(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147916
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】分枝状アラミド繊維、それを用いたシート、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20241009BHJP
D04H 1/4342 20120101ALI20241009BHJP
D21H 13/26 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
D01F6/60 371A
D04H1/4342
D21H13/26
D01F6/60 371F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060658
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐
(72)【発明者】
【氏名】水田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】赤松 哲也
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035BB15
4L035BB46
4L035DD13
4L035EE20
4L035FF05
4L047AA24
4L047AB02
4L047AB08
4L047CB01
4L047CC08
4L055AF35
4L055CB13
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA13
4L055EA16
4L055EA17
4L055EA32
4L055FA11
4L055FA13
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】特定の比表面積を有する分枝アラミド繊維と、それを用いた粉落ち性に優れ、且つ引張強度および破断伸度の高いシートを提供する。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維であって、BET比表面積が25m
2/g以上100m
2/g以下であり、分枝状の構造を有することを特徴とする分枝状アラミド繊維。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド繊維であって、BET比表面積が25m2/g以上100m2/g以下であり、分枝状の構造を有することを特徴とする分枝状アラミド繊維。
【請求項2】
前記全芳香族ポリアミド繊維が、全芳香族ポリアミド重合体溶液を水系凝固液に導入する処理を経て得られた含水成型物であり、前記繊維の水分率が5~99%である請求項1に記載の分枝状アラミド繊維。
【請求項3】
請求項1に記載の分枝状アラミド繊維を10~90%含むシート。
【請求項4】
請求項1に記載の分枝状アラミド繊維と、最大辺の平均長さが1nm~100μmである機能性材料とを含むシートであり、前記機能性材料を10~90%含むシート。
【請求項5】
請求項1に記載の分枝状アラミド繊維と、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーとを含むシート。
【請求項6】
請求項1に記載の分枝状アラミド繊維と、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーとを含むシートであり、引張強度が50MPa以上70MPa以下であるシート。
【請求項7】
弾性率が1000MPa以上10000MPa以下である請求項3~6に記載のシート。
【請求項8】
全芳香族ポリアミド繊維であって、BET比表面積が25m2/g以上100m2/g以下であり、分枝状の構造を有することを特徴とする分枝状アラミド繊維の製造方法であって、前記全芳香族ポリアミド繊維が、全芳香族ポリアミド重合体溶液を水系凝固液に導入する処理を経て得られた含水成型物であって、前記分枝状アラミド繊維が前記含水成型物を叩開することで得られたものである分枝状アラミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分枝状アラミド繊維とそれを用いてなるシート、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の比表面積は、繊維形状の微細性を示す重要な指標の一つである。比表面積の大きな繊維は、その微細な構造に由来して繊維同士で交絡する接触点が増大するため、例えば強度に優れた紙やシート状物を得やすいという特徴がある。また、繊維と機能性材料、例えばシリカエアロゲルや活性炭のような機能性材料粒子を複合した際に、機能性材料粒子との接触点が増大するため、比表面積の大きい繊維と機能性材料との複合体は、より多くの機能性材料を把持した複合体を得ることができ、また機能性材料の把持力を強く持たせることができるため、機能性材料の脱落を抑えるといった効果を得やすいという特徴がある。
【0003】
一方で、比表面積の大きさには実用上の上限が存在することも知られている。例えば、比表面積が過大である繊維を用いて、機能性粒子との複合体を作製しようとした場合、機能性粒子の大きさに対して繊維形状が過度に微細となってしまい、複合体としての形状を保つことができない場合が考えられる。また、例えば湿式抄紙法を用いてシート状物の複合体を得ようとする場合、過度に緻密な構造物となるために脱水性が悪く、作製に多大な時間を要し、生産性に課題を生じさせることとなる。適度な比表面積を有する繊維が求められており、その範囲は例えば25~100m2/g程度である。
【0004】
セルロース繊維等の天然繊維では、比表面積が25~100m2/g程度の繊維が存在することが知られている。しかし、天然繊維は耐熱性や難燃性などの物性面に不足があり、使用できない場面が多かった、それに対し、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維は、耐熱性や難燃性、強度などの物性面に優れた材料であることが知られている。ただし、化学構造に由来する剛直さや結晶性の高さゆえに、天然繊維レベルまで比表面積を向上させることが困難であった。例えば、全芳香族ポリアミド繊維の中で、比表面積の大きな繊維形状としてはパルプ形状があげられる。パルプ形状の全芳香族ポリアミド繊維を得る方法として、例えば、特許文献1で開示されたパラ型全芳香族ポリアミドパルプについての方法が挙げられる。特許文献1では、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を、アミド系溶媒および無機塩の含まれる膨潤液にて膨潤させた後に湿式粉砕する方法が開示されている。しかし。この特許文献1で開示された方法により得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維の比表面積は、実施例によると3.64g/m2であり、天然繊維と比べて著しく低いと言える。
【0005】
比表面積の大きな全芳香族ポリアミド繊維のその他の形状として、ナノファイバーが挙げられる。特許文献2では、全芳香族ポリアミド繊維を原料とし、当該繊維を親和性の高い溶媒中にて浸漬・膨潤し、さらに強塩基物質を添加することで水素結合部を切断し、その結果生成されるアラミドナノファイバーについて、開示がされている。特許文献2で開示された方法に従えば、繊維形状の微細性の高い全芳香族ポリアミド繊維を得ることができるが、アラミドナノファイバーを得たのちに行う強塩基物質の除去が不十分であった場合に、繊維の微細化がそのまま進行し、結果的に比表面積か過度に増大してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-196575号公報
【特許文献2】特開2022-17796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を解決すべくなされたものであり、その目的は、適度な比表面積を有する分枝状のアラミド繊維とそれを用いたシートを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、全芳香族ポリアミド繊維であって、BET比表面積が25m2/g以上100m2/g以下であり、分枝状の構造を有することを特徴とする分枝状アラミド繊維は、上記課題を解決するものであることを見出した。
【0009】
また、前記全芳香族ポリアミド繊維は、全芳香族ポリアミド重合体溶液を水系凝固液に導入する処理を経て得られた含水成型物であり、前記繊維の水分率が5~99%である分枝状アラミド繊維であっても良い。
【0010】
さらに、前記分枝状アラミド繊維を10~90%含むシートであってもよい。
前記シートは、前記分枝状アラミド繊維と、最大辺の平均長さが1nm~100μmである機能性材料とを含むシートであり、前記機能性材料を10~90%含むシートであってもよい。
【0011】
あるいは、前記シートは、前記分枝状アラミド繊維と、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーとを含むシートであってもよい。
あるいは、前記シートは、前記分枝状アラミド繊維と、平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーとを含むシートであり、引張強度が50MPa以上70MPa以下であるシートであってもよい。
あるいは、前記シートは、弾性率が1000MPa以上10000MPa以下であってもよい。
【0012】
そして、全芳香族ポリアミド繊維であって、BET比表面積が25m2/g以上100m2/g以下であり、分枝状の構造を有することを特徴とする分枝状アラミド繊維の製造方法であって、前記全芳香族ポリアミド繊維が、全芳香族ポリアミド重合体溶液を水系凝固液に導入する処理を経て得られた含水成型物であって、分枝状アラミド繊維が前記含水成型物を叩開することで得られたものである分枝状アラミド繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
上記により、比表面積の高い分枝状のアラミド繊維とそれを用いたシートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の分枝状アラミド繊維の典型例を示したものである。
【
図2】アラミドナノファイバーの構造観察画像を示した一例である。
【
図3】平均繊維径算出用に、
図2を拡大した構造観察画像を示した一例である。
【
図4】平均繊維径の算出方法に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0016】
<分枝状アラミド繊維>
本発明の分枝状アラミド繊維は、BET比表面積が25m2/g以上100m2/g以下(好ましくは30m2/g以上100m2/g以下、より好ましくは30m2/g以上65m2/g以下、さらに好ましくは40m2/g以上60m2/g以下)である。BET比表面積が上記下限より小さいとその他の機能性材料(例えば、アラミドナノファイバーなど)と交絡できる表面積が低くなることで、その他の機能性材料を把持する能力が不足することとなり、好ましくない。
【0017】
また、本発明の分枝状アラミド繊維は、全芳香族ポリアミド繊維である。全芳香族ポリアミド繊維としては、パラ型全芳香族ポリアミド(ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-ベンズアミド、ポリ-p-アミドヒドラジド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミドなど)、メタ型全芳香族ポリアミド(ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドなど)、パラ型全芳香族ポリアミドとメタ型全芳香族ポリアミドの共重合体が挙げられ、高弾性かつ高強度であることからパラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0018】
本発明の分枝状アラミド繊維は、分枝状の構造を有している繊維である。本発明の分枝状アラミド繊維は、構成成分が多く凝集して成る幹部分と、そこから分枝した枝部分からなる。本発明の分枝状アラミド繊維はさらに、扁平に開繊され流線状に構成成分が並んだ部分を一部に含んだ構造を有していても良い。
図1は本発明の繊維の典型例を示したものである。
【0019】
<含水成型物>
本発明における含水成型物とは、例えば、WO2004/099476A1、特公昭35-11851号公報、特公昭37-5732号公報などに記載されているような、有機系高分子重合体溶液を、該高分子重合体溶液の凝固液と剪断力とが存在する系において混合するなどの方法より作製される、微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、ランダムにフィブリル化した微小短繊維、または粒状の粒子状物を指す。ここで非晶質とは一般に水素結合に基づく結晶構造を形成する前の構造物を指す。さらに非結晶構造中に水分が含まれたものを含水成型物と総称する。一般にポリマーは凝固後、乾燥や延伸することにより結晶化が進行するが、凝固ポリマー中にある程度の水を含むことによりその結晶化が抑制され、それゆえ該含水成型物の結晶化度は含水率とある程度相関しているといえる。一概には言えないが、含水率が高いほど結晶化度は低く、含水率が低いほど結晶化度は高いと推定される。低結晶化度であるほど柔軟であり、かつアラミドナノファイバーなど他の繊維材料との絡み合いによる把持能力(バインダー的な特性)を有するものとなる。
【0020】
また、乾燥工程等を経て該含水成型物の水が除去された場合、ポリマーの結晶化が進行することにより、再びポリマー中へ大量の水が存在することが困難となり、その結果、本発明で期待されるような、バインダー的な特性は示せず、高強度が発現しないため好ましくない。
【0021】
さらに該含水成型物中に水分が存在することにより、ポリマーの結晶化が抑制されてポリマー自体があまり剛直にならずに柔軟であり、この状態で抄造等によりシート状物を得た後、乾燥や熱プレスを行った場合、シート状物中の含水成型体から水が除去されてポリマーの結晶化が進行し、且つその過程で平滑に変形するために、その結果として得られたシートに高強度が発現するという効果も考えられる。
【0022】
以上のことから、該含水成型物の水分率としては、5~99%であることが好ましく、5%未満では結晶化度が高くなり、本発明の高強度は得られない。また99%より大きい場合、水分がほとんどで効率が悪くなり好ましくない。より好ましくは10%以上99%以下、最も好ましくは20%以上99%以下である。
【0023】
また、本発明の該含水成型物は、全芳香族ポリアミド繊維である。全芳香族ポリアミド繊維としては、パラ型全芳香族ポリアミド、メタ型全芳香族ポリアミド、パラ型全芳香族ポリアミドとメタ型全芳香族ポリアミドの共重合体が挙げられ、高弾性かつ高強度であることからパラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0024】
なお、該含水成型物を得るための全芳香族ポリアミド重合体溶液の原料となる全芳香族ポリアミドは、バージン品でなくとも、例えば使用済み製品のリサイクルにより得られた全芳香族ポリアミドが原料であっても良い。
【0025】
<シート>
本発明において、上述した分枝状アラミド繊維を含むシートを形成することができる。かかるシートは粉落ち性(粉落ち防止性)に優れ、且つ引張強度や破断伸度が良好である。シートの引張強度は30MPa以上70MPa以下が好ましく、より好ましくは40MPa以上70MPa以下、さらに好ましくは45MPa以上70MPa以下、特に好ましくは55MPa以上70MPa以下である。引張強度が上記上限を超えると、剛直さが増し、柔軟性を損なう場合がある。
【0026】
シートの破断伸度は、5%以上25%以下が好ましく、より好ましくは8%以上22%以下、さらに好ましくは10%以上20%以下、特に好ましくは10%以上15%以下である。
【0027】
シートの引張弾性率は、1000MPa以上10000MPa以下が好ましく、より好ましくは1000MPa以上5000MPa以下、さらに好ましくは1000MPa以上2000MPa以下、特に好ましくは1500MPa以上2000MPa以下である。
【0028】
本発明におけるシートは、例えば、湿式抄紙法を用いて、分枝状アラミド繊維のみや、分枝状アラミド繊維と機能性材料(例えば、アラミドナノファイバー)を任意の割合で混抄し、作製されたものが挙げられるが、これに限定されない。
【0029】
また、本発明の機能性材料は、その最大辺の平均長さが1nm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは1nm以上50μm以下、さらに好ましくは1nm以上10μm以下、特に好ましくは100nm以上10μm以下である。機能性材料は、その形状は球状、棒状、円柱、不定形等のいずれの形態であっても構わない。例えば、アラミドナノファイバーのような縦横比(アスペクト比)が規定されるような棒状の形状であっても、シリカエアロゲルのような球状のものであっても、活性炭のような不定形なものであってもよい。分枝状アラミド繊維同士が、その枝部分同士を交絡することでネットワーク構造がとられるが、そのネットワーク構造の自由度は高く、機能性材料の形状に十分追従しうるため、機能性材料に対し強い把持力(バインダー性)を示す。また、機能性材料は上記した単一の材料を使用してもよく、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
本発明の分枝状アラミド繊維がさらに、扁平に開繊され流線状に構成成分が並んだ部分を一部に含んだ構造であれば、この構造部分が機能性材料を支える受け皿のような働きをすることができ、把持力はさらに向上し、すなわち粉落ち性が改善される。
【0031】
すなわち、本発明のシートは、上述した分枝状アラミド繊維と、機能性材料として平均繊維径が100nm以下のアラミドナノファイバーとを含んだシートであってもよく、その場合、かかるシートは粉落ち性に優れ、且つ引張強度や破断伸度が特に良好である。シートの引張強度は50MPa以上70MPa以下が好ましく、より好ましくは55MPa以上70MPa以下、さらに好ましくは60MPa以上70MPa以下である。シートの破断伸度は、5%以上25%以下が好ましく、より好ましくは8%以上22%以下、さらに好ましくは10%以上20%以下、特に好ましくは10%以上15%以下である。
【0032】
アラミドナノファイバーを含有したシートは、強度、弾性、熱安定性等に優れていることから、機能性材料として使用することで各種用途への活用ができる。特に本発明のように分枝状アラミド繊維と、機能性材料としてのアラミドナノファイバーを含むシートは、引張強度や弾性率等に優れており、例えば、スピーカーの振動板や、電子材料の分野等への展開が期待される。
【0033】
<アラミドナノファイバー>
本発明に使用されるアラミドナノファイバーは、平均繊維径が100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは25nm以下である。平均直径の下限は1nm以上、好ましくは3nm以上であることが好ましい。また、アラミドナノファイバーは500nm以上の直径のものを有さないことが好ましい。平均繊維径が100nmを超えると、ナノファイバーの特徴である高い比表面積が発現しにくくなり、ナノファイバー同士の交絡密度低下によりシートの製膜性や力学物性が低下する可能性がある。
【0034】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、繊維長/繊維径で表されるアスペクト比が好ましくは10以上1,000以下であり、より好ましくは10以上500以下であり、さらに好ましくは10以上100以下である。アスペクト比が10未満であると、繊維の交絡構造が発現しにくく、それゆえに期待される特性発現が困難になることがある。またアスペクト比が1,000を超えると、シート作製時の調製する分散液や離解液の粘度が非常に高くなり、作製が困難となることがある。
【0035】
また、本発明におけるアラミドナノファイバーは全芳香族ポリアミドからなる繊維であり、全芳香族ポリアミドとしては、パラ型全芳香族ポリアミド、メタ型全芳香族ポリアミド、パラ型全芳香族ポリアミドとメタ型全芳香族ポリアミドの共重合体が挙げられ、高弾性かつ高強度であることからパラ型全芳香族ポリアミドであることが好ましい。
【0036】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、全芳香族ポリアミド繊維を原料とし、当該繊維を親和性の高い溶媒中にて浸漬・膨潤し、さらに強塩基物質を添加することで水素結合部を切断し、その結果生成される。本発明で好ましく用いることのできる芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基がアミド結合により連結されたポリマーであって、芳香族基には2個以上の芳香環が存在してもよく、その芳香環は直接結合していても、酸素や硫黄を介して結合していてもよい。また、2価の芳香族基の水素原子は、ハロゲン化物、低級アルキル基、フェニル基で置換されていてもよい。また、アラミドナノファイバー生成時に使用する溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチル―2-ピロリドンなどが挙げられる。アラミドナノファイバー生成時に使用する強塩基物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0037】
本発明におけるアラミドナノファイバーは、具体的に全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)繊維またはパルプをアルカリ性に調整したジメチルスルホキシド中に浸漬することで製造することができる。
【0038】
全芳香族ポリアミド(例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド)は紡糸溶液中で液晶構造のドメインを形成し、キャピラリーより吐出した後、紡糸溶媒を水洗することにより得られる。得られた繊維を前記手法により繊維を構成する液晶ドメイン間の弱い結合をアルカリ条件により切断した後、得られた繊維を相溶性の高い溶媒中に遊離させることで、高弾性かつ高強度の切断された繊維を得ることができる。次いで、得られた切断された繊維を分散溶媒である貧溶媒(水、アルコール、アセトンなど)に投入することでアラミドナノファイバーを単離することが可能である。
【0039】
本発明におけるアラミドナノファイバーの原料となる全芳香族ポリアミド繊維としては、パラ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリーp-フェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「トワロン」(商標名)、東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」(商標名)など)や、コパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「テクノーラ」(商標名)など)が挙げられ、メタ型全芳香族ポリアミドを用いた繊維としては、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド繊維(市販品では、帝人株式会社製「コーネックス」(商標名)、デュポン社製「ノーメックス」(商標名)など)が挙げられるが、これに限定されない。なお、アラミドナノファイバーを得るための原料となる全芳香族ポリアミド繊維は、バージン品でなくとも、例えば使用済み製品のリサイクルにより得られた全芳香族ポリアミド繊維が原料であっても良い。
【0040】
本発明により得られた分枝状アラミド繊維及びシートは、産業資材分野、電気電子分野、農業資材分野、光学材料分野、航空機・自動車・船舶分野などをはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。例えば、産業資材分野としては樹脂補強材、機能紙、紙の補強材、増粘剤、増ちょう剤、フィルター、塗料、スピーカーの振動板、電気電子分野としては、複合紙構造体による電材分野、リチウム二次電池やキャパシタに向けたセパレータ、電極シート、電極バインダーなどが挙げられるが、これに限定されない。
【実施例0041】
以下、実施例及び比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
【0042】
<平均繊維径>
走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、品盤:JSM-6330F)を用い、サンプルの構造を観察した。50,000倍の倍率設定で観察した画像から、横1,800nm~2,000nm、縦1,200nm~1,500nmの画像領域を選択し、当該画像領域をさらに縦に4分割、横に4分割して得られる計16箇所のグリッド領域A1-D4を定義し、各グリッド領域内に存在するサンプルを1点選択し、選択したサンプルの繊維径を画像上で計測した平均値を平均繊維径の平均長さとして採用した。(
図3、4参照)
【0043】
<機能性材料の最大辺の平均長さ>
透過型電子顕微鏡(FEI社製、品番:TECNAI 12 BIO TWIN)を用い、サンプルの構造を観察した。観察するサンプル同士が重なり、最大辺長さを測定できないことを防ぐため、サンプルを溶媒で十分希釈し、フィルム上に滴下したのちに乾燥させて観察用薄片を得た。これを100倍の倍率設定で観察した画像から、横1.0mm~1.2mm、縦0.8mm~1.0mmの画像領域を選択し、当該画像領域をさらに縦に4分割、横に4分割して得られる計16箇所のグリッド領域A1-D4を定義し、各グリッド領域内に存在するサンプル(機能性材料)を1点選択し、選択したサンプルの最大辺の長さを画像上で計測した平均値を最大辺の平均長さとして採用した。
【0044】
<引張試験>
本発明で得られたシートを幅10mmの短冊状に切断した以外は、JIS P 8113(2006)に準拠した試験方法で引張試験を実施した。引張試験機としては、テンシロン万能材料試験機(RTFシリーズ)を使用し、引張強度、引張弾性率、破断伸度を測定した。
【0045】
<比表面積>
得られた繊維を凍結乾燥し、比表面積測定を行うためのサンプルを得た。流動式比表面積自動測定装置(株式会社島津製作所製、FlowSorbIII)を用い、得られたサンプルの比表面積を測定した。
【0046】
<粉落ち性>
湿式抄紙法を用いて、繊維と機能性粒子を任意の割合で混抄し、得たシートをオーブンで乾燥させた。乾燥したシートの長辺部分の二点をクリップで固定し、1分間振動させた。振動前後における重量変化を機能性粒子の脱落量と定義し、粉落ち性の評価とした。
【0047】
[実施例1]
特許4852328号に記載の方法に則って、パラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる含水成型物を得た。この含水成型物に水を加えて1重量%となるように調製し、解繊し、含水成型物離解液を得た。この離解液を、石臼式リファイナー(増幸産業株式会社製、ハイパーマスコロイダーMKZA-20JA)で叩解し、繊維(Refined pulp-A-1)を得た。叩開はクリアランスを100μmとし、リファイナー回転数を1,500rpmに設定し、3回叩開処理を施した。この繊維(Refined pulp-A-1)の比表面積を測定した。叩解していない含水成型物である比較例2よりも高い比表面積を有する繊維を得られたことが確認された。また、叩解していないアラミドパルプである比較例3、叩解したアラミドパルプである比較例4よりも高い比表面積を有する繊維であることが確認された。評価した結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様にして、解繊した含水成型物離解液を得た。この離解液を、高圧ホモジナイザー(コスにじゅういち社製、N-2000 110)で叩解し、繊維(Refined pulp-A-2)を得た。叩開はクリアランスを70μm、圧力を150MPaに設定し、3回叩開処理を施した。この繊維(Refined pulp-A-2)の比表面積を評価した。叩解していない含水成型物である比較例2よりも高い比表面積を有する繊維を得られたことが確認された。また、叩解していないアラミドパルプである比較例3よりも高い比表面積を有する繊維であることが確認された。評価した結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
帝人アラミド社製のトワロン(登録商標)パルプに水を加えて1重量%となるように調製し、解繊し、トワロンパルプ離解液を得た。この離解液を、石臼式リファイナー(増幸産業株式会社製、ハイパーマスコロイダーMKZA-20JA)で叩解し、繊維(Refined pulp-B)を得た。叩開はクリアランスを100μmとし、リファイナー回転数を1,500rpmに設定し、3回叩開処理を施した。この得られた繊維(Refined pulp-B)の比表面積を評価した結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
特開2022-17796号に記載の方法の通りにて、アラミドナノファイバーを単離した。このアラミドナノファイバーの平均繊維径は42nm、最大辺の平均長さは、3.0μmであった。このアラミドナノファイバーに水を加えて1重量%となるように調製し、分散し、アラミドナノファイバー離解液を得た。この離解液を、石臼式リファイナー(増幸産業株式会社製、ハイパーマスコロイダーMKZA-20JA)で叩解し、得られた繊維(ANF)の比表面積を評価した結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
特許4852328号に記載の方法に則って得られた、パラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる含水成型物(pulp-A)の比表面積を評価した結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
既存のアラミド繊維パルプの一例として、帝人アラミド社製のトワロン(登録商標)パルプ(Pulp-B)の比表面積を評価した結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
[実施例4]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシンを用いた湿式抄紙法により、実施例1で得た繊維(Refined pulp-A-1)を75重量%、機能性材料(粒子)として活性炭粒子を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。なお、活性炭粒子の最大辺の平均長さは、7.5μmであった。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、粉落ち性を評価した。活性炭粒子の脱落は確認されなかった。評価した結果を表2に示す。
【0055】
[実施例5]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシンを用いた湿式抄紙法により、実施例3で得た繊維(Refined pulp-B)を75重量%、機能性材料(粒子)として活性炭粒子を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。なお、活性炭粒子の最大辺の平均長さは、7.3μmであった。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、粉落ち性を評価した。活性炭粒子の脱落は確認されなかった。評価した結果を表2に示す。
【0056】
[比較例4]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシンを用いた湿式抄紙法により、比較例2の繊維(pulp-A)を75重量%、機能性材料(粒子)のモデルとして活性炭粒子を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。なお、活性炭粒子の最大辺の平均長さは、7.6μmであった。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、粉落ち性を評価した。活性炭粒子の脱落が確認された。
【0057】
[比較例5]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシンを用いた湿式抄紙法により、比較例3の繊維(pulp-B)を75重量%、機能性材料(粒子)のモデルとして活性炭粒子を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。なお、活性炭粒子の最大辺の平均長さは、7.4μmであった。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、粉落ち性を評価した。活性炭粒子の脱落が確認された。
【0058】
【0059】
[実施例6]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、実施例1で得た繊維(Refined pulp-A-1)を25重量%、比較例1で得たアラミドナノファイバー(ANF)を75重量%となるように混抄し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。比較例7に示したアラミドナノファイバー(ANF)を100重量%含むシートよりも高い引張強度を示し、実施例1で得られた繊維はアラミドナノファイバーを含有したシートの引張強度を向上させうる支持体となることが確認された。評価した結果を表3に示す。
【0060】
[実施例7]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、実施例1で得た繊維(Refined pulp-A-1)を75重量%、比較例1で得たアラミドナノファイバー(ANF)を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。比較例7に示したアラミドナノファイバー(ANF)を100重量%含むシートよりも引張強度はやや低い値を示したが、破断強度について大きい向上が確認された。実施例1で得られた繊維はアラミドナノファイバーを含有したシートの破断伸度を向上させうる支持体となることが確認された。評価した結果を表3に示す。
【0061】
[実施例8]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、実施例3で得た繊維(Refined pulp-B)を75重量%、比較例1で得たアラミドナノファイバー(ANF)を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。比較例7に示したアラミドナノファイバー(ANF)を100重量%含むシートよりも高い引張強度を示し、実施例3で得られた繊維はアラミドナノファイバーを含有したシートの引張強度を向上させる支持体であることが確認された。評価した結果を表3に示す。
【0062】
[実施例9]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、実施例1で得た繊維(Refined pulp-A-1)を100重量%となるように抄造し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。評価した結果を表3に示す。
【0063】
[比較例6]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、実施例3で得た繊維(Refined pulp-B)を100重量%となるように抄造し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。評価した結果を表3に示す。
【0064】
[比較例7]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、比較例1で得た繊維(ANF)を100重量%となるように抄造し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。評価した結果を表3に示す。
【0065】
[比較例8]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、比較例2で得た繊維(pulp-A)を100重量%となるように抄造し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。比較例7で示したシートよりも低い引張強度を示した。評価した結果を表3に示す。
【0066】
[比較例9]
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシン(250mm角、No.2555)を用いた湿式抄紙法により、比較例2で得た繊維(pulp-A)を75重量%、比較例1で得たアラミドナノファイバー(ANF)を25重量%となるように混抄し、シートを作製した。得られたシートはオーブンで乾燥させたのちに、引張試験にて評価した。比較例7に示したアラミドナノファイバー(ANF)を100重量%含むシートよりも低い引張強度を示し、比較例2で得られた繊維はアラミドナノファイバーを含有したシートの引張強度を低下させる支持体であることが確認された。評価した結果を表3に示す。
【0067】