冷却された分離済ガスの冷熱を用いてアノード分岐管4のガスを冷却するためのガス冷却器である。タービン7を駆動し動力を回収することにより分離済ガスの温度は低下する。温度が低下した分離済ガスの冷熱を用いてアノード分岐管4のガスを冷却し、圧縮機5の動力を削減する。
【0043】
以上のように、実施の形態3に係る燃料電池システムによれば、タービンで冷却されたガスの冷熱を用いてアノード分岐管のガスを冷却し、圧縮機の動力を削減することができる。
【0044】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0045】
1:改質器、2:燃料電池スタック、3:アノードリサイクル回路、4:アノード分岐管、5:圧縮機、6:二酸化炭素分離回収装置、6a:分離膜、7:タービン、8:熱交換器。
図1
図2
図3