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特開2024-147937パーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物、表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147937
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】パーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物、表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/335 20060101AFI20241009BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08G65/335
C09K3/18 102
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060696
(22)【出願日】2023-04-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】596024921
【氏名又は名称】株式会社ハーベス
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】新井 椋介
(72)【発明者】
【氏名】須田 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】木下 博文
【テーマコード(参考)】
4H020
4J005
【Fターム(参考)】
4H020AA01
4H020BA14
4J005AA00
4J005AA09
4J005AB00
4J005BA00
4J005BD07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】表面処理剤に用いた場合に基材表面に撥水撥油性、耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、離型性、耐熱性に優れた硬化膜を形成可能なパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、下記式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物であって、
式(1)
A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OR2-z(OH)
式(1)において、Aは、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、Rfは、パーフルオロポリエーテル基であり、Lは連結基である、化合物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物であって、
A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OR2-z(OH) (1)
前記一般式(1)において、
Aは、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、
Rfは、下記一般式(2)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO) (2)
前記一般式(2)において、
p,q,r,s,tは、それぞれ独立に0~100の整数であり、p+q+r+s+tは、10~100の整数であり、
Lは、単結合、C(=O)NR、CHO又はCHであり、Rは、水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1~5のアルキル基、又はアリール基であり、
xは、1~2の整数であり、
yは、1~4の整数であり、
zは、0~2の整数であり、
は、炭素数1~4の炭化水素基、又はSiR であり、
は、炭素数1~4の炭化水素基である、
化合物。
【請求項2】
前記一般式(2)において、pは1以上の整数であり、qは1以上の整数である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、
Aは、CF基であり、
Rfは、下記一般式(2-1)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO) (2-1)
Lは、CHO又はCHであり、
前記一般式(2-1)において、 p,qは、それぞれ独立に1~30の整数であり、
p+qは、10~50の整数である、
請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
数平均分子量は1500超である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の化合物と、揮発性溶媒と、を含有する表面処理剤。
【請求項6】
基材と、前記基材の表面に請求項5の表面処理剤の硬化膜を備える物品。
【請求項7】
前記基材は、金属である、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記基材は、金属酸化物である、請求項6に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物、表面処理剤、及び該表面処理剤で処理された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素化合物は、その表面自由エネルギーが非常に小さいために、基材の表面処理に用いると、優れた撥水撥油性、防汚性、離型性、潤滑性などを提供し得ることが知られている。表面処理用途に用いる場合には、優れた撥水撥油性、耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、及びその耐久性が要求される。金属基材表面の改良技術としては、ホスホネート化合物を用いる表面処理技術が知られており、ステンレス等の意匠部品や自動車部品、家電製品、内装建材などの防汚処理用途、金型離型剤としての用途が挙げられる。
【0003】
上記要求を満たすための表面処理剤としては、例えば下記式(I)の含フッ素ポリエーテルホスホン酸エステル化合物が提案されている(特許文献1)。
(RO)(RO)P(O)(CHCF(CF)〔OCFCF(CF)〕O(CF
O〔CF(CF)CFO〕CF(CF)(CHP(O)(OR)(OR)・・・(I)
(ここで、R,R,R,Rは水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基またはこれらの基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されている基であり、a,b,c,d,eは2≦a+e≦8、b+d≦28、1≦c≦10を満たす整数であり、bおよびdは0であり得る)で表される含フッ素ポリエーテルホスホン酸エステル化合物。
【0004】
より撥水撥油性、指紋汚れ除去容易性、耐摩耗性を向上させた表面処理剤として、下記の提案がされている(特許文献2)。当該表面処理剤は、ペルフルオロポリエーテル基含有ホスフェート化合物を含む、基材用の表面処理剤であって、前記ペルフルオロポリエーテル基含有ホスフェート化合物が下式(II)で表される化合物である。
-(C2mO)n1-A ・・・(II)
式中、
は、末端に1個以上のリン酸基を有する一価の有機基であり、
は、RF1-O-、D-Q-O-CH-またはA-O-であり、
ここで、RF1は、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基であり、
は、CF-またはCF-O-であり、
は、水素原子を1個以上含む炭素数1~20のフルオロアルキレン基、水素原子を1個以上含み、炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~20のフルオロアルキレン基、炭素数1~20のアルキレン基、または炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する炭素数2~20のアルキレン基であり、
は、末端に1個以上のリン酸基を有する一価の有機基であり、
mは1~6の整数であり、
n1は2~200の整数であり、
(C2mO)n1は、下式(2-1-a)で表される基である。
(CFCFO)n4(CFCFCFCFO)n5 ・・・(2-1-a)
式中、
n4は1以上の整数であり、
n5は1以上の整数であり、
ただし、n4+n5は2~200の整数であり、
(CFCFO)および(CFCFCFCFO)は交互に配置されている。
【0005】
また、金属の表面処理剤として、下記式(III)の化合物を用いたもの開示がされている(特許文献3)。
[R-O-CFY-L-O]P(=O)(O3-m(III)
〔式中、Lは(a)-CH-(OCHCH)n-(nは0~3の整数)および(b)-CO-NR'-(CH-(R'はHまたはC1-4アルキル、qは1~4の整数)から選択され、mは1、Yは-Fまたは-CF、Z+はH+、M+(Mはアルカリ金属)、N(R)+(Rは互いに同一または異なりHまたはC1-6アルキル)、Rはポリペルフルオロアルキレンオキシド鎖〕
【0006】
また、より撥水撥油性、指紋汚れ除去性、耐摩耗性を向上させた表面処理剤として、おおよそ下記の提案がされている。(特許文献4)
A-Rf-Q-Q-(CH-P(=O)(OX) (IV)
(式(IV)中、Aは-CF基、-CFCF基又は下記式(IV-2)で示される基であり、Rfは-(CF-(OCF(OCFCF(OCFCFCF(OCFCFCFCF(OCF(CF)CF-O(CF-であり、dはそれぞれ独立に0~5の整数であり、p、q、r、s、tはそれぞれ独立に0~200の整数であり、かつ、p+q+r+s+tは3~200であり、括弧内に示される各単位はランダムに結合されていてよい。
は2価の連結基であり、
は両末端にケイ素原子を有する2価の連結基であり、
Xはそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属原子、非置換若しくは置換の炭素数1~5のアルキル基、アリール基又はJSi-(Jは独立に非置換若しくは置換の炭素数1~5のアルキル基又はアリール基である。)で示される1価の基であり、aは2~20の整数である。)
-Q-Q-(CH-P(=O)(OX) (IV-2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4245050号公報
【特許文献2】特許6769304号公報
【特許文献3】特許3574222号公報
【特許文献4】特許6488890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、撥水・撥油性又は耐熱性が十分ではない場合があった。例えば、特許文献1の上記式(I)で表される化合物は、撥水撥油性が不十分であることがわかった。また、特許文献2の上記式(II)、又は、特許文献3の式(III)で表される化合物は、耐熱性が乏しいことがわかった。また、特許文献4の式(IV)で表される化合物は、合成工程が煩雑であることがわかった。
【0009】
より具体的には、式(I)で表される化合物は、フッ素鎖部分の側鎖に嵩高いCF基を有しており、動摩擦係数が大きく、防汚性、指紋汚れ除去容易性が劣ることがわかった。また、分子の両末端にホスホネート官能基を有するため、分子運動性が低下し、撥水撥油性、耐摩耗性が不十分であることがわかった。
また、式(II)、(III)で表される化合物は、フッ素鎖とホスホネート官能基がリン酸エステル結合(C-O-P)を介している。本結合は結合エネルギーが小さく、加水分解が起こりやすく、熱的安定性、化学的安定性が乏しいことがわかった。
また、式(IV)で表される化合物は、フッ素鎖とホスホネート官能基間にケイ素原子を含有しており、合成工程が煩雑であることが製造上問題であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面処理剤に用いた場合に基材表面に撥水撥油性、耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、離型性、耐熱性に優れた硬化膜を形成可能なパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物を提供する。また、基材表面に撥水撥油性及び耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、離型性、耐熱性に優れた硬化膜を形成可能な表面処理剤及び当該表面処理剤の硬化膜を備える物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造を有するパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物を表面処理剤に用いた場合に基材表面に撥水撥油性及び耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、離型性、耐熱性に優れた被膜を形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
以下の発明が提供される。
[1]下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物であって、
A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OR2-z(OH) (1)
前記一般式(1)において、
Aは、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、
Rfは、下記一般式(2)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO) (2)
前記一般式(2)において、
p,q,r,s,tは、それぞれ独立に0~100の整数であり、p+q+r+s+tは、10~100の整数であり、
Lは、単結合、C(=O)NR、CHO又はCHであり、Rは、水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1~5のアルキル基、又はアリール基であり、
xは、1~2の整数であり、
yは、1~4の整数であり、
zは、0~2の整数であり、
は、炭素数1~4の炭化水素基、又はSiR であり、
は、炭素数1~4の炭化水素基である、
化合物。
[2]前記一般式(2)において、pは1以上の整数であり、qは1以上の整数である、[1]に記載の化合物。
[3]前記一般式(1)において、
Aは、CF基であり、
Rfは、下記一般式(2-1)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO) (2-1)
Lは、CHO又はCHであり、
前記一般式(2-1)において、 p,qは、それぞれ独立に1~30の整数であり、
p+qは、10~50の整数である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]数平均分子量は1500超である、[1]~[3]の何れか1つに記載の化合物。
[5][1]~[4]の何れか1つに記載の化合物と、揮発性溶媒と、を含有する表面処理剤。
[6]基材と、前記基材の表面に[5]の表面処理剤の硬化膜を備える物品。
[7]前記基材は、金属である、[6]に記載の物品。
[8]前記基材は、金属酸化物である、[6]に記載の物品。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0014】
1.パーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物
本発明の一実施形態に係る化合物(以下、「化合物P」とも称する)は、下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物である。以下一般式(1)中の各要素について説明する。
A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OR2-z(OH) (1)
【0015】
Aは、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基である。パーフルオロアルキル基は、撥水性の観点から直鎖構造であることが好ましい。直鎖状のパーフルオロアルキル基は、例えば、CF基(CF-)、CFCF基(CFCF-)、CFCFCF基(CFCFCF-)、又はCFCFCFCF基(CFCFCFCF-)である。パーフルオロアルキル基は、好ましくはCF基(CF-)である。
【0016】
Rfは、下記一般式(2)で表される構造である。
(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)(CF(CF)CFO) (2)
【0017】
式(2)の構造において、括弧内の各結合単位、すなわち"CFO"、"CFCFO"、"CFCFCFO"、"CFCFCFCFO"、及び"CF(CF)CFO"のうちのRfに含まれる1種以上の結合単位は、Rfにおける結合順に特に制限はなく、各結合単位が互いに規則性無くランダムに結合されていてもよく、所定の規則性を有する構造(例えば、交互に結合する構造、或いは結合単位の種類ごとのブロック構造等)を有していてもよい。括弧内の各結合単位は、好ましくはランダムに結合されている。これらの各結合単位がランダムに結合されている場合には、Rfは同種の結合単位が連続して繰り返している部分や連続していない部分等を含みうる。また、式(2)の構造の各結合単位に含まれるパーフルオロアルキレン基は、好ましくは炭素数が1~4であり、より好ましくは炭素数が1~2である。
【0018】
Rfとして式(2)で表される構造を有する場合には、潤滑性、防汚性、指紋汚れ除去容易性、離型性に優れる。構造とこれらの効果との関連性は未解明の部分はあるが、パーフルオロポリエーテル基が剛直なパーフルオロアルキレン基を運動性の高い酸素原子によって分断した柔軟な構造を有しているため、その表面自由エネルギーが小さくなっているためと推測される。なお、化合物Pとしては、分子の両末端にホスホネート官能基を有する構造は、分子運動性が低下し得ることから、耐摩耗性等の観点から好ましくない。
【0019】
一態様において、Rfを構成する結合単位は、好ましくは側鎖にCF基を有しない。例えば、式(2)の構造は、好ましくは結合単位として"CF(CF)CFO"を有しない(すなわち、tは0である)。フッ素鎖部分の側鎖に嵩高いCF基を有しない直鎖構造である場合、潤滑性、防汚性、指紋汚れ除去容易性、耐摩耗性が特に優れる。
【0020】
式(2)において、p,q,r,s,tは、それぞれ独立に0~100の整数であり、好ましくは1~30の整数である。式(2)において、好ましくは、pは1以上の整数であり、qは1以上の整数である。
【0021】
式(2)において、p+q+r+s+tは、10~100の整数であり、好ましくは10~60である。
【0022】
Rfは、防汚性の観点から、好ましくは下記一般式(2-1)で表される構造である。
(CFO)(CFCFO) (2-1)
【0023】
式(2-1)の構造において、括弧内の各結合単位は、Rfにおける結合順に特に制限はなく、各結合単位が互いに規則性無くランダムに結合されていてもよく、所定の規則性を有する構造(例えば、交互に結合する構造、或いは結合単位の種類ごとのブロック構造等)を有していてもよい。式(2-1)で表される構造のRfは、結合単位として"CFO"及び"CFCFO"を有し、これらの単位のみからなる。
【0024】
式(2-1)において、p,qは、それぞれ独立に1~30の整数であり、好ましくは5~25の整数である。
【0025】
式(2-1)において、p+qは、10~50の整数であり、好ましくは15~45の整数である。p+qが10未満の場合は、耐摩耗性、防汚性、離型性が劣る。p+qが50超の場合は、単位分子あたりに存在するホスホネート基の比率が少なくなり、基材表面への密着力が弱くなり、耐摩耗性が悪くなる、さらに、分子量が大きくなることによって、溶剤への溶解性が低くなり、また、他の成分を配合した場合の相溶性も悪くなる。
【0026】
Lは、単結合、C(=O)NR、CHO又はCHである。Lは、好ましくはCHO又はCHである。Lは、熱的安定性(耐熱性)、化学的安定性の観点からは、より好ましくはCHである。
【0027】
単結合は、隣接する構造単位間を直接に結合させ、Lが単結合の場合には式(1)において"-(CF-(CH-"となる。
【0028】
C(=O)NRの中のRは、水素原子、置換もしくは非置換の炭素数1~5のアルキル基、又はアリール基である。置換もしくは非置換の炭素数1~5のアルキル基は、直鎖、分岐又は環状のアルキル基であってよく、好ましくは直鎖上のアルキル基である。非置換の炭素数1~5のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、及びn-ペンチル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、及びtert-ペンチル基等の分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、及びシクロペンチル基等の環状アルキル基が挙げられる。
【0029】
xは、1~2の整数であり、好ましくは1である。
【0030】
yは、1~4の整数であり、好ましくは2又は3である。また、ホスホネート官能基がホスホネート結合(C-P)により結合しており、結合エネルギーが小さいリン酸エステル結合(C-O-P)により結合していないことから加水分解が起こりにくく、熱的或いは化学的な安定性が高い。
【0031】
zは、0~2の整数であり、硬化膜と基材の密着性の観点からは好ましくは2である。
【0032】
は、炭素数1~4の炭化水素基、又はSiR である。化合物PがRを複数有する場合には、複数のRは互いに異なっていてもよく同一であってもよい。また、SiR に含まれる複数のRは互いに異なっていてもよく同一であってもよい
【0033】
としての炭素数1~4の炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピル基、及びシクロブチル基等である。Rは、合成の容易性等の観点からは好ましくはメチル基である。Rとしての炭素数1~4の炭化水素基は、Rとしての炭素数1~4の炭化水素基と同じ選択肢からRとは独立して選択されてよい。Rは、合成の容易性等の観点からは好ましくはメチル基である。
【0034】
化合物Pの数平均分子量は、好ましくは1500超であり、より好ましくは1500超且つ5000以下である。1500以下の場合は、フッ素鎖が短いので撥水撥油性や離型性が劣る。また、5000以上の場合は官能基の含有率が少なくなるので密着性が弱くなり、耐摩耗性が悪くなる。
【0035】
<化合物Pの製造方法>
化合物Pは、例えば、出発原料として変性可能な官能基を末端に有するパーフルオロポリエーテル基含有化合物を用いて合成することができる。パーフルオロポリエーテル基含有化合物は、公知の方法(例えば、国際公開第2009-008380号、特許第6107659号公報)により製造することができる。出発原料としては、具体的には例えば、以下の[1a]~[1f]のパーフルオロポリエーテル基含有化合物を用いることができる。
[1a] A-O-Rf-(CF-C(=O)F
[1b] A-O-Rf-(CF-C(=O)OR (R:炭素数1~4の炭化水素)
[1c] A-O-Rf-(CF-C(=O)OH
[1d] A-O-Rf-(CF-CHOH
[1e] A-O-Rf-(CF-Br
[1f] A-O-Rf-(CF-I
【0036】
上記出発原料[1a]~[1f]の内いずれかを用い、公知の方法により、末端に不飽和基を有する化合物が得られる。例えば、出発原料[1d]を用い、塩基性化合物の存在下、臭化アリルを反応させることで下記の中間体[2d]が得られる。
[2d] A-O-Rf-(CF-L-(CH-CH=CH
【0037】
中間体[2d]から、公知の方法により、末端にホスホン酸エステル基を有する化合物が得られる。例えば、過酸化物の存在下、亜リン酸ジメチルを反応させることで下記の化合物[3d]が化合物Pとして得られる。
[3d] A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OCH
【0038】
さらに化合物[3d]のホスホン酸エステル基を、公知の方法でシリル化反応した化合物[4d-1]、又は脱アルキル化反応した化合物[4d-2]を化合物Pとして得ることができる。
[4d-1] A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OSiR
[4d-2] A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OH)
【0039】
2.表面処理剤
上記化合物Pは表面処理剤の成分として用いることができ、本発明の一実施形態に係る表面処理剤は、化合物Pと、揮発性溶媒と、を含有する組成物である。また、表面処理剤に含まれる化合物Pは、1種でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
表面処理剤は、表面処理剤の総量100質量%に対し、化合物Pを、好ましくは0.1~5質量%含み、より好ましくは0.1~2質量%含む。0.1質量%以上とすることで、十分な被膜の厚さとなり、初期撥水性(接触角)、耐候性および耐摩耗性において優れる。また、5質量%以下とすることで、被膜の膜厚が厚くなりすぎず塗り伸ばす際の作業性がよく、また塗膜の均一性や透明性が優れる。また、表面処理剤のコストを抑えられる。
【0041】
<揮発性溶媒>
揮発性溶媒は、化合物Pが可溶な溶媒であれば制限されないが、例えば、フッ素変性溶媒、非フッ素系溶媒、及びこれらの混合溶液である。
【0042】
フッ素変性溶媒としては、例えば、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロカーボン、パーフルオロアルキルアミン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロポリエーテル、ハイドロフルオロクロロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、フッ素変性芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0043】
非フッ素系溶媒としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサン、トルエン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素溶媒類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。
【0044】
これらの揮発性溶媒は、単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。これらの揮発性溶媒の中では、溶解性、濡れ性等の観点から、揮発性溶媒は、フッ素変性溶媒を含むことが好ましい。一態様においては、揮発性溶媒はフッ素変性溶媒である。
【0045】
また、揮発性溶媒は、必要に応じてフッ素変性溶媒と非フッ素系溶媒の混合液であってもよく、任意の割合で混合してもよい。揮発性溶媒は、例えば、フッ素変性溶媒と非フッ素系溶媒の合計100質量%中フッ素変性溶媒を50~100質量%含んでいてよい。
【0046】
<他の成分>
表面処理剤は、本発明の効果を損ねない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、ホスホネート基を有しないパーフルオロポリエーテル化合物及び触媒等が挙げられる。
【0047】
パーフルオロポリエーテル化合物としては、市販品のFOMBLIN M、FOMBLIN Y、FOMBLIN Z(ソルベイ・ソレクシス社製)、Krytox(デュポン社製)、デムナム(ダイキン工業社製)等のパーフルオロポリエーテルオイルが挙げられる。
【0048】
触媒としては、ホスホネート官能基の加水分解反応や該官能基と基材との縮合反応を促進する目的で添加されるものであり、酸触媒や塩基性触媒が挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、リン酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0049】
本発明の別の実施形態に係る表面処理剤は、化合物Pの中和塩と、水と、を含む組成物である。化合物Pは、中和塩として水溶液の形で表面処理剤に用いることができる。例えば、化合物Pを水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、酸化亜鉛、トリエチルアミン、モルホリン、トリエタノールアミン等と反応させて金属塩、アミン塩又はアンモニウム塩とすることにより用いることができる。また、表面処理剤に含まれる化合物Pの中和塩は、1種のみでも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、当該水溶液は、必要に応じてさらに水と相溶可能な有機溶媒、触媒、その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0050】
<表面処理剤の製造方法>
表面処理剤は、化合物Pを揮発性溶媒に溶解させることにより得られる。また、表面処理剤は、必要に応じて触媒等の他の成分を化合物Pとともに揮発性溶媒に溶解させることにより製造されてもよい。
【0051】
また、別の実施形態においては、化合物Pを金属塩、アミン塩又はアンモニウム塩とし、水に溶解させることにより得てもよい。
【0052】
3.物品
本発明の一実施形態に係る物品は、基材と、基材上に設けられた硬化膜を備える物品である。硬化膜は、上記表面処理剤を硬化させて得られる被膜である。硬化膜は、撥水性、撥油性を有する被膜である。硬化膜は、例えば、表面処理剤を基材表面に塗布し、硬化させたものである。
【0053】
基材の材料としては、無機材料又は有機材料が挙げられる。無機材料としては、金属、金属酸化物、単結晶材料、石、ガラス、及びこれらの複合材料が挙げられる。金属としては、例えば、鉄、鉄合金(ステンレス等)、アルミニウム、アルミニウム合金等である。金属酸化物としては、例えば、サファイヤなどが挙げられる。有機材料としては、樹脂等が挙げられる。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0054】
物品としては、処理対象とする基材(表面)が、硬化処理温度よりも高い耐熱温度を有するものであれば、特に限定されるものではない。硬化処理温度は、例えば、塗布された表面処理剤を効果処理するための温度である。物品としては、例えば、意匠部品、装飾品、調理器、水廻り品、建材、自動車、精密金型、スマートフォンやウェラブル端末、タブレット端末などのディスプレイ、眼鏡レンズや保護フィルムなどの光学部品、内視鏡などの医療機器等の物品である。
【0055】
<物品の製造方法>
上記表面処理剤を基材表面に塗布する塗布方法としては、手塗り法、ノズルフローコート法、ディッピング法、スプレー法、リバースコート法、フローコート法、スピンコート法、ロールコート法、真空蒸着法などの公知の方法が適宜採用され得る。
【0056】
また、基材と硬化被膜との接着強度を向上させる処理(前処理)を基材表面に予め行うこともできる。前処理としては、各種研磨液による研磨・洗浄・乾燥、酸性溶液または塩基性溶液による表面改質処理、プライマー処理、プラズマ照射、コロナ放電、高圧水銀灯照射等により、基材表面に活性基を発生させることが挙げられる。特に、プライマー処理は、基材上に活性基を形成させて行うことができ、表面処理剤を塗布する表面の活性基の数を増やすことができるため好ましい。
【0057】
次に表面処理剤を基材に塗布した後の処理について説明する。基材に表面処理剤を塗布後、室温硬化あるいは50~150℃で加熱硬化させることができる。なお、室温とは、一態様においては、例えば50℃未満(或いは10~30℃)を意味する。加熱することにより、化合物Pのホスホネート基と、基材表面に存在する水酸基等の結合性基とを、加熱処理を行わなかった場合よりもより強く結合させることにより、該基材表面に優れた耐久性を有する硬化膜を形成することができる。加熱は、常圧下、加圧下、減圧下、不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0058】
また、硬化膜の膜厚は、50nm以下が好ましく、2~20nmがより好ましく、4~15nmがさらに好ましい。
【0059】
余剰分が乾固物となって基材上に残留した場合、この余剰分を有機溶剤で濡らした紙タオルや布または乾いた紙タオルや布で払拭することにより硬化膜が形成された物品が得られる。
【0060】
<表面特性>
基材上に形成された表面処理剤の硬化膜は、好ましくは次の特性を備える。
【0061】
(接触角)
接触角計(NICK社製LSE-B100W)を用いて、2μLの液滴を発生させ、試験基板に対する接触角を測定する。測定は表面上の異なる5箇所にて行い、その平均値を接触角とする。
【0062】
水の接触角は、好ましくは110度(deg)以上であり、より好ましくは114度以上であり、さらに好ましくは115度以上である。
【0063】
ヘキサデカンの接触角は、好ましくは70度以上であり、より好ましくは72度以上であり、さらに好ましくは73度以上である。
【0064】
オレイン酸の接触角は、好ましくは76度以上であり、より好ましくは78度以上であり、さらに好ましくは79度以上である。
【0065】
(転落角)
接触角計(NICK社製LSE-B100W)を用いて、20μLの液滴を滴下した後、水平に設置した試験基板を徐々に傾け、液滴が転落し始めた時の試験基板と水平面との角度を測定する。測定は表面上の異なる5箇所にて行い、その平均値を転落角とする。
【0066】
水の転落角は、好ましくは20度(deg)以下であり、より好ましくは18度以下であり、さらに好ましくは16度以下である
【0067】
ヘキサデカンの転落角は、好ましくは15度以下であり、より好ましくは11度以下であり、さらに好ましくは9度以下である。
【0068】
オレイン酸の転落角は、好ましくは22度以下であり、より好ましくは21度以下であり、さらに好ましくは20度以下である。
【実施例0069】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
検討に用いた表面処理剤の成分であるホスホネート化合物1~7(化合物[1]~[7]とも称する)を以下に示す。なおホスホネート化合物1~5、7は以下に示す方法により合成し、ホスホネート化合物6は市販品を用いた。
ホスホネート化合物1:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(=O)(OH)
p/q≒0.9,p+q≒25
ホスホネート化合物2:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHCHCHCHP(=O)(OH)
p/q≒0.9,p+q≒25
ホスホネート化合物3:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(=O)(OH)
p/q≒0.9,p+q≒45
ホスホネート化合物4:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(=O)(OH)
p/q≒0.9,p+q≒15
ホスホネート化合物5:
(OH)(O=)PCHCHCHOCHCF(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(=O)(OH)
p/q≒0.9,p+q≒45
ホスホネート化合物6:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHO(CHCHO)P(=O)(OH)
Mn=2,400
ホスホネート化合物7:
CFCFCFCFO(CFCFO)CFCHCHCHP(=O)(OH)
【0071】
<合成例>
ホスホネート化合物1の合成
(工程1-1)
撹拌機、還流冷却器、温度計、乾燥窒素導入管、滴下ロートを取り付けた0.5Lフラスコに、水素化ナトリウム(4.2g)、メタキシレンヘキサフルオライド(100g)を混合し、氷浴下20分撹拌させた。次いで、下記式[1-1]で表されるアルコール(100g)、メタキシレンヘキサフルオライド(50g)を滴下し、室温で20分撹拌させた。次いで臭化アリル(21g)、メタキシレンヘキサフルオライド(50g)を滴下し、室温で1時間反応させた。次いで、60℃で1時間、80℃で1時間、100℃で4時間と順次反応させた。その後、反応生成物を冷やし、SV110(ソルベイ製フッ素系溶剤)50gを加え、ノルマルヘプタン10g、メタノール10gで洗浄し下層を分取した。本洗浄操作を4回行い、分取した下層の溶剤を留去することで、下記式[1-2]で表される無色透明液体101gを得た(収率99%)。
化合物[1-1]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOH
p/q≒0.9,p+q≒25
化合物[1-2]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCH=CH
【0072】
(工程1-2)
撹拌機、還流冷却器、温度計、乾燥窒素導入管を取り付けた0.2Lフラスコに、化合物[1-2](50g)、亜リン酸ジメチル(3.5g)、t-ブチルパーオキシオクトエート(1.4g)、メタキシレンヘキサフルオライド(50g)を混合し、80℃で7時間撹拌させた。反応液中の低沸点成分を留去することで、下記式[1-3]で表される無色透明液体47gを得た(収率90%)。
化合物[1-3]:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(O)(OCH
【0073】
(工程1-3)
撹拌機、還流冷却器、温度計、乾燥窒素導入管を取り付けた0.1Lフラスコに、化合物[1-3](30g)、ヨウ化トリメチルシリル(6.1g)、メタキシレンヘキサフルオライド(30g)を混合し、50℃で7時間撹拌させた。次いで、メタノール30gを加え、50℃で7時間撹拌させた。(工程1-1)と同様の精製操作を行うことで、下記式[1]で表される無色透明液体28gを得た(収率95%)。
化合物[1]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(O)(OH)
【0074】
NMR測定の結果は下記の通りである。なお、各シフト値が対応する構造を""で示す。
化合物[1]
H-NMR(CDCl,TMS,δ):1.9-2.0 (4H,m,CFCHOCH"CHCH"P(O)(OH)),3.8-3.9(4H,m, CF"CH"O"CH"CHCHP(O)(OH)
【0075】
ホスホネート化合物2の合成
(工程2-1)
撹拌機、還流冷却器、温度計、乾燥窒素導入管を取り付けた1Lフラスコに、[1-1]で表されるアルコール(200g)、トリフェニルホスフィン(46g)、四臭化炭素(58g)、イミダゾール(12g)、メタキシレンヘキサフルオライド(250g)、N,N'-ジメチルホルムアミド(250g)を混合し、100℃で24時間撹拌させた。(工程1-1)と同様の精製操作を行うことで、下記式[2-1]で表される淡黄色透明液体201gを得た(収率98%)。
化合物[2-1]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHBr
【0076】
(工程2-2)
撹拌機、還流冷却器、温度計、乾燥窒素導入管を取り付けた0.5Lフラスコに、[2-1]で表される化合物(100g)、アリルトリブチルスズ(15g)、アゾビスイソブチロニトリル(0.73g)、メタキシレンヘキサフルオライド(100g)を混合し、90℃で7時間撹拌させた。(工程1-1)と同様の精製操作を行った後、回収層をシリカゲルで処理し、濃縮することで、下記式[2-2]で表される無色透明液体74gを得た(収率75%)。
化合物[2-2]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHCHCH=CH
【0077】
(工程2-3)
化合物[2-2]を原料として、(工程1-2)と同様の方法で、下記式で表される化合物[2-3]を合成した。(無色透明液体、収率88%)
化合物[2-3]:
CFO(CFO)(CFCFO)CFCHCHCHCHP(O)(OCH
【0078】
(工程2-4)
化合物[2-3]を原料として、(工程1-3)と同様の方法で、下記式で表される化合物を合成した(無色透明液体、収率93%)。
化合物[2]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHCHCHCHP(O)(OH)
【0079】
NMR測定の結果は下記の通りである。なお、各シフト値が対応する構造を""で示す。
化合物[2]
H-NMR(CDCl,TMS,δ):1.8-2.0(6H,m,CFCH"CHCHCH"P(O)(OH))、2.1-2.3(2H,m,CF"CH"CHCHCHP(O)(OH)
【0080】
ホスホネート化合物3の合成
化合物[3-1]を原料として、(工程1-1)~(工程1-3)と同様の方法で反応させた。下記式で表される化合物[3]を合成した(無色透明液体、総収率90%)。得られた化合物の構造及び純度はH-NMR測定により確認した。
化合物[3-1]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOH
p/q≒0.9,p+q≒45
化合物[3]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(O)(OH)
【0081】
ホスホネート化合物4の合成
化合物[4-1]を原料として、(工程1-1)~(工程1-3)と同様の方法で反応させた。下記式で表される化合物[4]を合成した(無色透明液体、総収率89%)。得られた化合物の構造及び純度はH-NMR測定により確認した。
化合物[4-1]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOH
p/q≒0.9, p+q≒15
化合物[4]:CFO(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(O)(OH)
【0082】
ホスホネート化合物5の合成
化合物[5-1]を原料として、(工程1-1)~(工程1-3)と同様の方法で反応させた。下記式で表される化合物[5]を合成した(無色透明液体、総収率86%)。得られた化合物の構造及び純度はH-NMR測定により確認した。
化合物[5-1]: HOCHCF(CFO)(CFCFO)CFCHOH
p/q≒0.9,p+q≒45
化合物[5]:(OH)(O=)PCHCHCHOCHCF(CFO)(CFCFO)CFCHOCHCHCHP(=O)(OH)
【0083】
ホスホネート化合物7の合成
化合物[7-1]を原料として、(工程2-2)~(工程2-4)と同様の方法で反応させた。下記式で表される化合物[7]を合成した(無色透明液体、総収率81%)。得られた化合物の構造及び純度はH-NMR測定により確認した。
化合物[7-1]:CFCFCFCFO(CFCFO)CFBr
化合物[7]:CFCFCFCFO(CFCFO)CFCHCHCHP(O)(OH)
【0084】
<表面処理剤の作製>
各ホスホネート化合物0.5g、ノベック7200(3M製フッ素系溶剤)99.5gを混合し、十分撹拌することで、表面処理剤の総量100質量%に対して、有効成分を0.5質量%含有する表面処理剤1~7を得た。
【0085】
<試験基板の作製>
ステンレス板(SUS304, 26mmx76mm)の各試験片をノルマルヘプタンに浸漬し超音波処理(5分間)を施した。その後、アセトンでも同様の操作を行った。次いで、試験片のVUV処理(λmax=254nm,ギャップ2mm, 6回)を行った。試験片に表面処理剤をディップコート(引上速度:10mm/s)した。最後に100℃で1時間加熱硬化させることで、硬化膜を有する試験基板1~7を得た。
【0086】
<各表面処理剤を用いた試験基板の評価>
下記(1)~(7)の試験により試験基板1~7が有する硬化膜について評価した。各試験は試験基板の表面処理された面について実施した。
【0087】
(1)接触角測定(撥水・撥油性試験)
接触角計(NICK社製LSE-B100W)を用いて、2μLの液滴を発生させ、試験基板に対する接触角を測定した。測定は表面上の異なる5箇所にて行い、その平均値で示した。液滴として、水、ヘキサデカン、オレイン酸を用いた。
【0088】
(2)転落角測定(撥水・撥油性試験)
接触角計(NICK社製LSE-B100W)を用いて、20μLの液滴を滴下した後、水平に設置した試験基板を徐々に傾け、液滴が転落し始めた時の試験基板と水平面との角度(転落角)を測定した。測定は表面上の異なる5箇所にて行い、その平均値で示した。液滴として、水、ヘキサデカン、オレイン酸を用いた。
【0089】
(3)ペン書込み試験(防汚性試験)
試験基板に対し、油性のマーキングペン(品名:マッキー,ゼブラ株式会社製)の書込みを行い、インクの弾き性能を目視判断した。評価基準は下記の6段階とした。
1:インクを良く弾く
2:インクを弾くが凝集速度が遅い
3:インクの弾きが弱い
4:インクの弾きが弱く凝集速度も遅い
5:インクの殆ど弾かず、インクの筋が残る
6:インクを全く弾かない
【0090】
(4)耐摩耗性試験
耐摩耗試験機(APIコーポレーション製 API-3DT)に不織布(ベンコット)を取り付け、1kgf/cmの荷重下、40mmx60往復/分の速度で試験基板を摺動させた。1000往復摺動するごとに上記「(1)接触角測定」と同様に水の接触角を測定し、接触角が100度を下回るまで、又は摺動回数が10000往復に達するまで試験を行った。
【0091】
(5)耐熱性試験
200℃に設定した恒温槽(東京理化器械株式会社製 WFO-420)内に試験基板を暴露させた。24時間経過毎に基板を取り出し、放冷後試験基板表面をアサヒクリンAK-225(AGC製フッ素系溶剤)でリンスし、上記「(1)接触角測定」と同様に水の接触角を測定した。接触角が100度を下回るまで、又は暴露時間が200時間に達するまで試験を行った。
【0092】
(6)摩擦試験(潤滑性試験)
表面性測定機(新東科学株式会社製 TYPE:14FW)にABS球(1cm)を取り付け、100gfの荷重下、500mm/minの速度で試験基板を1cm摺動させ、動摩擦係数を測定した。
【0093】
(7)離型性・離型耐久性試験
試験基板にエポキシ系接着剤(東亜合成製;一液性硬化型エポキシ樹脂AP-0021HW)を塗布し、フック型の治具(断面積:1cm)を載せた。100℃で30分加熱することで、接着剤を硬化させた。次いで、引張試験機(エー・アンド・デイ製 卓上型引張圧縮試験機 MCT-2150)上に前記金属基板を固定し、90°方向にフックを60mm/minの速度で引張り上げた。この時の離型荷重を金型離型性とし、以下の評価基準にて評価した(A,Bを合格、Cを不合格とした)。以上の一連の動作を繰り返し、1回の表面処理剤の塗布による硬化膜の形成で、50N未満の離型荷重条件下で、何回まで離型が可能であったかを測定し、その回数を離型耐久性の指標とした。
A:1N未満
B:1N以上、10N未満
C:10N以上
【0094】
各実施例及び各比較例について、表面特性の評価結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1の結果より、ホスホネート化合物1~4を用いた表面処理剤による試験基板においては、撥水撥油性、耐摩耗性、防汚性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、耐熱性、離型性・離型耐久性いずれにおいても良好な結果であった。また、これらでは動摩擦係数が小さかった。
【0097】
ホスホネート化合物5を用いた表面処理剤による試験基板においては、撥水撥油性が不十分であり、耐摩耗性、潤滑性も劣る結果となった。これは、分子の両末端にホスホネート官能基が存在するため、パーフルオロポリエーテル鎖の分子運動性が制限された為であると推測される。
【0098】
ホスホネート化合物6を用いた表面処理剤による試験基板においては、耐熱性が不十分であり、離型耐久性が劣る結果となった。これは、パーフルオロポリエーテル基とホスホネート官能基間のリン酸エステル結合(C-O-P)やエチレンオキサイド鎖中のエーテル結合の結合エネルギーが弱い為であると推測される。
【0099】
ホスホネート化合物7を用いた表面処理剤による試験基板においては耐摩耗性、防汚性、潤滑性、離型性が劣る結果となった。これは、パーフルオロポリエーテル基の分子量が小さく、パーフルオロポリエーテル基による機能が十分発揮されていない為と推測される。
【産業上利用の可能性】
【0100】
本発明の表面処理剤で処理した物品は、良好な撥水撥油性、耐摩耗性、防汚性、離型性、潤滑性、指紋汚れ除去容易性、耐熱性を兼ね備えている。そのような特性から、意匠部品、装飾品、調理器、水廻り品、建材、自動車、精密金型、スマートフォンやウェラブル端末、タブレット端末などのディスプレイ、眼鏡レンズや保護フィルムなどの光学部品、内視鏡などの医療機器等の物品の表面処理剤として用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるパーフルオロポリエーテル基含有ホスホネート化合物と、揮発性溶媒とを含む表面処理剤であって、
A-O-Rf-(CF-L-(CH-P(=O)(OH) (1)
前記一般式(1)において、
Aは、炭素数1~4のパーフルオロアルキル基であり、
Rfは、下記一般式(2)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO) (2)
前記一般式(2)において、
p,q,は、それぞれ独立に~100の整数であり、rは、0~100の整数であり、p+q+は、10~100の整数であり、
Lは、単結合、CO又はCHであり
xは、1~2の整数であり、
yは、1~4の整数である
表面処理剤
【請求項2】
前記一般式(1)において、
Aは、CF基であり、
Rfは、下記一般式(2-1)で表される構造であって、括弧内の各結合単位はランダムに結合されていてもよく、
(CFO)(CFCFO) (2-1)
Lは、CHO又はCHであり、
前記一般式(2-1)において、p,qは、それぞれ独立に1~30の整数であり、
p+qは、10~50の整数である、
請求項1に記載の表面処理剤
【請求項3】
数平均分子量は1500超である、請求項1に記載の表面処理剤
【請求項4】
基材と、前記基材の表面に請求項1~請求項3の何れか1つに記載の表面処理剤の硬化膜を備える物品。
【請求項5】
前記基材は、金属である、請求項に記載の物品。
【請求項6】
前記基材は、金属酸化物である、請求項に記載の物品。