(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147967
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ガラス積層体の製造方法およびガラス積層体
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20241009BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C03C17/34 A
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060759
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢野 孝伸
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AK25B
4F100AK42C
4F100AK42E
4F100AK53D
4F100AT00E
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100CB00D
4F100CB05B
4F100EJ17
4F100EJ91C
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JK07C
4F100JK14
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC16
4G059AC18
4G059FA15
4G059FA19
4G059FB05
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA07
4G059GA11
(57)【要約】
【課題】ガラス部材を他の部材に加圧接着させたときにガラス部材に打痕が残ることを抑制する。
【解決手段】ガラス積層体は、第1主面および第2主面を有するガラス部材を少なくとも含む。ガラス積層体の製造方法は、前記第1主面に、粘着剤層を介して保護フィルムを貼付する第1工程を含む。前記ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1であり、F0およびF1の単位は、N・mmである。F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および第2主面を有するガラス部材を少なくとも含むガラス積層体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記第1主面に、粘着剤層を介して保護フィルムを貼付する第1工程を含み、
前記ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、
前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1であり、
F0およびF1の単位は、N・mmであり、
F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である、ガラス積層体の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス積層体は、さらに、前記第2主面側に配置された基材フィルムと、前記基材フィルムおよび前記ガラス部材の間に介在する接着剤層と、を含む、請求項1に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項3】
前記製造方法は、さらに、前記第1工程の後に、前記第2主面に、前記接着剤層を介して前記基材フィルムを加圧下で貼付する第2工程を含む、請求項2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程の後に、前記保護フィルムおよび前記粘着剤層を、前記第1主面から剥離する第3工程を含む、請求項3に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項5】
前記粘着剤層の25℃における押込み弾性率は、50MPa以上500MPa以下である、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項6】
前記保護フィルムの厚さは、100μm以下である、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項7】
前記粘着剤層の厚さは、5μm以上である、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス部材の厚さは、50μm以下である、請求項1または2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項9】
第1主面および第2主面を有するガラス部材と、
前記第1主面側に配置された保護フィルムと、
前記ガラス部材および前記保護フィルムの間に介在する粘着剤層と、を少なくとも含み、
前記ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、
前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1であり、
F0およびF1の単位は、N・mmであり、
F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である、ガラス積層体。
【請求項10】
前記粘着剤層の25℃における押込み弾性率は、50MPa以上500MPa以下である、請求項9に記載のガラス積層体。
【請求項11】
前記保護フィルムの厚さは、100μm以下である、請求項9または10に記載のガラス積層体。
【請求項12】
前記粘着剤層の厚さは、5μm以上である、請求項9または10に記載のガラス積層体。
【請求項13】
前記ガラス部材の厚さは、50μm以下である、請求項9または10に記載のガラス積層体。
【請求項14】
さらに、
前記第2主面側に配置された基材フィルムと、
前記基材フィルムおよび前記ガラス部材の間に介在する接着剤層と、を含む、請求項9または10に記載のガラス積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、カバーウィンドウ向けのガラス部材を含むガラス積層体の製造方法およびガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ガラス板と、接着剤層と、フィルムとを厚み方向一方側に向かって順に備え、
前記ガラス板は、40μm未満の厚みを有し、
周波数10Hz、昇温速度2℃/min、引張モードの動的粘弾性試験により求められる-100℃から-50℃における前記フィルムのtanδの平均が、0.04以上であり、
前記動的粘弾性試験により求められる-100℃から-50℃における前記フィルムの引張貯蔵弾性率E’の平均が、3GPa以上、6GPa以下である、光学積層体を提案している。特許文献1以外にも、ガラス板を備える光学積層体がいくつか提案されている(特許文献2~4など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-83323号公報
【特許文献2】特開2022-83324号公報
【特許文献3】特開2022-83325号公報
【特許文献4】特開2022-83326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薄ガラスなどのガラス部材は、傷付きを防止するとともに、ある程度の取り扱い性を確保する観点から、保護フィルムとのガラス積層体の形態で製品への加工工程などに供される。しかし、ガラス部材に保護フィルムを貼り付ける際に、ガラス部材と保護フィルムとの間に異物が入り込むことがある。間に異物を挟んだ状態のガラス部材と保護フィルムとを、接着剤層を介して基材フィルムなどの他の部材に加圧接着させたときに、異物によってガラス部材に打痕が残ることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面は、第1主面および第2主面を有するガラス部材を少なくとも含むガラス積層体の製造方法であって、
前記製造方法は、
前記第1主面に、粘着剤層を介して保護フィルムを貼付する第1工程を含み、
前記ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、
前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1であり、
F0およびF1の単位は、N・mmであり、
F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である、ガラス積層体の製造方法に関する。
【0006】
本発明の第2側面は、第1主面および第2主面を有するガラス部材と、
前記第1主面側に配置された保護フィルムと、
前記ガラス部材および前記保護フィルムの間に介在する粘着剤層と、を少なくとも含み、
前記ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、
前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1であり、
F0およびF1の単位は、N・mmであり、
F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である、ガラス積層体に関する。
【発明の効果】
【0007】
ガラス部材を他の部材に加圧接着させたときにガラス部材に打痕が残ることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態に係るガラス積層体の概略縦断面図である。
【
図2】本開示の他の実施形態に係るガラス積層体の概略縦断面図である。
【
図3】本開示のさらに他の実施形態に係るガラス積層体の概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
薄ガラスなどのガラス部材は、カバーウィンドウなどの用途に用いられることがある。カバーウィンドウには屈曲性が求められる。しかし、薄ガラスなどのガラス部材を用いたカバーウィンドウでは、ガラス部材の表面に傷が付くと、屈曲性が顕著に低下する。一方、薄ガラスなどのガラス部材は、屈曲し易いことで、製品への加工工程などにおいて取り扱いが難しい。そのため、保護フィルムを、粘着剤層を介してガラス部材に貼り付けた状態で加工工程に供されることがある。ガラス部材には、一般に、製造または加工の際に生じたカレットが多数付着している。ガラス部材を徹底洗浄すればカレットの除去は可能ではあるが洗浄によってガラス部材に傷が付く虞がある。そのため、ガラス部材に傷を付けずに、全てのカレットを除去することは難しい。保護フィルム付のガラス部材を、保護フィルムとガラス部材との間にカレットなどの異物が挟まった状態で、他の部材に接着剤層を介して加圧接着させると、異物によってガラス部材に打痕が残る場合がある。保護フィルムを粘着剤層とともに、ガラス部材から剥離すると、打痕が表面に現れるためガラス部材の外観性に劣る。
【0010】
上記に鑑み、(1)本発明の第1側面に係るガラス積層体の製造方法は、第1主面および第2主面を有するガラス部材を少なくとも含むガラス積層体の製造方法であって、この製造方法は、第1主面に、粘着剤層を介して保護フィルムを貼付する第1工程を含む。ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、保護フィルムの曲げ剛性は、F1である。F0およびF1の単位は、N・mmである。F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である。以下、粘着剤層を介して保護フィルムが貼り付けられたガラス部材を「保護フィルム付ガラス部材」と称することがある。
【0011】
上記(1)によれば、ガラス部材および保護フィルムがF1/F0≦2.50の関係を充足するため、保護フィルムがガラス部材に比較して十分に柔軟で、応力が加わっても緩和することができる。よって、ガラス部材と保護フィルム(より具体的には粘着剤層)との間に異物が挟まった状態で、保護フィルム付ガラス部材を、接着剤層を介して他の部材に加圧接着させたときに、異物によってガラス部材に打痕が残ることを抑制できる。
【0012】
なお、本明細書中、「打痕」とは、ガラス部材の主面に、例えば、異物などを介して、局所的に圧力が加わることで凹みが形成されたとき、時間が経過しても解消されない凹みを言う。
【0013】
(2)上記(1)において、ガラス積層体は、さらに、第2主面側に配置された基材フィルムと、基材フィルムおよびガラス部材との間に介在する接着剤層と、を含んでもよい。このようなガラス積層体では、保護フィルムとガラス部材との間に異物が挟まった状態で基材フィルムと接着される際に打痕が残りやすい。本発明では、このようなガラス積層体であっても、上記のようにF1/F0比を特定の範囲とすることによって打痕が残ることが抑制される。
【0014】
(3)上記(2)において、ガラス積層体の製造方法は、さらに、第1工程の後に、第2主面に、接着剤層を介して基材フィルムを加圧下で貼付する第2工程を含んでもよい。第1工程で形成される保護フィルム付ガラス部材において、ガラス部材と保護フィルムとの間に異物が挟まっていると、第2工程で加圧したときに、ガラス部材に打痕が形成され易い。本発明では、製造方法が第2工程を含む場合でも、上記のようにF1/F0比を特定の範囲とすることによってガラス部材に打痕が残ることが抑制される。
【0015】
(4)上記(3)において、ガラス積層体の製造方法は、第2工程の後に、保護フィルムおよび粘着剤層を、第1主面から剥離する第3工程を含んでもよい。ガラス部材に打痕が形成されると、保護フィルムおよび粘着剤層をガラス部材から剥離したときに、ガラス部材の第1主面が露出することで、打痕が露わになり、外観性が損なわれる。このような場合でも、本発明では、打痕自体が低減されることで、ガラス部材の高い外観性を維持することができる。
【0016】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、粘着剤層の25℃における押込み弾性率は、50MPa以上500MPa以下であってもよい。この場合、F1/F0比を上記の範囲とすることによる打痕の抑制効果がさらに発揮され易い。
【0017】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、保護フィルムの厚さは、100μm以下であってもよい。保護フィルムの厚さがこのような範囲である場合、保護フィルムが変形し易いため、F1/F0比を特定の範囲とすることに加えて、異物による応力を緩和し易く、ガラス部材に打痕が形成されることを抑制できる。
【0018】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、粘着剤層の厚さは、5μm以上であってもよい。この場合、粘着剤層および保護フィルムによって、異物による応力が緩和されることで、ガラス部材に打痕が形成されることを抑制できる。
【0019】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つにおいて、ガラス部材の厚さは、50μm以下であってもよい。ガラス部材の厚さが50μm以下の場合には、50μmを超える場合に比べて異物による変形の影響が顕在化し易い。このような場合であっても、本発明では、F1/F0比を特定の範囲とすることによってガラス部材に打痕が形成されることを抑制できる。
【0020】
(9)本発明には、ガラス積層体も包含される。ガラス積層体は、第1主面および第2主面を有するガラス部材と、第1主面側に配置された保護フィルムと、ガラス部材および保護フィルムの間に介在する粘着剤層と、を少なくとも含む。ガラス部材の曲げ剛性は、F0であり、前記保護フィルムの曲げ剛性は、F1である。F0およびF1の単位は、N・mmである。F1のF0に対する比:F1/F0は、2.50以下である。
【0021】
(10)上記(9)において、粘着剤層の25℃における押込み弾性率は、50MPa以上500MPa以下であってもよい。
【0022】
(11)上記(9)または(10)において、保護フィルムの厚さは、100μm以下であってもよい。
【0023】
(12)上記(9)~(11)のいずれか1つにおいて、粘着剤層の厚さは、5μm以上であってもよい。
【0024】
(13)上記(9)~(12)のいずれか1つにおいて、ガラス部材の厚さは、50μm以下であってもよい。
【0025】
(14)上記(9)~(13)のいずれか1つにおいて、ガラス積層体は、さらに、第2主面側に配置された基材フィルムと、基材フィルムおよびガラス部材の間に介在する接着剤層と、を含んでもよい。
【0026】
上記(1)~(14)を含めて、本発明のガラス積層体の製造方法およびガラス積層体について、以下に、より具体的に説明する。技術的に矛盾のない範囲で、上記(1)~(14)の少なくとも1つと、以下に記載する要素の少なくとも1つとを組み合わせてもよい。
【0027】
図面を参照する場合、各図面において、各構成要素の形状または寸法は、実際と同一の縮尺比で表したものではない。各構成要素の特徴を明確にするために、これらの寸法の相対的な関係性は、模式的かつ強調して示されている。
【0028】
[ガラス積層体]
本発明の一側面に係るガラス積層体は、第1主面および第2主面を有するガラス部材と、第1主面側に配置された保護フィルムと、ガラス部材および保護フィルムの間に介在する粘着剤層と、を少なくとも含む。ここで、ガラス部材の曲げ剛性は、F0(単位:N・mm)であり、保護フィルムの曲げ剛性は、F1(単位:N・mm)である。
【0029】
本発明では、F1のF0に対する比:F1/F0が、2.50以下である。F1/F0比がこのような範囲であることで、異物の混入に伴って、ガラス部材の第1主面に打痕が形成されることが軽減される。打痕の形成をさらに軽減する観点から、F1/F0比は、2.20以下であってもよく、2.00以下であってもよい。F1/F0比は、0より大きく(例えば、0.00より大きく)、0.10以上であってもよい。F1/F0比は、例えば、0より大きく2.50以下、0.10以上2.50以下であってもよい。F1およびF0は、保護フィルムおよびガラス部材の厚さおよび材質、保護フィルムの層構成などを選択することによって調節される。
【0030】
ガラス部材の引張弾性率E0(単位:GPa)と厚さT0(単位:m)との積を、R0(単位:N/m)とし、保護フィルムの引張弾性率E1(単位:GPa)と厚さT1(単位:m)との積を、R1(単位:N/m)とする。このとき、R1のR0に対する比:R1/R0は、0.20以下であってもよく、0.19以下であってもよく、0.18以下であってもよい。R0およびR1のそれぞれは、ガラス部材および保護フィルムの硬さまたはコシを示す。ガラス部材と保護フィルムとの硬さの関係R1/R0比が上記のような範囲である場合、異物の混入に伴って、ガラス部材の第1主面に打痕が形成されることが、より軽減される。R1/R0比は、0.01以上であってもよく、0.05以上であってもよい。R1/R0比は、例えば、0.01以上0.20以下、または0.05以上0.20以下であってもよい。引張弾性率E0およびE1は、ガラス部材および保護フィルムの材質、ならびに保護フィルムの層構成などを選択することによって調節される。
【0031】
(ガラス部材)
ガラス部材の曲げ剛性F0は、2.0×106N・mm以上7.3×107N・mm以下であってもよく、2.0×106N・mm以上9.1×106N・mm以下であってもよい。ガラス部材の曲げ剛性がこのような範囲である場合、適度な屈曲性が得られるが、ガラス部材が変形し易いことで打痕が形成され易い。本開示では、F1/F0比を特定の範囲とすることで、ガラス部材の曲げ剛性がこのような範囲であっても打痕の形成を抑制できる。
【0032】
ガラス部材としては、例えば、ガラスフィルムが用いられる。ガラスフィルムは、一般に、薄ガラスと称されることもある。ガラス部材は、均一な厚さを有することが好ましい。
【0033】
薄ガラスなどのガラスフィルムは、高い柔軟性を有し、ロール状で供給されることもある。そのため、ガラス積層体には、長尺のガラス部材(ガラスフィルムなど)を利用してもよい。しかし、この場合に限らず、例えば、大判のガラス部材を用いてもよい。大判のガラス部材を複数用いる場合には、全て同じガラス部材でもよく、異なるガラス部材を目的に応じて異なる位置に配置してもよい。
【0034】
ガラス部材を構成するガラスの組成は、特に限定されない。ガラスの例は、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、および石英ガラスである。ガラスは、無アルカリガラスでもよく、低アルカリガラスでもよい。ガラスのアルカリ金属成分(例えば、Na2O、K2O、Li2O)の合計含有量は、15質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0035】
ガラス部材の厚さは、100μm以下であってもよい。F1/F0比を特定の範囲とする効果が得られ易い観点からは、ガラス部材の厚さは50μm以下が好ましく、35μm以下または30μm以下であってもよい。ガラス部材の厚さは、10μm以上であってもよい。
【0036】
なお、本明細書中、ガラス積層体の各構成要素の厚さは、特に断りの無い限り、任意の複数箇所(例えば、5箇所)について測定した厚さの平均値である。
【0037】
ガラス部材は、任意の適切な方法で製造される。代表的には、ガラスフィルムは、主原料であるセラミックス(シリカ、アルミナ等)と、消泡剤(芒硝、酸化アンチモン等)と、還元剤(カーボン等)とを含む混合物を、1400℃以上1600℃以下の温度で溶融し、フィルム状に成形した後、冷却して作製される。ガラスフィルムの成形方法としては、例えば、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法が挙げられる。これらの方法によって得られたガラスフィルムは、更なる薄板化もしくは表面と端部の平滑性の向上のために、必要に応じて、フッ酸等の溶剤により化学研磨されてもよい。
【0038】
ガラス部材の表面は、ガラス部材と接触する接着剤層または粘着剤層との接着性を向上させるために、表面処理してもよい。表面処理としては、特に制限されず、コロナ処理、プラズマ処理、カップリング処理などが挙げられる。
【0039】
ガラス部材の第1主面の少なくとも一部には、必要に応じて、様々な機能を有する表面コート層を設けてもよい。
【0040】
表面コート層としては、例えば、耐指紋コート層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、防汚層、スティッキング防止層、色相調整層、帯電防止層、易接着層、成分析出防止層、衝撃吸収層、飛散防止層が挙げられる。表面コート層は、様々な材料で構成され得るが、例えば、耐指紋コート層は、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などを含む。その他の表面コート層は、例えば、アクリル系コーティング剤、メラミン系コーティング剤、ウレタン系コーティング剤、エポキシ系コーティング剤、シリコーン系コーティング剤、無機系コーティング剤で形成される。コーティング剤は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、シランカップリング剤、着色剤、染料、顔料、充填剤、界面活性剤、可塑剤、帯電防止剤、表面潤滑剤、レベリング剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、防汚材等が挙げられる。
【0041】
表面コート層は、ガラス部材の第1主面に、保護フィルムをガラス部材に配置する前に形成してもよく、保護フィルムおよび粘着剤層を剥離した後に形成してもよい。
【0042】
(保護フィルム)
保護フィルムは、ガラス部材の取り扱い性等を確保する観点から、粘着剤層を介してガラス部材の第1主面に配置される。このような保護フィルムを第1保護フィルムと称することがある。
【0043】
第1保護フィルムは、特に限定されず、例えば、樹脂フィルムで構成できる。樹脂フィルムを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂でもよく、熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂の例は、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミドアミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、およびポリエーテルイミド系樹脂である。ポリエステル系樹脂の例は、芳香族ポリエステル系樹脂(ポリアルキレンアリーレート樹脂など)である。ポリアルキレンアリーレート樹脂の例は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、およびポリエチレンナフタレート樹脂である。シクロオレフィン系樹脂の例は、ノルボルネン系樹脂である。熱硬化性樹脂の例は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、およびシリコーン系樹脂である。しかし、これらの樹脂は、単なる例示であり、樹脂フィルムを構成する樹脂は、これらに限定されない。樹脂フィルムは、一種の樹脂を含んでもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて含んでもよい。第1保護フィルムは、単層であってもよく、多層であってもよい。多層の第1保護フィルムを構成する各層は、一種の樹脂を含んでもよく、二種以上の樹脂を組み合わせて含んでもよい。搬送性および強度などを考慮すると、PET樹脂製のフィルムなどが好ましい。
【0044】
第1保護フィルムの厚さは、200μm以下であってもよく、110μm以下または100μm以下であってもよい。F1/F0比を特定の範囲とするとともに、第1保護フィルムの厚さが110μm以下または100μm以下と比較的小さい場合には、変形し易いことで、異物による応力を緩和し易い。よって、ガラス部材に打痕が形成されることをさらに軽減できる。第1保護フィルムの厚さは、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよく、35μm以上または38μm以上であってもよい。第1保護フィルムの厚さは、例えば、10μm以上200μm以下、20μm以上110μm以下、または20μm以上100μm以下であってもよい。
【0045】
保護フィルムの引張弾性率E1は、0.4×105N/m以上8.0×105N/m以下であってもよい。保護フィルムの引張弾性率E1がこのような範囲である場合、R1/R0比を上記の範囲に調節し易い。
【0046】
(粘着剤層)
粘着剤層は、ガラス部材と保護フィルムとの間に介在する。このような粘着剤層を第1粘着剤層と称する場合がある。
【0047】
本開示において、粘着剤層は、粘着剤で構成される。粘着剤層は、非硬化性であり、流動性を有する。一方、接着剤層は、接着剤の塗膜を硬化させることによって形成される。そのため、接着剤層は、実質的に流動性を有さない。このように、本開示では、接着剤層と粘着剤層とは区別される。
【0048】
第1粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、例えば、10MPa以下であり、通常1MPa以下である。第1粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、0.2MPa以下または0.1MPa以下であってもよい。第1粘着剤層の貯蔵弾性率がこのような範囲である場合、保護フィルムをガラス部材に貼り付けて固定し易いことに加え、保護フィルムとともに第1粘着剤層をガラス部材から比較的容易に剥離することができる。第1粘着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、0.001MPa以上であってもよい。なお、第1接着剤層の25℃における貯蔵弾性率は、10MPaより大きく、100MPa以上であってもよく、通常、1GPa程度である。第1粘着剤層は、貯蔵弾性率によっても、接着剤層と区別される。
【0049】
第1粘着剤層の25℃における押込み弾性率は、50MPa以上500MPa以下であってもよい。この場合、F1/F0比を上記の範囲とすることによる打痕の抑制効果がさらに発揮され易い。
【0050】
第1粘着剤層を構成する粘着剤としては、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤が挙げられる。
【0051】
各粘着剤には、例えば、ベースポリマー、架橋剤、添加剤(例えば、粘着付与剤、カップリング剤、重合禁止剤、架橋遅延剤、触媒、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤、金属粉、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、劣化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤、表面潤滑剤、レベリング剤、腐食防止剤、無機または有機系材料の粒子(金属化合物粒子(金属酸化物粒子など)、樹脂粒子など))が含まれてもよい。しかし、粘着剤の構成成分は、これらに限定されない。
【0052】
第1粘着剤層の厚さは、3μm以上であってもよい。第1粘着剤層の厚さは、5μm以上が好ましく、15μm以上または20μm以上がより好ましい。これらの場合、第1保護フィルムに加えて第1粘着剤層によっても異物による応力が緩和されることで、ガラス部材に打痕が形成されることがさらに軽減される。第1粘着剤層の厚さは、50μm以下であってもよい。
【0053】
(その他)
ガラス積層体は、さらに、ガラス部材の第2主面側に配置された基材フィルムと、基材フィルムおよびガラス部材の間に介在する接着剤層と、を含んでもよい。また、基材フィルムのガラス部材とは反対側の主面には第2保護フィルムを、第2粘着剤層を介して配置してもよい。ガラス積層体は、基材フィルムおよび接着剤層に加えて、さらに第2保護フィルムおよび第2粘着剤層を含んでもよい。しかし、このような構成に限らず、基材フィルムのガラス部剤とは反対側の主面には、ガラス積層体の用途などに応じて、所望の層を設けてもよい。第2保護フィルムおよび第2粘着剤層については、それぞれ、第1保護フィルムおよび第1粘着剤層についての説明を参照できる。
【0054】
(基材フィルム)
基材フィルムは、特に制限されず、ガラス積層体の用途に応じて選択してもよい。基材フィルムとしては、保護フィルムについて例示した樹脂フィルム、光学フィルムなどから選択できる。第2基材フィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。第2基材フィルムは、例えば、光学フィルムを含む多層フィルムであってもよい。このような多層フィルムとしては、光学フィルムと基材フィルム(上記の樹脂フィルムなど)とを含む多層フィルムであってもよく、2層以上の光学フィルムを含む多層フィルムであってもよく、1層または2層以上の光学フィルムとセパレータとを含む多層フィルムであってもよい。多層フィルムを構成する各フィルムは直接接合していてもよく、粘着剤層または接着剤層を介して接着されていてもよい。
【0055】
光学フィルムとは、特に限定されないが、例えば、偏光板、位相差板、等方性フィルムをいう。光学フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、アセテート系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂が挙げられる。光学フィルムは、酸化金属フィルム(金属フィルム、ITOフィルム等)、金属フィルムと樹脂フィルムとの積層フィルムでもよい。
【0056】
基材フィルムの厚さは、5μm以上300μm以下であってもよい。
【0057】
基材フィルムのガラス部材とは反対側の表面層の少なくとも一部には、必要に応じて、様々な機能を有する表面コート層を設けてもよい。表面コート層としては、ガラス部材の表面に形成する表面コート層の説明を参照できる。表面コート層は、ガラス部材に基材フィルムを積層した後に設けてもよく、積層する前に設けてもよい。
【0058】
(接着剤層)
接着剤層は、基材フィルムとガラス部材との間に介在する。接着剤層は、基材フィルムのガラス部材側の主面およびガラス部材の第2主面の少なくとも一方に接着剤を塗布し、ガラス部材と基材フィルムとを接着剤を挟持するように重ね、次いで、加圧接着することによって形成される。より具体的には、ガラス部材と基材フィルムとを間に接着剤を挟持して、これらを厚さ方向に加圧した状態で、接着剤を硬化させることによって形成される。
【0059】
接着剤は、特に限定されず、任意の適切な接着剤が用いられる。接着剤としては、例えば、環状エーテル基(エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基等)を有する樹脂を含む接着剤、アクリル系樹脂を含む接着剤、シリコーン系樹脂等を含む接着剤が挙げられる。接着剤は、熱硬化型であっても、光硬化型(例えば、紫外線硬化型)であってもよい。
【0060】
接着剤層の厚さは、0.5μm以上20μm以下であってもよく、1μm以上20μm以下であってもよく、1μm以上5μm以下であってもよい。
【0061】
<物性の測定方法>
(A)ガラス部材および保護フィルムの曲げ剛性
ガラス部材および保護フィルムの曲げ剛性は、JIS K 7171:2022に準拠して測定される。曲げ剛性の測定は、ガラス部材および保護フィルムのそれぞれから作製される試験片(長さ50mm×幅6mm)を用い、試験速度2mm/分、支点間距離(25mm)、圧子の半径5mmの条件下で行われる。
【0062】
(B)ガラス部材および保護フィルムの引張弾性率
ガラス部材および保護フィルムの引張弾性率(GPa)は、それぞれ、オートグラフ(例えば、株式会社島津製作所製の精密万能試験機)で測定される。
【0063】
(C)粘着剤層の押込み弾性率
粘着剤層の押込み弾性率は、測定用サンプルを用いて、ナノインデンター法によって測定できる。測定は、下記の条件で、測定用サンプルの粘着剤層を側面から圧子で押圧し、求められる荷重-変位曲線を解析することによって行われる。
装置:Triboindenter(Hysitron Inc.製)
サンプルサイズ:縦10mm×横10mm
圧子:Concial(球形圧子:曲率半径10μm)
測定方法:単一押し込み測定
測定温度:25℃
圧子の押込深さ:5000nm
解析:荷重-変位曲線に基づくOliver Pharr解析
【0064】
測定用サンプルとしては、第1保護フィルムと第1粘着剤層との積層体(または第2保護フィルムと第2粘着剤層との積層体)の側面に集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)加工を行ったサンプルが用いられる。サンプルのサイズは、縦10mm×横10mmである。分析対象の上記の積層体について保護フィルムと粘着剤層を構成する粘着剤とを入手できない場合には、ガラス積層体を上記のサイズにカットし、側面にFIB加工を行うことによって作製したサンプルを用いてもよい。FIB加工は、下記の条件で行われる。
FIB加工装置:Thermo Fisher Scientific社製,Helios G4 UX
加速電圧:FIB 30kV
加工温度:-160℃
加工後、サンプルを室温に戻して装置から取り出し、その後、FIB加工された粘着剤層の側面から圧子を押し込むことによって押込み弾性率の測定を行う。
【0065】
(D)貯蔵弾性率
(D-1)粘着剤層の貯蔵弾性率
粘着剤層の貯蔵弾性率は、JIS K 7244-1:1998に準拠して、ねじりモードで測定できる。具体的には、粘着剤の塗膜をパラレルプレートに挟み込み、動的粘弾性測定装置(例えば、Rheometric Scientific社製の「Advanced Rheometric Expansion System(ARES)」)を用いて、下記の条件で粘弾性の測定を行い、25℃における貯蔵弾性率を求める。測定を5回以上行い、平均値を求めてもよい。
【0066】
測定条件
変形モード :ねじり
測定周波数 :1Hz
測定温度 :-40℃~+150℃
昇温速度 :5℃/分
【0067】
(D-2)接着剤層の貯蔵弾性率
接着剤層の貯蔵弾性率は、JIS K 7244-1:1998に準拠して、引張貯蔵弾性率として測定できる。具体的には、まず、接着剤をフィルム状に成形して硬化させて、厚さ約20μmの硬化物のフィルムを作製する。このフィルムを所定サイズに切り出して、試験片を作製する。この試験片について、動的粘弾性測定装置(例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製の多機能動的粘弾性測定装置「DMS6100」)を用いて、下記の条件で粘弾性の測定を行い、25℃における引張貯蔵弾性率を求める。測定を5回以上行い、平均値を求めてもよい。
【0068】
測定条件
温度範囲 :-100℃~+200℃
昇温速度 :2℃/min
モード :引張
サンプル幅 :10mm
チャック間距離 :20mm
周波数 :10Hz
歪振幅 :10μm
雰囲気 :大気(250ml/min)
データの取得間隔:0.5min(1℃毎)
【0069】
[ガラス積層体の製造方法]
以下に、本開示のガラス積層体の製造方法の一例について説明する。ガラス積層体の構成要素については、上述のガラス積層体についての説明を参照できる。
【0070】
ガラス積層体の製造方法は、ガラス部材の第1主面に、粘着剤層(第1粘着剤層)を介して保護フィルム(第1保護フィルム)を貼付する第1工程を含む。ここで、ガラス部材の曲げ剛性F0および保護フィルム(第1保護フィルム)の曲げ剛性F1は、上述のようにF1/F0≦2.50の関係を充足する。
【0071】
ガラス積層体の製造方法は、さらに、第1工程の後に、第2主面に、接着剤層を介して基材フィルムを加圧下で貼付する第2工程を含んでもよい。また、第2工程の後に、保護フィルム(第1保護フィルム)および粘着剤層(第1粘着剤層)を、第1主面から剥離する第3工程を含んでもよい。
【0072】
(第1工程)
第1工程では、ガラス部材の第1主面および第1保護フィルムのガラス部材側の主面の少なくとも一方に、粘着剤を付与して、粘着剤層を形成し、粘着剤層を介して、ガラス部材と第1保護フィルムとを貼り付けてもよい。また、粘着剤層が形成された第1保護フィルム(粘着剤層付第1保護フィルムと称する場合がある)を、粘着剤層が、第1保護フィルムとガラス部材との間に挟まれるように、ガラス部材の第1主面に貼り付けてもよい。この場合、ガラス部材への貼り付けに先立って、粘着剤層付第1保護フィルムが準備される。粘着剤層付第1保護フィルムとしては、市販品を用いてもよく、保護フィルムの一方の主面に粘着剤を付与することによって形成してもよい。
【0073】
(第2工程)
第2工程では、ガラス部材、第1粘着剤層および第1保護フィルムの構成に加えて、さらに、ガラス部材の第2主面側に配置された基材フィルムと、基材フィルムおよびガラス部材の間に介在する接着剤層と、を備えるガラス積層体が得られる。第2工程では、より具体的には、ガラス部材の第2主面および基材フィルムの一方の主面の少なくとも一方に接着剤を付与し、ガラス部材と基材フィルムとを、これらの間に接着剤を介在させた状態で加圧接着させる。ガラス部材と基材フィルムとを、厚さ方向に加圧した状態で、接着剤を硬化させることによって接着剤層が形成される。このようにして、上記のガラス積層体が形成される。接着剤の硬化は、接着剤の種類に応じて、加熱によって行ってもよく、光照射によって行ってもよい。
【0074】
ガラス部材と第1保護フィルム(より具体的には第1粘着剤層)との間に異物が挟まれている場合、第2工程で基材フィルムと加圧接着する際に、異物によってガラス部材の第1主面に打痕が形成され易い。本開示では、F1/F0比が特定の範囲であることで、第2工程でガラス部材に打痕が形成されることが軽減される。
【0075】
基材フィルムは他の1つまたは2つ以上の層との積層体としてガラス部材と接着してもよい。基材フィルムをガラス部材と接着した後、基材フィルムのガラス部材とは反対側の主面に他の1つまたは2つ以上の層を積層してもよい。例えば、基材フィルムと第2保護フィルムとこれらの間に介在する第2粘着剤層との積層体の状態で、基材フィルムとガラス部材とを加圧接着してもよい。
【0076】
(第3工程)
第3工程では、第2工程の後に、ガラス部材の第1主面から第1保護フィルムおよび粘着剤層(第1粘着剤層)を剥離する。これによって、基材フィルムとガラス部材とが接着剤層を介して接着された状態の積層体が得られる。基材フィルムには、上述のように他の層が積層されていてもよい。第1保護フィルムおよび第1粘着剤層の剥離によって、ガラス部材の第1主面が露出した状態となる。本開示では、異物による打痕の形成が軽減されるため、ガラス部材の第1主面を露出させても、優れた外観性が確保される。よって、ガラス部材をカバーウィンドウなどの優れた外観性が求められる用途に利用することができる。
【0077】
(その他)
ガラス積層体がさらに第2保護フィルムおよび第2粘着剤層を含む場合には、必要に応じて、第2保護フィルムおよび第2粘着剤層を基材フィルムの他方の主面から剥離させてもよい。
【0078】
図1~
図3のそれぞれは、本開示のガラス積層体の実施形態を示す概略縦断面図である。
図1のガラス積層体11は、ガラス部材1と第1保護フィルム2とこれらの間に介在する第1粘着剤層3とを有する。ガラス部材1は第1主面と第2主面とを有しており、第1主面に第1粘着剤層3が接触している。
【0079】
図2のガラス積層体111は、
図1の構成に加えて、ガラス部材1の第2主面側に基材フィルム4が設けられている。より具体的には、ガラス積層体111は、ガラス部材1と、ガラス部材1の第1主面に第1粘着剤層を介して貼付された第1保護フィルム2と、ガラス部材1の第2主面に接着剤層5を介して貼付された基材フィルム4とを有する。
【0080】
図3のガラス積層体211は、
図2の構成に加えて、基材フィルム4のガラス部材1とは反対側に第2保護フィルム12を有する。より具体的には、ガラス積層体211は、ガラス部材1と、ガラス部材1の第1主面に第1粘着剤層を介して貼付された第1保護フィルム2と、ガラス部材1の第2主面に接着剤層5を介して貼付された基材フィルム4と、基材フィルム4のガラス部材1とは反対側の主面に第2粘着剤層13を介して貼付された第2保護フィルムとを有する。
【0081】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
《実施例1~2および比較例1~2》
以下の手順で、
図3に示す層構成のガラス積層体を作製した。
(1)各層を構成する材料の準備
以下の材料を準備した。
(第1保護フィルム)
表1に示す厚さ、引張弾性率E1、R1、および曲げ剛性F1を有するPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「ダイアホイルS100(登録商標)」)を準備した。
【0083】
(ガラスフィルム)
表1に示す厚さ、引張弾性率E0、R0、および曲げ剛性F0を有する超薄板ガラス(日本電気硝子株式会社製「G-leaf(登録商標)」)を準備した。ガラスフィルムの平面視の形状は矩形であり、サイズは縦280mm×横368mmとした。
【0084】
(第1粘着剤層用の粘着剤)
下記の手順で、アクリル系粘着剤を調製した。
(アクリル系オリゴマーの調製)
モノマー成分としてメタクリル酸ジシクロペンタニル60質量部およびメタクリル酸メチル40質量部、連鎖移動剤としてα-チオグリセロール3.5質量部、および重合溶媒としてトルエン100質量部を混合し、窒素雰囲気下にて70℃で1時間撹拌した。次に、熱重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を投入し、70℃で2時間反応させた後、80℃に昇温して2時間反応させた。その後、反応液を130℃に加熱して、トルエン、連鎖移動剤および未反応モノマーを乾燥除去して、固形状のアクリル系オリゴマーを得た。アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は5100であり、ガラス転移温度(Tg)は130℃であった。
【0085】
(ベースポリマー組成物の調製)
ラウリルアクリレート43質量部、2-エチルヘキシルアクリレート44質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレート6質量部、およびN-ビニル-2-ピロリドン7質量部、ならびに光重合開始剤としてIGM Resins B.V.社製「Omnirad 184」0.015質量部を混合し、紫外線を照射して重合を行うことにより、ベースポリマー組成物(重合率:約10%)を得た。
【0086】
(アクリル系粘着剤の調製)
上記のベースポリマー組成物100質量部に、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート0.07質量部、上記のアクリル系オリゴマー1質量部、およびシランカップリング剤(信越化学工業(株)製「KBM403J」)0.3質量部を添加し、均一に混合することにより、アクリル系粘着剤を調製した。
【0087】
(基材フィルム、第2粘着剤層および第2保護フィルム)
基材フィルムとして、厚さ50μmのPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「ダイアホイルS100(登録商標)」)を準備した。
第2保護フィルムとしての厚さ50μmのPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「ダイアホイルS100(登録商標)」)の一方の主面に上記のアクリル系粘着剤を塗布して、厚さ5μmの第2粘着剤層を形成することによって、粘着剤層付保護フィルムを作製した。この粘着剤層付保護フィルムを基材フィルムに貼り付けることによって基材フィルムを有する積層体を作製した。
【0088】
(接着剤層用の接着剤)
脂肪族脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021P、エポキシ当量128~133g/eq.、株式会社ダイセル製)70質量部、3官能脂肪族エポキシ樹脂(EHPE3150、エポキシ当量170~190g/eq.、株式会社ダイセル製)5質量部、オキセタン系樹脂(アロンオキセタン(登録商標)、東亜合成株式会社製)19質量部、シランカップリング剤(KBM-403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製)4質量部、および光酸発生剤(CPI101A、トリアリールスルホニウム塩、サンアプロ株式会社製)2質量部を配合して、エポキシ接着剤を調製した。
【0089】
(2)ガラス積層体の形成
第1保護フィルムの一方の主面にアクリル系粘着剤を塗布して、ガラスフィルムの第1主面と貼り合わせた。
基材フィルムを有する積層体の基材フィルムの主面およびガラスフィルムの第2主面の双方に、接着剤を塗布して塗膜を形成し、互いに貼り合わせた。得られた積層体を厚さ方向に加圧しながら、UV照射することにより接着剤を硬化させて、接着剤層を形成した。このようにして、ガラス積層体を形成した。
【0090】
(3)評価
下記の手順で異物および打痕の評価を行った。
ガラス積層体から、第1保護フィルムおよび第1粘着剤層を剥離し、ガラスフィルムを露出させた。第1粘着剤層およびガラスフィルムの第1主面を観察し、異物数と、打痕数とを数え、ガラス積層体1m2あたりの異物数および打痕数を求めた。この打痕数を異物数で除した値(=打痕数/異物数)に基づき、打痕形成の抑制の程度を評価した。打痕数/異物数の値が0.7以下である場合を、打痕の形成が抑制されていると判断した。
【0091】
実施例および比較例の結果を表1に示す。表1中、A1~A2は実施例1~2に対応し、B1~B2は比較例1~2に対応する。
【0092】
【0093】
表1に示されるように、F1/F0≦2.50を充足する実施例では、打痕数/異物数の割合が少なく、ガラス部材に打痕が形成されていることが抑制されていると言える。それに対し、F1/F0<2.50を充足する比較例では、異物が存在した箇所のほとんどに打痕が形成されていた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示のガラス積層体は、ガラス部材における異物による打痕が抑制されている。そのため、ガラス積層体は、カバーウィンドウ向けなど、屈曲性とガラス部材の優れた外観性とが求められる用途などに適している。しかし、ガラス積層体の用途はこれらのみに限定されない。
【符号の説明】
【0095】
1 ガラス部材
2 保護フィルム
3 第1粘着剤層
4 基材フィルム
5 接着剤層
11、111、211 ガラス積層体
12 第2保護フィルム
13 第2粘着剤層