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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147968
(43)【公開日】2024-10-17
(54)【発明の名称】制御弁式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20241009BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20241009BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20241009BHJP
   H01M 50/437 20210101ALN20241009BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M50/466
H01M50/44
H01M50/437
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060762
(22)【出願日】2023-04-04
(71)【出願人】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100186761
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悠
(72)【発明者】
【氏名】大坪 亮二
(72)【発明者】
【氏名】青根 茂雄
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H021CC02
5H021CC18
5H021EE02
5H021EE28
5H028AA02
5H028AA05
5H028CC08
5H028CC11
5H028EE06
5H028FF10
(57)【要約】
【課題】配置される姿勢にかかわらず漏れ出した活物質を介した短絡を抑制可能な制御弁式鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】
制御弁式鉛蓄電池は、所定方向に順に積層される正極板、リテーナ、及び負極板と、正極板及び負極板の一方を収容する袋状不織布と、を備える。袋状不織布は、リテーナを収容してもよい。制御弁式鉛蓄電池は、信機器用鉛蓄電池、受・変電設備用鉛蓄電池、消防設備用鉛蓄電池、またはUPS用鉛蓄電池であってもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に順に積層される正極板、リテーナ、及び負極板と、
前記正極板及び前記負極板の一方を収容する袋状不織布と、
を備える、制御弁式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記袋状不織布は、前記リテーナを収容する、請求項1に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極板及び前記負極板の他方を収容する第2袋状不織布をさらに備える、請求項1または2に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項4】
サイクル用途の鉛蓄電池である、請求項1または2に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【請求項5】
再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、ロードレベリングシステム用鉛蓄電池、系統電力安定化システム用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、または電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池である、請求項1または2に記載の制御弁式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御弁式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
無停電電源、電力貯蔵などに用いられる蓄電池として、メンテナンスフリーの制御弁式鉛蓄電池が挙げられる。このような制御弁式鉛蓄電池では、電解液が電極間に位置するリテーナに含浸される。例えば、リテーナの酸充填性能の改善に伴う電池性能の向上(例えば、放電容量の向上)を図る観点から、下記特許文献1には、第1の微細繊維領域、第2の微細繊維領域、及び、第1の微細繊維領域と第2の微細繊維領域との間に位置する粗い繊維領域を有する板状のバッテリーセパレータが開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0272535号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなメンテナンスフリーの制御弁式鉛蓄電池には、水などの液体供給口が設けられない。このため、制御弁式鉛蓄電池は、いわゆる縦置き姿勢で静置する必要がある通常の鉛蓄電池と異なり、傾いた姿勢で静置されてもよいし、横置き姿勢で静置されてもよい。これにより、制御弁式鉛蓄電池の配置スペースが効率的に利用できる。しかしながら、制御弁式鉛蓄電池が横置き姿勢である場合の劣化形態は、縦置き姿勢である場合の劣化形態とは異なることが分かった。具体的には、横置き姿勢の制御弁式鉛蓄電池を何度も充放電したとき、軟化した活物質が極板間から漏れ出しやすいこと、ならびに、漏れ出した活物質を介した短絡が発生しやすいことが見出された。
【0005】
本開示の一側面の目的は、配置される姿勢にかかわらず漏れ出した活物質を介した短絡を抑制可能な制御弁式鉛蓄電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らによる鋭意検討の結果、制御弁式鉛蓄電池を何度も充放電したとき、軟化した活物質が極板間から漏れ出すこと、ならびに、漏れ出した活物質を介した短絡が発生することが見出された。さらなる鋭意検討の結果、縦置き姿勢とは異なる姿勢にしたときには活物質の漏れ出しが発生しやすいことが見出された。この事象は、制御弁式鉛蓄電池が、再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、系統用のロードレベリングおよび再生可能エネルギー設備の出力安定化用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池などに用いられる場合、上記漏れ出しが発生しやすいこともまた見出された。以上の知見を踏まえた検討の末、本発明者らは、本開示の発明を完成するに至った。
【0007】
本開示の一側面に係る制御弁式鉛蓄電池は、以下の通りである。
[1] 所定方向に順に積層される正極板、リテーナ、及び負極板と、正極板及び負極板の一方を収容する袋状不織布と、を備える制御弁式鉛蓄電池。
[2] 袋状不織布は、リテーナを収容する、[1]に記載の制御弁式鉛蓄電池。
[3] 正極板及び負極板の他方を収容する第2袋状不織布をさらに備える、[1]または[2]に記載の制御弁式鉛蓄電池。
[4] サイクル用途の鉛蓄電池である、[1]~[3]のいずれかに記載の制御弁式鉛蓄電池。
[5] 再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、ロードレベリングシステム用鉛蓄電池、系統電力安定化システム用鉛蓄電池、再生可能エネルギー設備の出力安定化用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、または電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池である、[1]~[3]のいずれかに記載の制御弁式鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面によれば、配置される姿勢にかかわらず漏れ出した活物質を介した短絡を抑制可能な制御弁式鉛蓄電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池を示す斜視図である。
図2図2(a)は、方向Yから見た電極群を示す概略図であり、図2(b)は、方向Xから見た電極群の一部を示す概略図である。
図3図3は、袋状不織布に収容される正極板を示す図である。
図4図4は、第1変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。
図5図5は、第2変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。
図6図6は、第3変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。
図7図7は、第4変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本開示の一側面の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池を示す斜視図である。図1に示される制御弁式鉛蓄電池100は、例えば、制御弁式鉛蓄電池が、再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、ロードレベリングシステム用鉛蓄電池、系統電力安定化システム用鉛蓄電池、再生可能エネルギー設備の出力安定化用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、または電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池などである。再生可能エネルギーは、風力、太陽光などである。スマートグリッドは、マイクログリッドも含む。
【0012】
制御弁式鉛蓄電池は、一般に、メンテナンスフリーの鉛蓄電池として知られている。このため、制御弁式鉛蓄電池100に水を補給しなくとも、長期間の充放電動作が可能になる。加えて、制御弁式鉛蓄電池100は、制御弁式鉛蓄電池ではない鉛蓄電池とは異なり、液体供給口を介した電解液の漏れが発生しない。よって、制御弁式鉛蓄電池100は、縦置きに静置されなくてもよい。換言すると、制御弁式鉛蓄電池100は、傾いた姿勢に静置されてもよいし、横置きに静置されてもよい。これにより、複数の制御弁式鉛蓄電池100同士を効率よく静置できる。制御弁式鉛蓄電池100が縦置きに静置される場合、後述する電極群10に含まれる正極板12と負極板14とは、上下方向において互いに重ならない。一方、制御弁式鉛蓄電池100が縦置き以外に静置される場合、後述する電極群10に含まれる正極板12と負極板14とは、上下方向において互いに重なり得る。なお、上下方向は、鉛直方向を含む概念である。本明細書では、鉛直方向に対して±45°以内の角度で傾いている方向は、上下方向とみなされる。
【0013】
図1に示されるように、制御弁式鉛蓄電池100は、主に、電極群10と、正極端子部材20と、負極端子部材30と、制御弁40と、ケース50と、電解液(図示せず)とを備える。電極群10は、複数の正極板12と、複数の負極板14と、複数のリテーナ16と、複数の袋状不織布18とを有する。ケース50は、電槽52と、電槽52の開放部を覆う蓋54とを有する。
【0014】
図2(a)は、方向Yから見た電極群10を示す概略図であり、図2(b)は、方向Xから見た電極群10の一部を示す概略図である。図2(a),(b)に示されるように、電極群10では、方向Yにおいて正極板12と負極板14とが交互に配置されている。隣り合う正極板12と負極板14との間には、リテーナ16が位置する。そのため、正極板12、リテーナ16及び負極板14は、方向Yにおいて順に積層される。本実施形態では、正極板12、負極板14及びリテーナ16の配列方向(方向Y)において正極板12と負極板14との間には2枚のリテーナ16が位置するが、これに限られない。方向Yにおける電極群10の端部に負極板14が配置されている。電極群10及び電解液がケース50の電槽52に収容されるとき、電解液は、正極板12の細孔内、リテーナ16内、袋状不織布18内、負極板14の細孔内、電極群10と電槽52との隙間等に存在する。
【0015】
図3は、袋状不織布18に収容される正極板12を示す図である。正極板12は、制御弁式鉛蓄電池100における極板であり、正極端子部材20と電気的に接続されている。各正極板12と正極端子部材20とは、正極ストラップ13によって電気的に接続されている。正極板12は、袋状不織布18に収容されている。
【0016】
図3に示されるように、正極板12は、正極材12cが充填される正極格子体12aと、耳部12bとを有するペースト式極板である。本実施形態では、正極板12において正極材12cが保持される部分の厚さは、正極格子体12aの厚さよりも大きいが、これに限られない。正極材12cは、例えば、二酸化鉛など、化成後の正極活性物を含む。耳部12bは、方向Zに沿って正極格子体12aから突出する端子部である。耳部12bの一部は、袋状不織布18から露出している。耳部12bと正極格子体12aとは、配列方向において互いに重なっていない。本実施形態では、正極格子体12aは、袋状不織布18によって覆われている。正極格子体12aには、凸部12d,12eが設けられている。凸部12d,12eは、所定の間隔をあけて配置されており、正極格子体12aから外側に向かって突出している足部である。凸部12d,12eは、耳部12bの突出方向と反対側の方向に沿って突出している。本実施形態では、耳部12bの突出方向と、凸部12d,12eの突出方向とのそれぞれは、配列方向に対して直交している。また、耳部12bと正極格子体12aとは、配列方向において互いに重なっていない。
【0017】
負極板14は、制御弁式鉛蓄電池100における負極板であり、負極端子部材30と電気的に接続されている。負極板14は、正極板12と同様に、負極格子体14a及び耳部14bを有するペースト式極板である。負極板14に含まれると共に負極格子体14aに充填される負極材(活物質ペースト)は、例えば、海綿状鉛等の負極活物質を含む。各負極板14と負極端子部材30とは、負極ストラップ15によって電気的に接続されている。
【0018】
図示しないが、電極群10には、特許第6973514号公報に開示されるような短絡防止部材が設けられてもよい。短絡防止部材は、正極ストラップ13に装着されてもよいし、負極ストラップ15に装着されてもよい。短絡防止部材は、方向Zにおいて最も端に位置する正極板12の耳部12b及び/又は負極板14の耳部14bの露出部を覆う。これにより、上記耳部12b及び/又は上記耳部14bを介した短絡が発生しにくくなる。短絡防止部材は、例えば、ポリプロピレン等の電気絶縁性を有する樹脂の成形体である。短絡防止部材は、正極ストラップ13及び負極ストラップ15に対して、着脱可能である。
【0019】
正極端子部材20及び負極端子部材30のそれぞれは、電極群10と外部装置とを電気的に接続するための端子である。正極端子部材20の一部は、鉛を含む導電部材である。正極端子部材20の当該一部は、鉛を主成分として形成されてよく、鉛のみから形成されてもよい。正極端子部材20の芯は、例えば、金属又は合金から形成される。例えば、当該芯は、例えば、銅と亜鉛との合金(黄銅)から形成される。負極端子部材30は、正極端子部材20と同様の構成を有してよい。正極端子部材20と負極端子部材30とのそれぞれは、例えば、エポキシ化合物とポリアミンとの反応物を含有すると共に、チオール基を含む支持部を含み得る。
【0020】
リテーナ16は、電解液を保持する保持体であると共に、正極板12と負極板14とを隔離する隔離部材である。リテーナ16は、例えば板状に成形されるガラス不織布である。方向Yにおいて正極板12と負極板14との間に位置する2枚のリテーナ16のうち、一方は袋状不織布18に接触し、他方は負極板14に接触する。
【0021】
袋状不織布18は、正極板12を収容する袋状の部材である。袋状不織布18は、リテーナ16と同様に、電解液を保持する保持体としても機能し得る。袋状不織布18は、例えば、セルロース繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、レーヨン繊維などの不織布の加工体である。袋状不織布18の製造方法は、特に限定されないが、例えば上述した繊維から形成したフリースを結合するなど一般的な方法が採用される。袋状不織布18の外面はリテーナ16に接触し、袋状不織布18の内面は正極板12の正極材12cに接触する。袋状不織布18に起因する電池性能の低下抑制の観点から、袋状不織布18は、耐酸化性を有することが好ましい。正極板12との密着性などの観点から、袋状不織布18の表面及び内面のそれぞれには、リブなどの意図した凹凸が設けられなくてもよい。一方、袋状不織布18の表面及び内面のそれぞれには、繊維に起因する微小な凹凸が設けられ得る。
【0022】
方向Xにおける袋状不織布18の両端部18a,18bの全体と、方向Zにおいて凸部12d,12eに対向する縁18cの全体とは、封止されている。一方、方向Zにおいて縁18cの反対側に位置する縁18dの一部は、封止されない。本実施形態では、縁18dのうち、方向Yにおいて耳部12bに重なる領域及びその近傍は、封止されない。一例では、二つ折りしたシート状の不織布、もしくは、2枚のシート状の不織布をギアシール加工することによって、端部18a,18bなどが封止される。この場合、袋状不織布18の製造効率を向上できる。別の例では、二つ折りしたシート状の不織布、もしくは、2枚のシート状の不織布を熱溶着もしくは超音波溶着することによって、端部18a,18bなどが封止される。この場合、袋状不織布18へ選択的に溶着箇所を形成できる。加えて、耳部12bの近傍などにも溶着箇所を形成できる。これにより、袋状不織布18の内部から外部への正極活物質の移動(漏れ)が発生しにくくなる。袋状不織布18を形成するとき、正極板12が予め不織布に挟まれてもよい。この場合、袋状不織布18の形成工程が複数回実施されないので、効率よく電極群10を製造できる。
【0023】
袋状不織布18の両端部18a,18bは、正極板12に対して離間してもよい。この場合、正極板12から脱離した正極材12cが、端部18a,18bの内部に蓄積される。すなわち、端部18a,18bが、正極材12cに対する受け皿として機能する。これにより、袋状不織布18の内部から外部への正極活物質の移動(漏れ)が良好に発生しにくくなる。また、端部18a,18bの少なくとも一方は、電槽52の内面に接触してもよい。この場合、袋状不織布18の外部に移動した正極材12cが、同一もしくは別の袋状不織布18の端部18a,18b上に静置されることがある。これにより、ケース50の内面のうち最も低い箇所への正極材12cの堆積を抑制できる。袋状不織布18の縁18c,18dもまた、正極板12に対して離間してもよい。
【0024】
ケース50の電槽52は、箱状を呈している。電槽52は、ポリプロピレン等の材料で形成されている。電槽52は、電極群10及び電解液を収容する。ケース50の蓋54は、略板状を呈しており、ポリプロピレン等の材料で形成されている。蓋54には、正極端子部材20及び負極端子部材30のそれぞれを配置するための貫通孔と、制御弁40を配置するための貫通孔とが設けられている。
【0025】
次に、本実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池100の作用効果について説明する。
【0026】
上述したように、鉛蓄電池を何度も充放電したとき、正極活物質(正極材)が軟化することが知られている。これに対して、鋭意検討の結果、軟化した正極活物質が正極板から脱離すると、当該正極活物質が極板間から漏れ出すこと、ならびに、漏れ出した正極活物質を介した短絡が発生することが見出された。そして、さらなる鋭意検討の結果、縦置き姿勢とは異なる姿勢にしたときには正極活物質の漏れ出しが発生しやすいことが見出された。このため、特に制御弁式鉛蓄電池においては、正極活物質の漏れ出しへの対策を講じる必要があるとの見解がなされた。
【0027】
以上の見解を踏まえ、本実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池100は、正極板12を収容する袋状不織布18を備える。これにより、軟化した正極材12cの少なくとも一部は、例えば、図2(a)に示される矢印A1,A2のいずれかに沿って、正極格子体12aから脱離及び移動する(漏れ出す)。このとき、矢印A1に沿って移動した正極材12cは、袋状不織布18の内部に留められる。よって、正極格子体12aから漏れ出した正極材12cが負極板14に到達しにくくなるので、当該正極材12cを介した正極板12と負極板14との短絡が発生しにくくなる。なお、矢印A1は、袋状不織布18において閉じられた縁に向かっており、矢印A2は、袋状不織布18において開放される縁に向かっている。
【0028】
ここで、鉛蓄電池の姿勢によって正極活物質の漏れ出し度合いが異なることを検討した。まず、縦置き姿勢の制御弁式鉛蓄電池では上記漏れ出しが発生しにくい理由を検討した。検討の結果、制御弁式鉛蓄電池の内部は密閉構造であることから、電極群の群圧が高く、このため、軟化した正極活物質が極板間に閉じ込められる傾向があることが見出された。この検討結果を踏まえ、横置き姿勢の制御弁式鉛蓄電池では上記漏れ出しが発生しやすい理由を検討した。検討の結果、正極活物質には電極群の群圧だけでなく極板の自重が加わることによって、軟化した正極活物質が、極板間に閉じ込められるよりもむしろ、極板間から押し出される傾向があることが見出された。特に、下方に位置する正極板ほど他の極板などの重量も加えられるため、正極材が漏れ出す傾向があった。この傾向は、横置き姿勢に限られず、縦置き姿勢とは異なる制御弁式鉛蓄電池においても見られた。これらの検討結果より、制御弁式鉛蓄電池が正極板12を収容する袋状不織布18を備えることによって、漏れ出した正極材12cの負極板14への到達を良好に抑制できることが容易に推定できる。したがって、本実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池100によれば、配置される姿勢にかかわらず長寿命化が可能になる。そして、特に、鉛蓄電池が横置き姿勢にて静置される場合、制御弁式鉛蓄電池100が特に有用である。
【0029】
加えて、制御弁式鉛蓄電池100の性能を確認したところ、正極板12が袋状不織布18に収容されることによって、長寿命化が可能になるだけでなく、放電容量も向上し得ることが見出された。これにより、本実施形態に係る制御弁式鉛蓄電池100を利用することによって、鉛蓄電池の構造(特に、正極板の構造)、活物質ペーストなどの設計変更などを実施することなく、長寿命化ならびに高性能化の両方を実現可能である。
【0030】
サイクル用途の鉛蓄電池では、トリクル用途の鉛蓄電池と比較して、多数の充放電が実施されることが知られている。このため、制御弁式鉛蓄電池100がサイクル用途の鉛蓄電池として用いられる場合、上記作用効果が良好に発揮可能である。
【0031】
再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、ロードレベリングシステム用鉛蓄電池、系統電力安定化システム用鉛蓄電池、再生可能エネルギー設備の出力安定化用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、または電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池などに用いられる制御弁式鉛蓄電池は、例えば自動車用の制御弁式鉛蓄電池と比較して、極板一枚当たりの容量が大きい。このため、各極板の自重もまた大きくなる。よって、再生可能エネルギーシステム用鉛蓄電池、ロードレベリングシステム用鉛蓄電池、系統電力安定化システム用鉛蓄電池、再生可能エネルギー設備の出力安定化用鉛蓄電池、スマートグリッド用鉛蓄電池、または電気自動車用充電ステーション用鉛蓄電池などに用いられる制御弁式鉛蓄電池として制御弁式鉛蓄電池100が利用されることが望ましい。
【0032】
以下では、図4図7を参照しながら、上記実施形態の変形例について説明する。以下の変形例において、上記実施形態と重複する箇所の説明は省略する。したがって以下では、上記実施形態と異なる箇所を主に説明する。
【0033】
図4は、第1変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。図4に示されるように、第1変形例に係る電極群10Aの袋状不織布18Aは、正極板12だけでなく、2枚のリテーナ16を収容している点で、上記実施形態の電極群10とは異なる。袋状不織布18Aの内部では、方向Yにおいて、正極板12が一対のリテーナ16に挟まれている。当該一対のリテーナ16は、正極板12に接触している。このため、方向Yにおいて正極板12と負極板14との間に位置する2枚のリテーナ16のうち、一方は正極板12に接触し、他方は負極板14に接触する。また、袋状不織布18Aは、正極材12c及び負極材14cの両方に対して離間し得る。袋状不織布18Aを形成するとき、一対のリテーナ16に挟まれた正極板12が予め不織布に挟まれてもよい。
【0034】
以上に説明した第1変形例に係る電極群10Aを有する制御弁式鉛蓄電池においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて第1変形例では、正極板12と負極板14とのそれぞれがリテーナ16に接触するので、放電容量をより向上できると共に、放電容量が向上可能な条件を広げられる。さらには、袋状不織布18Aが正極板12の正極材12cに接触しない。このため、袋状不織布18Aが耐酸化性を示さなくとも、袋状不織布18Aに起因する性能低下が発生しにくくなる。
【0035】
図5は、第2変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。図5に示されるように、第2変形例に係る電極群10Bの袋状不織布18Bは、正極板12だけでなく、4枚のリテーナ16を収容している点で、上記実施形態の電極群10とは異なる。袋状不織布18Bの内部では、方向Yにおいて、2枚のリテーナと、正極板12と、別の2枚のリテーナ16とが順に積層される。このため、袋状不織布18Bの外面は、負極板14の負極材14cに接触する。袋状不織布18Bに起因する電池性能の低下抑制の観点から、袋状不織布18Bは、耐還元性を有することが好ましい。袋状不織布18Bを形成するとき、4枚のリテーナ16と正極板12とが予め不織布に挟まれてもよい。
【0036】
以上に説明した第2変形例に係る電極群10Bを有する制御弁式鉛蓄電池においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。加えて第2変形例では、正極板12とリテーナ16とが袋状不織布18Bに収容されるので、正極板12と、負極板14と、リテーナ16とを容易に積層できる。よって、電極群10Bの生産性を向上できる。さらには、放電容量をより向上できると共に、放電容量が向上可能な条件をさらに広げられる。
【0037】
図6は、第3変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。図6に示されるように、第3変形例に係る電極群10Cの袋状不織布18C(第2袋状不織布)は、正極板12を収容しない代わりに、負極板14を収容する点で、上記実施形態の電極群10とは異なる。袋状不織布18Cの内面は負極板14の負極材14cに接触し、袋状不織布18Cの外面はリテーナ16に接触する。一方、正極板12は、リテーナ16に接触する。袋状不織布18Bに起因する電池性能の低下抑制の観点から、袋状不織布18Cは、耐還元性を有することが好ましい。
【0038】
以上に説明した第3変形例に係る電極群10Cを有する制御弁式鉛蓄電池においては、電極群10Cから漏れ出した正極材12cを、袋状不織布18Cの内部に留めることはできない。しかしながら、負極板14が袋状不織布18Cに収容されているので、漏れ出した正極材12cが負極板14に到達しにくくなる。したがって、第3変形例においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0039】
図7は、第4変形例に係る制御弁式鉛蓄電池の電極群の一部を示す概略図である。図4に示されるように、第4変形例に係る電極群10Dは、袋状不織布18に加えて袋状不織布18Cを備える点で、上記実施形態の電極群10とは異なる。このような第4変形例に係る電極群10Dを有する制御弁式鉛蓄電池においても、上記実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0040】
本開示の一側面に係る制御弁式鉛蓄電池は、上記実施形態及び上記変形例に限られない。上記実施形態と上記変形例とは、適宜組み合わされてもよい。例えば、第3変形例に対して第1変形例の一部が組み合わされてもよい。すなわち、負極板を収容する袋状不織布にもリテーナが収容されてもよい。また、正極板を収容する袋状不織布と、負極板を収容する袋状不織布とのそれぞれにリテーナが収容されてもよい。
【実施例0041】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。ただし、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
<正極板の作製>
鉛粉の全質量を基準として、0.15質量%のポリエチレン繊維からなるカットファイバーと、6質量%の鉛丹とを鉛粉に対して添加した後に乾式混合した。次に、当該鉛粉に希硫酸(20℃換算にて比重1.26)及び水を加えながら混練することによって、正極活物質ペーストを作製した。鉛-カルシウム-スズ合金を溶融、鋳造して、縦:108.0mm、横:140.0mm、厚み:4.2mmの集電体格子を作製した。正極活物質ペーストを集電体格子へ充填した後、以下の熟成条件1を実施した後、以下の熟成条件2を実施した。その後、以下の乾燥条件により正極板を作製した。
【0043】
熟成条件1・・・温度:80℃、湿度:98%、時間:10時間
熟成条件2・・・温度:65℃、湿度:75%、時間:11時間
乾燥条件・・・・温度:60℃、時間:24時間
【0044】
<負極板の作製>
鉛粉100質量%に対して、カーボンブラック(商品名:Vulcan XC72、キャボット社製)1.5質量%と、硫酸バリウム1.0質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)0.03質量%と、リグニンスルホン酸ナトリウム(商品名:パールレックスDP、日本製紙株式会社製)0.4質量%を添加した後に乾式混合した。次に、当該鉛粉に希硫酸(20℃換算にて比重1.26)及び水を加えながら混練することによって、負極活物質ペーストを作製した。一方、鉛-カルシウム-スズ合金を溶融、鋳造して、縦:109.0mm、横:140.0mm、厚み:1.9mmの集電体格子を作製した。この集電体格子に、準備した負極活物質ペーストを充填した後、以下の熟成、乾燥条件により負極板を作製した。
【0045】
熟成条件・・・温度:40℃、湿度:98%、時間:40時間
乾燥条件・・・温度:60℃、時間:24時間
【0046】
<電池の組み立て>
未化成の正極板を不織布(製品名:FT-340F、日本バイリーン株式会社製)で包んだ後、熱溶着によって一対の端部と一方の縁を封止することによって袋状不織布を形成した。次に、袋状不織布に収容された未化成の正極板及び未化成の負極板が交互に積層されるように、ガラス繊維製のリテーナを介して3枚の未化成負極板及び2枚の未化成正極板を積層した。次に、同極性の極板の耳部同士をストラップで連結させて極板群を作製した後、電槽を密閉した。次に、排気栓口から希硫酸を主成分とする電解液を注入した後に制御弁を取り付けることによって、制御弁式鉛蓄電池を製造した。そして、制御弁式鉛蓄電池の電槽化成を実施した。化成条件は、温度:40℃、課電量:正極活物質の理論化成電気量に対し210%、時間:131時間である。
【0047】
(実施例2)
袋状不織布に一対のリテーナに挟まれる正極板が収容されること以外は実施例1と同様にして、制御弁式鉛蓄電池を製造した。
【0048】
(実施例3)
袋状不織布に4枚のリテーナと正極板とが収容されること以外は実施例1と同様にして、制御弁式鉛蓄電池を製造した。
【0049】
(比較例1)
袋状不織布が利用されなかったこと以外は実施例1と同様にして、制御弁式鉛蓄電池を製造した。
【0050】
(放電特性の評価)
各実施例及び比較例1の制御弁式鉛蓄電池(満充電状態)を、恒温槽(25℃)中に24時間放置した後、所定の放電レートにて放電終止電圧まで放電した。その後、各実施例及び比較例1の放電容量(定格容量、単位:Ah)を測定した。所定の放電レートは、0.1CA、0.16CA、0.23CA、0.4CA、0.6CA及び1CAとした。各放電レートにおける比較例1の放電容量を100と規格化したとき、各実施例の放電容量の測定結果を下記表1に示す。なお、CAは、蓄電池の充放電の特性を表す単位である。CAにおけるCは、蓄電池の放電率を表す単位であり、Aは電流値を表すアンペア等の単位を示す。放電率は、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率である。電池容量は、放電させて放電終止までに取り出せる電気量を示し、単位はAh(アンペアアワー)等である。1Cは、公称容量値の容量を持つ単電池を定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値を指す。1CAは、1Cの場合に実際に流れる電流値を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1に示されるように、実施例1においては放電容量が0.4CA以下である場合、放電容量が確実に向上する。実施例2においては放電容量が0.6CA以下である場合、放電容量が確実に向上する。実施例3においては放電容量が1CAであっても、放電容量が確実に向上する。
【符号の説明】
【0053】
10,10A~10D…電極群、12…正極板、12a…正極格子体、12b…耳部、12c…正極材、13…正極ストラップ、14…負極板、14a…負極格子体、14b…耳部、14c…負極材、15…負極ストラップ、16…リテーナ、18,18A~18C…袋状不織布、18a,18b…端部、18c,18d…縁、20…正極端子部材、30…負極端子部材、40…制御弁、50…ケース、52…電槽、54…蓋、100…制御弁式鉛蓄電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7