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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147939
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】締め付け確認装置及びトルクレンチ
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20241009BHJP
   B25B 23/144 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B25B23/14 620J
B25B23/144
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060698
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 淳輔
(72)【発明者】
【氏名】三之宮 光太郎
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA01
3C038AA04
3C038BC01
3C038CA03
3C038CA05
3C038CA07
3C038CA10
3C038CC08
3C038EA06
(57)【要約】
【課題】 トルクレンチの使用に際し、使用上の制限を緩和し、締め付け作業を容易にする。
【解決手段】 本発明の締め付け確認装置は、締結部材に対して規定トルクで締め付けを行った際にトルクレンチ内部の可動部材の揺動運動による可動部材とトルクレンチ内部の他の部材とを衝突させて振動を発生させるトルクレンチで締結部材の締め付け作業を行う場合に使用される締め付け確認装置であり、振動を検出する加速度センサと、揺動運動に関する情報を検出する角速度センサと、締結部材の締め付け作業時に、加速度センサで検出される加速度信号及び角速度センサで検出される角速度信号に基づいて、締結部材の締め付け作業が完了しているか否かを判定する解析部とを備える。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結部材に対して規定トルクで締め付けを行った際にトルクレンチ内部の可動部材の揺動運動により前記可動部材と前記トルクレンチ内部の他の部材とを衝突させて振動を発生させるトルクレンチで前記締結部材の締め付け作業を行う場合に使用される締め付け確認装置において、
前記振動を検出する加速度センサと、
前記揺動運動に関する情報を検出する角速度センサと、
前記締結部材の締め付け作業時に、前記加速度センサで検出される加速度信号及び前記角速度センサで検出される角速度信号に基づいて、前記締結部材の締め付け作業が完了しているか否かを判定する解析部と、を備える
ことを特徴とする締め付け確認装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記角速度信号に含まれる特定ピーク信号の発生時刻と、前記加速度信号に含まれる所定ピーク信号の発生時刻との間に、前記揺動運動に対応した所定の関係が成立している場合に、前記締結部材の締め付け作業が完了したと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項3】
前記可動部材の揺動運動では、前記可動部材の第1の回転方向の運動が行われた後、前記第1の回転方向とは反対の第2の回転方向の運動が行われ、
前記解析部は、
前記角速度信号に含まれる、前記第1の回転方向の運動に対応する第1の特定ピーク信号及び前記第2の回転方向の運動に対応する第2の特定ピーク信号を抽出し、
前記第1の特定ピーク信号の発生時刻と前記加速度信号に含まれる第1の所定ピーク信号の発生時刻との間、及び、前記第2の特定ピーク信号の発生時刻と前記加速度信号に含まれる第2の所定ピーク信号の発生時刻との間に、前記揺動運動に対応した所定の関係が成立している場合に、前記締結部材の締め付け作業が完了したと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記角速度信号に含まれる特定ピーク信号の発生時刻と、前記加速度信号に含まれる所定ピーク信号の発生時刻との間に、前記揺動運動に対応した所定の関係が成立し、且つ、前記角速度信号において前記特定ピーク信号の発生時刻より前に前記締結部材の締め付け動作に対応する信号が検出された場合に、前記締結部材の締め付け作業が完了したと判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項5】
前記角速度センサの検知軸の方向が、前記可動部材の回転方向と一致する
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項6】
前記加速度センサの検知軸の方向が、前記可動部材と前記トルクレンチ内部の他の部材との衝突方向と一致する
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項7】
前記加速度センサ及び前記角速度センサは、前記解析部と別体で設けられる
ことを特徴とする請求項1に記載の締め付け確認装置。
【請求項8】
締結部材に対して規定トルクで締め付けを行った際にトルクレンチ内部の可動部材の揺動運動により前記可動部材と前記トルクレンチ内部の他の部材とを衝突させて振動を発生させるトルクレンチにおいて、
前記可動部材を内部に保持するトルクレンチ本体部と、
前記トルクレンチ本体部に取り付けられた締め付け確認部と、を備え、
前記締め付け確認部は、
前記振動を検出する加速度センサと、
前記揺動運動に関する情報を検出する角速度センサと、
前記締結部材の締め付け作業時に、前記加速度センサで検出される加速度信号及び前記角速度センサで検出される角速度信号に基づいて、前記締結部材の締め付け作業が完了しているか否かを判定する解析部と、を有する
ことを特徴とするトルクレンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締め付け確認装置及びトルクレンチに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターなどの乗客コンベアは、建物内で人々を輸送する装置であり、都市空間において必須の装置である。乗客コンベアでは、ループ状に形成されたチェーンに対し、いくつかの固定部材を介して人が乗るステップが固定される。そして、チェーンをスプロケットとよばれる歯車状の部材とかみ合わせ、スプロケットを回転させることで、乗客コンベアのステップが駆動される。このような駆動機構を有する乗客コンベアにおいて、ステップは利用者と接する部分であり、正常な状態を維持するため、定期的に点検される。ステップの点検は、ステップを取り外して行われることもあり、その場合には、駆動部分に固定されたボルトを外して点検が実施され、点検終了後には再度ボルトを用いてステップが固定される。このような作業においては、取り外したボルトを、確実に締結することが重要である。
【0003】
そして、従来、ボルトやナット等の締結部材の締め付け作業を管理するための装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、所定のトルク値でのねじ締付けが完了する毎に動作して振動を発するトルクバーを備えたトルクレンチにおいて、トルクバーで発生する振動を加速度センサで検知し、1本のねじ締めが完了したか否かを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-231001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、例えば、トルクレンチを使用したボルトの締め付け作業中に、トルクレンチが別の部材に衝突すると、その衝突に対応する振動も加速度センサで検知されてしまう。それゆえ、上記特許文献1に開示の技術を使用する場合には、所定のトルク値(規定トルク)での締め付け時に発生する振動のみを検出するために、例えば、トルクレンチを使うタイミングを限定するなどの使用上の工夫が必要であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、規定トルクでボルトやナット等の締結部材を締め付けた際に振動を発生させる機能を備えたトルクレンチの使用に際し、上述した使用上の制限が緩和され、締め付け作業が容易となる締め付け確認装置及びトルクレンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係る締め付け確認装置は、トルクレンチで締結部材の締め付け作業を行う場合に使用される締め付け確認装置である。トルクレンチは、締結部材に対して規定トルクで締め付けを行った際にトルクレンチ内部の可動部材の揺動運動により可動部材とトルクレンチ内部の他の部材とを衝突させて振動を発生させる。締め付け確認装置は、振動を検出する加速度センサと、揺動運動に関する情報を検出する角速度センサと、解析部とを備える。そして、解析部は、締結部材の締め付け作業時に、加速度センサで検出される加速度信号及び角速度センサで検出される角速度信号に基づいて、締結部材の締め付け作業が完了しているか否かを判定する。
【0008】
また、上記課題を解決するため、本発明に係るトルクレンチは、締結部材に対して規定トルクで締め付けを行った際にトルクレンチ内部の可動部材の揺動運動により可動部材とトルクレンチ内部の他の部材とを衝突させて振動を発生させるトルクレンチである。トルクレンチは、可動部材を内部に保持するトルクレンチ本体部と、トルクレンチ本体部に取り付けられた締め付け確認部とを備える。そして、締め付け確認部は、前記本発明の締め付け確認装置と同様の構成を有する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成の本発明によれば、規定トルクで締結部材を締め付けた際に振動を発生させる機能を備えたトルクレンチの使用に際し、使用上の制限が緩和され、締め付け作業が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置のブロック構成図である。
図3】本発明の一実施形態に係るトルクレンチの内部構成を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るトルクレンチでボルトの締め付け作業を行った際に加速度センサ及び角速度センサで検出される信号波形の一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の解析部の機能ブロック図である。
図6】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の加速度ピーク抽出部で行われる処理の手順を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の角速度ピーク抽出部で行われる処理の手順を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の締め付け動作抽出部で行われる処理の手順を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置のピーク候補抽出部で行われる処理の手順を示すフローチャートである。
図10】本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の締め付け完了判定部で行われる処理の手順を示すフローチャートである。
図11】本発明の変形例1に係る締め付け確認装置及びそれが取り付けられたトルクレンチの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置及びトルクレンチについて、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0012】
[締め付け確認装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置の概略構成図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置10のハードウェアのブロック構成図である。なお、図1及び図2には、主に、トルクレンチ1によるボルトやナット等の締結部材の締め付け作業の確認処理で必要となる構成部のみを示す。
【0013】
トルクレンチ1は、ボルトやナット等の締結部材を規定トルク(適正トルク)で締め付けた際に、規定トルクでの締め付けが完了したことを例えば保守員等の作業者に知らせるために振動を発生させる機能を備えたトルクレンチである。また、締め付け確認装置10は、例えば作業者がトルクレンチ1を使用して締結部材の締め付け作業を行う際に、締結部材が規定トルクで締め付けられたか否かを確認(検出)するための装置である。
【0014】
締め付け確認装置10(締め付け確認部)は、図1及び図2に示すように、センサ部2と、センサ部2から送信される検出信号を受信し、検出信号に基づいて締結部材が規定トルクで締め付けられたか否かを判定する機能を備えた携帯情報端末5とを備える。
【0015】
センサ部2は、図2に示すように、3軸加速度センサ3と、3軸角速度センサ4と、通信部21とを有する。なお、センサ部2は、トルクレンチ1の後述の外筒31、具体的には、作業者が把持するトルクレンチ1の取手部(不図示)の付近に着脱可能に取り付けられる。
【0016】
3軸加速度センサ3は、トルクレンチ1で発生した各種振動を検出する。例えば、3軸加速度センサ3は、トルクレンチ1による締結部材の締め付け作業おいて、締め付けトルクが規定トルクに到達した際にトルクレンチ1で発生する後述のクリック振動を検出する。また、3軸加速度センサ3は、例えば、トルクレンチ1による締結部材の締め付け作業中に、トルクレンチ1が外部の部材等と衝突した際の振動も検出する。なお、本実施形態では、検出軸が3つ(検出方向が3方向)である3軸加速度センサ3を使用する例を説明するが、本発明はこれに限定されず、加速度センサとして、例えば、検出軸が2つ又は1つである加速度センサを用いてもよい。
【0017】
3軸角速度センサ4は、トルクレンチ1による締結部材の締め付け作業おいて、締め付けトルクが規定トルクに到達し、後述のクリック振動が発生した際にトルクレンチ1内で発生する後述の揺動部32の揺動運動(回転運動)を検出する。ただし、締め付けトルクが規定トルクに到達した場合、実際には、締結部材をそれ以上締め付けないようにするため、トルクレンチ1の後述の外筒31(図示しない取手部)が、後述の揺動部32に対して相対的に、揺動部32の回転方向とは反対方向に回転する。そして、後述の外筒31(図示しない取手部)に取り付けられた3軸角速度センサ4は、この外筒31(図示しない取手部)の回転運動を検出する。すなわち、3軸角速度センサ4は、後述の揺動部32の揺動運動(回転運動)を直接的に検出するのではなく、揺動運動に対応する後述の外筒31(図示しない取手部)の回転運動を検出する。
【0018】
また、3軸角速度センサ4は、締め付けトルクが規定トルクに到達する前に、作業者がトルクレンチ1を使用して行う、締結部材の通常の締め付け作業(以下、「手締め作業」と称する)におけるトルクレンチ1の回転運動も検出する。なお、本実施形態では、検出軸が3つ(検出方向が3方向)である3軸角速度センサ4を使用する例を説明するが、本発明はこれに限定されず、角速度センサとして、例えば、検出軸が2つ又は1つである角速度センサを用いてもよい。
【0019】
通信部21は、3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4と接続され、3軸加速度センサ3で検出された加速度信号、及び、3軸角速度センサ4で検出された角速度信号を、携帯情報端末5内の後述の通信部16に送信するためのインターフェースである。通信部21と携帯情報端末5内の後述の通信部16との間では、例えば、Bluetooth(登録商標)、WiFi(登録商標)等の近距離無線通信方式により通信が行われる。なお、通信部21と携帯情報端末5内の後述の通信部16との間の通信方式として、有線通信方式を採用してもよい。
【0020】
携帯情報端末5は、例えばエスカレーター等の保守員が所持する情報処理端末であり、例えばスマートフォン、タブレット、ノートパソコン等の携帯可能であり且つ演算機能及び通信機能を備えた演算処理装置で構成することができる。携帯情報端末5は、センサ部2から送信された3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4の検出信号を受信し、その検出信号を解析して、締結部材の締め付け作業が適切に完了したか否かの判定を行う機能(後述の解析部40)を有する。
【0021】
携帯情報端末5は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、表示部14、入力部15、通信部16及び不揮発性ストレージ17を備える。そして、携帯情報端末5の各構成部は、バス18を介して互いに接続される。また、図示しないが、携帯情報端末5は、外部機器との間で各種データ(各種情報)の入出力処理を実行する際に使用される各種インターフェース(I/F)も備える。
【0022】
CPU11は、携帯情報端末5の動作全体(各種処理機能)を制御する。それゆえ、センサ部2から受信した加速度信号及び角速度信号に基づいて、締結部材の締め付け作業が適切に完了したか否かの判定処理(以下、「締め付け作業の確認処理」という)もCPU11により行われる。
【0023】
ROM12には、携帯情報端末5で行う各種処理(締め付け作業の確認処理を含む)を実行するための各種プログラムや各種データ(テーブル)が保存される。なお、携帯情報端末5で行う各種処理を実行するための各種プログラムや各種データ(テーブル)は、不揮発性ストレージ17に記憶されていてもよい。また、RAM13は、各種プログラムの実行時に使用される作業領域を有し、RAM13には、各種演算処理に必要なプログラムコードだけでなく、演算処理の途中に発生した変数やパラメータなども一時的に書き込まれる。
【0024】
表示部14は、例えば、液晶パネルなどで構成され、文字や画像などを画面に表示する。なお、本実施形態では、締結部材に対する締め付け作業の確認処理の判定結果も表示部14に表示される。また、入力部15は、例えば、キーやボタンなどで構成され、作業者によって入力された操作内容に応じた操作信号を生成して該操作信号をCPU11に供給する。なお、表示部14をタッチパネルで構成してもよく、その場合には、表示部14と入力部15とが一体的に構成される。
【0025】
通信部16は、センサ部2内の通信部21を介して、センサ部2から送信される加速度信号及び角速度信号を受信するためのインターフェースである。
【0026】
不揮発性ストレージ17は、例えば、HDD(Hard disk drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリなどで構成することができる。また、不揮発性ストレージ17には、OS(Operating System)、各種のパラメータの他に、携帯情報端末5が備える各種処理機能を実行するための各種プログラム及び各種データが記憶される。なお、携帯情報端末5が備える各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報(データ)は、ROM12や不揮発性ストレージ17以外に、例えば、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納されていてもよい。
【0027】
[トルクレンチの構成及びクリック振動の発生態様]
次に、ボルトやナット等の締結部材の締め付け作業で使用される本実施形態のトルクレンチ1の構成について説明する。トルクレンチ1は、規定トルク(適正トルク)で締結部材を締め付けた際に、「クリック振動」と称する事象が発生するトルクレンチである。クリック振動は、作業者がトルクレンチ1を把持する手で感じ取れる振動であり、作業者は、クリック振動を検知することにより、規定トルクで締結部材の締め付けが完了したことを認識することができる。なお、クリック振動の発生時には、振動だけでなく、音を発生させる場合もある。
【0028】
図3は、センサ部2が取り付けられる本実施形態のトルクレンチ1の内部構成を示す図である。トルクレンチ1は、図3に示すように、外筒31(トルクレンチ本体部)と、揺動部32(可動部材)と、トルク制御機構33と、初期接触部34と、規定トルク時接触部35とを有する。なお、図3には示さないが、外筒31には、作業員等が把持する取手部(不図示)が設けられる。
【0029】
揺動部32は、ボルトやナット等の締結部材が差し込まれる凹部を有するレンチ先端部32aと、レンチ先端部32aと一体的に形成されたレンチバー部32bと有する。また、揺動部32は、レンチバー部32bの支点32cを中心にして、図3中の矢印A1の方向(第1の回転方向)及び矢印A2の方向(第2の回転方向)に回転(揺動)可能となるように外筒31の内部に保持されている。
【0030】
トルク制御機構33は、規定トルクで締結部材が締め付けられた際に、揺動部32を揺動運動させる。
【0031】
初期接触部34は、揺動部32の揺動運動の発生前及び発生後、すなわち、クリック振動の発生時以外のときには、外筒31の内壁(トルクレンチ内部の他の部材)に接触した状態(図3の状態:初期状態)となる。規定トルク時接触部35は、揺動部32の揺動運動の発生前及び発生後には外筒31の内壁に接触していないが(図3の状態)、締め付けトルクが規定トルクに到達して揺動部32の揺動運動が発生すると外筒31の内壁に衝突(接触)する。
【0032】
ここで、締結部材に対する締め付けトルクが規定トルクに到達した際に発生する揺動部32の揺動運動(クリック振動)について、図3を参照しながら、簡単に説明する。
【0033】
締め付けトルクが規定トルクに到達すると、まず、揺動部32は、トルク制御機構33による力を受けて、支点32cを中心にして図3中の矢印A1の方向(以下、「回転方向A1」と称する)に回転し、規定トルク時接触部35が外筒31の内壁に衝突する。ただし、この際、実際には、締結部材をこれ以上締め付けないようにするため、トルクレンチ1の外筒31(図示しない取手部)が、揺動部32に対して相対的に、揺動部32の回転方向A1とは反対方向(矢印A2の方向)に回転する。
【0034】
そして、規定トルク時接触部35が外筒31の内壁に衝突(接触)した後、揺動部32が支点32cを中心にして図3中の矢印A2の方向(以下、「回転方向A2」と称する)に回転して初期接触部34が元の位置に戻り、外筒31の内壁に衝突する。ただし、この際、実際には、トルクレンチ1の外筒31(図示しない取手部)が、揺動部32に対して相対的に、揺動部32の回転方向A2とは反対方向(回転方向A1)に回転する。
【0035】
それゆえ、クリック振動では、規定トルク時接触部35が外筒31の内壁に衝突(接触)したとき、及び、初期接触部34が元の位置(初期位置)に戻ったときに振動が発生する。すなわち、クリック振動発生時には、振動が2波生じる。
【0036】
本実施形態では、3軸加速度センサ3の3つの検出軸方向のうちの一つが、規定トルク時接触部35が外筒31の内壁に接触した際の接触面の法線方向A3と同じ方向又はそれに近似した方向となるように、3軸加速度センサ3が外筒31に取り付けられる。なお、初期接触部34と外筒31の内壁との接触面の法線方向A4は、法線方向A3と逆の方向となる。すなわち、3軸加速度センサ3の一つの検出軸方向が、規定トルク時接触部35及び初期接触部34と外筒31の内壁との衝突方向と略平行となるように、3軸加速度センサ3が外筒31に取り付けられる。
【0037】
また、本実施形態では、3軸角速度センサ4の3つの検出軸方向のうちの一つが、規定トルク時接触部35が外筒31の内壁に接触した際の接触面の法線方向A3と同じ又はそれに近似した方向となるように、3軸角速度センサ4が外筒31に取り付けられる。すなわち、3軸角速度センサ4の一つの検出軸方向が、揺動部32の回転方向A1,A2と略平行となるように、3軸角速度センサ4が外筒31に取り付けられる。
【0038】
それゆえ、3軸加速度センサ3では、揺動部32の揺動運動により発生する、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突時の振動及び初期接触部34と外筒31の内壁との衝突時の振動を高感度で検知することができる。また、3軸角速度センサ4では、クリック振動発生時に発生する、揺動部32の回転運動(図3中の回転方向A1及びA2)の角速度を高感度で検知することができる。なお、本実施形態では、3軸加速度センサ3の正及び負の検出方向は、それぞれ、図3中の法線方向A3及びA4とする。また、3軸角速度センサ4の正及び負の検出方向は、それぞれ、図3中の回転方向A1及びA2とする。
【0039】
[締め付け作業時の検出信号]
図4は、本実施形態の締め付け確認装置10のセンサ部2が取り付けられたトルクレンチ1を用いて、ボルトやナット等の締結部材の締め付け作業を行った際に3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4で検出される信号の概略波形図である。図4中の上側に示す信号波形は、3軸加速度センサ3で検出される加速度信号Saの波形であり、横軸は時間であり、縦軸は加速度である。また、図4中の下側に示す信号波形は、3軸角速度センサ4で検出される角速度信号Sbの波形であり、横軸は時間であり、縦軸は角速度である。
【0040】
締結部材の締め付け作業では、締め付けトルクが規定トルクに到達する前には、トルクレンチ1を使用して作業者による締結部材の手締め作業が行われる。この手締め作業中には、図4に示すように、角速度信号Sbにおいて、緩やかな変動波形W1(低周期振動)が発生する。
【0041】
なお、締結部材の手締め作業中、すなわち、変動波形W1の発生期間中には、締め付けトルクが規定トルクに到達していないので、揺動部32の揺動運動(クリック振動)は発生しない。それゆえ、変動波形W1の発生期間中には、規定トルク時接触部35及び初期接触部34と外筒31の内壁との衝突は発生しないので、加速度信号Saでは、クリック振動に伴う加速度の変動も発生しない。
【0042】
そして、締結部材に対する締め付けトルクが規定トルクに到達し、クリック振動が発生すると、図4に示すように、角速度信号Sbにおいて、揺動部32の揺動運動を示す角速度の急峻な変動波形W2(高周期振動)が検出される。
【0043】
具体的には、締結部材に対する締め付けトルクが規定トルクに到達すると、まず、揺動部32が、トルク制御機構33による力を受けて、図3中の回転方向A1(以下、「往方向」とも称する)に回転する。この往方向の回転時の角速度は3軸角速度センサ4に検知され、図4の角速度信号Sb中の時刻t1でピークとなる急峻な変動波形(以下、「第1クリック振動ピーク波形P1」と称する)が発生する。
【0044】
なお、揺動部32の往方向の運動では、揺動部32は図3中の回転方向A1に回転するが、実際には、上述のように、トルクレンチ1の外筒31(図示しない取手部)が、揺動部32に対して相対的に回転方向A1とは反対方向(回転方向A2)に回転する。それゆえ、外筒31に取り付けられた3軸角速度センサ4で検出される第1クリック振動ピーク波形P1の値は負の値となる。また、この際に発生する外筒31(図示しない取手部)の回転運動は、手締め作業での外筒31の回転運動より急激な動作となる。それゆえ、3軸角速度センサ4で検出される第1クリック振動ピーク波形P1は、手締め作業に対応する変動波形W1より急峻な波形となる。
【0045】
揺動部32の往方向の運動により規定トルク時接触部35が外筒31の内壁と衝突すると、その後、揺動部32が、図3中の回転方向A2(以下、「復方向」とも称する)に回転する。この復方向の回転時の角速度もまた3軸角速度センサ4に検知され、図4の角速度信号Sb中の時刻t4でピークとなる急峻な変動波形(以下、「第2クリック振動ピーク波形P2」と称する)が発生する。
【0046】
なお、揺動部32の復方向の運動では、揺動部32は図3中の回転方向A2に回転するが、実際には、上述のように、トルクレンチ1の外筒31(図示しない取手部)が、揺動部32に対して相対的に回転方向A2とは反対方向(回転方向A1)に回転する。それゆえ、外筒31に取り付けられた3軸角速度センサ4で検出される第2クリック振動ピーク波形P2の値は正の値となる。また、この際に発生する外筒31(図示しない取手部)の回転運動もまた、手締め作業での外筒31の回転運動より急激な動作となる。それゆえ、3軸角速度センサ4で検出される第2クリック振動ピーク波形P2もまた、手締め作業に対応する変動波形W1より急峻な波形となる。
【0047】
一方、締結部材に対する締め付けトルクが規定トルクに到達し、クリック振動が発生すると、3軸加速度センサ3において、まず、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突時の振動が検知される。それゆえ、加速度信号Saでは、図4に示すように、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突時の振動に対応するピーク波形P10が発生する。なお、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突時には、図3中の法線方向A3の衝突が検知されるので、ピーク波形P10では、まず、正のピーク値P11が検出され、その後、負のピーク値P12が検出される。
【0048】
また、クリック振動では、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突後、初期接触部34と外筒31の内壁との衝突時の振動が3軸加速度センサ3において検知される。それゆえ、加速度信号Saでは、図4に示すように、ピーク波形P10の発生後に、初期接触部34と外筒31の内壁との衝突時の振動に対応するピーク波形P20が発生する。なお、初期接触部34と外筒31の内壁との衝突時には、図3中の法線方向A4の衝突が検知されるので、ピーク波形P20では、まず、負のピーク値P21が検出され、その後、正のピーク値P22が検出される。
【0049】
本実施形態のトルクレンチ1では、上述のように、締結部材の締め付けトルクが規定トルクに到達すると、まず、揺動部32の往方向(回転方向A1)の回転運動が発生し、その後、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突が発生する。そして、規定トルク時接触部35と外筒31の内壁との衝突が発生した後、揺動部32の復方向(回転方向A2)の回転運動が発生し、その後、初期接触部34と外筒31の内壁との衝突が発生する。すなわち、クリック振動では、揺動部32の往方向及び復方向のいずれの回転運動においても、角速度信号Sbの変化が先に生じ、その後、加速度信号Saの変化が生じる。それゆえ、加速度信号Sa中のピーク波形P10のピーク時刻t2,t3は、図4に示すように、角速度信号Sbの第1クリック振動ピーク波形P1のピーク時刻t1より後になる。また、加速度信号Sa中のピーク波形P20のピーク時刻t5,t6は、角速度信号Sbの第2クリック振動ピーク波形P2のピーク時刻t4より後になる。
【0050】
そして、通常の運用時の締め付け作業では、揺動部32の衝突前の回転運動に対応する角速度信号Sbの変化と、衝突時における加速度信号Saの変化との時間差は、一定の範囲内に収まる。それゆえ、角速度信号Sbの第1クリック振動ピーク波形P1(第1の特定ピーク信号)のピーク時刻t1と、加速度信号Sa中のピーク波形P10(第1の所定ピーク信号)のピーク時刻t2,t3との時間差(Δb1,Δb2)は、所定の時間差ΔTb内に収まる。また、角速度信号Sbの第2クリック振動ピーク波形P2(第2の特定ピーク信号)のピーク時刻t4と、加速度信号Sa中のピーク波形P20(第2の所定ピーク信号)のピーク時刻t5,t6との時間差(Δb3,Δb4)も、所定の時間差ΔTb内に収まる。
【0051】
また、クリック振動では、上述のように、3軸角速度センサ4の検出される角速度信号Sbにおいて、揺動部32の往方向及び復方向の回転運動にそれぞれ対応する第1クリック振動ピーク波形P1及び第2クリック振動ピーク波形P2が必ず発生する。そして、クリック振動の発生開始時から揺動部32が初期状態に復帰するまでの時間は、作業者による差は多少あるものの、同種のトルクレンチでは、概ね一定の時間範囲内に収まる。それゆえ、第1クリック振動ピーク波形P1のピーク時刻t1と、第2クリック振動ピーク波形P2のピーク時刻t4との時間差(Δa)も、同種のトルクレンチでは、特定の時間差ΔTa内に収まる。
【0052】
さらに、角速度信号Sbにおいて現れる緩やかな変動波形W1(手締め作業に対応する波形)の例えば発生期間等の波形態様は、作業者による差は多少あるものの、概ね同じ態様となる。また、角速度信号Sbにおいて現れる緩やかな変動波形W1の発生時刻(発生期間)と、急峻な変動波形W2(揺動部32の揺動運動に対応する波形)の発生時刻との時間差もまた、概ね一定の時間範囲内に収まる。それゆえ、変動波形W1は、変動波形W2の第1クリック振動ピーク波形P1のピーク時刻t1より前の所定時間範囲内において、特定期間以上の長さで連続して変動する波形となる。
【0053】
なお、図4に示す3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4の検出信号では、説明の都合上、手締め作業及びクリック振動に関する変動波形のみを含む例を説明した。しかしながら、締結部材の締め付け作業中にトルクレンチ1と外部の部材との衝突等が発生した場合には、その衝突事象に対応する急峻なピーク波形(ノイズ)も各検出信号内に現れる。そこで、本実施形態では、このような事象に対応するため、上述したクリック振動に伴い発生する角速度信号Sbと加速度信号Saとの関係性(所定の関係)を利用して、角速度信号Sb及び加速度信号Saからクリック振動に対応する各種ピーク波形を抽出する。そして、抽出されたクリック振動に対応する角速度信号Sb及び加速度信号Saの各種ピーク波形(図4中の第1クリック振動ピーク波形P1、第2クリック振動ピーク波形P2、ピーク波形P10,20)に基づいて、締め付け作業が完了したか否かの判定を行う。
【0054】
[締め付け確認装置の解析部の機能ブロック]
図5は、締め付け確認装置10に設けられた解析部40の機能ブロック構成図である。解析部40は、上述したクリック振動に伴い発生する角速度信号Sbと加速度信号Saとの関係性を利用して、ボルトやナット等の締結部材の締め付け作業が適切に完了したか否かの判定(締め付け作業の確認処理)を行う。なお、解析部40での締め付け作業の確認処理は、CPU11により行われる。すなわち、図5に示す解析部40、及び、解析部40内の各機能ブロック部は、機能上、CPU11に含まれる。
【0055】
解析部40は、図5に示すように、加速度ピーク抽出部41と、角速度ピーク抽出部42と、締め付け動作抽出部43と、ピーク候補抽出部44と、締め付け完了判定部45とを有する。解析部40内において、処理機能上、加速度ピーク抽出部41及び角速度ピーク抽出部42は、ピーク候補抽出部44に接続され、締め付け動作抽出部43及びピーク候補抽出部44は、締め付け完了判定部45に接続される。また、加速度ピーク抽出部41は、処理機能上、3軸加速度センサ3に接続され、角速度ピーク抽出部42及び締め付け動作抽出部43は、3軸角速度センサ4に接続され、締め付け完了判定部45は表示部14に接続される。
【0056】
加速度ピーク抽出部41は、3軸加速度センサ3の検出信号(加速度信号Sa)を取得し、この検出信号に含まれる急峻な各種変動波形のピーク時刻を抽出する。具体的には、加速度ピーク抽出部41は、加速度信号Saからトルクレンチ1のクリック振動に対応する変動波形(図4中のピーク波形P10,P20)のピーク時刻を抽出する。また、締結部材に対する締め付け作業中にノイズ事象(トルクレンチ1と外部の部材との衝突等)が発生している場合には、ノイズ事象に対応する急峻な変動波形も、加速度ピーク抽出部41で抽出される。なお、加速度ピーク抽出部41による急峻な各種変動波形のピーク時刻の抽出処理の具体的な内容については、後で詳述する。そして、加速度ピーク抽出部41は、抽出した急峻な各種変動波形のピーク時刻をピーク候補抽出部44に出力する。
【0057】
角速度ピーク抽出部42は、3軸角速度センサ4の検出信号(角速度信号Sb)を取得し、この検出信号に含まれる急峻な各種変動波形のピーク値(正又は負の値)及びピーク時刻を抽出する。具体的には、角速度ピーク抽出部42で、角速度信号Sbからトルクレンチ1のクリック振動に対応する変動波形(図4中のクリック振動ピーク波形P1,P2)を抽出する。また、締結部材に対する締め付け作業中にノイズ事象(トルクレンチ1と外部の部材との衝突等)が発生している場合には、ノイズ事象に対応する急峻な変動波形も、角速度ピーク抽出部42で抽出される。なお、角速度ピーク抽出部42による急峻な各種変動波形のピーク値(正又は負の値)及びピーク時刻の抽出処理の具体的な内容については、後で詳述する。そして、角速度ピーク抽出部42は、抽出した急峻な各種変動波形の各ピーク値(正又は負の値)及びピーク時刻をピーク候補抽出部44に出力する。
【0058】
締め付け動作抽出部43は、3軸角速度センサ4の検出信号(角速度信号Sb)を取得し、この検出信号に含まれる緩やかな変動波形の信号値(絶対値)において所定の閾値を超える波形部分(ピークを含む)の期間(時刻)を抽出する。締め付け動作抽出部43で抽出対象となる緩やかな変動波形は、主に、締結部材の締め付け作業で行われる、作業者の手締め動作に対応する変動波形(図4中の変動波形W1)である。なお、締め付け動作抽出部43による緩やかな変動波形に関する情報の抽出処理の具体的な内容については、後で詳述する。そして、締め付け動作抽出部43は、抽出した角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形に関する情報(ピークを含む波形部分の期間)を、締め付け完了判定部45に出力する。
【0059】
ピーク候補抽出部44は、加速度ピーク抽出部41及び角速度ピーク抽出部42からの入力情報に基づいて、角速度ピーク抽出部42で抽出された複数のピーク(ピーク時刻)の中からトルクレンチ1のクリック振動に伴うピークと考えられるピーク候補を特定する。なお、以下では、このピーク候補を、「クリック振動ピーク候補」と称する。また、ピーク候補抽出部44によるクリック振動ピーク候補の抽出(特定)処理の具体的な内容については、後で詳述する。そして、ピーク候補抽出部44は、抽出した複数のクリック振動ピーク候補に関する情報(ピーク値(正又は負の値)及びピーク時刻)を、締め付け完了判定部45に出力する。
【0060】
締め付け完了判定部45は、締め付け動作抽出部43及びピーク候補抽出部44からの入力情報に基づいて、締結部材に対する規定トルクでの締め付け作業が完了しているか否かの判定を行う。なお、締め付け完了判定部45による判定処理の具体的な内容については、後で詳述する。そして、締め付け完了判定部45は、判定結果を表示部14に出力する。これにより、締結部材に対する規定トルクでの締め付け作業が完了しているか否かの判定結果が表示部14で表示され、作業者は、表示部14に表示された判定結果により、規定トルクでの締め付け作業が適切に実施されたか否かを確認することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、センサ部2における加速度信号Sa及び角速度信号Sbの検出処理、並びに、解析部40による締め付け作業の確認処理(完了判定処理)は、ボルトやナット等の締結部材に対する1回の締め付け作業毎に行われる。
【0062】
また、本実施形態では、上述した解析部40による各種処理機能は、ソフトウェア、すなわち、プロセッサ(CPU11)がそれぞれの機能を実現するためのプログラムを解釈して実行することにより制御される。しかしながら、本発明はこれに限定されず、例えば、解析部40に含まれる各種機能ブロック部のうちの一部又は全てをハードウェアで構成してもよい。
【0063】
[締め付け作業の確認処理]
次に、上述した解析部40に含まれる各機能ブロック部において行われる処理の内容及び処理フローを、図面を参照しながら説明する。解析部40に含まれる各機能ブロック部で行われる処理は、CPU11により行われる。
【0064】
(1)加速度ピーク抽出部の処理フロー
図6は、加速度ピーク抽出部41で行われる、3軸加速度センサ3の検出信号に含まれる急峻な各種変動波形のピーク時刻の抽出処理の手順を示すフローチャートである。まず、加速度ピーク抽出部41(CPU11)は、3軸加速度センサ3から入力された検出信号(加速度信号Sa)に対して基準化処理を実行する(S1)。この処理では、加速度ピーク抽出部41は、正常時の加速度信号Saの値が一定の範囲内の値となるようにするため、取得した加速度信号Saを、加速度信号Saの全体又は一部の標準偏差、所定のルールで算出された値又は所定の値で割り算する等の演算を行う。すなわち、S1の処理では、加速度ピーク抽出部41は、加速度信号Saの正規化処理を行う。
【0065】
次いで、加速度ピーク抽出部41は、基準化処理が施された加速度信号Saの絶対値と、予め設定された所定の閾値とを比較し、加速度信号Saの絶対値信号において所定の閾値を超える信号部分(信号区間)を抽出する(S2)。
【0066】
次いで、加速度ピーク抽出部41は、S2の処理で抽出した加速度信号(絶対値)の信号部分の値が連続して所定の閾値を超える場合、その信号部分における最大値をピークであると判定し、そのピークの発生時刻をピーク時刻として抽出する(S3)。なお、S3の処理で抽出した加速度信号Saに含まれる全てのピーク時刻は、加速度ピーク抽出部41からピーク候補抽出部44に出力される。そして、加速度ピーク抽出部41は、S3の処理後、上述した加速度信号Saに含まれる急峻な変動波形のピーク時刻の抽出処理を終了する。
【0067】
(2)角速度ピーク抽出部の処理フロー
図7は、角速度ピーク抽出部42で行われる、3軸角速度センサ4の検出信号に含まれる急峻な各種変動波形のピーク値及びピーク時刻の抽出処理の手順を示すフローチャートである。まず、角速度ピーク抽出部42(CPU11)は、3軸角速度センサ4から入力された検出信号(角速度信号Sb)に対して平滑化処理を実行する(S11)。この処理では、角速度ピーク抽出部42は、角速度信号Sbに含まれる急峻な変動波形(高周期振動)の成分を除去し、角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形(低周期振動)の成分を抽出する。なお、この平滑化処理の手法としては、例えば、メジアンフィルタ、移動平均、他のフィルタ処理等の多様な処理手法が適用可能であるが、本実施形態では、角速度信号Sbの特性に応じて適切なものを選定する。
【0068】
次いで、角速度ピーク抽出部42は、平滑化処理が施された角速度信号Sbと、平滑化処理前の角速度信号Sb(原信号)との差分信号を算出する(S12)。この処理により、角速度信号Sbに含まれる急峻な変動波形(高周期振動)の成分のみが抽出された差分信号(正負値)が得られる。
【0069】
次いで、角速度ピーク抽出部42は、S12で得られた差分信号に対して基準化処理を実行する(S13)。この処理では、角速度ピーク抽出部42は、正常時の差分信号の値が一定の範囲内の値となるようにするため、差分信号を、差分信号の全体又は一部の標準偏差、所定のルールで算出された値又は所定の値で割り算する等の演算を行う。すなわち、S13の処理では、角速度ピーク抽出部42は、差分信号の正規化処理を行う。
【0070】
次いで、角速度ピーク抽出部42は、基準化処理が施された差分信号に含まれる急峻な変動波形のピーク値(正/負)及びピーク時刻を抽出する(S14)。この処理により、角速度信号Sbに含まれる急峻な変動波形のピーク値及びピーク時刻が抽出される。
【0071】
具体的には、角速度ピーク抽出部42は、まず、基準化処理が施された差分信号と、予め設定された正負の2つの特定の閾値とを比較する。次いで、角速度ピーク抽出部42は、差分信号において、正の特定の閾値より信号値が大きくなる正側の信号部分(区間)、及び、負の特定の閾値より信号値が小さくなる負側の信号部分(区間)を抽出する。そして、角速度ピーク抽出部42は、抽出した差分信号の正側の信号部分の値が連続して正の特定の閾値より大きい場合、正側の信号部分における最大値をピークであると判定し、このピークの値(正)及びピーク時刻を抽出する。また、角速度ピーク抽出部42は、抽出した差分信号の負側の信号部分(区間)の値が連続して負の特定の閾値より小さい場合、負側の信号部分における最小値をピークであると判定し、このピークの値(負)及びピーク時刻を抽出する。
【0072】
なお、S14の処理で抽出された差分信号に含まれる全ての急峻な変動波形のピーク値及びピーク時刻は、角速度ピーク抽出部42からピーク候補抽出部44に出力される。そして、角速度ピーク抽出部42は、S14の処理後、上述した角速度信号Sbに含まれる急峻な変動波形のピーク値及びピーク時刻の抽出処理を終了する。
【0073】
(3)締め付け動作抽出部の処理フロー
図8は、締め付け動作抽出部43で行われる、3軸角速度センサ4の検出信号に含まれる緩やかな変動波形に関する情報の抽出処理の手順を示すフローチャートである。まず、締め付け動作抽出部43(CPU11)は、3軸角速度センサ4から入力された検出信号(角速度信号Sb)に対して平滑化処理を実行する(S21)。この処理では、締め付け動作抽出部43は、上述したS11の処理と同様にして、角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形(低周期振動)の成分を抽出する。
【0074】
次いで、締め付け動作抽出部43は、平滑化処理が施された角速度信号Sbに対して基準化処理を実行する(S22)。この処理では、締め付け作業の未実施時に角速度信号Sbの値が一定の範囲内となるようにするため、平滑化処理が施された角速度信号Sbに対して、角速度信号Sbの全体又は一部の標準偏差、所定のルールで算出された値又は所定の値で割り算する等の演算を行う。すなわち、S22の処理では、締め付け動作抽出部43は、平滑化処理が施された角速度信号Sbの正規化処理を行う。
【0075】
次いで、締め付け動作抽出部43は、平滑化処理及び基準化処理が施された角速度信号Sbの絶対値信号と、予め設定された所定の閾値とを比較し、所定の閾値を超える信号部分を抽出し、この信号部分の時刻(期間)を抽出する(S23)。なお、S23の処理で抽出した角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形のピークに関する情報(所定の閾値を超える信号部分の時刻)は、締め付け動作抽出部43から締め付け完了判定部45に出力される。そして、締め付け動作抽出部43は、S23の処理後、上述した角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形のピークに関する情報の抽出処理を終了する。
【0076】
なお、締め付け完了判定部45による後述の判定処理(後述の図10のS46)では、S23の処理で抽出された角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形のピークに関する情報に基づいて、手締め作業の動作が行われているか否かの判定が行われる。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、締め付け動作抽出部43が、S23の処理で抽出された角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形のピークに関する情報(所定の閾値を超える信号部分の時刻)に基づいて、手締め作業の動作が行われているか否かを判定する構成にしてもよい。この場合には、その判定結果が、締め付け動作抽出部43から締め付け完了判定部45に出力される。
【0077】
(4)ピーク候補抽出部の処理フロー
図9は、ピーク候補抽出部44で行われるクリック振動ピーク候補の特定(抽出)処理の手順を示すフローチャートである。まず、ピーク候補抽出部44(CPU11)は、角速度ピーク抽出部42から入力された角速度信号Sbに含まれる複数の角速度ピーク(正/負)のピーク時刻の中から一つのピーク時刻(角速度ピーク)を選定する(S31)。なお、ピーク時刻(角速度ピーク)の選定順は、任意であるが、例えば、ピーク時刻の早い順に選定する。
【0078】
次いで、ピーク候補抽出部44は、選定された角速度ピークのピーク時刻から所定の時間差ΔTb内に加速度ピークがあるか否かを判定する(S32)。この処理では、ピーク候補抽出部44は、S31の処理で選定された角速度ピークのピーク時刻と、加速度ピーク抽出部41から入力された加速度信号Saに含まれる複数の加速度ピークのピーク時刻とを比較し、その比較結果に基づいて判定を行う。図4で説明したように、クリック振動に伴い発生する角速度ピークのピーク時刻と、加速度ピークのピーク時刻との時間差は、所定の時間差ΔTb(図4中のΔb1~Δb4)内に収まる。それゆえ、選定された角速度ピークのピーク時刻から所定の時間差ΔTb内に加速度ピークがある場合には、選定された角速度ピークは、クリック振動に伴い発生した角速度ピーク(図4中のクリック振動ピーク波形P1又はP2)である可能性が高くなる。
【0079】
S32において、選定された角速度ピークのピーク時刻から所定の時間差ΔTb内に加速度ピークがないと判定された場合(S32がNO判定である場合)、ピーク候補抽出部44は、後述のS34の処理を行う。
【0080】
一方、S32において、選定された角速度ピークのピーク時刻から所定の時間差ΔTb内に加速度ピークがあると判定された場合(S32がYES判定である場合)、ピーク候補抽出部44は、選定された角速度ピークをクリック振動ピーク候補に設定する(S33)。この処理により、角速度信号Sbに含まれるクリック振動ピーク候補のピーク値(正/負)及びピーク時刻が抽出される。
【0081】
S33の処理後、又は、S32がNO判定である場合、ピーク候補抽出部44は、角速度ピーク抽出部42から入力された角速度信号Sbに含まれる全ての角速度ピーク(ピーク時刻)を選定したか否かを判定する(S34)。
【0082】
S34において、角速度信号Sbに含まれる全ての角速度ピークを選定していないと判定された場合(S34がNO判定である場合)、ピーク候補抽出部44は、処理をS31の処理に戻し、上述したS31以降の処理を行う。一方、S34において、角速度信号Sbに含まれる全ての角速度ピークを選定したと判定された場合(S34がYES判定である場合)、ピーク候補抽出部44は、処理を終了する。
【0083】
なお、上述したピーク候補抽出部44による処理で抽出されたクリック振動ピーク候補の数は、クリック振動が発生していれば、少なくとも2個以上となる。また、上述したピーク候補抽出部44による処理で抽出された全てのクリック振動ピーク候補に関する情報(ピーク値(正/負)及びピーク時刻)は、締め付け完了判定部45に出力される。
【0084】
(5)締め付け完了判定部の処理フロー
図10は、締め付け完了判定部45で行われる締め付け作業の確認処理(締め付け作業完了の判定処理)の手順を示すフローチャートである。まず、締め付け完了判定部45(CPU11)は、ピーク候補抽出部44から入力された複数のクリック振動ピーク候補の中から一つのクリック振動ピーク候補を選定する(S41)。なお、クリック振動ピーク候補の選定順は、任意であるが、例えば、ピーク時刻の早い順に選定する。
【0085】
次いで、締め付け完了判定部45は、S41の処理で選定したクリック振動ピーク候補の振動方向が第1クリック振動ピーク波形P1の振動方向であるか否かを判定する(S42)。この処理では、選定したクリック振動ピーク候補のピーク値の正/負(符号)が、揺動部32の往方向の回転運動に対応する第1クリック振動ピーク波形P1の正/負(符号)と同じであれば、S42の判定処理はYES判定となる。一方、選定したクリック振動ピーク候補のピーク値の正/負(符号)が第1クリック振動ピーク波形P1の正/負(符号)と異なる場合には、S42の判定処理はNO判定となる。図4に示す例では、揺動部32の往方向に対応する第1クリック振動ピーク波形P1の値は負の値であるので、選定したクリック振動ピーク候補のピーク値が負の値であれば、S42の判定処理はYES判定となる。
【0086】
S42において、選定したクリック振動ピーク候補の振動方向が第1クリック振動ピーク波形P1の振動方向でないと判定された場合(S42がNO判定である場合)、締め付け完了判定部45は、後述のS49の処理を行う。一方、S42において、選定したクリック振動ピーク候補の振動方向が第1クリック振動ピーク波形P1の振動方向であると判定された場合(S42がYES判定である場合)、締め付け完了判定部45は、次のS43の判定処理を行う。
【0087】
S43の判定処理では、締め付け完了判定部45は、選定したクリック振動ピーク候補のピーク時刻から特定の時間差ΔTa内に他のクリック振動ピーク候補があるか否かを判定する。この処理では、締め付け完了判定部45は、S41の処理で選定されたクリック振動ピーク候補のピーク時刻と、ピーク候補抽出部44から入力された他のクリック振動ピーク候補のピーク時刻とを比較し、その比較結果に基づいて判定を行う。
【0088】
図4で説明したように、クリック振動に伴い発生する第1クリック振動ピーク波形P1のピーク時刻と、第2クリック振動ピーク波形P2のピーク時刻との時間差は、特定の時間差ΔTa内に収まる。それゆえ、選定されたクリック振動ピーク候補から特定の時間差ΔTa内に他のクリック振動ピーク候補がある場合には、選定されたクリック振動ピーク候補が、クリック振動に伴い発生した第1クリック振動ピーク波形P1である可能性がさらに高くなる。また、この場合、他のクリック振動ピーク候補も第2クリック振動ピーク波形P2である可能性が高くなる。
【0089】
S43において、選定したクリック振動ピーク候補のピーク時刻から特定の時間差ΔTa内に他のクリック振動ピーク候補がないと判定された場合(S43がNO判定である場合)、締め付け完了判定部45は、後述のS49の処理を行う。一方、S43において、選定したクリック振動ピーク候補のピーク時刻から特定の時間差ΔTa内に他のクリック振動ピーク候補があると判定された場合(S43がYES判定である場合)、締め付け完了判定部45は、次のS44の判定処理を行う。
【0090】
S44の判定処理では、締め付け完了判定部45は、他のクリック振動ピーク候補の振動方向が第2クリック振動ピーク波形P2の振動方向であるか否かを判定する。この処理では、他のクリック振動ピーク候補のピーク値の正/負(符号)が、揺動部32の復方向の回転運動に対応する第2クリック振動ピーク波形P2の正/負(符号)と同じであれば、S44の判定処理はYES判定となる。一方、他のクリック振動ピーク候補のピーク値の正/負(符号)が第2クリック振動ピーク波形P2の正/負(符号)と異なる場合には、S44の判定処理はNO判定となる。図4に示す例では、揺動部32の復方向の回転運動に対応する第2クリック振動ピーク波形P2の値は正の値であるので、他のクリック振動ピーク候補のピーク値が正の値であれば、S44の判定処理はYES判定となる。
【0091】
S44において、他のクリック振動ピーク候補の振動方向が第2クリック振動ピーク波形P2の振動方向であると判定された場合(S44がYES判定である場合)、締め付け完了判定部45は、クリック振動が発生したと判定する(S45)。
【0092】
次いで、締め付け完了判定部45は、トルクレンチ1による締め付け動作が検出されているか否かを判定する(S46)。この処理では、締め付け動作抽出部43から入力された角速度信号Sbに含まれる緩やかな変動波形のピークに関する情報(所定の閾値を超える信号部分の時刻)に基づいて、作業者による締結部材の手締め作業の動作が行われているか否かが判定される。
【0093】
図4で説明したように、締結部材の締め付け作業では、クリック振動に伴い発生する第1クリック振動ピーク波形P1より前の所定時間範囲内において、手締め作業に対応する緩やかな変動波形W1が特定期間以上の長さで連続して発生する。それゆえ、S46の判定処理では、締め付け動作抽出部43からの入力情報に基づいて、クリック振動ピーク候補のピーク時刻より前の所定時間範囲内において、特定期間以上の長さで連続して発生する変動波形があるか否かが判定される。具体的には、締め付け完了判定部45は、選定されたクリック振動ピーク候補のピーク時刻より前の所定時間範囲内において、締め付け動作抽出部43で抽出された緩やかな変動波形内のピークを含む信号部分が所定数以上存在するか否かを判定する。そして、選定されたクリック振動ピーク候補のピーク時刻より前の所定時間範囲内において、緩やかな変動波形のピークを含む信号部分が所定数以上存在する場合には、手締め作業が行われたと判定され、S46の判定処理はYES判定となる。
【0094】
なお、S46での判定手法は上記例に限定されない。例えば、まず、締め付け完了判定部45は、締め付け動作抽出部43で抽出された緩やかな変動波形内の各ピークを含む信号部分においてピーク時刻を抽出する。そして、締め付け完了判定部45は、選定されたクリック振動ピーク候補のピーク時刻より前の所定時間範囲内において、抽出されたピークが所定数以上存在する場合には、手締め作業が行われたと判定してもよい。
【0095】
S46において、トルクレンチ1による締め付け動作が検出されていないと判定された場合(S46がNO判定である場合)、締め付け完了判定部45は、後述のS49の処理を行う。一方、S46において、トルクレンチ1による締め付け動作が検出されていると判定された場合(S46がYES判定である場合)、締め付け完了判定部45は、締め付け作業が完了したと判定する(S47)。
【0096】
ここで、再度、S44の判定処理の説明に戻る。S44において、他のクリック振動ピーク候補の振動方向が第2クリック振動ピーク波形P2の振動方向でないと判定された場合(S44がNO判定である場合)、締め付け完了判定部45は、クリック振動が発生していないと判定する(S48)。
【0097】
S48の処理後、又は、S42、S43或いはS46がNO判定である場合、締め付け完了判定部45は、締め付け作業でないと判定する(S49)。なお、ここでいう、「締め付け作業でない」場合には、締結部材に対する規定トルクでの締め付け作業が完了していない場合だけでなく、締結部材に対する締め付け作業自体が実施されていない場合も含まれる。
【0098】
そして、S47又はS49の処理後、締め付け完了判定部45は、全てのクリック振動ピーク候補を選定したか否かを判定する(S50)。
【0099】
S50において、全てのクリック振動ピーク候補を選定していないと判定された場合(S50がNO判定である場合)、締め付け完了判定部45は、処理をS41の処理に戻し、上述したS41以降の処理を行う。一方、S50において、全てのクリック振動ピーク候補を選定したと判定された場合(S50がYES判定である場合)、締め付け完了判定部45は、処理を終了する。
【0100】
なお、図10では図示していないが、締め付け完了判定部45による上記処理の終了後には、締め付け完了判定部45での判定結果、具体的には、上述したS47又はS49の判定結果が表示部14に出力され、表示される。そして、作業者は、表示部14に表示された締め付け作業の確認処理の判定結果に基づいて、締め付け作業が完了したか否かを判別する。
【0101】
(6)解析部による締め付け作業の確認処理の全体フロー
本実施形態では、上述した加速度ピーク抽出部41、角速度ピーク抽出部42、締め付け動作抽出部43、ピーク候補抽出部44及び締め付け完了判定部45による各処理が、ソフトウェア上で実行されることにより、締め付け作業の確認処理が行われる。この際、ピーク候補抽出部44(図9)の処理は、加速度ピーク抽出部41(図6)及び角速度ピーク抽出部42(図7)の処理後に行われ、締め付け完了判定部45(図10)の処理は、ピーク候補抽出部44(図9)及び締め付け動作抽出部43(図8)の処理後に行われる。
【0102】
また、加速度ピーク抽出部41(図6)、角速度ピーク抽出部42(図7)及び締め付け動作抽出部43(図8)の処理順序、並びに、ピーク候補抽出部44(図9)及び締め付け動作抽出部43(図8)の実行順序は任意である。なお、これらの処理は、任意の順序で実行されてもよいし、並列処理で実行されてもよい。
【0103】
[効果]
上述のように、本実施形態の締め付け確認装置10では、上述したクリック振動に伴い発生する角速度信号Sbと加速度信号Saとの関係性を利用して、角速度信号Sb及び加速度信号Saからクリック振動に対応する上述した各種ピーク波形を抽出する。それゆえ、本実施形態では、トルクレンチ1でボルトやナット等の締結部材を規定トルクで締め付けた際に発生するクリック振動を、トルクレンチ1と外部の部材との衝突等により発生する他の振動とは区別して検出することができる。この結果、トルクレンチ1と外部の部材との衝突等を回避するためにトルクレンチ1の使用タイミングや使用環境等を制限する必要が無くなる。すなわち、本実施形態では、トルクレンチ1を使用した締め付け作業において、使用上の制限が緩和され、締め付け作業が容易となる。
【0104】
[各種変形例]
以上、本発明の一実施形態に係る締め付け確認装置10、それを備えるトルクレンチ1及び締結部材の締め付け作業の確認処理について説明したが、本発明はこれらに限定されない。例えば、上記した実施形態例は本発明を分かりやすく説明するために装置の構成を詳細且つ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本発明は、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りその他種々の応用例、変形例を取り得る。例えば、次のような各種変形例が考えられ、下記各種変形例においても上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0105】
(1)変形例1
上記実施形態の締め付け確認装置10では、3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4を含むセンサ部2と、締め付け作業の確認処理を実行する解析部40とを別体として設ける構成例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、センサ部と、解析部とを締め付け確認装置において一体的に構成してもよい。
【0106】
図11は、センサ部と、解析部とを一体的に構成した締め付け確認装置の構成例(変形例1)を示す図である。なお、上記実施形態の締め付け確認装置10の構成部と同じ構成部については、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0107】
変形例1の締め付け確認装置50は、図11に示すように、3軸加速度センサ3と、3軸角速度センサ4と、マイクロプロセッサ51と、表示部52と、入力部53とを備える。締め付け確認装置50は、トルクレンチ1の外筒31、具体的には、外筒31に設けられた取手部(不図示)の近傍に取り付けられる。なお、締め付け確認装置50は、トルクレンチ1に対して着脱可能な構成としてもよいし、トルクレンチ1に対して着脱不可能な構成としてもよい。後者の場合には、締め付け確認装置50は、トルクレンチ1の一構成部となる。
【0108】
マイクロプロセッサ51は、内部にCPU、ROM、RAMを内蔵する演算処理装置である。そして、トルクレンチ1による締め付け作業の確認処理は、マイクロプロセッサ51に機能上含まれる解析部により実行される。なお、この例の解析部による締め付け作業の確認処理の内容は、上記実施形態の解析部40による処理内容と同じである。また、表示部52及び入力部53は、それぞれ、上記実施形態の表示部14及び入力部15と同様に構成することができる。
【0109】
マイクロプロセッサ51は、3軸加速度センサ3、3軸角速度センサ4及び表示部52と接続され、解析部は、3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4の検出信号を取得して、締め付け作業の確認処理を行い、その判定結果を表示部52に出力する。
【0110】
なお、変形例1の締め付け確認装置10の構成では、ハードウェア上の主な新規構成部は、3軸加速度センサ3、3軸角速度センサ4、マイクロプロセッサ51、表示部52及び入力部53となる。それに対して、上記実施形態の締め付け確認装置10のように、3軸加速度センサ3及び3軸角速度センサ4を含むセンサ部2と、解析部40(携帯情報端末5)とを別体として設けた場合には、ハードウェア上の新規構成部は、実質、センサ部2のみとなる。それゆえ、例えば、コスト等の観点では、変形例1の構成より、上記実施形態の構成の方が優位となる。
【0111】
(2)変形例2
上記実施形態では、締め付け作業の確認処理において、ボルトやナット等の締結部材に対する1回の締め付け作業毎に締め付け作業完了の有無を判定する構成例を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0112】
例えば、エスカレーターなどの乗客コンベアの点検において、一旦取り外したステップを再度固定する際に複数の締結部材に対して締め付け作業を行う場合、全ての締結部材に対する一連の締め付け作業が終了したときに、締め付け作業完了の有無を判定してもよい。この場合、例えば、一連の締め付け作業において規定トルクでの締め付けが完了した締結部材の個数、すなわち、締め付け完了回数を計数し、一連の締め付け作業の終了時に、締め付け完了回数に基づき、規定トルクでの締め付け作業が全て完了したか否かを判定する。
【0113】
(3)変形例3
上記実施形態では、締め付け完了判定部45において、ピーク候補抽出部44及び締め付け動作抽出部43からの入力情報に基づき、締め付け作業完了の有無を判定する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、締め付け動作抽出部43を設けずに、締め付け完了判定部45による締め付け作業完了の有無の判定を、ピーク候補抽出部44から入力される複数のクリック振動ピーク候補に関する情報のみで行ってもよい(変形例3-1)。
【0114】
この場合には、まず、締め付け完了判定部45は、角速度信号Sbのピーク波形と加速度信号Saのピーク波形との関係性から第1クリック振動ピークを特定する。次いで、締め付け完了判定部45は、角速度信号Sbにおけるクリック振動ピークの特徴から第2クリック振動ピークを特定して、締結部材に対する締め付け作業完了の有無を判定する。この場合、図8に示す締め付け動作抽出部43の処理、並びに、図10に示す締め付け完了判定部45による処理中のS45、S46及びS48(又はS46、S47及びS49)の処理を省略することができ、処理負荷を低減することができる。ただし、上記実施形態のように、第1クリック振動ピーク及び第2クリック振動ピークを特定するとともに、締め付け動作抽出部43を設けて手締め作業が行われているか否かを判定した場合には、締め付け作業完了をより正確(確実)に判定することができる。
【0115】
また、例えば、締め付け完了判定部45において、クリック振動ピークとして、第1クリック振動ピークのみを特定するとともに、手締め作業が行われているか否かを判定して、締め付け作業完了の有無を判定してもよい(変形例3-2)。この場合には、図10に示す締め付け完了判定部45による処理中のS43~S45及びS48の処理の処理を省略することができ、処理負荷を低減することができる。また、例えば、トルクレンチ1と外部の部材との衝突が発生し難い作業環境では、締め付け完了判定部45において、第1クリック振動ピークのみを特定して、締め付け作業完了の有無を判定してもよい(変形例3-3)。さらに、例えば、作業環境等の条件等に応じて、作業者が、上述した実施形態、変形例3-1~3-3で説明した締め付け完了判定部45による締め付け作業完了の判定処理を適宜切り替え可能な構成にしてもよい(変形例3-4)。この場合には、あらゆる作業環境に対して適切に対応可能となる。
【0116】
(4)変形例4
上記実施形態及び各種変形例では、締め付け確認装置又はその一部(センサ部)をトルクレンチ1に取り付けて使用する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。締め付け確認装置又はその一部(センサ部)の設置位置は、トルクレンチ1で発生するクリック振動及び締結部材に対する作業者の締め付け作業の動作を、加速度センサ及び角速度センサで検出できる位置であれば任意に設定することができる。例えば、締め付け確認装置又はその一部(センサ部)を作業者のトルクレンチ1を把持する手の手首に取り付けてもよい。
【符号の説明】
【0117】
1…トルクレンチ、2…センサ部、3…3軸加速度センサ、4…3軸角速度センサ、5…携帯情報端末、10…締め付け確認装置、31…外筒、32…揺動部、33…トルク制御機構、34…初期接触部、35…規定トルク時接触部、40…解析部、41…加速度ピーク抽出部、42…角速度ピーク抽出部、43…締め付け動作抽出部、44…ピーク候補抽出部、45…締め付け完了判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11