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特開2024-147870樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147870
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/00 20060101AFI20241009BHJP
   G01N 11/06 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G01N11/00 C
G01N11/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060566
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 有紀
(57)【要約】
【課題】少量の評価対象樹脂を用いて金型の内面から離れた、樹脂の内部のイオン粘度を測定できる樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法を提供する。
【解決手段】樹脂のイオン粘度測定装置100は、ヒータ6が組み込まれた第1伝熱板1Aおよび第1伝熱板1Aと向かい合わせに、第1伝熱板1Aと間隔を開けて配置された第2伝熱板1Bと、第1伝熱板1Aの中央の開口部1Kの内部に組み込まれ、第2伝熱板1B側に突出する突出部3Tの先端に、第1伝熱板1Aと第2伝熱板1Bとの間に配置された評価対象としての樹脂2の誘電特性を測定する測定面3USを有し、側面3aを断熱材5で覆われた第1誘電センサ3と、第1誘電センサ3によって測定した測定面3USを覆う樹脂2の誘電特性から樹脂2のイオン粘度を算出するイオン粘度測定部4とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータが組み込まれた第1伝熱板および前記第1伝熱板と向かい合わせに、前記第1伝熱板と間隔を開けて配置された第2伝熱板と、
前記第1伝熱板の中央の開口部の内部に組み込まれ、前記第2伝熱板側に突出する突出部の先端に、前記第1伝熱板と前記第2伝熱板との間に配置された評価対象としての樹脂の誘電特性を測定する測定面を有し、側面を断熱材で覆われた第1誘電センサと、
前記第1誘電センサによって測定した前記測定面を覆う前記樹脂の誘電特性から前記樹脂のイオン粘度を算出するイオン粘度測定部とを備える樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項2】
基準となる樹脂の硬化過程における経過時間と、前記基準となる樹脂のイオン粘度の変化を示す基準波形と、
評価対象の樹脂の硬化時における経過時間と、前記評価対象の樹脂のイオン粘度の変化を示す波形とを重ねて表示する表示部を有する請求項1に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項3】
前記断熱材は、前記開口部の内部において前記第1誘電センサの側面と前記第1伝熱板との間に配置された第1断熱材と、前記第1誘電センサの前記突出部の側面を覆い、交換可能な第2断熱材とを有する請求項2に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項4】
前記第2伝熱板は、前記第1伝熱板と対向する面と面一に埋め込まれた、第2誘電センサを備える請求項2に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項5】
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に、前記第1誘電センサの前記突出部を取り囲む範囲に配置された枠部材を有する請求項2に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項6】
前記第1誘電センサの側面と、前記枠部材の内側面の間の距離は一定である請求項5に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項7】
前記枠部材は、上面に前記枠部材の内側空間から外側空間に繋がる溝を有する請求項6に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の樹脂のイオン粘度測定装置を使った樹脂のイオン粘度測定方法であって、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板とを加熱する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に前記樹脂を投入する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板少なくとも一方を移動して、前記樹脂の中央部に前記第1誘電センサの測定面を埋め込んで前記樹脂のイオン粘度を測定する工程とを有する樹脂のイオン粘度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の熱硬化性樹脂は、製造ロット間の物性のばらつきなどに基因して、成形不良が発生することがある。成形品質に影響を与える物性の一つとして、樹脂の粘度がある。樹脂の粘度が不適当である場合、これが、成形品にボイドを発生させたり、樹脂の未充填を引き起こしたり、インサート品の変形等の成形不良を引き起こしたりする要因となりうる。
【0003】
一般的に、熱硬化性樹脂には、フィラーと呼ばれる充填材が混合されている。そのため、フィラーのサイズ、充填量、成形条件等に影響を受けて、金型に接する部分と樹脂の中央部に位置する部分では、熱硬化性樹脂の樹脂とフィラーの混合状態が異なる場合がある。また、金型の内面からの伝熱により、樹脂の粘度変化が促進されるため、金型内部の樹脂の内、中央部の樹脂の粘度変化が、最も遅いと考えられる。
【0004】
熱硬化性樹脂の物性のばらつきを把握する上では、最も金型内面から離れた中央部、かつ、樹脂とフィラーの混合状態が異なる成形品の内部の粘度を評価することが望ましい。樹脂の粘度を評価する方法として、例えば、特許文献1、2に記載される技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3842868号公報
【特許文献2】特開平9-267347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、金型内の樹脂流路における樹脂の圧力を測定し、この圧力に基づいて粘度を計算し、この計算された粘度を基準粘度と比較して、成形品の良否判別または成形条件の制御を行うものである。この場合、成形機に樹脂を投入する必要があるため、樹脂の粘度を測定するためには、成形機に多くの樹脂を投入する必要がある。すなわち、無駄になる樹脂が多いという課題があった。また、樹脂の粘度を測定するために、粘度の関係式を用いるため、粘度の関係式に適した樹脂流路としなければならないという制約があった。
【0007】
また、特許文献2は、熱硬化性樹脂を含む材料の誘電率を検出する誘電率センサを装備し、さらに、この誘電率センサの検出信号に基づいて成形材料のイオン粘度を評価するものであるが、センサ表面に位置する材料のイオン粘度を測定している。
【0008】
特許文献2では、フィラーの分布、比率が異なる、物性のばらつきが大きいと考えられる樹脂内部のイオン粘度を測定することがそもそもできないという課題があった。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、少量の評価対象樹脂を用いて金型の内面から離れた、樹脂の内部のイオン粘度を測定できる樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ヒータが組み込まれた第1伝熱板および前記第1伝熱板と向かい合わせに、前記第1伝熱板と間隔を開けて配置された第2伝熱板と、
前記第1伝熱板の中央の開口部の内部に組み込まれ、前記第2伝熱板側に突出する突出部の先端に、前記第1伝熱板と前記第2伝熱板との間に配置された評価対象としての樹脂の誘電特性を測定する測定面を有し、側面を断熱材で覆われた第1誘電センサと、
前記第1誘電センサによって測定した前記測定面を覆う前記樹脂の誘電特性から前記樹脂のイオン粘度を算出するイオン粘度測定部とを備えるものである。
また本願に開示される樹脂のイオン粘度測定方法は、
前記樹脂のイオン粘度測定装置を使った樹脂のイオン粘度測定方法であって、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板とを加熱する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に前記樹脂を投入する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板少なくとも一方を移動して、前記樹脂の中央部に前記誘電センサの測定面を埋め込んで前記樹脂のイオン粘度を測定する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法によれば、少量の評価対象樹脂を用いて金型の内面から離れた、樹脂の内部のイオン粘度を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置の構成を示す断面模式図である。
図2】実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部の構成を示す断面模式図である。
図3】実施の形態1による樹脂のイオン粘度の測定作業の手順を示すフローチャートである。
図4】実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部の断面図である。
図5】実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置で測定されたイオン粘度の基準波形を示すグラフである。
図6】実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置で測定された評価対象である樹脂のイオン粘度の経時変化の一例の波形と、基準波形とを比較したグラフである。
図7】実施の形態2による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部の断面図である。
図8】実施の形態3による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部の断面図である。
図9】実施の形態4による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部の断面図である。
図10】実施の形態4による樹脂のイオン粘度測定装置の主要部を示す断面模式図である。
図11】実施の形態1~4による樹脂のイオン粘度の測定装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法について、図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置100(以下、単に測定装置100と称す。)の構成を示す断面模式図である。
図2は、測定装置100の主要部の構成を示す断面模式図である。主要部を、伝熱板1A、伝熱板1Bの中間で、これらに平行に切断した図である。
【0014】
図1に示すように、測定装置100は、伝熱板1A(第1伝熱板)と、伝熱板1B(第2伝熱板)と、誘電センサ3(第1誘電センサ)と、イオン粘度測定部4と、断熱材5と、ヒータ6と、温度センサ7と、ヒータ制御部8と、表示部9等を含んで構成される。図1において、伝熱板1A、1Bは、鋼、アルミ等の伝熱部材からなり、その伝熱板1A、1Bを加熱するためのヒータ6と、伝熱板1A、1Bの温度を測定する温度センサ7とが、内部に組み込まれている。
【0015】
また、ヒータ6による伝熱板1A、1Bの加熱を制御するために、ヒータ6と温度センサ7とはヒータ制御部8に接続され、ヒータ制御部8を介して、伝熱板1A、1Bを任意の温度に加熱、保温することができる。
【0016】
ヒータ6とヒータ制御部8との接続は、図1に示すように、すべてのヒータ6を個別のヒータ制御部8で制御してもよいし、全てのヒータ6を1台のヒータ制御部8に接続して個別に制御してもよい。
【0017】
また、伝熱板1A、1Bの表面には、熱硬化性樹脂2(以下、単に樹脂2と称す。)の取り外しを容易にするためのメッキ等の表面処理を施してもよい。伝熱板1A、1Bは、水平かつ、それぞれ平行に設置されている。伝熱板1A、1Bは、樹脂製品の製造時に使用する金型を想定した部材が望ましい。
【0018】
評価対象としての樹脂2は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、BMC樹脂(Bulk Molding Compound)等、イオン粘度と誘電特性の変化過程に相関関係がみられる樹脂、すなわち、誘電特性の変化からイオン粘度を算出できる樹脂とする。
【0019】
なお、樹脂2は、イオン粘度を測定可能な材料であれば、熱硬化性樹脂2に限らず、熱可塑性樹脂等にも適用可能である。イオン粘度の測定時には、伝熱板1A、1Bの間に樹脂2を接触させた状態で、伝熱板1A、1Bの位置を制御し、固定する必要があるが、伝熱板1A、1Bの相対位置は、プレス装置等で制御してもよく、もしくはスペーサ等の他の部材で制御してもよい。
【0020】
伝熱板1A、1Bの寸法は、プレス装置等に合わせた数値に設定すればよく、例えば卓上のプレス装置の場合、縦75mm×横75mm程度でよい。図1図2に示すように、対向する2枚の伝熱板1A、1Bの内、上方に配置される伝熱板1Aは、中央に円筒状に刳り抜かれた開口部1Kを有し、この開口部1Kの中に、断熱材5を介して伝熱板1Aの下面1AUよりも下方、すなわち伝熱板1B側に突出する突出部3Tを有する誘電センサ3を備える。誘電センサ3は、樹脂2のイオン粘度を測定するイオン粘度測定部4に接続され、誘電センサ3の測定値から算出されたイオン粘度の値は、PC(Personal Computer)等の表示部9で確認できる。なお、本明細書で、「イオン粘度の測定」というときは、誘電センサ3によって樹脂2の誘電特性を測定し、その測定値からイオン粘度測定部4によって樹脂2のイオン粘度を測定する工程をいうものとする。
【0021】
ところで、樹脂2のイオン粘度の測定時には、誘電センサ3の表面を樹脂2で覆う必要がある。誘電センサ3の直径は30mm程度以下でよい。測定時の樹脂2の厚みが同じ場合、誘電センサ3のセンサ径は、小さい方が、大きい方に比べて必要な樹脂2の量が少なくなるため、材料コストの低減、清掃作業の容易化などの点で有利となる。
【0022】
誘電センサ3の側面3aは、全周に渡って断熱材5に覆われている。従って、誘電センサ3と伝熱板1Aとの間にもこの断熱材5が存在し、伝熱板1Aの熱が、誘電センサ3に伝わることを防ぎ、伝熱板1Aの熱が、誘電センサ3を介して樹脂2の温度に影響を及ぼすことを防止できる。
【0023】
誘電センサ3がこのように構成されているので、下方に配置された伝熱板1Bの上に盛るように載置され、誘電センサ3の下面である測定面3USに接している樹脂2、即ち、2枚の伝熱板1A、1Bの間で加熱される樹脂2の中央部2Cのイオン粘度を測定することが可能となる。断熱材5の素材としては、熱伝導率が0.5 W/m・K以下の材料とする。
【0024】
また、樹脂2の硬化後に、樹脂2が測定装置100に固着することを防ぐために、断熱材5は、PTFE(Polytetrafluoroethylene)等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、PP(Polypropylene)等の難接着材料かつ、測定温度に耐えうる材料が望ましい。また、断熱材5の素材は、評価対象となる樹脂2の硬化を阻害しない素材が望ましい。
【0025】
図3は、本実施の形態1による、樹脂2のイオン粘度の測定作業の手順を示すフローチャートである。
まず、伝熱板1A、1Bを測定温度まで加熱する(ステップS01)。この測定温度は、成形品を成形する際の金型の温度、樹脂2の硬化推奨温度を参考に設定する。
【0026】
図4は、測定装置100の主要部の断面図である。樹脂2を投入できる程度に伝熱板1A、1Bが相互に離れて位置している状態を示している。
伝熱板1A、1Bの温度が、測定温度に到達した後、伝熱板1A、1Bの間に樹脂2を投入する(ステップS02)。
【0027】
樹脂2の投入位置は、投入された樹脂2の中央部2Cに誘電センサ3の先端の測定面3USを移動可能な位置とする。この際の樹脂2は、成形品を成形する際のシリンダー温度等に予熱しておいてもよい。
【0028】
樹脂2を投入後、対向する伝熱板1A、1Bのどちらにも樹脂2が密着するように、伝熱板1A、1Bを移動させる(ステップS03)。伝熱板1A、1Bの移動には前述の通りプレス機等を用いてもよい。伝熱板1A、1Bの移動完了後の2枚の伝熱板1A、1B間の中央部2C付近となる位置に、誘電センサ3の突出部3Tの下面である測定面3USが埋め込まれて配置されるように測定面3USの位置を調整しておく。伝熱板1A、1Bの移動が完了した後、樹脂2のイオン粘度を測定する(ステップS04)。樹脂2のイオン粘度の測定を終了した後、伝熱板1A、1Bの間の距離が広がる方向に、少なくとも一方の伝熱板を移動させ(ステップS05)、イオン粘度の測定に用いた樹脂2を測定装置100内から除去する(ステップS06)。
【0029】
図5は、測定装置100で測定された熱硬化性樹脂2A(以下、単に樹脂2Aと称す)のイオン粘度の基準波形C1を示すグラフである。縦軸がイオン粘度であり、横軸が硬化過程の経過時間である。基準波形C1は、樹脂2Aが硬化するときに求められる好適なイオン粘度の変化を表している。
【0030】
加熱後の樹脂2Aのイオン粘度を測定すると、図5にP1で示すイオン粘度の最低値と、その経過時間、P2で示すイオン粘度の傾きが最大になる時間、P3で示すイオン粘度の値が一定に近くなった際の時間等の値を含んだ、時間の経過に伴うイオン粘度の変化を示すグラフが得られる。なお、図5に示すP3は、樹脂2Aが硬化した状態と解釈できる。このように、本実施の形態では、好適な樹脂2Aのイオン粘度の変化を示す基準波形C1を予め準備しておく。
【0031】
図6は、測定装置100で測定された評価対象である樹脂2のイオン粘度の経時変化の波形C2の一例と、上述の基準波形C1とを比較したグラフである。基準波形C1と波形C2は、表示部9に重ねて表示して比較可能である。
【0032】
基準波形C1に対して、測定された樹脂2の波形C2ではP1、P2、P3で示される時間がグラフの右側に位置する。このような波形C2を示す樹脂2は、好適な樹脂2Aの硬化スピードよりも硬化が遅く完了する。この比較結果をもとに、例えば、成形時の金型温度を上昇させるなど、波形C2を基準波形C1に近づけるように諸条件を変更することで、基準波形C1に示す好適な樹脂2Aと同等の品質を有する成形品を、波形C2を示した樹脂2を用いても得ることが可能となる。
【0033】
実施の形態1による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法によれば、
樹脂のイオン粘度測定装置は、
ヒータが組み込まれた第1伝熱板および前記第1伝熱板と向かい合わせに、前記第1伝熱板と間隔を開けて配置された第2伝熱板と、
前記第1伝熱板の中央の開口部の内部に組み込まれ、前記第2伝熱板側に突出する突出部の先端に、前記第1伝熱板と前記第2伝熱板との間に配置された評価対象としての樹脂の誘電特性を測定する測定面を有し、側面を断熱材で覆われた第1誘電センサと、
前記第1誘電センサによって測定した前記測定面を覆う前記樹脂の誘電特性から前記樹脂のイオン粘度を算出するイオン粘度測定部とを備えるので、少量の評価対象樹脂を用いて金型の内面から離れた、樹脂の内部のイオン粘度を測定できる。また、成形機を必要とせず、誘電センサを断熱板で覆い、金属板の温度と独立させることで、製品を成形することなく、樹脂内部の粘度の変化過程、ロットによるばらつきを簡便に評価することが可能となる。
また、樹脂のイオン粘度測定装置は、
基準となる樹脂の硬化過程における経過時間と、前記基準となる樹脂のイオン粘度の変化を示す基準波形と、
評価対象の樹脂の硬化時における経過時間と、前記評価対象の樹脂のイオン粘度の変化を示す波形とを重ねて表示する表示部を有するものであり、
樹脂のイオン粘度測定方法は、
前記樹脂のイオン粘度測定方法であって、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板とを加熱する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に前記樹脂を投入する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板少なくとも一方を移動して、前記樹脂の中央部に前記第1誘電センサの測定面を埋め込んで前記樹脂のイオン粘度を測定する工程とを有するので、少量のサンプルの樹脂の中央部のイオン粘度の変化を、好適な樹脂の基準波形と比較することによって、評価対象の樹脂に好適な硬化条件を得ることができる。
【0034】
実施の形態2.
以下、実施の形態2による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法について、図面に基づいて説明する。
本実施の形態2による測定装置200及び樹脂のイオン粘度測定方法は、実施の形態1による測定装置100及び樹脂のイオン粘度測定方法の変形例であり、全体的な構成は同じであるため、相違点のみを説明する。
【0035】
図7は、実施の形態2による測定装置200の主要部の断面図である。
誘電センサ3の側面3aに配置される断熱材5が、伝熱板1Aの開口部1Kの内部において誘電センサ3の周囲に配置される断熱材5A(第1断熱材)と、伝熱板1Aの下方に突出し、誘電センサ3が樹脂2の中に挿入される突出部3Tの側面3aを覆い交換可能な断熱材5B(第2断熱材)の2つに分かれた構成となっている。
【0036】
断熱材5Aは、測定時において直接樹脂2に触れることはない。したがって、断熱材5Bを測定ごとに取り替え可能な構成とすることで、断熱効果が高いが、樹脂2と接着し易く、測定時の再利用が難しいグラスウールなどの材料を断熱材5Bとして用いることができ、断熱材5Bの交換が簡単で、低コストに運用できる測定装置200を得られる。
【0037】
実施の形態2による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法によれば、
前記断熱材は、前記開口部の内部において前記第1誘電センサの側面と前記第1伝熱板との間に配置された第1断熱材と、前記第1誘電センサの前記突出部の側面を覆い、交換可能な第2断熱材とを有するので、低コストに運用できる測定装置を得られる。
【0038】
実施の形態3.
以下、実施の形態3による樹脂のイオン粘度の測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法について、図面に基づいて説明する。
本実施の形態3による測定装置300及び樹脂のイオン粘度測定方法は、実施の形態1による測定装置100及び樹脂のイオン粘度測定方法の変形例であり、全体的な構成は同じであるため、相違点のみを説明する。
【0039】
図8は、実施の形態3による測定装置の主要部の断面図である。
本実施の形態は、実施の形態1および実施の形態2では誘電センサ3が組み込まれていなかった下側の伝熱板1Bにも誘電センサ3B(第2誘電センサ)を配置した構成である。
【0040】
評価対象としての樹脂2内部のイオン粘度の測定だけでなく、伝熱板1Bの表面、すなわち、樹脂製品製造時に金型に接する部分を想定した樹脂2のイオン粘度も測定することで、イオン粘度の測定結果に基づく条件調整がより容易になる測定装置300が得られる。
【0041】
このために、伝熱板1Bにも誘電センサ3Bを埋め込む。誘電センサ3Bは、伝熱板1Bの中央に、伝熱板1Bの伝熱板1Aに対向する面と面一に測定面3BUSが配置されるように埋め込まれている。誘電センサ3Bと伝熱板1Bの間には、断熱材を挟まない。これにより、誘電センサ3Bの上面の測定面3BUSは、伝熱板1Bと同温度に加熱される。
【0042】
例えば、樹脂2の中央部2Cのイオン粘度が、図6の破線で示す波形C2のように変化した場合を想定する。波形C2を実線に示す基準波形C1に合わせようとすると、金型の温度を上げるか、又は、樹脂2の予熱温度を上げるか、又は、樹脂2の射出速度を上げるなどの複数の調整方法が考えられる。ここで、樹脂2の表面のイオン粘度も一緒に測定し、樹脂2の表面の測定結果は大きくは変化していなかった場合を想定する。
【0043】
金型温度を変化させると、金型の内面に接する樹脂2の部分と、樹脂2の内部の硬化時間差が増えて、成形品のひずみが大きくなる場合がある。この場合は、樹脂2の予熱温度を上げる、或いは、樹脂2の射出速度を上げる調整方法が適している。このように、樹脂2の内部のイオン粘度を測定する誘電センサ3と、更に樹脂2の表面のイオン粘度を測定する誘電センサ3Bを適用することで、考えられる樹脂2の成形条件の調整方法の選択がし易くなる。
【0044】
実施の形態3による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法によれば、
前記第2伝熱板は、前記第1伝熱板と対向する面と面一に埋め込まれた、第2誘電センサを備えるので、評価対象の樹脂の成形条件の調整方法の選択がし易くなる。
【0045】
実施の形態4.
以下、実施の形態4による樹脂のイオン粘度の測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法について、図面に基づいて説明する。
本実施の形態4による測定装置400及び樹脂のイオン粘度測定方法は、実施の形態1による測定装置100及び樹脂のイオン粘度測定方法の変形例であり、全体的な構成は同じであるため、相違点のみを説明する。
【0046】
図9は、実施の形態4による測定装置400の主要部の断面図である。測定装置400は、伝熱板1Aと伝熱板1Bとの間に、枠部材12を配置している。枠部材12は、誘電センサ3の突出部3Tを取り囲む範囲に配置されている。枠部材12は、伝熱板1A、1Bのいずれかと固定されていてもよいし、固定されていなくてもよい。枠部材12の素材としては、ゴム、鋼、樹脂などを用いることができる。
【0047】
図10は、測定装置400の主要部の断面模式図である。主要部を、伝熱板1A、1Bの中間で、これらに平行に切断した図である。
枠部材12の形状は、誘電センサ3の側面3aと枠部材12の内側面12aとの距離が一定となる形状が望ましい。伝熱板1A、1Bの移動時の空気の巻き込み量が大きく、樹脂2と誘電センサ3との接触を妨げたり、もしくは樹脂2の加熱、硬化時に発生するガス成分によって樹脂2と誘電センサ3との密着が阻害されたりする場合には、伝熱板1Aとの接触面となる枠部材12の上面に、枠部材12の内側空間から外側空間に繋がる溝12Mを設け、ガスベント構造としてもよい。なお、溝12Mは、複数設けてもよい。
【0048】
この場合は、樹脂2の流出を防ぐため、溝12Mの深さは、20μm以下に設定することが望ましい。枠部材12を配置することによって、樹脂2の流出を防ぐことができ、それに伴うイオン粘度の測定結果の変化を防止できる。また、枠部材12が配置されることによって、樹脂2のイオン粘度の測定時における伝熱板1A、1Bの間隔を精度よく設定できる効果も得られる。
【0049】
実施の形態4による樹脂のイオン粘度測定装置及び樹脂のイオン粘度測定方法によれば、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に、前記第1誘電センサの前記突出部を取り囲む範囲に配置された枠部材を有するので、評価対象の樹脂の流出を防止できる。
また、前記第1誘電センサの側面と、前記枠部材の内側面の間の距離は一定であるので、枠部材が誘電センサに及ぼす影響を均等にできる。
また、前記枠部材は、上面に前記枠部材の内側空間から外側空間に繋がる溝を有するので、イオン粘度の測定時の空気、およびガスの影響を防止できる。
【0050】
なお、樹脂のイオン粘度測定装置100~400は、ハードウェアの一例を図11に示すように、プロセッサ90と記憶装置91から構成される。記憶装置91は、図示していない、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを備える。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を備えてもよい。プロセッサ90は、記憶装置91から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ90にプログラムが入力される。また、プロセッサ90は、演算結果等のデータを記憶装置91の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0051】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0052】
(付記1)
ヒータが組み込まれた第1伝熱板および前記第1伝熱板と向かい合わせに、前記第1伝熱板と間隔を開けて配置された第2伝熱板と、
前記第1伝熱板の中央の開口部の内部に組み込まれ、前記第2伝熱板側に突出する突出部の先端に、前記第1伝熱板と前記第2伝熱板との間に配置された評価対象としての樹脂の誘電特性を測定する測定面を有し、側面を断熱材で覆われた第1誘電センサと、
前記第1誘電センサによって測定した前記測定面を覆う前記樹脂の誘電特性から前記樹脂のイオン粘度を算出するイオン粘度測定部とを備える樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記2)
基準となる樹脂の硬化過程における経過時間と、前記基準となる樹脂のイオン粘度の変化を示す基準波形と、
評価対象の樹脂の硬化時における経過時間と、前記評価対象の樹脂のイオン粘度の変化を示す波形とを重ねて表示する表示部を有する付記1に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記3)
前記断熱材は、前記開口部の内部において前記第1誘電センサの側面と前記第1伝熱板との間に配置された第1断熱材と、前記第1誘電センサの前記突出部の側面を覆い、交換可能な第2断熱材とを有する付記1又は付記2に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記4)
前記第2伝熱板は、前記第1伝熱板と対向する面と面一に埋め込まれた、第2誘電センサを備える付記1から付記3のいずれか1項に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記5)
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に、前記第1誘電センサの前記突出部を取り囲む範囲に配置された枠部材を有する付記1から付記4のいずれか1項に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記6)
前記第1誘電センサの側面と、前記枠部材の内側面の間の距離は一定である付記5に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記7)
前記枠部材は、上面に前記枠部材の内側空間から外側空間に繋がる溝を有する付記5又は付記6に記載の樹脂のイオン粘度測定装置。
(付記8)
付記1から付記7のいずれか1項に記載の樹脂のイオン粘度測定装置を使った樹脂のイオン粘度測定方法であって、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板とを加熱する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板の間に前記樹脂を投入する工程と、
前記第1伝熱板と前記第2伝熱板少なくとも一方を移動して、前記樹脂の中央部に前記第1誘電センサの測定面を埋め込んで前記樹脂のイオン粘度を測定する工程とを有する樹脂の測定方法。
【符号の説明】
【0053】
100,200,300,400 樹脂のイオン粘度測定装置、
1A,1B 伝熱板、1AU 下面、1K 開口部、2,2A 熱硬化性樹脂、
2C 中央部、3,3B 誘電センサ、3US,3BUS 測定面、3T 突出部、
3a 側面、4 イオン粘度測定部、5,5A,5B 断熱材、6 ヒータ、
7 温度センサ、8 ヒータ制御部、9 表示部、12 枠部材、12a 内側面、
12M 溝、90 プロセッサ、91 記憶装置、C1 基準波形、C2 波形。
図1
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図11