(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014787
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】温度調節システムを備えた電気駆動車両
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20240125BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240125BHJP
B60L 58/33 20190101ALI20240125BHJP
B60L 58/34 20190101ALI20240125BHJP
B60K 11/02 20060101ALI20240125BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240125BHJP
H01M 10/6571 20140101ALI20240125BHJP
H01M 10/615 20140101ALI20240125BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240125BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
B60H1/22 671
B60L50/60 ZHV
B60L58/33
B60L58/34
B60K11/02
H01M10/625
H01M10/6571
H01M10/615
H01M10/6556
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023116408
(22)【出願日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】102022000015240
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(71)【出願人】
【識別番号】519463178
【氏名又は名称】フェラーリ エッセ.ピー.アー.
【氏名又は名称原語表記】FERRARI S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Emilia Est, 1163, 41100 MODENA, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パオロ サッコ
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ タッシナーリ
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ ダンジェロ
【テーマコード(参考)】
3D038
3L211
5H031
5H125
【Fターム(参考)】
3D038AB01
3D038AC22
3D038AC23
3L211AA10
3L211AA11
3L211BA32
3L211DA47
3L211DA50
3L211EA84
3L211FB06
3L211FB20
3L211GA43
3L211GA49
5H031KK03
5H031KK08
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC19
5H125CD08
5H125CD09
5H125FF24
5H125FF27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高いエネルギー効率で加熱に必要な熱を生成することで長い航続距離を保証すると同時に、製造が容易かつ経済的な温度調節システムの提供。
【解決手段】1つの電気駆動システムと、電池と、車室を空調するための空調システムであって、少なくとも1つの熱交換器を備える空調システムと、駆動システムを通って流体を流す構成とした第1の温度調節回路と、電池を通って流体を流す構成とした第2の温度調節回路と、熱交換器を通って流体を流す構成とした第3の温度調節回路と、第3の温度調節回路に沿って配置され、第3の温度調節回路を流れる流体を加熱するために動作させることができる電気ヒータと、第1の温度調節回路を通って流れる流体が、第3の温度調節回路を通っては流れない遮断位置と、第1の温度調節回路を通って流れる流体が、第3の温度調節回路も通って流れる連通位置との間で可動自在な、少なくとも1つのソレノイドバルブと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(1)であって、
少なくとも1つの電気駆動システム(3)と、
電池(6)と、
車室(10)と、
前記車室(10)を空調するための空調システム(11)であって、高温流体を用いて空気を加熱するように構成された少なくとも1つの熱交換器(13)を備える空調システム(11)と、
前記駆動システム(3)を通って前記流体を流すように構成された第1の温度調節回路(15)と、
前記電池(6)を通って前記流体を流すように構成された第2の温度調節回路(16)と、
前記空調システム(11)の前記熱交換器(13)を通って前記流体を流すように構成された第3の温度調節回路(17)と、
前記第3の温度調節回路(17)に沿って配置され、前記第3の温度調節回路(17)を流れる前記流体を加熱するために動作させることができる電気ヒータ(18)と、
前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)を通っては流れない遮断位置と、前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)も通って流れる連通位置との間で可動自在な、少なくとも一つの第1のソレノイドバルブ(19)と、を備え、
前記空調システム(11)の前記熱交換器(13)に熱を供給する必要がある場合に、
前記第1のソレノイドバルブ(19)が前記遮断位置にあるときの前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量を推定し、
前記第1のソレノイドバルブ(19)が前記連通位置にあるときの前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量を推定し、
前記第1のソレノイドバルブ(19)を、前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量がより小さくなる位置に移動させる
ように構成された、制御ユニット(26)を備えることを特徴とする、車両(1)。
【請求項2】
前記電気駆動システム(3)が、前記第1のソレノイドバルブ(19)の両方の位置における、前記電気駆動システム(3)自体の電力消費量を前記制御ユニット(26)に提供するように構成され、
前記電気ヒータ(18)が、前記第1のソレノイドバルブ(19)の両方の位置における、前記電気ヒータ(18)自体の電力消費量を前記制御ユニット(26)に提供するように構成される、
請求項1に記載の車両(1)。
【請求項3】
前記電気駆動システム(3)が、前記電気駆動システム(3)自体の電力消費量と、前記第1のソレノイドバルブ(19)の位置が変化した場合の前記電気駆動システム(3)自体の電力消費量の変動とを、前記制御ユニット(26)に提供するように構成され、
前記電気ヒータ(18)が、前記電気ヒータ(18)自体の電力消費量と、前記第1のソレノイドバルブ(19)の位置が変化した場合の前記電気ヒータ(18)自体の電力消費量の変動とを、前記制御ユニット(26)に提供するよう構成される、
請求項1に記載の車両(1)。
【請求項4】
前記第1の温度調節回路(15)内に配置された、少なくとも一つのラジエータ(20)と、
前記ラジエータ(20)を迂回するように調整することができる、第2のソレノイドバルブ(21)を備える、
請求項1に記載の車両(1)。
【請求項5】
前記制御ユニット(26)が、前記第1のソレノイドバルブ(19)が前記連通位置にあるときに前記ラジエータ(20)を迂回するように、前記第2のソレノイドバルブ(21)を制御するように構成される、請求項4に記載の車両(1)。
【請求項6】
前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第2の温度調節回路(16)を通っては流れない遮断位置と、前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第2の温度調節回路(16)も通って流れる連通位置との間で可動自在な、少なくとも1つの第3のソレノイドバルブ(23)を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項7】
前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第2の温度調節回路(16)を通っては流れない前記遮断位置と、前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第2の温度調節回路(16)も通って流れる前記連通位置との間で可動自在な、互いに分離した2つの第3のソレノイドバルブ(23)を備える、請求項6に記載の車両(1)。
【請求項8】
前記第2の温度調節回路(16)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)と熱交換を行わない遮断位置と、前記第2の温度調節回路(16)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)と熱交換を行う連通位置との間で可動自在な、少なくとも1つの第4のソレノイドバルブ(25)を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項9】
前記第2の温度調節回路(16)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)を通っては流れない遮断位置と、前記第2の温度調節回路(16)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)も通って流れる連通位置との間で可動自在な、少なくとも1つの第4のソレノイドバルブ(25)を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の車両(1)。
【請求項10】
前記制御ユニット(26)が、前記電気ヒータ(18)がオフにされたときに、前記第4のソレノイドバルブ(25)を前記遮断位置に移動させるように構成される、請求項8に記載の車両(1)。
【請求項11】
前記制御ユニット(26)が、前記駆動システム(3)によって提供される前記熱が前記電池(6)を加熱するのに十分でないとき、前記第4のソレノイドバルブ(25)を前記連通位置に移動させ、前記電気ヒータ(18)をオンにして、前記電気ヒータ(18)によって生成された前記熱の少なくとも一部を使用して、前記電池(6)を加熱するように構成される、請求項8に記載の車両(1)。
【請求項12】
少なくとも1つの電気駆動システム(3)と、
電池(6)と、
車室(10)と、
前記車室(10)を空調するための空調システム(11)であって、高温流体を用いて空気を加熱するように構成された、少なくとも1つの熱交換器(13)を備える空調システム(11)と、
前記駆動システム(3)を通って前記流体を流すように構成された第1の温度調節回路(15)と、
前記電池(6)を通って前記流体を流すように構成された第2の温度調節回路(16)と、
前記空調システム(11)の前記熱交換器(13)を通って前記流体を流すように構成された第3の温度調節回路(17)と、
前記第3の温度調節回路(17)に沿って配置され、前記第3の温度調節回路(17)を流れる前記流体を加熱するために動作させることができる電気ヒータ(18)と、
前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)を通っては流れない遮断位置と、前記第1の温度調節回路(15)を通って流れる前記流体が、前記第3の温度調節回路(17)も通って流れる連通位置との間で可動自在な、少なくとも一つの第1のソレノイドバルブ(19)と、を備える車両(1)を制御する方法であって、
前記制御方法が、前記空調システム(11)の前記熱交換器(13)に熱を供給する必要がある場合に、
第1のソレノイドバルブ(19)が前記遮断位置にある場合に、前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量を推定するステップと、
前記第1のソレノイドバルブ(19)が前記連通位置にある場合に、前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量を推定するステップと、
前記第1のソレノイドバルブ(19)を、前記電気駆動システム(3)及び前記電気ヒータ(18)の総電力消費量がより小さくなる位置に移動させるステップと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
本特許出願は、2022年7月20日に出願されたイタリア特許出願第102022000015240号の優先権を主張し、その全開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、温度調節システムを備えた電気駆動車両に関する。
【背景技術】
【0003】
車両には、単一の電気モータ、又は数個の電気モータを備えることができる(その場合、全電気駆動となる)。あるいは、燃焼エンジンと組み合わされた、1つ又はそれ以上の電気モータを備えることができる(その場合、全電気駆動、燃焼駆動、又はハイブリッド駆動となる)。
【0004】
電気モータ(又は各電気モータ)は、機械的に駆動輪に接続され、かつ、電力変換器を介して、電気的に電池に接続される。
【0005】
正確に動作し、かつ急速に劣化することを回避するために、電池は、比較的一定の動作温度に保たれなければならない。したがって、電池が過度に高温であるときには(駐車時に、充電中であっても)冷却することができ、また、(典型的にはコールドスタート後に)電池が低温であるときには加熱することができる、温度調節システムに結合する必要がある。実際のところ、電池が理想的に動作する温度範囲は、10℃から30℃までである(リチウム電池では、使用条件によっては45°まで達する可能性があるが、いずれにせよ、これが限界動作温度と考えられる)。この範囲を超えると、一部の成分が劣化するリスクがあり、70℃を超える過熱状態では、電解質を構成する酸や溶媒などの可燃性要素が、より発火しやすくなる。一方、前述した温度範囲未満では、電池は効率低下を余儀なくされ、0℃未満では、最大で40%の推定航続距離の損失につながるおそれがある。
【0006】
(温度閾値をわずかに短時間だけ超えた場合の)急速な劣化、又は、(温度閾値を大幅に長時間にわたり超えた場合の)恒久的な損傷が起こり得る温度限界を超えないように、(必要に応じて)電気モータ及びそれぞれの電力変換器を冷却しなければならない。更に、一般には、各電気モータ及びそれぞれの電力変換器は、それらの内部温度が低い場合に、エネルギー効率がわずかに高くなる(これは、温度が低下するにつれて、導体金属の電気抵抗がわずかに低下するためである)。したがって、各電気モータ及びそれぞれの電力変換器は、過剰な熱があるときに冷却することができる、温度調節システムにも結合しなければならない。
【0007】
車両の車室では、その乗員の快適性のために適切に空調することが必要であり、したがって、車室の空調システムを、高温時に冷却することができ、低温時に加熱することもできる、温度調節システムに結合する必要がある。
【0008】
内燃エンジンを備える車両では、内燃エンジンがその動作中に高温の熱を大量に発生させるため、加熱を必要とするすべての構成要素を加熱するために、その熱を大いに利用することができる(内燃エンジンの冷却液の動作温度は、およそ約70℃から90℃である)。
【0009】
一方、全電気駆動車両では、各電気モータ及びそれぞれの電力変換器は通常、95%を超えるエネルギー効率で動作し、したがって、(特に都市部で使用する場合)少量の熱しか発生させないため、その熱をあまり利用することができない。結果として、全電気駆動車両は、熱を発生させるための電気装置(一般的に言えば、発熱抵抗体又はヒートポンプ)を備える必要があり、それらは必要なときに(基本的に電池及び車室のために)熱を発生させることができる。しかしながら、電池に蓄えられた電力の一部を使用して熱を発生させるこれらの電気装置により、使用時に、必然的に車両の航続距離は短くなる。
【0010】
国際公開第2021122949号には、電気自動車の冷却システムであって、冷却バルブが設けられる、冷却システムが開示されている。このシステムは、様々な接続可能性で相互に接続することができる、複数の入力及び出力を有するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、より高いエネルギー効率で加熱に必要な熱を生成することで、より長い航続距離を保証するのと同時に、製造が容易かつ経済的な温度調節システムを備えた、電気駆動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載の温度調節システムを備える、電気駆動車両が提供される。
【0013】
添付の特許請求の範囲は、本発明の好ましい実施形態を説明し、本発明の不可欠な部分を形成するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
ここで、本発明の非限定的な実施形態を示す、添付の図面を参照して、本発明の説明を行う。
【0015】
【
図1】本発明による電気駆動道路車両の概略平面図である。
【
図3】
図1の車両の、温度調節システムの模式図である。
【
図4】
図3の温度調節システムの、付属物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、番号1は、全体として、4つの駆動輪2(2つの前駆動輪2及び2つの後駆動輪2)を備えた、電気駆動車両を示す。
【0017】
車両1は、前方位置に配置された(すなわち、2つの前駆動輪2に接続された)電気駆動システム3、並びに、後方位置に配置された(すなわち、2つの後駆動輪2に接続された)電気駆動システム3を備える。後者は、前部位置に配置された電気駆動システム3と構造的に完全に同一のものであり、かつ、前部位置に配置された電気駆動システム3から機械的に独立し、分離している。
【0018】
本明細書には示されていない別の実施形態によれば、車両1は、(前方位置に配置された、又は後方位置に配置された)単一の電気駆動システム3を備え、したがって、2つの駆動輪2のみを有する。この実施形態では、車両1は、前述した単一の電気駆動システム3からは運動を受け取らない駆動輪2に接続された、燃焼駆動システムを備えることもできる。
【0019】
各電気駆動システム3は、それぞれのシャフトが設けられた一対の可逆電気機械4(すなわち、電気エネルギーを吸収して機械的トルクを生成する電気モータとして、かつ機械的エネルギーを吸収して電気エネルギーを生成する発電機としての、両方として機能することができる機械)、並びに、電気機械4(すなわち、電気機械4のシャフト)を対応する駆動輪2に接続する、一対のドライブトレイン5を備える。
【0020】
各電気機械4は、電池6に接続された対応するAC/DC電力変換器(すなわち、「インバータ」)によって制御される。すなわち、各DC-AC電力変換器は双方向コンバータであり、電池6に接続されたDC側、及び、対応する電気機械4に接続された三相AC側で構成されるものである。
【0021】
電池6は、平型のものであり、そのため車両1の床板に一体化することができる。特に、電池6は、直方体形状の電気化学セルのそれぞれのグループを伴う(正確には、パウチ構造又はプリズム構造を有する)、複数のモジュールを内部に収容する、容器7を備える。容器7は、(路面に面する車両1の底部を構成し、明らかに水平に方向付けられた)下壁、及び、下壁に平行であり、下壁の反対側にある上壁、及び、車両1の前部に面する(すなわち、進行方向Dに対して車両1の前方を向く)前壁8、並びに、前壁8の反対側にあり、車両1の後部に面する(すなわち、進行方向Dに対して車両1の後方を向く)後壁9を有する。
【0022】
図2によれば、車両1は、車室10、並びに、複数の通気孔12を介して車室10に空調空気流を導入することによって車室10を空調する、空調システム11を備える。空調システム11は、とりわけ、互いに並列に接続され、高温流体(特に、以下でより詳細に説明するように、水とグリコールとの混合物)を使用して空気を加熱するように構成された、2つの熱交換器13を備える。
【0023】
図3によれば、車両1は、駆動システム3の動作温度を調整し、電池6の動作温度を調整し、熱(すなわち、高温流体)を、(必要に応じて)空調システムの熱交換器13に供給するように構成された、温度調節システム14を備える。
【0024】
温度調節システム14は、2つの駆動システム3を通って流体(すなわち、空気とグリコールとの混合物)を流すように構成された、温度調節回路15を備える。特に、温度調節回路15は、電気機械4及び対応する電力変換器の両方を通って、前述した流体を流す。
【0025】
温度調節システム14は、電池6を通って流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を流すように構成された、温度調節回路16を備える。
【0026】
温度調節システム14は、空調システム11の2つの熱交換器13を通って流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を流すように構成された、温度調節回路17を備える。
【0027】
温度調節回路17に沿って、温度調節回路17内を流れる流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を加熱するように動作することができる、電気ヒータ18がある(正確には、電気エネルギーを使用して熱を発生させる、例えば、電気発熱抵抗体を含む装置)。
【0028】
温度調節システム14は、ソレノイドバルブ19(すなわち、電気パルスによって遠隔制御され、電気機械的に操作されるバルブ)を備える。ソレノイドバルブは、温度調節回路15を通って流れる流体が、温度調節回路17を通っては流れない遮断位置(逆もまた同様である)と、温度調節回路15を通って流れる流体が、温度調節回路17も通って流れる連通位置(逆もまた同様である)との間で、可動自在である。すなわち、ソレノイドバルブ19が遮断位置にあるとき、温度調節回路15と温度調節回路17との間で流体の交換は行われず、一方、ソレノイドバルブ19が連通位置にあるとき、温度調節回路15と温度調節回路17との間で流体の交換が行われる。
【0029】
温度調節回路15に沿って、直列に配置された2つのラジエータ20(一方は車両1の右側に搭載され、もう一方は車両1の左側に搭載される)があり、それらを通って、温度調節回路15内に位置する流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を流すことができる。
【0030】
温度調節システム14は、ラジエータ20を迂回するように調整することができる、ソレノイドバルブ21を備える。言い換えれば、ソレノイドバルブ21を調整することによって、ラジエータ20を通って、又はラジエータ20に平行に配置されたバイパスダクト22を通って、温度調節回路15内に位置する流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を流すことができる。
【0031】
温度調節システム14は、温度調節回路15を通って流れる流体が、温度調節回路16を通っては流れない遮断位置(逆もまた同様である)と、温度調節回路15を通って流れる流体が、温度調節回路16も通って流れる連通位置(逆もまた同様である)との間で可動自在な、互いに分離した、2つのソレノイドバルブ23を備える。すなわち、ソレノイドバルブ23が遮断位置にあるとき、温度調節回路15と温度調節回路16との間で流体の交換は行われず、一方、ソレノイドバルブ23が連通位置にあるとき、温度調節回路15と温度調節回路16との間で流体の交換が行われる。
【0032】
温度調節システム14は、温度調節回路16内に存在する流体と温度調節回路17内に存在する流体との間で熱を交換することを可能にする、熱交換器24を備える。すなわち、熱交換器24は、温度調節回路16に接続された側、及び、温度調節回路17に接続されたもう一方の側から構成される。使用時に、温度調節回路17を流れる流体から温度調節回路16を流れる流体に熱を伝達するために、すなわち、温度調節回路17を流れる流体が有する熱の一部を使用して、温度調節回路16を流れる流体を加熱するために、熱交換器24が使用される。温度調節システム14は、温度調節回路16を通って流れる流体が、温度調節回路17を通って流れる流体と熱を交換しない(すなわち、流体が熱交換器24を通っては流れない)遮断位置と、温度調節回路16を通って流れる流体が、温度調節回路17を通って流れる流体と熱を交換する(すなわち、流体が熱交換器24を通って流れる)連通位置との間で可動自在な、ソレノイドバルブ25を備える。
【0033】
本明細書には示されていない異なる実施形態によれば、熱交換器24は存在せず、2つの温度調節回路16と17との間の直接的な接続によって置き換えられる。この実施形態では、ソレノイドバルブ19は、温度調節回路16を通って流れる流体が、温度調節回路17を通っては流れない遮断位置(逆もまた同様である)と、温度調節回路16を通って流れる流体が、温度調節回路17も通って流れる連通位置(逆もまた同様である)との間で、可動自在である。
【0034】
車両1は、温度調節システム14の動作を制御する、(
図1及び
図2に概略的に示す)制御ユニット26を備える。とりわけ、制御ユニット26は、空調システム11の熱交換器13に熱を供給する必要があるときに、ソレノイドバルブ19が遮断位置にあるときの電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総電力消費量を推定し、ソレノイドバルブ19が連通位置にあるときの電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総電力消費量を推定し、かつ、電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総電力消費量がより小さくなる位置に、ソレノイドバルブ19を移動させるように構成される。
【0035】
言い換えれば、空調システム11の熱交換器13に熱を供給しなければならない場合(すなわち、空調システム11が車室10を暖房しなければならない場合)、熱交換器13が必要とする熱を、電気ヒータ18によって生成することができ、かつ/又は、2つの駆動システム3によって供給することができる。
【0036】
ソレノイドバルブ19が遮断位置にある場合、温度調節回路15内を流れる流体は、温度調節回路17に流れず、そのため、2つの駆動システム3によって発生した熱は、温度調節回路17、したがって熱交換器13に到達することができない。この構成では、温度調節回路15を流れる流体を(ソレノイドバルブ21を適切に調整することによって)ラジエータ20に流して、外部環境にその熱を消散させる(すなわち、ラジエータ20内で冷却する)ことができる。こうして、2つの駆動システム3の内部温度を低下させ、したがって、(温度が低下するにつれて導体の電気抵抗が低下し、したがって、ジュール効果によって引き起こされる電力損失が比例的に減少するため)2つの駆動システム3のエネルギー効率を高めることができる。すなわち、ソレノイドバルブ19が遮断位置にある場合、2つのラジエータ20を通って流体を流すことによって、温度調節回路15を流れる流体の温度を下げることができ、それによって、2つの駆動システム3のエネルギー効率が(わずかに)増加し、したがって、(所与の同じ性能において)電気駆動システム3の電気エネルギー消費量が低減される。一方、ソレノイドバルブ19が遮断位置にある場合、熱交換器13が必要とするすべての熱を、単一の電気ヒータ18によって生成しなければならず、したがって、電力消費量がより高くなる。
【0037】
ソレノイドバルブ19が連通位置にある場合、温度調節回路15を流れる流体は温度調節回路17に流れ、したがって、2つの駆動システム3によって発生した熱は温度調節回路17、したがって熱交換器13に到達する。この構成では、前述した熱を外部環境に消散させるのではなく、熱交換器13に放出しなければならないため、温度調節回路15を流れる流体を、通常、その熱を外部環境に消散させないように、(ソレノイドバルブ21を適切に調整することによって)ラジエータ20を通っては流さない。結果として、ソレノイドバルブ19が連通位置にある場合、熱交換器13が必要とするすべての熱(又はその熱の少なくとも一部)は、電気駆動システム3からもたらされるため、電気ヒータ18が生成する熱はより少ないはずであり(又は完全にオフのままであり得る)、したがって、電力消費がより少ないことを特徴とする。一方、ソレノイドバルブ19が連通位置にある場合、(熱交換器13に熱を放出しなければならず、ラジエータ20では冷却することができないため)温度調節回路15内を流れる流体はより高温であり、したがって、2つの駆動システム3はまた、より高い温度で、(わずかに)より小さいエネルギー効率で動作する。すなわち、(所与の同じ性能において)2つの駆動システム3の電力消費量は、より大きくなる。
【0038】
制御ユニット26は、空調システム11の熱交換器13に熱を供給しなければならない場合に、電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総エネルギー消費の観点から、ソレノイドバルブ19を(2つの駆動システム3によって生成された熱が外部環境に消散され、熱交換器13に熱を供給することには役立たない)遮断位置に配置すべきか、又はソレノイドバルブ19を(2つの駆動システム3によって生成された熱が、熱交換器13に熱を供給するために使用される)連通位置に配置すべきかを、明確化するように構成される。制御ユニット26は、基本的に、エネルギーの観点から、2つの相反する必要性、すなわち、2つの駆動システム3の動作温度を最小限に抑えるために、温度調節回路15を流れる流体の温度を低く保つこと(したがって、2つの駆動システム3のエネルギー効率を高めること)と、2つの駆動システム3から熱交換器13に熱を伝達するために、温度調節回路15を流れる流体の温度を高いままにすることとの間の、最も効率的な着地点を見出す。
【0039】
上記のおかげで、制御ユニット26は、ソレノイドバルブ19が連通位置にあるときにラジエータ20を迂回するようにソレノイドバルブ21を制御して、ラジエータ20内で、温度調節回路15内を流れる流体を冷却しないように構成され、その結果、空調システム11の2つの熱交換器13を加熱するために、前述した流体の熱を使用できることは明らかである。これに関して、空調システム11の2つの熱交換器13に熱を供給しなければならないのは、外部温度が低い場合のみであり、外部温度が低い場合には、温度調節回路15を流れる流体(すなわち、2つの駆動システム3を通って流れる流体)を冷却するために、ラジエータ20を必ずしも使用する必要がないことを、指摘しておくべきである。
【0040】
好ましい実施形態によれば、各電気駆動システム3(正確には、各電気駆動システム3のコントローラ)は、ソレノイドバルブ19の両方の位置における、それ自体の電力消費量を、周期的に制御ユニット26に提供するように構成される。ソレノイドバルブ19の現在の位置における各電気駆動システム3の電力消費量は、実際に消費されているものであるため、真の消費量であり、一方、ソレノイドバルブ19の(現在の位置とは違う)他の位置における、各電気駆動システム3の他の電力消費量は、電気駆動システム3が現在この状態で動作しているわけではないため、推定消費量である。同様に、電気ヒータ18(正確には、電気ヒータ18のコントローラ)は、ソレノイドバルブ19の両方の位置における、それ自体の電力消費量を、周期的に制御ユニット26に提供するように構成される。ソレノイドバルブ19の現在の位置における電気ヒータ18の電力消費量は、実際に消費されているものであるため、真の消費量であり、一方、ソレノイドバルブ19の(現在の位置とは違う)他の位置における、電気ヒータ18の他の電力消費量は、電気ヒータ18が現在この状態で動作しているわけではないため、推定消費量である。
【0041】
(実際のところ、完全に相当するものである)別の観点から、各電気駆動システム3(正確には、各電気駆動システム3のコントローラ)は、それ自体の現在の電力消費量と、ソレノイドバルブ19の位置が変化した場合のそれ自体の電力消費量の変動とを、制御ユニット26に提供するように構成される。同様に、電気ヒータ18(正確には、電気ヒータ18のコントローラ)は、それ自体の現在の電力消費量とソレノイドバルブ19の位置が変化した場合のそれ自体の電力消費量の変動とを、制御ユニット26に提供するように構成される。
【0042】
言い換えれば、各電気駆動システム3(正確には、各電気駆動システム3のコントローラ)は、制御ユニット26にそれ自体の現在の電力消費量、及び、その電力消費量が、どの程度好ましくない熱的条件であり得るかを提供するように構成される(これは、必要に応じて、ソレノイドバルブ19の位置を変更することによって得ることができる)。同様に、電気ヒータ18(正確には、電気ヒータ18のコントローラ)は、制御ユニット26にそれ自体の現在の電力消費量、及び、その電力消費量が、どの程度好ましくない熱的条件であり得るかを提供するように構成される(これは、必要に応じて、ソレノイドバルブ19の位置を変更することによって得ることができる)。
【0043】
制御ユニット26は、電気駆動システム3及び電気ヒータ18から受信した電力消費量の情報を使用して、ソレノイドバルブ19のどの位置において、電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総消費電力量を最小にすることができるかを決定する(総消費電力量を最小にすることによって、車両1の航続距離を最大にできることは明らかである)。言い換えれば、この情報を用いて、制御ユニット26に実装された最適化アルゴリズムによって、電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総電力消費量の最小条件(すなわち、理想的な条件)が明確化される。
【0044】
理想的な条件(すなわち、電気駆動システム3及び電気ヒータ18の総電力消費量の最小条件)を探し求めることは、(空調システム11の効率を決して損なわない)快適運転モード、又は、(総電力消費量を低減することに有用であり得る場合、空調システム11の効率を損なう)省エネ運転モードを好むかどうかを選択する必要のある、車両1の運転者によって行われる選択も考慮に入れることを、指摘しておくべきである。
【0045】
図3によれば、温度調節回路15は、温度調節回路15に沿って流体を流すために、それぞれの電気モータによって作動される、2つのポンプ27を備える。好ましくは、一方のポンプ27は、前方の駆動システム3に近い前方位置に配置され、もう一方のポンプ27は、後方の駆動システム3に近い後方位置に配置される。温度調節回路16は、温度調節回路16に沿って流体を流すために、それぞれの電気モータによって作動される、単一のポンプ28を備える。温度調節回路17は、温度調節回路17に沿って流体を流すために、それぞれの電気モータによって作動される、単一のポンプ29を備える。
【0046】
図3によれば、温度調節回路16は、互いに並列に接続され、温度調節回路17内に存在する流体と、電池6を冷却しなければならないときに作動する冷却回路との間で、熱を交換することを可能にする、2つのツイン熱交換器30を備える。すなわち、各熱交換器30は、温度調節回路16に接続される側、及び、冷却回路に接続されるもう一方の側から構成される。使用時に、各熱交換器30は、温度調節回路16を流れる流体から、冷却回路を流れる流体に熱を伝達するために、正確には、冷却回路を流れる流体に熱の一部を放出することによって、温度調節回路16を流れる流体を冷却するために使用される。
【0047】
好ましい実施形態によれば、制御ユニット26は、電気ヒータ18がオフにされると、ソレノイドバルブ25を遮断位置に移動させるように構成され、かつ、(明らかに、2つの駆動システム3によって供給される熱が、電池6を加熱するのに十分でない場合には)ソレノイドバルブ25を連通位置に移動させ、電気ヒータ18をオンにして、電気ヒータ18によって生成された熱の少なくとも一部を使用して、電池6を加熱するように構成される。
【0048】
図4によれば、温度調節システム14は、温度調節回路16の延長部(付属物)である、温度調節回路31を備える。温度調節回路31は、車両1の後部領域に位置する、車両1の構成要素32、33及び34を通って流体(すなわち、水とグリコールの混合物)を流すように構成される。これはPCT/IB2022/053258に開示されているタイプのものである。好ましい実施形態によれば、構成要素32は、電池6用の車載充電器からなり、構成要素33は、車両1の低電圧ユーティリティに電力供給する、DC/DCコンバータからなり、構成要素34は、電子制御式アクティブサスペンションシステムで使用される、油圧回路からなる。構成要素32、33、及び34はすべて、電池6の後壁9の背後(すなわち、容器7の背後)にある、後方位置に配置され、したがって、(前方にある)温度調節システム14の残りの部分に対して、反対側の位置に配置される。構成要素32、33、及び34は、それらの内部温度が高いときには冷却しなければならないが、(車両1を適度に使用することができる環境を考慮すると)それを超えることでそれらの性能が低下する、最小使用温度を有さないため、決して加熱する必要がないことを、指摘しておくべきである。
【0049】
電池6は、前方位置(正確には、電池6の容器7の前壁8の領域)に配置された、温度調節回路16との接続部、並びに、後方位置(正確には、電池6の容器7の後壁9の領域)に配置された、温度調節回路31との接続部を有する。温度調節回路16を通って流れる流体の一部は、温度調節回路31を通って流れ(正確には、温度調節回路31は、温度調節回路16を通って流れる流体の一部を「排出」させ)、2つの温度調節回路16と31との間の接続は、油圧接続要素としての役割を果たす、電池6を介して行われる。すなわち、温度調節回路31は、電池6(すなわち、容器7)の後壁9を通過して、電池6から流体を取得する取得点を備え、かつ、電池6(すなわち、容器7)の後壁9を通過して、温度調節液を電池6に戻す、返還点を備える。
【0050】
温度調節回路31は、循環ポンプ35、及び、サスペンションの油圧回路の流体を冷却するための、熱交換器36を備える(熱交換器37における交換の調節は、サスペンション回路の流量を調整することによって行われる)。
【0051】
本明細書に記載の実施形態は、互いに組み合わせることができ、そのために本発明の保護範囲を超えることはない。
【0052】
上述した車両1には、数々の利点がある。
【0053】
まず、上述した車両1の温度調節システム14は、すべての運転条件において、車室10の暖房に必要な熱の生成におけるエネルギー効率が高い。
【0054】
更に、上述した車両1の温度調節システム14は、いくつかの機能に対して同一の構成要素を使用することから、構成要素の数が少ないため、コンパクトで軽量である。例えば、単一の電気ヒータ18があり、これは、車室10を加熱する(2つの熱交換器13を介して空調システム11に熱を放出する)こと、並びに、電池6を加熱する(熱交換器24を介して温度調節回路16に熱を放出する)ことの、両方に使用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 車輪
3 駆動システム
4 電気機械
5 ドライブトレイン
6 電池
7 容器
8 前壁
9 後壁
10 車室
11 空調システム
12 通気孔
13 熱交換器
14 温度調節システム
15 温度調節回路
16 温度調節回路
17 温度調節回路
18 電気ヒータ
19 ソレノイドバルブ
20 ラジエータ
21 ソレノイドバルブ
22 バイパスダクト
23 ソレノイドバルブ
24 熱交換器
25 ソレノイドバルブ
26 制御ユニット
27 ポンプ
28 ポンプ
29 ポンプ
30 熱交換器
31 温度調節回路
32 構成要素
33 構成要素
34 構成要素
35 ポンプ
36 熱交換器
D 進行方向
【外国語明細書】