(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147872
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】熱伝導部材および熱伝導部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20241009BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20241009BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20241009BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01L23/36 M
B32B7/027
B32B15/04 B
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060568
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】390022471
【氏名又は名称】アオイ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100174573
【弁理士】
【氏名又は名称】大坂 知美
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 耕司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴章
【テーマコード(参考)】
4F100
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4F100AB00C
4F100AB00D
4F100AB17C
4F100AB21D
4F100AB31C
4F100AB31D
4F100AD11A
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4F100BA04
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4F100JJ01
5E322AA01
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5F136GA12
5F136GA17
5F136GA22
(57)【要約】
【課題】熱伝導性がより高められた熱伝導部材および熱伝導部材の製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導部材1は、複数のグラファイト31と、合金層32と、を備える。複数のグラファイト31は、ベーサル面に直交する方向に積層される。合金層32は、積層方向に互いに隣接する2つのグラファイト31の間に設けられる。合金層32は、複数の金属部材を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーサル面に直交する方向に積層される複数のグラファイトと、
積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に設けられ、複数の金属部材を含む合金層と、
を備える熱伝導部材。
【請求項2】
前記合金層は、第1金属部材と前記第1金属部材の融点より低い融点を有する第2金属部材とを含む、
請求項1に記載の熱伝導部材。
【請求項3】
前記第1金属部材で形成され、前記グラファイトと前記合金層とに前記積層方向に挟まれる第1金属層をさらに備える、
請求項2に記載の熱伝導部材。
【請求項4】
前記積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に2つの前記合金層が設けられ、
前記第2金属部材で形成され、前記積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に設けられる2つの前記合金層に挟まれる第2金属層をさらに備える、
請求項2または3に記載の熱伝導部材。
【請求項5】
前記第1金属部材は、銅または銅合金で形成される、
請求項2または3に記載の熱伝導部材。
【請求項6】
前記第2金属部材は、錫で形成される、
請求項2または3に記載の熱伝導部材。
【請求項7】
前記第1金属層は、メッキ層で形成される、
請求項3に記載の熱伝導部材。
【請求項8】
前記第2金属層は、メッキ層で形成される、
請求項4に記載の熱伝導部材。
【請求項9】
複数のグラファイトの少なくともいずれかに対して、該グラファイトの少なくとも一方の主面に複数の金属部材を重ねて形成、または、前記複数のグラファイトに対して、前記グラファイトの少なくとも一方の主面に前記複数の金属部材のいずれかを形成する工程と、
前記グラファイトの間に前記複数の金属部材が位置する向きで、前記複数のグラファイトをベーサル面に直交する方向に積層する工程と、
積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い金属部材の融点より高い温度で加熱して、前記複数の金属部材を合金化することで、積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に合金層を形成する工程と、
を備える熱伝導部材の製造方法。
【請求項10】
間に前記合金層が形成された前記複数のグラファイトをエッジ面に沿って切断することで、主面が前記グラファイトのそれぞれのエッジ面を含む板状部材を生成する工程をさらに備える、
請求項9に記載の熱伝導部材の製造方法。
【請求項11】
前記合金層を形成する工程では、積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い前記金属部材の融点より高く、かつ、前記複数の金属部材の内、最も融点が高い前記金属部材の融点より低い温度で加熱して、前記複数の金属部材を合金化する、
請求項9または10に記載の熱伝導部材の製造方法。
【請求項12】
前記合金層を形成する工程では、積層された前記複数のグラファイトを前記積層方向に加圧した状態で、積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い前記金属部材の融点より高い温度で加熱することで、前記複数の金属部材を合金化する、
請求項9または10に記載の熱伝導部材の製造方法。
【請求項13】
前記金属部材を形成する工程では、前記金属部材のメッキ加工を行う、
請求項9または10に記載の熱伝導部材の製造方法。
【請求項14】
前記金属部材を形成する工程は、
前記グラファイトの少なくとも一方の主面に第1金属部材を形成する工程と、
前記グラファイトに形成された前記第1金属部材に、前記第1金属部材の融点より低い融点を有する第2金属部材を形成、あるいは、前記第1金属部材が形成された前記グラファイトとは異なる前記グラファイトの少なくとも一方の主面または前記第1金属部材が形成された前記グラファイトの前記主面とは異なる主面に前記第2金属部材を形成する工程と、を含む、
請求項9または10に記載の熱伝導部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱伝導部材および熱伝導部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板の放熱を目的に使用される熱伝導部材には、グラファイトシートから構成されるものがある。この種の熱伝導部材の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示される放熱シートは、放熱シートのシート面に対してベーサル面が垂直になる向きに複数枚積層されたグラファイトシートを備える。放熱シートの厚さ方向がグラファイトシートのベーサル面に沿うため、放熱シートの厚さ方向の熱伝導性は、シート面に取り付けられる発熱体から伝達される熱を放熱して発熱体を冷却することが可能となる程度に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される放熱シートは、グラファイトシートの間に設けられ、グラファイトシート同士を接着する部材を備える。グラファイトシートの間に設けられる部材として用いられるアクリル接着剤、エポキシ系接着剤等の接着剤の熱伝導率は、グラファイトシートのベーサル面に沿う方向の熱伝導率と比べると著しく低い。このため、特許文献1に開示される放熱シートのシート面に沿う方向の熱伝導性は低い。
【0005】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、熱伝導性がより高められた熱伝導部材および熱伝導部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第一の観点に係る熱伝導部材は、
ベーサル面に直交する方向に積層される複数のグラファイトと、
積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に設けられ、複数の金属部材を含む合金層と、
を備える。
【0007】
前記合金層は、第1金属部材と前記第1金属部材の融点より低い融点を有する第2金属部材とを含んでもよい。
【0008】
前記第1金属部材で形成され、前記グラファイトと前記合金層とに前記積層方向に挟まれる第1金属層をさらに備えてもよい。
【0009】
前記積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に複数の前記合金層が設けられ、
前記第2金属部材で形成され、前記積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に設けられる2つの前記合金層に挟まれる第2金属層をさらに備えてもよい。
【0010】
前記第1金属部材は、銅または銅合金で形成されてもよい。
【0011】
前記第2金属部材は、錫で形成されてもよい。
【0012】
前記第1金属層は、メッキ層で形成されてもよい。
【0013】
前記第2金属層は、メッキ層で形成されてもよい。
【0014】
本発明の第二の観点に係る熱伝導部材の製造方法は、
複数のグラファイトの少なくともいずれかに対して、該グラファイトの少なくとも一方の主面に複数の金属部材を重ねて形成、または、前記複数のグラファイトに対して、前記グラファイトの少なくとも一方の主面に前記複数の金属部材のいずれかを形成する工程と、
前記グラファイトの間に前記複数の金属部材が位置する向きで、前記複数のグラファイトをベーサル面に直交する方向に積層する工程と、
積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い金属部材の融点より高い温度で加熱して、前記複数の金属部材を合金化することで、積層方向に互いに隣接する2つの前記グラファイトの間に合金層を形成する工程と、
を備える。
【0015】
間に前記合金層が形成された前記複数のグラファイトをエッジ面に沿って切断することで、主面が前記グラファイトのそれぞれのエッジ面を含む板状部材を生成する工程をさらに備えてもよい。
【0016】
前記合金層を形成する工程では、積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い前記金属部材の融点より高く、かつ、前記複数の金属部材の内、最も融点が高い前記金属部材の融点より低い温度で加熱して、前記複数の金属部材を合金化してもよい。
【0017】
前記合金層を形成する工程では、積層された前記複数のグラファイトを前記積層方向に加圧した状態で、積層された前記複数のグラファイトを、前記複数の金属部材の内、最も融点が低い前記金属部材の融点より高い温度で加熱することで、前記複数の金属部材を合金化してもよい。
【0018】
前記金属部材を形成する工程では、前記金属部材のメッキ加工を行ってもよい。
【0019】
前記金属部材を形成する工程は、
前記グラファイトの少なくとも一方の主面に第1金属部材を形成する工程と、
前記グラファイトに形成された前記第1金属部材に、前記第1金属部材の融点より低い融点を有する第2金属部材を形成、あるいは、前記第1金属部材が形成された前記グラファイトとは異なる前記グラファイトの少なくとも一方の主面または前記第1金属部材が形成された前記グラファイトの前記主面とは異なる主面に前記第2金属部材を形成する工程と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の構成によれば、グラファイトの間に合金層が設けられているため、グラファイトのベーサル面に沿う方向に加えて、ベーサル面に直交するグラファイトの積層方向に効率よく熱を伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る熱伝導部材を備える電子部品の平面図である。
【
図2】
図1に示すII-II切断線の断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法のフローチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む金属部材形成工程において第1金属部材が形成されたグラファイトの斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む金属部材形成工程において第2金属部材が形成されたグラファイトの斜視図である。
【
図7】
図6に示すVII-VII切断線の断面図である。
【
図8】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む積層工程において積層されたグラファイトの断面図である。
【
図9】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む合金層形成工程における加圧の例を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む合金層形成工程において間に合金層が形成されたグラファイトの断面図である。
【
図11】実施の形態1に係る熱伝導部材の製造方法が含む切断工程において生成された板状の熱伝導部材を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態2に係る熱伝導部材を備える電子部品の断面図である。
【
図13】実施の形態2に係る熱伝導部材の製造方法が含む金属部材形成工程において第1金属が形成されたグラファイトの斜視図である。
【
図14】実施の形態2に係る熱伝導部材の製造方法が含む積層工程において積層されたグラファイトの断面図である。
【
図15】実施の形態2に係る熱伝導部材の製造方法が含む合金層形成工程における加圧の例を示す図である。
【
図16】実施の形態2に係る熱伝導部材の製造方法が含む合金層形成工程において間に合金層が形成されたグラファイトの断面図である。
【
図17】実施の形態2に係る熱伝導部材の製造方法が含む切断工程において生成された板状の熱伝導部材を示す図である。
【
図18】実施の形態に係る熱伝導部材の製造方法の変形例が含む合金層形成工程において間に合金層が形成されたグラファイトの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る熱伝導部材および熱伝導部材の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。なお図中、同一または同等の部分には同一の符号を付す。
【0023】
(実施の形態1)
回路基板上に設けられた発熱体で発生した熱をヒートシンクに伝達する熱伝導部材を例に、
図1および
図2を参照して、本発明の実施の形態1に係る熱伝導部材1について説明する。
図1は、熱伝導部材1を備える電子部品10の平面図である。
図2は、
図1に示すII-II切断線の断面図である。
【0024】
図1および
図2に示すように、電子部品10は、回路基板11と、発熱体である半導体素子12と、配線13,14と、ワイヤ15,16と、熱伝導部材1と、冷却装置21と、を備える。理解を容易にするため、
図1では、回路基板11の内、半導体素子12が取り付けられる領域周辺のみが示され、配線13,14の形状が単純化されている。
【0025】
回路基板11は、発光ダイオード、スイッチング素子等の半導体素子12を取り付けることができる形状、例えば、平板状の形状を有する。半導体素子12が取り付けられる回路基板11の主面11aに直交する方向をZ軸とし、回路基板11の主面11aに平行な面に含まれてZ軸に直交する軸としてX軸を設定し、X軸およびZ軸のそれぞれに直交する軸としてY軸を設定する。
【0026】
回路基板11のZ軸正方向に向く主面11aに、半導体素子12が取り付けられ、配線13,14が形成される。半導体素子12の端子12a,12bと配線13,14とは、ワイヤ15,16によってそれぞれ接続される。配線13,14に電流が流れることで半導体素子12が通電すると、半導体素子12が発熱する。半導体素子12で生じた熱は回路基板11に伝達される。
【0027】
回路基板11は、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の熱伝導率が高い部材によって形成される。これにより、半導体素子12で生じた熱は、回路基板11の延在方向、すなわち、X軸方向およびY軸方向、ならびに、回路基板11の厚み方向、すなわち、Z軸方向へ高効率で伝わる。
【0028】
回路基板11のZ軸負方向に向く主面11bに熱伝導部材1が取り付けられる。熱伝導部材1は、複数のグラファイト31と、互いに隣接する2つのグラファイト31の間に設けられる合金層32と、を備える。実施の形態1の例では、熱伝導部材1は、X軸方向の両端に位置する第1金属層33をさらに備える。
【0029】
複数のグラファイト31は、ベーサル面に直交する方向に積層されている。換言すれば、複数のグラファイト31はX軸方向に積層されて、各グラファイト31のベーサル面は、YZ平面に平行に位置する。各グラファイト31のエッジ面は、XY平面またはXZ平面に平行に位置する。
【0030】
各グラファイト31は、シート形状を有し、ベーサル面に平行な方向に1500W/m・Kの高い熱伝導性を有する。上述のように、複数のグラファイト31は、ベーサル面に直交する方向に積層されているため、熱伝導部材1は、グラファイト31の領域において、厚み方向、換言すれば、Z軸方向に1500W/m・Kの高い熱伝導性を有する。また、熱伝導部材1は、グラファイト31の領域において、ベーサル面に沿うY軸方向にも1500W/m・Kの高い熱伝導性を有する。
【0031】
合金層32は、複数の金属部材を含む。実施の形態1では、合金層32は、第1金属部材と第1金属部材より低い融点を有する第2金属部材とを含む。具体的には、第1金属部材は銅または銅合金であり、第2金属部材は錫であり、合金層32は、銅または銅合金と錫とで構成されることが好ましい。
【0032】
第1金属層33は、合金層32を構成する上記第1金属部材、例えば、銅または銅合金で形成される。
【0033】
上記構成を有する熱伝導部材1は、回路基板11のZ軸負方向に向く主面11bに取り付けられ、回路基板11を介して半導体素子12から伝達された熱を冷却装置21に伝達する。上述のように、熱伝導部材1はZ軸方向に高い熱伝導性を有するので、半導体素子12で生じた熱は冷却装置21に効率よく伝達される。
【0034】
複数の金属部材を含む合金層32は、樹脂製の接着剤に比べて高い熱伝導率を有するため、熱伝導部材1は、積層されたグラファイトの間に接着剤が設けられている熱伝導部材と比べて、グラファイトの積層方向にも高い熱伝導性を有する。このため、熱伝導部材1は、グラファイト31のベーサル面に沿うY軸方向だけでなく、グラファイト31の積層方向であるX軸方向に熱を分散することが可能となる。これにより、回路基板11に設けられる複数の半導体素子12の発熱量にばらつきがあっても、X軸方向およびY軸方向に熱を分散することで、回路基板11の局所的な温度上昇を抑制することが可能となる。
【0035】
冷却装置21は、熱伝導部材1のZ軸負方向に向く面に取り付けられる。実施の形態1では、冷却装置21は、フィン形状を有する金属で形成されるヒートシンクである。冷却装置21は、熱伝導率が高い金属、例えば、純アルミニウム、アルミニウム合金等で形成される。上記構成を有する冷却装置21は、回路基板11および熱伝導部材1を介して半導体素子12から伝達された熱を周囲の空気に放熱する。これにより、半導体素子12および回路基板11が冷却される。
【0036】
上記構成を有する熱伝導部材1は、
図3に示す工程によって製造される。最初に、複数のグラファイト31の少なくともいずれかに対して、該グラファイト31の少なくとも一方の主面に複数の金属部材を重ねて形成、または、複数のグラファイト31に対して、グラファイト31の少なくとも一方の主面に複数の金属部材のいずれかを形成する金属部材形成工程が行われる(ステップS1)。グラファイト31の主面は、ベーサル面に平行な面である。
【0037】
実施の形態1では、金属部材形成工程において、一部のグラファイト31に対して、両方の主面に複数の金属部材が重ねて形成される。
【0038】
詳細には、
図4および
図5に示すように、各グラファイト31の両方の主面に対して、第1金属部材34のメッキ加工、例えば、銅または銅合金のメッキ加工を行うことで、グラファイト31に第1金属部材34が形成される。メッキ加工は、例えば、電解メッキ、無電解メッキ、スパッタリング、真空蒸着等である。
図4は、グラファイト31の斜視図であり、
図5は、
図4に示すV-V切断線の断面図である。
【0039】
図4および
図5において、グラファイト31のベーサル面に直交する方向をZ’軸とし、ベーサル面に平行な面に含まれてZ’軸に直交する軸として、X’軸を設定し、X’軸およびZ’軸のそれぞれに直交する軸としてY’軸を設定する。後続の
図6から
図10におけるX’Y’Z’直交座標系についても同様である。
【0040】
グラファイト31に対してメッキ加工する際には、グラファイト31の主面を、ウエットブラスト、サンドブラスト、ブロワブラスト、ドライアイスブラスト、ショットブラスト等の任意の方法で粗面化してからメッキ加工することが好ましい。粗面化により、グラファイト31の主面に高さが1μm以上、かつ、3μm以下の微細な凹凸が形成されることで、グラファイト31の主面に第1金属部材34を直接形成することができるようになる。
【0041】
微細な凹凸が形成されたグラファイト31の主面の全体に亘って、例えば、厚さが5μm以上、かつ、10μm以下になるように、第1金属部材34のメッキ加工が行われる。
【0042】
その後、
図6および
図7に示すように、グラファイト31に形成された第1金属部材34の少なくともいずれかに対して、第2金属部材35のメッキ加工、例えば、錫のメッキ加工を行うことで、第1金属部材34上に第2金属部材35が形成される。
図6は、グラファイト31の斜視図であり、
図7は、
図6に示すVII-VII切断線の断面図である。詳細には、第1金属部材34の主面の全体に亘って、例えば、厚さが5μm以上、かつ、10μm以下になるように、第2金属部材35のメッキ加工が行われる。
【0043】
上述の金属部材形成工程が完了すると、
図3に示すように、グラファイト31の間に複数の金属部材が位置する向きで、複数のグラファイト31をベーサル面に直交する方向に積層する積層工程が行われる(ステップS2)。詳細には、
図8に示すように、第1金属部材34が両方の主面に形成されたグラファイト31によって、第1金属部材34が両方の主面に形成され、第1金属部材34上に第2金属部材35が形成されたグラファイト31を挟むように、複数のグラファイト31がZ’軸方向に積層される。
図8において、図の複雑化を避けるためにグラファイト31が互いに離れているが、実際にはグラファイト31は隙間無く積層される。
【0044】
上述の積層工程が完了すると、
図3に示すように、積層された複数のグラファイト31を、複数の金属部材の内、最も融点が低い金属部材の融点より高い温度で加熱して、複数の金属部材を合金化することで、積層方向に互いに隣接する2つのグラファイト31の間に合金層32を形成する合金層形成工程が行われる(ステップS3)。
【0045】
実施の形態1では、
図9に示すように、積層されたグラファイト31は、固定部材41によって挟まれて、Z’軸方向に加圧された状態で加熱される。固定部材41は、グラファイト31、第1金属部材34、および第2金属部材35よりも高い剛性を有する部材、例えば、ステンレス鋼で形成される。固定部材41として、例えば、ステンレス鋼製の万力が用いられる。
【0046】
積層されたグラファイト31をZ’軸方向に加圧した状態で、積層されたグラファイト31を、第2金属部材35の融点より高い温度で加熱することで、第1金属部材34と第2金属部材35とを合金化する。これにより、
図10に示すように、互いに隣接する2つのグラファイト31の間に合金層32が形成される。合金層32は、銅錫合金で形成されている。
【0047】
合金層形成工程において、積層された複数のグラファイト31は、複数の金属部材の内、最も融点が低い金属部材の融点より高く、かつ、複数の金属部材の内、最も融点が高い金属部材の融点より低い温度で加熱されることが好ましい。換言すれば、加熱時の温度は、第2金属部材35の融点より高く、かつ、第1金属部材34の融点より低いことが好ましい。例えば、第1金属部材34として用いられる銅の融点は摂氏約1080度であり、第2金属部材35として用いられる錫の融点は摂氏約230度である。このとき、積層されたグラファイト31を加圧した状態で、一定期間、例えば、30分間に亘って、摂氏270度で加熱することで、第1金属部材34と第2金属部材35とを合金化して合金層32を形成することができる。
【0048】
上述のようにグラファイト31に形成された第1金属部材34と第1金属部材34上に形成された第2金属部材35とが合金化されて合金層32が形成されることで、合金層32を間に挟む2つのグラファイト31の相対的な位置関係は、合金層32によって固定される。合金層32の融点は摂氏約700度であり、錫の融点よりも高くなるため、熱伝導部材1の耐熱温度は、第2金属部材35として用いられる錫よりも高くなる。
【0049】
上述の合金層形成工程が完了すると、
図3に示すように、間に合金層32が形成された複数のグラファイト31をエッジ面に沿って切断することで、主面がグラファイト31のそれぞれのエッジ面を含む板状部材、すなわち、板状の熱伝導部材1を生成する切断工程が行われる(ステップS4)。
【0050】
詳細には、
図10に一点鎖線で示すように、Y’Z’平面に平行な面P1に沿って、間に合金層32が形成された複数のグラファイト31を切断することで、
図11に示す板状の熱伝導部材1が得られる。
図11におけるXYZ直交座標系は、
図1および
図2におけるXYZ直交座標系と同じである。
図11のX軸方向両端に位置する第1金属部材34は、
図2に示す第1金属層33を形成する。第1金属層33は、第1金属部材34で構成されるメッキ層で形成される。
図11に示す熱伝導部材1の主面1a,1bはそれぞれ、各グラファイト31のエッジ面を含む。
【0051】
以上説明した通り、実施の形態1に係る熱伝導部材1は、ベーサル面に直交する方向に積層される複数のグラファイト31と、グラファイト31の間に設けられ、複数の金属部材を含む合金層32と、を備える。これにより、熱伝導部材1は、積層されたグラファイトの間に接着剤が設けられている熱伝導部材と比べて、グラファイト31の積層方向にも高い熱伝導性を有する。
【0052】
実施の形態1に係る電子部品10において、半導体素子12から冷却装置21に向かう方向は、熱伝導部材1が備える各グラファイト31のベーサル面に沿うため、半導体素子12から回路基板11を介して熱伝導部材1に伝達された熱は、高効率で冷却装置21に伝達される。
【0053】
また、グラファイト31およびグラファイト31の間に設けられる合金層32によって、半導体素子12から回路基板11を介して熱伝導部材1に伝達された熱は、熱伝導部材1の主面に沿う方向に分散されるので、回路基板11の温度が局所的に上昇することが抑制される。
【0054】
第1金属部材34と第2金属部材35を合金化することでグラファイト31の間に合金層32が形成されるため、互いに隣接する2つのグラファイト31の相対的な位置関係は、合金層32によって強固に固定される。
【0055】
合金層32の熱伝導率および融点は、第2金属部材35の熱伝導率および融点より高い。銅である第1金属部材34と錫である第2金属部材35との合金の融点は、摂氏約700度であるため、融点が摂氏約400度である樹脂製の接着剤がグラファイトの間に設けられている熱伝導部材と比べて、実施の形態1に係る熱伝導部材1の耐熱温度は高い。また、合金層32の熱伝導率は第2金属部材35と比べて高いため、合金層32によって、熱伝導部材1に伝達された熱を、熱伝導部材1の主面に沿う方向により効率よく分散させることが可能となる。
【0056】
上述のように熱伝導部材1が備えるグラファイト31の間に合金層32が形成されているため、合金層32の領域で、回路基板11を熱伝導部材1に半田付けによって取り付けることが可能となる。
【0057】
上述のように積層されたグラファイト31を積層方向に加圧しながら加熱することで、グラファイト31の間の合金層32の内部に空隙、気泡等ができることが抑制され、強度の高い熱伝導部材1が得られる。
【0058】
(実施の形態2)
熱伝導部材の構成および製造方法は、上述の例に限られない。
図12に示す実施の形態2に係る熱伝導部材2は、複数のグラファイト31と、積層方向であるX軸方向に互いに隣接する2つのグラファイト31の間に設けられる合金層32と、グラファイト31と合金層32とに積層方向であるX軸方向に挟まれる第1金属層36と、を備える。
【0059】
熱伝導部材2を備える電子部品10は、冷却装置21を備えないため、熱伝導部材2が冷却装置としての役割を果たす。詳細には、熱伝導部材2は、回路基板11を介して半導体素子12から伝達された熱を周囲の空気に放熱する。
【0060】
熱伝導部材2は、実施の形態1に係る熱伝導部材1と同様に、
図3に示す工程によって製造される。実施の形態2では、
図13に示すように、グラファイト31の両方の主面に対して、第1金属部材34のメッキ加工を行うことで、グラファイト31に第1金属部材34が形成される。その後、一方の主面に形成された第1金属部材34、具体的には、Z’軸正方向側の第1金属部材34に対して、第2金属部材35のメッキ加工を行うことで、グラファイト31の一方の主面に形成された第1金属部材34上に第2金属部材35が形成される。
図13および後続の
図14から
図16におけるX’Y’Z’直交座標系は、
図4から
図10におけるX’Y’Z’直交座標系と同じである。
【0061】
上述の金属部材形成工程が完了すると、
図14に示すように、一方の主面に形成された第1金属部材34上にのみ第2金属部材35が形成されたグラファイト31が、積層される。
図14に示すように、一方の主面に形成された第1金属部材34上にのみ第2金属部材35が形成された各グラファイト31が順に積層され、一方の主面にのみ第1金属部材34が形成されたグラファイト31が上端に設けられる。
【0062】
上述の積層工程が完了すると、
図15に示すように、積層されたグラファイト31を積層方向に加圧した状態で加熱して、第1金属部材34および第2金属部材35を合金化することで互いに隣接する2つのグラファイト31の間に合金層を形成する合金層形成工程が行われる。このとき、第1金属部材34が全て第2金属部材35と合金化する前に加熱を停止する。これにより、
図16に示すように、第1金属部材34の一部が合金化されていない状態で残る。
【0063】
上述の合金層形成工程が完了すると、間に合金層32が形成された複数のグラファイト31をエッジ面に沿って切断する切断工程が行われる。切断工程において、
図16に一点鎖線で示すように、Y’Z’平面に平行な面P2に沿って、間に合金層32が形成された複数のグラファイト31を切断することで、
図17に示すように、板状の熱伝導部材2が得られる。合金化されていない状態で残った第1金属部材34は、グラファイト31と合金層32とに積層方向に挟まれる第1金属層36を形成する。第1金属層36は、第1金属部材34で構成されるメッキ層で形成される。
図17に示す熱伝導部材2の主面2a,2bはそれぞれ、各グラファイト31のエッジ面を含む。
【0064】
以上説明した通り、実施の形態2に係る熱伝導部材2は、ベーサル面に直交する方向に積層される複数のグラファイト31と、グラファイト31の間に設けられ、複数の金属部材を含む合金層32と、グラファイト31と合金層32とに積層方向に挟まれる第1金属層36と、を備える。これにより、熱伝導部材2は、積層されたグラファイトの間に接着剤が設けられている熱伝導部材と比べて、グラファイト31の積層方向にも高い熱伝導性を有する。
【0065】
第1金属層36は、第1金属部材34のみで形成されているため、合金層32より熱伝導性が高い。このため、半導体素子12から回路基板11を介して熱伝導部材1に伝達された熱を、熱伝導部材2の主面に沿う方向により効率よく分散し、回路基板11の温度が局所的に上昇することを抑制することが可能となる。
【0066】
以上、本発明の実施の形態1,2に係る熱伝導部材1,2および熱伝導部材1,2の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0067】
一例として、実施の形態1に係る熱伝導部材1は、X軸方向の両端に第2金属部材35で形成される第2金属層をさらに備えてもよい。第2金属層は、第2金属部材35で構成されるメッキ層で形成されてもよい。
【0068】
熱伝導部材1,2の製造方法は、上述の例に限られない。一例として、熱伝導部材1,2は、
図3に示す製造方法のステップS4の切断工程を行わずに製造されてもよい。具体的には、ステップS4の切断工程を行わずに、
図10に示すように積層されたグラファイト31の間に合金層32が形成されたブロック状の形状を有する熱伝導部材1を製造してもよい。このとき、ブロック状の熱伝導部材1が、グラファイト31のベーサル面が回路基板11の主面11bに直交する向きで、回路基板11の主面11bに取り付けられればよい。
【0069】
他の一例として、熱伝導部材1の製造方法が含む金属部材形成工程において、全てのグラファイト31について、グラファイト31の両方の主面に対する第1金属部材34の形成および各第1金属部材34に対する第2金属部材35の形成が行われてもよい。このとき、後続の積層工程において、
図6および
図7に示すように両方の主面に第1金属部材34および第2金属部材35が重ねて形成されたグラファイト31が積層されればよい。
【0070】
他の一例として、熱伝導部材1の製造方法が含む金属部材形成工程において、一部のグラファイト31の両方の主面に第1金属部材34を形成して、他のグラファイト31の両方の主面に第2金属部材35を形成してもよい。このとき、後続の積層工程において、第1金属部材34が形成されたグラファイト31と第2金属部材35が形成されたグラファイト31とが交互に積層されればよい。
【0071】
他の一例として、熱伝導部材1の製造方法が含む金属部材形成工程において、グラファイト31の一方の主面に第1金属部材34を形成して、グラファイト31の他方の主面に第2金属部材35を形成してもよい。このとき、後続の積層工程において、グラファイト31に形成された第1金属部材34と他のグラファイト31に形成された第2金属部材35とが当接する向きで、グラファイト31が積層されればよい。
【0072】
他の一例として、熱伝導部材2の製造方法が含む合金層形成工程において、第1金属部材34の全部と第2金属部材35の全部とが合金化される前に、加熱が停止されてもよい。これにより、
図18に示すように、第1金属部材34の一部および第2金属部材35の一部が合金化されていない状態で残る。
図18の例では、積層方向、すなわち、Z’軸方向に互いに隣接する2つのグラファイト31の間に2つの合金層32が設けられ、第2金属部材35によって形成され、2つの合金層32に挟まれる第2金属層が設けられる。
【0073】
グラファイト31のベーサル面に直交する方向の厚みは、熱伝導部材1,2に求められる熱伝導性能に応じて定められればよい。グラファイト31のベーサル面に直交する方向の厚みを大きくすることで、熱伝導部材1,2の主面1a,2aに直交する方向の熱伝導率を高めることが可能となる。
【0074】
金属部材形成工程においてグラファイト31に形成される第1金属部材34の厚みおよび第1金属部材34上に形成される第2金属部材35の厚みは、例えば、後続の合金層形成工程で形成される合金層32の厚みに応じて定められればよい。
【0075】
合金層32は、一様な合金でなくてもよい。例えば、合金層32において、グラファイト31に近い位置での第2金属部材35の濃度は、グラファイト31から遠い位置、すなわち、合金層32においてグラファイト31の積層方向の中央での第2金属部材35の濃度より低くてもよい。
【0076】
合金層32は、上述の金属部材に限られず、任意の複数種類の金属部材で構成されればよい。一例として、銅、錫、亜鉛、アルミニウム、銀、ニッケル、金、パラジウム、チタン、タングステン、および鉛から任意の個数の金属部材を組み合わせて合金層32が形成されればよい。上述の各金属部材は、純金属でもよいし、各金属を主成分とする合金でもよい。
【0077】
融点の差が大きい複数の金属部材を、合金層32を構成する複数の金属部材として用いると、合金層形成工程において、一部の金属部材のみを溶かすことが容易である。
【0078】
金属部材形成工程において、グラファイト31の主面だけでなく、エッジ面に平行な側面に対しても第1金属部材34または第2金属部材35のメッキ加工が行われてもよい。
【0079】
金属部材形成工程において、グラファイト31の主面に対して、第1金属部材34のペーストが塗布されてもよい。同様に、第1金属部材34に対して、第2金属部材35のペーストが塗布されてもよい。
【0080】
熱伝導部材1,2の形状は、上述の例に限られない。一例として、冷却装置としての役割を果たす熱伝導部材2の冷却性能を高めるために、熱伝導部材2の表面積を増大させる加工、例えば、熱伝導部材2をフィン形状、複数の突起を有する形状にする加工が行われてもよい。
【0081】
発熱体は、発光ダイオード、スイッチング素子等の半導体素子12に限られず、情報処理を行うプロセッサ、IC(Integrated Circuit:集積回路)チップ、記憶素子、電力の供給制御を行うパワー半導体、抵抗素子、コイル等の発熱する任意の電子部品である。
【0082】
冷却装置21は、ヒートシンクに限られず、冷媒が封入されているヒートパイプでもよい。
【符号の説明】
【0083】
1,2 熱伝導部材
1a,1b,2a,2b 主面
10 電子部品
11 回路基板
11a,11b 主面
12 半導体素子
12a,12b 端子
13,14 配線
15,16 ワイヤ
21 冷却装置
31 グラファイト
32 合金層
33,36 第1金属層
34 第1金属部材
35 第2金属部材
41 固定部材
P1,P2 面