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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147956
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】回転切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23D 77/00 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
B23D77/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060739
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 治男
【テーマコード(参考)】
3C050
【Fターム(参考)】
3C050EA00
3C050EB03
3C050EB06
3C050EB09
3C050EC01
(57)【要約】
【課題】加工品質の高い回転切削工具を提供する。
【解決手段】台金と、台金の外周側に設けられたチップとを備え、チップのすくい面と外周逃げ面との境界部に外周切れ刃が設けられ、外周切れ刃の回転方向後側にはマージンが設けられ、マージンに深さ0.005mm以上0.5mm以下の溝が設けられ、溝は前記外周切れ刃に平行または角度を有して設けられ、溝の工具先端側は、外周切れ刃の稜線より回転方向後ろ側に設けられる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台金と、前記台金の外周側に設けられたチップとを備え、
前記チップのすくい面と外周逃げ面との境界部に外周切れ刃が設けられ、
前記外周切れ刃の回転方向後側にはマージンが設けられ、
前記マージンに深さ0.005mm以上0.5mm以下の溝が設けられ、
前記溝は前記外周切れ刃に平行または角度を有して設けられ、
前記溝の工具先端側は、前記外周切れ刃の稜線より回転方向後ろ側に設けられた回転切削工具。
【請求項2】
前記溝の幅は、0.03mm~0.15mmである請求項1に記載の回転切削工具。
【請求項3】
前記溝の工具先端側の部分は、前記外周切れ刃の稜線に最も近く、工具後端側へ向かうほど前記外周切れ刃の稜線から離れるように設けられる請求項1または2に記載の回転切削工具。
【請求項4】
前記溝のピッチは少なくとも工具の1回転当たりの送り量以下である、請求項1または2に記載の回転切削工具。
【請求項5】
前記溝の断面形状は、台形または円形である、請求項1または2に記載の回転切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転切削工具は、たとえば特開2014-87856号公報(先行文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-87856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転切削工具では加工品質が低いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
回転切削工具は、台金と、前記台金の外周側に設けられたチップとを備える。前記チップのすくい面と外周逃げ面との境界部に外周切れ刃が設けられる。前記外周切れ刃の回転方向後側にはマージンが設けられる。前記マージンに深さ0.005mm以上0.5mm以下の溝が設けられる。前記溝は前記外周切れ刃に平行または角度を有して設けられる。前記溝の工具先端側は、前記外周切れ刃の稜線より回転方向後ろ側に設けられる。
【0006】
本開示は、自動車向けアルミニウムの基幹部品(シリンダーヘッド/ブロック/ステアリング/油圧コントロールバルブ)、燒結金属などの穴仕上げ加工用で、ワーク孔の表面粗さの改善や径収縮が問題となる肉厚が薄い部品などに高精度な加工を行うことができるPCD(Polycrystalline Diamond)回転切削工具に関する。
【0007】
従来、アルミニウム部品の内径仕上げ切削加工に超硬リーマまたはPCDリーマなどが使用される。一般的に孔加工後の内径は弾性回復するために収縮したり、リーマの振れにより拡大するなど、内径を決めるリーマ径の設定は非常に難しい。
【0008】
一般的にリーマ径は、内径公差上限値から1~3μm小さくすると共に、刃径公差幅を5μm前後で設定される。
【0009】
上記の公差のリーマ工具を用いて加工すると、リーマ径に対し孔径は2~3μm小さくなる結果、刃径値より3~6μm程度小さな値で加工が始まる。すなわち、加工径収縮量は2~3μmであり刃径の設定範囲は1~3μmである。
【0010】
具体例には、φ18H7(+0.018/0)(H7は、はめあいで用いる孔の寸法許容差:JIS B 0401-1,-2(1998))を対象にした場合、刃径φ18.016+0/-0.005で収縮量3μmの場合、φ18.008~18.013と許容公差の中央値以下からスタートになる。
【0011】
また、使い続けていくと、切れ味の低下と共に内径も小さくなるため、公差下限値の1~2μm手前で工具交換が行われることから、収縮量の制御は工具寿命を左右するとも言える。
【0012】
その結果、工具径を公差上限側にすることで、工具寿命が長くすることができるため、内径収縮抑制のニーズがある。
【0013】
そのニーズ実現する為、内径サイズまたは加工部位の厚みなどによる内径変化を経験および前例を想定して、リーマ径およびマージン幅などを決定している。
【0014】
アルミニウム部品は、高機能および燃費向上を狙いに複雑形状および軽量化の設計が広まっている。さらに、生産性向上を狙いに、工具の送り速度を高めて時間短縮や、2工程を1工程に集約するなどの取り組みがなされている。
【0015】
複雑形状/軽量化によってワークは薄肉になる傾向にあり、薄肉ワークを高送り加工する。その結果、切削抵抗が増加と切削点温度が高くなり、弾性変形量が増える結果、径変化が大きくなる。また、連続加工では、リーマ切れ刃の食付き部の摩耗で、切削抵抗が増加するため、品質確保が難しくなる。
【0016】
クーラントを用いて、切れ刃およびワークを冷却し、収縮抑制の対策を講じるものの、(1)狙い位置に供給されない、(2)再研磨によりクーラント供給位置がずれる、に加え、(3)切れ刃外周(マージン)と内径の界面にクーラントが行き届いてない為、マージンでの摩擦熱発生を起因とした温度変化による収縮、および微小な切り屑が加工孔内面とマージンとの隙間へ噛込み傷が発生する、等で内径品質の悪化を招く。
【0017】
内径や真円度などの品質改善として、内径を決定する切れ刃外周(マージン)と内径の境界にクーラントを供給し、加工時の切削熱の抑制できる構造として、マージンに溝を設けることを考案した。
【0018】
本開示のPCD回転切削工具は、以下の構成を有する。
【0019】
A)台金と、台金の外周側に設けられたチップとを備える。
【0020】
B)チップのすくい面と外周逃げ面との境界部に外周切れ刃が設けられる。
【0021】
C)外周切れ刃の回転方向後側にはマージンが設けられる。
【0022】
D)マージンに深さ0.005~0.5mmの溝が設けられる。
【0023】
E)溝は外周切れ刃に平行または角度を有して設けられる。
【0024】
F)溝の工具先端側は、外周切れ刃の稜線より回転方向後ろ側に設けられる。
【0025】
このように構成された回転切削工具においては加工品質が高いものとなる。
【0026】
好ましくは、以下の構成を有する。
【0027】
G)溝の幅は、0.03~0.15mmとする。
【0028】
H)溝の工具先端側の部分は外周切れ刃の稜線に最も近く、工具後端側へ向かうほど外周切れ刃の稜線から離れるように設けられる。
【0029】
I)溝のピッチは少なくとも工具の1回転当たりの送り量以下としても良い。
【0030】
J)溝の断面形状は台形もしくは円形とする。
【0031】
マージンに溝を形成することで、内径を決定する切れ刃外周(マージン)と加工孔内面径の境界にクーラントが供給されるため、加工時の切削熱が抑制できて内径変化が小さくなり、内径品質が安定する。
【0032】
また、外周切れ刃の稜線の回転方向後ろ側の直近部には溝が無いので、外周切れ刃全体にわたり小さい幅でマージンが作用して安定したバニシング作用が行える。
【0033】
さらに、再研磨時においても新品時と同様の性能の切刃を再現することができ、工具寿命が延びランニングコストが下がる。
【0034】
溝を設ける具体的手段として、熱加工(レーザー)を採用することができる。
【0035】
WEDM(Wire Electric Discharge Machinning)の場合、刃間ピッチが狭い(小径+多刃)ときに、前後の切れ刃にワイヤー干渉を招くこと、すくい面に対し傾斜を設ける事が難しく、溝形成に制限を受けてしまうため好ましくない。
【0036】
加工孔の径収縮は、切削時の摩擦熱と押しつけ力に依存すると考えられる。
【0037】
マージンに溝を付けることで、切れ刃やマージンにクーラントが供給されるとともに、より加工点の近くにクーラントが供給されやすくなるので、切り屑排出が促進される。
【0038】
また、マージンの面積が分割され接触圧力高くなり、バニシング作用が効果的に作用する。
【0039】
マージンの溝深さが0.005mm未満では、クーラントが溝に入りにくくなり、マージン面と加工孔内面との隙間にクーラントが供給されにくい。また、溝深さが0.5mmを超えるとクーラントと共に微小な切り屑がマージン面と加工孔内面との隙間に入り込みやすくなる為、表面品位の低下を招きやすくなる。このようなことから、溝深さは0.005mm以上0.5mm以下とする。これにより、マージン面と加工孔内面との隙間にクーラントが効率よく供給され、ワークの冷却効果と微小な切屑排出効果も高まる。その結果、加工孔の内径収縮が抑制され、孔内面の表面あらさも向上して真円度や円筒度が向上する。
【0040】
溝の幅は、0.03mm以上0.15mm以下とするのが好ましい。溝の形成はレーザー加工で行うのが好ましく、レーザービームの最小径が0.03mmのため、溝の幅は0.03mm以上となる。また、0.15mm以下とするのは、一刃の最大送り量が0.15mmのため、バニシング作用の低下を防ぐよう0.15mm以下とする。これにより、加工孔の真円度や円筒度が向上する。
【0041】
溝の先端は外周切れ刃稜線に近く、後端に向かい稜線から離れるように傾斜させることで、切れ刃付近に供給されたクーラントが回転と送りにより排出されやすく、微小な切り屑も滞留しにくくなる。また、外周切れ刃稜線の直後はマージンに溝が無いので、加工孔内面に対してマージンが安定して接触し、加工孔内面の荒れが生じるのを防ぐ。
【0042】
溝のピッチを工具1回転あたりの送り量以下としてもよい。送り量以上のピッチだと溝の数が少なく、マージン面と加工孔内面の隙間全体へクーラントが供給されにくくなり、冷却効果が低下おそれがある。そのため、加工孔内面の表面あらさの悪化や真円度、円筒度が低下しやすいため、溝のピッチは工具1回転あたりの送り量以下としてもよい。なお、「おそれがある」とは、僅かながらそのようになる可能性があることを示し、高い確率でそのようになることを意味するものではない。
【0043】
溝の断面形状を台形または円形にするのは、微小な溝でもクーラントが入りやすく、排出されやすくするためである。このような形状にすることで、孔径収縮の抑制と孔内面の表面あらさを向上させることができる。
【0044】
特許文献1は、外周切れ刃に沿ってマージンが設けられ、マージンには外周切れ刃の延在方向に沿って凹凸が付与されている。この凹凸の凹部や凸部は、特許文献1に記載の例では周方向(回転方向)と平行になるように形成されている。この凹凸により、加工中に目詰まりを防止するとともに、加工する孔内面の表面あらさを適度な粗さとすることができるようにするものである。
【0045】
これに対し本開示においては、加工する孔内面の表面あらさを小さくして高精度な面にするとともに、孔内面に焼けなどが発生するのを防ぐ作用効果があり、本開示は特許文献1とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1は、実施の形態1に従った回転切削工具1の斜視図である。
図2図2は、実施の形態1に従った回転切削工具1の側面図である。
図3図3は、図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。
図4図4は、実施の形態1の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の斜視図である。
図5図5は、実施の形態1の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の側面図である。
図6図6は、図5中のVI-VI線に沿ったマージン120および溝130の断面図である。
図7図7は、実施の形態2の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の斜視図である。
図8図8は、実施の形態3の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0048】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に従った回転切削工具1の斜視図である。図1で示すように、回転切削工具1は台金2を有する。台金2の長手方向に沿って延びるようにフルート3が設けられている。台金2は、たとえば超硬合金により構成される。
【0049】
フルート3の先端にはチップ10が設けられている。チップ10は多結晶ダイヤモンドにより構成されている。チップ10は単結晶ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素により構成されていてもよい。
【0050】
チップ10にクーラントを供給するためのクーラント吐出孔4が台金2に設けられている。クーラント吐出孔4からは切削加工中にクーラントが供給されてクーラントがワークと接触するチップ10に供給される。これにより切削抵抗を低減できる。
【0051】
台金2の先端には4つのチップ10が設けられている。チップ10の数は、4よりも多くてもよく、少なくてもよい。
【0052】
図2は、実施の形態1に従った回転切削工具1の側面図である。図2で示すように、台金2が長手方向に延びている。台金2には長手方向に延びるようにクーラント幹孔5が設けられている。クーラント幹孔5の先端は枝分かれしており、クーラント吐出孔4に繋がっている。
【0053】
図3は、図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す図である。図4は、実施の形態1の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の斜視図である。図3および図4で示すように、チップ10にはすくい面140が設けられている。
【0054】
すくい面140は外周切れ刃110、斜め切れ刃111および前切れ刃112に囲まれている。外周切れ刃110、斜め切れ刃111および前切れ刃112は、この実施の形態では直線形状である。しかしながら、外周切れ刃110、斜め切れ刃111および前切れ刃112の少なくとも1つが曲線形状であってもよい。斜め切れ刃111は設けられていなくてもよい。
【0055】
外周切れ刃110の回転方向後ろ側にマージン120が設けられている。マージン120の回転方向後ろ側に外周逃げ面150が設けられている。マージン120は、回転切削において工作物と接触する部分、外周逃げ面150は、回転切削において工作物と接触しない部分である。マージン120は曲面形状を有する。マージン120が工作物と接触することでバニシング作用を発揮する。
【0056】
マージン120に複数の溝130が設けられている。複数の溝130は互いに間隔を隔てて、かつ、外周切れ刃110に到達しないように設けられている。溝130は矢印20で示す長手方向(送り方向)と平行または矢印20で示す方向に角度を有している。これによりクーラントが溝130内を流れやすくなる。その結果、溝130内に切り屑が詰まる、いわゆる目詰まりを防止できる。
【0057】
チップ10には斜め切れ刃111およびそれに連続する斜め切れ刃逃げ面151が設けられている。チップ10には前切れ刃112およびそれに連続する前切れ刃逃げ面152が設けられている。
【0058】
図5は、実施の形態1の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の側面図である。図6は、図5中のVI-VI線に沿ったマージン120および溝130の断面図である。図5および図6で示すように溝130の断面は半円形である。溝130の断面は矩形であってもよい。溝130の断面は台形であってもよい。
【0059】
溝130の深さDは0.005mm以上0.5mm以下である。溝130の深さが0.005mm未満では、クーラントが溝130に入りにくい。その結果、マージン120の表面と加工孔の内面との隙間にクーラントが供給されにくい。
【0060】
溝130の深さDが0.5mmを超えるとクーラントと共に微小な切り屑が溝130を経由してマージン120の表面と加工孔の内面との隙間に入り込みやすくなる。その結果、表面品位の低下を招きやすくなる。
【0061】
溝130の深さおよび幅はデジタルマイクロスコープもしくは非接触三次元測定機によって測定する。溝130の深さは溝130の深さの最も深い部分における深さである。溝130の幅Wは制限されるものではない。溝130の幅Wは、0.03mm以上0.15mm以下とするのが好ましい。溝130の幅Wは溝130の延びる方向に垂直な方向に沿って、溝130の外周切れ刃110に最も近い部分において測定する。溝130のピッチPは回転切削工具1の1回転あたりの送り量以下であることが好ましい。溝130のピッチは各溝130の最も前切れ刃112に近い部分を基準として測定する。
【0062】
(実施の形態2)
図7は、実施の形態2の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の斜視図である。実施の形態2に従ったチップ10においては、複数の溝130において、外周切れ刃110からの距離が異なる。ある溝130aから外周切れ刃110までの距離L1は後端側に位置する他の溝130bから他の外周切れ刃110までの距離L2より短い。
【0063】
すなわち、実施の形態2においては前切れ刃112側の溝130において外周切れ刃110に近いように配置されている。これにより、切削条件が厳しい前切れ刃112側において多くのクーラントを供給することができる。一方、後端側では溝130と外周切れ刃110との距離を大きくすることでマージン120におけるバニシング効果を高めることができる。
【0064】
(実施の形態3)
図8は、実施の形態3の回転切削工具1に取り付けられるチップ10の側面図である。実施の形態3に従ったチップ10においては、複数の溝130において、図5と逆方向に溝130が傾斜している点において、実施の形態1のチップと異なる。
【0065】
[本開示の実施形態の詳細]
(実施例)
φ12-4NT(マージン幅0.2)×の1段リーマ(刃径12mm、4枚刃の1段リーマ)で、アルミニウム合金(ADC12)の下穴φ11mm深さ30mmを孔径12mmに加工する実験を行った。
【0066】
(下孔の形成)
アルミニウム合金に内径11mm、深さ30mmの貫通孔である下孔を形成した。下孔の形成条件は、切削速度Vが100m/min、回転数Sが2895/min、送りfが0.25mm/rev、送りFが724mm/revである。
【0067】
(リーマの製造)
表1に示すような、様々なリーマを製造した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の「すくい面への溝の貫通有無」の欄において、「溝無」とは図3から図7で示すような溝130が設けられていないことをいう。「溝貫通」とは図3から図8で示すような溝130が設けられているものの溝130が外周切れ刃110にまで到達しているため溝130がすくい面140に貫通していることをいう。「溝非貫通」とは、図3から図8のように溝130が設けられてすくい面140に貫通していないことをいう。「溝の角度」の欄において正の角度は図5の傾斜、負の角度は図8の傾斜をいう。
【0070】
すべての試料において、4枚のチップ10は多結晶ダイヤモンドにより構成される。多結晶ダイヤモンドの平均粒径は8(6~10)μmである。4枚のチップ10の寸法は、外周切れ刃110の長さが5mm、斜め切れ刃111の長さが1.41mm、前切れ刃112の長さが2mm、マージンの回転方向の長さが0.2mmである。
【0071】
ダイヤモンド粒子の平均粒径を測定するには、多結晶ダイヤモンドを走査型電子顕微鏡により、5μm×5μmの範囲で、任意の3か所を写真撮影する。写真撮影された画像から、個々のダイヤモンド粒子を抽出し、抽出したダイヤモンド粒子を2値化処理して各ダイヤモンド粒子の面積を算出する。そして、各ダイヤモンド粒子と同じ面積を持つ円を想定し、この円の直径をダイヤモンド粒子の粒径とする。各ダイヤモンド粒子径(円の直径)の算術平均値を平均粒径とする。
【0072】
これらのリーマを用いて、直径11mmの貫通孔を直径12mmとする加工を行った。具体的には、下穴径(φ)が11mm、刃径(φ)が12mm、切削速度Vが200m/min、主軸回転数Sが5308(/min)、送りfが0.4(mm/rev)、送り速度Fが2123(mm/min)、一刃あたりの送りfzが0.10(mm/刃)、クーラントがJISW1種8%希釈液である。
【0073】
加工後の孔の真円度、円筒度、表面粗さ、内径および半径方向の切削抵抗を求めた。それらの結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
孔の真円度・円筒度は、真円度・円筒度測定機(株式会社東京精密製ロンコム65A等)を使い、JIS B0621(1984)で規定されている内容に従い、測定した。なお、測定データは、MZC最小領域中心法により測定した数値である。
【0076】
評価基準は、真円度は、AA:3μm未満、A:3μm以上4μm未満、B:4μm以上で、Bが不合格である。円筒度は、AA:4μm未満、A:4μm以上6μm未満、B:6μm以上で、Bが不合格である。
【0077】
「表面粗さRz」はJIS B 0601-2001に従い、孔の入口から4mmの深さまでの部分の表面あらさと孔の出口から4mm手前の深さまでの部分表面あらさの平均値とした。表面粗さRzが3.2μmRz以下であれば良品、3.2μmRzを超えると不良品とした。
【0078】
「内径」は、刃径に対する内径の差であり、内径-刃径の値である。内径品位の合否ラインに関して「内径」が±3μmを超えると不良品、「内径」が±1~2μmの範囲であれば良品、「内径」が±0~1μmの範囲であれば最良品とした。
【0079】
半径方向の切削抵抗は、孔加工時に3成分動力計で切削抵抗を測定し、試料番号101の溝無しの従来品の切削抵抗を100としたときの切削抵抗の指数で表している。たとえば試料番号102における「98%」とは、試料番号102の切削抵抗/試料番号101の切削抵抗の値が98%であることを示している。
【0080】
溝無しの試料番号101は、クーラントが加工面に供給されにくい。結果、加工熱による内径収縮と、収縮による抵抗が高くなる。
【0081】
試料番号102では、送り設定値と溝ピッチによって、表面粗さが制御される。すくい面と外周マージンが交わる稜線部まで溝が貫通し、その貫通により稜線部に形成された凹凸に切り屑が介入し、品位低下する場合がある。本仕様の工具は、真円度、表面粗さおよび内径が悪化する。
【0082】
試料番号1では、内径変化および抵抗が抑制され、加工点の冷却と洗浄効果により表面粗さや真円度/円筒度が改善された。
【0083】
試料番号2では、試料番号1と同様の性能を発揮する。
【0084】
試料番号3では、試料番号1より、抵抗を減らす効果が小さい。
【0085】
試料番号4は、試料番号1と同様である。
【0086】
試料番号103は、試料番号101と同じ傾向を示した。
【0087】
試料番号104に関して、溝深さ大きくした場合、PCD層を超え超硬基材に溝が及び、チップ強度低下によりチッピングが発生した。その結果表面粗さが悪化した。
【0088】
試料番号11および12では、試料番号1および2より、表面粗さが若干悪化し、さらに、抵抗減効果が小さい。
【0089】
試料番号13では、試料番号1および2よりバニシング作用が弱く、表面あらさが若干悪い。
【0090】
試料番号14では、試料番号1~4と比較して溝幅を大きくしたため、バニシング効果が低下し、内径差が大きくなり品質が低下した。さらに抵抗バラツキが発生した。
【0091】
試料番号21は試料番号2と同様だが、溝方向が逆の影響で表面粗さが悪化し、抵抗の値も悪化した。
【0092】
試料番号31は試料番号2と同様の結果である。
【0093】
試料番号32から34において、工具1回転あたりの送り量以上のピッチであったため、冷却効果低く、内径収縮抑制機能が弱くなり、さらに表面粗さが若干悪化した。
【0094】
試料番号41は試料番号1と同様の結果である。
【0095】
試料番号42では、溝形状が長方形であるため、クーラントの出入りが少し悪く、表面あらさが若干悪化した。
【0096】
(付記1)
台金と、前記台金の外周側に設けられたチップとを備え、
前記チップのすくい面と外周逃げ面との境界部に外周切れ刃が設けられ、
前記外周切れ刃の回転方向後側にはマージンが設けられ、
前記マージンに深さ0.005mm以上0.5mm以下の溝が設けられ、
前記溝は前記外周切れ刃に平行または角度を有して設けられ、
前記溝の工具先端側は、前記外周切れ刃の稜線より回転方向後ろ側に設けられた回転切削工具。
【0097】
(付記2)
前記溝の幅は、0.03mm~0.15mmである付記1に記載の回転切削工具。
【0098】
(付記3)
前記溝の工具先端側の部分は、前記外周切れ刃の稜線に最も近く、工具後端側へ向かうほど前記外周切れ刃の稜線から離れるように設けられる付記1または2に記載の回転切削工具。
【0099】
(付記4)
前記溝のピッチは少なくとも工具の1回転当たりの送り量以下である、付記1から3のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【0100】
(付記5)
前記溝の断面形状は、台形または円形である、付記1から4のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
1 回転切削工具、2 台金、3 フルート、4 クーラント吐出孔、5 クーラント幹孔、10 チップ、20 矢印、110 外周切れ刃、111 斜め切れ刃(コーナーエッジ)、112 前切れ刃(底刃)、120 マージン、130,130a,130b 溝、140 すくい面、150 外周逃げ面、151 斜め切れ刃逃げ面、152 前切れ刃逃げ面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8