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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147875
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ポリマーおよび物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/18 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
C08G73/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060574
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】梅垣 博史
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043PC066
4J043PC076
4J043PC186
4J043PC206
4J043QB15
4J043QB24
4J043RA42
4J043SA08
4J043SB01
4J043TA32
4J043TB01
4J043UA122
4J043UA131
4J043UB401
4J043VA011
4J043VA051
4J043VA052
4J043YB08
4J043YB21
4J043YB37
4J043ZA23
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】取り扱い性を改善した、主鎖にベンゾイミダゾール骨格を含むポリマー、およびこのポリマーを用いた物品の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構造を含むポリマー。一般式(1)中、PGは、熱により脱離する保護基を表し、Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、nは0~3の整数であり、*は他の化学構造との結合手を表す。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式(1)で表される構造を含むポリマー。
【化1】
一般式(1)中、
PGは、熱により脱離する保護基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは0~3の整数であり、
*は他の化学構造との結合手を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のポリマーであって、
PGは、カルバメート系保護基であるポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリマーであって、
PGの分子量は200以下であるポリマー。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリマーであって、
1000mgのテトラヒドロフランに、25℃で50mg以上溶解するポリマー。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリマーであって、
当該ポリマー中の前記一般式(1)で表される構造のモル数をM1とし、
当該ポリマー中の以下一般式(2)で表される構造のモル数をM2としたとき、
M1/(M1+M2)は0.6~1であるポリマー。
【化2】
一般式(2)中、R、nおよび*の定義は、前記一般式(1)におけるR、nおよび*の定義と同様である。
【請求項6】
請求項1または2に記載のポリマーであって、
重量平均分子量が1,000~200,000であるポリマー。
【請求項7】
請求項1または2に記載のポリマーを含む材料を所望の形状に加工した中間品を得る第一工程と、
前記中間品を加熱することによって前記ポリマー中のPGを脱離させる第二工程と、
を含む、物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーおよび物品の製造方法に関する。より具体的には、ベンゾイミダゾール骨格を有するポリマーと、このポリマーを用いた物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾイミダゾール、すなわち、主鎖にベンゾイミダゾール骨格を含むポリマーについては、耐熱性や機械特性の観点で、工業的な応用検討が進められている。
例えば、特許文献1には、特定の一般式で表される構造単位を含むポリベンゾイミダゾール、このポリベンゾイミダゾールからなるフィルム、このフィルムを備えるフレキシブル配線基板、このフィルムを備えるプリント基板、および、このフィルムを備える燃料電池用高分子電解質膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/054471号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようにポリベンゾイミダゾールの工業的な応用検討は進められている。しかし、本発明者の知見によれば、ポリベンゾイミダゾールは取り扱い性の点で要改善点を有する。
一例として、ポリベンゾイミダゾールは溶剤に溶解しにくい傾向を有する。具体的には、ポリベンゾイミダゾールは、ジメチルアセトアミドのような高極性溶剤には可溶であるが、テトラヒドロフランのような中極性溶剤や低極性溶剤には不溶または難溶である。
別の例として、ポリベンゾイミダゾールは成形機による成形で適切に溶融しないために、ポリベンゾイミダゾールを用いた成形品の製造が困難なことがある。これらの原因は、ベンゾイミダゾールの化学構造に起因する「水素結合」により、ベンゾイミダゾールが凝集しやすいためと考えられる。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、主鎖にベンゾイミダゾール骨格を含むポリマーの取り扱い性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0007】
1.
以下一般式(1)で表される構造を含むポリマー。
【化1】
一般式(1)中、
PGは、熱により脱離する保護基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは0~3の整数であり、
*は他の化学構造との結合手を表す。
2.
1.に記載のポリマーであって、
PGは、カルバメート系保護基であるポリマー。
3.
1.または2.に記載のポリマーであって、
PGの分子量は200以下であるポリマー。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載のポリマーであって、
1000mgのテトラヒドロフランに、25℃で50mg以上溶解するポリマー。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載のポリマーであって、
当該ポリマー中の前記一般式(1)で表される構造のモル数をM1とし、
当該ポリマー中の以下一般式(2)で表される構造のモル数をM2としたとき、
M1/(M1+M2)は0.6~1であるポリマー。
【化2】
一般式(2)中、R、nおよび*の定義は、前記一般式(1)におけるR、nおよび*の定義と同様である。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載のポリマーであって、
重量平均分子量が1,000~200,000であるポリマー。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載のポリマーを含む材料を所望の形状に加工した中間品を得る第一工程と、
前記中間品を加熱することによって前記ポリマー中のPGを脱離させる第二工程と、
を含む、物品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、主鎖にベンゾイミダゾール骨格を含むポリマーの取り扱い性が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0010】
<ポリマー>
本実施形態のポリマーは、以下一般式(1)で表される構造(典型的には構造単位)を含む。
【0011】
【化3】
【0012】
一般式(1)中、
PGは、熱により脱離する保護基を表し、
Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表し、
nは0~3の整数であり、
*は他の化学構造との結合手を表す。
【0013】
本実施形態のポリマーにおいては、ベンゾイミダゾール骨格中の水素原子が保護基PGで置換されている。このために、水素結合による凝集が抑えられると考えられる。
また、保護基PGは熱により脱離可能である。このため、取り扱い性が改善されている本実施形態のポリマーを用いて物品(具体的にはフィルムや成形品など)を形成し、その後、加熱によりPGを脱離させる、という手順により、剛直な骨格であり耐熱性や機械特性に優れるポリベンゾイミダゾールで形成された物品を得ることが可能である。
【0014】
本実施形態のポリマーに関する説明を続ける。
【0015】
(一般式(1)について)
PGは、熱により脱離する保護基である限り特に限定されない。「熱により脱離する」とは、典型的にはポリマーの主鎖構造自体が熱分解するより低い加熱温度によりPGが脱離すること、具体的には100~300℃でPGが脱離することを意味する。
PGの化学構造を選択することにより、取り扱い性、例えば有機溶剤に対する溶解性を調整することが可能である。
【0016】
PGは、有機化学の分野で保護基として知られている基のうち、加熱により脱離可能な基であることができる。PGは、カルバメート系保護基、アセタール系保護基、スルホン系保護基などであることができる。ちなみに、有機化学の分野で知られている保護基は、通常、酸や塩基を作用させることにより脱離させることが意図されているが、保護基の多くは、加熱によっても脱離可能である。
【0017】
PGがカルバメート系保護基である場合、PGは、-COO-Rで表される基であることができる。ここで、Rは1価の有機基であり、具体的にはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などであることができる。合成容易性や試薬の入手容易性の観点でRはt-ブチル基またはフェニルメチル基が好ましい。
【0018】
PGがアセタール系保護基である場合、PGは、-O-CH-O-Rで表される基であることができる。Rは1価の有機基であり、具体的にはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などであることができる。合成容易性や試薬の入手容易性の観点では、Rはメチル基が好ましい。
【0019】
PGがスルホン系保護基である場合、PGは、-SO-Rで表される基であることができる。Rは1価の有機基であり、具体的にはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などであることができる。脱保護性を高めるため、Rの1価の有機基は電子求引性基で置換されていてもよい。電子求引性基としてはフッ素原子などのハロゲン原子、フルオロアルキル基。ニトロ基、シアノ基などを挙げることができる。合成容易性や試薬の入手容易性の観点では、Rはメタンスルホニル基(Ms)、p-トルエンスルホニル基(Ts)、o-ニトロベンゼンスルホニル基(Ns)またはトリフルオロメタンスルホニル基(Tf)が好ましい。
【0020】
熱による脱離容易性の観点で、PGは、カルバメート系保護基であることが好ましい。特に、PGは、t-ブトキシカルボニル基であることが好ましい。PGがt-ブトキシカルボニル基であることは、脱離物が残留しにくいという点でも好ましい(t-ブトキシカルボニル基の分解物は、常温常圧で気体である二酸化炭素とイソブテンである)。
【0021】
PGの分子量は、好ましくは200以下、より好ましくは50~200、さらに好ましくは50~150、特に好ましくは75~130である。
PGの分子量が小さいことにより、後述の<物品の製造方法>のようにして物品を製造する場合に、第二工程(加熱による脱保護)の前後での特性変化を小さくすることができる。これは本実施形態のポリマーを実用するに際して好ましい性質である。また、PGの分子量が小さいことにより、
【0022】
1価の置換基Rは、複数存在する場合はそれぞれ独立に、1価の置換基を表す。1価の置換基としては、、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基などを挙げることができる。
【0023】
nは、0~3の整数である。原材料の入手容易性の観点では、nは好ましくは0である。
【0024】
(ポリマーの「保護率」について)
本実施形態のポリマー中の一般式(1)で表される構造のモル数をM1とし、本実施形態のポリマー中の以下一般式(2)で表される構造のモル数をM2とする。このとき、M1/(M1+M2)は、好ましくは0.6~1、より好ましくは0.7~1である。
【0025】
【化4】
【0026】
一般式(2)中、R、nおよび*の定義および好ましい態様は、一般式(1)におけるR、nおよび*と同様である。
【0027】
M1/(M1+M2)の値は、本実施形態のポリマーの「保護率」と解することができる。M1/(M1+M2)の値が大きいことにより、前述の「水素結合による凝集」が一層抑えられて、取り扱い性の一層の向上を図ることができる。
M1/(M1+M2)の値は、H-NMR測定で得られるチャートに基づき算出することができる。例えば、チャート中、ベンゾイミダゾール骨格のNH部分のHに対応するシグナルの面積と、ベンゾイミダゾール骨格のベンゼン環が有するHに対応するシグナルの面積、の比に基づき算出することができる。
【0028】
(分子量について)
本実施形態のポリマーの重量平均分子量は特に限定されない。製造の容易性、取り扱い性、最終用途などを考慮して分子量は適宜調整すればよい。
本実施形態のポリマーの重量平均分子量は、好ましくは1,000~200,000、より好ましくは10,000~200,000、さらに好ましくは30,000~150,000である。
ポリマーの重量平均分子量は、典型的には、ポリマーの溶液をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として測定することで得ることができる。
【0029】
(ポリマーの溶解性について)
前述のように、本実施形態のポリマーの取り扱い性、例えば溶剤溶解性は改善されている。このことは以下のとおり定量的に表現することができる。
本実施形態のポリマーは、好ましくは、25℃で、1000mgのテトラヒドロフランに50mg以上溶解する。このような溶剤溶解性は、NH部分に保護基PGを導入した本実施形態のポリマーならではの特性である。
【0030】
(ポリマー構造に関する補足)
本実施形態のポリマーは、一般式(1)で表される構造を含みさえすればよい。ポリマー中では、一般式(1)で表される構造はどのような形で存在してもよいが、好ましくは一般式(1)で表される構造はポリマーの主鎖の一部または全部を構成する。
【0031】
本実施形態のポリマーにおいて、一般式(1)で表される構造(および、存在する場合には一般式(2)で表される構造)は、以下の(a)で表されるように「同じ向き」で連なっていてもよいし、以下の(b)で表されるように「違う向き」で連なっていてもよい。
以下(a)および(b)において、Lは単結合または2価の連結基であり、Xは水素原子または保護基PGであり、R、nおよび*の定義は一般式(1)と同様である。Lが2価の連結基である場合、具体的には、-SO-、-O-、-CO-、アルキレン基、これらのうち2以上が連結された基などであることができる。
以下(a)および(b)において、2つのXは同じであっても異なっていてもよい。同様に、2つのRは同じであっても異なっていてもよい。同様に、2つのnは同じであっても異なっていてもよい。
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
本実施形態のポリマーは、一般式(1)で表される構造や一般式(2)で表されるベンゾイミダゾール骨格を有する構造とは異なる構造を有していてもよいし、有していなくてもよい。「ベンゾイミダゾール骨格を有する構造とは異なる構造」として具体的には、フェニレン骨格やナフチレン骨格などの芳香環含有骨格(アリーレン骨格など)を挙げることができる。ポリマーが芳香環含有骨格を含むことにより、耐熱性の一層の向上を期待することができる。
【0035】
具体例として、本実施形態のポリマーは、以下に示されるような構造を有することができる。
【0036】
【化7】
【0037】
(ポリマーの製造方法について)
本実施形態のポリマーの製造方法は特に限定されない。製造方法の一例を以下で説明する。
【0038】
まず、原料ポリマーを入手する。原料ポリマーはポリベンゾイミダゾールであり、通常、前掲の一般式(2)で表される構造を有するが、一般式(1)で表される構造は有しない。このような原料ポリマーは、例えば株式会社PBIアドバンストマテリアルズから購入することができる。
もちろん、原料ポリマーとして、購入品ではなく、公知の方法に基づき合成したポリベンゾイミダゾールを用いてもよい。
【0039】
次に、入手(または合成)した原料ポリマーと保護試薬とを反応させて、一般式(1)で表される構造を有するポリマーを得る。この反応の具体的条件や手順は、有機化学分野における過去の知見に基づき適宜調整/最適化すればよい。例えばカルバメート系保護基を導入する場合、反応の進行を早めるために4-ジメチルアミノピリジンを用いてもよい。
【0040】
本発明者の知見として、保護試薬を多めに用いることで、M1/(M1+M2)が大きいポリマーを合成することができる。具体的には、原料ポリマー中のベンゾイミダゾール骨格のNHに対して、好ましくは3mol当量以上、より好ましくは3~8mol当量、さらに好ましくは4~7mol当量の保護試薬を用いることが好ましく、
【0041】
また、反応温度は、一度導入された保護基の脱保護(逆反応)を抑えてM1/(M1+M2)が特に大きいポリマーを合成する観点で、比較的低温とすることが好ましい。例えばカルバメート系保護基を導入する場合、80℃でもM1/(M1+M2)が十分に大きいポリマーを合成することは可能だが、反応温度を60℃以下(より具体的には50~60℃)とすることで、M1/(M1+M2)が特に大きいポリマーを合成しやすい。
【0042】
反応時間は、例えば2~24時間、好ましくは4~18時間、より好ましくは6~12時間とすることができる。
【0043】
原料ポリマーと保護試薬との反応の具体的な反応条件については、後掲の合成例を参照されたい。
【0044】
<物品の製造方法>
上述のポリマーを用いて所望の物品を製造することができる。具体的には、
(i)上述のポリマーを含む材料を所望の形状に加工した中間品を得る第一工程と、
(ii)上記中間品を加熱することによって、中間品を形作っているポリマー中のPGを脱離させる第二工程と、
により、物品を製造することができる。
以下、第一工程と第二工程について説明する。
【0045】
(第一工程)
一例として、「物品」がフィルムである場合には、第一工程では、ポリマーを適当な溶剤(典型的にはポリマーを溶解可能な有機溶剤)に溶解させた溶液を基材上に塗布し、その後、溶剤を乾燥させる。このようにして、基材上に、中間品である「塗膜」を形成する。
塗布方法は特に限定されない。各種コーターやアプリケーターを用いて所望の厚み・大きさの膜を形成すればよい。
基材も特に限定されない。入手容易性や平坦性の観点から、基材は好ましくはPETフィルムなどの樹脂フィルムである。基材の表面には易剥離加工がなされていてもよい。
溶剤の乾燥方法や乾燥条件も特に限定されない。ホットプレートを用いたり、熱風を当てたりすることで溶剤を乾燥させればよい。
「物品」がフィルムである場合、フィルムの厚みは特に限定されず、用途に応じて適宜調整すればよい。あくまで一例であるが、上記のような第一工程において設けられる塗膜の厚みは、10~60μmであることができる。
上記のような第一工程の実施に際しては、フィルムの作成において「溶液キャスト法」の名称で知られている技術を適宜採用することができる。
【0046】
別の例として、「物品」が成形品である場合には、第一工程では、ポリマーを何らかの手段(圧縮、加熱、これらの組み合わせなど)で成形して、中間品としての成形品を得る。
【0047】
(第二工程)
第二工程では、第一工程で得られた中間品を加熱する。これによって、中間品を形作っているポリマー中のPGを脱離させる。
加熱の温度や時間については、PGが十分に脱離する限り、任意の条件を採用することができる。PGの化学構造や脱離性を踏まえて適当な加熱温度および時間を設定すればよい。一例として、加熱の温度は160~220℃、加熱時間は1~12時間である。
【0048】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0049】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0050】
<原料ポリマーの入手>
株式会社PBIアドバンストマテリアルズから、「PBI Fine Powder」の製品名で販売されており、およそ20質量%のジメチルアセトアミドを含むポリベンゾイミダゾール(以下の化学構造を有する)を購入した。これを原料ポリマーとして用いた。
【0051】
【化8】
【0052】
<保護基の導入>
(合成例)
まず、原料ポリマー1.25gと、4-ジメチルアミノピリジン0.65gと、ジメチルアセトアミド35mLとを、ガラス容器中で混合しながら、80℃で3時間加熱した。これにより原料ポリマーの溶液を得た。
上記の原料ポリマーの溶液に対し、保護試薬である二炭酸ジ-t-ブチルを、原料ポリマー中のベンゾイミダゾール骨格のNHに対して5mol当量加えた。そして60℃で24時間加熱した。これにより反応溶液を得た。
加熱終了後、メタノール300mLを攪拌しながら、そのメタノールに対して上記反応溶液をゆっくりと滴化した。これにより沈殿を得た。そして、得られた沈殿をろ過により取得した。得られた沈殿を80℃減圧条件で12h乾燥し、やや黄色~白色の固体を得た。このようにして固体状のポリマーを得た。
【0053】
得られたポリマーを重水素化テトラヒドロフランに溶解させたサンプルを、H-NMR測定することでNMRチャートを得た。また、原料ポリマーを重水素化ジメチルスルホキシドに溶解させたサンプルを、H-NMR測定することでNMRチャートを得た。これらチャート中のシグナルの面積に基づき算出されたM1/(M1+M2)の値は0.93であった。
【0054】
また、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として測定した上記ポリマーの重量平均分子量は、およそ70,000であった。
【0055】
<取り扱い性の評価>
合成例で得られたポリマーの粉体80mgを、25℃で、1000mgのテトラヒドロフランと混合した。混合の結果、ポリマーの粉体は完全に溶解し、褐色の溶液を得ることができた。
ちなみに、原料ポリマーは、テトラヒドロフランには実質的に不溶である。
【0056】
以上のことから、一般式(1)で表される構造を有するポリマーは、有機溶剤(具体的にはテトラヒドロフランなどの中極性溶剤)に良く溶解する、つまり良好な取り扱い性を有することが確認された。
【0057】
<物品の製造と脱保護>
以下手順により行った。
(1)アプリケーターを用いて、合成例で得られたポリマーのテトラヒドロフラン溶液(濃度20質量%)を、厚み125μmのPETフィルム上に塗布した。PETフィルムとしては、東レ社製のルミラー(登録商標)T60の、表面処理無しのグレードを用いた。また、アプリケーターのギャップは400μmとした。
(2)塗布後、室温で60分静置して、テトラヒドロフランを乾燥させた。これにより、PETフィルム上にポリマー膜を形成した。
(3)上記(2)で形成したポリマー膜を、PETフィルムからはがした。その後、はがしたポリマー膜を、200℃、60分の条件で加熱した。これによりポリマー膜中の保護基(t-ブトキシカルボニル基)の脱保護を進行させた。
【0058】
上記(3)の加熱終了後においても、ポリマー膜は、膜としての形態を保っていた。つまり、上述の第一工程および第二工程により、ポリベンゾイミダゾールを含む物品を製造することができた。
【0059】
<参考:示差走査熱量測定>
合成例で得られたポリマーの示差走査熱量測定を行った。測定は、室温から450℃までの温度領域で、昇温速度10℃/分の条件で行った。測定の結果、160~170℃付近に、保護基の脱離によると考えられるピークが確認された。このことから、160~170℃程度の加熱によって脱保護が可能であることが理解される。また、この示差走査熱量測定の結果は、上記<物品の製造と脱保護>における「200℃、60分」の加熱で十分に脱保護が進行していることの傍証ともなっている。