(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147883
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】電力変換装置、過電流検出回路、および、半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241009BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20241009BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M1/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060589
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三間 彬
(72)【発明者】
【氏名】紺野 哲豊
(72)【発明者】
【氏名】新井 大夏
(72)【発明者】
【氏名】松元 大輔
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA11
5H740BA12
5H740BB05
5H740BB08
5H740MM11
5H770DA01
5H770DA44
5H770HA02X
5H770HA19X
5H770LA02X
5H770LA05Y
(57)【要約】
【課題】
シンプルな回路構成で、負荷短絡の場合でも高精度に検出できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】
電力変換装置が、上アームスイッチング素子30aと、下アームスイッチング素子30bと、高電位側端子Pと、低電位側端子Nと、出力端子ACと、第1の検出端子11と、第2の検出端子12と、高電位側端子Pと上アームスイッチング素子30aとの間の高電位側配線インダクタンスLpに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスLdpと、上下アーム接続ノード40と出力端子ACとの間の出力側配線インダクタンスLacに電磁結合された出力側検出用インダクタンスLdacと、第1の検出端子11と第2の検出端子12との電位差により過電流を検出する過電流検出部10とを有し、第1の検出端子11と第2の検出端子12との間に、高電位側検出用インダクタンスLdpと出力側検出用インダクタンスLdacとが直列接続されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上アームスイッチング素子と、
前記上アームスイッチング素子に直列接続された下アームスイッチング素子と、
前記上アームスイッチング素子に接続された高電位側端子と、
前記下アームスイッチング素子に接続された低電位側端子と、
前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに接続された出力端子と、
第1の検出端子と、
第2の検出端子と、
前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、
前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスと、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との電位差により過電流を検出する過電流検出部とを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記低電位側端子と前記下アームスイッチング素子との間の低電位側配線インダクタンスに電磁結合された低電位側検出用インダクタンスを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスと前記低電位側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子とを内部に収納するケースと、
前記ケースの外部に配置され、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子と前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが設けられた回路基板とを有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
高電位側端子と低電位側端子との間に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子とが直列接続され、前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに出力端子が接続された電力変換回路に流れる過電流を検出する過電流検出回路であって、
第1の検出端子と、
第2の検出端子と、
前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、
前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスと、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との電位差により過電流を検出する過電流検出部とを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする過電流検出回路。
【請求項5】
請求項4において、
前記低電位側端子と前記下アームスイッチング素子との間の低電位側配線インダクタンスに電磁結合された低電位側検出用インダクタンスを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスと前記低電位側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする過電流検出回路。
【請求項6】
上アームスイッチング素子と、
前記上アームスイッチング素子に直列接続された下アームスイッチング素子と、
前記上アームスイッチング素子に接続された高電位側端子と、
前記下アームスイッチング素子に接続された低電位側端子と、
前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに接続された出力端子と、
第1の検出端子と、
第2の検出端子と、
前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、
前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスとを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項7】
請求項6において、
前記低電位側端子と前記下アームスイッチング素子との間の低電位側配線インダクタンスに電磁結合された低電位側検出用インダクタンスを有し、
前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスと前記低電位側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする半導体モジュール。
【請求項8】
請求項6において、
前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子と前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとを内部に収納するケースを有することを特徴とする半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、過電流検出回路、および、半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置は、直流電源から供給された直流電力を回転電機などの交流電気負荷に供給するための交流電力に変換する機能、あるいは回転電機により発電された交流電力を直流電源に供給するための直流電力に変換する電力変換機能を備えている。電力変換機能を果すため、電力変換装置はパワー半導体で構成されたスイッチング素子を有する電力変換回路を有しており、スイッチング素子が導通動作や遮断動作を繰り返すことにより直流電力から交流電力へあるいは交流電力から直流電力への電力変換を行う。
【0003】
電力変換回路では、スイッチング素子を2つ直列接続して、直流電源に接続する。直流電源の高電位側に接続されたスイッチング素子を上アーム、直流電源の低電位側に接続されたスイッチング素子を下アームと称す。また、上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに出力端子が接続される。上アームスイッチング素子および下アームスイッチング素子が交互にON/OFFを繰り返すことにより、出力端子から交流電力を取り出すことが可能である。
【0004】
ここで、複数のスイッチング素子によって構成された電力変換回路において、1個のスイッチング素子が運転動作中にゲートノイズもしくは素子寿命で破壊された場合は、直流電源の高電位側から、破壊されたスイッチング素子に向かって過大な短絡電流が流れる。この短絡電流が流れることにより正常なスイッチング素子までも破壊され、電力変換装置全体が破壊されることを防ぐために、過電流検出回路でこの短絡電流を検出し、正常なスイッチング素子をオフ動作とする保護信号を生成することが行われている。
【0005】
また、短絡には、アーム短絡という電力変換回路の上下アーム間で短絡して大電流が流れるモードと、負荷短絡という上下アーム間の出力端子を介して電力変換回路の外へ大電流が流れるモードがある。負荷短絡は一般的に、電力変換回路から負荷に至る間の配線が地絡してしまう現象がほとんどである。この負荷短絡の場合でも、大電流がスイッチング素子に流れてしまうため、短絡検知してスイッチング素子を保護する必要がある。
【0006】
アーム短絡の場合は、スイッチング素子の破壊で生じるものであるが、一方、負荷短絡の場合は、スイッチング素子がまだ健常であり、電力変換装置に接続された負荷の破壊で生じる。したがって、負荷短絡を検出してスイッチング素子を保護する意義は大きい。
【0007】
アーム短絡および負荷短絡を検出する方法として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1の実施の形態2(
図10、
図11、段落0029~0038)には、IGBTのエミッタに流れる電流の時間変化率であるdi/dtを検出し、マスク期間経過後に、di/dtが第1の閾値を超えていればアーム短絡が発生したと判定し、第1の閾値を超えず第2の閾値を超えた場合には負荷短絡が発生したと判定する方法が記載されている。なお、このマスク期間を設ける理由は、特許文献1の
図5、段落0023、0027に記載の通り、ゲートオン直後に現れる急峻且つピーク値大の電流の検知を回避するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、負荷短絡を検知しようとすると、通常のスイッチング時に発生するピーク電流の検知を回避するためのマスク期間の設定と、負荷短絡を検知するための第2の閾値が必要になり、回路が複雑になるという問題がある。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、シンプルな回路構成で、負荷短絡の場合でも高精度に検出することができる電力変換装置、過電流検出回路、および、半導体モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明の電力変換装置は、上アームスイッチング素子と、前記上アームスイッチング素子に直列接続された下アームスイッチング素子と、前記上アームスイッチング素子に接続された高電位側端子と、前記下アームスイッチング素子に接続された低電位側端子と、前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに接続された出力端子と、第1の検出端子と、第2の検出端子と、前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスと、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との電位差により過電流を検出する過電流検出部とを有し、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の過電流検出回路は、高電位側端子と低電位側端子との間に上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子とが直列接続され、前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに出力端子が接続された電力変換回路に流れる過電流を検出する過電流検出回路であって、第1の検出端子と、第2の検出端子と、前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスと、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との電位差により過電流を検出する過電流検出部とを有し、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の半導体モジュールは、上アームスイッチング素子と、前記上アームスイッチング素子に直列接続された下アームスイッチング素子と、前記上アームスイッチング素子に接続された高電位側端子と、前記下アームスイッチング素子に接続された低電位側端子と、前記上アームスイッチング素子と前記下アームスイッチング素子との間の上下アーム接続ノードに接続された出力端子と、第1の検出端子と、第2の検出端子と、前記高電位側端子と前記上アームスイッチング素子との間の高電位側配線インダクタンスに電磁結合された高電位側検出用インダクタンスと、前記上下アーム接続ノードと前記出力端子との間の出力側配線インダクタンスに電磁結合された出力側検出用インダクタンスとを有し、前記第1の検出端子と前記第2の検出端子との間に、前記高電位側検出用インダクタンスと前記出力側検出用インダクタンスとが直列接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シンプルな回路構成で、負荷短絡の場合でも高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の電力変換装置および過電流検出回路の回路構成を示す回路図。
【
図2】比較例の過電流検出方法の一例を示す回路図。
【
図3】比較例の過電流検出方法の検出電圧のイメージ図。
【
図5】実施例2の電力変換装置および過電流検出回路の回路構成を示す回路図。
【
図6】実施例3の電力変換装置の回路構成を示す回路図。
【
図7】実施例4の電力変換装置の回路構成を示す回路図。
【
図8】実施例5の半導体モジュールと過電流検出回路の構成を示す上面図および側面図。
【
図9】実施例6の半導体モジュールと過電流検出回路の構成を示す上面図および側面図。
【
図10】実施例7の電力変換装置の構成を示す上面図および側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。各図、各実施例において、同一または類似の構成要素については同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【実施例0017】
図1は、実施例1の電力変換装置および過電流検出回路の回路構成を示す回路図である。
【0018】
実施例1の電力変換装置1は、電力変換回路2と、過電流検出回路3とを有する。
【0019】
電力変換回路2は、上アームスイッチング素子30aと、上アームスイッチング素子30aに直列接続された下アームスイッチング素子30bと、上アームスイッチング素子30aに接続された高電位側端子Pと、下アームスイッチング素子30bに接続された低電位側端子Nと、上アームスイッチング素子30aと下アームスイッチング素子30bとの間の上下アーム接続ノード40に接続された出力端子ACとを有する。換言すれば、電力変換回路2は、高電位側端子Pと低電位側端子Nとの間に上アームスイッチング素子30aと下アームスイッチング素子30bとが直列接続され、上アームスイッチング素子30aと下アームスイッチング素子30bとの間の上下アーム接続ノードに出力端子ACが接続された構成となっている。
【0020】
ここで、上アームスイッチング素子30aおよび下アームスイッチング素子30bとしては、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。この場合、電力変換回路2は、上アームスイッチング素子30aおよび下アームスイッチング素子30bのそれぞれに対して逆並列に接続されたダイオード31を有する。なお、上アームスイッチング素子30aおよび下アームスイッチング素子30bとしては、これに限られず、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などの他のスイッチング素子を用いてもよい。MOSFETを用いる場合、ダイオード31はMOSFETに内蔵されたボディダイオードを用いることができる。
【0021】
上アームスイッチング素子30aおよび下アームスイッチング素子30bとしてIGBTを用いる場合は、上アームスイッチング素子30aの一方の主電極であるコレクタ電極が高電位側端子Pに接続され、上アームスイッチング素子30aの他方の主電極であるエミッタ電極と下アームスイッチング素子30bの一方の主電極であるコレクタ電極とが接続され、下アームスイッチング素子30bの他方の主電極であるエミッタ電極が低電位側端子Nに接続される。なお、MOSFETの場合は、コレクタをドレインに読み替え、エミッタをソースに読み替えればよい。
【0022】
電力変換回路2は、高電位側端子Pと上アームスイッチング素子30aとの間の高電位側配線インダクタンスLpと、上下アーム接続ノード40と出力端子ACとの間の出力側配線インダクタンスLacと、下アームスイッチング素子30bと低電位側端子Nとの間の低電位側配線インダクタンスLnとを有する。
【0023】
ここで、本実施例の過電流検出回路3は、第1の検出端子11と、第2の検出端子12と、第1の検出端子11と第2の検出端子12との電位差により過電流を検出する過電流検出部10と、高電位側配線インダクタンスLpに近接配置されて電磁結合された高電位側検出用インダクタンスLdpと、出力側配線インダクタンスLacに近接配置されて電磁結合された出力側検出用インダクタンスLdacとを有する。そして、本実施例の過電流検出回路3は、第1の検出端子11と第2の検出端子12との間に、高電位側検出用インダクタンスLdpと出力側検出用インダクタンスLdacとが直列接続されている構成となっている。
【0024】
アーム短絡時においては、アーム短絡電流Isc_armが、高電位側端子Pから高電位側配線インダクタンスLp、上アームスイッチング素子30a、下アームスイッチング素子30b、低電位側配線インダクタンスLn、低電位側端子Nの順番に流れる。
【0025】
この時、高電位側配線インダクタンスLpにはアーム短絡電流Isc_armが流れたことによる起電力が生じる。一方、高電位側検出用インダクタンスLdpと高電位側配線インダクタンスLpとの間は結合係数kpで電磁結合されており、第1の検出端子11と第2の検出端子12との間には、起電力20が発生する。起電力20の電圧であるVdidt_armは、式(1)のように表すことができる。
【0026】
【0027】
負荷短絡時においては、負荷短絡電流Isc_loadが、高電位側端子Pから高電位側配線インダクタンスLp、上アームスイッチング素子30a、出力側配線インダクタンスLac、出力端子ACの順番に流れる。
【0028】
この時、第1の検出端子11と第2の検出端子12との間に生じる起電力20は、高電位側検出用インダクタンスLdpで生じる起電力に加え、出力側配線インダクタンスLacとの間に結合係数kacで電磁結合された出力側検出用インダクタンスLdacで生じる起電力も加わるため、起電力20の電圧であるVdidt_loadは、式(2)のように表すことができる。
【0029】
【0030】
過電流検出部10は、この起電力20を検出し、起電力20が所定のしきい値を超えた場合は、短絡電流が流れたと判断し、電力変換回路2の動作を停止させる。本実施例の構成によれば、式(2)における結合係数kac、出力側配線インダクタンスLac、出力側検出用インダクタンスLdacの大きさを調整することで、検出の感度を調整することができる。したがって、負荷短絡の場合でも高精度に検出することができる。
【0031】
このように、本実施例によれば、シンプルな回路構成で、負荷短絡の場合でも高精度に検出することができる。
【0032】
図2は、比較例の過電流検出方法の一例を示す回路図である。
【0033】
図2に示す比較例の過電流検出方法では、高電位側配線インダクタンスLpを使って過電流を検出しており、実施例1とは異なり、高電位側検出用インダクタンスLdpおよび出力側検出用インダクタンスLdacを有していない。
【0034】
図3は、比較例の過電流検出方法の検出電圧のイメージ図である。
図3において、縦軸は検出電圧、横軸は時刻を示す。
【0035】
比較例の過電流検出方法では、アーム短絡時において検出できる起電力20の電圧であるVdidt_armは、式(3)のように表すことができる。
【0036】
【0037】
一方、負荷短絡時において検出できる起電力20の電圧であるVdidt_loadは、式(4)のように表すことができる。
【0038】
【0039】
通常、電力変換回路2は、動作中の電圧の跳ね上がりを抑制するために、高電位側配線インダクタンスLpは小さくなっている。一方、出力側配線インダクタンスLacは小さくすることを考慮する必要はなく、Lp<Lacとなっている。
【0040】
この場合において、出力側配線インダクタンスLacの値が大きければ、電流が流れにくくなり、電流の傾きが小さくなる。したがって、短絡発生時のアーム短絡電流Isc_armと負荷短絡電流Isc_loadの傾きを比べると、dIsc_arm/dt>dIsc_load/dtとなる、そのため、式(3)および式(4)によれば、アーム短絡時に検出できる起電力20のVdidt_armと負荷短絡時に検出できる起電力20のVdidt_loadを比べると、Vdidt_arm>Vdidt_loadとなる。このため、負荷短絡時に発生する起電力20のVdidt_loadはアーム短絡時の検出のために設けられた検知閾値より小さくなってしまい、負荷短絡電流を検知できない。仮に検知閾値をVdidt_loadよりも小さく設定すると、通常スイッチング時に発生する検出電圧と区別がつかなくなってしまうので、検知閾値を通常スイッチング時に発生する検出電圧より小さく設定することができないからである。
【0041】
図4は、実施例1の検出電圧のイメージ図である。
図4において、縦軸は検出電圧、横軸は時刻を示す。
【0042】
本実施例の方法では、アーム短絡時の起電力20のVdidt_armは式(1)のようになり、電磁結合された高電位側検出用インダクタンスLdpと結合係数kpの値により検出電圧を変化させることができる。
【0043】
また、負荷短絡時において、dIsc_arm/dt>dIsc_load/dtのように負荷短絡時の負荷短絡電流Isc_loadの傾きが小さくなった場合では、出力側配線インダクタンスLacに電磁結合された出力側検出用インダクタンスLdacと結合係数kacにより発生する起電力も加わるため、検出できる起電力は
図2および
図3の比較例に比べて大きくなり、アーム短絡時のVdidt_armと同程度に負荷短絡時のVdidt_loadを大きく設定すれば、アーム短絡時と同様に検知閾値電圧以上の検出電圧を得ることが可能となる。これにより、負荷短絡時の短絡電流も検出可能となる。
本実施例の過電流検出回路3は、実施例1の構成に加え、低電位側配線インダクタンスLnに電磁結合された低電位側検出用インダクタンスLdnを有する。ここで、低電位側検出用インダクタンスLdnと低電位側配線インダクタンスLnの結合係数はknである。
本実施例によれば、アーム短絡時において、高電位側検出用インダクタンスLdpによる起電力に加え、低電位側検出用インダクタンスLdnの起電力も検出可能な電圧として加わるため、アーム短絡時の検出感度を増加させることができる。